【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
1.撥水剤の合成
パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第1段階:
攪拌器、冷却ジャケット、温度計、圧力計が設置されたステンレス製高圧反応器にテトラグリム2.49g、フッ化セシウム1.69g、ヘキサフルオロプロピレン87.75gおよびヘキサフルオロプロピレンオキシド220gを投入し、−35℃で反応させることで無色透明液状のパーフルオロポリエーテル化合物を得た。この化合物について、FT−IRおよび
19F−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいて−
C(O)Fの吸収の存在を確認した。
19F−NMRにおいて以下のピークを確認した。
この化合物のFT−IRおよび
19F−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
19F−NMR
83.3ppm s、3F、C
F3CF
2−
131.3ppm m、2F、CF
3C
F2−
83.2ppm m、2F、CF
3CF
2C
F2−
s、3F、−CF(C
F3)C(O)F
146.2ppm t、1F、−OC
F(CF
3)CF
2−
81.6ppm m、3F、−OCF(C
F3)CF
2−
m、2F、−OCF(CF
3)C
F2−
132.0ppm t、1F、−C
F(CF
3)C(O)F
FT−IR
1880cm
-1(−
C(O)F)
1100〜1340cm
-1(C−F)
【0035】
パーフルオロポリエーテル化合物をメチルエステル化してメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第2段階:
前記の第1段階で得られたパーフルオロポリエーテル化合物にメタノール5gを添加し、室温で12時間攪拌し、未反応のメタノールを真空乾燥にて除去することで、無色透明液状のメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物221gを得た。ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定により、このメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物は分子量がMW=2300であり、ヘキサフルオロプロピレンオキシドが約13量体であることが確認された(以下、「メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物13量体」という)。
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)の測定条件は以下の通りとした。
使用機器:Waters 410 Defferential Refactometer、Waters 717plus Auto Sampler、Waters 1525 Binary HPLC Pump
使用溶剤:R−113(1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン)
温度:25℃
流量:1〜5μl/min
【0036】
上記化合物について、FT−IRおよび
1H−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいて−
C(O)Fの吸収の消失と−
C(O)OCH
3の吸収の存在を確認した。
1H−NMRにおいて−OC
H3のピークを確認した。
この化合物のFT−IRおよび
1H−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
FT−IR
1800cm
-1(−
C(O)OCH
3)
1H−NMR(C6F6)
4.3ppm s、−OC
H3
【0037】
メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物とアミノシラン化合物とを反応させてパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物を合成する第3段階:
前記の第2段階で得られたメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物13量体20g(8.7ミリモル)に反応溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン10gを加え、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−602)1.97g(9.57ミリモル)を添加した後、窒素雰囲気下で65〜75℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製することで、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物21.50g得た。
この化合物について、FT−IRおよび
1H−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいて−
C(O)OCH
3の吸収の消失と−
C(O)NH−の吸収の存在を確認した。
1H−NMRにおいて以下のピークを確認した。この化合物のFT−IRおよび
1H−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
FT−IR
1710cm
-1(−
C(O)NH−)
1530cm
-1(−C(O)
NH−)
1H−NMR(C6F6)
0.11ppm s、3H、≡Si−C
H3
0.7ppm t、2H、−C
H2−Si≡
1.74ppm m、2H、−CH
2C
H2CH
2−
2.91ppm m、2H、−NH−C
H2−
3.16ppm m、2H、−C
H2−NH−
3.43ppm m、2H、−C(O)NH−C
H2−
3.56ppm s、6H、=Si−(OC
H3)
2
【0038】
パーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物の2級アミノ基にエポキシアルコール化合物(エポキシ基とヒドロキシ基とを有する化合物)を反応させ、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を合成する第4段階:
前記の第3段階で得られたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物21.50g(8.66ミリモル)に再び反応溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン10gを加えた後、3−グリシドール0.77g(10.43ミリモル)を添加し、窒素雰囲気下で35〜45℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製することで、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物22.12gを得た。
