(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の点火動作に応じて発生したイオン電流を検出すると共に当該イオン電流の電流値に比例する第1の検出信号を出力する電流検出回路と、前記第1の検出信号へ与えるゲインを切換えることで第2の検出信号の信号値を変化させ出力させるゲイン切換回路と、前記ゲイン切換回路に対してゲイン切換の指令信号を出力させるゲイン設定回路と、を備え、
前記ゲイン設定回路は、
前記ゲインを低下させる基準として与えられる上方閾値,及び,前記ゲインを上昇させる基準として与えられる下方閾値、の各々を設定させる閾値設定処理と、
前記上方閾値又は前記下方閾値,及び,前記イオン電流のサンプルデータ、の関係によって決定される積算ゲインと、前記内燃機関を制御するパラメータによって決定される基本ゲインと、の双方のゲインに基づいて前記指令信号を設定するゲイン設定処理と、を機能させ、
前記上方閾値及び前記下方閾値は、前記内燃機関の回転数又は吸気圧又は充填効率に関する情報のうち、少なくとも何れかの情報に基づいて設定されることを特徴とする内燃機関用イオン電流検出装置。
前記積算ゲインは、第1の燃焼サイクルで生じたイオン電流のサンプルデータと、前記第1の燃焼サイクルよりも過去のサイクルにあたる第2の燃焼サイクルで生じたイオン電流のサンプルデータと、を含む検査サイクルの異なる複数のデータに基づいて設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の内燃機関用イオン電流検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本実施の形態に係る内燃機関制御システムが示されている。内燃機関制御システム10は、図示の如く、内燃機関制御装置110と、点火コイル120と、内燃機関用イオン電流検出装置100とから構成される。以下、内燃機関制御装置110をコントロールユニット110と呼び換え、内燃機関用イオン電流検出装置100を単にイオン電流検出装置100と呼び換えることとする。
【0022】
コントロールユニット110は、回転数,吸気圧,車速,等の様々なパラメータが入力され、これらの情報に基づいて内燃機関の点火タイミングを規定する。コントロールユニット110は、所謂ECU(Engine Control Unit)と呼ばれる装置であり、情報処理回路及び情報通信回路を内蔵させている。当該コントロールユニット110は、通信ラインを介して、エンジンの回転数情報Ne,吸気圧情報Pb,及び,イオン電流のサンプルデータDtを受取り、これらの情報をメモリ回路へ逐一格納させる。このようなデータ通信は、CAN(Control Area Network),LIN(Local Area Network),又は,シリアル通信規格,といった周知の通信規格を利用して、情報の送受信が行われる。また、吸気圧情報Pbは、インテークマニホールドに配された圧力センサの検出信号,エアフローメータの検出信号,又は,スロットルポジションセンサの制御情報等によって特定される。また、回転数情報Neは、クランクポジションセンサ,カムポジションセンサ等によって特定される情報である。
【0023】
かかるコントロールユニット110では、失火/燃焼判定,燻り判定,ノッキング判定,点火タイミング制御、排ガス循環制御等、様々な解析処理を行い、点火信号SGを生成・出力させている。このような解析処理は、イオン電流の情報(サンプルデータDt)に基づいて実施される。尚、コントロールユニット110では、サンプルデータDtの絶対値情報が必要とされる場合、ゲイン設定回路150からゲインの設定情報Gainを受信し、選択されたゲイン値に対応する係数をサンプルデータDtへ乗算することで(換算処理)、サンプルデータDtの実値を認識(データ作成)することが可能となる。また、当該コントロールユニットでは、データの絶対値情報が無くとも算出され得る情報(周波数情報,種々の無次元化量)を利用する場合、必ずしも、上述した換算処理を必要とするものではない。
【0024】
