特許第5956816号(P5956816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956816
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/28 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
   C08F8/28
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-97897(P2012-97897)
(22)【出願日】2012年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-224384(P2013-224384A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 康晴
(72)【発明者】
【氏名】山口 英裕
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/018174(WO,A1)
【文献】 特開2011−219671(JP,A)
【文献】 国際公開第03/033548(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/096403(WO,A1)
【文献】 特開2005−002285(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0053792(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00−8/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂、アルデヒド及び水系媒体を含有する混合液を、温度100〜200℃、圧力0.1〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる工程を有するポリビニルアセタール系樹脂の製造方法であって、
前記混合液は、室温大気圧環境下における水素イオン濃度が5×10−4〜1×10−2mol/Lに調整されたものであり、ポリビニルアルコール系樹脂に対するアルデヒドの含有量がモル比で0.6〜1.2倍量であり、
混合液は、塩酸及び/又は硝酸により水素イオン濃度が調整されている
ことを特徴とするポリビニルアセタール系樹脂の製造方法。
【請求項2】
水系媒体は、水、アルコール又は水とアルコールとの混合媒体であることを特徴とする請求項1載のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法。
【請求項3】
水系媒体は、水であることを特徴とする請求項1載のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒドの反応効率が高く、また、アセタール化反応以外の副反応を抑制してアルデヒドの使用量を減らすことができ、アセタール化度が高く、重合度の低下や黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができるポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール系樹脂は、合わせガラス用中間膜、金属処理のウォッシュプライマー、各種塗料、接着剤、樹脂加工剤及びセラミックスバインダー等に多目的に用いられており、近年では電子材料へと用途が拡大している。なかでも、ポリビニルブチラール樹脂は、製膜性、透明性、衝撃エネルギー吸収性、ガラスとの接着性に優れることから、合わせガラス用の中間膜等に特に好適に用いられている。
【0003】
ポリビニルアセタール系樹脂は、通常、特許文献1に開示されているように、ポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒド化合物とを塩酸等の酸触媒の存在下で脱水縮合させる(アセタール化反応)方法にて製造される。また、特許文献2には、水溶液中において酸触媒の存在下でポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとを一定の攪拌動力で混合するポリビニルブチラールの製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示されているポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、大量の酸触媒を用いるため、特に電子材料用途に用いる場合には、酸を中和する煩雑な工程が必須となる。また、樹脂中に残存する酸触媒に起因するハロゲン化物イオンや、中和に用いたアルカリ化合物に起因するイオン等を洗浄して、樹脂中の不純物を取り除く極めて煩雑な工程も必要であった。
【0005】
塩酸等の酸触媒を用いずにポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとを反応させることも検討されたが、実用的には70モル%程度のアセタール化度が求められているにもかかわらず、酸触媒を用いない方法では40モル%程度のアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂しか得ることができなかった。アセタール化反応を促進させるために高温に加熱すると、樹脂の主鎖が切断したり、アルデヒド化合物がアセタール化反応以外の副反応を起こし、樹脂が着色したりすることがあった。
【0006】
これに対して特許文献3には、超臨界流体等の高温高圧流体の触媒作用を利用して、塩酸等の酸触媒を用いずにポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとを反応させてポリビニルアセタール系樹脂を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に開示されている製造方法では、アセタール化度の高いポリビニルアセタール系樹脂を得ることはできるものの、大過剰のアルデヒドを反応に用いる必要がある。このため、樹脂に着色が生じたり、重合度の低下が発生して目的の重合度を有するアセタール系樹脂が得られなかったり、アルデヒドがアセタール化反応以外の副反応を起こしたりするといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−1853号公報
【特許文献2】特開平11−349629号公報
