(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周方向に配列されたT個の極歯、および極歯に集中巻きされた複数のコイルを形成する全体巻線を有する固定子と、T個の極歯に対向するよう配置される回転子とを含む三相交流電動機であって、
各相の全体巻線の複数のコイルは、相ごとにg個のコイル群に分けられ、分けられた各コイル群は、連続して配置されたh個の極歯に巻回されたコイルからなり、
コイル群の端からd個のコイルが隣り合うコイル群の間で極歯を共用し、
極歯数T、コイル群数g、コイル連続数h、コイル共用数dが、
T=3×g×(h−d)
の関係を有し、
全体巻線は並列するn個の部分巻線から構成され、全体巻線の一つのコイルはn個の部分巻線の各々により形成される所定の巻回数のn個のサブコイルからなり、
一つの部分巻線に属するサブコイルの巻回数の総和は、各部分巻線において共通であり、
隣のコイル群と極歯を共用するコイルの実効巻回数である極歯共用コイル巻回数は、隣のコイル群と極歯を共用しないコイルの実効巻回数である極歯占有コイル巻回数より少ない、
三相交流電動機。
【背景技術】
【0002】
電動機は、回転磁界を発生させる固定子と、発生された回転磁界と相互作用して回転する回転子を含む。固定子には巻線が巻回されて、これに電力を供給することで、回転磁界が発生する。巻線に供給される電力が三相交流の電動機を三相交流電動機と記す。
【0003】
従来より、工作機械の主軸、送り軸等の駆動源に三相交流電動機が利用されている。特に、
回転子の角度位置や回転速度を正確に制御可能な三相交流同期電動機が用いられることがある。以下、三相交流同期電動機を例に挙げて説明する。
【0004】
図8に、従来の電動機900の主要部の断面図を示す。この電動機900は、固定子90と回転子93を備えている。固定子90は概略円筒形を有し、円筒形の内周面に周方向に沿って複数の極歯T1 〜T18が配列されている。図示される例において極歯は18個である。極歯T1 〜T18の間の空間はスロットと呼ばれる。図中において、スロットが符号S1 〜S18で示される。巻線91がスロットを通過しつつ極歯に巻回されて磁極が形成される。図示される電動機900の巻線91は、一つの極歯に巻線が集中的に巻き付けられる、いわゆる集中巻きの巻線である。
【0005】
巻線91の巻回方式を
図9および
図10を用いて説明する。
図9は、電動機を示す模式図である。図中、Mで示される部分が電動機900を示しており、そこから、3本出ている線は電動機900から出ている三相のリード線を示す。電動機M内の螺旋状になっている線は電動機900に巻回される巻線を示す。この三相の巻線のうち、一相分の巻線であるUとXの間の巻線(U相巻線)における巻線の巻回方法について、
図10を用いて説明する。巻線91は、連続する3個の極歯T2,T3,T4に順に3回ずつ巻回され、コイルC1,C2,C3 が形成される。巻線91は、極歯T4 に巻回された後、極歯T2,T3,T4から離れた連続する3個の極歯T11,T12,T13に3回ずつ順に巻回される。これにより、極歯T11,T12,T13にコイルC4,C5,C6 が形成される。巻線が一つの極歯に巻回された回数を巻回数と記す。
図10のコイルの巻回数は3である。V相、W相の巻線は、巻き付けられる極歯が異なるが、U相の巻線と同様に、連続する3個の極歯に順次巻回され、これら3個の極歯から離れた別の3個の極歯に更に順次巻回されている。この結果、3個の極歯ごとにU相、V相、W相の集中巻きのコイルが形成される。
【0006】
一方、回転子93は、リング95に磁性体94を嵌込み、かつ永久磁石96を配設固着させたものである(
図8参照)。このような電動機900では、同相のコイルが周方向に連続して配置されるので、巻線91に通電した際の磁束の分布が、連続するコイルの範囲ではほぼ一定で、連続するコイルの端では急に小さくなる略台形形状の分布となる。このような分布は、トルクリップルを生じやすいという問題がある。
