(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の出力軸の回転に応じて出力される回転信号であって、前記出力軸の正転時と逆転時とでパルス幅又は振幅が異なるパルス信号として出力される回転信号を入力し、前記内燃機関を制御する制御装置であって、
前記内燃機関の出力軸が正転する運転条件を経験した後に、前記回転信号のパルス幅又は振幅の計測値の今回値と過去値との差分又は比率が、正転から逆転への切り替わりを検出するための第1判定値を超えたときに前記出力軸の正転から逆転への切り替わりを検出し、正転から逆転への切り替わりを検出した後に、前記差分又は比率が、逆転から正転への切り替わりを検出するための第2判定値を超えたときに前記出力軸の逆転から正転への切り替わりを検出する回転方向検出手段と、
前記回転方向検出手段が検出した回転方向に基づき前記出力軸の停止位置を検出し、前記停止位置に基づき再始動時に前記内燃機関を制御する制御手段と、
を含む、内燃機関の制御装置。
前記回転方向検出手段は、同じ回転方向を検出した過去複数回の前記計測値の平均値に基づき前記第1判定値及び前記第2判定値を学習する、請求項1又は2記載の内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、車両用内燃機関101の構成図である。尚、本実施形態において、内燃機関101は、一例として直列4気筒機関であるものとする。
内燃機関101は、その吸気管102に、電子制御スロットル104を備えている。電子制御スロットル104は、スロットルモータ103aと、スロットルバルブ103bとを備える。そして、内燃機関101は、電子制御スロットル104及び吸気バルブ105を介して、各気筒の燃焼室106内に空気を吸入する。
【0011】
各気筒の吸気ポート130に、燃料噴射弁131をそれぞれ設けてある。燃料噴射弁131は、制御装置としてのエンジンコントロールユニット(以下、ECUという。)114からの噴射パルス信号によって開弁動作し、燃料を噴射する。
燃焼室106内の燃料は、図示省略した点火プラグによる火花点火によって着火燃焼する。
燃焼室106内の燃焼後のガスは、排気バルブ107を介して排気管111に流出する。排気管111に設けたフロント触媒コンバータ108及びリア触媒コンバータ109は、排気管111を流れる排気を浄化し、浄化後の排気を大気中に放出する。
【0012】
吸気カムシャフト134,排気カムシャフト110は、一体的にカムを備え、このカムによって吸気バルブ105及び排気バルブ107を開動作させる。
吸気カムシャフト134に設けた可変バルブタイミング機構113は、内燃機関101の出力軸であるクランクシャフト120に対する吸気カムシャフト134の回転位相を連続的に変化させることで、吸気バルブ105のバルブタイミングを連続的に変化させる機構である。
【0013】
ECU114は、マイクロコンピュータを内蔵し、予めROMなどのメモリに記憶したプログラムに従って演算を行い、電子制御スロットル104,可変バルブタイミング機構113,燃料噴射弁131などに操作信号を出力する。
ECU114は、各種のセンサからの検出信号を入力する。
【0014】
各種のセンサとして、アクセルペダル116aの踏み込み量、即ち、アクセル開度ACCを検出するアクセル開度センサ116、内燃機関101の吸入空気量Qを検出するエアフローセンサ115、クランクシャフト120の回転に応じてパルス状の回転信号(単位クランク角信号)POSを出力するクランク角センサ117、スロットルバルブ103bの開度TVOを検出するスロットルセンサ118、内燃機関101の冷却水の温度TWを検出する水温センサ119、吸気カムシャフト134の回転に応じてパルス状のカム信号PHASEを出力するカムセンサ133、ブレーキペダル121が踏み込まれた制動時にオンになるブレーキスイッチ122、車両の走行速度(車速)VSPを検出する車速センサ123、吸気圧PBを検出する吸気圧センサ126などを設けてある。
更に、ECU114には、内燃機関101の運転・停止のメインスイッチであるイグニションスイッチ124のオン・オフ信号、スタータスイッチ125のオン・オフ信号が入力される。
【0015】
図2は、クランク角センサ117(出力軸回転センサ)及びカムセンサ133の構造を示す。
クランク角センサ117は、出力軸としてのクランクシャフト120に軸支され、周囲に被検出部としての突起部151を備えるシグナルプレート152と、内燃機関101側に固定され、突起部151を検出してパルス状の回転信号POSを出力する回転検出装置153とから構成される。
【0016】
回転検出装置153は、突起部151を検出してパルス信号を発生させるピックアップと共に、波形発生回路、選択回路などを含む各種の処理回路を一体的に備えている。
回転検出装置153が出力する回転信号POSは、突起部151を検出しない場合にローレベルを保持し、前記突起部151を検知したときに一定時間だけハイレベルに変化する、パルス信号とすることができ、また、突起部151を検出しない場合にハイレベルを保持し、前記突起部151を検知したときに一定時間だけローレベルに変化する、パルス信号とすることができる。
【0017】
シグナルプレート152の突起部151は、例えばクランク角で10degのピッチで等間隔に設けられるが、突起部151を2つ連続して欠落させてある部分を、クランクシャフト120の回転中心を挟んで対向する2箇所に設けてある。
