特許第5956455号(P5956455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956455
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】物体を積層造形するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 67/00 20060101AFI20160714BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20160714BHJP
【FI】
   B29C67/00
   B33Y30/00
【請求項の数】26
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-540490(P2013-540490)
(86)(22)【出願日】2011年11月28日
(65)【公表番号】特表2014-503385(P2014-503385A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】IL2011050032
(87)【国際公開番号】WO2012070053
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年11月10日
(31)【優先権主張番号】61/417,438
(32)【優先日】2010年11月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513131464
【氏名又は名称】ストラタシス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】レヴィ アヴラハム
(72)【発明者】
【氏名】レゲヴ ケレン
(72)【発明者】
【氏名】ロットマン クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルシュ シャイ
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−062914(JP,A)
【文献】 特開2008−189782(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0188369(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0121476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元の物体を積層造形する方法であって、複数の層を、前記物体の形に対応する形状を有するパターンに連続的に形成し、これによって前記物体を形成するステップを含んでおり、
各層を形成する前記ステップが、少なくとも1種類の未硬化の構築材料を分配するステップと、前記未硬化の構築材料を少なくとも部分的に硬化させるステップとを含んでおり、前記複数の層のうちの少なくとも1層において、前記硬化が、前記少なくとも1層の直前の層の硬化が開始されてから少なくともt秒の後に開始され、前記tが、前記形成に要求される合計時間よりも長く、
前記少なくとも1種類の構築材料の特徴的な荷重たわみ温度(HDT)データを受け取るステップと、前記HDTに対応して前記tの値を選択するステップと、をさらに含んでいる、
方法。
【請求項2】
前記tの値を、前記形成時の動作温度に基づいて選択するステップ、をさらに含んでいる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記tが、少なくとも6である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記tが、約10〜約25である、
請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記tの値を、前記少なくとも1種類の構築材料の種類に基づいて選択するステップ、をさらに含んでいる、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記tの値を、前記硬化時に前記少なくとも1層に供給される単位体積あたりのエネルギ線量に基づいて選択するステップ、をさらに含んでいる、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記tの値を、前記少なくとも1層の厚さに基づいて選択するステップ、をさらに含んでいる、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記tの値を、前記少なくとも1層の前記分配を特徴付ける速度に基づいて選択するステップ、をさらに含んでいる、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種類の構築材料の硬化後の特徴的な荷重たわみ温度(HDT)が、硬化後の前記層の温度よりも高い、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記特徴的なHDTが少なくとも50℃である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記構築材料が、少なくとも30重量%のモノアクリル官能性単量体またはモノメタクリル官能性単量体を含んでおり、前記単量体のそれぞれの重合体が、50℃より高いガラス転移温度(Tg)を有する、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記Tgが60℃より高い、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Tgが70℃より高い、
請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記分配がインクジェット技術である、
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
コンピュータソフトウェア製品であって、プログラム命令が格納されているコンピュータ可読媒体を備えており、前記命令が、積層造形システムのコンピュータ化されたコントローラによって読み取られたとき、それに起因して、前記システムが、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法を実行する、コンピュータソフトウェア製品。
【請求項16】
三次元の物体を積層造形するシステムであって、
少なくとも1種類の未硬化の構築材料を分配するように構成されている分配ユニットと、
前記未硬化の構築材料を硬化させるように構成されている硬化ユニットと、
複数の層のうちの少なくとも1層において、前記硬化が、前記少なくとも1層の直前の層の硬化が開始されてから少なくともt秒の後に開始されるように、前記複数の層を、前記三次元の物体の形に対応する形状を有するパターンに連続的に形成するように、前記分配ユニットおよび前記硬化ユニットを作動させるように構成されているコントローラであって、前記tが、前記形成に要求される合計時間よりも長い、前記コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記少なくとも1種類の構築材料の特徴的な荷重たわみ温度(HDT)データを受け取るステップと、前記HDTに対応して前記tの値を選択するように構成されている、システム。
【請求項17】
前記tが、少なくとも6である、
請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記tが、約10〜約25である、