【0007】
トルクリップルを低減するために、下記特許文献1では、固定子の極歯の形状を工夫している。つまり、極歯の回転子に対向する先端面を湾曲させ、先端面が、周方向において中央では回転子との距離が短くなるようにし、端では距離が長くなるようにしている。しかし、極歯先端と回転子を離すことは、極歯と回転子との間で作用する磁力が弱くなることに繋がり、好ましくない。また、下記特許文献2では、スキュー構造を採用している。具体的には、回転子の円筒形のコアの外周面に回転軸に対して傾いた溝を形成し、スキュー構造としている。スキュー構造はトルク定数を低下させる傾向があり、これも好ましくない。また、集中巻きではなく、分布巻きを採用することも行われている。
【0008】
図10に示したコイルの巻回数は3回であるが、電動機の巻回数は、要求仕様に基づき決定される。一般に、電動機において巻線に発生する電圧は、巻線の巻回数と巻線に錯交する磁束の時間に対する変化量に比例することが知られている。このため、電動機に供給される電流が一定の場合に、巻回数を増やせば増やすほど発生するトルクが増加する。その一方で、巻回数を増やすと巻線に発生する電圧も上昇する。この巻線に発生する電圧は、電動機の回転速度に比例して大きくなる。よって、巻回数を増加させると、高回転速度時に巻線に発生する電圧が高くなる。巻線に発生する電圧が、電動機に電力を供給しているアンプの電源電圧に達すると、アンプから電動機に電流を通電できなくなり、電動機を運転することができなくなってしまう。したがって、巻線に発生する電圧があらかじめ決められた許容値よりも大きくならない範囲で電流を通電して所望の出力(回転速度とトルクの積)が得られるよう、巻線の巻回数は決定される。
【0009】
コイルの巻回数は通常、整数回であり、離散的な値をとる。よって、出力と、巻線に発生する電圧との関係を最適化することができない場合がある。出力と、巻線に発生する電圧の関係を、
図11および
図12を用いて説明する。
図11に示される、基底回転速度nb 、最高回転速度nt 、出力p0 の要求仕様を実現しようとする場合について説明する。コイルの巻回数を2回とした場合、全回転領域(0〜nt )において、巻線に発生する電圧を許容値以下とすることができるが、発生トルクは小さく、基底回転速度nt において要求される出力p0 を得ることができない。このときの出力特性が
図12に破線で示されている。要求出力p0 を満たすために、巻回数を増やして3回とすると、高回転域において巻線に発生する電圧が許容値を超えてしまう場合がある。許容値を超える回転速度nc 以上においては、巻線に通電する電流を減少させて巻線に発生する電圧を減少させる必要がある。この結果、高回転域で要求出力を得られない。このときの出力特性が
図12に実線で示されている。巻回数を2回と3回の間の値とすることができれば、
図11に示される要求性能を達成できる可能性がある。特許文献3には、分布巻きの巻線において、巻回数(ターン数)を整数でない値とする技術が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る実施形態の電動機10の概略構成を示す図である。電動機10は、略円筒形であって円筒の内周に周方向に配列された18個の極歯T1 〜T18を有する固定子12と、固定子の内側に、外周面が極歯の先端面に対向するように配置された略円筒形の回転子14を有している。固定子12の極歯T1 〜T18の間の空間はスロットと呼ばれる。スロットには、符号S1 〜S18が付されている。回転子14は、リング16の外側に、円環また円筒形状の磁性体18を嵌め込み、この磁性体18の外周面に周方向に配列された永久磁石20を有する。この電動機10においては、16個の永久磁石20が配置されている。
