(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る処理装置の一実施形態を、
図1から
図3を参照しながら説明する。以下では、処理装置が燃料電池システムである場合を例にとって説明する。
図1に示すように、本燃料電池システム1は、第一の供給部(供給部)10および第二の供給部15と、溶液(作動流体)L1を収容する収容部20と、収容部20に設けられた反応部(処理部)30と、流体の物性変化を電気信号に変換し出力する表面弾性波溶液センサ(検出部)35と、出力された電気信号から、流体の誘電率(物性値)を算出する誘電率算出部(算出部)55と、表面弾性波溶液センサ35に供給する流体を切り替える切り替え機構60と、誘電率算出部55が算出する誘電率を調節する調節部65とを備えている。
【0014】
第一の供給部10としては、中空の容器を用いることができる。第一の供給部10内には、不図示の開口から純水(基準流体)L2を収容可能となっている。
第二の供給部15には、第一の供給部10と同様の構成のものが用いられている。第二の供給部15内には、不図示の開口からエタノール(第二の流体)L3を収容可能となっている。
収容部20は、貯留タンク21と、両端部が貯留タンク21にそれぞれ接続された主配管22とを有している。収容部20は全体として、環状の閉流路の形状に形成されている。
主配管22には、反応部30と、後述するケース43とが設けられている。主配管22には、ケース43と貯留タンク21との間に主開閉バルブ24が、ケース43と反応部30との間に主開閉バルブ25がそれぞれ設けられている。
この例では、溶液L1は、純水L2とエタノールL3とを所定の割合で混合させた混合液となっている。
【0015】
反応部30は、公知の構成を有していて、反応部30に設けられた不図示の触媒により溶液L1から電力を発生させることができる。なお、溶液L1を反応させることで、溶液L1中のエタノールL3の濃度が低下する。
【0016】
表面弾性波溶液センサ35は、
図1および
図2に示すように、第一弾性表面波素子36と、第二弾性表面波素子37と、高周波の電気信号を発生する発振器38と、発振器38からの電気信号を分配する分配器39と、弾性表面波に対応した出力信号の振幅比および位相差を測定する振幅比位相差検出器40とを有している。
弾性表面波素子36、37は、ケース43内に収容されるとともに、圧電基板44上に互いに並列になるように配置されている。ケース43に形成された流入口43aおよび流出口43bが主配管22の管路と連通することで、主配管22にケース43が設けられ、ケース43内に溶液L1を充填させることができる。
【0017】
第一弾性表面波素子36は、入力電極47と、出力電極48と、入力電極47と出力電極48との間に形成された短絡伝搬路49とを有している。同様に、第二弾性表面波素子37は、入力電極50と、出力電極51と、入力電極50と出力電極51との間に形成された開放伝搬路52とを有している。
入力電極47、50は、発振器38から分配器39を介して入力された電気信号によって、弾性表面波を励振させるために櫛形電極で構成されている。出力電極48、51は、入力電極47、50で励振され伝搬してきた弾性表面波を受信するために櫛形電極で構成されている。
【0018】
短絡伝搬路49および開放伝搬路52は、圧電基板44上に成膜された金属膜を用いて形成されている。開放伝搬路52には、金属膜の一部を剥離することで、圧電基板44が露出するように開放領域R1が形成されている。したがって、圧電基板44が露出している開放領域R1は、電気的に開放状態となっている。
なお、開放伝搬路52においても、圧電基板44上に金属膜が成膜された部分については、短絡伝搬路49と同様に電気的に短絡状態となっている。
【0019】
振幅比位相差検出器40としては、例えば、ユニバーサルカウンターを用いることができる。
誘電率算出部55は、不図示の演算素子およびメモリを有している。
【0020】
ここで、表面弾性波溶液センサ35および誘電率算出部55で誘電率(比誘電率)を算出する手順について説明する。
ケース43内に溶液L1を充填した状態で、発振器38より電気信号を分配器39で分配して、弾性表面波素子36、37へ同一信号を入力する。第一弾性表面波素子36では、入力された信号に基づいて弾性表面波が励振され、短絡伝搬路49上、および短絡伝搬路49に隣接する溶液L1と接触しながら伝搬して、出力電極48で受信される。同様に、第二弾性表面波素子37では、入力された信号に基づいて弾性表面波が励振され、開放伝搬路52上、および開放伝搬路52に隣接する溶液L1と接触しながら伝搬して、出力電極51で受信される。