請求項16または請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記コントローラは、前記tの値を、前記形成時の動作温度に基づいて選択するように構成されている、
請求項16から請求項18のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項20】
前記構築材料が、少なくとも30重量%のモノアクリル官能性単量体またはモノメタクリル官能性単量体を含んでおり、前記単量体のそれぞれの重合体が、50℃より高いガラス転移温度(Tg)を有する、
請求項16から請求項19のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記少なくとも1種類の構築材料の硬化後の特徴的な荷重たわみ温度(HDT)が、硬化後の前記層の温度よりも高い、
請求項18から請求項20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記コントローラが、前記tの値を、前記少なくとも1種類の構築材料の種類に基づいて選択するように構成されている、
請求項16から請求項21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記コントローラが、前記tの値を、前記硬化時に前記少なくとも1層に供給される単位体積あたりのエネルギ線量に基づいて選択するように構成されている、
請求項16から請求項22のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記コントローラが、前記tの値を、前記少なくとも1層の厚さに基づいて選択するように構成されている、
請求項16から請求項23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
前記コントローラが、前記tの値を、前記少なくとも1層の前記分配を特徴付ける速度に基づいて選択するように構成されている、
請求項16から請求項24のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記分配ユニットは、インクジェット技術を用いる、
請求項16から請求項25のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、物体の積層造形(Additive Manufacturing)に関し、より詳細には、以下に限定されないが、物体を積層造形するシステムおよび方法であって、物体のカール効果が減少するシステムおよび方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形とは、一般的には、物体のコンピュータモデルを利用して三次元(3D)の物体を製造する工程である。このような工程は、さまざまな分野(例えば設計に関連する分野)において、可視化、デモンストレーション、機械的な試作品製作、さらにはラピッドマニュファクチャリング(RM)(rapid manufacturing)を目的として、使用されている。
【0003】
積層造形システムの基本的な動作は、三次元のコンピュータモデルを薄い断面にスライスするステップと、その結果を2次元の位置データに変換するステップと、データを制御機器に供給し、制御機器が積み重ね方式で三次元の構造物を製造するステップと、からなる。
【0004】
積層造形は、数多くの異なる製作方法を伴う(例えば、三次元印刷、薄膜積層法、熱溶解積層法)。
【0005】
三次元印刷工程においては、例えば、一連のノズルを有する分配ヘッドから構築材料を分配して、支持構造の上に層を堆積させる。次に、構築材料に応じて、適切な装置を使用して層を硬化または固化させることができる。構築材料は、モデル材(物体を形成する)およびサポート材(物体が構築されるときに物体を支持する)を含んでいることができる。さまざまな三次元印刷技術が存在しており、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、および特許文献13(いずれも同一の譲受人)に開示されており、これらの文書の内容は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0006】
積層造形では、機械設備および労働力の最小限の投資で、機能部分の試作品(プロトタイプ)を迅速に製作することができる。このようなラピッドプロトタイピングによって、迅速かつ効果的なフィードバックが設計者に提供されることにより、製品の開発サイクルが短縮され、設計工程が改善される。さらに、積層造形は、例えば設計のさまざまな側面(例えば、美的外観、嵌合い、組立てなど)を評価する目的で、非機能部分を迅速に製作するために使用することもできる。さらに、積層造形技術は、医療分野(治療を行う前に、予測される結果をモデル化する)においても有用であることが証明されている。これ以外にも、具体的な設計や機能を視覚化することが有用である多くの分野、例えば、建築、歯科、形成外科(ただしこれらに限定されない)では、ラピッドプロトタイピングの恩恵を受けることができる。
【0007】
いくつかの積層造形技術では、2種類以上のモデル材を使用して物体を積層的に形成することができる。例えば、本譲受人の特許文献13(この文書の内容は参照によって本明細書に組み込まれている)には、複数の分配ヘッドを有する積層造形装置と、複数の構築材料を製造装置に供給するように構成されている構築材料供給装置と、製造装置および構築材料供給装置を制御するように構成されている制御ユニットと、を備えたシステムが開示されている。このシステムは、いくつかの動作モードを有する。1つのモードにおいては、製造装置の1回の構築走査サイクルの間、すべての分配ヘッドが作動する。別のモードにおいては、1回の構築走査サイクルまたはその一部の間、分配ヘッドのうちの1つまたは複数が作動しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,259,962号明細書
【特許文献2】米国特許第6,569,373号明細書
【特許文献3】米国特許第6,658,314号明細書
【特許文献4】米国特許第6,850,334号明細書
【特許文献5】米国特許第7,183,335号明細書
【特許文献6】米国特許第7,209,797号明細書
【特許文献7】米国特許第7,225,045号明細書
【特許文献8】米国特許第7,300,619号明細書
【特許文献9】米国特許第7,479,510号明細書
【特許文献10】米国特許第7,500,846号明細書
【特許文献11】米国特許第7,658,976号明細書
【特許文献12】米国特許第7,962,237号明細書