【0023】
巻線は集中巻きされている。一つの極歯に巻かれた一つの相の巻線を「コイル」と記す。一つの相のコイルは、周方向に連続する4個の極歯に連続して形成される。
図1の例では、U相のコイルC1 〜C4 は、極歯T2 〜T5 にそれぞれ形成されている。連続する極歯に形成された同相のコイルの全体を「コイル群」と記す。また、一つのコイル群が形成される極歯の個数、すなわち一つの相の連続配置されたコイルの数を「コイル連続数」と記す。前記の例の場合、コイルC1 〜C4 が一つのコイル群G1 を構成する。コイル連続数は4である。
図1に示す電動機10において、U相はもう一つのコイル群G2 を有する。このコイル群G2 は、連続する極歯T11〜T14に形成されたコイルC5 〜C8 により構成される。V相、W相についても、U相と同様に、2個のコイル群を構成する8個のコイルを有する。
【0024】
一つのコイル群を構成する4個のコイルのうち端のコイルは、隣接するコイル群のコイルと極歯を共用している。つまり、U相のコイル群G1 の端のコイルC1 は、隣接するW相のコイル群の端のコイルと極歯T2 を共有している。もう一つの端のコイルC4 は、隣接するV相のコイル群の端のコイルと極歯T5 を共用している。隣り合うコイル群の間で極歯を共用するコイルの数を「コイル共用数」と記す。電動機10においては、コイル共用数は1である。
【0025】
隣り合うコイル群と極歯を共用するコイル(以下、「端コイル」と記す。)の巻回数を、そうでないコイル(以下、「中央コイル」と記す。)の巻回数より少なくする。このようなコイル巻回数の一例を
図2に示す。
図2は、U相の巻線の巻回方法を示す図である。V相、W相の巻線も同様であるので説明を省略する。端コイルC1,C4,C5,C8 は、巻線を2回巻回して形成される。すなわち、巻回数は2である。中央コイルC2,C3,C6,C7 の巻回数は4である。巻線は、一つの極歯に対し、一度に巻回することができる。つまり、ある極歯に巻線を巻回し、次に別の極歯に巻線を巻回した後においては、元の巻線が巻回された極歯に戻って再度巻線を巻回しないようにできる。このように巻回され完成した巻線は、巻線の一端からたどると、まず第1の極歯を周回し、次に別の極歯である第2の極歯に周回して、更に別の極歯である第3の極歯を周回し、以下これを繰り返す。つまり、すでに巻線が周回した極歯に再度巻線が周回することはない。
図2の例では、左端の極歯から順に巻線が巻回されてコイルが形成される。端コイルの巻回数を中央コイルより少なくすることにより、端コイルにより発生される磁束は、中央コイルにより発生される磁束より小さくなり、コイル群の両端の磁束密度が中央の磁束密度より小さくなる。これにより、トルクリップルを減少させることができる。
【0026】
上述の巻線方式、すなわち、コイル群の端のコイルが、隣りのコイル群の端のコイルと一つの極歯を共用する巻線方式の場合、一般的には、極歯数T、コイル群数g、コイル連続数h、コイル共用数dが次式の関係を有する。
T=3×g×(h−d) ・・・(1)
コイル群の全てが極歯を共有するコイル(端コイル)とならない条件はh>2dである。コイル群の1端の2個のコイルが、隣のコイル群のコイルと極歯を共用する場合(コイル共用数d=2)、これらのコイルの巻回数は異なっていてもよい。例えば、最も端のコイルの巻回数を中央コイルの巻回数の四分の1とし、端から二番目のコイルの巻回数を中央コイルの巻回数の二分の1とすることができる。
【0027】
図2に示す巻線の巻回方式では、整数の巻回数しか実現できず、設計自由度が低い。以下においては、巻回数を整数でない値とすることが可能な巻線方式について説明する。
【0028】
図3は、巻線巻回方法の説明図である。
図3には、
