(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957017
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】新規な4B族有機金属化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/314 20060101AFI20160714BHJP
C07F 7/00 20060101ALI20160714BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20160714BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20160714BHJP
C23C 16/32 20060101ALI20160714BHJP
C23C 16/36 20060101ALI20160714BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20160714BHJP
C23C 16/448 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
H01L21/314 A
C07F7/00 A
C07F7/00 Z
C23C16/40
C23C16/34
C23C16/32
C23C16/36
C23C16/455
C23C16/448
【請求項の数】23
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-558779(P2013-558779)
(86)(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公表番号】特表2014-510733(P2014-510733A)
(43)【公表日】2014年5月1日
(86)【国際出願番号】KR2012001566
(87)【国際公開番号】WO2012124913
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2013年10月3日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0022615
(32)【優先日】2011年3月15日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0012738
(32)【優先日】2012年2月8日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513228834
【氏名又は名称】メカロニックス シーオー. エルティディ.
【氏名又は名称原語表記】MECHARONICS CO. LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】アン, デジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒュンチャン
【審査官】
井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−079297(JP,A)
【文献】
特表2005−532410(JP,A)
【文献】
特表2003−535097(JP,A)
【文献】
特開平03−163088(JP,A)
【文献】
特開平03−188092(JP,A)
【文献】
特開平08−198910(JP,A)
【文献】
CHIRINOS,J.,ET AL.,MACROMOLECULAR CHEMISTRY AND PHYSICS,2000年,VOL.201,PP.2581-2585
【文献】
BLACK,K.,ET AL.,JOURNAL OF MATERIALS CHEMISTRY,2008年,VOL.18,PP.4561-4571
【文献】
JUTZI,P.,ET AL.,JOURNAL OF ORGANOMETALLIC CHEMISTRY,1997年,VOL.533,PP.237-245
【文献】
CHIRINOS,J. et al.,Macromolecular Chemistry and Physics,2000年,Vol.201,p.2581-2585
【文献】
BLACK,K. et al,Journal of Materials Chemistry,2008年,Vol.18,p.4561-4571
【文献】
JUTZI,P. et al.,Journal of Organometallic Chemistry,1997年,Vol.533,p.237-245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C23C
H01L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4B族金属を含む薄膜を基板に形成
する方法であって、
前記薄膜を、下記一般式(1)で示される4B族有機金属化合物
又はその有機溶媒溶液を気化させて形成する、方法。
【化1】
(上記一般式(1)において、MはTi、Zr又はHfを示し、R
1はC
1〜C
4のアルキル基を示し、R
2及びR
3は各々独立して、C
1〜C
6のアルキル基を示す。)
【請求項2】
R1、R2及びR3が、各々独立して、メチル、エチル又はプロピルである請求項1記載の4B族金属を含む薄膜を基板に形成する方法。
【請求項3】
R1、R2及びR3が、各々独立して、メチル又はエチルである請求項2記載の4B族金属を含む薄膜を基板に形成する方法。
【請求項4】
R1、R2及びR3がすべてメチルである請求項3記載の4B族金属を含む薄膜を基板に形成する方法。
【請求項5】
R1及びR2がともにメチルであり、R3がエチルである請求項3記載の4B族金属を含む薄膜を基板に形成する方法。
【請求項6】
上記一般式(1)の化合物が
【化2】
(
iPr=イソプロピル、
nPr=ノルマルプロピル)
である請求項1〜5のいずれかに記載の
4B族金属を含む薄膜を基板に形成する方法。
【請求項7】
有機溶媒溶液が、請求項1〜6のいずれかに記載の一般式(1)で示される4B族有機金属化合物0.1重量%〜99.9重量%と、飽和又は不飽和炭化水素類、エーテル類(環状エーテル類を含む)、エステル類、アルコール類、アミン類(環状アミン類を含む)、スルフィド類(環状スルフィド類を含む)、ホスフィン類、ベータジケトン類及びベータケトエステル類からなる群より選択された一つ又は複数の有機化合物の残余量とを含む組成物である請求項1記載の4B族金属を含む薄膜を基板に形成する方法。
【請求項8】
下記一般式(4)で表される化合物
M’NR
2R
3 (4)
(式中、R
2及びR
3は請求項1での定義と同じであり、M’はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)である)
と下記一般式(5)で表される化合物
【化3】
(式中、M及びR
1は請求項1での定義と同じであり、Xは塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)である)
とを反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化4】
(式中、M、R
1、R
2及びR
3は請求項1での定義と同じ)
で表される4B族有機金属化合物の製造方法。
【請求項9】
反応溶媒として、石油エーテル、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン又は1,2−ジメトキシエタンを用いることを特徴とする請求項8記載の4B族有機金属化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6記載の有機金属化合物の一つ又は複数若しくはその有機溶媒溶液を気化させてシリコン基板又は金属、セラミックス、プラスチック構造物に蒸着する工程を含むことを特徴とする4B族金属を含む薄膜の形成方法。
