(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、低負荷時に電動コンプレッサを低回転で運転すると、冷媒循環量が少なくなることから、冷媒の高圧圧力が低下してしまう。高圧圧力が低下すると、車室外熱交換器の出口側でサブクールがとれにくくなる(冷媒が過冷却状態になりにくくなる)。
【0006】
車室外熱交換器の出口側でサブクールがとれないと、完全に液化されない気液二相状態の冷媒が膨張弁を通過することになる。このときに気相が存在していることに起因して冷媒通過音が発生する。冷媒通過音としては、膨張弁自身から直接伝播して乗員の耳に届く音(直接伝播音)と、膨張弁から車室内熱交換器に伝播して乗員の耳に届く音(間接伝播音)とがあり、いずれも乗員にとって不快感を及ぼすことになる。
【0007】
直接伝播音の対策としては、膨張弁を遮音材で覆う方法があるが、完全に防ぐのは難しい。また、間接伝播音については、車室内熱交換器は空気を冷却して車室内に供給するためのものであるので、それ自体を遮音材で覆うことはできず、有効な解決策はないのが現状である。
【0008】
また、近年、例えばハイブリッド車や電気自動車等では車両で消費する電力をできるだけ抑制したいという要求があるが、その一方で、空調性能の確保も重要事項である。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電動コンプレッサを有する空調装置の電力消費量を抑制しながら空調性能を確保する場合に、高圧圧力が低下してもサブクールをとることができるようにして冷媒通過音を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するために、本発明では、電動コンプレッサの吐出量減少動作を優先させることによって吹き出し温度を上昇させるようにする一方で、膨張弁の冷媒入口側において冷媒がサブクール状態とならない場合には、電動コンプレッサの吐出量増加動作よりも、クーリングファンの送風量増加動作を優先させるようにした。
【0011】
第1の発明は、
単位時間当たりの吐出量を変化可能に構成された電動コンプレッサと、車室外に配設される車室外熱交換器と、膨張弁と、車室内に配設されて空調用空気を冷却する車室内冷却用熱交換器とを冷媒配管によって環状に接続してなる冷凍サイクル装置と、
車室内において上記車室内冷却用熱交換器の空気流れ方向下流側に配設され、空調用空気を加熱する車室内加熱用熱交換器と、
上記車室内冷却用熱交換器及び上記車室内加熱用熱交換器を収容するケーシングと、
上記ケーシング内に収容され、上記車室内冷却用熱交換器を通過した空気の上記車室内加熱用熱交換器への通過量を変更することによって車室内に吹き出す空調風の温度を調節するエアミックスドアと、
上記車室外熱交換器に送風するクーリングファンと、
上記膨張弁の冷媒入口側における冷媒のサブクール度合いを検出するサブクール検出手段と、
車両の車速に関する情報を出力する車速情報出力装置と、
上記電動コンプレッサ及び上記エアミックスドアを制御する制御装置とを備えた車両用空調装置において、
上記制御装置は、
車室内に吹き出す空調風の温度を上昇させる要求信号を受けた場合には、上記エアミックスドアの開閉動作による上記車室内加熱用熱交換器への送風量増加動作よりも、上記電動コンプレッサの吐出量減少動作を優先させて行い、一方、上記サブクール検出手段からの信号に基づいて上記膨張弁の冷媒入口側において冷媒がサブクール状態にならないと判定される場合には、
上記車速情報出力装置から出力される情報に基づいて車速が所定車速以下であると判断したときに、上記電動コンプレッサの吐出量増加動作よりも、上記クーリングファンの送風量増加動作を優先させて行
い、該クーリングファンの上限回転数を所定車速よりも高い場合に比べて低く設定するように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、吹き出し温度を上昇させる場合に、車室内加熱用熱交換器への送風量増加動作よりも、電動コンプレッサの吐出量減少動作を優先させることによって車室内冷却用熱交換器における冷媒の蒸発温度を上げるようにしたので、電動コンプレッサの仕事量が減少して消費電力が少なくて済む。
【0013】
また、膨張弁の冷媒入口側において冷媒がサブクール状態とならない場合には、電動コンプレッサの冷媒吐出量増加をすることなく、一般に電動コンプレッサよりも消費電力の小さいクーリングファンの送風量を増加させて車室外熱交換器の熱交換量を上昇させることによってサブクール不足を回避し、気液二相冷媒が膨張弁を通過するのを抑制することが可能になる。
