(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
大気中で安定であると共にコンクリート、モルタル、ペースト中で溶解するアルカリ溶解性金属で形成され、少なくとも前記導体パターン部を被覆する被覆部を備えることを特徴とする請求項1記載の腐食センサ。
一部に貴金属の被膜が形成された前記鉄箔シートの回路パターンに大気中で安定であると共にコンクリート、モルタル、ペースト中で溶解するアルカリ溶解性金属の被膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項4記載の腐食センサの製造方法。
請求項1から請求項3のいずれかに記載の腐食センサをコンクリート構造物中、鋼構造部材を被覆したコンクリート、モルタルまたはペーストに埋設して、前記導体パターン部の電気的特性を測定し、前記測定した導体パターン部の電気的特性に基づいて、コンクリート構造物中の鋼材、コンクリート、モルタルまたはペーストで被覆された鋼材の腐食進行状況を検出することを特徴とする腐食検出方法。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、モルタル、ペーストは、セメントと水を練り混ぜたものを主たる構成材料としているため、アルカリ性を呈する。そのため、コンクリート構造物中の鋼材は、コンクリートがアルカリ性環境を保持していることで鋼材表面に不動態皮膜を形成し、腐食から保護されている。しかしながら、例えば、空気中の二酸化炭素、下水道施設における硫酸、あるいは塩化物イオンなどの腐食因子がコンクリート中に浸入すると、この不動態皮膜が破壊され、コンクリート中にある水と酸素によって鋼材の腐食が開始する。
【0003】
コンクリート構造物の鋼材が腐食すると、鋼材の体積膨張を生じ、その膨張圧でコンクリートにひび割れを生じ、ひび割れを通じてさらに腐食因子の浸入と外部からの水と酸素の供給によって鋼材の腐食は加速的に進行し、ついにはコンクリート構造物としての機能が保持できなくなる。
【0004】
従って、鋼材の腐食が開始する前に腐食因子の侵入や鋼材の腐食開始を検知し、例えば、表面被覆などの対策で腐食因子や水と酸素のさらなる浸入を阻止して鋼材を腐食から守り、コンクリート構造物の予防的な保全を図ることが重要となる。この問題に対し、従来から種々の腐食診断方法が提案されている。例えば、コア抜きを行なって腐食因子を分析する方法や、非破壊的に鋼材の自然電位や分極抵抗を測定する手法、化学センサやガスセンサにより腐食因子を検出する手法、鉄製の細線を模擬腐食部材としてコンクリートに埋設し、細線が断線したときに腐食を検出する手法などが知られている。
【0005】
これらの腐食診断手法において、腐食センサをコンクリート中に埋設する場合、コンクリート中の腐食環境の進行に伴って、センサの検知部が腐食環境の進行に反応しなければならない。ここで、検知部は鋼材で形成されていることから、コンクリート中では表面に不動態が形成される。そして、腐食因子の浸透後に腐食が開始し、進行して検知部の電気的特性が変化する。これらの一連の挙動は、コンクリート構造物がおかれている環境で変化し、腐食の進行が緩やかになって検知感度が低下してしまう、という課題があった。この課題を解決するために、電気化学的に腐食の進行を早める手法として、カソード電極の設置が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、鋼材で形成された腐食センサの検知部にカソード電極を設置する手法にも不都合な点がある。すなわち、一般にカソード電極は剛体であり、ある程度の大きさや厚みを有するものである。例えば、特許文献3では、カソード電極は棒状物をもってなされており、腐食を検知する模擬腐食部材とケーブルによって接続されている。従って、腐食センサを設置する場所が限られ、また、ケーブルの配線が必要となり労力を要する。また、屈曲部への設置には工夫が必要となる場合が多い。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、腐食センサの検知性能の向上と腐食センサの適用範囲の拡大を図ることができる腐食センサ、腐食センサの製造方法および腐食検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の腐食センサは、コンクリート構造物中の鋼材の腐食進行状況を検出する腐食センサであって、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材で形成された導体パターン部と、前記導体パターン部を保持する基板と、前記導体パターン部の一部に設けられ貴金属で形成された薄膜部と、を備え、コンクリート構造物中の鋼材腐食因子によって、前記導体パターン部の電気的特性が変化することを特徴とする。