【0021】
出力電極48と出力電極51で受信した弾性表面波から取り出した両出力信号を振幅比位相差検出器40で比較して振幅比及び位相差を検出し、誘電率算出部55において溶液L1の比誘電率が算出される。
なお、誘電率算出部55は、後述するように、誘電率算出部55に接続された調節部65内のメモリに記憶された補正値だけ引いた補正比誘電率を出力するようになっている。
【0022】
溶液L1の比誘電率の具体的な算出は、以下に説明する摂動法による算出式によって行われる。標準液として純水を用いた場合に標準液の複素誘電率をε
t、比誘電率をε
r、真空の誘電率をε
0、導電率をσ、発振器38から出力される信号の励振角周波数をωとすると、式(1)のようになる。ここで、標準液では導電率σ=0であるために、式(1)は式(2)のようになる。
【0024】
次に、測定対象である溶液L1の複素誘電率をε
t’、比誘電率をε
r’、導電率をσ
’とすると式(3)の関係となる。また、伝搬速度の速度変化量△V/V、減衰変化量△α/kは、式(4)、式(5)で表される。
【0026】
ここで、Vは、伝搬路を伝搬する弾性表面波の伝搬速度、△Vは、標準液に対する溶液L1における弾性表面波の伝搬速度の変化量、αは、弾性表面波の伝搬減衰、△αは、標準液に対する溶液L1における弾性表面波の伝搬減衰の変化量、kは波数で、k=2π/λであり、ε
pTは、表面弾性波基板(圧電基板)の実効誘電率である。
【0027】
また、伝搬速度の速度変化量△V/V、減衰変化量△α/kと、振幅比△amp、位相差△φとの関係は、伝搬路長の差をLとすると、式(6)、式(7)で表される。
【0029】
振幅比位相差検出器40では、出力信号の位相差△φ、および振幅比△ampを検出する。振幅比位相差検出器40で検出した位相差△φおよび振幅比△ampは、誘電率算出部55に送信される。
誘電率算出部55のメモリには、式(4)から式(7)が記憶されている。誘電率算出部55の演算素子は、出力信号の位相差△φを式(6)に、振幅比△ampを式(7)に代入して、速度変化量△V/V、減衰変化量△α/kを求める。そして、求めた速度変化量△V/Vを式(4)に、減衰変化量△α/kを式(5)に代入して、式(4)、(5)の連立方程式から測定対象である溶液L1の比誘電率ε
r’を求める。溶液L1の誘電率は、(ε
r’ε
0)の式で求められる値となる。
なお、溶液L1に対する振幅比位相差検出器40で検出した出力信号の位相差△φ、振幅比△ampは、予め溶液L1と同様に標準液について検出した位相差、振幅比に対する変化量として規定化したうえで代入している。
【0030】
図1に示すように、貯留タンク21から延びる接続配管71には、第一の供給部10、第二の供給部15から延びる接続配管72、73が連通している。接続配管71における接続配管72、73が接続された部分より貯留タンク21側には、補助開閉バルブ75が設けられている。接続配管72、73には、補助開閉バルブ76、77がそれぞれ設けられている。
【0031】
切り替え機構60は、接続配管71における補助開閉バルブ75に対して貯留タンク21とは反対側の部分と、主配管22におけるケース43と主開閉バルブ25との間の部分にそれぞれ連通する接続配管61と、接続配管61に設けられた接続バルブ62とを有している。
調節部65は、内部にメモリ65aを有している。このメモリ65aには、例えば、20℃における純水L2の比誘電率(ここでは、説明を簡単にするために、この値を80とする。)が文献を調査することや実験などにより予め求められ、記憶されている。また、メモリ65aには、誘電率算出部55の算出結果を処理した値(以下、「補正値」と称する。)が記憶可能となっている。
収容部20には、不図示のポンプが設けられていて、収容部20内の溶液L1を循環させることができる。
【0032】
本燃料電池システム1は、反応部30、発振器38、誘電率算出部55、調節部65、主開閉バルブ24、25、補助開閉バルブ75、76、77、接続バルブ62に接続され、これらを制御する主制御部80を備えている。
主制御部80には、操作者が主制御部80に指示を与えるためのスイッチなどの入力部81と、後述する補正比誘電率などを表示するモニタ82とが接続されている。
主制御部80は、不図示の電源を備えていて、反応部30などの燃料電池システム1の各構成に電力を供給することができる。
【0033】