尚、突起部151の欠落数は、1個とすることができる他、3つ以上連続して欠落させることができる。
【0018】
従って、クランク角センサ117(回転検出装置153)から出力されるパルス状の回転信号POSは、
図3に示すように、クランク角で10deg(単位クランク角)毎に16回連続してハイレベルに変化した後、30deg間ハイレベルを保持し、再度16回連続してハイレベルに変化する。
尚、
図3において、回転信号POSは、突起部151を検出しない場合にローレベルを保持し、前記突起部151を検知したときに一定時間だけハイレベルに変化するパルス信号として示してある。
【0019】
30degのパルス欠落期間後の最初の回転信号POSは、クランク角180deg間隔で出力されることになり、このクランク角180degは、4気筒機関101における気筒間の行程位相差、換言すれば、点火間隔に相当する。
尚、回転信号POSを、欠落なく一定間隔毎に出力させ、クランク角センサ117とは別に、基準のクランク角位置で、パルス状の基準クランク角信号を出力する基準クランク角センサを設けることができる。
【0020】
一方、カムセンサ133は、
図2に示すように、吸気カムシャフト134の端部に軸支され、周囲に被検出部としての突起部157を備えたシグナルプレート158と、内燃機関101側に固定され、突起部157を検出してパルス状のカム信号PHASEを出力する回転検出装置159とから構成される。
回転検出装置159は、突起部157を検出してパルス信号を発生するピックアップと共に、波形整形回路などを含む各種の処理回路を一体的に備えている。
【0021】
シグナルプレート158の突起部157は、カム角で90deg毎の4箇所それぞれに、1個、3個、4個、2個だけ設けられ、突起部157が複数連続して設けられる部分では、突起部157のピッチを、クランク角で30deg、カム角で15degに設定してある。
そして、カムセンサ133(回転検出装置159)から出力されるパルス信号であるカム信号PHASEは、
図3に示すように、突起部157を検知しない場合にはローレベルを保持し、突起部157を検知することで一定時間だけハイレベルに変化し、カム角で90deg、クランク角で180deg毎に、1個単独、3個連続、4個連続、2個連続にハイレベルに変化する。
【0022】
尚、カム信号PHASEを、突起部157を検出しない場合にハイレベルを保持し、前記突起部157を検知したときに一定時間だけローレベルに変化する、パルス信号とすることができる。
カム信号PHASEのうち、1個単独のカム信号PHASE、及び、複数連続して出力されるカム信号PHASEの先頭の信号は、クランク角で180deg間隔に出力される。
【0023】
ここで、カム信号PHASEの連続出力数は、特定のピストン位置になっている気筒の番号を示し、4気筒機関101において、気筒間における行程の位相差がクランク角で180degであって、点火が第1気筒→第3気筒→第4気筒→第2気筒の順で行われることに対応している。
即ち、カム信号PHASEの連続出力数が1であれば、第1気筒が特定のピストン位置になっていることを示し、カム信号PHASEの連続出力数が3であれば、第3気筒が特定のピストン位置になっていることを示し、カム信号PHASEの連続出力数が4であれば、第4気筒が特定のピストン位置になっていることを示し、カム信号PHASEの連続出力数が2であれば、第2気筒が特定のピストン位置になっていることを示す。
【0024】
ECU114は、カム信号PHASEの連続出力数を計数することで、次にピストンの位置が上死点TDCなどの基準位置となる気筒を判別し、係る判別の結果に基づいて燃料噴射や点火を行わせるべき気筒を特定し、噴射パルス信号や点火信号を出力する気筒を設定する。
より具体的には、ECU114は、回転信号POSの歯抜け箇所を回転信号POSの周期変化などから判断し、この歯抜け位置を基準に、カム信号PHASEの発生数を計数する区間を特定し、この計数区間におけるカム信号PHASEの発生数に基づいて、次に上死点となる気筒を検出する。
【0025】
ここで、回転信号POSとカム信号PHASEとの位相は、可変バルブタイミング機構113によってクランクシャフト120に対する吸気カムシャフト134の回転位相が変更されることによって変化する。
そこで、ECU114は、回転信号POSの欠落部分を基準に、基準クランク角位置REFを検出し、この基準クランク角位置REFから、カム信号PHASEが出力されるまでの角度を、可変バルブタイミング機構113による吸気カムシャフト134の回転位相を示す値として検出する。
【0026】
そして、ECU114は、可変バルブタイミング機構113の制御において、機関負荷や機関回転速度などの機関運転状態に基づいて目標の回転位相を演算し、例えば、実際の回転位相と目標の回転位相との偏差に基づく比例・積分・微分動作によって、可変バルブタイミング機構113の操作信号を演算して出力する。
回転信号POSは、前述のように、吸気カムシャフト134の回転位相の検出に用いられる他、機関回転速度NEの演算、更に、クランクシャフト120の回転位置の検出に用いられる。
【0027】
即ち、回転信号POSは、クランクシャフト120の回転位置の測定信号を兼ね、回転信号POSの欠落部分或いは欠落部分を基準に検出される基準クランク角位置REFからの回転信号POSの発生数を計数することで、クランクシャフト120の回転位置(回転角度)を検出することができる。
