特許第5956698号(P5956698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5956698成形用ポリオルガノシロキサン組成物、光学用部材、光源用レンズまたはカバー、および成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5956698
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】成形用ポリオルガノシロキサン組成物、光学用部材、光源用レンズまたはカバー、および成形方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20160714BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20160714BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20160714BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20160714BHJP
   H01L 33/00 20100101ALI20160714BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08G77/20
   G02B1/04
   H01L33/00 Z
【請求項の数】19
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-561786(P2015-561786)
(86)(22)【出願日】2015年12月18日
(86)【国際出願番号】JP2015085501
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-255835(P2014-255835)
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-255836(P2014-255836)
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-255837(P2014-255837)
(32)【優先日】2014年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 紀久夫
(72)【発明者】
【氏名】田貝 秀文
(72)【発明者】
【氏名】島川 雅成
(72)【発明者】
【氏名】眞保 和希
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/047892(WO,A1)
【文献】 特開2010−047646(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/084699(WO,A1)
【文献】 特開2006−328102(JP,A)
【文献】 特開2007−038443(JP,A)
【文献】 特開2014−125624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00−83/16
C08G 77/00−77/62
G02B 1/00−1/18
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に平均して2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における粘度が10,000〜1,000,000mPa・sである直鎖状のポリオルガノシロキサンと、
(B)式:RSiO1/2(式中、Rは、それぞれ独立にアルケニル基または置換もしくは非置換のアルキル基である。)で表される1官能型シロキサン単位と、式:RSiO2/2(式中、Rは前記の通りである。)で表される2官能型シロキサン単位と、式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位を、平均してa:b:c(ただし、0.3≦a≦0.6、0≦b≦0.1、0.4≦c≦0.7であり、a+b+c=1の関係が成り立つ。)のモル比で含有し、1分子中に平均して2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを、前記(A)成分と本成分との合計に対して30〜80質量%と、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を有し、平均重合度が10以上で、前記水素原子の含有量が5.0mmol/g以上11.0mmol/g以下であり、熱重量分析(TGA)による140℃までの重量減少率が2.0重量%以下であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基と前記(B)成分中のアルケニル基との合計1モルに対して、本成分中の前記水素原子が1.0〜3.0モルとなる量、および
(D)ヒドロシリル化反応触媒の触媒量
をそれぞれ含有してなることを特徴とする成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
前記(A)成分である直鎖状ポリオルガノシロキサンは、25℃における粘度が50,000〜500,000mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(B)成分は、ケイ素原子に結合した置換もしくは非置換のアルキル基を1分子中に1個以上、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を1分子中に0個以上それぞれ有し、前記した置換もしくは非置換のアルキル基に対する前記アルコキシ基のモル比(アルコキシ基のモル数/置換もしくは非置換のアルキル基のモル数)が0.030以下であるポリオルガノシロキサンを含むことを特徴とする、請求項1または2記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(B)成分は、
式:(CH(CH=CH)SiO1/2で表される1官能型シロキサン単位と、
式:(CHSiO1/2で表される1官能型シロキサン単位と、
式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
前記(B)成分は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量Mwが1500以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
前記(B)成分の、前記(A)成分と当該(B)成分の合計に対する含有割合は、35〜70質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項7】
前記(C)成分は、熱重量分析(TGA)による180℃までの重量減少率が2.0重量%以下である直鎖状のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項8】
前記(C)成分は、一般式:
(RSiO1/2)(RHSiO2/2(RSiO2/2(RSiO1/2)、または一般式:
(RHSiO1/2)(RHSiO2/2(RSiO2/2(RHSiO1/2
(式中、Rはそれぞれ独立に、アルケニル基を除く、置換もしくは非置換の1価の炭化水素基である。xおよびyはいずれも正の整数であり、30≦x+y≦200かつ0.4≦x/(x+y)≦0.7の関係が成り立つ。)で表される直鎖状のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項9】
前記(D)ヒドロシリル化反応触媒は白金系金属化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項10】
無機充填剤を含有せず、25℃において回転粘度計で測定した粘度が、10,000〜1,000,000mPa・sであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項11】
無機充填剤を含有せず、6mmの厚さの硬化物の波長400nmの光の透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を硬化してなる硬化物を有することを特徴とする光学用部材。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を硬化してなる硬化物を有することを特徴とする光源用レンズ。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を硬化してなる硬化物を有することを特徴とする光源用カバー。
【請求項15】