図9で示される、UからXの間の巻線、すなわちU相の巻線Lの構成が示されている。巻線Lは、n個の等価な並列する部分巻線N1,N2,・・・,Nn から構成される。n個の部分巻線から構成される巻線Lを、区別を明確にするために以下、全体巻線Lと記す。全体巻線Lは、g個のコイル群G1,G2,・・・,Gg を含む。各コイル群G1,G2,・・・,Gg は、それぞれ4個のコイルC1,C2,C3,C4,・・・,Cm-3,Cm-2,Cm-1,Cm から構成される。全体巻線Nのコイルの数はm(=g×4)個である。以下、部分巻線、コイル群、コイルのそれぞれについて、個々の部分巻線、コイル群、コイルを区別する必要がない場合、添え字を省略し、部分巻線N、コイル群G、コイルCと記す。コイル群Gを構成するコイルCの数(コイル連続数)は、4個以外であってもよくh個として一般化することもできるが、簡単のために4個として以下説明する。各コイル群Gを構成する4個のコイルCは、周方向に連続して配置される4個の極歯に形成されている。
【0029】
各コイルCは、n個の部分巻線Nをそれぞれ巻回して形成されたn個のサブコイルS(1,1),S(1,2),・・・,S(1,m),S(2,1),・・・S(2,m),・・・,S(n,1),・・・,S(n,m)から構成される。具体的には、1個のコイルC1 は、n個の部分巻線のn個のサブコイルS(1,1),S(2,1),・・・S(n,1)から構成される。つまり、コイルC1 はn個の部分巻線のそれぞれ1個のサブコイルによって構成される。他のコイルについても同様である。以下、サブコイルについて、個々のサブコイルを区別する必要がない場合、添え字を省略してサブコイルSと記す。
【0030】
各サブコイルSの巻線の巻回数を、tとそのサブコイルを示す添え字を用いて表す。つまり、サブコイルS(1,1) の巻回数をt(1,1) と表す。一つの部分巻線Nに属するサブコイルSの数は、コイルCの数と同じm個であり、このm個のサブコイルSの巻回数の和は、各部分巻線Nで共通である。式で表せば式(2)となる。
【0032】
あるコイルCj (jは1からmまでの整数) は、n個のサブコイルS(1,j),S(2,j),・・・,S(n,j)からなる。これらのサブコイルS(1,j),S(2,j),・・・,S(n,j)のそれぞれの巻回数を、前記のようにt(1,j),t(2,j),・・・,t(n,j)と表す。このコイルCj の実効巻回数は、以下のようになる。
【0033】
一つのサブコイルS(k,j) (kは1からnまでの整数) の発生する磁束φ(k,j) は、そのサブコイルS(k,j) の巻回数t(k,j) と、そのサブコイルS(k,j) を流れる電流i(k,j) に比例する。式で表すと式(3)となる。
φ(k,j) =α×i(k,j) ×t(k,j) ・・・(3)
αは比例定数である。一つのコイルCj の発生する磁束Φj は、各サブコイルSの発生する磁束φの和であるから、式(4)となる。
【0035】
n個の部分巻線Nは前述のように等価であるから、全体巻線Lを流れる電流をIとすれば、電流i(k,j) は式(5)で表される。
i(k,j) =I/n ・・・(5)
これを、式(4)に代入すれば、式(6)を得る。
【0037】
式(6)の{ }内は、コイルCj に属するサブコイルSの巻回数t(1,j),t(2,j),・・・,t(n,j) の平均値であり、またコイルCj の巻回数を示していることが理解できる。つまり、コイルCj の実効巻回数は、このコイルCj に属するn個のサブコイルの巻回数の平均値であることが分かる。
【0038】
図3に示す巻線方式において、コイル群数gを2、コイル連続数hを4、コイル共用数を1、部分巻線数nを任意としたとき、コイル群Gの端コイルC1,C4,C5,C8 の巻回数を2、中央コイルC2,C3,C6,C7 の巻回数を4とすれば、
図2に示される巻線と等価の巻線となる。
【0039】
コイルCの実効巻回数は、サブコイルの巻回数の平均値であるので、整数でない値、つまり分数とすることもできる。
