特許第5957085号(P5957085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5957085改善されたバイオアベイラビリティーのためにATFと融合させた薬剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957085
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】改善されたバイオアベイラビリティーのためにATFと融合させた薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/46 20060101AFI20160714BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20160714BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20160714BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20160714BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160714BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20160714BHJP
   C07H 21/04 20060101ALI20160714BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20160714BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20160714BHJP
【FI】
   A61K37/54
   A61K47/42ZNA
   A61P3/00
   A61K47/48
   C12N15/00 A
   C12N5/071
   C07H21/04 B
   !C07K19/00
   !C12N9/24
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-537404(P2014-537404)
(86)(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公表番号】特表2015-511932(P2015-511932A)
(43)【公表日】2015年4月23日
(86)【国際出願番号】JP2012000805
(87)【国際公開番号】WO2013118165
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2014年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
(72)【発明者】
【氏名】余田 英士
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−528035(JP,A)
【文献】 特表2004−535791(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/044892(WO,A1)
【文献】 ANTICANCER RESEARCH,2006年,VOL.26,P.1745-1751
【文献】 JOURNAL OF THE NATIONAL CANCER INSTITUTE,2002年,VOL.94, NO.8,P.597-606
【文献】 CURRENT PHARMACEUTICAL DESIGN,2011年,VOL.17,P.1970-1978
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
C07K 19/00
C12N 15/09
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライソゾーム酵素(A)とこれに融合させたペプチド(B)とを含み該ペプチド(B)がATFの受容体結合ドメインを含むものである薬剤を含有してなる,酵素補充療法用薬剤組成物
【請求項2】
該ライソゾーム酵素が,酸性α−グルコシダーゼ,α−ガラクトシダーゼ,グルコシルセラミダーゼ,α−L−イズロニダーゼ,イズロン酸−2−スルファターゼ,N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ,又は酸性スフィンゴミエリナーゼからなる群より選ばれるものである,請求項の薬剤組成物
【請求項3】
該ペプチド(B)が,該タンパク質のアミノ末端アミノ酸と該ペプチド(B)のカルボキシ末端アミノ酸との間に形成されたペプチド結合によって,該タンパク質に融合させてあるものである,請求項1又は2の薬剤組成物
【請求項4】
該ペプチド(B)が,該タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸と該ペプチド(B)のアミノ末端アミノ酸との間に形成されたペプチド結合によって,該タンパク質に融合させてあるものである,請求項1又は2の薬剤組成物
【請求項5】
該ペプチド(B)が,配列番号33に示すアミノ酸配列,又は1〜3個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,請求項1〜の何れかの薬剤組成物
【請求項6】
該ペプチド(B)が,配列番号32示すアミノ酸配列又は1〜10個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,請求項1〜の何れかの薬剤組成物
【請求項7】
該ペプチド(B)が,配列番号32に示すアミノ酸配列よりなり,そして該ペプチド(B)がそのカルボキシ末端アミノ酸において,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して,該ライソゾーム酵素(A)に融合させてあるものである,請求項の薬剤組成物
【請求項8】
該リンカーが,-Lys-,Lys-Pro-,-Lys-Pro-Ser-,-Lys-Pro-Ser-Ser-(配列番号41),及び -Lys-Pro-Ser-Ser-Pro-(配列番号42)からなる群より選ばれるものである,請求項の薬剤組成物
【請求項9】
該ペプチド(B)が,配列番号31に示すアミノ酸配列又は1〜5個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,請求項1〜の何れかの薬剤組成物
【請求項10】
該ペプチド(B)が,配列番号31に示すアミノ酸配列又は1〜10個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,請求項1〜の何れかの薬剤組成物
【請求項11】
該ペプチド(B)が,配列番号31に示したアミノ酸配列よりなり,そして該ペプチド(B)がそのカルボキシ末端アミノ酸において,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して,該ライソゾーム酵素(A)に融合させてあるものである,請求項10の薬剤組成物
【請求項12】
該リンカーが,-Lys-,Lys-Pro-,-Lys-Pro-Ser-,-Lys-Pro-Ser-Ser-(配列番号41),及び -Lys-Pro-Ser-Ser-Pro-(配列番号42)からなる群より選ばれるものである,請求項11の薬剤組成物
【請求項13】
ライソゾーム酵素(A)とこれに融合させたペプチド(B)とを含んでなり,該ペプチド(B)がATFの受容体結合ドメインを含み,そして該ペプチド(B)が,該ペプチド(B)のアミノ又はカルボキシ末端において,ペプチド結合により,該ライソゾーム酵素(A)に融合させてあるものである融合タンパク質をコードするDNA。
【請求項14】
該ライソゾーム酵素が,酸性α−グルコシダーゼ,α−ガラクトシダーゼ,グルコシルセラミダーゼ,α−L−イズロニダーゼ,イズロン酸−2−スルファターゼ,N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼからなる群より選ばれるものである,請求項13DNA
【請求項15】
請求項13又は14のDNAを含んでなる発現ベクター。
【請求項16】
請求項15のベクターで形質転換された哺乳類細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,改善されたバイオアベイラビリティーを有する薬剤及びウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター(ATF)のアミノ末端フラグメントを用いる薬物のバイオアベイラビリティーの改善方法に関する。より具体的には,本発明は,細胞表面上に発現しているウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター受容体への,ATF部分の結合を介した,ATFに結合させた薬用タンパク質の細胞内への送達に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの場合,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター(uPA)は,ジスルフィド結合により互いに結合されている2つのペプチド鎖よりなるタンパク質である。それらの鎖,A及びBは,プロウロキナーゼのアミノ酸178及び179の間の酵素切断(プラスミン,カリクレイン,カテプシン等)により形成され,プロウロキナーゼはプレプロ・ウロキナーゼ(sc-uPA)と呼ばれる一本鎖タンパク質のN末端シグナルペプチド(アミノ酸1〜20)の除去によって形成されている。uPAは次いで,インビボにおいてアミノ酸155及び156の間で切断され,それにより低分子量ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター(LMW-uPA)とウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーターのアミノ末端フラグメント(ATF)とを生ずる。
【0003】
uPAは,タンパク質分解活性を有しており生理学的条件において,プラスミノーゲンをプラスミンへと変換して,血栓形成又は細胞外マトリックス分解をもたらすタンパク質分解カスケードを始動させる。uPAは,2個のドメイン即ちATF及びプロテアーゼドメインを含む。ATFは,アミノ末端側のアミノ酸1〜135よりなる領域であり,これに対しプロテアーゼドメインは,uPAのカルボキシ末端側のアミノ酸136〜411よりなる領域である。ATFは,このように,プロテアーゼ活性を持たず,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター受容体(uPAR)に親和性を有する(非特許文献1)。
【0004】