【特許文献3】WO2003/033548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アルデヒドの反応効率が高く、また、アセタール化反応以外の副反応を抑制してアルデヒドの使用量を減らすことができ、アセタール化度が高く、重合度の低下や黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができるポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂、アルデヒド及び水系媒体を含有する混合液を、温度100〜200℃、圧力0.1〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる工程を有するポリビニルアセタール系樹脂の製造方法であって、前記混合液は、室温大気圧環境下における水素イオン濃度が5×10−4〜1×10−2mol/Lに調整されたものであり、ポリビニルアルコール系樹脂に対するアルデヒドの含有量がモル比で0.6〜1.2倍量であり、混合液は、塩酸及び/又は硝酸により水素イオン濃度が調整されているポリビニルアセタール系樹脂の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとからポリビニルアセタール系樹脂を製造する方法において、高温高圧流体を用いた場合に樹脂に着色が生じる原因が、アルデヒドの縮合反応等による副生成物の発生にあることを見出した。従来の高温高圧流体を用いたポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、高いアセタール化度を得るためには、反応系内にアルデヒドを大過剰に添加する必要があり、高温で高濃度のアルデヒドが存在する環境で反応を行う必要があった。このため、アルデヒドの副反応が起こりやすいものとなっていた。アルデヒドの副反応を抑制しようとしてアルデヒドの濃度を低下させると、目的のアセタール化度まで到達しない。更に、低いアルデヒド濃度でも反応させるために、よりいっそう反応温度を上げたり、高濃度の酸触媒を添加したりすると、樹脂の劣化が発生し、生成するポリビニルアセタール系樹脂が着色したり、重合度が低下して目的の重合度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかった。
【0011】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂、アルデヒド及び水系媒体を含有する混合液中に含まれる水素イオンを特定の濃度とし、配合するアルデヒド量を特定の範囲としたうえで、一定の高温高圧条件で反応させることにより、アルデヒドの反応効率を非常に高くすることができ、また、副生成物の生成を抑え、アセタール化度が高く、重合度の低下および黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂、アルデヒド及び水系媒体を含有する混合液を、温度100〜200℃、圧力0.1〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる工程を有する。
【0013】
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニルをアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された樹脂等の従来公知のポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。また、上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂等、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとビニルアルコールとの共重合体も用いることができる。
上記ポリ酢酸ビニル系樹脂は、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0014】
上記アルデヒドは、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒド等が挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。上記アルデヒドは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記アルデヒド化合物はホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。
【0015】
上記ポリビニルアルコール系樹脂に対する上記アルデヒドの配合量の好ましい下限はポリビニルアルコール系樹脂に対してモル比で0.6倍量、好ましい上限は1.2倍量である。上記アルデヒドの配合量が0.6倍量未満であると、得られるポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が十分に上昇しない。上記アルデヒドの配合量が1.2倍量を超えると、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、得られる樹脂が着色する場合がある。上記アルデヒドの配合量のより好ましい下限は0.65倍量であり、より好ましい上限は1.1倍量である。なお、アセタール化反応では、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる2つの水酸基に対して1つの分子のアルデヒドが結合する。したがって、上記ポリビニルアルコール系樹脂に対するアルデヒドのモル比とは、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる水酸基のモル量を1/2倍した量に対する配合したアルデヒドのモル比率を意味している。また、上記ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる水酸基のモル量は、該ポリビニルアルコール系樹脂をNMR等によって測定することで得ることができる。
【0016】
上記水系媒体としては、水、アルコール又はその混合媒体が挙げられる。なかでも、反応を効率よく進めることができ、副生成物を抑制できることから、水が好適である。
【0017】
室温大気圧環境下における上記混合液の水素イオン濃度は、5×10−4〜1×10−2mol/Lの範囲に調整される。水素イオン濃度を上記範囲とすることで、得られたポリビニルアセタール系樹脂中に残存する酸の量を充分に少なくすることができ、加熱成型する際の樹脂の着色や長期の使用における樹脂劣化を起こさないポリビニルアセタール系樹脂を得ることができる。また、得られたポリビニルアセタール系樹脂中に残存する酸の量が充分に少なくなることから、煩雑な中和工程を省略することも可能となる。
【0018】
上記混合液の水素イオン濃度が5×10−4mol/L未満であると、反応に要する時間が長時間となり、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、樹脂が着色する原因となったり、樹脂が劣化して重合度が低下して目的の重合度を有するアセタール系樹脂が得られなかったりする。また、上記の副反応でアルデヒドが消費されてしまい、得られるポリビニルアセタール系樹脂がアセタール化度の低いものとなることがある。
