【実施例1】
【0017】
図1に示すように、本実施例の眼科装置は、被検眼の角膜内皮細胞を撮影する撮影装置10と、撮影装置10で撮影された角膜内皮細胞の画像(以下、角膜内皮細胞画像という)を解析処理する演算装置12と、演算装置12による解析結果を表示するモニタ14を備えている。
【0018】
撮影装置10は、いわゆるスペキュラーマイクロスコープであり、角膜内皮細胞を撮影する装置である。撮影装置10は、被検眼にスリット光を照射する照明光学系と、被検眼で反射されたスリット光の反射像を撮影する撮影光学系を有している。照明光学系は、被検眼に対して斜めに伸びる光軸を有しており、スリット光を被検眼に対して斜めに照射する。撮影光学系は、被検眼に対して斜めに伸びる光軸を有しており、この光軸上に撮像素子(例えば、CCD素子)が配置されている。撮影光学系は、被検眼で反射されたスリット光の反射像を撮像素子に導き、撮像素子は、このスリット像を撮影する。これによって、被検眼の角膜内皮細胞画像が撮影される。なお、撮影装置10には、従来公知の構成(例えば、特開2006−68110号公報等に開示の構成)を採ることができる。
【0019】
上述したように、撮影装置10は、被検眼に対して斜めにスリット光を照射し、そのスリット光の反射像を撮影することで、被検眼の角膜内皮細胞画像を撮影する。このため、
図4,5等に示すように、撮影装置10で撮影される角膜内皮細胞画像16は、x軸方向の長さがy軸方向の長さより短い、長方形状をしている。また、被検眼に斜めにスリット光を照射して撮影するという光学系の特性から、角膜内皮細胞画像16の左右両側(
図4のx軸方向の両側であって、
図5の四角で囲んでいる領域)には角膜内皮細胞が写らない領域(解析対象外領域)が形成される。なお、撮影装置10は、撮影された角膜内皮細胞画像16を演算装置12に入力する。
【0020】
演算装置12は、CPU,ROM,RAM等からなるコンピュータ回路またはシステムによって構成されている。演算装置12は、メモリに記憶されているプログラムを実行することで、撮影装置10から入力された角膜内皮細胞画像16に対して解析処理を行う。すなわち、角膜内皮細胞画像16は、上述した解析対象外領域と、角膜内皮細胞が写っている解析対象領域を有している。また、解析対象領域(すなわち、角膜内皮細胞画像16から左右両側の解析対象外領域を除去した領域)には、グッタータ等に起因するノイズ領域(例えば、
図5に示す丸で囲った部分)が含まれている。したがって、演算装置12は、解析対象領域に含まれるノイズ領域を除いた領域に対しては角膜内皮細胞解析処理(例えば、角膜内皮細胞の輪郭を抽出し、その抽出した角膜内皮細胞に対して統計処理)を行う。また、演算装置12は、解析対象領域内のノイズ領域から抽出されるダークエリアに対してダークエリア解析処理(後で詳述)を行う。なお、角膜内皮細胞解析処理は、従来公知の解析処理であるため、本明細書では、その詳細な説明は省略する。
【0021】
モニタ14は、演算装置12と通信線を介して接続されている。モニタ14は、演算装置12から出力される信号に基づいて画像を表示する。例えば、モニタ14には、撮影装置10で撮影された角膜内皮細胞画像や、演算装置12で行われた解析結果等が表示される。
【0022】
次に、演算装置12により実行される角膜内皮細胞画像を解析する手順を説明する。撮影装置10で撮影された角膜内皮細胞画像が入力されると、演算装置12は、その入力された角膜内皮細胞画像に対して、
図2に示す解析処理を実行する。
図2に示すように、演算装置12は、まず、入力された角膜内皮細胞画像のコントラスト補正を行う(S10)。すなわち、角膜内皮細胞が写っている角膜内皮細胞画像では、
図5に示すように、角膜内皮細胞の輪郭線が暗い色となり、その内部が明るい色となる。したがって、角膜内皮細胞画像に角膜内皮細胞が写っている場合、任意の方向にグレイレベルの変化をみると、その波形は極大値と極小値が交互に現れることとなる(
図9,10等参照)。また、角膜内皮細胞の大きさは、通常は大きくは変化しないため、同じような形状の波の繰り返しとなる。したがって、演算装置12は、まず、入力された角膜内皮細胞画像の全体のグレイレベルのベースと最大値を均一化する(すなわち、コントラスト補正する)。これによって、任意の方向にグレイレベルの変化をみたときの波形は、極大値と極小値のレベルが大きくは異ならない波形となる。
