(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記表面層が、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ−アクリルハイブリット化合物、シリカ−エポキシハイブリット化合物、金属、及び金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含む、請求項1または請求項2に記載の積層体。
前記結晶性高分子圧電体のマイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと、前記結晶性高分子圧電体のDSC法で得られる結晶化度と、の積が40〜700である、請求項1または請求項2に記載の積層体。
前記結晶性高分子圧電体が、カルボニル基及びオキシ基の少なくとも一方の官能基を有する繰り返し単位構造を有する高分子を含む、請求項1または請求項2に記載の積層体。
前記結晶性高分子圧電体は、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、且つDSC法で得られる結晶化度が20%〜80%である、請求項1に記載の積層体。
前記結晶性高分子圧電体は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の安定化剤を含み、前記ヘリカルキラル高分子100重量部に対して前記安定化剤が0.01重量部〜10重量部含まれる、請求項11または請求項12に記載の積層体。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪第1の態様≫
本発明の第1の態様に係る積層体は、分子配向を有する結晶性高分子圧電体と、表面層と、を有する。前記表面層は、引張弾性率Ec(GPa)及び厚さd(μm)の関係が下記式(A)を満たす。
0.6≦Ec/d・・・式(A)
【0015】
結晶性高分子圧電体(以下単に「圧電体」とも称す)には、電極などの他の部材と接着する目的で接着用の表面層を設けたり、保護を目的として保護用の表面層を設けることがある。しかし、こうした表面層が形成されることで、圧電体と表面層との積層体における圧電定数は低下する傾向にある。
これに対し、第1の態様では、表面層における厚さdと引張弾性率Ecとの関係を上記式(A)を満たす範囲に調整することで、圧電体の感度の低下を抑制することができる。
【0016】
〔表面層〕
第1の態様における表面層とは、圧電体の表面側に存在する層を指す。従って、該表面層上に他の部材が設けられていてもよく、必ずしも表面層は最終成形品の最表面となる層を指すものではない。尚、圧電体と表面層とを有する積層体の該表面層上に設けられる前記他の部材としては、例えば電極が挙げられる。上記電極は、表面層を全て覆う電極層であってもよいし、表面層の一部を覆うように形成された、電極パターンであってもよい。
また、第1の態様における表面層は、1層のみからなっていても、複数の機能層が積層されてなる多層膜であってもよい。さらに、第1の態様における表面層は圧電体の片面だけでなく両面にあってもよく、それぞれの機能や材料が異なっていてもよい。
【0017】
・式(A)
第1の態様における表面層は前記式(A)を満たす。引張弾性率Ec及び厚さdとの比(Ec/d)が上記式を満たすことにより、積層体における圧電体の感度の低下が抑制できる。
尚、上記の比(Ec/d)は1.0以上であることがより好ましく、更に好ましくは1.4以上であり、更に好ましくは3以上である。
上記の比(Ec/d)の上限には特に制限はないが、上記の比(Ec/d)は、36以下であることが好ましい。上記の比(Ec/d)は、更に好ましくは30以下であり、更に好ましくは25以下であり、更に好ましくは17.72以下である。
上記の比(Ec/d)として、特に好ましくは、1.4以上17.72以下である。
【0018】
・表面層の引張弾性率Ec
尚、表面層の引張弾性率Ecは、特に限定されるものではないが、0.1GPa〜1000GPaの範囲が好ましい。
引張弾性率Ecが上記下限値以上であることにより、積層体の引張弾性率低下を抑制できる。一方引張弾性率Ecが上記上限値以下であることにより、積層体を一般的な人間の力で変形させることができ、センサーとして利用できる。
【0019】
上記引張弾性率Ecの上限値は、より好ましくは300GPa以下であり、更に好ましくは100GPa以下である。また、下限値はより好ましくは1GPa以上であり、更に好ましくは2GPa以上である。
【0020】
尚、第1の態様における表面層は非常に薄い層である場合があることから、表面層のみの引張弾性率を直接測定することが困難な場合が考えられる。そのため、本明細書において表面層の引張弾性率Ecの算出は、以下の式により行う。
表面層の引張弾性率Ec=[積層体の引張弾性率−{圧電体のみの引張弾性率×(圧電体の厚さ/積層体の厚さ)}]/(表面層の厚さ/積層体の厚さ)
【0021】
但し、表面層が複数の機能層からなる多層膜の場合には、上記引張弾性率Ecは多層膜全体における平均引張弾性率を表す。また表面層が圧電体の両面にある場合には、上記引張弾性率Ecは両面の表面層全体における平均引張弾性率を表す。
【0022】
上記式における「積層体の引張弾性率」は、以下の方法により測定する。
積層体を、結晶性高分子圧電体の延伸方向(例えばMD方向)に対して45°なす方向に120mm、45°なす方向に直交する方向に10mmにカットして、矩形のサンプルを作製する。
得られたサンプルを、チャック間距離70mmとした引張試験機(AND社製、TENSILON RTG−1250)に、弛まないようにセットする。クロスヘッド速度5mm/minで、印加力が4Nと9Nとの間を往復するように周期的に力を加え、得られた応力−歪の関係から引張弾性率Eを計算する。
σ=F/A
E=Δσ/Δε
[σ:応力(Pa)、F:印加力(N)、A:積層体の断面積(m
2)、Δσ:応力の変化量(Pa)、Δε:歪の変化量]
【0023】
また、「圧電体のみの引張弾性率」は、積層体から表面層を除去するかまたは積層体における圧電体と同じ圧電体を形成してサンプルを準備した後、積層体の引張弾性率と同様に測定する。
【0024】
尚、表面層における引張弾性率Ecの制御は、例えば表面層を構成する材料を選択することによって行われる。例えば、表面層を構成する材料が硬化性化合物の硬化物を含む場合、硬化性化合物の重合性官能基の当量を小さくすることで(つまり、前記硬化性化合物の単位分子量当たりに含まれる重合性官能基の数を増やすことで)架橋密度を高め、引張弾性率Ecを大きくすることができる。
【0025】
・厚さd
表面層の厚さ(平均厚さ)dは、特に限定されるものではないが、0.01μm〜10μmの範囲が好ましい。
厚さdが上記下限値以上であることにより、例えば表面層が後述するハードコート層などの機能を発現する。
一方、厚さdが上記上限値以下であることにより、積層体における表面層上に更に電極を設けた際に電極により大きな電荷が発生する。
【0026】
上記厚さdの上限値は、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは3μm以下である。また、下限値はより好ましくは0.2μm以上であり、更に好ましくは0.3μm以上である。
【0027】
但し、表面層が複数の機能層からなる多層膜の場合には、上記厚さdは多層膜全体における厚さを表す。また、表面層は圧電体の両面にあってもよく、その場合上記厚さdは両面の厚さを足したものである。
【0028】
表面層の厚さdは、ニコン社製デジタル測長機DIGIMICRO STAND MS−11Cを用いて以下の式により決定される。
式 d=dt−dp
dt:積層体10箇所の平均厚さ
dp:表面層形成前または表面層を除去した後の圧電体10箇所の平均厚さ
【0029】
・表面層の種類(用途)
圧電体の表面に形成される表面層としては、様々な機能層が挙げられる。機能層として、例えば、易接着層、ハードコート層、屈折率調整層、アンチリフレクション層、アンチグレア層、易滑層、アンチブロック層、保護層、接着層、粘着層、帯電防止層、放熱層、紫外線吸収層、アンチニュートンリング層、光散乱層、偏光層、ガスバリア層、色相調整層などが挙げられる。
圧電体と表面層とが積層された積層体の該表面層上には、他の部材が形成されてもよく、前記他の部材として例えば電極が挙げられる。電極が設けられる態様における前記表面層としては、特に易接着層、ハードコート層、屈折率調整層等の機能層が一般的に設けられる。
また表面層を形成することにより、圧電体表面のダイラインや打痕などの欠陥が埋められ、外観が向上するという効果もある。この場合は圧電体と表面層の屈折率差が小さいほど圧電体と表面層界面の反射が低減し、より外観が向上する。
【0030】
・材質
前記表面層の材質としては、特に限定されるものではないが、例えばアクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ−アクリルハイブリット化合物、シリカ−エポキシハイブリット化合物、金属、及び金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料を含むことが好ましい。
これらの中でも、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、シラン系化合物、金属酸化物がより好ましい。
【0031】
・形成方法(ウェットコート法)
表面層を形成する方法としては、従来一般的に用いられていた公知の方法が適宜使用できるが、例えばまずウェットコート法が挙げられる。例えば、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、ビニル系化合物、アリル系化合物、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物、エポキシド系化合物、グリシジル系化合物、オキセタン系化合物、メラミン系化合物、セルロース系化合物、エステル系化合物、シラン系化合物、シリコーン系化合物、シロキサン系化合物、シリカ−アクリルハイブリット化合物、シリカ−エポキシハイブリット化合物などの材料が分散または溶解されたコート液を塗布することで、表面層が形成される。
【0032】
さらに必要に応じて、上記の通り塗布された前記材料(硬化性化合物)に対して熱や活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により表面層を硬化させる。尚、表面層が上記のように硬化性化合物の硬化物を含む場合、硬化性化合物の重合性官能基の当量を小さくすることで(つまり、前記硬化性化合物の単位分子量当たりに含まれる重合性官能基の数を増やすことで)架橋密度が高められ、引張弾性率Ecを大きくすることができる。
【0033】
尚、表面層に含まれる材料としては、上記硬化物の中でも、活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により硬化された活性エネルギー線硬化樹脂が好ましい。活性エネルギー線硬化樹脂を含むことで、製造効率が向上し、また表面層形成によって生じる圧電体の性能低下をより抑制することができる。
【0034】
また、表面層に含まれる材料としては、上記硬化物の中でも、三次元架橋構造を有する硬化物が好ましい。三次元架橋構造を有する硬化物を含むことで、架橋密度が高められ引張弾性率Ecを大きくすることができる。
【0035】
三次元架橋構造を有する硬化物を作製する手段としては、硬化性化合物として重合性官能基を3つ以上有するモノマー(3官能以上のモノマー)を用いる方法、重合性官能基を3つ以上有する架橋剤(3官能以上の架橋剤)を用いる方法等が挙げられ、また架橋剤として有機過酸化物などの架橋剤を用いる方法も挙げられる。尚、これらの手段を複数組み合わせて用いてもよい。
【0036】
3官能以上のモノマーとしては、例えば、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物や、1分子中に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物等が挙げられる。
【0037】
本明細書中において、「(メタ)アクリル基」とは、アクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を表す。
また、「1分子中に3つ以上の(メタ)アクリル基を有する」とは、1分子中にアクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を有し、かつ、1分子中におけるアクリル基及びメタクリル基の総数が3つ以上であることを指す。
【0038】
ここで、表面層に含まれる材料が三次元架橋構造を有する硬化物であるか否かを確認する方法としては、ゲル分率を測定する方法が挙げられる。
具体的には、表面層を溶剤に24時間浸漬した後の不溶分からゲル分率を導くことができる。特に溶剤が水などの親水性の溶媒でも、トルエンのような新油性の溶媒でも、ゲル分率が一定以上のものが三次元架橋構造を有すると推定することができる。
【0039】
ウェットコート法による表面層の用途としては、前記に列挙した何れの層にも適用が可能である。ウェットコート法の場合、コート液を圧電体の延伸前原反に塗工した後に圧電体を延伸しても、圧電体原反を延伸後にコート液を塗布してもよい。
ウェットコート法による表面層の(1層の)厚さとしては、数十nm〜10μmの範囲が好ましい。
また表面層にはその目的に応じて屈折率調整剤や紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの各種有機物、無機物を添加することもできる。
【0040】
・形成方法(ドライコート法)
また、表面層を形成する方法としてドライコート法も挙げられる。例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等が挙げられ、金属膜、金属酸化物膜などを形成する際に好適に用いられる。ドライコート法による表面層の用途としては、易接着層、屈折率調整層、アンチリフレクション層などが挙げられる。ドライコート法による表面層の(1層の)厚さとしては、数十nm〜数百nmの範囲が好ましい。
【0041】
・表面処理
圧電体表面と表面層の密着性や、圧電体表面への表面層塗工性を向上させる観点から、コロナ処理やイトロ処理、オゾン処理、プラズマ処理などによって圧電体表面を処理することもできる。
【0042】
・比誘電率
また、表面層の比誘電率は1.5以上であることが好ましく、更には2.0以上20000以下がより好ましく、2.5以上10000以下が更に好ましい。
比誘電率が上記範囲であることにより、積層体における表面層上に更に電極を設けた際に電極により大きな電荷が発生する。
【0043】
尚、表面層の比誘電率は、以下の方法により測定される。
圧電体の片面に表面層を形成した後、昭和真空SIP−600を用いて積層体の両面に約50nmのAlを蒸着する。この積層体より50mm×50mmのフィルムを切り出す。この試験片をHEWLETT PACKARD社製LCR METER 4284Aに接続して静電容量Cを測定し、以下の式で表面層の比誘電率εcを計算する。
εc=(C×d×2.7)/(ε
0×2.7×S−C×dp)
d:表面層厚さ、ε
0:真空誘電率、S:試験片面積、dp:圧電体厚さ
【0044】
・表面層の内部ヘイズ
また、表面層の内部ヘイズは、10%以下であることが好ましく、更には0.0%以上5%以下がより好ましく、0.01%以上2%以下が更に好ましい。
内部ヘイズが上記範囲であることにより、優れた透明性が発揮され、例えばタッチパネル等として有効に利用し得る。
【0045】
尚、表面層の内部ヘイズHcは、以下の式により計算される。
Hc=H−Hp
H:積層体の内部ヘイズ
Hp:表面層形成前または表面層を除去した後の圧電体の内部ヘイズ
ここで、圧電体の内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの結晶性高分子圧電体に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において詳述する。
また、積層体の内部ヘイズも、上記圧電体の内部ヘイズの測定方法に準じて測定される。
【0046】
以上で説明した第1の態様における表面層は、後述する第2の態様における表面層に該当することがあってもよい。
例えば、第1の態様における表面層は、カルボニル基(−C(=O)−)を含み且つ重合体を含むことがあってもよい。
また、上記重合体は、三次元架橋構造を有することがあってもよい。
また、上記重合体は、(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体であってもよい。
また、上記重合体は、活性エネルギー線照射により硬化された活性エネルギー線硬化樹脂(例えば、紫外線照射により硬化された紫外線硬化樹脂)であってもよい。
第2の態様における表面層の詳細については後述する。
【0047】
〔結晶性高分子圧電体〕
第1の態様における結晶性高分子圧電体(圧電体)としては、従来公知の結晶性高分子圧電体が特に制限なく使用できる。
