特許第5957075号(P5957075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957075
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】変成層非担持の真空ポンプ部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 9/06 20060101AFI20160714BHJP
   C25D 11/14 20060101ALI20160714BHJP
   C25D 11/30 20060101ALI20160714BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   C25D9/06
   C25D11/14 H
   C25D11/30
   C25D11/26 302
   C25D11/26 303
   C25D11/26 A
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-516291(P2014-516291)
(86)(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公表番号】特表2014-520211(P2014-520211A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】EP2012061491
(87)【国際公開番号】WO2012175429
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年4月3日
(31)【優先権主張番号】102011105455.7
(32)【優先日】2011年6月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507102296
【氏名又は名称】エーリコン ライボルト ヴァキューム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Leybold Vacuum GmbH
(73)【特許権者】
【識別番号】510208712
【氏名又は名称】ヘンケル・アーゲー・アンド・カンパニー・カーゲーアーアー
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】フロイツハイム,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヘップカウゼン,ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ポントゥラング,アンディー
(72)【発明者】
【氏名】ヒューゼマン,ルッツ
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−528279(JP,A)
【文献】 特表2005−513277(JP,A)
【文献】 特表2002−508454(JP,A)
【文献】 特表2005−504883(JP,A)
【文献】 特表2008−518098(JP,A)
【文献】 特表2008−518097(JP,A)
【文献】 特表2008−518096(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/116747(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/118919(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/114988(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 9/06
C25D 11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ金属又はその合金の酸化バリア層である変成層非担持で、前記バルブ金属又はその合金で形成されている真空ポンプ部材であって、
ホウ素、ゲルマニウム、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニオブ、ハフニウム、及び/又はジルコニウム、並びにその混合物からなる群のうちの何れかの元素の酸化物及び/又は酸化フッ化物の少なくとも何れかである被覆膜を、陽極での電気めっきで生成させて表面に有しており、その層の厚さを5〜50μmとすることを特徴とする変成層非担持の真空ポンプ部材。
【請求項2】
ローター、ステーター、分割ステーターディスク、螺旋状台座、筺体、及び軸受胴を有することを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記バルブ金属が、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニオブ、及び/又はジルコニウム、並びにその合金から選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の部材。
【請求項4】
前記被覆膜が、アルミニウム、チタン、及び/又はジルコニウムの酸化物及び/又は酸化フッ化物の少なくとも何れかを含有していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の部材。
【請求項5】
前記表面での被覆膜が、前記厚さを15〜30μmとすることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の部材。
【請求項6】
電気めっきで陽極に作製して、バルブ金属又はその合金の酸化バリア層である変成層非担持で、前記バルブ金属又はその合金で形成された真空ポンプ部材を、製造する方法であって、
