特許第5957546号(P5957546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957546
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】導電性組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20160714BHJP
   H01L 31/068 20120101ALI20160714BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160714BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20160714BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20160714BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160714BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   H01L31/04 264
   H01L31/06 300
   H01B1/22 A
   H01L21/28 301R
   C08L83/04
   C08L101/00
   C08K3/40
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-1855(P2015-1855)
(22)【出願日】2015年1月7日
(65)【公開番号】特開2016-127212(P2016-127212A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2015年5月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】佐合 佑一朗
(72)【発明者】
【氏名】小池 智久
(72)【発明者】
【氏名】杉山 高啓
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−135190(JP,A)
【文献】 特開2014−116727(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/103896(WO,A1)
【文献】 特開2014−088466(JP,A)
【文献】 特開2012−023095(JP,A)
【文献】 特開2007−224191(JP,A)
【文献】 特開2013−232609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078
C08K 3/40
C08L 83/04
C08L 101/00
H01B 1/22
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を形成するための導電性組成物であって、
導電性粉末と、
ガラスフリットと、
シリコーン樹脂と、
有機バインダと、
分散媒と、を含み、
前記ガラスフリットは、酸化物換算したときのSiO成分の割合が0質量%以上5質量%以下であり、
前記シリコーン樹脂の重量平均分子量は90000以下である、導電性組成物。
【請求項2】
前記導電性粉末100質量部に対する前記シリコーン樹脂の割合は、0.005質量部以上0.9質量部以下である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂の重量平均分子量は3000以上90000以下である、請求項1または2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記導電性粉末を構成する金属種が、ニッケル、白金、パラジウム、銀、銅およびアルミニウムからなる群から選択されるいずれか1種または2種以上の元素を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記導電性粉末の平均粒子径は、1μm以上3μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記有機バインダは、前記導電性粉末の質量を100質量%としたとき、1質量%以上10質量%以下の割合で含まれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項7】
前記ガラスフリットの軟化点は300℃以上600℃以下であり、
前記軟化点以上の温度での焼成により前記電極を形成するために用いられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性組成物の焼成物である電極を備えている、半導体素子。
【請求項9】
半導体基板の受光面に、請求項1〜のいずれか1項に記載の導電性組成物の焼成物である受光面電極を備えている、太陽電池素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物に関する。より詳細には、太陽電池の電極パターンを形成するために用いることができる導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりや省エネルギーの観点から太陽電池の普及が急速に進んでおり、それにともなって従来よりも高性能なセル構造、即ち光電変換効率が良好で高出力なセル構造の太陽電池が求められている。この要求を実現するための一つの方策として、太陽電池のセル単位面積あたりの受光面積を拡大することが挙げられる。例えば、受光面積を拡大するための一つの手段として、受光面に形成されている線状電極の細線化(ファインライン化)が望まれている。
【0003】
現在主流となっている所謂結晶シリコン型太陽電池の受光面には、典型的には、銀等の電導体によって形成されている細線からなるフィンガー(集電用)電極と、該ファインガー電極に接続するバスバー電極とが設けられている。以下、これら電極を総称して受光面電極ともいう。このような受光面電極は、導体成分としての銀等の導電性粉末と、有機バインダおよび溶剤からなる有機ビヒクル成分とを含み、ペースト状(スラリー状、インク状を包含する。)に調製された材料(以下、「導電性組成物」、単に「組成物」等ともいう。)を、スクリーン印刷法等の手法により所定の電極パターンで太陽電池(セル)の受光面に印刷し、焼成することで形成されている。このような太陽電池の受光面電極を形成するために用いられる導電性組成物に関する従来技術として、例えば、特許文献1〜3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−087251号公報
【特許文献2】特開2012−023095号公報