上記混合液の水素イオン濃度が1×10−2mol/Lを超えると、原料であるポリビニルアルコール系樹脂の脱水反応が起こり、分子内に共役二重結合を有する構造が発生して得られるポリアセタール樹脂に着色が生じたり、樹脂の劣化が発生して重合度が低下して目的の重合度を有するアセタール系樹脂が得られなかったり、加熱成型する際の樹脂の着色や長期の使用における樹脂劣化の原因となったりする。
上記混合液の水素イオン濃度の好ましい下限は1×10−3mol/L、好ましい上限は9×10−3mol/Lであり、より好ましい下限は2×10−3mol/L、より好ましい上限は8×10−3mol/Lである。
なお、本明細書において、室温とは0〜40℃の範囲の温度を意味し、大気圧とは0.09〜0.11MPaの範囲の圧力を意味する。
【0019】
室温大気圧環境下における上記混合液の水素イオン濃度を上記範囲とするための方法としては、アセタール化反応を行う前に、塩酸及び/又は硝酸をポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとの混合液に添加して調整する方法が挙げられる。一般に、原料となるポリビニルアルコール系樹脂中には、けん化の際に発生したカルボン酸塩が含有されている。従って、添加する塩酸及び/又は硝酸は、上記水素イオン濃度に調整する量に加えてカルボン酸塩を中和する量を添加することで、目的の水素イオン濃度に調整に調整することができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂中に含まれるカルボン酸塩を除去する洗浄工程を行った後に、目的の水素イオン濃度に調整するための塩酸及び/又は硝酸量を添加してもよい。
【0020】
上記ポリビニルアルコール系樹脂中に含まれるカルボン酸塩を除去する洗浄方法としては、例えば、溶剤によって塩基性成分を抽出する方法、樹脂を良溶媒に溶解させた後に貧溶媒を投入して樹脂のみを再沈させる方法、ポリビニルアルコール系樹脂又はポリ酢酸ビニル系樹脂を含有する溶液中に吸着剤を添加して塩基性成分を吸着除去する方法等が挙げられる。
【0021】
また、上記ポリビニルアルコール系樹脂中に含まれるカルボン酸塩を中和するために用いる中和剤としては塩酸及び/又は硝酸以外であってもよく、例えば、硫酸、リン酸等の鉱酸や、炭酸等の無機酸や、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸や、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、フェノール等のフェノール類等が挙げられる。
【0022】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、上記混合液を温度100〜200℃、圧力0.1〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる。
通常のポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化反応では、反応の進行に伴い、樹脂が不溶化、不均質化して析出することがある。このように析出した樹脂では、アセタール化反応すべき水酸基が樹脂の内部に閉じこめられることから、アセタール化反応の進行が阻害され、40モル%程度のアセタール化度までしか達成できない。しかしながら、本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、高温高圧条件下でアセタール化反応させることにより、析出した樹脂の内部にまでアルデヒドが浸入できるようになることから、常圧では達成できなかった高アセタール化度を達成できる。
【0023】
上記混合液を高温高圧条件下で反応させる際の温度の下限は100℃、上限は200℃である。上記反応温度が100℃未満であると、反応が充分に進まず、充分なアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかったり、得られるポリビニルアセタール系樹脂が着色したりする。上記反応温度が200℃を超えると、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、樹脂が着色する原因となったり、原料であるポリビニルアルコール系樹脂の脱水反応が起こって分子内に共役二重結合を有する構造が発生し、得られるポリアセタール樹脂に着色が生じたり、樹脂の劣化が発生して重合度が低下して目的の重合度を有するアセタール系樹脂が得られないことがある。上記反応温度の好ましい下限は110℃、好ましい上限は180℃である。
【0024】
上記混合液を高温高圧条件下で反応させる際の圧力の下限は0.1MPa、上限は3MPaである。上記反応圧力が0.1MPa未満であると、反応が充分に進まず、充分なアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られない。上記反応圧力が3MPaを超えると、製造に必要な装置に高い耐圧設計が必要となり、実質的に製造装置を製造することが困難となる場合がある。上記反応圧力の好ましい下限は0.12MPa、好ましい上限は2.8MPaである。
【0025】
上記混合液を高温高圧条件下で反応させる反応装置は特に限定されず、例えば、流通方式の連続反応装置や、原料を一つの反応容器にためて反応を行うバッチ方式の反応装置や、反応容器を直列につないで一定の反応率まで進むと次の反応容器へと順次送っていくセミフロー方式の反応装置等が挙げられる。
【0026】
通常のアセタール化反応では、反応の進行に伴い樹脂が析出することがあり、析出した樹脂が反応部やライン中に詰まってしまった場合、製造が中断される場合がある。そこで、本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法においては、上記混合液を高温高圧条件下で攪拌する機構を反応装置内に設けることが好ましい。上記混合液を高温高圧条件下で攪拌することで析出物を微粒化させることができるため、樹脂が反応部やライン中に詰まることを抑制できる。
上記混合液を高温高圧条件下で攪拌する機構は、反応部内に配置することが可能であり、かつ、混合液を攪拌することが可能な部品であれば特に限定されず、例えば、撹拌羽根やスクリューを用いた動的な撹拌機構、スタティックミキサー等の静置的な撹拌機構、温度勾配をつけることによって対流を起こすような撹拌機構等が挙げられる。特に、高粘度の混合液を撹拌できることから、撹拌羽根やスクリューを用いた動的な撹拌機構が好適に用いられる。
【0027】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、混合液の水素イオン濃度を特定の範囲とし、反応温度を特定の範囲に調整することにより、アルデヒドの反応効率を非常に高くすることができ、アルデヒドがアセタール化反応以外の副反応を起こすのを防止することができる。本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法によれば、アセタール化度が高く、重合度の低下および黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができる。