以下においては、特に第1の態様において好適に使用される、光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含む結晶性高分子圧電体を例にして説明する。
【0048】
〔光学活性を有するヘリカルキラル高分子〕
光学活性を有するヘリカルキラル高分子とは、分子構造が螺旋構造である分子光学活性を有する高分子をいう。
以下、上記の「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」を、「光学活性高分子」ともいう。
光学活性高分子としては、例えば、ポリペプチド、セルロース、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。前記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。前記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0049】
光学活性高分子は、結晶性高分子圧電体の圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、99.00%ee以上であることがより好ましく、99.99%ee以上であることがさらに好ましい。望ましくは100.00%eeである。光学活性高分子の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0050】
第1の態様において、光学活性高分子の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、『「光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値を、光学純度とする。
【0051】
なお、光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0052】
以上の光学活性高分子の中でも、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0054】
前記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)またはD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
【0055】
前記ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸」、「L−乳酸またはD−乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。前記「ポリ乳酸」は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子であり、ラクチドを経由するラクチド法、溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法などによって製造できることが知られている。前記「ポリ乳酸」としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0056】
前記「共重合可能な多官能性化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸、グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸、及びこれらの無水物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール、セルロース等の多糖類、及び、α−アミノ酸等のアミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0057】
前記「L−乳酸またはD−乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーが挙げられる。
【0058】
また、光学活性高分子中のコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。例えば、光学活性高分子がポリ乳酸系高分子の場合、ポリ乳酸系高分子中の乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、前記コポリマー成分が20mol%以下であることが好ましい。
【0059】
前記光学活性高分子(例えばポリ乳酸系高分子)は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法や、米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法などにより製造することができる。
さらに、前記の各製造方法により得られた光学活性高分子(例えばポリ乳酸系高分子)は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0060】
〔光学活性高分子の重量平均分子量〕
第1の態様における光学活性高分子は、重量平均分子量(Mw)が、5万〜100万であることが好ましい。光学活性高分子の重量平均分子量の下限が、5万以上であると光学活性高分子を成形体としたときの機械的強度が十分に得られる。光学活性高分子の重量平均分子量の下限は、10万以上であることが好ましく、15万以上であることがさらに好ましい。一方、光学活性高分子の重量平均分子量の上限が100万以下であると、光学活性高分子を成形すること(例えば、押出成形などによりフィルム形状などに成形すること)が容易に行える。重量平均分子量の上限は、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
また、前記光学活性高分子の分子量分布(Mw/Mn)は、結晶性高分子圧電体の強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。なお、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量Mw及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定される。
【0061】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
ポリ乳酸系高分子を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mLを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1mL/分の流速でカラムに導入する。
【0062】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、作成したユニバーサル検量線に基づき、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0063】
ポリ乳酸系高分子は、市販のポリ乳酸を用いてもよい。市販のポリ乳酸としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks社製Ingeo4032D、4043D等が挙げられる。
【0064】
光学活性高分子としてポリ乳酸系高分子を用いるとき、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、または直接重合法により光学活性高分子を製造することが好ましい。
【0065】
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、既述の光学活性高分子を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
第1の態様における結晶性高分子圧電体において、光学活性高分子の含有量(2種以上である場合には総含有量。以下同じ。)には特に制限はないが、結晶性高分子圧電体全質量中に対して、80質量%以上であることが好ましい。
上記含有量が80質量%以上であることにより、圧電定数がより大きくなる傾向がある。
【0066】
〔その他の成分〕
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、既述の光学活性高分子以外のその他の成分(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や、シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の無機フィラー、フタロシアニン等の公知の結晶核剤等)を含有していてもよい。
また、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、加水分解などによる構造変化をより抑制する観点から、カルボジライト(登録商標)に代表されるカルボジイミド化合物などの安定化剤を含むのが好ましい。
【0067】
−無機フィラー−
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、無機フィラーを少なくとも1種含有していてもよい。
例えば、結晶性高分子圧電体を、気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために、結晶性高分子圧電体中に、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよいが、無機フィラーをナノ分散させるためには、凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり、また、無機フィラーがナノ分散しない場合、フィルムの透明度が低下する場合がある。従って、第1の態様における結晶性高分子圧電体が無機フィラーを含有するときは、結晶性高分子圧電体全質量に対する無機フィラーの含有量は、1質量%未満とすることが好ましい。
なお、結晶性高分子圧電体が光学活性高分子以外の成分を含む場合、光学活性高分子以外の成分の含有量は、結晶性高分子圧電体全質量中に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
−結晶促進剤(結晶核剤)−
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、結晶促進剤(結晶核剤)を少なくとも1種含有していてもよい。
結晶促進剤(結晶核剤)としては、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、光学活性高分子の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。面間隔が近い物質ほど核剤としての効果が高いからである。例えば、光学活性高分子としてポリ乳酸系高分子を用いた場合、有機系物質であるフェニルスルホン酸亜鉛、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。それらのうちでも、最も面間隔がポリ乳酸の面間隔に類似し、良好な結晶形成促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。なお、使用する結晶促進剤は、市販されているものを用いることができる。具体的には例えば、フェニルホスホン酸亜鉛;エコプロモート(日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0069】
結晶核剤の含有量は、光学活性高分子100重量部に対して通常0.01〜1.0重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、より良好な結晶促進効果とバイオマス度維持の観点から特に好ましくは0.02〜0.2重量部である。
結晶核剤の上記含有量が0.01重量部以上であると、結晶促進の効果がより効果的に得られる。結晶核剤の上記含有量が1.0重量部未満であると、結晶化速度をより制御しやすい。
【0070】
なお、結晶性高分子圧電体は、透明性の観点からは、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(光学活性高分子)以外の成分を含まないことが好ましい。
【0071】
−安定化剤−
第1の態様における結晶性高分子圧電体は安定化剤を含んでもよい。
第1の態様に使用される安定化剤は、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60000の化合物である。この安定化剤は、前記光学活性高分子の加水分解性を抑制し、得られる圧電体の耐湿熱性を改良するために用いられる。
前記光学活性高分子のような脂肪族ポリエステルの加水分解性を抑制するために、ポリエステルなどのポリマー中の未反応モノマーや不純物、鎖状・環状のオリゴマー等の低分子量化合物を低減する方法(例えば、特開平9−12688号公報)や、芳香族カルボジイミドを添加する方法(例えば、特表2001−525473号公報)、オキサゾリン化合物を添加する方法(例えば、特開2007−77193号公報)など多数の方法が知られている。
しかし、光学活性高分子を含む圧電体の信頼性を、その圧電特性や透明性を大きく損なうことなく、前記圧電体に含まれる光学活性高分子の加水分解性を抑制することで向上させる方法は知られていなかった。
【0072】
本発明者は検討の結果、光学活性高分子に特定の官能基を有する安定化剤を特定の量添加することで、圧電性や透明性を大きく低下させることなく、光学活性高分子の加水分解性を抑制し、圧電体の耐湿熱性、信頼性を向上させることができることを見出した。
【0073】
特に、水酸基及びカルボキシ基の両方と相互作用しうる特定官能基として、以下の構造を有するカルボジイミド基、イソシアネート基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が挙げられ、なかでも、効果の観点からカルボジイミド基が好ましい。
【0075】
本実施形態に使用される安定化剤の重量平均分子量は、200〜60000が好ましく、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。分子量が前記範囲内ならば、前述の作用にあるように、安定化剤の移動がしやすくなり、耐湿熱性改良効果を十分に得ることができると推測される。
上記安定化剤の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900と大凡一致する。特に、重量平均分子量200〜900の場合には、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
【0076】
(カルボジイミド化合物)
第1の態様において安定化剤として用いられる、カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する。カルボジイミド化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)としては、一般的に良く知られた方法で合成されたものを使用することができる。例えば、触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用い、各種イソシアネートを約70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応に付することより合成することができるものを挙げることができる。
上記カルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等を例示することができ、これらの中では、特に工業的に入手が容易であるという面から、ジシクロヘキシルカルボジイミド、またはビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好適である。
【0077】
また、上記カルボジイミド化合物に含まれるポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
【0078】
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(テトラメチルキシリレンカルボジイミド)、ポリ(N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)等があり、そのような機能を有する分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物であれば、特に限定されない。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0079】
(イソシアネート化合物)
第1の態様において安定化剤として用いられる、イソシアネート基を有する化合物(イソシアネート化合物)としては、ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、フェネチルイソシアネート、イソシアナト酢酸ブチル、ドデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、3,3'−ジクロロ−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、又は、3,3'−ジメチル−4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート系ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0080】
