(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる差動トランジスタ対を少なくとも1つ有し、前記差動トランジスタ対の結合されたエミッタを第1の入力端子とし、前記差動トランジスタ対の2つのベースを一対の第2の入力端子とし、前記差動トランジスタ対の2つのコレクタを一対の出力端子とする乗算コアと、
前記一対の第2の入力端子にそれぞれエミッタが接続された一対のバイポーラトランジスタからなる線形化トランジスタ対を有し、前記線形化トランジスタ対の各ベース及び各コレクタをそれぞれ所定の電源に接続した線形化回路と、
電流増幅率をエミッタ電流に対するコレクタ電流の比で定義し、前記差動トランジスタ対の各バイポーラトランジスタの当該電流増幅率に比例する補正電流を前記一対の第2の入力端子に加算する補正電流生成回路と、
を備えたことを特徴とするアナログ乗算回路。
外部から印加された物理量を電気信号に変換する振動子と、参照信号を出力する参照信号生成回路と、前記参照信号に基づいて前記振動子を発振させる発振回路と、該発振回路からの発振信号に基づいて前記振動子からの出力信号を検波する検波回路と、を有する物理量センサにおいて、
前記検波回路が請求項7に記載の検波回路であって、前記交番信号が前記発振信号であり、前記被検波信号が前記振動子からの出力信号であること、
を特徴とする物理量センサ。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、この発明によるアナログ乗算回路、検波回路及び物理量センサの各実施形態を、添付図面の
図1〜
図5を用いて説明する。
【0043】
〔アナログ乗算回路の実施形態:
図1〕
先ず、この発明によるアナログ乗算回路及び検波回路の一実施形態を
図1によって説明する。なお、
図1において、前述した
図9と対応する部分には同一の符号を付してあり、それらの重複する説明は省略する。
【0044】
この
図1に示すアナログ乗算回路1は、アナログ乗算部100Aと補正電流生成回路3とからなる。そのアナログ乗算部100Aの構成は、
図9によって説明した従来のアナログ乗算回路100と同じく、ギルバート乗算コア101と線形化回路102とを備えている。このアナログ乗算部100Aのギルバート乗算コア101を構成する4個のバイポーラトランジスタQ1〜Q4は、
図10によって説明したCMOSプロセスによって作製したラテラル・バイポーラトランジスタや特性があまりよくないバイポーラ・ジャンクショントランジスタ等を使用している。
【0045】
但し、アナログ乗算回路1を構成するバイポーラトランジスタは同じ製造プロセスで作製した同じ構造の素子で、なるべく特性が揃ったものであることが望ましい。これは周知の半導体レイアウト技術、すなわち、同一寸法のトランジスタ素子を多数配置し、そのうちの隣り合う素子同士を使用するといった手法により実現することが可能である。半導体製造プロセスの誤差によって、トランジスタ素子特性の絶対値や温度変化量はチップ毎に異なるが、このようにチップ内の幾何学的な配置を考慮することで、回路内で使用する素子同士の相対的な特性は高い精度で一致させることが可能となる。
【0046】
ギルバート乗算コア101は、それぞれエミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタからなる差動トランジスタ対を2組有し、その2つの差動トランジスタ対それぞれの結合されたエミッタを第1の入力端子対Ta,Tbとし、2つの差動トランジスタ対相互間で2つのベース同士を互いに結合して第2の入力端子対Tc,Tdとし、2つの差動トランジスタ対相互間で2つのコレクタ同士を互いに結合して出力端子対Te,Tfとした乗算コアである。
【0047】
線形化回路102は、上記差動トランジスタ対の第2の入力端子対Tc,Tdにそれぞれエミッタが接続されたバイポーラトランジスタQ5,Q6からなる線形化トランジスタ対を有し、その線形化トランジスタ対の各ベースと各コレクタとをそれぞれ所定の電源に接続したI−V変換回路である。
【0048】
補正電流生成回路3は、上記差動トランジスタ対の各バイポーラトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αに応じた補正電流を第2の入力端子対Tc,Tdに加算する補正電流を生成する回路である。
【0049】
この
図1に示すアナログ乗算回路の、V−I変換回路110に振幅が一定な交番信号である電圧信号Vyを入力し、V−I変換回路120に電圧信号Vyと同じ周波数で振幅が変化する被検波信号である電圧信号Vxを入力することで、アナログ乗算回路1により検波回路を構成することができる。
【0050】
アナログ乗算回路1は被検波信号である電圧信号Vxの振幅に応じた検波信号としてI−V変換回路150から電圧信号を出力する。
【0051】
ここで、ギルバート乗算コア101の双差動回路を形成する4個のバイポーラトランジスタ(以下「バイポーラトランジスタ」を単に「トランジスタ」と称す)Q1〜Q4の接続関係を具体的に説明する。
【0052】
このギルバート乗算コア101は、一対のトランジスタQ1,Q2からなる第1の差動トランジスタ対101aと、一対のトランジスタQ3,Q4からなる第2の差動トランジスタ対101bとによって構成されている。
【0053】
そして、トランジスタQ1及びQ2のエミッタ同士が共通接続されて第1の入力端子対の一方の入力端子Taを形成し、トランジスタQ3及びQ4のエミッタ同士が共通接続されて第1の入力端子対の他方の入力端子Tbを形成する。トランジスタQ1及びQ4のベース同士が共通接続されて第2の入力端子対の一方の入力端子Tcを形成し、トランジスタQ2及びQ3のベース同士が共通接続されて第2の入力端子対の他方の入力端子Tdを形成する。
【0054】
さらに、トランジスタQ1及びQ3のコレクタ同士が共通接続されて出力端子対の一方の出力端子Teを形成し、トランジスタQ2及びQ4のコレクタ同士が共通接続されて出力端子対の他方の出力端子Tfを形成している。
【0055】
補正電流生成回路3は、ギルバート乗算コア101を構成するトランジスタQ1〜Q4と同じ電流増幅率α(α=I
C/I
E)を持つトランジスタQ7と、そのトランジスタQ7にバイアス電流を与える回路とによって、ギルバート乗算コア101の一方の入力信号(入力端子Tc,Td側の入力信号)のバイアス電流成分である定電流I
0を、上記電流増幅率αを乗じた電流α・I
0に補正するための補正電流を生成する回路である。
【0056】
その補正電流生成回路3が生成した補正電流によってギルバート乗算コア101の2つの入力信号のうち一方を補正することにより、ギルバート乗算コア101の出力電圧Voutにおける、ギルバート乗算コア101を構成するトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αの影響を除去する。
【0057】
補正電流生成回路3についてさらに詳しく説明すると、トランジスタQ7は、ギルバート乗算コア101を構成するトランジスタQ1〜Q4と同じ電流増幅率αを持つバイポーラトランジスタである第1のレプリカトランジスタである。トランジスタQ7のエミッタは定電流源301を通して正電源(+V)に接続され、コレクタは定電流源302を通して負電源(−V)に接続される。また、トランジスタQ7のベースと負電源(−V)との間にダイオード接続したトランジスタQ8が、電流が流れる向きに対して順方向に接続されている。