(a)ホウ素、ゲルマニウム、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニオブ、ハフニウム、及び/又はジルコニウム、並びにその混合物からなる群のうちの元素のフッ化物及び酸化フッ化物の水分散性複合体から少なくとも選ばれた成分が、水と共に加えられて、含有されている陽極酸化溶液を、調製し、
(b)前記陽極酸化溶液を陰極に接触させ、
(c)前記陽極酸化溶液に陽極となる部材を投入し、
(d)前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加して、前記部材の表面被覆膜を付すことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ金属又はその合金で形成されているもので変成層非担持の真空ポンプ部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、金属や酸化物セラミックの層からなるバリア薄層を有しつつバルブ金属やその合金で形成された基材を、その表面でフッ素樹脂により被覆する被覆方法であって、フッ素樹脂を減圧含浸によって溶液状にして酸化物セラミック層の毛細管系に誘導し、次いでその溶液の非湿潤部位を除去し、乾燥することを特徴とする方法に関するものである。それによれば、バルブ金属として、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニオブ、又はジルコニウム、及びそれらの合金が挙げられている。さらにその明細書には、ターボ分子ポンプのローターやステーターのようなバルブ金属製真空ポンプ部材についても、記載されている。
【0003】
その特許文献1によれば、その発明の範疇における「アルミニウム及びその合金」は、超高純度アルミニウムや、AlMn;AlMnCu;AlMg;AlMg1.5;E−AlMgSi;AlMgSi0.5;AlZnMgCu0.5;AlZnMgCu1.5;G−AlSi1.2;G−AlSiMG;G−AlSiCu;G−AlCuTi;G−AlCuTiMgのような合金を、指称している。また、その発明の目的達成のためには、純マグネシウムの他、とりわけ米国材料試験協会(ASTM)規格のAS41,AM60,AZ61,AZ63,AZ81;AZ91,HK31,QE22,ZE41,ZH62,ZK51,ZK61,EZ33,HZ32のようなマグネシウム鋳造合金や、同AZ31,AZ61,AZ80,M1 ZK60,ZK40のような鍛造合金が、適している。さらに、純チタンやTiAl,TiAlFe2.5のようなチタン合金なども用いられている。
【0004】
その特許文献1によれば、酸化物セラミック層は、本質的に部材の表面の変成層によって形成されるので、基材の処置部位が損失されて酸化バリア層へと変成される。
【0005】
さらに、従来から陽極酸化層が知られており、化学的プラズマ陽極酸化法(KEPLA−Coat(登録商標)、KERONITE(登録商標)など)が知られている。また前記バルブ金属へのニッケルコーティングも知られている。
【0006】
前記の被覆方法は何れも、外形通りの層を形成することができるというものである。しかし、これらの層は何れも、真空技術への応用には特有のデメリットがある。陽極酸化法では、腐蝕からの保護を多少なりとも抑制してしまう細孔構造を明らかに、生じてしまう。無電解ニッケル層は、所謂「ピンホール」を有している。ピンホールの数や大きさを少なくするために、いずれにしてもより厚い層にすることが、必要となる。また、特に真空下での無電解ニッケル層が欠陥間での冷間溶接を引き起こし易いため、このような層の減摩作用は不十分となってしまう。
【0007】
また、真空ポンプの部材の被覆膜について、例えば特許文献2にも、記載されている。バルブ金属で形成された基材、とりわけ金属から形成され、酸化物セラミック層を有する真空ポンプ部材は、金属に接触するバリア薄層を有し、パリレン類で形成された別な重合体層を備えている。その点に関し、特許文献2は、その中で、表面被覆膜のための組成物とその塗布方法とについて言及している。
【0008】
特許文献3〜5には、直流又は交流陽極酸化によりアルミニウム及び/又はチタンで形成された基材に付されるチタニア及び/又はジルコニア製の耐腐蝕性・耐熱性・耐摩耗性のセラミック被覆膜を有する基材の作製について記載されている。従来技術のこれら方法は、基材を特定していない。しかも耐化学薬品性、とりわけクエン酸や塩酸及び/又はフッ化水素酸の蒸気への抵抗性についての記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第101 63864 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2005040 648 A1号明細書
【特許文献3】国際公開第2003/029529 A1号
【特許文献4】国際公開第2006/047501 A2号
【特許文献5】国際公開第2006/047526 A2号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのためになされた本発明は、バルブ金属又はその合金で形成されており、耐腐蝕性・耐熱性・耐摩耗性を有し、変成層を担持せず、電気めっきで生成された被覆膜を担持しており、化学薬品、とりわけクエン酸や塩酸の蒸気に対する抵抗性がある変成層非担持の真空ポンプ部材を提供することを目的とする。特に真空技術においてHCl及び/又はHFの蒸気/ガスのような侵襲性ガスと接触してしまう真空ポンプの部品を製造できることが、とりわけ重要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた変成層非担持の真空ポンプ部材の第一の実施例は、バルブ金属又はその合金の酸化バリア層である変成層非担持で、前記バルブ金属又はその合金で形成されているものであって、ホウ素、ゲルマニウム、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニオブ、ハフニウム、及び/又はジルコニウム、並びにその混合物からなる群のうちの元素の酸化物及び/又は酸化フッ化物の少なくとも何れかである被覆膜を、陽極での電気めっきで生成させて表面に有しており、層の厚さを5〜50μmとすることを特徴とする。