【0010】
このように、鉄箔材で形成された導体パターン部の一部に設けられ貴金属で形成された薄膜部を有するので、鉄箔材の腐食が開始すると同時に、鉄箔材と貴金属で形成された薄膜部とに腐食電池が形成されるため、腐食センサの検知感度が向上する。また、新たにカソード部を設ける必要がなく、検知部とカソード部との配線が不要となるため、作業の効率化が図れる。また、カソードの取り付けが困難な部位においても設置が可能となる。その結果、腐食センサの検知性能の向上と腐食センサの適用範囲の拡大を図ることが可能となる。
【0011】
(2)また、本発明の腐食センサは、前記導体パターン部と前記薄膜部との間に、緩衝金属を備えることを特徴とする。
【0012】
このように、導体パターン部と前記薄膜部との間に、緩衝金属を備えるので、鉄および貴金属と密着性の高い金属を用いることによって、各層の密着性を高め、腐食センサに薄膜のカソードを形成することが可能となる。
【0013】
(3)また、本発明の腐食センサは、大気中で安定であると共にコンクリート、モルタル、ペースト中で溶解するアルカリ溶解性金属で形成され、少なくとも前記導体パターン部を被覆する被覆部を備えることを特徴とする。
【0014】
このように、検知部として鉄箔材で形成された導体パターン部を、アルカリ溶解性金属で被覆するため、保管中においても導体パターン部が安定であり、コンクリート打設時の衝撃を受けても有効に導体パターン部を保護することが可能となる。また、アルカリ溶解性金属がコンクリート中で溶解し、導体パターン部が露出するため、腐食検知を行なうことが可能となる。また、製造性を向上させることができると共に、検知部の設計自由度を向上させることが可能となる。また、ごく薄い被膜で導体パターン部を保護するため、フィルムの屈曲性を保持したままセンサを形成することが可能となる。このため、円柱などの湾曲した部材にも適用することが可能となる。
【0015】
(4)また、本発明の腐食センサの製造方法は、コンクリート構造物中に埋設され、鋼材の腐食進行状況を検出する腐食センサの製造方法であって、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材と基板とを一体化させて鉄箔シートを作製する工程と、前記鉄箔シートの鉄箔上に、回路パターンのレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜が形成された鉄箔シートをエッチングする工程と、前記エッチング後の鉄箔シートのレジスト膜を除去する工程と、前記鉄箔シートの回路パターンの一部に貴金属の被膜を形成する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0016】
このように、鉄箔材と基板とを一体化させて鉄箔シートを作製し、鉄箔シートの鉄箔上に、回路パターンのレジスト膜を形成して、エッチングするので、二次元的に複雑な形状のパターンを形成することができる。これにより、センサ全体をできるだけ小さいものにすると共に、導体パターン部の面積を大きくすることができる。その結果、腐食因子を接触する確率を高め、センサの感度を向上させることが可能となる。また、エッチングにより、導体パターン部と共に回路部分も同時に作ることができるので、製造工程を簡略化し、さらに大量生産することが可能となる。さらに、鉄箔シートの回路パターンの一部に貴金属の被膜を形成するので、この貴金属がカソードとして機能し、腐食センサの検知機能を向上させることが可能となる。
【0017】
(5)また、本発明の腐食センサの製造方法は、一部に貴金属の被膜が形成された前記鉄箔シートの回路パターンに大気中で安定であると共にコンクリート、モルタル、ペースト中で溶解するアルカリ溶解性金属の被膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0018】
