(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる防液堤を具備するタンクの外観図であり、
図2(a)はタンク1の断面図を示し、
図2(b)は
図2(a)のA部拡大図である。タンク1は主に貯留槽3、防液堤5、基礎版7等から構成される。
【0021】
貯留槽3は、主に内槽11、外槽13等から構成され、略円柱状の形状を有する金属製の容器である。貯留槽3の下部は、鉄筋コンクリート製の基礎版7が設けられる。基礎版7は、地面15下に埋設され、または直上に設置される。貯留槽3の周囲には、鉄筋コンクリート製の防液堤5が貯留槽3の側面上部までを覆うように設けられる。防液堤5は、基礎版7と一体構造または連結構造となっている。
【0022】
低温液体を貯留する貯留槽の場合には、低温対応鋼材を使用するなどした金属製の内槽11と外槽13の間に保冷材が配され、一般的に内容液の側面に対する液圧は常時は内槽11にて保持され、防液堤5には作用しない。防液堤5は、貯留槽3に貯留される液体が漏洩した際に、低温液体がタンク1の外部へ流出することを防ぐ。防液堤5は、上部から下端までその厚さがほぼ同じであり、鉛直方向の所定の高さに定着部9を有している。
【0023】
定着部9は、防液堤5下方における鉛直方向のプレストレス力が特に必要な防液堤下端からの高さ範囲の上部に、防液堤5外面に所定の間隔で突き出た形状で設けられる。防液堤5下方における鉛直方向のプレストレス力が特に必要な範囲とは、後述する周方向緊張材10により生じる曲げモーメントにより防液堤5外面下方の鉛直方向に引張力が生じる範囲、もしくは低温液体の漏液圧の2倍を設計荷重として考慮する場合の曲げモーメントにより防液堤5内面下方の鉛直方向に引張力が生じる範囲から決定される範囲である。なお、定着部9は、鉄筋コンクリート製や鋼製等で形成される。なお、図示は省略するが、防液堤5の定着部9よりも上方においても、必要最低限の鉛直方向緊張材を別途設けることが望ましい。防液堤5の強度を考慮すると、防液堤5の上方においても最低限のプレストレス力を付与する必要があるためである。防液堤5の上方に設けられる鉛直方向緊張材についての設置形態については後述する。
【0024】
防液堤5内部には、防液堤5の周方向にPC緊張材である周方向緊張材19が配される。周方向緊張材19は、防液堤5下部ほど密に配されている。周方向緊張材19は図示を省略したシース管等に挿入され、図示を省略した定着部で定着される。周方向緊張材19によって、防液堤5の周方向にプレストレス力が付与されている。
【0025】
シース管21は、防液堤5円周方向に所定の間隔で防液堤5内部に埋設される。シース管21の端部は定着部9から曲がり部23を経て、防液堤5壁内のほぼ中央にほぼ鉛直方向で配される。シース管21の材質は金属製あるいは樹脂製などである。
【0026】
防液堤5を施工中または施工後、埋設されたシース管21にPC緊張材である鉛直方向緊張材17が挿入され、鉛直方向緊張材17が、
図2(a)に示すようにX方向に緊張された後、定着部9に定着され、プレストレス力が導入される。なお、シース管21内には、図示を省略したグラウトが注入される。
【0027】
図3(a)は
図2に示された埋設された鉛直方向緊張材17の配置を示す図である。鉛直方向緊張材17は、防液堤5の周方向に所定の間隔で設けられる。鉛直方向緊張材17は防液堤5内部に略鉛直方向に設けられ、一方の端部が、防液堤5の外面に設けられた定着部9で定着される。鉛直方向緊張材17は、基礎版7のU字部25で折り返し、もう一方の端部が他の定着部9に定着される。この場合、鉛直方向緊張材17の両端が定着部9で緊張され、定着される。
【0028】
鉛直方向緊張材17を緊張して導入した鉛直方向のプレストレス力は、防液堤5の下部の鉛直方向に圧縮力を生じさせる。また、鉛直方向緊張材17が曲がり部23を有し、防液堤5の外面の定着部9に定着されるため、防液堤5の施工後にプレストレス力を付与することができ、このため、防液堤5の施工を中段部で止めることなく底部から上部までを一度に施工することができる。
