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特許5957521CXCR4アンタゴニストとしてのβ−ヘアピンペプチド模倣体
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  • 特許5957521-CXCR4アンタゴニストとしてのβ−ヘアピンペプチド模倣体 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957521
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】CXCR4アンタゴニストとしてのβ−ヘアピンペプチド模倣体
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/64 20060101AFI20160714BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160714BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160714BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160714BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160714BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20160714BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20160714BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   C07K7/64ZNA
   A61K37/02
   A61P43/00 111
   A61P35/00
   A61P29/00
   A61P43/00 107
   A61P31/18
   A61P37/02
   A61P37/06
【請求項の数】13
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-514059(P2014-514059)
(86)(22)【出願日】2012年6月6日
(65)【公表番号】特表2014-516999(P2014-516999A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】EP2012060763
(87)【国際公開番号】WO2012168336
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2015年3月12日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2011/059402
(32)【優先日】2011年6月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512029010
【氏名又は名称】ポリフォー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】POLYPHOR AG
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・オブレヒト
(72)【発明者】
【氏名】フランク・オットー・ゴンベルト
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・ツィンマーマン
【審査官】 星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/060479(WO,A1)
【文献】 特表2007−523847(JP,A)
【文献】 特表2010−529957(JP,A)
【文献】 特表2010−519331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、式:
シクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-) (I)
[式中、
Xaa3は、Ala、TyrまたはTyr(Me)である;
Tyr(Me)は、(2S)-2-アミノ-(4-メトキシフェニル)-3-プロピオン酸である;
Xaa7は、DTyr、DTyr(Me)またはDProである;
DTyr(Me)は、(2R)-2-アミノ-(4-メトキシフェニル)-3-プロピオン酸である;
Xaa8は、DabまたはOrn(iPr)である;
Dabは、(2S)-2,4-ジアミノ酪酸である;
Orn(iPr)は、(2S)-Nω-イソプロピル-2,5-ジアミノペンタン酸である;
Xaa13は、 GlnまたはGluである;
Xaa14は、Lys(iPr)である;
Lys(iPr)は、(2S)-Nω-イソプロピル-2,6-ジアミノヘキサン酸である;
明示的にD-アミノ酸残基として示されていないすべてのアミノ酸残基は、L-アミノ酸残基であり、2つのL-システイン残基Cys4およびCys11中の2つの-SH基は、1つの-S-S-基に置き換えられる]
で示される、16個のアミノ酸残基から構成される主鎖環化ペプチド化合物。
【請求項2】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa13がGlnである、式(I)で示される請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa3がTyrまたはTyr(Me)であり、Xaa7DProであり、Xaa8がOrn(iPr)であり、Xaa13がGlnである、式(I)で示される請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa3がAlaであり、Xaa7DTyrであり、Xaa8がDabであり、Xaa13がGlnである式(I)で示される請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa3がTyrであり、Xaa7DProであり、Xaa8がOrn(iPr)であり、Xaa13がGlnである式(I)で示される請求項1〜3のいずれか1つに記載の化合物。
【請求項6】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa3がTyr(Me)であり、Xaa7DProであり、Xaa8がOrn(iPr)であり、Xaa13がGlnである式(I)で示される請求項1〜3のいずれか1つに記載の化合物。
【請求項7】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa3がAlaであり、Xaa7DTyr(Me)であり、Xaa8がOrn(iPr)であり、Xaa13がGlnである式(I)で示される請求項1または2に記載の化合物。
【請求項8】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa3がTyrであり、Xaa7DTyrであり、Xaa8がOrn(iPr)であり、Xaa13がGlnである式(I)で示される請求項1または2に記載の化合物。
【請求項9】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、Xaa3がTyr(Me)であり、Xaa7DTyr(Me)であり、Xaa8がOrn(iPr)であり、Xaa13がGlnである式(I)で示される請求項1または2に記載の化合物。
【請求項10】
医薬活性物質として、特にCXCR4拮抗、抗ガン活性および/または坑炎症活性および/または幹細胞動員活性を有する物質として使用するための、遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、式(I)で示される請求項1〜9のいずれか1つに記載の化合物。
【請求項11】
遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、式(I)で示される請求項1〜10のいずれか1つに記載の化合物および医薬的に不活性な担体を含む医薬組成物であって、特に、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、溶液剤、液剤、ゲル剤、こう薬、クリーム剤、軟膏、シロップ剤、スラリー、懸濁液剤、散剤または座薬などの経口、局所、経皮、注射、口腔または経粘膜投与に適した形態の医薬組成物。
【請求項12】
特に、健康な個体におけるHIV感染の予防のため;感染した患者におけるウイルスの進行を遅延化または停止させるため;CXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは起因するガンもしくは免疫疾患を治療または予防するため;免疫抑制を治療するため;末梢血幹細胞のアフェレーシス採取時に用いるため;あるいは組織修復を調節するための幹細胞の動員を誘発するための、CXCR4拮抗、抗ガン活性および/または坑炎症活性および/または幹細胞動員活性を有する医薬を製造するための、遊離形態または医薬的に許容しうる塩形態の、式(I)で示される請求項1〜10のいずれか1つに記載の化合物の使用。
【請求項13】
式(I)で示される請求項1〜10のいずれか1つに記載の化合物の製造方法であって、以下のステップ:
(a)官能化された固相担体を、N-保護された、式(I)で示される化合物の16位にあるアミノ酸残基であるProとカップリングさせるステップ;
(b)ステップ(a)の生成物からN-保護基を除去するステップ;
(c)ステップ(b)の生成物を、N-保護された、式(I)で示される化合物の15位にあるアミノ酸残基であるDProとカップリングさせるステップ;
(d)ステップ(c)の生成物からN-保護基を除去するステップ;
(e)ステップ(c)および(d)に類似した方法で、式(I)で示される化合物の14〜1位にある所望のアミノ酸残基のそれぞれを、それぞれの場合において、固相担体にカップリングした伸長するペプチド鎖の遊離末端にあるアミノ酸残基の遊離アミノ基に順々に付加するステップであって、
ステップ(c)に類似したカップリングステップにおいて、それぞれの場合において、使用した所望のアミノ酸は、N-保護されており、α-アミノ酸部分のカルボキシ基以外の、該所望のアミノ酸に存在するいずれかの官能基もまた保護されているステップ;
(f)-S-S-基がステップ(j)において形成されない限り、ステップ(e)の生成物中の2つのCys残基中の2つの-SH基を、1つの-S-S-基によって置き換えるステップ;
(g)ヘキサデカペプチドを固相担体から分離するステップ;
(h)ヘキサデカペプチドの1位にあるアミノ酸残基を、ヘキサデカペプチドの16位にあるアミノ酸残基とカップリングさせるステップ;
(i)ステップ(h)の生成物に存在するいずれかの保護された官能基を脱保護するステップ;
(j)-S-S-基がステップ(f)において形成されない限り、ステップ(i)の生成物中の2つのCys残基中の2つの-SH基を、1つの-S-S-基によって置き換えるステップ;
(k)必要に応じて、1つまたは数個のイソプロピル置換基を、ステップ(j)の生成物に付着させるステップ;
(l)ステップ(k)の生成物に存在するいずれかの保護された官能基を脱保護するステップ;および
(m)もしこの方法の所望生成物が、医薬的に許容しうる塩形態の式(I)で示される化合物であるならば、遊離形態の式(I)で示される化合物を、対応する医薬的に許容しうる塩形態の式(I)で示される化合物に変換するか、または
もしこの方法の所望生成物が、遊離形態の式(I)で示される化合物であるならば、医薬的に許容しうる塩形態の式(I)で示される化合物を、対応する遊離形態の式(I)で示される化合物に変換するか、または
もしこの方法の所望生成物が、異なる医薬的に許容しうる塩形態の式(I)で示される化合物であるならば、医薬的に許容しうる塩形態の式(I)で示される化合物を、対応する異なる医薬的に許容しうる塩形態の式(I)で示される化合物に変換するステップ;
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CXCR4拮抗活性を有し、WO2004/096840 Alの全体的開示に包含されるが、具体的には開示されていない、β-ヘアピンペプチド模倣体を提供する。
【0002】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有し、Xaa3が本明細書に記載の通りAla、TyrまたはTyr(Me)であり、Xaa7が本明細書に記載の通りDTyr、DTyr(Me)であるか、またはDProであり、Xaa8が本明細書に記載の通りDabまたはOrn(iPr)であり、Xaa13が本明細書に記載の通りGinまたはGluであり、Xaa14が本明細書に記載の通りLys(iPr)である、シクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-)およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0003】
さらに、本発明は、必要に応じて、これらの化合物を並列ライブラリ形式で作成することができる効率的な合成方法を提供する。これらのβ-ヘアピンペプチド模倣体は、有利な薬理学的特性を有し、さらに、適当な血漿タンパク質結合および適切なクリアランス速度を示す。したがって、それらは、あらゆる種類の製剤、特に、徐放性製剤のための低用量での活性成分として用いることができる。
【背景技術】
【0004】
多くの医学的に重要な生物学的プロセスが、一般的にはケモカインおよびその受容体、詳しくは間質細胞由来因子-1(SDF-1/ CXCL12)およびその受容体であるCXCR4を含むシグナル伝達によって仲介される。
【0005】