【特許文献3】特表2012−508812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、太陽電池の電極形成用の導電性組成物には、上記の構成材料の他に、ガラスフリットが含まれることがある。ガラスフリットは、焼成中に軟化または溶融して基板と電極との良好な結合を実現する無機バインダとして機能し得る。そして、太陽電池の製造においては、導電性組成物がガラスフリットを含むことで、良好なファイヤースルー特性を発現する。すなわち、太陽電池の製造に際しては、典型的には、まず、シリコン基板の受光面のほぼ全面に反射防止膜を形成しておき、この反射防止膜上に受光面電極形成用の導電性組成物を所望の電極パターンで供給して、焼成している。このとき、導電性組成物中のガラスフリットは、焼成中に反射防止膜と反応してこれをガラス中に取り込む。これにより、導電性組成物中の導電性粉末が反射防止膜を通り抜けて(ファイヤースルー)、シリコン基板との良好な電気的接続(オーミックコンタクト)を実現する。このように導電性組成物のファイヤースルー特性を利用すると、微細な受光面電極の形成に際して、反射防止膜を部分的に除去する必要等が無くなり簡便であるとともに、反射防止膜の除去部分と受光面電極の形成位置との間に隙間や重なりが生まれる心配がなくなり好適である。
【0006】
また、太陽電池の受光面においては、受光面電極が形成された部分は遮光部分(非受光部分)となる。このため、受光面電極を従来よりも細線化(ファインライン化)すれば、セル単位面積あたりの受光面積が拡大されて、セル単位面積あたりの出力を向上させることができる。しかしながら、このとき、細線化された分だけ電極を嵩高く(厚く)しなければ電極のライン抵抗が増加し、太陽電池の出力特性が低下してしまう。従って、受光面電極のファインライン化には、電極厚みの向上、即ち高アスペクト比(電極における厚みと線幅との比:厚み/線幅が大きいこと。以下同じ。)であることが同時に求められる。
【0007】
しかしながら、従来の導電性組成物については、上述の電極の良好なオーミックコンタクトおよびファインライン化を両立するとの観点において、更なる改善が期待されている。
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電極パターンの細線化および高アスペクト比化の実現が可能で、かつ、電極と基板との接点を良好に形成できる、電極形成用の導電性組成物を提供することである。また、この導電性組成物の採用により実現され得る、機能あるいは性能が向上された半導体素子、例えば、太陽電池素子を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を実現するべく、本発明によって、電極(電極パターン)を形成するために好適に用いることができる導電性組成物が提供される。この導電性組成物は、導電性粉末と、ガラスフリットと、シリコーン樹脂と、有機バインダと、分散媒と、を含み、上記ガラスフリットは、酸化物換算したときのSiO成分の割合が0質量%以上5質量%以下であることを特徴としている。
【0009】
ここに開示される導電性組成物は、ガラスフリットを含んでいることから、基板との接合性が良好な電極を形成することができ、また、太陽電池用電極の形成に際しては、反射防止膜の上に供給された場合であっても、ファイヤースルーにより好適に電極と基板との接点を形成することができる。延いては良好なオーミックコンタクトを実現することができる。さらに、この導電性組成物はシリコーン樹脂を含むことから、微細で高アスペクト比の電極を安定して形成することが可能となる。ここで、ガラスフリットやシリコーン樹脂に由来するSiO成分は、電極中に絶縁性の抵抗成分を増大させ得る点で好ましくない。そこで、ここに開示される技術においては、ガラスフリットがSiO成分を含まないか、あるいは、ガラスフリット中のSiO成分の割合を上記のとおり制限することで、電極特性を損ねることなく、良好なファイヤースルー特性、電極形状安定性を高いレベルで両立するようにしている。
【0010】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記導電性粉末100質量部に対する上記シリコーン樹脂の割合は、0.005質量部以上0.9質量部以下であることを特徴としている。このような構成により、高アスペクト比の電極を形成できると共に、より電気特性の良好な電極を形成することが可能とされる。
【0011】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記シリコーン樹脂の重量平均分子量は3000以上90000以下であることを特徴としている。このような構成により、シリコーン樹脂を添加しない場合と比較して、電極のライン抵抗等の電気特性をより一層高めることができる。
【0012】
ここで開示される導電性組成物の好ましい一態様において、上記導電性粉末を構成する金属種が、ニッケル、白金、パラジウム、銀、銅およびアルミニウムからなる群から選択されるいずれか1種または2種以上の元素を含むことを特徴としている。このような構成により、導電性に優れた電極を構成することができる。
【0013】
本発明は、上記の目的を実現するための他の側面において、上記いずれかに記載の導電性組成物を用いて形成された電極を備えている半導体素子をも提供する。この半導体素子は、典型的には、上記導電性組成物を用いて形成された受光面電極を備えている太陽電池素子であり得る。
本発明の導電性組成物は、具体的には、例えば、半導体基板の受光面上にスクリーン印刷法等により供給された場合に、ライン幅のより微細な電極パターンおよび電極を、嵩高く(高アスペクト比で)形成することができる。そのため、例えば、各種の半導体素子の電極パターンの印刷において更なるファインライン化を実現することができ、半導体素子の更なる小型化および高集積化がなされた高性能な半導体素子が実現される。また、例えば、太陽電池素子の受光面電極の形成に適用することで、受光面の単位面積あたりの受光量を増大させることができ、より多くの電力を発生させられるために特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】太陽電池の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図2】太陽電池の受光面に形成された電極のパターンを模式的に示す平面図である。
図3】一実施形態における導電性組成物中のシリコーン樹脂の重量平均分子量と、形成された電極の断線数およびアスペクト比との関係を示したグラフである。
図4】一実施形態における導電性組成物中のシリコーン樹脂の重量平均分子量と、形成された電極のライン抵抗との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここで開示される導電性組成物は、典型的には、焼成することにより電極を形成することができる導電性組成物である。この導電性組成物は、本質的に、従来のこの種の導電性組成物と同様に、導電性粉末と、ガラスフリットと、これらの構成要素を分散させるための有機ビヒクル成分(後述するが、有機バインダと分散剤との混合物)とを含み、さらに、シリコーン樹脂を必須の構成要素として含むことで構成されている。以下、これらの各構成要素について説明する。
【0017】