【請求項11】
蒸着工程で、有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、MOCVD)又は原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition、ALD)を用いるものである請求項10記載の4B族金属を含む薄膜の形成方法。
【請求項12】
蒸着工程で、熱エネルギー、光エネルギーもしくはプラズマ、又は基板上へのバイアス電圧の印加を利用する請求項10又は請求項11記載の薄膜の形成方法。
【請求項13】
蒸着温度が100℃〜1000℃である請求項10〜12のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項14】
有機金属化合物を基板上に移動させる方式が、フロート(Float)方式、バブリング(bubbling)方式、気相(vapor phase)エムエフシー(MFC:mass flow controller)方式、直接液体注入(DLI:Direct Liquid Injection)方式又は液体移送方法から選択された方式であり、この液体移送方法では前駆体化合物を有機溶媒に溶解した溶液を使用する請求項10〜12のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項15】
有機金属化合物を基板上に移動させるためのキャリアガス又は希薄ガスが、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、ヘリウム(He)及び水素(H2)から選択された一つ又はこれらの2種以上の混合物である請求項10〜13のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項16】
基板上に蒸着された薄膜が、4B族酸化物薄膜(ZrO2)、又は(Sc、Y、La、Ac)の酸化物膜、(Ti、Hf)の酸化物膜、(V、Nb、Ta)の酸化物膜、(Al、Ga、In)の酸化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の酸化物膜から選択された1以上の薄膜と4B族酸化物薄膜(ZrO2)とを含む複合金属酸化物薄膜である請求項10〜15のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項17】
有機金属化合物を基板上に蒸着させるための反応ガスが、水蒸気(H2O)、酸素(O2)、オゾン(O3)及び過酸化水素(H2O2)から選択される一つ又はこれらの2種以上の混合物である請求項16記載の薄膜の形成方法。
【請求項18】
基板上に蒸着された薄膜が、4B族窒化物薄膜(MN)、又は(Sc、Y、La、Ac)の窒化物膜、(V、Nb、Ta)の窒化物膜、(Al、Ga、In)の窒化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の窒化物膜から選択された1以上の薄膜と4B族窒化物薄膜(MN)とを含む複合金属窒化物薄膜である請求項10〜15のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項19】
基板上に蒸着された薄膜が、4B族炭化物薄膜(MC)、又は(Sc、Y、La、Ac)の炭化物膜、(V、Nb、Ta)の炭化物膜、(Al、Ga、In)の炭化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の炭化物膜から選択された1以上の薄膜と4B族炭化物薄膜(MC)とを含む複合金属炭化物薄膜である請求項10〜15のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項20】
基板上に蒸着された薄膜が、4B族窒化炭化物薄膜(MCN)、又は(Sc、Y、La、Ac)の窒化炭化物膜、(V、Nb、Ta)の窒化炭化物膜、(Al、Ga、In)の窒化炭化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の窒化炭化物膜から選択された1以上の薄膜と4B族窒化炭化物薄膜(MCN)とを含む複合金属窒化炭化物薄膜である請求項10〜15のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項21】
有機金属化合物を基板上に蒸着させるための反応ガスが、アンモニア(NH3)、ヒドラジン(N2H4)又はこれらの混合物である請求項18〜20のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項22】
原子層蒸着法を用いる薄膜の形成方法が、
1)反応チャンバ内部に基板を搬入して焼成温度に加熱する工程;
2)次いで、上記反応チャンバに第1のパージングガス(purging gas)を導入する工程(第1パージング工程);
3)上記反応チャンバ内部に4B族化合物を供給して上記基板上に原子層を形成する工程;
4)上記反応チャンバ内部に反応ガスを供給して上記原子層と反応させる工程;
5)次いで、上記4B族化合物によって生成された副産物及び未反応物質を第2のパージングガスによって上記反応チャンバの外部に放出させる工程(第2パージング工程)
を含む請求項11記載の薄膜の形成方法。
【請求項23】
第1パージング工程及び第2パージング工程がヘリウム(He)、水素(H2)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)及びアンモニア(NH3)から選択された一つ以上を反応チャンバ内部に導入し、上記反応チャンバの内部に存在するガスを真空ポンプを利用してチャンバの外部に放出させる請求項22記載の薄膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、化学蒸着(chemical vapor deposition;CVD)、特に原子層蒸着(atomic layer deposition;ALD)に使われる新規な4B族有機金属化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
メモリー及び非メモリー半導体素子の集積度は日々に増加しており、その構造がますます複雑になり、多様な薄膜を基板に蒸着させるにあたってステップカバレッジ(step coverage)の重要性がますます増大している。
【0003】
化学蒸着法又は原子層蒸着法を使う金属酸化物薄膜製造工程において、有機金属化合物の必要条件としては高い気化特性、気化温度と分解温度との大きな格差、低い毒性、化学的安定性、熱安定性、化学合成の容易さ及び熱分解の容易さなどがある。
【0004】
また、有機金属化合物は、気化する過程及び気相(gas phase)で移送される過程で自発的に分解したり、他の物質と反応する副反応を生じるべきではなく、特に、導入されるそれぞれの金属成分の比が容易に調節でき、かつ蒸着温度で金属前駆体それぞれの分解挙動が類似の場合に良質の多成分薄膜を得ることができる。
【0005】
このような半導体用薄膜には、金属窒化物、金属酸化物、金属ケイ化物、金属などが使われる。代表的な金属窒化物(又は薄膜)としては、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、窒化ジルコニウム(ZrN)などが使われて、金属窒化物の薄膜は、ドーピング(doping)された半導体のシリコン層と、このシリコン層を接続する配線層(アルミニウム(Al)及び銅(Cu)など)との間の拡散バリアー(diffusion barrier)として使われ、またタングステン(W)薄膜を基板に蒸着する場合には、金属窒化物は接着層(adhesion layer)として使われる。