(エポキシ化合物)
第1の態様において安定化剤として用いられる、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)としては、N−グリシジルフタルイミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0081】
本実施形態に係る安定化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。安定化剤の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群よりばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(B2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(B1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(B1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
ここで、安定化剤(B1)としては、具体的には、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ヘキシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、N−グリシジルフタルイミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、安定化剤(B2)としては、具体的には、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(テトラメチルキシリレンカルボジイミド)、ポリ(N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ジフェニルメタンジイソシアネート系ポリイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート系ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート系ポリイソシアネート、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0082】
分子量が比較的小さい安定化剤(B1)と、多官能で比較的分子量の多い安定化剤(B2)を含むことで、耐湿熱性が特に向上する。両者の添加量のバランスを考慮すれば、単官能で分子量が比較的小さい安定化剤(B1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましく、安定化剤(B1)100重量部に対して、安定化剤(B2)が10重量部〜150重量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50重量部〜100重量部の範囲であることが、より好ましい。
【0083】
また安定化剤が、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する安定化剤(B3)を含む態様も寸法安定性も向上させるという観点からは好ましい態様である。安定化剤(B3)はカルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つしか有さないので、加水分解により生じた水酸基やカルボキシル基を有する光学活性高分子の部位が、安定化剤(B3)を間に挟んで架橋されにくくなる。このため、光学活性高分子の分子鎖が適度に柔軟に変位し、圧電体の内部応力が分散され、圧電体の寸法安定性が向上すると推測される。
カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する化合物の重量平均分子量としては、200〜2000が好ましく、200〜1500がより好ましく、300〜900がさらに好ましい。
カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に1つ有する化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ヘキシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、N−グリシジルフタルイミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテルが挙げられる。これらの中でも、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましく、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドがさらに好ましい。
また安定化剤(B3)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に2つ以上有する安定化剤(B4)(例えば前述の安定化剤(B2)が含まれる)を併用してもよい。安定化剤(B3)100重量部に対して、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる官能基を1分子内に2つ以上有する安定化剤(B4)が5重量部〜200重量部の範囲であることが、透明性、耐湿熱性及び寸法安定性バランスという観点から好ましく、10重量部〜100重量部の範囲であることが、より好ましい。
【0084】
〔安定化剤の重量平均分子量及び数平均分子量〕
上記安定化剤の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は、いずれも、光学活性高分子の項にて記載したゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いた測定方法により同様に測定される。なおGPC以外にもGC−MS,FAB−MS,ESI−MS,TOF−MSなどの測定方法でも測定することができる。
【0085】
安定化剤の添加量は、光学活性高分子100重量部に対して0.01重量部〜10重量部が好ましい。また、より高い信頼性(具体的には信頼性試験500時間での信頼性)を得るためには、添加量は0.7重量部以上がより好ましい。特に、安定化剤として脂肪族カルボジイミドを用いる場合は0.01重量部〜2.8重量部含まれるのが透明性という観点からはさらに好ましい。添加量が上記の範囲になることで、第1の態様の圧電体の内部ヘイズを著しく損なうことなく、圧電体の信頼性を高めることができる。
なお、上記添加量は、安定化剤を2種以上併用する場合、それらの総量を示す。
一方、内部ヘイズを低くし、かつ圧電定数を高めるか又は維持するという観点からは、安定化剤の添加量は、光学活性高分子100重量部に対して0.01重量部〜1.2重量部が好ましく、0.01重量部〜0.7重量部がさらに好ましく、0.01重量部〜0.6重量部がさらにより好ましい。
【0086】
〔構造〕
第1の態様における結晶性高分子圧電体中では、高分子(好ましくは光学活性高分子)が配向している。
この配向を表す指標として、「分子配向度MOR」がある。分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、分子の配向の度合いを示す値であり、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。すなわち、試料(フィルム)を、周知のマイクロ波分子配向度測定装置(マイクロ波透過型分子配向計ともいう)のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に前記試料面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、試料をマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
【0087】
第1の態様における規格化分子配向MORcとは、基準厚さtcを50μmとしたときのMOR値であって、下記式により求めることができる。
MORc = (tc/t)×(MOR−1)+1
(tc:補正したい基準厚さ、t:試料厚さ)
規格化分子配向MORcは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、4GHzもしくは12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
【0088】
また、規格化分子配向MORcは、結晶性高分子圧電体を製造する際の結晶化の条件(例えば、加熱温度および加熱時間)及び延伸の条件(例えば、延伸温度および延伸速度)によって制御されうる。
【0089】
なお、規格化分子配向MORcは、位相差量(レターデーション)を圧電体の厚さで除した複屈折率Δnに変換することもできる。
具体的には、レターデーションは大塚電子株式会社製RETS100を用いて測定することができる。またMORcとΔnとは大凡、直線的な比例関係にあり、かつΔnが0の場合、MORcは1になる。
【0090】
<結晶性高分子圧電体の物性>
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、圧電定数が大きいこと(好ましくは、25℃において応力−電荷法で測定した圧電定数d
14が1pC/N以上であること)が好ましい。更に、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、透明性、縦裂強度(即ち、特定方向についての引裂強さ。以下同じ。)に優れることが好ましい。
【0091】
〔圧電定数(応力−電荷法)〕
第1の態様において、結晶性高分子圧電体の圧電定数は、次のようにして測定される値をいう。
まず、結晶性高分子圧電体を、結晶性高分子圧電体の延伸方向(例えばMD方向)に対して45°なす方向に150mm、45°なす方向に直交する方向に50mmにカットして、矩形の試験片を作製する。次に、昭和真空SIP−600の試験台に得られた試験片をセットし、Alの蒸着厚が約50nmとなるように、試験片の一方の面にAlを蒸着する。次いで試験片の他方の面にも同様にしてAlを蒸着する。以上のようにして、試験片の両面にAlの導電層を形成する。
【0092】
両面にAlの導電層が形成された150mm×50mmの試験片(結晶性高分子圧電体)を、結晶性高分子圧電体の延伸方向(例えばMD方向)に対して45°なす方向に120mm、45°なす方向に直交する方向に10mmにカットして、120mm×10mmの矩形のフィルムを切り出す。これを、圧電定数測定用サンプルとする。
【0093】
得られたサンプルを、チャック間距離70mmとした引張試験機(AND社製、TENSILON RTG−1250)に、弛まないようにセットする。クロスヘッド速度5mm/minで、印加力が4Nと9Nとの間を往復するように周期的に力を加える。このとき印加力に応じてサンプルに発生する電荷量を測定するため、静電容量Qm(F)のコンデンサーをサンプルに並列に接続し、このコンデンサーCm(95nF)の端子間電圧Vmを、バッファアンプを介して測定する。発生電荷量Q(C)は、コンデンサー容量Cmと端子間電圧Vmとの積として計算する。圧電定数d
14は下式により計算される。
d
14=(2×t)/L×Cm・ΔVm/ΔF
t:サンプル厚(m)
L:チャック間距離(m)
Cm:並列接続コンデンサー容量(F)
ΔVm/ΔF:力の変化量に対する、コンデンサー端子間の電圧変化量比
【0094】
圧電定数は高ければ高いほど、結晶性高分子圧電体に印加される電圧に対する前記材料の変位が大きくなり、また、逆に結晶性高分子圧電体に印加される力に対し発生する電圧が大きくなり、結晶性高分子圧電体としては有用である。
具体的には、25℃における応力−電荷法で測定した圧電定数d
14は1pC/N以上が好ましく、3pC/N以上がより好ましく、4pC/N以上がさらに好ましい。また、圧電定数の上限は特に限定されないが、後述する透明性などのバランスの観点からは、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(光学活性高分子)を用いた結晶性高分子圧電体では、50pC/N以下が好ましく、30pC/N以下がより好ましい。
また、同様に、透明性とのバランスの観点からは、共振法で測定した圧電定数d
14が15pC/N以下であることが好ましい。
【0095】
なお、本明細書中において、「MD方向」とはフィルムの流れる方向(Machine Direction)であり、「TD方向」とは、前記MD方向と直交し、フィルムの主面と平行な方向(Transverse Direction)である。
【0096】
〔結晶化度〕
第1の態様における結晶性高分子圧電体の結晶化度は20%〜80%であることが好ましく、30%〜70%がより好ましい。
ここで、結晶性高分子圧電体の結晶化度は、DSC法によって得られる結晶化度を指す。
結晶化度が上記範囲にあれば、結晶性高分子圧電体の圧電性、透明性、縦裂強度のバランスがよく、また、結晶性高分子圧電体を延伸するときに、白化や破断がおきにくく製造しやすい。
具体的には、結晶化度が20%以上であると、圧電性の低下が抑制される。
また、結晶化度が80%以下であると、縦裂強度及び透明性の低下が抑制される。
前記結晶化度は、縦裂強度及び透明性をより向上させる観点より、70%以下がより好ましく、40.8%以下が更に好ましく、40.0%以下が特に好ましい。
【0097】
第1の態様では、例えば、結晶性高分子圧電体を製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、結晶性高分子圧電体の結晶化度を20%〜80%の範囲に調整することができる。
【0098】
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、且つDSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であることが特に好ましい。
【0099】
〔透明性(内部ヘイズ)〕
結晶性高分子圧電体の透明性は、例えば、目視観察やヘイズ測定により評価することができる。
結晶性高分子圧電体は、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であることが好ましい。ここで内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの結晶性高分子圧電体に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において詳述する。
結晶性高分子圧電体の前記内部ヘイズは、更に40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、13%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが更に好ましい。更に、結晶性高分子圧電体の前記内部ヘイズは、縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下が好ましく、1.0%以下が特に好ましい。
また、結晶性高分子圧電体の前記内部ヘイズは、低ければ低いほどよいが、圧電定数などとのバランスの観点からは、0.0%〜40%であることが好ましく、0.01%〜20%であることがさらに好ましく、0.01%〜13%であることがさらに好ましく、0.01%〜5%であることがさらに好ましく、0.01%〜2.0%であることがさらに好ましく、0.01%〜1.0%であることが特に好ましい。
なお、本願でいう結晶性高分子圧電体の「内部ヘイズ」とは、実施例において後述するように前記結晶性高分子圧電体の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズである。
【0100】
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、且つ25℃において応力−電荷法で測定した圧電定数d
14が1pC/N以上であることが特に好ましい。
【0101】
〔規格化分子配向MORc〕
第1の態様における結晶性高分子圧電体は、規格化分子配向MORcが1.0〜15.0であることが好ましく、2.0〜10.0であることがより好ましく、4.0〜10.0であることが更に好ましい。
規格化分子配向MORcが1.0以上であれば、延伸方向に配列する光学活性高分子の分子鎖(例えばポリ乳酸分子鎖)が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、より高い圧電性を発現することが可能となる。
規格化分子配向MORcが15.0以下であれば、縦裂強度が更に向上する。