【0012】
前記の課題の解決は、KEPLA−Coat(登録商標)又は陽極酸化層のような公知の変成層によって成し得る表面の外形通りの被覆を用いて、なされる。しかし、本発明によれば、本質的に如何なる基材も変成によって損失されず、言い換えると変成層を生成しない。そのため、特にメンテナンスに際し非常に重要であるのだが、必要に応じて基材の損失を生じること無く何度でも繰り返して被覆することができるのである。
【0013】
製法技術の詳細は、前記特許文献3〜5で詳しく把握できる。この点は、これらの特許文献の全体を参照することにより、本明細書へも記載されているものとする。
【発明の効果】
【0014】
堆積速度が速いので、めっき時間を、通常の陽極酸化法に比べ約1/3に、また前記のKEPLA−Coat(登録商標)法に比べ1/6(15分)に、短縮できる。それによって、十分に経済的効果がもたらされる。さらに、本発明によって作製され、バルブ金属又はその合金で形成された、変成層非担持の真空ポンプ部材には、エッジ効果を発現しない。とりわけこの特性は、前記特許文献で知られておらず、それ故、本発明の予期し得ない効果となっている。
【0015】
陽極酸化法やKEPLA−Coat(登録商標)法で作製された層に比べると、高い耐摩耗性が得られている。その堆積層は、約700°HVの硬度を有することが、可能である。
【0016】
本発明によれば、公知の被覆膜層系よりも非常に優れた腐蝕保護性をもたらすことができる。とりわけ、クエン酸や塩酸に対する保護作用がある。よく知られているように、陽極酸化層はクエン酸に対し影響され易く、KEPLA−Coat(登録商標)層は塩酸に対して十分な安定性が無い。
【0017】
電解液は、バルブ金属やその合金で形成される真空ポンプ部品の公知の被覆方法に必要な使用期限よりも長くなったら、分析して検査したり、随時補充したりして、最低限の使用が可能な状態にしている。それに対し、KEPLA−Coat(登録商標)の電解液は、原材料に由来する汚染の所為で使用のたびに廃棄しなければならない。これと同様なことが陽極酸化膜の電解液にも当てはまる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を適用する真空ポンプの部品は、バルブ金属又はその合金で形成されており、とりわけ、ローター、ステーター、分割ステーターディスク、螺旋状台座、筺体、及び軸受胴を有している。
【0019】
明細書中、「バルブ金属」の用語は、従来技術と同じく、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニオブ、及び/又はジルコニウム、並びにその合金の群から選ばれる金属である。明細書で当初記載しておいたようなアルミニウム、マグネシウム及びチタンの特定の各合金は、本発明でも好ましく用いられる。
【0020】
表面被覆膜は、アルミニウム、チタン、及び/又はジルコニウムのうちの酸化物及び/又は酸化フッ化物の少なくとも何れかであることが好ましい。これらは、本発明の効果を実現するのに最も適している。
【0021】
本発明の一態様中、表面被覆膜の層の厚さを5〜50μmとするものである。本発明では、特に表面被覆膜の厚さが15〜30μmであると好ましい。表面被覆膜の厚さが薄過ぎていると、腐蝕・熱・摩耗や化学薬品に対して十分な保護特性が担保できない。一方、表面被覆膜の厚さが厚過ぎていると、この表面被覆膜が剥落してしまううえ、この表面被覆膜が厚過ぎる所為で非経済的になってしまう。
【0022】
本発明の別な態様は、電気めっきで陽極に作製して、バルブ金属又はその合金の酸化バリア層である変成層非担持で、前記バルブ金属又はその合金で形成された真空ポンプ部材を、製造する方法であって、
(a)ホウ素、ゲルマニウム、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニオブ、ハフニウム、及び/又はジルコニウム、並びにその混合物からなる群のうちの元素のフッ化物及び酸化フッ化物の水分散性複合体から少なくとも選ばれた成分が、水と共に加えられて、含有されている陽極酸化溶液を、調製し、
(b)前記陽極酸化溶液を陰極に接触させ、
(c)前記陽極酸化溶液に陽極となる部材を投入し、
(d)前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加して、前記部材の表面被覆膜を付す
ことを特徴としている。
【0023】
原理的には、この方法は前記の特許文献3〜5で既に公知である。本発明は、バルブ金属やその合金で形成した真空ポンプの部品を選択していることが、これら文献と相違しているところである。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
100×50×1.5mmの寸法のAlMgSiの試験シートに、前記特許文献3〜5のようにして電解液中にて400ボルトで5分間印加して陽極酸化で被覆した。その層の厚さは、計測したところ、約10μmであった。
【0025】
(実施例2)
実施例1における試験シートを、同様にして10分間、被覆した。その層の厚さは、計測したところ、約12μmであった。
【0026】
(実施例3)
実施例1及び2で得られた被覆した試験シートを、15重量%塩酸入りの溶液槽上で生じさせた塩酸雰囲気に曝露した。144時間及び300時間の耐久試験後に、試験シート上の酸化物セラミック層の剥落について、観察した。試験シート上の酸化物セラミック層は、この曝露時間中、損傷を受けないままであった。
【0027】
(実施例4)
実施例1及び2で得られた被覆した試験シートを、2%、3.5%、5%濃度のクエン酸溶液に曝露した。90時間の耐久試験後に、試験シート上の酸化物セラミック層の剥落について、観察した。試験シート上の酸化物セラミック層は、この曝露時間中、損傷を受けないままであった。