点火コイル120は、一次コイルL1及び二次コイルL2を具備するトランスCLと、パワートランジスタTrとから構成され、車載バッテリVbが一次コイルL1へ印加されている。点火コイル120は、入力された点火信号SGに応じてパワートランジスタTrが駆動され、二次コイルL2で高電圧を発生させる。尚、点火コイル120には、イグナイタを搭載させて、点火信号SGの波形を修正させるようにしても良い。この場合にあってもパワートランジスタTrは、点火信号SGによって駆動されることに変わりない。
【0025】
イオン電流検出装置100は、図示の如く、電流検出回路130と,ゲイン切換回路140と,ゲイン設定回路150とから構成される。信号ラインLaは、電流検出回路130の出力端とゲイン切換回路140の入力端とを接続させ、第1の検出信号Viaを伝達させる。信号ラインLgは、ゲイン切換回路140の出力端とゲイン設定回路150の入力ポートとを接続させ、第2の検出信号Vigを伝達させる。信号ラインLsは、ゲイン設定回路150の出力ポートとゲイン切換回路140の入力端とを接続させ、ゲインの選択を行う指令信号Vswを伝達させる。また、信号ラインLdは、ゲイン設定回路150及びコントロールユニット110の間に介在するものであって、サンプルデータDt及びゲインの設定情報Gnをコントロールユニット110へ転送させる。
【0026】
電流検出回路130は、ツェナーダイオードDz及びダイオードD1の直列回路、当該ツェナーダイオードDzに並列接続されたコンデンサC、接続端A及びBの間に設けられた抵抗R1、アノード側がグランド電位とされカソード側が接続端BとされたダイオードD2、反転入力端子へ接続端Bが接続され非反転端子がグランド電位とされたオペアンプ130a、オペアンプ130aの出力ゲインを規定する抵抗R2、及び、オペアンプ130aの出力信号のオフセット量を規定する抵抗R3、によって構成されている。
【0027】
点火コイルCLの二次側に高電圧が生じた場合、点火プラグPGでは、プラグギャップで絶縁破壊を起こし、点火プラグPGのグランド側から二次コイルL2へ向かって放電電流I1が流れる。そして、放電電流I1は、ツェナーダイオードDz→ダイオードD1→グランド(GND),という経路を辿り、この場面で、コンデンサCに電荷を蓄積させる。
【0028】
一方、絶縁破壊が収束する頃、プラグギャップでは、其の周辺にラジカルな分子が分布することになるので、電荷の移動経路が形成されることとなる。このとき、電流検出回路130では、コンデンサCに蓄えられた電荷を消費させることで、コンデンサC→二次コイルL2→点火プラグPG→グランド(GND),という経路のイオン電流I2を発生させる。従って、イオン電流I2が発生している時、出力端Cでは、イオン電流I2の電流値に比例する信号(以下、第1の検出信号Via)が出力されることとなる。
【0029】
ゲイン切換回路140は、複数の抵抗を具備する回路網と、信号Vswによって駆動するスイッチ機能部Swとから構成される。このうち、回路網は、予定されているゲインを与えるように各抵抗の抵抗値が定められており、入力端と出力端との導通経路が選択されることで、所望のゲインに設定することを可能とする。スイッチ機能部SWは、上記導通経路を切換えるものであり、リレー回路又はトランジスタ等が用いられる。ゲイン切換回路140は、イオン電流I2を示す第1の検出信号Viaが入力端へ印加されると、選択されている導通経路に対応するゲインを第1の検出信号Viaに与え、即ち、第1の検出信号Viaに所定ゲインを与えた第2の検出信号Vigとして、これを出力端から出力させる。そして、ゲイン切換回路140は、指令信号Vswが与えられると、これに対応する導通経路が選択され、第2の検出信号Vigは、この動作に応じてゲインが切換えられ、信号値が変化されることとなる。
【0030】
ゲイン設定回路150は、情報処理機能および情報通信機能を具備する回路であって、CPU,メモリ回路,AD変換回路,I/O回路,クロック回路等が内蔵されている。また、メモリ回路には、適宜のプログラム及びパラメータ等が格納され、ゲイン設定回路150は、上述したハードウェア資源とソフトウェア資源とを協働機能させることで、プログラムに規定される機能的処理を実現させている。当該プログラムには、例えば、閾値設定処理、ゲイン設定処理、加算ゲイン算出処理、加算ゲイン補正処理、等が規定されている。プログラムの他、メモリ回路には、内燃機関の制御条件に応じて閾値を選択するマップ情報、ピーク値の過去ログデータを一定期間参照できるピーク値情報、等が記録されている。
