【実施例】
【0028】
以下では、まず、本願発明の基礎となる技術及びその課題などの基本説明を行った後、図面を参照して本発明の好適な各実施例について説明する。
【0029】
<基本説明>
図1は、電磁共鳴方式に基づく送電アンテナ及び受電アンテナとして用いられるアンテナ(送電・受電アンテナ)の一例を示す。
図1に示す送電・受電アンテナは、上下2つの平面に巻線を螺旋形状に形成されたアンテナであり、上面の巻線101、図示しない下面の巻線、給電点102、支持材(誘電体)103などを有する。この送電・受電アンテナの直径は30cm、上下面合わせての巻数は5.2巻、巻線間のピッチは7mm、上下面の間隔は15mmであり、送電・受電アンテナの各面の先端は開放されており、送電・受電アンテナは、上下面巻線の中央に位置する給電点102から給電する。
【0030】
ここで、電磁界解析により、
図1のアンテナの電気回路的なパラメータを求めると、インダクタンス「L」は「8.64μH」、コンデンサ「C」は、「17.49pF」、損失抵抗「R」は、「1.0Ω」であった。送電・受電アンテナはこれらの定数を持つ直列共振回路として動作する。この場合、共振周波数「fo」は、「1/(2π√(LC))=12.947MHz」である。
【0031】
図2は、
図1の送電・受電アンテナの正確な等価回路モデルである、直列共振回路部分に並列に接続するコンデンサを有する直並列型等価回路を示す。
図1の送電・受電アンテナの場合、並列コンデンサ「Ct」は「10.08pF」であった。
【0032】
電磁共鳴方式に基づくワイヤレス電力伝送では、一般に
図1に示すアンテナを、それぞれ送電側と受電側とに対向配置させる。送電アンテナには送電回路(電源)、受電アンテナには負荷が同軸ケーブル等で接続されている。その様子を
図3に示す。
図3は、
図1に示すアンテナを送電アンテナ及び受電アンテナとして対向配置させた電力伝送システムを示す。
図3に示すように、送電アンテナには電源が接続され、受電アンテナには負荷が接続されている。
【0033】
図4は、
図3に示す電力伝送システムを、直並列型等価回路表現を用いて表した例を示す。
図4の「Lm」は、送電アンテナと受電アンテナとが磁気的に結合された状態の相互インダクタンスを表している。送電アンテナと受電アンテナに同じアンテナを使用した場合には(各アンテナの共振周波数が同じであれば、必ずしもそのようにする必要はない)、その結合係数を「k」とすれば、「Lm=kL」と表される。結合係数kの値は送電アンテナと受電アンテナとの間のギャップ(隔たり幅)や、位置ずれの量など、送電アンテナと受電アンテナとの位置関係によって決まる。ギャップや位置ずれの量を変更することは結合係数kの値を変更することと置き換えて考えて良い。
【0034】
ここで、
図4の等価回路表現を用いて、
(1)負荷の値「RL」を決め、送電・受電アンテナ間の結合係数kを変化させた場合
(2)結合係数kの値を決め、受電側の負荷の値を変化させた場合
について、送電アンテナの電力が入る側の端(単に、「送電アンテナ端」とも呼ぶ。)における入力インピーダンス「Zin」を調べる。なお、送電回路の周波数(以降では「駆動周波数」と呼ぶ。)は、送電アンテナと受電アンテナとの共振周波数「12.947MHz」とする。
【0035】
図5は、負荷の値RLを(a)では10Ω、(b)では50Ω、(c)では200Ωにそれぞれ固定し、送電アンテナと受電アンテナとの間の結合係数kを「0.311〜0.021」の範囲で変化させた場合の入力インピーダンスZinの軌跡をスミスチャート上にプロットした図である。なお、
図1に示すアンテナを送電アンテナ及び受電アンテナとし、水平方向の位置ずれ量をゼロとすると、結合係数「k=0.311」は送電アンテナと受電アンテナとの間のギャップが「5cm」の状態に対応し、「k=0.021」はギャップが「35cm」の状態に対応している。また、
図6は、結合係数kを(a)では0.030、(b)では0.064、(c)では0.120にそれぞれ固定し、負荷の値RLを「5Ω」〜「500Ω」の範囲で変化させた場合の入力インピーダンスZinの軌跡をスミスチャート上にプロットした図である。なお、
図1に示すアンテナを送電アンテナ及び受電アンテナとし、水平方向の位置すれ量をゼロとすると、結合係数「k=0.030」は、送電・受電アンテナ間のギャップが「29cm」の状態に対応し、結合係数「k=0.12」は、送電・受電アンテナ間のギャップが「13cm」の状態に対応している。
