【実施例1】
【0018】
[金属部品の表面処理方法]
図1は、金属部品の表面処理方法の工程図である。
【0019】
図1のように、本発明実施例1の金属部品の表面処理方法では、ステンレスのプレス加工・機械加工工程S1、前処理工程であるバレル研磨工程S2、研磨工程である化学研磨工程S3、及び熱処理擬似メッキ工程S4を備えている。なお、バレル研磨工程S2は、省略することもできる。
【0020】
ステンレスのプレス加工・機械加工工程S1では、ディスク・ドライブに供されるステンレス鋼製の部品、例えばハード・ディスク・ドライブのヘッド・サスペンションに用いられるステンレス製のベース・プレートを金属部品とし、プレス加工している。この工程では、その他の機械加工を含んでも良い。
【0021】
ベース・プレートは、例えば200μm前後の厚さのステンレス鋼(Fe−Cr−Ni系)からなっている。このベース・プレートは、ロード・ビームの基部に重ねた状態で、レーザ溶接によって固定される。プレス加工によって形成された短円筒形のボス部を有している。ボス部は、アクチュエータ・アームの取付孔に挿入され、ボールカシメで固定されることになる。
【0022】
バレル研磨工程S2では、バレル研磨装置が用いられ、ベース・プレートのバレル研磨が前処理として行われる。このバレル研磨工程S2において、鉄、又はプラスチック、若しくはステンレス・パウダを含んだプラスチック等の粒状の研磨材(バレル・メディア)が使用される。
【0023】
研磨材の形状は問わないが、例えば多面体形状やビュレット形状をなす研磨材が使用される。
【0024】
バレル研磨装置は筒形の研磨槽を備えている。研磨槽の内部に、多数の被研磨物としてベース・プレートを投入し、研磨材、必要に応じて水および添加剤を収容する。そしてモータによって研磨槽を回転させる。
【0025】
この回転により研磨材によってベース・プレートが研磨され、表面の凹凸や切断面のバリが除去される。
【0026】
研磨されたベース・プレートは、表面に研磨材の微小な破片や、母材の破片が付着し、或いは突き刺さることがある。このため次工程の化学研磨工程S3でこれらの処理が行われる。
【0027】
化学研磨工程S3では、酸性薬品(薬液)による金属部品との化学反応により表面の研磨処理が行われる。この処理では、所定形状に形成された金属部品であるベース・プレートの表面を化学研磨により0.5μm以上削り落とす。この削り落としにより、バレル研磨工程S2で残った研磨剤の突き刺さり等が除去される。
【0028】
すなわち、バレル研磨では除去困難な表面の細かい凹凸が平滑化され、破断面の微少なバリや、プレス加工時に発生する破断面に引っかかるコンタミ(介在物)を化学研磨で除去することができる。
【0029】
この除去により、ベース・プレートの表面が清浄度レベルの高い状態に改質される。また破断面の様な凹凸の多い面を平滑にすることができるので、加工中のコンタミの付着も大幅に低減させることができる。
【0030】
熱処理擬似メッキ工程S4では、ベース・プレートを還元雰囲気中で加熱することにより表面に擬似メッキ層を形成する。
【0031】
還元雰囲気としては、例えば水素雰囲気が用いられ、溶体化温度以上、例えば鋭敏化を避けるために850℃以上、望ましくは1040℃前後で熱処理を行い、その後冷却する。加熱処理は、対象とする金属部品に応じて設定される。また加熱処理は、温度及び時間との関係で行われ、温度を高くして処理時間を短時間とし、或いは温度を低くして処理時間を長くしてもよい。
【0032】
このような化学研磨後の熱処理により、表面の酸化物が還元され、また拡散現象によりベース・プレートの表面の平滑化は促進される。化学研磨で除去されずに残った微少なコンタミも母材に包み込まれることで熱処理後の部材から脱落し、コンタミが激減する。
【0033】
また、擬似メッキ層により無電解Ni-Pメッキ処理やその他の被覆処理と同等の表面を得ることができる。
【0034】
化学研磨工程S3では、表層の酸素深さ方向の濃度が下がるが、化学研磨工程S3後の熱処理擬似メッキ工程S4での熱処理により、化学研磨工程S3での表層濃度形態がキャンセルされ、元のステンレス鋼と同構成にすることができる。
