(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の時間にわたり前記焼成環境を前記第1の閾値温度まで加熱することが、約24時間〜約46時間の範囲にある所定の最小時間にわたり前記焼成環境を前記第1の閾値温度まで加熱することを含むことを特徴とする、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
前記第1の時間にわたり前記焼成環境を前記第1の閾値温度まで加熱することが、前記未焼成構造体のコアのごく近傍で前記粘土材料の脱水が開始される前に前記有機材料の焼き払いの実質的完了を達成するに十分な時間にわたり前記焼成環境を前記第1の閾値温度に保持することを含むことを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に例示されるように、粘土系原料からセラミック構造体を形成する場合、たとえば、コージェライトセル状セラミック構造体を形成する場合などでは、3つの一般的なレジームが存在する。最初の2つのレジームは、ガス焼成炉内などで未焼成構造体を焼成することを含み、最後のレジームは、形成されたセラミック構造体を冷却することを含む。なんら特定の理論により拘束されることを望むものではないが、以下でさらに詳細に説明されるように、初期レジーム101(たとえば、約1000℃までの焼成環境温度)時に、未焼成構造体の原料は、加熱されて個別に変換を受けると考えられる。この初期レジームの後、第2のレジーム102では、焼成環境の温度は、ピーク温度に加熱され、未焼成構造体が反応してセラミック構造体を形成しうる時間にわたり実質的に一定に保持される。この場合もなんら特定の理論により拘束されることを望むものではないが、この第2のレジーム102(たとえば、約1000℃以上かつピーク温度までの焼成環境温度)時に、未焼成構造体の材料は、相互反応を開始してコージェライトなどのような最終セラミック材料を形成すると考えられる。最終レジーム103では、形成されたセラミック構造体をピーク焼成温度から冷却させることが許される。
【0017】
以上に述べたように、初期レジーム101では、個別の材料は、種々の変換を受けると考える。たとえば、初期焼成レジーム101時に、種々の水和材料(たとえば、水和アルミナ、水和粘土、およびタルク)は、水を失い、種々の有機材料(たとえば、バインダー材料および/または細孔形成剤(すなわち、デンプン))は、燃え尽きる。より特定的には、初期焼成レジーム101内には、未焼成構造体の材料が焼成環境と平衡状態にある初期開始相の後に、未焼成構造体の種々の材料が受ける変化の3つの一般的な段階が存在する。例としてコージェライトを用いた場合、第1の段階104では、たとえば、焼成環境温度が約180℃から約425℃に上昇する第1の段階104では、水和アルミナは水を失い、「メトセル」(または他のバインダー材料)は燃え尽き、かつデンプン(または他の有機細孔形成剤)が燃え尽きる。第2の段階105では、たとえば、焼成環境温度が約425℃から約750℃に上昇する第2の段階105では、水和粘土は水を失う。第3の段階106では、たとえば、焼成環境温度が約750℃から約1000℃に上昇する第3の段階106では、タルクは水を失う。
【0018】
この場合もなんら特定の理論により拘束されることを望むものではないが、本発明者は、以上に記載の初期焼成レジーム101時に以下の事象が起こると考えている。初期レジーム101時に細孔形成剤の分解が起こる。この分解は、多量の熱を放出する酸化反応すなわち発熱反応である。初期にセラミック構造体の外皮部分または外側部分で発熱反応が起こり、その結果、初期示差熱を生じてセラミック構造体の外側部分がコアよりも熱くなる。続いて、外皮部分または外側部分での発熱反応が弱くなり、発熱反応領域は、構造体の内側のコアに向かって移動する。
【0019】
セラミック(たとえばコージェライト)は良好な断熱材であり、かつそのようなフィルターに使用可能なセル状構造体は多数のチャネルを含むので、焼成時に伝導または対流のいずれかにより構造体から熱を効果的に除去することが困難であるという問題に遭遇する可能性がある。セル状構造体は追加的に、大きい表面積を提供して焼成環境中でバインダーと酸素(O
2)の反応を促進し、それにより内側発熱作用を増強する。その結果、有機材料焼き払い(BO)段階(以上に記載の第1の段階104)時に、構造体は、正の示差熱または負の示差熱のいずれかを呈する可能性がある(すなわち、コアは、外表面またはその近傍の位置よりも高い温度または低い温度のいずれかを呈する可能性がある)。この温度差は、多孔性セラミック構造体中に熱応力を生成しうるので、亀裂発生を引き起こす可能性がある。この現象は、大きいセル状セラミック構造体または多量の有機材料を含有する構造体、たとえば、コージェライト微粒子フィルター製品などにとくにあてはまる可能性がある。
【0020】
壁断面が厚く(すなわち、有機含有量がより多く)かつ細孔形成剤(すなわち、デンプン)が存在するので、コージェライト微粒子フィルターなどのようなセラミック構造体は、焼成プロセス時に比較的高い発熱量の発熱および比較的大きいコア/外皮温度勾配を呈する可能性がある。焼成ランプ速度(焼成環境中の温度の上昇速度)を増加させた場合、構造体のコアからのこの熱の適正な伝導や対流が可能でなければ、熱応力が生成しうるので、最終的には、構造体のコアが収縮して構造体の外皮から離れ、構造体の内部亀裂発生を引き起こす可能性がある。そのため、以上に述べたように、製品のサバイバビリティーを増強するために、比較的長時間かけて焼成環境中の温度をピーク焼成温度に徐々に上昇させるので、そのような構造体の焼成サイクルは、伝統的に比較的長かった。焼成ランプ速度を増加させた場合に内部亀裂発生を引き起こす理由を裏付ける種々の機構を見いだすことにより、本教示の種々の例示的実施形態は、そのような機構を回避するセラミック構造体を製造するための未焼成構造体の焼成方法を含む。
【0021】
焼成環境があまりにも急速に(たとえば、より短い時限温度サイクルまたは増加されたランプ速度で)昇温された場合、一般的には、次の材料変換事象の前に未焼成構造体のコア内の有機材料(すなわち、バインダー(たとえば「メトセル」)および細孔形成剤(たとえばデンプン))の適時の焼き払いを可能にするのに十分な酸素(O
2)が環境中に存在しない可能性があることを本発明者は見いだした。したがって、コアのごく近傍の有機材料は、望まれるよりも後の時間かつ高い温度になるまで燃え尽きないので、構造体のコア内に応力を生成して内部亀裂発生を引き起こす可能性がある。言い換えれば、焼成環境温度をあまりにも急速に上昇させると、構造体のコア内の有機材料の焼き払い(いわゆる「コアライトオフ」)により引き起こされる発熱反応は、遅れる可能性がある。その結果、発熱焼き払い事象と後続の吸熱粘土脱水事象とのオーバーラップを生じる。その結果、この発熱反応の遅れにより構造体のコアのごく近傍で有機材料焼き払いと粘土脱水とのオーバーラップを生じることが原因で、内部亀裂発生が初期焼成レジームの第2の段階で起こることを本発明者は見いだした。そのような亀裂発生は、たとえば初期焼成レジームの第1の段階で時限温度サイクルを制御することにより、防止可能であることを本発明者はさらに見いだした。
【0022】