【0031】
また、ゲイン設定回路150には、入力ポート,出力ポート,I/Oポートが適宜に設けられている。そして、第2の検出信号Vigは、AD変換回路にてアナログ信号からサンプルデータDtを作成し、当該データDtがメモリ回路またはデータレジスタで保持される。当該サンプルデータDt及びゲインの設定情報は、信号ラインLdを介してコントロールユニット110へ転送される。また、出力ポートからは、ゲイン設定処理の結果値に対応する指令信号Vswを出力させる。尚、ゲイン設定回路150で機能される具体的な処理は、追って説明することとする。
【0032】
図2は、点火信号SG,コイルの一次電流Ic,イオン電流に比例する第1の信号Via,データのサンプル処理を実施するウィンドウ期間Tm,及び,第2の検出信号VigについてのサンプルデータDt,を示すタイミングチャートである。尚、同図は、複数存在する気筒のうち代表気筒をモニタリングしたものである。また、或る気筒での点火信号SGの間隔を、点火サイクルと呼ぶことがある。
【0033】
図示の如く、一次電流Icは、点火信号SGの立上り時刻から増加を開始させ、当該信号SGの立下り時刻で急峻に低下する。この直後では、点火コイル120から高電圧が出力され、点火プラグPGで放電が行われる。そして、放電が収束する頃にイオン電流I2が流れ始め、電流検出回路130からは、第1の検出信号Viaが山状の波形として現れる。ゲイン設定回路150では、内燃機関の回転数Ne等に応じてウィンドウ期間Tmを設定し、このウィンドウ期間ta〜tbについて、第2の検出信号VigのサンプルデータDtを作成する。上述の如く、このサンプルデータDtは、ゲイン設定が行われることで、適宜のオフセットレベルに切換えられることとなる(
図5a参照)。
【0034】
図3は、ゲイン設定プログラムで規定されるメインルーチンのフローチャートが示されている。本実施の形態に係るメインルーチンでは、処理S111,処理S112〜S114,及び,処理S115〜S116,が適宜のイベント毎に起動を繰り返す。但し、処理S111にあっては、内燃機関の制御情報が更新された場合に限り起動されるものであって、処理S112〜S114,及び,処理S115〜S116にあっては、点火サイクル毎の適宜のタイミングで各々起動される。
【0035】
かかるメインルーチンでは、内燃機関の回転数情報Neと吸気圧情報Pbとが更新されていると、其の更新された情報を利用できるよう、当該更新情報をCPUのデータレジスタ等へ格納させ、後の演算処理に備える(S111)。この回転数情報Ne及び吸気圧情報Pbは、CAN通信ラインを介してコントロールユニット110へ与えられる情報であり、当該コントロールユニット110では、例えば、数μsec毎に各情報Ne,Pbの書換え(更新)が実施される。このような情報は、内燃機関の負荷情報を示すパラメータであるところ、このパラメータに基づいて決定される数値的情報は、内燃機関の負荷情報を反映させたものとなる。尚、内燃機関の負荷情報は、上述した回転数情報Ne,吸気圧情報Pbに限られるものではない。例えば、混合気充填効率ηcといった情報を用いても良い。この充填効率ηcは、シリンダー容積に対する混合気の実充填量を示すものであって、吸気圧情報Pbに基づいて算出することもできる。
【0036】
処理S111が完了すると、点火信号SGのエッジ検出判定が実施される(S112)。処理S112では、検出したエッジと其の次に検出されたエッジとの間に閾値を適宜設定し、当該エッジが立上りエッジであるか、立下りエッジ(時刻teのパルスエッジ)であるか、又は、ノイズによるものかを判別する。そして、本実施の形態では、処理S112で立下りエッジを検出した場合、処理S113(閾値設定処理)及び処理S114(ゲイン設定処理)を実施させ、処理S112で立下りエッジを検出できなかった場合、処理S115へ移行される。
【0037】
立下りエッジが検出された場合、処理S113では、上方閾値th1及び下方閾値th2を設定させる。このうち、上方閾値th1は、ゲインを低下させる基準を与えるもので、下方閾値th2は、ゲインを上昇させる基準を与えるものである。また、これらの閾値は、サンプルデータDtに与えられるものである。そして、サンプルデータDtの所定点が閾値th1及びth2の各々と比較され、この機能の異なる二つの閾値が設定されることで、ゲイン値を上昇させたり低下させたりする操作が可能となる。