主開閉バルブ24、25、補助開閉バルブ75、76、77、接続バルブ62(以下、「主開閉バルブ24など」と称する。)は主制御部80に電気的に接続されていて、主開閉バルブ24などの内部には、主制御部80の命令に基づいて動作する不図示のソレノイドが設けられている。主開閉バルブ24などは、主制御部80の指示に基づいて、それぞれが設けられている配管の管路を通した状態の開状態と、管路を封止した閉状態とに切り替えることができる。
接続バルブ62、補助開閉バルブ77を閉状態にしつつ補助開閉バルブ75、76を開状態にすることで、貯留タンク21と第一の供給部10とを連通させて、第一の供給部10内の純水L2を貯留タンク21に供給することができる。同様に、接続バルブ62、補助開閉バルブ76を閉状態にしつつ補助開閉バルブ75、77を開状態とすることで、貯留タンク21と第二の供給部15とを連通させて、第二の供給部15内のエタノールL3を貯留タンク21に供給することができる。
また、補助開閉バルブ75、77、主開閉バルブ25を閉状態にしつつ補助開閉バルブ76、接続バルブ62、主開閉バルブ24を開状態にすることで、第一の供給部10内の純水L2をケース43に供給することができる。
【0034】
次に、以上のように構成された燃料電池システム1の校正方法について説明する。以下では、ケース43内に温度調節器が設けられていてケース43内の溶液L1の温度が一定に保たれている場合、もしくは、ケース43内の溶液L1の温度が変化しても、温度変化による誘電率の変化が無視できるほどわずかである場合で説明する。
本燃料電池システム1は、製造された際に校正されていて、
図3の曲線C1に示すように、ケース43内に20℃の純水L2を充填したときに、誘電率算出部55が算出する比誘電率が80となるように調節されている。また、調節部65のメモリ65aには、補正値として「0」が記憶されているとする。
【0035】
操作者は、入力部81を操作して主制御部80を起動する。主制御部80から反応部30などに電力が供給される。
まず、主制御部80は、以下に説明する処理工程を行う。
主制御部80は、主開閉バルブ24、25を開状態にするとともに、補助開閉バルブ75、76、77、接続バルブ62を閉状態にする。不図示のポンプにより収容部20内およびケース43内を溶液L1が循環する。反応部30では、溶液L1を用いて電力が取り出される。
また、反応部30で電力が取り出される間に、発振器38から分配器39を介して弾性表面波素子36、37に電気信号を入力することで、振幅比位相差検出器40で出力信号の位相差△φ、および振幅比△ampを検出し、誘電率算出部55で溶液L1の比誘電率ε
r’が算出される。このとき、調節部65のメモリ65aに記憶された補正値は「0」であるため、補正比誘電率は、位相差△φおよび振幅比△ampから算出された比誘電率ε
r’と等しい値となり、補正比誘電率がモニタ82に表示される。
【0036】
なお、純水L2の比誘電率は80、エタノールL3の比誘電率は約24であるため、モニタ82に表示される溶液L1の補正比誘電率から溶液L1中の純水L2とエタノールL3との混合比率(濃度)を容易に求めることができる。
溶液L1中のエタノールL3の濃度が変化したら、前述のように補助開閉バルブ75、76、77を操作して、純水L2やエタノールL3を貯留タンク21に適宜供給する。
【0037】
燃料電池システム1を動作させるにつれて、表面弾性波溶液センサ35の弾性表面波素子36、37の表面には、溶液L1中の不純物が堆積してくる。
操作者は、燃料電池システム1を一定時間動作させたときに、入力部81を操作して主制御部80に校正の指示を送信する。主制御部80は、処理工程を終了し、以下に説明する校正工程に移行する。
まず、前述のようにバルブの開状態と閉状態とを調節することで、第一の供給部10内の純水L2をケース43に供給する。ケース43に、例えば数秒程度純水L2を流し入れることで、弾性表面波素子36、37に接触する液体を溶液L1から純水L2に置き換えることができる。
このとき、誘電率算出部55において20℃の純水L2の比誘電率ε
r’が、
図3の曲線C2に示すように81と算出されたとする。誘電率算出部55で算出された比誘電率ε
r’は、調節部65に送信され、調節部65のメモリ65aの補正値には、送信された値81から、既にメモリ65aに記憶されている純水L2の比誘電率80を引いた値「1」が記憶される。
これにより、再び処理工程に移行して、誘電率算出部55で溶液L1の比誘電率ε
r’を算出した際には、誘電率算出部55で算出された比誘電率ε
r’から、調節部65に記憶された補正値「1」を引いた値80が、補正比誘電率としてモニタ82に表示される。
表面弾性波溶液センサ35に不純物が堆積している場合であっても、ケース43に純水L2を充填したときには、