初期焼成レジームの第2の段階(たとえば粘土段階)での構造体のコアと構造体の外皮との最大温度差(ΔT)すなわち最大コア/外皮温度差はまた、内部亀裂発生に影響を及ぼす可能性があることがさらに見いだされた。未焼成構造体は、大きい負のコア/外皮温度差(たとえば、未焼成構造体の中間コア部分のごく近傍の位置で測定された温度は、未焼成構造体の上側外皮部分のごく近傍の位置で測定された温度よりも低い)には耐えられるが、大きい正のコア/外皮温度差(たとえば、未焼成構造体の中間コア部分のごく近傍の位置で測定された温度は、未焼成構造体の上側外皮部分のごく近傍の位置で測定された温度よりも高い)に暴露された場合には亀裂発生を呈することを本発明者は見いだした。焼成の粘土段階での大きい正のコア/外皮温度差(たとえば、正の最大温度差(ΔT))は、コア内の遅れた発熱有機焼き払い反応の指標ひいては発熱焼き払いと吸熱粘土脱水とのオーバーラップの指標となりうる。反対に、焼成の粘土段階での負のコア/外皮温度差(たとえば、負の最大温度差(ΔT))は、上記のオーバーラップが回避された指標となりうる。
【0023】
本教示によれば、セラミック構造体のコアのごく近傍での有機材料焼き払い事象と粘土脱水変換事象とのオーバーラップを回避することにより焼成時の内部亀裂発生を低減および/または回避する未焼成構造体の焼成方法が可能であると考えられる。また、本教示によれば、構造体の焼成サイクルの長さを最小限に抑えると同時に内部亀裂発生を低減および/または回避することも可能であると考えられる。言い換えれば、本教示の種々の例示的実施形態は、セラミック構造体のコアのごく近傍での、粘土脱水が開始される前に実質的に有機材料の焼き払いを完了させるのに十分な平均ランプ速度を有する第1の時限温度サイクルにわたり(たとえば、BO段階で有機焼き払いと粘土脱水とのオーバーラップを防止するのに十分な時間をかけて)初期焼成レジームの第1の段階時に焼成環境を加熱し、第2のより速い時限温度サイクルにわたり(たとえば、第1の段階時のより遅い焼成時間を補償するために増大された平均ランプ速度を粘土脱水段階時に用いて)初期焼成レジームの第2の段階時に焼成環境を加熱するという上記の2つの発見を組み合わせた焼成方法を考慮したものである。
【0024】
さらに、本教示によれば、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)時に大きい正のコア/外皮温度差(たとえば、未焼成構造体の中間コア部分のごく近傍の位置で測定された温度が未焼成構造体の上側外皮部分のごく近傍の位置で測定された温度よりも高い場合)を回避することにより焼成時の内部亀裂発生を低減および/または回避する未焼成構造体の焼成方法も可能であると考えられる。
【0025】
本教示は、構造体の焼成サイクルの時間の長さの削減と同時に内部亀裂発生の防止を可能にすることにより、バッチへの高価なガスおよび/または他の焼成添加剤の添加を必要とすることなく広範にわたる製品タイプに対して増大されたサバイバビリティーを提供する、セラミック構造体を製造するための未焼成構造体の焼成方法を提供する。たとえば、本教示の種々の例示的実施形態には、ディーゼル微粒子フィルター(DPF)システムで従来から使用されているコージェライトディーゼルフィルター製品、たとえば、中小型ディーゼル車両(LDD)フィルターおよび大型ディーゼル車両(HDD)フィルターなどのための焼成サイクルが開示されている。種々のコージェライト中小型ディーゼル車両フィルターおよびコージェライト大型ディーゼル車両フィルターのための特定の焼成段階、時限温度サイクル、および焼成サイクルが開示されているが、当業者であれば、本教示が任意の粘土系コージェライト構造体(ただし、これに限定されるものではない)をはじめとする任意の粘土系セラミック構造体にあてはまりうることはわかるであろう。
【0026】
本明細書中で用いられる場合、「セラミック構造体」または「構造体」という用語は、粘土材料と有機材料(すなわち、バインダー材料および細孔形成剤)とを含む原料を未焼成構造体の形態に形成して焼成することにより製造されるセラミック物品を意味する。例示的セラミック構造体としては、たとえば、微粒子フィルター構造体、工業用液体フィルター構造体、および触媒基材構造体(ただし、これらに限定されるものではない)などをはじめとする多孔性セル状セラミック構造体が挙げられる。本教示の例示的実施形態に係る微粒子フィルター構造体は、フィルター(たとえば、LDDフィルターおよびHDDフィルター)のチャネルを貫流する流体ストリームから微粒子状物質を除去することが可能なものでありうる。本教示の例示的微粒子フィルターは、任意の流体ストリームからの任意の微粒子状物質の除去に適用可能であり、流体ストリームは、ガスまたは液体の形態でありうる。ガスまたは液体はまた、他の相、たとえば、ガスもしくは液体のいずれかのストリーム中の固体微粒子またはガスストリーム中の液体ドロップレットなどを含有しうる。例示的流体ストリームとしては、ディーゼル機関やガソリン機関などのような内燃機関により生成される排出ガス、水性液体ストリーム、および石炭ガス化プロセスで生成される石炭燃焼煙道ガスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。したがって、種々の例示的実施形態ではLDDおよびHDD微粒子フィルターが記載されているが、本教示は、流体ストリームを濾過するために使用される他の多孔性セラミック構造体、たとえば、水銀および他の毒性元素の低減ならびに工業用液体濾過用途に使用される多孔性セラミック構造体(ただし、これに限定されるものではない)などにあてはまる。
【0027】
本教示に係るセラミック構造体は、特定の用途に好適な任意の形状またはジオメトリー、さらにはさまざまな構成およびデザインを有しうる。たとえば、ウォールフローモノリス構造体、フロースルーモノリス構造体、またはパーシャルフローモノリス構造体(すなわち、ウォールフローモノリス構造体とフロースルーモノリス構造体との任意の組合せ)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例示的ウォールフローモノリスとしては、たとえば、チャネルもしくは多孔性網状構造体または構造体の対向端が開放および閉塞された個別流路を備えた他の流路を含むことにより、流体フローが一方の端から他方の端に流動するときにモノリスのチャネル壁を介する流体フローを増強する任意のモノリシック構造体が挙げられる。例示的フロースルーモノリスとしては、たとえば、チャネルもしくは多孔性網状構造体または両端が開放された個別流路を備えた他の流路を含むことにより、一方の端から対向端へのモノリス流路を介する流体ストリームの流動を可能にする任意のモノリシック構造体が挙げられる。例示的パーシャルフローモノリスとしては、たとえば、部分的にウォールフローかつ部分的にフロースルーである任意のモノリシック構造体が挙げられる。
【0028】
図2は、本教示に係るセラミック構造体の例示的な一実施形態を例示している。セラミック構造体200は、入口端202、出口端204、および入口端202から出口端204まで延在する複数のチャネル208、210を有する。チャネル208、210は、交差する多孔性壁206で略セル状構成(当業者によりハニカム構成と称されることもある)を形成することにより規定される。セラミック構造体200は、実質的に正方形の断面を有するチャネルで描かれているが(すなわち、構造体200の長手軸に垂直な平面内に)、当業者であれば、チャネル208、210が、本教示の範囲から逸脱することなく、たとえば、円形、正方形、三角形、矩形、六角形、正弦波形、またはそれらの任意の組合せの断面などのような種々の追加のジオメトリーを有しうることはわかるであろう。
