特許第5956838号(P5956838)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5956838-半凝固金属の製造装置及び製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956838
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】半凝固金属の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/00 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
   B22D17/00 316
   B22D17/00 312
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-132825(P2012-132825)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-255930(P2013-255930A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】東芝機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094053
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 智
(72)【発明者】
【氏名】中田 光栄
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−243707(JP,A)
【文献】 特開昭62−161463(JP,A)
【文献】 特表2003−505251(JP,A)
【文献】 特開2005−088083(JP,A)
【文献】 特開昭58−055151(JP,A)
【文献】 特表2008−511443(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0024927(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/00,41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を加熱する加熱装置と、
容器と、
前記容器を冷却する冷却装置と、
加熱された前記金属材料を前記容器に注ぐ注湯装置と、
前記金属材料の液相線温度よりも高い温度の前記金属材料が前記容器内に注がれ、前記容器内にて前記金属材料の温度が前記金属材料の固相線温度と前記液相線温度との間の温度に至るように、前記加熱装置、前記冷却装置及び前記注湯装置を制御する制御装置と、
を有し、
前記容器は、中空部材と、前記中空部材の一方を塞ぎ、前記容器の底部を構成する底部材とを有し、
前記中空部材と前記底部材とは分離可能であり、
前記中空部材と前記底部材との境界に、前記金属材料に含まれる液相の部分が前記容器外へ流出することが不可能で、且つ、前記容器内の気体が前記容器外へ流出することが可能な径の孔部が形成されている
半凝固金属の製造装置。
【請求項2】
前記中空部材の下方の開口を構成する縁部は、前記底部材の上面に当接し、当該縁部には、前記孔部を構成する切り欠きが形成されている
請求項に記載の半凝固金属の製造装置。
【請求項3】
前記底部材は、前記中空部材を構成する材料よりも熱伝導率が高い材料により構成されている
請求項1又は2に記載の半凝固金属の製造装置。
【請求項4】
金属材料を当該金属材料の液相線温度よりも高い温度の状態で容器に注ぎ、前記金属材料の温度を前記容器内にて前記金属材料の固相線温度と前記液相線温度との間の温度に至らせることにより、前記金属材料を半凝固状とする半凝固金属の製造方法であって、
前記容器は、中空部材と、前記中空部材の一方を塞ぎ、前記容器の底部を構成する底部材とを有し、
前記中空部材と前記底部材とは分離可能であり、
前記中空部材と前記底部材との境界に、前記金属材料に含まれる液相の部分が前記容器外へ流出することが不可能な径の孔部を形成しておき、
前記金属材料を前記容器に注ぐ際に、前記容器内の気体を前記孔部から前記容器外へ流出させる
半凝固金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半凝固金属の製造装置及び製造方法に関する。半凝固金属は、例えば、半凝固ダイカスト法において利用される。