この化合物について、FT−IRおよび
1H−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいてOHの吸収の存在を確認した。
1H−NMRにおいて以下のピークを確認した。この化合物のFT−IRと
1H−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
FT−IR
3250〜3410cm
-1(O−H、N−H)
2780〜3000cm
-1(C−H)
1710cm
-1(−
C(O)NH−)
1530cm
-1(−CO
NH−)
1100〜1340cm
-1(C−F)
1H−NMR
0.11ppm s、3H、≡Si−C
H3
0.7ppm t、2H、−C
H2−Si≡
2.65〜3.15 m、6H、−C
H2−N(C
H2−)−C
H2−
3.43ppm m、2H、−C(O)NH−C
H2−
3.63ppm s、6H、=Si−(OC
H3)
2
3.71〜4.31 m、5H、−C
H(O
H)C
H2O
H
【0039】
以上の同定結果から、前記の第4段階で得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物が、下記化学式aで表される構造を有することが確認された。
【0040】
【化5】
【0041】
2.撥水性蒸着膜の形成
眼鏡レンズ基材(HOYA株式会社製ポリカーボネートレンズ、屈折率1.589、度数―4.00)の表面(凸面形状)上に、プライマー層(ポリカーボネートポリウレタン樹脂を含む水系ポリウレタン樹脂層)、ハードコート層(特開昭63−10640号公報に記載のシリカコロイド粒子含有保護膜を使用)、および反射防止膜(SiO
2を蒸着材料として形成された蒸着膜とZrO
2を蒸着材料として形成された蒸着膜が交互に複数積層された多層膜)をこの順に積層した。上記多層膜の最下層、最上層(最外層)ともSiO
2蒸着層である。
最外層のSiO
2蒸着層表面に、以下の方法により撥水性蒸着膜を形成した。
上記1.で得たパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の20質量%溶液(溶媒はメチルパーフルオロブチルエーテル(東京化成工業株式会社製)を使用、以下「調合液1」と記載)0.25mLを浸み込ませたステンレス製焼結フィルター(細孔径80〜100μm、直径18mm、厚さ3mm)を50℃で1時間ドライオーブンにて加熱し、その後真空蒸着装置(シンクロン社製CES−1050真空蒸着装置)内にセットした。ハロゲンランプ加熱ユニットにて焼結フィルター全体を加熱して、700〜750℃の蒸着温度にて上記プラスチックレンズの最外層のSiO
2蒸着層表面に蒸着膜を成膜した(蒸着装置内の真空度:1.5 x 10
-2Pa 以下)。形成された蒸着膜の厚さを、光学式膜厚測定器により測定したところ、8〜10nmであった。以下において、実施例1における蒸着条件を「条件1」と記載する。
再現性を確認するために、同様の操作を行い合計7枚のプラスチックレンズに蒸着膜を形成した。
【0042】
[実施例2]
真空蒸着時の加熱温度を550〜650℃に変更した点以外は実施例1と同様の操作を行い、プラスチックレンズ上に蒸着膜を成膜した。以下において、実施例2における蒸着条件を「条件2」と記載する。
【0043】
[比較例1]
調合液1を信越化学社製撥水性コーティング剤(商品名KY−130、以下「調合液2」と記載)に変更した点以外は実施例1と同様の操作を行い、プラスチックレンズ上に蒸着膜を成膜した。
【0044】
[比較例2]
調合液1を信越化学社製撥水性コーティング剤(商品名KP−801、以下「調合液3」と記載)に変更した点以外は実施例1と同様の操作を行い、プラスチックレンズ上に蒸着膜を成膜した。
【0045】
[比較例3]
調合液1を調合液2に変更した点以外は実施例2と同様の操作を行い、プラスチックレンズ上に蒸着膜を成膜した。
【0046】
[比較例4]
調合液1を調合液3に変更した点以外は実施例2と同様の操作を行い、プラスチックレンズ上に蒸着膜を成膜した。
【0047】
[実施例3]
撥水性蒸着膜形成のための調合液(以下、「調合液4」と記載)に含まれる撥水剤として、以下の方法で合成した撥水剤を使用した点以外は実施例1と同様の操作を行い、プラスチックレンズ上に蒸着膜を成膜した。
実施例1の合成の第4段階において、3−グリシドール0.77g(10.43ミリモル)に変えてフェニルグリシジルエーテル1.56g(10.43ミリモル)を使用した以外は、化学式aで表される化合物の合成と同様に操作を行って、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物22.77gを得た。化学式aで表される化合物を同定した際と同様の方法で同定を行った結果、得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は化学式bで表わされる構造を有することが確認された。
【0048】
【化6】
【0049】
水に対する接触角(静止接触角)の測定
上記実施例、比較例で形成した蒸着膜表面の水に対する接触角を、以下の方法で測定した。
接触角計(協和界面科学(株)製品、CA−D型)を使用し、25℃において直径2mmの水滴を針先に作り、これを蒸着膜表面に触れさせて、水滴を作った。この時に生ずる水滴と蒸着膜表面との角度を測定し静止接触角とした。静止接触角θは水滴の半径(水滴が蒸着膜表面に接触している部分の半径)をrとし、水滴の高さをhとしたときに、以下の式で求められる。
θ=2×tan‐
1(h/r)
なお、静止接触角の測定は、水の蒸発による測定誤差を最小限にするために液滴を蒸着膜表面に触れさせた後10秒以内に行った。
各実施例、比較例について合計7枚のサンプルレンズにおいて測定された水に対する接触角およびその平均値を、以下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
評価結果
眼鏡レンズ表面の水に対する接触角は、数度の違いであっても撥水性は大きく相違するところ、表1に示すように、一般式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を蒸着材料として作製された撥水性蒸着膜を有する実施例のレンズは、同じ蒸着条件で作製された蒸着膜を有する比較例のレンズと比べて約2度〜7度超の接触角の向上を示した。この結果から、本発明によれば、既存の製造工程において蒸着条件を大きく変更することなく蒸着材料を変更するのみで、優れた撥水性を有する眼鏡レンズの提供が可能となることが実証された。
また、表1に示すように、一般式(I)で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を蒸着材料として使用すれば、蒸着条件1から蒸着条件2のように処理温度を下げても、従来の撥水剤と同等以上の撥水性能を示す撥水性蒸着膜を形成することができる。この結果から、本発明によれば、撥水性蒸着膜を有する眼鏡レンズ製造におけるエネルギーの節約や、処理時間の短縮も可能であることが確認できる。