【0036】
送電アンテナ端における入力インピーダンスZinは、
図5に示すように、負荷の値RLの値を固定して結合係数kを変化させると、スミスチャート上の「X=0Ω」(「X」は、リアクタンス成分)の軸の付近で大きく水平方向に変化する軌跡を描く。また、その軌跡のスミスチャート上における相対的な位置は、負荷の値RLが小さいほど右寄りになり、負荷の値RLが大きいほど左寄りになる。従って、負荷の値RLが「10Ω」のように比較的小さい値の場合には、入力インピーダンスZinの軌跡は右寄りに位置し(
図5(a)参照)、負荷の値RLが「200Ω」のように比較的大きい値の場合には、入力インピーダンスZinの軌跡は左寄りに位置し(
図5(c)参照)、負荷の値RLが「50Ω」などの中間値の場合には、入力インピーダンスZinの軌跡は左右ほとんど偏らずに分布する。
【0037】
一方、
図6に示すように、結合係数kを固定して負荷の値RLを変化させた場合も、入力インピーダンスZinは、スミスチャート上の「X=0Ω」の軸の付近で大きく水平方向に変化する軌跡を描く。また、その軌跡のスミスチャート上における相対的な位置は、結合係数kが小さいほど左寄りになり、結合係数kが大きいほど右寄りになる。従って、結合係数kが「0.030」のように比較的小さい値の場合には、入力インピーダンスZinの軌跡は右寄りに位置し(
図6(a)参照)、結合係数kが「0.12」のように比較的大きい値の場合には、入力インピーダンスZinの軌跡は左寄りに位置し(
図6(c)参照)、結合係数kが「0.064」のように中間値の場合には、入力インピーダンスZinの軌跡は左右ほとんど偏らずに分布する。
【0038】
このように、送電アンテナ端における入力インピーダンスZinの軌跡は、
(1)送電アンテナと受電アンテナとの間の結合係数k
(2)受電側の負荷の値RL
の何れが変化した場合も、スミスチャート上に異なる軌跡を描く。また、これらが変化した場合の入力インピーダンスZinの軌跡は、スミスチャート上の「X=0Ω」の軸の付近で大きく水平方向に変化する形状を持つ。
【0039】
以上を勘案すると、これら複数の異なるインピーダンス軌跡を描く送電アンテナ端のインピーダンスポイントを、自動的に、かつ高速に送電回路の出力インピーダンス(即ち、整合ポイント)に整合させる処理(「自動整合動作」又は「自動整合処理」とも呼ぶ。)が必要とされる。自動整合動作については、後述する第1実施例及び第2実施例で詳しく説明する。
【0040】
次に、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを送電回路の出力インピーダンスに整合させることの効果について説明する。
図7は、「電源からの供給電力」に対する「送電アンテナに入った電力」の比率(1−|S11|2:「S11」は反射係数に等しく、従って|S11|2は電源からの供給電力のうち、反射して戻ってくる反射比率に等しい)のグラフを示す。なお、
図7では、
図4に示すように送電アンテナと受電アンテナとを対向させ、送電アンテナ及び受電アンテナに
図1に示したアンテナを使用し、負荷の値RLを「50Ω」とし、結合係数kを0.1、即ち、位置ずれ無しでギャップが「15cm」に対応する値としている。
【0041】
図7では、駆動周波数12.947MHzにおける上述の比率は、89.4%である。このとき、駆動周波数12.947MHzにおける送電アンテナ端での入力インピーダンスZinは「97.86−3.98j(Ω)」となっている。従って、この場合、入力インピーダンスZinは送電回路の出力インピーダンスに相当する「50Ω」となっていないため、10%ほどの不整合損が発生している。
【0042】
図8は、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinを「50Ω」に整合させるための整合回路を示す。また、
図9は、
図8の整合回路を追加した状態での電源からの供給電力に対する送電アンテナに入った電力の比率のグラフを示す。
図9に示すように、
図8の整合回路を追加した状態では、駆動周波数「12.947MHz」における上述の比率は100%となる。この場合、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinは、送電回路の出力インピーダンスに整合されており、不整合損が発生していない。
【0043】