ATFそれ自体は,2個の独立したドメインから構成されている。即ち,それによってuPAがuPARに結合するものであるアミノ末端成長因子様ドメイン(N末端から1〜43番目のアミノ酸),及び1個のクリングルドメイン(N末端から43〜135番目のアミノ酸)である(非特許文献2,3)。従って,ATFそれ自体,アミノ末端の成長因子様ドメインを介して,uPARに結合することができる。
【0005】
uPAは,GPI-アンカー膜タンパク質であり,335個のアミノ酸からなり,3個の細胞外ドメインを有しており,それらのうちN末端から最初にあるドメインが,uPAの結合部位として働く(非特許文献4)。uPARへのATFの結合は,細胞内に内在化されず,これに対し,uPARへのuPAの結合は,プラスミノーゲンアクティベーター阻害剤と複合体形成した場合には,内在化される(非特許文献5)。
【0006】
uPAR結合タンパク質(uPARAP)は,ENDO180としても知られているが,マクロファージのマンノース受容体タンパク質ファミリーに属するレクチン様膜タンパク質である(非特許文献6)。ENDO180は,内在化受容体であり,それに結合したリガンドをライソゾームに導き,そこでライソゾーム酵素が触媒活性を作用させてリガンドを分解する。ENDO180は,uPA及びuPARと三重複合体を形成することも知られている。
【0007】
ライソゾーム病は,一群の希な遺伝的代謝疾患であるが,様々なライソゾーム酵素をコードする遺伝子における種々の遺伝子障害によって引き起こされる。それらの酵素のどれかの酵素活性の欠如は,それらの基質の細胞内蓄積をもたらし,それは次いで,細胞に重大な傷害を与える。
【0008】
ライソゾーム病には,例えば,ポンペ病,ファブリー病,ゴーシェ病,ハーラー症候群(ムコ多糖症I型,MPS I),ハンター症候群(MPS II),マロトー・ラミー症候群(MPS VI),ニーマン・ピック病,及びモルキオ症候群(MPS IV)が含まれる。勿論,幾つかのタイプのライソゾーム病は,酵素補充療法(ERT)により治療されており,患者に欠けている酵素が,外部から当該患者に供給される。
【0009】
ポンペ病は,α−グルコシダーゼの欠損により引き起こされるものであり,筋肉の衰弱と心筋症によって臨床上特徴づけられるライソゾーム蓄積病である。この疾患には,筋力衰弱の進行と緩和し,心機能を改善するのに酵素補充療法(ERT)が有効であることが確立されており,組換え酸性α−グルコシダーゼが患者に投与されている。この療法の有効性は,発症年齢と疾患の重篤度を異にする患者での幾つかの臨床試験により,確認されている(非特許文献7)。
【0010】
ファブリー病は,α−ガラクトシダーゼの欠損により引き起こされるものであり,疼痛,腎不全,心筋症,及び脳卒中により臨床上特徴づけられるライソゾーム蓄積病であり,それらが,この疾患の罹患率及び死亡率の原因をなしている。ファブリー病患者には,2種の異なった酵素製剤が入手可能である。これらの製剤の一つを用いた酵素補充療法(ERT)が患者の生活の質(QOL)を改善するのに有効であることが確立されている。この療法の有効性は実証されており,それは,疼痛の緩和,心臓サイズの減少,聴力及び発汗の改善,腎機能の安定化,及び最終段階の腎疾患を有する患者における腎不全の遅延を含む(非特許文献8)。
【0011】
ゴーシェ病は,グルコシルセラミダーゼの遺伝的欠損によって引き起こされる遺伝子疾患であり,痣の形成,疲労,貧血,血小板減少,及び肝臓及び脾臓の肥大によって特徴づけられるライソゾーム蓄積病である。酵素補充療法(ERT)が患者の生活の質(QOL)を改善するのに有効であることが十分に確立されている(非特許文献9)。
【0012】
ハーラー症候群は,ムコ多糖症IH型として知られているものであり,α−L−イズロニダーゼの遺伝的障害によって引き起こされる。シャイエ症候群は,ムコ多糖症IS型であり,ハーラー症候群の穏やかな症例である。これらの疾患は,中間的な型も含めて,ハーラー・シャイエ症候群に分類されている。ハーラー症候群の患者は,ライソゾーム中にデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸を蓄積させ,その結果,幼児の段階で発症する進行性の強度の身体変形と知恵の遅れを示し,10歳までに死に至る。シェイエ症候群の場合には,知恵の遅れは観察されないか,又はごく僅かにしか観察されない。両方の場合において,尿中のデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸が典型的に観察される。α−L−イズロニダーゼによる酵素補充療法(ERT)が,ハーラー症候群の患者の呼吸機能と身体能力を優位に改善し且つグリコースアミノグリカン蓄積を低下させることが,十分に確立されている(非特許文献10)。
【0013】
ハンター症候群は,α−L−イズロニダーゼ,イズロン酸−2−スルファターゼ(I2S)の遺伝的障害により引き起こされる遺伝病である(非特許文献11)。I2Sは,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸等のようなグリコースアミノグリカンの分子中の硫酸エステル結合加水分解する活性を有するライソゾーム酵素である。この酵素の欠損は,その基質の蓄積を肝臓及び腎臓の組織等のような種々の組織にもたらし,それは次いで,骨格変形おy日重度の知恵遅れを含むハンター症候群の患者に見られる多様な症状を引き起こす。酵素補充療法(ERT)が患者の身体能力を改善することが,十分に確立されている(非特許文献12)。
【0014】
マロトー・ラミー症候群は,ムコ多糖症VI型であり,N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ(ASB)の遺伝子障害によって引き起こされる遺伝病である。ASBは,アリールスルファターゼBとして知られているものであり,コンドロイチン4−硫酸,デルマタン硫酸,及びUDP−N−アセチルガラクトサミン4−硫酸から,加水分解反応により硫酸イオンを遊離させる酵素である。この酵素を用いた酵素補充療法(ERT)が患者の身体能力を改善することが十分に確立されている(非特許文献13)。
【0015】
ニーマン・ピック病は,病因の相違及び症状に従ってA型〜F型に分類されている。それらのうちA型及びB型は,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の遺伝的欠損によって引き起こされる。ASMは,スフィンゴミエリンをコリンリン酸及びセラミドに加水分解するライソゾーム酵素である。ASMの酵素活性は,A型では顕著に低下しており,これに対しB型では比較的高いままである。このような相違は,ASM遺伝子における対応する変異パターンに由来する。A型の場合,ASMの酵素活性の欠損は,中枢神経系,肝臓,脾臓,肺及び骨髄におけるスフィンゴミエリンの蓄積を引き起こし,従って肝脾腫及び中枢神経系障害をもたらす。結果として,A型患者の大半は4歳に達する前に死亡する。これに対し,B型患者の大半は,中枢神経系障害にはならず,生存し成長することが可能である。ASMによる酵素補充療法(ERT)の有効性が報告されているものの,十分には確立されていない(特許文献1)。
【0016】
酵素補充療法において,患者は,欠いている酵素の静脈内注入を受ける。注入された酵素が臨床効果を示すためには,それが作用すべき場である細胞内にその酵素が取り込まれることが必須である。更には,その酵素が臨床効果を示すには,酵素が,その触媒活性が発揮される部位であるライソゾーム内へと仕分けされることも必須である。
【0017】
ERTに用いられる酵素は,マンノース−6−リン酸又はマンノース残基を含む結合した糖鎖を有しており,そして細胞表面に発現しているマンノース−6−リン酸受容体又はマンノース受容体への結合を通じて,当該酵素は細胞に取り込まれ,次いでライソゾーム内に仕分けされ,そこで酵素活性を発揮する(非特許文献14〜16)。しかしながらマンノース−6−リン酸受容体及びマンノース受容体はヒトの身体の至る所で発現しておりそれらの受容体への酵素の結合は,活性を発揮すべき組織へと酵素が特定の組織へ仕分けされるには,不十分である。加えて,これらの受容体は肝臓及び脾臓の双方において発現していることから,糖鎖内にマンノース又はマンノース−6−リン酸残基を含む注入された酵素が,これらの器官によって速やかに除去されてしまうことも起こり得る(非特許文献14)。
【0018】
従って,細胞内へのこれらの酵素のより効率的な取り込みを達成するには,マンノース−6−リン酸受容体やマンノース受容体以外の,細胞表面の他の分子に対する親和性を有する何か別のリガンドで酵素が修飾されている必要がある。ERTに現在入手可能な酵素は,何れもそのようなリガンドを含んでいないものであるが,それらの標的組織へ効果的には仕分けされず,限定的な効果しかもたらさない,と考えられる。
【0019】
更には,α−グルコシダーゼ等のような,マンノース−6−リン酸の含量が比較的低い酵素の場合には,マンノース−6−リン酸を介した受容体への結合は,それらが細胞内に取り込まれるには不十分である。この難点を克服するために,LDL受容体のリガンドの1つである受容体関連タンパク質に酵素を融合させる試みがなされ,酵素の細胞取り込みの改善が報告されている(非特許文献17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5686240号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Blasi F., et. al., J Cell Biol. 104, 801-4 (1987)
【非特許文献2】Novokhatny V., et. al., J Biol Chem. 267:3878-86 (1992).
【非特許文献3】Mazar AP., et. al., Fibrinolysis. 6:49-55 (1992).
【非特許文献4】Ploug M., et. al., J Biol Chem. 266:1926-33 (1991).
【非特許文献5】Cubellis MV., et. al., EMBO J. 9:1079-85 (1990).
【非特許文献6】Behrendt N., et. al., J Biol Chem. 275, 1993-2002 (2000)
【非特許文献7】Nicolino, M., et. al., Genet Med. 11, 210-9 (2009)
【非特許文献8】West, M., et. al., J Am. Soc Nephrol. 20, 1132-39 (2009)
【非特許文献9】Kishnani PS, et. al., Mol Genet Metab. 96, 164-70 (2009)
【非特許文献10】Wraith JE., J Pediatr. 144, 581-8 (2004)
【非特許文献11】Wilson PJ et al., Proc Natl Acad Sci USA. 87: 8531-5, 1990.
【非特許文献12】Muenzer J. et al., Genet Med. 8, 465-73 (2006).