前記光学用部材は、一次または二次のLED用レンズ、肉厚光学レンズ、LED用リフレクター、自動車用LEDマトリクスライティングレンズ、オーグメンテッドリアリティ(拡張現実感)用光学部材、LEDチップ用シリコーン光学ヘッド、作業ライト用レンズおよびリフレクターから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項12記載の光学用部材
【請求項16】
前記光源は、屋内または屋外用照明、公共輸送機関の読書灯およびアクセント照明、LED街路灯から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項13記載の光源用レンズ
【請求項17】
前記光源は、屋内または屋外用照明、公共輸送機関の読書灯およびアクセント照明、LED街路灯から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項14記載の光源用カバー
【請求項18】
記光学用部材は、スマートフォンまたはタブレット用の照明光学部材、コンピュータまたはテレビジョン用のLEDディスプレイ、ライトガイドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項12記載の光学用部材
【請求項19】
請求項1〜11のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を用い、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、ポッティングおよびディスペンシングから選ばれる方法で成形を行うことを特徴とする成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用ポリオルガノシロキサン組成物、光学用部材、光源用レンズまたはカバー、および前記成形用ポリオルガノシロキサン組成物を用いる成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、硬化してシリコーンゴムとなるポリオルガノシロキサン組成物はよく知られており、その耐候性、耐熱性、電気絶縁性、硬度、機械的強度、伸び等の優れた性質を利用して、電気・電子分野、光学・オプトエレクトロニクス、センサー、建築などの各分野で、ポッティング材やコーティング材、型取り、射出成形等の成形材料、被覆材料などに広く用いられている。中でも付加反応によって硬化するポリオルガノシロキサン組成物は、適切な加熱により速やかに硬化し、硬化時に腐蝕性物質等の放出がないことから、前記各分野における用途が拡大している。
【0003】
そして、射出成形において生産性を高めるためには、成形後硬化して得られた硬化物を金型からできるだけ迅速に取り外し、次の成形を行うことが必要である。そのため、金型に対する離型性に優れた硬化物を形成するポリオルガノシロキサン組成物が望まれている。
【0004】
離型性に優れた硬化物が得られるポリオルガノシロキサン組成物として、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンと補強性充填材を予め混合し、加熱処理を行うか、あるいは均一混合してから、得られたコンパウンドベースに水素原子含有ポリオルガノシロキサンと白金系触媒を混合し、さらに離型性を向上させる成分として、分子中にケイ素原子に結合した水酸基を含有するポリオルガノシロキサンを混合した硬化性組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に2個以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金族金属系触媒と、エリスリトール誘導体の脂肪酸エステル等の離型剤を必須成分とする、良好な金型離型性を有するシリコーン樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された組成物は、いずれも、硬化物の金型に対する離型性が十分ではなかった。また、成形を繰り返すと金型表面(成形面)にシリコーンの被膜ができ、成形された製品(レンズ等)の品質が低下するという問題があった。そこで、金型の成形面を洗浄し、シリコーン被膜を取り除く必要があるが、複雑な形状をした金型の場合には洗浄が困難であるため、金型を汚染しない成形用シリコーン組成物が望まれている。
【0007】
さらに、硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基を分子中に平均2個以上有する所定の粘度のジアルキルポリシロキサンと、4官能型シロキサン単位を有しアルケニル基を所定の割合で含むオルガノポリシロキサンとからなるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを主成分とし、4官能型シロキサン単位を有し、ケイ素原子結合水素原子を所定の割合で含むオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、ヒドロシリル化反応用触媒を含有し、硬さ(JIS K6253規定)が30以上80以下で伸びが50%以上、あるいは硬さが75以下で伸びが35%以上であるシリコーン組成物が提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)。
【0008】
しかしながら、特許文献3および特許文献4に記載された組成物も、硬化物の金型に対する離型性が悪く、金型を汚染しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−140319号公報
【特許文献2】特許4697405号公報
【特許文献3】特許5475295号公報
【特許文献4】特許5568240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、射出成形等の成形性が良好であり、硬化物の金型からの離型が容易で、金型を汚染しない成形用ポリオルガノシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、
(A)1分子中に平均して2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における粘度が10,000〜1,000,000mPa・sである直鎖状のポリオルガノシロキサンと、
(B)式:RSiO1/2(式中、Rは、それぞれ独立にアルケニル基または置換もしくは非置換のアルキル基である。)で表される1官能型シロキサン単位と、式:RSiO2/2(式中、Rは前記の通りである。)で表される2官能型シロキサン単位と、式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位を、平均してa:b:c(ただし、0.3≦a≦0.6、0≦b≦0.1、0.4≦c≦0.7であり、a+b+c=1の関係が成り立つ。)のモル比で含有し、1分子中に平均して2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを、前記(A)成分と本成分との合計に対して30〜80質量%と、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を有し、平均重合度が10以上で、前記水素原子の含有量が5.0mmol/g以上11.0mmol/g以下であり、熱重量分析(TGA)による140℃までの重量減少率が2.0重量%以下であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基と前記(B)成分中のアルケニル基との合計1モルに対して、本成分中の前記水素原子が1.0〜3.0モルとなる量、および
(D)ヒドロシリル化反応触媒の触媒量
をそれぞれ含有してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の光学用部材、光源用レンズまたはカバーは、前記した本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を硬化してなることを特徴とする。
本発明の成形方法は、前記した本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を用い、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、ポッティングおよびディスペンシングから選ばれる方法で成形を行うことを特徴とする。
【0013】