ここで、整合後に負荷の値RLが変化した場合の影響について説明する。
図10(a)は、
図9に示す整合状態から結合係数kが「0.1」のままで負荷の値RLが「10Ω」に低下した場合での、電源からの供給電力に対する送電アンテナに入った電力の比率を示し、
図10(b)は、
図9に示す整合状態から結合係数kが「0.1」のままで負荷の値RLが「200Ω」に増加した場合での、電源からの供給電力に対する送電アンテナに入った電力の比率を示す。このように整合状態から負荷の値RLが変化した場合、駆動周波数「12.947MHz」における比率(1−|S11|2)は、
図10(a)の場合では58.7%に低下し、
図10(b)の場合では65.7%に低下している。
【0044】
次に、整合後に結合係数kの値が変化した場合の影響について説明する。
図11(a)は、
図9に示す整合状態から負荷の値RLを「50Ω」のままで結合係数kが「0.05」に低下した場合での、電源からの供給電力に対する送電アンテナに入った電力の比率を示し、
図11(b)は、
図9に示す整合状態から負荷の値RLを「50Ω」のままで結合係数kが「0.15」に増加した場合での、電源からの供給電力に対する送電アンテナに入った電力の比率を示す。このように整合状態から結合係数kが変化した場合、駆動周波数「12.947MHz」における比率(1−|S11|2)は、
図11(a)の場合では65.1%に低下し、
図11(b)の場合では85.4%に低下している。
【0045】
このように、送電アンテナ端における入力インピーダンスZinは、所定の
(1)送電・受電アンテナ間の結合係数k
(2)受電側の負荷の値RL
に対して最適となる整合回路を送電回路と送電アンテナとの間に追加したとしても、その後、負荷の値RLが何らかの理由によって変動したり、送電・受電アンテナ間のギャップが変化して結合係数kが変化したりする場合には、整合ポイントからずれる。その結果、送電回路から送電アンテナに電力を供給する際の反射損が大きくなり、伝送効率の悪化が生じてしまう。
【0046】
以上を勘案すると、一度ある条件で整合を取った後に、負荷の値RLが変動した場合や、送電・受電アンテナ間の結合係数kが変化した場合で整合がずれたとしても、そのずれを出来るだけ早く検出し、整合回路に設定した定数を適切に変更する等して、常に高速に整合状態を追従し続ける処理(「整合追従動作」又は「整合追従処理」とも呼ぶ。)が必要となる。整合追従動作の具体的内容については、後述する第1実施例及び第2実施例で詳しく説明する。
【0047】
ここで、上述の条件を満たす電力伝送システムの応用例について説明する。電磁共鳴方式によるワイヤレス電力伝送方式の有力なアプリケーションの一つとして、電気自動車への非接触充電が考えられている。電気自動車のバッテリーへの充電においては、定電流モードによる充電と定電圧モードによる充電を時系列で変更したり、バッテリーの蓄電量によって負荷としての値が変わったり等、負荷変動を想定する必要がある。また、走行時の給電など、送電・受電アンテナ間のギャップ、位置ずれ量が時間と共に連続的に変化するような場合も想定される。これらの場合に対して、常に高速に整合追従する電力伝送システムを提供することにより、高効率な非接触充電システムを実現することが可能である。
【0048】
<第1実施例>
次に、本発明に好適な第1実施例について説明する。第1実施例では、負荷の値RLが変化せず、送電アンテナ及び受電アンテナ間の結合状態(結合係数k)が変化する場合について説明する。概略的には、電力伝送システムは、負荷の値RL及び送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを推定し、これらの推定値に基づき、所定のテーブル(「整合補正量テーブル」とも呼ぶ。)を参照して、使用すべき整合回路及び当該整合回路へ適用する制御値を決定する。これにより、電力伝送システムは、送電アンテナの入力インピーダンスZinを、送電回路の出力インピーダンスと整合させる。また、電力伝送システムは、一度整合状態になった後に整合状態を維持し続ける整合追従動作を行うことで、整合状態を保つ。
【0049】
[概略構成]
図12は、第1実施例に係る電力伝送システムの概略構成図である。
図12に示すように、電力伝送システムは、送電回路2及び送電アンテナ3を有する送電側装置1と、受電アンテナ5及び負荷6を有する受電側装置4とを備える。
【0050】