【0029】
なお、鉛直方向緊張材17の配置方法は、以上の形態に限られない。例えば、
図3(b)に示すように、鉛直方向緊張材17の一方の端部を定着部9へ定着し、他方の端部を防液堤5下方内部(基礎版7内)で固定してもよい。この場合、鉛直方向緊張材17は、略鉛直方向に設けられ、下端はU字部25を有さない。
【0030】
鉛直方向緊張材17を防液堤5内部で固定するには、まず、一方の端部に定着板が設けられた鉛直方向緊張材17がシース管21に挿入される。鉛直方向緊張材17はシース管21とともに防液堤5に埋設される。緊張材先端27には、定着板が設けられているため、定着板が防液堤5(基礎版7内)に固定される。鉛直方向緊張材17の他方の端部は、防液堤5に設けられた定着部9より防液堤5の外部へ導出される。防液堤5を施工後に、定着部9にて、鉛直方向緊張材17を緊張して定着することで、緊張材先端27と定着部9との間の鉛直方向にプレストレス力が付与される。この場合、鉛直方向緊張材17はU字部25を有さないため、U字部25に該当する間の緊張材を削減することができる。
【0031】
また、定着部9の形態は、タンク1の形態に限られない。例えば、
図4(a)は定着部9の突起を防液堤5の外面に円周方向に断続して設けられたタンク30を示す図である。定着部9を断続的に設けることで、コンクリートの使用量を削減することができる。なお、この場合でも、鉛直方向緊張材17は
図3(a)の如くU字形に配されてもよく、あるいは
図3(b)のように直線状に配されてもよい。
【0032】
図4(b)はタンク40を示す斜視図であり、
図4(c)は、タンク40の正面透視図である。タンク40は、定着部9が鉛直方向に2段設けられる。防液堤5内部に設けられる鉛直方向緊張材17は、一方の端部が下方の定着部9aに定着され、U字部25で折り返し、もう一方の端部が上方の定着部9bで定着される。なお、
図3(b)に示すように、定着部9a、9bそれぞれに鉛直方向緊張材17が直線状に配されてもよい。
【0033】
定着部9を鉛直方向に複数段に設けることで、鉛直方向緊張材17の鉛直方向の定着位置を、複数個所に分けることができる。このため、防液堤5の下方に付与される鉛直方向のプレストレス力の発生する高さが、防液堤5の鉛直方向の一箇所に集中することが無い。また、防液堤5の円周方向の隣り合う定着部9の間隔が広くなり、鉛直方向緊張材17の定着作業が容易になる。
【0034】
本実施の形態にかかるタンク1によれば、防液堤5の施工後に鉛直方向緊張材17を緊張して定着することができるため、防液堤5の施工を定着部9の上下で区分することなく、一度に施工することができ、防液堤5の施工工期を短縮することができる。また、鉛直方向緊張材17は、鉛直方向にプレストレス力が特に必要な範囲に設けられるため、施工が容易であるとともに低コストであるタンク1を得ることができる。
【0035】
また、鉛直方向緊張材17は、防液堤5の壁厚のほぼ中央に設けられるため、防液堤5に付与される鉛直方向のプレストレス力によって、効率よく防液堤5へ圧縮力を付与することができ、鉛直方向緊張材17による曲げモーメントの発生が少ない。また、定着部9部以外は、防液堤5の厚みはほぼ一定であるため、使用するコンクリートを削減できるとともに、コンクリート打設時の厚肉部および近傍におけるひび割れ等の発生も少ないため、補強鉄筋配置などによる補強が不要もしくは少なくてすむ。
【0036】
次に、第2の実施の形態にかかるタンク50について説明する。以下の実施の形態において、
図1〜
図3に示すタンク1と同一の機能を果たす構成要素には、
図1〜
図3と同一番号を付し、重複した説明を避ける。第2の実施の形態にかかるタンク50はタンク1と異なり、鉛直方向緊張材17が防液堤5の外側に設けられる。
【0037】
図5は、第2の実施の形態にかかる防液堤5を具備するタンク50の外観図であり、
図6(a)はタンク50の断面図、
図6(b)は
図6(a)のB部拡大図である。タンク50は主に貯留槽3、防液堤5、基礎版7等から構成される。
【0038】
