【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂、アルデヒド及び水系媒体を含有する混合液を、温度100〜200℃、圧力0.1〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる工程を有するポリビニルアセタール系樹脂の製造方法であって、前記混合液は、室温大気圧環境下における水素イオン濃度が5×10
−4〜1×10
−2mol/Lに調整されたものであり、ポリビニルアルコール系樹脂に対するアルデヒドの含有量がモル比で0.6〜1.2倍量であ
り、混合液は、塩酸及び/又は硝酸により水素イオン濃度が調整されているポリビニルアセタール系樹脂の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとからポリビニルアセタール系樹脂を製造する方法において、高温高圧流体を用いた場合に樹脂に着色が生じる原因が、アルデヒドの縮合反応等による副生成物の発生にあることを見出した。従来の高温高圧流体を用いたポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、高いアセタール化度を得るためには、反応系内にアルデヒドを大過剰に添加する必要があり、高温で高濃度のアルデヒドが存在する環境で反応を行う必要があった。このため、アルデヒドの副反応が起こりやすいものとなっていた。アルデヒドの副反応を抑制しようとしてアルデヒドの濃度を低下させると、目的のアセタール化度まで到達しない。更に、低いアルデヒド濃度でも反応させるために、よりいっそう反応温度を上げたり、高濃度の酸触媒を添加したりすると、樹脂の劣化が発生し、生成するポリビニルアセタール系樹脂が着色したり、重合度が低下して目的の重合度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかった。
【0011】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂、アルデヒド及び水系媒体を含有する混合液中に含まれる水素イオンを特定の濃度とし、配合するアルデヒド量を特定の範囲としたうえで、一定の高温高圧条件で反応させることにより、アルデヒドの反応効率を非常に高くすることができ、また、副生成物の生成を抑え、アセタール化度が高く、重合度の低下および黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂、アルデヒド及び水系媒体を含有する混合液を、温度100〜200℃、圧力0.1〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる工程を有する。
【0013】
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニルをアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された樹脂等の従来公知のポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。また、上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂等、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとビニルアルコールとの共重合体も用いることができる。
上記ポリ酢酸ビニル系樹脂は、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0014】
上記アルデヒドは、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒド等が挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。上記アルデヒドは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記アルデヒド化合物はホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。
【0015】
上記ポリビニルアルコール系樹脂に対する上記アルデヒドの配合量の好ましい下限はポリビニルアルコール系樹脂に対してモル比で0.6倍量、好ましい上限は1.2倍量である。上記アルデヒドの配合量が0.6倍量未満であると、得られるポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が十分に上昇しない。上記アルデヒドの配合量が1.2倍量を超えると、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、得られる樹脂が着色する場合がある。上記アルデヒドの配合量のより好ましい下限は0.65倍量であり、より好ましい上限は1.1倍量である。なお、アセタール化反応では、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる2つの水酸基に対して1つの分子のアルデヒドが結合する。したがって、上記ポリビニルアルコール系樹脂に対するアルデヒドのモル比とは、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる水酸基のモル量を1/2倍した量に対する配合したアルデヒドのモル比率を意味している。また、上記ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる水酸基のモル量は、該ポリビニルアルコール系樹脂をNMR等によって測定することで得ることができる。
【0016】
上記水系媒体としては、水、アルコール又はその混合媒体が挙げられる。なかでも、反応を効率よく進めることができ、副生成物を抑制できることから、水が好適である。
【0017】
室温大気圧環境下における上記混合液の水素イオン濃度は、5×10
−4〜1×10
−2mol/Lの範囲に調整される。水素イオン濃度を上記範囲とすることで、得られたポリビニルアセタール系樹脂中に残存する酸の量を充分に少なくすることができ、加熱成型する際の樹脂の着色や長期の使用における樹脂劣化を起こさないポリビニルアセタール系樹脂を得ることができる。また、得られたポリビニルアセタール系樹脂中に残存する酸の量が充分に少なくなることから、煩雑な中和工程を省略することも可能となる。
【0018】
上記混合液の水素イオン濃度が5×10
−4mol/L未満であると、反応に要する時間が長時間となり、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、樹脂が着色する原因となったり、樹脂が劣化して重合度が低下して目的の重合度を有するアセタール系樹脂が得られなかったりする。また、上記の副反応でアルデヒドが消費されてしまい、得られるポリビニルアセタール系樹脂がアセタール化度の低いものとなることがある。
上記混合液の水素イオン濃度が1×10
−2mol/Lを超えると、原料であるポリビニルアルコール系樹脂の脱水反応が起こり、分子内に共役二重結合を有する構造が発生して得られるポリアセタール樹脂に着色が生じたり、樹脂の劣化が発生して重合度が低下して目的の重合度を有するアセタール系樹脂が得られなかったり、加熱成型する際の樹脂の着色や長期の使用における樹脂劣化の原因となったりする。
上記混合液の水素イオン濃度の好ましい下限は1×10
−3mol/L、好ましい上限は9×10
−3mol/Lであり、より好ましい下限は2×10
−3mol/L、より好ましい上限は8×10
−3mol/Lである。
なお、本明細書において、室温とは0〜40℃の範囲の温度を意味し、大気圧とは0.09〜0.11MPaの範囲の圧力を意味する。
【0019】