図4は、コイルCの巻回数を分数とした巻線の一例が示されている。また、
図5は、
図4に示す全体巻線Lが固定子に配置された様子を示している。
【0040】
図4の全体巻線Lは、
図3の巻線方式において、部分巻線数nを2、コイル群数gを2とした巻線方式を採用したものである。コイル連続数は4、コイル共用数は1であって共通である。サブコイルの巻回数が図中「○」の中の数字で表されている。端コイルC1,C8 の、部分巻線N1 に属するサブコイルの巻回数は3、部分巻線N2 に属するサブコイルの巻回数は2である。したがって、端コイルC1,C8 の巻回数(磁歯共用コイル巻回数)は2.5となる。端コイルC4,C5 においては、部分巻線N1 に属するサブコイルの巻回数が2、部分巻線N2 に属するサブコイルの巻回数は3である。このように、端コイルでは、巻回数が2と3のサブコイルを組み合わせてコイルが構成されている。中央コイルC2,C3,C6,C7 においては、巻回数が8と2のサブコイルを組み合わせて、コイルが構成されている。中央コイルC2,C3,C6,C7 の巻回数(磁歯占有コイル巻回数)は5となる。中央コイルの巻回数が5となる他のサブコイル巻回数の組み合わせ、例えば3と7、4と6、5と5を採用することもできる。
【0041】
図4の例のように、端コイルの巻回数を、中央コイルの巻回数の二分の1とすることにより、各極歯に形成されたコイルの総巻回数を等しくすることができる。これにより、各スロットの空間を有効に使用することができ、占積率が向上する。中央コイルの巻回数を分数とすることもできる。しかし、端コイルの巻回数は、中央コイルの巻回数の二分の1に限定されない。二分の1未満とすることが可能である。また、二分の1を超え、中央コイルの巻回数未満とすることもできる。例えば、コイル群の端から2個のコイルが、隣のコイル群のコイルと極歯を共用する場合(コイル共用数d=2)において、最も端のコイルの巻回数を中央コイルの巻回数の三分の1とし、端から二番目のコイルの巻回数を中央コイルの巻回数の三分の2とすることができる。この場合、端から二番目のコイルの巻回数は、中央コイルの巻回数未満であり、かつ二分の1以上となる。さらに、中央コイル、すなわち磁歯を他のコイル群と共用しないコイルについて、巻回数を異ならせることもできる。例えば、中央コイルが3個の場合、中央の1個のコイルの巻回数よりも両側のコイルの巻回数を少なくすることもできる。
【0042】
スロット断面積のうち巻線の合計断面積が占める割合(占積率)の向上のために、全体巻線Lは複数本の導線を束ねて構成されることがある。スロット内に配置される導線の数は整数に限定され、導線の合計断面積は離散的な値となる。1本の導線の断面積が大きい(太い)と、取り得る導線の合計断面積の間隔は大きくなり、占積率が小さくなる場合がある。一方で、導線が細いと発熱が大きくなる。これらのバランスをとるために、1本の導線の断面積および本数が決定される。この導線の本数をパラ数と呼ぶ。全体巻線Lのパラ数がpである場合、全体巻線Lを構成するn個の部分巻線Nを等価とするために、各部分巻線Nは、p/n本の導線から構成することが好ましい。つまり、部分巻線Nのパラ数は、p/nとすることが好ましい。
【0043】
以上のように、端コイルの巻回数を中央コイルの巻回数より小さくすることで、トルクリップルを低減することができる。また、端コイルと中央コイルの巻回数が異なる巻線方式において、端コイルの巻回数と中央コイルの一方または両方を巻回数を整数でない値とすることができ、設計の自由度が高まる。
【0044】