【0029】
そのほかに、セラミック構造体200は円柱形で描かれているが、当業者であれば、そのような形状が例示的なものにすぎず、本教示に従って製造されるセラミック構造体が、ブロック形、キューブ形、ピラミッド形など(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとするさまざまな形状を有しうることはわかるであろう。
【0030】
セラミック構造体200は、任意の好適な粘土系材料から製造可能である。例示的材料としては、コージェライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸アルミニウム、およびムライト(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとするさまざまな粘土系セラミック材料が挙げられる。種々の例示的実施形態では、セラミック構造体200は、たとえば、原料を未焼成構造体の形態に押出しおよび/または成形してから焼成することにより、モノリシック構造体として形成可能である。そのような未焼成モノリシック構造体を押出しおよび/または成形するための種々の技術は、当業者の熟知するところである。
【0031】
種々の例示的実施形態のセラミック構造体はまた、外皮たとえば外皮214を含むことができ、構造体の外側周辺側方表面を形成可能である。外皮は、多孔性壁と同一のまたは異なる材料で作製可能であり、種々の実施形態では多孔性壁よりも厚くすることが可能である。種々の例示的実施形態では、外皮は、未焼成構造体の他の部分と共に押出しおよび/または成形することが可能である。種々の他の例示的実施形態では、外皮は、チャンネル網状構造体の外側部分を包み込む個別の構造体でありうる。また、セラミック構造体を形成するようにチャンネル網状構造体と共に焼成可能である。
【0032】
以上で述べたように、セラミック構造体のコア内で有機材料焼き払い(発熱事象)と粘土脱水(吸熱事象)とがオーバーラップすると、内部熱誘起応力を生成して構造体の内部亀裂発生を引き起こす可能性がある。以下でより詳細に説明されるように、本発明者は、粘土脱水が開始される前に有機材料焼き払いを実質的に完了させる閾値温度および/またはそれ未満で所定量の時間(たとえば、所定の最小時間)をかけることにより、このオーバーラップを回避し、それにより、製品のサバイバビリティーを増大させうることを見いだした。例示的な一実施形態では、本教示によれば、未焼成構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料焼き払いを実質的に完了させるように初期焼成レジームの第1の段階時に第1の比較的遅い時限温度サイクルで焼成環境を加熱し、次に、初期焼成レジームの第2の段階時により速い時限温度サイクルで焼成環境を加熱して昇温することにより、オーバーラップの防止を達成することが可能であると考えられる。他の例示的実施形態では、本教示によれば、初期焼成レジームの第1の段階時に比較的速い時限温度サイクルで焼成環境を初期加熱して、コアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料焼き払いの実質的完了を可能にする時間にわたり焼成環境を閾値温度に保持し、次に、初期焼成レジームの第2の段階時に比較的速い時限温度サイクルで焼成環境の加熱を再開することにより、オーバーラップを回避することが可能であると考えられる。初期焼成レジーム時の焼成の第1および第2の段階で選択される特定の時限温度サイクルにかかわらず、本教示によれば、未焼成構造体のコアのごく近傍で起こる有機材料焼き払い事象と粘土脱水事象とのオーバーラップを回避すると同時に初期焼成レジームの完了までの短縮された(たとえば、最小限の)全時間、ひいては短縮された(たとえば、最小限の)全焼成サイクル時間を提供するように、時限温度サイクルを選択することが可能であると考えられる。
【0033】
本明細書中で用いられる場合、「焼成サイクル」という用語は、初期焼成レジームを開始してから冷却を完了してセラミック構造体が製造されるまでの全時間−温度プロファイルを意味する。言い換えれば、「焼成サイクル」という用語は、構造体の形成時に存在する3つの一般的レジーム(
図1の101、102、および103)のそれぞれそれを包含し、かつ任意の数の異なる時限温度サイクルを包含しうる。
【0034】
本明細書中で用いられる場合、「時限温度サイクル」という用語は、ある時間にわたる焼成環境温度の変化、たとえば、ある時間にわたり平均された可変速度温度上昇(すなわち、可変ランプ速度)、一定温度上昇(すなわち、一定ランプ速度)、温度保持(すなわち、ある温度で一定に保持)、および/またはそれらの任意の組合せを意味する。本明細書中で用いられる場合、「セラミック構造体のコアのごく近傍で、粘土脱水が開始される前に実質的に有機材料の焼き払いを完了させるのに十分な平均ランプ速度を有する第1の時限温度サイクル」という用語は、構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が関与する吸熱事象が開始される前に、セラミック構造体のコアのごく近傍で、約90%以上の有機重量損失および/または有機材料が関与する発熱反応の完了を提供して、たとえば、約400℃以上、たとえば、約425℃以上の温度で熱生成が無視しうるものとなる時限温度サイクルを意味する。
【0035】
所与の時限温度サイクルに対して、当業者であれば、T
mid−core−T
top−skinとして計算されるセラミック構造体のコア/外皮温度差(ΔT)をセラミック構造体の外皮温度に対してプロットし(たとえば、
図4を参照されたい)、粘土脱水段階に対応する外皮温度範囲(たとえば、約400℃〜約600℃)になんらかの大きい正のΔT値(たとえば、正のピーク)の存在を探索することにより、粘土脱水が開始される前に有機材料焼き払いが実質的に完了したかどうかをいかに決定するかはわかるであろう。粘土脱水段階の任意の部分での約30℃超の正のΔT値は、有機材料焼き払いが粘土脱水とオーバーラップしたことの指標となりうる。言い換えれば、ΔT対外皮温度をプロットした場合、初期焼成レジームの粘土脱水段階に対応する外皮温度範囲でΔTが約30℃未満であれば、セラミック構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料の焼き払いの実質的完了が起きたことになる。
【0036】
以上で述べたように、本教示は、未焼成構造体のいくつかの焼成サイクル(たとえば、サイクル全体を通じて比較的高い焼成ランプ速度であるもの)時になぜセラミック構造体の内部亀裂が起こるかに関する理論の本発明者による発見を開示する。より特定的には、内部亀裂発生は、発熱反応の遅れにより構造体のコアのごく近傍で有機材料焼き払いと粘土脱水とのオーバーラップが生じることが原因で、初期焼成レジームの第2の段階(たとえば、粘土脱水段階)で起こる。問題を十分に理解するために、本発明者は、以下の
図2〜