【特許文献13】米国公開特許出願第20100191360号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のいくつかの実施形態の態様によると、三次元の物体を積層造形する方法が提供される。本方法は、複数の層を、物体の形に対応する形状を有するパターンに連続的に形成し、これによって物体を形成するステップを含んでいる。各層を形成するステップは、少なくとも1種類の未硬化の構築材料を分配するステップと、この未硬化の構築材料を少なくとも部分的に硬化させるステップとを含んでいる。複数の層のうちの少なくとも1層において、硬化は、その少なくとも1層の直前の層の硬化が開始されてから少なくともt秒の後に開始される。パラメータtは、層を形成するのに要求される秒数よりも大きい。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態によると、本方法は、少なくとも1種類の構築材料の特徴的な荷重たわみ温度(HDT)を受け取るステップと、HDTに対応してtの値を選択するステップと、を含んでいる。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によると、本方法は、tの値を、少なくとも1種類の構築材料の種類に基づいて選択するステップを含んでいる。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によると、本方法は、tの値を、硬化時に少なくとも1層に供給される単位体積あたりのエネルギ線量に基づいて選択するステップを含んでいる。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態によると、本方法は、tの値を、少なくとも1層の厚さに基づいて選択するステップを含んでいる。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によると、本方法は、tの値を、少なくとも1層の分配を特徴付ける速度に基づいて選択するステップを含んでいる。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態によると、少なくとも1種類の構築材料の硬化後の特徴的な荷重たわみ温度(HDT)は、形成中の層の温度よりも高い。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によると、特徴的なHDTは、少なくとも50℃である。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によると、構築材料は、少なくとも30重量%のモノアクリル官能性単量体またはモノメタクリル官能性単量体を含んでおり、単量体のそれぞれの重合体は、50℃より高いガラス転移温度(Tg)を有する。本発明のいくつかの実施形態によると、ガラス転移温度は60℃より高い。本発明のいくつかの実施形態によると、ガラス転移温度は70℃より高い。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態の態様によると、コンピュータソフトウェア製品であって、プログラム命令が格納されているコンピュータ可読媒体を備えており、積層造形システムのコンピュータ化されたコントローラによって命令が読み取られたとき、それに起因して、システムが、本明細書に記載されている方法を実行する、コンピュータソフトウェア製品、が提供される。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態の態様によると、三次元の物体を積層造形するシステムが提供される。このシステムは、少なくとも1種類の未硬化の構築材料を分配するように構成されている分配ユニットと、この未硬化の構築材料を硬化させるように構成されている硬化ユニットと、複数の層のうちの少なくとも1層において、硬化が、その少なくとも1層の直前の層の硬化が開始されてから少なくともt秒の後に開始されるように、複数の層を、三次元の物体の形に対応する形状を有するパターンに連続的に形成するように、分配ユニットおよび硬化ユニットを作動させるように構成されているコントローラと、を備えている。パラメータtは、層を形成するのに要求される秒数よりも大きい。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によると、tは少なくとも6である。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態によると、tは、約10秒〜約25秒である。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によると、コントローラは、少なくとも1種類の構築材料の特徴的な荷重たわみ温度(HDT)データを受け取り、HDTに対応してtの値を選択するように構成されている。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によると、コントローラは、tの値を、少なくとも1種類の構築材料の種類に基づいて選択するように構成されている。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によると、コントローラは、tの値を、硬化時に少なくとも1層に供給される単位体積あたりのエネルギ線量に基づいて選択するように構成されている。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によると、コントローラは、tの値を、少なくとも1層の厚さに基づいて選択するように構成されている。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によると、コントローラは、tの値を、少なくとも1層の分配を特徴付ける速度に基づいて選択するように構成されている。
【0027】
本明細書において使用されているすべての技術用語および科学用語の意味は、特に定義されない限り、本発明が属する技術分野における通常の技能を有する者によって一般に理解されている意味と同じである。本発明の実施形態を実施する、またはテストするときには、本明細書に記載されている方法および材料に類似するかまたは同等の方法および材料を使用することができるが、例示的な方法および材料が以降に記載してある。矛盾が生じる場合、定義を含めて本特許明細書に従うものとする。さらには、これらの材料、方法、および例は、説明のみを目的としており、本発明を制限することを意図していない。
【0028】
本発明の実施形態の方法もしくはシステムまたはその両方を実施する場合、選択されるタスクを、手動で、または自動的に、またはこれらを組み合わせて、実行または完了することができる。さらに、本発明の方法もしくはシステムまたはその両方の実施形態の実際の設備および機器に従って、いくつかの選択されるタスクを、オペレーティングシステムを使用して、ハードウェアによって、ソフトウェアによって、またはファームウェアによって、あるいはこれらの組合せによって、実施することができる。
【0029】
例えば、本発明の実施形態により選択されるタスクを実行するためのハードウェアは、チップまたは回路として実施することができる。ソフトウェアとしては、本発明の実施形態により選択されるタスクは、任意の適切なオペレーティングシステムを使用してコンピュータによって実行される複数のソフトウェア命令として、実施することができる。本発明の例示的な実施形態においては、本明細書に記載されている方法もしくはシステムまたはその両方の例示的な実施形態による1つまたは複数のタスクは、データプロセッサ(例えば、複数の命令を実行するためのコンピューティングプラットフォーム)によって実行される。データプロセッサは、オプションとして、命令もしくはデータまたはその両方を格納するための揮発性メモリと、命令もしくはデータまたはその両方を格納するための不揮発性記憶装置(例えば、磁気ハードディスク、リムーバブルメディア)、の少なくとも一方を含んでいる。オプションとして、ネットワーク接続も提供される。オプションとして、ディスプレイもしくはユーザ入力デバイス(例えば、キーボード、マウス)またはその両方も提供される。
【0030】
本明細書においては、本発明のいくつかの実施形態について、単なる一例として、添付の図面を参照しながら説明してある。以下では、図面を詳細に参照するが、図示されている細部は一例であり、本発明の実施形態を、実例を挙げて説明することを目的としていることを強調しておく。この点において、当業者には、図面を参照しながらの説明によって、本発明の実施形態をどのように実施するかが明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A】本発明のいくつかの実施形態による積層造形システムの概略図である。