該ペーストの固形分の主体をなす導電性粉末としては、用途に応じた所望の導電性およびその他の物性等を備える各種の金属またはその合金等からなる粉末を考慮することができる。かかる導電性粉末を構成する材料の一例としては、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),白金(Pt),パラジウム(Pd),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),オスミウム(Os),ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)等の金属およびそれらの合金、カーボンブラック等の炭素質材料、LaSrCoFeO系酸化物(例えばLaSrCoFeO)、LaMnO系酸化物(例えばLaSrGaMgO)、LaFeO系酸化物(例えばLaSrFeO)、LaCoO系酸化物(例えばLaSrCoO)等として表わされる遷移金属ペロブスカイト型酸化物に代表される導電性セラミックス等が例示される。なかでも、白金,パラジウム,銀等の貴金属の単体およびこれらの合金(Ag−Pd合金、Pt−Pd合金等)、およびニッケル,銅,アルミニウムならびにその合金等からなるものが、特に好ましい導電性粉末を構成する材料として挙げられる。なお、比較的コストが安く、電気伝導度が高い等の観点から、銀およびその合金からなる粉末(以下、単に「Ag粉末」ともいう。)が特に好ましく用いられる。以下、本願発明の導電性組成物について、導電性粉末としてAg粉末を用いる場合を例として、説明を行う。
【0018】
Ag粉末その他の導電性粉末の粒径については特に制限はなく、用途に応じた種々の粒径のものを用いることができる。典型的には、レーザ・散乱回折法に基づく平均粒子径が5μm以下のものが適当であり、平均粒子径が3μm以下(典型的には1〜3μm、例えば1〜2μm)のものが好ましく用いられる。
【0019】
導電性粉末を構成する粒子の形状は特に限定されない。典型的には、球状、麟片状(フレーク状)、円錐状、棒状のもの等を好適に使用することができる。充填性がよく緻密な受光面電極を形成しやすい等の理由から、球状もしくは鱗片状の粒子を用いることが好ましい。使用する導電性粉末としては、粒度分布のシャープな(狭い)ものが好ましい。例えば、粒子径10μm以上の粒子を実質的に含まないような粒度分布のシャープな導電性粉末が好ましく用いられる。この指標としてレーザ散乱回折法に基づく粒度分布における累積体積10%時の粒径(D10)と累積体積90%時の粒径(D90)との比(D10/D90)が採用できる。粉末を構成する粒径が全て等しい場合はD10/D90の値は1となり、逆に粒度分布が広くなる程このD10/D90の値は0に近づくことになる。D10/D90の値が0.2以上(例えば0.2以上0.5以下)であるような比較的狭い粒度分布の粉末の使用が好ましい。
このような平均粒子径及び粒子形状を有する導電性粉末を用いた導電性組成物は、導電性粉末の充填性がよく、緻密な電極を形成し得る。このことは、細かい電極パターンを形状精度よく形成するにあたって有利である。
【0020】
なお、Ag粉末等の導電性粉末は、その製造方法等により特に限定されない。例えば、周知の湿式還元法、気相反応法、ガス還元法等によって製造された導電性粉末(典型的にはAg粉末)を必要に応じて分級して用いることができる。かかる分級は、例えば、遠心分離法を利用した分級機器等を用いて実施することができる。
【0021】
ガラスフリットは、上記導電性粉末の無機バインダとして機能し得る成分であり、導電性粉末を構成する導電性粒子同士や、導電性粒子と基板(電極が形成される対象)との結合性を高める働きをする。また、この導電性組成物が例えば太陽電池の受光面電極の形成に用いられる場合には、このガラスフリットの存在により、導電性組成物が下層としての反射防止膜を焼成中に貫通することが可能となり、基板との良好な接着および電気的コンタクトを実現することができる。
このようなガラスフリットは、導電性粉末と同等かそれ以下の大きさに調整されていることが好ましい。例えば、レーザ・散乱回折法に基づく平均粒子径が4μm以下であることが好ましく、好適には2μm以下、典型的には0.1μm以上3μm以下程度であることがより好ましい。
【0022】
なお、ガラスフリットの組成については、酸化物換算したときのSiO成分の割合が0質量%以上5質量%以下(例えば5質量%未満)のものを用いることができる。SiO成分は、系の安定性を高め、またファイヤースルー時の浸食性を調整し得るという点でガラスフリットに含まれていることが好ましい。しかしながら、ここに開示される技術においては、後述のシリコーン樹脂を必須の構成成分として含むようにしており、このシリコーン樹脂は焼成中にSiO成分を形成する。過剰なSiO成分はガラスフリットの軟化点を高め、ファイヤースルー時の導電性組成物の侵食性を低減させ得る。また、より低温での焼成による電極形成が不可能となると、電極性能にも悪影響を与え得る。そこでここに開示される技術においては、ガラスフリットのSiO成分の割合を上記のとおり極少ない量に制限するようにしている。ガラスフリット中のSiO成分は、4質量%以下であることが好ましく、例えば3質量%以下とすることができる。なお、ガラスフリット中のSiO成分は0質量%(すなわち、SiO成分を含まない)であっても良い。
【0023】
ガラスフリットに含まれる他の成分については特に制限はなく、各種の組成のガラスを用いることができる。例えば、おおよそのガラス組成として、当業者が慣用的に表現している呼称である、いわゆる、鉛系ガラス、鉛リチウム系ガラス、亜鉛系ガラス、ボレート系ガラス、ホウケイ酸系ガラス(ただしSi量は制限される)、アルカリ系ガラス、無鉛系ガラス、テルル系ガラス、および、酸化バリウムや酸化ビスマス等を含有するガラス等であってよい。これらのガラスは、改めて言うまでもなく、上記呼称に現れる主たるガラス構成元素の他に、Si(ただしSi量は制限される)、Pb,Zn,Ba,Bi,B,Al,Li,Na,K,Rb,Te,Ag,Zr,Sn,Ti,W,Cs,Ge,Ga,In,Ni,Ca,Cu,Mg,Sr,Se,Mo,Y,As,La,Nd,C,Pr,Gd,Sm,Dy,Eu,Ho,Yb,Lu,Ta,V,Fe,Hf,Cr,Cd,Sb,F,Mn,P,CeおよびNbからなる群から選択された1つまたは複数の元素を含んでいてもよい。このようなガラスフリットは、例えば、一般的な非晶質ガラスの他、一部に結晶を含む結晶化ガラスであってもよい。また、ガラスフリットは、全体としてのSiO成分が上記のとおり調整されていれば、1種の組成のガラスフリットを単独で用いても良いし、2種以上の組成のガラスフリットを混合して用いても良い。
【0024】