【非特許文献13】Harmatz P, et al., J Pediatr. 148, 533-539 (2006)
【非特許文献14】Bielicki J. et. al., Biochem J. 289, 241-246 (1993)
【非特許文献15】Grubb JH. et al., Rejuvenation Res. 13, 229-36 (2010)
【非特許文献16】Kornfield S., FASEB J. 1, 462-8 (1987)
【非特許文献17】Prince WS, J Biol Chem. 279 35037-46 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記の背景において,本発明の目的は,細胞内に取り込まれた後で初めて薬理学的活性を発揮するような薬物を細胞内へ送達するための,新規の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は,ヒト又はマウスのAFTに融合させたヒトイズロン酸−2−スルファターゼ(hI2S)が,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター受容体(uPAR)への結合を介して繊維芽細胞に取り込まれることができ,そこにおいてhI2Sがその活性を発揮できることを見出した。本発明は,この発見に基づく更なる研究を通じ完成されたものである。すなわち,本発明は以下を提供する。
【0024】
1.薬理学的に活性な化合物(A)とこれに融合させたペプチド(B)とを含んでなる薬剤であって,ペプチド(B)がATFの受容体結合ドメインを含むものである,薬剤。
2.該薬理学的に活性な化合物(A)がタンパク質である,上記1の薬剤。
3.該タンパク質が酵素である,上記2の薬剤。
4.該酵素がライソゾーム酵素である,上記3の薬剤。
5.該ライソゾーム酵素が,酸性α−グルコシダーゼ,α−ガラクトシダーゼ,グルコシルセラミダーゼ,α−L−イズロニダーゼ,イズロン酸−2−スルファターゼ,N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ,又は酸性スフィンゴミエリナーゼからなる群より選ばれるものである,上記4の薬剤。
6.該ペプチド(B)が,アミド結合又はエステル結合によって該薬理学的に活性な化合物(A)に融合させてあるものである,上記1〜5の何れかの薬剤。
7.該ペプチド(B)が,該ペプチド(B)のアミノ末端アミノ酸において該薬理学的に活性な化合物(A)に融合させてあるものである,上記1〜5の何れかの薬剤。
8.該ペプチド(B)が,該タンパク質のアミノ末端アミノ酸と該ペプチド(B)のカルボキシ末端アミノ酸との間に形成されたペプチド結合によって,該タンパク質に融合させてあるものである,上記3〜5の薬剤。
9.該ペプチド(B)が,該タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸と該ペプチド(B)のアミノ末端アミノ酸との間に形成されたペプチド結合によって,該タンパク質に融合させてあるものである,上記3〜5の薬剤。
10.該ペプチド(B)が,配列番号33に示すアミノ酸配列,又は1〜3個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,上記1〜9の何れかの薬剤。
11.該ペプチド(B)が,配列番号32示すアミノ酸配列又は1〜10個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,上記1〜9の何れかの薬剤。
12.該ペプチド(B)が,配列番号32に示すアミノ酸配列よりなり,そして該ペプチド(B)がそのカルボキシ末端アミノ酸において,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して,該薬理学的に活性は化合物(A)に融合させてあるものである,上記11の薬剤。
13.該リンカーが,-Lys-,Lys-Pro-,-Lys-Pro-Ser-,-Lys-Pro-Ser-Ser-(配列番号41),及び -Lys-Pro-Ser-Ser-Pro-(配列番号42)からなる群より選ばれるものである,上記12の薬剤。
14.該ペプチド(B)が,配列番号31に示すアミノ酸配列又は1〜5個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,上記1〜9の何れかの薬剤。
15.該ペプチド(B)が,配列番号30に示すアミノ酸配列又は1〜10個のアミノ酸が付加,置換,欠失,又は挿入されたその誘導体よりなるものである,上記1〜9の何れかの薬剤。
16.該ペプチド(B)が,配列番号30に示したアミノ酸配列よりなり,そして該ペプチド(B)がそのカルボキシ末端アミノ酸において,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して,該薬理学的に活性な化合物(A)に融合させてあるものである,上記15の薬剤。
17.該リンカーが,-Lys-,Lys-Pro-,-Lys-Pro-Ser-,-Lys-Pro-Ser-Ser-(配列番号41),及び -Lys-Pro-Ser-Ser-Pro-(配列番号42)からなる群より選ばれるものである,上記16の薬剤。
18.上記1〜17の薬剤を含んでなる,酵素補充療法用薬剤組成物。
19.薬理学的に活性なタンパク質(A)とこれに融合させたペプチド(B)とを含んでなり,該ペプチド(B)がATFの受容体結合ドメインを含み,そして該ペプチド(B)が,該ペプチド(B)のアミノ又はカルボキシ末端において,ペプチド結合により,該薬理学的に活性なタンパク質(A)に融合させてあるものである融合タンパク質をコードするDNA。
20.該薬理学的に活性なタンパク質が酵素である,上記19のDNA。
21.該酵素がライソゾーム酵素である,上記20のDNA。
22.該ライソゾーム酵素が,酸性α−グルコシダーゼ,α−ガラクトシダーゼ,グルコシルセラミダーゼ,α−L−イズロニダーゼ,イズロン酸−2−スルファターゼ,N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼからなる群より選ばれるものである,上記21の薬剤。
23.上記19〜22のDNAを含んでなる発現ベクター。
24.上記23のベクターで形質転換された哺乳類細胞。
【発明の効果】
【0025】
本発明は,細胞表面のウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター受容体(uPAR)への結合を介して薬理学的に活性な化合物の細胞内取り込みを改善するのに役立つ手段を提供し,従ってまた,uPARを発現している細胞による取り込みの改善された薬剤をも提供する。特に,この改善された細胞内取り込みは,細胞表面上のマンノース−6−リン酸受容体又はマンノース受容体との該薬剤の如何なる相互作用にも依存しないため,本発明は,分子に結合したマンノース又はマンノース−6−リン酸残基を有しないか又は少数しか有しないにも拘らず,尚も細胞内に取り込まれることのできるような薬剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1-1】図1−1は,pBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)ベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-2】図1−2は,pBSK(NotI-IRES-Hygr-mPGKpA)ベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-3】図1−3は,pE-IRES-Hygrベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-4】図1−4は,pPGK-neoベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-5】図1−5は,pPGK-IRES-Hygrベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-6】図1−6は,pPGK-IRES-GS-ΔpolyAベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-7】図1−7は,pE-puroベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-8】図1−8は,pE-puro(XhoI) ベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図1-9】図1−9は,pE-IRES-GS-puroベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図2図2は,pE-mIRES-GS-puroベクターの構築のための方法を図解した流れ図を示す。
図3図3は,pE-mIRES-GS-puro(mATF-hI2S)ベクターの部分的概要図を示す。
図4図4は,pE-mIRES-GS-puro(hATF-hI2S)ベクターの部分的概要図を示す。
図5図5は,精製した,mATF融合hI2SのSDS PAGE分析の結果を示す。HiTrap Q-Sepharose FF からの,hI2S活性を含有する画分を負荷した。
図6図6は,ヒト繊維芽細胞内へのhATF-融合hI2Sの細胞取り込みの測定結果を示すグラフである。縦軸は,総細胞タンパク質の単位質量(mg)あたりに取り込まれたhATF-融合hI2S又はhIS2の量(ng)を示す(ng/mg 総細胞タンパク質)。横軸は,培地に加えたhATF-融合hI2S又はhI2Sの濃度を示す。黒丸は,hATF-融合hI2Sの細胞取り込み値を示し,白丸は,10mM M6Pの存在下におけるhATF-融合hI2Sの細胞取り込み値を示し,白三角は,10mM M6P及び4.02μg/mL hATFの存在下における,hATF-融合hI2Sの細胞取り込み値を示す。黒四角は,hI2Sの細胞取り込み値を示し,白四角は,10mM M6Pの存在下におけるhI2Sの細胞取り込み値を示す。
図7図7は, hATF-融合hI2Sのヒト繊維芽細胞内への取り込みの,M6Pによる阻害の測定結果を示す。縦軸は,hATF-融合hI2S又はhI2Sの細胞取り込み比率(%)を示す。横軸は,培地に添加したM6Pの濃度(mM)を示す。黒丸は,hATF-融合hI2Sの細胞取り込み比率の値を,そして黒四角は,hI2Sの細胞取り込み比率の値を示す。
