(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
(高周波電線)
図1は、本発明の一実施形態である高周波電線10を示すもので、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる中心導体1と、中心導体1を被覆する軟磁性層2(磁性層)と、を備えている。
中心導体1としては、例えば電気用アルミニウム(ECアルミニウム)、Al−Mg−Si系合金(JIS6000番台)などが使用可能である。
アルミニウム合金は、通常、ECアルミニウムよりも体積抵抗率が大きいため、好適である。
【0013】
軟磁性層2は、鉄、鉄合金、ニッケル、ニッケル合金などが使用できる。
鉄合金としては、FeSi系合金(FeSiAl、FeSiAlCrなど)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlOなど)、FeCo系合金(FeCo、FeCoB、FeCoVなど)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど)(パーマロイ等)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど)、FeMg系合金(FeMgOなど)、FeZr系合金(FeZrNb、FeZrNなど)、FeC系合金、FeN系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などが挙げられる。
軟磁性層2は、中心導体1への磁界の侵入を抑制することにより渦電流を抑制する(
図21参照)。
【0014】
軟磁性層2の比透磁率は、例えば10以上(例えば10〜500)とすることができる。
軟磁性層2の厚さは、例えば1μm〜1000μmとすることができる。
なお、本願発明における磁性層は、いわゆる「軟磁性」を示すものに限定されない。
【0015】
軟磁性層2の断面積は、中心導体1と軟磁性層2を合わせた高周波電線10全体の断面積に対して、20%以下であることが望ましい。
前記断面積比率(高周波電線10全体に対する軟磁性層2の断面積比率)は、3%〜15%が望ましく、より望ましくは3%〜10%、更に望ましくは3%〜5%である。軟磁性層2の高周波電線全体に対する断面積の比をこの範囲とすることで、高周波抵抗を低減することができる。
高周波電線10全体の直径は、例えば0.05mm〜0.6mmとすることができる。
【0016】
軟磁性層2は、中心導体1の長手方向に沿う繊維状組織を有する。
ここでいう「繊維状組織を有する」か否かは、軟磁性層2の組織を電子顕微鏡等により観察したときに、アスペクト比が「5/1」を越える粒状体(例えば結晶粒)を複数確認できることを基準として判断することができる。
アスペクト比の測定について、
図7〜
図11を参照しつつ説明する。
図7(a)に示す結晶粒C1について、
図7(b)に示すように、最長径となる補助線11を描き、次いで、
図7(c)に示すように、補助線11と平行な一対の長辺12、12と、補助線11に対し垂直な一対の短辺13、13とからなる長方形14を描く。
【0017】
一方の長辺12(12a)は、補助線11から一方側(
図7(c)の上方)に最も離れた位置で結晶粒C1の輪郭線15に接し、他方の長辺12(12b)は、補助線11から他方側(
図7(c)の下方)に最も離れた位置で結晶粒C1の輪郭線15に接している。
一方の短辺13(13a)は、補助線11から一方側(
図7(c)の左方)に最も離れた位置で結晶粒C1の輪郭線15に接し、他方の短辺13(13b)は、補助線11から他方側(
図7(c)の右方)に最も離れた位置で結晶粒C1の輪郭線15に接している。
この長方形14の長辺12と短辺13の長さの比(L1/L2)をアスペクト比とする。なお、
図7(c)における結晶粒C1のアスペクト比は8.32/1である。
【0018】
図8および
図9は、高周波電線10の、鉄からなる軟磁性層2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示すものである。
図8では、2つの結晶粒(例1、2)について、上述の手法で長方形(