【背景技術】
【0002】
半凝固金属の製造方法として、加熱されて液状となっている金属材料を、予め冷却された容器に注ぐことにより、金属材料を冷却し、金属材料を半凝固状態とするものが知られている(特許文献1及び2)。
【0003】
特許文献1及び2の技術においては、容器内の底部中央に比較的小さい孔部が形成されている。液状の金属材料は、その孔部が塞がれた状態で容器内へ注がれる。そして、容器内の金属材料が半凝固状態となると、孔部が開放され、半凝固金属に含まれる液相部分の一部が孔部を介して排出される。特許文献1及び2では、このような液相部分の一部の排出により、温度変化を伴わずに固相率を高くすることができるとしている。ただし、固相率は、金属材料の温度制御を適切に行うことにより制御可能である(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−505251号公報
【特許文献2】特表2008−511443号公報
【特許文献3】国際公開第2005/110644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液状の金属材料を容器内に注ぐと、容器内の気体(例えば空気)は、容器外へ押し出される。このとき、容器の下方側においては、気体が逃げ場を失い、金属材料に巻き込まれるおそれがある。金属材料に巻き込まれた気体は、成形品において巣となり、成形品の品質を低下させるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、気体の含有量を低減できる半凝固金属の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の半凝固金属の製造装置は、金属材料を加熱する加熱装置と、容器と、前記容器を冷却する冷却装置と、加熱された前記金属材料を前記容器に注ぐ注湯装置と、前記金属材料の液相線温度よりも高い温度の前記金属材料が前記容器内に注がれ、前記容器内にて前記金属材料の温度が前記金属材料の固相線温度と前記液相線温度との間の温度に至るように、前記加熱装置、前記冷却装置及び前記注湯装置を制御する制御装置と、を有し、前記容器の下方側には、前記金属材料に含まれる液相の部分が前記容器外へ流出することが不可能で、且つ、前記容器内の気体が前記容器外へ流出することが可能な径の孔部が形成されている。
【0008】
好適には、前記容器は、前記容器の壁部を構成し、上下両端が開口しており、上方の開口から前記金属材料が注がれる中空部材と、前記中空部材の下方の開口を塞ぎ、前記容器の底部を構成する底部材と、を有し、前記中空部材と前記底部材とは離間可能であり、前記孔部は、前記中空部材と前記底部材との間の隙間により構成されている。
【0009】
好適には、前記中空部材の下方の開口を構成する縁部は、前記底部材の上面に当接し、当該縁部には、前記中空部材と前記底部材との間の隙間を構成する切り欠きが形成されている。
【0010】
好適には、前記底部材は、前記中空部材を構成する材料よりも熱伝導率が高い材料により構成されている。
【0011】
本発明の半凝固金属の製造方法は、金属材料を当該金属材料の液相線温度よりも高い温度の状態で容器に注ぎ、前記金属材料の温度を前記容器内にて前記金属材料の固相線温度と前記液相線温度との間の温度に至らせることにより、前記金属材料を半凝固状とする半凝固金属の製造方法であって、前記容器に、前記金属材料に含まれる液相の部分が前記容器外へ流出することが不可能な径の孔部を形成しておき、前記金属材料を前記容器に注ぐ際に、前記容器内の気体を前記孔部から前記容器外へ流出させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気体の含有量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る半凝固金属の製造装置の要部の構成を示す模式図。
図2図2(a)は図1の半凝固金属の製造装置の容器を示す斜視図、図2(b)は図2(a)のIIb−IIb線における断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(製造装置の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る半凝固金属の製造装置1の要部の構成を示す模式図である。
【0015】