なお、以下の記載においては、「ケイ素原子に結合したアルケニル基」を単に「アルケニル基」と示すことがある。また、「ケイ素原子に結合した水素原子」を「Si−H」と示すことがある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物によれば、十分なゴム硬度を有し、優れた金型離型性と機械的特性(強度、伸び等)を有する硬化物を得ることができる、また、硬化物の着色や変色(黄変)が抑えられ、透明性が良好である。さらに、金型に対する非汚染性に優れるため、成形品の生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[成形用ポリオルガノシロキサン組成物]
本発明の実施形態の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、
(A)1分子中に平均2個以上のアルケニル基を有し、25℃における粘度が10,000〜1,000,000mPa・sの直鎖状のポリオルガノシロキサンと、(B)1官能型シロキサン単位と2官能型シロキサン単位と4官能型シロキサン単位を特定のモル比で含有し、1分子中に平均して2個以上のアルケニル基を有するレジン構造のポリオルガノシロキサンと、(C)平均重合度が10以上で、Si−Hの含有量が5.0mmol/g以上11.0mmol/g以下であり、かつTGAによる140℃までの重量減少率が2.0重量%以下のポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(D)ヒドロシリル化反応触媒をそれぞれ含有してなる。
以下、(A)〜(D)の各成分について説明する。
【0017】
<(A)成分>
(A)成分は、1分子中に平均して2個以上のアルケニル基を有し、25℃における粘度が10,000〜1,000,000mPa・s(10〜1,000Pa・s)であるポリオルガノシロキサンである。(A)成分の分子構造は、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状である。(A)成分は、後述する(B)成分とともに、本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物のベースポリマーとなる。
【0018】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基などの、炭素原子数が2〜8、より好ましくは2〜4のものが挙げられる。特にビニル基が好ましい。アルケニル基は、分子鎖末端と中間のいずれか一方のケイ素原子に結合していてもよいし、分子鎖末端と中間の両方のケイ素原子に結合していてもよい。
【0019】
(A)成分において、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、非置換または置換の1価の炭化水素基が挙げられる。非置換の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素原子数6〜14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。また、置換の1価の炭化水素基としては、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。アルケニル基以外の有機基としては、メチル基あるいはフェニル基が好ましい。
【0020】
(A)成分の25℃における粘度(以下、単に粘度と示す。)は、10,000〜1,000,000mPa・sである。(A)成分の粘度は、10,000〜700,000mPa・sが好ましく、50,000〜500,000mPa・sがより好ましく、60,000〜200,000mPa・sが特に好ましい。(A)成分の粘度が10,000〜1,000,000mPa・sである場合には、得られる組成物の作業性が良好であるうえに、この組成物から得られる硬化物の物理的特性が良好となり好ましい。
【0021】
(A)成分の具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0022】
これらの重合体または共重合体は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基が全てメチル基である直鎖状ポリオルガノシロキサン、すなわち分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体を使用した場合には、引張り強度や伸び等の機械的特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0023】
<(B)成分>
(B)成分は、式:RSiO1/2で表される1官能型シロキサン単位と、式:RSiO2/2で表される2官能型シロキサン単位と、式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位(以下、Q単位という。)を、平均して、1官能型シロキサン単位:2官能型シロキサン単位:Q単位=a:b:cのモル比で含有し、1分子中に平均して2個以上のアルケニル基を有するレジン構造(三次元網目構造)を有するポリオルガノシロキサン(以下、レジン状ポリオルガノシロキサン、または樹脂状ポリオルガノシロキサンという。)である。
【0024】
上記単位式において、Rは、それぞれ独立に、アルケニル基または置換もしくは非置換のアルキル基である。レジン状ポリオルガノシロキサンの1分子中に存在する複数のRのうちで、少なくとも1個はアルケニル基である。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基等が挙げられる。ビニル基が好ましい。非置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等が挙げられる。置換のアルキル基としては、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基のような、水素原子がハロゲン原子で置換されたハロゲン置換アルキル基が挙げられる。置換もしくは非置換のアルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0025】
a、b、cは、0.3≦a≦0.6、0≦b≦0.1、0.4≦c≦0.7であり、かつa+b+c=1の関係を満足させる正数である。a、b、cのより好ましい範囲は、0.35≦a≦0.55、0≦b≦0.05、0.45≦c≦0.65である。
【0026】
レジン状ポリオルガノシロキサンの有するアルケニル基の数は、1分子中に平均して2個以上である。(B)成分として、1分子中のアルケニル基数が平均で2個未満のレジン状ポリオルガノシロキサンを使用した場合には、組成物の金型離型性および非汚染性が悪くなり、好ましくない。硬化物に高い硬度が要求される場合、アルケニル基数は平均2.2個以上が好ましい。
【0027】
(B)成分として、1官能型シロキサン単位と2官能型シロキサン単位とQ単位を前記モル比で含有し、1分子中に平均2個以上のアルケニル基を有するレジン状ポリオルガノシロキサンを使用することにより、金型離型性および金型の非汚染性に優れた組成物が得られる。
【0028】
また、(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンは、ケイ素原子に結合した置換もしくは非置換のアルキル基を1分子中に1個以上有するとともに、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を1分子中に0個以上有する。そして、置換もしくは非置換のアルキル基に対するアルコキシ基のモル比(アルコキシ基のモル数/置換もしくは非置換のアルキル基のモル数、以下、アルコキシ基/アルキル基ともいう。)が0.030以下であることが好ましい。
ここで、ケイ素原子に結合したアルコキシ基数が0個以上のレジン状ポリオルガノシロキサンには、1分子中のアルコキシ基が0個であり、前記アルコキシ基/アルキル基の値が0であるポリオルガノシロキサンも含む。
【0029】
(B)成分として、アルコキシ基/アルキル基が0.030超のレジン状ポリオルガノシロキサンを使用した場合には、得られる組成物の金型離型性が悪くなり、金型を汚染しやすい。レジン状ポリオルガノシロキサンにおける前記モル比(アルコキシ基/アルキル基)は、0.020以下がより好ましく、0.015以下が特に好ましい。アルコキシ基/アルキル基は、0であることが最も好ましい。
なお、レジン状ポリオルガノシロキサンにおけるアルコキシ基およびアルキル基の含有量(モル数)は、核磁気共鳴分光法(NMR)等により容易に求めることができる。
【0030】
このレジン状ポリオルガノシロキサンは、平均単位式:(RSiO1/2(RSiO2/2(SiO4/2(ORで表すことができる。
上記平均単位式において、Rおよびa、b、cは、前述の通りであり、Rは、非置換のアルキル基である。非置換のアルキル基としては、メチル基またはエチル基を挙げることができる。pは、前記したアルコキシ基/アルキル基の値を0.030以下、より好ましくは0.020以下、特に好ましくは0.015以下とする正数である。