図1B】本発明のいくつかの実施形態による積層造形システムの概略図である。
図2A】本発明のいくつかの実施形態に従って行われた実験時に得られた、250mmおよび350mmの長さの棒の変形の程度を示している。
図2B】本発明のいくつかの実施形態に従って行われた実験時に得られた、250mmおよび350mmの長さの棒の変形の程度を示している。
図3】本発明のいくつかの実施形態に従って行われた実験時に得られた、230mmの長さの棒の変形の程度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、物体の積層造形(AM)に関し、より詳細には、以下に限定されないが、カール効果が減少する、物体を積層造形するシステムおよび方法に関する。
【0033】
本発明の少なくとも一実施形態について詳しく説明する前に、以下の点を理解されたい。すなわち、以下の説明に記載されている、もしくは、図面または例の少なくとも一方に示されている、またはその両方である構成要素および/または方法の構造および配置構成の細部は、本発明の適用を必ずしも制限するものではない。本発明は、別の実施形態とする、または、さまざまな方法で実施または実行することができる。
【0034】
本発明の実施形態の方法およびシステムは、複数の層を、物体の形に対応する形状を有するパターンに形成することによって、三次元の物体を層単位で製造する。
【0035】
本明細書において使用されている用語「物体」は、物体全体またはその一部を意味する。
【0036】
各層は、2次元表面を走査してそれをパターン化する積層造形装置によって形成される。この装置は、走査中、2次元の層または表面上の複数の目標位置(target locations)にアクセスし、目標位置のそれぞれ、または目標位置のグループについて、その目標位置または目標位置のグループが構築材料によって占有されるか否かと、どの種類の構築材料をそこに供給するかとを、決定する。この決定は、表面のコンピュータ画像に従って行われる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態においては、本積層造形法は、三次元印刷を備えている。これらの実施形態においては、一連のノズルを有する分配ヘッドから構築材料を分配し、支持構造の上に構築材料を層状に堆積させていく。したがって、積層造形装置は、占有されるべき目標位置に構築材料を分配し、それ以外の目標位置には構築材料が存在しないままにする。この装置は、一般には、複数の分配ヘッドを含んでおり、分配ヘッドのそれぞれが異なる構築材料を分配するように構成することができる。したがって、異なる目標位置を異なる構築材料によって占有することができる。構築材料の種類は、2つの大きなカテゴリとして、モデル材とサポート材とに分類することができる。サポート材は、製作工程時に物体または物体の一部を支持する、もしくはそれ以外の目的(例えば中空の物体や多数の穴を有する物体を提供する)、またはその両方を目的とする支持基盤または支持構造としての役割を果たす。支持構造は、例えば支持強度を高めるためのモデル材要素をさらに含んでいることができる。
【0038】
モデル材は、一般的には、積層造形において使用するために調製され、単独で(すなわち他の物質と混合する、または組み合わせる必要なしに)三次元の物体を形成することのできる組成物である。
【0039】
最終的な三次元の物体は、モデル材からなる、またはモデル材とサポート材の組合せからなる、またはその変形(例:硬化の後)からなる。これらの操作すべては、固体自由形状製造の分野の当業者に周知である。
【0040】
本発明のいくつかの例示的な実施形態においては、2種類以上のモデル材を、それぞれ積層造形装置の異なる分配ヘッドから分配することによって、物体が製造される。オプションとして、これらの材料は、印刷ヘッドの同一の通過動作の間に層として堆積させることが好ましい。層内の材料、および材料の組合せは、物体の所望の特性に従って選択する。
【0041】
図1Aおよび図1Bは、本発明のいくつかの実施形態による、物体12を積層造形する目的に適するシステム10の代表的な例を示しており、ただし本発明はこの例に限定されない。システム10は、複数の分配ヘッドを備えた分配ユニット21を有する積層造形装置14を備えている。各ヘッドは、図1Bに示したように、1つまたは複数のノズル22のアレイを備えていることが好ましく、これらのノズル22を通じて構築材料24が分配される。
【0042】
装置14は三次元印刷装置であることが好ましく(ただし必須ではない)、その場合、分配ヘッドが印刷ヘッドであり、構築材料はインクジェット技術によって分配される。このことは必須条件ではなく、なぜなら、用途によっては、積層造形装置において三次元印刷技術を必ずしも採用しなくてもよいためである。本発明のさまざまな例示的な実施形態に従って予測される積層造形装置の代表的な例としては、以下に限定されないが、結合剤噴射式の粉末ベースの装置(binder jet - powder-based apparatus)、熱溶解積層装置、溶解材料堆積装置(fused material deposition apparatus)が挙げられる。
【0043】
オプションとして、各分配ヘッドには構築材料リザーバを介して供給されることが好ましく、構築材料リザーバは、オプションとして、温度制御ユニット(例:温度センサもしくは加熱装置またはその両方)と、材料レベルセンサとを含んでいることができる。構築材料を分配する目的で、例えば圧電式インクジェット印刷技術におけるように、分配ヘッドのノズルを介して材料の液滴を選択的に堆積させるための電圧信号が分配ヘッドに印加される。各ヘッドの分配速度は、ノズルの数、ノズルのタイプ、および電圧信号の印加速度(周波数)に依存する。このような分配ヘッドは、固体自由形状製造の分野の当業者に公知である。
【0044】
分配ノズルまたはノズルアレイの総数は、好ましくは(ただし必須ではない)、分配ノズルの1/2がサポート材を分配する目的に指定され、分配ノズルの1/2がモデル材を分配する目的に指定されるように選択し、すなわち、モデル材を噴射するノズルの数は、サポート材を噴射するノズルの数と同じである。図1Aの代表的な例では、4つの分配ヘッド21a,21b,21c,21dを示してある。ヘッド21a,21b,21c,21dのそれぞれは、ノズルアレイを有する。この例においては、ヘッド21aおよびヘッド21bをモデル材用に指定することができ、ヘッド21cおよびヘッド21dをサポート材用に指定することができる。したがって、ヘッド21aは第1のモデル材を分配することができ、ヘッド21bは第2のモデル材を分配することができ、ヘッド21cおよびヘッド21dはいずれもサポート材を分配することができる。代替実施形態においては、例えばヘッド21cおよびヘッド21dを組み合わせて、サポート材を堆積させるための2つのノズルアレイを有する単一のヘッドとすることができる。
【0045】
ただし、上の例は本発明の範囲を制限することを意図するものではなく、モデル材を堆積させるヘッド(モデリングヘッド)の数と、サポート材を堆積させるヘッド(支持ヘッド)の数は異なってよいことを理解されたい。一般的には、モデリングヘッドの数と、支持ヘッドの数と、各ヘッドまたはヘッドアレイにおけるノズルの数は、サポート材の最大分配速度とモデル材の最大分配速度の所定の比率aが得られるように選択する。所定の比率aの値は、形成される層のそれぞれにおいて、モデル材の高さがサポート材の高さに等しいように選択されることが好ましい。aの一般的な値は、約0.6〜約1.5である。
【0046】
本明細書において使用されている語「約」は、±10%を意味する。
【0047】
