(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
基板上への薄膜作成技術として、所望の材質から成るターゲットを基板に対向させて配置し、該ターゲットをスパッタリングすることによって基板上へ粒子を堆積させるスパッタリング(以下単にスパッタともいう)法が広く用いられている。
【0003】
スパッタ装置においては、ターゲットから飛散した粒子は基板以外の他の物品にも付着する。このような付着膜の洗浄および装置メンテナンスを容易にするために、一般にスパッタ装置内に防着部材が配される(特許文献1、2)。
【0004】
このようなスパッタ法を用いて製造される機能素子の1つとして磁気抵抗効果素子(TMR素子)がある。TMR素子は不揮発性メモリとしてのMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)や、磁気記録媒体の読み取りヘッド等に利用されている。
【0005】
TMR素子はトンネルバリア層の両側の強磁性層の間に所要電圧を印加して一定電流を流した状態において、外部磁場をかけ、強磁性層の磁化の向きが平行で同じであるとき(「平行状態」という)、TMR素子の電気抵抗は最小になり(抵抗値R
P)、強磁性層の磁化の向きが平行で反対であるとき(「反平行状態」という)、TMR素子の電気抵抗は最大になる(抵抗値R
A)という特性を有する。この抵抗値変化を利用することにより情報の記憶あるいは読み出しを行うことができる。
【0006】
TMR素子は「平行状態」の抵抗値R
Pと「反平行状態」の抵抗値R
Aの差が大きいことが要求される。素子特性の指標として磁気抵抗比(MR比)が用いられる。MR比は「(R
A−R
P)÷R
P」として定義される。
【0007】
最近では強磁性層にCoFeBを、バリア層にMgOを用いたTMR素子において室温で良好なMR比が得られることが報告されている(特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本実施形態に係るスパッタリング装置の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るスパッタリング装置1を模式的に示した図である。スパッタリング装置1は、基板処理室としての真空容器2を備える。真空容器2は、排気ポート8を通じて真空容器2を排気するターボ分子ポンプ48とドライポンプ49とを有する真空排気装置と接続される。また、スパッタリング装置1は、真空容器2へ放電用のガスを導入することのできるガス導入機構15を備えている。
【0018】
排気ポート8は、例えば断面が矩形の形状の導管であり、真空容器2とターボ分子ポンプ48との間を繋いでいる。排気ポート8とターボ分子ポンプ48の間には、メインバルブ47が設けられている。
【0019】
真空容器2の内部には、被スパッタ面が露出しているターゲット4がターゲットホルダ6に保持されている。また、ターゲット4から放出されたスパッタ粒子が到達する所定の位置に、基板10を載置するための基板ホルダ7が設けられている。基板ホルダ7の基板載置面の周囲には、基板10の端部や側壁、裏面などへの膜付着を防止するためのマスク11が設けられてもよい。
【0020】
そのほか、真空容器2には、真空容器2の圧力を測定するための圧力計41が設けられている。真空容器2の内面には、接地された筒状の防着部材40が設けられている。防着部材40は、スパッタ粒子が真空容器2の内面に直接付着するのを防止している。なお、
図1ではターゲットの数は2であるが、これ以上の数でも良い。また、
図1では双方のターゲットの脇にガス導入口が設けられているが、この位置に限らず他の位置に設けられても良い。
【0021】
2つ以上のターゲットを有するスパッタリング装置の場合、1つのターゲットを放電すると、隣り合うターゲットにスパッタ粒子が付着する。異なる材料のスパッタ粒子がターゲットに付着すると、ターゲット以外の材料が膜中に混入、ノジュールの発生によるパーティクルの増加が問題となる。
