(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭化水素油が、前記(i)の条件を満たし、且つ、FD−MS分析において、シクロパラフィン分が50%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑油基油。
前記炭化水素油が、前記(ii)の条件を満たし、且つ、FD−MS分析において、シクロパラフィン分が60%以下である、請求項1、6、7、8のいずれか一項に記載の潤滑油基油。
前記炭化水素油が、前記(iii)の条件を満たし、且つ、FD−MS分析において、シクロパラフィン分が30%以下である、請求項1、10、11、12のいずれか一項に記載の潤滑油基油。
前記第3の工程は、ZSM−22型ゼオライト、ZSM−23型ゼオライト、SSZ32及びZSM−48型ゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種の結晶性固体酸性物質と、活性金属として白金および/またはパラジウムを含む水素化異性化触媒の存在下、前記基油留分を水素化異性化脱ろうする工程である、請求項14〜17のいずれか一項に記載の潤滑油基油の製造方法。
前記炭化水素油が、フィッシャートロプシュ合成から得られたGTLワックスあるいは、溶剤脱ろうによって得られたスラックワックスを原料として得られたものである、請求項14〜18のいずれか一項に記載の潤滑油基油の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
[第1実施形態:(i)の条件を満たす炭化水素油である潤滑油基油]
本発明の第1実施形態に係る潤滑油基油は、100℃における動粘度が3.0〜5.0mm
2/s且つ−20℃におけるSBV粘度が3,000〜60,000mPa・sの炭化水素油である。
【0018】
なお、従来、潤滑油基油の低温粘度特性の指標として用いられている流動点は、流動のしやすさ、換言すればバルクの粘性を評価するものである。これに対して、本発明におけるSBV粘度は、バルクの粘度ではなく、基油の分子レベルでの動きやすさを評価できるものである。例えば、流動点よりも低い温度では、潤滑油基油は流動しないが、基油を構成する分子間のずれ等により、分子レベルでは動くことができ、SBV粘度を与え得る。本実施形態に係る潤滑油基油は、上記の本発明者の知見に基づきなされたものであり、100℃における動粘度3.0〜5.0mm
2/s、粘度指数145以上の潤滑油基油において、該潤滑油基油の−20℃におけるSBV粘度を3,000〜60,000mPa・sとすることによって、低温粘度特性を十分に維持しつつシール性を改善できるという、予想外の顕著な効果を有する。
【0019】
本実施形態に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は、3.0〜5.0mm
2/sであり、好ましくは3.0〜4.5mm
2/s、より好ましくは3.2〜4.3mm
2/s、より好ましくは3.4〜4.1mm
2/sである。
【0020】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の粘度指数は、145以上であり、好ましくは147以上、より好ましくは148〜160である。なお、粘度指数が上記下限値未満であると省エネルギー性が低下し、前記上限置を超えると常温での流動性が低下し潤滑油基油として使用できなくなる傾向にある。
【0021】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−20℃におけるSBV粘度は、3,000〜60,000mPa・sであり、好ましくは3,000〜30,000mPa・s、より好ましくは3,000〜15,000mPa・sである。−20℃におけるSBV粘度が上記下限値未満であるとシール性が不十分となり、また、上記上限値を超えると低温粘度特性が不十分となる。
【0022】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−30℃におけるSBV粘度は、好ましくは50,000〜500,000mPa・sであり、より好ましくは50,000〜400,000mPa・s、さらに好ましくは50,000〜300,000mPa・sである。−25℃におけるSBV粘度が上記下限値未満であるとシール性が不十分となり、また、上記上限値を超えると低温粘度特性が不十分となる。
【0023】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは10〜20mm
2/s、より好ましくは12〜16mm
2/sである。
【0024】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の凝固点は、好ましくは−20〜−5℃、より好ましくは−18〜−8℃、さらに好ましくは−15〜−10℃である。なお、凝固点が上記下限値未満であると省エネルギー性が低下することとなる傾向にあり、また、上記上限値を超えると常温での流動性が低下し潤滑基油として使用できなくなる傾向にある。
【0025】
さらに、本実施形態に係る潤滑油基油について
13C−NMR分析を行った場合、潤滑油基油を構成する全炭素に占める、主鎖を構成するCH
2炭素の割合が15%以上であることが好ましく、16%以上であることがより好ましい。当該割合が上記下限値以上であると、潤滑油基油のトラクション係数を低くすること(すなわち低摩擦)ができ、省エネルギー性の点で好ましい。
【0026】
また、本実施形態に係る潤滑油基油についてFD−MS分析を行った場合、シクロパラフィン分が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。シクロパラフィン分が上記上限値以下であると、潤滑油基油の耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0027】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の尿素アダクト値は、高温での粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以下である。また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良い。しかし、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0028】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。飽和分の含有量が上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0029】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0030】
なお、本発明でいう芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0031】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明の潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましく、1質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0032】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
【0033】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−10℃以下、更に好ましくは−12.5℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−20℃以上、より好ましくは−17.5℃以上、更に好ましくは−15℃以上である。流動点が−20℃未満であると、−20℃におけるSBV粘度を3,000〜60,000mPa・sの範囲内とすることが困難となり、シール性が不十分となる傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0034】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−30℃におけるCCS粘度は、好ましくは1500mPa・s以下、より好ましくは1200mPa・s以下である。さらに、潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは2500mPa・s以下、より好ましくは2000mPa・s以下である。−30℃又は−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう−30℃又は−35℃におけるCCS粘度とは、それぞれJIS K 2010−1993に準拠して測定された粘度を意味する。
【0035】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ
15)は、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ
15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm
2/s)を示す。]
【0036】
なお、ρ
15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0037】
より具体的には、潤滑油基油のρ
15は、好ましくは0.815以下、より好ましくは0.810以下である。
【0038】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0039】
また、本実施形態に係る潤滑油基油のNOACK蒸発量は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは9質量%以上、更に好ましくは10以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは14質量%以下、更に好ましくは13質量%以下である。NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量が前記上限値を超えると、潤滑油基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0040】
[第2実施形態:(ii)の条件を満たす炭化水素油である潤滑油基油]
【0041】
本発明の第2実施形態に係る潤滑油基油は、100℃における動粘度が5〜9mm
2/s且つ−20℃におけるSBV粘度が3,000〜30,000mPa・sの炭化水素油である。
【0042】
なお、従来、潤滑油基油の低温粘度特性の指標として用いられている流動点は、流動のしやすさ、換言すればバルクの粘性を評価するものである。これに対して、本発明におけるSBV粘度は、バルクの粘度ではなく、基油の分子レベルでの動きやすさを評価できるものである。例えば、流動点よりも低い温度では、潤滑油基油は流動しないが、基油を構成する分子間のずれ等により、分子レベルでは動くことができ、SBV粘度を与え得る。本実施形態に係る潤滑油基油は、上記の本発明者の知見に基づきなされたものであり、100℃における動粘度5〜9mm
2/sの潤滑油基油において、該潤滑油基油の−20℃におけるSBV粘度を3,000〜30,000mPa・sとすることによって、低温粘度特性を十分に維持しつつシール性を改善できるという、予想外の顕著な効果を有する。
【0043】
本実施形態に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は、5〜9mm
2/sであり、好ましくは5.5〜8.5mm
2/s、より好ましくは6〜8mm
2/sである。