送電回路2は、電源20と増幅部21とを備える。増幅部21は、電源20から伝送する電力の大きさを調整すると共に、電源20から電力を伝送する際の開始動作及び停止動作などを制御する制御回路として機能する。
【0051】
第1形式の整合回路11は、送電回路2と送電アンテナ3との間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、送電アンテナ3側の端に並列に接続される可変キャパシタ要素とを備える。第2形式の整合回路12は、送電回路2と送電アンテナ3との間に直列に挿入される可変インダクタ要素と、送電回路2側の端に並列に接続される可変キャパシタ要素とを備える。以後では、第1形式の整合回路11及び第2形式の整合回路12を、単に「整合回路」とも総称する。
【0052】
記憶部25は、第1形式の整合回路11又は第2形式の整合回路12のいずれの整合回路を使用すべきかを示すフラグ情報「If」及び当該整合回路に適用すべき制御値「Tc」を定めた整合補正量テーブルを、負荷の値ごとに複数記憶する。ここで、整合補正量テーブルの各行には、通し番号であるインデックス(「インデックスIdx」とも呼ぶ。)が付され、対応する結合係数kの小さい順に制御値Tcが規定されている。整合補正量テーブルの具体例については、
図13を用いて後述する。なお、制御値Tcは、第1形式又は第2形式の整合回路11、12に設定するインダクタンス値(「インダクタンス値L」とも呼ぶ。)及びキャパシタンス値(「キャパシタンス値C」とも呼ぶ。)を指す。制御値Tcは、後述するように、電磁界共振結合方式の送電アンテナ3及び受電アンテナ5を対向させてこれらのギャップを変更した際の、送電回路2から送電アンテナ3側を見た時の入力インピーダンスZinの変化の軌跡に基づいて設定される。
【0053】
スイッチ部13、14は、第1形式の整合回路11又は第2形式の整合回路12若しくは電線のみからなるスルー回路30のいずれかを、送電回路2及び送電アンテナ3と電気的に接続させる。
【0054】
負荷推定部7は、電流値検出部71と、電圧値検出部72と、負荷値算出部73と、制御通信部74、75とを有し、定格電力(即ち、本来伝送したい電力)の伝送に先立ち、受電側装置4の負荷6の値RLの推定値(「推定負荷値RLe」とも呼ぶ。)を算出する処理を行う。具体的には、定格電力の伝送の前に、送電アンテナ3が微小な電力を伝送すると、電流値検出部71は、負荷6に流れる電流を検出し、検出した電流値(「検出電流値Ie」とも呼ぶ。)を負荷値算出部73に供給する。また、電圧値検出部72は、負荷6に掛かる電圧値を検出し、検出した電圧値(「検出電圧値Ve」とも呼ぶ。)を負荷値算出部73に供給する。そして、負荷値算出部73は、電流値検出部71から供給された検出電流値Ieと、電圧値検出部72から供給された検出電圧値Veとに基づき、推定負荷値RLeを算出する。具体的には、負荷値算出部73は、検出電圧値Veを検出電流値Ieで除することで算出したインピーダンス値を推定負荷値RLeとする。そして、受電側装置4内の制御通信部74は、負荷値算出部73が算出した推定負荷値RLeを、電力伝送の無線部とは独立して用意される制御用無線通信を介して送電側装置1内の制御通信部75に伝送する。その後、推定負荷値RLeは、テーブル選択部27に供給される。
【0055】
テーブル選択部27は、記憶部25により負荷の値ごとに記憶された複数の整合補正量テーブルの中から、供給された推定負荷値RLeと最も近い負荷の値に対応する整合補正量テーブルを選択する。整合補正量テーブルの内容については後述する。
【0056】
進行波・反射波抽出部15、位相差算出・判定部16、及び反射係数算出部17は、同じく定格電力の伝送に先立って送電アンテナ3から微小な電力が伝送された場合に、現在の負荷6の値RLに対応する送電アンテナ端での入力インピーダンスZinを算出するための処理を行う。具体的には、進行波・反射波抽出部15は、送電回路2から出力された信号に対応する進行波電圧「Vf」(Vf=|Vf|exp(jθ1):「θ1」はVfの位相)と、インピーダンスの不整合によって送電アンテナ3から反射されて戻ってくる信号に対応する反射波電圧「Vr」(Vr=|Vr|exp(jθ2):「θ2」はVrの位相)とを分離して取り出す。進行波・反射波抽出部15は、好適には、方向性結合器である。反射係数算出部17は、進行波電圧Vfの振幅値|Vf|と反射波電圧Vrの振幅値|Vr|を用いて反射係数「Γ」の絶対値(大きさ)|Γ|を、
【0057】
