特許第5956429号(P5956429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956429
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】PVDFコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20160714BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20160714BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160714BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   C08L27/16
   C09D127/16
   C09D7/12
   C08K9/04
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-510625(P2013-510625)
(86)(22)【出願日】2011年5月19日
(65)【公表番号】特表2013-527290(P2013-527290A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】EP2011058094
(87)【国際公開番号】WO2011144681
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年4月17日
(31)【優先権主張番号】61/346,177
(32)【優先日】2010年5月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセンツォ・アルセッラ
(72)【発明者】
【氏名】エリアナ・イエヴァ
(72)【発明者】
【氏名】シオウ−チン・リン
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・アヴァタネオ
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ・マルキオンニ
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−511086(JP,A)
【文献】 特表2010−511085(JP,A)
【文献】 特開昭62−164767(JP,A)
【文献】 特開平01−149880(JP,A)
【文献】 特開昭57−185338(JP,A)
【文献】 特開昭62−246952(JP,A)
【文献】 特開平08−283605(JP,A)
【文献】 特開平08−217989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
C09D 1/00−201/10
C09C 1/00−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(F)]と;
− A)1つ以上の(パー)フルオロポリオキシアルキレンセグメント(鎖R)、すなわち、少なくとも1つのカテナリーエーテル結合および少なくとも1つのフルオロカーボン部分を有する繰り返し単位を含むセグメント、ならびに
B)式:
−(CR−CR)−
(式中、互いに等しいかまたは異なる、R、R、R、Rは、H、ハロゲン;フッ素またはその他のヘテロ原子を含有する、C〜C(ハイドロ)カーボン基からなる群から選択される)
の繰り返し単位を含む1つ以上のポリアルキレンセグメント(鎖R
を含む少なくとも1つのパーフルオロポリエーテルブロックコポリマー[ポリマー(E)]で少なくとも部分的にコートされた無機粒子と
を含む組成物。
【請求項2】
前記ポリマー(F)が、
(a’)少なくとも60モル%のフッ化ビニリデン(VDF);
(b’)0.1〜15モル%のVDFとは異なるフッ素化モノマーであって;フッ化ビニル(VF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)およびそれらの混合物からなる群において選択される前記フッ素化モノマー
からなるポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記無機粒子が、金属酸化物、金属炭酸塩、および金属硫酸塩からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリマー(E)の前記(パー)フルオロポリオキシアルキレンセグメント(鎖R)が繰り返し単位(R)を含む鎖であり、前記繰り返し単位が一般式:−(CF−CFZ−O−(式中、kは0〜3の整数であり、Zはフッ素原子およびC〜Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基の中から選択される)を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリマー(E)の前記鎖Rが、式:
−(CFCFO)a’(CFYO)b’(CFCFYO)c’(CFO)d’(CF(CFCFO)e’
(式中、
− YはC〜Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基であり;
− zは1または2であり;
− a’、b’、c’、d’、e’は0以上の整数である)
に従い、前記繰り返し単位が(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖に沿って分布している、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリマー(E)が、式:
−O−[A−B]−[A−B’]z’−A−T’ (式I)
[式中、
− A=−(X)−O−A’−(X’)−(ここで、A’は、請求項1に定義された鎖Rである)であり;
− 互いに等しいかまたは異なる、X、X’は、−CF−、−CFCF−、−CF(CF)−から選択され;
− 互いに等しいかまたは異なる、a、bは、末端基T−O−に結合したブロックAがa=1を有し、末端基T’に結合したブロックAがb=0を有するという条件で、0または1に等しい整数であり;
− Bは、式:
−[(CR−CR(CR−CRj’]− (式Ia)
(ここで、(j+j’)が2超、100未満であるという条件でjは、1〜100の整数であり、j’は、0〜100の整数であり;互いに等しいかまたは異なる、R、R、R、R、R、R、R、Rは、ハロゲン;H;Fもしくはその他のヘテロ原子を含有する、C〜C(ハイドロ)カーボン基から選択され、前記置換基R〜Rは、1つ以上の官能基を含有する)
を有する1つ以上のオレフィンに由来する繰り返し単位のセグメントであり;
− zは、2以上の整数であり;z’は、0以上であり;z、z’は、式(I)のポリマー()の数平均分子量が範囲500〜500,000にあるものであり;
− B’は、さもなければ式(Ia)に従うが、ブロックB中のものとは異なる置換基R〜Rの少なくとも1つを有するセグメントであり;
− 互いに等しいかまたは異なる、TおよびT’は、H、ハロゲン、C1〜3(パー)フルオロアルキル、C1〜6アルキルおよびO、S、Nの中から選択されるヘテロ原子を含む、C〜C30官能性末端基から選択される]