【0044】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−20℃におけるSBV粘度は、3,000〜30,000mPa・sであり、好ましくは3,000〜25,000mPa・s、より好ましくは3,000〜20,000mPa・sである。−20℃におけるSBV粘度が上記下限値未満であるとシール性が不十分となり、また、上記上限値を超えると低温粘度特性が不十分となる。
【0045】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−25℃におけるSBV粘度は、好ましくは5,000〜500,000mPa・sであり、より好ましくは5,000〜400,000mPa・s、さらに好ましくは5,000〜300,000mPa・sである。−25℃におけるSBV粘度が上記下限値未満であるとシール性が不十分となり、また、上記上限値を超えると低温粘度特性が不十分となる。
【0046】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは25〜40mm
2/s、より好ましくは28〜35mm
2/sである。
【0047】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の粘度指数は、155以上であり、好ましくは157以上、より好ましくは158〜165である。なお、粘度指数が上記下限値未満であると省エネルギー性が低下し、上記上限値を超えると常温での流動性が低下し潤滑油基油として使用できなくなる傾向にある。
【0048】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の凝固点は、好ましくは−15〜−5℃、より好ましくは−14〜−7℃、さらに好ましくは−13〜−8℃である。なお、凝固点が上記下限値未満であると省エネルギー性が低下することとなる傾向にあり、また、上記上限値を超えると常温での流動性が低下し潤滑基油として使用できなくなる傾向にある。
【0049】
さらに、本実施形態に係る潤滑油基油について
13C−NMR分析を行った場合、潤滑油基油を構成する全炭素に占める、主鎖を構成するCH
2炭素の割合が20%以上であることが好ましく、18%以上であることがより好ましい。当該割合が上記下限値以上であると、潤滑油基油のトラクション係数を低くすること(すなわち低摩擦)ができ、省エネルギー性の点で好ましい。
【0050】
また、本実施形態に係る潤滑油基油についてFD−MS分析を行った場合、シクロパラフィン分が60%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましい。シクロパラフィン分が上記上限値以下であると、潤滑油基油の耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の尿素アダクト値は、高温での粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以下である。また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良い。しかし、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0052】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。飽和分の含有量が上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0053】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明の潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましく、1質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0055】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。
【0056】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−10℃以下、更に好ましくは−12.5℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−20℃以上、より好ましくは−17.5℃以上、更に好ましくは−15℃以上である。流動点が−20℃未満であると、−20℃におけるSBV粘度を3,000〜30,000mPa・sの範囲内とすることが困難となり、シール性が不十分となる傾向にある。
【0057】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−30℃におけるCCS粘度は、好ましくは950mPa・s以下、より好ましくは900mPa・s以下である。さらに、潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは1,600mPa・s以下、より好ましくは1,500mPa・s以下である。−30℃又は−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。
【0058】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ
15)は、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ
15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm
2/s)を示す。]
【0059】
なお、ρ
15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0060】
より具体的には、潤滑油基油のρ
15は、好ましくは0.830以下、より好ましくは0.825以下である。
【0061】
[第3実施形態:(iii)の条件を満たす炭化水素油である潤滑油基油]
本発明の第3実施形態に係る潤滑油基油は、100℃における動粘度が2.0〜3.0mm
2/s、粘度指数が130以上且つ−30℃におけるSBV粘度が1,000〜30,000mPa・sの炭化水素油である。
【0062】
なお、従来、潤滑油基油の低温粘度特性の指標として用いられている流動点は、流動のしやすさ、換言すればバルクの粘性を評価するものである。これに対して、本発明におけるSBV粘度は、バルクの粘度ではなく、基油の分子レベルでの動きやすさを評価できるものである。例えば、流動点よりも低い温度では、潤滑油基油は流動しないが、基油を構成する分子間のずれ等により、分子レベルでは動くことができ、SBV粘度を与え得る。本実施形態に係る潤滑油基油は、上記の本発明者の知見に基づきなされたものであり、100℃における動粘度2.0〜3.0mm
2/s、粘度指数130以上の潤滑油基油において、該潤滑油基油の−30℃におけるSBV粘度を1,000〜30,000mPa・sとすることによって、低温粘度特性を十分に維持しつつシール性を改善できるという、予想外の顕著な効果を有する。
【0063】
本実施形態に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は、2.0〜3.0mm
2/sであり、好ましくは2.1〜2.9mm
2/s、より好ましくは2.2〜2.8mm
2/sである。
【0064】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の粘度指数は、130以上であり、好ましくは131以上、より好ましくは132〜140である。粘度指数が上記下限値未満であると、限を下回ると省エネルギー性が低下し、上回ると常温での流動性が低下し潤滑油基油として使用できなくなる。
【0065】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−30℃におけるSBV粘度は、1,000〜30,000mPa・sであり、好ましくは1,000〜20,000mPa・s、より好ましくは1,000〜15,000mPa・sである。−30℃におけるSBV粘度が上記下限値未満であるとシール性が不十分となり、また、上記上限値を超えると低温粘度特性が不十分となる。
【0066】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−35℃におけるSBV粘度は、好ましくは3,000〜500,000mPa・sであり、より好ましくは3,000〜400,000mPa・s、さらに好ましくは3,000〜300,000mPa・sである。−35℃におけるSBV粘度が上記下限値未満であるとシール性が不十分となり、また、上記上限値を超えると低温粘度特性が不十分となる。
【0067】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−40℃におけるSBV粘度は、好ましくは5,000〜750,000mPa・sであり、より好ましくは5,000〜500,000mPa・s、さらに好ましくは5,000〜400,000mPa・sである。−40℃におけるSBV粘度が上記下限値未満であるとシール性が不十分となり、また、上記上限値を超えると低温粘度特性が不十分となる。
【0068】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは7〜12mm
2/s、より好ましくは8〜10mm
2/sである。
【0069】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の凝固点は、好ましくは−30〜−10℃、より好ましくは−29〜−15℃、さらに好ましくは−28〜−20℃である。なお、凝固点が上記下限値未満であると省エネルギー性が低下する傾向にあり、また、上記上限値を超えると常温での流動性が低下し潤滑基油として使用できなくなる傾向にある。
【0070】
さらに、本実施形態に係る潤滑油基油について
13C−NMR分析を行った場合、潤滑油基油を構成する全炭素に占める、主鎖を構成するCH
2炭素の割合が15%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。当該割合が上記下限値以上であると、潤滑油基油のトラクション係数を低くすること(すなわち低摩擦)ができ、省エネルギー性の点で好ましい。
【0071】
また、本実施形態に係る潤滑油基油についてFD−MS分析を行った場合、シクロパラフィン分が30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。シクロパラフィン分が上記上限値以下であると、潤滑油基油の耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の尿素アダクト値は、高温での粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以下である。また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良い。しかし、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0073】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。飽和分の含有量が上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0074】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0075】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明の潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましく、1質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0076】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。