【0028】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度の好ましい下限は55モル%である。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が55モル%未満であると、ポリビニルアセタール系樹脂の溶剤への溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなりすぎて成形成型性が悪くなったり、柔軟性が低下してフィルムが脆くなってポリビニルアセタール樹脂の特長である衝撃エネルギー吸収性が低下したり、耐水性が悪化したりすることがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度のより好ましい下限は60モル%である。
上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度の上限は特に限定されないが、実質的には80モル%程度を超えたアセタール化度のポリビニルアセタール系樹脂を得ることは困難であろう。
【0029】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタール系樹脂の重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が200未満であると、フィルムに成型した際の強度が低下することがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が5000を超えると、溶融粘度が高くなりすぎて成型性が悪くなることがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度のより好ましい下限は300、より好ましい上限は4000である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、アルデヒドの反応効率が高く、また、アセタール化反応以外の副反応を抑制してアルデヒドの使用量を減らすことができ、アセタール化度が高く、重合度の低下および樹脂の黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができるポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0032】
(実施例1)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液に、ブチルアルデヒド0.7g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比0.85)を添加して充分に撹拌を行った後、塩酸を添加して水素イオン濃度を5×10−3mol/Lに調整した。
得られた混合液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で140℃まで昇温した。このとき系内の圧力は0.7MPaとなった。そのまま140℃で90分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0033】
(実施例2)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液にブチルアルデヒド0.7g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比0.85)を添加して十分に撹拌を行った後、塩酸を添加して水素イオン濃度を5×10−4mol/Lに調整した。得られた溶液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で180℃まで昇温した。このとき系内の圧力は2.4MPaとなった。そのまま180℃で150分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0034】
(実施例3)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液にブチルアルデヒド0.6g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比0.73)を添加して十分に撹拌を行った後、硝酸を添加して水素イオン濃度を1×10−2mol/Lに調整した。得られた溶液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で110℃まで昇温した。このとき系内の圧力は0.3MPaとなった。そのまま110℃で60分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0035】
(実施例4)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液にブチルアルデヒド0.9g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比1.1)を添加して十分に撹拌を行った後、塩酸を添加して水素イオン濃度を5×10−3mol/Lに調整した。得られた溶液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で140℃まで昇温した。このとき系内の圧力は0.7MPaとなった。そのまま140℃で90分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0036】
(実施例5)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液に、ブチルアルデヒド0.7g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比0.85)を添加して充分に撹拌を行った後、塩酸を添加して水素イオン濃度を5×10−3mol/Lに調整した。
得られた混合液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で100℃まで昇温した。このとき系内の圧力は0.1MPaとなった。そのまま100℃で120分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0037】
(実施例6)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液に、ブチルアルデヒド0.7g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比0.85)を添加して充分に撹拌を行った後、塩酸を添加して水素イオン濃度を5×10−4mol/Lに調整した。
得られた混合液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で200℃まで昇温した。このとき系内の圧力は3MPaとなった。そのまま200℃で90分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0038】