【0014】
また、一般に、電動コンプレッサの吐出量増加による消費電力と、クーリングファンの送風量増加による消費電力とを比べた場合、クーリングファンの方が少なくて済む。本発明では、車室外熱交換器の放熱が走行風によって期待できない低車速時に、クーリングファンの送風量増加動作を優先させることで、消費電力の抑制と冷媒通過音の抑制とを両立することが可能になる。
【0015】
また、車速が低くロードノイズ等が少ない場合にクーリングファンの上限回転数が抑えられるのでクーリングファンの風切り音が目立ちにくくなる。また、車速が高く、ロードノイズが大きい場合にはクーリングファンの上限回転数を高くして車室外熱交換器の放熱量を十分に確保し、このときには、クーリングファンの風切り音がロードノイズにかき消されるようになり、風切り音が目立ちにくくなる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、
上記冷凍サイクル装置の高圧側の冷媒圧力を検出する高圧側圧力検出手段を備え、
上記制御装置は、上記高圧側圧力検出手段からの信号に基づいて高圧側の冷媒圧力が所定圧力以下であると判断した場合、所定圧力よりも高い場合に比べて、上記クーリングファンの上限回転数を低く設定することを特徴とするものである
。
【0017】
すなわち、冷凍サイクル装置において、高圧側の冷媒圧力が高い場合は低い場合に比べて負荷が大きい。本発明では、高圧側の冷媒圧力が低く、冷凍サイクル装置の負荷が低い場合にクーリングファンの上限回転数が抑えられるのでクーリングファンの風切り音が低減される。また、冷凍サイクル装置の負荷が高い場合にはクーリングファンの上限回転数を高くして車室外熱交換器の放熱量を十分に確保することが可能になる
。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、吹き出し温度を上昇させる場合には、電動コンプレッサの吐出量減少動作を優先させるようにしたので、空調性能を殆ど低下させることなく、消費電力を抑制できる。また、膨張弁の冷媒入口側において冷媒がサブクール状態とならない場合には、電動コンプレッサの吐出量増加動作よりも、クーリングファンの送風量増加動作を優先させるようにしたので、消費電力を低下させながら冷媒をサブクール状態とすることができ、冷媒通過音を低減できる。
【0019】
また、車速情報出力装置からの信号が所定値以下の場合、電動コンプレッサの吐出量増加動作よりもクーリングファンの送風量増加動作を優先させるようにしたので、消費電力の抑制と冷媒通過音の抑制とを両立することができる。
【0020】
また、車速が所定車速以下であると判断した場合にクーリングファンの上限回転数を低く設定するようにしたので、クーリングファンによる騒音を目立たなくすることができる。
【0021】
第2の発明によれば、
高圧側の冷媒圧力が所定圧力以下の場合にクーリングファンの上限回転数を低く設定するようにしたので、高負荷時の空調性能を確保しながら、低負荷時のクーリングファンによる騒音を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用空調装置1及び車載機器冷却装置2の概略構造を示す模式図である。車両用空調装置1が搭載された車両は、走行用蓄電池及び走行用モーターを備えた電気自動車である。
【0025】
車両用空調装置1の構造を説明する前に、車載機器冷却装置2の構造について説明する。車載機器冷却装置2は、車載機器10としての走行用インバータ装置やDC/DC変換器等を冷却するためのものであり、車載機器用の冷却水が流通する車載機器用ラジエター11と、冷却水を圧送する電動ポンプ12と、冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ15とを備えている。車載機器10と電動ポンプ12と車載機器用ラジエター11とは冷却水配管16によって環状となるように順に接続されている。車載機器用ラジエター11は、車両の前端部近傍に配設されており、車両の走行時には走行風が当たるようになっている。
【0026】
電動ポンプ12は、図示しない車載機器用制御装置によって制御される。この車載機器用制御装置には、冷却水温度センサ15が接続され、冷却水が所定温度以上になると電動ポンプ12が作動する。
【0027】
次に、車両用空調装置1の構造を説明する。車両用空調装置1は、冷凍サイクル装置20と、車室内加熱用熱交換器21と、ケーシング22と、エアミックスドア23と、クーリングファン24と、空調制御装置25とを備えている。