ガラスフリットを構成するガラスの軟化点は、特に限定されるものではないが、300〜600℃程度(例えば400〜500℃)であることが好ましい。このように軟化点が300℃以上600℃以下の範囲内に調整され得るガラスとしては、具体的には、例えば、以下に示す元素を組み合わせて含むガラスが挙げられる。B−Si−Al系ガラス,Pb−B−Si系ガラス,Si−Pb−Li系ガラス,Si−Al−Mg系ガラス,Ge−Zn−Li系ガラス,B−Si−Zn−Sn系ガラス,B−Si−Zn−Ta系ガラス,B−Si−Zn−Ta−Ce系ガラス,B−Zn−Pb系ガラス,B−Si−Zn−Pb系ガラス,B−Si−Zn−Pb−Cu系ガラス,B−Si−Zn−Al系ガラス,Pb−B−Si−Ti−Bi系ガラス,Pb−B−Si−Ti系ガラス,Pb−B−Si−Al−Zn−P系ガラス,Pb−Li−Bi−Te系ガラス,Pb−Si−Al−Li−Zn−Te系ガラス,Pb−B−Si−Al−Li−Ti−Zn系ガラス,Pb−B−Si−Al−Li−Ti−P−Te系ガラス,Pb−Si−Li−Bi−Te系ガラス,Pb−Si−Li−Bi−Te−W系ガラス,P−Pb−Zn系ガラス,P−Al−Zn系ガラス,P−Si−Al−Zn系ガラス,P−B−Al−Si−Pb−Li系ガラス,P−B−Al−Mg−F−K系ガラス,Te−Pb系ガラス,Tr−Pb−Li系ガラス,V−P−Ba−Zn系ガラス,V−P−Na−Zn系ガラス,AgI−AgO−B−P系ガラス,Zn−B−Si−Li系ガラス,Si−Li−Zn−Bi−Mg−W−Te系ガラス,Si−Li−Zn−Bi−Mg−Mo−Te系ガラス,Si−Li−Zn−Bi−Mg−Cr−Te系ガラスなど。このような軟化点を有するガラスフリットを含有する導電性組成物は、例えば、太陽電池素子の受光面電極を形成する際に用いると、良好なファイヤースルー特性を発現して高性能な電極形成に寄与するために好ましい。
【0025】
シリコーン樹脂は、ここに開示される導電性組成物に含まれる必須の構成成分として特徴的である。このシリコーン樹脂を含有することで、かかる導電性組成物は、例えば印刷から焼成時に亘り形状を安定して保つことができ、より微細で高アスペクト比の電極を安定して形成することが可能となる。また、シリコーン樹脂は、焼成により電極中にSiO成分を生成し得る。かかるSiO成分は、ガラスフリットの軟化点を直接的に高めることなく、系の安定性および電極と基板との結着性を高め得る点で好ましい。
【0026】
このシリコーン樹脂(単にシリコーン(silicone)とも呼ばれ得る)としては、ケイ素(Si)を含む有機化合物を特に制限なく使用することができ、例えば、シロキサン結合(Si−O−Si)による主骨格を有する有機化合物を好ましく使用することができる。例えば、主骨格における未結合手(側鎖、末端)にアルキル基またはフェニル基等を導入した直鎖型シリコーンであってもよい。また、ポリエーテル基、エポキシ基、アミン基、カルボキシル基、アラルキル基、水酸基等の他の置換基を側鎖、末端、または両者に導入した直鎖変性シリコーンであってもよいし、ポリエーテルをシリコーンと交互に結合させた直鎖状のブロック共重合体であってもよい。
【0027】
このようなシリコーン樹脂は、重量平均分子量(以下、単に「Mw」と示す場合がある)が高くなるほど高アスペクト比の電極を形成し得るために好ましい。しかしながら、Mwがおおよそ11万程度になると、得られる電極の断線等の欠陥を招いたり、抵抗を高めたりしてしまうために好ましくない。このような観点から、例えば、Mwは9万以下であるのが好ましく、7万以下であるのがより好ましく、6万以下であるのが特に好ましい。Mwの下限は特に制限されないが、例えば千以上とすることができ、3千以上であるのが好ましく、5千以上であるのがより好ましく、1万以上、例えば2万以上であるのが特に好ましい。
【0028】
以上の導電性粉末等の構成要素を分散させる有機ビヒクル成分としては、所望の目的に応じて、従来よりこの種の導電性組成物に用いられている各種のものを特に制限はなく使用することができる。典型的には、ビヒクルは、種々の組成の有機バインダと有機溶剤とから構成される。かかる有機ビヒクル成分において、有機バインダは全てが有機溶剤に溶解していても良いし、一部のみが溶解または分散(いわゆるエマルジョンタイプの有機ビヒクルであり得る。)していても良い。
有機バインダとしては、例えば、エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリブチルメタクリレート,ポリメチルメタクリレート,ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等をベースとする有機バインダが好適に用いられる。特にセルロース系高分子(例えばエチルセルロース)が好ましく、特に良好なスクリーン印刷を行うことができる粘度特性を実現することができる。
【0029】
有機ビヒクルを構成する溶媒として好ましいものは、沸点がおよそ200℃以上(典型的には約200〜260℃)の有機溶媒である。沸点が凡そ230℃以上(典型的にはほぼ230〜260℃)の有機溶媒がより好ましく用いられる。このような有機溶剤としては、ブチルセロソルブアセテート,ブチルカルビトールアセテート(BCA:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール(BC:ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のエーテル系溶剤、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン,キシレン,ミネラルスピリット,ターピネオール,メンタノール,テキサノール等の有機溶媒を好適に用いることができる。特に好ましい溶剤成分として、ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられる。
【0030】
導電性組成物に含まれる各構成成分の配合割合は、電極の形成方法、典型的には印刷方法等によっても異なり得るが、概ね、従来より採用されている組成の導電性組成物に準じた配合割合とすることができる。一例として、例えば、以下の配合を目安に各構成成分の割合を決定することができる。
すなわち、導電性組成物中に占める導電性粉末の含有割合は、ペースト全体を100質量%としたとき、およそ70質量%以上(典型的には70質量%〜95質量%)とすることが適当であり、より好ましくは80質量%〜90質量%程度、例えば85質量%程度とすることが好ましい。導電性粉末の含有割合を高くすることは、形状精度がよく緻密な電極のパターンを形成するという観点から好ましい。一方、この含有割合が高すぎると、ペーストの取扱性や、各種の印刷性に対する適性等が低下することがある。
【0031】
シリコーン樹脂は、導電性粉末に対して極少量でも添加することで、電極をより高アスペクト比のものとして形成し得るために好ましい。例えば、導電性粉末を100質量部としたとき、シリコーン樹脂の添加量は、典型的には0.005質量部以上とすることができ、0.01質量部以上とするのが好ましく、0.1質量部以上とするのがより好ましい。なお、過剰な添加は形成される電極の抵抗を高めるために好ましくない。そのため、シリコーン樹脂の添加量は、導電性粉末を100質量部としたとき典型的には1.2質量部以下とすることができ、0.9質量部以下とするのが好ましく、0.8質量部以下とするのがより好ましい。
【0032】