【0006】
また、薄膜を形成するための金属ケイ化物の金属としては、チタン(Ti)、タンタル(Ta)などが使われて、金属ケイ化物の薄膜は、シリコン基板と、電極、配線材料、拡散バリアーとの間の接着層として使われる。これらの金属薄膜をシリコン層に蒸着する場合、ケイ化チタン(TiSi)又はケイ化タンタル(TaSi)などの金属ケイ化物が使用され、シリコン基板との接着力の強い薄膜を得ることができる。
【0007】
また、アルミナ(Al
2O
3)、チタニア(TiO
2)、タンタルイア(tantalia;Ta
2O
5)などの金属酸化物類は、半導体素子のキャパシタ又はコンデンサ(capacitor)に応用される物質であり、酸化ケイ素(SiO
2)より高い誘電定数(ε)を有しており、大規模集積又は高容量のメモリー半導体に適用されている。
【0008】
上述したように、蒸着された薄膜が優秀な物性を得るためには前駆体の選択が最も重要な要件であり、例えば、窒化チタン(TiN)を基板に蒸着するために塩化チタン(TiCl
4)を用いる場合には、この金属の優秀な経済性にもかかわらず次のようないくつかの問題を有する。
【0009】
第一に、前駆体に存在する塩素原子が蒸着された窒化チタン薄膜に導入され、配線材料であるアルミニウムの腐食を誘発することがある。第二に、蒸着温度が600℃程度の高温であるので、融点の低いアルミニウム配線の場合にはその適用が困難である。第三に、蒸着工程において塩化チタンアンモニア錯塩[TiCl
4:(NH
3)
x]又は塩化アンモニウム塩(NH
4Cl)などの非揮発性副産物が生成し、これらの物質が薄膜内に沈着(堆積)し、製造された半導体チップに致命的な欠点をもたらす。
【0010】
また、窒化タンタル(TaN)又は窒化ジルコニウム(ZrN)を基板に蒸着するために塩化タンタル(TaCl
5)又は塩化ジルコニウム(ZrCl
4)などが使用されるが、これら前駆体(塩化物)が固体化合物であり、蒸着工程に必要な十分な蒸気として供給することができず、前駆体として用いることが容易ではない。
【0011】
これ以外にも、誘電体薄膜のために、チタンアミド[Ti(NR
2)
4:R=CH
3又はC
2H
5]を利用した窒化チタン(TiN)薄膜の製造方法、タンタルエトキシド(tantalum ethoxide)を利用したタンタルイア(Ta
2O
5)の製造方法などが開発されているが、これらの前駆体は不安定であり危険物質である。
【0012】
特に、ジルコニア(ZrO
2)は、酸化ケイ素(SiO
2)よりも高い誘電定数(ε)を有しており、半導体素子のキャパシタ又はコンデンサ(capacitor)に応用すると、大規模集積及び高容量のメモリー半導体が得られる。ジルコニウム化合物前駆体が、有機金属化学蒸着法(MOCVD)及び原子層蒸着法(ALD)工程で最も多く適用されており、ジルコニウム化合物前駆体としては、テトラキスエチルメチルアミドジルコニウム(Zr(NMeEt)
4;TEMAZ)が例示できる(D. M. Hausmannら、 Chem. Mater., 2002. 14, 4350(非特許文献1))。
【0013】
TEMAZは常温(室温)で液体であり、高い蒸気圧を有しているが、熱安定性が低くてステップカバレッジ(step coverage)が低下し、これによりキャパシタ又はコンデンサの漏洩が発生する。そのため、MOCVD工程又はALD工程に適用するには限界があり、次世代の半導体素子の製造には適合しない。
【0014】
ALD工程において、TEMAZの代替品として、シクロペンタジエニルトリスジメチルアミドジルコニウム(CpZr(NMe
2)
3:CpTDMAZ)化合物(以下CpTDMAZ)が公知である(Jaakko Niinistoら、J. Mater., Chem. 2008. 18, 5243(非特許文献2))。
【0015】
上記文献には、CpTDMAZが常温(室温)で液体であり、高い蒸気圧を有し、またTEMAZに比べて高い蒸着温度でも安定することが記載されている。しかし、CpTDMAZをALD工程に適用すると、副反応物を生成する短所がある。
【0016】
また、有機金属化学気相蒸着法(MOCVD)及び原子層蒸着法(ALD)工程で最も多く適用されるチタン化合物としては、テトラキスジメチルアミドチタン(Ti(NMe
2)
4;TDMAT)が例示でき、ハフニウム化合物としてはテトラキスエチルメチルアミドハフニウム(Hf(NEtMe)
4;TEMAH)が例示できる。しかし、これら化合物も上記TEMAZと同じ理由で次世代の半導体素子に使用するのには適合できず、TDMAT又はTEMAHの代わりにALD工程に使用することができる化合物はほとんどないのが実情である。
【0017】
ALDは公知の薄膜蒸着方法である。
【0018】
ALDは、有機金属化合物が保管された容器を約100℃〜110℃の温度で長時間加温して有機金属化合物を気化する工程、及びこれを気相として基板に移送して基板上に蒸着する工程を含む。しかし、このように気化する工程及び気相で移送する工程で、上記CpTDMAZ、TDMAT又はTEMAHは、自発的に分子間反応が起きて多成分の化合物を生成し、これにより薄膜の厚さ調節が難しくなるだけでなく、優秀な物性の薄膜を得にくい問題がある。これに対する代案としては、液体注入ALD法による金属含有膜の形成方法が公知である。この方法では、金属酸化物前駆体と、炭化水素類溶媒、エーテル類溶媒又はアミン類溶媒などの金属酸化物前駆体の安定化のために適した溶媒とを含む有機金属化合物溶液を前駆体として使用している。
【0019】
下記の文献には、化学蒸着工程又は原子層蒸着工程で4B族酸化物薄膜を形成するための前駆体が記載されている。しかし、これら前駆体は、本発明での新規な4B族金属酸化物前駆体とはその構造と化学的性質が全く異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】2007年12月13日に公開された国際特許公開番号WO2007/140813(Air Liquide Societe)
【特許文献2】2007年12月27日に公開された韓国特許公開番号2007/0121281(デーエヌエフ;DNF)
【特許文献3】2010年2月12日に公開された韓国特許公開番号2010/0016477(アドバンスドテクノロジーマテリアルズ;Advanced Technology Materials)
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】D. M. Hausmannら、Chem. Mater., 2002. 14, 4350
【非特許文献2】Jaakko Niinistoら、J. Mater. Chem., 2008. 18, 5243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
(技術的課題)
本発明は、上記のような先行技術での問題を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明は、CpTDMAZ、TDMAT及びTEMAHより熱安定性とステップカバレッジとに優れた有機金属化合物を提供する。本発明はまた、高温で長期間保管しても分解されにくい新規な有機金属化合物(新規な4B族酸化物前駆体)を提供する(添付の図参照)。
【0024】
本発明は、熱安定性及び揮発性が高く、化学蒸着法(CVD)又は原子層蒸着法(ALD)工程を適用して優れた4B族金属酸化物薄膜を得ることができる有機金属化合物及びその製造方法、並びにそれを用いる薄膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
