【実施例1】
【0011】
図1において、可視光透過性ブラインド200は、選択透過面部201、ヘッドボックス202及び前後動機構203からなっている。選択透過面部201は多数のルーバー1により1つの面状態を形成したものを意味しており、各ルーバー1はヘッドボックス202の機能により支持され姿勢を制御される。可視光透過性ブラインド200は、ルーバー1が鉛直軸回りに回転可能な縦型のブラインドである。100cは施設の天井であり、2aはヘッドボックス202を天井100cに固定する固定具である。
【0012】
ルーバー1は可視光線を透過する性質と赤外線を吸収する性質を併有する短冊状のシート1aと、連結ロッド7を有している。シート1aの上辺部には、シート1aの厚さを増大させることで剛性を増大させた掛吊部1bと、掛吊部1bには幅中央から上方へ張り出した状態のフック1cが形成されている。各シート1aはプラスチックを基材としており、該プラスチックは透明度が高く、耐久性に優れたものがよいのであり、例えばポリカーボネート、ポリメタクリルアクリレートなどが使用される。またシート1aはこれに高い赤外線吸収能を付与するため、例えば特許文献2に示すように、その基材であるプラスチックに有機系の赤外線吸収剤を均一に混合するか、或いは、該プラスチックの表面に有機系あるいは無機系の赤外線吸収剤を含む赤外線吸収層を積層させている。連結ロッド7は、ヘッドボックス202に、シート1aを吊下げ状に連結する。
【0013】
可視光透過性ブラインド200は、大きく3つの操作ができるようになっている。1つはルーバー1の展開収納機能であり、1つはルーバー1の回転機能であり、1つは選択透過面部201の前後方向移動機能である。このうち、ルーバー1の展開収納機能とルーバー1の回転機能は、公知の機能であるが、選択透過面部201の前後方向移動機能は本実施例において追加された機能である。前後方向移動機能は、ブラインドがガラス窓20の内側に設置されたときに、選択透過面部201をガラス窓20側に近接(前方向)移動或いは離間(後方向)移動させる機能であり、近接状態にするモードと離間状態にするモードとが選択可能である。
【0014】
ヘッドボックス202は、その内部に多数のキャリア3を案内するヘッドレール2を有している。 ヘッドレール2内には、キャリア3を移動させるキャリア移動機構と、キャリア3に取り付けられるルーバー1を回転させるルーバー回転機構とが配設される。これらの機構は、ルーバー1の展開収納機能とルーバー1の回転機能を実現するものであり、公知の任意の機構を採用することができるので、図示していない。簡単に説明すると、開閉コード4に牽引すると、キャリア3がヘッドレール2内をいずれか一端側へ移動し、開閉コード4を他方に引くと、キャリア3のうち先頭のキャリアが開閉コード4に牽引されて、ヘッドレール2内を展開方向へ移動する。後続のキャリア3は、先頭のキャリア3の移動に応じて、スペーサを介して次々と牽引されていきヘッドレール2に沿って直線状に等間隔に展開する。ルーバー回転機構は、傘歯歯車や回転ロッドなどの伝達機構を有しており、回転ロッド5の回転をキャリア3に伝達する。キャリア3はルーバー回転機構により伝達された回転力により、各キャリア3から吊下げ状に支持されたフック3aを鉛直な軸c1まわりに回転させる。
【0015】
次に、本実施例において追加された前後方向移動機能を実現する機構について説明する。ルーバー1の連結ロッド7は硬質プラスチックで棒状に形成され、各端部に屈曲状の金属棒材7b1、7b2を埋設することにより掛止孔e1、e2が形成されている。上側の掛止孔e1は、キャリア3のフック3aに掛け止められ、下側の掛止孔e2にはシート1aのフック1cが掛け止められる。これにより各シート1aは連結ロッド7を介してキャリア3に吊り支持された状態となっている。
【0016】
可視光透過性ブラインド200を左からY方向に向いて見た
図2において、前後動機構203は、ヘッドレール2のほぼ全長に渡る長さを有しアルミ材製の丸棒材であるシャフト8と、支持機構部9a、9bと、駆動部10とを備えている。支持機構部9a、9bはヘッドレール2の各端部に懸垂状に固定された支持ブラケット9a1、9b1と、それぞれの支持ブラケット9a1、9b1の下面部上面に前後方向dに沿って固定されたラックギア11と、各ラックギア11の上側に載置され噛み合い状態で移動するピニオンギア12とを備えている。これらピニオンギア12はシャフト8の左右端の両側にそれぞれ同心状に固定されている。シャフト8はピニオンギア12、ラックギア11及び支持ブラケット9a1、9b1を介してヘッドレール2に対して平行に支持された状態となっている。そしてシャフト8の一端(
図1左側)はピニオンギア12からさらに左方へ張り出している。
【0017】