に従う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリマー(E)が、式:
−O−[A−B]−A−T’ (式II)
[式中、
− A=−(X)−O−A’−(X’)−(ここで、X、aおよびbは請求項6において定義された意味を有し、A’は、式:
−(CFCFO)a+(CFO)b+(CF(CFz+CFO)c+
(ここで、zは1または2であり;a+、b+、c+は0以上の整数である)
の鎖Rであり
− Bは、式−[(CF−CFj+]−(ここで、j+は2〜100の整数である)のセグメントであり;
− 互いに等しいかまたは異なる、TおよびT’は、H;ハロゲン;C〜C過ハロゲン化アルキル基からなる群から選択される]
に従う、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、
(a)無機充填剤と;
(b)オルガノ−シラン、オルガノ−シロキサン、フルオロ−シラン、オルガノ−ホスホネート、オルガノ−酸ホスフェート、オルガノ−ピロホスフェート、オルガノ−ポリホスフェート、オルガノ−メタホスフェート、オルガノ−ホスフィネート、オルガノ−スルホン酸化合物、炭化水素−ベースのカルボン酸、炭化水素−ベースのカルボン酸の関連エステル、炭化水素−ベースのカルボン酸の誘導体、炭化水素−ベースのアミド、炭化水素−ベースのポリオール、炭化水素−ベースのポリオールの誘導体、アルカノールアミン、アルカノールアミンの誘導体、有機分散剤、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの有機表面処理材と
を含む少なくとも1つの処理無機充填剤をさらに含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
A)1つ以上の(パー)フルオロポリオキシアルキレンセグメント(鎖R)、すなわち、少なくとも1つのカテナリーエーテル結合および少なくとも1つのフルオロカーボン部分を有する繰り返し単位を含むセグメントと、
B)式:−(CR−CR)−
(式中、互いに等しいかまたは異なる、R、R、R、Rは、H、ハロゲン;フッ素またはその他のヘテロ原子を含有する、C〜C(ハイドロ)カーボン基からなる群から選択される)
の繰り返し単位を含む1つ以上のポリアルキレンセグメント(鎖R)と
を含む少なくとも1つのパーフルオロポリエーテルブロックコポリマー[ポリマー(E)]で少なくとも部分的にコートされた無機粒子。
【請求項10】
− 請求項9に定義されたポリマー(E)が、溶液を得るために液体媒体に可溶化され;
− 無機粒子が、分散液を得るために前記溶液に加えられ;そして
− 液体媒体が、前記ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた無機粒子を回収するために蒸発によって分離される、
請求項9に記載の無機粒子の製造方法。
【請求項11】
液体媒体中に少なくとも部分的に分散されたか少なくとも部分的に可溶化されたかのどちらかの請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物を含むコーティング組成物。
【請求項12】
前記組成物が、式j、jj、jjj:
【化1】
(式中、互いに等しいかまたは異なる、R、R、R、Rは独立して、HまたはC1〜20アルキル基であり、Rは、置換もしくは非置換の、直鎖状もしくは分岐状の、C〜C18アルキル、C〜C18シクロアルキル、C〜C36アルキルアリール、C〜C36アリール、C〜C36複素環基からなる群から選択される)
の群から選択される繰り返し単位を含む少なくとも1つの(メタ)アクリルポリマー[ポリマー(M)]を含む、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
請求項1に定義されたポリマー(F)から、請求項1に定義されたポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた前記無機粒子からおよび、請求項8に定義された処理無機充填剤からなるプレミックスされた粉体。
【請求項14】
ベアーポリマー(F)の粉体を、ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた前記無機粒子および前記処理無機充填材と水相で混合する工程と、次に少なくとも50℃の温度で、乾固まで前記水相を蒸発させる工程と、そのように得られた固体残渣を、プレミックスされた粉体を得るためにすり砕くまたは篩いにかける工程とを含む、請求項13に記載のプレミックスされた粉体の製造方法。
【請求項15】
基材をコートするための請求項1〜8または11〜12のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年5月19日出願の米国仮特許出願第61/346177号明細書に対する優先権を主張するものであり、この出願の全体内容はあらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、向上した光沢を有するPVDFコーティング組成物に、およびコーティングのための、特に建築用コーティングのためのそれの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリマーブレンドがコーティング材料として有用であることは一般に理解されており、光学的挙動(たとえば、光沢および耐候性)、硬度、耐摩耗性、汚れなしなどを含む幾つかの判定基準に関して傑出した性能が要求される。
【0004】
非常に優れた耐候性、良好な耐摩耗性、高い機械的強度および靱性などの独特の特性を有する、フッ化ビニリデン(VDF)ポリマーは、コーティング用の、より具体的には長期にわたって高耐候性の建築コーティング用の原料物質として使用されてきた。基材への接着性、顔料分散能力および増大するコーティング光沢を向上させるために、(メタ)アクリル樹脂との混和性VDFポリマーブレンドが開発されてきた。たとえば光沢を含む、コーティングの光学的挙動はコーティングマトリックス連続性を典型的に必要とするので、熱力学的に混和性のブレンドがとりわけ外部建築仕上げ用途向けに好ましい。前記混和性はまた、最終コーティングが長期外部使用においてコーティング耐候性を最大にすることを可能にする。
【0005】
上記を考慮して、約70:30重量比でのVDFポリマーと(メタ)アクリル樹脂とのブレンドが接着性、靱性および光学的透明度などの判定基準に関して最適の材料性能を提供することが判った。
【0006】
それにもかかわらず、当該技術分野においては、それらの光沢および撥汚れ性の向上を含む、VDFポリマー組成物から得られたコーティングの外観の向上が依然として必要とされている。
【0007】
それでもやはり、文書(特許文献1)(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)05.06.2008がVDFポリマーとPFPEブロックおよびエチレン系不飽和モノマー、たとえば、テトラフルオロエチレンの重付加重合に由来するさらなるブロックを含む特定のブロックコポリマーとを含む組成物を開示していることに言及する価値がある。しかしながら、そのようなブロックコポリマーは、向上した加工性、特に押出におけるより低い圧力および/またはより低いトルクをVDFポリマーに付与する、潤滑性添加物として使用されるにすぎない。この文書のどこにも、コーティング組成物におけるこれらの添加物の好適性について言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/065164号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はしたがって、