CXCR4およびそのリガンドSDF-1は、B細胞、造血幹細胞(HSC)および造血前駆細胞(HPC)の輸送に関与する。たとえば、CXCR4は、CD34+細胞上に発現され、CD34+細胞遊走およびホーミングの過程に関与している(S.M. Watt、S.P. Forde、Vox sanguinis 2008、94、18-32)。CXCR4受容体が、骨髄から末梢血への幹細胞および前駆細胞の放出において重要な役割を演じることも明らかにされている(L.M. Pelus、S. Fukuda、Leukemia 2008、22、466-473)。CXCR4のこの活性は、末梢血幹細胞のアフェレーシス採取にとって非常に重要である。自己末梢血細胞は、悪性血液疾患および固形腫瘍の患者における高用量化学療法または高用量放射線療法の投与後の自己移植の後に、迅速かつ持続的な造血回復を提供する(W.C. Lilesら、Blood 2003、102、2728-2730)。
【0006】
近年、SDF-1が、局所的虚血性脳卒中、全脳虚血、心筋梗塞および下肢虚血などの傷害の動物モデルにおいて局所的にアップレギュレートされること、ならびに末梢虚血後、または肝臓、腎臓もしくは肺への傷害に続いての回復に関与することが実証されている(A.E. Ting、R.W. Mays、M.R. Frey、W. Van't Hof、S. Medicetty、R. Deans、Critical Reviews in Oncology /Hematology 2008、65、81-93 and literature cited herein;F. Lin、K. Cordes、L. Li、L. Hood、W.G. Couser、S.J. Shanklandら、J. Am. Soc. Nephrol. 2003、14、1188-1199;C.C. Dos Santos、Intensive Care Med. 2008、34、619-630)。これらの結果は、SDF-1が、組織および臓器修復/再生のためのCXCR4-陽性幹細胞にとっての化学誘引物質であることを示唆する(M.Z. Ratajczak、M. Kucia、R. Reca、M. Majka、A. Janowska-Wieczorek、J. Ratajczak、Leukemia 2004、18、29-40)。したがって、CXCR4インヒビターによるSDF-1/CXCR4アクシスの調節は、組織修復を調節するために放出された幹細胞を用いることによる顕著な治療的利点をもたらすべきである。
【0007】
最近になって、CXCR4インヒビターによるSDF-1/CXCR4アクシスの分断が、骨髄からのHPC、内皮前駆細胞(EPC)および間質前駆細胞(SPC)などの前駆細胞の示唆的動員(differential mobilization)において重要な役割を演じることが明らかにされている(S.C. Pitchford、R.C. Furze、CP. Jones、A.M. Wegner、S.M. Rankin、Cell Stem Cell 2009、4、62)。さらに、骨髄由来CXCR4+極小胚様幹細胞(VSEL)は、急性心筋梗塞の患者において動員されたが、このことは、仮説の予備メカニズムを示唆する(W. Wojakowski、M. Tendra、M. Kucia、E. Zuba-Surma、E. Paczkowska、J. Ciosek、M. Halasa、M. Krol、M. Kazmierski、P. Buszman、A. Ochala、J. Ratajczak、B. Machalinski、M.Z. Ratajczak、J. Am. Coll. Cardiol. 2009、53、1)。これらの発見は、組織再生のための効能のある肝細胞療法を提供するために活用することができる。
【0008】
間葉幹細胞(MSC)は、骨および軟骨などの組織へ分化する能力を有する非造血前駆細胞である(D.J. Prockop、Science 1997、276、71)。少ない割合のMSCが、機能的に活性なCXCR4を強く発現するので、CXCR4/SDF-1アクシスの調節は、これらの細胞の特定の遊走およびホーミングを仲介することができる(R.F. Wynn、C.A. Hart、C. Corradi-Perini、L. O'Neill、C.A. Evans、J.E. Wraith、L.J. Fairbaim、I. Bellantuono、Blood 2004、104、2643)。
【0009】
ケモカイン全般、そして特にSDF-1/CXCR4相互作用が、血管新生において極めて重要な役割を演じることを示唆する証拠が増加している。ケモカインは、内皮細胞上のそれらのコグネイト(cognate)受容体に結合することにより直接的に、または他の血管新生の刺激をデリバリーする炎症性細胞の浸潤物を促進することにより間接的に、血管新生を誘発する。インターロイキン8(IL-8)、増殖制御を受けるガン遺伝子、間質細胞由来因子1(SDF-1)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、エオタキシン1およびI-309などの多くの前炎症性ケモカインは、血管新生の直接的な誘導因子として作用することが明らかにされている(X. Chen、J. A. Beutler、T.G. McCloud、A. Loehfelm、L. Yang、H.F. Dong、O.Y. Chertov、R. Salcedo、J.J. Oppenheim、O.M. Howard. Clin. Cancer Res. 2003、9(8)、3115-3123;R. Salcedo、J.J. Oppenheim、Microcirculation 2003、(3-4)、359-370)。
【0010】
最近得られた結果は、CXCR4受容体が、ガン細胞の化学走化活性、たとえば、乳ガン転移または卵巣ガン(A. Muller、B. Homey、H. Soto、N. Ge、D. Catron、M.E. Buchanan、T. Mc Clanahan、E. Murphey、W. Yuan、S.N. Wagner、J.L. Barrera、A. Mohar、E. Verastegui、A. Zlotnik、Nature 2001、50、410;J.M. Hall、K.S. Korach、Molecular Endocrinology 2003、17、792-803)、非ホジキンリンパ腫(F. Bertolini、C. Dell'Agnola、P. Manusco、C. Rabascio、A. Burlini、S. Monestiroli、A. Gobbi、G. Pruneri、G. Martinelli、Cancer Research 2002、62、3106-3112)、または肺ガン(T. Kijima、G. Maulik、P.C. Ma、E.V. Tibaldi、R.E. Turner、B. Rollins、M. Sattler、B.E. Johnson、R. Salgia、Cancer Research 2002、62、6304-6311)、黒色腫、前立腺ガン、腎臓ガン、神経芽細胞腫、膵臓ガン、多発性骨髄腫、慢性リンパ球性白血病、肝細胞ガン、結腸直腸ガン、子宮内膜ガンおよび胚細胞腫瘍(H. Tamamuraら、FEBS Letters 2003、550、79-83、cited ref.;Z. Wang、Q. Ma、Liu、H.Yu、L. Zhao、S. Shen、J. Yao、British Journal of Cancer 2008、99、1695;B. Sung、S. Jhurani、K.S. Ahn、Y. Mastuo、T. Yi、S. Guha、M. Liu、B. Aggarwal、Cancer Res. 2008、68、8938;H. Liu、Z. Pan、A. Li、S. Fu、Y. Lei、H. Sun、M. Wu、W. Zhou、Cellular and Molecular Immunology、2008、5、373;C. Rubie、O. Kollmar、V.O. Frick、M. Wagner、B. Brittner、S. Graber、M.K. Schilling、Scandinavian Journal of Immunology 2008、68、635;S. Gelmini、M. Mangoni、F. Castiglioe、C. Beltrami、A. Pieralli、K.L. Andersson、M. Fambrini、G.I. Taddie、M. Serio、C. Orlando、Clin. Exp. Metastasis 2009、26、261;D.C. Gilbert、I. Chandler、A. Mclntyre、N.C. Goddard、R. Gabe、R.A. Huddart、J. Shipley、J. Pathol. 2009、217、94)の転移に関わっていることを明らかにしている。CXCR4インヒビターで化学走化活性を遮断することは、ガン細胞の移動、すなわち転移を止めるはずである。
【0011】
CXCR4受容体はまた、固形腫瘍および白血病/リンパ腫の成長および増殖に関係しているとみられている。CXCR4受容体の活性化が、神経細胞性およびグリア性の両方の悪性腫瘍、ならびに小細胞肺腫瘍の両方の成長に重要であることが示された。さらに、CXCR4アンタゴニストであるAMD3100の全身投与は、腫瘍細胞のアポトーシスを増加させ、かつ腫瘍細胞の増殖を抑制することにより、頭蓋内グリア芽細胞腫および骨髄芽細胞腫の異種移植片の成長を阻害する(J.B. Rubin、A.L Kung、R.S Klein、J. A. Chan、Y. Sun、K. Schmidt、M.W. Kieran、A.D. Luster、R.A. Segal、Proc Natl Acad Sci U S A. 2003、100(23)、13513-13518;S. Barbero、R. Bonavia、A. Bajetto、C. Porcile、P. Pirani、J.L Ravetti、G.L. Zona、R. Spaziante、T. Florio、G. Schettini、Cancer Res. 2003、63(8)、1969-1974;T. Kijima、G. Maulik、P.C. Ma、E.V. Tibaldi、R.E. Turner、B. Rollins、M. Sattler、B.E. Johnson、R. Salgia. Cancer Res. 2002、62(21)、6304-6311)。CXCR4インヒビターは、乳ガン、小細胞肺ガン、膵臓ガン、胃ガン、結腸直腸ガン、悪性黒色腫、卵巣ガン、横紋筋肉腫、前立腺ガンならびに慢性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄腫および非ホジキンリンパ腫においてインビトロおよびインビボ効能を促進することも示した(J.A. Burger、A. Peled、Leukemia 2009、23、43-52 and literature cited herein)。
【0012】
ケモカインが多くの炎症性の病理に関わっていること、および、いくつかのケモカインが破骨細胞発達の調節において極めて重要な役割を果たしていることは、はっきり証明されている。慢性関節リウマチ(RA)および変形性関節症(OA)の両方のサンプルからの滑液生検材料および骨組織生検材料のSDF-1(CXCL12)に対する免疫染色からは、炎症症状下でSDF-1(CXCL12)の発現レベルが大きく増加していることが明らかにされた(F. Grassi、S. Cristino、S. Toneguzzi、A. Piacentini、A. Facchini、G. Lisignoli、J.細胞Physiol. 2004;199(2)、244-251)。CXCR4受容体は、炎症性疾患、たとえば、関節リウマチ、ぜん息、または多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、アテローム性動脈硬化症、または糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性などの眼疾患などにおいて重要な役割を果たすようである(K.R. Shadidiら、Scandinavian Journal of Immunology 2003、57、192-198;J.A. Gonzalo、J. Immunol. 2000、165、499-508;S. Hatseら、FEBS Letters 2002、527、255-262 and cited references、A.T. Weeraratna、A. Kalehua、I. DeLeon、D. Bertak、G. Maher、M.S. Wade、A. Lustig、K.G. Becker、W. Wood、D.G. Walker、T.G. Beach、D.D. Taub、Exp.細胞Res. 2007、313、450;M. Shimoji、F. Pagan、E.B. Healton、I. Mocchetti、Neurotox. Res. 2009、16、318;A. Zernecke、E. Shagdarsuren、C. Weber、Arterioscler. Thromb. Vase. Biol. 2008、28、1897;R. Lima e Silva、J. Shen、S.F. Hackett、S. Kachi、H. Akiyamaら、FASEB 2007、21、3219)。炎症部位への免疫細胞の動員の仲介は、CXCR4インヒビターによって阻止されるはずである。
【0013】