駆動部10は、滑車13と、この滑車13の外周面に形成された環状溝に掛け回され垂れ下がり状とされた操作コード14とを備えている。滑車13は、ピニオンギア12からさらに左方へ張り出したシャフト8の端部に同心状に固定されている。操作コード14が引き操作されることにより、滑車13、シャフト8及びピニオンギア12が回転し、左右のピニオンギア12、12はそれぞれに対応したラックギア11、11上を前後方向dへ回転し、シャフト8を移動させる。可視光透過性ブラインド200の中央付近からX方向に向いて見た
図3において、シャフト8は各ルーバー1の連結ロッド7の側面に衝接し押し移動させる。
【0018】
シャフト8を前後方向dへ移動させるための駆動部10は他の構成によっても実現できる。例えば操作コード14や滑車13に代えて支持ブラケット9a1から垂れ下った状態に設けられたバトン及び、バトンの回転をシャフト8に伝達する歯車機構を設けるなどしてもよい。或いは、シャフト8を回転させる電動モータなどの動力駆動装置及びこれを動作させるための遠隔操作スイッチを設けるようにしてもよい。或いは操作コード14、滑車13、ラックギア11及びピニオンギア12を設けないで、
図4に示すようにシャフト8を前後方向dへ移動可能に支持する案内軌道15、サーボモータ16、及び、サーボモータ16により動作されるリンク機構17を設け、リンク機構17によりシャフト8を前後方向dに動かす構成としてもよい。
【0019】
選択透過面部201がガラス窓20側に近接された状態では、連結ロッド7はほぼ水平となり、選択透過面部201の自重がピニオンギア12の中心から下に向かってかかるため姿勢は維持される状態(近接モードの状態)である。但し、姿勢を維持するためのラッチ機構を設けた方が望ましい。一方、選択透過面部201がガラス窓20側から離間した状態では、連結ロッド7はシャフト8に触れておらず、ルーバー1が自然と垂れ下がった状態である(離間モードの状態)。
【0020】
本実施例の可視光透過性ブラインド200の使用例について説明する。
ルーバー1を
図1に示すように展開して選択透過面部201を形成するときは、まず開閉コード4を操作することにより、各キャリア3を等間隔で一線状に整列させる。これにより各ルーバー1は、直線状に互いのシート1aの表面が対向した状態で均等に配列される。この時点では、シャフト8は連結ロッド7に接触しない。そして、回転ロッド5を操作して、各キャリア3のフック3aを回転させることにより、各ルーバー1はシート1aの表面が1つの面に揃い選択透過面部201を形成する。
【0021】
施設内の気温が外気で冷却されて下降する冬季には、シャフト8は各連結ロッド7に接触しない状態(離間モード)とし、各ルーバー1により選択透過面部201を形成する。選択透過面部201は一枚の平坦なシート状に変形した状態で、ガラス窓20との間に10cm程度の厚さの空気層が形成される。この状態において、選択透過面部201はガラス窓20から入射する太陽光の赤外線をその赤外線吸収剤を介して吸収し温度上昇する。こうして発生した熱は、ガラス窓20と選択透過面部201の間の空気に留め置かれ、施設内の温度との温度格差を極小化し、2重ガラスの如く施設内の熱が外気に逃げないように機能する。
【0022】
また施設内の気温が外気で加熱されて上昇する夏季には、各ルーバー1により選択透過面部201を形成した状態で、シャフト8は各連結ロッド7を
図3に2点破線で示すようにガラス窓20方向(前方向)に移動させる。これにより選択透過面部201はガラス窓20に接触し或いは2ミリメートル程度の隙間となるように近接した状態(近接モード)になる。この状態において、選択透過面部201はガラス窓20から入射する太陽光の赤外線の多くを吸収し温度上昇する。この選択透過面部201の熱は数ミリメートル以下の厚さの空気層を経てガラス窓20に伝達される。ガラス窓20に伝達された熱はガラス窓20を介して施設外へ拡散される。
【0023】
また、外からの日射や風を施設内に取り込みたいときは、選択透過面部201をガラス窓20から遠ざけ、回転ロッド5を操作することにより選択透過面部201が形成された状態から各ルーバー1を90度回転させ、シート1aの表面を対向させる。
【0024】
図5乃至7は、可視光透過性ブラインド200を用いたことによる年間の冷暖房負荷低減効果を試算した例を示している。
図5において、可視光透過性ブラインド200を設置する施設のモデルとして、RC造り延床面積826.56m
2の2〜7のいずれかのフロアであって、フロア面積113.4m
2、階高3.6m、窓の面積37.44m
2のオフィスを用いた。このモデルは、通常のオフィスよりも1枚当りのガラス窓の面積を広くしている(1.8m×2.6m)。また、冷暖房負荷低減効果については、
図5Bに示すように南向きの斜線部Sの範囲を対象とした。
【0025】