このように、検知部として鉄箔材で形成された導体パターン部を、アルカリ溶解性金属で被覆するため、めっき被膜方法を活用して、大量に被膜形成が可能となり、製造性を向上させることができる。さらに、検知部の設計自由度を向上させることが可能となる。また、ごく薄い金属被膜で導体パターン部を保護するため、フィルムの屈曲性を保持したままセンサを形成することが可能となる。このため、従来は困難であった円柱などの湾曲した部材にも適用することが可能となる。
【0019】
(6)また、本発明の腐食検出方法は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の腐食センサをコンクリート構造物中、鋼構造部材を被覆したコンクリート、モルタルまたはペーストに埋設して、前記導体パターン部の電気的特性を測定し、前記測定した導体パターン部の電気的特性に基づいて、コンクリート構造物中の鋼材、コンクリート、モルタルまたはペーストで被覆された鋼材の腐食進行状況を検出することを特徴とする。
【0020】
このように、導体パターン部を鉄箔材で形成し、鉄箔材で形成された導体パターン部の一部に設けられ貴金属で形成された薄膜部を有するので、厚さを非常に薄くすることができ、断線するまでの時間を短くすることができる。その結果、センサとしての感度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鉄箔材で形成された導体パターン部の一部に設けられ貴金属で形成された薄膜部を有するので、鉄箔材の腐食が開始すると同時に、鉄箔材と貴金属で形成された薄膜部とに腐食電池が形成されるため、腐食センサの検知感度が向上する。また、新たにカソード部を設ける必要がなく、検知部とカソード部との配線が不要となるため、作業の効率化が図れる。また、カソードの取り付けが困難な部位においても設置が可能となる。その結果、腐食センサの検知性能の向上と腐食センサの適用範囲の拡大を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る腐食センサの概要を示す図である。本実施形態に係る腐食センサ100は、コンクリート構造物中の鋼材の腐食進行状況を検出する腐食センサであって、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材で形成された導体パターン部101と、導体パターン部101を保持する基板102と、導体パターン部101の一部に設けられ貴金属(例えば、金)で形成された薄膜部103と、を備え、コンクリート構造物中の鋼材腐食因子によって、導体パターン部101の電気的特性が変化することを特徴とする。
【0024】
ここで、鉄箔の陽極部と陰極部が明確に区別できるような電池が形成されたものをマクロセルといい、両極間を流れる電流を腐食電流(マクロセル電流)という。健全なコンクリートは、強アルカリ性(pH=12〜13)を示し、内部の鋼材表面には厚さ2〜6nmの緻密な不動態被膜が形成され、鋼材は腐食から保護されている。しかし、この不動態被膜がコンクリートに浸透してきた塩化物イオン(Cl−)により破壊されると、鋼材がイオン化する反応(酸化反応:アノード反応)が進行し、健全な鋼材表面では酸素が還元される反応(還元反応:カソード反応)が進行する。これら反応は同時に進行し、アノード部は卑な電位、カソード部は貴な電位となる電位差が生じ、同時にアノード部からカソード部へと電流(腐食電流)が流れ鋼材の腐食が進行する。このような原理を利用し、貴金属で形成された薄膜部103(カソード用部材)を配置することにより、導体パターン部101の腐食を進行させることができ、鋼材などを劣化させる塩素イオンなどの劣化因子の浸透状況をより早く把握することが可能となる。
【0025】
コンクリート構造物中の鋼材の腐食進行状況を検出するセンサとして、より好適な鉄箔の厚さは3μm以上、0.1mm未満である。鉄箔の厚さが0.1mm以上である場合には、エッチングに時間を要し、エッチングの間に鉄が酸化されることで膨張を生じてレジスト膜を損傷させ、一様な線幅が確保できない場合がある。一方、鉄箔の厚さは3μm以上であることが好ましい。3μmより薄いと、コンクリート打設時に物理的な強度が不足して断線してしまう場合がある。物理的強度と腐食検知の感度とを考慮すると、5μm以上25μm以下とすることがより好ましい。また、鉄箔の線幅に関しては、0.1mm未満の線幅の場合にはエッチング中に断線を生じる場合もあり、一方で、下地材との付着力が弱く、製造またはコンクリートの打設で損傷を受けやすくなる。エッチングやコンクリート打設、フィルムによる保護の観点からは0.1mm以上が望ましく、さらに線幅が太い場合には腐食断線による感度が低下するため、線幅が2.0mm以下であることが好ましい。