【数1】
により算出する。位相差算出・判定部16は、進行波電圧Vfの位相θ1と反射波電圧Vrの位相θ2との位相差「θ」を、
【0058】
【数2】
のように算出する。そして、位相差算出・判定部16又は反射係数算出部17は、これらの結果から送電アンテナ端の入力インピーダンスZinに対応する複素反射係数Γ(Γ=|Γ|exp(jθ))を求め、その値を下式(3)によって変換して入力インピーダンスZinを算出する。ここで、「Z0」は、整合目標のインピーダンスを表す。
【0059】
【数3】
読出し位置決定部24は、テーブル選択部27によって選択された整合補正値テーブルを参照し、算出された入力インピーダンスZinに最も近いインピーダンス値を有する整合補正値テーブルの行から、使用すべき整合回路を示すフラグ情報If及び当該整合回路に適用すべき制御値Tcを読出す。そして、整合回路選択部23は、読出し位置決定部24から供給されるフラグ情報Ifに基づき、第1形式の整合回路11又は第2形式の整合回路12若しくは電線のみからなるスルー回路30のいずれかが送電回路2及び送電アンテナ3と電気的に接続されるようにスイッチ部13、14を制御する。制御値出力部26は、整合回路選択部23によって選択された第1形式の整合回路11又は第2形式の整合回路12に、読出し位置決定部24によって読出された制御値Tcを反映させる。
【0060】
ここで、読出し位置決定部24、整合回路選択部23、及び制御値出力部26が実行する処理について具体例を用いて説明する。
図13は、負荷の値が「50Ω」の場合に相当する整合補正値テーブルの一例を示す。この整合補正テーブルは、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが「0.01〜0.3」の範囲における入力インピーダンスZinを「50Ω」に整合させるために必要なキャパシタンス値「C」及びインダクタンス値「L」と、使用すべき整合回路を示すフラグ情報Ifとを有する。ここでは、フラグ情報Ifが「1」の場合には、フラグ情報Ifは第1形式の整合回路11を使用すべき旨を示し、フラグ情報Ifが「2」の場合には、フラグ情報Ifは第2形式の整合回路12を使用すべき旨を示す。
【0061】
例えば、読出し位置決定部24に入力された入力インピーダンスZinが「27+j0Ω」であったとする。この場合、読出し位置決定部24は、整合補正値テーブルに記憶された「Ri」及び「Xi」(「i」はインデックスIdxとする)と、算出した入力インピーダンスZinの実部「R」と虚部「X」とを用いて、「(R−Ri)2+(X−Xi)2」が最小となるインデックスIdxを有する行を選択する。その結果、
図13に示すように、インデックスIdxが「5」、実部Riが「25.248Ω」、虚部Xiが「0.451Ω」の行が選択される。そして、読出し位置決定部24は、選択した行から、整合回路の形式に関する情報であるフラグ情報If(ここでは「2」)を読出して整合回路選択部23に供給し、かつ、キャパシタンス値C「243.431pF」、インダクタンス値L「301.756nH」を読出して制御値出力部26に供給する。この場合、整合回路選択部23は、送電回路2と送電アンテナ3との間に第2形式の整合回路12が接続されるようにスイッチ部13、14を動作させる。また、制御値出力部26は、選択された第2形式の整合回路12の可変コンデンサ部、可変インダクタ部に、読出し位置決定部24から供給されたキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを設定する。以上のようにして決定された整合回路を
図14に示す。
【0062】
このように、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを調べることで、送電側装置1は、選択された整合補正量テーブルを参照して、直ちに送電回路2及び送電アンテナ3間のインピーダンス整合を実行することが出来る。例えば、将来電気自動車が普及して、交差点で停止した時に路面に設置された充電器から電気自動車を充電するような場合を考えると、車が停車してから出来るだけ早く充電動作を開始することが必要となる。その際に、インピーダンスの整合を自動的かつ出来るだけ迅速に済ませることで、定格での電力伝送に迅速に移行することが出来るようになる。
【0063】