【0028】
冷凍サイクル装置20は、電動コンプレッサ30と、車室外に配設されて凝縮器として機能する車室外熱交換器31と、膨張弁32と、車室内に配設されて空調用空気を冷却するエバポレータとして機能する車室内冷却用熱交換器34とを冷媒配管35によって環状に接続してなるものである。
【0029】
電動コンプレッサ30は、従来から周知の車載用のものであり、回転数を変更することによって単位時間当たりの吐出量を変化させることができるものである。電動コンプレッサ30は、空調制御装置25に接続されてON及びOFFの切り替えと、回転数が制御されるようになっている。電動コンプレッサ30には、走行用蓄電池から電力が供給される。
【0030】
電動コンプレッサ30には、該コンプレッサ30の回転数を検出するコンプレッサ回転数検出センサ(コンプレッサ回転数検出手段)30aが設けられている。このコンプレッサ回転数検出センサ30aは空調制御装置25に接続されている。
【0031】
車室外熱交換器31は、上記車載機器用ラジエター11と同様に車両の前端部近傍に配設され、走行風が当たるようになっている。車室外熱交換器31の方が車載機器用ラジエター11よりも車両前側、即ち、走行風の流れ方向上流側に位置している。
【0032】
車室外熱交換器31には、電動コンプレッサ30から吐出された冷媒が冷媒配管35を介して導入される。車室外熱交換器31は、導入された冷媒を外部空気(車室外の空気)と熱交換させることによって凝縮するように構成された凝縮器である。
【0033】
尚、
図1には冷媒を流れを白抜きの矢印で示している。
【0034】
膨張弁32は、車室外熱交換器31から流出した冷媒を減圧させるためのものである。
【0035】
車室内冷却用熱交換器34は、膨張弁32を通過して減圧された冷媒が導入される。車室内冷却用熱交換器34は、導入された冷媒を外部空気(空調用空気)と熱交換させることによって空調用空気を冷却するように構成されている。車室内冷却用熱交換器34から流出した冷媒は電動コンプレッサ30に吸入される。
【0036】
冷凍サイクル装置20には、冷媒圧力センサ40と、冷媒温度センサ41と、高圧側圧力センサ(高圧側圧力検出手段)42と、空気温度センサ(空気温度検出手段)43とが設けられている。
図2にも示すように、冷媒圧力センサ40、冷媒温度センサ41、高圧側圧力センサ42及び空気温度センサ43は、空調制御装置25に接続されている。
【0037】
冷媒圧力センサ40は、膨張弁32の冷媒入口側における冷媒の圧力を検出するためのものである。冷媒温度センサ41は、膨張弁32の冷媒入口側における冷媒の温度を検出するためのものである。
【0038】
尚、膨張弁32の冷媒入口側とは、膨張弁32の冷媒入口を含み、その入口よりも冷媒流れ方向上流側の所定領域も含んでいる。従って、冷媒圧力センサ40や冷媒温度センサ41を膨張弁32の冷媒入口に設けてもよいし、膨張弁32と車室外熱交換器31との間の冷媒配管35に設けてもよい。また、冷媒圧力センサ40や冷媒温度センサ41を車室外熱交換器31の出口側に設けてもよい。
【0039】
高圧側圧力センサ42は、電動コンプレッサ30と車室外熱交換器31との間の冷媒配管35に設けられており、電動コンプレッサ30から吐出された冷媒の圧力を検出するためのものである。空気温度センサ43は、例えば車室外熱交換器31の車両前側に取り付けられており、車室外熱交換器31に流入する車室外の空気の温度を検出するためのものである。
【0040】
ケーシング22は、車室内においてインストルメントパネル(図示せず)の内部に配設されている。ケーシング22には、ブロア28が設けられている。ブロア28は、車室内の空気と車室外の空気との一方を選択して空調用空気としてケーシング22内に送風するためのものである。
【0041】
ケーシング22の内部には、上記車室内冷却用熱交換器34及び車室内加熱用熱交換器21が収容されている。車室内冷却用熱交換器34は、車室内加熱用熱交換器21よりも空気流れ方向上流側に配置されており、ブロア28から送風された空調用空気は全量が車室内冷却用熱交換器34を通過する。
【0042】
車室内加熱用熱交換器21には、図示しない電気ヒータ等の加熱手段により加熱された温水等の熱媒体が流通するようになっている。ブロア28から送風された空調用空気と車室内加熱用熱交換器21内部の温水とが熱交換することによって空調用空気が加熱される。加熱手段には走行用蓄電池から電力が供給される。