今日まで、HIV感染の治療のために利用可能な治療法は、感染した人において症状の著しい改善および疾病からの回復をもたらしてきた。逆転写酵素/プロテアーゼインヒビターの組み合わせを含む高活性な抗レトロウイルス療法(HAART)は、AIDSまたはHIV感染症の個体の臨床治療を劇的に改善したが、多剤耐性、重大な副作用および高コストなどのいくつかの深刻な問題が依然として残っている。特に望まれているのは、ウイルス侵入のような感染の初期段階でHIV感染を遮断する抗HIV作用剤である。近年、ヒト免疫不全ウイルスが標的細胞に効率的に侵入するためには、ケモカイン受容体CCR5およびCXCR4ならびに主要受容体CD4を必要とすることが明らかにされている(N. Levy、Engl. J. Med. 1996、335、1528-1530)。したがって、CXCR4ケモカイン受容体を遮断できる作用剤は、健康な個体の感染を予防し、感染した患者におけるウイルス進行を遅延または停止させるはずである(J. Cohen、Science 1997、275、1261-1264)。
【0014】
さまざまなタイプのCXCR4インヒビター(M. Schwarz、T.N.C. Wells、A.E.I. Proudfoot、Receptors and Channels 2001、7、417-428;Y. Lavrovsky、Y.A. Ivanenkov、K.V. Balakin、D.A. Medvedewa、P.V. Ivachtchenko、Mini Rev. Med. Chem. 2008、11、1075-1087)のうち、1つの新興クラスは、ポリフェムシンIIから誘導される天然カチオン性ペプチド類似体に基づくもので、逆平行βシート構造および2つのジスルフィド架橋により維持されるβヘアピンを有している(H. Nakashima、M. Masuda、T. Murakami、Y. Koyanagi、A. Matsumoto、N. Fujii、N. Yamamoto、Antimicrobial Agents and Chemoth. 1992、36、1249-1255;H. Tamamura、M. Kuroda、M. Masuda、A. Otaka、S. Funakoshi、H. Nakashima、N. Yamamoto、M. Waki、A. Matsumotu、J.M. Lancelin、D. Kohda、S. Tate、F. Inagaki、N. Fujii、Biochim. Biophys. Acta 1993、209、1163;WO 95/10534 Al)。
【0015】
構造的類似体の合成、および、核磁気共鳴(NMR)分光法による構造研究から、カチオン性ペプチドが、1つまたは2つのジスルフィド架橋の拘束作用により、明確なβヘアピンコンホメーションをとることが明らかにされた(H. Tamamura、M. Sugioka、Y. Odagaki、A. Omagari、Y. Kahn、S. Oishi、H. Nakashima、N. Yamamoto、S.C. Peiper、N. Hamanaka、A. Otaka、N. Fujii、Bioorg. Med. Chem. Lett. 2001、359-362)。これらの結果は、CXCR4拮抗活性において、βヘアピン構造が重要な役割を果たしていることを示している。
【0016】
さらなる構造研究はまた、拮抗活性が、両親媒性構造およびファーマコフォアを調節することによっても影響されうることを示唆した(H. Tamamura、A. Omagari、K. Hiramatsu、K. Gotoh、T. Kanamoto、Y. Xu、E. Kodama、M. Matsuoka、T. Hattori、N. Yamamoto、H. Nakashima、A. Otaka、N. Fujii、Bioorg. Med. Chem. Lett. 2001、11、1897-1902;H. Tamamura、A. Omagari、K. Hiramatsu、S. Oishi、H. Habashita、T. Kanamoto、K. Gotoh、N. Yamamoto、H. Nakashima、A. Otaka N. Fujii、Bioorg. Med. Chem. 2002、10、1417-1426;H. Tamamura、K. Hiramatsu、K. Miyamoto、A. Omagari、S. Oishi、H. Nakashima、N. Yamamoto、Y. Kuroda、T. Nakagawa、A. Otaki、N. Fujii、Bioorg. Med. Chem. Letters 2002、12、923-928)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明のCys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-)化合物は、高いCXCR4拮抗活性を示し、遊走した末梢血肝細胞の効率的なアフェレーシス採取に有用であり、および/または、組織修復を調節するためにこれらの遊走細胞を用いることができ、および/または、抗ガン活性、坑炎症活性および/または坑HIV活性を有する、環状β-ヘアピンペプチド模倣体である。
【0018】
該環状β-ヘアピンコンホメーションは、D-アミノ酸残基Xaa7およびD-アミノ酸残基DPro15によって誘導される。さらに、該ヘアピンコンホメーションのさらなる安定化は、一緒にジスルフィド結合を形成する4位および11位のアミノ酸残基Cysによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
驚いたことに、我々は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-)の14位に塩基性アミノ酸残基Lys(iPr)を導入し、さらに8位にOrn(iPr)を導入することが、好ましい薬理学的特性を有するβ-ヘアピンペプチド模倣体をもたらすことを見出した。適当な血漿タンパク質結合および適切なクリアランス速度と合せて、これらの特性は、あらゆる種類の製剤、特に、徐放性製剤のための低用量での活性成分として、これらの化合物を用いるのを可能にする薬理学的プロフィールを形成する。
【0020】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有する一般式:
シクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16- (I)
[式中、
Xaa3は、Ala、TyrまたはTyr(Me)であり、後者は(2S)-2-アミノ-(4-メトキシフェニル)-3-プロピオン酸である;
Xaa7は、DTyr、DTyr(Me)、すなわち、(2R)-2-アミノ-(4-メトキシフェニル)-3-プロピオン酸、またはDProである;
Xaa8は、Dab、すなわち、(2S)-2,4-ジアミノ酪酸、またはOrn(iPr)、すなわち、(2S)-Nω-イソプロピル-2,5-ジアミノペンタン酸である;
Xaa13は、GlnまたはGluである;
Xaa14は、Lys(iPr)、すなわち、(2S)-Nω-イソプロピル-2,6-ジアミノヘキサン酸である]
で示される化合物およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0021】
本発明の特定の実施態様において、β-ヘアピンペプチド模倣体は、Xaa13がGlnである一般式(I)で示される化合物およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0022】
本発明のもう1つの特定の実施態様において、β-ヘアピンペプチド模倣体は、Xaa3がTyrまたはTyr(Me)であり、Xaa7DProであり、Xaa8がOrn(iPr)であり、Xaa13がGlnである一般式(I)で示される化合物およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0023】
本発明の好ましい実施態様において、化合物は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Ala3-Cys4-Ser5-Ala6-DTyr7-Dab8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Gln13-Lys(iPr)14-DPro15-Pro16-)およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0024】
本発明のもう1つの好ましい実施態様において、化合物は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Tyr3-Cys4-Ser5-Ala6-DPro7-Orn(iPr)8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Gln13-Lys(iPr)14-DPro15-Pro16-)およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0025】
本発明のもう1つの好ましい実施態様において、化合物は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Tyr(Me)3-Cys4-Ser5-Ala6-DPro7-Orn(iPr)8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Gln13-Lys(iPr)14-DPro15-Pro16-)およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0026】
本発明のもう1つの好ましい実施態様において、化合物は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Ala3-Cys4-Ser5-Ala6-DTyr(Me)7-Orn(iPr)8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Gln13-Lys(iPr)14-DPro15-Pro16-)およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0027】
本発明のもう1つの好ましい実施態様において、化合物は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Tyr3-Cys4-Ser5-Ala6-DTyr7-Orn(iPr)8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Gln13-Lys(iPr)14-DPro15-Pro16-)およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0028】
本発明のさらにもう1つの好ましい実施態様において、化合物は、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Tyr(Me)3-Cys4-Ser5-Ala6-DTyr(Me)7-Orn(iPr)8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Gln13-Lys(iPr)14-DPro15-Pro16-)
およびその医薬的に許容しうる塩である。
【0029】
本発明によれば、これらのβ-ヘアピンペプチド模倣体は、以下のステップを含む方法により製造することができる:
(a)適切に官能化された固相担体を、所望の最終生成物において16位にあるProの適当にN-保護された誘導体とカップリングさせるステップ;
(b)このようにして得られた生成物からN-保護基を除去するステップ;
(c)こうして得られた生成物を、所望の最終生成物において15位にあるDProの適切にN-保護された誘導体とカップリングさせるステップ;
(d)ステップ(c)で得られた生成物からN-保護基を除去するステップ;
(e)所望の最終生成物において14〜1位にあるアミノ酸の適切にN-保護された誘導体(該N-保護されたアミノ酸誘導体に存在することができるいずれかの官能基は、同様に適切に保護されている)を用いて、ステップ(c)および(d)に実質的に対応するステップを行うステップ;
(f)必要に応じて、4および11位にあるCys残基の側鎖間にジスルフィド架橋を形成するステップ;あるいは別法として、後記のステップ(i)の後に前述の架橋を形成するステップ;
(g)このようにして得られた生成物を固相担体から分離するステップ;
(h)固相担体から切断された生成物を環化するステップ;
(i)アミノ酸残基の鎖のいずれかの残基の官能基上に存在するいずれかの保護基を除去するステップ;および
(j)必要に応じて、1つまたは数個のイソプロピル基を付着させるステップ;
(k)必要に応じて、アミノ酸の鎖のいずれかの残基の官能基上に存在するいずれかの保護基を除去するステップ;および
(l)必要に応じて、このようにして得られた生成物を医薬的に許容しうる塩に変換するか、あるいは、このようにして得られた医薬的に許容しうる塩もしくは許容されない塩を対応する遊離化合物に変換するか、または他の医薬的に許容しうる塩に変換するステップ。
【0030】
イソプロピル基含有アミノ酸残基Orn(iPr)またはLys(iPr)は、市販されているアミノ酸ビルディングブロックまたは事前に合成したアミノ酸ビルディングブロックとして組み込まれることになるが、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、たとえば、樹脂上での線状ペプチドの合成を含む手順にしたがって製造することができる;または、たとえば、修飾されているとみなされないすべてのアミノ酸残基のアミノ基含有側鎖は、Fmocベース固相ペプチド合成ストラテジーに適した酸不安定性保護基によって保護されたアミノ酸残基のアミノ基含有側鎖が合成カスケードの非常に遅い段階で、溶液中でイソプロピル基をカップリングすることによって誘導体化されうるように、ivDdeなどによって保護されるものであるが、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、直交保護基ストラテジーを適用することによる樹脂上での線状ペプチドの合成を含む手順にしたがって製造することができる;または、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、前述の手順の適当な組合せを含む手順にしたがって製造することができる。