製造装置1は、例えば、液状の金属材料101を保持する保持炉3と、保持炉3から液状の金属材料を汲み出す注湯装置5と、注湯装置5により液状の金属材料が注がれ、注がれた液状の金属材料を半凝固状態とする半凝固化装置7と、これら各装置を制御する制御装置9とを有している。金属材料101は、例えば、アルミニウム合金である。
【0016】
保持炉3は、公知の構成とされてよい。また、保持炉3は、溶解炉を兼ねるものであってもよい。例えば、保持炉3は、金属材料101を収容する炉体11と、炉体11に収容されている金属材料101を加熱する加熱装置13と、炉体11に収容されている金属材料101の温度を検出する第1温度センサ15とを有している。
【0017】
炉体11は、例えば、特に図示しないが、セラミック等の断熱性に優れた材料からなる容器内に、金属材料101の液相線温度よりも固相線温度若しくは融点が高い金属からなる容器が配置されて構成されている。加熱装置13は、例えば、金属材料101を電磁誘導により加熱するコイル、若しくは、ガスを燃焼して金属材料101を加熱する燃焼装置を含んで構成されている。第1温度センサ15は、例えば、熱電対式の温度センサ若しくは放射温度計により構成されている。
【0018】
注湯装置5は、公知の構成とされてよい。例えば、注湯装置5は、ラドル17と、ラドル17を駆動可能な搬送装置19とを有している。
【0019】
ラドル17は、金属材料101の液相線温度よりも固相線温度若しくは融点が高い材料からなる、注ぎ口17aを有する容器であり、1ショット分の金属材料101を収容可能である。搬送装置19は、例えば、多関節ロボットにより構成されており、ラドル17を上下方向及び水平方向へ移動させることが可能であるとともに、注ぎ口17aを上下させるようにラドル17を傾斜させることが可能である。
【0020】
半凝固化装置7は、例えば、注湯装置5により金属材料101が注がれる容器21と、容器21を冷却する冷却装置23と、容器21の温度を検出する第2温度センサ25とを有している。
【0021】
容器21は、金属材料101の液相線温度よりも固相線温度若しくは融点が高く、好適には熱伝導率が比較的高い材料(好適には金属)により構成されている。容器21は、1ショット分の金属材料101を収容可能である。容器21の外形寸法は、例えば、1〜10cmオーダーである。
【0022】
冷却装置23及び第2温度センサ25は、公知の構成とされてよい。例えば、冷却装置23は、特に図示しないが、容器21の周囲に冷媒を流すための流路、冷媒を冷却する熱交換器、冷媒を送出するポンプを含んで構成されている。なお、好適には、冷却装置23は、容器21の壁部及び底部の双方を冷却可能である。例えば、冷媒が流れる流路は、壁部及び底部の双方に隣接するように延びている。第2温度センサ25は、例えば、抵抗式の温度センサにより構成されている。
【0023】
制御装置9は、例えば、CPU、ROM、RAM及び外部記憶装置等を含むコンピュータにより構成されている。制御装置9には、第1温度センサ15、第2温度センサ25及び搬送装置19の不図示のエンコーダ等の検出値が入力される。また、制御装置9は、加熱装置13、搬送装置19の不図示のモータ及び冷却装置23(例えば冷媒を送出するポンプ)に制御信号を出力する。
【0024】
図2(a)は、容器21を示す斜視図であり、図2(b)は図2(a)のIIb−IIb線における断面図である。
【0025】
容器21は、当該容器21の壁部を構成する中空部材31と、容器21の底部を構成する底部材33とを有している。
【0026】
中空部材31は、例えば、上下両端が開口する中空形状に形成されている。中空部材31の開口方向に見た形状は適宜に設定されてよいが、金属材料101を均等に冷却する観点からは円形が好ましい(中空部材31は筒状であることが好ましい。)。また、中空部材31の内径及び外形は、例えば、上下方向において一定とされ、また、厚みも一定とされている。ただし、上方若しくは下方ほど内径が大きくされたり、上方若しくは下方ほど厚みが大きくされたりしてもよい。
【0027】
底部材33は、例えば、概ね板状の部材である。底部材33の平面形状は適宜に設定されてよく、本実施形態では矩形を例示している。底部材33の平面視における外形は、中空部材31の開口よりも広く設定されている。底部材33の厚みは、例えば、一定とされている。ただし、中央側と外周側とで厚みが異なっていてもよい。また、底部材33の上面33aは、中央側と外周側とで高さが異なるなど、傾斜が設けられていてもよい。