(課題解決手段)
本発明をより詳細に説明すれば次のようである。
【0026】
本発明は、下記一般式(1)で示される新規な4B族酸化物前駆体を提供する。
【0027】
【化1】
【0028】
[一般式(1)において、MはTi、Zr又はHfを示し、R
1はC
1〜C
4のアルキル基を示し、R
2及びR
3は各々独立して、C
1〜C
6のアルキル基を示す。]
上記一般式(1)で示される好ましい化合物としては、R
1、R
2及びR
3が各々独立して、メチル、エチル又はプロピルである化合物が含まれる。上記一般式(1)で示されるより好ましい化合物としては、R
1、R
2及びR
3が各々独立して、メチル又はエチルである化合物が含まれる。上記一般式(1)で示されるさらに好ましい化合物としては、R
1、R
2及びR
3がすべてメチルである化合物が含まれる。上記一般式(1)で示される最も好ましい化合物は、R
1及びR
2がともにメチルであり、R
3がエチルである化合物である。
【0029】
上記一般式(1)で示される代表的な化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
【0030】
【化2】
【0031】
(
iPr=イソプロピル、
nPr=ノルマルプロピル)。
【0032】
上記一般式(1)で示される4B族化合物は、下記反応式1ないし下記反応式3に従って容易に製造される。上記4B族化合物の合成では、反応溶媒を用いることができる。反応溶媒の例としては、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、ベンゼン、トルエンなどの非極性溶媒あるいはジエチルエーテル、石油エーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンなどの極性溶媒が例示できる。
【0033】
本発明による一般式(1)の4B族化合物は、下記反応式1の生成物[一般式(2)の化合物]と一般式(3)の化合物とを反応させて製造できる。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
[反応式1及び一般式3において、MはTi、Zr又はHfを示し、R
1、R
2及びR
3は一般式(1)での定義と同じ、Xは塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を示し、M’はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)を示す。]
上記反応式1で用いられるハロエチルアルキルアミンハロゲン酸塩は、文献(Organic Syntheses: Wiley: New York, 1943; Collective volume 4, p 333)によって容易に製造される。すなわち、このハロエチルアルキルアミンハロゲン酸塩に新たに合成した金属シクロペンタジエニル(cyclopentadienyl)を投入し、次いで還流して反応を終了したのち、生成した固体塩を濾過し、減圧下で(真空蒸留によって)溶媒を除去し、上記の反応式1での生成物(一般式(2)の化合物)を容易に製造することができる。
【0037】
【化5】
【0038】
[上記式中、MはTi、Zr又はHfを示し、R
1、R
2及びR
3は上記一般式(1)での定義と同じ。]
上記の一般式(1)の4B族化合物は、一般式(2)の化合物と一般式(3)の金属化合物とを反応させて高収率に製造される。すなわち、テトラキスジアルキルアミド4B族金属(IV)(一般式(3)の化合物)を低温に冷却した後、シクロペンタジエニルエチルアルキルアミン(一般式(2)の化合物)を添加し、常温で1時間撹拌して反応を終了する。減圧下で溶媒を除去し、生成した液体を真空蒸留して一般式(1)の化合物を高収率で製造する。
【0039】
また、本発明による一般式(1)の4B族化合物は、下記の反応式3に表わされるように、一般式(4)の化合物(M’NR
2R
3)を一般式(5)の化合物と反応させて製造することができる。すなわち、反応器にジハロシクロペンタジエニルエチルアルキルアミド4B族金属(IV)(一般式(5)の化合物)を投入して−20℃に冷却し、ノルマルヘキサンに懸濁された金属ジアルキルアミド(M’NR
2R
3)(一般式(4)の化合物)をカニューレ(canula)を利用してゆっくり添加した後、常温(室温)で15時間撹拌して反応を終了させる。常温で十分な時間静置させた後、カニューレを利用して上澄液を他のフラスコに移す。次いで、減圧下で溶媒を取り除き、生成した液体を真空蒸留して一般式(1)の化合物を製造する。
【0040】
【化6】
【0041】
[上記式中、MはTi、Zr又はHfを示し、R
1、R
2及びR
3は上記一般式(1)での定義と同じであり、Xは塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を示し、M’はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)を示す。]
上記一般式(1)の4B族有機金属化合物は、通常の蒸着方法によって基板に蒸着される。上記一般式(1)の4B族有機金属化合物の蒸着には、公知のすべての蒸着方法が使用できるが、有機金属化学蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、MOCVD)又は原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition、ALD)が好ましい。また、公知のすべての基板に適用することができるが、シリコン基板又は金属、セラミックス又はプラスチック構造物基板に適用するのが好ましい。
【0042】
上記一般式(1)の4B族有機金属化合物は、通常、単独で、又は2以上の混合物形態で用いられるが、化合物の安定化のために4B族有機金属化合物0.1重量%〜99.9重量%、好ましくは1重量%〜99重量%と、飽和又は不飽和炭化水素類、エーテル類(環状エーテル類を含む)、エステル類、アルコール類、アミン類(環状アミン類を含む)、スルフィド類(環状スルフィド類を含む)、ホスフィン類、ベータ−ジケトン類、ベータ−ケトエステル類などから選択された一つ又は複数の有機化合物の残余量を含む組成物形態で使用できる。
【0043】
上記組成物で追加される有機化合物は、上記一般式(1)の4B族有機金属化合物を安定化するものであれば特に限定されない。すなわち、飽和又は不飽和炭化水素類の例としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、アセチレン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチンなどの脂肪族炭化水素;シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。エーテル類(環状エーテル類を含む)の例としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。エステル類の例としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ブチルセルロソルブ、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。アルコール類の例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。アミド類(環状アミド類を含む)の例としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。スルホキシド類の例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ホスフィン類の例としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ベータジケトン類の例としては、例えば、ジメチルベータジケトン、メチルエチルベータジケトン、メチルイソブチルベータジケトン又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ベータケトエステル類の例としては、例えば、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