【0043】
ケーシング22には、車室内冷却用熱交換器34と車室内加熱用熱交換器21との間にエアミックスドア23が収容されている。エアミックスドア23は、車室内冷却用熱交換器34を通過した空気の車室内加熱用熱交換器21への通過量を変更することによって車室内に吹き出す空調風の温度を調節するためのものである。
【0044】
具体的には、エアミックスドア23は、エアミックスドアアクチュエータ45によって動作するものである。エアミックスドアアクチュエータ45は、空調制御装置25に接続されており、空調制御装置25からの出力信号によって動作する。エアミックスドア23が車室内加熱用熱交換器21への通風量を0とする位置にあるときには、車室内冷却用熱交換器34を通過した冷風のみが車室に供給されることになり、一方、エアミックスドア23が車室内加熱用熱交換器21への通風量を確保する位置にあるときには、車室内冷却用熱交換器34を通過した冷風と、車室内加熱用熱交換器21を通過した温風とが車室内加熱用熱交換器21の下流側で混合して車室に供給されることになる。
【0045】
エアミックスドア23の開度は任意に設定することが可能となっており、開度によって車室に供給される空調風の温度調節が可能である。
【0046】
ケーシング22のエアミックスドア23よりも下流側には、デフロスタ吹出口22a、ベント吹出口22b及びヒート吹出口22cが形成されている。これら吹出口22a〜22cはそれぞれ図示しないドアによって開閉され、例えば、デフロスタモード、ベントモード等の様々な吹出モードに切り替えられるようになっている。
【0047】
クーリングファン24は、車室外熱交換器31及び車載機器用ラジエター11に車室外の空気を送って冷却するためのものである。クーリングファン24は、空調制御装置25に接続され、空調制御装置25によってON及びOFFの切り替えと、回転数(送風量)が制御されるようになっている。
【0048】
クーリングファン24の消費電力は電動コンプレッサ30の消費電力よりも低いものとなっている。
【0049】
空調制御装置25は、例えば、乗員による設定温度や外気温、車室内温度、日射量等の情報に基づいてブロア28の風量やエアミックスドア23の開度を設定し、その設定した風量や開度となるようにブロア28及びエアミックスドアアクチュエータ45を制御するものであり、周知の中央演算装置やROM、RAM等によって構成されている。また、空調の負荷に応じて電動コンプレッサ30やクーリングファン24も制御する。
【0050】
空調制御装置25には、膨張弁32の冷媒入口側における冷媒のサブクール度合いを検出するサブクール検出部(サブクール検出手段)25aが設けられている。サブクール検出部25aには、冷媒圧力センサ40及び冷媒温度センサ41から出力された信号が入力される。また、冷媒の飽和温度に関する情報(冷媒物性に基づく情報)が記憶されている。詳細は後述するが、サブクール検出部25aからの信号により、空調制御装置25は、膨張弁32の冷媒入口側において冷媒がサブクール状態であるか否かを判定するようになっている。
【0051】
空調制御装置25には、車速センサ29が接続されている。車速センサ29は、車両の車速に関する情報を出力する車速情報出力装置であり、車両用空調装置1の構成要素である。
【0052】
以下、空調制御装置25による制御手順について説明する。通常のオートエアコン制御と同様に、メインルーチンにおいて、ブロア28の風量、エアミックスドア23の開度、吹出モードの切り替え、電動コンプレッサ30、クーリングファン24の制御が行われる。クーリングファン24は、基本的には電動コンプレッサ30の作動中には作動するが、電動コンプレッサ30が停止状態であっても、車載機器冷却装置2の冷却水温度センサ15で検出された温度が所定温度以上である場合(冷却が必要な場合)には作動する。
【0053】
空調制御装置25による制御は、基本的には次のとおりである。例えば、夏季に乗員が設定温度を低めた場合には、乗員がより強い冷房を要求しているので空調の冷房負荷が増加することになり、電動コンプレッサ30の回転数を増加させるとともに、車室内加熱用熱交換器21を通過する冷風量が減少する方向にエアミックスドア23を作動させる。また、冬季であれば、空調の冷房負荷は減少することになり、電動コンプレッサ30の回転数は低くなる。
【0054】
そして、空調制御装置25は、車室内に吹き出す空調風の温度を上昇させる要求信号を受けた場合には、エアミックスドア23の開閉動作による車室内加熱用熱交換器21への送風量増加動作よりも、電動コンプレッサ30の回転数を低下させる吐出量減少動作を優先させて行うように構成されている。