【0031】
(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンとしては、シロキサン単位が、式:RSiO1/2(Rは、非置換のアルキル基であり、複数のRは異なっていてもよい。以下同じ。)で表される1官能型シロキサン単位(以下、RSiO1/2単位ともいう。)と、式:RSiO1/2(Rはアルケニル基である。以下同じ。)で表される1官能型シロキサン単位(以下、RSiO1/2単位ともいう。)と、式:RSiO2/2で表される2官能型シロキサン単位(以下、RSiO2/2単位ともいう。)と、式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位(Q単位)とからなる共重合体、
SiO1/2単位と、RSiO1/2単位と、Q単位とからなる共重合体、
SiO1/2と、RSiO2/2単位と、Q単位とからなる共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
前記共重合体の中でも、シロキサン単位が、RSiO1/2単位とRSiO1/2単位とQ単位とからなる共重合体が好ましい。
金型離型性および非汚染性の観点から、共重合体の有する(OR)基はできるだけ少ないほど好ましく、(OR)基を持たない共重合体が特に好ましい。
【0033】
より具体的には、シロキサン単位が、式:(CH(CH=CH)SiO1/2で表される1官能型シロキサン単位(以下、Mvi単位と示す。)と、式:(CHSiO1/2で表される1官能型シロキサン単位(以下、M単位と示す。)と、式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位(Q単位)とから構成される共重合体が好ましい。
【0034】
一般に、レジン状ポリオルガノシロキサンは、クロロシランとアルコキシシランに水を加えて加水分解することにより得ることができる。本発明の組成物に配合する(B)レジン状ポリオルガノシロキサンを得るには、(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンの有するアルコキシ基(メトキシ基やエトキシ基等)の含有割合を一定以下に調整することが好ましい。アルコキシ基の含有割合を一定以下に調整する方法は特に限定されず、加水分解の反応温度や時間等をコントロールする、アルコール等の水溶性溶媒を用いて抽出除去する、などの方法があるが、例えば、以下に記載する(1)〜(3)の工程を順に行うことにより、アルコキシ基の含有割合が少ないレジン状ポリオルガノシロキサンを得ることができる。
【0035】
(1)式:RSiW、RSiW、SiWから選ばれる少なくとも3種のケイ素化合物を、アセトンと水との混合液により加水分解する工程。
(2)前記(1)の工程の後、水洗浄により酸およびアセトンを除去する工程。
(3)前記(2)の工程の後、アルカリを加えて加熱する工程。
【0036】
前記(1)の工程で出発物質として用いるケイ素化合物において、Rは、それぞれ独立に、アルケニル基または置換もしくは非置換のアルキル基であり、前記式(1)と同様の基を挙げることができる。また、Wは、それぞれ独立に、塩素原子、アルコキシ基、または水酸基である。このようなケイ素化合物として、テトラエトキシシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン等を挙げることができる。そして、これらのケイ素化合物の中から3種以上を選択して使用する。
なお、出発物質として用いる3種のケイ素化合物のうちの少なくとも1種は、Rとして、1個以上のアルケニル基を有するものを用いる。また、少なくとも1種のケイ素化合物は、Wとして、1個以上の塩素原子を有するものを用いることが好ましい。
【0037】
アセトンと水と混合割合は、アセトン:水が1:1〜1:4(質量比)の範囲が好ましい。加水分解は公知の方法で行うことができる。また、(2)の工程において、水洗浄の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0038】
(3)の工程において、前記(2)の工程で得られた溶液に加えるアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化セシウム等を挙げることができる。そして、そのようなアルカリを公知の方法で加えて加熱し脱水を行った後、リン酸等を用いて中和を行い、レジン状ポリオルガノシロキサンを得る。
【0039】
(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンの好適な重量平均分子量Mwは、1,500〜10,000であり、2,200〜8,000の範囲がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと示す。)によるポリスチレン換算の値である。レジン状ポリオルガノシロキサンのMwが1,500未満の場合は、十分な機械的強度が安定して得られず、10,000を超える場合は、本組成物の粘度が高くなり、流動性を失い射出成形性が劣る。
【0040】
(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンは、前記(A)成分である直鎖状ポリオルガノシロキサンとともに、本発明の組成物のポリマー成分となる。(B)レジン状ポリオルガノシロキサンと(A)直鎖状ポリオルガノシロキサンとの配合比は、(A)成分と(B)成分との合計(100質量%)に対して、(B)成分が30〜80質量%、(A)成分が70〜20質量%となる比率が好ましい。(B)成分の配合比率が30質量%未満の場合には、十分な硬度が得られない。(B)成分の配合比率が80質量%を超える場合には、組成物の粘度が高く、作業性が悪くなる。(B)成分の配合比率は、35〜70質量%がより好ましく、37〜65質量%が特に好ましい。
【0041】
<(C)成分>
(C)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(Si−H)を1個以上有し、平均重合度が10以上で、Si−Hの含有量が5.0mmol/g以上11.0mmol/g以下のポリオルガノハイドロジェンシロキサンである。(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、そのSi−Hが前記(A)成分および(B)成分のアルケニル基と反応することで、架橋剤として作用する。(C)成分の分子構造に特に限定はなく、例えば、直鎖状、環状、分岐状、三次元網目状などの各種のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを使用することができる。1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
粘度やSi−H量のコントロールのし易さの観点から、(C)成分としては直鎖状のものが好ましい。(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンが直鎖状である場合、Si−Hは、分子鎖の末端と中間のいずれか一方のみに位置していても、その両方に位置していてもよい。硬化物の硬さを適度に調整できる点で、Si−Hを分子鎖の中間に有する直鎖状のポリオルガノハイドロジェンシロキサンが好ましい。
【0043】
(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンにおいて、平均重合度は1分子中のケイ素原子の数に相当し、1分子中に存在するシロキサン単位の数でもある。(C)成分の平均重合度は10以上である。平均重合度は、10〜350が好ましく、20〜150がより好ましい。また、(C)成分の単位質量当りのSi−Hの含有量は、5.0mmol/g以上11.0mmol/g以下である。Si−Hの含有量は、6.0〜10.0mmol/gの範囲が好ましい。
【0044】
(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、より具体的には、分子式:(RSiO1/2)(RHSiO2/2(RSiO2/2(RSiO1/2)、または分子式:(RHSiO1/2)(RHSiO2/2(RSiO2/2(RHSiO1/2)で表される直鎖状のポリオルガノハイドロジェンシロキサンであることが好ましい。
ここで、Rはそれぞれ独立に、アルケニル基を除く、置換もしくは非置換の1価の炭化水素基である。Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素原子数6〜14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。Rとしては、メチル基あるいはフェニル基が好ましい。
【0045】