上記一般式(1)の4B族有機金属化合物の薄膜を形成するための蒸着温度は、100℃〜1000℃、好ましくは200℃〜500℃、より好ましくは250℃〜450℃であり、蒸着工程では、加熱源として、熱エネルギー、光エネルギー、プラズマ、又は基板上へのバイアス電圧の印加などのいずれかが使用できる。
【0045】
上記一般式(1)の4B族有機金属化合物を基板上に移動させる方式としては、フロート(float)方式、バブリング(bubbling)方式、気相(vapor phase)エムエフシー(MFC:mass flow controller)方式、直接液体注入(DLI:Direct Liquid Injection)方式又は液体移送方法が使用でき、この液体移送方法では前駆体化合物を有機溶媒に溶解した溶液が使用される。
【0046】
上記一般式(1)の4B族有機金属化合物を基板上に移動させるためのキャリアガス又は希釈ガスとしては、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)、ヘリウム(He)又は水素(H
2)、及びこれらの2以上を含む混合物のいずれも使用できる。反応ガスとしては、水蒸気(H
2O)、酸素(O
2)、オゾン(O
3)、過酸化水素(H
2O
2)、アンモニア(NH
3)、ヒドラジン(N
2H
4)、及びこれらの2以上を含む混合物のいずれも使用できる。
【0047】
上記一般式(1)の4B族有機金属化合物を用いる本発明による薄膜形成方法で基板上に蒸着した薄膜は、4B族金属酸化物薄膜(MO
2)、4B族金属窒化物薄膜(MN)、4B族金属炭化物薄膜(MC)又は4B族金属窒化炭化物薄膜(MCN)のいずれであってもよく、これらの薄膜は基板の上に単独に形成されるか;又は4B族酸化物薄膜(MO
2)と、(Sc、Y、La、Ac)の酸化物膜、(V、Nb、Ta)の酸化物膜、(Al、Ga、In)の酸化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の酸化物膜からなる群より選択される1以上の薄膜とを含む金属酸化物複合膜;4B族窒化物薄膜(MN)と、(Sc、Y、La、Ac)の窒化物膜、(V、Nb、Ta)の窒化物膜、(Al、Ga、In)の窒化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の窒化物膜からなる群より選択される1以上の薄膜とを含む金属窒化物複合膜;4B族炭化物薄膜(MC)と、(Sc、Y、La、Ac)の炭化物膜、(V、Nb、Ta)の炭化物膜、(Al、Ga、In)の炭化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の炭化物膜からなる群より選択される1以上の薄膜とを含む金属炭化物複合膜;又は4B族窒化炭化物薄膜(MCN)と、(Sc、Y、La、Ac)の窒化炭化物膜、(V、Nb、Ta)の窒化炭化物膜、(Al、Ga、In)の窒化炭化物膜及び(Si、Ge、Sn、Pb)の窒化炭化物膜からなる群より選択される1以上の薄膜とを含む金属炭化窒化物複合膜として形成されてもよい。
【0048】
本発明で原子層蒸着法を用いる薄膜の形成方法は、
1)反応チャンバ内部に基板を搬入して焼成温度に加熱する工程;
2)次いで、上記反応チャンバに第1のパージングガス(purging gas)を導入する工程(第1パージング工程);
3)上記反応チャンバ内部に4B族化合物を供給して上記基板上に原子層を形成する工程;
4)上記反応チャンバ内部に反応ガスを供給して上記原子層と反応させる工程;
5)次いで、上記4B族化合物によって生成された副産物及び未反応物質を第2のパージングガスによって上記反応チャンバの外部に放出させる工程(第2パージング工程)を含むことができる。上記第1パージング工程及び第2パージング工程では、ヘリウム(He)、水素(H
2)、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)及びアンモニア(NH
3)の中から選択された一つ以上を反応チャンバ内部に導入し、上記反応チャンバの内部に存在するガスを真空ポンプを利用して外部に放出することができる。
【0049】
上記一般式(1)で表される本発明の有機金属化合物は、中心金属原子に結合しているリガンド(ligand)を有しており、それらのなかで、アルキルアミドリガンドと結合しているシクロペンタジエニル−リガンドが中心金属原子と強くσ−結合及びπ−結合を形成している。そのため、持続的な加温にも分解せず、高い熱安定性を有する。また、2個のジアルキルアミノリガンドが中心金属原子と結合しているので、本発明の金属化合物は高い蒸気圧を有する。
【0050】
図1のTGAグラフから、試験物(公知のTEMAZ、CpTDMAZ及び本発明の実施例1、実施例2の化合物)の重量が半分に減少する温度(T
1/2℃)を測定し、次の表1に記載した。
【0051】
【表1】
【0052】
上記表1から、本発明の実施例1及び実施例2によって合成した化合物はT
1/2℃がそれぞれ195℃及び202℃であり、公知化合物であるTEMAZ及びCpTDMAZの164℃及び176℃よりも非常に高いことが確認できる。したがって、本発明によって合成された上記一般式(1)の4B族有機金属化合物は熱安定性が向上したことが確認できる。
【0053】
図2及び
図3のTGAグラフから、試験物である公知のテトラキス(ジメチルアミド)チタン(Ti(NMe
2)
4、TDMAT)及びテトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウム(Hf(NEtMe)
4、TEMAH)並びに本発明の実施例5及び実施例7の化合物の重量が半分に減少する温度(T
1/2℃)を測定し、次の表2に記載した。
【0054】
【表2】
【0055】
上記表2から、本発明の実施例5によって合成したシクロペンタジエニル(エチルメチルアミド)チタン(IV)ジ(ジメチルアミド)((CpCH
2CH
2NCH
3)Ti(NMe
2)
2)はT
1/2℃が202℃であり、公知化合物であるテトラキス(ジメチルアミド)チタン(Ti(NMe
2)
4、TDMAT)の79℃と比べてT
1/2℃が非常に高く、本発明によって合成したチタン化合物は熱安定性が大きく向上したことが確認できる。また、本発明の実施例7によって合成したシクロペンタジエニル(エチルメチルアミド)ハフニウム(IV)ジ(エチルメチルアミド)((CpCH
2CH
2NCH
3)Hf(NEtMe)
2)はT
1/2℃が181℃であり、公知化合物であるテトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウム(Hf(NEtMe)
4、TEMAH)の168℃と比べてT
1/2℃が10℃以上高く、本発明によって合成したハフニウム化合物も熱安定性が向上したことが確認できる。
【0056】
また、
図4A、
図4B、
図5A及び
図5Bは、水素原子核磁気共鳴法(
1H nuclear magnetic resonance、