そこで、隣り合うターゲットにスパッタ粒子が回り込むのを防止するために、一般にターゲット周辺に防着部材が設けられる。
このターゲット周辺に設けられた防着部材3(以下チムニー3ともいう)は、ターゲットから横方向に飛び出すスパッタ粒子を着膜する構造を有する。本実施形態ではチムニー3は円筒型であり、チムニー3上に飛来した粒子が強固に付着して剥がれ落ちないように、内部の面はターゲットの方向を向くように設計されている。
【0022】
ターゲット4は、基板10の斜向かいに配置され、基板10に対して傾いて対向している。ターゲットホルダ6には、スパッタ放電用電力を印加する電源12が接続されている。
図1に示すスパッタリング装置1はDC電源を備えているが、これに限定されるものではなく、例えばターゲット4が絶縁体である場合にはRF電源が用いられる。RF電源を用いた場合には電源12とターゲットホルダ6との間に整合器を設置する必要がある。電源12により、ターゲット4に電圧が印加され、プラズマが形成されることで、スパッタリングが行われる。ターゲットホルダ6の裏面にはマグネット19が配置され、ターゲット4の近傍にプラズマを閉じ込めるための磁力線が形成される。
【0023】
ターゲットホルダ6はCu等の金属製であるので、DC又はRFの電力が印加された場合には電極となる。ターゲット4は、周知のとおり、基板へ成膜したい材料成分から構成される。膜の純度に関係するため、高純度のものが望ましい。
【0024】
ターゲットホルダ6の近傍には、円筒状の防着部材3がターゲットホルダ6を覆うように設置されており、スパッタ粒子が真空容器2の内面に直接付着するのを防止している。
またターゲットホルダ6と基板ホルダ7の間にはターゲットシャッター13が設けられても良い。ターゲットシャッター13はターゲットシャッター駆動機構14により制御され、ターゲット4と基板10が対向する開状態、またはターゲット4と基板10を互いに遮蔽する閉状態とを切り替え可能に構成される。
【0025】
ガス導入機構15は、真空容器2の壁面に設けられているガス導入口16a、16bを介して真空容器2内に放電用のガスを導入するための配管、ガスを貯蔵するボンベ、ガスの流量を制御するためのマスフローコントローラー、ガスの流れを遮断したり開始したりするためのバルブ類、減圧弁やフィルターなどから構成されている。さらに、ガス導入機構15は、制御装置により、指定されるガス流量を安定に流すことができる構成となっている。
また、放電用ガスに反応性ガスを混合した混合ガスがガス導入機構15から導入されても良い。反応性ガスを導入するための他の導入機構が設けられても良い。
【0026】
次に
図2を参照しながら本実施形態に用いられるチムニー3およびその周辺のスパッタリング装置の構成を説明する。
ターゲット4は、バッキングプレート(ターゲットホルダ)6上に固定部17により取り付けられる。さらにターゲット4の周囲を取り囲むチムニー3を有する。固定部17は、ターゲット4をバッキングプレート6に押し付けるように螺子等の締結部品によってバッキングプレート6に固定される。バッキングプレート6は熱伝導性の観点から導電性のシート等を有してもよい。ターゲット4は、放電によって発生するプラズマに晒されるので、その温度が上昇し膨張しうる。そこで、固定部17は、ターゲット4が膨張することを許容するようにターゲット4を固定することが望ましい。チムニー3は、固定部17を覆うようにターゲット4の周囲に配置される。これにより固定部17の温度の上昇を抑制できる。バッキングプレート6は、絶縁部材20を介してチャンバ壁に固定されうる。バッキングプレート6は、チャンバ壁とともに真空容器2を構成してもよい。チムニー3はターゲット4の法線方向に円筒状に延び、ターゲット4から飛散したスパッタ粒子が、基板上以外に被着することを低減している。
【0027】