【0058】
そのトランジスタQ8は、アナログ乗算部100Aの線形化回路102を構成するトランジスタQ5,Q6と同じ構造及び特性のバイポーラトランジスタである第2のレプリカトランジスタであるのが望ましい。このトランジスタ素子についても、前述した半導体レイアウト技術を適用することによって実現することが可能である。
【0059】
さらに、トランジスタQ7のべースとトランジスタQ8のエミッタとの接続点pを、定電流源303を通して正電源(+V)に接続し、トランジスタQ7のコレクタと定電流源302との接続点qを、ダイオード接続したPチャネルMOSトランジスタ(以下「PMOS」と略称する)304を介して正電源(+V)に接続している。
【0060】
そのPMOS304には、PMOS305がカレントミラー接続されている(すなわち、PMOS304,305のゲート同士及びソース同士がそれぞれ共通に接続されている)。PMOS305のドレインは、ダイオード接続されたNチャネルMOSトランジスタ(以下「NMOS」と略称する)306を介して負電源(−V)に接続される。NMOS306には、2個のNMOS307,308がそれぞれカレントミラー接続されている(すなわち、NMOS306〜308のゲート同士及びソース同士がそれぞれ共通に接続されている)。これらのカレントミラー回路は、電流コピーの精度を高めるためにカスコード化してもよい。
【0061】
その2個のNMOS307,308の各ドレインが、それぞれ定電流I
0を流す定電流源309,310を介して正電源(+V)に接続されている。そのNMOS307,308それぞれのドレインと定電流源309,310との接続点g,hから、それぞれ補正電流出力線311,312を引き出している。その補正電流出力線311は、アナログ乗算部100Aのギルバート乗算コア101の入力端子TdとトランジスタQ5のエミッタ及びV−I変換回路110の正側出力ラインとの接続点rに接続される。補正電流出力線312は、同様にギルバート乗算コア101の入力端子TcとトランジスタQ6のエミッタ及びV−I変換回路110の負側出力ラインとの接続点sに接続される。
【0062】
定電流源301は、ギルバート乗算コア101の第2の入力端子対Tc,Tdに入力される差動電流のバイアス電流に相当する定電流I
0をトランジスタQ7のエミッタに流し、これによりギルバート乗算コア101のトランジスタQ1〜Q4の電流経路のレプリカの電流経路を形成している。
【0063】
また、定電流源303も上記バイアス電流に相当する定電流I
0を、ダイオード接続されたトランジスタQ8のエミッタに流し、これにより線形化回路102のトランジスタQ5,Q6の電流経路のレプリカの電流経路を形成している。
【0064】
この補正電流生成回路3によれば、トランジスタQ7のエミッタには定電流I
0が流れる。一方、トランジスタQ7のコレクタに流れる電流は、定電流I
0から、ベース電流及び
図10、
図11で説明したようなバーチカルコレクタC′に流れる電流分だけ減少して、そのときの電流増幅率αに応じたコレクタ電流である電流α・I
0が接続点qに流れ込む。接続点qから負電源(−V)へは定電流源302によって定電流I
0が流されるので、正電源(+V)から接続点qへは、PMOS304を通して電流(1−α)・I
0が流れる。
【0065】
この電流(1−α)・I
0がPMOS304にカレントミラー接続されたPMOS305にコピーされ、PMOS305及びそれに直列に接続されたNMOS306にも電流(1−α)・I
0が流れる。それが、NMOS306にカレントミラー接続されたNMOS307,308にコピーされて、それらにも電流(1−α)・I
0が流れる。
【0066】
そのNMOS307,308それぞれのドレインと定電流源309,310との接続点g,hには、それぞれ定電流源309,310から定電流I
0が流れ込んでいるため、補正電流出力線311,312には、I
0−(1−α)・I
0=α・I
0の補正電流が出力される。
【0067】
この2つの補正電流である電流α・I
0は補正電流出力線311,312によってアナログ乗算部100Aの前述した接続点r,sにそれぞれ流入され、V−I変換回路110から出力される±K1・Vyに加算される。
【0068】
それによって、接続点r,sから線形化回路102のトランジスタQ5,Q6に流れ込む差動電流は、α・I
0±K1・Vyになる。
【0069】
すなわち、ギルバート乗算コア101の第2の入力端子対の各入力端子Tc,Tdへの入力用の差動電流のバイアス電流である定電流I
0が、電流増幅率αを乗じた電流α・I
0に補正される。
【0070】
この差動電流(α・I
0±K1・Vy)が、線形化回路102によって、次式で与えられる電圧信号Viに変換されて、第2の入力端子対の各入力端子Tc,Tdに入力される。
Vi=2・V
T・tanh
−1(K1・Vy/(α・I
0))
【0071】
すると、ギルバート乗算コア101によって電圧信号VxとVyとを乗算したとき、出力端子Te,Tfから出力される差動電流をI−V変換回路150によって電圧信号に変換した出力電圧Voutは、「発明が解決しようとする課題」の項に記載した次式においてI
0をα・I
0に置き換えた式で表される。
Vout=K・(Vx・Vy/I
0)・α
【0072】
具体的には、上の式におけるI
0をα・I
0に置き換えると次式が得られる。
Vout=K・{Vx・Vy/(α・I
0)}・α
【0073】
右辺の分母と分子のαは相殺されるので、
Vout=K・(Vx・Vy/I
0)
となり、乗算結果である出力電圧Voutは、電流増幅率αの影響を受けなくなり、常に精度よく乗算を行うことができる。
【0074】
なお、上記の各式におけるKは、背景技術の項で説明したように、V−I変換回路110及び120の変換係数をそれぞれK1,K2とし、I−V変換回路150の変換係数をK5とすると、次式で表される一定の係数である。
K=2・K
1・K2・K5
【0075】
この実施形態の検波回路では、電圧信号Vyは振幅が一定であるから、I−V変換回路150が出力する電圧信号(出力電圧Vout)として、被検波信号である電圧信号Vxの振幅に応じた検波信号を、ギルバート乗算コア101を構成するトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αの影響を受けることなく精度よく得ることができる。
【0076】
アナログ乗算部100Aのその他の機能は、
図9によって説明したアナログ乗算回路100の機能と同じであるから、説明を省略する。なお、このアナログ乗算回路1における各バイポーラトランジスタQ1〜Q8は、全てPNP型を使用しているが、NPN型のバイポーラトランジスタを使用しても、電流の向きが反対になるだけでその動作原理は同じである。
【0077】
〔物理量センサと検波回路の実施形態:
図2〜
図5〕
次に、上述したアナログ乗算回路を使用したこの発明による物理量センサと検波回路の実施形態について、
図2〜
図5を用いて説明する。
【0078】
(1)全体構成説明:
図2
まず、