図3の曲線C3に示すように補正された補正比誘電率「80」がモニタ82に表示されるようになる。
補正値の取得が終了すると、校正工程を終了し処理工程に移行する。
【0038】
このように、処理工程と校正工程とを交互に繰り返し、発電を行いながら、溶液L1中のエタノールL3の濃度を測定する。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の燃料電池システム1、およびその校正方法によれば、ケース43に純水L2を充填させたときに誘電率算出部55により算出される溶液L1の比誘電率が、予め求められた純水L2の比誘電率である80と等しくなるように調節部65で調節した補正比誘電率をモニタ82に表示する。このため、燃料電池システム1に表面弾性波溶液センサ35を組み込んだ状態であっても、表面弾性波溶液センサ35を校正することができる。
【0040】
収容部20は環状の閉流路として形成されているとともに、表面弾性波溶液センサ35は主配管22に設けられている。したがって、収容部20内の溶液L1を用いて反応部30で発電している間に、表面弾性波溶液センサ35で溶液L1の比誘電率を連続的に算出することができる。また、収容部20を環状に形成することで、収容部20内の溶液L1が流れずに淀むのを抑制することができる。
第一の供給部10は収容部20と連通可能となっているため、ケース43に純水L2を容易に供給することができる。また、溶液L1として純水L2を成分に含むものを用いることで、校正に用いた純水L2を廃棄せずに溶液L1の一部として用いることができる。これにより、校正に要する時間を短縮させることができる。
【0041】
収容部20と連通可能とされた第二の供給部15を備えることで、収容部20内に、純水L2とエタノールL3とをそれぞれ供給することができる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更なども含まれる。
たとえば、前記実施形態では、検出部および算出部で算出される物性値が誘電率であるとしたが、物性値は導電率などでもよい。
燃料電池システム1のケース43に純水L2を充填させて校正するとしたが、校正に用いる基準流体は予め誘電率が求められているものであれば、溶液L1の成分であるエタノールL3を用いてもよいし、溶液L1の成分以外のものを用いてもよい。
燃料電池システム1は、供給部として第一の供給部10、第二の供給部15の2つを備えるとしたが、燃料電池システムが備える供給部の数に制限はなく、1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0043】
また、前記実施形態では、燃料電池システムにケース43内の溶液L1の温度を測定する温度センサを備えてもよい。この温度センサは、調節部65に接続される。さらに、調節部65のメモリ65aには、予め求められた、例えば20℃、40℃における純水L2の比誘電率が記憶される。すなわち、純水L2の温度に応じた複数の比誘電率をメモリ65aに記憶しておく。なお、説明を簡単にするために、純水L2の比誘電率が20℃で80であり、40℃で79であるとする。
この燃料電池システムを用いた校正方法は、前記実施形態における校正方法と校正工程のみ異なる。
校正工程において、温度センサでケース43内の溶液L1の温度を測定し、測定結果を調節部65に送信する。この測定結果が例えば40℃であり、誘電率算出部55で算出された比誘電率ε
r’が79.6だったとする。
このとき、調節部65のメモリ65aの補正値には、算出された値79.6から、既にメモリ65aに記憶されている40℃に対する純水L2の比誘電率79を引いた値「0.6」が記憶される。
すなわち、40℃の純水L2を基準として、燃料電池システムが校正される。
燃料電池システムをこのように構成することで、表面弾性波溶液センサ35内の溶液L1の温度が変化する場合であっても、燃料電池システムを校正することができる。
【0044】
なお、前記実施形態、および前記変形例では、燃料電池システムにケース43内の溶液L1の圧力を測定する圧力センサを備えてもよい。この場合、調節部65のメモリ65aには、予め求められた、圧力に応じた純水L2の比誘電率が記憶されることになる。
燃料電池システムに用いられる流体は、純水やエタノールに限られることなく、所望のものを適宜選択して用いることができる。
【0045】
前記実施形態では、処理装置が燃料電池システムであるとしたが、処理装置はこれに限ることなく、例えば、作動流体としてペーハー(pH)が一定の値に調節された洗浄液を用いる洗浄装置などであってもよい。