【0055】
図3は、上記メインルーチンに組み込まれるサブルーチンのフローチャートを示している。このフローチャートに示す制御は、メインルーチンと同様に所定の周期で繰り返されている。
【0056】
スタート後のステップS1では、車速センサ29、冷媒圧力センサ40と、冷媒温度センサ41と、高圧側圧力センサ42と、空気温度センサ43から出力された信号を入力する。
【0057】
ステップS1に続くステップS2では、膨出弁32の冷媒入口側における冷媒の飽和温度を算出する。すなわち、ステップS2では、冷媒圧力センサ40から出力された膨出弁32の冷媒入口側における冷媒圧力を得て、この冷媒圧力と冷媒物性に基づく飽和温度に関する情報とにより、冷媒の飽和温度を算出する。
【0058】
ステップS2に続くステップS3では、膨張弁32の冷媒入口側における冷媒のサブクール度合いを判定する。すなわち、ステップS2で算出した飽和温度と、冷媒温度センサ41から出力された膨出弁32の冷媒入口側における冷媒温度とを比較し、冷媒温度が飽和温度以下である場合には、冷媒がサブクール状態であると判定し、一方、冷媒温度が飽和温度よりも高い場合には、冷媒がサブクール状態でないと判定する。ステップS2、S3は、サブクール検出部25aにて行われる。
【0059】
この実施形態では、冷媒圧力センサ40及び冷媒温度センサ41を膨張弁32の冷媒入口側に設けているので、膨張弁32に流入する冷媒がサブクール状態であるか否かを正確に判定することが可能である。
【0060】
尚、冷媒圧力センサ40及び冷媒温度センサ41を膨張弁32から離れた部位、例えば車室外熱交換器31の冷媒出口近傍等に設け、膨張弁32に流入する冷媒がサブクール状態であるか否かを予測に基づいて判定するようにしてもよい。
【0061】
ステップS3で冷媒がサブクール状態でないと判定されれば、膨張弁32には、気液二相冷媒が通過することになる。このときに気相が存在していることに起因して冷媒通過音が発生する恐れがある。一方、ステップS3でサブクール状態であると判定されれば、膨張弁32には、液冷媒のみが通過することになるので、冷媒通過音は殆ど気にならない程度に小さなものとなる。従って、サブクール状態であると判定された場合には、エンドに進み、サブルーチンを終了してメインルーチンに戻る。
【0062】
ステップS3でサブクール状態でないと判定された場合には、ステップS4に進んで第1車速判定を行う。第1車速判定は、車速センサ29から出力された車両の速度に基づいて行われ、車速Vsが20km/hよりも高いか否かを判定する。ステップS4でYESと判定されて車速Vsが20km/hよりも高いと判定されると、走行時のロードノイズ等(騒音)が車室にある程度侵入している状況である。
【0063】
このステップS4でYESと判定されると、ステップS5に進んで第2車速判定を行う。第2車速判定は、車速センサ29から出力された車両の速度に基づいて行われ、車速Vsが50km/hよりも高いか否かを判定する。ステップS5でYESと判定されて車速Vsが50km/hよりも高いと判定されると、車室外熱交換器31には走行風が十分に当たっている状況であり、クーリングファン24の回転数を増大させても効果は期待できないので、ステップS6に進んで電動コンプレッサ30の回転数を増大させた後、エンドに進む。
【0064】
一方、ステップS4の第1車速判定においてNOと判定されて車速Vsが20km/h以下の場合には、ステップS7に進んで高圧側の冷媒圧力が所定値以上であるか否かを判定する。ステップS7では、高圧側圧力センサ42から出力された冷媒圧力(電動コンプレッサ30の吐出側の冷媒圧力)に基づいて行われる。強めの冷房が要求されている場合のように空調負荷が高い場合には、弱めの冷房でよい場合のように負荷が低い場合に比べて高圧側の冷媒圧力が高くなる。従って、ステップS7でYESと判定されれば、空調負荷が高いということであり、NOと判定されれば空調負荷が低いということである。
【0065】
ステップS7でNOと判定されて進んだステップS8では、クーリングファン24の回転数の上限をR1に設定する。R1は、クーリングファン24の最高回転数よりも低い値である。
【0066】
そして、ステップS9に進み、クーリングファン24の回転数をR1以下の範囲で増大させる。これにより、車室外熱交換器31への送風量が増加して熱交換量が増えるので、膨張弁32の冷媒入口側の冷媒がサブクール状態となる。よって、冷媒通過音が低減される。