定着部9は、防液堤5下方における鉛直方向のプレストレス力が特に必要な防液堤下端からの高さ範囲の上部に、防液堤5外面に所定の間隔で突き出た形状で設けられる。防液堤5下方における鉛直方向のプレストレス力が特に必要な範囲とは、後述する周方向緊張材19により生じる曲げモーメントにより、防液堤5外周面下方に引張力が生じる範囲である。定着部9は鋼製、鉄筋コンクリート製、鋼とコンクリートの合成構造などから成る。なお、図示は省略するが、防液堤5の定着部9よりも上方においても、必要最低限の鉛直方向緊張材を別途設けることが望ましい。
【0039】
防液堤5内部には、防液堤5の周方向にPC緊張材である周方向緊張材19が配される。周方向緊張材19は、防液堤5下部ほど密に配されている。周方向緊張材19によって、防液堤5の周方向にはプレストレス力が付与されている。
【0040】
シース管21bは、防液堤5円周方向に所定の間隔で定着部9に鉛直方向に設けられる。また、シース管21aは、基礎版7に設けられる。
【0041】
防液堤5を施工中または施工後、埋設されたシース管21a、21bにPC緊張材である鉛直方向緊張材17が挿入され、鉛直方向緊張材17が、
図6(b)に示すようにX方向に緊張された後、定着部9に定着され、プレストレス力が導入される。なお、シース管21a、21b内には、図示を省略したグラウトが注入される。
【0042】
鉛直方向緊張材17は、前述の通り、
図3(a)に示すようにU字部25を有しても良く、また、
図3(b)に示すように、直線状に設けられても良い。シース管21aは、鉛直方向緊張材17がU字部25を有する場合には、U字部25に応じた形状を有し、また、鉛直方向緊張材17が直線状に設けられる場合には、緊張材先端27が固定できるように、固定部まで鉛直に設けられる。なお、防液堤5の外部に露出する鉛直方向緊張材17は、図示を省略する防錆被覆あるいは外套管などで防護される。保護コンクリートを後打設してもよい。
【0043】
第2の実施の形態にかかるタンク50によれば、第1の実施の形態にかかるタンク1と同様の効果を得ることができる。また、鉛直方向緊張材17は曲がり部23を有さず、鉛直方向に設けられるため、鉛直方向緊張材17の緊張および定着作業が容易である。
【0044】
次に、第3の実施の形態にかかるタンク70について説明する。第3の実施の形態にかかるタンク70はタンク1と異なり、防液堤5の下方に厚肉部71が設けられ、鉛直方向緊張材17が防液堤5の厚肉部71に設けられる。
【0045】
図7(a)はタンク70を示す図であり、
図7(b)は
図7(a)のC部拡大図である。タンク70の防液堤5の下方は、厚肉部71が設けられる。厚肉部71は、定着部9の突起を防液堤5の外面に基礎版7まで一体化されることで設けられる。
【0046】
なお、鉛直方向緊張材17は、前述の通り、
図3(a)に示すようにU字部25を有しても良く、また、
図3(b)に示すように、直線状に設けられても良い。
【0047】
第3の実施の形態にかかるタンク70によれば、第1の実施の形態にかかるタンク1と同様の効果を得ることができる。また、鉛直方向緊張材17は曲がり部23を有さず、鉛直方向に設けられるため、緊張および定着作業が容易である。また、タンク50のように、鉛直方向緊張材17が外部に露出することがない。更に、鉛直方向緊張材17を、防液堤5の厚肉部71における壁厚のほぼ中央とすれば、偏心が無く、鉛直方向緊張材17により付与されるプレストレス力によって防液堤5の下部に曲げモーメントを生じることがない。
【0048】
次に、第4の実施形態について説明する。
図8は、第4の実施の形態にかかるタンク80を示す図であり、
図8(a)はタンク80の断面図を示し、
図8(b)、
図8(c)は
図8(a)のD部拡大図である。タンク80は主に貯留槽3、防液堤5、基礎版7等から構成される。
【0049】
貯留槽3の周囲には、防液堤5が設けられる。防液堤5は上部から下端までその厚さがほぼ同じであり、基礎版7と一体構造となっている。防液堤5の鉛直方向の所定の高さには凹部81が設けられる。凹部81は、防液堤5の外側より設けられ、凹部81が定着部9として機能する。