【0077】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−27.5℃以上、より好ましくは−25℃以上である。流動点が−27.5℃未満であると、−20℃におけるSBV粘度を3,000〜60,000mPa・sの範囲内とすることが困難となり、シール性が不十分となる傾向にある。
【0078】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−30℃におけるCCS粘度は、好ましくは1,000mPa・s以下、より好ましくは750mPa・s以下である。さらに、潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは1,300mPa・s以下、より好ましくは1,000mPa・s以下である。−30℃又は−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。
【0079】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ
15)は、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ
15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (1)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm
2/s)を示す。]
【0080】
なお、ρ
15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0081】
より具体的には、潤滑油基油のρ
15は、好ましくは0.806以下、より好ましくは0.8058以下である。
【0082】
また、本実施形態に係る潤滑油基油のNOACK蒸発量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは48質量%以下、更に好ましくは46質量%以下である。NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量が前記上限値を超えると、潤滑油基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。
【0083】
[第4実施形態:潤滑油基油の製造方法]
本発明の第4実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、
基油留分及び該基油留分よりも重質の重質留分を含有する炭化水素油から、前記基油留分と前記重質留分とをそれぞれ分留する第1の工程と、
前記第1の工程で分留された重質留分を水素化分解し、得られる分解油を前記第1の工程に戻す第2の工程と、
前記基油留分を水素化異性化脱ろうして脱ろう油を得る第3の工程と、
前記脱ろう油を精製して精製油を得る第4の工程と、
前記精製油の分留により、下記(i)、(ii)又は(iii):
(i)100℃における動粘度が3.0〜5.0mm
2/s、粘度指数が145以上且つ−20℃におけるSBV粘度が3,000〜60,000mPa・sの炭化水素油、
(ii)100℃における動粘度が5〜9mm
2/s、粘度指数が155以上且つ−20℃におけるSBV粘度が3,000〜30,000mPa・sの炭化水素油、
(iii)100℃における動粘度が2.0〜3.0mm
2/s、粘度指数が130以上且つ−30℃におけるSBV粘度が1,000〜30,000mPa・sの炭化水素油、
のいずれかの条件を満たす炭化水素油である潤滑油基油を得る第5の工程と、
を備える。
【0084】
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法においては、原料である炭化水素油から基油留分と重質留分とが分留され(第1の工程)、重質留分の水素化分解により得られる分解油が第1の工程に戻される(第2の工程)。つまり、重質留分のみが水素化分解を経て後段の水素化異性化脱ろう(第3の工程)に供され、基油留分は水素化分解を経ずに水素化異性化脱ろうに供されるため、水素化異性化脱ろうに供される被処理油全体としては、従来の高度精製鉱油の製造方法と比較して、異性化が進みにくいものとなる。そして、このような被処理油について水素化異性化脱ろうを行い、得られる脱ろう油を精製して精製油を得(第4の工程)、さらに精製油を分留することによって(第5の工程)、所望の潤滑油基油を有効に得ることができる。
【0085】
なお、従来の高度精製鉱油の製造方法としては、原料油全体に水素化分解及び水素化異性化脱ろうを施すのが一般的であるが、この場合は100℃における動粘度及び−20℃におけるSBV粘度の双方が上記の条件を満たす潤滑油基油を得ることが困難となる。特に、従来の高度精製鉱油の場合、100℃における動粘度を上記(i)、(ii)又は(iii)のいずれかに示す範囲内とすると、−30℃におけるSBV粘度が各条件に示した下限値未満となり、シール性が不十分となる。
【0086】
基油留分は、脱蝋工程、水素化仕上げ工程及び第2蒸留工程を経て潤滑油基油を得るための留分であり、その沸点範囲は目的とする製品によって適宜変更できる。本実施形態における基油留分の好適な沸点範囲として、340〜520℃を例示できる。
【0087】
重質留分は、基油留分より沸点が高い重質の留分である。重質留分の沸点は520℃より高いことが好ましい。
【0088】
炭化水素油は、基油留分及び重質留分以外に、基油留分より沸点が低い軽質の留分(軽質分)を含有していてもよい。軽質分の沸点は340℃未満であることが好ましい。
【0089】
炭化水素油としては、例えば、水素化処理又は水素化分解された軽油、重質軽油、減圧軽油、潤滑油ラフィネート、潤滑油原料、ブライトストック、スラックワックス(粗蝋)、蝋下油、脱油蝋、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、合成油、フィッシャー・トロプシュ合成反応油(以下、「FT合成油」という。)、高流動点ポリオレフィン、直鎖αオレフィンワックスなどが挙げられる。これらは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。特に、炭化水素油としては、減圧軽油、減圧軽油水素化分解油、常圧残油、常圧残油水素化分解油、減圧残油、減圧残油水素化分解油、スラックワックス、脱蝋油、パラフィンワックス、マイクロクリタリンワックス、ペトラタム及びフィッシャー・トロプシュ合成ワックスからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、常圧残油、減圧残油、減圧軽油、スラックワックス、及びフィッシャー・トロプシュ合成ワックスからなる群より選択される少なくとも一種であることがさらに好ましい。
【0090】
本発明の一態様において、炭化水素油としてはFT(フィッシャー・トロプシュ)合成油が好ましい。FT合成油は、FT合成反応により一酸化炭素及び水素から合成された炭化水素油であり、窒素分を含まない。そのため、炭化水素油がFT合成油であると、後述する水素化分解及び異性化脱蝋において硫黄被毒のおそれが無く、多様な触媒を用いることができる。
【0091】
また、本発明の他の態様において、炭化水素油としては石油原料に由来する炭化水素を含有する石油系炭化水素油を用いることが好ましい。石油系炭化水素油としては、例えば、減圧軽油水素化分解油、常圧残油水素化分解油、減圧残油水素化分解油、スラックワックス、脱蝋油、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタムが挙げられる。
【0092】
第1蒸留工程は、炭化水素油から基油留分及び重質留分をそれぞれ分留する工程である。分留工程は炭化水素油の組成によって適宜その条件を変更することができる。例えば、炭化水素油が軽質分を20容量%以上含有するとき、分留工程は、炭化水素油から軽質分を留去する常圧蒸留と、常圧蒸留のボトム油から基油留分及び重質留分をそれぞれ分留する減圧蒸留と、により行われることが好ましい。
【0093】
第1蒸留工程で分留した重質留分は、水素化分解工程に供される。水素化分解工程で得られる水素化分解油は第1蒸溜工程に戻される。
【0094】
水素化分解工程に用いる反応器の形式は特に限定されず、水素化分解触媒が充填された固定床流通式反応器が好ましく用いられる。反応器は単一であってもよく、また、複数の反応器が直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、反応器内の触媒床は単一であってもよく、複数であってもよい。
【0095】
水素化分解触媒としては公知の水素化分解触媒が用いられ、固体酸性を有する無機担体に、水素化活性を有する元素の周期表第8〜10族に属する金属が担持された触媒(以下、「水素化分解触媒A」という。)が好ましく使用される。特に、炭化水素油がFT合成油であるとき、硫黄分による触媒被毒のおそれがないため、水素化分解触媒Aが好適に用いられる。
【0096】
水素化分解触媒Aを構成する好適な固体酸性を有する無機担体としては、超安定Y型(USY)ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びβゼオライトなどのゼオライト、並びに、シリカアルミナ、シリカジルコニア、及びアルミナボリアなどの耐熱性を有する無定形複合金属酸化物の中から選ばれる1種類以上の無機化合物から構成されるものが挙げられる。更に、担体は、USYゼオライトと、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアの中から選ばれる1種以上の無定形複合金属酸化物とを含んで構成される組成物がより好ましく、USYゼオライトと、アルミナボリア及び/又はシリカアルミナとを含んで構成される組成物が更に好ましい。
【0097】
USYゼオライトは、Y型ゼオライトを水熱処理及び/又は酸処理により超安定化したものであり、Y型ゼオライトが本来有する細孔径が2nm以下のミクロ細孔と呼ばれる微細細孔構造に加え、2〜10nmの範囲に細孔径を有する新たな細孔が形成されている。USYゼオライトの平均粒子径に特に制限はないが、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、USYゼオライトにおいて、シリカ/アルミナのモル比(アルミナに対するシリカのモル比)は10〜200であることが好ましく、15〜100であることがより好ましく、20〜60であることが更に好ましい。
【0098】
また、水素化分解触媒Aの担体は、結晶性ゼオライト0.1〜80質量%と、耐熱性を有する無定形複合金属酸化物0.1〜60質量%とを含んでいることが好ましい。
【0099】
水素化分解触媒Aの担体は、上記固体酸性を有する無機化合物とバインダーとを含む担体組成物を成形した後、焼成することにより製造できる。固体酸性を有する無機化合物の配合割合は、担体全体の質量を基準として1〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましい。また、担体がUSYゼオライトを含んでいる場合、USYゼオライトの配合割合は、担体全体の質量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。さらに、担体がUSYゼオライト及びアルミナボリアを含んでいる場合、USYゼオライトとアルミナボリアの配合比(USYゼオライト/アルミナボリア)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。また、担体がUSYゼオライト及びシリカアルミナを含んでいる場合、USYゼオライトとシリカアルミナとの配合比(USYゼオライト/シリカアルミナ)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。
【0100】
バインダーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシアが好ましく、アルミナがより好ましい。バインダーの配合量は、担体全体の質量を基準として20〜98質量%であることが好ましく、30〜96質量%であることがより好ましい。