【0023】
次に、演算装置12は、コントラスト補正を行った角膜内皮細胞画像から、角膜内皮細胞が写っていない領域(解析対象外領域)を除去する(S12)。具体的な手順としては、まず、演算装置12は、角膜内皮細胞画像にフィルタ処理を行ってノイズを除去し、画像全体のコントラストを均一になるようにする。この画像に対して、水平方向及び垂直方向に断面をとってそのグレイレベルの変化を見ると、細胞内がグレイレベルが高く(明)、細胞輪郭が低く(暗)なり、高低が交互に現れる波形となる(
図6の位置Pでのグレイレベルを参照)。次いで、演算装置12は、水平方向のスキャンを行い、画像左右に現れる波の高低差が小さく変化を始める横方向(X方向)の位置を抽出し、解析対象外領域の始まりとして境界点を設定する(
図6参照)。演算装置12は、この水平方向のスキャンを画像上端から下端まで順次行う。全スキャンから得られた境界点から解析対象外領域の境界線を設定する(
図7参照)。または、全スキャンから得られた境界点から総合的に判断して、縦方向(Y方向)に直線状の境界線を設定してもよい(
図8参照)。この場合、ステップS16のダークエリア抽出時にスキャン開始点が一律となるため、抽出作業が容易となる。なお、解析対象外領域と解析対象領域の境界の判断においては、例えば、グレイレベルの波形の波高(極大値と極小値の差)と波数(ある決められた画素数内における波の数)がある適当な設定値を下回る位置をもって、急峻に変化を始める位置(解析対象領域の始まり)とすることができる。このように、角膜内皮細胞画像から解析対象外領域を除去することで、ステップS14以降の処理を適切にかつ効率よく行うことができる。
【0024】
次に、演算装置12は、角膜内皮細胞画像に含まれる局所的なノイズを除去するため、角膜内皮細胞画像の平滑化処理を行う(S14)。平滑化処理には、急峻な変化をする部位においては、その変化を保持し、さらに強調することができる機能のフィルタを適用する。平滑化処理によって、局所的なノイズが除去されると共に、グレイレベルの低い領域(ノイズ領域(ダークエリア候補))のグレイレベルが大きく低下する。その結果、ノイズ領域(ダークエリア候補)の境界部のグレイレベルの変化が急峻となる。なお、ステップS14の平滑化処理では、平滑化フィルタを複数回かけるようにしてもよい。
【0025】
次に、演算装置12は、角膜内皮細胞画像からダークエリアを抽出する処理を行う(S16)。ステップS16の処理を、
図3を用いて詳細に説明する。
図3に示すように、演算装置12は、まず、角膜内皮細胞画像をx軸方向にスキャンして、グレイレベルが極小点となる1又は複数の点を抽出する(S22)。具体的には、
図9に示すように、演算装置12は、角膜内皮細胞画像内のx軸方向に伸びる走査線上のグレイレベルの波形から、その波形において極小点となる位置を抽出する。この処理を、角膜内皮細胞画像の上端から下端まですべてについて行う。
【0026】
次に、演算装置12は、ステップS22で抽出した1又は複数の点から1つの点を選択し(S24)、その点を中心にy軸方向にスキャンし、その選択した点でグレイレベルが極小点となっているか否かを判断する(S26)。具体的には、
図10に示すように、演算装置12は、選択した点を通るy軸方向に伸びる走査線上のグレイレベルの波形から、その波形において選択した点が極小値となっているか否かを判断する。
【0027】
選択した点でグレイレベルがy軸方向についても極小点となっている場合(ステップS26でYES)は、演算装置12は、選択した点をノイズ領域(ダークエリア候補)の底点として決定する(S28)。一方、選択した点でグレイレベルがy軸方向について極小点となっていない場合(ステップS26でNO)は、ステップS28をスキップし、ステップS30に進む。これによって、x軸方向にのみグレイレベルが極小となる点は除去され、x軸方向及びy軸方向の両者にグレイレベルが極小となる点のみが、ノイズ領域の底点として選択されることとなる。
【0028】