【0038】
ここで、上方閾値th1及び下方閾値th2は、内燃機関の回転数情報Ne及び吸気圧情報Pbに基づいて設定されるのが好ましい。イオン電流I2の燃焼波形の分布は、これらのパラメータと相関があることから、本実施の形態では、当該閾値th1及びth2にこれらの情報Ne,Pbを反映させている。これにより、両閾値th1及びth2は、内燃機関の制御状態と連動する傾向に合うよう、サンプルデータに基づきゲイン設定させることが可能となる。
【0039】
図5を参照して、上方閾値th1及び下方閾値th2の機能について説明する。先ず、同図に示される破線Vp〜Vqの範囲は、AD変換回路の分解能によって定まるもので、AD変換回路におけるデータの作成可能範囲を指す。このうち、Vpを上限限界値と呼び、Vqを下限限界値と呼ぶこととする。
【0040】
本実施の形態では、ゲイン値が4種類に設定されるものとし、ゲイン値G1>ゲイン値G2>ゲイン値G3>ゲイン値G4,の関係を有している。このうち、G1を最大ゲイン値と呼ぶことがあり、G4を最小ゲイン値と呼ぶことがある。また、各ゲイン値の設定は、ゲイン値が一段階低下するごとに、サンプルデータDtの電圧レベルが段階的に低下するものとする(
図5a〜
図5c)。
【0041】
特に、本実施の形態にあっては、ゲイン値の減少に応じて、ゲイン値間の差異(電圧レベルの差異)が拡大するように設定されている(ΔD1<ΔD2<ΔD3)。このようなゲイン値の設定は、ゲイン切換回路140によって実現される。即ち、ゲイン切換回路140では、複数のゲイン値を設定させる抵抗値が各々設定されており、当該抵抗値は、ゲイン値の低下設定に応じて、其の抵抗値の変化量(例えば、低下量)を段階的に増加させるように設定されていると良い。
【0042】
このようなゲイン設定を推奨する理由は、ゲイン値の低下に応じてサンプルデータDtの分布範囲ΔS1が狭くなる性質に着眼したものであり、当該ゲイン値の設定によれば、データ作成可能な範囲Vp〜Vqを有効活用できるからである。
【0043】
また、強い燃焼状態では、サンプルデータDtの分布範囲ΔS1が広がる為、本実施の形態によるとゲイン値が低下するよう制御されていく。即ち、燃焼状態が強い場面では、分布範囲ΔS1を狭く且つ其の電圧レベルを低く設定することが可能となるため、データ作成可能な範囲Vp〜VqへサンプルデータDtが収められ易くなるといった顕著な効果を奏する。
【0044】
図5(a)は、サンプルデータDtの分布範囲ΔS1が比較的狭い場面を示し、
図5(b)は、サンプルデータDtの分布範囲ΔS2が広い場面を示している。イオン電流I2は、上述の如く、燃焼の強度に応じてサンプルデータDtの分布範囲ΔSが増減する。分布範囲ΔS1が狭い場合(
図5a)、サンプルデータDtは範囲Vp〜Vqに収まりやすくなるので、ゲイン値の選択自由度は高くなる。従って、
図5(a)によれば、如何なるゲイン値G1〜G4を選択したとしても、サンプルデータDtが毀損されることはない。
【0045】
分布範囲ΔS2が広い場合、
図5(b)によれば、ゲイン値G1が選択されると、サンプルデータDtのピーク値近傍が上限限界値Vpに張付き、データの毀損部K1が生じてしまう。また、ゲイン値G4が選択されると、サンプルデータDtの端値近傍が下限限界値Vqに張付き、データの毀損部K2又はK3が生じてしまう。一方、ゲイン値G2及びゲイン値G3が選択された場合には、サンプルデータDtが上限限界値Vp,下限限界値Vqと交錯しなくなる。
【0046】
そこで、
図5(c)に示す如く、上方閾値th1を設定しておけば、サンプルデータDtと上方閾値th1とを比較させ、サンプルデータの一部がth1を上回った時点で、其のデータの一部が上限限界値Vpに接近している旨を判定することが可能となる。そして、上限限界値Vpの近傍へ上方閾値th1が設定されると、ゲイン設定回路150では、サンプルデータDtが上方閾値th1を超えたという処理結果に基づいて、データの毀損部K1が生じているものと判別することが可能となる。このように、本実施の形態に係るゲイン設定回路150では、サンプルデータDtが上限限界値Vpに達している危険を把握し、これに基づいてゲイン値を低下させ、サンプルデータDtを範囲Vp〜Vqへ収容させることが可能となる。