ターゲット4の裏面には、ターゲット4の周囲に磁場を提供するマグネット19を備え、マグネトロンスパッタリング装置として構成される。マグネット19は、マグネット19とターゲット4とによってバッキングプレート6が挟まれるように配置されうる。ターゲット4は、その全体がターゲット材で構成されてもよいが、例えば、バッキングプレート6と接触するプレート部材(例えば、無酸素銅で構成されたプレート部材)の上にターゲット材を半田等で接合した構成を有してもよい。
【0028】
図4は従来の防着部材100の一片を拡大した様子を示している。101は防着部材の基材であり、基材101の表面にブラスト処理が施されている。102は基材上に溶射された溶射膜である。
【0029】
溶射膜102としてアルミニウムもしくは酸化アルミニウムを用いたチムニー3を
図1の処理装置に設置し、スパッタ法により各種膜を形成した。形成した膜は表1に示す膜であり、各々の膜を12インチのSi基板上に堆積した。各種薄膜を成膜する際に使用するターゲットとしては、成膜対象の材質からなるターゲットを用いた。スパッタガスとして不活性ガスを用いて成膜を行った。
【表1】
【0030】
一例として、CoFeBの成膜条件を示す。基板温度は室温とし、ターゲットパワーは1000W、スパッタガス圧は0.1Pa、Arガス流量は200sccmに設定し、成膜を行った。
【0031】
次に、上述形成方法で作製した各種膜中のNaおよびAlの含有量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)法で定量分析した。
【0032】
ICP−MS測定は、誘導結合プラズマ(ICP)をイオン源として使用する元素分析装置において行われる。測定対象となる試料溶液を該イオン源に導入し、該イオン源にて発生したプラズマ中のイオンを質量分析部(MS)で検出することで、試料溶液中に含まれる元素の分析が行われる。本測定は、周期律表上のほとんど全ての元素を同時に測定することが可能である。
【0033】
本実験では、初めに12インチのSi基板外周10mmをテフロン(登録商標)製冶具で挟み込んでマスキングし、表面側の薄膜を酸でエッチングした。得られた液につき主成分を分離除去後、蒸発皿に採取し、加熱・蒸発乾固後、残渣を酸溶解したものを測定用の試料溶液とした。
【0034】
得られた試料溶液をICP−MS法により測定した。尚、測定で得られた元素質量(ng)を各元素の原子量で除してモル数に換算後、アボガドロ数を乗じて原子数に変換し、エッチングした基板面積(615cm
2)で除した後にさらに膜厚で除することにより、単位体積当たりの原子数(×10
10atms・cm
3)に換算した。Naの検出限界は単位面積あたりの原子数で、8.5×10
8atoms/cm
2であり、Alの検出限界は単位面積あたりの原子数で、7.3×10
8atoms/cm
2である。
【0035】
表1に上記ICP−MS法の測定結果を用いて得られた各膜中の不純物量を示す。ブラスト処理および溶射処理を施したチムニー3を用いた場合、膜種により異なるが、膜中にNaやAlが検出される。即ち、スパッタによって溶射膜102上には常に膜が飛来し付着しているにも関わらず、不純物は基板上に成膜された膜中に混入していることが分かる。
【0036】
上述した課題を解決すべく成された本発明に係る防着部材40の説明を以下にて行う。
図3は本実施形態で用いられる防着部材40の一片を拡大した様子を示す。401は防着部材の基材であり、402は基材上に溶射された溶射膜である。基材401は表面にブラスト処理が施され粗面化されている。基材401の表面を粗面化することで、溶射膜402との密着性を向上させている。
溶射膜402の表面も、防着部材40に被着した膜の膜剥がれを低減すべく所定の面粗さを有する。
【0037】
本実施形態では、この溶射膜402の上に拡散防止膜403が形成されている。拡散防止膜403は、ブラスト処理が施された基材401の表面に存在する、または溶射膜402に含まれるNaやAlといった不純物が、基板処理空間に拡散するのを防ぐ役割を有する。本実施形態では溶射膜402の材質としてAlを、拡散防止膜403としては窒化チタン(TiN)を用いている。
