【実施例1】
【0034】
図1−1、
図1−2、
図1−3は、本発明の第1の実施形態における液晶表示素子の製造方法を示す平面図である。
図2は、本発明の第1の実施形態における液晶表示素子の製造方法を示す断面図で、液晶溶解溶剤に液晶表示素子を浸漬している状況を示している。
図3は、本発明の第1の実施形態における液晶表示素子の製造方法を示す断面図で、液晶溶解溶剤と溶剤に溶けている液晶を気体を吹き付けて除去する状況を示している。
図4は、本発明の第1の実施形態における液晶表示素子の製造方法を示す断面図で、液晶溶解溶剤置換液に液晶表示素子を浸漬している状況を示している。
【0035】
本発明の第1の実施形態は、第1の基板1として、強誘電性液晶に所定の電圧を印加する半導体回路と画素電極を有するシリコン基板からなる集積回路搭載基板を使用し、第2の基板6として、酸化インジウムスズ(ITO)膜からなる透明電極を有するガラス基板を使用した、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)構造を有する液晶表示パネルの製造に本発明を適用した実施例である。LCOS構造の液晶表示パネルは、マイクロディスプレイに最適であり、本発明を適用するのに適している。
【0036】
まず、第1の基板1と第2の基板6とをシール材11により1マイクロメートル(μm)程度の間隔で貼り合せて空液晶表示パネルを作成した後、シール材11の一部に設けた注入口14近傍の第2の基板6上に強誘電性液晶13を滴下し、真空および加熱状態において、強誘電性液晶13を注入口14より空液晶表示パネル内に毛細管現象を利用して注入し、
図1−1(a)に示す状態の液晶表示パネルを得る。
【0037】
強誘電性液晶13は、注入口14から空液晶表示パネル内の表示領域31へと注入されるが、この時、シール材11の外周側に位置する第1の基板1と第2の基板6との隙間にギャップ液晶残り35が発生し、さらに、第1の基板1と第2の基板6が互いにオフセットした部分の第2の基板6上に第2の基板上液晶残り36が発生する。
【0038】
次に、ギャップ液晶残り35と第2の基板上液晶残り36が発生した液晶表示パネルを、イソプロピルアルコールに所定時間浸漬してから取り出すことで、
図1−1(b)に示す状態の液晶表示パネルを得る。尚、イソプロピルアルコールに浸漬させるのは、液晶表示パネル全体ではなく、注入口14周辺のみであっても良い。
【0039】
液晶表示パネルをイソプロピルアルコールに浸漬する工程は、例えば、
図2に示すように、イソプロピルアルコールからなる液晶溶解溶剤42を収容した液晶溶解溶剤容器41に、液晶表示パネルカセット46とパネル保持パイプ47からなる液晶表示パネル浸漬用カセット45に液晶表示パネルを保持したものを投入することにより行う。
【0040】
イソプロピルアルコールは強誘電性液晶を溶解する性質があり、ギャップ液晶残り35と第2の基板上液晶残り36は溶解される。しかし、この時、ギャップ液晶残り35は、基板間の狭小な隙間にあることからイソプロピルアルコールに触れ難く、溶解し難いため、完全には除去されない。尚、第2の基板上液晶残り36は、イソプロピルアルコールに触れ易いため、ほとんどが溶解する。
【0041】
また、一方では、注入口14内にある注入口内液晶12の一部がイソプロピルアルコールに溶解する。しかし、注入口14内は狭小であるため、イソプロピルアルコールが浸透し難く、完全には除去されない。
【0042】
尚、液晶溶解溶剤42の温度は、適宜設定すれば良いが、40〜60℃程度とすれば、液晶の溶解を室温より早くしつつも、液晶の溶解量を制御し易い範囲とすることができる。
【0043】
次に、液晶表示パネルを液晶表示パネル浸漬用カセット45に入れた状態のまま液晶溶解溶剤容器41から取り出し、
図3に示すように、ガス噴射ノズル48から液晶溶解溶剤除去ガス49として窒素(N2)ガスを液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45に噴きつけ、付着している液晶溶解溶剤42を飛散させることで、液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45に付着する液晶溶解溶剤42の量を減少させる。尚、液晶溶解溶剤除去ガス49を吹き付けるのは、液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45のうち、液晶溶解溶剤置換液52に浸漬する部分のみであっても良い。
【0044】
次に、付着する液晶溶解溶剤42の量を減少させた液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45を、代替フロンであるバートレル(登録商標)に所定時間浸漬してから取り出し、バートレルを乾燥させることで、