図2によって、この発明による物理量センサの一実施形態の全体構成について説明する。
図2に示す物理量センサは、センサ素子10と、発振回路20と、検出回路30と、参照信号生成回路40とによって構成した振動型の角速度センサである。
【0079】
センサ素子10は、例えば音叉形状に形成した圧電材料の表面に金属電極を配置して構成した、回転角速度を検知するジャイロ振動子であり、駆動部11と検出部12とを備えている。このセンサ素子10は、発振回路20によって発振駆動され、その振動中に回転角速度を受けると、微弱な交流信号をセンサ素子出力S12として検出部12から出力する。
【0080】
参照信号生成回路40は、後述のAGC制御回路のための基準信号を生成する回路であり、ここでは周囲温度や電源電圧に依存しないほぼ一定の電圧である参照信号S41を生成する定電圧回路を用いる。
【0081】
発振回路20は、センサ素子10に対し、モニタ回路21及び可変ゲインアンプ22によって発振ループを形成しており、いわゆるAGC機能を有する発振回路である。そのため、この発振回路20はAGC制御回路23を備えており、センサ素子10の励振電流の実効値が参照信号S41と等しくなるように可変ゲインアンプ22のゲインを制御する機能を有している。また発振回路20はセンサ素子10の励振電流を、モニタ回路21により電圧信号に変換する。
【0082】
この構成では、AGC制御回路23によってセンサ素子10の発振制御がなされ、モニタ回路21が出力する発振信号S21は、参照信号S41に基づいた振幅を有する交流信号となる。この発振信号S21は、後述する検波回路32での乗算に用いる信号としても利用される。
【0083】
検出回路30は、増幅回路31と、検波回路32と、フィルタ回路33とによって構成されている。増幅回路31はセンサ素子10の検出部12からの出力信号であるセンサ素子出力S12を増幅する。検波回路32は増幅回路31の出力信号である増幅信号S31に含まれる角速度信号成分を検波する。フィルタ回路33は検波回路32の出力信号S32(つまり、検波信号)を増幅及び平滑化して、物理量センサの出力信号S30として出力する。これらのうち検波回路32は、増幅回路31の出力信号である増幅信号S31と前述の発振信号S21とをアナログ的に乗算するアナログ乗算回路を備えており、上述のアナログ乗算回路を利用する。
【0084】
発振回路20及び検出回路30は、正電源(+V)と負電源(−V)とに接続することにより動作する集積回路であり、同一の半導体基板上に構成することが可能である。
【0085】
ここで、検波回路32による乗算検波について簡単に説明する。一般に、振幅がそれぞれA、Bである同じ周波数かつ同じ位相の正弦波同士を乗算すると次式のようになる。
(A・sinθ)・(B・sinθ)=A・B・(1−cos2θ)/2
【0086】
θは時間に比例した位相角(θ=ω・t)とみなせば、上記の乗算からは元の信号の2倍の周波数の信号と直流信号との2つの成分が得られることが三角関数の性質から理解される。この信号を低周波のみを通過するフィルタ回路33を通すことによってA・B/2という大きさの直流信号が得られる。発振信号S21と増幅信号S31とはいずれも同じ周波数の信号である。例えば、Aがほぼ一定である信号と、Bが印加される回転角速度に比例するような信号とを選び、前式で表されるような演算操作を行えば、回転角速度に比例した信号が得られる。次に説明する検波回路32は、この原理を用いて検波を行うものである。
【0087】
(2)検波回路の構成の説明:
図3
次に、
図2に示した物理量センサにおける検波回路32の構成について
図3を用いて説明する。なお、この
図3において、
図1及び
図9と対応する部分には同一の符号を付してあり、それらについての重複する説明は省略する。
【0088】
この検波回路32は、第1、第2、第3のV−I変換回路110,120,130と、定電流源2c,2dと、アナログ乗算部100A及び補正電流生成回路300を備えたアナログ乗算回路1Aと、I−V変換回路150と、移相回路160とによって構成されている。
【0089】
この検波回路32は、発振信号S21及び増幅信号S31をそれぞれ電流信号へ変換するための第1のV−I変換回路110及び第2のV−I変換回路120(
図1におけるV−I変換回路110,120と同じ)を備えている。これらのV−I変換回路には出力形式が差動出力のものを用いる。この第1、第2のV−I変換回路110,120の構成については後述する。
【0090】
第1のV−I変換回路110には、発振信号S21を移相回路160を介して入力している。これは先に示した乗算検波の式のように、乗算する信号同士の位相を揃えるためである。その移相回路160によって位相調整した信号を発振信号S21′と表している。この発振信号S21′は前述のAGC制御回路23の動作によって振幅が一定に制御された正弦波の交番信号であり、
図1及び
図9における電圧信号Vyによる入力信号に相当するので、
図3及び以下の説明における差動電流の値を示す記号中では、この発振信号S21′の電圧値をVyと表す。
【0091】
第1のV−I変換回路110は、その電圧値Vyの発振信号S21′を変換係数K1で、差動電流(±K1・Vy)に変換して出力する。
【0092】
第2のV−I変換回路120に入力する増幅信号S31は、交番信号である発振信号S21′と同じ周波数で振動する正弦波の被検波信号であり、
図1及び
図9における電圧信号Vxによる入力信号に相当するので、以下の差動電流の値を示す記号中ではこの増幅信号S31の電圧値をVxと表す。
【0093】
第2のV−I変換回路120は、その電圧値Vxの増幅信号S31を変換係数K2で、差動電流(±K2・Vx)に変換して出力する。
【0094】
なお、定電流源2c,2dは、第2のV−I変換回路120が出力する差動電流(±K2・Vx)にバイアス電流Ibを加えて、バイアス電流を含む差動電流(Ib±K2・Vx)にする。
【0095】
説明の便宜上これらの定電流源2c,2dを、第2のV−I変換回路120と別に示しているが、これら定電流源は第2のV−I変換回路120内に設けてもよいし、これらの定電流源を含めて、それぞれ入力信号をバイアス電流を含む差動電流に変換するV−I変換回路と称してもよい。
【0096】
第3のV−I変換回路130は、参照信号S41(電圧値をVrとする)を変換係数K3で出力電流Ir(Ir=K3・Vr>0)に変換する回路である。この出力電流Irは、
図1における補正電流生成回路3内の定電流源301等による定電流I
0に相当するが、参照信号S41の電圧値Vrに応じて変化する。
【0097】
補正電流生成回路300は前述したように、ギルバート乗算コア101を構成するバイポーラトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αが温度等によって変動しても乗算結果が変動しないように、一方の入力信号のバイアス電流値を補正するための回路である。
【0098】
この実施形態における補正電流生成回路300は、第3のV−I変換回路130の出力電流Irに、ギルバート乗算コア101を構成するバイポーラトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αと同等の電流増幅率αを乗じて補正した電流α・Irを、補正電流出力線321,322から出力し、アナログ乗算部100Aの接続点r,sに加える。その詳細については、