【0026】
基板上での二次元的な凹凸形状または渦巻き回路の形成は、線の長さを省スペースで実現可能とするものである。線の太さは、用いる鉄箔の厚さ、線幅、設置可能スペースに依存するが、線長さとしては50mm以上が望ましい。線長さが3000mmを超えると、導体パターン部分の面積が大きくなり、構造物中に埋設する上で好ましくない。本実施形態としては、例えば、鉄箔の厚さは20μmとし、導体パターン部101の線幅は1.0mmとし、線の長さは総計で250mmとする。
【0027】
図2は、本実施形態に係る腐食センサの製造方法を示すフローチャートである。まず、鉄箔材と下地材とを一体化させて、鉄箔シートを作製する(ステップS1)。ここでは、下地材となる樹脂フィルム(例えば、PET、ポリイミド材等の樹脂フィルム)に、接着剤を塗布し、ローラ等を用いて、鉄箔材と下地材とを張り合わせる。これにより、鉄箔シートが作製される。
【0028】
次に、作製した鉄箔シートの鉄箔上に、導体パターンのレジスト膜を形成する(ステップS2)。すなわち、鉄箔シートの鉄箔上に、センサ(導体パターン部)および回路の形状のレジスト膜を、スクリーン印刷やフォト印刷等によって形成する。これに併せて、完成後にセンサを抜き型によって個々に切断・分離するためのガイド等も印刷する。
【0029】
次に、エッチングを行なう(ステップS3)。ここでは、レジスト印刷した鉄箔シートを、エッチング槽にてエッチングする。これにより、レジスト膜が施されていない露出した鉄箔は、エッチング液(例えば、塩化第2鉄溶液)によって溶解する。エッチング終了後、鉄箔シートをエッチング槽から取り出して、付着液を洗浄する。
【0030】
次に、レジスト被膜を溶剤等によって除去し、導体パターン部および回路の外形が完成する(ステップS4)。次に、エッチングが終了したシートの検知部の一部を除いたハンダ接続部等にマスキングを行ない(ステップS5)、被膜形成装置(例えば真空蒸着、スパッタリング)に入れ、所定の被膜厚さになるよう時間調節を行ない、シート全面に貴金属(例えば金や白金)の被膜を形成することで、カソード金属の被膜を形成する(ステップS6)。
【0031】
ここで、貴金属は、自然電位が貴であり、鉄との電位差が大きく、鉄の腐食環境で安定であれば、特に限定されるものではない。本実施形態では、例えば、金や白金に代表される貴金属、あるいはその合金が好ましいとする。次に、カソードの構成であるが、金または白金であれば、被膜厚さとして、10nm〜10μmの範囲とする。被膜厚さが10nmより薄い場合は、ピンホールなどが生じる可能性があり、均一に被膜することが難しく、好ましくない。被膜厚さが10μmより厚い場合は、屈曲性が低下するとともに、曲げ剥離が生じる可能性があり、コストも高くなるため、好ましくない。
【0032】
カソードの被膜形成において、鉄と貴金属の密着性は良いとは言えない。そこで、本実施形態では、密着性を高めるために、鉄と貴金属との間に他の金属の緩衝層(緩衝金属)を設けることとした。この緩衝金属は、鉄よりも電気的に貴な金属であり、かつ表面の貴金属および鉄との密着性の良い金属で、かつ鉄よりも大気中で安定な金属であれば特に限定されるものではない。例えば、銅、チタン、クロム、ニッケルなどの金属が挙げられる。特に、チタンやクロムは、鉄および貴金属との密着性に優れており、好ましい。この緩衝層(緩衝金属)を設けることで各層の密着性を高め、腐食センサに、安定した薄膜のカソードを形成することが可能となる。
【0033】
緩衝層の厚みは、5nm〜5μmの範囲とし、上面の貴金属よりも薄く形成することが望ましい。これは、サーマルショックなどを受けた場合に、緩衝層の金属の影響が強くなることを防止し、表面被膜の貴金属に微細なクラックなどが生じることを回避できるという効果がある。緩衝層の厚みが5nmよりも薄い場合は、緩衝層として効果が小さくなるため好ましくない。緩衝層の厚みが5μmよりも厚い場合は、屈曲性が低下するとともに、緩衝金属の熱膨張係数や弾性係数などの物理的特性が、カソード部の貴金属に影響し、微細クラックを生じる可能性があるため好ましくない。