次に、初期状態から整合状態となった後の整合追従動作時に処理を行う位相差算出・判定部16、調整方向決定部18、及び調整ステップ幅決定部19について説明する。なお、これらの詳細な説明は[整合追従動作]のセクションで後述する。
【0064】
位相差算出・判定部16は、初期状態から整合状態となった後に、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相関係を特定する。そして、調整方向決定部18は、位相差算出・判定部16が特定した進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相関係に基づき、直前に使用した整合補正量テーブルの行(インデックスIdx)を基準として、次に制御値Tc等を読出す行の方向を決定する。
【0065】
調整ステップ幅決定部19は、初期状態から整合状態となった後に、反射係数絶対値|Γ|に基づき、使用する制御値Tcを現在の制御値Tcから変更する必要があるか否かの判断をすると共に、新たな制御値Tcを読出す場合の整合補正テーブル中のインデックスIdxのステップ(移動)幅(「ステップ幅Widx」と呼ぶ。)を決定する。
【0066】
そして、読出し位置決定部24は、調整方向決定部18が決定した読出し方向及びステップ幅Widxに基づき、制御値Tcを読出す整合補正量テーブルの行を決定する。
【0067】
[整合補正量テーブル]
次に、記憶部25が記憶する整合補正量テーブルについて具体的に説明する。本実施例で使用する整合補正量テーブルは、
図5、
図6に示した送電アンテナ端での入力インピーダンスZinの変化の軌跡に基づいて設定することを特徴とする。なお
図5は、負荷6の値をある値に固定した上で送電・受電アンテナ間の結合状態(即ち、結合係数k)を変化させた時の入力インピーダンスZinの軌跡を示している。一方、
図6は、送電・受電アンテナ間の結合状態をある値に固定した上で受電側装置4の負荷6の値RLを変化させた時の入力インピーダンスZinの軌跡を示している。第1実施例では、負荷6の値RLは固定で送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合状態を変化させた時の動作について説明しているので、以下では
図5に示した軌跡を基にして整合補正量テーブルを構成する場合について説明する。
【0068】
図5に示すように、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinは、負荷6の値RLを固定して結合係数kを変化させると、スミスチャート上の「X=0Ω」の軸の付近で大きく水平方向に変化する軌跡を描く。また、上述したように、その軌跡のスミスチャート上における相対的な位置は、負荷6の値RLが小さいと(例えばRL=10Ωの場合)右寄りに、負荷6の値RLが大きいと(例えばRL=200Ωの場合)左寄りに、負荷6の値RLがこれらの中間値であると(例えばRL=50Ωの場合)左右殆ど偏らずに分布するという傾向がある。
【0069】
なお、第2実施例の説明で用いる
図6では、入力インピーダンスZinの軌跡上のポイントがスミスチャートの右側に寄るほど送電アンテナ3と受電アンテナ5との結合が強まっている(例えば、送電・受電アンテナ間のギャップが小さくなる)ことに対応し、逆に左側に寄るほどこれらの結合が弱まっている(例えば、ギャップが大きくなる)ことに対応している。
【0070】
図5に示すように、想定する負荷6の値RLが違っても、送電アンテナ3と受電アンテナ5との結合係数kが変わったときの送電アンテナ端における入力インピーダンスZinの変化の軌跡はスミスチャート上の「X=0Ω」の軸の付近で大きく水平方向に変化するという共通の形状を示す。以上を勘案し、そのインピーダンス軌跡上の任意のポイントを整合させるためには、
図15に示すようにスミスチャートを大きく「領域A」及び「領域B」の2つの領域に分け、それぞれの領域に適した整合回路を用いるようにすれば良い。
【0071】
図16に、領域Aまたは領域Bに存在するインピーダンス軌跡上の各ポイントから整合ポイント「P」まで遷移させる例を示す。
図16(a)に示すように、領域Aに含まれるインピーダンス軌跡上のポイントの場合は、まず送電アンテナ3に並列に接続した可変コンデンサの値を補正量「A1」だけ増やして点「R」まで移動させ、次に送電回路2と送電アンテナ3との間に直列に接続した可変インダクタの値を補正量「A2」だけ増やして、整合ポイントPまで移動させれば良い。また、