図4によって後述する。
【0099】
I−V変換回路150は、アナログ乗算回路1Aのアナログ乗算部100Aからの差動電流による出力信号I4を変換係数K5で電圧信号に変換する回路である。
図3に示すI−V変換回路150は、PMOS151A,151B,152A,152BとNMOS153A,153B,154A,154Bによる、いわゆる折り返しカスコード回路により差動電流入力を単相の電流信号に変換し、さらに変換抵抗156とオペアンプ155とによりI−V変換して、被検波信号の振幅に応じた出力電圧Voutを出力する構成にしている。変換抵抗156はポリシリコン抵抗などの線形抵抗素子で構成する。その抵抗値をR5とすると、K5=R5である。
【0100】
ここで、発振信号S21′である電圧信号Vyによる入力信号を第1のV−I変換回路110によって変換した差動電流(±K1・Vy)に加算するバイアス電流として、参照信号S41(電圧値Vr)に応じた電流(α・Ir)を使用する理由を説明する。
【0101】
アナログ乗算による検波をするためには、被検波信号と同一周波数でかつ振幅が一定の交番信号が必要である。振動型の物理量センサにおいては、振動体の励振レベルを、定電圧回路などを使った参照信号に基づいて一定レベルに制御する、いわゆるAGC制御が行われているため、その制御された発振信号を乗算用の交番信号として用いている。しかし、実際には参照信号は温度変化によって変化する。
【0102】
被検波信号であるセンサ素子出力S12を増幅した増幅信号S31は、角速度のほかに振動体であるセンサ素子10の励振レベルにも比例するため、単純に被検波信号(増幅信号S31)と発振信号S21を位相調整した発振信号S21′とを乗算すると、参照信号S41が二乗された成分が検波出力信号(出力電圧Vout)に現れることになる。よって、参照信号の誤差に起因して検波出力信号に大きな誤差が生じることとなる。これは近年物理量センサに求められている、広い使用温度範囲での高精度化を実現するうえで妨げになってしまう。
【0103】
そこで、この物理量センサではこの問題を解決するため、上述のように参照信号S41を入力とする第3のV−I変換回路130と、その出力電流Irをアナログ乗算部100Aの一方の入力信号となる差動電流(±K1・Vy)に加算する加算回路とを設ける。これによって、参照信号の電圧変動による出力信号の変動が低減される。
【0104】
この実施形態ではさらに、ギルバート乗算コア101を構成するトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αの影響を除去するために、出力電流Irを補正電流生成回路300によって補正した電流α・Irをアナログ乗算部100Aの一方の入力信号への加算電流としている。
【0105】
そのため、アナログ乗算部100Aの線形化回路102を構成する一方のトランジスタQ5のエミッタには、第1のV−I変換回路110の正の出力電流(+K1・Vy)に参照信号S41をもとに生成した電流α・Irを加えた電流(α・Ir+K1・Vy)が流れ込む構成となっている。
【0106】
同様に、線形化回路102を構成する他方のトランジスタQ6のエミッタには、第1のV−I変換回路110の負の出力電流(反転出力電流)(−K1・Vy)に参照信号S41をもとに生成した電流α・Irを加えた電流(α・Ir−K1・Vy)が流れ込む構成になっている。
【0107】
この実施形態において、上述の加算回路は、第1のV−I変換回路110の各出力電流と補正電流生成回路300の各出力電流とのそれぞれの和を生成する部分に相当し、第1のV−I変換回路110と補正電流生成回路300との各出力端子同士の接続点rと接続点sとにおける結線が当該加算回路に相当する。これは、電流信号の加算は結線によって行えるためである。
【0108】
トランジスタQ5とトランジスタQ6はいずれもダイオード接続となっており、これらのベース及びコレクタは負電源(−V)に接続している。
【0109】
トランジスタQ5のエミッタは、ギルバート乗算コア101のトランジスタQ1及びQ4のベース同士を接続した入力端子Tcに接続している。またトランジスタQ6のエミッタは、ギルバート乗算コア101のトランジスタQ2及びQ3のベース同士を接続した入力端子Tdに接続している。
【0110】
一方、ギルバート乗算コア101のトランジスタQ1及びQ2のエミッタ同士が接続した入力端子Taには、第2のV−I変換回路120の正の出力電流(+K2・Vx)にバイアス電流Ibを加えた電流(Ib+K2・Vx)が流れ込む構成になっている。同様に、ギルバート乗算コア101のトランジスタQ3及びQ4のエミッタ同士が接続した入力端子Tbには、第2のV−I変換回路120の負の出力電流(反転出力電流)(−K2・Vx)にバイアス電流Ibを加えた電流(Ib−K2・Vx)が流れ込む構成になっている。バイアス電流Ibは、バイアス電流源である定電流源2c,2dにより生成される。
【0111】
バイアス電流Ib、出力電流Irは、入力信号が正負のいずれの値をとっても、乗算コアのバイポーラトランジスタに流れる電流が負になってカットオフしないようにする目的でV−I変換回路120,130の出力電流に加えている。よって、バイアス電流Ibの値は入力信号である被検波信号すなわち電圧信号Vxの範囲に応じて設定される。
【0112】
ギルバート乗算コア101のトランジスタQ1及びQ3のコレクタ同士が接続した出力端子Teと、トランジスタQ2及びQ4のコレクタ同士が接続した出力端子Tfとが、発振信号S21′と増幅信号S31との乗算結果の出力信号I4を出力する出力端子対を構成している。I−V変換回路150は出力端子対Te,Tfから出力される差動電流を、前述したように電圧信号に変換して出力電圧Voutを出力する。
【0113】
(3)補正電流生成回路の説明:
図4
図3における補正電流生成回路300の構成及びその動作を
図4によって説明する。
【0114】
この
図4に示す補正電流生成回路300は、
図1における補正電流生成回路3と基本的な構成は共通しており、共通する部分には同一の符号を付し、それらの詳細な説明は省略する。
【0115】
この補正電流生成回路300は、前述したように、第3のV−I変換回路130が参照信号S41(電圧値Vr)を電流信号に変換した正の出力電流Irを入力される。第3のV−I変換回路130の変換係数をK3とすると、Ir=K3・Vrである。
【0116】
そして、この第3のV−I変換回路130の出力電流Irを、
図1の補正電流生成回路3における定電流源301による定電流I
0に代えて、第1のレプリカトランジスタであるトランジスタQ7のエミッタに流す。そのトランジスタQ7のベースは、補正電流生成回路3と同様に、第2のレプリカトランジスタであるダイオード接続されたトランジスタQ8のエミッタと定電流源303との接続点pに接続されている。
【0117】
さらに、
図1の補正電流生成回路3におけるカレントミラー接続したPMOS304及びPMOS305を、電流コピーの精度を高めるためにカスコード化したカレントミラー回路に変えた点が、補正電流生成回路3と異なるだけである。
【0118】