【0028】
そして、中空部材31が底部材33の上面33aに載置されて、中空部材31の下方の開口が底部材33により塞がれることにより、容器21が構成されている。なお、中空部材31及び底部材33は、クランプ機構等の適宜な固定装置により互いに移動不可能に保持される。また、中空部材31及び底部材33には、互いに位置決めするための位置決め部が適宜に形成されてもよい。例えば、底部材33には、中空部材31の下方の縁部31aを収容する溝部が形成されていてもよい。
【0029】
中空部材31と底部材33との間には、容器21の内外を連通する複数の隙間21h(孔部)が形成されている。隙間21hは、容器21内の気体(例えば空気)を容器21外へ逃がすためのものである。具体的には、複数の隙間21hは、中空部材31の下方の縁部31aに複数の切り欠き部31bが形成されることにより構成されている。複数の切り欠き部31bは、例えば、互いに同一の形状及び大きさに形成され、縁部31a(円周)に沿って均等に配置されている。各切り欠き部31bの形状は適宜に設定されてよく、本実施形態では、縁部31aに沿う方向に長いスリット状(より具体的には細長い矩形状)である場合を例示している。
【0030】
隙間21hの径(特に最小径)は、金属材料101に含まれる液相の部分が容器21の内部から外部へ通過することが不可能な大きさとされている。なお、ここでいう通過不可能は、液状の金属材料101が容器21内に注がれてから半凝固状態となるまでの過程において通過不可能であれば足り、その過程においては付与されないような高い圧力下等の条件下において、通過不可能であることは要しない。
【0031】
例えば、本実施形態では、後述するように、金属材料101は、冷却された容器21に注がれるだけで半凝固状態とされ、電磁攪拌若しくは機械攪拌は行われない。従って、隙間21hの径は、金属材料101の自重及び注がれたときの運動エネルギーによる圧力下において金属材料101が通過不可能な大きさであればよい。また、金属材料101は、容器21に注がれた直後から一部が固相となり粘性が上昇するが、その実際の粘性で通過不可能であればよい。
【0032】
このような隙間21hの径(本実施形態では図2(b)に示すスリットの幅w)は、例えば、金属材料101がアルミニウム合金であれば、0.1mm以下である。また、隙間21hの径は、加工精度の許す範囲で小さくされてよい。ただし、隙間21hは、容器21内の気体を逃がすためのものであるから、速やかに容器21内の気体を容器21外へ排出する観点からは、ある程度の大きさであることが好ましい。
【0033】
底部材33を構成する材料は、中空部材31を構成する材料よりも熱伝導率が高い材料により構成されている。例えば、中空部材31がステンレス鋼により構成されているのに対して、底部材33は、銅(純銅)により構成されている。
【0034】
従って、容器21の全体を同一材料により構成した場合に比較して、金属材料101の容器21の底部における冷却速度は速くなる。また、別の観点では、容器21の底部における金属材料101の冷却速度は、容器21の壁部における金属材料101の冷却速度よりも速くなり得る。また、各部材の体積及び雰囲気温度等によっては、容器21の底部における金属材料101の冷却速度は、壁部における金属材料101の冷却速度よりも遅くなり得るが、この場合における速度差が縮小される。
【0035】
(製造装置の動作)
次に、製造装置1の動作を説明する。
【0036】
まず、制御装置9は、第1温度センサ15の検出値に基づいて加熱装置13を制御し、ひいては、炉体11に収容されている金属材料101の温度を所定の第1温度Tに維持する。第1温度Tは、金属材料101の液相線温度よりも高い温度であり、金属材料101は、その全部が液状とされている。
【0037】
また、制御装置9は、第2温度センサ25の検出値に基づいて冷却装置23を制御し、ひいては、容器21の温度を所定の第2温度Tに維持する。第2温度Tは、金属材料101の液相線温度よりも低い温度である。なお、中空部材31及び底部材33は、例えば、互いに同一の温度とされている。
【0038】