また、結晶性高分子圧電体と表面層との密着性をより向上させる観点からは、規格化分子配向MORcは、7.0以下であることが好ましい。
【0102】
〔規格化分子配向MORcと結晶化度との積〕
第1の態様において、結晶性高分子圧電体の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積は25〜700であることが好ましく、40〜700であることがより好ましく、40〜250であることが更に好ましい。この範囲に調整することで、高い圧電性及び高い透明性が維持され、かつ、縦裂強度(即ち、特定方向についての引裂強さ)の低下が抑制される。
結晶性高分子圧電体の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積が25以上であると、圧電性の低下が抑制される。
結晶性高分子圧電体の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積が700以下であると、縦裂強度及び透明性の低下が抑制される。
上記結晶化度とMORcとの積は、さらに好ましくは50〜200、さらに好ましくは100〜190である。
【0103】
第1の態様では、例えば、結晶性高分子圧電体を製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、結晶性高分子圧電体の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積を上記範囲に調整することができる。
【0104】
〔寸法安定性〕
結晶性高分子圧電体は、加熱下、特に後述するスピーカーやタッチパネルなどのデバイスや機器等に組み込まれ使用される環境下の温度での寸法変化率が低い方が好ましい。結晶性高分子圧電体の寸法がデバイスなどの使用環境下で変化すると、結晶性高分子圧電体に接続されている配線などの位置を動かし、デバイスなどの誤作動を引き起こす恐れがあるからである。結晶性高分子圧電体の寸法安定性は、後述するようにデバイスなどの使用環境よりも少し高い温度である150℃で、10分間処理した前後の寸法変化率で評価される。寸法変化率は、10%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0105】
<結晶性高分子圧電体の製造>
第1の態様における結晶性高分子圧電体を製造する方法としては、例えば、既述の光学活性高分子を含む非晶状態のシートに対して結晶化及び延伸(いずれが先であってもよい)を施す方法が挙げられる。
【0106】
また、非晶状態のシートとは、光学活性高分子単体又は光学活性高分子を含む混合物を、光学活性高分子の融点Tm以上の温度に加熱し、その後、急冷して得られたシートを示す。急冷する温度としては、例えば、50℃が挙げられる。
【0107】
第1の態様における結晶性高分子圧電体を製造する方法において、結晶性高分子圧電体(または非晶状態のシート)の原料としては、前記光学活性高分子(ポリ乳酸系高分子など)を1種単独で用いてもよいし、既述の光学活性高分子(ポリ乳酸系高分子など)の2種以上の混合物、または、既述の光学活性高分子の少なくとも1種とその他の成分の少なくとも1種との混合物を用いてもよい。
上述の混合物は、溶融混練して得られた混合物であることが好ましい。
具体的には、例えば、2種類以上の光学活性高分子を混合する場合や、1種類以上の光学活性高分子にその他の成分(例えば上述の無機フィラーや結晶核剤)を混合する場合は、混合する光学活性高分子を(必要に応じその他の成分とともに)、溶融混練機〔東洋精機社製、ラボプラストミキサー〕を用い、ミキサー回転数30rpm〜70rpm、180℃〜250℃の条件で、5分〜20分間溶融混練することで、複数種の光学活性高分子のブレンド体や光学活性高分子と無機フィラーなどの他の成分とのブレンド体を得ることができる。
【0108】
また、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、光学活性高分子を含むシート(好ましくは非晶状態のシート)を主として1軸方向に延伸する工程と、アニール処理工程と、をこの順で含む製造方法によっても製造できる。
【0109】
以上で説明した第1の態様における結晶性高分子圧電体は、後述する第2の態様における結晶性高分子圧電体に該当することがあってもよい。
【0110】
例えば、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、前述のとおり、上記規格化分子配向MORcが2.0〜10.0の結晶性高分子圧電体であってもよい。
【0111】
また、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、結晶性高分子圧電体と表面層との密着力をより向上させ、かつ、結晶性高分子圧電体の耐湿熱性及び引裂強さをより向上させる観点から、結晶性高分子圧電体に含まれる高分子のアクリル末端の比率を調整してもよい。
具体的には、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、20mgの前記結晶性高分子圧電体を0.6mLの重水素化クロロホルムに溶解させた溶液について
1H−NMRスペクトルを測定し、測定された
1H−NMRスペクトルに基づき、下記式(X)により、前記結晶性高分子圧電体に含まれる高分子のアクリル末端の比率を求めたときに、前記高分子のアクリル末端の比率が、2.0×10
−5〜10.0×10
−5であってもよい。
前記高分子のアクリル末端の比率 = 前記高分子のアクリル末端に由来するピークの積分値/前記高分子の主鎖中のメチンに由来するピークの積分値 ・・・ 式(X)
【0112】
また、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、色相を調整するために、着色剤を少なくとも1種含有していてもよい。着色剤として、例えば、黄色味を補正するためのブルーイング剤が挙げられる。
【0113】
<積層体の用途>
第1の態様に係る積層体は、スピーカー、ヘッドホン、タッチパネル、リモートコントローラー、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサー、加速度センサー、衝撃センサー、振動センサー、感圧センサー、触覚センサー、電界センサー、音圧センサー、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができる。
【0114】
尚、第1の態様に係る積層体は、更に電極部を有し、結晶性高分子圧電体と表面層と電極部とをこの順で有する圧電デバイスとして好適に用いられる。
【0115】
このとき、第1の態様における結晶性高分子圧電体は、少なくとも2つの面を有し、一方の面(少なくとも表面層を有する面)と他方の面には電極が備えられた圧電素子として用いられることが好ましい。電極は、結晶性高分子圧電体の少なくとも2つの面に備えられていればよい。前記電極としては、特に制限されないが、例えば、ITO、ZnO、IZO(登録商標)、導電性ポリマー等が用いられる。
尚、第1の態様における結晶性高分子圧電体上にITO電極を形成する場合には、圧電体上に表面層としてハードコート層を形成し、該ハードコート層上にITO電極を形成することで、ITO結晶化時の圧電体の熱変形をハードコート層で緩和し、欠陥の少ないITOを形成することができる。また、ハードコート層とITOの間に屈折率調整層を設けることで、反射率の低減や骨見え防止、着色低減などが可能になる。
【0116】
また、第1の態様における結晶性高分子圧電体と、電極と、を繰り返し重ね、少なくともその一部の圧電体と電極との間に前記表面層を介在させて積層圧電素子として用いることもできる。例としては、両面に表面層を備える結晶性高分子圧電体と電極とのユニットを繰り返し重ね、最後に電極で覆われていない結晶性高分子圧電体の主面を、電極で覆ったものが挙げられる。具体的にはユニットの繰り返しが2回のものは、電極、表面層、結晶性高分子圧電体、表面層、電極、表面層、結晶性高分子圧電体、表面層、電極をこの順で重ねた積層圧電素子である。積層圧電素子に用いられる結晶性高分子圧電体はそのうち1層の結晶性高分子圧電体と1層の表面層とが第1の態様における積層体であればよく、その他の層は第1の態様の積層体における表面層及び結晶性高分子圧電体でなくてもよい。
また、積層圧電素子に複数の第1の態様における積層体における表面層及び結晶性高分子圧電体が含まれる場合は、ある層の結晶性高分子圧電体に含まれる光学活性高分子の光学活性がL体ならば、他の層の結晶性高分子圧電体に含まれる光学活性高分子はL体であってもD体であってもよい。結晶性高分子圧電体の配置は圧電素子の用途に応じて適宜調整することができる。
【0117】
特に結晶性高分子圧電体の主面に電極を備える場合には、透明性のある電極を備えることが好ましい。ここで、電極について、透明性があるとは、具体的には、内部ヘイズが40%以下(全光線透過率が60%以上)であることをいう。
【0118】
第1の態様に係る積層体を用いた前記圧電素子は、スピーカーやタッチパネル等、上述の種々の圧電デバイスに応用することができる。特に、透明性のある電極を備えた圧電素子は、スピーカー、タッチパネル、アクチュエータ等への応用に好適である。
【0119】
以上で説明した第1の態様に係る積層体は、後述の第2の態様に係る積層体に該当することがあってもよい。
例えば、第1の態様に係る積層体において、前記結晶性高分子圧電体は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが2.0〜10.0であり、前記表面層は、前記結晶性高分子圧電体に少なくとも一部が接触するよう配置され、カルボニル基を含み且つ重合体を含むことがあってもよい。
【0120】
≪第2の態様≫
本発明の第2の態様に係る積層体は、結晶性高分子圧電体と、前記結晶性高分子圧電体に少なくとも一部が接触するよう配置された表面層と、を有する。
前記結晶性高分子圧電体(以下、単に「圧電体」とも称す)は、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが2.0〜10.0である。また、前記表面層は、カルボニル基を含み且つ重合体を含む。
【0121】
結晶性高分子圧電体には、電極などの他の部材と接着する目的で接着用の表面層を設けたり、保護を目的として保護用の表面層を設けることがある。しかし、圧電体の少なくとも一部に接触するよう形成された表面層において、剥がれが生じることがあり、圧電体と表面層との更なる密着力の向上が望まれている。
これに対し、第2の態様では、圧電体の規格化分子配向MORcが2.0〜10.0であり且つ表面層がカルボニル基を含み且つ重合体を含む構成とすることで、該圧電体と該表面層との密着力に優れる。
【0122】
この効果が奏される理由は明確ではないものの、以下のように推察される。圧電体の規格化分子配向MORcが一定以上になると、前記圧電体の表面の微小領域で電気的な極性が発生する。尚、この圧電体の電気的極性は、特に該圧電体に極性が高いカルボニル基やオキシ基を含む場合に、より大きくなる。このため表面層に極性が高いカルボニル基が官能基として含まれていることで、圧電体と表面層との間に電気的な相互作用が発生し、密着力が向上するものと考えられる。
【0123】
〔表面層〕
第2の態様における表面層とは、圧電体の表面側に存在し且つ少なくとも一部が圧電体に接触する層を指す。従って、該表面層上に他の部材が設けられていてもよく、必ずしも表面層は最終成形品の最表面となる層を指すものではない。尚、圧電体と表面層とを有する積層体の該表面層上に設けられる前記他の部材としては、例えば電極が挙げられる。上記電極は、表面層を全て覆う電極層であってもよいし、表面層の一部を覆うように形成された、電極パターンであってもよい。
尚、第2の態様における圧電体上には、複数の機能層が積層されてなる多層膜を形成してもよく、その場合における表面層とは、少なくとも一部が圧電体に接触するように配置されてなる層を指す。また、第2の態様における表面層は圧電体の片面だけでなく両面にあってもよく、それぞれの機能や材料が異なっていてもよい。
【0124】
・表面層の種類(用途)
圧電体の表面に形成される表面層としては、様々な機能層が挙げられる。例えば、易接着層、ハードコート層、屈折率調整層、色相調整層、アンチリフレクション層、アンチグレア層、易滑層、アンチブロック層、保護層、接着層、粘着層、帯電防止層、放熱層、紫外線吸収層、アンチニュートンリング層、光散乱層、偏光層、ガスバリア層などが挙げられる。
圧電体と表面層とが積層された積層体の該表面層上には、他の部材が形成されてもよく、前記他の部材として例えば電極が挙げられる。電極が設けられる態様における前記表面層としては、特に易接着層、ハードコート層、屈折率調整層等の機能層が一般的に設けられる。
また表面層を形成することにより、圧電体表面のダイラインや打痕などの欠陥が埋められ、外観が向上するという効果もある。この場合は圧電体と表面層の屈折率差が小さいほど圧電体と表面層界面の反射が低減し、より外観が向上する。
【0125】
また後述するウェットコート法により圧電体に対し表面層として粘着層を形成することで、表面の欠陥が埋められるだけでなく、後工程で他材料と貼り合せる際にOCA(Optical Clear Adhesive)などを使用する必要が無いフィルムロールを製造することができる。またOCAや粘着層の厚さが厚いと、外部から加えられる力学的エネルギーや圧電体で発生する力学的エネルギーがOCAや粘着層で緩和されてしまい、センサー性能やアクチュエーター性能が低下するが、ウェットコート法により形成される粘着層の厚さはOCAよりも薄くすることが容易である点からも有利である。
表面層としての上記粘着層は三次元架橋構造を含んでも含まなくてもよく、圧電体の片面だけに形成されても両面に形成されてもよい。
【0126】
・材料
前記表面層はカルボニル基(−C(=O)−)を含み且つ重合体を含む。表面層がカルボニル基を含むことで、規格化分子配向MORcが前記範囲である圧電体との密着力に優れる。
また、表面層における前記重合体が三次元架橋構造を有することが好ましい。三次元架橋構造を有することで、圧電体との密着性を更に向上させることができる。
【0127】
カルボニル基を含み且つ重合体を含む表面層を形成する方法としては、カルボニル基を有する化合物と反応性基を持つ官能性化合物とを含有する組成物を重合する方法が挙げられる。この際、上記カルボニル基を有する化合物と上記官能性化合物とは、同一であっても、同一でなくてもよい。
上記カルボニル基を有する化合物と上記官能性化合物とが同一である場合、上記官能性化合物の持つ反応性基自身にカルボニル基が含まれていてもよく、上記官能性化合物の持つ反応性基以外の構造にカルボニル基が含まれていてもよい。上記カルボニル基を有する化合物と上記官能性化合物とが同一でない場合、上記カルボニル基を有する化合物は、上記官能性化合物と反応できる反応性基を1つ以上有する。
上記重合における重合反応は1種類の反応性基同士の反応でも、異なる2種類以上の反応性基の反応でもよい。上記重合反応が異なる2種類以上の反応性基の反応である場合、上記重合反応には、同一化合物内に2種類以上の反応性基を有する化合物を用いてもよいし、同一の反応性基を2つ以上持つ官能性化合物と前記反応性基と反応可能な別の反応性基を2つ以上持つ官能性化合物とを混合して用いてもよい。
【0128】
上記1種類の反応性基同士の反応を行う反応性基(以下単に「同種反応性基」とも称す)としては、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基、イソシアネート基、エポキシ基などが挙げられる。アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基は、その反応性基の中にカルボニル基を有する。ビニル基、アリル基、エポキシ基を用いる場合は、反応性基以外の構造中にカルボニル基を有する化合物が使用できる。
尚、前記重合体に三次元架橋構造を持たせる観点では、これらの同種反応性基を有する2官能以上の化合物が組成物中に一部でも存在すれば三次元架橋構造を形成できる。
【0129】
上記2種類以上の反応性基の反応を行う反応性基(以下単に「異種反応性基」とも称す)としては、エポキシ基とカルボキシル基、エポキシ基とアミノ基、エポキシ基とヒドロキシル基、エポキシ基と酸無水物基、エポキシ基とヒドラジド基、エポキシ基とチオール基、エポキシ基とイミダゾール基、エポキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とカルボキシル基、イソシアネート基とアミノ基、イソシアネート基とヒドロキシル基、カルボジイミド基とアミノ基、カルボジイミド基とカルボキシル基、オキサゾリノ基とカルボキシル基、ヒドラジド基とカルボキシル基などの組み合わせが利用できる。
尚、前記重合体に三次元架橋構造を持たせる観点では、これらの異種反応性基のいずれかまたは両方を有する3官能以上の化合物が組成物中に一部でも存在すれば三次元架橋構造を形成できる。
これらのうち、カルボキシル基、酸無水物基、ヒドラジド基、イソシアネート基はその反応性基の中にカルボニル基を有する。それ以外の反応性基を用いる場合は反応性基以外の構造中にカルボニル基を有する化合物が使用できる。