− 少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(F)]と;
− A)1つ以上の(パー)フルオロポリオキシアルキレンセグメント(鎖R)、すなわち、少なくとも1つのカテナリーエーテル結合および少なくとも1つのフルオロカーボン部分を有する繰り返し単位を含むセグメント、ならびに
B)式:
−(CR−CR)−
(式中、互いに等しいかまたは異なる、R、R、R、Rは、H、ハロゲン(好ましくはF、Cl);フッ素またはその他のヘテロ原子を任意選択的に含有する、C〜C(ハイドロ)カーボン基、好ましくはパーフルオロアルキルまたは(パー)フルオロオキシアルキルからなる群から選択される)
の繰り返し単位を含む1つ以上のポリアルキレンセグメント(鎖R
を含む少なくとも1つのパーフルオロポリエーテルブロックコポリマー[ポリマー(E)]で少なくとも部分的にコートされた無機粒子と
を含む組成物を提供する。
【0010】
本出願人は、上に詳述されたようなパーフルオロポリエーテルブロックコポリマーでコートされた無機粒子の添加によって、向上した光沢を有するおよび/または最終的に向上した耐汚染性をもたらす表面での増加した疎水特性を有するコーティングを提供するであろうVDFポリマーをベースとする組成物を得ることが有利にも可能であることを意外にも見いだした。
【0011】
無機粒子上へのコーティングとしての組成物へのポリマー(E)の導入は、前記ポリマー(E)が、そのベアー形態で、液体中にか粉体コーティング混合物中にかのどちらかで別な方法ではほとんど効率的に分散しないであろうゴムのようなまたは油状形態で利用可能である場合でさえ、少なくとも部分的にコートされた粒子の均一な分布をコーティング層の全体にわたって得るために、組成物中の優れた分散を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の枠組み内で用いられるところでは、用語「粒子」は、3つの寸法によって特徴づけられる、一定の三次元体積および形状を有する物質の塊を意味することを意図される。
【0013】
フッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(F)]は好ましくは、
(a’)少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは85モル%のフッ化ビニリデン(VDF);
(b’)任意選択的に0.1〜15モル%、好ましくは0.1〜12モル%、より好ましくは0.1〜10モル%のVDFとは異なるフッ素化モノマーであって;フッ化ビニル(VF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)およびそれらの混合物からなる群において好ましくは選択される前記フッ素化モノマー;ならびに
(c’)モノマー(a’)および(b’)の総量を基準として、任意選択的に0.1〜5モル%、好ましくは0.1〜3モル%、より好ましくは0.1〜1モル%の1つ以上の水素化コモノマー
を含むポリマーである。
【0014】
フッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(F)]はより好ましくは、
(a’)少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは85モル%のフッ化ビニリデン(VDF);
(b’)任意選択的に0.1〜15モル%、好ましくは0.1〜12モル%、より好ましくは0.1〜10モル%のVDFとは異なるフッ素化モノマーであって;フッ化ビニル(VF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)およびそれらの混合物からなる群において好ましくは選択される前記フッ素化モノマー
からなるポリマーである。
【0015】
本発明に有用なVDFポリマーの非限定的な例として、とりわけVDFのホモポリマー、VDF/TFEコポリマー、VDF/TFE/HFPコポリマー、VDF/TFE/CTFEコポリマー、VDF/TFE/TrFEコポリマー、VDF/CTFEコポリマー、VDF/HFPコポリマー、VDF/TFE/HFP/CTFEコポリマーなどを挙げることができる。
【0016】
VDFホモポリマーが本発明の組成物にとって特に有利である。
【0017】
ASTM D3835に従って232℃および100/秒の剪断速度で測定されたVDFポリマーの溶融粘度は有利には、少なくとも5kポアズ、好ましくは少なくとも10kポアズである。
【0018】
232℃および100/秒の剪断速度で測定されたVDFポリマーの溶融粘度は有利には、最高60kポアズ、好ましくは最高40kポアズ、より好ましくは最高35kポアズである。
【0019】
VDFポリマーの溶融粘度は、232℃で、100/秒の剪断速度下に行われる、ASTM試験No.D3835に従って測定される。
【0020】
VDFポリマーは、有利には少なくとも120℃、好ましくは少なくとも125℃、より好ましくは少なくとも130℃の融点を有する。
【0021】
VDFポリマーは、有利には最高190℃、好ましくは最高185℃、より好ましくは最高170℃の融点を有する。
【0022】
融点(Tm2)は、ASTM D 3418に従って、10℃/分の加熱速度で、DSCによって測定することができる。
【0023】
本組成物での使用に特に好適である、商業的に入手可能なPVDFの一例は、HYLAR(登録商標)5000 PVDF(Solvay Solexis Inc.から入手可能な)である。
【0024】
無機粒子の選択は、特に決定的に重要であるわけではなく;VDFポリマー加工および使用中に不活性のままである無機粒子が好ましいことが一般に理解される。使用することができる粒子の非限定的な例はとりわけ、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩などの粒子である。金属酸化物は一般に、1つ以上のその他の金属または非金属と組み合わせてSi、Zr、およびTi酸化物ならびにこれらの金属を含む混合酸化物;たとえばシリカ、アルミナ、ジルコニア、アルミノ−シリケート(天然および合成粘土を含む)、ジルコン酸塩などの中から選択される。金属炭酸塩は典型的には、アルカリおよびアルカリ土類金属炭酸塩、たとえばCa、Mg、Ba、Sr炭酸塩からなる群から選択される。金属硫酸塩は一般に、Ca、Mg、Ba、Sr硫酸塩を含む、アルカリおよびアルカリ土類金属硫酸塩の中から選択される。特に良好な結果を提供した金属硫酸塩は硫酸バリウムである。
【0025】
ポリマー(E)と無機粒子との間の相互作用を最大にするという目的のために、小さい粒度および高い比表面積を有する粒子を使用することが一般に好ましい。
【0026】