図7に示されるように、またそれらを参照しながら説明されるように、実験的焼成サイクルを用いて、種々の例示的コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターでこれらの決定的な時限温度サイクルを分離した。コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターで近似的な最小焼成サイクル長さ(たとえば、高速焼成の限界値)を決定するために、種々の複数日間焼成サイクル(6日間、5日間、4日間、および3日間)を試験した。その結果は、初期焼成レジームの第1および第2の段階に対して
図3にプロットされている。各焼成サイクルで(すなわち、約180℃〜約750℃の焼成環境温度範囲で)、
図3にプロットされた7日間サイクルにより表されるベースライン80時間サイクルから初期焼成レジームランプ速度を変化させた。すなわち、ベースラインサイクルでは、初期焼成レジームの第2の段階は、約80時間後に完了した。以下に示される表は、直径5.66インチ(14.38センチメートル)×長さ6インチ(15.24センチメートル)(5.66”×6”)のコージェライト中小型ディーゼル車両フィルターおよび直径7インチ(17.78センチメートル)×長さ6インチ(15.24センチメートル)(7”×6”)のコージェライト中小型ディーゼル車両フィルターの両方について
図3に例示される焼成サイクルでの亀裂発生結果をまとめたものである。本明細書中に記載の種々の結果に対して、試験された各フィルターの鉛直方向および/または水平方向の断面の目視検査により亀裂発生を調べた。
【0038】
表1に示されるように、焼成サイクルを4日間から3日間に減少させると、フィルターは亀裂発生を開始する。すなわち、3日間サイクルでは、6つの5.66”×6”フィルターのうちの1つは、亀裂発生が観測され(すなわち、17%)、3つの7”×6”フィルターのうちの3つは、亀裂発生が観測された(すなわち、100%)。
図3に例示されるように、4日間サイクルと3日間サイクルとの主要な差は、初期焼成レジームでの焼成の第1の段階時(すなわち、この場合、約180℃〜約425℃の範囲内で規定されるBO段階時)に利用された時限温度サイクルであった。より特定的には、4日間サイクルの時限温度サイクルでは、この温度範囲にわたり約9℃/時の平均ランプ速度が使用され、一方、3日間サイクルでは、約25℃/時の平均ランプ速度が使用された。
【0039】
次に、
図4を参照する。亀裂発生現象をさらに理解するために、5.66”×6”コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターについて
図3に示された3日間および4日間焼成サイクルで、フィルターの中間コア部分のごく近傍の温度とフィルターの外側上部表面のごく近傍の温度との差(T
mid−core−T
top−skin)として計算されるコア/外皮温度差(ΔT)のデータを集めて外皮温度の関数としてプロットした。
図4に示されるように、コア/外皮温度差の実質的な変化は、焼成サイクルを4日間サイクルから3日間サイクルに減少させた時に起こった。4日間サイクルと比較して、3日間サイクルは、粘土脱水段階に対応する約400℃〜約525℃の外皮温度範囲内で正のΔTピーク(すなわち、最大の正のコア/外皮温度差)を呈した。
【0040】
亀裂発生機構とΔT曲線により示される4日間サイクルから3日間サイクルへの変化との相互関係をよりよく理解するために、さらなる実験を行い、結果を
図5〜
図7に例示した。
図5では、5.66”×6”および7”×6”の中小型ディーゼル車両フィルターの両方について
図3を参照しながら以上で説明したサイクルに追加して、種々の実験的焼成サイクル(4B日間、4C日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間)を試験した。以上のごとく、
図5に示されるように、各焼成サイクルで、7日間サイクルプロットにより表されるベースライン80時間サイクルから、ならびに
図5に示される4日間サイクルプロットおよび3日間サイクルプロットによりそれぞれ表される49時間サイクルおよび28時間サイクルから、初期焼成レジーム(約180℃〜約750℃の焼成温度範囲に対応する)の第1および第2の段階の時限温度サイクルに変更を加えた(
図5に示される3日間サイクルおよび4日間サイクルは、
図3に示されるものと同一である)。
【0041】
図5に示されるように、4B日間、4D日間、および4E日間のサイクルでは、初期焼成レジームの第1の段階の第1の部分(この場合、約180℃〜約350℃の温度範囲にわたる)の時に4日間サイクルで使用される速度からの平均ランプ速度のわずかな増加を利用し、第1の段階の第2の部分(この場合、約350℃〜約425℃の温度範囲にわたる)の時に平均ランプ速度のより有意な増加を利用した。この結果、平均ランプ速度は、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、この場合、約180℃〜約425℃の温度範囲にわたるBO段階)全体にわたり4日間サイクルで使用される速度から全体的に増加にした。4B日間、4D日間、および4E日間のサイクルではまた、それぞれ、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、この場合、約425℃〜約750℃の温度範囲にわたる粘土脱水段階)時にそれらの平均ランプ速度を増加させた。4C日間サイクルでは、初期焼成レジームの第1の段階の第1の部分(この場合、約180℃〜約275℃の温度範囲にわたる)の時に4日間サイクルで使用される速度からの平均ランプ速度のより有意な増加を利用し、それにより、約180℃〜約350℃の温度範囲にわたり、4B日間、4D日間、および4E日間のサイクルで使用される速度からの初期平均ランプ速度の増加、さらには初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、この場合、約180℃〜約425℃の温度範囲にわたるBO段階)にわたり平均ランプ速度の全体的増加を利用した。4F日間サイクルでは、初期焼成レジームの第1の段階の第1の部分(この場合、約180℃〜約350℃の温度範囲にわたる)の時に4日間サイクルで使用される速度と同一の近似的平均ランプ速度を利用し、第1の段階の残りの部分(この場合、約350℃〜約425℃の温度範囲にわたる)の時に平均ランプ速度の有意な増加を利用し、それにより、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、この場合、約180℃〜約425℃の温度範囲にわたるBO段階)全体にわたり、平均ランプ速度を4B日間、4D日間、および4E日間のサイクルで使用される速度から全体的に減少させた。4G日間サイクルでは、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、この場合、約180℃〜約425℃の温度範囲にわたるBO段階)時に400℃での約10時間保持まで3日間サイクルと同一の近似的平均ランプ速度を利用し、それにより、結果として約180℃〜約350℃では比較的高い初期平均ランプ速度、それに続いて約350℃〜約425℃では比較的低い平均ランプ速度となった。同様に、4H日間サイクルでは、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、この場合、約180℃〜約425℃の温度範囲にわたるBO領域)時に425℃での約10時間保持まで3日間サイクルと同一の近似的ランプ速度を利用し、それにより、同様に、結果として、約180℃〜約350℃では比較的高い初期平均ランプ速度、それに続いて約350℃〜約425℃では比較的低い平均ランプ速度となった。その結果、4G日間および4H日間のサイクルでは、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、この場合、約180℃〜約425℃の温度範囲にわたるBO段階)全体にわたり、4日間サイクルで使用される速度から平均ランプ速度が増加し、4B日間、4D日間、および4E日間のサイクルで使用される速度から平均ランプ速度がわずかに減少した。