そのカレントミラー回路は、正電源(+V)と、トランジスタQ7のコレクタと定電流源302との接続点qとの間に、PMOS315A,316A及びNMOS317Aをカスコード接続し、それらMOSトランジスタそれぞれに、カスコード接続したPMOS315B,352B及びNMOS317Bをカレントミラー接続して構成している。
【0119】
そのNMOS317BのソースがNMOS306を介して負電源(−V)に接続されている。そのNMOS306にはNMOS307,308がカレントミラー接続される。
【0120】
そして、NMOS307のドレインと定電流源309との接続点gと、NMOS308のドレインと定電流源310との接続点hから、それぞれ補正電流出力線321,322が引き出される。
【0121】
この補正電流生成回路300において、第1のレプリカトランジスタであるトランジスタQ7のエミッタに出力電流Irを流すと、そのトランジスタQ7の電流増幅率α(α<1)に応じたα・Irのコレクタ電流が流れる。当該コレクタ電流はトランジスタQ7のコレクタとNMOS317Aのソースとの接続点qに流れ込み、また接続点qから負電源(−V)へは定電流源302によって定電流I
0が流されるので、PMOS315A,316A及びNMOS317Aの直列回路には、電流(I
0−α・Ir)が流れる。それによって、PMOS315B,316B及びNMOS317B,306の直列回路にも同量の電流(I
0−α・Ir)が流れ、NMOS306とカレントミラー接続された、NMOS307,308にも電流(I
0−α・Ir)が流れる。
【0122】
NMOS307,308それぞれのドレインと定電流源309,310との接続点g,hには、それぞれ定電流源309,310から定電流I
0が流れ込んでいるため、補正電流出力線321,322に出力される電流はそれぞれ、I
0−(I
0−α・Ir)=α・Irとなる。これら電流が補正電流兼バイアス電流としてアナログ乗算部100Aへ供給される。
【0123】
(4)V−I変換回路の構成の説明:
図5
次に、
図3に示した検波回路32に用いる第1のV−I変換回路110及び第2のV−I変換回路120の構成について、
図5によって説明する。これらのV−I変換回路は互いに同じ構成であって、MOSトランジスタと抵抗素子とを利用したトランスコンダクタンスアンプであり、PMOS201〜207と、NMOS211〜217と、変換抵抗220と、テール電流源230とによって構成されている。
【0124】
PMOS202のゲート端子はV−I変換回路の入力端子INである。PMOS201,202、NMOS211,212及びテール電流源230は、PMOS201,202を入力素子とし、NMOS211,212をそれぞれ負荷素子とした差動対回路を構成する。PMOS202のゲート端子はその差動対回路の非反転入力端子、またPMOS201のゲート端子は反転入力端子に相当し、この差動対回路へのバイアス電流供給をテール電流源230によって行う。
【0125】
NMOS211とNMOS212は、それぞれダイオード接続とし、NMOS212へ流れた電流値はカレントミラーでNMOS214へ所定値倍コピーされ、またNMOS211へ流れた電流値はNMOS213,PMOS203を介してPMOS204へ所定値倍コピーされる。PMOS204及びNMOS214のドレイン端子同士が接続され、この端子に反転入力端子に相当するPMOS201のゲート端子と変換抵抗220の一端とを接続する。変換抵抗220の他端は信号グラウンドに接地する。なお、変換抵抗220はポリシリコン抵抗などの線形抵抗素子で構成する。
【0126】
さらに、PMOS204に流れる電流値はカレントミラー接続でPMOS207へコピーされ、NMOS214に流れる電流値はカレントミラー接続でNMOS217へコピーされる。PMOS207及びNMOS217のドレイン端子同士が接続されて、その接続点に出力端子IOUTが設けられる。
【0127】
NMOS211へ流れた電流値はカレントミラーでNMOS216へ所定値倍コピーされ、またNMOS212へ流れた電流値はNMOS215,PMOS205を介してPMOS206へ所定値倍コピーされる。PMOS206及びNMOS216のドレイン端子同士が接続されて、その接続点に反転出力端子IOUTBが設けられる。
【0128】
このように接続することによって、PMOS201〜204及びNMOS211〜214は、変換抵抗220の非接地側の一端を出力と見立てた電圧フォロワとして動作し、入力端子INへ入力した信号と同じ信号が変換抵抗220の一端に現れる。さらに変換抵抗220へ流れる電流は残りのMOSトランジスタによってコピーされ、出力端子IOUTからは入力信号電圧を変換抵抗220の抵抗値で除した値の電流が出力される。そして反転出力端子IOUTBからは、出力端子IOUTから出力される電流とは絶対値が等しく方向が逆の電流が出力される。
【0129】
このV−I変換回路は、入力電圧をV、出力電流をIとした場合には次の関係が成り立つように動作する。
I=±K・V
【0130】
上式におけるKは変換係数であり(
図9及び
図1における出力電圧Voutの式におけるKとは異なる)、変換抵抗220の抵抗値の逆数となる。
図3における第1のV−I変換回路110ではこの変換係数をK1とし、第2のV−I変換回路120ではこの変換係数をK2としている。複号“±”は、それぞれ出力端子(正出力端子)と反転出力端子(負出力端子)の出力電流に相当する。
【0131】
ここで説明したV−I変換回路は、
図3における第1のV−I変換回路110及び第2のV−I変換回路120に用いる構成である。第3のV−I変換回路130の構成については特に図示はしないが、シングルエンド出力なのでPMOS207及びNMOS217に流れる電流値をカレントミラー接続でコピーする回路と、反転出力端子IOUTBは不要になる。
【0132】
(5)物理量センサの動作説明:
図2及び
図3
次に、
図2及び
図3を用いてこの実施形態の物理量センサの動作について説明する。
【0133】
図2に示した物理量センサに正負の電源電圧を印加すると、参照信号生成回路40は参照信号S41を出力し、発振回路20は参照信号S41に基づく所定の電流値でセンサ素子10の駆動部11を交流駆動する。その際AGC制御がなされるため、発振信号S21には参照信号S41に基づく振幅を有した交流電圧が出力される。
【0134】
この状態で物理量センサに回転角速度を印加すると、回転角速度に応じた振幅を持つ交流信号がセンサ素子出力S12に現れる。検出回路30はこのセンサ素子出力S12を増幅しつつ電圧信号に変換し、増幅信号S31として検波回路32へ入力する。検波回路32にはさらに参照信号S41と発振信号S21とが入力されている。検波回路32は次に述べるようにアナログ乗算検波を行い、次段のフィルタ回路33によって平滑化処理がなされる。結果として物理量センサは、印加した回転角速度に比例した電圧の出力信号S30をフィルタ回路33から出力する。
【0135】
ここで、この実施形態の物理量センサの検波回路32の動作について
図3を用いて説明する。発振信号S21を移相回路160により位相調整した発振信号S21′の電圧値をVy、増幅信号S31の電圧値をVx、参照信号S41の電圧値をVrとする。VyとVxは同じ周波数で且つ同じ位相の正弦波信号(A・sinθの形式で表される)である。
【0136】