【0038】
本発明を適用したチムニー3を用いた場合と、従来のチムニーを用いた場合とについて比較実験を行った。まず、従来のチムニーとして、ブラスト処理を施した基材上に溶射処理を施したチムニー、または溶射処理に加えSiNコートを施したチムニーを
図1の処理装置に用いて、スパッタ法により基板上にSiN膜を成膜した。次に、ブラスト処理を施した基材上に溶射処理を施し、該溶射膜上に拡散防止膜としてのTiNコートを施したチムニーを
図1の処理装置に用いて、スパッタ法により基板上にSiN膜を成膜した。
【0039】
SiN膜の成膜条件は、基板温度を室温とし、シリコンターゲットを用いた。ターゲットパワーは1000W、スパッタガス圧は0.1Pa、Arガス流量は20sccm、窒素ガス流量は20sccmとした。基板は、パーティクル仕様が、0.12μm以上50個以下である12インチのSi基板を用いた。
【0040】
上述した成膜方法で作製した膜厚38nmのSiN膜中に含まれるNaおよびAlの含有量をICP−MS法により定量分析した。
【0041】
ブラスト処理および溶射処理を施し、且つ拡散防止膜が形成されていない従来のチムニーを用いた場合、SiN膜中に含まれるNaは1.3×10
10atoms/cm
2検出され、Alは2.5×10
9atoms/cm
2検出された。また、ブラスト処理および溶射処理を施した上に、3μmのSiN膜を表面にコーティングしたチムニーにおいても、SiN膜中に含まれるNaは8.9×10
10atoms/cm
2検出され、Alは2.2×10
11atoms/cm
2検出された。チムニー以外の、処理装置内に設けられた他の防着部材40には表面がブラスト処理され、溶射膜は形成されていないものを用いた。
【0042】
一方で、ブラスト処理および溶射処理を施した上に3μmのTiN膜を表面にコーティングしたチムニーを用いた場合、SiN膜中に含まれるNaは8.9×10
9atoms/cm
2であり、Alは7.3×10
8atoms/cm
2であった。上述した従来のチムニーを用いた場合に比べて、NaおよびAlの含有量が低減していることが分かる。
【0043】
ここで、通常Al溶射に用いるAL997Powderは、Al純度が99.813wt%であり、微量のSiやFe等を微量に含んでいるが、Naは検出されていない。しかしながら、Al溶射処理を施した防着部材の表面では、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)により、Naが3.8×10
13atoms/cm
2検出される。このとき、ICP−MS測定でのNaの検出限界は3.7×10
10atoms/cm
2である。
なお、溶射処理を施した防着部材表面の分析は以下の通り行った。まずAlのテストピース(5cm角)を用意し、その上に防着部材表面に施した溶射処理と同様の方法で溶射膜を形成した。次に得られた溶射膜の中心部(開口径30mm)をテフロン(登録商標)製冶具で挟み込んでマスキングし、際表面を酸で接液した。接液により、得られた液を全量蒸発皿に採取し、加熱・蒸発乾固後、残渣を酸溶解したものを測定供試液として、ICP−MS法により溶射膜中の不純物量を測定した。
【0044】
この溶射膜表面の、即ちSiN膜に不純物として混入するNaおよびAlは、溶射加工工程やその後の洗浄工程において、作業環境中に含まれるNaが溶射膜中に付着、拡散した、あるいは溶射膜に含まれるAlが溶射膜表面に析出したものと考えられる。
【0045】
また、通常防着部材のブラスト処理に用いられる研削材としてはガラズビーズやアルミナ研削材が挙げられる。これらの研削材には上述したNaやAlといった不純物が多量に含まれ、これらの研削材を防着部材表面に高エネルギーで打ち込み粗面化するため、一部の研削材中に含まれる不純物がその後の洗浄工程により除去しきれていないものと考えられる。