【0042】
以下の表は、5.66”×6”コージェライト中小型ディーゼル車両ィルターおよび7”×6”コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターの両方について
図5に例示される焼成サイクルでの亀裂発生結果をまとめたものである。
【0044】
表2に示されるように、4B日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間のサイクルは、亀裂がなかったが、4C日間サイクルは、7”×6”フィルターの50%で亀裂発生を呈した(試験した4つのフィルターのうちの2つで、亀裂発生が観測された)。その結果、本発明者は、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、BO温度領域)時に利用されるランプ速度が亀裂防止に重要であると結論付けた。しかしながら、有機材料焼き払い(たとえば、「メトセル」およびデンプンの焼き払い)が完了した後であれば、焼成時にセラミック構造体の亀裂発生を引き起こすことなく平均ランプ速度を自由に増加させうると本発明者は結論付けた。コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターについての表2に示される結果によれば、初期焼成レジームの第1の段階にわたり、たとえば、約180℃〜約425℃の温度範囲内で、利用される平均速度は、内部亀裂発生に影響を及ぼしうるが(4C日間サイクルを参照されたい)、初期焼成レジームの第2の段階時に、たとえば、約425℃〜約750℃の温度範囲内で、利用される平均速度は、有意な影響を及ぼさない(4D日間および4E日間のサイクルを参照されたい)。その結果、4B日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間のサイクルでは、初期焼成レジームの第1および第2の段階で比較的短い時限温度サイクル(ひいては比較的短い全焼成サイクル)を使用した場合、たとえば、初期焼成レジームの第2の段階が完了するまでの時間が、示された実験で約39時間以下である場合、内部亀裂発生が防止されることが実証される。
【0045】
以上の結果から、たとえば、ライトデューティーフィルターで、焼成サイクルの開始から第2の段階の完了までの時間が約39時間以下である場合、本教示の例示的実施形態に従って時限温度サイクルを使用しうることが実証されるが、第2の段階が完了するまでの時間がより長く、それと同時に以上に記載のベースライン7日間サイクルで第2の段階が完了するまでの時間が依然として80時間未満である時限温度サイクルもまた、本発明の範囲内であると考えられる。したがって、種々の例示的実施形態では、焼成サイクルの開始から初期焼成レジームの第2の段階の完了までの時間を約62時間以下にしうると考えられる。
【0046】
以下の表は、
図5に例示される焼成サイクルで初期焼成レジームの第1および第2の段階時に使用された時限温度サイクルの平均ランプ速度をまとめたものである。
【0048】
以上のごとく、コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターで、本発明者は、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、約180℃〜約425℃の温度範囲内)時に利用されるランプ速度が内部亀裂防止に重要であると結論付けた。その結果、表2および3に示されるように、4B日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間のサイクルでは、初期焼成レジームの第1および第2の段階で比較的短いサイクル(ひいては比較的短い全焼成サイクル)を使用した場合、亀裂発生が防止されることが実証される。ただし、この場合、第1の段階時の焼成環境の加熱は、約12℃/時以下の平均ランプ速度、たとえば、約4.2℃/時〜約12℃/時の範囲内の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含む(すなわち、時限温度サイクルは、約12℃/時以下の平均ランプ速度を生成する、約180℃〜約425℃の温度範囲内で利用される任意の数値の速度および保持を含む)。
【0049】
しかしながら、有機材料焼き払い(たとえば、「メトセル」およびデンプンの焼き払い)が完了した後であれば、焼成時にセラミック構造体の内部亀裂発生を引き起こすことなく平均ランプ速度を自由に増加させることが可能である。その結果、表2および3に示されるように、4B日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間のサイクルでは、初期焼成レジームの第1および第2の段階で比較的短いサイクル(ひいては比較的短い全焼成サイクル)を使用した場合、亀裂発生が防止されることが実証される。ただし、この場合、初期焼成レジームの第2の段階時の焼成環境の加熱は、約75℃/時以下の平均ランプ速度、たとえば、約12℃/時〜約75℃/時の範囲内の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含む(すなわち、時限温度サイクルは、約75℃/時以下の平均ランプ速度を生成する、約425℃〜約750℃の温度範囲内で利用される任意の数値の速度を含む)。
【0050】
表3に示されるように、また以上で説明したように、初期焼成レジームの第1の段階はまた、初期焼成レジームの第1の段階内の2つの個別焼き払い事象に対応する2つの部分、すなわち、約180℃〜約350℃の温度範囲内の第1の部分および約350℃〜約425℃の温度範囲内の第2の部分に分けることが可能である。第1の段階の第1の部分では、有機材料は燃え尽きるが、有機材料に由来するある量のチャーが残留する。第1の段階の第2の部分では、有機材料の残留チャーは燃え尽きる。したがって、本発明者は、初期焼成レジームの第1の段階の各部分の時に利用される平均ランプ速度もまた、亀裂防止に影響を及ぼすと結論付けた。その結果、表2および3に示されるように、4B日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間のサイクルでは、初期焼成レジームの第1および第2の段階での比較的短いサイクル(ひいては比較的短い全焼成サイクル)を使用した場合、内部亀裂発生が防止されることが実証される。ただし、第1の段階時の焼成環境の加熱は、約25℃/時以下の平均ランプ速度、たとえば、約3.6℃/時〜約25℃/時の範囲内の平均ランプ速度で、焼成環境を約180℃から約350℃に加熱することと、約25℃/時以下の平均ランプ速度、たとえば、約4.2℃/時〜約25℃/時の範囲内の平均ランプ速度で、焼成環境を約350℃から約425℃に加熱することと、を含む。
【0051】
初期焼成レジームの段階およびそれがΔTに及ぼす影響をよりよく理解するために、以上のように、