図1−2(c)に示す状態の液晶表示パネルを得る。尚、バートレルに浸漬させるのは、液晶表示パネル全体ではなく、注入口14周辺のみであっても良い。
【0045】
液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45をバートレルに浸漬する工程は、例えば、
図4に示すように、バートレルからなる液晶溶解溶剤置換液52を収容した液晶溶解溶剤置換液容器51に、液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45を投入することにより行う。
【0046】
この時、液晶溶解溶剤置換液52は、予め一定の温度に保たれた状態となっているが、液晶溶解溶剤置換液52に投入される液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45の温度が、液晶溶解溶剤置換液52の温度よりも高いと、液晶溶解溶剤置換液52の温度が上昇して液晶溶解溶剤置換液52の蒸発が促進されてしまうため、液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45は、液晶溶解溶剤置換液52に投入する前に、予め液晶溶解溶剤置換液52の温度以下に調整しておくのが好ましい。温度を調整する方法としては、例えば、
図3に示す工程で液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45に吹き付ける液晶溶解溶剤除去ガス49の温度を、液晶溶解溶剤置換液52の温度以下に調整しておくことが挙げられる。このようにすれば、液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45の温度を調整する作業を別工程として行う必要は無い。尚、温度を調整するのは、液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45のうち、液晶溶解溶剤置換液52に浸漬する部分のみであっても良い。
【0047】
液晶溶解溶剤置換液容器51には、液晶溶解溶剤置換液52の蒸発を防止するために、液晶溶解溶剤置換液蒸発防止冷却部53と、液晶溶解溶剤置換液蒸発防止蓋55とが設けられている。液晶溶解溶剤置換液蒸発防止冷却部53は、液晶溶解溶剤置換液容器51の外壁上部に近接乃至は密着して設けられ、内部に冷媒を循環させることで、蒸発したバートレルを液晶溶解溶剤置換液容器51の外壁越しに冷却し、液体として析出(結露)させる役割を果たす。液晶溶解溶剤置換液蒸発防止蓋55は、液晶溶解溶剤置換液容器51の上部開口を塞ぐもので、蒸発したバートレルが液晶溶解溶剤置換液容器51の外へ拡散するのを防止する役割を果たす。
【0048】
バートレルはイソプロピルアルコールを溶解する性質(相溶性)があるため、液晶表示パネルと液晶表示パネル浸漬用カセット45に付着していた液晶溶解溶剤42は、そこに溶け込んでいた強誘電性液晶13と共に液晶溶解溶剤置換液52により置換される。バートレルは、強誘電性液晶を溶解しない性質のため、乾燥する間に強誘電性液晶を溶解することはない。また、バートレルは、イソプロピルアルコールよりも沸点が低く、短時間に乾燥させることができるため、仮にバートレルに強誘電性液晶を溶解する性質があったとしても、乾燥するまでの間に強誘電性液晶が溶解される量、即ち、乾燥した際に析出する残渣の量は減少する。
【0049】
尚、液晶溶解溶剤置換液52の温度は、適宜設定すれば良いが、室温である20〜25℃程度とすれば、液晶溶解溶剤42の置換を良好に行いつつ、液晶溶解溶剤置換液52の蒸発を最小限に抑えることができる。
【0050】
また、バートレルは揮発性が高く乾燥しやすいが、減圧雰囲気(真空雰囲気)にて乾燥を行えば、揮発性が高まるため、乾燥時間をより短縮することができる。
【0051】
以上により、液晶表示パネルに付着する液晶溶解溶剤置換液52を乾燥させた時点では、
図1−2(c)に示すように、注入口14周辺には強誘電性液晶の残渣が存在しない状態となり、特に、注入口14内の表示領域31に近い部分には、残渣の無い清浄な液晶除去空間部39が形成される。
【0052】
次に、
図1−2(d)に示すように、第1の基板1と第2の基板6とシール材11とに良好に接触する状態で注入口14に封口材15を塗布し、紫外線(UV光)を照射して硬化させる。
【0053】
この時、注入口14周辺には、強誘電性液晶の残渣が無いため、封口材15は、第1の基板1と第2の基板6とシール材11とに良好に密着する。また、注入口14に封口材15を塗布した時点では、液晶除去空間部39には封口材15が完全に充填されず、封口材15と強誘電性液晶13との間には僅かに隙間が形成された状態となっており、さらに、その隙間にある配向膜上には強誘電性液晶の残渣が存在しないため、封口材15が強誘電性液晶13に直接接触する、あるいは、残渣を介して強誘電性液晶13に溶け込むことはなく、強誘電性液晶13を劣化させることはない。この効果は、液晶溶解溶剤置換液52により、液晶溶解溶剤42とそこに溶け込んでいる強誘電性液晶13を完全に置換し、さらに、液晶溶解溶剤置換液52を短時間にしっかり乾燥できていることによるものである。