このように、無機粒子(ポリマー(E)でコートする前の)は一般に、有利には1〜500の、好ましくは5〜300の、より好ましくは10〜150の、ISO 9277標準に従ったBET法によって測定されるような、表面積を有する。
【0027】
無機粒子(ポリマー(E)でコートする前の)は一般に、0.001μm〜1000μmの、好ましくは0.01μm〜800μmの、より好ましくは0.01μm〜500μmの平均粒度を有する。
【0028】
表面積およびホストVDFポリマーとの界面を最大にするという目的のために、ナノメートル寸法を有する無機粒子が典型的には好ましい。この目的のために、1nm〜250nm、好ましくは5〜200nm、より好ましくは10〜150nmからなる平均粒度を有する無機粒子が好ましくは用いられる。
【0029】
無機粒子は、ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされ;そのようにコートされた粒子はコア/シェルであると推測されるが、そのような構造は、それらが製造される方法からならびに粒子の特性から推論されるにすぎない。しかし、シェル層(すなわち、ポリマー(E)のコーティング)が連続であるか不連続であるか、平滑であるか毛様であるか、化学結合しているかそれをただ単に物理的に囲んでいるかどうかは知られていない。
【0030】
良好な結果は、ポリマー(E)が無機粒子の表面を実質的に完全にコートしているときに得られることを示す実験的証拠がそれにもかかわらず集められてきた。
【0031】
本発明の第1実施形態によれば、ポリマー(E)は、135℃未満の融点を有する。
【0032】
この第1実施形態の組成物は一般に、それから得られたコーティング上でかなり向上した表面特性、特に実質的に向上した疎水性を与えられ、こうして汚れに対するより良好な挙動を確実にする。
【0033】
この理論に制約されることなく、本出願人は、ポリマー(E)が135℃未満の融点を有するとき、実質的な溶融および場合により表面に向けての融解状態での移行が、その典型的な加工/合体温度でVDFポリマーコーティング組成物を加工する間に起こる可能性があり、その結果最終部品(フィルム、コーティング...)がその表面にかなり増加した疎水性を与えられると考える。
【0034】
ポリマー(E)の融点(Tm2)は、ASTM D 3418に従って、10℃/分の加熱速度で、DSCによって測定することができる。
【0035】
本発明の第2の好ましい実施形態によれば、ポリマー(E)は、少なくとも135℃の融点を有する。
【0036】
少なくとも135℃の融点を有するポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた無機粒子の添加は典型的には、それから得られたコーティングにおける表面の向上した光沢および傑出した仕上げを有するコーティング組成物を提供する。
【0037】
この第2実施形態によれば、ポリマー(E)は、好ましくは少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも145℃の融点を有する。
【0038】
ポリマー(E)の(パー)フルオロポリオキシアルキレンセグメント(鎖R)は好ましくは、繰り返し単位(R)を含む鎖であり、前記繰り返し単位は、一般式:−(CF−CFZ−O−(式中、kは0〜3の整数であり、Zは、フッ素原子およびC〜Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基の中から選択される)を有する。
【0039】
鎖Rはより好ましくは、式:
−(CFCFO)a’(CFYO)b’(CFCFYO)c’(CFO)d’(CF(CFCFO)e’−,
(式中、
− YはC〜Cパーフルオロ(オキシ)アルキル基であり;
− zは1または2であり;
− a’、b’、c’、d’、e’は0以上の整数である)
に従い、繰り返し単位は、(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖に沿って統計的に分布している。
【0040】
最も好ましくは、鎖Rは、式:
−(CFCFO)a’’(CFO)b’’(CF(CFCFO)c’’−(式中、
− zは1または2であり;
− a’’、b’’、c’’は、0以上の整数である)
に従う。
【0041】
ポリマー(E)は典型的には、式:
−O−[A−B]−[A−B’]z’−A−T’ (式I)
[式中、
− A=−(X)−O−A’−(X’)−(ここで、A’は、上に定義されたような、鎖Rである)であり;互いに等しいかまたは異なる、X、X’は、−CF−、−CFCF−、−CF(CF)−から選択され;互いに等しいかまたは異なる、a、bは、末端基T−O−に結合したブロックAがa=1を有し、末端基T’に結合したブロックAがb=0を有するという条件で、0または1に等しい整数であり;
− Bは、式:
−[(CR−CR(CR−CRj’]− (式Ia)
(ここで、(j+j’)が2超、100未満であるという条件でjは、1〜100の整数であり、j’は、0〜100の整数であり;互いに等しいかまたは異なる、R、R、R、R、R、R、R、Rは、ハロゲン(好ましくはF、Cl);H;Fもしくはその他のヘテロ原子を任意選択的に含有する、C〜C基、好ましくはパーフルオロアルキルもしくは(パー)フルオロオキシアルキルから選択され、前記置換基R〜Rは、1つ以上の官能基を任意選択的に含有する)
を有する1つ以上のオレフィンに由来する繰り返し単位のセグメントであり;
− zは、2以上の整数であり;z’は、0以上であり;z、z’は、式(I)のポリマー(F)の数平均分子量が範囲500〜500,000にあるようなものであり;
− B’は、さもなければ式(Ia)に従うが、ブロックB中のものとは異なる置換基R〜Rの少なくとも1つを有するセグメントであり;
− 互いに等しいかまたは異なる、TおよびT’は、H、ハロゲン、C1〜3(パー)フルオロアルキル、C1〜6アルキルおよびO、S、Nの中から選択されるヘテロ原子を含む、C〜C30官能性末端基から選択される]
に従う。
【0042】
前記生成物は、特許出願国際公開第2008/065163号パンフレット(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)05.06.2008および国際公開第2008/065165号パンフレット(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)に詳述されているように、ペルオキシド基を含む(パー)フルオロポリエーテルを(フルオロ)オレフィンと反応させることによって製造することができる。
【0043】
好ましくは、互いに等しいかまたは異なる、TおよびT’は、
(j)−Y’(ここで、Y’は、−H、−F、−Clなどの、ハロゲン、−CF、−C、−CFCl、−CFCFClなどの、C〜C過ハロゲン化アルキル基の中から選択される鎖末端である);
(jj)−E−A−Y’’(ここで、k、rおよびqは、q=0または1、r=0または1、kは1〜4、好ましくは1〜2で、整数であり、Eは、O、S、Nの中から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む官能性連結基を意味し;Aは、C〜C20二価連結基を意味し;Y’’は、官能性末端基を意味する)
からなる群から選択される。
【0044】