図6では、5.66”×6”コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターについて
図5に示される焼成サイクルでコア/外皮温度差(ΔT)のデータを外皮温度の関数としてプロットした。
図6に示されるように、各ピーク(正および負の両方)は、各焼成サイクルでの特定の事象に関連付けることが可能である。種々の焼成サイクルで試験されたコージェライトLDDが呈した極大の正または極大の負のコア/外皮温度差を表すこれらのピークの同定は、ΔT曲線が呈する4日間サイクルから3日間サイクルへの実質的な変化を説明するのに役立つ。以上のごとく、4日間サイクルと比較して、3日間サイクルは、約400℃〜約525℃の温度範囲内(すなわち、
図6〜
図7に参照番号602により示された粘土脱水段階)に正のΔTピーク(すなわち、最大の正のコア/外皮温度差)を呈した。本発明者は、約30℃を超えるこの大きい正のΔTピークが約325℃での負のΔTピーク(すなわち、最大の負のコア/外皮温度差)の結果であることを見出した。すなわち、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、
図6〜
図7に参照番号604により示されたBO段階)での高加熱速度が原因で、構造体のコアと構造体の外皮との温度差が増大することにより、コア内での発熱反応(すなわち、バインダーおよび細孔形成剤の焼き払い)が遅れた。この発熱反応から放出された熱は、容易に散逸されず、長時間にわたりコア温度を外皮温度と対比して高い温度に保持するので、発熱反応と後続の粘土脱水吸熱事象とのオーバーラップ(
図6〜
図8で円に囲まれた領域606)を引き起こす。言い換えれば、コア内での有機材料焼き払い(すなわち、「コアライトオフ」)の後、構造体は、粘土脱水が開始される前に外皮と対比して冷却するのに十分な時間が与えられず、事象のオーバーラップおよび高い正のΔT値(
図6の約400℃〜約525℃の温度範囲内で起こる初期焼成レジームの粘土脱水段階で約30℃を超える最大の正のコア/外皮温度差により表される)を生成する。したがって、4日間サイクルと比較して、3日間サイクルは、有機材料焼き払いと粘土脱水とのオーバーラップを呈することにより(初期焼成レジームの第1および第2の段階)、構造体の内部亀裂発生を引き起こした。それとは反対に、4B日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間のサイクルのそれぞれは、粘土脱水段階に対応する外皮温度範囲内で約30℃を超えるいかなる正のΔT値も不在であることから例示されるように、5.66”×6”構造体でこのオーバーラップを回避した。言い換えれば、各サイクルでのコア/外皮温度差(ΔT)が粘土脱水段階全体にわたり連続的に減少したので(すなわち、ΔTの増加なし)、3日間サイクルでの大きいΔTピークにより示されるような有機材料焼き払いピークと粘土脱水ピークとのオーバーラップは存在しなかった。
【0052】
同様に、
図7では、コア/外皮温度差(ΔT)を7”×6”コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターについて
図5の焼成サイクルで外皮温度の関数としてプロットした。
図7に示されるように、この場合も、4B日間、4D日間、4E日間、4F日間、4G日間、および4H日間のサイクルのそれぞれは、構造体のコアのごく近傍で初期焼成レジームの有機材料焼き払い段階と粘土脱水段階とのオーバーラップを回避した。しかしながら、
図7の円で囲まれた領域606に示されるように、4C日間サイクルは回避せず、試験した7”×6”構造体の50%で亀裂発生が生じた。その結果、以上に基づいて、本発明者は、未焼成構造体のコア領域のごく近傍で有機材料焼き払いと粘土脱水とのオーバーラップを回避するサイクルにより、内部亀裂発生の最小化または防止が可能になることを見いだした。言い換えれば、構造体のコア内で、粘土脱水が開始される前に実質的に有機材料の焼き払いを完了させる(すなわち、オーバーラップを回避する)のに十分な平均ランプ速度を有する第1の時限温度サイクルにわたり、初期焼成レジームの第1の段階時に焼成環境を加熱することにより、内部亀裂発生を最小化または防止してサバイバビリティーを増大させることが可能である。
【0053】
上記の3日間および4C日間のサイクルに基づいて、さらに、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)のΔT値(たとえば、ΔTピーク)の符号は、粘土脱水の前に有機材料焼き払いが実質的に完了したかどうかの指標となりうると結論付けた。たとえば約30℃を超えるような大きい正のΔT値は、有機材料焼き払い事象と粘土脱水事象とのオーバーラップを引き起こしうることにより、構造体の外皮よりも先に構造体のコアを収縮させ、内部亀裂を引き起こす。したがって、このオーバーラップを実質的に回避するために(すなわち、セラミック構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料の焼き払いが実質的に完了することを保証するために)、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)で30℃を超えるΔT値が存在しなくなるまで初期焼成レジームの第1の段階で使用される時限温度サイクルを調整することが可能である。しかしながら、実際上、有機材料焼き払いと粘土脱水とのオーバーラップを回避するために(すなわち、セラミック構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料の焼き払いが実質的に完了することを保証するために)、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)でΔT値が約0℃を超えないように第1の時限温度サイクルを選択することが望ましいこともある。
【実施例】
【0054】
この発見を実験的な4G日間および4H日間のサイクルで試験した。
図7に示されるように、4G日間サイクルでは、構造体が初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、BO段階)時には高い正のΔT値を呈するが初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)時にはそうならないように、ある時間にわたり約400℃で焼成を保持する実験的サイクルを用いて、7”×6”コージェライトLDD構造体を焼成した。同様に、4H日間サイクルでは、構造体が初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、BO段階)時には高い正のΔT値を呈するが初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)時にはそうならないように、ある時間にわたり約425℃の温度で焼成を保持する実験的サイクルを用いて、7”×6”コージェライトLDD構造体を焼成した。その結果、以上に基づいて、初期焼成レジームの第1の段階時に十分な時間にわたり閾値温度までおよび/またはその温度で未焼成構造体を焼成することにより(たとえば、焼成環境を最小限の時間内で閾値温度まで上昇させ、かつ/または最小限の時間にわたり焼成環境を閾値温度に保持することにより)未焼成構造体のコアのごく近傍で有機材料焼き払いと粘土脱水とのオーバーラップを回避するように操作された焼成サイクルであれば、内部亀裂発生の最小化または防止が可能になる。言い換えれば、構造体のコア領域のごく近傍で、粘土材料の脱水が開始される前に実質的に有機材料の焼き払いを完了させる(すなわち、オーバーラップを回避する)のに十分な第1の時間にわたり、焼成環境を第1の閾値温度に加熱することにより、サバイバビリティーを増大させることが可能である。