参照信号S41の電圧値Vrと第3のV−I変換回路130の出力電流Irとの関係は、第3のV−I変換回路130の変換係数をK3(変換抵抗の抵抗値をR3とするとK3=1/R3)とすると、次式で表すことができる。
Ir=K3・Vr=Vr/R3
【0137】
また、第1のV−I変換回路110の変換係数をK1(
図5に示した変換抵抗220の抵抗値をR1とすると、K1=1/R1)とし、第2のV−I変換回路120の変換係数をK2(
図5に示した変換抵抗220の抵抗値をR2とすると、K2=1/R2)として、アナログ乗算部100Aの第1の入力端子対Ta,Tbに流れ込む電流信号をI1とし、第2の入力端子対Tc,Tdに接続された線形化回路102のトランジスタQ5,Q6に流れ込む電流信号をI2とすると、それらの電流信号I1,I2は次式のようになる。
I1=Ib±K2・Vx
I2=α・Ir±K1・Vy
【0138】
なお複号“±”は、差動電流信号の正負それぞれに相当する。
【0139】
さらに、アナログ乗算部100Aの出力電流をI4とすると、I4は次式のようになる。
I4={(K1・K2)・(Vx・Vy)/(α・Ir)}・α
【0140】
ここでI−V変換回路150の変換係数をK5(
図3に示した変換抵抗156の抵抗値をR5とするとK5=R5)とすると、I−V変換回路150の出力信号S32(つまり、検波出力信号)である出力電圧Voutは次式のようになる。
Vout={2・R5・(K1・K2)・(Vx・Vy)/(α・Ir)}・α
={2・R5・(K1・K2)・(Vx・Vy)}/Ir
【0141】
この式が示すように、ギルバート乗算コア101を構成するバイポーラトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αは、分子と分母で相殺されるためその影響が無くなる。従って、これらの素子に、CMOSプロセスで製造したラテラル・バイポーラトランジスタのような電流増幅率αが温度等によって変動するトランジスタを使用しても、その影響を受けずに精度のよい検波出力を得ることができる。
【0142】
また、前述したように、Ir=Vr/R3であるから、上式におけるIrにVr/R3を代入すると、出力電圧Voutは次式になる。
Vout ={2・(R3・R5・K1・K2)・(Vx・Vy)}/Vr
【0143】
この式において、R3,R5,K1,K2の積は一定であるから、2・(R3・R5・K1・K2)=K
0(一定の係数)とおくと、出力電圧Voutは次式で表される。
Vout =K
0・(Vx・Vy)/Vr
【0144】
上式中のVyは、発振信号S21′の電圧値であるから発振信号S21の電圧値と同じである。発振信号S21は、
図2におけるAGC制御回路23により発振振幅の制御がなされた信号であり、AGC制御の基準である参照信号S41の電圧値Vrに依存(比例)する(Vy∝Vr)。
【0145】
また、Vxは、センサ素子10の検出部12から得られた角速度信号を増幅した増幅信号S31の電圧値である。従って、この増幅信号S31は、印加された角速度の強さに比例するが、角速度を検知するためにセンサ素子10の駆動部11を励振する強さにも比例する。すなわち参照信号S41の電圧値Vrにも比例する(Vx∝Vr)。
【0146】
そのため、I−V変換回路150の出力信号S32である出力電圧Voutを表す上式に含まれる積K・(Vx・Vy)は、印加された角速度に比例し、かつ参照信号S41の電圧値Vrの二乗に比例することになる。しかし、この実施形態では、上述したようにVout=K・(Vx・Vy)/Vrになるので、分母のVrによってVx・Vyの一方のVr比例分が相殺され、出力電圧Voutは参照信号S41の電圧値Vrに比例するだけになる。
【0147】
この出力電圧Voutを
図2に示したフィルタ回路33で平滑化した、物理量センサの出力信号S30も同様に電圧値Vrに単純に比例する。
【0148】
すなわち、この実施形態によれば、物理量センサの出力信号S30の参照信号S41に対する依存性を1次程度に抑えることができることが分かる。この特性自体は、従来のスイッチによる検波回路を用いた物理量センサと同様の性質であるが、この実施形態の物理量センサは当該特性に加えて、アナログ乗算検波を用いたことによる利点を有している。すなわち、この実施形態の物理量センサにおいて検波対象とする信号成分は発振周波数と同じ周波数成分のみであるので、外部振動等に起因するそれ以外の周波数成分をもつノイズが仮に被検波信号に含まれたとしても、当該ノイズ成分はアナログ乗算検波により直流よりも充分高い周波数に周波数変換され、次段のフィルタ回路33により容易に除去可能である。
【0149】
従って、物理量センサにこの実施形態に示したようなアナログ乗算回路による検波回路を採用することにより、参照電圧の変動による出力信号の影響が小さく、かつ外来振動によるノイズにも強い高精度の物理量センサを実現することが可能になる。
【0150】
さらに、K
0に因子として含まれるK1、K2、K3は各V−I変換回路110,120,130における変換係数であり、この実施形態のようにこの変換係数を、線形抵抗素子による変換抵抗の抵抗値を元に決定する構成としておくことで、変換係数K3と変換係数K1又はK2との間で温度係数や半導体プロセス変動などを相殺することも可能になる。同様に、I−V変換回路150を構成する変換抵抗156にも同じ線形抵抗素子を用いることによって、その抵抗値R5と変換係数K2又はK1との間で温度係数や半導体プロセス変動を相殺することも可能になる。
【0151】
第1のV−I変換回路110、第2のV−I変換回路120及び第3のV−I変換回路130それぞれに用いる変換抵抗の値R1、R2及びR3を用いると、出力電圧Voutを表す上の式は次のように書き直される。
Vout =2・{(R3・R5)/(R1・R2)}・{(Vx・Vy)/Vr}
【0152】
上式から、第1〜第3のV−I変換回路110,120,130及びI−V変換回路150の変換抵抗として全て同一の材質からなる線形抵抗素子を用いることによって、V−I変換回路110,120,130及びI−V変換回路150で生じる変換誤差を相殺する効果が得られることが分かる。
【0153】
なお、この実施形態では、参照信号の成分をアナログ乗算回路の入力へ加算する構成を、参照信号及び乗算の入力信号からV−I変換により生成された電流信号を加算する電流加算の方式としたが、これに限定されない。参照信号及び乗算の入力信号を電圧信号の状態で加算を行い、その後にV−I変換する電圧加算の方式にしても、本実施形態と同様な効果が得られる。電圧信号の加算は、オペアンプと抵抗素子とを使ったよく知られた電圧加算回路によって行うことができる。
【0154】
また、この実施形態では、AGC制御に用いる参照信号を電圧信号であると仮定したが、参照信号が電流信号である場合は、第3のV−I変換回路130が不要であることは明らかである。
【0155】
この実施形態では、乗算される2つの入力信号の一方であるセンサ素子の駆動回路から得られる発振信号に対して参照信号を加算したが、これとは逆でもよい。すなわち、2つの入力信号の他方であるセンサ素子出力を増幅した増幅信号に対して参照信号を加算し、その加算信号と発振信号とを乗算コアへ入力するように構成してもよく、そのようにしても上述の実施形態と同様の動作をする。これは乗算順序が交換可能であることからも明らかである。