【0130】
エポキシ基とカルボニル基とを同一分子内に有する官能性化合物としては、エポキシアクリレートなどが挙げられる。
ヒドロキシル基とカルボニル基とを同一分子内に有する官能性化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、部分カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
アミノ基とカルボニル基とを同一分子内に有する官能性化合物としては、末端アミンポリアミド、末端アミンポリイミド、末端アミンポリウレタンなどが挙げられる。
【0131】
第2の態様においては、上記の中でも(メタ)アクリル基を有する化合物の重合体がより好ましい。
尚、「(メタ)アクリル基」とは、前述したとおり、アクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を表す。
【0132】
・形成方法
表面層を形成する方法としては、従来一般的に用いられていた公知の方法が適宜使用できるが、例えばウェットコート法が挙げられる。例えば、表面層を形成するための材料(重合性化合物または重合性化合物の重合物)が分散または溶解されたコート液を塗布し、必要に応じて乾燥等の操作を行うことで、表面層が形成される。重合性化合物の重合は塗布前に行われていても、塗布後に行われてもよい。
【0133】
尚、さらに必要に応じて、上記重合の際に前記材料(重合性化合物)に対して熱や活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により表面層を硬化させてもよい。尚、表面層を形成するための材料(重合性化合物)における反応性基の当量を小さくすることで(つまり、前記重合性化合物の単位分子量当たりに含まれる反応性基の数を増やすことで)架橋密度が高められ、圧電体との密着性を更に向上させることができる。
【0134】
尚、上記重合体の中でも、活性エネルギー線(紫外線、電子線、放射線等)照射により硬化された活性エネルギー線硬化樹脂が好ましい。活性エネルギー線硬化樹脂を含むことで、製造効率が向上し、また圧電体との密着性を更に向上させることができる。
活性エネルギー線硬化樹脂の中でも、紫外線照射により硬化された紫外線硬化樹脂が特に好ましい。
【0135】
・三次元架橋構造
表面層はカルボニル基を含み且つ三次元架橋構造を有する重合体を含むことが好ましい。三次元架橋構造を含むことで、圧電体との密着性を更に向上させることができる。
【0136】
三次元架橋構造を有する重合体を作製する手段としては、反応性基を2つ以上持つ官能性化合物を含有する組成物を重合する方法が挙げられる。また架橋剤としてイソシアネートやポリオール、有機過酸化物などを用いる方法も挙げられる。尚、これらの手段を複数組み合わせて用いてもよい。
【0137】
2官能以上の官能性化合物としては、例えば、1分子に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル化合物などが挙げられる。
ここで、「1分子に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する」とは、1分子中にアクリル基及びメタクリル基の少なくとも一方を有し、かつ、1分子中におけるアクリル基及びメタクリル基の総数が2つ以上であることを指す。
3官能以上の官能性化合物としては、例えば、1分子に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物や、1分子に3つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0138】
ここで、表面層に含まれる材料が三次元架橋構造を有する重合体であるか否かを確認する方法としては、ゲル分率を測定する方法が挙げられる。
具体的には、表面層を溶剤に24時間浸漬した後の不溶分からゲル分率を導くことができる。特に溶剤が水などの親水性の溶媒でも、トルエンのような親油性の溶媒でも、ゲル分率が一定以上のものが三次元架橋構造を有すると推定することができる。
【0139】
ウェットコート法の場合、コート液を圧電体の延伸前原反に塗工した後に圧電体を延伸し、その後に硬化しても、圧電体原反を延伸後にコート液を塗布、硬化してもよい。
また表面層にはその目的に応じて屈折率調整剤や紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの各種有機物、無機物を添加することもできる。
【0140】
・表面処理
圧電体表面と表面層の密着性や、圧電体表面への表面層塗工性を更に向上させる観点から、コロナ処理やイトロ処理、オゾン処理、プラズマ処理などによって圧電体表面を処理することもできる。
【0141】
・厚さd
表面層の厚さ(平均厚さ)dは、特に限定されるものではないが、0.01μm〜10μmの範囲が好ましい。
厚さdが上記下限値以上であることにより、例えば表面層がハードコート層などの機能を発現する。
一方、厚さdが上記上限値以下であることにより、積層体における表面層上に更に電極を設けた際に電極により大きな電荷が発生する。
【0142】
上記厚さdの上限値は、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは3μm以下である。また、下限値はより好ましくは0.2μm以上であり、更に好ましくは0.3μm以上である。
但し、表面層は圧電体の両面にあってもよく、その場合上記厚さdは両面の厚さを足したものである。
【0143】
第2の態様における表面層の厚さdは、第1の態様における表面層の厚さと同様の方法により決定される。
【0144】
・比誘電率
また、表面層の比誘電率が1.5以上であることが好ましく、更には2.0以上20000以下がより好ましく、2.5以上10000以下が更に好ましい。
比誘電率が上記範囲であることにより、積層体における表面層上に更に電極を設けた際に電極により大きな電荷が発生する。
第2の態様における表面層の比誘電率は、第1の態様における比誘電率と同様の方法により測定される。
【0145】
・表面層の内部ヘイズ
また、表面層の内部ヘイズが10%以下であることが好ましく、更には0.0%以上5%以下がより好ましく、0.01%以上2%以下が更に好ましい。
内部ヘイズが上記範囲であることにより、優れた透明性が発揮され、例えばタッチパネル等として有効に利用し得る。
【0146】
第2の態様における表面層の内部ヘイズは、第1の態様における表面層の内部ヘイズと同様の方法によって測定される。
また、第2の態様における積層体の内部ヘイズも、第1の態様における積層体の内部ヘイズと同様の方法によって測定される。
【0147】
〔結晶性高分子圧電体〕
第2の態様における結晶性高分子圧電体中では、高分子が配向している。
この配向を表す指標として、前述した「分子配向度MOR」がある。
第2の態様における分子配向度MORは、第1の態様における分子配向度MORと同義であり、第1の態様における分子配向度MORと同様の方法によって求められる。
【0148】
〔規格化分子配向MORc〕
第2の態様における規格化分子配向MORcは、基準厚さtcを50μmとしたときのMOR値であって、第1の態様における規格化分子配向MORcと同様の方法によって求められる。
第2の態様における圧電体は、規格化分子配向MORcが2.0〜10.0である。
規格化分子配向MORcが2.0未満であると、表面層との高い密着性が得られない。また、延伸方向に配列する高分子の分子鎖(例えばポリ乳酸分子鎖)が少なくなり、その結果、配向結晶の生成する率が低くなり、高い圧電性が発現されない。
一方、規格化分子配向MORcが10.0を超える場合も、表面層との高い密着性が得られない。また、縦裂強度(即ち、特定方向についての引裂強さ。以下同じ。)が弱くなる傾向にある。
結晶性高分子圧電体と表面層との密着性をより向上させる観点から、規格化分子配向MORcは、8.0以下が好ましく、7.0以下がより好ましい。
規格化分子配向MORcは、更に2.5〜8.0であることが好ましく、2.5〜7.0であることが好ましく、3.0〜4.5であることがより好ましい。
【0149】
また、規格化分子配向MORcは、結晶性高分子圧電体を製造する際の結晶化の条件(例えば、加熱温度および加熱時間)及び延伸の条件(例えば、延伸温度および延伸速度)によって制御されうる。
【0150】
なお、圧電体の規格化分子配向MORcと、位相差量(レターデーション)を圧電体の厚さで除した複屈折率Δnと、の関係に変換することもできる。
具体的には、レターデーションは大塚電子株式会社製RETS100を用いて測定することができる。またMORcとΔnとは大凡、直線的な比例関係にあり、かつΔnが0の場合、MORcは1になる。
【0151】
〔高分子のアクリル末端の比率〕
第2の態様において、結晶性高分子圧電体と表面層との密着力をより向上させ、かつ、結晶性高分子圧電体の耐湿熱性及び引裂強さをより向上させる観点からみると、結晶性高分子圧電体に含まれる高分子のアクリル末端の比率を調整することが好ましい。
より具体的には、20mgの結晶性高分子圧電体を0.6mLの重水素化クロロホルムに溶解させた溶液について
1H−NMRスペクトルを測定し、測定された
1H−NMRスペクトルに基づき、下記式(X)により、結晶性高分子圧電体に含まれる高分子のアクリル末端の比率を求めたときに、高分子のアクリル末端の比率が、2.0×10
−5〜10.0×10
−5であることが好ましい。
【0152】
高分子のアクリル末端の比率 = 高分子のアクリル末端に由来するピークの積分値/高分子の主鎖中のメチンに由来するピークの積分値 ・・・ 式(X)
【0153】
ここで、アクリル末端は、アクリロイル基と言い換えることもできる。
また、高分子のアクリル末端に由来するピークの積分値とは、アクリル末端(アクリロイル基)中の3つのプロトンに由来する各ピークの積分値の平均値を指す。
結晶性高分子圧電体に含まれる高分子が後述の式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子である場合、上記アクリル末端は、活性エネルギー線(例えば紫外線)の照射及び熱(例えば結晶性高分子圧電体製造時の溶融混練プロセス)等により、後述の式(1)で表される繰り返し単位における、エーテル結合(−O−)中の酸素原子(O)とメチン(CH)中の炭素原子(C)との結合が切断されることにより(即ち、高分子が分解して分子量が低下することにより)形成されると考えられる。また、アクリル末端と同時にカルボキシル基(COOH)が形成されると考えられる。
上記高分子のアクリル末端の比率が2.0×10
−5以上であると、結晶性高分子圧電体と表面層との密着力がより向上する。この理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように推定する。上記比率が2.0×10
−5以上であると、上記高分子のアクリル末端と上記表面層の反応性基とが反応して十分な量の化学結合が形成され、この十分な量の化学結合が、上記密着力の向上に効果的に寄与するためと考えられる。
一方、上記高分子のアクリル末端(アクリロイル基)の比率が10.0×10
−5以下であると、結晶性高分子圧電体の耐湿熱性及び引裂強さがより向上する。この理由は、上記比率が10.0×10
−5以下であることは、活性エネルギー線(例えば紫外線)の照射や熱(例えば結晶性高分子圧電体製造時の溶融混練プロセス)等による高分子の分解がある程度抑制されていることを意味するため、と考えられる。すなわち、耐湿熱性に悪影響を及ぼすカルボキシル基(COOH)量が少なく、引裂強さに悪影響を及ぼす分子量の低下が少ないため、耐湿熱性及び引裂強さがより向上すると考えられる。
【0154】
高分子のアクリル末端の比率は、3.0×10
−5以上であることがより好ましく、4.0×10
−5以上であることが更に好ましく、5.0×10
−5以上であることが更に好ましく、6.0×10
−5以上であることが特に好ましい。
一方、高分子のアクリル末端の比率は、9.0×10
−5以下であることがより好ましく、8.0×10
−5以下であることがさらに好ましい。
【0155】
上記式(X)の一例としては、高分子のアクリル末端に由来するピークの積分値が、δ5.9−6.4ppmの領域に含まれるピークの積分値の平均値(I
5.9−6.4)であって、高分子の主鎖中のメチンに由来するピークの積分値が、δ5.1ppmの位置におけるピークの積分値(I
5.1)であって、高分子のアクリル末端の比率が、比率〔I
5.9−6.4/I
5.1〕である例が挙げられる。
上記一例において、δ5.9−6.4ppmの領域には、アクリル末端(アクリロイル基)中の3つのプロトンに由来する各ピークが現れる。上記積分値の平均値(I
5.9−6.4)とは、現れた各ピークの積分値の平均値を指す。
【0156】
上記
1H−NMRスペクトルは、プロトンシングルパルス法により、以下の条件に従って測定する。
−
1H−NMRスペクトルの測定条件−
測定装置: 日本電子(株)製 ECA−500、または、同等の装置(プロトン核共鳴周波数500MHz以上)
溶媒:重水素化クロロホルム(クロロホルム−d)
測定温度:室温
パルス角:45°
パルス間隔:6.53秒
積算回数:512回以上
【0157】
・材質
第2の態様における圧電体の材質としては、特に限定されるものではないが、例えばカルボニル基(−C(=O)−)及びオキシ基(−O−)の少なくとも一方の官能基を有する繰り返し単位構造を有する高分子を含むことが好ましい。
圧電体がカルボニル基及びオキシ基の少なくとも一方の官能基を有する繰り返し単位構造を有する高分子を含むことで、表面層に含まれるカルボニル基(−C(=O)−)との相互作用により、表面層との密着力を更に効果的に向上させることができる。
【0158】
第2の態様では、上記高分子として、特に、光学活性を有するヘリカルキラル高分子が好適に用いられる。
第2の態様における、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(以下、「光学活性高分子」ともいう)は、第1の態様における光学活性を有するヘリカルキラル高分子と同義であり、その好ましい範囲(例えば、種類及び重量平均分子量などの好ましい範囲)も同様である。例えば、光学活性高分子の重量平均分子量の好ましい範囲は、5万〜100万等である。また、光学活性高分子の光学純度の好ましい範囲は、95.00%ee以上である。
【0159】
第2の態様において、光学活性高分子の中でも、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0161】
前記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)またはD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
第2の態様に用いられ得るポリ乳酸系高分子は、第1の態様に用いられ得るポリ乳酸系高分子と同義であり、その好ましい範囲も同様である。
【0162】
また、第2の態様における結晶性高分子圧電体中における光学活性高分子の含有量の好ましい範囲は、第1の態様における結晶性高分子圧電体中における光学活性高分子の含有量の好ましい範囲(即ち、結晶性高分子圧電体の全質量に対して80質量%以上)と同様である。
【0163】
第2の態様における結晶性高分子圧電体は、既述の光学活性高分子以外のその他の成分を含有していてもよい。
第2の態様における結晶性高分子圧電体に含有され得るその他の成分は、第1の態様における結晶性高分子圧電体に含有され得るその他の成分と同様であり、その好ましい範囲(例えば、種類、及び、結晶性高分子圧電体に含有され得る含有量の好ましい範囲)も同様である。
例えば、第2の態様における結晶性高分子圧電体は、加水分解などによる構造変化をより抑制する観点から、カルボジライト(登録商標)に代表されるカルボジイミド化合物などの安定化剤を含むのが好ましい。
【0164】
なお、第2の態様における結晶性高分子圧電体は、透明性の観点からは、光学活性を有するヘリカルキラル高分子以外の成分を含まないことが好ましい。
【0165】
−安定化剤−
第2の態様における結晶性高分子圧電体は安定化剤を含んでもよい。
第2の態様に使用され得る安定化剤は、第1の態様に使用され得る安定化剤と同様であり、その好ましい範囲(例えば、種類及び添加量の好ましい範囲、安定化剤を2種以上併用する場合の好ましい態様、等)も同様である。
【0166】
−着色剤−
第2の態様における結晶性高分子圧電体は、色相を調整するために、着色剤を少なくとも1種含有していてもよい。
上記着色剤として、黄色味を補正するためには、ブルーイング剤が用いられる。
色相の調整は、結晶性高分子圧電体自体の色相を補正する目的や、結晶性高分子圧電体をデバイスとするために各種積層体とした際に、他層の色相を補正することを目的として行われる。上記積層体の一例としては、結晶性高分子圧電体とITO電極が形成された透明導電性フィルムとの積層体などが挙げられる。この場合、ITO電極が黄色味を有するため、結晶性高分子圧電体にブルーイング剤を添加することで、積層体としての色相を補正することができる。また、結晶性高分子圧電体がハードコート層などの表面層を有する場合、表面層に着色剤を添加して結晶性高分子圧電体や高分子圧電体を含む積層体の色相を調整することもできる。