【0054】
次に、
図1−3(e)に示すように、液晶表示パネルの熱処理を行い、強誘電性液晶13を等方相液体状態にして低粘度化と膨張をさせ、膨張した強誘電性液晶13により液晶除去空間部39を埋めて、強誘電性液晶13と封口材15とを接触させる。その後、液晶表示パネルを徐冷し、強誘電性液晶13を規則正しく配向させることで、液晶表示パネルが完成する。
この時、注入口14内には強誘電性液晶の残渣が存在していないため、残渣に起因する強誘電性液晶13の配向不良が起こることはない。
【0055】
図7は、本発明の液晶表示素子の製造方法を使用して製造された液晶表示素子を組み込んだ液晶表示装置の平面図である。
図8は、
図7に示す液晶表示装置のA−A断面図である。本発明の製造方法を用いて製造された液晶表示パネルは、例えば、
図7と
図8に示す構造の液晶表示装置となる。
【0056】
液晶表示パネルの第1の基板1上には画素電極(第1の電極)2が設けられ、第2の基板6上には対向電極(第2の電極)7が設けられている。液晶表示パネルは、周辺回路との電気的接続を行うためのコネクタ23を備えた外部回路基板21に両面接着テープ22を介して固定されている。外部回路基板21と液晶表示パネルの第2の基板6とは、超音波ワイヤボンディング法を用いて配設されたアルミニウム細線などからなる導通ワイヤ25を介して電気的に接続されている。導通ワイヤ25は、ワイヤ保護樹脂26により保護されている。液晶表示パネルの第2の基板6上にある対向電極7と外部回路基板21とは、導電性接着剤などからなる上下導通部材16を介して電気的に接続されている。
【実施例4】
【0061】
図9は、本発明の一実施形態における液晶表示素子の製造工程と液晶溶解溶剤置換液の再生処理工程を示す図である。工程1から工程6は、強誘電性液晶表示パネルの製造工程を示し、工程7は、強誘電性液晶表示パネルを液晶表示装置とする工程を示し、工程8から工程10は、液晶溶解溶剤置換液の再生工程を示している。
図9に示す工程1から工程6を行うことにより強誘電性液晶表示パネルを製造した後、工程7を行うことにより液晶表示装置を製造する一方、それらとは独立した工程として、工程8から工程10の液晶溶解溶剤置換液の再生工程を行う。
【0062】
工程8では、まず、液晶溶解溶剤42が溶け込んだ使用済みの液晶溶解溶剤置換液52に所定量の水を混入させることで、液晶溶解溶剤置換液52に溶け込んだ液晶溶解溶剤42であるイソプロピルアルコールのみを水に溶解させると同時に、水とは相溶性の無い液晶溶解溶剤置換液52であるバートレルから、イソプロピルアルコールが溶解した水(分離処理液)を分離させる。その後、液晶溶解溶剤置換液52と分離処理液と強誘電性液晶との混合液から、液晶溶解溶剤置換液52のみを選択的に抽出、あるいは、分離処理液のみを選択的に除去することにより、液晶溶解溶剤42の濃度が低い液晶溶解溶剤置換液52を回収する。尚、バートレルと水(分離処理液)とは、比重の違いから層状に分離されるため、何れか一方を選択的に抽出あるいは除去することは容易に行える。
【0063】
工程9では、工程8により回収された液晶溶解溶剤置換液52を蒸留し、混入している強誘電性液晶と残った水分とを液晶溶解溶剤置換液52から分離させ、純度の高い液晶溶解溶剤置換液52を回収する。
【0064】
工程10では、工程9により回収した高純度の液晶溶解溶剤置換液52を液晶溶解溶剤置換液容器51に戻し、工程5で用いられる液晶溶解溶剤置換液52として再利用する。使用済みの液晶溶解溶剤置換液52を再利用することで、廃液が少なくなり、環境負荷が低減されると同時に、廃液処理に掛かるコスト、ひいては液晶表示パネルの製造コストを下げることができる。
【0065】
以上説明した本発明の実施例では、液晶溶解溶剤42としてイソプロピルアルコールを使用し、液層溶解溶剤置換液52として代替フロンであるバートレルを使用しているが、使用する溶媒はこれらに限定されるものではなく、少なくとも、液晶溶解溶剤42としては、液晶を溶解する性質のあるもの、液層溶解溶剤置換液52としては、液晶溶解溶剤42を溶解し(液晶溶解溶剤42と相溶性があり)、且つ、液晶溶解溶剤42よりも液晶の溶解性が低いものであれば、本発明の趣旨を逸脱し内範囲でその他のものを用いることが可能である。特に、液層溶解溶剤置換液52としては、液晶の溶解性が全く無いものが好ましく、少なからず液晶の溶解性がある場合には、液晶溶解溶剤42よりも沸点が低い(揮発性が高い)ものが好ましい。
【0066】
尚、本発明は、強誘電性液晶を用いた液晶表示素子に限らず、強誘電性液晶以外の液晶を用いた液晶表示素子にも適用することが可能である。