図16(b)に示すように、領域Bに含まれるインピーダンス軌跡上のポイントの場合は、まず送電回路2と送電アンテナ3との間に直列に接続した可変インダクタの値を補正量「B1」だけ増やして点「Q」まで移動させ、次に送電回路2側に並列に接続した可変コンデンサの値を補正量「B2」だけ増やして、整合ポイントPまで移動させれば良い。
【0072】
以上より、領域Aにあるインピーダンス軌跡上のポイントを整合させるための整合回路は
図17(a)、領域Bにあるインピーダンス軌跡上のポイントを整合させるための整合回路は
図17(b)のように表される。本実施例では、
図17(a)に示す回路が第1形式の整合回路11に相当し、
図17(b)に示す回路が第2形式の整合回路12に相当する。整合回路としては、この2種類のパターンを用意しておけばよい。
【0073】
従って、送電側装置1は、領域Aにあるインピーダンス軌跡上のポイントを
図17(a)に相当する第1形式の整合回路11を用いて整合させるために必要な補正量A1、A2、及び、領域Bにあるインピーダンス軌跡上のポイントを
図17(b)に相当する第2形式の整合回路12を用いて整合させるために必要な補正量B1、B2を、予め理論計算または測定等の手段によって求めておき、それらの値を例えばインピーダンス値と対応させたルックアップテーブルを、整合補正量テーブルとして記憶部25に記憶させておく。このようにしておくことで、送電側装置1は、送電アンテナ端のインピーダンスZinを求めることにより整合のために必要な補正量を一回で求めることが出来る。
【0074】
図18(a)、(b)に、理論計算によって上述の補正量を求める方法を概略的に示した図である。
図18(a)はインピーダンス軌跡上のポイントが領域Aにある場合に対応し、
図18(b)はインピーダンス軌跡上のポイントが領域Bにある場合に対応する。
【0075】
図18(a)では、所定のインピーダンス軌跡上のポイント「Zin」を時計回りに回転させて「r=1」の等レジスタンス円との交点「A」を求め、そこまで移動させるために必要な補正量「Δb」を求める。次に、点Aを「r=1」の等レジスタンス円に沿って回転させて整合ポイントまで移動させるために必要な補正量「Δx」を求める。この補正量Δb及び補正量Δxが、
図16(a)における補正量A1、A2にそれぞれ対応する。この補正量A1、A2に基づき、制御値Tcとして用いるキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lが一意に定まる。
【0076】
図18(b)では、インピーダンスポイントZinを時計回りに回転させて「g=1」の等コンダクタンス円との交点「D」を求め、そこまで移動させるために必要な補正量「Δx」を求める。次に、点Dを「g=1」の等コンダクタンス円に沿って回転させて整合ポイントまで移動させるために必要な補正量「Δb」を求める。この補正量Δx及び補正量Δbが、
図16(b)における補正量B1、B2にそれぞれ対応する。そして、補正量B1、B2に基づき、制御値Tcとして用いるキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lが一意に定まる。
【0077】
また、入力インピーダンス軌跡上のインピーダンスポイントZinは、以下の式(4)に示すように、領域Aのみを考えた場合と領域Bのみを考えた場合とでは、反射係数絶対値|Γ|と一対一に対応する。
【0078】
【数4】
従って、入力インピーダンス軌跡上の各インピーダンスポイントZinを式(4)に従って反射係数絶対値|Γ|に変換し、その各々の値に対して、予め理論計算により求めたキャパシタンス値C、インダクタンス値Lの値の組を対応させた整合補正量テーブルを予め作成しておく。
【0079】
また、整合補正量テーブルの作成する際、反射係数絶対値|Γ|に対応するキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを、アプリケーションで必要な分解能で量子化する。ここで、「量子化」とは、ある範囲の反射係数絶対値|Γ|に対し、同じインダクタンス値L及びキャパシタンス値Cが使用される反射係数絶対値|Γ|の範囲(値域)を区切ること、及び、区切られた反射係数絶対値|Γ|の各値域で使用するインダクタンス値L及びキャパシタンス値Cの代表値(「量子化代表値」とも呼ぶ。)を決めることを指す。以後では、上述の反射係数絶対値|Γ|の各範囲(値域)の境界を「量子化境界」と呼ぶ。量子化は反復処理を用いて実行される。
