(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常、ジャイロセンサの較正は、オフセット及び感度といった較正用パラメータの全てを調整することによって完了する。しかしながら、上述したような従来技術をもってしても、必要な較正用パラメータの全ての調整には、専用装置が必要となっている。
【0011】
例えば、特許文献1の技術は、ジャイロスコープの較正に、GPS等の測位装置を必要とする。即ち、他の専用装置がなければ、ジャイロスコープを較正することができない。
【0012】
また、非特許文献1のZUPT技術は、オフセットのみを較正するものであり、感度を較正することはできない。さらに、継続的な補正を実施するため、センサを歩行者の足先に装着することを前提としている。従って、この技術をジャイロスコープを搭載した携帯端末などに適用する際には利便性の点で問題が生じる。厳密には足先でなくとも完全に静止した期間にZUPTを実施することは可能であるが、その場合、移動中(静止から静止までの間)は、測位誤差が蓄積し続ける問題が生じる。
【0013】
また、特許文献2の技術では、ジャイロスコープの感度の較正に、重力がジャイロスコープの感度軸に沿って加わる状態で振動可能なテーブルを用意しなければならない。同様に、非特許文献2の技術も、ジャイロスコープの感度の較正に、多軸レートテーブルといった専用装置を利用する必要があり、利便性の点で問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、専用装置を用いることなく必要な較正用パラメータを調整してジャイロセンサを較正することができる角速度測定装置、較正プログラム、及び較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、ジャイロセンサを備えた角速度測定装置であって、
ジャイロセンサから出力された角速度値を逐次蓄積するログ蓄積手段と、
ジャイロセンサを較正する際の調整対象となる少なくとも1つのパラメータを、所定範囲内の値又は値の組に設定するパラメータ設定手段と、
設定された当該値又は値の組毎に、設定された当該値又は値の組を有する当該少なくとも1つのパラメータを用いて、蓄積された角速度データを補正した補正後角速度を算出し、各時点での当該補正後角速度に基づいて各時点における向きを算出し、当該向きの時間履歴である向き転換軌跡を決定する向き推定手段と、
設定された当該値又は値の組毎に、決定された当該向き転換軌跡上の位置であって当該向きの変化による曲がり角をなすコーナー位置を決定し、該向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、該向き転換軌跡上において隣接する他の又は同一の2つのコーナー位置の間を結んだ、基準となる基準軌跡部分とを比較することによって、該向き転換軌跡の誤差を算出する軌跡評価手段と、
算出された誤差が最小又は極小となる当該値又は値の組を、当該少なくとも1つのパラメータの較正結果に決定する較正決定手段と
を有する角速度測定装置が提供される。
【0016】
この本発明による角速度測定装置では、少なくとも1つのパラメータは、オフセット及び感度であることも好ましく、
向き推定手段は、設定されたオフセット及び感度の値の組毎に、当該蓄積された角速度データから当該オフセットの値を差し引いた上で、当該感度の値によって大きさを補正した補正後角速度を算出することも好ましい。
【0017】
また、本発明による角速度測定装置の一実施形態として、軌跡評価手段は、
当該向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、該2つのコーナー位置の間を直線分で結んだ基準軌跡部分とを比較し、当該各軌跡部分における該基準軌跡部分からのずれを直進性誤差として算出する直進性誤差算出手段
を含むことも好ましい。
【0018】
さらに、本発明による角速度測定装置の一実施形態として、軌跡評価手段は、
当該向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、当該各軌跡部分から該向き転換軌跡上を遡って偶数番目に位置する軌跡部分である基準軌跡部分とを比較し、当該各軌跡部分の向きにおける該基準軌跡部分の向きからのずれを平行性誤差として算出する平行性誤差算出手段
を含むことも好ましい。
【0019】
さらにまた、本発明による角速度測定装置の一実施形態として、軌跡評価手段は、
当該向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、当該各軌跡部分から該向き転換軌跡上を遡って奇数番目に位置する軌跡部分である基準軌跡部分とを比較し、当該各軌跡部分の向きにおける該基準軌跡部分の向きに直交する向きからのずれを直交性誤差として算出する直交性誤差算出手段
を含むことも好ましい。
【0020】
また、本発明による角速度測定装置の他の実施形態として、
加速度を測定する加速度センサと、
加速度センサから所定時間内に出力された加速度値に基づいてジャイロセンサが静止状態であるか否かを判定する静止判定手段とを更に有し、
少なくとも1つのパラメータは、オフセットを含み、
パラメータ設定手段は、静止判定手段が真の判定を行った際にジャイロセンサから出力される角速度値に基づいて、当該オフセットにおける較正の際の初期値を設定することも好ましい。
【0021】
さらに、本発明による角速度測定装置の他の実施形態として、
地磁気を測定する地磁気センサを更に有し、