【0101】
担体組成物を焼成する際の温度は、400〜550℃の範囲内にあることが好ましく、470〜530℃の範囲内であることがより好ましく、490〜530℃の範囲内であることが更に好ましい。このような温度で焼成することにより、担体に十分な固体酸性及び機械的強度を付与することができる。
【0102】
担体に担持される水素化活性を有する周期表第8〜10族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、パラジウム及び白金の中から選ばれる金属を1種単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。これらの金属は、含浸やイオン交換などの常法によって上述の担体に担持することができる。担持する金属量には特に制限はないが、金属の合計量が担体質量に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましい。なおここで元素の周期表とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期表をいう。
【0103】
水素化分解触媒Aを用いるとき、水素の存在下で基油留分と水素化分解触媒Aとを接触させる際の条件は、特に限定されないが、次のような反応条件を選択することができる。すなわち、反応温度としては、180〜400℃が挙げられるが、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃が特に好ましい。反応温度が400℃を越えると、軽質分への分解が進行して基油留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色し、燃料油基材としての使用が制限される傾向にある。一方、反応温度が180℃を下回ると、水素化分解反応が十分に進行せず、基油留分の収率が減少する。水素分圧としては0.5〜12MPaが挙げられるが、1.0〜5.0MPaが好ましい。水素分圧が0.5MPa未満の場合には水素化分解が十分に進行しない傾向にあり、一方、12MPaを超える場合は装置に高い耐圧性が要求され、設備コストが上昇する傾向にある。重質留分の液空間速度(LHSV)としては0.1〜10.0h
−1が挙げられるが、0.3〜3.5h
−1が好ましい。LHSVが0.1h
−1未満の場合には水素化分解が過度に進行し、また生産性が低下する傾向にあり、一方、10.0h
−1を超える場合には、水素化分解が十分に進行しない傾向にある。水素/油比としては50〜1000NL/Lが挙げられるが、70〜800NL/Lが好ましい。水素/油比が50NL/L未満の場合には水素化分解が十分に進行しない傾向にあり、一方、1000NL/Lを超える場合には、大規模な水素供給装置等が必要となる傾向にある。
【0104】
また、炭化水素油が石油系炭化水素油であるとき、基油留分に硫黄分が含まれる場合がある。このような場合には、水素化分解触媒として、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属とを有する触媒(以下、「水素化分解触媒B」という。)を用いることが好ましい。水素化分解触媒Bによれば、硫黄被毒による触媒活性の低下が十分に抑制される。
【0105】
水素化分解触媒Bの担体としては、上述のようにアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上を含んで構成される多孔性無機酸化物が用いられる。かかる多孔性無機酸化物としては、水素化分解活性を一層向上できる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましく、アルミニウムと他の元素とを含む無機酸化物(酸化アルミニウムと他の酸化物との複合酸化物)が更に好ましい。
【0106】
多孔性無機酸化物が構成元素としてアルミニウムを含有する場合、アルミニウムの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、アルミナ換算で、好ましくは1〜97質量%、より好ましくは10〜97質量%、更に好ましくは20〜95質量%である。アルミニウムの含有量がアルミナ換算で1質量%未満であると、担体酸性質などの物性が好適でなく、十分な水素化分解活性が発揮されない傾向にある。他方、アルミニウムの含有量がアルミナ換算で97質量%を超えると、触媒表面積が不十分となり、活性が低下する傾向にある。
【0107】
アルミニウム以外の担体構成元素である、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムを担体に導入する方法は特に制限されず、これらの元素を含有する溶液などを原料として用いればよい。例えば、ケイ素については、ケイ素、水ガラス、シリカゾルなど、ホウ素についてはホウ酸など、リンについては、リン酸やリン酸のアルカリ金属塩など、チタンについては硫化チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウムや各種アルコキサイド塩などを用いることができる。
【0108】
さらに、多孔性無機酸化物は、構成元素としてリンを含有することが好ましい。リンの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、更に好ましくは2〜6質量%である。リンの含有量が0.1質量%未満の場合には十分な水素化分解活性が発揮されない傾向にあり、また、10質量%を超えると過度の分解が進行する恐れがある。
【0109】
上記の酸化アルミニウム以外の担体構成成分の原料は、担体の焼成より前の工程において添加することが好ましい。例えば、アルミニウム水溶液に予め上記原料を添加した後、これらの構成成分を含む水酸化アルミニウムゲルを調製してもよく、調合した水酸化アルミニウムゲルに対して上記原料を添加してもよい。あるいは、市販の酸化アルミニウム中間体やベーマイトパウダーに水もしくは酸性水溶液を添加して混練する工程において上記原料を添加してもよいが、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で共存させることがより好ましい。酸化アルミニウム以外の担体構成成分の効果発現機構は必ずしも解明されたわけではないが、アルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推察され、このことが担体表面積の増加や活性金属との相互作用を生じることにより、活性に影響を及ぼしていると考えられる。
【0110】
担体としての上記多孔性無機酸化物には、周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属が担持される。これらの金属の中でも、コバルト、モリブデン、ニッケル及びタングステンから選ばれる2種以上の金属を組み合わせて用いることが好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステンが挙げられる。これらのうち、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン及びニッケル−タングステンの組み合せがより好ましい。水素化分解に際しては、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用する。
【0111】
触媒質量を基準とする活性金属の含有量としては、タングステン及びモリブデンの合計担持量の範囲は、酸化物換算で12〜35質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。タングステン及びモリブデンの合計担持量が12質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、35質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。コバルト及びニッケルの合計担持量の範囲は、酸化物換算で1.0〜15質量%が好ましく、1.5〜12質量%がより好ましい。コバルト及びニッケルの合計担持量が1.0質量%未満であると、十分な助触媒効果が得られず、活性が低下する傾向がある。他方、15質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0112】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の水素化分解触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0113】
本実施形態において、使用する水素化分解触媒Bの種類数は特に限定されない。例えば、一種類の触媒を単独で使用してもよく、活性金属種や担体構成成分の異なる触媒を複数使用してもよい。異なる触媒を複数使用する場合の好適な組み合せとしては、例えば、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−タングステンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒を用いることが挙げられる。これらの組み合せの前段及び/又は後段にニッケル−モリブデン触媒を更に組み合せてもよい。
【0114】
担体成分が異なる複数の触媒を組み合せる場合には、例えば、担体の総質量を基準として酸化アルミニウムの含有量が30質量%以上であり且つ80質量%未満の触媒の後段に、酸化アルミニウムの含有量が80〜99質量%の範囲にある触媒を用いればよい。
【0115】
さらに、水素化分解触媒B以外に、必要に応じて基油留分に随伴して流入するスケール分をトラップしたり触媒床の区切り部分で水素化分解触媒Bを支持したりする目的でガード触媒、脱金属触媒、不活性充填物を用いてもよい。なお、これらは単独又は組み合せて用いることができる。
【0116】
水素化分解触媒Bの窒素吸着BET法による細孔容積は、0.30〜0.85ml/gであることが好ましく、0.45〜0.80ml/gであることがより好ましい。当該細孔容積が0.30ml/gに満たない場合は担持される金属の分散性が不十分となり、活性点が検証する懸念がある。また、当該細孔容積が0.85ml/gを超えると、触媒強度が不十分となり、使用中に触媒が粉化、破砕するおそれがある。
【0117】
また、窒素吸着BET法によって求められる触媒の平均細孔直径は、5〜11nmであることが好ましく、6〜9nmであることがより好ましい。平均細孔直径が5nm未満であると、反応基質が細孔内に十分に拡散せず、反応性が低下するおそれがある。また、平均細孔直径が11nmを超えると、細孔表面積が低下し、活性が不十分となるおそれがある。
【0118】
さらに、水素化分解触媒Bにおいては、有効な触媒細孔を維持し、十分な活性を発揮させるために、全細孔容積に占める細孔直径3nm以下の細孔に由来する細孔容積の割合が35容量%以下であることが好ましい。
【0119】
水素化分解触媒Bを用いるとき、水素化分解の条件は、例えば、水素圧力2〜13MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h
−1、水素油比(水素/油比)150〜1500NL/Lとすることができ、好ましくは、水素圧力4.5〜12MPa、液空間速度0.3〜1.5h
−1、水素油比380〜1200NL/Lであり、より好ましくは、水素圧力6〜15MPa、空間速度0.3〜1.5h
−1、水素油比350〜1000NL/Lである。これらの条件はいずれも反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向がある。また、反応温度としては、180〜400℃が挙げられ、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃が特に好ましい。反応温度が400℃を越えると、軽質留分への分解が進行して基油留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色し、燃料油基材としての使用が制限される傾向にある。一方、反応温度が180℃を下回ると、水素化分解反応が十分に進行せず、基油留分の収率が減少する。