このようなブラスト処理が施された防着部材表面のNaやAlは、該防着部材の上に溶射膜が形成されている場合においても、不純物が溶射膜中に付着、拡散することにより基板上に成膜された膜中に混入するものと考えられる。
【0046】
不純物が、スパッタにより形成された膜中に混入する原因については以下の様に考えられる。例えば、成膜処理空間におけるNaおよびAlの蒸気圧が0.1Paのとき、Naの蒸発温度は600Kであり、Alの蒸発温度は1300Kである。従って本実験で用いた成膜条件下においてNaやAlはほとんど蒸発しない。即ち、ブラスト処理および溶射処理が施された防着部材を真空中に配置しただけでは、防着部材表面(溶射膜表面)からのNaやAlの蒸発はほとんど生じない。
【0047】
しかしながら、防着部材をプラズマに曝した場合、防着部材内壁がマイナスに帯電する。この防着部材内壁のマイナスの帯電により、溶射膜に含まれていたNaやAlのイオンが溶射膜中に拡散し、やがて防着部材表面に析出する。そして不純物のイオンが析出した防着部材表面にArイオンの衝突が生じ、表面に析出した不純物がたたきだされる。こうして処理室内に飛散したNaやAlなどの不純物が基板上の堆積膜中に取り込まれるものと考えられる。
【0048】
SiN膜をコーティングしたチムニーにおいても、SiN表面がマイナスに帯電すると、NaやAlはSiN膜中を拡散し、表面に析出するため、堆積膜したSiN膜中に不純物が取り込まれるものと考えられる。
【0049】
TiN膜が溶射膜中に含まれるNaやAlの拡散防止効果を奏する点について検討すると、TiN膜は一般にNaCl型の結晶構造を示す高融点材料である。二種の物質が密に結合し熱的に安定であるため、TiN膜の下層にある溶射膜中に含まれた不純物の防着部材表面への拡散を抑制する効果があるものと考えられる。防着部材にTiN膜をコーティングした場合、プラズマによる影響で溶射膜表面には、溶射膜中の不純物が拡散してくるが、TiN膜中への拡散が他の膜に比べて少ない。このため防着部材表面には不純物の析出が少なく、その結果、処理室内への飛散が低減され、堆積膜中への混入が減少したものと考えられる。
【0050】
上述した結果から、ブラスト処理および溶射処理を施した防着部材40の表面上に拡散防止膜を形成することにより、他の薄膜のスパッタによる形成においても、該薄膜中への不純物の混入を抑制できるものと考えられる。
【0051】
ターゲット近傍に設置してあるチムニーにおいては、プラズマに直接暴露されておりマイナスへの帯電も大きい。またArイオンの衝突回数も他の防着部材に比べて多い。このため、特にチムニー表面に拡散防止膜をコーティングすることで大きな効果が得られるものと考えられる。すなわち、防着部材のうち、ターゲットに面しており、プラズマに直接晒される部分に拡散防止膜を形成することで大きな効果が得られると考えられる。
【0052】
次に、上述した拡散防止膜403を形成した防着部材の製造方法について説明する。まずAl等の防着部材の基材401を用意する。次に基材表面にブラスト処理を施し、その上に溶射膜402を形成する。溶射膜402の材質としては種々の材質が適用可能であり、AlやAl2O3、Y2O3、Tiなどが用いられる。溶射膜402を形成した後に、該溶射膜402上に拡散防止膜403を形成する。拡散防止膜はスパッタリング法やCVD法、蒸着など種々の成膜方法を用いて形成される。拡散防止膜として上述した窒化チタン以外に、酸化タンタルを用いた場合にも成膜された膜中の不純物を低減する効果が確認できた。したがって、当該効果を奏するためには、拡散防止膜403は窒化チタンおよび酸化タンタルの少なくとも一方を含めばよい。基材401の表面には必ずしもブラスト処理を行う必要はなく、ブラスト処理を行わずに溶射処理を行い、溶射膜402を形成してもよい。逆に、基材401の表面に施されたブラスト処理により基材401と拡散防止膜403との十分な密着性が得られる場合は、溶射膜402を形成せずに、基材401の表面に直接拡散防止膜403を形成してもよい。
【0053】