【0047】
また、同図に示す如く、下方閾値th2を設定しておけば、サンプルデータの一部が下方閾値th2を下回る旨を把握できるので、結果として、サンプルデータDtの毀損部K2又はK3の発生を検出することが可能となる。そして、この判別結果を参照してゲイン値を増加させ、サンプルデータDtを範囲Vp〜Vqへ収容させることが可能となる。尚、下方閾値th2は、イオン電流の波形の特徴に応じて設定させると良い。本実施の形態では、サンプルデータDtのピーク値と閾値th1,th2とを比較させるので、下方閾値th2は、下限限界値Vqよりも十分高いレベルに設定されることとなる。即ち、上方閾値th1及びth2は、所定のレベル差Δthを伴い且つ上限限界値Vpへ偏った状態で設定されることとなる。
【0048】
図6(a)に示す如く、サンプルデータDtの分布範囲ΔS1が比較的狭いとき、上方閾値th1と下方閾値th2とのレベル差Δthは、大きく設定されることで、予め設けられているゲイン値を有効活用することが可能となる。また、レベル差Δthを大きく設定させることで、下方閾値th2が下限限界値Vqへ近づくこととなる。このため、サンプルデータDtの分布範囲ΔS1が幾分でも広がろうとすると、ゲイン設定回路150では、これを瞬時に察知し、速やかにゲイン値をアップさせることが可能となる。
【0049】
一方、
図6(b)に示す如く、サンプルデータDtの分布範囲ΔS2が広いとき、閾値間のレベル差Δthを狭くするのが好ましい。特に、下方閾値th2をVp側へ引き上げると良い。これにより、燃焼状態が強い場合でも、ゲイン値G1〜ゲイン値G4の全てのゲイン値を有効に活用することが可能となる。
【0050】
図3に戻り、ゲイン設定プログラムのメインルーチンの説明を続ける。処理S113が完了すると、ゲイン切換処理が実行される(S114)。処理S114は、設定ゲインを決定させるサブルーチンが起動されるもので、詳細は追って説明することとする。
【0051】
上述の如く、処理S112は、立下りエッジを検出すると、ゲイン設定を新たに実施させてから、処理S115へ移行させる。また、立下りエッジが検出されなければ、ゲイン値の設定変更を行わずに、処理S115へ移行させる。
【0052】
処理S115は、イオン電流の波形が収束するタイミングで起動するよう、其の起動タイミングがプログラムによって予め設定されている。処理S115では、サンプルデータDtが新たなデータに更新されているか否かを判定し、当該データDtに変化があれば、サンプルデータDtの中から検査対象データを抽出し、其のデータをメモリ回路に保存する(処理S116)。本実施の形態にあっては、サンプルデータDtの中からピーク値に相当するデータDt(peak)を抽出させる。このように、波形のピーク値は、燃焼状態の特徴を現す検査対処とされるので、データDt(peak)が抽出されている。
【0053】
本実施の形態で用いられるメモリ回路は、データDt(peak)を過去複数分について記憶させておくメモリ領域M1と、当該過去複数のデータDt(peak)を大きい順(又は、小さい順)にソートさせて記憶させておくメモリ領域M2と、が割り当てられている。そして、処理S115では、先に、新たなデータDt(peak)をメモリ領域M1に記録させてから、これをメモリ回路M2へ転写する際にソート処理を行う。このため、メモリ回路M2では、特定のメモリアドレスにアクセスされることで、過去最大のデータDt(peak)と過去最少のデータDt(peak)を出力することが可能となる。以下、過去最大のデータDt(peak)をデータDmaxと呼び換え、過去最少のデータDt(peak)をデータDminと呼び換えることとする。尚、処理S115では、メモリ回路M1へ過去複数のデータを格納させる際、リングバッファ構成を採用することで、メモリ回路の使用領域を抑えることができる。
【0054】
図示の如く、処理S115(S116)の完了後、次回の起動イベントに応じて、上述した処理が各々繰り返される。このようにして、データDt(peak)は、点火サイクルの進行に合わせて順次更新されていく。