【0120】
水素化分解工程においては、重質留分が水素化分解により概ね沸点520℃以下の炭化水素に転化される。一方、重質留分の一部は十分に水素化分解を受けず、沸点520℃以上の未分解重質留分として残存する。
【0121】
水素化分解油の組成は使用する水素化分解触媒及び水素化分解反応条件により決定される。なおここで「水素化分解油」とは、特に断らない限り、未分解重質留分を含む水素化分解全生成物を指す。水素化分解反応条件を必要以上に厳しくすると水素化分解油中の未分解重質留分の含有量は低下するが、沸点340℃以下の軽質分が増加して好適な基油留分(340〜520℃留分)の収率が低下する。一方、水素化分解反応条件を必要以上に温和にすると、未分解重質留分が増加して基油留分収率が低下する。沸点が25℃以上の全分解生成物の質量M1に対する沸点が25〜520℃の分解生成物の質量M2の比M2/M1を「分解率」とする場合、通常、この分解率M2/M1が5〜70%、好ましくは10〜60%、更に好ましくは20〜50%となるように反応条件を選択することが好ましい。
【0122】
次に、脱蝋工程について説明する。脱蝋工程では、水素(分子状水素)の存在下、第1蒸留工程で分留された基油留分を水素化触媒に接触させる。これにより、基油留分が水素化異性化により脱蝋され、脱蝋油が得られる。
【0123】
脱蝋工程の反応塔としては、公知の固定床反応塔を用いることができる。より具体的には、例えば、水素化異性化触媒を固定床の流通式反応器に充填し、この反応器に水素(分子状水素)及び基油留分を流通させることにより水素化異性化を実施することができる。
【0124】
水素化異性化触媒としては、水素化異性化に一般的に使用される触媒、すなわち無機担体に水素化活性を有する金属が担持された触媒を用いることができる。
【0125】
水素化異性化触媒を構成する水素化活性を有する金属としては、元素の周期表第6族、第8族、第9族及び第10族の金属からなる群より選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の具体的な例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属、あるいはコバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄などが挙げられ、好ましくは、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンであり、更に好ましくは白金、パラジウムである。また、これらの金属は複数種を組み合わせて用いることも好ましく、その場合の好ましい組み合わせとしては、白金−パラジウム、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン等が挙げられる。
【0126】
水素化異性化触媒を構成する無機担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア等の金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物は1種であってもよいし、2種以上の混合物あるいはシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の複合金属酸化物であってもよい。上記無機担体は、ノルマルパラフィンの水素化異性化を効率的に進行させる観点から、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の固体酸性を有する複合金属酸化物であることが好ましい。また、無機担体には少量のゼオライトを含んでもよい。さらに無機担体は、担体の成型性及び機械的強度の向上を目的として、バインダーが配合されていてもよい。好ましいバインダーとしては、アルミナ、シリカ、マグネシア等が挙げられる。
【0127】
水素化異性化触媒における水素化活性を有する金属の含有量としては、当該金属が上記の貴金属である場合には、金属原子として担体の質量基準で0.1〜3質量%程度であることが好ましい。また、当該金属が上記の貴金属以外の金属である場合には、金属酸化物として担体の質量基準で2〜50質量%程度であることが好ましい。水素化活性を有する金属の含有量が前記下限値未満の場合には、水素化精製及び水素化異性化が充分に進行しない傾向にある。一方、水素化活性を有する金属の含有量が前記上限値を超える場合には、水素化活性を有する金属の分散が低下して触媒の活性が低下する傾向となり、また触媒コストが上昇する。
【0128】
また、水素化異性化触媒は、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウム及びゼオライトから選ばれる物質より構成される多孔性の無機酸化物からなる担体に周期表第8族の元素から選ばれる金属を1種以上担持してなる触媒であってもよい。
【0129】
このような水素化異性化触媒の担体として用いられる多孔性の無機酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、あるいはゼオライトが挙げられ、このうちチタニア、ジルコニア、ボリア、シリカおよびゼオライトのうち少なくとも1種類とアルミナによって構成されているものが好ましい。その製造法は特に限定されないが、各元素に対応した各種ゾル、塩化合物などの状態の原料を用いて任意の調製法を採用することができる。さらには一旦シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナチタニア、シリカチタニア、アルミナボリアなどの複合水酸化物あるいは複合酸化物を調製した後に、アルミナゲルやその他水酸化物の状態あるいは適当な溶液の状態で調製工程の任意の工程で添加して調製してもよい。アルミナと他の酸化物との比率は担体に対して任意の割合を取り得るが、好ましくはアルミナが90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0130】
ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイト、TON、MTT、MREなどが挙げられ、所定の水熱処理および/または酸処理によって超安定化したもの、あるいはゼオライト中のアルミナ含有量を調整したものを用いることができる。好ましくはフォージャサイト、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。Y型は超安定化したものが好ましく、水熱処理により超安定化したゼオライトは本来の20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成される。水熱処理条件は公知の条件を用いることができる。
【0131】
このような水素化異性化触媒の活性金属としては、周期表第8族の元素から選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の中でも、Pd、Pt、Rh、Ir、Au、Niから選ばれる1種以上の金属を用いることが好ましく、組み合わせて用いることがより好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、Pd−Pt、Pd−Ir、Pd−Rh、Pd−Au、Pd−Ni、Pt−Rh、Pt−Ir、Pt−Au、Pt−Ni、Rh−Ir、Rh−Au、Rh−Ni、Ir−Au、Ir−Ni、Au−Ni、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ir、Pt−Pd−Niなどが挙げられる。このうち、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Rh、Pt−Ir、Rh−Ir、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがより好ましく、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Ir、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがさらにより好ましい。
【0132】
触媒質量を基準とする活性金属の合計含有量としては、金属として0.1〜2質量%が好ましく、0.2〜1.5質量%がより好ましく、0.5〜1.3質量%がさらにより好ましい。金属の合計担持量が0.1質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、2質量%を超えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0133】
上記水素化異性化触媒のいずれの触媒においても、活性金属を担体に担持させる方法は特に限定されず、通常の水素化異性化触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常は、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法であるが、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0134】
また、水素化異性化触媒としては、下記の触媒を用いることもできる。
【0135】
<水素化異性化触媒の具体的な一態様>
本態様の水素化異性化触媒は、特定の方法によって製造されることでその特徴が付与される。以下、本態様の水素化異性化触媒について、その好ましい製造の態様に沿って説明する。
【0136】
本態様の水素化異性化触媒の製造方法は、有機テンプレートを含有し10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換して得られるイオン交換ゼオライトと、バインダーと、が含まれる混合物を、N
2雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体を得る第1工程と、担体前駆体に白金塩及び/又はパラジウム塩を含ませた触媒前駆体を、分子状酸素を含む雰囲気下、350〜400℃の温度で焼成して、ゼオライトを含む担体に白金及び/又はパラジウムが担持された水素化異性化触媒を得る第2工程とを備える。
【0137】
本態様で用いられる有機テンプレート含有ゼオライトは、ノルマルパラフィンの水素化異性化反応における高い異性化活性と抑制された分解活性とを高水準で両立する観点から、10員環からなる一次元状細孔構造を有する。このようなゼオライトとしては、AEL、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、NES、TON、MTT、WEI、
*MRE及びSSZ−32などが挙げられる。なお、上記の各アルファベット三文字は、分類分けされたモレキュラーシーブ型ゼオライトの各構造に対して、国際ゼオライト協会構造委員会(The Structure Commission of The International Zeolite Association)が与えている骨格構造コードを意味する。また、同一のトポロジーを有するゼオライトは包括的に同一のコードで呼称される。
【0138】
上記有機テンプレート含有ゼオライトとしては、上記の10員環一次元状細孔構造を有するゼオライトの中でも、高異性化活性及び低分解活性の点で、TON、MTT構造を有するゼオライト、
*MRE構造を有するゼオライトであるZSM−48ゼオライト、及びSSZ−32ゼオライトが好ましい。TON構造を有するゼオライトとしては、ZSM−22ゼオライトがより好ましく、また、MTT構造を有するゼオライトとしては、ZSM−23ゼオライトがより好ましい。
【0139】
有機テンプレート含有ゼオライトは、シリカ源、アルミナ源及び上記所定の細孔構造を構築するために添加する有機テンプレートから、公知の方法によって水熱合成される。
【0140】