前記式において、xおよびyはいずれも正の整数であり、8≦x+y≦300かつ0.4≦x/(x+y)≦0.7の関係が成り立つ。ここで、x+yは、分子鎖中間のシロキサン単位の数を表す。なお、このポリオルガノハイドロジェンシロキサンにおいて、1分子中のケイ素原子の数である平均重合度は、x+y+2となる。x+yは、30以上300以下の範囲が好ましく、100以上200以下が特に好ましい。
【0046】
本発明の目的を達成するために、(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、低分子量成分を含有しないものであり、熱重量分析(TGA)による室温(例えば、25℃)から140℃までの重量減少率が2.0重量%以下のものである。TGAによる重量減少率は、より好ましくは180℃までで2.0重量%以下である。TGAによる測定の条件は特に限定されないが、例えば、室温から毎分5℃の昇温速度で温度を上昇させる、などの条件で重量減少率を測定することができる。TGA装置としては、例えば、装置名TG/DTA6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を挙げることができる。
【0047】
前記質量減少率が140℃までで2.0質量%以下のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを得る方法としては、例えば、減圧条件下で130℃以上に加熱する方法や、薄膜蒸留を行う方法、分子蒸留を行う方法等が挙げられる。薄膜蒸留は、減圧下ワイパーや遠心力により原料を薄膜状で蒸留する方法である。薄膜蒸留法では、液深による沸点上昇が抑えられ、より低沸点条件での蒸留が可能である。また、分子蒸留は、上記に加えて、蒸発面近くに凝縮面(コンデンサー)を備えて蒸留する方法であり、より高真空での蒸留が可能になる。
【0048】
(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンの配合量は、上記(A)成分および(B)成分の硬化有効量である。(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のアルケニル基との合計1モルに対して、(C)成分中のSi−Hが1.0〜3.0モルとなる量とする。好ましい範囲は、1.5〜2.5モルの範囲である。前記アルケニル基の合計1モルに対して、(C)成分中のSi−Hが1.0モル未満では、硬化反応が進行せず、硬化物を得ることが困難になるおそれがある。また、Si−Hが3.0モルを超えると、未反応のSi−Hが硬化物中に多量に残存するため、硬化物の物性が経時的に変化するおそれがある。
【0049】
<(D)成分>
(D)成分であるヒドロシリル化反応触媒は、(A)成分および(B)成分中のアルケニル基と(C)成分中のSi−Hとの付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進する触媒である。ヒドロシリル化反応触媒としては、ヒドロシリル化反応を促進するものであれば特に限定されない。白金系金属化合物が好ましいが、パラジウム、ロジウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、鉄等の金属系触媒も使用することができる。
白金系金属化合物としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、オレフィン類やビニル基含有シロキサンまたはアセチレン化合物を配位子として有する白金錯体等を使用することができる。
【0050】
(D)白金系金属化合物の配合量は、組成物全体に対する含有割合が、白金元素に換算して0.5〜10質量ppmとなる量である。より好ましくは1〜5質量ppm、さらに好ましくは1〜3質量ppmである。白金系金属化合物の配合量が0.5ppm未満では、硬化性が著しく低下し、10ppmを超える場合には、硬化物の透明性が低下する。白金系金属化合物の配合量が0.5〜10質量ppmの範囲にある場合には、物理的特性が良好な硬化物が得られ、また経済的にも有利である。
【0051】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、上述した各成分を均一に混合することによって調製されるが、反応抑制剤の添加により任意に硬化性を調整することができる。硬化反応の抑制剤としては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール、1−エチニルシクロヘキサノールのようなアセチレンアルコール、およびマレイン酸ジアリルのようなマレイン酸誘導体が挙げられる。
【0052】
また、硬化が進行しないように2液に分けて保存し、使用時に2液を混合して硬化を行うこともできる。2液混合タイプでは、脱水素反応の危険性の点から、(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと(D)成分である白金系金属化合物を同一の包袋とすることは避ける必要がある。
【0053】
こうして得られた本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物の粘度は、25℃において回転粘度計で測定した値として、10,000〜1,000,000mPa・sの範囲が好ましい。さらに好ましい範囲は20,000〜500,000mPa・sであり、特に50,000〜300,000mPa・sの範囲が好ましい。粘度が10,000mPa・s未満では、成形時の液だれ、エアーの混入等、成形不良が生じやすくなり、粘度が1,000,000mPa・sを超えると、流動性が悪くなり、射出が困難となる。特に、無機充填剤を含有しない射出成形用ポリオルガノシロキサンは、高粘度化が難しいため、(A)成分の粘度、(B)成分の分子量、(C)成分の平均重合度等が重要となる。
【0054】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、無機充填剤を含有しないことが好ましい。無機充填剤を含有しない組成としても、十分なゴム硬度を有し、機械的特性(強度、伸び等)が良好な硬化物を得ることができる。また、無機充填剤を含有しない成形用ポリオルガノシロキサン組成物を使用した場合には、光(例えば、可視光)の透過率の高い硬化物を得ることができる。
【0055】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、必要に応じて加熱することで硬化する。硬化条件は特に限定されるものではないが、通常40〜200℃、好ましくは60〜170℃の温度に、0.5分〜10時間好ましくは1分〜6時間程度保持することで硬化する。
【0056】
[成形方法]
前記した成形用ポリオルガノシロキサン組成物を成形し硬化することにより、成形品を得ることができる。成形は、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、ポッティングおよびディスペンシングから選ばれる方法で行うことができ、特に射出成形が好ましい。この硬化物である成形品は、金型からの離型性、および金型に対する非汚染性に優れている。
【0057】
また、この成形品は、十分なゴム硬度を有し、機械的特性(強度、伸び)が良好であり、かつ耐候性が良好である。また、経時的に変色(黄変)しにくい。
さらに、無機充填剤を含有しない成形用ポリオルガノシロキサン組成物を使用した場合には、6mmの厚さで波長400nmの光の透過率が85%以上と、光透過率が高い。
【0058】
したがって、この成形品は、例えば、LED装置のような発光装置における発光素子の封止層や、機能性レンズ等の光学部材として好適している。
特に、前記成形用ポリオルガノシロキサン組成物を、型成形や射出成形等の方法で成形し硬化してなる成形品は、離型性に優れ、機械的特性や耐候性が良好で変色(黄変)しにくく、可視光等の光透過率が高いので、屋外用の各種の光源や自動車用光源のレンズやカバーとして、好適に使用することができる。
【0059】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を硬化してなる光学用部材、光源用レンズまたはカバーとしては、一次または二次のLED用レンズ、肉厚光学レンズ、LED用リフレクター、自動車用LEDマトリクスライティングレンズ、オーグメンテッドリアリティ(拡張現実感)用光学部材、LEDチップ用シリコーン光学ヘッド、作業ライト用レンズおよびリフレクター、スマートフォンまたはタブレット用の照明光学部材、コンピュータまたはテレビジョン用のLEDディスプレイ、ライトガイド等を挙げることができる。また、光源用レンズまたはカバーの光源としては、屋内または屋外用照明、公共輸送機関の読書灯およびアクセント照明、LED街路灯等を挙げることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
