(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
−第1の実施形態−
以下、
図1〜
図11を参照して、本発明によるワーク加工面表示装置の第1の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るワーク加工面表示装置100の概略構成を示す図である。このワーク加工面表示装置100は、表示装置2と、表示装置2を制御する制御装置1とを有する。表示装置2は、ワーク加工面に生じる加工痕の画像を表示するモニタである。
【0011】
制御装置1は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成されるコンピュータであり、機能的には、
図1に示すように、加工点設定部11と、加工順序設定部12と、経路生成部16と、窪み特定部13と、表示制御部14とを有する。制御装置1には、CAD装置(Computer Aided Design Unit)3と入力装置4とが接続されている。制御装置1には、CAD装置3からワークの加工形状に対応した3次元の形状データが入力され、入力装置4から画像表示に関する各種データが入力される。表示制御部14は、画像信号を生成し、表示装置2に出力する。
【0012】
制御装置1は、経路生成部16によって回転工具の工具経路を生成し、ワーク表面を加工するための加工プログラムを作成する機能を有し、制御装置1で作成された加工プログラムは、NC装置(Numerical Control Unit)5に出力される。NC装置5は、この加工プログラムに基づいて工作機械を制御し、工作機械によりワーク表面が加工される。
図2は、本実施形態に係るワーク加工面表示装置100が適用される工作機械50の一例を示す正面図であり、ここでは立形のマシニングセンタを示している。
【0013】
図2に示すように、ベッド51上にはコラム52が立設され、コラム52には、直線送り機構を介して上下方向(Z軸方向)に移動可能に主軸頭53が支持されている。主軸頭53には、主軸を介して下向きに工具54が取り付けられている。工具54は、ワーク6の表面60を断続的に切削する切刃を有する回転工具であり、例えばボールエンドミルによって構成される。工具54は、主軸頭53内のスピンドルモータ58により、Z軸に平行な軸線L0を中心に回転駆動される。
【0014】
ベッド51上には、直線送り機構を介して水平方向(Y軸方向)に移動可能にサドル55が支持され、サドル55上にはY軸方向と直交する水平方向(X軸方向)に移動可能にテーブル56が支持されている。X軸用、Y軸用およびZ軸用の各直線送り機構は、例えばボールねじとボールねじを回転駆動するサーボモータ59とにより構成される。この構成により、工具54とワーク6とが直交3軸方向(X,Y,Z方向)に相対移動し、ワーク6が加工される。
【0015】
X軸用、Y軸用およびZ軸用のサーボモータ59は、実際には互いに異なる位置に配置されるが、
図2では便宜上、これらをまとめて1つのサーボモータ59として示している。工作機械50は、さらにA軸、B軸、C軸の回転送り軸を有していてもよい。ワーク6は、例えば表面の仕上げ精度が要求される成形用の金型である。なお、本実施形態に係るワーク加工面表示装置100が適用される工作機械50としては、例えば横形のマシニングセンタや5軸加工用のマシニングセンタ、マシニングセンタ以外の工作機械等、種々のものがある。
【0016】
図3は、ワーク表面60の加工状態を示す工具54の拡大図である。なお、
図3では、B軸を傾けて工具54の軸線L0をワーク表面60に対して相対的に傾斜させ、軸線L0とワーク表面60の垂線L1とのなす角を0°より大きな所定角度θ(例えば45°)としている。
図3に示すように、本実施形態で用いられる工具54は、周面に所定枚数の螺旋状の切刃54aを有し、その先端部が円弧状を呈するボールエンドミルである。なお、以下では説明を簡単にするために、工具54を、切刃54aの枚数が1枚である1枚刃ボールエンドミルと仮定する。工具先端部の球の中心54bを基準とした工具先端部形状(球の半径等)は、予め把握されており、工具54の位置は、中心54bの座標によって特定できる。
【0017】
工具54を回転させ、ワーク6に対して相対移動させながらワーク表面60を加工すると、ワーク表面60が切刃54aによって断続的に切削され、ワーク表面60にカスプ62(
図4B参照)と称される削り残し部が生じる。
【0018】
図4Aは、切削加工後のワーク表面形状の一例を示す平面図であり、