着色剤の添加量は、着色剤を添加する結晶性高分子圧電体や表面層の厚さ、添加する着色剤の利用する光の波長の吸光度、補正が必要な色相の強みを考慮して調節する。
ブルーイング剤については、例えば特開2013−227547号公報の段落0172〜0190の記載を適宜参照できる。
【0167】
結晶性高分子圧電体がブルーイング剤を含有する場合、ブルーイング剤の含有量は、結晶性高分子圧電体を100重量部とした場合、好ましくは0.1×10
−4〜100.0×10
−4重量部、より好ましくは0.3×10
−4〜70.0×10
−4重量部である。
【0168】
また、結晶性高分子圧電体がブルーイング剤を含有する場合、ブルーイング剤の配合時期、配合方法は特に限定されない。
配合方法としては、例えば、高分子(例えば上述のヘリカルキラル高分子)にブルーイング剤を、直接所定濃度になるよう混合又は混練する方法、高濃度のブルーイング剤を配合したマスターバッチを事前に作製し、高分子(例えば上述のヘリカルキラル高分子)とブレンドして所定濃度となるよう配合する方法などが挙げられる。
【0169】
ブルーイング剤としては、橙色ないし黄色の光線を吸収することにより青色ないし紫色を呈する着色剤(顔料又は染料)を用いることができ、その中でも、極大吸収波長が520nm〜600nm(好ましくは540nm〜580nm)の着色剤(好ましくは染料)がより好ましい。
【0170】
極大吸収波長が520nm〜600nmの染料としては、例えば、一般名Solvent Violet 21に代表されるモノアゾ系染料、一般名Solvent Blue 2[CA.No(カラーインデックスNo)42563]に代表されるトリアリールメタン系染料、一般名Solvent Blue 25[CA.No74350]に代表されるフタロシアニン系染料、一般名Solvent Violet13[CA.No60725]、一般名Solvent Violet36、一般名Solvent Blue97に代表されるアントラキノン系染料、コバルトブルー、アルカリブルー、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBCが挙げられる。これらの中でもアントラキノン系染料が、入手容易であり、好ましい。
【0171】
アントラキノン系染料としては、その分子構造内にアントラキノン構造を有するものであって、熱可塑性樹脂の染色に使用可能なものであれば、如何なるものでも利用することができる。
なかでも、下記式(2)で表される化合物が、結晶性高分子圧電体の明度を高めるという点で、好適に用いられる。
【0173】
上記式(2)中、R
1〜R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。
【0174】
上記式(2)中の、アミノ基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基又はアリール基が挙げられる。アミノ基が置換基として有していてもよいアルキル基としては、炭素数が1から6のアルキル基が挙げられ、アミノ基が置換基として有していてもよいアリール基としては、環構造が3以下のアリール基が挙げられる。
【0175】
環構造が3以下のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基が挙げられ、これらのアリール基は、炭素数3以下のアルキル基で置換されていても構わない。アミノ基が置換基として有していてもよいアリール基としてより好ましくは、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基であり、更に好ましくは炭素数3以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基であって、特に好ましくは少なくとも1つのメチル基を有するフェニル基である。
【0176】
アントラキノン系染料の具体例としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]、Solvent Violet14、一般名Solvent Violet31[CA.No68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、Solvent Violet33[CA.No60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、Solvent Violet36[CA.No68210;商標名 ランクセス社製「マクロレックスバイオレット3R」]、Solvent Blue45[CA.No61110;商標名 サンド社製「テトラゾールブルーRLS」]、一般名Solvent Blue94[CA.No61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名Solvent Blue97[ランクセス社製「マクロレックスブルーRR」]、一般名Solvent Blue45、一般名Solvent Blue87および一般名Disperse Violet28、KAYASET Blue FR[日本化薬(株)製]、KAYASET Blue N[日本化薬(株)製]、KAYASET Blue 814[日本化薬(株)製]、FS Blue 1504[有本化学工業(株)製]が挙げられる。
【0177】
これらの中でも、一般名Solvent Violet13[ランクセス社製「マクロレックスバイオレットB」]、一般名Solvent Violet36[ランクセス社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名Solvent Blue97[ランクセス社製「マクロレックスブルーRR」]、KAYASET Blue FR[日本化薬(株)製]、KAYASET Blue N[日本化薬(株)製]、KAYASET Blue 814[日本化薬(株)製]、FS Blue 1504[有本化学工業(株)製]が好ましい。
【0178】
ブルーイング剤としては、極大吸収波長が520〜600nm(より好ましくは540〜580nm)の顔料を用いることもでき、また、極大吸収波長が520〜600nm(より好ましくは540〜580nm)の染料と極大吸収波長が520〜600nm(より好ましくは540〜580nm)の顔料とを併用することもできる。
【0179】
<結晶性高分子圧電体の物性>
第2の態様における結晶性高分子圧電体は、圧電定数が大きいこと(好ましくは、25℃において応力−電荷法で測定した圧電定数d
14が1pC/N以上であること)が好ましい。更に、第2の態様における結晶性高分子圧電体は、透明性、縦裂強度(特定方向についての引裂強さ)に優れることが好ましい。
第2の態様における応力−電荷法による圧電定数d
14は、第1の態様における応力−電荷法による圧電定数d
14と同義であり、その好ましい範囲(即ち、好ましくは1pC/N以上、等)も同様である。
【0180】
第2の態様における結晶性高分子圧電体の結晶化度は、第1の態様における結晶性高分子圧電体の結晶化度と同義であり、その好ましい範囲(即ち、好ましくは20%〜80%、より好ましくは30%〜70%、等)も同様である。
第2の態様では、例えば、結晶性高分子圧電体を製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、結晶性高分子圧電体の結晶化度を20%〜80%の範囲に調整することができる。
第2の態様における結晶性高分子圧電体は、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、且つDSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であることが特に好ましい。
【0181】
第2の態様における可視光線に対する内部ヘイズは、第1の態様における可視光線に対する内部ヘイズと同義であり、その好ましい範囲(即ち、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは20%以下、更に好ましくは13%以下、等)も同様である。
第2の態様における結晶性高分子圧電体は、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であり、且つ25℃において応力−電荷法で測定した圧電定数d
14が1pC/N以上であることが特に好ましい。
【0182】
第2の態様において、結晶性高分子圧電体の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積の好ましい範囲は、第1の態様における、結晶性高分子圧電体の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積の好ましい範囲(即ち、好ましくは25〜700、より好ましくは40〜700、更に好ましくは40〜250、等)と同様である。
第2の態様では、例えば、結晶性高分子圧電体を製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、結晶性高分子圧電体の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積を好ましい範囲に調整することができる。
【0183】
第2の態様において、結晶性高分子圧電体の寸法安定性(150℃で10分間処理した前後の寸法変化率)の好ましい範囲は、第1の態様における結晶性高分子圧電体の寸法安定性(150℃で10分間処理した前後の寸法変化率)の好ましい範囲と同様である。
【0184】
<結晶性高分子圧電体の製造>
第2の態様における結晶性高分子圧電体を製造する方法としては、第1の態様における結晶性高分子圧電体を製造する方法と同様の方法が挙げられ、その好ましい範囲も同様である。
【0185】
<積層体の用途>
第2の態様に係る積層体の用途は、第1の態様に係る積層体の用途と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【実施例】
【0186】
以下、第1の態様及び第2の態様を、実施例により更に具体的に説明するが、第1の態様及び第2の態様は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0187】
≪第1の態様の実施例≫
以下、第1の態様の実施例(実施例1A〜7A)及び比較例(比較例1A〜2A)を示す。
【0188】
〔実施例1A〕
<圧電体の作製>
三井化学(株)製のポリ乳酸(登録商標LACEA、H−400(重量平均分子量Mw:20万)100重量部に対して、安定化剤(ラインケミー社製、Stabaxol I(商品名)、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)を1.0重量部添加しドライブレンドし原料を作製した。作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて、220℃〜230℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.3分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ6%であった。
得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸速度3m/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸した(延伸工程)。得られたフィルムの厚さは47.2μmであった。
その後、前記一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、145℃に加熱したロール上に15秒間接触させアニール処理し、その後急冷を行って、結晶性高分子圧電体(以下、単に「圧電体」ともいう)を作製した(アニール処理工程)。
【0189】
−光学活性高分子(ポリ乳酸)のL体量とD体量の測定−
50mLの三角フラスコに1.0gのサンプル(圧電体)を秤り込み、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mLと、5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLとを加えた。次に、サンプル溶液が入った前記三角フラスコを、温度40℃の水浴に入れ、ポリ乳酸が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌した。
【0190】
前記サンプル溶液を室温まで冷却後、1.0mol/L塩酸溶液を20mL加えて中和し、三角フラスコを密栓してよくかき混ぜた。サンプル溶液の1.0mLを25mLのメスフラスコに取り分け、移動相で25mLとしてHPLC試料溶液1を調製した。HPLC試料溶液1を、HPLC装置に5μL注入し、下記HPLC条件で、ポリ乳酸のD/L体ピーク面積を求め、L体の量とD体の量を算出した。得られた結果に基づき、光学純度(%ee)を求めた。結果を下記表1に示す。
なお、下記表1において、「LA」はポリ乳酸を表す。
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000
・測定装置
日本分光社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mL
・移動相流量
1.0mL/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
【0191】
<重量平均分子量及び分子量分布>
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、圧電体に含まれる高分子(光学活性高分子)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。結果を下記表1に示す。
−GPC測定方法−
・測定装置
Waters社製GPC−100
・カラム
昭和電工社製、Shodex LF−804
・サンプルの調製
圧電体を、40℃で溶媒〔クロロホルム〕へ溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備した。
・測定条件
サンプル溶液0.1mLを溶媒(クロロホルム)、温度40℃、1mL/分の流速でカラムに導入し、カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定した。高分子の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン標準試料を用いて作成したユニバーサル検量線に基づき、算出した。
【0192】
<物性測定及び評価>
上記圧電体について、以下のようにして、融点Tm、結晶化度、厚さ、内部ヘイズ、圧電定数、規格化分子配向MORc、面内位相差、及び複屈折率を測定した。
結果を下記表1に示す。
【0193】
−融点Tm及び結晶化度−
圧電体を10mg正確に秤量し、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から、融点Tm及び結晶化度を得た。
【0194】
−圧電体の内部ヘイズ−
以下の方法により、圧電体の内部ヘイズ(以下、内部ヘイズ(H1)ともいう)を得た。
まず、予めガラス板2枚の間に、シリコンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んでヘイズ(H2)を測定した。次に、シリコンオイルで表面を均一に塗らした圧電体を上記のガラス板2枚で挟んでヘイズ(H3)を測定した。次に、下記式のようにこれらの差をとることで、圧電体の内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
【0195】
ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用い、厚さ方向の光透過性を測定することにより、測定した。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0196】
−圧電定数(応力−電荷法)−
圧電体を、圧電体の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に150mm、45°なす方向に直交する方向に50mmにカットして、矩形の試験片を作製した。
次に、昭和真空SIP−600の試験台に上記試験片をセットし、Alの蒸着厚が約50nmとなるように、試験片の一方の面にAlを蒸着した。次いで試験片の他方の面にも同様にAlを蒸着した。以上のようにして、試験片の両面にAlの導電層を形成した。
両面にAlの導電層が形成された150mm×50mmの試験片(結晶性高分子圧電体)を、圧電体の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に120mm、45°なす方向に直交する方向に10mmにカットして、120mm×10mmの矩形のフィルムを切り出した。これを、圧電定数測定用サンプルとした。