導電性粉末に対するガラスフリットの割合は、シリコーン樹脂との関係もあるため一概には言えないが、良好なファイヤースルー特性を得るために、導電性粉末を100質量部としたとき、典型的には0.1質量部以上とすることができ、0.5質量部以上とするのが好ましく、1質量部以上とするのがより好ましい。なお、過剰な添加は形成される電極の抵抗を高めるために好ましくなく、典型的には12質量部以下とすることができ、10質量部以下とするのが好ましく、8質量部以下とするのがより好ましい。
【0033】
なお、上記のシリコーン樹脂とガラスフリットとは、電極内に含まれるSiO成分の源である。そしてこのSiO成分がファイヤースルー特性を抑制したり、電極中で絶縁性の抵抗成分となり得たりする点で、その含有量を相補的に考えることができる。より具体的には、ここに開示される導電性組成物は、シリコーン樹脂を含むことから、ガラスフリット中のSiO成分を少量に抑制することができる。しかしながら、例えば、シリコーン樹脂量が概ね0.15質量部を超える(例えば0.2質量部以上の)範囲では、当該導電性組成物が反射防止膜を貫通したり基板との良好なコンタクトを形成したりするのを可能とするために、シリコーン樹脂量に対応して十分なガラスフリット量を確保することが好ましい。例えば、シリコーン樹脂に対するガラスフリットの質量比(ガラスフリットの質量/シリコーン樹脂の質量)は、7.5以上であるのが好ましく、8以上であるのがより好ましく、8.3以上、例えば10以上であるのが特に好ましい。しかしながら、シリコーン樹脂とガラスフリットとは上記のとおりそのものが電極の抵抗成分となり得る。かかる観点で、シリコーン樹脂に対するガラスフリットの質量比は、例えば概ね18以下であるのが好ましく、16.5以下であるのがより好ましく、例えば15以下、さらに好ましくは12以下とすることができる。例えばこのように、シリコーン樹脂に対するガラスフリットの量比を所定の範囲に収めることで、直列抵抗Rsを効果的に低減すること可能とされる。
【0034】
そして、有機ビヒクル成分のうち有機バインダは、導電性粉末の質量を100質量%としたとき、およそ15質量%以下、典型的には1質量%〜10質量%程度の割合で含有されることが好ましい。特に好ましくは、導電性粉末100質量%に対して2質量%〜6質量%の割合で含有される。なお、かかる有機バインダは、例えば、有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分と、有機溶剤中に溶解していない有機バインダ成分とが含まれていても良い。有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分と、溶解していない有機バインダ成分とが含まれる場合、それらの割合に特に制限はないものの、例えば、有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分が(4割〜10割)を占めるようにすることができる。
なお、上記有機ビヒクルの全体としての含有割合は、得られるペーストの性状に合わせて可変であり、おおよその目安として、導電性組成物全体を100質量%としたとき、例えば5質量%〜30質量%となる量が適当であり、5質量%〜20質量%であるのが好ましく、5質量%〜15質量%(特に7質量%〜12質量%)となる量がより好ましい。
【0035】
また、ここに開示される導電性組成物は、本発明の目的から逸脱しない範囲において、上記以外の種々の無機添加剤及び/又は有機添加剤を含ませることができる。無機添加剤の好適例として、上記以外のセラミック粉末(ZnO、Al等)、その他種々のフィラーが挙げられる。また有機添加剤の好適例として、例えば、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、粘度調整剤等の添加剤が挙げられる。
【0036】
以上の導電性組成物は、形状安定性を有していることから、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等に適用する印刷用組成物(ペースト、スラリーあるいはインク等という場合もある。)として好適である。そして、細線化および高アスペクト比化が求められる電極パターンの形成に際し、このような汎用の印刷手段を用いる場合に特に好ましく採用することができる。そこで、例えば、半導体素子の一例としての太陽電池素子を例にし、この受光面上により微細なフィンガー電極を含む櫛型電極パターンをスクリーン印刷により形成する例を示しながら、ここに開示される半導体素子としての太陽電池素子について説明を行う。なお、太陽電池素子に関し、本発明を特徴付ける受光面電極の構成以外については、従来の太陽電池と同様であってよく、従来と同様の構成および従来と同様の材料の使用に関する部分については本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0037】
図1および図2は、本発明の実施により好適に製造され得る太陽電池素子(セル)10の一例を模式的に図示したものであり、単結晶若しくは多結晶或いはアモルファス型のシリコン(Si)からなるウェハを半導体基板11として利用する、いわゆるシリコン型太陽電池素子10である。図1に示すセル10は、一般的な片面受光タイプの太陽電池素子10である。具体的には、この種の太陽電池素子10は、シリコン基板(Siウエハ)11のp−Si層(p型結晶シリコン)18の受光面側にpn接合形成により形成されたn−Si層16を備え、その表面にはCVD等により形成された酸化チタンや窒化ケイ素から成る反射防止膜14と、Ag粉末等を主体として含む導電性組成物から形成される受光面電極12,13とを備える。
【0038】
一方、p−Si層18の裏面側には、受光面電極12と同様に所定の導電性組成物(典型的には導電性粉末がAg粉末である導体性ペースト)により形成される裏面側外部接続用電極22と、いわゆる裏面電界(BSF;Back Surface Field)効果を奏する裏面アルミニウム電極20とを備える。アルミニウム電極20は、アルミニウム粉末を主体とする導電性組成物を印刷・焼成することによって裏面の略全面に形成される。この焼成時に図示しないAl−Si合金層が形成され、アルミニウムがp−Si層18に拡散してp層24が形成される。かかるp層24、即ちBSF層が形成されることによって、光生成されたキャリアが裏面電極近傍で再結合することが防止され、例えば短絡電流や開放電圧(Voc)の向上が実現される。
【0039】
図2に示すように、太陽電池素子10のシリコン基板11の受光面11A側には、受光面電極12,13として、数本(例えば、1本〜3本程度)の相互に平行な直線状のバスバー(接続用)電極12と、該バスバー電極12と交差するように接続する相互に平行な多数の(例えば、60本〜90本程度)筋状のフィンガー(集電用)電極13とが形成されている。