図4Bは、
図4Aのb−b線断面図である。
図4Aでは、ワーク表面60をXY平面で示しており、XY平面で例えば工具54を矢印PAに示すように加工点P0に沿って相対移動することにより、
図4Aのワーク表面形状が得られる。各加工点P0は、ワーク加工時における工具54の基準点である中心54bの目標位置を表す点、すなわち工具経路を生成する加工指令点であり、矢印PAは工具経路に相当する。加工プログラムには、工具経路PAに沿って順序付けられた加工点P0の位置データと、工具回転量のデータが含まれる。
【0019】
矢印PAに沿った各加工点P0,P0間の距離ΔPは、例えば1刃の送り量に相当し、加工点間で工具54が1刃分だけ回転する。なお、加工点P0,P0間のY軸方向の距離ΔYは、ピックフィード量に相当する。本実施形態では1枚刃ボールエンドミルを用いているため、加工点P0から次の加工点P0に至るまでに工具54が1回転する。工具54を回転させながら工具経路PAに沿って相対移動させることで、ワーク表面60が切刃54aによって削り取られ、ワーク表面60には工具形状に対応して球面状の複数の窪み61が形成される。
【0020】
図4Aの送り量ΔPは、窪み61の直径Dよりも小さく、窪み61同士は一部が重なり合っている。その結果、
図4Bに示すように、隣り合う窪み61と窪み61の間に、凸状の削り残し部であるカスプ62が生じる。なお、
図4Aにおいて、一の窪み61とその周囲の窪み61をそれぞれ61a、61bで表すと、窪み61aの周囲には、窪み61aと一部が重なるように均等に6個の窪み61bが形成され、窪み61aと各窪み61bの境界部に、それぞれ直線状の交線63が生じる。したがって、加工後の窪み形状は、6つの交線63で囲まれた平面視六角形状(実線)となる。
【0021】
図5は、ワーク表面60に形成される窪み61と加工点P0との位置関係を示す図である。
図5において、球面状の窪み61の中心点(隣り合うカスプ62,62の中間点)をP1、カスプ62の発生を無視した設計上のワーク表面を60aとする。
図5に示すように、窪み61の中心点P1は、ワーク表面60a上に位置し、加工点P0は、中心点P1から所定距離ΔL1だけ離れた位置に設定される。したがって、加工点P0を結んだ工具経路PAは、ワーク表面60aから所定距離ΔL1だけ離れて生成される。ここで、ΔL1は、
図3の工具54の中心54bから工具先端部の切刃54aの外周面までの距離、すなわち工具先端部の球の半径に相当する。なお、設計上のワーク表面60aと実際のワーク表面60との間の最大距離はカスプ高さΔL2に相当する。
【0022】
図4Aに示すように、ワーク表面60(厳密には設計上のワーク表面60a)の上方に加工点P0を均等に設定して工具経路PAを生成するとともに、各加工点間で工具54が1刃分だけ回転するように構成すれば、ワーク表面60に複数の窪み61を均一に配列することができる。しかしながら、加工領域が、互いに隣接する複数の加工領域(第1加工領域、第2加工領域)を含む場合、各加工領域では互いに独立して工具経路を生成するため、第1加工領域と第2加工領域の境界部に不完全形状の窪みが生成されるおそれがある。この問題点を、
図6を参照して説明する。
【0023】
図6は、第1加工領域AR1と第2加工領域AR2を含むワーク表面W1の平面図である。なお、加工領域とは、所定の工具経路に沿って加工される領域、すなわち加工パターンが一定の領域である。つまり、工具経路PAは加工領域毎に設定され、異なる加工領域における工具経路PAは互いに不連続である。
図6に示すように、第1加工領域AR1および第2加工領域AR2には、
図4Aと同様、それぞれ複数の加工点P0が均等に設定されている。
【0024】
ここで、工具経路PA1に沿って第1加工領域AR1を加工した後、工具経路PA1から独立した工具経路PA2に沿って第2加工領域を加工したと仮定する。この場合、第1加工領域AR1の窪み61の位置は、第2加工領域AR2の窪み61の位置とは無関係である。このため、第1加工領域AR1と第2加工領域AR2の境界部AR3に不完全形状の窪み61cが生じ、この不完全形状の窪み61cにより、ワーク加工面に筋目模様等の加工痕が残るおそれがある。
【0025】
このような加工痕は、表面の加工品位が要求されるワーク6(例えば金型)にとって好ましくはない。ワーク表面60に生じる加工痕を、ワーク加工前に予めユーザが把握することができれば、工具経路等の加工条件を設定し直すことにより、