例えば、アイドルストップ制御によって内燃機関101を一時的に停止させる場合には、内燃機関101の停止時におけるクランクシャフト120の角度位置を計測することで、再始動時に燃料噴射を早期に再開させて、始動応答性を高めることができ、ECU114は、クランクシャフト120の停止角度位置の検出を、回転信号POSに基づいて行う。
【0028】
但し、内燃機関101が停止する直前には、筒内の圧縮圧などによって内燃機関101(クランクシャフト120)が逆方向に回転する場合があり、係る逆転時にも正転時と同様に回転信号POSの発生数を計数すると、クランクシャフト120の停止位置(停止したクランク角度位置)の検出に誤差を生じることになる。
そこで、内燃機関101の回転方向(正転、逆転)を判別できるように、クランク角センサ117が、内燃機関101の出力軸であるクランクシャフト120の正転時と逆転時とでパルス幅の異なる回転信号POSを出力するようにしてある。
【0029】
図4は、突起部151を検知しないときに回転信号POSがハイレベルを保持し、突起部151を検知したときに一時的にローレベルとなる信号特性で、正転時と逆転時とでパルス幅が異なる様子を示す。
図4に示す例では、正転時におけるパルス幅(ローレベル期間)を45μsとし、逆転時におけるパルス幅(ローレベル期間)を90μsとしてある。
【0030】
尚、本実施形態では、正転時のパルス幅WIPOSを45μsに設定し、逆転時のパルス幅WIPOSを90μsに設定したが、パルス幅WIPOSを上記の45μs,90μsに限定するものではない。また、正転時の方が逆転時よりもパルス幅WIPOSが大きくなるように設定することができる。
更に、回転信号POSを、突起部151を検知しないときに回転信号POSがローレベルを保持し、突起部151を検知したときに一時的にハイレベルとなる信号特性とし、ハイレベル期間としてのパルス幅を、正転時と逆転時とで異ならせることができる。
【0031】
回転軸の回転方向によってパルス幅の異なる回転信号を発生させるための方法としては、例えば特開2001−165951号公報に開示される方法を用いる。具体的には、回転検出装置内で、シグナルプレート152の突起部151の検出パルス信号として、相互に位相がずれた2つの信号を発生させ、これらの信号を比較することで正転、逆転を判定し、異なるパルス幅WIPOSとして生成される2つのパルス信号のいずれか一方を、回転方向の判定結果に基づいて選択し、最終的な回転信号として外部に出力させるようにする。
【0032】
ECU114では、回転信号POSのパルス幅WIPOSを計測し、計測したパルス幅WIPOSの時系列的な変化に基づいて、内燃機関101の出力軸であるクランクシャフト120が正転しているか逆転しているかを判断する。
そして、クランクシャフト120の正転時であれば、回転信号POSの出力時点で、前回の回転信号POSの出力時点よりも回転信号POSの発生間隔に相当するクランク角だけ、クランクシャフト120が正転方向に回転したと判断する。また、クランクシャフト120の逆転時であれば、回転信号POSの出力時点で、前回よりも回転信号POSの発生間隔に相当するクランク角だけ、逆転方向に回転したと判断する。
【0033】
上記のように、正転、逆転を判別してクランクシャフト120の停止位置の検出を行えば、内燃機関101の停止直前にクランクシャフト120が逆転することがあっても、クランクシャフト120の停止位置、換言すれば、停止時における各気筒のピストン位置を精度よく判断することができ、再始動時に早期に燃料噴射や点火を開始させることができる。
例えば、内燃機関101の停止直前にクランクシャフト120が逆転し、クランクシャフト120の停止位置が不明になると、再始動時には、例えば、回転信号POSの欠落部分が検出されるまでクランクシャフト120の回転位置が不明となり、燃料噴射や点火の開始が遅れる。
【0034】
本実施形態では、ECU114が、内燃機関101のアイドル運転状態で自動停止条件が成立すると内燃機関101を自動停止させ、内燃機関101を自動停止させた後に再始動条件が成立すると、内燃機関101を自動的に再始動させるアイドルストップ制御機能を有しており、内燃機関101を自動的に再始動させる際に、燃料噴射や点火の開始を早期に行えれば、内燃機関101の再始動性を向上させることができる。
アイドルストップ制御においては、例えば、車速VSPが0km/h、機関回転速度NEが所定回転速度以下、アクセル開度ACCが全閉、ブレーキスイッチ122がON(制動状態)、冷却水温度TWが所定温度以上(暖機後)などの条件が全て成立しているときに、アイドルストップ条件(自動停止条件)が成立していると判断し、燃料噴射及び点火を停止させ、内燃機関101を停止させる。
【0035】
前記所定回転速度は、アイドル回転状態を判断するための値であり、目標アイドル回転速度よりも僅かに高く設定され、また、前記所定温度は、機関101の完暖状態(暖機後の状態)を判断するための値である。
一方、内燃機関101を自動停止させている状態で、例えば、ブレーキスイッチ122がOFF(非制動状態)に切り替わったり、アクセルペダルが踏み込まれたり、自動停止状態(アイドルストップ状態)の継続時間が基準時間よりも長くなったり、バッテリ電圧の低下を判断したりすると、再始動条件が成立したと判断して、内燃機関101を再始動させる。
尚、内燃機関101の再始動時には、スタータモータを用いて内燃機関101を回転させ始めることができ、また、燃焼室内での燃料の燃焼によって内燃機関101を回転させ始めることができる。
【0036】