1H NMR)グラフであり、実施例8の試験方法によってCpTDMAZ及び実施例1の化合物の熱安定性を比較した試験結果である。
【0057】
図4Aの
1H NMRグラフ(CpTDMAZの加熱前グラフ)と
図4Bの
1H NMRグラフ(CpTDMAZの加熱後グラフ)とを比べると、加熱後のCpTDMAZは加熱前と比べて容易に分解して不純物が生成したことが確認できる。これに対して、
図5Aの
1H NMRグラフ(実施例1化合物の加熱前グラフ)と
図5Bの
1H NMRグラフ(実施例1化合物の加熱後グラフ)とを比べると、実施例1の化合物は加熱前と加熱後とを比べて有意な変化がなかったことが分かる。このことは、本発明によって合成した実施例1のジルコニウム化合物がCpTDMAZよりも熱安定性に優れた化合物であることを立証するものである。
【0058】
したがって、本発明による新規な4B族酸化物前駆体は、半導体製造工程、特に、半導体製造工程に広く用いられている有機金属化学蒸着(MOCVD)又は原子層蒸着(ALD)工程において、4B族酸化物を含む各種酸化物薄膜を含めて4B族薄膜を製造するための前駆体として好ましく使用できる。
【発明の効果】
【0059】
(発明の効果)
本発明の上記前駆体化合物は、高い熱安定性及び高い揮発性を有するので、次世代半導体素子に要求される複雑で優秀な薄膜の製造に利用でき、また半導体製造工程の信頼度及び効率性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1は、TEMAZ、CpTDMAZ、実施例1及び実施例2の化合物の熱重量分析(TGA)グラフである。
【
図2】
図2は、TDMAT及び実施例5の化合物の熱重量分析(TGA)グラフである。
【
図3】
図3は、TEMAH及び実施例7の化合物の熱重量分析(TGA)グラフである。
【
図4A】
図4Aは、実施例8の試験におけるCpTDMAZの加熱前の
1H核磁気共鳴(
1H NMR)グラフである。
【
図4B】
図4Bは、実施例8の試験におけるCpTDMAZの加熱後の
1H核磁気共鳴(
1H NMR)グラフである。
【
図5A】
図5Aは、実施例8の試験における実施例1の化合物の加熱前の
1H核磁気共鳴(
1H NMR)グラフである。
【
図5B】
図5Bは、実施例8の試験における実施例1の化合物の加熱後の
1H核磁気共鳴(
1H NMR)グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
(発明の実施のための形態)
以下の実施例は、理解のために例示されたものであり、本発明を限定しようとするものではない。
【0062】
すべての実験はグローブボックスとシュレンク管(Schlenk line)技法とを利用して不活性アルゴン雰囲気下で遂行された。実施例1〜実施例7で得た生成物の構造は、水素原子核磁気共鳴法(
1H nuclear magnetic resonance、
1H NMR)、炭素原子核磁気共鳴法(
13C nuclear magnetic resonance、
13C NMR)を利用して分析した。
【実施例】
【0063】
実施例1:(CpCH
2CH
2NCH
3)Zr(NMe
2)
2の合成
【0064】
【化7】
【0065】
第1工程:2Lシュレンクフラスコ(Schlenk flask)をフレーム乾燥(flame-dry)し、500mLのテトラヒドロフランと文献(Organic Syntheses: Wiley: New York, 1943; Collective volume 4, p 333)に記載の方法によって製造したクロロエチルメチルアミン塩酸塩68.2g(0.524mol、1.00当量)とを入れ、混合物を撹拌させながら0℃に冷却した後、シクロペンタジエニルナトリウム(NaCp)92.3g(1.048mol、2.00当量)を30分間かけて添加した。この混合溶液を常温(室温)にゆっくり昇温して4時間還流させた後、常温(室温)に冷却して反応を終了させた。生成した固体(NaCl)を濾過し、次いで減圧下で溶媒を完全に除去した。得られた液体を減圧下で蒸留(沸点:25℃@0.2mmHg)して、透明な液体の第1工程化合物32.3g(収率50%)を得た。
【0066】
第2工程:250mLシュレンクフラスコをフレーム乾燥し、80mLのトルエンとテトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(VI)26.8g(0.100mol、1.00当量)をと入れ、混合物を撹拌させながら−20℃に冷却した後、第1工程で合成されたシクロペンタジエニルエチルメチルアミン12.3g(0.10mol、1.00当量)を30分間かけて添加した。混合溶液を常温(室温)で1時間撹拌させて反応を終了させた。次いで、減圧下で溶媒を完全に除去した後、残った液体を減圧下で蒸留(沸点:85℃@0.1mmHg)して、黄色液体の表題化合物29.5g(収率92%)を得た。
1H NMR(C
6D
6):δ 5.96(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、5.79(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.68(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.08(s,3H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、2.93(s,12H,2×N(CH
3)
2)、2.69(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)
13C NMR(C
6D
6):δ 136.51,112.41,106.92(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),71.53(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),43.98(N(CH
3)
2),41.52(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),29.51(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)
【0067】
実施例2:(CpCH
2CH
2NCH
3)Zr(NEtMe)
2の合成
【0068】
【化8】
【0069】
250mLシュレンクフラスコをフレーム乾燥し、100mLのトルエンとテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(VI)24.0g(74.2mmol、1.00当量)とを入れ、混合物を撹拌させながら−20℃に冷却した後、実施例1の第1工程で合成したシクロペンタジエニルエチルメチルアミン10.0g(81.2mmol、1.09当量)を30分間かけて添加した。混合溶液を常温(室温)で5時間撹拌させて反応を終了させた。次いで、減圧下で溶媒を完全に除去した後、残った液体を減圧下で蒸留(沸点:97℃@0.1mmHg)して、黄色液体の表題化合物23g(収率89%)を得た。
1H NMR(C
6D
6):δ 5.98(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、5.82(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.68(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.28〜3.10(m,4H,2×N(CH
2CH