【0050】
定着部9は、防液堤5の鉛直方向の特にプレストレス力が必要な、防液堤下端からの高さ範囲の上部に設けられる。すなわち、凹部81は、防液堤5の鉛直方向のプレストレス力が特に必要な、防液堤下端からの高さ範囲の上部に設けられる。なお、図示は省略するが、防液堤5の定着部9よりも上方においても、必要最低限の鉛直方向緊張材を別途設けることが望ましい。
【0051】
ここで、凹部81は、
図8に示す形態に限られず、防液堤5を貫通する穴であっても良い。この場合、防液堤5に設けられた凹部81には、貯留槽3の外槽13が露出する。
【0052】
防液堤5内部には、周方向緊張材19が配され、周方向緊張材19は、防液堤5下部ほど密に配されている。周方向緊張材も図示を省略した定着部で定着され、防液堤5周方向にプレストレス力が付与されている。
【0053】
防液堤5の円周方向に所定の間隔でシース管21が定着部9から防液堤5壁内のほぼ中央を鉛直方向に配される。
【0054】
防液堤5を施工中または施工後、埋設されたシース管21に鉛直方向緊張材17が挿入され、鉛直方向緊張材17が、
図8(b)に示すようにX方向に緊張される。その後、鉛直方向緊張材17の端部が定着部9に定着され、防液堤5下部に圧縮力となるプレストレス力が導入される。なお、シース管21内には鉛直方向緊張材が定着後、図示を省略したグラウトが注入される。
【0055】
鉛直方向緊張材17が定着された後、定着部9は、
図8(C)に示すようにコンクリート83で埋め戻される。
【0056】
なお、鉛直方向緊張材17の配置はU字形に配し、鉛直方向緊張材17の両端を定着部9で定着してもよく、あるいは鉛直方向緊張材17の一方の端部を定着部9へ定着し、他方の端部を防液堤5内部で固定してもよい。また、
図2と
図8の形態を組み合わせることで、
図2の定着部9の突出部分を小さくすることができ、よりコンパクトにすることが可能となる。
【0057】
第4の実施の形態にかかるタンク80によれば、第1の実施の形態にかかるタンク1と同様の効果を得ることができる。また、鉛直方向緊張材17は曲がり部23を有さず、鉛直方向に設けられるため、緊張および定着作業が容易である。また、タンク50のように、鉛直方向緊張材17が外部に露出することがない。
【0058】
更に、鉛直方向緊張材17が、防液堤5の壁厚のほぼ中央に設けられるため、偏心が無く、鉛直方向緊張材17により付与されるプレストレス力によって防液堤5の下部に曲げモーメントを生じることがない。また、定着部9が防液堤5内部に設けられるため、防液堤5外面に突起形状を有さない。
【0059】
次いで、第5の実施形態を説明する。
図9は、第5の実施の形態にかかるタンク90の外観図であり、
図9(a)はタンク90の断面図を示し、
図9(b)、
図9(c)は
図9(a)のE部拡大図である。タンク90は主に貯留槽3、防液堤5、基礎版7等から構成される。
【0060】
貯留槽3の周囲には、防液堤5が設けられる。防液堤5は上部から下端までその厚さがほぼ同じであり、基礎版7と一体構造となっている。基礎版7の下面には定着部9が設けられる。
【0061】
防液堤5内部には、周方向緊張材19が配され、周方向緊張材19は、防液堤5下部ほど密に配されている。周方向緊張材も図示を省略した定着部で定着され、防液堤5周方向にプレストレス力が付与されている。防液堤5円周方向に所定の間隔で、定着部9から防液堤5の鉛直方向のプレストレス力が必要な範囲の上部までの間にシース管21が埋設される。
【0062】
防液堤5を施工後、基礎版7の定着部9周辺の地面15が掘削され、掘削穴91が設けられる。防液堤5に埋設されたシース管21に鉛直方向緊張材17が挿入され、鉛直方向緊張材17が、
図9(b)に示すようにX方向に緊張された後、定着部9に定着され、防液堤5下部に圧縮力となるプレストレス力が導入される。なお、シース管21内には鉛直方向緊張材が導入、定着後、図示を省略したグラウトが注入される。
【0063】
鉛直方向緊張材17が定着部9に定着された後、掘削穴91は
図9(c)に示すように埋め戻される。