図5のフローチャートは、ECU114による、クランクシャフト120の回転方向の判定処理の流れを示す。
図5のフローチャートに示すルーチンは、回転信号POSの発生毎に割り込み実行され、まず、ステップS501では、今回発生した回転信号POS(パルス)のパルス幅WIPOSを計測する。
【0037】
次いで、ステップS502では、内燃機関101の運転条件が、クランクシャフト120が正転する条件であるか否かを判断する。
具体的には、以下の運転条件(1)〜(5)のうちの少なくとも1つが成立している場合に、内燃機関1の出力軸であるクランクシャフト120が正転する運転条件であると判断する。
尚、以下の運転条件(1)〜(5)のうちの複数が成立していることに基づいて正転を判断させれば、正転条件をより高精度に判定できる。
【0038】
(1)機関回転速度NEが所定回転速度NES以上である。
(2)カム信号PHASEによって判別される気筒が、正転方向に沿って切り替わっている。
(3)機関負荷TPが所定負荷TPS以上である。
(4)スタータスイッチ125のオン状態である。
(5)吸気圧PBが大気圧から所定以上に増大又は低下した状態である。
【0039】
運転条件(1)は、機関回転速度NE、換言すれば、クランクシャフト120の回転速度が上昇した状態であるか否かを判断するものである。所定回転速度NESは、クランクシャフト120の逆転時には到達することがない回転速度に設定する。例えば、所定回転速度NESは、500rpm程度の回転速度とする。
即ち、内燃機関101の逆転時における機関回転速度NEの最大値は、内燃機関101の正転時における機関回転速度NEの最大値に比べて低いので、逆転時の機関回転速度NEの最大値を越える機関回転速度NEに達している場合には、クランクシャフト120(内燃機関101)が正転していると判断できる。
【0040】
運転条件(2)は、ECU114がカム信号PHASEに基づき判別した、ピストンが既定位置にある気筒が、内燃機関101の正転時に対応する順で更新されているか否かを判断するものである。前述のように、内燃機関101の点火順は、第1気筒→第3気筒→第4気筒→第2気筒であるから、この点火順が、内燃機関101の正転時に対応する更新順となり、この順に従って、基準のピストン位置であると判別された気筒が更新されていれば、内燃機関101(クランクシャフト120)が正転していることになる。
【0041】
運転条件(3)は、内燃機関101の正転状態においてのみ実現可能な機関負荷で、内燃機関101が運転されているか否かを判別するものである。従って、所定負荷TPSは、内燃機関101の停止直前の正転から逆転に反転するような低負荷状態よりも高い機関負荷に設定され、所定負荷TPS以上の機関負荷TPで内燃機関101が運転されていれば、正転状態であると判断する。
換言すれば、内燃機関101が逆転している場合には、所定負荷TPSを超える機関負荷で内燃機関101が運転されることはなく、機関負荷が所定負荷TPS以上であれば、内燃機関101(クランクシャフト120)は正転していると判断する。
【0042】
機関負荷を表す状態量としては、エアフローセンサ115で検出される吸入空気量Qや、吸入空気量Qに基づいて算出される燃料噴射量など、内燃機関101に吸引される空気量を示す状態量を用いることができる。
ここで、所定負荷TPSを高く設定するほど、正転状態の判定精度は高くなるが、例えば、内燃機関101のアイドル運転時に運転条件(3)の成立が判断される程度に、所定負荷TPSを設定しても、必要充分な判定精度を得られる。
【0043】
運転条件(4)は、内燃機関101の始動操作状態であるか否かを判断するものである。スタータスイッチ125がオン状態で、スタータモータによって内燃機関101を回転させているクランキング状態である場合は、スタータモータの回転方向、即ち、正転方向にクランクシャフト120が回転することになる。従って、スタータスイッチ125のオン状態、換言すれば、内燃機関101の始動操作状態であれば、クランクシャフト120が正転していると判断できる。
【0044】
運転条件(5)は、吸気管102内の圧力である吸気圧PB(ブースト圧)の発達状態、換言すれば、吸気圧PBが大気圧から所定以上に変化しているか否かを判断するものである。
クランクシャフト120の逆転は、内燃機関101の停止直前に発生し、停止直前における吸気圧PBは大気圧付近となる。換言すれば、吸気圧PBが大気圧から所定以上に変化している場合には、内燃機関101(クランクシャフト120)の正転状態であると判断でき、吸気圧PBが大気圧から所定以上に変化しているか否かは、吸気圧PBと所定圧PBSとを比較することで判断できる。
【0045】
前述のように、逆転時には吸気圧PBが大気圧付近であるから、大気圧から所定以上に離れた圧力であって、クランクシャフト120の逆転時に達することのない吸気圧PBを前記所定圧PBSに設定し、この所定圧PBSよりも大気圧から離れている場合に正転状態であると判断できる。
ここで、内燃機関101が自然吸気機関(過給機を備えない機関)であれば、全開運転状態で吸気圧PBが大気圧付近になるので、所定圧PBSを負圧に設定し、吸気圧PBが所定圧PBS以上に大きな負圧になっている場合、換言すれば、内燃機関101が吸気負圧の大きな低負荷で運転されている場合に、内燃機関101(クランクシャフト120)の正転を判断する。
【0046】