以下の記載において、M単位、Mvi単位、D単位、D単位およびQ単位は、それぞれ以下の式で表されるシロキサン単位を表し、OE単位は、以下の式で表される有機単位を表す。
M単位…………(CHSiO1/2
vi単位…………(CH(CH=CH)SiO1/2
D単位…………(CHSiO2/2
単位…………(CH)HSiO2/2
Q単位…………SiO4/2
OE単位…………CHCH1/2
【0061】
粘度は、特に断らない限り25℃における測定値である。また、質量平均分子量(Mw)は、トルエンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置(株式会社島津製作所製、装置名;Prominence GPCシステム、カラム;Shim−pack GPC−80M)を用いて測定し、ポリスチレン換算した値である。さらに、不揮発分(質量%)は、150℃×1時間の加熱条件で測定した値である。
【0062】
合成例1(レジン状ビニル基含有メチルポリシロキサンB1の合成)
テトラエトキシシラン970g(4.66mol)、クロロジメチルビニルシラン42g(0.35mol)、クロロトリメチルシラン357g(3.29mol)およびキシレン400gをフラスコにいれて撹拌し、その中に、水600gとアセトン300gとの混合液900gを滴下した。70〜80℃で1時間撹拌して加水分解を行った後、分液し、キシレン溶液を得た。次いで、得られたキシレン溶液に水500gを加えて水洗と分液を行い、キシレン溶液中のアセトンを水中に抽出した。そして、洗浄に用いた水が中性を示すまで、水洗と分液の操作を繰り返した。
【0063】
次いで、得られたキシレン溶液に、キシレン200gと水酸化カリウム0.18gを加え、加熱しながら撹拌を行った。140℃まで加熱して脱水を行った後、140℃で3時間還流を行った。冷却後、リン酸を用いて中和を行い、不揮発分が50質量%になるように調整し、ビニル基含有メチルポリシロキサンB1を得た。
【0064】
こうして得られたビニル基含有メチルポリシロキサンB1について、エトキシ基中のCH基由来の水素原子数と、ケイ素原子に結合したCH基由来の水素原子数との比(CH基由来の水素原子数/Si−CH基由来の水素原子数)をH−NMRにより求めたところ、0.0089であった。このことから、B1における、ケイ素原子に結合したメチル基(Si−CH基)に対するアルコキシ基(エトキシ基)のモル比(以下、OR/SiMeという。)は、0.013であることがわかった。
【0065】
また、得られたビニル基含有メチルポリシロキサンB1は、出発物質の仕込み量とH−NMRの結果から、MVi単位とM単位とQ単位とOE単位を有し、各単位のモル比が、MVi単位:M単位:Q単位:OE単位=0.042:0.396:0.562:0.017であることがわかる。GPCにより求めたB1のMwは3400であった。また、前記モル比およびMwから求められたB1の平均単位式は、MVi2.019.127.2(OE)0.82であり、1分子中のケイ素原子に結合したアルケニル基数は平均2.0個であった。
【0066】
合成例2(レジン状ビニル基含有メチルポリシロキサンB2の合成)
テトラエトキシシラン970g(4.66mol)、クロロジメチルビニルシラン70g(0.58mol)、クロロトリメチルシラン335g(3.09mol)およびキシレン400gをフラスコにいれて撹拌し、その中に水600gを滴下した。70〜80℃で1時間撹拌し、加水分解を行った後、分液し、キシレン溶液を得た。次いで、得られたキシレン溶液を130℃まで加熱し、脱水および脱塩酸を行った。キシレン溶液が中性を示すまで前記操作を続けた。
【0067】
次いで、キシレン溶液に、キシレン200gと水酸化カリウム0.18gを加え、加熱しながら撹拌を行った。140℃まで加熱を行った後、140℃で3時間還流を行った。冷却後、リン酸を用いて中和を行い、不揮発分が50質量%になるように調整し、樹脂状のビニル基含有メチルポリシロキサンB2を得た。
【0068】
こうして得られたビニル基含有メチルポリシロキサンB2において、H−NMRにより求められたCH基由来の水素原子数/Si−CH基由来の水素原子数は、0.0201であった。このことから、B2におけるOR/SiMeは、0.030であることがわかった。
【0069】
また、ビニル基含有メチルポリシロキサンB2は、出発物質の仕込み量とH−NMRの結果から、MVi単位とM単位とQ単位とOE単位を有し、各単位のモル比が、MVi単位:M単位:Q単位:OE単位=0.070:0.371:0.559:0.038であることがわかる。GPCにより求めたB2のMwは1850であった。また、前記モル比およびMwから求められたB2の平均単位式は、MVi1.89.614.5(OE)0.98であり、1分子中のケイ素原子に結合したアルケニル基数は平均1.8個であった。
【0070】
合成例3(レジン状ビニル基含有メチルポリシロキサンB3の合成)
分液後のキシレン溶液に、キシレンと水酸化カリウムを加えて140℃まで加熱し脱水した後、140℃で5時間還流を行った。それ以外は、合成例1と同様にして、ビニル基含有メチルポリシロキサンB3を得た。
【0071】
得られたビニル基含有メチルポリシロキサンB3について、H−NMRにより求められたCH基由来の水素原子数/Si−CH基由来の水素原子数は、0.0089であった。このことから、B3におけるOR/SiMeは、0.013であることがわかった。
【0072】
また、ビニル基含有メチルポリシロキサンB3は、出発物質の仕込み量とH−NMRの結果から、MVi単位とM単位とQ単位とOE単位を有し、各単位のモル比が、MVi単位:M単位:Q単位=0.042:0.396:0.562:0.017であることがわかる。GPCにより求めたB3のMwは3740であった。また、前記モル比およびMwから求められたB3の平均単位式はMVi2.221.129.9(OE)0.90であり、1分子中のケイ素原子に結合したアルケニル基数は平均2.2個であった。
【0073】
合成例4(レジン状ビニル基含有メチルポリシロキサンB4の合成)
テトラエトキシシラン970g(4.66mol)、クロロジメチルビニルシラン70g(0.58mol)、クロロトリメチルシラン335g(3.09mol)およびキシレン400gをフラスコにいれて撹拌し、その中に水600gとアセトン300gとの混合液900gを滴下した。70〜80℃で1時間撹拌し、加水分解を行った後、分液し、キシレン溶液を得た。
【0074】
次に、得られたキシレン溶液に水500gを加えて水洗と分液を行い、キシレン溶液中のアセトンを水中に抽出した。そして、洗浄に用いた水が中性を示すまで、水洗と分液の操作を繰り返した。
【0075】
次いで、キシレン溶液に、キシレン200gと水酸化カリウム0.18gを加え、加熱しながら撹拌を行った。140℃まで加熱を行い、その後140℃で3時間還流を行った。冷却後、リン酸を用いて中和を行い、不揮発分が50質量%になるように調整し、樹脂状のビニル基含有メチルポリシロキサンB4を得た。
【0076】
こうして得られたビニル基含有メチルポリシロキサンB4について、H−NMRにより求められたCH基由来の水素原子数/Si−CH基由来の水素原子数は、0.0140であった。このことから、B4におけるOR/SiMeは、0.021であることがわかった。
【0077】
また、得られたビニル基含有メチルポリシロキサンB4は、出発物質の仕込み量とH−NMRの結果から、MVi単位とM単位とQ単位とOE単位を有し、各単位のモル比が、MVi単位:M単位:Q単位:OE単位=0.070:0.371:0.559:0.026であることがわかる。GPCにより求めたB4のMwは2340であった。また、前記モル比およびMwから求められたB4の平均単位式はMVi2.312.218.4(OE)0.86であり、1分子中のケイ素原子に結合したアルケニル基数は平均2.3個であった。
【0078】
合成例5(ポリメチルハイドロジェンシロキサンC1の合成)
平均で式:MD50Mで表されるポリメチルハイドロジェンシロキサン1390g(0.44mol)と、オクタメチルシクロテトラシロキサン1406g(4.75mol)、およびヘキサメチルジシロキサン83g(0.51mol)を、活性白土25gとともにフラスコに入れて撹拌し、50〜70℃で6時間平衡化反応を行った。なお、以下の記載では、「平均で式:XXで表される」を、「平均式:XXで表される」と示す。
【0079】
次いで、反応液をろ過して活性白土を取り除いた後、5mmHg以下の減圧下で140℃まで昇温し、その後減圧下140〜150℃で加熱撹拌を6時間行った。
こうして得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC1は、出発物質の仕込み量から、平均式:MD2320Mで表されるものであることがわかる。この式から求められる、C1におけるSi−Hの含有割合は7.6mmol/gであった。