【0064】
図10(a)は、タンク90の鉛直方向緊張材17を透視した図である。鉛直方向緊張材17は、定着部9で一方の端部が定着され、上方に向かってU字部25を形成し、もう一方の端部が他の定着部9へ定着される。
【0065】
なお、鉛直方向緊張材17の配置方法は、
図10(b)に示すように、鉛直方向緊張材17の一方の端部を定着部9へ定着し、他方の端部を防液堤5内部で固定してもよい。この場合、鉛直方向緊張材17は、略鉛直方向に設けられ、U字部25を有さない。この場合、予め定着版を緊張材先端27に取り付けた緊張材を埋め込んでおく。
【0066】
鉛直方向緊張材17を防液堤5内部で固定するには、まず、一方の端部に定着板が設けられた鉛直方向緊張材17がシース管21に挿入される。鉛直方向緊張材17はシース管21とともに防液堤5に埋設される。緊張材先端27には、定着板が設けられているため、定着板が防液堤5(基礎版7)に固定される。鉛直方向緊張材17の他方の端部は、防液堤5に設けられた定着部9より防液堤5の外部へ導出される。防液堤5を施工後に、定着部9にて、鉛直方向緊張材17を下方に緊張して定着することで、緊張材先端27と定着部9との間の鉛直方向にプレストレス力が付与される。この場合、鉛直方向緊張材17はU字部25を有さないため、U字部25に該当する間の緊張材を削減することができる。
【0067】
また、定着部9の形態は、タンク90の形態に限られない。定着部9を基礎版7の側面に設けてもよい。
図11(a)、
図11(b)は、定着部9が基礎版7の側面に設けられた場合の施工方法を示す図である。
【0068】
防液堤5を施工後、定着部9周辺の地面15が掘削され、掘削穴91が設けられる。防液堤5に埋設されたシース管21に鉛直方向緊張材17が挿入され、鉛直方向緊張材17が、
図11(a)に示すようにX方向に緊張された後、定着部9に定着され、防液堤5下部に圧縮力となるプレストレス力が導入される。なお、シース管21内には鉛直方向緊張材が導入、定着後、図示を省略したグラウトが注入される。
【0069】
鉛直方向緊張材17が定着部9に定着された後、掘削穴91は
図9(c)に示すように埋め戻される。このように、定着部9を基礎版7の側面に設ければ、基礎版7の側面周辺だけを掘削すればよく、掘削および鉛直方向緊張材17をシース管に挿入・緊張・定着する作業が容易になる。
【0070】
また、
図11(c)に示すように基礎版7の側面に設ける定着部9上部を外ハンチなどでごく部分的に必要最小限だけ拡幅することで鉛直方向緊張材17の定着部の曲がり部23の曲がりが大きくなり、鉛直方向緊張材17をシースに挿入、定着する作業がより容易になる。曲がりの半径を大きくすることで緊張作業に伴う、シース管21と鉛直方向緊張材17の摩擦による緊張力の長さ方向のロス(緊張端からU字部へ向かう方向の導入力の落ち分)が小さくなる。
この他に外ハンチなどを設けないで鉛直方向緊張材17の曲がりの半径を大きくする方法としては、曲がりを貯留槽平面の中心から放射方向に沿って行わずに、ある程度角度を有することで可能となる。
【0071】
第5の実施の形態にかかるタンク90によれば、第1の実施の形態にかかるタンク1と同様の効果を得ることができる。また、鉛直方向緊張材17は曲がり部23を有さなければ、鉛直方向緊張材17の緊張および定着作業が容易である。
【0072】
また、鉛直方向緊張材17が、防液堤5の壁厚のほぼ中央に設けられるため、偏心が無く、鉛直方向緊張材17により付与されるプレストレス力によって防液堤5の下部に曲げモーメントを生じることがない。また、定着部9が防液堤5内部に設けられるため、防液堤5外面に突起形状を有さない。
【0073】
さらに、定着部9が防液堤5の下部の基礎版7に設けられるため、防液堤5に定着部9を別途設ける必要がない。また、緊張及び定着作業等を低い場所で行うことができるため作業性がよい。
【0074】
次に、防液堤5上方へのプレストレス力の付与方法について説明する。
図12は、防液堤5の上方へプレストレス力を付与する鉛直方向緊張材の配置例を示す図である。
【0075】