そして、制御装置9は、注湯装置5を制御して、炉体11に収容されている金属材料101を容器21に供給する。具体的には、まず、搬送装置19は、所定の角度で傾斜されたラドル17を炉体11に収容されている液状の金属材料101に浸してから上昇させることにより(若しくは上昇させてから傾斜させることにより)、1ショット分の金属材料101を計量しつつ汲み出す。そして、搬送装置19は、容器21上へラドル17を移動させ、ラドル17を更に傾斜させることにより、金属材料101を容器21内へ注ぐ。なお、冷却装置23は、金属材料101を容器21へ注ぐときに容器21の冷却を停止する。ただし、冷却装置23は、後述する熱平衡に至る時期まで等、適宜な時期まで冷却を継続してもよい。
【0039】
容器21内へ注がれた金属材料101は、容器21に接触することにより急冷され、これにより、金属材料101内には多数の結晶核が生成される。多数の結晶核は、金属材料101がある程度の高さから容器21内へ注がれることにより生じた流れにより攪拌される。これにより、析出した樹脂状結晶の枝が、せん断力により切断若しくは溶融して切断され、更に結晶核が増殖する。
【0040】
容器21は、金属材料101が注がれることにより急激に温度が上昇し、容器21の金属材料101を冷却する機能は急激に低下する。その結果、多数の結晶核が形成された後、結晶成長速度は急激に低下し、結晶は樹脂状に成長せずに丸く成長する。
【0041】
そして、金属材料101及び容器21は、熱交換の結果、熱平衡の状態となる。このときの金属材料101及び容器21の温度(第3温度T)は、金属材料101の固相線温度よりも大きく、液相線温度よりも小さい。これにより、金属材料101は、液相と固相とが混在し得る温度とされる。
【0042】
第3温度Tと、固相率との間には相関があり、第3温度Tは、所望の固相率が得られるように設定されている。そして、第1温度T及び第2温度Tは、第3温度Tが所望の値となるように、金属材料101及び容器21それぞれの密度、体積及び比熱、金属材料101の凝固潜熱を考慮して設定されている。
【0043】
ここで、既に述べたように、底部材33は、中空部材31よりも熱伝導率が高い。従って、容器21の底部付近においては、底部材33の熱伝導率が中空部材31の熱伝導率と同等である場合に比較して、結晶核が多く発生しやすく、及び/又は、結晶が成長しやすい。その結果、金属材料101は、注がれたときの運動エネルギーにより攪拌されているものの、底部付近において固相率が高くなる。
【0044】
液状の金属材料101が容器21に注がれる際には、容器21内に収容されていた気体(例えば空気)は、容器21の外側へ押し出される。しかし、容器21の下方側においては、気体の逃げ場が失われ、その結果、気体が金属材料101に巻き込まれ、巣が発生するおそれがある。ここで、本実施形態では、容器21の下方側には、隙間21hが形成されている。従って、気体は、隙間21hから流出可能であり、巣の発生が抑制される。
【0045】
隙間21hは、容器21の下方側に形成されており、一方、上述のように、容器21の底部においては、金属材料101が急冷されやすくなっている。従って、金属材料101が底部付近において急冷されて粘性が上昇することにより、隙間21hからの金属材料101の流出が抑制される。換言すれば、隙間21hを極力大きくして、気体を排出しやすくすることができる。
【0046】
金属材料101及び容器21が熱平衡に至ると、若しくは、それからある程度の冷却期間が経過すると、半凝固状の金属材料101は、容器21から取り出される。例えば、中空部材31と底部材33とが離間されて中空部材31の下方側の開口が開放され、半凝固状の金属材料101は、自重により及び/又は適宜な押出手段により、中空部材31のから下方へ取り出される。
【0047】
中空部材31から取り出された半凝固状の金属材料101は、射出装置の射出スリーブへ供給され、そのまま成形品の形成に供されてもよいし、急冷凝固されて、半溶融状金属の素材(ビレット)とされてもよい。
【0048】
ここで、上述のように半凝固状の金属材料101は、底部において固相率が高くなっていることから、半凝固状の金属材料101を容器21から取り出して射出スリーブ等へ供給する過程において、半凝固状の金属材料101の底部から液相部分が垂れることが抑制される。
【0049】
半凝固状の金属材料101が取り出された容器21は、残存した金属材料101を除去する洗浄が行われる。このとき、隙間21hは、中空部材31と底部材33との隙間により構成されていることから、中空部材31と底部材33とを離間させることにより、隙間21hの洗浄が容易に行われる。
【0050】