図7(c)の長方形14参照)が描かれている。例1、2のアスペクト比は、それぞれ「6.1/1」と、「9.0/1」である。
図9では、2つの結晶粒(例3、4)について、上述の手法で長方形が描かれており、例3、4のアスペクト比は、それぞれ「13.3/1」と、「21.2/1」である。
例1〜4の結晶粒は、いずれも高周波電線10の長手方向に沿って形成されている。
【0019】
図8、
図9では、アスペクト比が「5/1」を越える鉄の結晶粒が複数確認できたため、軟磁性層2は、高周波電線10の長手方向に沿う繊維状組織を有すると判断できる。
なお、軟磁性層2が繊維状組織を有するか否かを判断するにあたっては、対象とする顕微鏡写真の視野内に確認できる粒状体の数が所定の数(例えば100)以下であることが望ましい。
【0020】
軟磁性層2の組織は、後述するように、ダイスを用いた伸線加工により形成された加工組織であることが好ましい。加工組織とは、例えば冷間加工を受けたあとの組織である。冷間加工とは、再結晶温度以下で行う加工を意味する。
繊維状組織は、伸線加工によって結晶粒が伸線方向に引き伸ばされた組織であってよい。
【0021】
比較のため、
図10に再結晶温度以上で熱処理(アニール処理)を行い再結晶化した高周波電線の、鉄からなる軟磁性層の光学顕微鏡写真を示す。また、
図11に、鉄からなる軟磁性層の上にめっき法により形成されたニッケル層の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
これらの高周波電線は、鉄からなる軟磁性層を備えているが(
図1参照)、軟磁性層は、再結晶温度以上で熱処理を行い再結晶化した再結晶組織やめっき組織を有する。
再結晶組織とは、例えば、冷間加工によってひずみを生じた結晶粒が、再結晶によってひずみのない結晶に置き換わった組織である。
めっき組織とは、湿式のめっきによって形成された金属の組織である。めっき組織は、非晶質であってもよい。
【0022】
図10では、アスペクト比が「5/1」より大きい結晶粒は観察されなかった。結晶粒(例5)についてアスペクト比測定したところ、「1.5/1」であった。
図11でも、アスペクト比が「5/1」より大きい結晶粒は観察されなかった。
図10および
図11では、アスペクト比が「5/1」を越える結晶粒が確認できなかったため、軟磁性層は、繊維状組織を有さないといえる。
【0023】
軟磁性層2の体積抵抗率は、中心導体1の体積抵抗率より高いことが好ましい。これによって、渦電流損による交流抵抗の上昇を抑制できる。
長手方向に沿う繊維状組織は、軟磁性層2だけでなく、中心導体1にも形成されていてもよい。
【0024】
なお、高周波電線10では、中心導体1と軟磁性層2との間に、中心導体1から軟磁性層2にかけて傾斜的に組成が変化する金属間化合物層(図示略)が形成されていてもよい。金属間化合物層は、例えば、中心導体1の構成材料と軟磁性層2の構成材料とを含む合金からなる。金属間化合物層は、軟磁性層2よりも体積抵抗率が大きくてもよい。
【0025】
図4は、高周波電線10の変形例であり、ここに示す高周波電線10Aは、軟磁性層2の外面側に絶縁被覆層3が設けられている。絶縁被覆層3は、高周波電線10Aの最外層である。
絶縁被覆層3は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド等のエナメル塗料を塗布することにより形成することができる。
【0026】
(リッツ線)
図12は、
図4に示す高周波電線10Aを用いたリッツ線の例であり、ここに示すリッツ線60は、高周波電線10Aを複数本束ねて撚り合わせることにより構成されている。
【0027】
(高周波コイル)
図13および
図14は、
図4に示す高周波電線10Aを用いた高周波コイルの例であり、ここに示す高周波コイル70には、胴部71と、その両端に形成された鍔部72とを有する支持体73が用いられている。
高周波電線10Aは、胴部71に巻きつけられている。
【0028】
(高周波電線の製造方法)
<母材の作製工程>
次に、高周波電線10の製造方法の一例について説明する。なお、以下に示す製造方法は一例であり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の実施の形態に係る高周波電線は、ここに例示した方法以外の製造方法により製造することもできる。