【0055】
図8に示されるように、本教示は、コージェライト大型ディーゼル車両(HDD)フィルターなどをはじめとする種々のフィルターサイズにあてはまりうる。
図8では、コア/外皮温度差(ΔT)を種々のLDDおよびHDDフィルターサイズについて7日間焼成サイクルで外皮温度の関数としてプロットした。この結果から、サイズに対するΔT値の感度つまり亀裂発生が実証される。
図8に示されるように、構造体のサイズは、初期焼成レジームの第1の段階時の時限温度サイクルを短くする(すなわち、第1の段階で過度に急速に温度を上昇させる)ことにより生じるものと同様に内部亀裂発生に影響を及ぼしうる。したがって、以上に記載のLDDフィルターと同様に、最大の構造体(すなわち、13”×18.5”HDDフィルター)で、初期焼成レジームの第2の段階時に約30℃を超える正のΔT値を内部亀裂発生に対応させて
図8に示される約400℃〜約525℃の範囲内で特定した。次に、初期焼成レジームの第1の段階時に利用されるランプ速度を十分に遅くしてオーバーラップ問題を解決することにより、新しい8日間焼成サイクルを用いて13”×15”HDDフィルターで亀裂レベルを有意に低減させた。
【0056】
図9では、2つのほぼ同様なサイズのHDDフィルター(それぞれ、13”(33.02センチメートル)×18.5”(46.99センチメートル)および13”(33.02センチメートル)×15”(38.1センチメートル))で、コア/外皮温度差(ΔT)を7日間焼成サイクルおよび新しい8日間焼成サイクルの両方について外皮温度の関数としてプロットした。
図9に示されるように、7日間サイクルと比較して、8日間サイクルは、約400℃〜約600℃の温度範囲に対応する初期焼成レジームの第2の段階時に負のΔT値を示したことから、セラミック構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料の焼き払いが完了したことが実証される。
【0057】
図10は、
図9の焼成サイクルでの初期焼成レジームの第1および第2の段階を例示している。
図9および
図10に示されるように、8日間サイクルでは、最小限の焼成サイクル時間の長さでHDDフィルターの亀裂防止が実証された。ただし、第1の段階時の焼成環境の加熱は、約2.3℃/時の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含んでいた。第2の段階時の焼成環境の加熱は、約11℃/時の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含んでいた。その結果、8日間サイクルでは、HDDフィルターの内部亀裂発生の防止が実証される。ただし、第1の段階時の焼成環境の加熱は、約2.3℃/時以下の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含む(すなわち、時限温度サイクルは、約2.3℃/時以下の平均ランプ速度を生成する、約180℃〜約425℃の温度範囲内で利用される任意の数値の速度および保持を含む)。また、第2の段階時の焼成環境の加熱は、約11℃/時以下の平均ランプ速度、たとえば、約2.3℃/時〜約11℃/時の範囲内の平均ランプ速度で、焼成環境を加熱することを含む(すなわち、時限温度サイクルは、約11℃/時以下の平均ランプ速度を生成する、約425℃〜約750℃の温度範囲で利用される任意の数値の速度を含む)。
【0058】
したがって、本教示の例示的実施形態は、セラミック構造体の焼成サイクル時間を最小限に抑えると同時に亀裂発生を低減および/または防止する、セラミック構造体を製造するための未焼成構造体の焼成方法を提供する。たとえば、本教示の種々の例示的実施形態は、有機焼き払いを可能にするために閾値温度未満および/またはその温度で所定の最小の時間をかけることにより、構造体のコアのごく近傍で有機材料焼き払い段階および粘土脱水段階の存在のオーバーラップを回避することが可能である。種々の例示的実施形態は、構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料焼き払いを実質的に完了するように、焼成の第1の段階時に、第1の時限温度サイクル、たとえば、比較的遅い平均ランプ速度を有するサイクルで焼成環境を加熱し、次に、焼成の第2の段階時に、第2の時限温度サイクル、たとえば、第1の時限温度サイクルの平均ランプ速度よりも速い平均ランプ速度を有するサイクルで焼成環境を加熱して昇温することにより(たとえば、初期焼成レジーム時間の長さを短くして全焼成サイクルの長さを最小限に抑えることにより)、これを達成しうる。
【0059】
以上に例示されるコージェライト中小型ディーゼル車両フィルターなどをはじめとする種々の例示的実施形態では、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、BO段階)時の焼成環境の加熱は、約180℃〜約425℃の範囲内の温度にわたり約12℃/時以下の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含みうる。また、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)時の焼成環境の加熱は、約425℃〜約750℃の範囲内の温度にわたり約75℃/時以下の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含みうる。
【0060】
以上に例示されるコージェライト大型ディーゼル車両フィルターなどをはじめとする種々の追加の例示的実施形態では、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、BO段階)時の焼成環境の加熱は、約180℃〜約425℃の範囲内の温度にわたり約2.3℃/時以下の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含みうる。また、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)時の焼成環境の加熱は、約425℃〜約750℃の範囲内の温度にわたり約11℃/時以下の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含みうる。
【0061】
したがって、以上に例示されるように、本開示の種々の例示的実施形態は、コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターおよびコージェライト大型ディーゼル車両フィルターを提供する。ただし、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、BO段階)時の焼成環境の加熱は、約180℃〜約425℃の範囲内の温度にわたり約12℃/時以下の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含みうる。また、初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)時の焼成環境の加熱は、約425℃〜約750℃の範囲内の温度にわたり約11℃/時〜約75℃/時の範囲内の平均ランプ速度で焼成環境を加熱することを含みうる。