有機テンプレートは、アミノ基、アンモニウム基等を有する有機化合物であり、合成するゼオライトの構造に応じて選択されるものであるが、アミン誘導体であることが好ましい。具体的には、アルキルアミン、アルキルジアミン、アルキルトリアミン、アルキルテトラミン、ピロリジン、ピペラジン、アミノピペラジン、アルキルペンタミン、アルキルヘキサミン及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0141】
10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを構成する珪素とアルミニウム元素とのモル比([Si]/[Al])(以下、「Si/Al比」という。)は、10〜400であることが好ましく、20〜350であることがより好ましい。Si/Al比が10未満の場合には、ノルマルパラフィンの転換に対する活性は高くなるが、イソパラフィンへの異性化選択性が低下し、また反応温度の上昇に伴う分解反応の増加が急激となる傾向にあることから好ましくない。一方、Si/Al比が400を超える場合には、ノルマルパラフィンの転換に必要な触媒活性が得られにくくなり好ましくない。
【0142】
合成され、好ましくは洗浄、乾燥された上記有機テンプレート含有ゼオライトは、対カチオンとして通常アルカリ金属カチオンを有し、また有機テンプレートが細孔構造内に包含される。本発明に係る水素化異性化触媒を製造する際に用いる有機テンプレートを含むゼオライトとは、このような、合成された状態のもの、すなわち、ゼオライト内に包含される有機テンプレートを除去するための焼成処理がなされていないものであることが好ましい。
【0143】
上記有機テンプレート含有ゼオライトは、次に、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換される。イオン交換処理により、有機テンプレート含有ゼオライト中に含まれる対カチオンは、アンモニウムイオン及び/又はプロトンに交換される。またそれと同時に、有機テンプレート含有ゼオライト中に包含される有機テンプレートの一部が除去される。
【0144】
上記イオン交換処理に使用する溶液は、水を少なくとも50容量%含有する溶媒を用いた溶液であることが好ましく、水溶液であることがより好ましい。また、アンモニウムイオンを溶液中に供給する化合物としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機及び有機の各種のアンモニウム塩が挙げられる。一方、プロトンを溶液中に供給する化合物としては、通常、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸が利用される。有機テンプレート含有ゼオライトをアンモニウムイオンの存在下でイオン交換することにより得られるイオン交換ゼオライト(ここでは、アンモニウム型ゼオライト)は、後の焼成の際にアンモニアを放出し、対カチオンがプロトンとなってブレンステッド酸点となる。イオン交換に用いるカチオン種としてはアンモニウムイオンが好ましい。溶液中に含まれるアンモニウムイオン及び/又はプロトンの含有量は、使用する有機テンプレート含有ゼオライトに含まれる対カチオン及び有機テンプレートの合計量に対して10〜1000当量となるように設定されることが好ましい。
【0145】
上記イオン交換処理は、粉末状の有機テンプレート含有ゼオライト単体に対して行ってもよく、またイオン交換処理に先立って、有機テンプレート含有ゼオライトにバインダーである無機酸化物を配合し、成型を行い、得られる成型体に対して行ってもよい。但し、上記の成型体を焼成することなくイオン交換処理に供すると、当該成型体が崩壊、粉化する問題が生じやすくなることから、粉末状の有機テンプレート含有ゼオライトをイオン交換処理に供することが好ましい。
【0146】
イオン交換処理は、定法、すなわち、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液、好ましくは水溶液に有機テンプレートを含むゼオライトを浸漬し、これを攪拌又は流動する方法によって行うことが好ましい。また、上記の撹拌又は流動は、イオン交換の効率を高めるために加熱下に行うことが好ましい。本態様においては、上記水溶液を加熱し、沸騰、還流下でイオン交換する方法が特に好ましい。
【0147】
更に、イオン交換の効率を高める点から、溶液によってゼオライトをイオン交換する間に、溶液を一回又は二回以上新しいものに交換することが好ましく、溶液を一回又は二回新しいものに交換することがより好ましい。溶液を一回交換する場合、例えば、有機テンプレート含有ゼオライトをアンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液に浸漬し、これを1〜6時間加熱還流し、次いで、溶液を新しいもの交換した後、更に6〜12時間加熱還流することにより、イオン交換効率を高めることが可能となる。
【0148】
イオン交換処理により、ゼオライト中のアルカリ金属等の対カチオンのほぼ全てをアンモニウムイオン及び/又はプロトンに交換することが可能である。一方、ゼオライト内に包含される有機テンプレートについては、上記のイオン交換処理によりその一部が除去されるが、同処理を繰り返し行っても、その全てを除去することは一般に困難であり、その一部がゼオライト内部に残留する。
【0149】
本態様では、イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物を窒素雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体を得る。
【0150】
イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物は、上記の方法にて得られたイオン交換ゼオライトに、バインダーである無機酸化物を配合し、得られる組成物を成型したものが好ましい。無機酸化物をイオン交換ゼオライトに配合する目的は、成型体の焼成によって得られる担体(特には、粒子状の担体)の機械的強度を、実用に耐えられる程度に向上することにあるが、本発明者は、無機酸化物種の選択が水素化異性化触媒の異性化選択性に影響を与えることを見出している。このような観点から、上記無機酸化物として、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、ジルコニア、マグネシア、セリア、酸化亜鉛及び酸化リン並びにこれらの2種以上の組み合わせからなる複合酸化物から選択される少なくとも一種の無機酸化物が用いられる。中でも、水素化異性化触媒の異性化選択性が更に向上するとの観点から、シリカ、アルミナが好ましく、アルミナがより好ましい。また、上記「これらの2種以上の組み合わせからなる複合酸化物」とは、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、ジルコニア、マグネシア、セリア、酸化亜鉛、及び酸化リンのうちの少なくとも2種の成分からなる複合酸化物であるが、複合酸化物を基準として50質量%以上のアルミナ成分を含有するアルミナを主成分とする複合酸化物が好ましく、中でもアルミナ−シリカがより好ましい。
【0151】
上記組成物におけるイオン交換ゼオライトと無機酸化物との配合比率は、イオン交換ゼオライトの質量:無機酸化物の質量の比として、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜85:15である。この比が10:90よりも小さい場合には、水素化異性化触媒の活性が充分ではなくなる傾向にあるため好ましくない。一方、上記比が90:10を超える場合には、組成物を成型及び焼成して得られる担体の機械的強度が充分ではなくなる傾向にあるため好ましくない。
【0152】
イオン交換ゼオライトに上記の無機酸化物を配合する方法は特に限定されないが、例えば両者の粉末に適量の水等の液体を添加して粘ちょうな流体とし、これをニーダー等により混練する等の通常行われる方法を採用することができる。
【0153】
上記イオン交換ゼオライトと上記無機酸化物とを含む組成物或いはそれを含む粘ちょうな流体は、押出成型等の方法により成型され、好ましくは乾燥されて粒子状の成型体となる。成型体の形状としては特に限定されないが、例えば、円筒状、ペレット状、球状、三つ葉・四つ葉形の断面を有する異形筒状等が挙げられる。成型体の大きさは特に限定されないが、取り扱いの容易さ、反応器への充填密度等の観点から、例えば長軸が1〜30mm、短軸が1〜20mm程度であることが好ましい。
【0154】
本態様においては、上記のようにして得られた成型された成型体を、N
2雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体とすることが好ましい。加熱時間については、0.5〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
【0155】
本態様において、上記加熱温度が250℃より低い場合は、有機テンプレートが多量に残留し、残留したテンプレートによってゼオライト細孔が閉塞する。異性化活性点は細孔ポアマウス付近に存在すると考えられており、上記の場合、細孔閉塞によって反応基質が細孔内へ拡散できなくなり、活性点が被覆されて異性化反応が進行しにくくなり、ノルマルパラフィンの転化率が充分に得られにくくなる傾向にある。一方、加熱温度が350℃を超える場合には、得られる水素化異性化触媒の異性化選択性が充分に向上しない。
【0156】
成型体を加熱して担体前駆体とするときの下限温度は280℃以上が好ましい。また、上限温度は330℃以下が好ましい。
【0157】
本態様では、上記成型体に含まれる有機テンプレートの一部が残留するように上記混合物を加熱することが好ましい。具体的には、後述の金属担持後の焼成を経て得られる水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.11cc/gであり、当該触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.04〜0.12cc/gとなるように加熱条件を設定することが好ましい。
【0158】
次に、上記担体前駆体に白金塩及び/又はパラジウム塩を含ませた触媒前駆体を、分子状酸素を含む雰囲気下、350〜400℃、好ましくは380〜400℃、より好ましくは400℃の温度で焼成して、ゼオライトを含む担体に白金及び/又はパラジウムが担持された水素化異性化触媒を得る。なお、「分子状酸素を含む雰囲気下」とは、酸素ガスを含む気体、中でも好ましくは空気と接触することを意味する。焼成の時間は、0.5〜10時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。
【0159】
白金塩としては、例えば、塩化白金酸、テトラアンミンジニトロ白金、ジニトロアミノ白金、テトラアンミンジクロロ白金などが挙げられる。塩化物塩は反応時に塩酸が発生して装置腐食の恐れがあるため、塩化物塩以外で白金が高分散する白金塩であるテトラアンミンジニトロ白金が好ましい。
【0160】
パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、ジアミノパラジウム硝酸塩などが挙げられる。塩化物塩は反応時に塩酸が発生して装置腐食の恐れがあるため、塩化物塩以外でパラジウムが高分散するパラジウム塩であるテトラアンミンパラジウム硝酸塩が好ましい。
【0161】
本態様に係るゼオライトを含む担体における活性金属の担持量は、担体の質量を基準として、0.001〜20質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。担持量が0.001質量%未満の場合には、所定の水素化/脱水素機能を付与することが困難となる。一方、担持量が20質量%を超える場合には、当該活性金属上での炭化水素の分解による軽質化が進行しやすくなり、目的とする留分の収率が低下する傾向にあり、さらには触媒コストの上昇を招く傾向にあるため好ましくない。
【0162】