【0031】
官能基を有する固相支持体(すなわち、固相支持体+リンカー分子)および環化部位の適切な選択は、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体の合成プロセスにおいて重要な役割を演じる。
【0032】
官能基化された固相担体は、好ましくは1〜5%のジビニルベンゼンと架橋結合したポリスチレン;ポリエチレングリコールスペーサー(Tentagel(登録商標))でコーティングしたポリスチレン;および、ポリアクリルアミド樹脂から誘導されるのが好都合である(D. Obrecht、J.-M. Villalgordo、「Solid-Supported Combinatorial and Parallel Synthesis of Small-Molecular-Weight Compound Libraries」、Tetrahedron Organic Chemistry Series、Vol. 17、Pergamon、Elsevier Science、1998)。
【0033】
固相担体は、リンカー(すなわち二官能性スペーサー分子)によって官能基化される。なお、前記リンカーは、一端上に固相担体へ結合するための固着基を含有し、他の一端に、後続の化学変化および切断手順に使用される選択的に切断可能な官能基を含有する。本発明の目的において、2つのタイプのリンカーを使用する:
【0034】
タイプ1リンカーは、酸性条件下でアミド基を放出するよう設計されている(H. Rink、Tetrahedron Lett. 1987、28、3783-3790)。この種のリンカーは、アミノ酸のカルボキシル基のアミドを形成する;このようなリンカー構造によって官能基化される樹脂の例としては、4-[(((2,4-ジメトキシフェニル)Fmoc-アミノメチル)フェノキシアセトアミド) アミノメチル] PS樹脂、4-[(((2,4-ジメトキシフェニル)Fmoc-アミノメチル)フェノキシアセトアミド)アミノメチル] -4-メチルベンズヒドリルアミンPS樹脂(Rink アミドMBHA PS樹脂)、および4-[(((2,4-ジメトキシフェニル)Fmoc-アミノメチル)フェノキシアセトアミド)アミノメチル]ベンズヒドリルアミン PS樹脂(Rink アミドBHA PS樹脂)などが挙げられる。好ましくは担体は、最も好ましくは1〜5%ジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンから誘導され、4-(((2,4-ジメトキシフェニル)Fmoc-アミノメチル)フェノキシアセトアミド)リンカーによって官能基化される。
【0035】
タイプ2リンカーは、酸性条件下でカルボキシル基を最終的に放出するように設計される。この種のリンカーは、アミノ酸のカルボキシル基とともに、酸に不安定なエステルを形成するが、通常は、これらは酸に不安定なベンジル、ベンズヒドリルおよびトリチルエステルである;このようなリンカー構造の例としては、2-メトキシ-4-ヒドロキシメチルフェノキシ(Sasrin(登録商標)リンカー)、4-(2,4-ジメトキシフェニル-ヒドロキシメチル)-フェノキシ(Rinkリンカー)、4-(4-ヒドロキシメチル-3-メトキシフェノキシ)酪酸(HMPBリンカー)、トリチルおよび2-クロロトリチルが挙げられる。担体は、最も好ましくは1〜5%のジビニルベンゼンで架橋結合したポリスチレンから誘導し、2-クロロトリチルリンカーにより官能基化するのが好ましい。
【0036】
パラレルアレイ合成として実施する場合、以下に記載したようにして本発明の方法を実施するのが都合がよいけれども、単一の本発明化合物を合成することを所望する場合、これらの手順をどのように変更しなければならないかは、当業者は直ちに理解するであろう。
【0037】
パラレル法によって合成される化合物の総数に等しい多数の反応容器に、25〜1000mg、好ましくは60mgの適切に官能基化された固相担体、好ましくは1〜3%の架橋結合ポリスチレンまたはTentagel樹脂を充填する。
【0038】
用いられる溶媒は樹脂を膨潤させることができるものでなければならず、ジクロロメタン(DCM)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジオキサン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール(EtOH)、トリフルオロエタノール(TFE)、イソプロピルアルコールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。少なくとも1つの成分として極性溶媒(たとえば、20%TFE/DCM、35%THF/NMP)を含有する溶媒混合物は、樹脂結合ペプチド鎖の高反応性および高溶媒和を確実にするのに有益である(G.B. Fields、C.G. Fields、Am. Chem. Soc. 1991、113、4202-4207)。
【0039】
側鎖中の官能基を保護する酸反応性基には影響を及ぼさない、緩和な酸性条件下でC末端カルボン酸基を遊離する種々のリンカーの開発に伴って、保護ペプチド断片の合成において相当な進歩が得られた。2-メトキシ-4-ヒドロキシベンジルアルコール誘導リンカー(Sasrin(登録商標)リンカー、Merglerら、Tetrahedron Lett. 1988、29 4005-4008)は、希釈トリフルオロ酢酸(0.5〜1%TFAのDCM溶液)により切断され、かつ、ペプチド合成中、Fmoc脱保護条件に対して安定性であり、Boc/tBu系追加保護基は、この保護スキームと適合性がある。本発明の方法に適当な他のリンカーとしては、超酸変動性4-(2,4-ジメトキシフェニル-ヒドロキシメチル)-フェノキシリンカー(Rinkリンカー、Rink, H. Tetrahedron Lett. 1987, 28, 3787-3790)(ペプチド除去には、10%酢酸DCM溶液または0.2%トリフルオロ酢酸DCM溶液が必要である);4-(4-ヒドロキシメチル-3-メトキシフェノキシ)酪酸誘導リンカー(HMPBリンカー、Florsheimer & Riniker, Peptides 1991,1990 131)(1%TFA/DCMを用いて切断することにより、すべての酸変動性側鎖保護基を含有するペプチド断片が得られる);およびまた、2-クロロトリチルクロリドリンカー(Barlosら、Tetrahedron Lett. 1989、30、3943-3946)(氷酢酸/トリフルオロエタノール/DCM(1:2:7)の混合物を30分間用いることによりペプチド分離が可能である)が挙げられる。
【0040】
アミノ酸に対する、およびそれらの残基に対するそれぞれ適当な保護基は、たとえば、
アミノ基(たとえば、リシンまたはオルニチンの側鎖中にもまた存在しているようなアミノ基)に対しては、
Cbz ベンジルオキシカルボニル
Boc tert-ブチルオキシカルボニル
Fmoc 9-フルオレニルメトキシカルボニル
Alloc アリルオキシカルボニル
Teoc トリメチルシリルエトキシカルボニル
Tcc トリクロロエトキシカルボニル
Nps o-ニトロフェニルスルホニル
Trt トリフェニメチルまたはトリチル
ivDde(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシ-1-イリデン)-3-メチルブチルであり、
アルコール成分を用いたエステルへの転化によるカルボキシル基(たとえば、グルタミン酸の側鎖中にも存在するようなカルボキシル基)に対しては、
tBu tert-ブチル
Bn ベンジル
Me メチル
Ph フェニル
Pac フェナシル
アリル
Tse トリメチルシリルエチル
Tce トリクロロエチル
ivDde(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシ-1-イリデン)-3-メチルブチルであり、
グアニジノ基(たとえば、アルギニンの側鎖中に存在するようなグアニジノ基)に対しては、
Pmc 2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル
Ts トシル(すなわち、p-トルエンスルホニル)
Cbz ベンジルオキシカルボニル
Pbf ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニルであり、
ヒドロキシ基(たとえば、セリンの側鎖中に存在するようなヒドロキシ基)に対しては、
tBu tert-ブチル
Bn ベンジル
Trt トリチル
Alloc アリルオキシカルボニルであり、
メルカプト基(たとえば、システインの側鎖中に存在するようなメルカプト基)に対しては、
Acm アセトアミドメチル
tBu tert-ブチル
Bn ベンジル
Trt トリチル
Mtr 4-メトキシトリチルである。
【0041】
好ましくは、9-フルオレニルメトキシカルボニル-(Fmoc)-保護アミノ酸誘導体が、本発明のβ-ヘアピンループ模倣体を構築するためのビルディングブロックとして用いられる。脱保護、すなわち、Fmoc基の切断には、20%ピペリジンDMF溶液または2%DBU/2%ピペリジンDMF溶液を用いることができる。
【0042】
(Fmoc)-保護アミノ酸誘導体のイソプロピル化アミノ基含有側鎖を形成するための9-フルオレニルメトキシカルボニル-(Fmoc)-保護アミノ酸誘導体のアミノ基含有側鎖へのイソプロピル基の連結は、当技術分野で知られている。イソプロピル基を導入するための手順は、たとえば、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムなどの適当な還元剤の存在下でのアセトンによるOrnなどのアミノ酸ビルディングブロックのアミノ基含有側鎖のアミノ基の処理といったような還元的アルキル化によって達成することができる。イソプロピル化された(Fmoc)-保護アミノ酸誘導体のアミノ基含有側鎖のための適当なBocなどの保護基は、重炭酸ナトリウムなどの塩基の存在下での二炭酸ジ-tert-ブチルとの後続反応によって導入することができる。
【0043】
反応物、すなわち、アミノ酸誘導体の量は、通常、反応チューブに秤量された、官能基化固相担体(一般には、ポリスチレン樹脂に対して0.1〜2.85meq/g)の1グラム当たりミリ当量(meq/g)充填に基づいた1〜20当量である。もし妥当な時間内に反応を終了まですすめることを所望するのであれば、反応物のさらなる当量を用いることができる。好ましいワークステーション(しかし、これに限定されるものではない)は、Labsource's Combi-chem station、Protein Technologies' SymphonyおよびMultiSyn Tech's-Syro synthesizerであるが、後者は、さらに、固相担体から完全保護線状ペプチドを切り離すプロセス中に、伝達ユニットおよび貯留ボックスを備える。すべての合成装置は、制御された環境を提供することができ、たとえば、必要に応じて、室温とは異なる温度ならびに不活性ガス雰囲気下で反応を行うことができる。
【0044】
アミド結合形成には、アシル化工程のα-カルボキシル基の活性化が必要である。この活性化がジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、Sheehan & Hess、J. Am. Chem. Soc. 1955、77、1067-1068)またはジイソプロピルカルボジイミド(DIC、Sarandakosら、Brioche. Biophys. Res. Common. 1976、73、336-342)などの一般に用いられているカルボジイミドによって行なわれている場合、得られるジシクロヘキシル尿素およびジイソプロピル尿素は一般に用いられる溶媒に対してそれぞれ不溶性または可溶性である。カルボジイミド方法の変法では、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt, Konig & Geiger, Chem. Ber 1970, 103, 788-798)は、カップリング混合物への添加物として含まれる。HOBtは脱水を防ぎ、活性化アミノ酸のラセミ化を抑制し、触媒として不活発なカップリング反応を改善する役割を果たす。あるホスホニウム試薬は、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)(Castroら, Tetrahedron Lett. 1975, 14, 1219-1222;Synthesis, 1976, 751-752)(BOP、Castroら、Tetrahedron Lett. 1975、14、1219-1222;Synthesis 1976、751-752)、またはベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルロホスフェート(Py-BOP、Costeら、Tetrahedron Lett. 1990、31、205-208)、または2-(1Hベンゾトリアゾール-1-イル-)1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテラフルオロボレート(TBTU)、またはヘキサフルオロホスフェート(HBTU、Knorrら、Tetrahedron Lett. 1989、30、1927-1930)などの直接カップリング剤として用いられている;また、これらのホスホニウム試薬は、保護アミノ酸誘導体のHOBtエステルのin situ形成に好適である。さらに最近では、アジ化ジフェノキシホスホリル(DPPA)またはO-(7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イル-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TATU)、またはO-(7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)/7-アザ-1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOAt、Carpinoら、Tetrahedron Lett. 1994、35、2279-2281)がカップリング剤として用いられている。あるいは-(6-クロロ-lH-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-1,1,3,3-テトラメチル-ウロニウムテトラフルオロホスフェート(TCTU)、またはヘキサフルオロホスフェート(HCTU、Marder、Shivo and Albericio:HCTU and TCTU:New Coupling Reagents:Development and Industrial Applications、Poster Presentation、Gordon Conference February 2002)ならびに1,1,3,3-ビス(テトラメチレン)クロロウロニウムヘキサフルオロホスフェート(PyCIU、特にN-メチル化アミノ酸のカップリングのために、、J. Coste、E. Frerot、P. Jouin、B. Castro、Tetrahedron Lett. 1991、32、1967)またはペンタフルオロフェニルジフェニル-ホスフェート(S. Chen、J. Xu、Tetrahedron Lett. 1991、32、6711)もまたカップリング剤として用いられている。