官能基Eは、アミド、エステル、カルボン酸、チオカルボン酸、エーテル、ヘテロ芳香族、スルフィド、アミン、および/またはイミン基を含んでもよい。
【0045】
官能性結合基Eの非限定的な例は、とりわけ−CONR−(R=H、C〜C15置換もしくは非置換の直鎖状もしくは環状の脂肪族基、C〜C15置換もしくは非置換の芳香族基である);−COO−;−COS−;−CO−;−O−;ヘテロ原子であって−S−;−NR’−(R=H、C〜C15置換もしくは非置換の直鎖状もしくは環状の脂肪族基、C〜C15置換もしくは非置換の芳香族基である)などのヘテロ原子;互いに同じまたは異なるものである、N、O、Sの中から選択される1つ以上のヘテロ原子を含有する5−もしくは6−員環芳香族複素環、特に、Rtfがパーフルオロアルキル基、たとえば−CFである
【化1】
などの、トリアジンである。
【0046】
二価C〜C20連結基Aは、以下のクラス:
1.ヘテロ原子をアルキレン鎖中に任意選択的に含有する、直鎖状の置換もしくは非置換C〜C20アルキレン鎖;好ましくは、mが1〜20の整数の、そして任意選択的にアミド、エステル、エーテル、スルフィド、イミン基およびそれらの混合物を含む、式−(CH−の部分を含む直鎖状の脂肪族基;
2.ヘテロ原子をアルキレン鎖中にまたは環中に任意選択的に含有し、そしてアミド、エステル、エーテル、スルフィド、イミン基およびそれらの混合物を任意選択的に含む、(アルキレン)脂環式C〜C20基または(アルキレン)芳香族C〜C20基;
3.アミド、エステル、エーテル、スルフィド、イミン基およびそれらの混合物を任意選択的に含む、−CHCHO−、−CHCH(CH)O−、−(CHO−、−(CHO−から選択される繰り返し単位を特に含む、直鎖状もしくは分岐状状のポリアルキレンオキシ鎖
から好ましくは選択される。
【0047】
好適な官能基Y’’の例は、とりわけ−OH、−SH、−OR’、−SR’、−NH、−NHR’、−NR’、−COOH、−SiR’3−d、−CN、−NCO、エポキシ基、−(CO−)、それ自体としてまたは環状アセタールおよびケタール(たとえば、ジオキソランまたはジオキサン)としての1,2−および1,3−ジオール、−COR’、−CH(OCH、−CH(OH)CHOH、−CH(COOH)、−CH(COOR’)、−CH(CHOH)、−CH(CHNH、−PO(OH)、−CH(CN)(ここで、R’は、1個以上のフッ素原子を任意選択的に含む、アルキル、脂環式または芳香族の置換もしくは非置換基であり、QはOR’であり、R’は上に定義されたものと同じ意味を有し、dは0〜3の整数である)である。
【0048】
1つ以上の官能性末端基Y’’が基Aおよび/またはEに連結することができ:たとえば、Aが(アルキレン)芳香族C〜C20基であるとき、2つ以上のY’’基が基Aの芳香環に連結することが可能である。
【0049】
より好ましくは、ポリマー(E)は、本明細書で上の式(I)(式中、互いに等しいかまたは異なる、TおよびT’は、−H;−Fおよび−Clなどのハロゲン;−CF、−C、−CFCl、−CFCFClなどのC〜C過ハロゲン化アルキル基;−CHOH;−CH(OCHCHOH(nは1〜3の整数である);−C(O)OH;−C(O)OCH;−CONH−R−OSi(OC(ここで、RはC〜C10アルキル基である);CONHC1837;−CHOCHCH(OH)CHOH;−CHO(CHCHO)n*PO(OH)(1から3のnの);およびそれらの混合物からなる群から選択される)に従う。
【0050】
本明細書で上の式Iにおいて、ブロックBは、ラジカルルートで重合可能な1つ以上のオレフィンに由来し、それらのオレフィンの中に、テトラフルオロエチレン(TFE)、エチレン(E)、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パー)フルオロアルキルビニルエーテル、(パー)フルオロアルコキシアルキルビニルエーテルを挙げることができる。
【0051】
同様に、ブロックB’は、ラジカルルートで重合可能な1つ以上のオレフィンに由来し、オレフィンの少なくとも1つは、ブロックBのオレフィンとは異なる。ブロックBについて上に示されたようなオレフィンは、ブロックB’のために使用されるのに好適である。
【0052】
ブロックBおよびB’(この後者が存在するとき)が過フッ素化オレフィンに由来する繰り返し単位を含むことが一般に好ましい。
【0053】
本明細書で上の式(I)(式中、z’はゼロであり、j’はゼロであり、R、R、R、Rのそれぞれはフッ素原子であり、すなわち、式中、ブロックBはテトラフルオロエチレンに由来し、ブロックB’は不在である)に従うポリマー(E)が本発明の目的に特に好ましい。
【0054】
したがって、最も好ましいポリマー(E)は、式:
−O−[A−B]−A−T’ (式II)
[式中、
− A=−(X)−O−A’−(X’)−(ここで、X、aおよびbは上に定義された意味を有し、A’は、式:
−(CFCFO)a+(CFO)b+(CF(CFz+CFO)c+
(ここで、zは1または2であり;a+、b+、c+は0以上の整数である)
の鎖Rであり;
− Bは、式−[(CF−CFj+]−(ここで、jは2〜100の整数である)のセグメントであり、
− 互いに等しいかまたは異なる、TおよびTI’は、−H;−Fおよび−Clなどのハロゲン;−CF、−C、−CFCl、−CFCFClなどの、C〜C過ハロゲン化アルキル基からなる群から選択される]
に従う。
【0055】
上に詳述されたようなポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた無機粒子は、任意の手順によって製造することができる。
【0056】
無機粒子の存在下での冷却によるかまたは非溶媒の添加によるポリマー(E)を含む溶液からのポリマー(E)の含浸または分別沈澱のような従来法を用いることができる。
【0057】
特に適切であることが分かった技法は、
− 上に詳述されたようなポリマー(E)が、溶液を得るために液体媒体に可溶化され;
− 無機粒子が、分散液を得るために前記溶液に加えられ;そして
− 液体媒体が、ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた無機粒子を回収するために蒸発によって分離される
方法である。
【0058】
有利に使用することができる液体媒体は、妥当な条件でポリマー(E)を可溶化することができるものであり;これらの溶媒の中に、(パー)フルオロポリエーテル溶媒、過フッ素化エーテル、過フッ素化アミンを挙げることができる。代案として、ポリマー(E)に対して傑出した溶解特性を有する、超臨界二酸化炭素を使用することができる。
【0059】
上に記載されたようなポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた無機粒子およびそれらの製造方法が依然として本発明の対象である。
【0060】
本発明の実施形態によれば、組成物は、
(a)無機充填剤と;