図8図8は,マウス繊維芽細胞内へのmATF-融合hI2Sの細胞取り込みの測定結果を示す。縦軸は,総細胞タンパク質の単位質量(mg)あたりに取り込まれたmATF-融合hI2S又はI2Sの量(ng)を示す(ng/mg 総細胞タンパク質)。横軸は,培地に添加されたmATF-融合hI2S又はhI2Sの濃度を示す。黒丸は,mATF-融合hI2Sの細胞取り込み値を示し,そして白丸は,10mM M6Pの存在下における,mATF-融合hI2Sの細胞取り込み値を示す。黒四角は,hI2Sの細胞取り込み値を示し,白四角は,10mM M6Pの存在下におけるhI2Sの細胞取り込み値を示す。
図9図9は,マウス繊維芽細胞内へのmATF-融合hI2Sの細胞取り込みに対するM6Pによる阻害の測定結果を示す。縦軸は,mATF-融合hI2S又はhI2Sの細胞取り込み比率(%)を示す。横軸は,培地に添加したM6Pの濃度(mM)を示す。黒丸は,mATF-融合hI2Sの取り込み比率の値を示し,黒四角は,hI2Sの取り込み比率の値を示す。
図10図10は,ヒトATF(上段)及びマウスATF(下段)のアミノ酸配列のアラインメントを示す。アスタリスクは,ヒトATFとマウスATFとの間で相違するアミノ酸を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明において,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーターのアミノ末端フラグメント(ATF)は,好ましくは哺乳類のATFであり,より好ましくはヒト又はマウスのATFであり,特に好ましくはヒトのATFである。野生型のマウス及びヒトのATFのアミノ酸配列は,配列番号30及び配列番号32に,それぞれ示されている。本発明において,ATFは好ましくは野生型であるが,変異型ATF,即ち1個又は2個以上のアミノ酸の付加,置換,欠失,及び/又は挿入を受けたものも,好ましく用いることができる。そのような変異型ATFにおいて,付加,置換,欠失,及び挿入されるアミノ酸の個数は,好ましくは1〜10個,より好ましくは1〜8個,尚もより好ましくは1〜5個,そして更により好ましくは1個である。
【0028】
本発明において,ATFの受容体結合ドメインを含んでなるペプチドは,特に好ましくは哺乳類のペプチド,より好ましくはヒト又はマウスのペプチド,そして特に好ましくはヒトのペプチドである。本明細書において,「ATFの受容体結合ドメインを含んでなるペプチド」の語は,uPAを含む化合物を包含しない。野生型のマウス及びヒトのATFの受容体結合ドメインのアミノ酸配列は,配列番号31及び配列番号33に,それぞれ示されている。本発明において,ATFの受容体結合ドメインは,好ましくは野生型であるが,1個又は2個以上のアミノ酸の付加,置換,欠失,及び/又は挿入を受けたATFの変異型受容体結合ドメインもまた,好ましく用いることができる。そのようなATFの変異型受容体結合ドメインにおける付加,置換,欠失,及び挿入を受けたアミノ酸の個数は,好ましくは1〜5個,より好ましくは1〜3個,尚もより好ましくは1個である。
【0029】
本発明の薬剤は,哺乳類,好ましくはヒト,ウマ,ブタ,ウシ及びヤギ等の家畜並びにイヌ,ネコ等のペット動物に投与される薬剤である。該薬剤は,好ましくは,静脈内に投与される。本発明において,「薬剤」の語は,uPAを含む化合物を包含しない。
【0030】
本発明において,薬理学的に活性な化合物を細胞表面のuPARとの結合に,そして次いでそれらの中へと導くのに主要な役割を演ずるのはATFの受容体結合ドメインであることから,ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドが融合されることになる薬理学的に活性な化合物の範囲について,特に限定はない。薬理学的に活性な化合物の好ましい例としては,タンパク質,多糖類,脂質,及び抗生物質,抗癌剤及び抗炎症剤を包含する他の種類の化学物質が挙げられるが,それらに限定されない。それらのうちで,タンパク質が特に好ましい。ATFの受容体結合ドメインを含んでなるペプチドは,所望により如何なる種類の化学結合を用いて薬理学的に活性な化合物に融合させてもよいが,それらのうちアミド結合及びエステル結合が好ましい。ATFの受容体結合ドメインを含んでなるこのペプチドは,ペプチドのカルボキシ又はアミノ末端のアミノ酸に形成されたアミド結合又はエステル結合によって,薬理学的に活性な化合物に融合させてよい。薬理学的に活性な化合物の分子あたりに融合させるべきATFの受容体結合ドメインを含むペプチドの個数に関しては特に限定はないが,個数は,好ましくは1〜10個,より好ましくは1〜5個,尚も好ましくは1〜3個,そして更により好ましくは1個である。
【0031】
ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドを融合させようとする薬理学的に活性な化合物がタンパク質である場合,当該ペプチドは,好ましくはペプチド結合によってタンパク質に融合させる。より好ましくは,ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドは,タンパク質に,そのタンパク質のカルボキシ又はアミノ末端のアミノ酸の何れにおいて融合させてもよい。更には,ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドは,リンカーを介してそのタンパク質に結合させてもよい。この目的用のリンカーは,タンパク質とATFの受容体結合ドメインを含むペプチドとの間の,単1の又は2個以上のアミノ酸であってよい。リンカーはまた,1〜20個のアミノ酸,より好ましくは1〜10個のアミノ酸,そして尚もより好ましくは1〜5個のアミノ酸よりなるものであってよい。そのようなリンカーのアミノ酸配列は,好ましくは,-Lys-,Lys-Pro-,-Lys-Pro-Ser-,-Lys-Pro-Ser-Ser-(配列番号41),及び -Lys-Pro-Ser-Ser-Pro-(配列番号42)からなる群より選んでよい。
【0032】
ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドと薬理学的に活性なタンパク質とから,前者のカルボキシ末端アミノ酸と後者のアミノ末端アミノ酸との間で融合して作られる薬剤としての融合タンパク質は,ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドをコードする遺伝子と薬理学的に活性なタンパク質をコードする遺伝子とを,インフレームでこの順に,直列に,5'から3’の方向で融合させたものである融合遺伝子を発現させることによって,製造できる。そのような融合遺伝子の例が,配列番号26(即ちマウスのATF遺伝子とヒトのI2S遺伝子との融合遺伝子)として,及び配列番号28(即ち,ヒトのATF遺伝子とヒトのI2S遺伝子との融合遺伝子)として示されている。
【0033】
ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドと薬理学的に活性なタンパク質とから,前者のアミノ末端アミノ酸と後者のカルボキシ末端アミノ酸との間で融合して作られる薬剤としての融合タンパク質は,薬理学的に活性なタンパク質をコードする遺伝子とATFの受容体結合ドメインを含むペプチドをコードする遺伝子とを,インフレームで,この順に,直列に,5'から3'の方向で融合させたものである融合遺伝子を発現させることによって,製造できる。
【0034】
上記の何れかの融合遺伝子を発現させるためには,選んだ遺伝子を発現ベクターに挿入し,そうして得られた発現ベクターを,次いで,宿主細胞に導入する。用いられる宿主細胞が属する種に関して特に限定はないが,好ましくはE. coli,イースト,昆虫細胞,又は哺乳類細胞であり,これらのうち哺乳類細胞がより好ましく,CHO細胞が特に好ましい。こうして得られた宿主細胞は,発現ベクターで形質転換がなされたものであり,次いで,融合タンパク質を発現させるようインキュベートされる。
【0035】
本発明において,ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドを結合させる薬理学的に活性なタンパク質の範囲に関し特に限定はない。薬理学的に活性なタンパク質の好ましい例として酵素が挙げられ,それらのうちでも特に好ましいのはライソゾーム酵素,特に酸性α−グルコシダーゼ,α−ガラクトシダーゼ,α−L−イズロニダーゼ,イズロン酸−2−スルファターゼ,N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ,又は酸性スフィンゴミエリナーゼである。本発明において用いられる薬理学的に活性なタンパク質は,好ましくは哺乳類のタンパク質,より好ましくはヒトのタンパク質である。
【0036】
ライソゾーム酵素が用いられる場合,野生型酵素が好ましいが,変異型酵素も,酵素活性を保持している限り好ましく用いられる。ライソゾーム酵素とATFの受容体結合ドメインを含むペプチドとは,ペプチドを形成してもよいものである少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して融合させることができる。そのようなリンカーは,結合されるべきそれら2個の部分の,即ち用いられる酵素とATFの受容体結合ドメインを含むペプチドの,アミノ及びカルボキシ末端アミノ酸の間に,共有結合で挿入される。リンカーは,好ましくは1〜20個のアミノ酸,より好ましくは1〜10個のアミノ酸,尚もより好ましくは1〜5個のアミノ酸を含んでなる。
【0037】
本発明において,ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドに結合させたライソゾーム酵素は,ライソゾーム病のための酵素補充療法において薬剤として使用することができる。例えば,ATFの受容体結合ドメインを含むペプチドに融合させた,α−グルコシダーゼ,α−ガラクトシダーゼ,α−L−イズロニダーゼ,グルコシルセラミダーゼ,α−L−イズロニダーゼ,イズロン酸−2−スルファターゼ,N−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ,又は酸性スフィンゴミエリナーゼは,ポンペ病,ファブリー病,ゴーシェ病,ハーラー症候群(ムコ多糖症I型,MPS I),ハンター症候群(MPS II),及びニーマン・ピック病の酵素補充療法において,それぞれ,薬剤として用いられる。
【0038】
以下,本発明は実施例を参照して更に詳細に説明される。しかしながら,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【実施例1】
【0039】
(pE-IRES-GS-puroベクターの構築)