【0045】
ほぼ定量的なカップリング反応が不可欠であるという事実から、反応の完了を立証する実験証拠を持つことが望ましい。ニンヒドリン試験(Kaiserら、Anal. Biochemistry 1970、34、595)(この場合、樹脂結合ペプチドのアリコートに対する陽性比色反応は、第一級アミンの存在を定性的に示す)は、各カップリング工程の後に容易かつ迅速に行なうことができる。Fmoc化学は、Fmoc発色団が塩基とともに放出される場合、Fmoc発色団の分光光度の検出を可能にする(Meienhoferら、Int. J. Peptide Protein Res. 1979、13、35-42)。
【0046】
各反応容器内の樹脂結合中間体を、遊離の過剰の保持試薬、溶媒および副産物を下記の2つの方法のうちの1つの方法によって精製溶媒に繰り返し接触させることによって洗浄する:
1)反応容器を溶媒(好ましくは5mL)で満たし、5〜300分間、好ましくは15分間撹拌し、溶媒を排出して放出する;
2)反応容器を溶媒(好ましくは5mL)で満たし、試験管またはバイアルなどの受け入れ容器へフィルターを通して重力により出する。
【0047】
上記の両洗浄手順は、TLC、GCなどの方法、または洗浄の検査によって、試薬、溶媒および副産物除去の効率をモニターしながら、約50回まで(好ましくは約10回)繰り返す。
【0048】
反応チューブ内における試薬と樹脂結合化合物との反応、その後の過剰試薬、副産物および溶媒の除去に関する上述の手順を、最終的な樹脂結合完全保護線状ペプチドが得られるまで各連続変換を繰り返す。
【0049】
この完全保護線状ペプチドを固相担体から切り離す前に、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を形成することができる。
【0050】
ジスルフィド架橋形成のために、好ましくは10当量のヨウ素溶液をDMFまたはCH2Cl2/MeOHの混合溶媒に1.5時間適用し、該ヨウ素溶液をろ過後、別の新鮮なヨウ素溶液をさらに3時間適用することを繰り返し;または5%NaHCO3でpH5〜6に緩衝化したDMSOと酢酸溶液の混合溶媒に4時間適用し;または水酸化アンモニウム溶液でpH8に調節した後の水に24時間撹拌しながら適用し;またはNMPおよびトリ-n-ブチルホスフィン(好ましくは50当量)の溶液に適用する。
【0051】
別法として、Cys4とCys11との間のジスルフィド架橋の形成は、粗完全脱保護および環化ペプチドを、5% NaHC03でpH5-6に緩衝化するか、または酢酸アンモニウムでpH7-8に緩衝化するか、または水酸化アンモニウムでpH8に調節した15体積%以下のDMSO含有水中で24時間攪拌することによる後記の加工方法2)の後で行うことができる。蒸発乾固した後、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-)を最終生成物として得ることができる。
【0052】
固相担体からの完全保護線状ペプチドの切り離しは、装填された樹脂を切断試薬(好ましくは3〜5mL)溶液で洗浄することによって達成される。温度調節、撹拌および反応モニタリングは上述のように実施する。伝達ユニットを介して反応容器を貯留チューブを含む貯留ボックスに連結して、切断された生成物溶液を効率的に集める。次いで、反応容器中に残っている樹脂を3〜5mLの適当な溶媒を用いて上述のようにして2〜5回洗浄し、可能な限り多くのその切り離された生成物を抽出する(洗い流す)。このようにして得られた生成物溶液を、交差混合(cross-mixing)を避けるよう注意しながら合せる。次いで、必要に応じて、その個別の溶液/抽出物を操作して最終化合物を分離する。代表的な操作としては、蒸発、濃縮、液/液抽出、酸性化、塩基性化、中和、または溶液中の追加反応が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
固相担体から切断し、塩基で中和した完全保護線状ペプチド誘導体を含有する溶液を蒸発させる。次いで、環化をDCM、DMF、ジオキサン、THFなどの溶媒を用いて溶液中で行う。上述した種々のカップリング剤を環化に用いることができる。環化の継続時間は、好ましくは約6〜48時間、好ましくは約16時間である。反応の進捗は、たとえば、RP-HPLC(逆相高速液体クロマトグラフィー)により追跡される。次いで、溶媒を蒸発によって除去し、完全保護環状ペプチド誘導体をDCMなどの水との混和性を有しない溶媒中に溶解し、その溶液を水または水混和性溶媒の混合物で抽出し、過剰のカップリング剤を除去する。
【0054】
最後に、完全保護ペプチド誘導体を95%TFA、2.5%H2O、2.5%TISで処理するか、保護基の切断を行うスカベンジャーの他の組み合わせで処理する。切断反応時間は、一般に30分から12時間、好ましくは約2.5時間である。
【0055】
別法として、ガラス容器中で、手作業で、完全保護ペプチドを固相担体から分離し完全に脱保護することもできる。
【0056】
完全に脱保護した後、たとえば、以下の方法を用いてさらなる加工を行うことができる:
1)揮発物を蒸発乾固し、粗ペプチドを20% AcOH水溶液に溶解し、イソプロピルエーテルまたは適当なその他の溶媒で抽出する。水性層を採取し、蒸発乾固し、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有する完全脱保護ペプチド、シクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-)を最終生成物として得る;
2)脱保護混合物を減圧濃縮する。上述したようにCys4とCys11との間のジスルフィド結合が固相担体上で形成されたならば、完全脱保護ペプチドを、ジエチルエーテル中、好ましくは0℃にて沈殿させた後、固体を約10回、好ましくは3回洗浄し、乾燥し、Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有する完全脱保護ペプチド、シクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-)を最終生成物として得る。
【0057】
もし溶液中の1つ以上のイソプロピル基を導入するための上述の直交保護基ストラテジーが行われたならば、次いで、アミノ酸残基の側鎖のすべてのアミノ基は依然として非酸不安定性保護基によって保護されるが、酸不安定性保護基によって以前は保護されたアミノ酸残基のアミノ基は、合成カスケードのこの段階で開放される。したがって、必要に応じて、イソプロピル基をカップリングさせることが可能である。ivDdeまたは同種のものが、アミノ基を開放するためにイソプロピル基のカップリング中に修飾されないままであるアミノ基含有側鎖のための酸安定性保護基であるのが好ましい。このカップリングは、シアノ水素化ホウ素ナトリウムなどの適当な還元剤の存在下でアセトンを用いて還元的アルキル化などを適用することによって達成することができる。したがって、たとえば、該ペプチドは、酢酸(0.2 M)含有メタノール(4.4 mM)に溶解される。過剰のアセトン(780当量)を加えた後、反応混合物をシアノ水素化ホウ素ナトリウムのメタノール溶液(0.6 M;導入が望まれるイソプロピル基当たり1.3当量)で完了し、室温にて激しく攪拌する。LC-MSでモニターして変換の完了を確認した後、水を加え、溶媒を蒸発させる。ペプチドを含有する残留固体をDMF(0.01 M)に溶解し、ヒドラジンの5%DMF溶液を用いて、ivDde保護基を最終的に除去する。
【0058】
前述したように、その後、必要に応じて、このようにして得られた完全脱保護環式生成物を医薬的に許容しうる塩に変換するか、あるいは、このようにして得られた医薬的に許容しうる塩もしくは許容されない塩を対応する遊離化合物に変換するか、または他の医薬的に許容しうる塩に変換することが可能である。これらの操作のいずれもが、当技術分野で周知の方法によって行うことができる。
【0059】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、健康な個体におけるHIV感染の予防のため、および感染した患者におけるウイルスの増殖を遅らせ、停止させるため;またはガンがCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは起因する場合;または免疫疾患がCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは起因する場合;あるいは本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、免疫抑制の治療のため;または末梢血幹細胞のアフェレーシス採取中;および/または組織修復を調節するための幹細胞の動員を誘発する作用剤として、使用することができる。
【0060】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、
β-ヘアピンペプチド模倣体は単独で投与されてもよく、あるいは、当技術分野で周知の担体、希釈剤または賦形剤とともに適当な製剤として使用してもよい。
【0061】
HIV感染症、または乳ガン、脳腫瘍、前立腺ガン、肝細胞ガン、直腸結腸ガン、肺ガン、腎臓ガン、神経芽腫、卵巣ガン、子宮内膜ガン、胚細胞腫瘍、
眼ガン、多発性骨髄腫、膵臓ガン、胃ガン、横紋筋肉腫、黒色腫、慢性リンパ球白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄腫および非ホジキンリンパ腫;転移、血管新生および造血組織などのガン;またはぜん息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、遅延型過敏症、間質性肺疾患(ILD)、特発性肺線維症、関節リウマチ関連ILD、全身性エリテマトーデス、硬直性脊椎炎、全身性硬化症、シェーグレン症候群、全身性アナフィラキシーまたは過敏反応、薬剤アレルギー、関節リウマチ、乾癬性関節炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、アテローム性動脈硬化、重症筋無力症、若年発症型糖尿病、糸球体腎炎、自己免疫性甲状腺炎、拒絶反応(同種移植拒絶または対宿主性移植片疾患が含まれる)、炎症性腸疾患、炎症性皮膚病などの炎症性疾患を治療または予防するため;または緑内障、糖尿病性網膜症および加齢黄斑変性症などの眼疾患を治療するため;焦点虚血性脳卒中、全脳虚血、心筋梗塞、後肢虚血または末梢虚血を治療するため;肝臓、腎臓または肺の外傷を治療するため;あるいは化学療法、放射線療法または移植片/移植拒絶により誘導される免疫抑制などを治療するために用いる場合、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は単独で、数種のβ-ヘアピンペプチド模倣体の混合物として、他の抗HIV作用剤または抗生物質もしくは抗ガン剤もしくは抗炎症剤と組み合わせて、あるいは他の薬学的に活性剤と組み合わせて投与することができる。β-ヘアピンペプチド模倣体は、単独で、または医薬組成物として投与することができる。
【0062】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体を含む医薬組成物は、慣用の混合、溶解、造粒、コーティング錠製造、研和、乳化、カプセル化、封入化(entrapping)または凍結乾燥加工によって製造することができる。医薬組成物は、医薬的に使用しうる調製品への活性β-ヘアピンペプチド模倣体の加工を容易にする、1種以上の生理学的に許容しうる担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を用いて慣用の方法により製剤化してもよい。適切な製剤は、選択する投与方法に応じて決まる。
【0063】
局所投与には、当技術分野で周知のようにして、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体を溶液剤、ゲル剤、軟膏剤、クリーム剤、懸濁液剤などとして製剤化することができる。
【0064】
全身製剤として、皮下注射、静脈注射、筋肉注射、髄腔内注射、腹膜腔内注射などの注射による投与用として設計されたもの、ならびに、経皮投与、経粘膜投与、経口投与または経肺投与用として設計されたものが挙げられる。
【0065】