【0034】
鉄箔の導体パターン部の表面部および緩衝層への貴金属の被膜方法は、例えば、真空蒸着やスパッタリングが好適である。また、乾式被膜方法として、真空めっき法(PVD)や化学蒸着法(CVD)を使用しても良い。また、金属を粉末塗料化してスクリーン印刷を用いて被膜形成しても良い。また、湿式めっきとして、電解めっきや化学めっきを用いて被膜形成しても良い。
【0035】
次に、マスキング部分を剥離し、電気的に接続するための回路と一体成形したセンサ(導体パターン部)において、抜き型を用いて、保護処理を施したセンサを個々に切断・分離する(ステップS7)。次に、検出用のリード線(ケーブル)とセンサを接続し、接続部を防水加工する。接続には、ハンダを用いてもよいし、ピン端子、あるいは嵌合端子を用いて接続しても良い。その後、コネクタ・リード線により、所定の検出装置と接続する。すなわち、センサの端子部分に計測用の導線(ケーブル)を接続する。この導線を計測器に接続し、センサ部の電気的特性を計測することで、腐食環境の有無を判断することが可能となる。計測器は、汎用のデジタルマルチメータやテスターでも良いし、RFIDや特定省電力無線などの無線通信技術を用いた計測器に接続して計測を行なっても良い。
【0036】
図3A〜
図3Fは、鉄箔により形成された導体パターン部に、カソード被膜としての金または白金による薄膜を形成した様子を示す図であり、
図3Aは、鉄箔の上面および側面に金または白金による薄膜を形成した態様を示し、
図3Bは、鉄箔の上面のみに金または白金による薄膜を形成した態様を示している。また、
図3Cは、鉄箔の両側面に金または白金による薄膜を形成した態様を示し、
図3Dは、鉄箔の片面のみに金または白金による薄膜を形成した態様を示している。また、
図3Eおよび
図3Fは、鉄箔の下面に金または白金による薄膜を形成した態様を示している。
【0037】
なお、本発明では、これら様態に限らず、カソード部が鉄箔で形成された導体パターンの一部に電気的に接続され、カソード部と導体パターン部の両者が、検知部表面において腐食因子と接する状態を保持し、かつ腐食因子により導体パターン部が腐食して抵抗が増大した際に、導体パターン部を短絡させない配置であればよい。
【0038】
ここで、
図3Eおよび
図3Fに示すように、鉄箔の下面に金または白金による薄膜を形成する手法は、例えば、次のとおりである。
【0039】
(1)乾式めっきによる場合
基材に成形しようとするパターン以外の箇所にマスキングを実施する。次に、蒸着またはスパッタリング等で薄膜を形成し、マスキングを除去して金のパターンを形成する。次に、鉄箔を、金のパターンが形成された素材に貼付し、所定の鉄箔パターンが残るようにレジスト処理し、エッチングを行なう。最後にレジストを除去し、腐食センサが完成する。
【0040】
(2)湿式めっきによる場合
安定な金属箔が貼付された基材に、エッチング等でパターンを形成する。形成されたパターンに、電解金めっきまたは無電解金めっき(化学めっき)を実施し、金の薄膜を形成する。次に、鉄箔を、上記のように金の薄膜が形成された素材に貼付し、所定の鉄箔パターンが残るようにレジスト処理し、エッチングを行なう。最後に、レジストを除去して完成する。この製造方法によると、例えば、銅、金、鉄による3層構造の腐食センサが得られる。
【0041】
(3)エッチングによる場合
基材全面に、金の薄膜を形成する。または、基材全面に金箔を貼付しても良い。次に、所定のパターンをレジスト処理し、王水でエッチングしてパターンを形成する。次に、鉄箔を、上記パターンが形成された基材に貼付し、所定の鉄箔パターンが残るようにレジスト処理し、エッチングを行なう。最後に、レジストを除去し、腐食センサが完成する。
【0042】
以上のようにして作成された腐食センサが、例えば、コンクリート構造物の鉄筋近傍に設置されると、コンクリートのアルカリ環境(ph12〜13)において、鉄箔の部分は不動態化するため、腐食センサは安定する。しかし、鉄の腐食因子、例えば、塩分が到達すると、不動態が破壊され、腐食が開始する。このとき、鉄とカソードとの間に腐食電池が形成され、鉄箔部の腐食が促進される。これにより、鉄箔部の電気的特性の変化が大きくなる。その結果、腐食センサとしての反応性が高まり、感度が向上する。なお、電気的特性とは、電位差、電気抵抗、電流密度など、腐食に伴って変化する指標のことである。