次に、部分巻線に生じる誘起電圧および誘起電圧によって生じ得る循環電流について説明する。一つの部分巻線を構成するサブコイルは直列接続されるため、部分巻線に生じる誘起電圧は、その部分巻線を構成するサブコイルに生じる誘起電圧の和となる。各サブコイルに生じる誘起電圧の振幅はサブコイルの巻回数に比例する。また、誘起電圧の位相はコイル群内におけるサブコイルの配置に依存する。一つのコイル群を構成するサブコイルは、ステータの周方向に配列されている。つまり、各サブコイルは電気角位置が異なり、各サブコイルの発生する誘起電圧の位相が異なる。このため、部分巻線を構成する各サブコイルの巻回数およびコイル群内における配置の組み合わせによっては、各部分巻線に生じる誘起電圧の振幅および位相の一方または双方が異なることが起こりえる。一つの全体巻線を構成する部分巻線の中に、誘起電圧の振幅、位相が異なる部分巻線が存在すると、ある部分巻線から他の部分巻線に流れる電流、いわゆる循環電流が発生する。循環電流は、
図3であればU→X→Uと流れ、ある部分巻線においては、通常の電流とは逆向きの流れを生じさせる。このため、モータの効率を低下させ、また制御性も悪化させる。循環電流の発生を抑えるために、一つの全体巻線を構成する各部分巻線の振幅および位相がそろうように、サブコイルの巻回数、配置(電気角位置)を決定することが望まれる。サブコイルの配置は極歯の配置により定まっているので、サブコイルの巻回数および配置の決定とは、結局、ある電気角位置に存在するサブコイルの巻回数を定めることを意味する。
【0045】
図4に示す場合のように、一つのコイル群が4個のコイルで構成される場合、これらのコイルを構成するサブコイルに生じる誘起電圧の位相は4種類となる。
図1および
図4に示されるステータの構成において、各サブコイルに生じる誘起電圧の位相は、電気角で表すと、一つのコイル群内の最もUに近い(
図4において左)サブコイルを基準として、2番目のサブコイルが20°、3番目が40°、4番目が60°である。各コイル群内のUに最も近いサブコイルとは、具体的には、
図3の表記に従えば、部分巻線N1 においてはS(1,1)とS(1,5)、部分巻線N2 においてはS(2,1)とS(2,5)である。一般的にUに、a番目(aは1から4までの整数)に近いサブコイルとは部分巻線N1 においてはS(1,a)とS(1,a+4)、部分巻線N2 においてはS(2,a)とS(2,a+4)と表記できる。
【0046】
前述のように、循環電流を生じさせないためには、各部分巻線の誘起電圧の振幅、位相を等しくする必要がある。このためには、4種の位相ごとに、誘起電圧の振幅が各部分巻線の間で等しくすることが一つの解となる。ある位相の誘起電圧の振幅がそろっていれば、その位相の誘起電圧は循環電流を生じさせない。そして、これが全ての位相について達成されていれば、全体として循環電流は生じない。各部分巻線の、ある位相の誘起電圧の振幅をそろえるためには、その位相の誘起電圧を発生させるサブコイルの巻回数の総和が、各部分巻線において等しくすればよい。これを全ての位相に関して満足されれば、循環電流が抑制できる。つまり、ある部分巻線に属し、同じ電気角位置にあるサブコイルの巻回数の総和が、全ての部分巻線で等しくなるように、サブコイルの巻回数を決定することで、循環電流が抑制できる。
【0047】
図3を参照して説明する。部分巻線N1 に属し、同じ電気角位置(基準の位相)にあるサブコイルS(1,1),S(1,5),S(1,9),・・・,S(1,m-3)の巻回数の総和を、他の部分巻線N2〜Nn、例えば部分巻線N2に属し、同じ電気角位置にあるサブコイルS(2,1),S(2,5),S(2,9),・・・,S(2,m-3)の巻回数の総和と等しくする。これにより、この位相に係る誘起電圧の振幅は各部分巻線N1〜Nn で等しくなる。基準の位相に対して位相が20°であるサブコイルについても、同様に、部分巻線N1に属する同じ電位角位置(20°)のサブコイルS(1,2),S(1,6),S(1,10),・・・,S(1,m-2)の巻回数の総和が、他の部分巻線N2〜Nn、例えば部分巻線N2 に属し、同じ電気角位置にあるサブコイルS(2,2),S(2,6),S(2,10),・・・,S(2,m-2)の巻回数の総和と等しくなるようにする。他の電気角位置(40°,60°)のサブコイルについても同様である。