図6に示したような筋目模様の発生を回避することができる。そこで、本実施形態では、ワーク表面60に生じる窪み61の形状および位置を予測し、その予測結果を表示装置2に表示させる。これを実現するため、以下のように制御装置1を構成する。
【0026】
図1の加工点設定部11は、ワーク表面形状を表す形状モデルを複数のメッシュに分割し、メッシュに応じて加工点P0を設定する。メッシュ作成のための条件は、予め入力装置4から入力され、メモリに記憶されている。加工点設定部11は、このメッシュ作成条件を読み込むとともに、CAD装置3から設計上のワーク表面60aの形状データを読み込む。そして、これらの入力データに基づいてワーク表面形状に沿ってメッシュを自動的に作成し、加工点P0を設定する。
【0027】
入力装置4は、キーボードやタッチパネル等により構成され、メッシュ作成条件として、メッシュの形状および寸法をユーザが入力可能となっている。なお、入力装置4からは、工具54の種類、切刃54aの数、工具先端部の寸法(工具先端部の球の半径)、工具54の送り速度および回転速度等の情報も入力される。入力装置4から入力された各種情報は、メモリに記憶される。
【0028】
メッシュ自動作成方法には種々のものがあり、一例を挙げるとドロニー(Delaunay)の三角分割が知られている。
図7は、加工点設定部11によって作成されたメッシュMSの一例を示す図である。この例では、ドロニーの三角分割を用いて、ワーク表面60aに沿って正三角形のメッシュMSが作成されている。メッシュMSの頂点は、表示装置2に表示される窪み61の中心点P1(
図5)に相当し、中心点P1、P1間の距離は、窪み61の大きさに相当する。加工点設定部11は、設計上のワーク表面60aをメッシュ分割した後、メッシュMSの各頂点P1から所定距離ΔL1(
図5)だけ離れた位置に加工点P0を設定する。設定した加工点P0は、メモリに記憶される。
【0029】
なお、以下では、表示装置2に表示される窪みを窪み画像610と呼び、実際のワーク表面60に形成される窪み61と区別する場合がある。加工点設定部11におけるメッシュ作成方法として、予めメッシュ作成の開始点をユーザが与え、この開始点から予め定められたパターンに従って順次メッシュMSを作成するようにしてもよい。加工点P0を自動で設定するのではなく、ユーザが入力装置4を介して手動で設定するようにしてもよい。すなわち、加工点設定部11で設定する加工点P0は、自動、手動のいずれであってもよい。
【0030】
加工順序設定部12は、加工点設定部11で設定された加工点P0を順次接続して加工順序を設定する。この加工順序は工具経路PAを表すものであり、例えば
図6の工具経路PA1,PA2に示すように、それぞれの加工領域AR1,AR2に含まれる加工点P0を、一方向に沿って一端部から他端部まで順次接続した後、ピックフィード量分だけずらして反対方向に順次接続することを繰り返すことにより、自動的に設定される。設定した加工順序は、メモリに記憶される。なお、加工順序を自動で設定するのではなく、ユーザが入力装置4を介して手動で設定するようにしてもよい。すなわち、加工順序設定部12で設定する加工順序は、自動、手動のいずれであってもよい。
【0031】
窪み特定部13は、CAD装置3から入力されたワーク6の形状データ、入力装置4から入力された工具54の形状データ、およびメモリに記憶された工具経路PAの情報(加工点P0と加工順序のデータ)に基づき、窪み61の形状および位置を特定する。より詳細には、まず、工具54の切刃54aの形状データ(円弧曲線)を取り出し、その曲線を工具経路PAの情報に従って回転および送り移動させたときの移動軌跡を求める。なお、工具経路PAの情報には、工具54の姿勢、回転速度、送り速度等の情報も含まれる。
【0032】
図8Aは、切刃54aの移動軌跡540の一例を示す図である。
図8Aでは、移動軌跡540が工具経路PAに沿って螺旋状に進行している。一方、通常の切削加工では、工具54の回転速度が送り速度に比べて十分に速く、加工点P0毎に工具54が1刃分回転することで、
図4Aに示すように、加工後のワーク表面60には球状の窪み61が形成される。従って、
図8Bに示すように、加工点P0(工具中心54b)を中心とした所定半径の球541を工具経路PAに沿って連なって配置し、これにより移動軌跡540を近似することができる。
【0033】
移動軌跡540の曲面データを求めた後、窪み特定部13は、CAD装置3から読み込まれたワーク形状データによって得られるワーク形状モデルから、移動軌跡540の重なった部分を取り除き、加工後のワーク形状モデルを作成する。