【0043】
従来技術においては、一般に、カソード電極は、検知部と分離して形成されるため、一体的に成形できるものではなかった。これに対し、本実施形態によれば、製造工程の短縮化を図ることができる。また、従来技術においては、検知部とカソード部に配線を必要としていたが、本実施形態によれば、配線が不要となるため、設置作業の効率化を図ることができる。また、従来技術においては、検知部とカソード電極は、剛性の高い棒状のものや板状のものが多く、屈曲性を有するものではない。これに対し、本実施形態によれば、カソードも薄膜で形成するため、形状の自由度が増し、小型化や薄肉化が図れるとともに、屈曲性を備えたカソード付きセンサを実現することが可能となる。これにより、カソード付きセンサとしては、従来技術では適用が困難であった部位であっても、設置することが可能となる。例えば、鉄筋への直接の貼付や、円管の外側および内側、波型構造のもの等である。
【0044】
このように製作したセンサは、対象物に設置して直ちに使用する場合には、直接対象物に設置して、腐食センサとして使用することが可能である。
【0045】
また、設置後、使用するまでに時間の経過が想定される場合や、コンクリートの打設時の衝撃で導体パターン部に傷のつく恐れがある場合はセンサをセメント硬化体、あるいはセンサをアルカリ溶解性金属で被覆することが好ましい。
【0046】
センサをセメント硬化体で被覆する場合には、前記導体パターン部を腐食因子の浸透を妨げることのないペーストやモルタルで被覆してセンサとして使用すればよい。腐食因子の浸透を妨げない被覆部は、塩分等に代表される腐食因子の浸透を妨げず、更には代表的な使用材料としてコンクリート、モルタルまたはセメントペーストを使用する。さらに、埋設対象である構造物の耐力を低下させない強度をもつセンサ外装(以下、外装部)を備えてもよい。また、外装部は、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有する材料で成形されており、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素に代表されるファインセラミックス材料、或いは、検査対象の構造物のコンクリートと同等以上の強度を有するコンクリート、モルタル若しくはペーストを用いる。外装部の形状は、導体パターン部を安定的に保持し、構造物の欠陥とならなければ、特に限定されるものではない。
【0047】
当該外装を備えるセンサは、外装部に導体パターン部を貼付し、貼付した前記導体パターン部を腐食因子の浸透を妨げることのないセメント硬化体で被覆すればよい。当該セメント硬化体で被覆されたセンサは、導体パターン部がアルカリ環境になるため不動態被膜が形成され、大気中で安定であり、かつコンクリートの打設に耐える十分な強度を有する。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、センサとしての検知部をアルカリ溶解性金属で被覆する。
図4は、本実施形態に係る腐食センサの概略構成を示す図である。この腐食センサ200は、第1の実施形態と同様に、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材で形成された導体パターン部101と、導体パターン部101を保持する基板102とを備えている。さらに、カソードとして金または白金で形成された薄膜部103を備えている。さらに、
図4に示す腐食センサ200は、アルカリ溶解性金属としてのアルミニウムによって、スパッタリング処理がされており、腐食センサ200の導体パターン部101および薄膜部103にアルミニウムによる被膜Aが形成されている。
図5は、スパッタリング処理を施す前の腐食センサの様子を示している。導体パターン部101および薄膜部103が基板102の上に設けられている。導体パターン部101の検知部および薄膜部103以外にはマスキング処理が施されている(
図5中、領域B)。
【0049】
このように、本実施形態では、導体パターン部101と金または白金による薄膜部103と基板102とからなる腐食センサ200に、アルカリ溶解性金属による被膜Aを形成する。アルカリ溶解性金属は、アルミニウムや亜鉛に代表される金属で、大気中で安定であると共に、ペースト、モルタル、コンクリート中におけるアルカリ環境下で速やかに溶解する金属であれば、特に限定されるものではない。本実施形態では、アルミニウムを例にとって説明する。