例えば、a=1の場合、すべてのモデリングヘッドおよび支持ヘッドが作動するとき、サポート材の全体的な分配速度はモデル材の全体的な分配速度とほぼ同じである。
【0048】
好ましい実施形態においては、p個のノズルからなるm個のアレイをそれぞれが有するM個のモデリングヘッドと、q個のノズルからなるs個のアレイをそれぞれが有するS個の支持ヘッドとが存在し、このときM×m×p=S×s×qである。M×m個のモデル材アレイおよびS×s個のサポート材アレイのそれぞれを、個別の物理ユニットとして製造することができ、いくつかの物理ユニットをまとめてアレイのグループとする、またはアレイのグループから物理ユニットを外すことができる。この実施形態においては、オプションとして、このようなアレイそれぞれが、自身の温度制御ユニットおよび材料レベルセンサを備えており、各アレイを作動させるための個々に制御された電圧を受け取ることが好ましい。
【0049】
装置14は、硬化ユニットをさらに備えていることができ、硬化ユニットは1つまたは複数の放射源26を備えていることができ、放射源26は、使用するモデル材に応じて、例えば、紫外線ランプ、可視光ランプ、赤外線ランプ、または他の電磁放射源、または電子ビーム源とすることができる。放射源26は、モデル材を硬化または固化させる役割を果たす。
【0050】
分配ヘッドおよび放射源26は、フレームまたはブロック28の中に取り付けられていることが好ましく、フレームまたはブロック28は、トレイ30(作業面としての役割を果たす)の上で往復移動するように動作することが好ましい。本発明のいくつかの実施形態においては、放射源26は、分配ヘッドによって直前に分配された材料を少なくとも部分的に硬化または固化させる目的で分配ヘッドを後ろからたどるように、ブロック内に取り付けられている。一般的な慣例によると、トレイ30はX−Y平面に位置している。トレイ30は、(Z方向に沿って)垂直に、一般には下向きに移動するように構成されていることが好ましい。本発明のさまざまな例示的な実施形態においては、装置14は、1つまたは複数のレベリング装置32(例:ローラー34)をさらに備えている。レベリング装置32は、新たに形成された層を、その上に次の層を形成する前に、まっすぐにする、水平にする、層の厚さを確立する、のうちの少なくとも1つを行う役割を果たす。レベリング装置32は、レベリング時に発生する余分な材料を集めるための廃棄材料収集装置36を備えていることが好ましい。廃棄材料収集装置36は、材料を廃棄材料タンクまたは廃棄材料カートリッジに送る任意のメカニズムを備えていることができる。
【0051】
使用時、ユニット21の分配ヘッドは、走査方向(本明細書においてはX方向を意味する)に移動し、トレイ30の上を通過する過程において、構築材料を所定の形状に選択的に分配する。構築材料は、一般には、1種類または複数種類のサポート材と、1種類または複数種類のモデル材とを含んでいる。ユニット21の分配ヘッドが通過した後、(1種類または複数種類の)モデル材を放射源26によって硬化させる。ヘッドが、直前に堆積させた層の開始点まで逆方向に戻るとき、所定の形状に従って構築材料をさらに分配することができる。分配ヘッドが順方向に通過するとき、もしくは逆方向に通過するとき、またはその両方において、このように形成される層をレベリング装置32によってまっすぐにすることができ、レベリング装置32は、分配ヘッドが順方向に移動するときの経路もしくは逆方向に移動するときの経路またはその両方をたどることが好ましい。分配ヘッドは、X方向に沿って開始点まで戻ると、インデクシング(indexing)方向(本明細書においてはY方向を意味する)に沿って別の位置まで移動することができ、X方向に沿っての往復移動によって同じ層の構築を続行することができる。これに代えて、分配ヘッドは、順方向移動と逆方向移動の間にY方向に移動する、または順方向および逆方向に2往復以上した後に、Y方向に移動することができる。1つの層を完成させるために分配ヘッドによって行われる一連の走査を、本明細書においては1回の走査サイクルと称する。
【0052】
層が完成した時点で、トレイ30は、次に印刷される層の所望の厚さに従って、Z方向に所定のZレベルまで下がる。この手順が繰り返されて、三次元の物体12を積み重ね方式で形成する。
【0053】
別の実施形態においては、同じ層において、ユニット21の分配ヘッドの順方向の通過と逆方向の通過との間に、トレイ30をZ方向に移動させることができる。このようなZ方向の移動は、レベリング装置32と表面とが一方向においてのみ接触し、反対方向においては接触しないようにする目的で行われる。
【0054】
システム10は、オプションとして、構築材料供給装置50を備えており、構築材料供給装置50は、構築材料の容器またはカートリッジを備えており、複数の構築材料を製作装置14に供給することが好ましい。
【0055】
制御ユニット52は、製作装置14を制御し、オプションとして、構築材料供給装置50も制御することが好ましい。制御ユニット52は、データプロセッサ54と通信することが好ましく、データプロセッサ54は、コンピュータの物体データ(例:コンピュータ可読媒体上に表される、STL(Standard Tessellation Language)フォーマットなどの形式におけるCAD形状データ)に基づく製作命令に関連するデジタルデータを送信する。制御ユニット52は、一般に、各分配ヘッドまたはノズルアレイに印加される電圧と、それぞれの印刷ヘッドにおける構築材料の温度とを制御する。
【0056】
製造データが制御ユニット52にロードされると、制御ユニット52はユーザの介入なしに動作することができる。いくつかの実施形態においては、制御ユニット52は、制御ユニット52と通信する例えばデータプロセッサ54を使用して、またはユーザインタフェース16を使用して、オペレータからの追加の入力を受け取る。ユーザインタフェース16は、この技術分野において公知の任意のタイプ、例えば、以下に限定されないが、キーボード、タッチスクリーンなどとすることができる。制御ユニット52は、例えば、追加の入力として、1つまたは複数の構築材料の種類もしくは属性またはその両方を受け取ることができ、属性は、例えば、以下に限定されないが、色、特徴的なひずみもしくは遷移温度またはその両方、粘度、電気特性、磁気特性である。他の属性および属性のグループも考えられる。
【0057】
いくつかの実施形態においては、異なる分配ヘッドから異なる材料を分配することによって、物体を製作するように意図されている。これらの実施形態では、特に、与えられた数の材料から材料を選択し、選択される材料およびそれらの特性の所望の組合せを定義することが可能である。これらの実施形態によると、層の中で各材料が堆積される空間位置は、異なる三次元空間位置が異なる材料によって占有されるように定義する、または、堆積後に層の中での材料の空間的な組合せが可能となり、これにより1つまたは複数の各位置に複合材料が形成されるように、実質的に同じ三次元位置または隣接する三次元位置が2種類以上の異なる材料によって占有されるように定義する。
【0058】
堆積後のモデル材の任意の組合せまたは混合が考えられる。例えば、ある材料が分配されると、この材料は元の特性を維持することができる。しかしながら、この材料が、別のモデル材と同時に分配される、または同じ位置あるいは近い位置に分配される別の材料と同時に分配されるとき、これらの分配される材料とは異なる1つまたは複数の特性を有する複合材料が形成される。
【0059】
したがって、本発明の実施形態では、材料の多様な組合せを堆積させて物体を製作することが可能であり、物体は、その各部を特徴付けるうえで望ましい特性に従って、物体の複数の異なる部分における材料の複数の異なる組合せからなる。
【0060】