また、内燃機関101が過給機を備える場合には、過給によって吸気圧PBは大気圧よりも高くなるので、所定圧PBSを正圧に設定し、吸気圧PBが所定圧PBS以上に大きな正圧になっている機関負荷の上昇状態において、内燃機関101(クランクシャフト120)の正転を判断することができる。
尚、内燃機関101が自然吸気機関である場合、機関負荷の増大によって吸気圧PBが負圧から大気圧に近づくことになり、また、前述のように、逆転状態においても吸気圧PBは大気圧付近となるので、吸気圧PBに基づいて機関負荷の判断を行わせる場合には、大気圧付近を正転判定領域から除外し、負圧発生状態である場合に、内燃機関101が正転していると判断することができる。
【0047】
一方、過給機を備えた内燃機関101の場合、機関負荷の増大によって吸気圧PBが大気圧からより高い正圧になるので、吸気圧PBに基づいて機関負荷の判断を行わせる場合には、吸気圧PBが大気圧よりも所定以上に高い場合に、内燃機関101が正転していると判断することができる。
【0048】
ステップS502において、現時点での内燃機関101の運転条件が、クランクシャフト120が正転する条件であると判断すると、ステップS503へ進んで、内燃機関101の運転状態に基づき正転判定を行った履歴を示すフラグF1に「1」を設定する。
前記フラグF1は、内燃機関101の停止を判断したとき、又は、内燃機関101の再始動時に0にリセットされるようになっており、フラグF1に「1」が設定されている場合には、正転する運転条件を経験済みであることを示す。
【0049】
ステップS503でフラグF1に「1」を設定した後、又は、ステップS502で、内燃機関101が正転する運転条件として予め設定した条件を満たしていないと判断した場合には、ステップS504へ進む。
ステップS504では、内燃機関101の停止要求が発生しているか否か、又は、内燃機関101の回転速度がアイドル回転よりも低く、停止に向けて回転速度が低下している状態であるか否かを判断する。換言すれば、ステップS504では、内燃機関101の逆転が発生し得る停止直前の状態に至る条件であるか否かを判断する。
内燃機関101の停止要求とは、キースイッチによる停止操作の他、アイドルストップ制御による停止指令などが含まれる。
【0050】
ステップS504で、内燃機関101の停止要求が発生しておらず、また、内燃機関101の回転速度が、停止に向けて低下している状態でもないと判断した場合、即ち、内燃機関1の運転継続状態である場合には、逆転判定は不要であるので、そのまま本ルーチンを終了させる。
一方、ステップS504で、内燃機関101の停止要求が発生していると判断した場合、又は、内燃機関101の回転速度が停止に向けて低下している状態であると判断した場合には、逆転の有無を判定させ、クランクシャフト120の停止位置の検出を行わせるために、ステップS505以降へ進む。
【0051】
ステップS505では、前記フラグF1に「1」が設定されているか否かを判断する。
フラグF1が「1」である場合には、クランクシャフト120が正転する状態を経験しており、回転方向の判定開始初期は、クランクシャフト120が正転しているものと推定できる。
一方、フラグF1がゼロである場合には、正転状態を経験しておらず、現時点での回転方向が、正転状態でない可能性がある。
【0052】
後述するように、回転信号POSのパルス幅WIPOSに基づく回転方向の判定においては、パルス幅WIPOSのステップ的な変化に基づき回転方向の切り替わりを検出するようになっており、パルス幅WIPOSのステップ的な変化を検出するまでは、回転方向を特定できない。そこで、クランクシャフト120が正転する条件で内燃機関101が運転された場合に、そのときの回転方向を正転と見做し、係る正転状態から逆転状態への切り替わりを、パルス幅WIPOSのステップ的な変化に基づいて検出するようにしてある。
従って、クランクシャフト120が正転する条件で内燃機関101が運転された履歴がない場合には、パルス幅WIPOSのステップ的な変化を検出する前の時点での回転方向が不明であることになり、クランクシャフト120の回転位置の検出が行えないことになる。
【0053】
尚、クランクシャフト120が正転する条件で内燃機関101が運転された後は、通常は、内燃機関101が停止する直前まで正転状態を保持することになるので、フラグF1は、クランクシャフト120が正転する条件で内燃機関101が運転された場合に1に設定され、その後は、クランクシャフト120が正転する条件を脱しても、フラグF1=1を保持し、内燃機関101が停止したとき、又は、再始動要求の発生時点で、0にリセットされるようにしてある。
【0054】
ステップS505で、フラグF1がゼロであると判断した場合には、そのまま本ルーチンを終了させることで、逆転検知に基づく停止位置の判定をキャンセルし、再始動時には、回転信号POSの欠落部分の検出を待ってクランクシャフト120の回転位置の検出を再開させるようにする。
【0055】
一方、フラグF1が「1」である場合は、ステップS506へ進み、回転方向の判定結果を示すフラグF2がゼロであるか否かを判断する。フラグF2の初期値は、正転を示す0である。
尚、ステップS502、ステップS503、ステップS505の処理、即ち、クランクシャフト120が正転する条件で内燃機関101が運転されたか否かを判定する処理、及び、当該判定結果に基づく回転方向の判定処理を省略し、内燃機関101の停止要求が発生した時点では、内燃機関101が正転しているものと見做して、その後の逆転への切り替わりをパルス幅WIPOSの時系列的な変化に基づいて検出させることができる。