向き推定手段は、算出された当該補正後角速度に基づいて各時点における向きを算出する際、当該向きの初期値を、地磁気センサの出力から算出された絶対方位角に基づいて決定することも好ましい。
【0022】
本発明によれば、さらに、ジャイロセンサを備えた装置に搭載されたコンピュータを機能させるジャイロセンサ較正プログラムであって、
上記装置は、ジャイロセンサから出力された角速度値を逐次蓄積するログ蓄積手段を有しており、
上記プログラムは、
ジャイロセンサを較正する際の調整対象となる少なくとも1つのパラメータを、所定範囲内の値又は値の組に設定するパラメータ設定手段と、
設定された当該値又は値の組毎に、設定された当該値又は値の組を有する当該少なくとも1つのパラメータを用いて、蓄積された角速度データを補正した補正後角速度を算出し、各時点での当該補正後角速度に基づいて各時点における向きを算出し、当該向きの時間履歴である向き転換軌跡を決定する向き推定手段と、
設定された当該値又は値の組毎に、決定された当該向き転換軌跡上の位置であって当該向きの変化による曲がり角をなすコーナー位置を決定し、該向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、該向き転換軌跡上において隣接する他の又は同一の2つのコーナー位置の間を結んだ、基準となる基準軌跡部分とを比較することによって、該向き転換軌跡の誤差を算出する軌跡評価手段と、
算出された誤差が最小又は極小となる当該値又は値の組を、当該少なくとも1つのパラメータの較正結果に決定する較正決定手段と
してコンピュータを機能させるジャイロセンサ較正プログラムが提供される。
【0023】
本発明によれば、さらにまた、角速度を測定するジャイロセンサを較正するジャイロセンサ較正方法であって、
ジャイロセンサ較正方法は、ジャイロセンサから出力された角速度値を逐次蓄積するログ蓄積手段を用いて較正を行うものであり、
ジャイロセンサを較正する際の調整対象となる少なくとも1つのパラメータを、所定範囲内の値又は値の組に設定する第1のステップと、
設定された当該値又は値の組毎に、設定された当該値又は値の組を有する当該少なくとも1つのパラメータを用いて、蓄積された角速度データを補正した補正後角速度を算出し、各時点での当該補正後角速度に基づいて各時点における向きを算出し、当該向きの時間履歴である向き転換軌跡を決定する第2のステップと、
設定された当該値又は値の組毎に、決定された当該向き転換軌跡上の位置であって当該向きの変化による曲がり角をなすコーナー位置を決定し、該向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、該向き転換軌跡上において隣接する他の又は同一の2つのコーナー位置の間を結んだ、基準となる基準軌跡部分とを比較することによって、該向き転換軌跡の誤差を算出する第3のステップと、
算出された誤差が最小又は極小となる当該値又は値の組を、当該少なくとも1つのパラメータの較正結果に決定する第4のステップと
を有するジャイロセンサ較正方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の角速度測定装置、較正プログラム、及び較正方法によれば、専用装置を用いることなく必要な較正用パラメータを調整してジャイロセンサを較正することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明による角速度測定装置を所持して歩行する状況を説明するための概略図である。尚、
図1において、本発明による角速度測定装置の一実施形態として携帯端末1が挙げられているが、角速度測定装置は当然、携帯端末に限定されるものではない。
【0028】
図1(A)によれば、ユーザは、携帯端末1を所持しながら建物内を歩行している。この携帯端末1は、角速度を測定可能なジャイロセンサ100及びセンサ出力処理部120を備えている。ジャイロセンサ100から出力される角速度情報を入力したセンサ出力処理部120は、ユーザの歩行による進行の向き及びその転換を計測し、決定する。
【0029】
携帯端末1によれば、このような進行向きの転換の履歴を記録することによって、GPS(Global Positioning System)装置や地磁気センサを利用することなく、ユーザの所在位置の変化又は移動軌跡を把握することが可能となる。特に、工場内やビルの各フロア内等の建物内では、GPS電波を捕捉することが困難である場合も多く、検出される地磁気も向き・強度共に乱されている場合も多い。従って、建物内では、GPS装置や地磁気センサではなく、ジャイロセンサを利用して位置変化又は移動軌跡を測定することが、より正確な情報を得る点で重要となる。
【0030】
同じく
図1(A)によれば、ユーザは、この携帯端末1を所持しながら建物内を歩行している。ユーザは、具体的に、入り口から建物内に入った後、建物内の廊下を直進したり、廊下の角で進行の向きを転換したり、更には机が真ん中に設置された部屋に入って部屋内を回ったりして、最後に建物の出口に向かう。ここで、歩行経路における進行向きの(曲がり角をなす)転換位置が、後述するコーナー位置に相当する位置となる。
【0031】
携帯端末1は、このようなユーザの進行向き及びその転換に係る情報として、ジャイロセンサ100から出力される角速度値を、上述したユーザの歩行中におけるサンプリング時刻毎に、ジャイロ較正部11にある蓄積部に蓄積する。ジャイロ較正部11は、これらの蓄積された角速度データを利用して、他の専用装置を用いることなく、ジャイロセンサ100の較正を実施する。
【0032】
具体的には、最初に、