図9A,
図9Bは、加工後のワーク形状モデルM3の作成手順を説明する図であり、便宜上、加工前のワーク形状モデルM1を立方体で、切刃54aの移動軌跡540のモデルM2を半球で示している。
【0034】
図9Aに示すように、加工前のワーク形状モデルM1には球541の形状モデルM2の一部が重なっている。窪み特定部13は、ワーク形状モデルM1からこの重なった部分を取り除く。これにより
図9Bに示すように、ワーク形状モデルM1に窪み61が付加された加工後のワーク形状モデルM3を得ることができる。ワーク形状モデルM1から移動軌跡540のモデルM2を除去する演算は、例えばブーリアン演算を利用して行うことができる。なお、ブーリアン演算は、通常の三次元CAD装置が有する機能であり、詳細な説明は省略する。
【0035】
以上の手順によって得られたワーク形状モデルM3には、窪み61が形成されており、これによって窪み61の形状および位置を特定できる。この場合、
図8Bに示すように移動軌跡540を同一形状の球541の集合体によって近似すれば、各加工点P0の位置データと1種類の球541の形状データのみで、窪み61の形状および位置を定義することができる。その結果、データ量が少なくて済み、ワーク形状モデルM3を短時間で取得することができる。これに対し、1つの窪み61を何百もの点の位置データによって定義する場合、窪み61の形状および位置をより正確に定義することはできるが、データ量が膨大となり、計算時間が長くなる。
【0036】
表示制御部14は、ワーク形状モデルM3に対応した画像信号を生成する。そして、表示装置2に、窪み画像610を含むワーク加工面の画像(ワーク画像)を表示させる。例えば、通常の三次元CAD装置の表示方法として知られるポリゴンパッチ(三角パッチ等)あるいはワイヤフレームにより、窪み画像610を三次元的に表示させる。
【0037】
図10Aは、ワーク画像70の一例を示す図であり、
図10Bは、
図10Aのb部拡大図である。なお、ワーク画像70のどの位置を拡大するかは、入力装置4(例えばマウス)の操作によりユーザが適宜選択することができる。
図10Aの画像と
図10Bの画像は、モニタ画面を複数に分割して同時に表示するようにしてもよく、ユーザの選択に応じていずれか一方のみを表示するようにしてもよい。ワーク画像70における加工痕の表示は、予めユーザが設定した必要箇所についてのみ行うようにしてもよく、
図10Aでは、ワーク表面の一部の加工痕を表示している。
【0038】
図10Bでは、ワーク表面60の凹凸を明示するため、窪み画像610に陰影を付している。例えば、ワーク表面60に対して光源から光を照射したと仮定したときの、窪み画像610を構成する各要素(例えば三角パッチ)の光の反射率を求め、その反射率に応じて各要素の表示上の濃淡を変更している。これによりワーク表面60の凹凸を明瞭に表示することができる。
【0039】
以上の処理は、予め制御装置1に格納されたワーク加工面表示プログラムを、制御装置1のCPUに実行させることにより実現できる。
図11は、制御装置1で実行される処理(表示処理)の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばユーザが入力装置4を操作して加工面表示指令を入力すると開始される。
【0040】
ステップS1では、CAD装置3からワーク形状データを読み込むとともに、予めメモリに記憶された各種データ(メッシュ作成条件、工具54の形状データ、工具54の姿勢、回転速度、送り速度等のデータ)を読み込む。
【0041】
ステップS2では、メッシュ作成条件に応じてワーク表面60aを複数のメッシュMSに分割する。そして、メッシュMSの各頂点をそれぞれ窪み画像610の中心点P1として、これら中心点P1に対応した加工点P0を演算し、メモリに記憶する。
【0042】
ステップS3では、ステップS2で求めた各加工点P0を順次接続し、加工順序を設定する。加工順序は、工具経路PAの情報の一部であり、ステップS3では、工具54の姿勢、回転速度、送り速度等、予め記憶された他の工具経路PAの情報とともに、加工順序をメモリに記憶する。
【0043】
ステップS4では、工具経路PAの情報および予め記憶された工具54の形状データに基づき、切刃54aの移動軌跡540を演算する。例えば、加工点P0を中心とした球541の集合体(
図8B)が移動軌跡540であるとした場合、球541の形状データを演算する。
【0044】