【0156】
なお、
図3によって説明した検波回路32において、第3のV−I変換回路130と補正電流生成回路300とに代えて、
図1における2系統の補正電流である電流α・I
0を出力する補正電流生成回路3を用いることもできる。
【0157】
その場合は、I−V変換回路150の出力電圧Voutは次式によって得られる。
Vout=2・α・R5・K1・K2・Vx・Vy/(α・I
0)
=2・R5・K1・K2・Vx・Vy/I
0
【0158】
この場合も、電圧信号VxとVyとの乗算結果である出力電圧Voutは、電流増幅率αの影響を受けなくなる。そして、被検波信号である電圧信号Vxの振幅に応じた検波信号を、ギルバート乗算コア101を構成するトランジスタQ1〜Q4の電流増幅率αの影響を受けることなく精度よく得ることができる。
【0159】
〔アナログ乗算回路の他の例と可変ゲインアンプの実施形態:
図6〕
次に、この発明によるアナログ乗算回路の他の例と、このアナログ乗算回路を備える可変ゲインアンプの実施形態を
図6によって説明する。この
図6において、
図3と対応する部分には同一の符号を付してあり、それらの説明は省略する。
【0160】
この実施形態におけるアナログ乗算回路1Bは、アナログ乗算部100Bと補正電流生成回路3とからなる。そのアナログ乗算部100Bは、乗算コア105と線形化回路102とによって構成されている。
【0161】
乗算コア105は、エミッタ結合した一対のバイポーラトランジスタであるトランジスタQ1,Q2からなる差動トランジスタ対であり、その差動トランジスタ対の結合されたエミッタを第1の入力端子Taとし、それらトランジスタのベースを第2の入力端子対Tc,Tdとし、それらトランジスタのコレクタを出力端子対Te,Tfとする。この乗算コア105はギルバート乗算コアではない。
【0162】
補正電流生成回路3は、
図1で説明した補正電流生成回路3と同じ回路であり、定電流I
0を、乗算コア105を構成するトランジスタQ1,Q2と同じ特性を有する第1のレプリカのトランジスタQ7の電流増幅率αによって補正して、2系統の補正電流(バイアス電流を兼ねる)α・I
0を出力する。
【0163】
この実施形態の可変ゲインアンプ42は、第2の入力端子43に入力される入力信号Si(電圧値Vy)のゲインを、第1の入力端子44に入力される直流の制御信号Sc(電圧値Vx)に応じて制御する回路である。
【0164】
そのため、上述したアナログ乗算回路1Bに加えて、入力信号Si(電圧値Vy)を±Iy=±K1・Vyで表される差動電流(±Iy)に変換する第1のV−I変換回路110と、制御信号Sc(電圧値Vx)をIx=K2・Vxで表される正のみの出力電流Ixに変換する第2のV−I変換回路120Aと、アナログ乗算回路1Bにおける乗算コア105の出力信号を電圧信号に変換するI−V変換回路150とを備えている。
【0165】
第2のV−I変換回路120Aは、
図5に示したV−I変換回路から、反転出力端子IOUTBとその反転出力電流を生成するための回路を除いた回路である。
【0166】
第2のV−I変換回路120Aからの出力電流Ixは乗算コア105の第1の入力端子に入力される。第1のV−I変換回路110からの差動電流(±Iy)と補正電流生成回路300Aからの補正電流である電流α・I
0とは加算され、加算結果の差動電流は線形化回路102によって電圧信号Vi分の電圧差を有する差動信号に変換され、当該差動信号は乗算コア105の第2の入力端子対に入力される。I−V変換回路150は出力電圧Voutとして、入力信号Siを制御信号Scによって制御されたゲインで増幅した電圧信号を与える。
【0167】
以下にこの実施形態の作用をさらに詳細に説明する。
【0168】
乗算コア105において、トランジスタQ1,Q2のベースからなる第2の入力端子対Tc,Tdに印加される電圧差はViである。トランジスタQ1のべース電流をI
B1、コレクタ電流をI
C1とし、トランジスタQ2のべース電流をI
B2、コレクタ電流をI
C2とすると、次式が成立する。V
Tはいわゆる熱電圧である。
【数1】
【0169】
また、第2のV−I変換回路120Aから乗算コア105の第1の入力端子Taに流れ込む出力電流Ixは、トランジスタQ1,Q2のエミッタ電流I
E1,I
E2の和であるから、次式が成立する。
【数2】
【0170】
よって、出力電流ΔIは、次式により得られる。
【数3】
【0171】
一方、線形化回路102のトランジスタQ5,Q6はそれぞれダイオード接続されているので、トランジスタQ5のエミッタ電圧をV1、トランジスタQ6のエミッ
タ電圧をV2とすると次式が成立する。Isはいわゆる逆方向飽和電流である。
【数4】
【0172】
この式からViについての次式が得られる。
【数5】
【0173】
これらの結果から、I−V変換回路150の出力電圧Voutは、変換抵抗156の抵抗値をR5とすると、次式によって得られる。
【数6】
【0174】
この式の右辺の最後の変形において、電流増幅率αは分子と分母で相殺されて無くなる。
【0175】
Ix=K2・Vx、Iy=K1・Vyであるから、上の式はさらに以下のように書き直せる。
Vout=R5・K1・K2・Vx・Vy/I
0
【0176】
R5・K1・K2は一定であり、I
0は定電流であるから、出力電圧VoutはVx・Vyに比例する。すなわち、電圧信号VxとVyの乗算結果である出力電圧Voutは、乗算コア105を構成するトランジスタQ1,Q2の電流増幅率αの影響を受けず、常に精度よく乗算を行うことができる。
【0177】
この実施形態の可変ゲインアンプ42では、入力信号Siを制御信号Scによって制御されたゲインで増幅した電圧信号である出力電圧Voutを、乗算コア105を構成するトランジスタQ1,Q2の電流増幅率αの影響を受けることなく精度よく得ることができる。
【0178】
可変ゲインアンプ42を、
図2に示した物理量センサにおける発振回路20の可変ゲインアンプ22として使用することも可能である。
【0179】
〔アナログ乗算回路のさらに他の例の実施形態:
図8〕
既に述べたように、本発明によるアナログ乗算回路は、補正電流生成回路により、アナログ乗算部のトランジスタの電流増幅率αに応じて増加する補正電流を生成し、当該補正電流を乗算コアの一方の入力信号に加える点に回路構成に関する特徴を有し、これにより、アナログ乗算部を構成するトランジスタの電流増幅率αが温度等で変動しても、乗算結果が当該変動の影響を受けなくなる効果が得られる。
【0180】
図7は
図1に示したアナログ乗算回路のブロック図である。上述したように、当該アナログ乗算回路1において補正電流生成回路3は、トランジスタQ1〜Q4のレプリカトランジスタであるトランジスタQ7やトランジスタQ5,Q6のレプリカトランジスタであるトランジスタQ8を用いて、αに応じて増加する補正電流としてα・I
0を生成する。このような補正電流生成回路3の回路構成は、補正電流を生成する回路の一例であり、本発明に係るアナログ乗算回路は、電流増幅率αに応じて増加する補正電流を生成する、他の補正電流生成回路を用いることもできる。
【0181】
図8は補正電流生成回路3とは異なる回路構成を有する補正電流生成回路を用いたアナログ乗算回路の一例の概略のブロック図である。