【0056】
ステップS504からステップS505、ステップS506に進むようになった初期においては、クランクシャフト120が正転しているものと推定され、これに対応してフラグF2は初期値であるゼロになっているから、ステップS506からステップS507に進むことになる。
ステップS507では、今回計測したパルス幅WIPOSnewと、本ルーチンの前回実行時に計測した前回の回転信号POSのパルス幅WIPOSoldとの差分ΔWIPOS(ΔWIPOS=WIPOSnew−WIPOSold)を演算し、この差分(変化量)ΔWIPOSが、第1判定値SL1(SL1>0)よりも大きいか否かを判断する。
【0057】
換言すれば、ステップS507では、前回の回転信号POSのパルス幅WIPOSoldよりも、今回の回転信号POSのパルス幅WIPOSnewが第1判定値SL1を超えて大きいか否か、即ち、パルス幅WIPOSの時系列的なデータ間における差に基づき、パルス幅WIPOSが前回から今回にかけて増大したか否かを判断する。
尚、上記の第1判定値SL1及び後述する第2判定値SL2は、回転方向の切り替わりによるパルス幅WIPOSのステップ的な変化と、一定の回転方向を維持しているためにパルス幅WIPOSが殆ど変化しない状態とを切り分けることができるように、予め実験やシミュレーションによって適合してメモリに記憶されている値である。
【0058】
回転信号POSのパルス幅WIPOSは、前述のように、正転時に比べて逆転時に長くなるように設定してあるから、クランクシャフト120の回転方向が、正転から逆転に切り替わるときに、パルス幅WIPOSは、ステップ的に増大変化することになる。一方、クランクシャフト120が正転方向に回転し続ける間は、パルス幅WIPOSは、一定値を保持することになる。
従って、ステップS507で、ΔWIPOS≦第1判定値SL1であると判断した場合、即ち、パルス幅WIPOSのステップ的な増大変化が検出されず、パルス幅WIPOSが略一定値で推移している場合には、クランクシャフト120が正転方向に回転し続けていると判断し、ステップS508へ進んで、クランクシャフト120の正転を判定し、かつ、ステップS509では、フラグF2をゼロのまま保持させる。
【0059】
また、ステップS507で、ΔWIPOS>第1判定値SL1であると判断した場合には、前回から今回にかけてパルス幅WIPOSがステップ的に増大変化したことになり、係るパルス幅WIPOSの増大変化は、クランクシャフト120の回転方向が、正転から逆転に切り替わったことを示す。
そこで、ΔWIPOS>第1判定値SL1であると判断すると、ステップS510へ進んで、クランクシャフト120の回転方向が逆転方向であると判断し、次のステップS511では、フラグF2に対し、逆転状態であることを示す「1」を設定する。
【0060】
クランクシャフト120の回転方向が正転から逆転に切り替わることで、フラグF2に「1」が設定されると、次回は、ステップS506でフラグF2が「1」であると判断されることで、ステップS512に進むようになる。
クランクシャフト120が逆方向に回転している場合、次に発生する回転方向の切り替わりは、逆転から正転への切り替わりで、係る回転方向の切り替わり時には、回転信号POSのパルス幅WIPOSが時系列的に減少することになる。
【0061】
このため、ステップS512では、ΔWIPOS<第2判定値SL2(SL2<0)であるか否かを判断することで、パルス幅WIPOSが前回から今回にかけてステップ的に減少変化したか否かを判断する。
ここで、クランクシャフト120が逆方向に回転している状態を保持する場合には、パルス幅WIPOSはステップ的に減少することはなく、略一定で推移することになるから、ステップS512において、ΔWIPOS≧第2判定値SL2であると判断されることになる。
【0062】
そして、ΔWIPOS≧第2判定値SL2であれば、ステップS510へ進んで、引き続き逆転状態を判定し、次のステップS511では、フラグF2を「1」に保持させる。
一方、ΔWIPOS<第2判定値SL2であるとステップS512で判断した場合、即ち、前回のパルス幅WIPOSoldに対して、今回のパルス幅WIPOSnewが第2判定値SL1を超えて小さくなった場合には、クランクシャフト120の回転方向が逆転から正転に切り替わったものと判断し、ステップS508へ進む。
【0063】
ステップS508では、クランクシャフト120の回転方向が正転方向であると判断し、次のステップS509では、フラグF2に対し、正転状態であることを示すゼロを設定する。
上記のようにして、クランクシャフト120の回転方向を判定すると、正転時であれば、回転信号POSの出力時点で前回よりも回転信号POSの発生間隔に相当するクランク角だけ、クランクシャフト120が正転方向に回転したと判断する。
一方、クランクシャフト120の逆転時であれば、回転信号POSの出力時点で、前回よりも回転信号POSの発生間隔に相当するクランク角だけ、クランクシャフト120が逆転方向に回転したと判断する。
【0064】
このようにして、ECU114は、回転信号POSの発生毎に、クランクシャフト120の角度位置を判断し、内燃機関101の回転が停止するまでクランクシャフト120の角度位置の検出結果を更新することで、クランクシャフト120の停止位置を検出する。そして、ECU114は、内燃機関101の再始動時に、クランクシャフト120の停止位置に基づいて、燃料噴射や点火のタイミングを判断する。
【0065】