フィンガー電極13は、受光により生成した光生成キャリア(正孔および電子)を収集するため多数本形成されている。バスバー電極12はフィンガー電極13により収集されたキャリアを集電するための接続用電極である。このような受光面電極12,13が形成された部分は、太陽電池素子の受光面11Aにおいて非受光部分(遮光部分)を形成する。従って、かかる受光面11A側に設けられるバスバー電極12とフィンガー電極13(特に数の多いフィンガー電極13)をできるだけファインライン化することにより、これに対応した分の非受光部分(遮光部分)が低減され、セル単位面積あたりの受光面積が拡大される。これは、極めてシンプルに太陽電池素子10の単位面積あたりの出力を向上させるものとなり得る。
【0040】
このとき、細線化された電極の高さが高く均一であれば良いが、例えば、その一部にでもダレや凹みが発生すると、かかるダレや凹みの箇所は抵抗の増大を招き、集電にロースが生じてしまう。そしてまた、細線化された電極の一部にでも断線が生じると、かかる断線箇所を通じで発電電流を集電することは不可能となる(高抵抗の基板を流れる電流として、集電ロースが発生した状態で集電することとなる)。したがって、太陽電池素子の受光面電極の形成には、電気的な特性が高いことはもちろんのこと、印刷による形状安定性に優れた導電性組成物が求められる。
【0041】
このような太陽電池素子10は、概略的には、次のようなプロセスを経て製造される。
即ち、適当なシリコンウェハを用意し、熱拡散法やイオンプランテーション等の一般的な技法により所定の不純物をドープして上記p−Si層18やn−Si層16を形成することにより、上記シリコン基板(半導体基板)11を作製する。次いで、例えばプラズマCVD等の技法により窒化ケイ素等からなる反射防止膜14を形成する。
その後、上記シリコン基板11の裏面11B側に、先ず、所定の導電性組成物(典型的には導電性粉末がAg粉末である導電性組成物)を用いて所定のパターンにスクリーン印刷し、乾燥することにより、焼成後に裏面側外部接続用電極22(図1参照)となる裏面側導体塗布物を形成する。次いで、裏面側の全面に、アルミニウム粉末を導体成分とする導電性組成物をスクリーン印刷法等で塗布(供給)し、乾燥することによりアルミニウム膜を形成する。
【0042】
次いで、上記シリコン基板11の表面側に形成した反射防止膜14上に、典型的には、スクリーン印刷法に基づいて図2に示すような配線パターンで本発明の導電性組成物を印刷(供給)する。印刷する線幅は特に限定しないが、本発明の導電性組成物を採用することによって、線幅が70μm程度若しくはそれ以下(好ましくは50μm〜60μm程度の範囲、より好ましくは40μm〜50μm程度の範囲)のフィンガー電極を備える電極パターンの塗膜(印刷体)を形成する。次いで、適当な温度域(典型的には100℃〜200℃、例えば120℃〜150℃程度)で基板を乾燥させる。好適なスクリーン印刷法の内容に関しては後述する。
【0043】
このように両面にそれぞれペースト塗布物(乾燥膜状の塗布物)が形成されたシリコン基板11を、大気雰囲気中で例えば近赤外線高速焼成炉のような焼成炉を用い、適切な焼成温度(例えば700〜900℃)で焼成する。
かかる焼成によって、受光面電極(典型的にはAg電極)12,13および裏面側外部接続用電極(典型的にはAg電極)22とともに、焼成アルミニウム電極20が形成され、また同時に、図示しないAl−Si合金層が形成されるとともにアルミニウムがp−Si層18に拡散して上述したp+層(BSF層)24が形成され、太陽電池素子10が作製される。
なお、上記のように同時焼成する代わりに、例えば受光面11A側の受光面電極(典型的にはAg電極)12,13を形成するための焼成と、裏面11B側のアルミニウム電極20および外部接続用電極22を形成するための焼成とを別々に実施してもよい。
【0044】
ここで開示される導電性組成物によると、例えば、スクリーン印刷により所望の電極パターンにて導電性組成物がシリコン基板11上に供給(印刷)され得る。かかる導電性組成物は、形状安定性に優れているため、例えば、焼成後に得られる電極について、線幅が60μm以下で厚みが20μm以上(好ましくは線幅が40μm以上50μm以下で厚みが20μm以上)のフィンガー電極13を、線の細りや断線の発生を大幅に低減した状態で、高品質に形成することができる。バスバー電極についは、線の細りや断線等による影響が殆どないため、かかる導電性組成物を用いる必要はないものの、例えば線幅1000〜3000μm程度のバスバー電極を高品質に形成することもできる。このように、電極線の細線化と高アスペクト比化が実現されると、例えば、フィンガー電極一本あたりの抵抗を高めることなく単位面積当たりの出力を向上させることができる。また、たとえ電極線の抵抗値が若干上昇した場合においても、電極パターン全体としてのライン抵抗値を低く抑えることができる。したがって、フィンガー電極13の幅と本数とを最適な組み合わせのものとして設計することで、光電変換効率の高い太陽電池素子が提供されることとなる。
【0045】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
(実施形態1)
[導電性組成物の調製]
以下に示す手順で電極形成用の導電性組成物を調製した。すなわち、導電性粉末としては、平均粒子径が2μmの銀(Ag)粉末を用いた。ガラスフリットとしては、下記表1に示す12種類のガラス粉末(平均粒子径:0.5〜1.6μm)を用いた。シリコーン樹脂としては、重量平均分子量Mwが5万のポリジメチルシロキサンを用いた。また、界面活性剤として、硬化ヒマシ油を用いた。有機ビヒクル成分としては、有機バインダ成分としてのエチルセルロース(EC)が分散媒としてのテキサノールに分散されたビヒクルを使用した。
なお、表1において、ガラスフリットの構成を示す記号は、Pbを含む有鉛系ガラスを「A」、Pbを含まずにビスマス(Bi)等を含有する無鉛系ガラスを「B」、Pbを含まずにホウ素(B)やケイ素(Si)等を含有する他の無鉛系ガラスを「C」と表すとともに、各ガラス組成中のSiO成分の含有量を示す数字を付記したものである。これらのガラスフリットは、組成を調整することで、表1に示すように軟化点を300℃以上600℃以下の範囲で変化させている。
【0046】
【表1】
【0047】
そしてこれらの材料を、銀粉末を100質量部としたとき、ガラスフリットが2.50質量部、シリコーン樹脂が0質量部,0.0050質量部,0.30質量部のいずれか、エチルセルロースが1.00質量部、硬化ヒマシ油が0.80質量部となるよう配合し、三本ロールミルを用いてよく混練しながら、テキサノールで粘度がおよそ190Pa・sとなるよう調整することで、例1〜21の導電性組成物を調製した。各例の導電性組成物に用いたガラスフリットの種類と、シリコーン樹脂の配合量と、得られた導電性組成物の粘度の実測値とを、下記の表2に示した。なお、表2において、各例で用いたガラスフリットの組成は、表1に示した記号により表している。また、シリコーン樹脂量の欄の「−」は、シリコーン樹脂を配合していない(0質量部)ことを示す。そして各例の導電性組成物の粘度は、HBTタイプのブルックフィールド型粘度計を用い、25℃において20rpmの条件で計測された値である。
【0048】
[試験用太陽電池素子(受光面電極)の作製]