【0048】
図4の具体例に沿って説明する。基準の位相(0°)の位置にあるサブコイルについて、部分巻線N1 においてサブコイルS(1,1)の巻回数は3、サブコイルS(1,5)の巻回数は2であり、その総和は5(=3+2)である。また、部分巻線N2 において、サブコイルS(2,1)の巻回数は2、サブコイルS(2,5)の巻回数は3であり、その総和は5(=2+3)である。つまり、部分巻線N1 と部分巻線N2 の、電気角位置(0°)にあるサブコイルの巻回数の総和は等しい。また、位相(20°)の位置にあるサブコイルについて、部分巻線N1 において各サブコイルS(1,2),S(1,6)のそれぞれの巻回数は8,2であり、その総和は10(=8+2)である。また、部分巻線N2 において、サブコイルS(2,2),S(2,6)のそれぞれの巻回数は2,8であり、その総和は10(=2+8)である。つまり、部分巻線N1 と部分巻線N2 の、電気角位置(20°)にあるサブコイルの巻回数の総和は等しい。他の電気角位置(40°,60°)の位置にあるサブコイルの巻回数についても同様である。このように巻回数を設定することで、各部分巻線に生じる誘起電圧の振幅、位相が等しくなり循環電流が流れない。よって、循環電流による効率、制御性の悪化が抑えられる。
【0049】
全体巻線Lの構成によっては、各部分巻線に生じる誘起電圧の振幅、位相を等しくすることができない場合がある。例えば、コイル群数gが奇数で、いずれかのコイルの実効巻回数が整数でない値である場合が挙げられる。以下においては、各部分巻線に生じる誘起電圧の振幅、位相を完全には等しくすることができない場合における循環電流の抑制について説明する。なお、以下において、一つの部分巻線に属し、かつ一つのコイル群に属するサブコイルを「サブコイル群」と呼ぶ。例えば、
図3において、部分巻線N1 に属し、かつ一つのコイル群G1 に属する4個のサブコイルS(1,1),S(1,2),S(1,3),S(1,4)が一つのサブコイル群を構成する。
【0050】
上記のように各部分巻線に生じる誘起電圧の振幅、位相を等しくすることができない場合は、各サブコイル群が発生する誘起電圧の振幅と位相がなるべくそろうようにして循環電流を抑制する。サブコイル群に生じる誘起電圧の振幅は各サブコイルの巻回数に関連し、位相は各サブコイルの電気角位置に関連する。よって、ある電気角位置に存在するサブコイルの巻回数を調整することにより、誘起電圧の振幅と位相を調整可能である。
【0051】
複数(h個)のサブコイルから構成されるサブコイル群は、一つの磁極として機能しており、したがって、この磁極の中央を電気角の基準に考える。各サブコイルの電気角位置は、この磁極の中央からの偏差として表す。また、この偏差は、電気角が増加する方向に正、減少する方向に負の符号を付して表される。一つのサブコイルが発生する誘起電圧が、このサブコイルが属するサブコイル群全体の誘起電圧に与える影響は、このサブコイルの巻回数と偏差の積に比例して大きくなる。サブコイル群全体の誘起電圧は、この群に属するサブコイルの巻回数と偏差の積の総和を用いて評価できる。Uからe番目のサブコイルの巻回数をBe とすれば、次式(7)をサブコイル群の誘起電圧を評価するパラメータとして使用できる。
【0053】
式(7)で表されるパラメータを最小とするように、各サブコイルの巻回数を選択すれば、部分巻線間の誘起電圧の位相差を最小にでき、循環電流を抑制することができる。ただし、各サブコイルの巻回数は、モータに要求される性能、例えば出力や許容されるトルクリップル等により制限があり、この制限の範囲で上記パラメータを最小とするように選択される。
【0054】
部分巻線間の誘起電圧の振幅、位相を等しくできない場合の具体例として、コイル群数gが奇数、特にg=1の場合を挙げて説明する。