以上のとおり、本実施形態では、半凝固金属の製造装置1は、金属材料101を加熱する加熱装置13と、容器21と、容器21を冷却する冷却装置23と、加熱された金属材料101を冷却された容器21に注ぐ注湯装置5と、これらを制御する制御装置9とを有する。制御装置9は、金属材料101の液相線温度よりも高い温度の金属材料101が容器21に注がれ、金属材料101の温度が金属材料101の固相線温度と液相線温度との間の温度に至るように制御を行う。
【0051】
そして、容器21の下方側には、金属材料101に含まれる液相の部分が容器21外へ流出することが不可能で、且つ、容器21内の気体が容器21外へ流出することが可能な径の孔部(隙間21h)が形成されている。
【0052】
従って、既に述べたように、容器の下方側において気体が逃げ場を失うことが抑制され、半凝固金属の気体の含有量が低減される。その結果、半凝固金属から形成された成形品に巣が発生することが抑制され、成形品の品質が向上する。
【0053】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0054】
製造装置の全体構成は、保持炉から液状の金属材料をラドルにより汲み出して容器に注ぐ構成に限定されない。例えば、保持炉及びラドルに代えて、1ショット分の金属材料を溶融するるつぼを用い、当該るつぼにより容器に金属材料を注いでもよい。また、例えば、保持炉から容器へ適宜な流路を介して液状の金属材料を注いでもよい。
【0055】
半凝固金属の製造は、その全ての工程が製造装置により自動的に行われる必要はない。例えば、加熱装置の制御、冷却装置の制御及び注湯装置の制御の少なくともいずれか一つは、作業者により行われてもよい。また、例えば、加熱、冷却及び注湯の少なくともいずれか一つについては、装置といえるほどの設備によらずに実現されてもよい。
【0056】
本実施形態では、ある程度の高さから液状の金属材料を容器に注ぐだけで半凝固金属を得たが、適宜に攪拌等がなされてもよい。また、本実施形態では、半凝固金属から液相部分の一部の排出を全く行わなかったが、当該排出が行われてもよい。この場合においても、底部における固相率が高くされることにより、排出量が従来に比較して抑制される効果が奏される。
【0057】
容器は、中空部材及び底部材からなるものに限定されず、全体が一体成形されたものであってもよい。また、中空部材及び底部材は、同一材料から形成されてもよい。また、孔部(隙間21h)は、中空部材及び底部材の隙間により形成されるものに限定されず、一体形成された容器に形成された孔部であったり、中空部材自体若しくは底部材自体に形成された孔部であってもよい。中空部材及び底部材は、互いに着脱可能であるものに限定されず、互いに離間不可能に接合されていてもよい。
【0058】
中空部材と底部材との間の隙間は、中空部材の縁部に切り欠きが形成されることにより構成されるものに限定されない。例えば、底部材の縁部に切り欠きを設けることにより、中空部材の開口の一部に塞がれない部分が生じて隙間が構成されてもよい。また、中空部材を底部材から浮かすように中空部材及び底部材を保持したり、中空部材の開口よりも底部材の外形を小さくし、中空部材及び底部材を適宜に保持したりしてもよい。
【0059】
冷却装置は、中空部材の冷却能力と底部材の冷却能力とに差があってもよい。例えば、冷媒用の流路は、底部材の単位面積当たりの流路長さが中空部材の単位面積当たりの流路長さよりも大きくなるように設けられてもよい。また、冷却装置は、中空部材の温度と底部材の温度と別個に制御可能であってもよい。例えば、中空部材及び底部材とで別個に冷媒の流路、熱交換器及びポンプ等を設け、また、中空部材及び底部材とで別個に温度センサを設けてもよい。なお、このような場合、底部材の熱伝導率が中空部材の熱伝導率よりも高くなくても、底部材に接する金属材料の冷却速度を中空部材に接する金属材料の冷却速度よりも速くして、金属材料及び容器を熱平衡に至らせ、実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0060】
本願において、容器の下方側は、特に断りがない限り、容器を上方側及び下方側に2等分したときの下方側をいうものとする。容器の孔部は、好ましくは、容器の底部から容器の高さの1/5までの範囲に設けられ、より好ましくは1/10までの範囲に設けられている。
【符号の説明】
【0061】
1…製造装置、5…注湯装置、9…制御装置、13…加熱装置、21…容器、21h…隙間(孔部)、23…冷却装置、31…中空部材、33…底部材、101…金属材料。
図1
図2