3)(Me))、3.07(s,3H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、2.98(s,6H,2×N(CH
3)(Et))、2.70(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、1.07(t,6H,2×N(CH
2CH
3)(Me))
13C NMR(C
6D
6):δ 136.25,112.14,106.65(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),71.51(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、50.17(N(CH
3)(Et))、41.97(N(CH
2CH
3)(Me))、39.30(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、29.57(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、15.93(N(CH
2 CH
3)(Me))
【0070】
実施例3:(CpCH
2CH
2NCH
3)Zr(NEt
2)
2の合成
【0071】
【化9】
【0072】
250mLシュレンクフラスコをフレーム乾燥し、100mLのトルエンとテトラキス(ジエチルアミド)ジルコニウム(VI)38.0g(0.1mol、1.00当量)とを入れ、混合物を撹拌させながら−20℃に冷却した後、実施例1の第1工程で合成されたシクロペンタジエニルエチルメチルアミン13.5g(0.11mol、1.10当量)を30分間かけて添加した。混合溶液を常温(室温)で12時間撹拌させて反応を終了させた。次いで、減圧下で溶媒を完全に除去した後、残った液体を減圧下で蒸留(沸点:140℃@0.1mmHg)して、黄色固体の表題化合物18g(収率 50%)を得た。
1H NMR(C
6D
6):δ 5.98(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、5.84(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.68(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.24〜3.12(m,8H,4×N(CH
2CH
3)
2)、3.04(s,3H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、2.70(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、1.03(t,12H,4×N(CH
2CH
3)
2)
13C NMR(C
6D
6):δ 135.95,112.92,106.41(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),71.52(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),44.31(N(CH
2CH
3)
2),42.64(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),29.64(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),16.38(N(CH
2CH
3)
2)
【0073】
実施例4:(CpCH
2CH
2NCH
3)Zr(NEtMe)
2の合成
【0074】
【化10】
【0075】
1Lシュレンクフラスコをフレーム乾燥し、150mLのトルエンと二塩化シクロペンタジエニルエチルメチルアミドジルコニウム(IV)20.0g(65.9mmol、1.00当量)とを入れ、混合物を撹拌させながら−20℃に冷却した。350mLのn−ヘキサンに懸濁したリチウムエチルメチルアミド(LiNEtMe)8.57g(131.8mmol、2.00当量)をカニューレ(cannula)を利用して2時間かけてゆっくり添加した後、常温(室温)で15時間撹拌した。常温(室温)で5時間静置させた後、上澄液を、フレーム乾燥した1Lシュレンクフラスコにカニューレを利用して移した。減圧下で溶媒を完全に除去した後、残った液体を減圧下で蒸留(沸点:97℃@0.1mmHg)して、黄色液体の表題化合物12.9g(収率50%)を得た。
1H NMR(C
6D
6):δ 5.98(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、5.82(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.68(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.28〜3.10(m,4H,2×N(CH
2CH
3)(Me))、3.07(s,3H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、2.98(s,6H,2×N(CH
3)(Et))、2.70(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、1.07(t,6H,2×N(CH
2CH
3)(Me))
13C NMR(C
6D
6):δ 136.25,112.14,106.65(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),71.51(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),50.17(N(CH
3)(Et)),41.97(N(CH
2CH
3)(Me)),39.30(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),29.57(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),15.93(N(CH
2CH
3)(Me))
【0076】
実施例5:(CpCH
2CH
2NCH
3)Ti(NMe
2)
2の合成
【0077】
【化11】
【0078】
250mLシュレンクフラスコをフレーム乾燥し、80mLのトルエンとテトラキス(ジメチルアミド)チタン(VI)25.7g(0.100mol、1.00当量)とを入れ、混合物を撹拌させながら−20℃に冷却した後、実施例1の第1工程で合成されたシクロペンタジエニルエチルメチルアミン12.3g(0.10mol、1.00当量)を30分間かけて添加して、混合溶液を常温(室温)で1時間撹拌させて反応を終了させた。次いで、減圧下で溶媒を完全に除去した後、残った液体を減圧下で蒸留(沸点:80℃@0.1mmHg)して、黄色液体の表題化合物18.0g(収率70%)を得た。
1H NMR(C
6D
6):δ 5.81(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、5.70(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.66(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.34(s,3H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.07(s,12H,2×N(CH
3)
2)、2.66(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)
13C NMR(C
6D