a)ジャイロセンサ100を較正する際の調整対象となる少なくとも1つの較正用パラメータを、所定範囲内の値又は値の組に設定する。
ここで、較正用パラメータは、オフセットO
f及び感度S
tとすることができる。
【0033】
次いで、
b)設定された値又は値の組毎に、設定された値又は値の組を有する少なくとも1つのパラメータを用いて、蓄積部に蓄積された角速度データを補正した補正後角速度を算出し、各時点での補正後角速度に基づいて各時点における向きを算出し、向きの時間履歴である「向き転換軌跡」を決定する。
ここで、オフセットO
f及び感度S
tを較正用パラメータとした場合は、設定されたオフセット及び感度の値の組(O
fi,S
tj)毎に、蓄積された角速度データω
kからオフセットO
fiを差し引いた上で、感度S
tjによって大きさを補正した補正後角速度ω
k’を算出する。
【0034】
次いで、
c)設定されたパラメータの値又は値の組毎に、決定された「向き転換軌跡」上の位置であって向きの変化による曲がり角をなすコーナー位置P
mを決定し、「向き転換軌跡」上において隣接する2つのコーナー位置P
mの間をなす各「軌跡部分」と、「向き転換軌跡」上において隣接する他の又は同一の2つのコーナー位置P
mの間を結んだ、基準となる「基準軌跡部分」とを比較することによって、「向き転換軌跡」の「誤差」を算出する。
ここで、「向き転換軌跡」の「誤差」の形態としては、後に説明するように、
1)直進性誤差、 2)平行性誤差、 3)直交性誤差
が挙げられる。
【0035】
その後、
d)算出された「誤差」が最小又は極小となる値又は値の組を、較正用パラメータの較正結果に決定する。
この較正用パラメータの較正結果は、ジャイロ制御部114に出力され、ジャイロ制御部114は、この較正結果を用いて、その後のジャイロセンサ100から出力される角速度値をより正確な値に調整する。
【0036】
以上説明したように、携帯端末1では、何ら専用装置を用いることなくジャイロセンサを較正することが可能となる。
【0037】
特に、設定された較正用パラメータの値の組毎に、「向き転換軌跡」の「誤差」を算出することによって、最適な較正用パラメータの値の組を決定することができる。その結果、較正に必要となる較正用パラメータを全て、例えばオフセット及び感度の両方、を較正することが可能となる。
【0038】
さらに、携帯端末1では、非特許文献1に記載されたゼロ点補正(ZUPT)技術のように、センサの保持位置を特定の箇所に限定するといった必要がない。
【0039】
また、本発明の較正方法は、当然に、
図1(A)に示したようなユーザの建物内での移動によって収集・蓄積された角速度データに基づいて実施される形態に限定されない。
図1(B)に示したように、市街地での移動によって収集・蓄積された角速度データに基づいて実施されてもよい。
【0040】
図1(B)によれば、ユーザは、携帯端末1を所持しながら市街地の道路(歩道)を直進したり、交差点で進行の向きを転換したり、更には大通りから細い路地に入って通り向けたりして、目的地に向かう。携帯端末1は、このようなユーザの進行向き及びその転換に係る情報として、ジャイロセンサ100から出力される角速度値を、サンプリング時刻毎にジャイロ較正部11の蓄積部に蓄積する。ジャイロ較正部11は、蓄積された角速度データを利用して、他の専用装置を用いることなく、ジャイロセンサ100の較正を実施することができるのである。
【0041】
[携帯端末1の機能構成]
図2は、本発明による携帯端末1の一実施形態を示す機能構成図である。
【0042】
図2によれば、携帯端末1は、ジャイロセンサ100と、ログ蓄積部101と、プロセッサ・メモリとを有する。さらに、加速度センサ102及び地磁気センサ103を有することも好ましい。ここで、プロセッサ・メモリは、プログラムを実行することによってその機能を実現させる。
【0043】
また、プロセッサ・メモリは、機能構成部として、パラメータ設定部110と、向き推定部111と、軌跡評価部112と、較正決定部113と、ジャイロ制御部114と、センサ出力処理部120とを有する。また、加速度センサ102が搭載された場合、更に静止判定部116を有することも好ましい。
【0044】
ジャイロセンサ100は、角速度を検出するジャイロスコープであって、向きの転換(変化)を検知・測定する向き転換測定部として機能することができる。ジャイロセンサ100として、例えば、振動したアームに作用するコリオリ力による構造体の変形から角速度を検出する3軸タイプの振動ジャイロセンサを用いることができる。ここで、構造体は、水晶、圧電セラミックス等の圧電材料を素材として、ダブルT型、音叉型、H型、三角柱、円柱等の形状に形成されたものである。また、構造体を、シリコン等を素材として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術で形成することもできる。さらに、ジャイロセンサ100として、流体式ジャイロセンサ、光学式ジャイロセンサ等を採用することも可能である。
【0045】
ログ蓄積部101は、ジャイロセンサ100から出力された角速度値を逐次、例えばサンプリング時刻毎に、蓄積する。ここで、角速度値は、測定時刻(サンプリング時刻)に紐付けられて記録されることが好ましい。
【0046】
加速度センサ102は、加速度測定部であり、例えばMEMS技術を用いて形成された、例えば静電容量方式又はピエゾ抵抗方式による、3軸タイプの加速度計測計とすることができる。加速度センサ102として、重力加速度を計測し、携帯端末1を所持したユーザの歩数をカウントすることが可能な加速度センサを用いることも好ましい。