【0055】
図4は、ゲイン設定処理S114に相当するサブルーチンのフローチャートが示されている。先ず、処理S211では、基本ゲインGbscの特定が実施される。基本ゲインGbscは、内燃機関の制御パラメータに基づいて決定される。本実施の形態にあっては、回転数情報Ne及び吸気圧情報Pbが用いられる。ゲイン設定回路150は、通信ラインLdを介してこれらの情報Ne,Pbを取得する。このように、基本ゲインGbscは、内燃機関の制御パラメータに基づいて設定されるので、どのゲイン値を選択するのが好ましいか、大凡の傾向を特定させる機能を果たす。
【0056】
処理S211の完了後、処理S212〜処理S216では、積算ゲインGintの値を算出する。先ず、処理S212では、ピーク値の過去最小値を示すデータDminと上方閾値th1を比較させ、Dmin>th1,の場合、サンプルデータDtが上限限界値Vpに張付く危険を示しているので、積算ゲインGintを1カウントダウンさせる。一方、Dmax<th2,の場合、サンプルデータDtが下限限界値Vqに張付く危険を示しているので、積算ゲインGintを1カウントアップさせる。一方、Dmin>th1,又は,Dmax<th2,の何れにも該当しない場合、好ましいゲイン設定であると判断し、カウント値を零とする。
【0057】
このように、処理S212〜S216では、上方閾値th1とデータDmin(サンプルデータの一つ)との関係、又は、下方閾値th2とデータDmax(サンプルデータの一つ)との関係、に基づいて積算ゲインintが決定されることとなる。このように、積算ゲインは、サンプルデータDtのバラツキ・変動に応じてカウントアップ・カウントダウンされるものであって、当該バラツキ・変動に影響されて変動する値である。
【0058】
処理S217では、基本ゲインGbscと積算ゲインGintとの加算値(加算ゲインsum)を算出させる。このように、双方のゲインから算出されたゲイン値は、運転状態に伴う傾向とデータのバラツキ・変動発生との両情報を反映させたものとなる。尚、本実施の形態では、基本ゲインGbscと積算ゲインGintとの和によって双方の情報を反映させるゲイン関数を作成しているが、このゲイン関数の算出方法は、これに限らず、現在周知の手法を用いて、種々の変更が可能である。
【0059】
処理S217が完了すると、積算ゲインGintの修正処理が実行される(S218)。具体例として、現在の加算ゲイン値Gsumが最大ゲインG1に到達していて、その後にサブルーチンが起動され処理S217が実行された場面を考える。このとき、処理S217によって新たな加算ゲイン値Gsumが算出され、積算ゲインGintがカウントアップされると、加算ゲインGsumが最大ゲインG1を上回ってしまう。この場合、処理S218では、積算ゲインGintを零に修正させ、加算ゲイン値Gsumを最大ゲインG1に維持させる(以下、この加算ゲイン値を修正加算ゲインGsum〔m〕と呼ぶ)。このように、処理S218では、リセットワインドアップ機能を与えることで、準備されているゲイン値G1〜G4のうち何れかを選択させることが可能となる。尚、かかる処理は、加算ゲインGsumが最小ゲイン値G4を下回る場合にも、リセットワインドアップ機能を与えている。
【0060】
また、処理S218では、修正加算ゲイン値Gsum〔m〕が、次回起動されるサブルーチンでの基本ゲインGbscとして設定される。これにより、次回の基本ゲインGbscには、運転状態に伴う傾向と、サンプルデータのバラツキ・変動発生の有無、の両情報が反映されることとなる。
【0061】
処理S218が終了すると、信号指令処理S219では、修正加算ゲインGsum〔m〕を表現する指令信号Vswが生成され、出力ポートから当該信号Vswを出力させる。この指令信号Vswは、ゲイン切換回路140に印加され、修正加算ゲインGsum〔m〕に対応するゲインを与えるよう、内部の回路網を再構成させる。尚、当該処理S219が完了すると、サブルーチンは待機状態とされ、次回のゲイン切換処理S114の実行指令を待つ。
【0062】
ゲイン切換プログラムに上述した処理が規定されていないと、