【0197】
得られたサンプルを、チャック間距離70mmとした引張試験機(AND社製、TENSILON RTG−1250)に、弛まないようにセットした。クロスヘッド速度5mm/minで、印加力が4Nと9Nとの間を往復するように周期的に力を加えた。このとき印加力に応じてサンプルに発生する電荷量を測定するため、静電容量Qm(F)のコンデンサーをサンプルに並列に接続し、このコンデンサーCm(95nF)の端子間電圧Vmを、バッファアンプを介して測定した。発生電荷量Q(C)は、コンデンサー容量Cmと端子間電圧Vmとの積として計算した。圧電定数d
14は下式により計算した。
d
14=(2×t)/L×Cm・ΔVm/ΔF
t:サンプル厚(m)
L:チャック間距離(m)
Cm:並列接続コンデンサー容量(F)
ΔVm/ΔF:力の変化量に対する、コンデンサー端子間の電圧変化量比
【0198】
−規格化分子配向MORc−
規格化分子配向MORcは、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA6000により測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
【0199】
−面内位相差及び複屈折率−
面内位相差(面内方向の位相差)Reは、以下の測定条件で測定した。
・測定波長 … 550nm
・測定装置 … 大塚電子社製 位相差フィルム・光学材料検査装置RETS−100
また、複屈折率は上記面内位相差を圧電体の厚さで除した値で表される。
【0200】
【表1】
【0201】
<表面層の形成>
前記で作製した圧電体において厚さのみを下記表2に記載の数値に変更したものを準備した。アクリル系樹脂(三井化学株式会社製、オレスターRA1353、固形分濃度82質量%)を酢酸ブチルにより固形分濃度40質量%に希釈し、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、イルガキュア184)を固形分に対して2質量%となるように混合したコート液を調製した。圧電体に対して前記コート液をアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する硬化物を作製して表面層を形成し、積層体を作製した。
【0202】
<物性測定及び評価>
上記積層体について、以下のようにして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表2に示す。
【0203】
−表面層の厚さd−
表面層の厚さdは、ニコン社製デジタル測長機DIGIMICRO STAND MS−11Cを用いて以下の式により決定した。
式 d=dt−dp
dt:積層体の10箇所の平均厚さ
dp:表面層形成前の圧電体10箇所の平均厚さ
【0204】
−表面層の引張弾性率Ec−
表面層の引張弾性率Ecの算出を、以下の式により行った。
表面層の引張弾性率Ec=[積層体の引張弾性率−{圧電体のみの引張弾性率×(圧電体の厚さ/積層体の厚さ)}]/(表面層の厚さ/積層体の厚さ)
【0205】
上記式における「積層体の引張弾性率」は、以下の方法により測定した。
積層体を、結晶性高分子圧電体の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に120mm、45°なす方向に直交する方向に10mmにカットして、矩形のサンプルを作製した。
得られたサンプルを、チャック間距離70mmとした引張試験機(AND社製、TENSILON RTG−1250)に、弛まないようにセットした。クロスヘッド速度5mm/minで、印加力が4Nと9Nとの間を往復するように周期的に力を加え、得られた応力−歪の関係から引張弾性率Eを計算した。
σ=F/A
E=Δσ/Δε
[σ:応力(Pa)、F:印加力(N)、A:積層体の断面積(m
2)、Δσ:応力の変化量(Pa)、Δε:歪の変化量]
【0206】
また、「圧電体のみの引張弾性率」は、表面層を形成する前の圧電体に対し、積層体の引張弾性率の測定と同様にして測定した。
圧電体のみの引張弾性率の測定結果は、3.70GPaであった。
【0207】
−積層体の圧電定数d
14(応力−電荷法による)−
また、積層体の圧電定数d
14の測定を、前記圧電体の圧電定数d
14の測定と同様にして行った。
【0208】
−感度変化−
「感度変化」とは、積層体における圧電定数「d
14(積層体)」と「引張弾性率E」との積(d
14(積層体)×E(積層体))の、圧電体のみの圧電定数「d
14(圧電体)」(前記の通り6.02pC/N)と圧電体のみの「引張弾性率E」(前記の通り3.70GPa)との積(d
14(圧電体)×E(圧電体))の値からの変化量((d
14(積層体)×E(積層体))/(d
14(圧電体)×E(圧電体)))を表す。
【0209】
〔実施例2A、比較例1A〕
実施例1Aにおける、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを、下記表2に記載の数値に変更した他は同様にして、三次元架橋構造を有する硬化物を作製して表面層を形成し、実施例2Aの積層体を作製した。
また、実施例1Aにおける、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを、下記表2に記載の数値に変更した他は同様にして、比較例1Aの積層体を作製した。
これらの積層体について、実施例1Aと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0210】
〔比較例2A〕
前記で作製した圧電体において厚さのみを下記表2に記載の数値に変更したものを準備した。アクリル系樹脂(三井化学株式会社製、オレスターRA3091、固形分濃度67質量%)を酢酸ブチルにより固形分濃度40質量%に希釈し、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、イルガキュア184)を固形分に対して2質量%となるように混合したコート液を調製した。圧電体に対して前記コート液をアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで表面層を形成し、積層体を作製した。 得られた積層体について、実施例1Aと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0211】
〔実施例3A〕
前記で作製した圧電体において厚さのみを下記表2に記載の数値に変更したものを準備した。アクリル系樹脂(ペルノックス社製、ペルトロンA2002)を圧電体に対してアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する硬化物を作製して表面層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Aと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0212】
〔実施例4A〜6A〕
実施例3Aにおける圧電体の厚さ、表面層に用いた材料及びその表面層の厚さを下記表2に示すものに変更した他は同様にして、上記アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する硬化物を作製して表面層を形成し、実施例4A〜6Aの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Aと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0213】
〔実施例7A〕
前記で作製した圧電体において厚さのみを下記表2に記載の数値に変更したものを準備した。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製、光硬化性モノマーDPHA)を酢酸ブチルにより固形分濃度40質量%に希釈し、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、イルガキュア184)を固形分に対して2質量%となるように混合したコート液を調製した。圧電体に対して前記コート液をアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記光硬化性モノマーが重合された三次元架橋構造を有する硬化物を作製して表面層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Aと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0214】
【表2】
【0215】
尚、表2に示す材料の詳細は、以下の通りである。
・RA1353:アクリル系樹脂、三井化学株式会社製、オレスターRA1353
・RA3091:アクリル系樹脂、三井化学株式会社製、オレスターRA3091
・A2002:アクリル系樹脂、ペルノックス社製、ペルトロンA2002
・A2101:アクリル系樹脂、ペルノックス社製、ペルトロンA2101
・A2102:アクリル系樹脂、ペルノックス社製、ペルトロンA2102
・DPHA:新中村化学工業株式会社製、光硬化性モノマーDPHA
【0216】
図1は、実施例1A〜7A及び比較例1A〜2Aにおける、Ec/dと感度変化との関係を示すグラフである。
図2は、
図1において、Ec/dが0〜1.5である範囲を示すグラフである。
表2、
図1、及び
図2に示すように、Ec/dが0.6以上である実施例1A〜7Aでは、Ec/dが0.6未満である比較例1A〜2Aと比較して、感度変化の数値が顕著に高かった。即ち、Ec/dが0.6以上である実施例1A〜7Aでは、Ec/dが0.6未満である比較例1A〜2Aと比較して、表面層を設けたことによる感度の低下が顕著に抑制された。
【0217】
≪第2の態様の実施例≫
以下、第2の態様の実施例(実施例1B〜21B)及び比較例(比較例1B〜4B)を示す。
【0218】
<圧電体の作製>
(圧電体(P1)の作製)
三井化学(株)製のポリ乳酸(登録商標LACEA、H−400(重量平均分子量Mw:20万)100重量部に対して、安定化剤(ラインケミー社製、Stabaxol I(商品名)、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)を1.0重量部添加しドライブレンドし原料を作製した。作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて、220℃〜230℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.3分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ6%であった。
得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸速度3m/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸した(延伸工程)。得られたフィルムの厚さは47.2μmであった。
その後、前記一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、145℃に加熱したロール上に15秒間接触させアニール処理し、その後急冷を行って、結晶性高分子圧電体(圧電体)である圧電体(P1)を作製した(アニール処理工程)。
【0219】
−高分子(ポリ乳酸)のL体量とD体量の測定−
実施例1Aで示した方法と同様の方法により、結晶性高分子圧電体に含まれる高分子(ポリ乳酸)のL体量とD体量とを測定した。得られた結果に基づき、光学純度(%ee)を求めた。結果を下記表3に示す。
なお、下記表3及び下記表6において、「LA」は、ポリ乳酸を表す。
【0220】
−重量平均分子量及び分子量分布−
実施例1Aで示したGPC測定方法と同様のGPC測定方法により、結晶性高分子圧電体に含まれる高分子(ポリ乳酸)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
結果を下記表3に示す。
【0221】
−物性測定及び評価−
上記圧電体(P1)について、融点Tm、結晶化度、厚さ、内部ヘイズ、圧電定数、規格化分子配向MORc、面内位相差、及び複屈折率を、それぞれ、実施例1Aで示した方法と同様の方法によって測定した。
結果を下記表3に示す。
【0222】
(圧電体(P2)の作製)
前記圧電体(P1)の作製において、延伸工程での延伸方法を一軸延伸から同時二軸延伸に変更し、延伸の倍率をMD方向1.5倍、TD方向4.4倍に、延伸速度を8m/分に、予備結晶化シートの温度を80℃に、変更した他は、圧電体(P1)と同様の方法により結晶性高分子圧電体(圧電体)である圧電体(P2)を作製した。
各種物性の測定結果を、下記表3に示す。
【0223】
(圧電体(B)の作製)
前記圧電体(P1)の作製において、延伸工程及びアニール処理工程を行わず、得られた予備結晶化シートを110℃のオーブンで30分加熱して結晶性高分子圧電体(圧電体)である圧電体(B)を作製した。
各種物性の測定結果を、下記表3に示す。
【0224】
(圧電体(C)の作製)
圧電体(C)(結晶性高分子圧電体)として、三井化学東セロ社製の製品名:パルグリーンLC(二軸延伸フィルム/MD方向,TD方向等倍)を用いた。
各種物性の測定結果を、下記表3に示す。
【0225】
【表3】
【0226】
〔実施例1B〕
<表面層の形成>
前記で作製した圧電体(P1)において厚さのみを下記表4に記載の数値に変更したものを準備した。アクリル系樹脂(三井化学株式会社製、オレスターRA1353、固形分濃度82質量%)を酢酸ブチルにより固形分濃度40質量%に希釈し、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、イルガキュア184)を固形分に対して2質量%となるように混合したコート液を調製した。圧電体に対して前記コート液をアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、積層体を作製した。
【0227】
<物性測定及び評価>
上記積層体について、以下のようにして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表4に示す。
【0228】
−表面層の厚さd−
表面層の厚さdは、ニコン社製デジタル測長機DIGIMICRO STAND MS−11Cを用いて以下の式により決定した。
式 d=dt−dp
dt:積層体の10箇所の平均厚さ
dp:表面層形成前の圧電体10箇所の平均厚さ
【0229】
−圧電体と表面層との密着性評価−
密着性は、表面層に対し上からカッターにより2mm間隔で縦方向及び横方向にそれぞれ6本の切れ目を入れて2mm角四方の碁盤目25個を作製し、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製)を密着させ、手で急速に引っ張り、剥離が見られない場合を「A」、一部でも剥離が見られた場合を「B」と評価した。
【0230】
〔実施例2B〜7B、13B〜14B〕
実施例1Bにおいて、圧電体の種類、圧電体の厚さ、表面層に用いた材料、及び表面層の厚さを、下記表4に示すものに変更した他は同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、実施例2B〜7B、13B〜14Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0231】
〔実施例8B〕
前記で作製した圧電体(P1)において厚さのみを下記表4に記載の数値に変更したものを準備した。アクリル系樹脂(ペルノックス社製、ペルトロンA2002)を圧電体に対してアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、実施例8Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0232】
〔実施例9B〜10B〕
実施例8Bにおいて、圧電体の厚さ、表面層に用いた材料、及び表面層の厚さを表4に示すものに変更した他は同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、実施例9B〜10Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0233】
〔実施例11B〕
前記で作製した圧電体(P1)において厚さのみを下記表4に記載の数値に変更したものを準備した。アクリル系樹脂(大日精化社製、セイカビームEXF−01)を圧電体に対してアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、実施例11Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0234】
〔実施例12B〕