【0047】
地磁気センサ103は、例えば、磁気抵抗(AMR、GMR又はTMR)効果、磁気インピーダンス(MI)効果、フラックスゲート(FG)方式又はホール効果を利用して地磁気を測定する3軸タイプの地磁気計測計とすることができる。尚、この地磁気センサ103と加速度センサ102とを組み合わせて、携帯端末1の方位を測定する方位測定部とすることも可能である。
【0048】
パラメータ設定部110は、ジャイロセンサ100を較正する際の調整対象となる少なくとも1つの較正用パラメータ(例えばオフセット及び感度)を、所定範囲内の値又は値の組に設定する。特に、較正用パラメータの初期値(パラメータ探索開始値)を、種々の手法又は予めの設定によって決定する。
【0049】
向き推定部111は、設定された較正用パラメータの値又は値の組毎に、設定された値又は値の組を有する少なくとも1つのパラメータを用いて、蓄積された角速度データを補正した補正後角速度を算出し、各時点での補正後角速度に基づいて各時点における向きを算出し、向きの時間履歴である向き転換軌跡を決定する。
【0050】
軌跡評価部112は、
a)設定された較正用パラメータの値又は値の組毎に、決定された向き転換軌跡上の位置であって向きの変化による曲がり角をなすコーナー位置を決定するコーナー決定部112aと、
b)向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、向き転換軌跡上において隣接する他の又は同一の2つのコーナー位置の間を結んだ、基準となる基準軌跡部分とを比較することによって、向き転換軌跡の誤差を算出する誤差算出部112bと
を有している。
【0051】
尚、向き推定部111と軌跡評価部112とは、パラメータ探索部をなす。パラメータ探索部では、較正用パラメータの値又は値の組毎に、蓄積された角速度データから向き転換軌跡が決定され、決定された向き転換軌跡におけるコーナー位置が決定されて、この向き転換軌跡の誤差が算出されるのである。
【0052】
また、誤差算出部112bは、直進性誤差算出部112blと、平行性誤差算出部112bpと、直交性誤差算出部112boとを有している。これらの機能構成部における直進性誤差の算出、平行性誤差の算出、及び直交性誤差の算出については、後に
図4〜
図8を用いて詳細に説明を行う。
【0053】
較正決定部113は、誤差算出部112bで算出された誤差が最小又は極小となる値又は値の組を、少なくとも1つの較正用パラメータの較正結果に決定する。
【0054】
ジャイロ制御部114は、較正決定部113で決定された較正結果を用いて、その後のジャイロセンサ100から出力される角速度信号をより正確な値に調整するべく、入力した較正結果に基づいてセンサ出力処理部120を制御する。具体的には、例えば較正用パラメータとしてオフセット及び感度を採用した場合、オフセット及び感度の較正値をセンサ出力処理部120に出力し、センサ出力処理部120に、この較正値をもってジャイロセンサ100からの角速度出力値を処理させ、より正確な角速度値を出力させる。
【0055】
尚、ジャイロ制御部114は、オフセット及び感度の較正値をセンサ出力処理部120に出力して較正(校正)を実施させる代わりに、又は実施させるとともに、この較正値に基づいて、ジャイロセンサ100の(MEMS部分等の)機構部分を較正することも可能である。
【0056】
静止判定部116は、加速度センサ102から所定時間内に出力された加速度値に基づいて、ジャイロセンサ100(携帯端末1)が静止状態であるか否かを判定する。この場合、パラメータ設定部110は、静止判定部116が真の判定を行った際にジャイロセンサ100から出力される角速度値に基づいて、オフセットにおける較正の際の初期値(探索開始値)を設定することも好ましい。
【0057】
以上、携帯端末1の一実施形態における機能構成を説明したが、本発明による角速度測定装置は、当然に、この実施形態に限定されるものではない。例えば、誤差算出部112bにおいて、向き転換軌跡の誤差の算出について、ユーザの移動する環境において想定される向きの変換量(相対方位角の変化分)の1つが所定の角度、例えば45°、である場合、平行性誤差及び直交性誤差の算出に代えて、この所定の角度(45°)の向き転換からの誤差を算出することも可能である。
【0058】
図3(A)は、本発明に係る向き転換軌跡を説明するためのグラフである。また、
図3(B)は、向き転換軌跡におけるコーナー位置を説明するためのグラフである。
【0059】
[パラメータ初期値設定]
最初に、
図3(A)に示したような向き転換軌跡を生成するための手順を説明する。まず、ジャイロセンサ100を較正する際の調整対象となるオフセットO
f及び感度S
t(較正用パラメータ)の初期値(探索開始値)を決定する。
【0060】
オフセットO
fの初期値O
f0は、静止時のジャイロスコープ100(
図2)からの出力値によって決定可能である。具体的には、静止判定部116(
図2)が、加速度センサ102(
図2)から所定時間内に出力された加速度値に基づいて静止状態であると判定した際の、当該所定時間内における、ジャイロスコープ100から出力された角速度値の平均値を、オフセットO
fの初期値O
f0とすることができる。
【0061】
ここで、静止判定部116は、加速度センサ102から所定時間内に出力された加速度値の大きさの標準偏差が所定の閾値V以下である際、静止状態であると判定することも好ましい。具体的に、出力される加速度値を3軸加速度ベクトルa=(a
x,a
y,a
z)とすると、その大きさ|a|は、