6):δ 136.01,111.90,108.15(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),73.24(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),48.33(N(CH
3)
2),46.19(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),29.22(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)
【0079】
実施例6:(CpCH
2CH
2NCH
3)Hf(NMe
2)
2の合成
【0080】
【化12】
【0081】
250mLシュレンクフラスコをフレーム乾燥し、80mLのトルエンとテトラキス(ジメチルアミド)ハフニウム(VI)38.8g(0.100mol、1.00当量)とを入れ、混合物を撹拌させながら−20℃に冷却した後、実施例1の第1工程で合成されたシクロペンタジエニルエチルメチルアミン12.3g(0.10mol、1.00当量)を30分間かけて添加して、混合溶液を常温(室温)で2時間撹拌させて反応を終了させた。次いで、減圧下で溶媒を完全に除去した後、残った液体を減圧下で蒸留(沸点:90℃@0.1mmHg)して、黄色液体の表題化合物31.0g(収率80%)を得た。
1H NMR(C
6D
6):δ 5.92(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、5.76(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.80(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.06(s,3H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、2.96(s,12H,2×N(CH
3)
2)、2.65(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)
13C NMR(C
6D
6):δ 135.03,112.27,106.48(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),71.31(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),43.83(N(CH
3)
2),41.59(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3),29.12(C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)
【0082】
実施例7:(CpCH
2CH
2NCH
3)Hf(NEtMe)
2の合成
【0083】
【化13】
【0084】
250mLシュレンクフラスコをフレーム乾燥し、100mLのトルエンとテトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウム(VI)30.0g(72.1mmol、1.00当量)とを入れ、混合物を撹拌させながら−20℃に冷却した後、上記実施例1の第1工程で合成されたシクロペンタジエニルエチルメチルアミン10.0g(81.2mmol、1.09当量)を30分間かけて添加した。混合溶液を常温(室温)で8時間撹拌させて反応を終了させた。次いで、減圧下で溶媒を完全に除去した後、残った液体を減圧下で蒸留(沸点:100℃@0.1mmHg)して、黄色液体の表題化合物18g(収率60%)を得た。
1H NMR(C
6D
6):δ 5.94(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、5.78(m,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.80(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、3.29〜3.13(m,4H,2×N(CH
2CH
3)(Me))、3.05(s,3H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、2.93(s,6H,2×N(CH
3)(Et))、2.67(t,2H,C
5H
4CH
2CH
2NCH
3)、1.06(t,6H,2×N(CH
2CH
3)(Me))
【0085】
実施例8:ジルコニウム(Zr)化合物の熱安定性試験
実施例1で得た生成物シクロペンタジエニルエチルメチルアミドジルコニウム(IV)ジ(ジメチルアミド)と、CpTDMAZ[シクロペンタジエニルジルコニウム(IV)トリス(ジメチルアミド)]とを、それぞれ栓(ストッパー)付きの20mLガラス容器に10gずつ添加した。ガラス容器に栓(ストッパー)をして、その上を空気と遮られるように粘着テープでしっかりと巻いた後、不活性アルゴンで置換したグローブボックスの中に入れた。上記の2種化合物がそれぞれ満たされたガラス容器を同時に110℃に加熱された油浴中に6時間放置し、引き続き150℃で2時間放置した後、常温(室温)に冷却した。
【0086】
水素原子核磁気共鳴法(
1H nuclear magnetic resonance、
1H NMR)を利用して、それぞれの化合物の熱分解の程度を比べて、その結果を
図4A、
図4B、
図5A及び
図5Bに示した。
【0087】
図4A及び
図4Bの
1H NMRでは、CpTDMAZが加熱前と比べて加熱後に容易に分解されて不純物が生成したことを確認でき、これに対して、
図5A及び
図5Bの
1H NMRでは、実施例1の化合物が加熱前と比べて加熱後にも有意な変化がなかったことを確認できる。
【0088】
実施例9:ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)及びハフニウム(Hf)化合物の加熱重量分析試験
TGA(thermo-gravimetric analysis)法によって、TEMAZ[テトラキスエチルメチルアミドジルコニウム]、CpTDMAZ[シクロペンタジエニルジルコニウム(IV)トリスジメチルアミド]、並びに実施例1及び実施例2で製造した化合物の加熱重量分析試験をした。すなわち、アルゴン(Ar)ガス雰囲気(60L/分の速度で導入)下、試験物を10℃/分の速度で400℃まで加温して、試験物の重量が半分に減少する温度(T
1/2℃)を測定した。上記表1に記載されたように、実施例1及び実施例2によって合成された化合物は、T
1/2℃がそれぞれ195℃及び202℃であり、公知化合物であるTEMAZ及びCpTDMAZの164℃及び176℃よりも非常に高いことを確認した。
【0089】
同じ方法に従って、TDMAT、TEMAH並びに実施例5及び実施例7で製造した化合物の加熱重量分析試験をした。その結果、表2に記載されたように、実施例5によって合成された化合物のT
1/2℃が202℃であり、公知化合物であるTDMATの79℃よりも非常に高く、実施例7によって合成された化合物もT
1/2℃が181℃であり、公知化合物であるTEMAHの168℃より10℃以上高かった。
【0090】
上記説明したように、本発明は種々の特定の実施例によって説明されたが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明が属する技術分野での通常の技術思想と、記載した特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
(産業上の利用可能性)
本発明での4B族金属を含む新規な有機金属化合物は、高い熱安定性及び高い揮発性を有するので、次世代半導体の装置プロセスで高い信頼性及び効率性を付与することができる。