注射剤には、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体を適当な溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液または生理食塩水緩衝液などの生理学的に適合する緩衝液に溶解して製剤化することができる。その溶液には、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化剤が含まれていてもよい。あるいは、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、使用する前に、適当なビヒクル(たとえば、発熱性物質除去滅菌水)と組み合わせるための粉末形態であってもよい。
【0066】
経粘膜投与には、浸透させるバリアに好適な浸透剤は、当技術分野で公知の製剤において用いられるものである。
【0067】
経口投与には、本化合物は、当技術分野で周知の医薬的に許容しうる担体と本発明の活性β-ヘアピンペプチド模倣体を組み合わせることにより容易に製剤化することができる。このような担体により、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体を、治療される患者の経口摂取用の錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー、懸濁液剤、散剤などとして製剤化することができる。経口剤(たとえば、散剤、カプセル剤および錠剤など)にとって、好適な賦形剤として、糖類(たとえば、ラクトース、スクロース、マンニトールおよびソルビトール)、セルロース調製物(たとえば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、じゃがいもデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP))などの増量剤;造粒剤;ならびに結合剤などが挙げられる。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を添加してもよい。必要に応じて、固体投与剤形は、標準技術を用いて、糖衣してもよく、あるいは腸溶性コーティングをしてもよい。
【0068】
経口液状製剤(たとえば、懸濁液剤、エリキシル剤および溶液剤など)には、適当な担体、賦形剤または希釈剤として水、グリコール、油、アルコールなどが挙げられる。さらに、香味剤、保存剤、着色剤などを添加してもよい。
【0069】
口腔内投与については、組成物は、通常通り製剤化された錠剤、トローチ剤などの形態をとることができる。
【0070】
また、本化合物は、ココアバターまたは他のグリセリドなどの適当な坐剤基剤を用いて、坐薬などの直腸用組成物または膣用組成物に製剤化することができる。
【0071】
上記製剤に加えて、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、持続性製剤として製剤化してもよい。このような長時間作用製剤は、インプラント(たとえば、皮下にまたは筋肉内への埋め込み)によって、または筋肉内注射によって投与することができる。このような持続性製剤の製造には、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体を、適当なポリマー材料もしくは疎水性材料(たとえば、許容しうる油中のエマルジョンのような材料)、またはイオン交換樹脂、あるいはやや溶けにくい可溶塩などを用いて製剤化してもよい。
【0072】
さらに、他の医薬デリバリーシステムでは、当技術分野で周知のリポソームおよびエマルジョンなどを使用してもよい。また、ジメチルスルホキシドなどのある種の有機溶媒を使用してもよい。さらに、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、治療薬(たとえば、コーティングステント)を含有する固体ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放性システムを用いてデリバリーすることもできる。種々の徐放性材料はすでに確立されており、当業者には周知である。徐放性カプセルは、それらの化学的性質に基づいて、数週間から100日以上の間、化合物を放出する。治療薬の化学的性質および生物学的安定性に応じて、タンパク質を安定化させるためのさらなる方法を用いてもよい。
【0073】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体は、荷電残基を含有するので、それ自体または医薬的に許容しうる塩として、上記製剤のうちのいずれにも含まれ得る。医薬的に許容しうる塩は、対応する遊離形態よりも、水性溶媒および他のプロトン性溶媒中でより溶けやすいという傾向がある。特に適した医薬的に許容しうる塩として、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸およびスルファミン酸、たとえば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、グリコール酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸またはアスパラギン酸などのアミノ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、メチルマレイン酸、シクロヘキサンカルボン酸、アダマンタンカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、フタル酸、フェニル酢酸、マンデル酸、桂皮酸、メタン-もしくはエタン-スルホン酸、2 -ヒドロキシエタンスルホン酸、エタン-1,2 -ジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2 -ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、2-、3-または4 -メチル-ベンゼンスルホン酸、メチル硫酸、エチル硫酸、ドデシル硫酸、N-シクロヘキシルスルファミン酸、N-メチル-N-エチル-もしくはN-プロピル-スルファミン酸、およびアスコルビン酸などの他の有機プロトン酸などとの塩が挙げられる。適当な無機酸は、たとえば、塩酸などのハロゲン化水素酸、硫酸およびリン酸などである。
【0074】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体またはその組成物は、一般に、意図した目的を達成するのに有効な量で用いる。使用される量は、特定の用途に応じて決まることは理解されよう。
【0075】
HIV感染を治療または予防するための局所投与のための治療有効用量は、たとえば、実施例において提供するインビトロアッセイを用いて決定することができる。HIV感染が可視的である場合にも、さらには感染が可視的でない場合にも治療を施すことができる。当業者ならば、過度の実験を行うことなく、局所的HIV感染を治療するための治療有効量を決定することができる。
【0076】
全身投与には、治療有効用量は、最初にインビトロアッセイから推定することができる。たとえば、投与量は、細胞培養において決定したIC50を含む、循環β-ヘアピンペプチド模倣体の濃度範囲に達するように、動物モデルにおいて策定することができる。このような情報を用いて、より正確にヒトでの有用な投与量を決定することができる。
【0077】
初期投与量も当技術分野で周知の技術を用いて、インビボデータ(たとえば、動物モデル)から決定することができる。当業者は、動物データに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化することができる。
【0078】
抗HIV剤としての用途のための投与量は、治療効果を維持するのに十分な本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体の血漿中濃度をもたらすことができるように個別に調節することができる。治療有効血清中濃度は、毎日複数回投与することによって達成されうる。
【0079】
局所投与または選択的取り込みの場合、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体の有効な局所濃度は、血漿中濃度と関連していなくてもよい。当業者は、過度の実験を行うことなく、治療上有効な局所投与量を最適化することができるであろう。
【0080】
投与されるβ-ヘアピンペプチド模倣体の量は、もちろん、治療されている被験者に応じて、すなわち被験者の体重、病気の重篤度、投与方法および処方する医師の判断に応じて決まる。
【0081】
感染が検出可能である場合、または感染が検出できない場合でさえ、抗HIV療法は断続的に繰り返すことが可能である。その療法は、単独で、または他の薬物(たとえば、他の抗HIV剤または抗ガン剤あるいは他の抗菌剤など)と併用で提供され得る。
【0082】
通常、本明細書に記載したβ-ヘアピンペプチド模倣体の治療有効量により、実質的な毒性を誘発することなく、治療上の効果が得られる。
【0083】
細胞培養または実験動物における標準的薬学的手法によって、たとえば、LD50(集団の50%まで致死させる投与量)またはLD100(集団の100%まで致死させる投与量)を決定することによって、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体の毒性を決定することができる。毒性と治療効果との間の用量比が治療指数である。高い治療指数を示す化合物が好ましい。これらの細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータは、ヒトでの使用に当たって毒性でない投与範囲を明確化するのに用いることができる。本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣体の投与量は、ほとんど毒性がないか、または毒性がない有効量を含む、循環濃度の範囲内にあるのが好ましい。投与量は、使用される投与剤形および利用される投与経路に応じて、その範囲内で変動し得る。各医師は、正確な処方、投与経路および投与量を患者の状態を考慮して選ぶことができる(たとえば、Finglら、1975, The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ch.1, p.1を参照されたい)。
【0084】
本発明はまた、通常天然に見出される質量数または質量とは異なる質量数または質量を有する原子によって1つ以上が置き換えられる以外は、一般式:Cys4とCys11との間にジスルフィド結合を有するシクロ(-Tyr1-His2-Xaa3-Cys4-Ser5-Ala6-Xaa7-Xaa8-Arg9-Tyr10-Cys11-Tyr12-Xaa13-Xaa14-DPro15-Pro16-)で示される化合物と同一である化合物、たとえば、2H(D)、3H、11C、14C、129Iなどに富む化合物も包含する。これらの同位体アナログおよびその医薬的塩ならびに製剤は、たとえば、インビボ半減期の微調整が最適な投与処方を導くことができた場合(これに限定されるものではない)の治療および/または診断において有用な作用剤であるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1】(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0086】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するものであるが、いずれの方法においても本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0087】
実施例
1.ペプチド合成
第1の保護アミノ酸残基の樹脂へのカップリング
1g(1.4 mMol)の2-クロロトリチルクロライド樹脂(1.4 mMol/g;100-200メッシュ、コポリ(スチレン-1% DVB)ポリマーマトリックス;Barlosら、Tetrahedron Lett. 1989、30、3943-3946)を乾燥させたフラスコに充填した。その樹脂をCH2Cl2(5 mL)中に懸濁し、一定の撹拌下、30分間室温にて膨潤させた。960 μl(4当量)のジイソプロピルエチルアミン(DIEA)と混合したCH2Cl2(5 mL)中の第1の適切に保護されたアミノ酸残基(下記参照)の0.98 mMol(0.7当量)の溶液を加えた。反応混合物を25℃にて4時間振とうした後、樹脂をろ去し、CH2Cl2(1x)、DMF(1x)およびCH2Cl2(1x)で連続的に洗浄した。樹脂にCH2Cl2/MeOH/DIEA(17/2/1、10 mL)の溶液を加え、懸濁液を30分間振とうした。濾過後、CH2Cl2(1x)、DMF(1x)、CH2Cl2(1x)、MeOH(1x)、CH2Cl2(1x)、MeOH(1x)、CH2Cl2(2x)、Et2O(2x)で順番に樹脂を洗浄し、6時間真空乾燥した。
ローディングは、一般に0.6〜0.7mMol/gであった。
【0088】
以下の予め充填した樹脂を調製した:
Fmoc-Pro-2-クロロトリチル樹脂
【0089】
合成は、24〜96の反応容器を用いてSyro-ペプチド合成機(Multisyntech)で行った。各容器に0.04 mMolの上記樹脂を入、樹脂をCH2Cl2およびDMF中でそれぞれ15分間膨潤させた。以下の反応サイクルを作成し、実行した:
【0090】
ステップ 試薬 時間
1 DMF、洗浄 2×1分
2 20%ピペリジン/DMF 1×5分、1×15分
3 DMF、洗浄 5×1分
4 5当量 Fmocアミノ酸/DMF
+5当量 Py-BOP/DMF、10当量 DIEA/DMF 1×60分
5 DMF、洗浄 3×1分
ステップ4を1回繰り返した。
他に特記しない限り、アミノ酸の最終カップリングに続いて、上記反応サイクルのステップ1〜3を適用することによってFmoc脱保護を行った。