(1) |a|=(a
x2+a
y2+a
z2)
0.5
となる。所定時間T
a内に検出されたk個のサンプルである加速度値をa
i(i=1,2,・・・,k)とし、a
iの大きさの平均値をav|a|とすると、次式
(2) (Σ
i(|a
i|−av|a|)
2/k)
0.5≦V
の条件が成立する際、静止判定部116は、静止状態であると判定することができる。ここで、Σ
iは、iについての総和(Summation)である。
【0062】
一方、加速度センサ102及び静止判定部116を使用しない(できない)場合、ユーザに明示的に(例えばディスプレイに表示する形で)所定時間の静止を指示し、当該所定時間におけるジャイロスコープ100の出力値の平均値を、オフセットO
fの初期値O
f0とすることができる。または、オフセットO
fの初期値O
f0として、ジャイロスコープの工場出荷時のオフセットを用いてもよい。
【0063】
感度S
tの初期値S
t0は、例えば、移動開始から移動終了までの間の相対方位角の最大値と最小値との差が360°(度)となるように設定されることができる。この場合、移動は、一方向に直進するだけではなく、例えば何かの周りを一周するような、移動中に全ての相対方位が存在するルートをとるものが好ましい。
【0064】
または、ユーザに、明示的に(例えばディスプレイに表示する形で)携帯端末1を一定速度で一回転させることを指示し、その一回転の間のジャイロセンサ100からの出力が360°に相当するように、感度S
tの初期値S
t0を設定することができる。または、感度S
tの初期値S
t0として、ジャイロスコープの工場出荷時のオフセットを用いてもよい。
【0065】
以上述べたように、オフセットO
fの初期値O
f0及び感度S
tの初期値S
t0を決定した後、パラメータ設定部110は、初期値O
f0を含む所定範囲内のオフセット値、及び初期値S
t0を含む所定範囲内の感度値の組、例えば、
(3) O
f0−ΔO
f≦O
fi≦O
f0+ΔO
f、及び
(4) S
t0−ΔS
t≦S
tj≦S
t0+ΔS
t
を満たすオフセット及び感度の値の組(O
fi,S
tj)(i=0,1,・・・,n
o,j=0,1,・・・,n
s)を設定する。次いで、設定された組(O
fi,感度S
tj)毎に、向き転換軌跡TR
ijを生成する。
【0066】
尚、オフセットO
f及び感度S
tの所定範囲は、上式(3)及び(4)に限定されるものではないが、それぞれ初期値O
f0及び初期値S
t0を含むものであることが好ましい。
【0067】
[向き転換軌跡の生成]
次いで、設定された組(O
fi,S
tj)毎に、向き転換軌跡TR
ijが生成される。向き転換軌跡TR
ijの生成においては、最初に、設定された組(O
fi,S
tj)を用いて、サンプリング時刻t
k(k=0,1,2,・・・,n
t)に紐付けられて蓄積された角速度データω
kから補正後角速度ω
k’を算出する。具体的には、kサンプル目の補正後角速度ω
k’を、次式
(5) ω
k’=(ω
k−O
fi)/S
tj
を用いて算出する。
【0068】
尚、蓄積された角速度データω
kは、ジャイロセンサ100が3軸タイプである場合、特定の一軸での値とすることができる。この軸の選択においては、例えば、携帯端末1がユーザに装着される態様を想定した上で、ユーザの進行向きの変化を検出し易い軸を選択することも好ましい。また、加速度センサ102を用いて決定される進行向きに合わせて、この進行向きの変化を検出し易い軸を選択することも好ましい。
【0069】
次いで、算出された補正後角速度ω
k’を用いて、kサンプル目の相対方位角d
kを、次式
(6) d
k=d
k−1+ω
k’/f
を用いて算出する。ここで、f(Hz)は、サンプリングレートである。
【0070】
尚、初期方位角d
0については、地磁気センサ103、又は地磁気センサ103及び加速度センサ102、を用いてサンプリング開始時の絶対方位角を求め、この絶対方位角を初期方位角d
0とすることも可能である。しかしながら、ジャイロスコープ100を較正するにあたっては絶対方位は必要ではないため、本実施形態では、簡便のためd
0=0とする。また、これにより、d
kは相対方位角となる。
【0071】
次いで、これらのサンプリング時刻t
k毎の相対方位角d
kから、位置p
kを決定し、向き転換軌跡TR
ijを生成する。尚、以下の説明において用いられる位置p
k及びコーナー位置P
mは、向き転換軌跡空間での2つの成分からなる行列である。
【0072】
図3(A)に、x軸及びy軸で規定される向き転換軌跡空間{(x,y)}内の位置p
0、p
1、p
2、・・・を示している。このうち、位置p
0は原点、即ち、
【数1】
に設定されている。
【0073】
次いで、位置p
1及び位置p
2は、
【数2】
【数3】
となる。即ち、位置p
kは、
【数4】
と表される。
【0074】
向き転換軌跡空間内において、これらの位置p
kを順次線分で結んだ経路が、向き転換軌跡TR
ijとなる。次いで、生成された向き転換軌跡TR
ijにおけるコーナー位置P
mを決定する。ここで、コーナー位置P
mは、向き転換軌跡TR
ij上の位置であって向きの変化による曲がり角をなす位置である。
【0075】
[コーナー位置P
mの決定]
最初に、時間軸上において、kを中心とするウィンドウ{k−W,・・・,k+W}を指定し、このウィンドウ内の相対方位角d
k−W,・・・,d
k+Wの標準偏差をs
kとする。ここで、Wは、指定ウィンドウの幅の半分であり、kサンプル目を中心として(k−W)サンプル目の位置p