(実施例7)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液に、ブチルアルデヒド1g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比1.2)を添加して充分に撹拌を行った後、塩酸を添加して水素イオン濃度を5×10−3mol/Lに調整した。
得られた混合液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で140℃まで昇温した。このとき系内の圧力は0.7MPaとなった。そのまま140℃で90分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0039】
(実施例8)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液に、ブチルアルデヒド0.5g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比0.6)を添加して充分に撹拌を行った後、塩酸を添加して水素イオン濃度を5×10−3mol/Lに調整した。
得られた混合液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で140℃まで昇温した。このとき系内の圧力は0.7MPaとなった。そのまま140℃で90分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0040】
(比較例1)
反応温度を80℃とした以外は実施例1と同様の操作で反応を行い、ポリビニルブチラール樹脂を得た。また、このときの系内の圧力は0.07MPaであった。
【0041】
(比較例2)
反応温度を260℃とした以外は実施例1と同様の操作で反応を行い、ポリビニルブチラール樹脂を得た。また、このときの系内の圧力は7MPaであった。
【0042】
(比較例3)
水素イオン濃度を1×10−4mol/Lに調整した以外は実施例1と同様の操作で反応を行い、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0043】
(比較例4)
水素イオン濃度を3×10−2mol/Lに調整した以外は実施例1と同様の操作で反応を行い、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0044】
(比較例5)
ブチルアルデヒドの量を1.5g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比1.83)とした以外は実施例1と同様の操作で反応を行い、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0045】
(比較例6)
ブチルアルデヒドの量を0.3g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比0.37)とした以外は実施例1と同様の操作で反応を行い、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0046】
(比較例7)
スクリュー管にポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度1700)1g、水を9g添加し、加熱攪拌した後室温まで冷却し10重量%のポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで得られた10重量%のポリビニルアルコール水溶液に、ブチルアルデヒド2.5g(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドのモル比3)を添加して充分に撹拌を行った。なお、ここでは塩酸添加は行わずに水素イオン濃度調整は行わなかった。
得られた混合液を圧力計を備えた内容積15mLの耐圧性の回分式反応装置に投入し、反応装置を昇温速度20℃/分の速度で300℃まで昇温した。このとき系内の圧力は10MPaとなった。そのまま300℃で20分間反応を行った後、反応装置を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0047】
(評価)
実施例及び比較例で得られたポリビニルブチラール樹脂について、以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0048】
(1)ブチラール化度
得られたポリビニルブチラール樹脂を乾燥した後、ジメチルスルホキシドに溶解し、水への沈殿を3回行ってから再度充分に乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに再溶解し、H−NMR測定によりブチラール化度を測定した。
【0049】
(2)着色性
得られたポリビニルブチラール樹脂の着色を目視にて評価した。白色である場合を「○」、ごくわずかに黄変が見られた場合を「△」、黄又は茶色に着色している場合を「×」として評価した。
【0050】
(3)重合度
得られたポリビニルブチラール樹脂を乾燥した後、テトラヒドロフランに溶解し、0.2重量%の溶液を調製した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製、LC−10AT)を用いて、1mL/minの流量で測定を行い、ポリスチレン換算による数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。得られた数平均分子量、重量平均分子量と、H−NMR測定により求めたブチラール化度から、得られたポリビニルブチラール樹脂の重合度を計算した。
【0051】
(4)アルデヒドの反応効率
反応に用いたアルデヒドの量(ポリビニルアルコールに対するアルデヒドの配合モル比)と、アセタール化によってポリビニルアルコールに結合したアルデヒドの量(ブチラール化度の値)から、アルデヒドの反応効率を下記式にて計算した。
アルデヒドの反応効率=A/(B×100)
ここで、式中のAは上記で測定したブチラール化度の値であり、Bは反応に用いたアルデヒドのポリビニルアルコールに対する配合モル比を意味している。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、アルデヒドの反応効率が高く、また、アセタール化反応以外の副反応を抑制してアルデヒドの使用量を減らすことができ、アセタール化度が高く、重合度の低下および樹脂の黄変等の着色がほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を短時間で製造することができるポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を提供することができる。