ステップS30に進むと、演算装置12は、ステップS22で抽出した全ての点について、上記のステップS26,28の処理を実行したか否かを判定する。抽出した全ての点について処理を実行していない場合(ステップS30でNO)は、演算装置12は、ステップS24に戻って、ステップS24からの処理を実行する。これによって、ステップS22で抽出した全ての点について、ステップS26,28の処理が実行される。一方、抽出した全ての点について処理を実行している場合(ステップS30でYES)は、ステップS32に進む。
【0029】
ステップS32に進むと、演算装置12は、ステップS28でノイズ領域の底点として決定した1又は複数の点から1つの点を選択し、その点についてノイズ領域(ダークエリア候補)の境界を特定する(S34)。ノイズ領域の境界を特定する手順について説明する。まず、演算装置12は、
図11に示すように、ステップS32で選択した点(極小点)を中心として、放射状に所定の長さの線分を360°回転させる。次いで、演算装置12は、放射線毎に、その放射線上の画素のグレイレベルの波形から、選択した点(極小点)の近傍に位置する極大点までのグレイレベルの変化を求める。次に、演算装置12は、選択した点(極小点)のグレイレベルと極大点のグレイレベルから平均グレイレベルを求める。そして、演算装置12は、その放射線上のグレイレベルの波形において平均グレイレベルよりグレイレベルが低くなる部分をノイズ領域(ダークエリア候補)として認定する。例えば、
図12に示すように、走査線上のグレイレベルが変化する場合において、極小点Bnのノイズ領域(ダークエリア候補)の境界を特定するときは、まず、極小点Bnとその近傍の極大点(例えば、Pn)を特定する。次いで、極小点と極大点のグレイレベルの平均値(L
Pn+L
Bn)/2を求め、この平均値より低い領域(図中、Pn−Bn間のノイズ領域と示す範囲)をノイズ領域(ダークエリア候補)と決定する。なお、放射線毎にノイズ領域を決定するため、隣接する放射線においてノイズ領域の境界が大きく変化する場合がある。このため、所定の角度範囲でデータを平滑化し、隣接する放射線上のデータより大きく相違するデータを削除する。また、単なる平滑化を行うだけでなく、予め標準偏差を求め、標準偏差値から大きく外れるデータを除外して上で平滑化処理を行うようにしてもよい。
【0030】
次に、演算装置12は、ステップS30で抽出した全ての点について、上記のステップS34の処理を実行したか否かを判定する(S36)。抽出した全ての点について処理を実行していない場合(ステップS36でNO)は、演算装置12は、ステップS32に戻って、ステップS32からの処理を実行する。これによって、ステップS30で抽出した全ての点について、ステップS30の処理が実行され、ノイズ領域が決定される。一方、抽出した全ての点について処理を実行している場合(ステップS36でYES)は、ステップS38に進む。
【0031】
ステップS38では、演算装置12は、ステップS34で決定したノイズ領域のうち、重複するものを統合する(S38)。すなわち、ステップS34の処理は、ステップS30で抽出した全ての点について行われるため、
図13に示すように、複数のノイズ領域が重複する場合がある。すなわち、1つのノイズ領域内に複数の極小点が存在し、各極小点について決定されるノイズ領域が重複する。したがって、このような場合は、これら重複するノイズ領域を1つのノイズ領域に統合する。
【0032】
次に、演算装置12は、ノイズ領域毎に、そのノイズ領域がダークエリアか否かを判断する(S40)。すなわち、抽出されたノイズ領域は、グレイレベルの低い領域であっても、ダークエリアでない可能性もある。そこで、抽出されたノイズ領域がダークエリアか否かを判断する。例えば、ノイズ領域の面積が予め設定された設定値(第1設定値)より小さい場合、撮影上の影である可能性があるため、そのノイズ領域はダークエリアではないと判断する。あるいは、ノイズ領域の面積が予め設定された別の設定値(第2設定値)より小さく、かつ、そのアスペクト比が所定値を超える場合、角膜内皮細胞の輪郭線を誤認識している可能性があるため、そのノイズ領域をダークエリアではないと判断する。あるいは、エッジが不鮮明な場合は、なだらかに変化している影を持つ部分である可能性があるため、そのノイズ領域をダークエリアではないと判断する。あるいは、ノイズ領域の面積が中程度の大きさであり(すなわち、第1設定値<面積<第2設定値)、かつ、その周囲が複数の極大点で囲まれていない場合は、角膜内皮細胞上のノイズ領域ではない可能性があるため、そのノイズ領域をダークエリアではないと判断する。そして、演算装置12は、これらの除外条件のいずれにも該当しないノイズ領域を、ダークエリアとして決定(抽出)する。