システム10などの積層造形システムの原理および動作に関するさらなる詳細は、特許文献13に記載されており、この文書の内容は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0061】
積層造形は全世界で広く実施されており、任意の形状の構造を製作するための常法となっているが、本発明者は、動作上の特定の制限が課されることを見出した。例えば、本発明者は、いくつかのモデル材(特に、紫外線重合性材料)が、物体の製作中にカールなどの望ましくない変形を示すことを見出した。このようなカールの傾向は、液体から固体に相転移するときに材料が収縮する結果であることが判明した。
【0062】
カールの程度は、測定可能な量である。カールの程度を測定するための適切なプロセスとして、所定の形状の物体(例:長方形断面または正方形断面を有する細長い棒)を、平坦かつ水平な面の上で製作し、物体の一方の端部に所定の負荷を印加し、反対側の端部において面からの高さを測定することが挙げられる。
【0063】
曲がりの問題を解決する目的で本発明の発明者が行った調査では、カールの程度は、重合プロセス時に材料に発生する体積収縮の程度と、材料の熱変形温度(HDT)と製作時のシステム内の温度の差とに比例することが判明した。本発明者は、体積収縮が比較的大きく、かつHDTが比較的高い(例:重合温度の範囲内)材料の場合に、カールが特に顕著であることを見出した。さらに、本発明者は、HDTとカールの傾向との間に単調な関係が存在することを見出した。特定の理論に縛られることを望むものではないが、硬化時におけるHDTが製作時のシステム内の温度に近い材料は、収縮が同程度であるがより高いHDTを有する材料よりも、積層造形工程中に容易に応力緩和または塑性変形が起こるものと仮定する。
【0064】
本明細書において使用されている用語「熱変形温度」(HDT)は、材料または材料の組合せが、特定の温度において所定の負荷がかかった状態で特定のたわみが生じた状態に変形する温度を意味する。材料または材料の組合せのHDTを求めるための適切な試験手順は、ASTM D−648シリーズ、特に、ASTM D−648−06の方法およびASTM D−648−07の方法である。
【0065】
例えば、Objet社(イスラエル)によって販売されているPolyJetTMシステムにおいては、紫外線の照射時に架橋重合体材料が形成される方式が使用されている。これらの材料によって製造される物体は、剛性が比較的高く、HDTが室温より高い(例:約50℃以上)。このような高いHDT値では、寸法精度が低下する(カール効果が大きい)ことが判明した。したがって、高いHDTと小さいカールは、互いに矛盾する特性であることが発見された。本発明者は、特に、高い寸法精度(小さいカール効果)と、製造が完了した直後の高いHDTの両方が満たされる三次元の物体を積層造形する技術を提供する目的で、実験的研究を行った。
【0066】
本発明者は、カール効果が存在するか否かは、連続する層を硬化させる間の経過時間に依存することを見出した。具体的には、連続する層の硬化開始の間の時間間隔を十分に長く設定することによって、最終的な物体のカール効果を低減または排除できることが見出された。
【0067】
本発明のさまざまな例示的な実施形態においては、制御ユニット52は、物体を形成している層のうちの少なくとも1層、または少なくとも2層、または少なくとも3層(例:ほとんどの層またはすべての層)において、各層の硬化が、その層の直前の層の硬化が開始されてから少なくともt秒の後に開始されるように、分配ユニット21および硬化ユニット26を作動させるように構成されている。各層は、一般には(ただし必須ではない)、約15μの厚さを有する。いくつかの実施形態においては、各層は、少なくとも5μ(例:約5μ、または約10μ、または約15μ、または約30μ)の厚さを有する。それ以外の厚さも、本発明の範囲から除外されない。
【0068】
本発明のさまざまな例示的な実施形態においては、tは、1つの層が形成される合計時間(要する分配時間および硬化時間を含む)よりも長い。例えば、ある層の合計形成時間が5秒であるとき、tは5秒より長い。合計形成時間とtとの差を、「遅延」と定義する。したがって、従来のシステム(各層がその前の層の硬化の開始直後に堆積されて硬化する)とは異なり、制御ユニット52は、層の堆積もしくは硬化またはその両方を、直前の層の硬化の開始からt秒以上の時間が経過するまで遅らせる。
【0069】
遅延手順の代表的な例は以下のとおりである(ただしこの手順は本発明の範囲の制限とはみなされないものとする)。制御ユニット52は、ブロック28がトレイ30の上を1回通過して、構築材料の1層を分配および硬化させるように、ブロック28に信号を送る。その後、制御ユニット52は、ブロック28が静止位置(例:トレイ30の端部またはその近く、またはトレイの外側30)において、1回または複数回の通過(例:2回または3回の通過)に等しい静止期間(すなわち遅延)だけ静止しているように、ブロック28を設定する。静止期間の後、制御ユニット52は、ブロック28がさらなる通過を開始して次の層を分配および硬化させるように、ブロック28に信号を送る。
【0070】
tの一般的な値は、以下に制限されないが、少なくとも6秒、または少なくとも7秒、または少なくとも8秒、または少なくとも9秒、または少なくとも10秒である。本発明のいくつかの実施形態においては、tは最大で25秒である。本発明のいくつかの実施形態においては、tは6秒未満である。
【0071】
tの値は、物体の製造に使用される各材料の特性にも依存し、オプションとして、物体が製造されるときの温度にも依存する。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態においては、制御ユニット52は、使用されている構築材料を特徴付けるHDTデータを受け取る。このHDTデータは、一般には、材料がその硬化後に獲得するHDTに対応する。このようなデータは、例えばオペレータによってデータプロセッサ54またはユーザインタフェース16を用いて提供することができる。なお、オペレータはHDTデータをそのまま1文字ずつ入力する必要がないことを理解されたい(ただしそのように入力することも考えられる)。本発明のいくつかの実施形態においては、制御ユニット52またはデータプロセッサ54は、メモリ媒体(図示していない)に格納しておくことのできるHDT値のデータベースにアクセスし、オペレータによって行われる別のタイプの入力に基づいてHDT値を選択する。このようなデータベースは、例えば、構築材料の種類および対応するHDT値をそれぞれが有する複数のエントリを含んでいることができる。これらの実施形態においては、オペレータは、構築材料の種類を入力する、またはオプションのリストから構築材料の種類を選択することができ、制御ユニット52またはデータプロセッサ54がデータベースから各HDT値を取得する。さらに考えられる実施形態においては、制御ユニット52またはデータプロセッサ54が、構築材料供給装置50に充填されている構築材料の種類に基づいて、データベースから各HDT値を取得する。
【0073】
制御ユニット52は、HDTデータを受け取ると、オプションとして、そのHDTに対応してtの値を選択する。この選択は、複数の方法において行うことができる。いくつかの実施形態においては、ルックアップテーブルを使用する。このようなルックアップテーブルは、ユニット52によってアクセス可能なメモリ媒体に格納しておくことができる。ルックアップテーブルは、HDT値および対応するt値をそれぞれが有する複数のエントリを含んでいることができる。制御ユニット52は、受け取ったHDT値に最も一致するエントリをルックアップテーブルの中で探し、そのt値を選択する、または最も一致する1つまたは複数のエントリに基づいてt値を近似することができる。いくつかの実施形態においては、制御ユニット52は、与えられたHDT値に対するtの値を求めるため、あらかじめプログラムされた関数t(HDT)を採用することができる。このような関数は、HDTの単調増加関数(例:正の傾きを有する線形関数)であることが好ましい。HDT=50℃の場合の関数の戻り値は、少なくとも6であることが好ましい。