このようにして製造された防着部材をスパッタリング装置1の内部に配置した状態で、金属ターゲットや磁性体ターゲット等のスパッタを行うことで、基板上に成膜される膜中の不純物を低減し、素子特性の劣化を低減することが可能となる。
【0054】
(実施例1)
図1の成膜装置に本発明に係る防着部材を用いて磁気抵抗効果膜を成膜する例を以下に示す。
図5は本実施形態に係るTMR素子の積層構造の一例を示している。このTMR素子500は、基板501の上に積層された例えば8層の多層膜を備えている。この8層の多層膜では、最下層の第1層から最上層の第8層に向かって、Ta層502、PtMn層503、CoFe層504、Ru層505、CoFeB層506、MgO層507、CoFeB層508、Ta層509の順序で磁性膜等が積層されている。
これらの膜は全て、本発明に係る防着部材40およびチムニー3を
図1に示す成膜装置に設けた状態で成膜が行われる。
【0055】
第1層としてのTa層502は下地層であり、第2層としてのPtMn層503は反強磁性層である。第3層としてのCoFe層504、第4層としてのRu層505、および第5層としてのCoFeB層506の積層体は磁化固定層である。実質的な磁化固定層は第5層であるCoFeB層506である。PtMn層503からCoFeB層506までを含む積層構造をリファレンス層ともいう。第6層としてのMgO(酸化マグネシウム)層507は絶縁層であってトンネルバリア層である。第7層としてのCoFeB層508は強磁性層であり、磁化自由層(フリー層)である。第6層であるMgO層507は、その上下に位置する一対の強磁性層(CoFeB)の間の中間層である。第8層としてのTa層509はハードマスク層である。上記の磁化固定層である第5層のCoFeB層506とトンネルバリア層である第6層のMgO層507と磁化自由層である第7層のCoFeB層508とによって、基本的構造であるTMR素子部が形成される。磁化固定層である第5層のCoFeB層506と磁化自由層である第7層のCoFeB508とはアモルファス状態の強磁性体として知られている。トンネルバリア層であるMgO層507は厚さ方向に渡って単結晶構造を有するように形成されている。
【0056】
なお、
図5において、各層において括弧の中に記載された数値は各層の厚みを示し、単位は「nm(ナノメートル)」である。当該厚みは一例であって、これに限定されるものではない。
【0057】
本実施例ではTMR素子の主要部であるTMR素子部の成膜条件の一例を述べる。
磁化固定層(第5層のCoFeB層506)は、CoFeB組成比60/20/20at%のターゲットを用い、マグネトロンDCスパッタにより成膜する。続いて、トンネルバリア層(第6層のMgO層507)は、MgOのターゲットを用いたRFスパッタにより成膜を行う。さらに続けて、磁化自由層(第7層のCoFeB層508)を磁化固定層(第5層のCoFeB層506)と同じ成膜条件で成膜する。
【0058】
本発明を用いることで、TMR素子500に含有される不純物を低減可能となり、不純物に起因する素子特性の劣化や動作不良等を抑制できる。
【0059】
(実施例2)
図6は垂直磁化型TMR素子(以下、P−TMR素子ともいう)700の積層構造の模式図を示している。P−TMR素子は、まず、基板701の上に、下地層としてRuCoFe層702、Ta層703を成膜する。その上に、磁化自由層(フリー層)としてCoFeB層704を成膜し、バリア層としてのMgO層705を形成する。バリア層は高いMR比を得るためにMgOが好適である。その他、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ゲルマニウム(Ge)の少なくとも1つまたは2つ以上を含有する酸化物でも良い。その上に第1の磁化固定層としてCoFe層706、第2の磁化固定層としてCoFeB層707、配向分離層としてTa層708、第3の磁化固定層709を成膜した。第3の磁化固定層はCoとPdの積層構造からなり、本実施例ではCo/Pdが交互に各々4層積層された後、Coが成膜されている。