【0091】
アミノ酸ビルディングブロックの合成
Fmoc-Orn(iPr,Boc)-OHの合成
(2S)-Nα-フルオレニルメトキシルカルボニル-Nω,Nω-tert-ブチルオキシカルボニル-イソプロピル-2,5-ジアミノペンタン酸の合成は、150 mL THF(0.26 M)中に15.2 gのFmoc-Orn-OH×HClを懸濁させ、次いで、375 mLのアセトン(132当量)および20.6 gのトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(2.5当量)を加えることによって達成された。反応混合物を2時間攪拌し、反応の完了(LC-MSにより監視)後、120 mLの飽和Na2CO3溶液および10.2 gのBoc2O(1.2当量)を加えた。一夜攪拌した後、残っている出発物質に照らして、飽和Na2CO3溶液およびBoc2Oを再び少しずつ2回加えた。Boc導入の完了後、ヘキサンを2回加え、分離し、次いで、水性層を5N HCl水溶液(pH=1)で水性層を酸性化し、その後、酢酸エチルで3回抽出した。最後に、合せた有機層をNa2SO4で乾燥し、蒸発させて、生成物を白色泡状物で得た。その結果として、アミノ酸ビルディングブロックFmoc-Lys(iPr,Boc)-OHを合成しうるが、あるいは市販のものを入手することもできる。
【0092】
アミノ酸ビルディングブロックFmoc-Tyr(Me)-OHおよびFmoc-DTyr(Me)-OHも同様に市販のものを入手することができる。
主鎖環化ペプチドの環化および加工
完全保護ペプチド断片の切断
合成完了後、CH2Cl2(v/v)中の1% TFA 1 mL(0.13 mMol、3.4当量)に、樹脂(0.04 mMol)を懸濁し、濾過し、ろ液をCH2Cl2(v/v)中の10% DIEA 1 mL(0.58 mMol、14.6当量)で中和した。この手順を3回繰り返し、切断を確実に完了させた。ろ液を蒸発乾固し、95%のトリフルオロ酢酸(TFA)、2.5%の水および2.5%のトリイソプロピルシラン(TIS)を含有する切断混合物を用いて、生成物のサンプルを完全に脱保護し、逆相HPLC(C18カラム)およびESI-MSによって分析して、線状ペプチド合成の効率を監視した。
【0093】
線状ペプチドの環化
完全保護線状ペプチド(0.04 mMol)を DMF(4 μMol/mL)に溶解した。次いで、30.4 mg(0.08 mMol、2当量)のHATU、10.9 mg(0.08 mMol、2当量)のHOAtおよび28 μl(0.16 mMol、4当量)のDIEAを加え、混合物を25℃にて16時間ボルテックスし、次いで、高真空下で濃縮した。残渣をCH2Cl2およびH2O/CH3CN(90/10:v/v)に分配した。CH2Cl2相を蒸発させて、完全保護環状ペプチドを得た。
【0094】
環状ペプチドの完全脱保護
得られた環状ペプチドを、82.5%トリフルオロ酢酸(TFA)、5%水、5%チオアニソール、5%フェノールおよび2.5%エタンジチオール(EDT)を含有する切断混合物に溶解した。混合物を25℃にて2.5時間静置し、その後、真空下で濃縮した。環状完全脱保護ペプチドを0℃にてジエチルエーテル(Et2O)に沈殿させた後、固体をEt2Oで2回洗浄し、乾燥した。
【0095】
ジスルフィドβ鎖結合および精製
全脱保護後、粗ペプチドを0.1 M酢酸アンモニウム緩衝液(1 mg/1 mL、pH=7-8)に溶解した。DMSO(5体積%以下)を加え、溶液を一夜振とうした。蒸発後、残渣をプレパラティブ逆相HPLCによって精製した。
【0096】
凍結乾燥後、生成物を白色粉末で得、以下の分析方法によって分析した:溶媒A(H2O+0.1% TFA)およびB(CH3CN+0.1% TFA)および溶離勾配:0-0.05分:97% A、3% B;3.4分:33% A 67% B;3.41-3.65分:3% A、97% B;3.66-3.7分:97% A、3% Bにて、Ascentis Express C18カラム、50×3.0 mm、(cod. 53811-U-Supelco)を用いて分析HPLC保持時間(RT、分)を決定した。流速=1.3 mL/分;UV-Vis=220 nm。
【実施例1】
【0097】
出発樹脂は、上記のとおり製造したFmoc-Pro-O-2-クロロトリチル樹脂であった。その樹脂に、DProを最終的に15位にグラフトした。上述の手順にしたがって、以下の配列において、固相担体上で線状ペプチドを合成した:樹脂-Pro16-DPro15-Lys(iPr)14-Gln13-Tyr12-Cys11-Tyr10-Arg9-Orn(iPr)8-DPro7-Ala6-Ser5-Cys4-Tyr3-His2-Tyr1
上述した最終的Fmoc脱保護に続いて、上述のとおり樹脂からペプチドを切断し、環化し、脱保護し、ジスルフィドβ鎖結合を形成した後、上述のとおり精製した。
上述の分析方法を用いてHPLC保持時間(分)を決定した(UV純度[プレパラティブHPLC後]:95%;RT:1.56;[M+3H]/3=685.7)。
【実施例2】
【0098】
出発樹脂は、上記のとおり製造したFmoc-Pro-O-2-クロロトリチル樹脂であった。その樹脂に、DProを最終的に15位にグラフトした。上述の手順にしたがって、以下の配列において、固相担体上で線状ペプチドを合成した:樹脂-Pro16-DPro15-Lys(iPr)14-Gln13-Tyr12-Cys11-Tyr10-Arg9-Orn(iPr)8-DPro7-Ala6-Ser5-Cys4-Tyr(Me)3-His2-Tyr1。上述した最終的Fmoc脱保護に続いて、上述のとおり樹脂からペプチドを切断し、環化し、脱保護し、ジスルフィドβ鎖結合を形成した後、上述のとおり精製した。
上述の分析方法を用いてHPLC保持時間(分)を決定した(UV純度[プレパラティブHPLC後]:95%;RT:1.7;[M+3H]/3=690.4)。
【実施例3】
【0099】
出発樹脂は、上記のとおり製造したFmoc-Pro-O-2-クロロトリチル樹脂であった。その樹脂に、DProを最終的に15位にグラフトした。上述の手順にしたがって、以下の配列において、固相担体上で線状ペプチドを合成した:樹脂-Pro16-DPro15-Lys(iPr)14-Gln13-Tyr12-Cys11-Tyr10-Arg9-Dab8-DTyr7-Ala6-Ser5-Cys4-Ala3-His2-Tyr1。上述した最終的Fmoc脱保護に続いて、上述のとおり樹脂からペプチドを切断し、環化し、脱保護し、ジスルフィドβ鎖結合を形成した後、上述のとおり精製した。
上述の分析方法を用いてHPLC保持時間(分)を決定した(UV純度[プレパラティブHPLC後]:95%;RT:1.57;[M+3H]/3=658.3)。
【実施例4】
【0100】
出発樹脂は、上記のとおり製造したFmoc-Pro-O-2-クロロトリチル樹脂であった。その樹脂に、DProを最終的に15位にグラフトした。上述の手順にしたがって、以下の配列において、固相担体上で線状ペプチドを合成した:樹脂-Pro16-DPro15-Lys(iPr)14-Gln13-Tyr12-Cys11-Tyr10-Arg9-Orn(iPr)8-DTyr(Me)7-Ala6-Ser5-Cys4-Ala3-His2-Tyr1。上述した最終的Fmoc脱保護に続いて、上述のとおり樹脂からペプチドを切断し、環化し、脱保護し、ジスルフィドβ鎖結合を形成した後、上述のとおり精製した。
上述の分析方法を用いてHPLC保持時間(分)を決定した(UV純度[プレパラティブHPLC後]:95%;RT:1.70;[M+3H]/3=681.7)。
【実施例5】
【0101】
出発樹脂は、上記のとおり製造したFmoc-Pro-O-2-クロロトリチル樹脂であった。その樹脂に、DProを最終的に15位にグラフトした。上述の手順にしたがって、以下の配列において、固相担体上で線状ペプチドを合成した:樹脂-Pro16-DPro15-Lys(iPr)14-Gln13-Tyr12-Cys11-Tyr10-Arg9-Orn(iPr)8-DTyr7-Ala6-Ser5-Cys4-Tyr3-His2-Tyr1。上述した最終的Fmoc脱保護に続いて、上述のとおり樹脂からペプチドを切断し、環化し、脱保護し、ジスルフィドβ鎖結合を形成した後、上述のとおり精製した。
上述の分析方法を用いてHPLC保持時間(分)を決定した(UV純度[プレパラティブHPLC後]:95%;RT:1.60;[M+3H]/3=707.4)。
【実施例6】
【0102】
出発樹脂は、上記のとおり製造したFmoc-Pro-O-2-クロロトリチル樹脂であった。その樹脂に、DProを最終的に15位にグラフトした。上述の手順にしたがって、以下の配列において、固相担体上で線状ペプチドを合成した:樹脂-Pro16-DPro15-Lys(iPr)14-Gln13-Tyr12-Cys11-Tyr10-Arg9-Orn(iPr)8-DTyr(Me)7-Ala6-Ser5-Cys4-Tyr(Me)3-His2-Tyr1。上述した最終的Fmoc脱保護に続いて、上述のとおり樹脂からペプチドを切断し、環化し、脱保護し、ジスルフィドβ鎖結合を形成した後、上述のとおり精製した。
上述の分析方法を用いてHPLC保持時間(分)を決定した(UV純度[プレパラティブHPLC後]:95%;RT:1.83;[M+3H]/3=717.0)。
【0103】
2.生物学的方法
2.1.ペプチドの製造
凍結乾燥したペプチドをMicrobalance(Mettler MT5)で秤量し、DMSOに溶解して最終濃度10 mMにした。貯蔵液は、+4℃に保ち、遮光した。他に特記しない限り、1%以下のDMSOを含むアッセイ条件下で生物学的アッセイを行った。
【0104】
2.2.細胞培養
ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640+10% FBS中でナマルバ細胞(CXCR4を天然に発現している非粘着細胞、ATCC CRL-1432)を培養した。ペニシリン/ストレプトマイシンおよび2 mM L-グルタミンを含むRPMI1640+10% FBS中でHELA細胞を維持した。4500 mg/mLのグルコース+10% FCS、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびグルタミンを含むDMEM培地中でCos-7細胞を増殖させた。すべての細胞を5% CO2中、37℃にて増殖させた。細胞培地、培地添加物、PBS緩衝液、HEPES、抗生物質/坑真菌薬、ペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸、L-グルタミン、β-メルカプトエタノールおよび血清は、Gibco(Pailsey、UK)から購入した。すべてのファインケミカルは、Merck(Darmstadt、Germany)によって供給された。
【0105】
2.3.走化性アッセイ(細胞遊走アッセイ)
修正ボイデンチャンバー走化性システム(ChemoTx;Neuroprobe)を用いて、ストロマ細胞由来因子1α(SDF-1)の勾配へのナマルバ細胞(ATCC CRL-1432)の走化性反応を測定した。このシステムにおいて、各ウェルの上部チャンバーは、ポリカーボネート膜(細孔径5μm)によって、化学誘引物質SDF-1を含む下部チャンバーから分離される。各底部ウェルをカバーする領域におけるその膜の循円形領域は、細胞懸濁液をこの領域内に保持するために疎水性マスクで囲まれる。SDF-1(0.9 nM)と組み合わせるか、または化学誘引物質を含まない、適当な連続希釈したペプチドを含むか、またはペプチドを少しも含まない走化性培地(フェノールレッドを含まないRPMI 1640+0.5% BSA)のアリコート30 μLで底部ウェルを充填することによってシステムを準備した。膜を底部ウェルにかぶせ、適当な連続希釈したペプチドを含むか、またはペプチドを少しも含まない走化性培地と予め混合した走化性培地中のナマルバ細胞(3.6×106細胞/mL)のアリコート50 μLを、膜の上部表面の疎水的に限定された領域のそれぞれの上に配った。5% CO2中、37℃にて5時間、細胞を底部チャンバーに遊走させた。この期間の後、膜を移動させ、その上側を慎重に拭き、PBSで洗浄して遊走しなかった細胞を取り除いた。受取り用96ウェルプレートへの漏斗型アダプターを用いて遊走細胞を移動させ、蛍光色素結合を介する細胞DNA含量の測定に基づくCyQuant(商標) NF 細胞増殖アッセイ(Invitrogen)を用いることによって細胞数を決定した。使用説明書にしたがって、上述の受取り用96ウェルプレートの各ウェルに、50 μLのCyQuant(商標)色素試薬/HBSS緩衝液(1/500 [v/v])を加えた。室温にて0.5時間インキュベートした後、プレートを密封し、Wallac 1420 VICTOR2(商標)プレートリーダー(PerkinElmer)を用い、485 nmにおける励起および535 nmにおける放出を検出することによって各サンプルの蛍光強度を測定した。最後に、コントロールを用いることによってデータを標準化し、GraphPad Prism(商標)(GraphPad)を用い、対数曲線を平均データポイントにフィッティングさせることにより、IC50値を決定した。
【0106】
2.4.細胞毒性アッセイ