ステップS5では、CAD装置3によって得られた加工前のワーク形状モデルM1から、ステップS4の工具54の移動軌跡540の重なった部分を取り除き、加工後のワーク形状モデルM3(
図9B)を作成する。すなわち、ブーリアン演算の減算処理を実行してワーク形状モデルM3を作成する。このワーク形状モデルM3には、窪み61が含まれるため、ワーク形状モデルM3を算出することで、窪み61の形状および位置を特定できる。
【0045】
ステップS6では、ステップS5のワーク形状モデルM3に対応した画像信号を生成する。例えば三角パッチによりワーク画像70を表示する場合、三角パッチの要素を生成する。この場合、ワーク形状モデルM3によって得られたワーク表面の凹凸に応じて、各要素の濃淡の程度を決定する。
【0046】
ステップS7では、ステップS6の画像信号に基づき表示装置2に制御信号を出力し、表示装置2にワーク形状モデルM3に対応したワーク画像70(
図10A,
図10B)を表示させる。このワーク画像70は、実際の加工痕と同様、窪み(窪み画像610)を含む。このため、ユーザは、ワーク加工によって生じる加工痕を予め容易に把握することができる。
【0047】
第1の実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)CAD装置3から得られたワーク形状モデルM1から切刃54aの移動軌跡540の形状モデルM2を削り取ることにより、切刃54aがワーク表面60を削り取ることによって生じる窪み61の形状および位置を特定した。そして、この窪み61の形状を表す窪み画像610を、その特定した位置に対応付けて表示装置2に表示させるようにした。これにより実際にワーク6を加工することなく、ワーク加工後の表面模様を予めユーザが把握することが可能となり、ワーク加工面の加工痕を考慮した最適な工具経路PAを、制御装置1が有する経路生成部16によって設定することができる。
(2)窪み画像610によって表される窪み形状は三次元形状(例えば球面状)であり、実際のワーク表面の加工痕の形状を良好に反映している。このため、ワーク加工後の表面模様を、ユーザは正しく把握することができる。
(3)ワーク画像70上の窪み形状を互いに同一形状(例えば球面状)とすれば、各窪み61の位置を特定する加工点P0毎の1点の位置データを用いて、窪み画像610を生成することができ、データ量が少なくて済む。
(4)ブーリアン演算により加工前のワーク形状モデルM1から切刃54aの移動軌跡540のモデルM2を取り除いて、加工後のワーク形状モデルM3を作成するようにした。したがって、一般的なグラフィックスの技法を用いて窪み61の形状および位置を容易に特定することができる。
(5)工具経路PAに応じて、ワーク形状モデルM1から切刃54aの移動軌跡のモデルM2を順次取り除いてワーク形状モデルM3を作成するようにした。したがって、加工点P0が同一であっても工具経路PAが異なる場合に、その工具経路PAに応じた加工痕を精度よく表示することができる。
−第2の実施形態−
図12を参照して本発明によるワーク加工面表示装置の第2の実施形態を説明する。
図12は、本発明の第2の実施形態に係るワーク加工面表示装置100の概略構成を示す図である。なお、
図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下では第1の実施形態との相違点を主に説明する。
【0048】
第1の実施形態(
図1)では、制御装置1に加工点設定部11と加工順序設定部12とを設け、制御装置1で工具経路PAを含む加工プログラムを生成してNC装置5に出力するようにした。これに対し、第2の実施形態では、予め図示しない工具経路生成装置で工具経路を生成し、この工具経路生成装置からNC装置5に出力された工具経路PAの情報を、制御装置1が取り込むように構成する。
【0049】
従って、
図12に示すように、第2の実施形態に係る制御装置1には、加工点設定部11と加工順序設定部12とが設けられておらず、その代わりに工具経路読込部15が設けられている。工具経路読込部15は、NC装置5から工具経路PAの情報を読み込み、メモリに記憶する。
【0050】
窪み特定部13は、第1の実施形態と同様、CAD装置3から入力されたワーク6の形状データ、入力装置4から入力された工具54の形状データ、およびメモリに記憶された工具経路PAの情報に基づき、ワーク形状モデルM3を作成し、窪み61の形状および位置を特定する。表示制御部14は、第1の実施形態と同様、ワーク形状モデルM3に対応した画像信号を生成し、表示装置2に、窪み画像610を含むワーク加工面の画像(