[バレル研磨と化学研磨との比較]
図2は、バレル研磨と化学研磨との比較を示す写真である。
【0035】
前記バレル研磨工程S2では、
図2左欄のように表面に凹凸が残り、破断面に微少なバリが残る。
【0036】
前記化学研磨工程S3では、
図2右欄のように表面のミクロ的な凹凸や傷を除去し、プレス抜き部の破断面の平滑さを高める。
[熱処理]
図3は、熱処理あり、なしの比較を示す写真である。
【0037】
前記熱処理擬似メッキ工程S4では、還元雰囲気中の熱処理により、化学研磨後に熱処理がない場合(左欄)と比較して、表面の酸化物が還元され、また拡散現象により表面の平滑化は促進される(右欄)。
[擬似メッキ層]
図4は、表面未処理品、メッキ処理品、擬似メッキ処理品の比較を示す写真である。表面未処理品は、プレス加工によるステンレス材の表面を示す。メッキ処理品は、無電解Ni−Pの表面を示す。擬似メッキ処理品は、化学研磨後の熱処理による表面を示す。
【0038】
表面未処理品は、表面が非常に粗く、微小な粉塵が存在している。
【0039】
これに対し、メッキ処理品及び擬似メッキ処理品は、表面未処理品に比較して表面がはるかに滑らかであり、擬似メッキ処理品は、メッキ処理品と同等の平滑さで、粉塵がないことが分かる。
[コンタミの数]
図5は、メッキ品、擬似メッキ品、処理なし品のコンタミの数を比較したグラフである。
【0040】
図5のように、メッキ品及び擬似メッキ品のコンタミの数は、同等であり、処理なし品のコンタミの数と比較してはるかに減少した。
[実施例1の効果]
本発明実施例1の金属部品の表面処理方法は、所定形状に形成されたステンレス鋼製のベース・プレートの表面を化学研磨により0.5μm以上削り落とす化学研磨工程S3と、化学研磨工程S3後にベース・プレートを還元雰囲気中で溶体化温度以上、例えば850℃以上、望ましくは1040℃前後での加熱により熱処理して表面に擬似メッキ層を形成する。
【0041】
このため、表面の酸化物が還元され、また拡散現象によりベース・プレートの表面の平滑化は促進される。化学研磨で除去されずに残った微少なコンタミも母材に包み込まれることで、コンタミが激減する。
【0042】
また、擬似メッキ層により無電解Ni-Pメッキ処理やその他の被覆処理と同等の表面を得ることができる。
【0043】
したがって、表面処理後に外部から飛散するコンタミ(介在物)が付着し難く、ベース・プレートの組み付け時、或いはヘッド・サスペンションのハード・ディスク・ドライブへの組み付け後に、コンタミがハード・ディスク状等に脱落するのを確実に抑制することができる。
【0044】
無電解Ni-Pメッキ処理やその他の被覆処理と同等の品質を、擬似メッキ層により安価に得ることができる。
【0045】
無電解Ni-Pメッキ処理やその他の被覆処理と同等の品質により、外部から飛散するコンタミ(介在物)のベース・プレートへの付着を確実に抑制することができる。
【0046】
無電解Ni-Pメッキ処理やその他の被覆処理とは異なり、擬似メッキ層であるから、十分な溶接強度を得ることが可能となる。
【0047】
化学研磨工程S3の前にベース・プレートをバレル研磨で前処理するバレル研磨工程S2を備えた。
【0048】
このため、表面の凹凸や切断面のバリが除去され(
図2左欄)、化学研磨工程S3での化学研磨の精度を向上させることができ、その後の熱処理により、擬似メッキ層を確実に形成することができる。
[その他]
上記実施例では、金属部品を、ヘッド・サスペンションのベース・プレートとしたが、メッキ処理やその他の被覆処理と同等の品質を必要とするその他の金属部品にも適用することができる。
【0049】
研磨工程は、その後の熱処理により擬似メッキ層を形成できれば良く、金属部品によっては化学研磨に代えて電解研磨を用いることもできる。
【0050】
化学研磨は、その後の熱処理により擬似メッキ層を形成できれば良く、削り落としは、0.5μm以上に限らず、増減変更することができる。