上記で得られた例1〜21の導電性組成物を用いて受光面電極(即ち、フィンガー電極とバスバー電極からなる櫛型電極)を形成することで、例1〜21の太陽電池素子を作製した。
具体的には、まず、市販の156mm四方(6インチ角)の寸法の太陽電池用p型単結晶シリコン基板(板厚180μm)を用意し、その表面(受光面)をフッ酸および硝酸の混酸を用いてエッチングすることで、ダメージ層を除去するとともに凹凸のテクスチャ構造を形成した。次いで、上記テクスチャ構造面に対してリン含有溶液を塗布し、熱処理を施すことでこのシリコン基板の受光面に厚さ約0.5μmのn−Si層(n層)を形成した。次いで、このn−Si層上に、プラズマCVD(PECVD)法により厚みが約80nm程度の窒化ケイ素膜を製膜し、反射防止膜とした。
【0049】
次いで、シリコン基板の裏面側に、所定の銀電極形成用ペーストを用いて、後に裏面側外部接続用電極となるよう所定のパターンでスクリーン印刷し、乾燥させることにより、裏面側電極パターンを形成した。そして、裏面側の全面にアルミニウム電極形成用ペーストをスクリーン印刷し、乾燥することにより、アルミニウム膜を形成する。
【0050】
その後、用意した例1〜21の導電性組成物を用い、大気雰囲気中、室温条件下で、スクリーン印刷法によって、上記反射防止膜上に受光面電極(Ag電極)用の電極パターンを印刷し、120℃で乾燥させた。具体的には、図2に示したように、3本の相互に平行な直線状バスバー電極と、このバスバー電極に直交するようにして相互に平行な90本のフィンガー電極とからなる電極パターンをスクリーン印刷にて形成した。目標とするフィンガー電極パターンは、焼成後の寸法が、線幅45μm〜55μm、膜厚15μm〜25μmとなる範囲である。また、バスバー電極は焼成後の線幅がおよそ1.5mmとなるように設定した。
このように両面にそれぞれ電極パターンを印刷した基板を、大気雰囲気中、近赤外線高速焼成炉を用いて焼成温度700〜800℃で焼成することで、評価用の太陽電池を作製した。
【0051】
[評価]
上記のように作製した太陽電池の受光面電極(フィンガー電極)について、次の手順で、膜厚、線幅、直列抵抗Rsおよびエネルギー変換効率Effを測定した。
電極の膜厚および線幅は、各例の太陽電池の受光面電極の任意の位置の厚み(高さ)と線幅とを、形状解析レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製)にて測定した。その結果を、100カ所について測定した値の平均値として、表2に示した。
【0052】
電極の直列抵抗Rsおよびエネルギー変換効率Effは、ソーラーシミュレータ(Beger社製、PSS10)を用い、各例の太陽電池について得たI−V曲線から、JIS C8913に規定される「結晶系太陽電池セル出力測定方法」に基づいて算出した。その結果を、ソーラーシミュレータによって得られた100個のデータの平均値として、表2に示した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示されるように、例5,12および19は、導電性組成物に、SiO含有量が7質量%と比較的多いガラスフリットを用いたが、シリコーン樹脂は配合していない例である。これらの導電性組成物を用いて形成された電極は、ガラスフリットの組成に依らず、他の例の電極と比較して膜厚が有意に薄くなることが確認された。すなわち、シリコーン樹脂を含まない導電性組成物の印刷体(塗膜)はダレてしまい、形状安定性が低いことがわかった。
これに対し、SiOの割合が0,3および5質量%のガラスフリットを使用し、シリコーン樹脂を含む例1〜4,8〜11および15〜18の導電性組成物は、上記の例5,12および19よりも膜厚が厚い電極を成形できることがわかった。すなわち、焼成中の形状安定性が向上されて、ガラスフリットの組成に依らずアスペクト比の高い電極を形成できることが確認できた。また、この導電性組成物を用いて作製された太陽電池の直列抵抗Rsは概ね低く、変換効率Effは高く、アスペクト比の向上に伴い発電性能が改善されることが確認できた。
【0055】
なお、ガラスフリット中のSiOの割合が7質量%であって、シリコーン樹脂を含む、例6,7,13,14,20および21の導電性組成物については、シリコーン樹脂を含まない例5,12および19と比較して、形成される電極の膜厚は厚くなるが、その一方で、直列抵抗および変換効率については悪化することが確認された。これは、シリコーン樹脂の作用によって嵩高い電極を形成できるようになるものの、焼成後の電極中にガラスフリットとシリコーン樹脂に由来するSiOが存在し、この比較的多量のSiOが抵抗成分として作用することによるものであると考えられる。したがって、導電性組成物にシリコーン樹脂を配合する場合、ガラスフリット中のSiOの割合は7質量%未満、例えば5質量%以下とするのが好ましいことがわかった。
【0056】
また、シリコーン樹脂を含む導電性組成物のうち、例1,8および15は、SiO成分を含まないガラスフリットを使用した例である。これらは、従来の常識によると、焼成時にSi基板と十分に反応できず、Si基板/電極界面の良好なコンタクトが形成されないことが予想された。しかしながら、例1,8および15の太陽電池の直列抵抗および変換効率は、SiO成分を含むガラスフリットを用いた例と比較して、いずれも同等かより良好な結果であった。このことから、導電性組成物にシリコーン樹脂を配合することで、このシリコーン樹脂が焼成中にガラスフリット中のSiOと同等の作用を発現し、SiOの代替として機能するものと考えられる。そして、導電性組成物にシリコーン樹脂を配合することで、ガラスフリット中のSiOの割合を削減またはゼロとすることができることが確認できた。SiOを含まないガラスフリットは軟化点を大幅に低減できることから、このようガラスフリットを含む導電性組成物を用いることで電極形成の際の焼成温度を低下させることができると考えられる。
【0057】
さらに、シリコーン樹脂を含む導電性組成物のうち、例3,10および17は、シリコーン樹脂を極少量に抑えた例である。このような極少量のシリコーン樹脂の添加であっても、SiO含有量が7質量%のガラスフリットを用いた例5,12および19と比較して、膜厚の厚い電極が形成できると共に、太陽電池の直列抵抗および変換効率は同等かより良好な結果であった。このことから、導電性組成物にシリコーン樹脂を極少量でも配合することで、印刷ないしは焼成中の導電性組成物(塗布物)の形状安定性を高める効果が得られ、アスペクト比の改善された電極の形成が可能となることがわかった。
【0058】
(実施形態2)
[導電性組成物の調製]
以下の手順にて、シリコーン樹脂の重量平均分子量が導電性組成物の特性に与える影響について評価した。すなわち、ガラスフリットとして、実施形態1におけるA5を用いた。また、シリコーン樹脂として、重量平均分子量Mwが(S1)3000,(S2)1万,(S3)2万,(S4)5万,(S5)7万,(S6)9万および(S7)11万の7種類のポリジメチルシロキサンを用いた。そしてこれらのシリコーン樹脂のいずれかを、銀粉末100質量部に対して0.3質量部配合し、その他の条件は上記の実施形態1と同様にして、S1〜S7の導電性組成物を調製した。なお、比較のために、シリコーン樹脂を配合しないS0の導電性組成物も用意した。