MTT還元アッセイ(T. Mossman、J. Immunol. Meth. 1983、65、55-63;M.V. Berridge、A.S. Tan、Arch. Biochem. Biophys. 1993、303、474-482)を用いて、HELA細胞(Acc57)およびCOS-7細胞(CRL-1651)へのペプチドの細胞毒性を決定した。簡単に言えば、この方法は、以下の通りであった:4000個のHELA細胞/ウェルおよび3400個のCOS-7細胞/ウェルを播種し、5% CO2下、96ウェルマイクロタイタープレート中、37℃にて24時間増殖させた。その後、MTT還元(下記参照)よってゼロ時間(Tz)を決定した。残っているウェルの上清を捨て、連続希釈した新鮮な培地および化合物(12.5、25および50 μM、3回測定;0 μM、ブランク)をピペットでウェルに加えた。5% CO2下、37℃にて48時間細胞をインキュベートした後、上清を再び捨て、100 μL MTT試薬(RPMI1640およびDMEM中、それぞれ0.5 mg/mL)/ウェルを加えた。37℃にて2-4時間インキュベートした後、培地を吸引し、細胞をスパイク(spike)した(100 μLイソプロパノール/ウェル)。595 nmにて、可溶化したホルマザンの吸光度を測定した(OD595ペプチド)。各濃度について3回測定値から平均を算出した。増殖の比率は次のようにして算出した:(OD595ペプチド-OD595Tz)/(OD595ブランク-OD595Tz) x 100%。濃度(50、25、12.5および0μM)、対応するパーセンテージおよび値50(=TREND(C50:C0,%50:%0,50)に対してトレンドライン関数を用いることによって、各ペプチドについて、GI50(増殖阻害)濃度を算出した。
【0107】
2.5.溶血
ペプチドを、ヒト赤血球(hRBC)に対するその溶血活性について試験した。新鮮なhRBCをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で4回洗浄し、3000×gで10分間遠心分離した。化合物(100 μM)を20% hRBC(v/v)とともに37℃にて1時間インキュベートし、300 rpmにて振とうした。最終赤血球濃度はおよそ0.9 x 109細胞/mLであった。0%および100%細胞溶解のそれぞれの値は、H2O中0.001%酢酸および2.5% Triton X-100をそれぞれ含むPBSの存在下でインキュベートすることにより決定した。サンプルを遠心分離し、上清をPBS緩衝液で8倍希釈し、540 nMにおける光学密度(OD)を測定した。100%溶血の値(OD540H2O)は、およそ0.5-1.0であった。溶血率は次のように計算した:(OD540peptide/OD540H2O) x 100%。
【0108】
2.6.血漿安定性
次の方法を適用することによって、ヒトおよびマウス血漿中のペプチドの安定性を決定した:346.5 μL/ディープウェルの新たに解凍したヒト血漿(Basler Blutspende-dienst)およびマウス血漿(Harlan Sera-Lab、UK)をそれぞれ、DMSO/H2O(90/10 [v/v]、1 mM、3回測定)中に溶解した3.5 μL/ウェルの化合物でスパイクし、37℃にてインキュベートした。t=0、15、30、60、120、240および1440分にて、50 μLのアリコートを、ギ酸の2%アセトニトリル溶液150 μL/ウェルを含むろ過プレートに移した。2分間振とうした後、発生した懸濁液を真空ろ過した。各ろ液100 μLをプロピレンマイクロタイタープレートに写し、窒素下で乾燥した。100 μL/ウェルの水/アセトニトリル、95/5(v/v)+0.2%ギ酸を加えて残留固体を戻し(reconstitute)、LC/MSによって次のとおり分析した:カラム:Waters、XBridge C18、移動相:(A)水+0.1%ギ酸および(B)アセトニトリル/水、95/5(v/v)+0.1%ギ酸、勾配:1.8分間で5%-100%(B)、エレクトロスプレーイオン化、MRM検出(三連四重極)。ピーク面積を決定し、3回測定値を平均した。安定性は、t=0における初期値に対するパーセント、(tx/t0 x 100)で表す。エクセルのトレンド関数を用いることによって、T1/2を決定した。
【0109】
2.7.血漿タンパク質結合
ヒト血漿(Basler Blutspendedienst)の495 μLのアリコートならびにPBSの495 μLのアリコートをポリプロピレンプレート(Greiner)の個別の深いウェルに置き、90% DMSO中の1 mMペプチド溶液5 μLでそれぞれスパイクした。プレートを600 rpmにて2分間振とうした後、血漿/ペプチド混合物の150 μLのアリコートは、三重反復でポリプロピレンフィルタープレート(10 kDa、Millipore)に移し、一方、PBS/ペプチド混合物の150 μLのアリコートは、フィルタープレートの個々のウェル(ろ過コントロール)移すか、または受取り用プレートの個々のウェル(Greiner)(非ろ過コントロール)に直接移すかのいずれかで処理した。フィルターおよび受取りプレートからなるプレートサンドイッチを37℃にて1時間インキュベートし、次いで、15℃にて2時間遠心分離した。受取りプレート中のろ液をLC/MSによって次のとおり分析した:カラム:Waters、XBridge C18、移動相:(A)水+0.1%ギ酸および(B)アセトニトリル/水、95/5(v/v)+0.1%ギ酸、勾配:1.8分間で5%-100%(B)、エレクトロスプレーイオン化、MRM検出(三連四重極)。ピーク面積を決定し、3回測定値を平均した。結合は、ろ過および非ろ過コントロールに対するパーセント、100-(100x T1h/Tctr)で表す。最後に、これらの平均を算出する。
2.3〜2.7の結果を、下記表1、2、3および4に示す。
【0110】
2.8. 薬物動態研究(PK)
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5および実施例6の化合物について、静脈内(i.v.)投与後の薬物動態研究を行った。
Charles River Laboratories Deutschland GmbHから入手した30グラム(±20%)の雄性CD-1マウスを用いた。ビヒクルであるリン酸緩衝生理食塩水を加えて、化合物の最終濃度を0.5 mg/mLとした。容量は、2 mL/kgであり、最終静脈内用量が1 mg/kgとなるように化合物を注入した。軽度のイソフルラン麻酔下で、心臓穿刺によって、所定の時間間隔(5、15、30分および1、2、3、4時間)で、およそ300-400 μLの血液を採取し、ヘパリンチューブに加えた。血漿を、遠心分離によりペレット化細胞から分離し、HPLC-MS分析の前まで-80℃で冷凍した。
【0111】
血漿キャリブレーション-および血漿研究サンプル-の調製
1〜4000 ng/mLの範囲で、各化合物について10個の血漿キャリブレーションサンプルを得るために、非処理動物のマウス血漿(“ブランク”マウス血漿)の各50 μLのアリコートを、既知量の実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5および実施例6の化合物でスパイクした。処理動物からのマウス血漿各50 μLのアリコートを血漿研究サンプルとして用いた。
【0112】
血漿キャリブレーション-および血漿研究サンプル-の抽出
すべての血漿サンプルを適当な内部標準でスパイクし、2%ギ酸含有アセトニトリルで抽出した。窒素下で上清を蒸発乾固し、残留固体を水/アセトニトリル95/5(v/v)+0.2%ギ酸中で戻した(reconstituted)。
【0113】
LC-MS/MS分析
次いで、次の条件:実施例1、移動相:(A)水/アセトニトリル 95/5(v/v)+0.1%ギ酸、(B)アセトニトリル/水 95/5(v/v)+0.1%ギ酸、勾配:実施例1について、1%(B) 0-0.1分;実施例2、実施例3、実施例4、実施例5および実施例6について、15%(B) 0.1-2.5分および1%(B) 0-0.1分、40%(B) 0.1-2.5分を用いる逆相クロマトグラフィーy(実施例1について、Acquity BEH C18、100 x 2.1 mm、1.7 μmカラム、Waters;および実施例2、実施例3、実施例4、実施例5および実施例6について、Acquity HSS C18 SB、100 x 2.1 mm、1.8 μmカラム、Waters)によって抽出物を分析した。ポジティブモードでのエレクトロスプレーインターフェースおよび分析物の選択的断片化を用いる質量分析によって、検出および定量を行った(4000 Q Trap質量分析計、AB Sciex)。
【0114】
薬物動態評価
1コンパートメントモデル解析を用いるWinNonLin(商標)ソフトウェア・バージョン5.3(Pharsight-A Certara(商標) Company、Moutain View、CA 94041 USA)によって、PKパラメーターを算出した。実験データに対する最小二乗フィッティングによって、PKパラメーターを決定した。
2.8に記載した実験の結果を、下記表5aおよび5bに示す。
【0115】
2.9.維持投与速度(注入速度)による薬物充填算出
特定の投与量の定常状態に到達するために薬物が投与されるべき速度として維持投与速度(注入速度、Rin)を定義することができる薬物動態学の基本的な原理(J. Gabrielsson、D. Weiner、「Pharmacokinetics and Pharmaco-dynamics Data Analysis:Concepts and Applications」、4th edition、Swedish Pharmaceutical Press、Stockholm、Sweden、2006も参照)にしたがって、本発明のペプチドを含むインプラントのための薬物充填を計算した。維持投与速度は、相関式:
Rin [g/(h×kg)]=CLiv [L/(h×kg)] x Css,eff [g/L]
[ここで、CLivは、クリアランス(静脈内投与)であり、Css,effは、効力マージンA:を考慮した定常状態における血漿中の薬物の有効濃度である:Css,eff [g/L]=A x(IC50/fu) x MW [(mol/L)×(g/mol)]]
を用いて表すことができる。したがって、特定の体重の患者において特定の期間血漿中の薬物の一定有効濃度を提供するためのインプラントへの薬物充填の総量は、相関式:
Drugload [g/患者]=Rin [g/(h×kg)] x 期間[時間] x BW [kg/患者]
を適用することによって計算することができる。
【0116】
2.9に記載の計算の結果を、下記表6に示すが、これは、表1、4および5bに示すデータに基づいている。さらなる前提条件は、効力マージンA=3、試験期間:672時間(28日間)およびヒト患者の体重:70 kgである。ペプチドのクリアランスに主として影響を及ぼす糸球体ろ過率(GFR)は、種(species)によって大きく変わる。一般に、ヒトのGFRは、平均して、107 mL/(h×kg)であり、マウスのGFRは、840 mL/(h×kg)である。したがって、表5bに示されるCLiv-マウス値は、上述の相関に用いる前に、107 mL/(h×kg)/840 mL/(h×kg)=0.127によってアロメトリックスケーリングされた。
【0117】
3.0.マウスにおけるHSC動員
実施例1および実施例2の化合物について、投与後の最大動員の時間を評価するための時間-応答試験および用量-反応試験からなるHSC動員試験を行った。
時間-応答試験
雄性C57Bl/6マウス(Janvier、フランス;実施例1には、n=5、実施例2には、n=3)は、0.9% NaClを含んでいる水の10 μL/マウス体重に溶解した実施例1および実施例2の化合物それぞれ(5 mg/kg)をボーラス腹腔内注射にて受けた。投与後0、0.5、1、2、4、6および8時間の時点で、頬袋から血液をEDTAコーティングしたチューブに採取した。下記のCFU-Cアッセイを行うことによって、培養物中のコロニー形成ユニットカウント(CFU-Cカウント)を決定した。実施例1および実施例2の化合物についての時間-応答試験の結果を、表7aおよび7bに示す。
用量-反応試験
雄性C57Bl/6マウス(Janvier、フランス;実施例1には、投与グループ当たりn=5、実施例2には、投与グループ当たりn=3)は、0.9% NaClを含んでいる水の10 μL/マウス体重に溶解した実施例1および実施例2の化合物それぞれ0.5、1.5、5および15 mg/kgをボーラス腹腔内注射にて受けた。それぞれ実施例1(4時間)および実施例2(2時間)について、最大動員の時点で、上述のとおり血液を採取した。実施例1および実施例2の化合物についての用量-反応試験の結果を、表8aおよび8bに示す。
【0118】
CFU-Cアッセイ
標準の半固体の前駆細胞培養内地中で溶解した末梢血のアリコートを培養することによって、CFU-Cカウントを決定した。簡単に言えば、既定量の血液を、0.5%ウシ血清アルブミンを含むPBS緩衝液(Gibco(登録商標))で洗浄し、次いで、低張NH4Cl緩衝液(Sigma)で赤血球溶解を行い、第二の洗浄ステップを行う。細胞ペレットを、10% FCSを含んでいるDMEM(Gibco(登録商標))中に再懸濁させ、市販のマウス細胞用サイトカイン充満メチルセルロース培地(Cell Systems、USA)2 mLに懸濁させ、次いで、二回反復で35 mm細胞培養皿に置いた。標準的条件(20% O2、飽和湿度、5% CO2、37℃)下で7-8日インキュベートした後に、CFU-Cを評点した。自動血液細胞計数機(Drew Scientific)を用いて、末梢血細胞充実度を分析した。
Log10用量-反応曲線およびED50
表8aおよび8bそれぞれに示す1.5、5および15 mg/kgの用量についてのCFU/mL-値に基づく実施例1および実施例2の化合物のLog10用量-反応曲線を図1に示し、GraphPad Prism、version 5.03にてシグモイド用量-反応フィッティング関数を用いてフィッティングを行った。両方の化合物の曲線の進行を考慮して、用量-反応曲線は、最大応答4000 CFU/mLに制約される。したがって、表9に示されるED50-値は、2000 CFU/mLの応答に対応する。
【0119】
表1
【0120】
表2
【0121】
表3
【0122】
表4
【0123】
表5a
【0124】
表5b
【0125】
表6
【0126】
表7a

表7b
【0127】
表8a

表8b
【0128】
表9
図1