pPGKIH発現ベクター(Miyahara M. et al., J. Biol. Chem. 275,613-618 (2000))をXhoI及びBamHIで消化して,ネズミ脳脊髄炎ウイルス(EMCV)由来の内部リボソーム進入部位(IRES),ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygr 遺伝子),及びマウスのホスホグリセリン酸キナーゼ(mPGK)のポリアデニル化シグナル(mPGKpA)を含んだDNA断片を切り出した。この断片をIRES-Hygr-mPGKpAと命名した。そのヌクレオチド配列を配列番号1に示し,ここに,(i) ヌクレオチド1〜6はXhoI部位を,(ii) ヌクレオチド7〜119は中間配列を,(iii) ヌクレオチド120〜718は,当該領域の3’末端の「atg」を含んで,ネズミの脳脊髄炎ウイルスの5’非翻訳領域由来のIRESを含む配列を,(iv) ヌクレオチド716〜1741はハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygr遺伝子)を,(v) ヌクレオチド1742〜1746は中間配列を,(vi) ヌクレオチド1747〜2210は,マウスのホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子(mPGKpA)のポリアデニル化信号配列を含む配列(mPGKpA)を,そして(vii) ヌクレオチド2211〜2216,即ち3’末端の6個のヌクレオチドは,BamHI部位を,表す。このDNA断片をpBSKベクター(STRATAGENE)のXhoI部位とBamHI部位の間に挿入し,こうして得られたベクターを,pBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)と命名した(図1−1)。
【0040】
EMCV-IRES部分を含むDNA断片を,一組のプライマーIRES5'(配列番号2)及びIRES3'(配列番号3)で,鋳型としてはpBSK (IRES-Hygr-mPGKpA)を用いて,PCRにより増幅した。PCRで増幅したDNA断片をXhoI及びHindIIIで消化し,続いてpBSKベクターのXhoI部位とHindIII部位との間に挿入し,こうして得られたベクターをpBSK(NotI-IRES-Hygr-mPGKpA)と命名した(図1−2)。pBSK(NotI-IRES-Hygr-mPGKpA)をNotIとBamHIで消化し,EMCV-IRES部分を含む得られたこのDNA断片を,pE-hygrベクターのNotI部位とBamHI部位との間に挿入した。pE-hygrベクターは,特許文献(JP2011-172602)に記載の手順に従って構築した。得られたベクターを pE-IRES-Hygrと命名した(図1−3)。
【0041】
一組のプライマーmPGKP5'(配列番号4)及びmPGKP3'(配列番号5)で,鋳型としてはpPGKIHを用いて,PCRを行い,mPGKプロモーター領域(mPGKp)を含むDNA断片を増幅した。そのヌクレオチド配列を配列番号6に示す。ここにおいて,(i) ヌクレオチド1〜3は中間配列を,(ii) ヌクレオチド4〜9はBamHI部位を,(iii) ヌクレオチド10〜516はmPGKpを含む配列を,(iv) ヌクレオチド517〜523は中間配列を,(v) ヌクレオチド524〜529はEcoRI部位を表し,そして(vi) ヌクレオチド530〜523は,最後の3個のヌクレオチドであるが,中間配列を表す。この増幅したDNA断片をBglIIとEcoRIで消化し,pCl-neo (Promega) のBglII部位とEcoRI部位との間に挿入した。こうして得られたベクターをpPGK-neoと命名した(図1−4)。
【0042】
pE-IRES-HygrをNotIとBamHIで消化し,得られた断片(IRES-Hygr)を,pPGK-neoのNotI部位とBamHI部位の間に挿入した。こうして得られたベクターをpPGK-IRES-Hygrと命名した(図1−5)。
【0043】
グルタミンシンセターゼ遺伝子(GS遺伝子)を含むDNA断片を,一組のプライマーGS5'(配列番号7)及びGS3'(配列番号8)で,鋳型としてはCHO-K1細胞のmRNAから作られたcDNAライブラリーを用いて,PCRを行うことにより増幅した。得られたDNA断片をBalIとBamHIで消化し,pPGK-IRES-HygrのBalI部位とBamHI部位との間に挿入した。得られたベクターをpPGK-IRES-GS-ΔpolyAと命名した(図1−6)。
【0044】
一組のプライマーpuro5'(配列番号9)及びpuro3'(配列番号10)で,鋳型としてはpCAGIPuro (Miyahara M. et al., J. Biol. Chem. 275,613-618(2000))を用いて,PCRを行い,ピューロマイシン耐性遺伝子(Puro遺伝子)を含むDNA断片を増幅した。このヌクレオチド配列を配列番号11に示す。ここにおいて,(i) ヌクレオチド2〜7はAflII部位を,(ii) ヌクレオチド8〜607はPuro遺伝子を含む配列を,そして(iii) ヌクレオチド608〜619はBstXI部位を表す。得られたDNA断片をAflII及びBstXIで消化し,pE-neoベクターのAflII部位とBstXI部位との間に挿入した。pE-neoベクターは,特許文献(JP2011-172602)に開示されている手順に従って構築した。こうして得られたベクターをpE-puroと命名した(図1−7)。
【0045】
一組のプライマーSV40polyA5'(配列番号12)及びSV40polyA3'(配列番号13)で,鋳型としてはpE-puroを用いてPCRを行うことにより,SV40後期ポリアデニル化領域を含むDNA断片を増幅した。増幅したこのDNA断片をNotI及びHpaIで消化し,pE-puroのNotI部位とHpaI部位との間に挿入した。得られたベクターをpE-puro(XhoI)と命名した(図1−8)。
【0046】
pPGK-IRES-GS-ΔpolyAをNotI及びXhoIで消化し,pE-puro(XhoI)のNotI部位とXhoI部位との間に挿入した。得られたベクターをpE-IRES-GS-puroと命名した(図1−9)。
【実施例2】
【0047】
(pE-mIRES-GS-puroベクターの構築)
一組のプライマーmIRES-GS5'(配列番号14)及びmIRES-GS3'(配列番号15)で,鋳型としてはpE-IRES-GS-puroを用いてPCRを行い,2番目の開始コドンを破壊してあるEMCV-IRESを含むDNA断片を増幅した。次いで,こうして増幅したDNA断片及び前述のIRES5'をプライマーとし,鋳型としてはpE-IRES-GS-puroを用いて,PCRを行ってEMCV-IRESからGS遺伝子までの領域を増幅した。こうして増幅した,EMCV-IRES からGS遺伝子までの領域を含むDNA断片をNotI及びPstIで消化し,pE-IRES-GS-puroのNotI部位とPstI部位との間に挿入した。得られたベクターをpE-mIRES-GS-puroと命名した(図2)。
【実施例3】
【0048】
(ヒトATF(ヒトuPaのアミノ末端フラグメント:hATF)遺伝子をコードするヒトcDNAのクローニング)
一組のプライマーhATF-f(配列番号16,ここにヌクレオチド4〜9はMluI部位を表す)及びhATF-r(配列番号17,ここにヌクレオチド4〜9はXhoI部位を表す)で,鋳型としてはヒト腎のQuick Clone cDNA (Clontech) を用いて,hATF遺伝子を増幅した。hATF-f又はhATF-rのヌクレオチド配列において,ヌクレオチド4〜9はMluI部位又はXhoI部位を,それぞれ表す。こうして増幅した断片をMluI及びXhoIで消化し,次いでpCl-neoベクター(Promega)のMluI部位とXhoI部位との間に挿入して,pCl-neo(hATF) ベクターを得た。
【実施例4】
【0049】
(マウスATF(マウスuPAのアミノ末端フラグメント;mATF)遺伝子をコードするcDNAのクローニング)
一組のプライマーmATF-f(配列番号18)及びmATF-r(配列番号19)で,鋳型としてはマウス腎のQuick Clone cDNA (Clontech) を用いて,PCRを行うことによりmATF遺伝子を増幅した。mATF-f又はmATF-rのヌクレオチド配列において,ヌクレオチド4〜9はMluI又はXhoI部位を,それぞれ示す。こうして増幅した断片を,MluI及びXhoIで消化し,pCI-neo (Promega) のMluI部位とXhoI部位との間に挿入してpCI-neo(mATF) ベクターを得た。
【実施例5】
【0050】
(ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)遺伝子をコードするDNAのクローニング)
鋳型としてヒト胎盤cDNAライブラリー(タカラバイオ)を用いて,二組のプライマー,即ち,最初の反応に一組の外側プライマーhI2S-f(配列番号20)及びhI2S-r(配列番号21)を,そして2番目の反応に一組の内側プライマーI2S-f2 (配列番号22)及びhI2S-r2(配列番号23)を用いて,ネスティッドPCRを行い,hI2S cDNAを含むDNA断片を増幅した。こうして増幅されたPCR断片を,pT7Blueベクター(Novagen)のEcoRV部位(鈍端クローニング部位)に挿入して,pT7Blue(hI2S) ベクターを得た。次いで,シグナル配列を欠いたhI2SをコードするcDNAを,一組のプライマーhI2S-f3(配列番号24)及びhI2S-r3(配列番号25)で,鋳型としてはpT7Blue(hI2S) ベクターを用いて,PCRにより増幅した。hI2S-f3のヌクレオチド配列において,ヌクレオチド4〜9はXhoI部位であり,そのhI2S-r3において,ヌクレオチド4〜11は,NotI部位である。こうして増幅されたPCR断片を,XhoIとNotIで消化し,次いで,pCI-neo(Promega)のXhoI部位とNotI部位との間に挿入して,pCI-neo(ΔS-hI2S) ベクターを得た。
【実施例6】
【0051】
(ATF-融合hI2S用発現ベクターの構築)
pCI-neo(mATF) ベクターをMluI及びXhoIで消化してmATFをコードするcDNAを切り出した。pCI-neo (ΔS-hI2S) をXhoI及びNotIで消化してシグナル配列を欠いたhI2SをコードするcDNAを切り出した。次いで,両方のcDNAをpE-mIRES-GS-puroのMluI部位とNotI部位との間に直列に挿入して,pE-mIRES-GS-puro(mATF-ΔS-hI2S)(図3)を得た。上記のベクターに埋め込まれたmATF-融合hI2S遺伝子のDNA配列を,配列番号26に示す。当該遺伝子から翻訳されるmATF-融合hI2Sのアミノ酸配列を配列番号27に示す。ここに,最初の160個のアミノ酸よりなる部分は,マウスsc-uPAの部分に対応し,そのうち最初の21個のアミノ酸はリーダー配列に対応し,続く135個のアミノ酸(アミノ酸22〜156)はマウスATF(mATF,配列番号30)に対応する。mATFの最初の43個のアミノ酸は,mATFの受容体結合ドメイン(配列番号31)を含む。CHO細胞内で発現されるとmATF-融合hI2Sは,リーダー配列の除去の後,細胞から分泌される。