(b)オルガノ−シラン、オルガノ−シロキサン、フルオロ−シラン、オルガノ−ホスホネート、オルガノ−酸ホスフェート、オルガノ−ピロホスフェート、オルガノ−ポリホスフェート、オルガノ−メタホスフェート、オルガノ−ホスフィネート、オルガノ−スルホン酸化合物、炭化水素−ベースのカルボン酸、炭化水素−ベースのカルボン酸の関連エステル、炭化水素−ベースのカルボン酸の誘導体、炭化水素−ベースのアミド、低分子量炭化水素ワックス、低分子量ポリオレフィン、低分子量ポリオレフィンのコポリマー、炭化水素−ベースのポリオール、炭化水素−ベースのポリオールの誘導体、アルカノールアミン、アルカノールアミンの誘導体、有機分散剤、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの有機表面処理材と
を含む少なくとも1つの処理無機充填剤をさらに含む。
【0061】
好ましくは、前記有機表面処理材は好ましくは、一般式SiR(I)(式中、前述のR、R、R、およびRの少なくとも1つのR基は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、4〜20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6〜20個の炭素原子を有するアリール基、または7〜20個の炭素原子を有するアラルキル基から選択される非加水分解性の有機基であり、前記R基の少なくとも1つは、2〜20個の炭素原子を有するアルコキシ基、ハロゲン、2〜20個の炭素原子を有するアセトキシ基、およびヒドロキシル基からなる群から選択される加水分解性基である)を有するオルガノ−シランである。その他の2つのR基は、同じまたは異なるものであり、上記のような加水分解性または非加水分解性である。R基の少なくとも2つ、とりわけ3つが加水分解性であることが好ましい。非加水分解性R基は、完全にもしくは部分的にフッ素置換されていることができる。オルガノ−シランは、直鎖状もしくは分岐状状であっても、置換もしくは非置換であっても、飽和もしくは不飽和であってもよい。典型的には、非加水分解性R基は非反応性である。アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアラルキルは、これらの基のどれもが完全にもしくは部分的にフッ素置換されている可能性を含めて、典型的な非加水分解性R基であり、アルキルが最も典型的である。前述のR、R、R、およびRの、加水分解性R基が同一であるとき、オルガノ−シランは、式:RSiR4−x(II)(式中、Rは非加水分解性であり、Rは、上に定義されたように加水分解性であり、xは1〜3の範囲の整数である)で表すことができる。典型的にはRとしては、メトキシ、エトキシ、クロロ、およびヒドロキシが挙げられる。エトキシが取扱いの容易さのためにより典型的である。特定の好ましい実施形態においては、Rとしては、完全フッ素化か部分フッ素化かのどちらかの、フッ素含有アルキルC〜C12が挙げられる。
【0062】
前記無機充填剤は、酸化物、混合酸化物、水酸化物、硫化物、炭酸塩、硫酸塩、およびそれらの混合物からなる群から選択され、前記無機充填剤は典型的には、Ca、Mg、Ti、Ba、Zn、Zn、Mo、Si、およびAlから選択される元素を含有する。好ましい無機充填剤は、溶融シリカ粒子を含む、シリカ充填剤およびTiO充填剤である。
【0063】
処理無機充填剤はVDFポリマー組成物において光沢に悪影響を及ぼすことが一般に認められているが、本出願人は、前記処理無機充填剤が本発明の組成物に添加され、本発明組成物の傑出した光沢特性を維持し、そして同時に前記処理無機充填剤によって与えられる疎水性またはその他の表面特性を得ることが可能であることを意外にも見いだした。
【0064】
本発明の好ましい変形形態によれば、上記のような組成物は、コーティング組成物であるおよび/またはコーティング組成物の製造のために使用される。
【0065】
本発明のコーティング組成物は、液体媒体に少なくとも部分的に分散されたか少なくとも部分的に可溶化されたかのどちらかの本発明組成物を一般に含む。
【0066】
この変形形態の第1実施形態によれば、ポリマー(F)は、前記液体媒体に少なくとも部分的に分散されている。
【0067】
用語「分散された」とは、ポリマー(F)の粒子が液体媒体中に安定的に分散され、その結果ケーキへの沈降も粒子の溶媒和もペイント製造中におよび貯蔵時に起こらないことを意味する。
【0068】
この実施形態によるポリマー(F)は好ましくは実質的に分散された形態にあり、すなわち、90重量%超、好ましくは95重量%超、より好ましくは99重量%超が液体媒体に分散されている。
【0069】
この実施形態によれば、液体媒体は、ポリマー(F)のための中間溶媒および潜在溶媒から選択される少なくとも1つの有機溶媒を含む。
【0070】
ポリマー(F)のための中間溶媒は、25℃でポリマー(F)を溶解させないかまたは実質的に膨潤させず、その沸点でポリマー(F)を溶媒和し、そして冷却時に、ポリマー(F)を溶媒和した形態で、すなわち、溶液に保持する溶媒である。
【0071】
ポリマー(F)のための潜在溶媒は、25℃でポリマー(F)を溶解させないかまたは実質的に膨潤させず、その沸点でポリマー(F)を溶媒和するが、冷却時に、ポリマー(F)が沈澱する溶媒である。
【0072】
潜在溶媒および中間溶媒は、単独でまたは混合剤で使用することができる。1つまたは2つ以上の潜在溶媒と1つまたは2つ以上の中間溶媒との混合物を、この第2の好ましい変形形態に使用することができる。
【0073】
この実施形態のコーティング組成物に好適な中間溶媒は、とりわけブチロラクトン、イソホロンおよびカルビトールアセテートである。
【0074】
この実施形態のコーティング組成物に好適な潜在溶媒は、とりわけメチルイソブチルケトン、酢酸n−ブチル、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、アセト酢酸エチル、トリエチルホスフェート、プロピレンカーボネート、トリアセチン(1,3−ジアセチルオキシプロパン−2−イルアセテートとしても知られる)、ジメチルフタレート、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールをベースとするグリコールエーテル、ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールをベースとするグリコールエーテルアセテートである。
【0075】
エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールをベースとするグリコールエーテルの非限定的な例は、とりわけエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテルである。
【0076】
エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールをベースとするグリコールエーテルアセテートの非限定的な例は、とりわけエチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートである。
【0077】
メタノール、ヘキサン、トルエン、エタノールおよびキシレンなどのポリマー(F)のための非溶媒がまた、特別な目的のために、たとえばペイントレオロジーを制御するために、特に吹き付け塗りのために、潜在溶媒および/または中間溶媒と組み合わせて使用されてもよい。
【0078】
一般に、本発明のこの実施形態の液体媒体は、上に詳述されたような、潜在溶媒および中間溶媒から選択される1つ以上の有機溶媒から本質的になるであろう。少量(たとえば、5重量%未満、好ましくは1重量%未満の)の水またはその他の有機溶媒は、これがコーティング組成物の特性に影響を及ぼすことなしに、この第2変形形態の組成物の液体媒体中に存在してもよいであろう。