図4は、パルス幅WIPOSと、差分ΔWIPOSと、回転方向の判断結果との相間の一例を示すタイムチャートである。
回転信号POSの第1パルス#1から第3パルス#3までは、クランクシャフト120が正転していることに対応して、正転時に対応するパルス幅WIPOS=45μsを維持し、差分ΔWIPOSは、今回値と前回値とが略同等であることを示す0付近を維持する。
【0066】
続いて、第3パルス#3の発生時点から次の第4パルス#4が発生するまでの間で、クランクシャフト120の回転方向が正転から逆転に切り替わり、第4パルス#4のパルス幅WIPOSは90μs付近を示している。
ここで、第4パルス#4を今回の回転信号POSとし、第3パルス#3を前回の回転信号POSとして演算される差分ΔWIPOSは、各パルスを発生したときの回転方向の違いによって第1判定値SL1を超えてプラス側に変位することで、正転から逆転への切り替わりが検出される。
【0067】
第5パルス#5の発生時点では依然として逆転状態であるため、第5パルス#5のパルス幅WIPOSは90μs付近を示し、その結果、第4パルス#4のパルス幅WIPOSと、第5パルス#5のパルス幅WIPOSとの差分ΔWIPOSは0付近となり、逆転状態が継続していることを示す。
続いて、第5パルス#5の発生時点から次の第6パルス#6が発生するまでの間で、クランクシャフト120の回転方向が逆転から正転に切り替わり、第6パルス#6のパルス幅WIPOSは45μs付近を示している。
【0068】
ここで、第6パルス#6を今回の回転信号POSとし、第5パルス#3を前回の回転信号POSとして演算される差分ΔWIPOSは、各パルスを発生したときの回転方向の違いによって第2判定値SL2を超えてマイナス側に変位することで、逆転から正転への切り替わりが検出される。
上記のように、回転信号POSのパルス幅WIPOSが、クランクシャフト120の回転方向に応じて異なるようにし、かつ、係る回転信号POSのパルス幅WIPOSの時系列的な変化、即ち、今回のパルス幅WIPOSと前回のパルス幅WIPOSとの差分ΔWIPOSに基づいて回転方向の切り替わりを判定するようにしたので、温度などの環境変化によって、計測されるパルス幅WIPOSがばらついても、回転方向を精度良く判定することが可能である。
【0069】
即ち、温度などの環境変化によるパルス幅WIPOSの計測値のばらつきは、回転方向とは無関係に発生し、例えば、環境変化によって正転時のパルス幅WIPOSの計測値が延びる場合には、逆転時のパルス幅WIPOSの計測値も延びることになり、環境変化によるパルス幅WIPOSのばらつきは、差分ΔWIPOSに大きく影響することがない。
従って、パルス幅WIPOSの時系列的な変化を示す差分ΔWIPOSに基づいて、回転方向の切り替わりを判定するようにすれば、温度などの環境条件の変化によって、計測されるパルス幅WIPOSがばらついても、クランクシャフト120の回転方向を精度良く判定することが可能である。
【0070】
これに対し、パルス幅WIPOSが閾値よりも長いか短いかを判別することで、正転時のパルス幅WIPOSであるか、逆転時のパルス幅WIPOSであるかを区別する場合、環境条件の変化によるパルス幅WIPOSのばらつきに対応できる閾値を設定することが難しく、また、クランクシャフト120が正転する運転条件で計測したパルス幅WIPOSを基準に閾値を学習したとしても、閾値を学習した時点での環境条件と、閾値に基づき回転方向を判定するときの環境条件とが異なると、回転方向の判定精度が低下してしまう。
尚、回転信号POSのパルス幅WIPOSの時系列的な変化を示す差分ΔWIPOSは、ΔWIPOS=WIPOSold−WIPOSnewとすることができる。ΔWIPOS=WIPOSold−WIPOSnewとする場合、差分ΔWIPOSが0付近からマイナスに変化したときに、正転から逆転への切り替わりを判定し、差分ΔWIPOSが0付近からプラスに変化したときに、逆転から正転への切り替わりを判定することになる。
【0071】
また、回転信号POSのパルス幅WIPOSの時系列的な変化を示す値として、今回のパルス幅WIPOSnewと、前回のパルス幅WIPOSoldとの比率RPOSを演算させることができる。
この場合、例えば、比率RPOS=WIPOSnew/WIPOSoldとすると、比率RPOSが第1判定値RSL1(RSL1>1)を超えて大きくなった場合に、正転から逆転への切り替わりを判定し、比率RPOSが第2判定値RSL2(RSL2<1)を超えて小さくなった場合に、逆転から正転への切り替わりを判定する。
【0072】
また、例えば、比率RPOS=WIPOSold/WIPOSnewとすると、比率RPOSが第1判定値RSL1(RSL1>1)を超えて大きくなった場合に、逆転から正転への切り替わりを判定し、比率RPOSが第2判定値RSL2(RSL2<1)を超えて小さくなった場合に、正転から逆転への切り替わりを判定する。
一方、比率RPOSが1付近の値であれば、それまでの回転方向を維持しているものと判定する。
【0073】
上記のように、回転信号POSのパルス幅WIPOSの時系列的な変化を示す値として、比率RPOSを用いる場合も、差分ΔWIPOSを用いる場合と同様に、温度などの環境変化によるパルス幅WIPOSの計測ばらつきが発生しても、回転方向を精度良く判定することができる。
また、クランク角センサ117が出力する回転信号POSは、クランクシャフト120の回転方向によってパルス幅WIPOSが異なるパルス信号の他、回転方向によって振幅の異なるパルス信号とすることができる。