図6はコイル群数gを1とした場合の電動機10の概略構成を示す図であり
図1との違いは、コイル群数gが1であることに伴い固定子12の極歯の数、スロットの数が9個に、永久磁石20の個数が8個に変わっていることである。また、
図7は、コイル群数gが1であってコイルCの巻回数を分数とした巻線の一例を示す。
図7の全体巻線Lは、
図3の巻線方式において、部分巻線数nを2、コイル群数gを1とした巻線方式を採用したものである。コイル連続数は4、コイル共用数は1である。しかし、コイル連続数、コイル共用数については、前述したように、具体的な値を用いることで説明を簡便にしたものであり、他の値とすることも可能である。
図4同様、サブコイルの巻回数が図中「○」の中の数字で表されている。
【0055】
各サブコイルに生じる誘起電圧の位相差を電気角で表記すると、コイル群内のUに最も近いサブコイルに生じる誘起電圧の位相を基準に、Uに2番目に近いサブコイルは20°、3番目は40°、4番目は60°となる。各部分巻線の誘起電圧の振幅、位相を等しくするにはS(1,a)の巻回数がS(2,a)の巻回数と等しくならなければならない。
図7の場合、a=2については、S(1,2)の巻回数4、S(2,2)の巻回数6で等しくないが、これは両者とも5とすることで等しくできる。a=3についても同様に等しくできる。一方、a=1についてはS(1,1)の巻回数3、S(2,1)の巻回数2で等しくない。両者の巻回数を3とすると、隣接するコイル群に属するコイルの巻回数との和が12となる。これは、コイルC2,C3の巻回数10より大きくなり、スペース的に極歯に巻回することができない。一方、前記のサブコイルS(1,1),S(2,1)の巻回数を2とすれば、コイル群全体で発生される磁束が小さくなり、要求されるモータの性能を得られなくなる可能性がある。スペースおよび要求性能に起因する制限を満たした実効巻数2.5を実現するためには、両者の巻回数を等しくすることはできない。a=4についても同様である。よって、部分巻線N1 と部分巻線N2 に生じる誘起電圧には位相差があり循環電流が流れる。
【0056】
循環電流を最小限に抑えるために、ある部分巻線に属し、かつあるコイル群に属するサブコイルから構成されるサブコイル群に生じる誘起電圧の位相差の大きさに着目する。コイル群数gが偶数の場合は、サブコイル群間の位相差が大きくても上述したサブコイルの巻回数の配置にすれば、サブコイル群同士で位相差を相殺できる。一方、コイル群数gが奇数の場合は、コイル群間で相殺することができない。このため、部分巻線間の誘起電圧の位相差を小さくするには、サブコイル群間の位相差を小さくする必要がある。サブコイル群間の位相差を小さくするには、全てのサブコイル群の位相をできる限りサブコイル群を構成するサブコイルの位相の中間位相に合わせればよい。サブコイル群内の中央の位相を基準にすると各サブコイルの位相は−30°、−10°、+10°、+30°と表すことができる。これら位相は、サブコイルの電気角位置の偏差であるから、これらの偏差と式(7)を用いて、
図7に示されたサブコイルの巻回数を評価することができる。実際に計算すると、式(7)の値は、0.5となり、要求される性能等から必要となる実効巻線回数を実現する各サブコイルの巻回数の組み合わせの中で最小の値となる。なお、式(7)のパラメータの算出において、式中の( )内の偏差は、隣接するサブコイルの間隔を偏差1として算出している。この偏差は、上記の各サブコイルの位相−30°、−10°、+10°、+30°を隣接サブコイル間の位相差である20°で除して、正規化したものである。
図7の配置では、部分巻線N1 と部分巻線N2 の位相差は1.2°に抑えられる。
【0057】
以上のように、コイル群数gが奇数の場合、式(7)を最小とするようにサブコイルの巻回数を選択すると、巻回数を整数でない値としつつ、循環電流による効率、制御性の悪化を抑制することができる。