また、ガラス窓は厚さ3mmの一般的なフロート板ガラスであり、可視光透過性ブラインド200のルーバーの素材としては2mm厚の透明ポリカーボネイトを用いた。このポリカーボネイトの光学特性は、日射透過率41%、日射反射率4.1%、可視光透過率77.7%、可視光反射率5.3%である。このポリカーボネイトの表面に赤外線吸収ハードコート層を皮膜したルーバーの試料を用意した。
【0026】
フロート板ガラスと、ルーバーの試料の光波長に対する分光透過率は、
図7Aに示す通りであり、3つの試料No.1、No.2、No.3は赤(波長が640〜770nm)よりもさらに長い波長を吸収する特性を示している。
【0027】
ブラインド(ルーバーからなる選択透過面部)とガラス窓との間隔を近接/離反したときの冷暖房負荷低減効果の評価結果を
図6に示す。ブラインド(ルーバーからなる選択透過面部)とガラス窓との距離は、
図7Bに示す通り、対向する面同士の間隔である。
図6Aは、測定数値結果であり、
図6Bは
図6Aを元にグラフにプロットしたものである。数値が大きいほど省エネ効果が大きい。また、マイナス数値は、逆にエネルギー負荷が大きく省エネにはマイナス効果であることを示している。
【0028】
間隔を5mm以内とすることにより、冷房負荷低減効果は正の値を示しており、夏季においては、選択透過面部とガラス窓との間の距離を5mm以内にすることにより、省エネ効果が期待できることになる。ガラス窓の素材であるガラスの熱伝導率は決して高いものではないが、厚さが施設の壁に比べてはるかに薄く、外気の熱が伝導しやすい。そして、ガラス窓と選択透過面部との距離が5mm以下であれば、この間の空気層は熱を伝播する能力があると考えられる。すなわち、選択透過面部が赤外線を吸収した結果生じた熱が、この薄い空気層を伝播してガラス窓から外気に拡散する。尚、選択透過面部とガラス窓が接触したとき(0mmのとき)、冷房負荷低減効果が若干低下するのは、ルーバーがガラス窓に接触することにより、施設内側の見かけ上のガラス窓の表面積が増加し、施設内の温度が若干伝播するからと考えられる。
【0029】
一方、冬季においては、ガラス窓から選択透過面部を離すと暖房負荷低減効果が大きくなるという結果が出た。尚、ブラインドとガラス窓の間隔を広げるには、おのずと限界があるので、10cm程度が適当であると考えられる。
【実施例3】
【0033】
図9及び
図10は第3の実施例、第4の実施例である施設100内の可視光透過性ブラインド200の設置状態を示している。第1の実施例の場合と相違する点について説明する。
【0034】
これらの実施例は、前後動機構203が、第1及び第2の実施例におけるものに代えて、ヘッドボックス202をガラス窓20に対し近接/離反させる構成である。
図9に示す第3の実施例による前後動機構203においては、ヘッドボックス202の少なくとも各端部に配設される揺動支持機構2dを備えている。各揺動支持機構2dは天井100cに固定された支持ブラケット2d1と、支持ブラケット2d1に保持されヘッドボックス202の長さ方向回りの支点軸2d2と、及び、支点軸2d2を介して支持ブラケット2d1に揺動自在に装着された揺動アーム2d3を具備している。揺動アーム2d3を図示しない駆動部により揺動アーム2d3が矢印方向h1へ揺動されると、選択透過面部201は二点破線で示すようにガラス窓20に接近し、また揺動アーム2d3が矢印方向h1の逆側へ揺動されると選択透過面部201はガラス窓20から離反する。その他の点は実施例1の場合と変わりなく、同様な効用が得られる。
【0035】
図10に示す第4の実施例による前後動機構203は、パンタグラフジャッキ2eがヘッドボックス202の少なくとも各端部に配設される。パンタグラフジャッキ2eはリンクの伸縮方向が前後方向dであって、その先端にヘッドボックス202が固定されている。パンタグラフジャッキ2eによりヘッドボックス202をガラス窓20側へ移動すると、選択透過面部201は二点破線で示すようにガラス窓20までの距離が2ミリメートル程度にまで接近し、また逆側へ移動されると、選択透過面部201はガラス窓20から100mm程度離反する。その他の点は実施例1の場合と変わりない構成とされており、第1の実施例と同様な効果が得られる。
【0036】
第3、4の実施例においては、ヘッドボックス202自体を前後動させるものであるため、可視光透過性ブラインド200の殆どの重量を移動可能に支えなければならない。また、キャリア3はヘッドレール2内で回転するものであるため、少なくとも回転半径を確保しなければならず、選択透過面部201の位置がヘッドレール2の中央付近となってしまう。従って実施例4は、ガラス窓の配置環境によっては、設置が困難である。
【0037】
上記の実施例では縦型のブラインドを例として示したが、例えばルーバーが水平軸回りに回転する横型ブラインドに対しても、ルーバーをガラス窓に近接/離反させたり、ヘッドボックス自体をガラス窓に近接離反することにより適用することが可能である。