図8において、上述したものと同一の構成要素には同一の符号を付し、それらについての重複する説明は省略する。
【0182】
この実施形態の補正電流生成回路400は、レプリカ乗算コア401、レプリカ線形化回路402、第1の入力電流生成回路403、第2の入力電流生成回路404、I−V変換回路405、比較器406、期待信号入力回路407及び補正電流出力回路408を備える。
【0183】
レプリカ乗算コア401は乗算コア105のレプリカであり、乗算コア105と同じ回路構成であり、乗算コア105の第1及び第2の入力端子対、並びに出力端子対に対応して第1及び第2のレプリカ入力端子対、並びにレプリカ出力端子対を有する。また、レプリカ乗算コア401を構成するトランジスタは、乗算コア105を構成するトランジスタQ1〜Q4と同じ電流増幅率αを持つレプリカトランジスタである。
【0184】
レプリカ線形化回路402は線形化回路102のレプリカである。すなわち、レプリカ線形化回路402は、レプリカ乗算コア401の第2のレプリカ入力端子対の各端子と負電源(−V)との間に、それぞれダイオード接続した(すなわちベースとコレクタとを直接接続した)線形化トランジスタである一対のバイポーラトランジスタを電流が流れる向きに対して順方向に接続して構成される。レプリカ線形化回路402を構成するそれら一対のバイポーラトランジスタは線形化回路102を構成するトランジスタQ5,Q6と同じ特性のレプリカトランジスタである。
【0185】
レプリカ乗算コア401とレプリカ線形化回路402はアナログ乗算部100Aのレプリカであるアナログ乗算部410(レプリカ乗算部)を構成する。
【0186】
第1の入力電流生成回路403、第2の入力電流生成回路404及び期待信号入力回路407は、第1及び第2のレプリカ入力端子それぞれに所定の予備入力値に応じた信号を入力し、かつ当該入力値の積を表す所定の期待値に応じた期待信号を比較器406に入力する設定回路を構成する。
【0187】
例えば、第1の入力電流生成回路403は所定の入力電圧Vu1を差動電流に変換するV−I変換回路とすることができ、当該差動電流はレプリカ乗算コア401の第2のレプリカ入力端子対に供給される。同様に例えば、第2の入力電流生成回路404は所定の入力電圧Vu2を差動電流に変換するV−I変換回路とすることができ、当該差動電流はレプリカ乗算コア401の第1のレプリカ入力端子対に供給される。
【0188】
第1及び第2の入力電流生成回路403,404を構成するV−I変換回路はそれぞれV−I変換回路110,120と同じ回路構成とするのが好適である。例えば、第1及び第2の入力電流生成回路403,404は入力電圧Vu1,Vu2を外部から入力される。また、第1及び第2の入力電流生成回路403,404はそれらの内部にて、予め定められた入力電圧Vu1,Vu2を生成し、それら電圧をV−I変換してもよい。
【0189】
期待信号入力回路407は入力電圧Vu1,Vu2が表す入力値同士の積に応じた期待信号を比較器406に入力する。期待信号は、入力電圧Vu1,Vu2に対してレプリカ乗算コア401が与える出力値の期待値を表す信号である。例えば、
図8に示す補正電流生成回路400において、期待信号入力回路407は、比較器406の入力に接続され電圧Vsを外部から印加される端子である。この場合、電圧Vsは入力電圧Vu1,Vu2に基づいてユーザ等により生成され、当該端子に印加される。また、期待信号入力回路407は外部から入力される信号に基づいて電圧Vsを生成する回路であってもよい。また、期待信号入力回路407はその内部にて、予め定められた入力電圧Vu1,Vu2に対応して予め定められた電圧Vsを期待信号として生成する回路であってもよい。
【0190】
I−V変換回路405及び比較器406は、レプリカ乗算コア401が入力電圧Vu1,Vu2が表す入力値同士の乗算結果として出力する差動電流に応じた試行出力信号を期待信号と比較し比較結果信号を出力する比較回路を構成する。
【0191】
I−V変換回路405はレプリカ乗算コア401から出力される差動電流を試行出力信号である電圧Vu3に変換して、比較器406に入力する。比較器406は電圧Vu3を電圧Vsと比較し、それらの大小関係を示す比較結果信号を出力する。
【0192】
補正電流出力回路408は補正電流I
CR1と当該補正電流のレプリカであるレプリカ補正電流I
CR2とを生成する。補正電流I
CR1は上述の実施形態と同様、乗算コア105の第2の入力端子対に加算される補正電流である。一方、レプリカ補正電流I
CR2はレプリカ乗算コア401の第2のレプリカ入力端子対に加算される。補正電流I
CR1及びレプリカ補正電流I
CR2それぞれ2系統ずつ生成され、それら合わせて4系統の電流値は同一である。
【0193】
補正電流出力回路408は、試行出力信号である電圧Vu3を期待信号である電圧Vsに等しくするように比較結果信号に応じてレプリカ補正電流I
CR2を増減すると共に、そのレプリカ補正電流I
CR2と同じ大きさの補正電流I
CR1を生成する。
【0194】
この実施形態では、補正電流生成回路400は、乗算コア105及び線形化回路102からなるアナログ乗算部100Aのトランジスタの電流増幅率αに変動が生じても、アナログ乗算部100Aのレプリカであるアナログ乗算部410が正しい結果を与えるようにレプリカ補正電流I
CR2をフィードバック制御し、そのフィードバック制御の結果を補正電流I
CR1として乗算コア105の第2の入力端子対に加算することで、アナログ乗算部100Aも正しい乗算結果を与えるように調整される。
【0195】
なお、アナログ乗算部100Aに生じる電流増幅率α以外の変動もアナログ乗算部410に同様に生じる。よって、この実施形態の補正電流生成回路400は電流増幅率α以外の変動の影響を除去した乗算結果を得ることが可能である。
【0196】
図8に示すアナログ乗算回路を例えば、
図2に示したような物理量センサの検波回路に用いることもできる。
図2の検波回路によれば、補正電流を参照信号の電圧値Vrに比例する電流値とすることで、電圧信号Vx,Vyの電圧値が参照信号の電圧値Vrに比例する場合の出力電圧VoutのVr依存性を弱める(Vrに対する比例に留める)ことができることを上に説明した。
図8に示す補正電流生成回路400において電圧Vs及び入力電圧Vu1,Vu2を電圧値Vrに比例する電圧値を有する電圧信号にすることで、補正電流出力回路408からは電圧値Vrに比例する補正電流が出力され、これにより、物理量センサの出力電圧Voutに参照信号の変動分が現れることを抑制する上述の効果が得られる。
【0197】
以上、この発明の好ましい実施形態について説明したが、この発明はこれらに限定されるものではなく、各実施形態の構成を適宜追加又は省略したり、変更したりすることができることは勿論である。また、矛盾しない範囲で各実施形態の構成を組合せることもできる。
【0198】
この発明によるアナログ乗算回路は一般的な検波回路や、角速度センサ以外の物理量センサにおける検波回路にも使用できる。それらの検波回路では、
図3に示した実施形態におけるような参照信号の入力を不要とする場合があり、その場合、第3のV−I変換回路130は不要になる。従って、
図1又は
図6に示したような検波回路を使用すればよい。