【0080】
得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC1のTGAによる重量減少率は、140℃で0.16重量%、180℃で0.26重量%であった。なお、TGA測定は、TG/DTA6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用し、室温から毎分5℃の昇温速度で温度を上昇させる条件で行った。C2〜C6のTGA測定も同様である。
【0081】
合成例6(ポリメチルハイドロジェンシロキサンC2の合成)
平均式:MD80Mで表されるポリメチルハイドロジェンシロキサン1985g(0.40mol)と、オクタメチルシクロテトラシロキサン1421g(4.80mol)を、活性白土30gとともにフラスコに入れて撹拌し、50〜70℃で6時間平衡化反応を行った。
【0082】
次いで、反応液をろ過して活性白土を取り除いた後、5mmHg以下の減圧下で130℃まで昇温し、その後減圧下130〜140℃で加熱撹拌を6時間行った。次いで、さらに薄膜蒸留を行った。すなわち、薄膜蒸留装置(株式会社神鋼環境ソリューション製、装置名:TYPE 2−03 WIPRENE)を用いて、前記加熱撹拌後の反応液500gを、減圧下130℃で約10時間かけて蒸留し、低沸点を有する低分子量物質の除去を行った。
【0083】
こうして得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC2は、出発物質の仕込み量から、平均式:MD8048M(ケイ素原子数130)で表されるものであることがわかる。この式から求められる、C2におけるSi−Hの含有割合は9.4mmol/gであった。また、得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC2のTGAによる重量減少率は、140℃で0.1重量%未満、180℃で0.20重量%であった。
【0084】
合成例7(ポリメチルハイドロジェンシロキサンC3の合成)
平均式:MD80Mで表されるポリメチルハイドロジェンシロキサン1092g(0.22mol)と、オクタメチルシクロテトラシロキサン1302g(4.40mol)を、活性白土22gとともにフラスコに入れて撹拌し、50〜70℃で6時間平衡化反応を行った。
【0085】
次いで、反応液をろ過して活性白土を取り除いた後、5mmHg以下の減圧下で130℃まで昇温し、その後減圧下130〜140℃で加熱撹拌を6時間行った。次いで、さらに前記した薄膜蒸留装置を用いて低沸点を有する低分子量物質の除去を行い、ポリメチルハイドロジェンシロキサンC3を得た。
【0086】
得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC3は、出発物質の仕込み量から、平均式:MD8080M(ケイ素原子数162)で表されるものであることがわかる。この式から求められる、C3におけるSi−Hの含有割合は7.4mmol/gであった。また、得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC3のTGAによる重量減少率は、140℃で0.20質量%、180℃で0.23重量%であった。
【0087】
合成例8(ポリメチルハイドロジェンシロキサンC4の合成)
トルエン500g、テトラエトキシシラン830g(4.0モル)およびジメチルクロロシラン760g(8.0モル)を仕込み、均一に溶解させた。これを、撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器に入れた過剰の水に、撹拌しながら滴下し、副生した塩酸の溶解熱を冷却により除去しつつ、室温で共加水分解と縮合を行った。得られた有機相を、洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、脱水した後、トルエンと副生したテトラメチルジシロキサンを、100℃/667Pa(5mmHg)で留去して、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンC4を得た。
【0088】
得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC4は、29Si−NMRの測定により求められた各単位比(M:Q=2:1)と、GPCにより求められたMw775から、式:M(ケイ素原子数12)で表されるレジン構造のポリメチルハイドロジェンシロキサンであることがわかった。このポリメチルハイドロジェンシロキサンC4におけるSi−Hの含有割合は10.3mmol/gであった。
また、ポリメチルハイドロジェンシロキサンC4のTGAによる重量減少率は、140℃で3.56重量%、180℃で15.7重量%であった。
【0089】
合成例9(ポリメチルハイドロジェンシロキサンC5の調製)
合成例5で得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC1に対して薄膜蒸留を行った。すなわち、薄膜蒸留装置(株式会社神鋼環境ソリューション製、装置名:TYPE 2−03 WIPRENE)を用いて、500gのC1を減圧下130℃で約10時間かけて蒸留し、低沸点を有する低分子量物質の除去を行った。
【0090】
こうして得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC5のTGAによる重量減少率は、140℃で0.1重量%未満、180℃でも0.1重量%未満であった。
【0091】
合成例10(ポリメチルハイドロジェンシロキサンC6の調製)
合成例8で得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC4に対して薄膜蒸留を行った。すなわち、薄膜蒸留装置(株式会社神鋼環境ソリューション製、装置名:TYPE 2−03 WIPRENE)を用いて、500gのC4を減圧下130℃で約10時間かけて蒸留し、低沸点を有する低分子量物質の除去を行った。
【0092】
こうして得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC6のTGAによる重量減少率は、140℃で0.21重量%、180℃でも4.27重量%であった。
【0093】
実施例1
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された直鎖状のジメチルポリシロキサンA1(粘度70,000mPa・s)400質量部(以下、単に部と示す。)と、合成例1で得られたレジン状メチルポリシロキサンB1(Mw3400、1分子中のビニル基数平均2.0個、OR/SiMe=0.013)のキシレン溶液(50質量%)1200部とを混合し(混合の質量比は、不揮発分で(A1):(B1)=4:6)、減圧条件下150℃に加熱してキシレンを除去した。
【0094】
次いで、得られたビニル基含有ポリマー混合物(1)100部と、合成例5で得られた平均式:MD2320Mで表されるメチルハイドロジェンポリシロキサンC1を9.0部(ビニル基含有ポリマー混合物(1)中のビニル基に対する(C1)成分中のSi−Hのモル比(H/Vi)=1.8)と、(D)テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンを配位子として有する白金錯体溶液をPt分として組成物全体の2ppmとなる量をそれぞれ混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0095】
実施例2〜5
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサンA1(粘度70,000mPa・s)と、(B)成分として、合成例1,3,4で得られたレジン状メチルポリシロキサンB1、B3、B4のいずれか一つと、(C)成分として、合成例6〜7および合成例9〜10で得られたメチルハイドロジェンポリシロキサンC2〜C3およびC5〜C6のいずれか一つ、および(D)テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンを配位子として有する白金錯体溶液を、それぞれ表1に示す割合で配合し、実施例1と同様に混合してポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0096】
なお、実施例4においては、直鎖状のジメチルポリシロキサンA1の460部と、合成例3で得られたレジン状メチルポリシロキサンB3(Mw3740、1分子中のビニル基数平均2.2個、OR/SiMe=0.013)のキシレン溶液(50質量%)1080部とを混合し(混合の質量比は、不揮発分で(A1):(B3)=46:54)、減圧条件下150℃に加熱してキシレンを除去して得られたビニル基含有ポリマー混合物を用いた。