【0052】
pCI-neo(hATF) ベクターをMluI and XhoIで消化してhATFをコードするcDNAを切り出した。pCI-neo (ΔS-hI2S)をXhoI及びNotIで消化して,シグナル配列を欠いたhI2SをコードするcDNAを切り出した。次いで,両cDNAを,pE-mIRES-GS-puroのMluI部位とNotI部位との間に直列に挿入してpE-mIRES-GS-puro (hATF-ΔS-hI2S)を得た(図4)。上記のベクターに埋め込まれたhATF-融合hI2S遺伝子のDNA配列を,配列番号28として示す。この遺伝子から翻訳されたhATF-融合hI2S遺伝子のアミノ酸配列を,配列番号29として示す。ここに,最初の159個のアミノ酸よりなる部分は,ヒトsc-uPA部分に対応し,そのうち最初の20個のアミノ酸はリーダー配列に対応し,これに続く135個のアミノ酸(アミノ酸21〜155)は,マウスATFに対応する(hATF,配列番号32)。hATFの最初の43個のアミノ酸よりなる配列は,hATFの受容体結合ドメインを含んでなる(配列番号33)。CHO細胞内で発現させると,hATF-融合hI2Sは,リーダー配列の除去の後,細胞内から分泌される。
【実施例7】
【0053】
(hATF-融合hI2Sの発現用の組換え細胞の製造)
CHO-K1細胞(American Type Culture Collectionより調達)を上記の発現ベクターの1つ,即ち,pE-mIRES-GS-puro(mATF-hI2S)又はpE-mIRES-GS-puro(hATF-hI2S)で,Lipofectamine2000 (Invitrogen)を用いて,以下の方法でトランスフェクトした。即ち,トランスフェクション前日に1×10個のCHO-K1細胞を,5% FCS含有のD-MEM/F12倍地(D-MEM/F12/5%FCS) 3mLを含んだ3.5cmの培養皿に播種し,5% CO2, 95%空気の加湿雰囲気下に,37℃で終夜培養した。翌日,Opti-MEM I 培地 (Invitrogen)で25倍希釈したLipofectamine 2000溶液と,Opti-MEM I 培地で13.2 μg/mLまで希釈したプラスミドDNA溶液とからなる1:1混合物の300μLで,37℃にて,5% CO2,95%空気よりなる加湿雰囲気下に終夜,細胞をトランスフェクトした。
【0054】
トランスフェクション後,培地を選択培地(10μg/mLのインスリン,100μmole/Lのヒポキサンチン,16μmole/Lのチミジン及び30μmole/Lのメチオニンスルホキシミン(MSX, Sigma))を補充したCD Opti CHO培養培地(Invitrogen))に置き換え,37℃で,5% CO2,95%空気よりなる加湿雰囲気下に,選択培養を行った。選択培地中で増殖してきた細胞を,当該培地中で数次の連続的な継代培養に付し,組換え細胞を得た。選択培養の過程で,MXS及びピューロマイシンの濃度を,30〜100μmole/L及び0〜10μg/mLまでそれぞれ上昇させた。上記の選択培養の行程で生き残った細胞を, ATF-融合hI2Sの発現用組換え細胞として用いた。
【実施例8】
【0055】
(ATF-融合hI2S発現用組換え細胞の培養)
上記の組換え細胞を2×105個/mLの密度まで希釈し,4mMのL−グルタミン,10μg/mLのインスリン,100μmole/Lのヒポキサンチン,16μmole/Lのチミジン,及び10μg/mLのピューロマイシンを補充したCD Opti CHO培養培地中で,37℃にて7日間,5%CO2及び95%空気の加湿雰囲気下に培養した。次いで,遠心により培養上清を集めた。
【実施例9】
【0056】
(ATF-融合hI2Sの精製)
上記で集められた培養上清に酢酸を加えて培養上清のpHを5.0に調節した。これにより生じた沈殿は0.22μm膜(Millipore)により濾過して除去した。こうして回収された培養上清を,カラム体積の3倍量の100 mM酢酸緩衝液(pH 5.0)で平衡化させておいた疎水性相互作用及び水素結合形成の双方に基づく選択性を有する陽イオン交換カラムであるCapto MMCカラム(GE Healthcare)に負荷して吸着させた。次いで,カラムをカラム体積の4倍量の同じ緩衝液で洗浄した。続いて,吸着されたATF-融合hI2Sを,100%の100 mM酢酸緩衝液(pH 5.0)から100%の,1.5 Mの塩化ナトリウムを含有する100 mM HEPES緩衝液(pH 8.0)までの,カラム体積の20倍量の緩衝液による直線的グラジエントを用いて溶出し分画した。以下に記載する方法によりI2S活性を測定の後,hI2S活性を有する画分を,目的とする溶出液として集めた。上記のCapto MMCカラムからのこの溶出液を,25 mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)で10倍に希釈して,同じ緩衝液で平衡化させておいたHiTrap Q-Sepharose FF 5 mLカラム(GE health care company)に吸着させた。次いで,カラム体積の4倍量の同じ緩衝液でカラムを洗浄した。続いて,吸着されたATF-融合hI2Sを,100%の25 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)から,1.5 Mの塩化ナトリウムを含む100%の25 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)までからなる,カラム体積の20倍量の直線的グラジエントを用いて,溶出させ分画した。以下に記載する方法でI2Sの活性を測定の後,hI2S活性を有する画分を集めてSDS-PAGEにより分析し,それにより,ATF-融合hI2S(約92kD)の分子量に対応する分子量を有する単一のバンドが示された(図5)。集めた画分を,精製ATF-融合hI2Sとして更なる分析に用いた。
【実施例10】
【0057】
(rhI2Sの活性の測定)
垂直なポリエーテルスルホン膜(VIVASPIN 2 5,000 MWCO PES; Sartorius)を限外濾過膜として用いた膜ろ過によりサンプルを脱塩し,次いで脱塩サンプルを約1001 ng/mLへと,反応緩衝液(5 mM 酢酸ナトリウム,0.5 mg/L BSA,0.1% Triton X-100, pH 4.45)で希釈した。96ウェルのマイクロタイター・プレート(FluoroNunc Plate, Nunc)の各ウェルに各rhI2Sサンプルの10μLを加え,37℃にて15分間のプレインキュベーションを行った。硫酸4−メチルウンベリフェリル(SIGMA)を基質緩衝液(5 mM 酢酸ナトリウム,0.5 mg/mL BSA,pH 4.45)に終濃度1.5 mg/mLへと溶解させることにより,基質溶液を調製した。ATF-融合hI2Sサンプルを含んだ各ウェルに基質溶液100μLを加え,プレートを37℃にて1時間,暗所に静置した。このインキュベーションの後,サンプルを含んだ各ウェルに190μLの停止緩衝液(0.33 Mグリシン,0.21 M炭酸ナトリウム,pH 10.7)を加えた。150μLの0.4μmole/L リン酸4−メチルウンベリフェリル(4-MUF,Sigma)溶液と150μLの停止緩衝液とを,標準としてウェルに加え,次いで,プレートを96ウェルプレートリーダーで,励起波長330 nm,蛍光波長440 nmで読み取った。
【0058】
溶液中の4-MUFの種々の濃度において蛍光強度を測定することにより,標準曲線を作成した。各サンプルの蛍光強度を,標準曲線に外挿した。結果を,単位/mLでの活性として算出した。ここに1単位の活性は,37℃にて毎分1μmoleの4-MUFが産生されることに相当する。この測定を行うために,公開されている米国特許出願(公開番号2004-0229250)を参照した。
【実施例11】
【0059】
(マンノース−6−リン酸(M6P)含量の測定)
約0.1 mgのタンパク質を含有する脱塩サンプルを,減圧乾燥させ,50%トリフルオロ酢酸に溶解させ,100℃にて2時間加熱した。次いで,サンプルを,NaOHでpH 9.0に調整した100 mMホウ酸溶液に溶解させた。20 mgのマンノース−6−リン酸ナトリウムを水に溶解させて100 mLとし,これをM6P標準溶液として用いた。このM6P標準原液溶液を1mL部分ずつ凍結させ-20℃にて貯蔵し,これを使用前に融解させ,純水で2倍稀釈してM6P標準溶液とした。
【0060】
精製水に6.2gのホウ酸を加えて溶解させ,この液のpHを2N 水酸化ナトリウムで9.0に調整し,精製水を加えて,全量1000 mLとし,次いでこれを0.22μmの膜フィルター(Millipore)を通して吸引濾過した。こうして得られた溶液を,溶液A(100 mMホウ酸溶液(pH 9.0))と命名した。精製水に6.2gのホウ酸及び11.7gの塩化ナトリウムを加えて溶解させ,溶液のpHを2N 水酸化ナトリウムで9.0に調整した後,精製水を加えて全量1000mLとし,これを0.22μmのフィルターを通して吸引濾過した。こうして得られた溶液を,溶液Bと命名した(100mMホウ酸−200mM塩化ナトリウム溶液(pH 9.0))。
【0061】
精製水に,10gのL−アルギニン及び30gのホウ酸を加えて溶解させ,全量1000mLに調整し,0.22μM以下のポアサイズの膜フィルターを通して吸引濾過し,こうして得られた溶液を,反応用の試薬溶液として用いた。
【0062】
陰イオン交換カラムである,Shimpack ISA-07/S2504 (4.0 mm I.D. ×250 mm)(基材:ポリスチレンゲル,固定相:第4級アンモニウム基)を,Shimazu HPLC System LC-10Avp(還元糖分析システム)に取り付け,更にShim-pack guard column ISA(4.0 mm I.D. ×50 mm)を,カラムを加熱するのに用いるカラムオーブンとしてセットした。加熱反応のためのヒートブロック(ALB-221,アサヒテクノガラス製)を,カラム出口の下流にセットした。カラムをカラムオーブンで65℃に加熱し,そしてヒートブロックを150℃にセットした。蛍光検出器システムをヒートブロックの下流に組み込み,320nmの励起光を照射し430nmで蛍光を検出するように調整した。
【0063】
溶液A及びBを,還元糖分析システムのオートサンプラーにセットし,次いでこれを,反応用の試薬溶液がカラム出口の下流(ヒートブロックの上流)に供給されるようにセットした。クロマトグラフィーを開始することになる移動相(溶液A)でカラムを平衡化させた後,M6P標準溶液又はM6Pのサンプル溶液をカラムに負荷した。
【0064】