【0062】
種々の追加の例示的実施形態は、少なくとも第1の所定の最小時間にわたり、初期焼成レジームの第1の段階時に、焼成環境を閾値温度まで比較的迅速に加熱し(たとえば、比較的高いランプ速度で)、構造体のコアのごく近傍で粘土脱水が開始される前に有機材料焼き払いの実質的完了を可能にするのに十分な第2の所定の最小時間にわたり焼成環境を閾値温度に保持し、次に、加熱を継続して、初期焼成レジームの第2の段階時に焼成環境の温度を上昇させることにより(たとえば、この場合も比較的高いランプ速度で)、焼成時に未焼成構造体のコアのごく近傍でBO段階と粘土脱水段階とのオーバーラップを実質的に防止することを達成しうる。種々の例示的実施形態では、たとえば、コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターでは、閾値温度は約400℃〜約425℃の範囲内でありうる。また、種々の例示的実施形態では、たとえば、コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターでは、第1および第2の所定の最小時間は共に、約24時間〜約46時間の範囲内でありうる。
【0063】
種々の追加の例示的実施形態はさらに、粘土脱水が開始される前に有機材料焼き払いの実質的完了を可能にするように、閾値温度未満で所定の最小時間を与える時限温度サイクルで初期焼成レジームの第1の段階時に焼成環境を加熱し、次に、加熱を継続して、初期焼成レジームの第2の段階時に焼成環境の温度を上昇させることにより、焼成時に未焼成構造体のコアのごく近傍でBO段階と粘土脱水段階とのオーバーラップを実質的に防止することを達成しうる。種々の例示的実施形態では、たとえば、コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターでは、閾値温度は約400℃〜約425℃の範囲内でありうる。また、種々の例示的実施形態では、たとえば、コージェライト中小型ディーゼル車両フィルターでは、第1および第2の所定の最小時間は共に、約24時間〜約46時間の範囲内でありうる。
【0064】
以上に記載の第1および第2の所定の時間が共に約24時間〜約46時間の範囲内である種々の例示的実施形態では、焼成の開始から初期焼成レジームの第2の段階の完了までの時間は、約39時間〜約62時間を範囲内でありうる。
【0065】
また、本教示に係るセラミック構造体およびその製造方法の他の特徴は、たとえば、構造体に使用される材料および構造体の構成(たとえば、寸法、形状など)は、所望により変更可能である。当業者であれば、本教示に係るセラミック構造体が、本教示の範囲から逸脱することなく、粘土系微粒子フィルターおよび/または他の多孔性セラミック構造体などをはじめとする任意の数の粘土系構造体を含みうることは、わかるであろう。コージェライトライトデューティーフィルターおよびコージェライト大型ディーゼル車両フィルターに関して以上に記載したように、本教示を利用して、コア/外皮温度差(ΔT)を外皮温度の関数としてプロットすれば、構造体について初期焼成レジームの第2の段階(すなわち、粘土脱水段階)時の正のΔT値を特定した後、正のΔT値が約30℃以下になり、コアのごく近傍で起こる有機材料焼き払い段階および粘土脱水段階がもはやオーバーラップしなくなることが示されるまで、初期焼成レジームの第1の段階(すなわち、BO段階)時に使用される時限温度サイクルの平均ランプ速度を遅くすることが可能である。
【0066】
本教示の種々の例示的実施形態によれば、さらに、以上の教示と組み合わせて窒素などのような種々のガスおよび焼成添加剤を利用する、セラミック構造体を製造するための未焼成構造体の焼成方法が可能であると考えられる。たとえば、窒素は、粘土脱水吸熱事象後まで有機材料焼き払い発熱反応を遅らせることが可能であり、したがって、有機焼き払い段階と粘土脱水段階とのオーバーラップを回避して亀裂発生を低減または防止することも可能である。当業者であれば、全焼成サイクル時間をさらに最小化すると同時に内部亀裂発生を低減および/または回避すべく本教示を種々の追加の従来の焼成方法といかに組み合わせて利用するかはわかるであろう。
【0067】
さらには、本教示の種々の例示的実施形態は、コージェライトライトデューティーフィルターおよびコージェライト大型ディーゼル車両フィルターなどのようなセラミック構造体の製造に関するものであるが、本教示は、種々の用途および種々のタイプの微粒子状物質の濾過に有用な広範にわたるセラミック構造体を包含する。例示的用途としては、たとえば、石炭燃焼パワープラント、ガソリン機関、工業用液体濾過システム、触媒基材用途、ならびに定置用途および非定置用途で使用するためのフィルターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的では、とくに指定がないかぎり、本明細書および特許請求の範囲で用いられる量、パーセント、または割合を表す数、および他の数値はすべて、いずれの場合においても「約」という用語により修飾されているとみなされるものとする。したがって、相反する指示がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に示される数値パラメーターは、本発明により得ようとする所望の性質に依存して変化しうる近似値である。最低限でも、特許請求の範囲への均等論の適用を限定しようとするものではないが、各数値パラメーターは、少なくとも、報告された有効桁数の数を考慮に入れて通常の丸め技法を適用することにより解釈されなければならない。
【0069】
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメーターは近似値であるにもかかわらず、特定例に示される数値は、できるかぎり正確に報告されている。しかしながら、いずれの数値も、本質的に、それらの各試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含む。さらには、本明細書に開示される範囲はすべて、それに含まれるありとあらゆる部分範囲を包含するとみなされるものとする。
【0070】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形の「a」、「an」、および「the」ならびに任意の語の任意の単数形の使用は、明示的にかつ明確に1つの参照語に限定されないかぎり、複数形の参照語を包含することに留意されたい。本明細書中で用いられる場合、「include(〜を含む)」という用語およびその文法的異形は、限定することが意図されたものではないので、リスト中の項目の記述は、列挙された項目と置き換えたりまたはそれに追加したりしうる他の類似の項目を除外するものではない。
【0071】
本発明をその種々の例示的実施形態に関して詳細に説明してきたが、当然のことながら、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく多くの変更が可能であるので、そのようなものに限定されるとみなしてはならない。