【0074】
なお、制御ユニット52は、必ずしもHDTの値に基づいてtの値を選択しなくてもよいことを理解されたい。本発明のいくつかの実施形態においては、制御ユニット52は、物体を製造するのに使用されている構築材料の種類から直接的にtの値を選択する。この選択は、一般にはルックアップデーブルによって行われ、ルックアップデーブルは、本発明のいくつかの実施形態においては、ユニット52によってアクセス可能なメモリ媒体に格納されている。このようなルックアップデーブルは、構築材料の種類または構築材料のシリーズの種類および対応するt値をそれぞれが有する複数のエントリを含んでいることができる。制御ユニット52は、最も一致する構築材料の種類または構築材料のシリーズの種類をルックアップテーブルの中で探し、そのt値を選択することができる。
【0075】
さらに考えられる実施形態においては、tの値は、製造工程の動作温度、好ましくは(ただし必須ではない)HDT値と動作温度との差、に基づく。
【0076】
オプションとして、tの値は、最も直近に形成された層に供給されるエネルギ線量に、少なくとも部分的に基づくことが好ましい。単位体積あたりのエネルギ線量は、原理的には、硬化ユニット26によって放出される放射の強度と、材料の分配速度とに依存する。分配速度は、X方向に沿ってのブロック28の速度と、ノズル22からの構築材料の流量とに依存する。例えば、モデル材と、ノズル22からの構築材料の流量と、放射強度とが与えられたとき、X方向に沿って動くブロック28の速度が大きいほど、形成工程における層あたりの重合の程度が小さくなり、層は自身の上の次の層が硬化している間にも重合を続ける。本発明者は、このように前に形成された層が重合することによって曲がりの影響が増大することを見出した。
【0077】
したがって、本発明のさまざまな例示的な実施形態においては、tの値は、次のパラメータ、すなわち、(i)層の厚さ、(ii)分配速度、(iii)放射強度、(iv)単位エネルギ線量あたりの重合速度、(v)硬化中の材料のHDT、のうちの1つまたは複数に基づいて計算される。いくつかの実施形態においては、tの値は、上のパラメータのうちの少なくとも2つに基づいて計算され、本発明のいくつかの実施形態においては、tの値は、上のパラメータのうちの少なくとも3つに基づいて計算され、本発明のいくつかの実施形態においては、tの値は、上のパラメータすべてに基づいて計算される。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態の態様においては、三次元の物体を積層造形するのに適する方法が提供される。この方法は、積層造形システム(例:システム10)を使用して実行することができる。この方法は、複数の層を、物体の形に対応する形状を有するパターンに連続的に形成するステップを含んでいる。各層を形成するステップは、少なくとも1種類の構築材料を分配して未硬化層を形成するステップと、この未硬化層を少なくとも部分的に硬化させるステップとを含んでいる。前に詳しく説明したように、複数の層のうちの少なくとも1層において、硬化は、それぞれの層の直前の層の硬化が開始されてから少なくともt秒の後に開始される。本発明のいくつかの実施形態では、本方法においては、前に詳しく説明したように、構築材料のうちの少なくとも1種類の特徴的なHDTデータを受け取り、そのHDTに対応してtの値を選択する。いくつかの実施形態においては、tの値は、構築材料のHDTに基づいて選択される。
【0079】
本発明の実施形態の方法およびシステムは、数多くの種類の構築材料を利用することができる。代表的な例としては、以下に限定されないが、ASTM D−648シリーズのうちの1つまたは複数の手順(特に、ASTM D−648−06の方法およびASTM D−648−07の方法、オプションとして、ASTM D−648−06の方法およびASTM D−648−07の方法の両方)によって測定したときの、約0.45MPaの圧力における硬化後のHDTが、形成中の層の温度よりも高い(好ましくはHDTが約50℃以上である)構築材料、が挙げられる。
【0080】
適切な構築材料は、ラジカル機構(例:アクリル官能基の付加反応)によって紫外線重合性である、アクリル官能性またはメタクリル官能性を備えた組成物を含んでいることができる。さらなる例としては、以下に限定されないが、少なくとも30重量%のモノアクリル官能性単量体またはモノメタクリル官能性単量体を含んだ紫外線重合性組成物が挙げられ、この場合、単量体の各重合体は、約50℃より高いガラス転移温度(Tg)を有する。いくつかの実施形態においては、Tgは60℃より高い、または70℃より高い。
【0081】
本明細書においては、「ガラス転移温度(Tg)」は、E''の局所的な最大値の位置として定義され、E''は、温度の関数としての材料の損失弾性率である。
【0082】
本発明の実施形態に適する材料のいくつかの代表的な種類としては、Objet(登録商標) VeroBlue RGD840、Objet VeroGrey RGD850、Objet VeroBlack RGD870、およびObjet RGD525が挙げられ、これらはObjet社から販売されているモデル材である。
【0083】
本発明の実施形態の方法の1つまたは複数の動作は、コンピュータによって実施される。本発明の実施形態の方法を実施するコンピュータプログラムは、一般に、配布媒体(例えば、以下に限定されないが、フロッピーディスク、CD−ROM、フラッシュメモリデバイス、ポータブルハードディスク)を通じて使用者に配布することができる。配布媒体からハードディスクまたは類似する中間記憶媒体に、コンピュータプログラムをコピーすることができる。配布媒体または中間記憶媒体からコンピュータ命令をコンピュータの実行メモリにロードし、本発明の方法に従って動作するようにコンピュータを設定することによって、コンピュータプログラムを実行することができる。これらの操作すべては、コンピュータシステムの技術分野における当業者に周知である。
【0084】
コンピュータによって実施される、本発明の実施形態の方法は、数多くの形態として具体化することができる。例えば、本方法を、有形媒体(例えば、本方法の動作を実行するコンピュータ)上に具体化することができる。本方法を、本方法の動作を実行するコンピュータ可読命令を備えたコンピュータ可読媒体上に具体化することができる。さらには、有形媒体上のコンピュータプログラムを実行するようにされた、またはコンピュータ可読媒体上の命令を実行するようにされたデジタルコンピュータ機能を有する電子デバイスに、本方法を具体化することもできる。
【0085】
本出願から発生する特許権の存続期間中、積層造形のための数多くの関連するモデル材が開発されることが予測されるが、用語「モデル材」の範囲は、このような新規の技術すべてを含むものとする。
【0086】
本明細書において使用されている表現「約」は、±10%を意味する。
【0087】
表現「例示的な」は、本明細書においては、「例、一例、または説明としての役割を果たす」を意味する目的で使用されている。「例示的な」と記載されている実施形態は、必ずしも他の実施形態よりも好ましい、または有利であるとは解釈されないものとし、さらには、他の実施形態の特徴を組み込むことが必ずしも排除されないものとする。
【0088】