次いで、このように用意したS0〜S7の導電性組成物を用い、上記実施形態1と同様に、スクリーン印刷法を利用して、S0〜S7の太陽電池素子を形成した。
【0059】
[評価]
上記のように形成した受光面電極(フィンガー電極)について、次の手順で、断線数、アスペクト比およびライン抵抗Rを測定した。
電極の断線数は、太陽電池エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence;EL)検査装置を用い、各基板100枚について電極の断線箇所(クラック部分)を特定し、その数を測定した。その結果を、基板1枚当たりの断線箇所数の平均値として、図3に示した。
【0060】
電極のアスペクト比は、形状解析レーザ顕微鏡(株式会社キーエンス製)にて各例の受光面電極の幅Wと厚み(高さ)Hとを測定し、(H/W)としてアスペクト比を算出することで求めた。その結果を、受光面電極100カ所について測定した値の平均値として、図3に示した。
電極のライン抵抗値は、抵抗計(日置電機株式会社製、デジタルハイテスタ)を用い、フィンガー電極表面の任意の間隔(24mm)における抵抗値(Ω)として測定した。その結果を、受光面電極100カ所について測定した値の平均値として、図4に示した。
図3および図4のグラフ中のマーカーは、X軸(すなわち重量平均分子量Mw)に従って左側から順にS0〜S7の結果を示している。
【0061】
図3から明らかなように、電極のアスペクト比は、導電性組成物中にシリコーン樹脂を添加することで大幅に高められることが確認できた。また、添加したシリコーン樹脂の重量平均分子量が大きくなるほど高アスペクト比の電極形成が可能となり、シリコーン樹脂に含まれるSiが電極の形状維持に寄与することが予想される。
また、図3から、導電性組成物中にシリコーン樹脂を添加すること、またその添加したシリコーン樹脂の重量平均分子量により、電極の断線数が変化することが確認できた。すなわち、本実施形態においては、重量平均分子量が例えば9万以下のシリコーン樹脂を導電性組成物に添加することで、シリコーン樹脂を添加しない場合に比べて電極の断線数を低減できることが確認できた。しかしながら、重量平均分子量が9万を超えて、例えば11万のシリコーン樹脂を用いると、断線数は増大する傾向にあることがわかった。
【0062】
図4から明らかなように、電極のライン抵抗は、導電性組成物中のシリコーン樹脂の重量平均分子量に影響を受けることがわかった。この結果は、断線数との結果と似た傾向を示している。すなわち、電極形状を高アスペクト比化するとの観点では、導電性組成物中にシリコーン樹脂を添加することは好ましい。しかしながら、過剰なSi成分の含有は電極の断線を招くため、抵抗成分となり得る。これらのことから、電極の高アスペクト比化と低抵抗特性とを両立させるには、重量平均分子量が適切なシリコーン樹脂を用いることが好ましいことがわかった。本実施形態において、導電性組成物中に添加するシリコーン樹脂が、例えば、重量平均分子量が11万未満、より好ましくはおおむね9万以下程度のものを用いるのが好適であることがわかる。
【0063】
(実施形態3)
[導電性組成物の調製]
以下の手順にて導電性組成物を調製し、組成物内のシリコーン樹脂と直列抵抗Rsとの関係について評価した。ここでガラスフリットとしては、有鉛系ガラスであってSiO成分の含有量が5質量%の「A5」と、無鉛系ガラス1であってSiO成分の含有量が5質量%の「B5」とを用いた。また、シリコーン樹脂として、重量平均分子量Mwが5万のポリジメチルシロキサンを用いた。そして銀粉末100質量部に対するこれらガラスフリットとシリコーン樹脂との割合を、下記の表3に示す組み合わせで変化させ、その他の条件は上記実施形態1と同様にして、導電性組成物を調製した。また、これらの導電性組成物を用いて受光面電極を形成することで、太陽電池素子を作製した。
【0064】
このようにして用意した太陽電池素子の直列抵抗Rsを測定し、表3に示した。なお、有鉛系ガラスフリットA5を用いた導電性組成物は、無鉛系ガラスフリットB5を用いた導電性組成物と比較して、直列抵抗Rs等の特性の高い電極を形成できることが知られている。したがって、下記表3において、ガラスフリットA5を使用した場合はRs≦3.73のときを抵抗が低くて良好であると判断し、ガラスフリットB5を使用した場合はRs≦3.91のときを抵抗が低くて良好であると判断した。そして表3中の、抵抗が低くて良好な結果を太字で示した。
また、表3に示したガラスフリットとシリコーン樹脂との配合量から、ガラスフリットのシリコーン樹脂に対する割合を算出し、表4に示した。なお、表4では、表3において抵抗が良好となったガラスフリットとシリコーン樹脂との配合量の組み合わせについて、結果を太字で示している。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
[評価]
表3に示されるように、本実施形態において、導電性組成物に含まれるシリコーン樹脂量が概ね0.2質量部以下の範囲では、ガラスフリットの添加量を所定の範囲に収めることで、直列抵抗Rsを効果的に低減できることがわかる。例えば、ガラス組成に関わらずガラスフリットの添加量を1.875〜3.125質量部に収めることで、直列抵抗Rsを効果的に低減できることがわかる。
一方で、導電性組成物に含まれるシリコーン樹脂量が概ね0.15質量部を超える(例えば0.2質量部以上の)範囲では、シリコーン樹脂量に対するガラスフリット量の比(ガラスフリット質量/シリコーン樹脂質量)を所定の範囲に収めることで、直列抵抗Rsを効果的に低減できることがわかる。例えば、ガラス組成に関わらず、上記ガラスフリット量の比を概ね7.5〜18程度、好ましくは8.33〜16.67程度の範囲に収めることで、直列抵抗Rsを効果的に低減できることがわかる。これは、例えば、導電性組成物に含まれるシリコーン樹脂量を増大させると、形成される電極の直列抵抗Rsを低く保つためにガラスフリットの添加量を増やす必要があることによるものと考えられる。すなわち、導電性組成物中にシリコーン樹脂が含まれると、電極焼成中にこのシリコーン樹脂からSiO成分が生成し得る。このSiO成分は、ガラスフリット中のSiO成分と同様に、電極と射防止膜や基板との界面の浸食を抑制する作用を示す。したがって、良好なファイヤースルー特性を発現させつつ、電極および基板の良好なコンタクトを実現するためには、ガラスフリットの添加量を、導電性組成物に添加するシリコーン樹脂量に適した値に調整しておくことが好ましいといえる。
【0068】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 太陽電池素子(セル)
11 半導体基板(シリコン基板)
11A 受光面
11B 裏面
12 バスバー電極(受光面電極)
13 フィンガー電極(受光面電極)
14 反射防止膜
16 n−Si層
18 p−Si層
20 裏面アルミニウム電極
22 裏面側外部接続用電極
24 p
図1
図2
図3
図4