k−Wから(k+W)サンプル目の位置p
k+Wまでの範囲を決定するパラメータである。
【0076】
図3(B)に示すように、kサンプル目における指定ウィンドウ内の相対方位角の標準偏差s
kが、次の3条件(11)〜(13)を満たす場合、s
kをピークをなすものと見なし、位置p
k(s
k)をコーナー位置P
mと規定する。
(11) s
k>s
k−1、且つs
k>s
k+1
(s
kが極大値である)
(12) s
k=max(s
k−W,・・・,s
k+W)
(s
kが指定ウィンドウ内で最大値である)
(13) s
k>D
th
(s
kがD
thよりも大きい)
【0077】
ここで、条件(12)及び(13)におけるWとして、例えば、W=fとすることができる。また、条件(13)におけるD
thは、標準偏差s
kの下限閾値であり、例えば、固定値D
th=14°(f=50Hzの場合)、または1回の移動中における最大値の半分(D
th=max(s
0,・・・,s
nt)/2)とすることができる。
【0078】
尚、向き転換軌跡TR
ijの範囲は、予め設定された数、例えば20個、のコーナー位置P
mを含むまでの範囲とすることができる。または、予め設定された数の位置p
k(サンプル)を含むまでの範囲としてもよい。ここで、後の誤差算出の際の便宜として、向き転換軌跡TR
ijの2つの端点(移動開始位置p
0及び移動終了位置p
nt)もコーナー位置とする。
【0079】
また、向き転換軌跡TR
ijにおけるコーナー位置P
mの決定は、上述した標準偏差を用いる方法に限定されるものではない。相対方位角の変化による曲がり角をなす位置をコーナー位置P
mと規定する方法であれば採用可能であり、例えば、位置p
kでの相対方位角d
kにおける、1つ前のサンプリングの位置p
k−1での相対方位角d
k−1からの変化分ω
k’/fが、極大値となる条件を使用することもできる。または、位置p
kでの相対方位角d
kと、所定時間前の方位角(例えば1秒前のd
k−f)との角度差が、所定閾値以上の場合に、位置p
kをコーナー位置とすることも可能である。
【0080】
[誤差算出]
次いで、コーナー位置P
mが決定された向き転換軌跡TR
ijにおける誤差を算出・評価する。本実施形態では、この際の評価値として、
(a)直進性誤差:直進に相当すべき軌跡部分が、直線分からずれる程度としての誤差
(b)平行性誤差:平行になるべき2つの軌跡部分が、平行からずれる程度としての誤差
(c)直交性誤差:直交すべき2つの軌跡部分が、直交からずれる程度としての誤差
のうちの少なくとも1つを採用する。即ち、最終的な誤差(評価値)は、上記(a)〜(c)のうちの1つ又は複数の合計値とすることができる。
【0081】
以下、上記(a)〜(c)の各々について説明する。ここで、向き転換軌跡TR
ij上で決定されたコーナー位置P
mの数をn
c個とする(即ち、m=1,2,・・・,n
c)。また、以下の各種誤差の説明において用いられる位置p
k及びコーナー位置P
mも、向き転換軌跡空間での2つの成分からなる行列である。
【0082】
[直進性誤差]
図4は、直進性誤差を説明するための向き転換軌跡TR
ijの概略図である。
【0083】
図4には、向き転換軌跡TR
ijにおける、m番目のコーナー位置P
aと、(m+1)番目のコーナー位置P
bとの間の軌跡部分が示されている。ここで、コーナー位置P
a及びP
bの時間的中点の位置をp
cとし、コーナー位置P
a及びP
bの理想的な中点p
Mを、
(14) p
M=(P
a+P
b)/2
とすると、この軌跡部分の直進性誤差ES
mは、
(15) ES
m=|p
M−p
c|/|P
b−P
a|
と定義される。
【0084】
即ち、直進性誤差ES
mは、向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、これらの2つのコーナー位置の間を直線分で結んだ「基準軌跡部分」とを比較した際の、各軌跡部分における「基準軌跡部分」からのずれを表す量となっている。
【0085】
ここで、1つの向き転換軌跡TR
ij(1回の移動分)における直進性誤差ESは、向き転換軌跡TR
ijにおける全ての軌跡部分の直進性誤差ES
mの平均とすることができる。即ち、
(16) ES=(ES
1+ES
2+・・・+ES
nc−1)/(n
c−1)
となる。
【0086】
[平行性誤差]
図5及び
図6は、平行性誤差を説明するための向き転換軌跡TR
ijの概略図である。
【0087】
図5(A)及び(B)には、向き転換軌跡TR
ijにおける、m番目のコーナー位置P
aと、(m+1)番目のコーナー位置P
bとの間の軌跡部分bが示されている。また、基準となる基準軌跡部分aを構成する位置P
B1及びP
B2も示されている。
【0088】
ここで、a=P
B2−P
B1、及びb=P
b−P
aとして、角度φを、
(17) φ=arccos((a・b)/(|a||b|))
(式(17)中、・は内積を示す)
とすると、この軌跡部分の平行性誤差EP
mは、
(18) EP
m=φ (φ≦90(°)の場合)
EP
m=180−φ (その他の場合)
と定義される。尚、EP
m=φとなる場合を
図5(A)に示しており、EP
m=180−φとなる場合を
図5(B)に示している。
【0089】
ここで、
図6(A)、6(B)及び6(C)にそれぞれ、m=4、m=5及びm=6の場合の基準軌跡部分aの位置を示す。同図から理解されるように、基準軌跡部分aを構成する位置P
B1及びP
B2は、
(19) (P
B1,P
B2)=(P
1,P
2) (mが奇数の場合)
(P