また、本態様に係る水素化異性化触媒が含イオウ化合物及び/又は含窒素化合物を多く含む炭化水素油の水素化異性化に用いられる場合、触媒活性の持続性の観点から、活性金属として、ニッケル−コバルト、ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン−コバルト、ニッケル−タングステン−コバルト等の組み合わせを含むことが好ましい。これらの金属の担持量は、担体の質量を基準として、0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜30質量%がより好ましい。
【0163】
本態様では、上記担体前駆体に残留させた有機テンプレートが残留するように上記触媒前駆体を焼成することが好ましい。具体的には、得られる水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.11cc/gであり、当該触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.04〜0.12cc/gとなるように加熱条件を設定することが好ましい。
【0164】
水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積は、窒素吸着測定と呼ばれる方法にて算出される。すなわち、触媒について、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の物理吸着脱離等温線を解析、具体的には、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の吸着等温線をt−plot法により解析することにより、触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が算出される。また、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積についても、上記の窒素吸着測定により算出される。
【0165】
なお、本明細書においてミクロ細孔とは、国際純正・応用化学連合IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)で定義されている「直径が2nm以下の細孔」を指す。
【0166】
触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積V
Zは、例えば、バインダーがミクロ細孔容積を有していない場合、水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積の値V
cと、触媒におけるゼオライトの含有割合M
z(質量%)から下記式に従って算出することができる。
V
Z=V
c/M
z×100
【0167】
本態様の水素化異性化触媒は、上記の焼成処理に続いて、水素化異性化の反応を行う反応器に充填後に還元処理されたものであることが好ましい。具体的には、分子状水素を含む雰囲気下、好ましくは水素ガス流通下、好ましくは250〜500℃、より好ましくは300〜400℃にて、0.5〜5時間程度の還元処理が施されたものであることが好ましい。このような工程により、炭化水素油の脱蝋に対する高い活性をより確実に触媒に付与することができる。
【0168】
本態様の水素化異性化触媒は、10員環一次元状細孔構造を有するゼオライト、及びバインダーを含む担体と、該担体に担持された白金及び/又はパラジウムと、を含有し、触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.11cc/gである水素化異性化触媒であって、上記ゼオライトは、有機テンプレートを含有し10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換して得られるイオン交換ゼオライトに由来するものであり、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.04〜0.12cc/gであるものであってもよい。
【0169】
上記の水素化異性化触媒は、上述した方法により製造することができる。触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積及び触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積は、イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物におけるイオン交換ゼオライトの配合量、当該混合物のN
2雰囲気下での加熱条件、触媒前駆体の分子状酸素を含む雰囲気下での加熱条件を適宜調整することより上記範囲内にすることができる。
【0170】
脱蝋工程における反応温度は、200〜450℃が好ましく、220〜400℃がより好ましい。反応温度が200℃を下回る場合、基油留分に含まれるノルマルパラフィンの異性化が進行しにくくなり、ワックス成分の低減、除去が不十分になる傾向にある。一方、反応温度が450℃を超える場合、基油留分の分解が顕著となり、潤滑油基油の収率が低下する傾向にある。
【0171】
脱蝋工程における反応圧力は、0.1〜20MPaが好ましく、0.5〜15MPaが寄り好ましい。反応圧力が0.1MPaを下回る場合、コーク生成による触媒の劣化が早まる傾向にある。一方、反応圧力が20MPaを超える場合、装置建設コストが高くなるため経済的なプロセスを実現しにくくなる傾向にある。
【0172】
脱蝋工程において、基油留分の触媒に対する液空間速度は、0.01〜100hr
−1が好ましく、0.1〜50hr
−1がより好ましい。液空間速度が0.01hr
−1未満の場合、基油留分の分解が過度に進行しやすくなり、生産効率が低下する傾向にある。一方、液空間速度が100hr
−1を超える場合、基油留分中に含まれるノルマルパラフィンの異性化が進行しにくくなり、ワックス成分の低減、除去が不十分になる傾向にある。
【0173】
水素と基油留分との供給比率は、100〜1000Nm
3/m
3が好ましく、200〜800Nm
3/m
3がより好ましい。供給比率が100Nm
3/m
3未満の場合、例えば基油留分が硫黄分又は窒素分を含む場合、異性化反応と併発する脱硫、脱窒素反応により発生する硫化水素、アンモニアガスが触媒上の活性金属を吸着被毒するため、所定の触媒性能が得られにくくなる傾向にある。一方、供給比率が1000Nm
3/m
3を超える場合、大きな能力の水素供給設備を必要とするため経済的なプロセスを実現しにくくなる傾向にある。
【0174】
脱蝋工程で得られた脱蝋油は、水素化仕上げ工程に供され、水素化仕上げ処理(水素化精製処理)が施される。
【0175】
水素化仕上げ工程に用いる反応器は特に制限されず、所定の水素化精製触媒を固定床の流通式反応器に充填し、この反応器に分子状水素及び上記脱蝋油を流通させることにより水素化仕上げ処理(水素化精製処理)を好適に実施することができる。本発明でいう水素化仕上げ処理(水素化精製処理)とは、潤滑油の酸化安定性、色相を改善することを意味し、脱蝋油のオレフィン水素化、芳香族水素化が行われる。
【0176】
水素化精製触媒としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、マグネシア及びリンから選ばれる1種類以上の無機固体酸性物質を含んで構成される担体と、その担体上に担持された、白金、パラジウム、ニッケル−モリブデン、ニッケル−タングステン及びニッケル−コバルト−モリブデンからなる群より選ばれる1種以上の活性金属とを備えた触媒が挙げられる。
【0177】
好適な担体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、又はチタニアを少なくとも2種類以上含む無機固体酸性物質である。
【0178】
担体に上記活性金属を担持する方法としては、含浸やイオン交換等の常法を採用できる。
【0179】
水素化精製触媒における活性金属の担持量は、金属の合計量が担体に対して0.1〜25質量%であることが好ましい。
【0180】
水素化精製触媒の平均細孔径は6〜60nmであると好ましく、7〜30nmであるとより好ましい。平均細孔径が6nmより小さいと十分な触媒活性が得られない傾向にあり、平均細孔径が60nmを越えると、活性金属の分散度が下がることにより触媒活性が低下する傾向にある。また水素化精製触媒の細孔容積は0.2mL/g以上であると好ましい。細孔容積が0.2mL/gより小さいと、触媒の活性劣化が早くなる傾向にある。さらに、水素化精製触媒の比表面積は200m
2/g以上であると好ましい。触媒の比表面積が200m
2/gを下回ると、活性金属の分散性が不十分となり活性が低下する傾向にある。これら触媒の細孔容積及び比表面積は、窒素吸着によるBET法と呼ばれる方法により測定、算出可能である。
【0181】
水素化仕上げ工程における反応条件は、反応温度200〜300℃、水素分圧3〜20MPa、LHSV0.5〜5h−1、水素/油比1000〜5000scfbであると好ましく、反応温度200℃〜300℃、水素分圧4〜18MPa、LHSV0.5〜4h−1、水素/油比2000〜5000scfbであるとより好ましい。
【0182】
本実施形態においては、水素化精製油における硫黄分及び窒素分がそれぞれ、5質量ppm以下及び1質量ppm以下となるように反応条件を調整することが好ましい。
【0183】
水素化仕上げ工程により得られる精製油は、第2分留工程に供される。そして、複数のカットポイントを設定し水素化精製油を減圧蒸留することにより、所望の潤滑油留分が得られる。
【0184】
なお、水素化精製油には、水素化異性化や水素化仕上げ処理(水素化精製処理)により副生したナフサや灯軽油などの軽質留分が含まれ得るが、これらの軽質粒分は、例えば、沸点350℃以下の留分として回収することができる。
【0185】
本発明の潤滑油基油の製造方法は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することが可能である。例えば、本発明の潤滑油基油の製造方法は、上記脱蝋油の製造方法により得られた脱蝋油を分留して潤滑油留分を得る蒸留工程と、該蒸留工程で得られた潤滑油留分を水素化仕上げ処理(水素化精製処理)する水素化仕上げ工程と、を備えるものであってもよい。
【0186】
上記第1実施形態〜第3実施形態に係る潤滑油基油、並びに第4実施形態に係る製造方法によって得られる潤滑油基油は、低温粘度特性及びシール性に優れるものであり、様々な用途の潤滑油基油として好ましく用いることができる。潤滑油基油の用途としては、具体的には、乗用車用ガソリンエンジン、二輪車用ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスヒートポンプ用エンジン、船舶用エンジン、発電エンジンなどの内燃機関に用いられる潤滑油(内燃機関用潤滑油)、自動変速機、手動変速機、無断変速機、終減速機などの駆動伝達装置に用いられる潤滑油(駆動伝達装置用油)、緩衝器、建設機械等の油圧装置に用いられる油圧作動油、圧縮機油、タービン油、工業用ギヤ油、冷凍機油、さび止め油、熱媒体油、ガスホルダーシール油、軸受油、抄紙機用油、工作機械油、すべり案内面油、電気絶縁油、切削油、プレス油、圧延油、熱処理油などが挙げられ、これらの用途に本実施形態に係る潤滑油基油を用いることによって、低温粘度特性とシール性とを高水準で両立することができるようになる。
【0187】
上記の用途においてにおいては、各実施形態に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、各実施形態に係る潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、各実施形態に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明の潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0188】
各実施形態に係る潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が1〜100mm