室温大気圧環境下における上記混合液の水素イオン濃度を上記範囲とするための方法としては、アセタール化反応を行う前に、塩酸及び/又は硝酸をポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとの混合液に添加して調整する方法が挙げられる。一般に、原料となるポリビニルアルコール系樹脂中には、けん化の際に発生したカルボン酸塩が含有されている。従って、添加する塩酸及び/又は硝酸は、上記水素イオン濃度に調整する量に加えてカルボン酸塩を中和する量を添加することで、目的の水素イオン濃度に調整に調整することができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂中に含まれるカルボン酸塩を除去する洗浄工程を行った後に、目的の水素イオン濃度に調整するための塩酸及び/又は硝酸量を添加してもよい。
【0020】
上記ポリビニルアルコール系樹脂中に含まれるカルボン酸塩を除去する洗浄方法としては、例えば、溶剤によって塩基性成分を抽出する方法、樹脂を良溶媒に溶解させた後に貧溶媒を投入して樹脂のみを再沈させる方法、ポリビニルアルコール系樹脂又はポリ酢酸ビニル系樹脂を含有する溶液中に吸着剤を添加して塩基性成分を吸着除去する方法等が挙げられる。
【0021】
また、上記ポリビニルアルコール系樹脂中に含まれるカルボン酸塩を中和するために用いる中和剤としては塩酸及び/又は硝酸以外であってもよく、例えば、硫酸、リン酸等の鉱酸や、炭酸等の無機酸や、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸や、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、フェノール等のフェノール類等が挙げられる。
【0022】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、上記混合液を温度100〜200℃、圧力0.1〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる。
通常のポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化反応では、反応の進行に伴い、樹脂が不溶化、不均質化して析出することがある。このように析出した樹脂では、アセタール化反応すべき水酸基が樹脂の内部に閉じこめられることから、アセタール化反応の進行が阻害され、40モル%程度のアセタール化度までしか達成できない。しかしながら、本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、高温高圧条件下でアセタール化反応させることにより、析出した樹脂の内部にまでアルデヒドが浸入できるようになることから、常圧では達成できなかった高アセタール化度を達成できる。
【0023】
上記混合液を高温高圧条件下で反応させる際の温度の下限は100℃、上限は200℃である。上記反応温度が100℃未満であると、反応が充分に進まず、充分なアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかったり、得られるポリビニルアセタール系樹脂が着色したりする。上記反応温度が200℃を超えると、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、樹脂が着色する原因となったり、原料であるポリビニルアルコール系樹脂の脱水反応が起こって分子内に共役二重結合を有する構造が発生し、得られるポリアセタール樹脂に着色が生じたり、樹脂の劣化が発生して重合度が低下して目的の重合度を有するアセタール系樹脂が得られないことがある。上記反応温度の好ましい下限は110℃、好ましい上限は180℃である。
【0024】
上記混合液を高温高圧条件下で反応させる際の圧力の下限は0.1MPa、上限は3MPaである。上記反応圧力が0.1MPa未満であると、反応が充分に進まず、充分なアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られない。上記反応圧力が3MPaを超えると、製造に必要な装置に高い耐圧設計が必要となり、実質的に製造装置を製造することが困難となる場合がある。上記反応圧力の好ましい下限は0.12MPa、好ましい上限は2.8MPaである。
【0025】
上記混合液を高温高圧条件下で反応させる反応装置は特に限定されず、例えば、流通方式の連続反応装置や、原料を一つの反応容器にためて反応を行うバッチ方式の反応装置や、反応容器を直列につないで一定の反応率まで進むと次の反応容器へと順次送っていくセミフロー方式の反応装置等が挙げられる。
【0026】
通常のアセタール化反応では、反応の進行に伴い樹脂が析出することがあり、析出した樹脂が反応部やライン中に詰まってしまった場合、製造が中断される場合がある。そこで、本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法においては、上記混合液を高温高圧条件下で攪拌する機構を反応装置内に設けることが好ましい。上記混合液を高温高圧条件下で攪拌することで析出物を微粒化させることができるため、樹脂が反応部やライン中に詰まることを抑制できる。
上記混合液を高温高圧条件下で攪拌する機構は、反応部内に配置することが可能であり、かつ、混合液を攪拌することが可能な部品であれば特に限定されず、例えば、撹拌羽根やスクリューを用いた動的な撹拌機構、スタティックミキサー等の静置的な撹拌機構、温度勾配をつけることによって対流を起こすような撹拌機構等が挙げられる。特に、高粘度の混合液を撹拌できることから、撹拌羽根やスクリューを用いた動的な撹拌機構が好適に用いられる。
【0027】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、混合液の水素イオン濃度を特定の範囲とし、反応温度を特定の範囲に調整することにより、アルデヒドの反応効率を非常に高くすることができ、アルデヒドがアセタール化反応以外の副反応を起こすのを防止することができる。本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法によれば、アセタール化度が高く、重合度の低下および黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができる。
【0028】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度の好ましい下限は55モル%である。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が55モル%未満であると、ポリビニルアセタール系樹脂の溶剤への溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなりすぎて成形成型性が悪くなったり、柔軟性が低下してフィルムが脆くなってポリビニルアセタール樹脂の特長である衝撃エネルギー吸収性が低下したり、耐水性が悪化したりすることがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度のより好ましい下限は60モル%である。
上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度の上限は特に限定されないが、実質的には80モル%程度を超えたアセタール化度のポリビニルアセタール系樹脂を得ることは困難であろう。
【0029】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタール系樹脂の重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が200未満であると、フィルムに成型した際の強度が低下することがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が5000を超えると、溶融粘度が高くなりすぎて成型性が悪くなることがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度のより好ましい下限は300、より好ましい上限は4000である。