また、実施例5においては、直鎖状のジメチルポリシロキサンA1の580部と、合成例4で得られたレジン状メチルポリシロキサンB4(Mw2340、1分子中のビニル基数平均2.3個、OR/SiMe=0.021)のキシレン溶液(50質量%)840部とを混合し(混合の質量比は、不揮発分で(A1):(B4)=58:42)、減圧条件下150℃に加熱してキシレンを除去して得られたビニル基含有ポリマー混合物を用いた。
【0097】
比較例1
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された直鎖状のジメチルポリシロキサンA1(粘度70,000mPa・s)400部と、合成例2で得られたレジン状メチルポリシロキサンB2(Mw1850、1分子中のビニル基数平均1.8個、OR/SiMe=0.030)のキシレン溶液(50質量%)1200部とを混合し(混合の質量比は、不揮発分で(A1):(B2)=4:6)、減圧条件下150℃に加熱してキシレンを除去した。
【0098】
次いで、得られたビニル基含有ポリマー混合物(2)100部と、合成例5で得られた平均式:MD2320Mで表されるメチルハイドロジェンポリシロキサンC1を14.3部(ビニル基含有ポリマー混合物(2)中のビニル基に対する(C1)成分中のSi−Hのモル比(H/Vi)=1.8)と、(D)テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンを配位子として有する白金錯体溶液をPt分として組成物全体の2ppmとなる量をそれぞれ混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0099】
比較例2
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された直鎖状のジメチルポリシロキサンA1(粘度70,000mPa・s)600部と、合成例2で得られたレジン状メチルポリシロキサンB2(Mw1850、1分子中のビニル基数平均1.8個、OR/SiMe=0.030)のキシレン溶液(50質量%)800部とを混合し(混合の質量比は、不揮発分で(A1):(B2)=6:4)、減圧条件下150℃に加熱してキシレンを除去した。
【0100】
次いで、得られたビニル基含有ポリマー混合物(3)100部と、合成例8で得られた式:Mで表されるメチルハイドロジェンポリシロキサンC4を6.7部(ビニル基含有ポリマー混合物(3)中のビニル基に対する(C4)成分中のSi−Hのモル比(H/Vi)=1.7)と、(D)テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンを配位子として有する白金錯体溶液をPt分として組成物全体の2ppmとなる量をそれぞれ混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0101】
こうして実施例1〜5および比較例1〜2で得られたポリオルガノシロキサン組成物の特性を、以下に示すようにして測定し評価した。結果を表1に示す。
【0102】
[硬化後の物性]
実施例1〜5および比較例1〜2で得られたポリオルガノシロキサン組成物を、成形後130℃で15分間加熱して硬化させ、厚さ2mmのシートを作製した。得られたシートからJIS K6249に準拠したサイズの試験片を切り出し、23℃における硬度(TYPE A)、引張強さ[MPa]および伸び[%]を、JIS K6249に拠り測定した。
【0103】
[透過率]
実施例1〜5および比較例1〜2で得られたポリオルガノシロキサン組成物を、金型内で、130℃で15分間加熱して硬化させ、厚さ2mmのシートを作製した。得られたシートから作製された試験片(縦30mm×横30mm)に波長400nmの光を照射し、透過率を測定した。透過率の測定は、分光測色計(コニカミノルタ社製、装置名;CM−3500d)を使用して行った。
【0104】
[離型性]
実施例1〜5および比較例1〜2で得られたポリオルガノシロキサン組成物を、縦220×横20mm、深さ3mmの金型内に注入し、160℃で5分間加熱して硬化させた。室温に冷却後、硬化物を金型から剥がすために要する剥離力を測定した。剥離力の測定は、金型を固定し、金型内の硬化物の端部をオートグラフで挟み、毎秒10mmの速さで垂直に引き上げて金型から剥がす方法で行った。
【0105】
[成形性]
実施例1〜5および比較例1〜2で得られたポリオルガノシロキサン組成物について、金型汚染性の評価を行った。東芝製EC100N射出成形機を使用して、金型(20mm×170mm、深さ2mm)内に射出し硬化させる成形を、成形温度140℃および180℃でそれぞれ1000ショット繰り返した。なお、いずれの成形温度でも、硬化時間は30秒間とした。その後、金型の成形面の汚れを目視で観察し、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:金型に付着物、くもりなし
○:金型に多少のくもりあり
×:金型に付着物あり
【0106】
さらに、成形温度140℃で射出成形を行って得られた成形品のヘイズを測定した。そして、以下の式によりヘイズの変化率を求めた。なお、ヘイズの測定には、BYK Gardner社のmicro−TRI−glossを使用した。
ヘイズの変化率(%)=
{(1000ショット目の成形品のヘイズ)−1ショット目の成形品のヘイズ)/(1ショット目の成形品のヘイズ)}×100
【0107】
【表1】
【0108】
表1から、以下のことがわかる。すなわち、(A)〜(D)の各成分が本発明に規定する所定の組成で配合された実施例1〜5のポリオルガノシロキサン組成物は、硬化物の金型に対する離型性に優れており、剥離に要する力が小さいうえに、繰り返し射出成形を行っても金型を汚染することがない。また、成形品のヘイズの変化が少なく、初期の透明性を維持している。また、硬化物の光透過率が90%以上と高く、透明性に優れている。さらに、硬化物の硬さ、引張強さ、伸び等の物性も良好である。
【0109】
これに対して、比較例1のポリオルガノシロキサン組成物では、(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンが、実施例1〜5で配合されたレジン状ポリオルガノシロキサンとはと異なる方法により調製されており、1分子中のアルケニル基数の平均が2個未満となっている。そのため、得られる硬化物が、実施例1〜5の硬化物に比べて金型離型性および汚染性の点で劣っている。
また、比較例2のポリオルガノシロキサン組成物では、(B)成分として、1分子中のアルケニル基数の平均が2個未満のレジン状ポリオルガノシロキサンが使用され、さらに(C)成分として、重量減少率(140℃まで)が2.0重量%超のメチルハイドロジェンポリシロキサンが使用されているため、比較例1と同様に金型に対する汚染性が悪く、離型性は比較例1よりさらに悪くなっている。
【0110】
さらに、比較例1および2のポリオルガノシロキサン組成物を使用して繰り返し射出成形を行った成形品は、ヘイズの変化が大きく、初期の透明性が大幅に低下している。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物によれば、十分なゴム硬度を有し、優れた金型離型性および機械的特性(強度、伸び等)を有する硬化物を得ることができる、また、金型を汚染しないため、成形品の生産性を高めることができる。さらに、硬化物の着色や変色(黄変)が抑えられ、透明性が良好である。
したがって、このポリオルガノシロキサン組成物から得られる成形品は、例えば、LED装置のような発光装置における発光素子の封止材料や機能性レンズ等の光学部材として好適している。特に、屋外用光源や自動車用光源のレンズやカバーとして好適に使用することができる。
【要約】
この成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、粘度(25℃)が10,000〜500,000mPa・sの直鎖状ポリオルガノシロキサンと、(B)M単位とD単位とQ単位を、平均してa:b:c(0.3≦a≦0.6、0≦b≦0.1、0.4≦c≦0.7であり、a+b+c=1。)のモル比で含有し、2個以上のアルケニル基を有するレジン状ポリオルガノシロキサンを30〜80質量%と、(C)Si−Hを有し、平均重合度が10以上でSi−H含有量が5.0mmol/g以上11.0mmol/g以下であり、TGAによる140℃までの質量減少率が2.0質量%以下のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、(Si−H/アルケニル基)が1.0〜3.0モルとなる量と、(D)ヒドロシリル化反応触媒を含有する。離型性に優れた硬化物が得られ、金型の汚染が防止される。