【0050】
アルカリ溶解性金属の被膜Aについて、本実施形態では、アルミニウムであれば被膜厚さとして50nm〜2μmの範囲とし、好ましくは100nm〜1μmとする。被覆厚さが2μmを超えると、コンクリートが固化するまでにアルミニウムが溶解せずに水酸化アルミニウムの残骸がセンサ表面に残存し、検知感度が低下するので好ましくない。50nm未満であると、現在の皮膜形成法では均質な皮膜とすることが困難であり、小さな孔が生じることある。
【0051】
アルミニウムは、溶液中でのめっき被膜形成が不可能であるため、乾式によるめっき被膜形成となる。具体的には、真空蒸着、またはスパッタリングを用いて被膜形成する。なお、亜鉛を用いる場合は、上記の真空蒸着、スパッタリングに加え、電解めっきによる被膜形成が可能である。ただし、当該の被膜厚さを確保できれば、被膜方法に限定されるものではない。例えば、真空めっき法(PVD)や化学蒸着法(CVD)を使用してもよく、また、アルカリ溶解性金属を粉末塗料化してスクリーン印刷を用いて被膜形成してもよい。
【0052】
本実施形態に係る腐食センサ200は、例えば、コンクリート構造物の鉄筋近傍に設置されると、コンクリートが打設されるまでは、大気中の環境から検知部である鉄箔材が保護される。また、コンクリートが打設された後には、コンクリートのアルカリ環境(pH12〜13)において、被覆表面のアルミニウムが速やかに溶解し、検知部(導体パターン部101)がコンクリートと直接的に密着し、感度よく計測することが可能となる。
【0053】
このようなアルミニウムによる被膜をセンサに施すことによって、製造効率を上げることが可能となる。すなわち、従来の鉄箔センサでは、薄いモルタル、ペーストなどで個別に被覆して一週間程度の養生を経て製造する必要があったが、本実施形態に係るアルミニウム被膜によるセンサでは、センサの分割前にロール状のままで一度に多くのセンサに被膜処理を施すことが可能となる。スパッタリング装置や蒸着装置では、装置内に巻き取り装置を入れてロール状のままで、複数個のセンサをスパッタリングすることが可能である。これにより、一連の工程の中でセンサを製造することが可能となる。また、化学めっき等の湿式めっきでも、複数個の当該センサを一度にめっきすることが可能となる。すなわち、本実施形態では、一度の皮膜形成を複数のセンサに可能であり、養生を必要としないため製造工期も大幅に短縮され大量生産が可能である。
【0054】
また、従来の鉄箔センサでは、薄いモルタル、ペーストでの被覆は個別にセンサを被覆しているため、施工過程において品質の安定性に配慮して製造する必要があり多くの労力を伴っていたが、本実施形態に係るアルミニウム被膜によるセンサでは、均一な薄膜の形成が可能となり、品質の安定性が向上する。
【0055】
また、薄いモルタル、ペーストは、乾燥に伴って、収縮に代表される微小な体積変化が生じる。このため、被覆したモルタル、ペーストにおいてセンサの形状にも配慮する必要があった。これに対し、本実施形態に係るアルミニウム被膜によるセンサでは、乾燥にともなう体積変化を生じないため、形状の設計自由度が増して、より多様なセンサ形状を実現することが可能となる。
【0056】
(共通の形態)
次に、第1の実施形態および第2の実施形態について、共通の形態について説明する。
図6は、共通の形態に係る腐食センサを適用した腐食検出装置の概略構成を示す図である。この腐食検出装置1は、導体パターン部101が腐食検出装置1に電気的に接続されている。導体パターン部101は、鉄箔材により形成されているため、厚さが0.1mm未満である。また、導体パターン部101の両端にはカソード金または白金による薄膜部103が形成されている。
【0057】
上記センサにリード線を接続し、コンクリート構造物に埋設し、センサに接続されたリード線のもう一方をコンクリート構造物の外部に引き出して、インタフェース回路12および検出回路13から構成される腐食検出部2と接続して、腐食検出装置1を構成することができる。この腐食検出部2により、リード線に接続されたセンサ部の電気的特性を把握することによって断線を検知することが可能となる。
【0058】