図12(a)に示すように、タンク100は、鉛直方向緊張材101が設けられる。鉛直方向緊張材101は、図示を省略したシース管内に挿入され、防液堤5内部に埋め込まれる。鉛直方向緊張材101の一方の端部(緊張材先端103)には図示を省略した定着板が設けられ、防液堤5内部の鉛直方向中央近傍に埋め込まれる。
【0076】
鉛直方向緊張材101の緊張材先端103から下方に向かう部位は、下方緊張部108であり、防液堤5の下方にプレストレス力を付与することができる。鉛直方向緊張材101は、基礎版7内のU字部105で曲げられて、再度上方に向かう。鉛直方向緊張材101の端部は防液堤5の上部にて定着される。鉛直方向緊張材101のU字部105から上方の定着部までの間は上方緊張部であり、防液堤5の上方へ(下方を含む)プレストレス力を付与する。すなわち、鉛直方向緊張材101はJ字状に配置される。
【0077】
なお、緊張材先端103近傍に定着部9を設ければ、下方緊張部108を前述の鉛直方向緊張材17として機能させることもできる。また、U字部105の方向を互い違いにして、隣接する鉛直方向緊張材101を互いにラップさせることもできる。
【0078】
また、
図12(b)に示すように、前述のJ字状の鉛直方向緊張材101を防液堤5の下部まで配置せずに、防液堤5の鉛直方向高さ中央近傍にU字部105を設けて、鉛直方向緊張材101を防液堤5内の高さ中央近傍で曲げることもできる。
【0079】
この場合、鉛直方向緊張材101は、防液堤5の上方のみにプレストレス力を付与し、防液堤5下方へのプレストレス力の付与は、前述の鉛直方向緊張材17を別途設ける必要がある。この場合、鉛直方向緊張材17の上端(定着部9)と鉛直方向緊張材101の下端(U字部105)とは、防液堤5の鉛直方向の高さにおいて一部ラップさせることが望ましい。防液堤5へのプレストレス力を鉛直方向に連続的に付与するためである。
【0080】
なお、防液堤5の上方への鉛直方向緊張材の配置は、防液堤5の上方に必要なプレストレス力を付与することが可能なU字部105を有さない鉛直方向緊張材を、防液堤5の上方から防液堤の下部または中央まで略鉛直方向に別途配置することもできる。また、鉛直方向緊張材101は、鉛直方向緊張材17の設置ピッチの例えば2倍から4倍とすることができ、強度要件に応じて設定することができる。
【0081】
以上のように、防液堤5の下方へプレストレス力を付与する鉛直方向緊張材17に加え、または一部を置換して、上方緊張部109を有する鉛直方向緊張材101を設けることで、防液堤5の上方においても、必要最低限のプレストレス力を付与することができる。
【0082】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
例えば、シース管21に代えて防液堤5にプレグラウト緊張材を埋設し、防液堤5を施工後、プレグラウト緊張材を緊張してもよい。この場合、防液堤5の施工時に、プレグラウト緊張材を埋設し、定着部9に端部を導出しておき、防液堤5施工後に、プレグラウト緊張材定着部9で、緊張及び定着すればよい。プレグラウト緊張材によれば、シース管に緊張材を挿入する必要がなく、グラウトをシース管21に充填する必要も無い。
【0084】
また、前述として鉛直方向緊張材17が、防液堤5の壁厚のほぼ中央に設けられるため、偏心が無く、鉛直方向緊張材17により付与されるプレストレス力によって防液堤5の下部に曲げモーメントを生じることがない、と明記しているが、必要に応じ、任意の設計荷重に抵抗する向きの偏心曲げモーメントを発生させるために、故意に鉛直方向緊張材17を全体あるいは部分的に壁厚の外側もしくは内側に寄せて偏心設置することも可能である。
【0085】
また、各種の実施例を組み合わせることもできる。例えば、
図3(a)に示したタンク1に設けられた鉛直方向緊張材17に、
図12(a)で示したタンク100に設けられた鉛直方向緊張材101を所定数量だけ追加または置換して配置することもできる。また、防液堤5に代えて、タンクの側壁等の壁体に対しても同様に実施することができ、同様の効果を得ることができる。