2/sの溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0189】
また、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0190】
ポリα−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0191】
また、必要に応じて、各実施形態に係る潤滑油基油又は当該潤滑油基油と他の潤滑油基油との混合基油に、各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、特に制限されず、潤滑油の分野で従来使用される任意の添加剤を配合することができる。かかる潤滑油添加剤としては、具体的には、酸化防止剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、極圧剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、油性剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、シール膨潤剤、消泡剤、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0192】
例えば、各実施形態に係る潤滑油基油は、流動点降下剤の添加効果を有効に発揮することができるものである。そのため、各実施形態に係る潤滑油基油又は当該潤滑油基油と他の潤滑油基油との混合基油に流動点降下剤を含有すると、優れた低温粘度特性(−40℃におけるMRV粘度が好ましくは20,000mPa・s以下、より好ましくは15,000mPa・s以下、更に好ましくは10,000mPa・s以下)を達成することができる。なお、本発明でいう−40℃におけるMRV粘度は、JPI−5S−42−93に準拠して測定された−40℃におけるMRV粘度を意味する。
【0193】
さらに、第1実施形態に係る潤滑油基油又は第2実施形態に係る潤滑油基油に流動点降下剤を配合した場合、その−40℃におけるMRV粘度は、12,000mPa・s以下とすることができ、より好ましくは10,000mPa・s以下、更に好ましくは8,000mPa・s、特に好ましくは6500mPa・s以下の極めて優れた低温粘度特性を有する潤滑油組成物を得ることができる。この場合、流動点降下剤の配合量は、組成物全量基準で0.05〜2質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%であるが、特にMRV粘度を低下させることができる点で0.15〜0.8質量%の範囲が最も良く、流動点降下剤としては、その重量平均分子量は好ましくは1〜30万、より好ましくは5〜20万のものが特に好ましく、さらに流動点降下剤としては、ポリメタアクリレート系のものが特に好ましい。
【実施例】
【0194】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0195】
[実施例1−1〜1−3、比較例1−1、1−2]
実施例1−1〜1−3及び比較例1−1、1−2においては、それぞれ表1に示す潤滑油基油を調製した。ここで、実施例1−1〜1−3の潤滑油基油は、上記第4の実施形態に係る潤滑油基油の製造方法に準じて得られたものである。一方、比較例1−1、1−2の潤滑油基油は、従来の潤滑油基油の製造方法によって得られたものである。各基油の各種性状、並びに荷重50N(平均ヘルツ圧0.60GPa),試料油温度50℃,周速1m/s,すべり率3%,27.4mmの鋼球とスチールディスクを用いた条件下で測定したトラクション係数を表1に示す。
【0196】
【表1】
【0197】
[実施例1−4〜1−9、比較例1−3〜1−5]
実施例1−4、1−6、1−8及び比較例1−3、1−5においては、それぞれ実施例1−1〜1−3又は比較例1−1、1−2の潤滑油基油をそのまま試料油とした。また、実施例1−5、1−7、1−9及び比較例1−4、1−6においては、それぞれ実施例1−1〜1−3又は比較例1−1、1−2の各潤滑油基油に、パッケージ添加剤(内訳:無灰分散剤40質量%、金属系清浄剤40質量%、摩耗防止剤10質量%、酸化防止剤8質量%および金属不活性化剤2質量%)10質量%及び粘度指数向上剤(ポリメタクリレート系、Mw350,000、有効濃度50%)5質量%を添加して潤滑油組成物を調製し、試料油とした。また、比較例1−7として、市販の0W−20油を用意した。各潤滑油組成物の動粘度及び粘度指数を表2に示す。
【0198】
[オイル漏洩試験]
実施例1−4〜1−9及び比較例1−3〜1−6の試料油について、以下の手順により、オイル漏洩試験を実施した。
200mlオートクレーブに試料油を100ml入れ、NBRのパッキンを用い、トルクレンチにより250N・mの締め付けトルクで組み上げる。上部には二方コックを用い、シール材にはテフロン(登録商標)パッキンを使用し、トルクレンチにより250N・mの締め付けトルクで組み上げる。組み上げ後、窒素ガスで200kPaに加圧しする。各資料油について同様の作業を実施し−30±1℃に制御された低温恒温槽に逆さまにセットする。結果は48時間後のNBRパッキンからの油の漏洩で評価し、漏洩のあったものは有、認められなかったものは無とした。
得られた結果を表2、3に示す。
【0199】
[JC08ホットモード燃費評価試験]
実施例1−5、1−7、1−9及び比較例1−4、1−6の潤滑油組成物について、以下の手順により、JC08ホットモード燃費評価試験を実施した。
JC08モードは国土交通省が定めた自動車の燃費消費を測定する方法である(詳細は国土交通省 道路運送車両の保安基準の細目を定める告示[2009.07.30]別添42 軽・中量車排出ガスの測定方法参照)。JC08はエンジンが冷えた状態でスタートするコールドモードとエンジンが暖まった状態で測定するホットモードに分けられる。試験には2.5L、FFのガソリンエンジン車(トヨタエスティマ)を選定し、試験開始前にエンジン洗浄および新たに調合された試料油を充填し、シャシダイナモメータ上で試験自動車を60±2km/hの定速で15分間以上暖機運転させた後、速やかにアイドリング状態に戻して所定の走行パターンで運転し排気ガスより消費燃料を計算して燃費を算出した。得られた結果を表2、3に示す。
【0200】
【表2】
【0201】
【表3】
【0202】
[実施例2−1、2−2、比較例2−1〜2−3]
実施例2−1、2−2及び比較例2−1〜2−3においては、それぞれ表4に示す潤滑油基油を調製した。ここで、実施例2−1、2−2の潤滑油基油は、上記第4実施形態に係る潤滑油基油の製造方法に準じて得られたものである。一方、比較例2−1〜2−3の潤滑油基油は、従来の潤滑油基油の製造方法によって得られたものである。各基油の各種性状、並びに荷重50N(平均ヘルツ圧0.60GPa),試料油温度50℃,周速1m/s,すべり率3%,27.4mmの鋼球とスチールディスクを用いた条件下で測定したトラクション係数を表4に示す。
【0203】
【表4】
【0204】
[実施例2−3〜2−6、比較例2−4〜2−9]
実施例2−3、2−5及び比較例2−4、2−6、2−8においては、それぞれ実施例2−1、2−2又は比較例2−1〜2−3の潤滑油基油をそのまま試料油とした。また、実施例2−4、2−6及び比較例2−5、2−7、2−9においては、それぞれ実施例2−1、2−2又は比較例2−1〜2−3の各潤滑油基油に、パッケージ添加剤(内訳:摩耗防止剤60質量%、酸化防止剤25質量%、錆止め剤10質量%および金属不活性化剤5質量%)0.8質量%を添加して潤滑油組成物を調製し、試料油とした。
【0205】
[オイル漏洩試験]
実施例2−3〜2−6及び比較例2−4〜2−9の試料油について、以下の手順により、オイル漏洩試験を実施した。
200mlオートクレーブに試料油を100ml入れ、NBRのパッキンを用い、トルクレンチにより250N・mの締め付けトルクで組み上げる。上部には二方コックを用い、シール材にはテフロン(登録商標)パッキンを使用し、トルクレンチにより250N・mの締め付けトルクで組み上げる。組み上げ後、窒素ガスで300kPaに加圧しする。各資料油について同様の作業を実施し−30±1℃に制御された低温恒温槽に逆さまにセットする。結果は48時間後のNBRパッキンからの油の漏洩で評価し、漏洩のあったものは有、認められなかったものは無とした。
得られた結果を表5、6に示す。
【0206】
[貯蔵安定性試験]
実施例2−3〜2−6及び比較例2−4〜2−9の試料油について、以下の手順により、貯蔵安定性試験を実施した。
100mlのスクリュー管に2/3以上油をいれ、各々の試験管を0±1℃の冷蔵庫にいれ、48時間後の外観を確認する。外観に変化のない場合は変化無、曇りの生じたものは曇りと評価する。
【0207】
[省エネルギー性評価試験]
実施例2−4、2−6及び比較例2−5、2−7、2−9の潤滑油組成物について、以下の手順により、省エネルギー性評価試験を実施した。
省エネルギー性は小型油圧ユニットを用いて評価した。小型油圧ユニットはポンプに可変容量型ピストンポンプを使用し、油量15L、油温80±2℃と低温始動時を考慮した0℃とし、市販の作動油(0W−20、40℃における動粘度:32.8mm
2/s、粘度指数:125)を用いて吐出圧力を0.8から2.4MPaまで変化させたときのモーターの入力電力を測定した。ついで、実施例3、4及び比較例4〜6の各潤滑油組成物を試料油としてモーターの入力電力を測定し、比較例7の試料油との消費電力の差異から省エネルギー性を評価した。
得られた結果を表5、6に示す。
【0208】
【表5】
【0209】
【表6】
【0210】
[実施例3−1〜3−3、比較例3−1〜3−3]
実施例3−1〜3−3及び比較例3−1〜3−3においては、それぞれ表7に示す潤滑油基油を調製した。ここで、実施例3−1〜3−3の潤滑油基油は、上記第4実施形態に係る潤滑油基油の製造方法に準じて得られたものである。一方、比較例3−1〜3−3の潤滑油基油は、従来の潤滑油基油の製造方法によって得られたものである。各基油の各種性状、並びに荷重50N(平均ヘルツ圧0.60GPa),試料油温度50℃,周速1m/s,すべり率3%,27.4mmの鋼球とスチールディスクを用いた条件下で測定したトラクション係数を表7に示す。
【0211】
【表7】
【0212】
[実施例3−4〜3−6、比較例3−4〜3−6]
実施例3−4〜3−6及び比較例3−4〜3−6においては、それぞれ実施例3−1〜3−3又は比較例3−1〜3−3の潤滑油基油に、パッケージ添加剤(内訳:摩耗防止剤:12質量%、無灰分散剤:50質量%、流動点降下剤:1質量%、酸化防止剤:12質量%、金属系清浄剤:25質量%)8質量%及び粘度指数向上剤(ポリメタクリレート系、Mw350,000、有効濃度50質量%)5質量%を添加し、潤滑油組成物を調製した。
【0213】
[オイル漏洩試験]
実施例3−4〜3−9及び比較例3−4〜3−9の試料油について、以下の手順により、オイル漏洩試験を実施した。
すなわち、低温漏洩性試験として、実際のミッションを用い、ミッションに試料油を封入し低温保管して油の漏れ(にじみ)を評価した。得られた結果を表8、9に示す。
【0214】
[貯蔵安定性試験]
実施例3−4〜3−9及び比較例3−4〜3−9の試料油について、以下の手順により、貯蔵安定性試験を実施した。
100mlのスクリュー管に2/3以上油をいれ、各々の試験管を0±1℃の冷蔵庫にいれ、48時間後の外観を確認する。外観に変化のない場合は変化無、曇りの生じたものは曇りと評価する。
【0215】
[低温転がり軸受け試験]
実施例3−4、3−6、3−8及び比較例3−4、3−6、3−8の潤滑油について、高圧摩擦試験機を用いて低温転がり軸受け試験を実施した。すなわち、常圧条件下、冷却ジャケットにより測定部位を0℃に冷却し、4時間温度を保持する。試験片としては円筒転がり軸受を用い、摩擦係数を評価した。得られた結果を表8、9に示す。表7中の摩擦係数が小さいことは、特に転がり初期の摩擦係数の低減に優れることを意味し、実機での低温始動性と相関がある。
【0216】
【表8】
【0217】
【表9】