【0079】
この実施形態内で、ポリマー(F)は、ベアーポリマー(F)の粉体、一般にラテックス凝固および乾燥から得られる凝集粉を、上に詳述されたような潜在溶媒および/または中間溶媒を含む液体媒体に分散させることによって分散形態下に提供することができ;本発明のコーティング組成物はこうして、前記分散形態の前記ポリマー(F)を、上に定義されたような、ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた無機粒子と、および、とりわけ上に定義されたような処理無機充填剤を含む、すべてのその他の任意選択の原料および添加剤と混合することによって得ることができる。
【0080】
代案として、ポリマー(F)から、ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた前記無機粒子からおよび、任意選択的に、上述の処理無機充填剤から本質的になるプレミックスされた粉体を先ず製造し、そして上に詳述されたような、コーティング組成物の製造方法においてベアーポリマー(F)の粉体の代わりに使用することができる。
【0081】
前記プレミックスされた粉体は、本発明の別の対象である。
【0082】
この代案によれば、前記プレミックスされた粉体は一般に、ベアーポリマー(F)の粉体、ラテックス凝固から得られた一般に凝集粉を、ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた前記無機粒子とおよび任意選択的に前記処理無機充填剤と水相中で混合し、次に少なくとも50℃の温度で、乾固まで水相を蒸発させ、そして有利には自由流動特性を有する、そのように得られた固体残渣を、プレミックスされた粉体を得るために任意選択的にすり砕くまたは篩にかけることによって得られる。
【0083】
ポリマー(F)またはプレミックスされた粉体を前記液体媒体に分散させるための装置の選択は特に制限されず;高剪断ミキサーまたは、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、高速ポンプ、振動撹拌機もしくは超音波装置などのその他の粉砕装置を用いることができる。
【0084】
この第2変形形態に特に好適なポリマー(F)の凝集粉は、好ましくは200〜400nmの平均粒度を有する一次粒子からなり、典型的には、好ましくは1〜100μm、より好ましくは5〜50μmの平均粒度分布を有する凝集塊の形態下にある。
【0085】
本発明のこの変形形態の第2実施形態によれば、ポリマー(F)は、前記液体媒体に少なくとも部分的に溶解する。
【0086】
用語「溶解する」とは、ポリマー(F)が液体媒体中に可溶化形態で存在することを意味する。
【0087】
この実施形態によるポリマー(F)は好ましくは実質的に溶解した形態にあり、すなわち90重量%超、好ましくは95重量%超、より好ましくは99重量%超が液体媒体に溶解している。
【0088】
この実施形態による液体媒体は好ましくは、ポリマー(F)のための活性溶媒の中から選択される有機溶媒を含む。
【0089】
ポリマー(F)のための活性溶媒は、25℃の温度で少なくとも5重量%のポリマー(F)(溶液の総重量に対して)を溶解させることができる溶媒である。
【0090】
この場合には、ポリマー(E)で少なくとも部分的にコートされた無機粒子の構造を有利にも保存するために、ポリマー(E)を溶解させないであろう活性溶媒を選択することが一般に好ましい。
【0091】
この実施形態に使用することができる活性溶媒は、とりわけアセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、トリメチルホスフェート、N−メチル−2−ピロリドンである。
【0092】
この第2実施形態の液体媒体は、ポリマー(F)のための中間溶媒および/または潜在溶媒の1つ以上をさらに含むことができる。それにもかかわらず、液体媒体は好ましくは、主要量の活性溶媒を含むであろう。
【0093】
本発明のコーティング組成物は一般に、少なくとも1つの(メタ)アクリルポリマー[ポリマー(M)]をさらに含む。
【0094】
ポリマー(M)は典型的には、式:
【化2】
(式中、互いに等しいかまたは異なる、R、R、R、Rは独立して、HまたはC1〜20アルキル基であり、Rは、置換もしくは非置換の、直鎖状もしくは分岐状の、C〜C18アルキル、C〜C18シクロアルキル、C〜C36アルキルアリール、C〜C36アリール、C〜C36複素環基からなる群から選択される)
の式j、jj、jjjの群から選択される繰り返し単位を含む。
【0095】
好ましくは、ポリマー(M)は、上に詳述されたような、式jの繰り返し単位を含む。任意選択的にポリマー(M)は、とりわけオレフィン、好ましくはエチレン、プロピレン、1−ブテンなどの、エチレン系不飽和モノマー、スチレン、アルファ−メチルスチレンなどの、スチレンモノマーに典型的に由来する、j、jj、jjjとは異なる追加の繰り返し単位を含むことができる。
【0096】
好ましくは、ポリマー(M)は、1つまたは2つ以上のアルキル(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位を含むポリマーである。本発明の脈絡の中で特に良好な結果を与えるポリマー(M)は、メチルメタクリレートとエチルアクリレートとのコポリマーである。このポリマー(M)はとりわけ、商品名PARALOID(商標) B−44で商業的に入手可能である。
【0097】
コーティング組成物がポリマー(M)を含むならば、それは一般に、10/90〜50/50の、好ましくは20/80〜40/60の、より好ましくは25/75〜35/65の重量比ポリマー(M)/ポリマー(F)で本発明の組成物に含まれる。
【0098】
本発明のコーティング組成物は、1つ以上の顔料をさらに含むことができる。本発明の組成物に有用な顔料はとりわけ、以下のもの:Whittaker,Clark & Daniels,South Plainfield,New Jersey,USAから入手可能である二酸化チタン;Shepard Color Company,Cincinnati,Ohio,USAから入手可能なArtic blue #3、Topaz blue #9、Olympic blue #190、Kingfisher blue #211、Ensign blue #214、Russet brown #24、Walnut brown #10、Golden brown #19、Chocolate brown #20、Ironstone brown #39、Honey yellow #29、Sherwood green #5、およびJet black #1;Ferro Corp.,Cleveland,Ohio,USAから入手可能なblack F−2302、blue V−5200、turquoise F−5686、green F−5687、brown F−6109、buff F−6115、chestnut brown V-9186、およびyellow V−9404ならびにEnglehard Industries,Edison,New Jersey,USAから入手可能なMETEOR(登録商標)顔料の1つ以上を含む、または含むであろう。