【0033】
ダークエリアが抽出されると、
図2のステップS18に戻って、演算装置12は、抽出されたダークエリアについて解析処理を行う(S18)。すなわち、角膜内皮細胞画像に含まれるダークエリアの個数や、ダークエリアの平均面積や、ダークエリアの面積の標準偏差等が計算される。次いで、演算装置12は、ステップS18で行われた解析処理の結果をモニタ14に出力する(S20)。
【0034】
ここで、モニタ14に表示される画像の一例を説明する。モニタ14には、
図14に示すように、角膜内皮細胞画像にダークエリアを重ね合わせて表示される。これによって、ダークエリアの分布の状態が視覚的に把握することができる。また、モニタ14には、
図15に示すように、ダークエリアを解析処理した結果の表及びグラフが表示される。表中、「Number」はダークエリアの個数であり、「DAD」はダークエリアの密度[個/mm
2]であり、「AVG」はダークエリアの平均面積[μm
2]であり、[SD]はダークエリアの面積の標準偏差[μm
2]であり、[CV]はダークエリアの面積の変動係数(すなわち、標準偏差を平均値で除した数)であり、「Max」はダークエリアの最大面積[μm
2]であり、[Min]はダークエリアの最小面積[μm
2]であり、[Ratio]はダークエリア面積/(角膜内皮細胞面積+ダークエリア面積)である。
【0035】
本実施例に係る眼科装置では、角膜内皮細胞画像からダークエリアを抽出し、その抽出したダークエリアを解析する。そして、ダークエリアを解析した結果が出力される。このため、角膜内皮細胞に含まれるダークエリアを客観的に、かつ、定量的に評価することができる。その結果、被検眼の角膜内皮層の状態を適切に診断することができる。
【0036】
例えば、ダークエリアを定量的に評価できるため、ダークエリアのステージ分類を客観的に行うことができる。また、ダークエリアの個数や面積の経過観察を定量的に行うことができるため、角膜内皮細胞の機能低下や短命化を予測することが可能となる。また、角膜から水分を排出する療法や薬剤を投与する際に、施術前後での効果を予測することもできる。さらに、グッタータが広範囲に広がることによる視力低下が伴う場合は、ダークエリアの解析数値を用いて、視力低下の程度を客観的に評価することができる。さらに、白内障手術の術前インフォームドコンセントにおいて、患者の角膜内皮細胞にダークエリアが発見されている場合は、手術による機能低下に加えて、加齢に伴うグッタータによる機能不全の発生等について、患者に事前に伝達することができる。
【0037】
さらに、本実施例に係る眼科装置では、角膜内皮細胞画像からダークエリアを抽出する。このため、角膜内皮細胞の解析を、ダークエリアを除いた領域に対して行うことができる。その結果、角膜内皮細胞の輪郭線の誤検出を防止することができ、また、処理の高速化を実現することができる。
【0038】
最後に、上述した実施例と請求項との対応関係を説明しておく。撮影装置10が請求項でいう「画像入力部」の一例であり、演算装置12によるステップS10からステップS16の処理を行うことによって得られる機能が「抽出部」の一例であり、演算装置12によるステップS18の処理を行うことによって得られる機能が「解析部」の一例であり、モニタ14が「解析結果出力部」の一例である。
【0039】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0040】
例えば、上述した実施例では、撮影装置10から演算装置12に角膜内皮細胞画像を入力するようにしたが、本明細書に記載の技術は、このような例に限られない。例えば、他のスペキュラーマイクロスコープで撮影された角膜内皮細胞画像を、入力デバイスを介して演算装置に入力するようにしてもよい。この場合は、演算装置にデータを入力するための入出力回路が「画像入力部」の一例となる。
【0041】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。