カラムにM6Pの標準溶液又はサンプル溶液を負荷した後,溶液Aと溶液Bとを90:10の体積比で混合して調製した第1の移動相(従って,100mMのホウ酸及び20mMの塩化ナトリウムを含む)を,0.3mL/分の流速で35分間,カラムに流した。次いで,溶液Aと溶液Bの体積比を,直線的に,25:75へと25分かけて同じ流速で変化させ(従って,100mMのホウ酸を含み,これに対し塩化ナトリウムは150mMまで増加する),そして更に溶液Bの体積比を100%にセットして(従って,100mMのホウ酸及び200mMの塩化ナトリウムを含有する)溶液を同じ流速で10分間流し,次いで,第1の移動相と同じように,溶液A及び溶液Bを体積比90:10(従って,100mMのホウ酸及び20mMの塩化ナトリウムを含有する)で流した。反応用の試薬溶液は,流速0.2mL/分で,カラム出口の下流の流路に供給した。
【0065】
標準溶液とサンプルとの間でM6Pに対応するピーク面積を比較し,タンパク質1分子あたりのM6Pの平均個数をmol/molで計算した。
【0066】
hATF-融合hI2S及びmATF-融合hI2S中に含まれるM6Pの平均個数は,それぞれ2.6mol/mol及び2.2mol/molと算出された。他方,医薬として提供されている組換えヒトI2S(以下,rhI2Sという)中に含まれるM6Pの平均個数は,4.4mol/molと算出された。
【実施例12】
【0067】
(His-タグ-hMPR9の製造)
ヒトマンノース−6−リン酸受容体(hM6PR)に対するATF-融合hI2Sの親和性の測定のために,ヒトM6P受容体のドメイン9を含みこれにATFが結合するものであるHis-タグ-hMPR9を,以下に記載するようにして製造した。
【0068】
細胞へのM6Pの結合に必須のものであるヒトマンノース−6−リン酸受容体(ヒトM6P受容体)をコードするcDNAを含んだプラスミドを,ATCCから入手した(ATCC No. 95660)。ヒトM6P受容体のドメイン9をコードするDNA断片(hMPR9)を,一組のプライマーhMPR9-f(配列番号35)及びhMPR9-r(配列番号36)を用いてPCRによりプラスミドから増幅した。
【0069】
増幅されたDNA断片をNcoI及びNotIで消化し,pET26ベクター( Novagen)のNcoI部位とNotI部位との間に挿入した。得られたプラスミドをpET26-MPR9と命名した。5'末端及び3'末端の双方に追加配列を有するhMPR9をコードし,その配列を配列番号34に示したものであるDNA断片を増幅するために,2段階PCRを行った。BipシグナルをN末端にそしてHisタグをC末端に有するhMPR9をコードするものであるこの増幅されたDNA断片を,Bipタグ-hMPR9と命名した。
【0070】
上記において,2段階PCRの最初の反応は,pET26-MPR9を鋳型として,及び一組のプライマー即ち,MPR9-f2(配列番号37)及びMPR9-r2(配列番号38)を用いて行った。続いて,増幅されたこのDNA断片を鋳型として用いて,第2のPCRを,一組のプライマー即ちMPR9-f3(配列番号39)及びMPR9-r3(配列番号40)を用いて行った。
【0071】
次いで,その結果得られたDNA断片をEcoRV及びNotIで消化し,pIB/V5-His-DESTベクター(Invitrogen)のEco47III-NotI部位中にライゲーションした。得られたプラスミドをpXBi-MPR9と命名し,これを用いてHigh Five細胞をトランスフェクトして,Bipシグナル配列の除去によりBip-タグhMPR9から誘導されたHis-タグ-hMPR9を発現する細胞を得た。
【0072】
High Five細胞(Invitrogen)を,Express Five培地(Invitrogen)を用いて24ウェルプレート中で50%コンフルエントになるまで増殖させ,Hily Maxトランスフェクション試薬(Dojin chemical, Japan)を用いて,pXBi-MPR9でトランスフェクトした。30μg/mLのブラスティシジンの存在下に細胞を培養して,安定なトランスフェクト体を選択した。安定的にトランスフェクトされた細胞を次いでエーレンマイヤーフラスコ(100mL)中に展開して4日間培養した。培養物を次いで回収し,3000rpmで30分間遠心し,上清を集めた。この上清を0.22μmのフィルター(Millipore)でろ過し,次いで平衡化緩衝液(300mMの塩化ナトリウムを含有する10mM リン酸バッファ(pH7.2))で5倍稀釈した。稀釈された上清を,平衡化緩衝液で平衡化させておいたProfinity IMAC Ni-荷電樹脂(ベッド体積:1mL,Bio-Rad)を充填したクロマトグラフィーカラムに適用し,次いでカラムを5×ベッド体積の平衡化緩衝液で洗浄した。次いで,樹脂に結合したHis-タグhMPR9を,5×ベッド体積の10mM NaPO4,300mM NaCl及び10mMイミダゾール(pH7.2))を適用し,続いて5×ベッド体積の10mM NaPO4,300mM NaCl及び300mMイミダゾール(pH7.2)を適用することにより溶出させた。His-タグ-hMPR9を含んだ画分を集め,Amicon 3K(Millipore)により,150mMのNaClを含有する20mM Tris緩衝液(pH7.4)へと緩衝液交換をしつつ濃縮した。His-タグ-hMPR9の濃度を,280nmにおける吸光度を測定することにより決定した。
【実施例13】
【0073】
(hM6PR及びhuPARに対するATF-融合hI2Sの親和性の測定)
hM6PR(ヒトマンノース−6−リン酸受容体)及びhuPAR(ヒトウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター)に対するATF-融合hI2Sの結合親和性を,ニトリロ三酢酸固定センサーチップ(Series S Sensor Chip NTA "BR-1005-32")を備えたBiacore T100(GE Healthcare)を用いて測定した。Biacore T100は,表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく測定装置であり,そこではリガンドを含んだサンプルが一定流速で,受容体が固定されているセンサーチップ表面に送られる。もしそのリガンドが受容体表面に結合すると,センサーチップの質量が受容体に結合したリガンドのために増大し,結合したリガンドの量に比例して,共鳴単位(RU)の変化としてSPRシグナルのシフトが検出できる。タンパク質については,一般に,1RUは約1pg/mm2に対応する。
【0074】
hM6PR内のドメインのうちM6Pが結合するのはドメイン9であることから,上記と同様にして調製したhM6PRのHis-タグドメイン9(His-タグ-hMPR9)を,M6Pの受容体として用いた。そしてATFの受容体としては,R&D Systems (Minneapolis, MN) から入手した組換えhuPAR(rhuPAR)を,この実験では用いた。
【0075】
センサーチップを活性化させるために,500μmole/L NiCl2,150mM NaCl,50 μmole/L EDTA,及び0.05% Surfactant P20を含有する10mM HEPES (pH 7.4) を,10μL/分の流速で60秒間流し,次いで (i) 150mM NaCl, 50μmole/L EDTA及び0.05% Surfactant P20を含有する10mM HEPES (pH 7.4) に溶解させた2.8μg/mLのHis-タグ-hMPR9の約2.1μL又は (ii) 同じ緩衝液に溶解させた5μg/mLのrhuPAR(R&D Systems)の約2.1μL,を適用し,続いて同じ緩衝液を10μL/分の流速で60分間流して,活性化されたセンサーチップ表面にHis-タグ-hMPR9又はrhuPARを固定した。
【0076】
各サンプルを,ATF-融合hI2Sの又はrhI2Sの濃度が12.5,6.25,3.125及び1.5625 nmol/Lとなるように,150mM NaCl, 50μmole/L EDTA及び0.05% Surfactant P20を含有する10mM HEPES(pH 7.4)で希釈した。各稀釈物を,次いで,リガンド(ATF-融合hI2S又はrhI2S)がセンサーチップ表面の対応する受容体(His-タグ-hMPR9又はrhuPAR)に結合されるよう,50μL/分で300秒間適用した。次いで150mM NaCl, 50μmole/L EDTA及び0.05% Surfactant P20を含有する10mM HEPES(pH 7.4)を,50μL/分の流速で180秒間流し,同時に,リガンド(ATF-融合hI2S又はrhI2S)と受容体(His-タグ-hMPR9又はrhuPAR)との間の乖離状態を連続的にモニターした。続いて,150mM NaCl, 350mM EDTA及び0.05% Surfactant P20を含有する10mM HEPES(pH 8.3)を50μL/分の流速で60秒間流してセンサーチップを変性させた。乖離定数(Kd)は,上でモニターされた乖離状態に基づき,Biacore T100 Evaluation ソフトウェアにより自動的に算出された。
【0077】
結果として,hATF-融合hI2SとrhuPARとの間のKdは,1.16nMと,またmATF-融合hI2SとrhuPARとの間のそれは5.59nMと,算出された。こうして,rhuPARに対するhATF-融合hI2Sの親和性は,rhuPARに対するmATF-融合hI2Sのそれより4.8倍高かった。hI2SとrhuPARとの間には,特異的結合は検出されなかった。これらのデータは,hATFを融合したhI2SはhuPARに効率的に結合でき,そしてアミノ酸の31%がhI2Sのそれとは異なる(135個のアミノ酸中42個)ものであるmATFも,依然としてhuPARに効率的に結合できることを示している(図10)。
【0078】
更にhATF-融合hI2SとhM6PRとの間のKdは0.40nMと,また,mATF-融合hI2SとhM6PR(hM6PRのドメイン9)との間のそれは0.43nMと,算出された。これらの値はhI2SとhM6PRとの間のKd値(0.47nMのKd)と同等である。これらのデータは,ネズミ又はヒトのATF-融合hI2Sの何れもhM6PRに対する結合親和性を有し,そしてそれが,それらの一層低いM6P含量にも拘わらず,hIS2の結合親和性と近似していることを示している。
【実施例14】
【0079】
(ヒト繊維芽細胞を用いたhATF-融合hI2Sの細胞取り込みの測定)