【0099】
本発明の別の対象は、基材をコートするための上記のような本発明組成物の使用である。
【0100】
コーティング技法は特に制限されない。液体媒体を含むコーティング組成物に好適なすべての標準コーティング技法がこの目的に好適であることができる。とりわけ吹き付け塗り、カーテンコーティング、キャスティング、コイルコーティングなどを挙げることができる。
【0101】
本発明の組成物で基材をコートするために特に適合させられる技法は、とりわけコイルコーティングまたは吹き付け塗りである。
【0102】
基材の選択は特に制限されず;プラスチックおよび金属基材が例示的な例である。
【0103】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願、および刊行物の開示が、用語を不明確にする可能性がある程度に本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例】
【0104】
本発明はここで、以下の実施例に関して記載され、実施例の目的は例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図されない。
【0105】
原材料
Solvay Bario e Derivatiから商業的に入手可能な化学的沈澱BaSOナノ粒子を使用した;BLANC FIXE NC30 BaSO(本明細書で以下、NC30)は30m/gの表面積を、BLANC FIXE NC50(本明細書で以下、NC50)は50m/gの表面積を有する。
【0106】
国際公開第2008/065163号パンフレット(SOLVAY SOLEXIS SPA)05.06.2008の教示に従って製造された2つのパーフルオロポリエーテルブロックコポリマーを使用した;使用した第1ポリマー(本明細書で以下、ポリマー(E−1))は、約25 000のPFPEブロックのそれぞれの数平均分子量およびTFEに由来するブロック当たり平均26の−CF−単位、ならびに約1.5のコポリマー中のTFE由来ブロックの平均数で特徴づけられる、PFPE/TFEブロックコポリマーであり、前記ブロックコポリマーは230℃の融点を有した。使用した第2ポリマー(本明細書で以下、ポリマー(E−2))は、約30 000のPFPEブロックのそれぞれの数平均分子量およびTFEに由来するブロック当たり平均13の−CF−単位、ならびに約9.5のコポリマー中のTFE由来ブロックの平均数で特徴づけられる、PFPE/TFEブロックコポリマーであり、前記ブロックコポリマーは130℃の融点を有した。
【0107】
光沢の測定
コーティング組成物から得られたコーティングの光沢は、以下に詳述されるように得られた、コーテッドパネルについてASTM D 523−89標準に従って60°光沢を測定することによって評価した。
【0108】
接触角の測定
水接触角は、以下に詳述されるように得られた、コーテッドパネルについてASTM D7334−08に従って測定した。
【0109】
コーテッド無機粒子の製造のための一般的な手順
上に詳述されたようなブロックコポリマーPFPE−TFEを、約1.5重量%の濃度を有する220gの溶液を得るために室温でGALDEN(登録商標)パーフルオロポリエーテル HT55に溶解させ;30gの無機粉体を次にポリマー溶液に加え、混合し;次に、溶媒を、N流束(5Nl/時)下に85℃の温度で回転エバポレーターでの蒸発によって除去した。ブロックコポリマーおよび無機粒子の重量比および種類および量を、本明細書で下の表に詳述する。
【0110】
【表1】
【0111】
コーティング組成物の製造のための一般的な手順
ガラスジャーに、コーテッド無機粒子(25重量%)およびイソホロンを装入し;次にガラスビーズを加え、混合物を機械的振盪機(Red Devil paint shaker(ペイント振盪機))によって6時間振盪し、混合物を次に濾過してガラスビーズを除去した。
【0112】
別々に、ガラスジャーへ、Rohm and HaasからParaloid(登録商標)B44として商業的に入手可能な106グラムのアクリル樹脂(トルエン中約40重量%)、174グラムのイソホロンおよび43グラムのShepherdからのBlue 3顔料と一緒に100グラムのHYLAR(登録商標)5000 PVDFを装入した。短い混合の後に、ガラスビーズを粉砕媒体としてこの混合物に加えた。ガラスジャーを密封し、混合物を機械的振盪機(Red Devil paint shaker)によって2時間振盪した。標準青色PVDFペイントを次に粗濾過機で濾過してガラスビーズを除去した。
【0113】
コーテッド無機粒子、ならびに天然ベアー無機粒子(比較のために)、および上記のような青色ペイントを次に、必要とされる重量比で混合した。原料および調製された調合物の組成を表2および3にまとめる。そのように得られたコーティング組成物を、クロメート処理アルミニウムパネル上に塗布し、250℃で10分間ベーキングし、室温で冷却した。コーティングを、ASTM D523−89標準に従ってそれらの光沢についておよびASTM D7334−08に従ってそれらの水接触角についてこうして評価した。結果はまた、本明細書で下の表に含まれる。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
提供されるデータは、ブロックコポリマーが少なくとも135℃の融点を有するときに光沢の著しい増加がコーテッド無機粒子で得ることができるにすぎず;135℃未満の融点を有する上に詳述されたようなブロックコポリマーでは、光沢向上はまったく達成されないが、表面での疎水性は得られ;表面でのブロックコポリマーのかなりの滲出をもたらす移行現象が接触角の高い値によって示されることを十分に実証する。光沢のわずかな増加はベアー無機粒子で得ることができるが、本発明によるブロックコポリマーでコートしたもののみが、接触角に影響を及ぼすことなく、この特性を著しく増大させる。
【0117】
コーテッド粒子および処理充填剤を含むコーティング組成物
上に詳述されたような、ブロックコポリマーでコートされた無機粒子、および特定のフルオロアルキルアルコキシ−シラン修飾シリカ粒子の両方を含むコーティング組成物を製造した。こうして、Degussa製のAEROSIL(登録商標)150ヒュームドシリカを、式C17−CHCH−Si(OEt)(本明細書で以下、R(C)Et−SiOEt)のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランでの処理によって表面修飾した。
【0118】
製造されるコーティング調合物に使用される原料を表4に詳述する。
【0119】
そのように得られたコーティング組成物を、クロメート処理アルミニウムパネルに塗布し、250℃で10分間ベーキングし、室温で冷却した。
【0120】
接触角および光沢を各パネルについて測定し、結果を表4に報告する。
【0121】
【表4】
【0122】
提供されるデータは、疎水性付与添加剤と組み合わせて使用されるときに、ポリマー(E)でコートされた粒子がWAC/光沢特性のより良好な折衷の達成を可能にすることを十分に実証する。疎水性付与添加剤と相当するベアー粒子との組み合わせは、匹敵するWCA値で許容される光沢を提供しない。