前記で作製した圧電体(P1)において厚さのみを下記表4に記載の数値に変更したものを準備した。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製、光硬化性モノマーA−DPH)を酢酸ブチルにより固形分濃度40質量%に希釈し、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、イルガキュア184)を固形分に対して2質量%となるように混合したコート液を調製した。圧電体に対して前記コート液をアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、メタルハライドランプで積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記光硬化性モノマーが重合された三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、実施例12Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0235】
〔比較例1B〜2B〕
実施例1Bにおいて、圧電体の種類、圧電体の厚さ、表面層の厚さを表4に示すものに変更した他は同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、比較例1B〜2Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0236】
〔比較例3B〕
前記で作製した圧電体(P1)において厚さのみを下記表4に記載の数値に変更したものを準備した。水720重量部と2−プロパノール1080重量部と酢酸46重量部とを混合した後に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM403」)480重量部とメチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM13」)240重量部とN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製の商品名「KBM603」)120重量部とを順次混合し、3時間攪拌して前記3種のアルコキシシランの混合液の加水分解、部分縮合を行いコート液を調製した。圧電体に対して前記コート液をアプリケーターで塗布し、130℃にて10分間加熱して、三次元架橋構造を有する重合体を作製して表面層を形成し、比較例3Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0237】
〔比較例4B〕
比較例3Bにおいて、圧電体の種類、圧電体の厚さ、表面層の厚さを下記表4に示すものに変更した他は同様にして、シラン系硬化物を作製して表面層を形成し、比較例4Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。結果を下記表4に示す。
【0238】
【表4】
【0239】
表4に示す材料の詳細は、以下の通りである。
・RA1353:アクリル系樹脂、三井化学株式会社製、オレスターRA1353
・RA3091:アクリル系樹脂、三井化学株式会社製、オレスターRA3091
・RA4040:アクリル系樹脂、三井化学株式会社製、オレスターRA4040
・RA5000:アクリル系樹脂、三井化学株式会社製、オレスターRA5000
・RA6800:アクリル系樹脂、三井化学株式会社製、オレスターRA6800
・A2002:アクリル系樹脂、ペルノックス社製、ペルトロンA2002
・A2101:アクリル系樹脂、ペルノックス社製、ペルトロンA2101
・A2102:アクリル系樹脂、ペルノックス社製、ペルトロンA2102
・EXF−01:アクリル系樹脂、大日精化社製、セイカビームEXF−01
・A−DPH:新中村化学工業株式会社製、光硬化性モノマーDPHA
・シラン系硬化物:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン/メチルトリメトキシシラン/N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
【0240】
表4に示すように、実施例1B〜14Bの積層体は、圧電体と表面層との密着性(密着力)に優れていた。
【0241】
次に、実施例1B、2B、5B、6B、及び8B〜14Bの積層体について、実施例1Aで示した方法により、表面層の引張弾性率Ecを測定し、表面層の引張弾性率Ecと表面層の厚さdとの比〔Ec/d〕を求め、感度変化の評価を行った。結果を下記表5に示す。
【0242】
【表5】
【0243】
表5に示すように、実施例1B、2B、5B、6B、及び8B〜14Bは、実施例1A等と同様に、0.6≦Ec/dを満たしており、かつ、表面層を設けたことによる感度の低下が顕著に抑制されていた。
以上から明らかなように、実施例1B、2B、5B、6B、及び8B〜14Bは、第2の態様の実施例に該当するだけでなく、第1の態様の実施例にも該当する。
【0244】
〔実施例15B〕
[圧電体(P3)の作製]
まず、NatureWorks LLC社製ポリ乳酸(品名:IngeoTM biopolymer、銘柄:4032D、重量平均分子量Mw:20万、融点(Tm):166℃、ガラス転移温度(Tg):57〜60℃)100重量部に対して、ブルーイング剤としてFS Blue 1504を0.01重量部添加してドライブレンドし、二軸押出機で混練し、ブルーイング剤を含むマスターバッチを作製した。
【0245】
次に、上記ポリ乳酸「4032D」94重量部に対し、上記ブルーイング剤を含むマスターバッチ5重量部、及び、安定化剤〔ラインケミー社製Stabaxol P400(10重量部)、ラインケミー社製Stabaxol I(70重量部)、及び日清紡ケミカル社製カルボジライトLA−1(20重量部)の混合物〕1.0重量部を添加し、ドライブレンドして原料を作製した。
作製した原料を押出成形機ホッパーに入れて、210℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.3分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ6%であった。
得られた予備結晶化シートを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸速度10m/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸した(延伸工程)。得られたフィルムの厚さは49.2μmであった。
その後、前記一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、145℃に加熱したロール上に15秒間接触させアニール処理し、その後急冷を行って、結晶性高分子圧電体(圧電体)である圧電体(P3)を作製した(アニール処理工程)。
【0246】
得られた圧電体(P3)について、圧電体(P1)と同様にして、各種物性を測定した。
各種物性の測定結果を、下記表6に示す。
【0247】
【表6】
【0248】
<表面層の形成>
圧電体(P3)において厚さのみを下記表7に記載の数値に変更したものを準備した。アクリル系樹脂コート液(東洋インキ製、アンチブロックハードコートLIODURAS TYAB−014)を圧電体に対してアプリケーターで塗布し、60℃にて5分間乾燥後、高圧水銀灯(フィルター無し)で積算光量1000mJ/cm
2の紫外線を照射することで、上記アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体硬化物を作製して表面層を形成し、実施例15Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例1Bと同様にして物性測定及び密着性評価を実施した。
結果を下記表7に示す。
【0249】
<圧電体に含まれる高分子のアクリル末端比率の測定>
上記実施例15Bの積層体の表面層側を、研磨の対象物の厚さが圧電体単体の厚さと等しくなるまで紙ヤスリで研磨することにより、上記実施例15Bの積層体から表面層を除去して圧電体を得た。
得られた圧電体について、圧電体に含まれる高分子のアクリル末端比率の測定の測定を行った。以下、詳細を示す。
表面層が除去された圧電体から20mgの試料を採取し、採取した試料を0.6mLの重水素化クロロホルム(クロロホルム−d)に溶解させ、
1H−NMRスペクトル測定用の試料溶液を得た。
得られた試料溶液について、以下の測定条件にて、
1H−NMRスペクトルを測定した。
−
1H−NMRスペクトルの測定条件−
測定装置: 日本電子(株)製 ECA−500(プロトン核共鳴周波数500MHz)
溶媒:重水素化クロロホルム(クロロホルム−d)
測定温度:室温
パルス角:45°
パルス間隔:6.53秒
積算回数:512回
【0250】
測定された
1H−NMRスペクトルでは、δ5.9ppm、δ6.1ppm、及びδ6.4ppmの位置に、アクリル末端(アクリロイル基)中の3つのプロトンに由来するピークが、δ5.1ppmの位置に、高分子の主鎖中のメチンのプロトンに由来するピークが、それぞれ高分解能で観測された。
次に、δ5.9ppm、δ6.1ppm、及びδ6.4ppmの各ピークの積分値の平均値を、高分子のアクリル末端に由来するピークの積分値として求めた。また、δ5.1ppmのピークの積分値を、高分子の主鎖中のメチンに由来するピークの積分値として求めた。
以上の結果に基づき、前述の式(X)に従って、圧電体(結晶性高分子圧電体)に含まれる高分子のアクリル末端(アクリロイル基)の比率を求めた。
結果を下記表7に示す。
【0251】
<耐湿熱性の評価>
実施例15Bの積層体を、50mm×50mmの正方形にカットし試験片を作製した。この試験片を、2枚(以下、「試験片1」及び「試験片2」とする)作製した。
試験片1について、前述の「GPC測定方法」と同様にして分子量Mwを測定し、得られた値を「試験前Mw」とした。
また、試験片2を、85℃ RH85%に保った恒温恒湿器内に吊り下げ、この恒温恒湿器内で192時間保持し(耐湿熱性試験)、次いでこの恒温恒湿器から取り出した。取り出した試験片2について、前述の「GPC測定方法」と同様にして分子量Mwを測定し、得られた値を「耐湿熱性試験後Mw」とした。
上記で得られた試験前Mw及び耐湿熱性試験後Mwから、以下の評価基準に従って、耐湿熱性を評価した。
結果を下記表7に示す。
−評価基準−
A:耐湿熱性試験後Mw/試験前Mw=0.7以上
B:耐湿熱性試験後Mw/試験前Mw=0.7未満、0.4以上
C:耐湿熱性試験後Mw/試験前Mw=0.4未満
【0252】
<引裂強さの評価>
実施例15Bの積層体の引裂強さを、以下のようにして測定した。
まず、
図3に示すように、実施例15Bの積層体であるフィルム10から、引裂強さ測定用の試験片12(JIS K 7128−3(1998)で規定される試験片)を切り出した。このとき、
図3に示すように、試験片12の長手方向とフィルム10のTD方向とが平行となるように切り出した。
次に、切り出した試験片12について、JIS K 7128−3(1998)の「直角形引裂法」に準拠し、試験片12の長手方向中央部をフィルムのMD方向に引裂いた時の引裂強さを測定した。
ここで、引張試験機のクロスヘッド速度は毎分200mmとし、引裂強さは下式より算出した。
T=F/d
〔上記式において、Tは引裂強さ(N/mm)、Fは最大引裂荷重、dは試験片の厚さ(mm)を表す。〕
結果を下記表7に示す。
【0253】
〔実施例16B〕
実施例15Bにおいて、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを下記表7に示すように変更したこと以外は実施例15Bと同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体硬化物を作製して表面層を形成し、実施例16Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例15Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表7に示す。
【0254】
〔実施例17B〕
実施例15Bにおいて、高圧水銀灯に対してフィルター(ショット社製テンパックス、厚さ2mm)を取り付け、特定波長の紫外線をカットしたこと、並びに、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを下記表7に示すように変更したこと以外は実施例15Bと同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体硬化物を作製して表面層を形成し、実施例17Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例15Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表7に示す。
【0255】
〔実施例18B〕
実施例15Bにおいて、光源を無電極Hバルブに変更したこと、並びに、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを下記表7に示すように変更したこと以外は実施例15Bと同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体硬化物を作製して表面層を形成し、実施例18Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例15Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表7に示す。
【0256】
〔実施例19B〕
実施例18Bにおいて、無電極Hバルブに対してフィルター(ショット社製テンパックス、厚さ2mm)を取り付け、特定波長の紫外線をカットしたこと、並びに、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを下記表7に示すように変更したこと以外は実施例18Bと同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体硬化物を作製して表面層を形成し、実施例19Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例18Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表7に示す。
【0257】
〔実施例20B〕
実施例15Bにおいて、アクリル系樹脂コート液(TYAB−014)に対して紫外線吸収剤であるTINUVIN120(BASF社製)を固形分濃度で1wt%となるように添加したこと、並びに、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを下記表7に示すように変更したこと以外は実施例15Bと同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体硬化物を作製して表面層を形成し、実施例20Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例15Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表7に示す。
【0258】
〔実施例21B〕
実施例20Bにおいて、TINUVIN120(BASF社製)の添加量を固形分濃度で10wt%となるように変更したこと、並びに、圧電体の厚さ及び表面層の厚さを下記表7に示すように変更したこと以外は実施例20Bと同様にして、アクリル系樹脂が重合された三次元架橋構造を有する重合体硬化物を作製して表面層を形成し、実施例21Bの積層体を作製した。
得られた積層体について、実施例20Bと同様にして物性測定及び評価を実施した。
結果を下記表7に示す。
【0259】
【表7】
【0260】
表7に示すように、実施例15B〜21Bの積層体は、実施例1B〜14Bの積層体と同様に、圧電体と表面層との密着性(密着力)に優れていた。
更に、実施例15B〜21Bの積層体のうち、圧電体に含まれる高分子(ポリ乳酸)のアクリル末端の比率が2.0×10
−5〜10.0×10
−5の範囲内である、実施例15B、17B、及び19Bでは、圧電体の耐湿熱性及び引裂強さにも優れていた。
【0261】
次に、実施例15B〜21Bの積層体について、実施例1Aで示した方法により、表面層の引張弾性率Ecを測定し、表面層の引張弾性率Ecと表面層の厚さdとの比〔Ec/d〕を求め、感度変化の評価を行った。結果を下記表8に示す。
【0262】
【表8】
【0263】
表8に示すように、実施例15B〜21Bは、実施例1A等と同様に、0.6≦Ec/dを満たしており、かつ、表面層を設けたことによる感度の低下が顕著に抑制されていた。
以上から明らかなように、実施例15B〜21Bは、第2の態様の実施例に該当するだけでなく、第1の態様の実施例にも該当する。
【0264】
2013年4月10日に出願された日本国特許出願2013−082392、2013年4月23日に出願された日本国特許出願2013−090766、及び2014年2月7日に出願された日本国特許出願2014−022550の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。