【0074】
図6のタイムチャートは、回転方向によって振幅(電圧レベル)の異なるパルス信号として出力される回転信号POSに基づき、クランクシャフト120の回転方向を判定する処理における、回転信号POSと、振幅(電圧レベル)と、振幅の差分と、回転方向との相関を示している。
図6に示す例では、回転信号POSの振幅(電圧レベル)が、正転時よりも逆転時で大きくなるように、クランク角センサ117の出力特性を設定してある。
【0075】
ECU114は、回転信号POSの電圧レベル(ピーク電圧)を計測し、パルス幅WIPOSに基づく回転方向の判定と同様に、今回の電圧レベルVnewと前回の電圧レベルVoldとの差分ΔV(差分ΔV=Vnew−Vold)を算出する。
そして、差分ΔVが第1判定値VSL1(VSL1>0)を超えて大きくなったとき(0付近からプラスに変化したとき)に、正転から逆転への切り替わりを判定し、差分ΔVが第2判定値VSL2(VSL2<0)を超えて小さくなったとき(0付近からマイナスに変化したとき)に、逆転から正転への切り替わりを判定する。
【0076】
尚、差分ΔVを、差分ΔV=Vold−Vnewとすることができ、更に、差分ΔVに代えて、今回の電圧レベルVnewと前回の電圧レベルVoldとの比率RVを、比率RV=Vold/Vnew又は比率RV=Vnew/Voldとして演算させ、この比率RVと判定値とを比較することで、回転方向を判定することができる。
また、振幅が、正転時よりも逆転時が小さくなるように、クランク角センサ117の特性を設定することができる。
【0077】
上記のように、回転信号POSの振幅の時系列的な変化に基づき回転方向を判定する場合も、パルス幅WIPOSの時系列的な変化に基づき回転方向を判定する場合と同様に、温度などの環境変化による振幅(電圧レベル)の計測ばらつきが発生しても、回転方向を精度良く判定することができる。
また、回転信号POSのパルス幅や振幅の時系列的な変化を判断するときに、今回値と前回値とを比較する代わりに、回転方向が同じであると判定した過去複数回での計測値の平均値(加重平均値、単純平均値、最大値及び最小値を除いたデータの平均値など)と、今回の計測値とを比較させることができる。
また、今回の計測値と前々回の計測値とを比較させるなど、時系列的に不連続なデータ間での差又は比率から回転方向を判定させることができる。
【0078】
また、回転信号POSのパルス幅や振幅の計測値と閾値とを比較して、クランクシャフト120の回転方向を判定する処理と、回転信号POSのパルス幅や振幅の計測値の時系列的な変化に基づき、クランクシャフト120の回転方向を判定する処理とを組み合わせて用いることができる。
例えば、回転信号POSのパルス幅や振幅の計測値と、これらの閾値との差が、設定値を上回っている場合であって、判定精度を確保できるものと推定される場合には、パルス幅や振幅の計測値と閾値とを比較して回転方向を判定し、前記差が設定値を下回っている場合であって、判定精度の低下が推定される場合には、パルス幅や振幅の計測値の時系列的な変化に基づき回転方向を判定させることができる。
【0079】
また、回転方向が同じであると判定された、過去複数回での計測値の平均値に基づき、差分や比率の判定値を学習することができる。
また、パルス幅や振幅の計測値、或いは、これらの計測値の差分や比率が、予め定めた範囲(正常時におけるばらつき範囲)を外れている場合に、これらのデータに基づく回転方向の判定を禁止することができる。そして、回転方向の判定を禁止した場合には、アイドルストップ制御を禁止することができる。
【0080】
また、本実施形態における回転信号POSは、クランクシャフト120の回転位置の検出と、クランクシャフト120の回転方向の検出との双方に用いられるが、クランクシャフト120の回転位置の検出に用いるパルス信号を出力するセンサと、クランクシャフト120の回転方向の検出に用いるセンサとを個別に備えることができる。
以上、好ましい実施形態を具体的に説明したが、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0081】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)
前記回転方向検出手段は、機関回転速度が上昇した状態、既定のピストン位置であると判別した気筒の更新順が正常である状態、機関負荷が上昇した状態、機関の始動操作状態、吸気圧が大気圧から所定以上に増大又は低下した状態のうちの少なくとも1つが成立する場合に、前記出力軸が正転する条件であると判定する、請求項
1から3のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
上記構成によると、出力軸が正転する運転条件を適切に判断し、その後の正転から逆転への切り
替わりを精度良く判定できる。
【0083】
(ロ)前記回転方向検出手段は、回転方向の判定を、内燃機関の停止要求が発生したとき、又は、内燃機関の回転速度が停止に向けて低下しているときに実施する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の内燃機関の制御装置。
上記発明によると、内燃機関の停止要求が発生したとき、又は、内燃機関の回転速度が停止に向けて低下しているときは、出力軸の逆転が発生し得る条件であり、
このときに回転方向の判定を行うことで、無用に回転方向の判定処理が実施されることを抑制できる。