【0029】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる中心導体を用意する。この中心導体を、管状の軟磁性層体に挿通することなどによって、中心導体と、これを包囲する軟磁性層体とを有する電線母材を得る。
なお、電線母材の作製に用いる軟磁性層体は、管体以外の形態であってもよい。
【0030】
<伸線工程>
次に、電線母材を、1または複数の伸線ダイスを通すことにより伸線する。
図2は、本実施形態の製造方法に適用可能な伸線ダイス20を示すものであって、伸線ダイス20は、エントランス部21、アプローチ部22、リダクション部23、ベアリング部24およびバックリリーフ部25を備えている。
伸線ダイス20は、エントランス部21からリダクション部23にかけて徐々に内径が小さくなる筒状体である。
リダクション部23内面の、中心軸に対する傾斜角度であるリダクション角度α1は、例えば8°程度とすることができる。
【0031】
電線母材の断面積と、ベアリング部24の内部空間の断面積とによって算出される減面率(電線母材の伸線前後の断面積差/電線母材の伸線前の断面積)は、20%以上、例えば20〜29%とすることができる。1度の伸線における減面率がこの範囲であれば、同一方向の大きなせん断応力を持続して発生させることができる。
【0032】
電線母材4は、エントランス部21、アプローチ部22を経てリダクション部23に導入され、リダクション部23において伸線前の直径d1より小さい直径d2に加工される。
この伸線工程は1回のみであってもよいが、内径寸法が異なる他の伸線ダイス20を用いて、複数回にわたり伸線工程を行うことによって、減面率を高めることができる。例えば、複数の伸線ダイス20を用いて段階的に伸線を行うことができる。
累積減面率は、例えば、70%以上とすることができる。
これによって、確実かつ容易に、中心導体1の長手方向に沿う繊維状組織を有する軟磁性層2を形成することができる。
【0033】
伸線ダイス20を用いた伸線工程では、軟磁性層2だけでなく中心導体1に繊維状組織が形成されてもよい。
【0034】
高周波電線10は、軟磁性層2が、中心導体1の長手方向に沿う繊維状組織を有しており、磁性層中の粒界が多く転位密度が高いため、結果として軟磁性層2における抵抗率は高くなる。このため、外部磁界により発生する渦電流を抑え、近接効果を低減することができる。
【0035】
図3は、累積減面率と、軟磁性層2の抵抗率との関係を示すグラフである。この図に示すように、累積減面率が高くなって軟磁性層2に繊維状組織が形成されると、抵抗率が増加する。
抵抗率が増加すれば渦電流は発生しにくくなるため、近接効果は低減すると考えられる。
また、磁性層の抵抗率が高いほど渦電流損による交流抵抗の上昇が抑制されることは、次の文献に報告されている。
COMPEL-THE INTERNATIONAL JOURNAL FOR COMPUTATION AND MATHEMATICS IN ELECTRICAL AND ELECTRONIC ENGINEERING.28(1):57-66(2009), Mizuno et.al.,
【0036】
また、高周波数で用いるコイルにおいては、近接効果による交流損失が大きくなるが、本実施形態の高周波電線10では、中心導体1にアルミニウム(またはアルミニウム合金)が用いられているため、中心導体1に銅などを用いる場合に比べ、近接効果の影響を抑えることができる。
【0037】
高周波変圧器、高速モータ、リアクトル、誘電加熱装置、磁気ヘッド装置および非接触給電装置等の、数kHz〜数100kHz程度の高周波電流を通電する機器で使用される高周波電線においては、交流損失低減を目的として、巻線の細径化が図られたり、リッツ線が採用されることがある。
しかし、接続のためのハンダ処理において絶縁皮膜の除去作業の手間や、伸線限界などの理由により、細径化には限度がある。
これに対して、本実施形態の高周波電線10によれば、素線径が太く素線数が少ないリッツ線を採用したとしても損失低減を図ることができる。
【0038】
(実施例1)
図1に示す高周波電線10を、次のようにして作製した。
アルミニウムからなる中心導体(外径9mm)を、鋼管(軟磁性層体)(内径10mm、外径12mm)に挿通し、電線母材4を得た。