図10A,
図10Bのワーク画像70)を表示させる。これによりワーク加工後の加工痕である表面模様を予めユーザが予測することができ、工具経路PAを修正すべきか否かの判断が可能となる。とくに、第2の実施形態では、実際の加工用の工具経路PAを取り込み、この工具経路PAに基づいてワーク画像70を形成するので、ワーク画像70が実際の加工痕に良好に対応する。
【0051】
第2の実施形態では、NC装置5から工具経路PAを読み込む。このため、
図11のステップS2、ステップS3の処理は不要である。なお、これ以外の処理は、
図11と同様である。
【0052】
上記実施形態では、第1の工程として、加工前のワーク形状モデルM1から切刃54aの移動軌跡540のモデルM2を取り除いて加工後のワーク形状モデルM3を作成することで、窪み61の形状および位置を特定するようにした。このようにワーク加工前に、切刃54aがワーク加工面60を削り取ることによって生じる窪み61の形状および位置を特定するのであれば、窪み特定部13の構成は上述したものに限らない。また、切刃54aがワーク加工面を削り取ることによって生じる窪み61の形状および位置を予測するのであれば、ワーク加工面表示方法としての第1の工程は、いかなるものでもよい。例えば制御装置1以外で窪み61の形状、位置を予測し、この予測結果を制御装置1に取り込むようにしてもよい。
【0053】
上記実施形態では、第2の工程として、ワーク形状モデルM3によって特定した窪み61の形状および位置に対応する画像信号を生成し、表示装置2に窪み画像610を含むワーク画像70を表示させるようにした。このように窪み61の形状を表す窪み画像610を、窪み特定部13で特定された位置に表示するように表示装置2を制御するのであれば、表示制御部14の構成は上述したものに限らない。第1の工程で予測した窪み61の形状を表す窪み画像610を、その予測した位置に対応付けて表示させるのであれば、ワーク加工面表示方法としての第2の工程は、いかなるものでもよい。
【0054】
ワーク加工前に、切刃54aがワーク加工面60を削り取ることによって生じる窪み61の形状および位置を特定する第1の手順と、第1の手順で特定された窪み61の形状を表す窪み画像610を、その特定された位置に表示するように表示装置2を制御する第2の手順とを、コンピュータとしての制御装置1に実行させるのであれば、ワーク加工面表示プログラムの構成は上述したものに限らない。したがって、制御装置1における処理も
図11に示したものに限らない。ワーク加工面表示プログラムは、種々の記憶媒体や通信回線等を介して制御装置1に格納することができる。
【0055】
上記実施形態では、ボールエンドミルを工具54として用いたが、その代わりにブルノーズエンドミル(ラジアスエンドミル)を用いてもよい。ブルノーズエンドミルを用いた場合には、窪み61を球面状ではなく、トーラス形状に近似できる。したがって、ワーク表面の加工痕は、例えば平面視で横長の六角形となり、これに合わせて窪み画像610の形状を設定すればよい。すなわち、上記実施形態では、窪み画像610を球面で近似したが、楕円球面等、他の曲面で近似してもよい。
【0056】
ワーク形状モデルM3の窪み61を、一例として全て同一形状の球面状としたが、球面状および楕円球面状等、窪み61の形状を複数設定し、窪み61の位置に応じていずれかの形状の窪みを設定するようにしてもよい。ワーク表面60の凹凸が明示されるように、窪み画像610をポリゴンパッチ等により三次元的に表示したが、単なる六角形状として二次元的に表示するようにしてもよい。回転工具54として、砥石等、切刃を有する他の回転工具を用いた場合にも、本発明は同様に適用可能である。
【0057】
表示装置2と、窪み特定部13と、表示制御部14と、経路生成部16とを有する工具経路生成装置の構成は上述したものに限らない。表示装置2は、本実施形態のようにワーク表面加工装置100やワーク表面加工装置100に経路生成部を加えた工具経路生成装置に備わっている形態に限らず、NC装置5の表示装置と兼用してもよく、また、工作機械50の操作盤の表示装置と兼用してもよい。
【0058】
本発明によれば、ワーク加工前に、切刃がワーク加工面を削り取ることによって生じる窪みの形状および位置を予測し、窪みの形状を表す窪み画像をその予測した位置に対応付けて表示させるようにした。したがって、ワーク加工後の窪みによって表される表面模様(加工痕)を、予めユーザは容易に把握することができる。