B1,P
B2)=(P
2,P
3) (mが偶数の場合)
と設定されることができる。
【0090】
また、基準軌跡部分aを、隣接する2つのコーナー位置P
a及びP
bの間をなす軌跡部分から、向き転換軌跡TR
ij上を遡って偶数番目に位置する軌跡部分とすることも好ましい。式(19)の設定は、この偶数番目の軌跡部分をとる設定方法に包含される。このように、(2回を含む)偶数回の(理想的には90°に想定される)向き転換を経た後の軌跡部分の平行性が、これら偶数回の向き転換前の(理想的には平行となる方向を有するべき)軌跡部分を基準として、評価可能となるのである。
【0091】
即ち、平行性誤差EP
mは、向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、各軌跡部分から向き転換軌跡上を遡って偶数番目に位置する軌跡部分である「基準軌跡部分」とを比較し、各軌跡部分の向きにおける「基準軌跡部分」の向きからのずれを表す量となっている。
【0092】
ここで、1つの向き転換軌跡TR
ij(1回の移動分)における平行性誤差EPは、向き転換軌跡TR
ijにおける全ての軌跡部分の平行性誤差EP
mの平均とすることができる。即ち、
(20) EP=(EP
1+EP
2+・・・+EP
nc−1)/(n
c−1)
となる。
【0093】
[直交性誤差]
図7及び
図8は、直交性誤差を説明するための向き転換軌跡TR
ijの概略図である。
【0094】
図7には、向き転換軌跡TR
ijにおける、m番目のコーナー位置P
aと、(m+1)番目のコーナー位置P
bとの間の軌跡部分bが示されている。また、基準となる基準軌跡部分aを構成する位置P
B1及びP
B2も示されている。
【0095】
ここで、a=P
B2−P
B1、及びb=P
b−P
aとすると、この軌跡部分の直交性誤差EO
mは、
(21) EO
m=|arccos((a・b)/(|a||b|))−90|
(式(21)内の単位は、°(度))
と定義される。
【0096】
ここで、
図8(A)、8(B)及び8(C)にそれぞれ、m=2、m=3及びm=4の場合の基準軌跡部分aの位置を示す。同図から理解されるように、基準軌跡部分aを構成する位置P
B1及びP
B2は、
(22) (P
B1,P
B2)=(P
2,P
3) (mが奇数の場合)
(P
B1,P
B2)=(P
1,P
2) (mが偶数の場合)
と設定されることができる。
【0097】
また、基準軌跡部分aを、隣接する2つのコーナー位置P
a及びP
bの間をなす軌跡部分から、向き転換軌跡TR
ij上を遡って奇数番目に位置する軌跡部分とすることも好ましい。式(22)の設定は、この奇数番目の軌跡部分をとる設定方法に包含される。このように、(1回を含む)奇数回の(理想的には90°に想定される)向き転換を経た後の軌跡部分の直交性が、これら奇数回の向き転換前の(理想的には直交する方向を有するべき)軌跡部分を基準として、評価可能となるのである。
【0098】
即ち、直交性誤差EO
mは、向き転換軌跡上において隣接する2つのコーナー位置の間をなす各軌跡部分と、各軌跡部分から向き転換軌跡上を遡って奇数番目に位置する軌跡部分である「基準軌跡部分」とを比較し、各軌跡部分の向きにおける「基準軌跡部分」の向きに直交する向きからのずれを表す量となっている。
【0099】
ここで、1つの向き転換軌跡TR
ij(1回の移動分)における直交性誤差EOは、向き転換軌跡TR
ijにおける全ての軌跡部分の直交性誤差EO
mの平均とすることができる。即ち、
(23) EO=(EO
1+EO
2+・・・+EO
nc−1)/(n
c−1)
となる。
【0100】
以上に説明した向き転換軌跡TR
ijにおける直進性誤差ES(式(16))、平行性誤差EP(式(20))、及び直交性誤差EO(式(23))のうちの少なくとも1つを採用して、向き転換軌跡TR
ijの誤差(評価値)Eとする。この誤差(評価値)Eは、3つの誤差全てを採用した場合、例えば、
(24) E=ES+EP+EO
とすることができる。
【0101】
[較正決定]
較正決定部113(
図2)は、以上に説明した転換軌跡TR
ijの誤差Eが、最小又は極小となる所定範囲内のオフセット及び感度の値の組(O
fi,S
tj)(i=0,1,・・・,n
o,j=0,1,・・・,n
s)を、オフセット及び感度の較正結果に決定する。
【0102】
ここで、所定範囲は、例えば上式(3)O
f0−ΔO
f≦O
fi≦O
f0+ΔO
f及び上式(4)S
t0−ΔS
t≦S
tj≦S
t0+ΔS
tを満たす、オフセット及び感度の値の組(O
fi,S
tj)(i=0,1,・・・,n
o,j=0,1,・・・,n
s)のとり得る範囲である。
【0103】
尚、以上に述べたように、誤差Eが所定範囲内において最小値を示すところのオフセット及び感度の組(O
fi,S
tj)を較正結果としてもよいし、山登り(Hill Climbing)法等の局所探索法を使用して、誤差Eが所定範囲内において極小値を示すところのオフセット及び感度の組(O
fi,S
tj)を較正結果としてもよい。山登り法では、現在(初期値)の解の近傍の内で最も成績の良い解が近似解として選ばれ、現在の解よりも近似解の成績の方が良い場合に、近似解と現在の解とが入れ替えられる。この山登り法は、このような近似解の探索が収束した場合にも、新たに初期解を選び直してから再び探索を開始することによって、短時間で精度の良い解を生成可能な方法となっている。
【0104】
また、較正決定部113において、向き転換軌跡TR