表現「オプションとして」は、本明細書においては、「いくつかの実施形態において設けられ、他の実施形態では設けられない」を意味する目的で使用されている。本発明のいずれの実施形態も、互いに矛盾しない限りは複数の「オプションの」特徴を含んでいることができる。
【0089】
表現「備えている」、「含んでいる」、「有する」およびこれらの活用形は、「〜を含んでいるがそれらに限定されない」ことを意味する。
【0090】
表現「からなる」は、「〜を含んでおりそれらに限定される」ことを意味する。
【0091】
表現「本質的に〜からなる」は、組成物、方法、または構造が、追加の構成要素、追加のステップ、または追加の部分を含んでいることができるが、これらの追加の構成要素、追加のステップ、または追加の部分が、請求されている組成物、方法、または構造の基本的かつ新規の特徴を実質的に変化させない場合に限られることを意味する。
【0092】
本明細書において使用されている単数形「ある(a)」、「ある(an)」、「その(the)」は、文脈から明らかに単数形に限定されない限りは、対象要素の複数形も含む。例えば、表現「ある化合物」または「少なくとも1種類の化合物」には、複数種類の化合物(それらの混合物も含む)も含まれうる。
【0093】
本出願の全体を通じて、本発明のさまざまな実施形態は、範囲形式で提示されていることがある。範囲形式での記述は、便宜上および簡潔さのみを目的としており、本発明の範囲を固定的に制限するようには解釈されないものとする。したがって、範囲の記述には、具体的に開示されている可能な部分範囲すべてと、その範囲内の個々の数値とが含まれるものとみなされたい。例えば、1〜6などの範囲の記述には、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)と、この範囲内の個々の数(例えば1、2、3、4、5、6)とが含まれるものとみなされたい。このことは、範囲の広さにかかわらずあてはまる。
【0094】
本明細書中に数値範囲が示されているときには、示された範囲内の任意の該当する数値(小数または整数)が含まれるものとする。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」、および、第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲」という表現は、本明細書においては互換的に使用され、第1の指示数および第2の指示数と、それらの間のすべての小数および整数を含むものとする。
【0095】
明確さを目的として、個別の実施形態の文脈の中で説明されている本発明の複数の特徴は、1つの実施形態の中に組み合わせて設けることもできることを理解されたい。逆に、簡潔さを目的として、1つの実施形態の文脈の中で説明されている本発明のさまざまな特徴は、個別に設ける、または適切な部分的組合せとして設ける、または本発明の任意の他の説明されている実施形態において適切に設けることもできる。さまざまな実施形態の文脈の中で説明されている特徴は、実施形態がそれらの要素なしでは動作・機能しない場合を除いて、それらの実施形態の本質的な特徴とはみなさないものとする。
【0096】
上に説明されており、請求項のセクションに請求されている本発明のさまざまな実施形態および態様は、以下の例において実験的に裏付けられる。
【0097】
[例]
以下の例を参照する。これらの例は上の説明と合わせて、本発明のいくつかの実施形態を説明する(ただし本発明はこれらの例に制限されない)。
【0098】
[例1]
硬化工程の時間遅延と曲がりの影響との間の関係を調査するための実験を行った。この調査は、変形が最大限に減少するときの、連続する層の間の最小の時間遅延を求める目的で行った。
【0099】
実験は、Connex 500(Objet社、イスラエル)を使用して行った。システムは高品質動作モードで動作させた。
【0100】
各実験において、10×10mmの正方形断面を有する4本の細長い棒を、水平なトレイ上で印刷した。2本の棒の長さが250mmであり、2本の棒の長さが350mmであった。例示的なモデル材としてObjet RGD525を使用して、これらの棒を印刷した。
【0101】
連続する硬化工程の間の時間遅延(単位:秒)として、0、5、8、10、12、13、14、15、17、20、および25を採用した。これらの時間値は、次の層を堆積および硬化させる前に印刷ヘッドが待機した時間長を示す。
【0102】
カールは、(水平面上の)棒の片側において例えば300グラム重の荷重を使用し、反対側において水平面から棒までの垂直距離を測定した。印刷してから24〜28時間後に変形を測定した。合計印刷時間を測定した。基準の印刷工程(連続する層の間の遅延なしに層あたり印刷ヘッドが1回通過する)(下の表1の最初のエントリ)に対する時間係数を計算した。
【0103】
結果は、表1、図2A図2Bにまとめてある。表1における時間遅延の各エントリに対して、それぞれの変形は、2本の棒において得られた結果の平均である。変形の最大変動は0.5mmであった。印刷時間は4本の棒の平均である。
【0104】
【表1】
【0105】
表1、図2A図2Bによって実証されているように、連続する層を形成する間の時間遅延を導入することによって、カール効果が大幅に減少する。本例においては、最大の減少を達成するための最小の遅延時間は13秒であり、この場合、合計印刷時間が約3.6倍に延びた。
【0106】
[例2]
この例における実験は、例1に説明した実験に似ているが、230mmの棒の長さを使用し、印刷システムを最初に高速印刷(HS)モードで動作させ、次に高品質(HQ)モードで動作させた。高速印刷モードとは、物体の印刷が完了するまでの時間の長さが、通常モードよりも短い(すなわちスピーディである)ことを意味する。高品質モードとは、物体の印刷解像度が高いことを意味する。
【0107】
これら2組の実験の結果は、表2、表3、および図3にまとめてある。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
表2、表3、および図3によって実証されているように、連続する層を形成する間の時間遅延を導入することによって、カール効果が大幅に減少する。この例においては、最大の減少を達成するための最小の遅延時間は、高速モードでは18秒であり、高品質モードでは16秒であった。これら最小の遅延時間の場合、合計印刷時間がそれぞれ約3.9倍、および約3.6倍に延びた。
【0111】
ここまで、本発明について、その特定の実施形態に関連して説明してきたが、当業者には数多くの代替形態、修正形態、および変形形態が明らかであろう。したがって、添付の請求項の概念および広い範囲内に含まれるそのような代替形態、変形形態、およびバリエーションは、すべて本発明に包含されるものとする。
【0112】
本明細書に記載されているすべての刊行物、特許、および特許出願は、これら個々の刊行物、特許、および特許出願それぞれが、参照によって本明細書に組み込まれることを明示的かつ個別に示されている場合と同じように、それぞれの内容全体が参照によって本明細書に組み込まれている。さらには、本出願において参考文献が引用または特定されていることは、そのような参考文献が本発明の従来技術として利用可能であることを認めるものとして解釈されない。セクションの見出しが使用されている場合、それらの見出しは必ずしも本発明を制限するものとして解釈されない。
【0113】
本出願は、米国特許出願第61/417,438号(出願日:2010年11月28日)の優先権の利益を主張し、この文書の内容は、その全体が本明細書に記載されている場合と同じように、参照によって本明細書に組み込まれている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3