【0067】
このとき、車速Vsが20km/hよりも低いのでロードノイズ等が小さな状況であるが、クーリングファン24の上限回転数がR1とされて低く設定されているので、クーリングファン24の風切り音が小さくなり、乗員に不快感を与えにくい。
【0068】
ステップS7でYESと判定されて進んだステップS10では、クーリングファンの上限回転数をR2に設定する。R2は、クーリングファン24の最高回転数よりも低いが、R1よりも高い値である。
【0069】
そして、ステップS9に進み、クーリングファン24の回転数をR2以下の範囲で増大させる。これにより、車室外熱交換器31への送風量が増加して熱交換量が増えるので、膨張弁32の冷媒入口側の冷媒がサブクール状態となる。このとき、高圧側の冷媒圧力が高く空調負荷が高い状況であるが、クーリングファン24は、R1よりも高い回転数まで回転可能であるので、高い空調負荷に対応することができる。
【0070】
一方、クーリングファン24の上限回転数は最高回転数よりも低いR2とされているので、クーリングファン24の風切り音が小さくなり、乗員に不快感を与えにくい。
【0071】
ステップS5の第2車速判定でNOと判定された場合には、車速が20km/hよりも高く、かつ、50km/h以下である。この場合、ステップS11に進み、ステップS11では、ステップS7と同様に高圧側の冷媒圧力が所定値以上であるか否かを判定する。
【0072】
ステップS11でNOと判定されて空調負荷が低い場合には、ステップS12に進み、クーリングファン24の上限回転数をR3に設定する。R3は、クーリングファン24の最高回転数よりも低いが、R2よりも高い値である。
【0073】
そして、ステップS9に進み、クーリングファン24の回転数をR3以下の範囲で増大させる。これにより、車室外熱交換器31への送風量が増加して熱交換量が増えるので、膨張弁32の冷媒入口側の冷媒がサブクール状態となり、冷媒通過音が低減される。
【0074】
このとき、車速が50km/h以下であるので、ロードノイズ等が多少大きい状態である。このことに対応して、クーリングファン24の上限回転数を20km/h以下の場合よりも高めているので、クーリングファン24の風切り音を目立たせることなく、冷媒のサブクール状態を確実に得ることができる。
【0075】
ステップS11でYESと判定されて空調負荷が高い場合には、ステップS13に進み、クーリングファン24の上限回転数を最高回転数に設定する。最高回転数とは、クーリングファン24による最大の送風能力が得られる回転数である。
【0076】
そして、ステップS9に進み、クーリングファン24の回転数を最高回転数以下の範囲で増大させる。これにより、車室外熱交換器31への送風量が増加して熱交換量が増えるので、膨張弁32の冷媒入口側の冷媒がサブクール状態となり、冷媒通過音が低減される。
【0077】
このとき、車速が50km/h以下でロードノイズ等が多少大きくなっているので、クーリングファン24を最高回転数が回転させても風切り音は目立ちにくくなる。
【0078】
つまり、空調制御装置25は、膨張弁32の冷媒入口側においてサブクールとならない場合には、電動コンプレッサ30の吐出量増加動作よりも、クーリングファン24の回転数増加動作を優先させて行うように構成されている。
【0079】
以上説明したように、この実施形態にかかる車両用空調装置1によれば、吹き出し温度を上昇させる場合に、車室内加熱用熱交換器21への送風量増加動作よりも、電動コンプレッサ30の吐出量減少動作を優先させることによって車室内冷却用熱交換器34における冷媒の蒸発温度を上げるようにしたので、電動コンプレッサ30の仕事量が減少して消費電力が少なくて済む。
【0080】
また、膨張弁32の冷媒入口側においてサブクール状態とならない場合には、電動コンプレッサ30の冷媒吐出量増加をすることなく、電動コンプレッサ30よりも消費電力の小さいクーリングファン24の回転数を増加させて車室外熱交換器31の熱交換量を上昇させることによってサブクール不足を回避し、気液二相冷媒が膨張弁32を通過するのを抑制することが可能になる。
【0081】
したがって、消費電力を低下させながら、膨張弁32の冷媒入口側における冷媒をサブクール状態とすることができ、冷媒通過音を低減できる。
【0082】
また、冷凍サイクル装置20には、膨張弁32の冷媒入口側の冷媒圧力を検出する冷媒圧力センサ40と、膨張弁32の冷媒入口側の冷媒温度を検出する冷媒温度センサ41とを設け、これらセンサ40,41の出力値と、冷媒の飽和温度とに基づいてサブクール度合いを算出するようにしたので、実際の冷媒温度及び圧力に基づいてサブクール度合いを具体的に算出することができ、気液二相冷媒が膨張弁32を通過するのを抑制できる。