ijをディスプレイ等の表示部に表示させ、GUI(Graphical User Interface)を通して、ユーザに、表示させた向き転換軌跡TR
ijを修正させることも可能である。この場合、適切な形状に修正された向き転換軌跡TR
ijから逆算して求められるオフセット及び感度の値の組(O
f,S
t)を、オフセット及び感度の較正結果とすることができる。または、オフセットO
f及び感度S
tを増減させるためのボタン又はスイッチをユーザに操作させ、対応する組(O
f,S
t)に相当する、表示された向き転換軌跡TR
ijを適切な形状にまで変更させて、その時点の組(O
f,S
t)を、オフセット及び感度の較正結果とすることもできる。尚、向き転換軌跡TR
ijの適切な形状とは、例えば、上述した直進性誤差ES、平行性誤差EP及び直交性誤差EOができる限り小さくなるような形状である。例えば、GUIを通して向き転換軌跡TR
ijの形状を変化させる場合、これらの直進性誤差ES、平行性誤差EP及び直交性誤差EOの値を表示することも好ましい。
【0105】
尚、向き転換軌跡TR
ijにおける誤差の算出・評価について、ユーザの移動する環境において想定される向きの変換量(相対方位角の変化分)の1つが所定の角度θ
T、例えば45°、である場合では、
a)直進性誤差と、
b)所定の角度θ
Tの向き転換からの誤差と
を算出し、評価することが可能となる。但し、b)角度θ
Tの向き転換誤差においては、向き転換軌跡TR
ijにおける基準軌跡部分aは、隣接する2つのコーナー位置P
a及びP
bの間をなす軌跡部分bから、向き転換軌跡TR
ij上を遡って次に位置する(隣接する)軌跡部分となる。このように、1回の(理想的には角度θ
Tに想定される)向き転換を経た後の軌跡部分の誤差が、この1回の向き転換前の(理想的には角度θ
Tだけ異なる方向を有するべき)軌跡部分を基準として、評価可能となる。
【0106】
[ジャイロセンサの較正方法]
図9は、本発明によるジャイロセンサ較正方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【0107】
(S900)ジャイロセンサ100から出力された角速度データ{ω}を蓄積する。
(S901)パラメータ探索ループ(ステップS901〜S909)を開始する。このループでは、最初、オフセットO
fの初期値O
f0をO
defとし、感度S
tの初期値S
t0をS
defとし、次に、順次、所定範囲内におけるオフセット及び感度の値の組(O
fi,S
tj)(i=0,1,・・・,n
o,j=0,1,・・・,n
s)を設定していく。
【0108】
(S902)次に、向き変換軌跡TR
ij生成ループ(ステップS902〜S906)を開始する。各ループでは、各サンプリング時刻t
k(k=0,1,2,・・・,n
t)において、相対方位角d
k、及び向き転換軌跡空間での位置p
kを算出する。ここで、サンプリングレートをf、相対方位角d
kの初期値d
0を0、位置p
kの初期値p
0=0とする。
【0109】
(S903)kサンプル目の補正後角速度ω
k’=(ω
k−O
fi)/S
tjを算出する。
(S904)kサンプル目の相対方位角d
k=d
k−1+ω
k’/fを算出する。
(S905)向き転換軌跡空間での位置p
k=p
k−1+(sin(d
k),cos(d
k))を算出する。
(S906)k=0,1,2,・・・,n
tの各k値についてループを実行し、k=n
tのループが終了すれば、向き変換軌跡TR
ij生成ループを終了とする。
【0110】
(S907)生成された向き変換軌跡TR
ijにおけるコーナー位置P
mを検出する(検出されたコーナー位置をP
1、P
2、・・・、P
ncとする)。
(S908)生成された向き変換軌跡TR
ij(コーナー位置P
m)の誤差(評価値)Eを算出する。
(S909)極小値をとる誤差Eを有する向き変換軌跡TR
ijが決定した段階で向き変換軌跡TR
ij生成ループを終了する。
【0111】
(S910)極小値をとる誤差Eを有する向き変換軌跡TR
ijにおけるオフセット及び感度の値の組(O
fi,S
tj)を、オフセット及び感度の較正結果に決定する。
(S911)較正結果として決定されたオフセット及び感度の値の組(O
fi,S
tj)をもって、ジャイロセンサを較正する。
【0112】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、角速度測定装置自体が取得した角速度データから、設定された較正用パラメータ毎に向き変換軌跡を規定し、向き変換軌跡の誤差(評価値)に基づいて較正結果を取得する。その結果、何ら専用装置を用いることなく、ジャイロセンサを較正することが可能となる。
【0113】
また、較正を角速度測定装置自体での処理によって実施するので、較正を、短時間で且つ当該装置の事情に沿った形でより適切に、実施することができる。また、設定された較正用パラメータ毎に向き転換軌跡を評価するので、較正に必要となる較正用パラメータを全て、例えばオフセット及び感度の両方、を較正することが可能となる。
【0114】
さらに、センサの保持位置を特定の箇所に限定するといった必要がない。これにより、本発明による角速度測定装置の実施形態として、例えば、スマートフォン、タブレット型コンピュータ、電子書籍、PDA(Personal Digital Assistant)のようなユーザインタフェース装置、いわゆる携帯型情報機器が採用可能となる。
【0115】
以上に述べた本発明の種々の実施形態において、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。