図6に示すインタフェース回路12は、導体パターン部101と検出回路13を接続する回路であり、電圧(電位差)、電気抵抗、インピーダンス、静電容量など導体パターン部101の電気的特性を、電圧値などを出力値として無線モジュールに受け渡すものである。例えば、一定の電圧を印加して導体パターン部101の電気的特性である抵抗値を取得して抵抗値に応じた値を電圧値として出力することで、腐食断線によって生じる抵抗値の低下を印加電圧に対する比率で断線を検知することを可能とする。インタフェース回路12と検出回路13を無線モジュールに接続し、無線で計測してもよい。無線モジュールは、特定小型小電力無線、RFID、無線LANなど、無線による送受信で外部に検知情報を伝達するものである。
【0059】
また、導体パターン部101は、例えば、腐食因子が進行する方向とほぼ直交する面上を設けると、腐食因子を捉える確率を上げることができる。さらに、複数の導体パターン部101を深さ方向に平行に設ける。これにより、コンクリート内部に浸透する腐食因子を経時的に捉えることが可能であり、これにより、鋼材に腐食因子が到達するまでの期間を拡散の理論に基づいて精度よく予測することができ、コンクリート構造物の維持管理では有用な情報となる。例えば、腐食因子が拡散によってコンクリート表面から内部へ浸透するとすれば、コンクリート表面から導体パターン部101までの距離をa、コンクリート表面から鋼材までの距離をb、コンクリート構造物建設から腐食検出装置1が腐食因子を検知した時間をTaとすると、コンクリート構造物建設から鋼材の腐食が生じるまでの時間Tbは、Tb=Ta・(b
2/a
2)として予測することができ、腐食検出装置1で検知した情報に基づいて、コンクリート構造物を劣化から守る対策を劣化が生じる前に施すことが可能となる。
【0060】
図7は、コンクリート構造物の断面を示す図である。
図7に示すように、埋設位置は任意であるが、所望のコンクリート表面との距離を有する位置に取り付けるために一定の厚さを有した取付け治具(例えばスペーサなど)を鉄筋に固定したり、もしくは鉄筋表面に貼り付ける、あるいはバンドによって固定することにより設置する。
【0061】
図8は、鋼製円柱にセンサを取り付けた事例である。塩害環境などの鋼材の腐食が生じやすい場所では、鋼製の円柱に保護モルタルを塗布して保護する場合がある。これまでの腐食センサでは、外装材および被覆材がモルタル、ペーストであり、鋼製円柱にセンサを屈曲させて貼り付けることは困難であった。本願センサでは、センサ自体が薄肉で、かつ屈曲性を有したまま使用できるため、特段の治具を使わずとも、曲面に貼付して使用することが可能となる。保護モルタルのアルカリ性により、センサのアルミ被膜が溶解し、鋼製円柱の腐食に対する健全性を判定することが可能となる。
【0062】
図9は、プレストレストコンクリートに使用されるPC鋼材用のシース管に、本願の腐食センサを適用した事例である。一般に、シース管にはPC鋼材が挿入され、その後アルカリ性のセメントグラウト材が充填されて鋼材が保護される。これまでの腐食センサでは、被覆材がモルタル、ペーストであり、シース管のような円管の内側に設置することは困難であった。本願センサは、センサ自体が薄肉で、かつ屈曲性を有したまま使用できるため、センサを逆側に反らせて、円管の内側のような曲面に対しても、貼付して使用できる。本願のセンサにより、シース管内の鋼材の腐食環境を判定することが可能となる。
【0063】
図10は、H鋼の側壁にセンサを取り付けた事例である。塩害環境の厳しい場所では、H鋼の側面に、数mmから数cm程度の薄い吹き付けモルタルないしはペーストを塗布して、鋼材を保護する場合がある。これまでのセンサでは、被覆モルタルとそれを保持するための外装材が必要となるため、吹き付けモルタルのような薄い部材に適用することは困難であった。本願センサは、厚みが0.5mm未満できわめて薄肉であるため、このような部位に適用して使用することが可能となる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によれば、鉄箔材で形成された導体パターン部101および薄膜部103は、ごく薄い被膜で導体パターン部にカソードを形成するため、カソードの設置によってセンサの検知感度を向上させ、かつフィルムの屈曲性を保持したままセンサを形成することが可能となる。このため、従来は困難であった円柱などの湾曲した部材にも適用することが可能となる。