【0083】
また、例えば、車速が50km/hよりも高い場合のように車室外熱交換器31に十分な走行風が当たっている場合で冷媒がサブクール状態となっていない場合(ステップS5でYESと判定される場合)には、クーリングファン24の回転数を増加させてもその効果は低く、無駄な電力消費となることが考えられるが、この実施形態によれば、クーリングファン24の回転数を増加させる動作よりも電動コンプレッサ30の吐出量を増加させる動作を優先させるようにしたので、消費電力の抑制と冷媒通過音の抑制とを両立することができる。
【0084】
また、この実施形態では、電動コンプレッサ30の吐出量増加による消費電力と、クーリングファン24の回転数増加による消費電力とを比べた場合、クーリングファン24の方が少なくて済む。車室外熱交換器31の放熱が走行風によって期待できない低車速時(例えば20km/h以下)に、電動コンプレッサ30の回転数増加動作よりもクーリングファン24の回転数増加動作を優先させることで、消費電力の抑制と冷媒通過音の抑制とを両立することができる。
【0085】
また、冷凍サイクル装置20において、高圧側の冷媒圧力が高い場合は低い場合に比べて負荷が大きいが、この実施形態では、冷凍サイクル装置20の負荷が低い場合にクーリングファン24の上限回転数が抑えられるのでクーリングファン24の風切り音が低減される。また、冷凍サイクル装置20の負荷が高い場合にはクーリングファン24の上限回転数を高くして車室外熱交換器31の放熱量を十分に確保することができる。
【0086】
また、車速が低くロードノイズ等が少ない場合にクーリングファン24の上限回転数が抑えられるのでクーリングファン24の風切り音が目立ちにくくなる。また、車速が高く、ロードノイズが大きい場合にはクーリングファン24の上限回転数を高くして車室外熱交換器31の放熱量を十分に確保し、このときには、クーリングファン24の風切り音がロードノイズにかき消されるようになり、風切り音が目立ちにくくなる。
【0087】
尚、上記サブクール検出部25aでは、冷媒圧力及び温度を利用してサブクール状態であるか否か判定するようにしたが、コンプレッサ回転数検出センサ30aと、車速センサ29と、空気温度センサ43とに基づいてサブクール度合いを算出するように構成してもよい。
【0088】
この場合、車速センサ29と空気温度センサ43との出力信号から車室外熱交換器31の放熱量が予測される。すなわち、車速が高いほど、また、外気温が低いほど車室外熱交換器31の放熱量が増加する。また、コンプレッサ回転数検出センサ30aの出力信号から冷媒循環量が予測され、電動コンプレッサ30の回転数が高いほど冷媒循環量が多くなる。
【0089】
このように、車室外熱交換器31の放熱量と冷媒循環量とに基づいてサブクール状態であるか否かを検出するようにしたことで、冷媒圧力センサ40や冷媒温度センサ41等の冷媒漏れを誘発するセンサを設けることなく、サブクール状態となっているか否かを確実に得ることができるという利点がある。
【0090】
また、クーリングファン24の上限回転数R1、R2、R3は同じにしてもよい。
【0091】
また、フローチャートのステップS4における第1車速判定の速度は20km/hより低くても高くてもよく、例えば、10km/h〜30km/hの範囲で設定することができる。
【0092】
また、フローチャートのステップS5における第2車速判定の速度は50km/hより低くても高くてもよく、例えば、40km/h〜60km/hの範囲で設定することができる。
【0093】
また、膨張弁32の冷媒入口側における冷媒がサブクール状態にあるか否かを判定する方法としては、上記した方法以外の方法を用いてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、クーリングファン24が1つの場合に回転数を変化させることによって送風量を変化させているが、これに限らず、例えば、クーリングファン24を複数設けてそれらを独立してON/OFFすることによって送風量を変化させてもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、車両用空調装置1を電気自動車に搭載する場合について説明したが、これに限らず、例えばエンジンと走行用モーターとを備えたハイブリッド自動車に車両用空調装置1を搭載することも可能である。