図2に示すように、電線母材4を、複数の伸線ダイス20に通して段階的に伸線を行い、高周波電線10を得た(軟磁性層2の外径2.1mm、中心導体1の外径1.9mm)。
図5(a)は軟磁性層2のSEM写真であり、
図5(b)は
図5(a)を拡大したSEM写真である。
この図より、アスペクト比が「5/1」を越える結晶粒が複数確認できたため、軟磁性層2は中心導体1の長手方向に沿う繊維状組織を有することが確認された。
この高周波電線10の中心導体1および軟磁性層2について、固有抵抗を次のようにして算出した。
高周波電線10の軟磁性層2と同じ材料の単体の中心導体を、伸線工程によって減面し、固有抵抗を測定した。この値を軟磁性層2の固有抵抗として表1に示した。
次いで、(複合材である)高周波電線10の固有抵抗を測定し、この値から前述の軟磁性層2の固有抵抗を差し引いた値を、中心導体1の固有抵抗として表1に示した。
【0039】
(比較例1)
アルミニウムからなる中心導体と、鉄からなる軟磁性層とを有する高周波電線を作製し、軟磁性層の再結晶温度以上で熱処理を行った。
軟磁性層には、長手方向に沿う繊維状組織が確認されなかった。
実施例1と同様の手法により、中心導体と軟磁性層の固有抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
表1より、実施例1では、比較例1に比べて、軟磁性層2の固有抵抗を高めることができたことがわかる。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様にして得た電線母材4を複数の伸線ダイス20に通して段階的に伸線を行い、高周波電線10を得た。高周波電線10の外面に絶縁被覆層3を形成することによって、
図4に示す高周波電線10Aを得た。軟磁性層2の厚みは3μmであり、軟磁性層2の外径は126μmであり、中心導体1の外径は120μmである。
図12に示すように、高周波電線10Aを素線として用いたリッツ線60を作製した。リッツ線60を構成する高周波電線10Aの数は1500本であり、リッツ線60の線長は21mである。
図15に示すように、リッツ線60を用いてコイル80を作製した。コイル80のターン数は16である。インダクタンスは1.18×10
−4Hである。
コイルを構成する導線の単位長さ当りの交流抵抗は、国際公開2013/042671の段落0041および段落0070によれば、例えば次式のように表すことができる。
R
ac=R
s+R
p
R
s(Ω/m)は表皮効果による単位長さ当りの高周波抵抗であり、R
p(Ω/m)は近接効果による単位長さ当りの高周波抵抗である。またR
pは外部磁界の強さを表す形状因子α(1/m)の2乗に比例する値である。
R
p=α
2D
p
D
p(Ω・m)は近接効果による単位長さ辺りの高周波損失を表す。
この例のコイル80における形状因子αは90mm
−1である。
コイル80について、交流周波数(横軸)と交流抵抗(縦軸)との関係をシミュレーションにより調べた結果を
図16に示す。
【0043】
(比較例2)
高周波電線10に代えてCu線(外径120μm)を用いること以外は実施例2と同様にして
図12に示すリッツ線60を作製し、このリッツ線60を用いて、
図15に示すコイル80を作製した。その他の仕様は実施例2と同様とした。
コイル80について、交流周波数と交流抵抗との関係をシミュレーションにより調べた結果を
図16に示す。
【0044】
(比較例3)
高周波電線10に代えてAl線(外径120μm)を用いること以外は実施例2と同様にして
図12に示すリッツ線60を作製し、このリッツ線60を用いて、
図15に示すコイル80を作製した。その他の仕様は実施例2と同様とした。
コイル80について、交流周波数と交流抵抗との関係をシミュレーションにより調べた結果を
図16に示す。
【0045】
図16に示すように、Alからなる中心導体1とFeを含む軟磁性層2とを備えた高周波電線10を用いる実施例2では、Cu線またはAl線を用いる比較例2、3に比べて、70kHz以上の周波数帯において、交流抵抗が低くなる結果が得られた。
【0046】
上述の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。