次に非磁性中間層としてRu層710、第4の磁化固定層711、キャップ層としてTa層712を成膜した。第4の磁化固定層711はCo/Pdの積層構造からなり、CoとPdが交互に各々14層積層されている。CoFe層706からTa層712までを含む積層構造をリファレンス層ともいう。
これらの膜は全て、本発明に係る防着部材40およびチムニー3を
図1に示す成膜装置に設けた状態で成膜を行う。これによりP−TMR素子700に含まれる不純物を低減することが可能となる。
【0060】
(実施例3)
図7は、機能素子の他の例としての相変化素子、および相変化素子を用いた相変化メモリの要部構造を例示的に示す図である。相変化メモリを用いたRAMは、例えば、複数のワード線と複数のビット線との交点位置に相変化メモリセルを配置して構成される。ドレイン801a、ソース801bを有した選択トランジスタ803が基板800の表面に形成される。ここで、選択トランジスタ803は、相変化メモリ素子を構成するカルコゲナイド材料層807(相変化記録材料層)を、所望の温度に加熱することが可能な制御手段として機能する。ここでは、MOSFETを用いているが、バイポーラトランジスタでもよい。
【0061】
次に、下部絶縁層804が選択トランジスタ803とドレイン801a、ソース801bが形成された基板800の上に形成される。次に、下部絶縁層804を貫通して第1の孔811を設け、この第1の孔811内にタングステンのような高い電気伝導性を持った材料をプラグ805として埋め込む。プラグ805は、下部絶縁層804を貫通し、選択トランジスタ803とカルコゲナイド材料層807を電気的に接続している。
【0062】
カルコゲナイド材料層807を形成するカルコゲナイド材料としては、例えば、S、Se、TeのいずれかまたはこれらとSb、Geのうちの1種以上を主成分として含む材料が挙げられ、これらのうちGe、Sb、Teを主成分として含む材料が好適に用いられる。特にGe
2Sb
2Te
5を好適に用いることができる。
【0063】
次に、プラグ805及び下部絶縁層804の上に、ペロブスカイト型構造を有する材料により形成されるペロブスカイト層806(以下、「酸化物層806」ともいう。)、カルコゲナイド材料層807、上部電極層808、シリコン酸化膜などからなるハードマスク809をこの順で形成する。
【0064】
ここで、酸化物層806は、例えば、酸化物ターゲットまたは酸化物ターゲットと金属ターゲットの組み合わせからスパッタリング法によって形成することが可能である。上記以外の酸化物層806の形成方法としては、例えば、物理気相成長法、化学気相成長法、原子層堆積法、金属化合物を堆積後、酸化処理によって形成する方法、酸素雰囲気中における金属化合物の反応性スパッタリング法によって形成する方法、等がある。後述の真空処理装置、真空処理装置を用いた相変化メモリ素子の製造方法では、これらの方法のうち、いずれか1つの方法を用いることにより酸化物層806を形成することが可能である。
【0065】
酸化物層806の厚さとしては、例えば、10nm程度であり、上記の酸化物層806の形成方法によって、十分に製造可能である。従来技術の極薄絶縁層に要求されていた3nm以下の薄膜を均一に形成する技術に比較すると、その製造技術の困難さは格段に軽減される。
【0066】
カルコゲナイド材料層807は、ペロブスカイト層806(酸化物層806)の上に形成され、ペロブスカイト層806(酸化物層106)を介して加熱または冷却されることにより結晶状態またはアモルファス状態に相変化する相変化記録材料層として機能する。
【0067】
以上の実施例では機能素子の例としてTMR素子および相変化素子を説明したが、本発明はこれらの機能素子に限らず、抵抗変化メモリ(RRAM(登録商標))に用いられる抵抗変化素子や、強誘電体メモリ(FeRAM)に用いられる強誘電体素子などの製造方法にも適用可能である。