図7(a)に示す如く、サンプルデータDtに一時的な乱動が生じる場合、それを検知した直後にゲイン値が一段切換えられる(G1→G2)。ここで、直ちに乱動が収まったとすると、ゲイン値が必要以上に低く設定されたことになるので、サンプルデータDtは、Vq側へオフセットされて現れる。この場合、図示の如く、データの毀損部K2,K3を生じさせ、コントロールユニット110で実施される解析処理の信頼性が低下してしまう。
【0063】
また、
図7(b)に示す如く、サンプルデータDtの乱動直後にゲイン値を切換えてしまうと、適切なゲイン値を特定することが困難となり、チャタリングを誘発させてしまう。このような場合、サンプルデータDtの品質悪化が長期に亘るので、コントロールユニット110の解析結果に大きな影響を与えてしまう。
【0064】
これに対し、本実施の形態では、例えば、過去8サイクル分(第1のサイクルと第2のサイクルを含む検査サイクル)のデータDminと上方閾値th1とを比較させている。従って、
図8(a)に示す如く、波形のピーク値が上方閾値th1を8サイクル以上連続して上回る場合、ゲイン値が1段下げられることとなる。このように、本実施の形態では、ゲイン値切換の必要性を精度良く判別することで、無用なゲイン切換えを回避させると共に、必要なゲインの切換え処理を許可させるものである。
【0065】
また、
図8(b)では、サンプルデータDtに乱動が生じる様子が示されている。このような場合、本実施の形態では、張付き危険状態の回数をカウントし、其のカウント値が少なければサンプルデータDtに乱動が生じていると把握される。このように、本実施の形態では、張付き危険状態をカウントすることで、一時的な乱動に起因するゲイン切換を排除させ、設定されるべき適正なゲイン値が維持されることとなる。この適正なゲイン値とは、運転状態に伴う傾向とサンプルデータのバラツキ等の有無との情報が反映されていることを指す。
【0066】
尚、上述したゲイン設定の切換えは、内燃機関の各気筒で独立して実施されるのが好ましい。イオン電流検出回路のバラツキ、シリンダーの形状誤差等が生じていれば、イオン電流のサンプルデータもこれに応じて影響されるからである。そこで、各気筒について別々にゲイン設定を実施すれば、その気筒に最適なゲイン値が気筒毎に設定されるため、サンプルデータの毀損といった不具合を、より効果的に回避できることとなる。
【0067】
以上、実施の形態について説明してきたが、特許請求の範囲に記される発明は、かかる形態に限定されるものではない。例えば、ゲイン設定処理では、加算値の変化が進むと、積算ゲインの変化率を低下させるようにしても良い。即ち、Vp又はVqに近づくに応じてゲイン値同士のオフセット量を少なく設定すれば、サンプルデータDtがVp又はVqと交錯しにくくなり、結果として、適正なゲイン値が選択されることとなる。
【0068】
また、コントロールユニット110にあっては、通信ラインLdを介してサンプルデータDtを受信する構成とされているが、ゲイン切換回路140から信号Vigを直接受け取るようにしても良い。この場合、コントロールユニット110は、ゲイン設定回路150からゲイン設定に関する情報を受け取ることで、入力されているサンプルデータDtの値を正しく把握することが可能となる。
【0069】
この他、ゲイン設定回路では、ゲイン切換えに不適切な事実を判別するような処理を実行させても良い。例えば、ゲイン値を大きくしているにも関わらずサンプルデータのピーク値が下方閾値を一向に上回らない場合、其のシリンダーでは、点火プラグでの放電動作が何らかの不具合で実施されていないとの疑いがある。また、ゲイン値が低く設定されているにも関わらずサンプルデータのピーク値が常に上方閾値を上回る場合、センサ・オペアンプ等の故障の疑いがある。このように、サンプルデータの張付き状態が顕著に現れる場合には、点火プラグ・点火コイル・センサといった装置に不具合が生じたとして、サンプルデータが不適切なデータである旨を判定すると良い。このとき、ゲイン設定の切換えを中止させると更に良い。また、異常とした判定結果情報をコントロールユニットへ出力させても良く、又は、サンプルデータをコントロールユニットへ伝送する処理を機能できなくすると良い。これにより、コントロールユニットでは、不適切なデータを用いることが無くなるので、当該コントロールユニットで実施される解析処理の信頼性が向上する。