M6P受容体とウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター受容体(uPAR)の双方を発現している培養ヒト繊維芽細胞(CCD-1076SK, DS Pharma Biomedical Co., Ltd. より入手)を,10%の熱不活性化FBS及び2mMのL-グルタミンを含有するMEM-Eagle培地(Gibco)中に懸濁させ,細胞密度を8.0×104個/mLに調節した。この細胞懸濁液の100μLを,98ウェルマイクロプレートの各ウェルに播き,37℃にて2日間,5%CO2及び95%空気よりなる加湿雰囲気中で培養した。hATF-融合hI2S又はrhI2Sを含有するサンプルを上記培地で連続稀釈して,4.88ng/mLから20μg/mLまでのそれらの種々の濃度を作った。次いで,繊維芽細胞を播いておいた96ウェルマイクロプレート中の培地をマイクロピペットで除去し,上記で希釈した各サンプルの100μLを,ウェルに二重に加え,18時間インキュベートした。ここに,hATF-融合hI2S又はrhI2Sの最終濃度は,4.88ng/mLから20μg/mLであった。このアッセイにおけるマンノース−6−リン酸受容体(M6P)受容体へのhATF-融合hI2S又はrhI2Sの特異的結合を確認するために,拮抗物質として,10mmol/Lのマンノース−6−リン酸(M6P)を含有するサンプルを調製し,96ウェルマイクロプレートに加え,上記と同じ仕方でインキュベートした。アッセイは,二重に行った。
【0080】
氷冷PBSで3回洗浄した後,0.5%プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)を補充したM-PER Mammalian Protein 抽出キット(Thermo Scientific)で細胞を溶解させた。次いで,総細胞タンパク質の量をPierce BCATM Protein Assay kit (Pierce, IL, USA) により測定し,上述のようにして,細胞に取り込まれたhATF-融合hI2S及びrhI2Sの量をELISAにより定量した。取り込まれたhATF-融合hI2S及びrhI2Sの量を,細胞の総タンパク質量の単位質量(mg)当たりで算出し,グラフ上にプロットした。
【0081】
rhI2Sと較べて,正常ヒト繊維芽細胞内へのhATF-融合hI2Sの細胞取り込みのレベルは低かった(図6)。これは,hATF-融合hI2Sに含まれるM6Pの個数(2.2個/タンパク質分子)がrhI2Sのそれ(4.4個/タンパク質分子)より低く,そのことが,rhI2Sと較べて,hATF-融合hI2SにおけるM6P受容体を介した細胞取り込みの効率を低めたことによる可能性がある。他方,10mM M6P(これはM6P受容体へのリガンドの結合に拮抗する)の存在下では,hATF-融合hI2Sの細胞取り込みはrhI2Sより高かった。10mM M6Pの存在下では,rhI2Sの取り込みは99%を超えて阻害され,これに対し,hATF-fused hI2Sは20%を超える割合が繊維芽細胞に取り込まれた。hATF-融合hI2Sのこの取り込みは,4.02μg/mLのATFの更なる添加により阻害された。
【0082】
M6Pの添加によるhATF-融合hI2S及びhI2Sの細胞取り込みの阻害を,図7に示すように更に分析し,そこでは,細胞取り込みの測定のために,20μg/mLのhATF-融合hI2S又はhI2Sが,種々の濃度のM6Pを含有する培地に添加された。3.33mM M6Pの存在下には,M6Pの阻害効率は殆ど飽和しているように見え,rhIS2の取り込み阻害は99%を超えていたのに対し,hATF-融合hI2Sの15%より多くが,依然として繊維芽細胞に取り込まれた。
【0083】
これらのデータは,hATF-融合hI2Sが,M6P受容体を介するのみならずM6P受容体非依存的な形で,可能性としてuPARへのhATF部分の結合を介して,細胞に取り込まれることができるものであることを示している。
【実施例15】
【0084】
(正常マウス繊維芽細胞を用いたmATF-融合hI2Sの細胞取り込みの測定)
mATF-融合hI2Sの細胞取り込みの測定を,上記実施例13に記載した手順に従って行い,そこでは,初代培養マウス繊維芽細胞が,ヒト繊維芽細胞の代わりに用いられた。初代培養マウス繊維芽細胞は,北山ラベス社(日本)から入手した。
【0085】
rhI2Sと較べて,マウス繊維芽細胞内へのmATF-融合hI2Sの細胞取り込みのレベルは低かった(図8)。このことは,mATF-融合hI2Sに含まれるM6Pの個数(2.2個/タンパク質分子)が,rhI2Sにおけるそれ(4.4個/タンパク質分子)より低く,そのために,rhI2Sに比べてmATF-融合hI2SにおけるM6P受容体を介した細胞取り込みの効率が低下していることに因るのかも知れない。他方,10mM M6Pの存在下(これはM6P受容体へのリガンドの結合と拮抗する)では,mATF-融合hI2Sの細胞取り込みは,rhI2Sより高かった。10mM M6Pの存在下では,rhI2Sの取り込みは約91%が阻害され,これに対しmATF-融合hI2Sは20%より多くが,繊維芽細胞に取り込まれた。
【0086】
M6Pの添加によるmATF-融合hI2S及びhI2Sの細胞取り込みの阻害は,図9に示されているように更に分析され,そこでは,測定のために,20μg/mLのmATF-融合hI2S又はhI2Sが,種々の濃度のM6Pを含んだ培地に添加された。3.33mM M6Pの存在下では,M6Pの阻害効率は殆ど飽和しているように見え,rhI2Sの取り込みの90%より多くが阻害され,これに対しhATF-融合hI2Sは,20%より多くが依然として繊維芽細胞に取り込まれた。
【0087】
これらのデータは,hATF-融合hI2Sは,M6P受容体を介してのみならず,M6P非依存的な形で,可能性としてuPARへのhATF部分の結合を介しても,細胞に取り込まれることができるということを示している。
【実施例16】
【0088】
(ELISAによるヒトI2Sの分析)
96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)の各ウェルに,0.05M 炭酸−重炭酸緩衝液(pH 9.6)で4μg/mLに希釈したマウス抗ヒトモノクローナル抗体100μLを加え,室温にて1時間プレートを静置してウェルに抗体を吸着させた。次いで,0.05% Tween 20を含んだリン酸緩衝生理食塩水 (pH 7.4)(PBS-T) で各ウェルを3回洗浄した後, Starting Block(PBS) ブロッキング緩衝液 (Thermo Fisher Scientific) 200μLを加え,室温にて少なくとも30分間,プレートを静置した。次いで,各ウェルをPSB-Tで3回洗浄した後,0.5% BSA及び0.05% Tween 20を含むPBS(PBS-BT)で所望により希釈した試験サンプル又はヒトI2S標準の100μLをウェルに添加し,室温にて少なくとも1時間,プレートを静置した。次いで,PBS-Tで各ウェルを3回洗浄した後,PBS-BTで希釈したビオチン標識抗ヒトI2Sモノクローナル抗体100μLを加え,少なくとも1時間,プレートを静置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,PBS-BTで希釈したストレプトアビジン-HRP(R&D SYSTEMS)100μLを加え,少なくとも30分間,プレートを静置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,0.4mg/mL o−フェニレンジアミンのリン酸−クエン酸緩衝液(pH 5.0)をウェルに添加し,室温にて8〜20分間プレートを静置した。次いで,1mol/L H2SO4の0.1mLを各ウェルに添加して反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーにより,ウェルにつき490nmにおける吸光度を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクティベーター受容体(uPAR)が発現している臓器,組織及び細胞に種々の薬理学的に活性な化合物を送達するための手段として使用することができる。従って,本発明はまた,当該受容体が発現している臓器,組織及び細胞へと向けられる種々の薬剤を提供するために使用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 LacZプロモーター
2 mPGKプロモーター
3 野生型ネズミ脳脊髄炎ウイルスIRES(EMCV-IRES)
3a 変異型ネズミ脳脊髄炎ウイルスIRES(EMCV-mIRES)
4 mPGK ポリアデニル化シグナル(mPGKpA)
5 EF-1プロモーター及びその第1イントロンを含む配列
6 SV40後期ポリアデニル化シグナル
7 SV40初期プロモーター
8 合成ポリアデニル化シグナル
9 サイトメガロウイルスプロモーター
10 グルタミンシンセターゼ遺伝子
11 マウスATFをコードする配列
12 ヒトI2S遺伝子
13 ヒトATFをコードする配列
【配列表フリーテキスト】
【0091】
配列番号1=IRES-Hygr-mPGKpA をコードするDNA配列
配列番号2=IRES5'
配列番号3=IRES3'
配列番号4=mPGKP5'
配列番号5=mPGKP3'
配列番号6=mPGKプロモーター領域を含むDNA配列
配列番号7=GS5'
配列番号8=GS3'
配列番号9=puro5'
配列番号10=puro3'
配列番号11=ピューロマイシン耐性遺伝子を含むDNA配列
配列番号12=SV40polyA5'
配列番号13=SV40polyA3'
配列番号14=mIRES-GS5'
配列番号15=mIRES-GS3'
配列番号16=hATF-f
配列番号17=hATF-r
配列番号18=mATF-f
配列番号19=mATF-r
配列番号20=hI2S-f
配列番号21=hI2S-r
配列番号22=hI2S-f2
配列番号23=hI2S-r2
配列番号24=hI2S-f3
配列番号25=hI2S-r3
配列番号26=mATF-融合hI2S遺伝子のDNA配列
配列番号27=mATF-融合hI2Sのアミノ酸配列
配列番号28=hATF-融合hI2S遺伝子のDNA配列
配列番号29=hATF-融合hI2Sのアミノ酸配列
配列番号30=mATFのアミノ酸配列
配列番号31=mATFの受容体結合ドメインのアミノ酸配列
配列番号32=hATFのアミノ酸配列
配列番号33=hATFの受容体結合ドメインのアミノ酸配列
配列番号34=BipシグナルをN末端に及びHis-タグをC末端に有するhMPR9をコードする合成DNA配列
配列番号35=hMPR9-f
配列番号36=hMPR9-r
配列番号37=MPR9-f2
配列番号38=MPR9-r2
配列番号39=MPR9-f3
配列番号40=MPR9-r3
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図1-7】
図1-8】
図1-9】
図2
図3
図4
図6
図7
図8
図9
図10
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]