【0080】
具体的には、量子化は、量子化境界付近においても反射係数絶対値|Γ|が予め設定された閾値「|Γ|thr」以下となるように、量子化境界と量子化代表値を交互に求めることで実行される。ここで、閾値|Γ|thrは、好適には、反射による損失を0.5%に抑えることができる値、即ち他に損失を生じる部分が無ければ効率99.5%を達成できる値に相当する0.0707に設定されるとよい。このように量子化して、整合補正量テーブルに記憶させるキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを定めた場合、キャパシタンス値C及びインダクタンス値Lは、反射係数絶対値|Γ|が大きくなるほど、これらの量子化間隔が小さくように量子化されることになる。このようにキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを量子化した整合補正量テーブルを参照して整合回路を設定することで、送電側装置1は、入力インピーダンスZinの値によらず、整合後の反射による損失を、常に所定の閾値以下にすることができる。
【0081】
図19(a)〜(c)に、負荷6の値RLを「10Ω」、「50Ω」、「200Ω」として、本実施例の送電アンテナ3及び受電アンテナ5(インダクタンスL=8.64μH、コンデンサC=17.49pF、損失抵抗R=1.0Ω、並列コンデンサCt=10.08pF)を対向させ、結合係数kを「0.01」から「0.3」まで変化させた場合に求めた整合補正量テーブルを示す。なお、これらのテーブルでは、整合回路のキャパシタンス値C、インダクタンス値Lに加えて、整合回路の形式を指定するフラグ情報Ifが合わせて記憶させている。また、インデックスIdxは、通し番号であり、かつ、結合係数kが大きい行ほど、大きいインデックスIdxが割り振られている。そして、記憶部25は、このようにして作成された負荷6の値RLごとの整合補正量テーブル群を記憶する。
【0082】
このような構成の整合補正量テーブルを記憶部25に記憶しておくことで、送電側装置1は、推定負荷値RLeに基づき、どの整合補正量テーブルを使用するかを決定でき、さらに送電アンテナ端での入力インピーダンスZinに基づき、選択した整合補正量テーブルを参照して使用すべき整合回路及び当該整合回路に設定する制御値Tcを一回の動作で決定することが出来る。
【0083】
[自動整合動作による効果]
以下では、自動整合動作の効果について例を挙げて説明する。
【0084】
図20(a)、(b)は、負荷6の値RLが「10Ω」の場合に、
図19(a)に示す整合補正量テーブルを使用して、インピーダンス整合処理を実施した場合の反射損低減の一例である。
図20(a)は、送電アンテナ3と受電アンテナ5との結合係数kが「0.064」の場合(ギャップ20cm、水平方向の位置ずれ0cm)を示し、
図20(b)は、結合係数kが「0.021」(ギャップ35cm、位置ずれ0cm)の場合について示す。
【0085】
ここで、
図20(a)の場合では、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinは、「181.1−j 26.1Ω」となる。従って、
図19(a)に示す整合補正量テーブルで最もこれに近いインピーダンス値を有する行を探索すると、インデックスIdxが「6」の行が選ばれる。この行の整合回路の形式を示すフラグ情報Ifは「1」、キャパシタンス値C及びインダクタンス値Lはそれぞれ「93.2pF」、「1136.6nH」となっている。
図20(a)に示すように、整合回路を追加しない場合(グラフG2参照)と、第1形式の整合回路11を選択してキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを上述のように設定した場合(グラフG1参照)とで、駆動周波数「12.947MHz」での「1−|S11|2」の値を比較すると、それぞれ67.0%、99.2%である。従って、整合回路を追加することにより32.2%改善、即ち反射損を低減出来た。
【0086】
次に、
図20(b)の場合では、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinは、「20.8−j 0.2Ω」となる。従って、
図19(a)に示す整合補正量テーブルで最もこれに近いインピーダンス値を示す行を探索すると、インデックスIdxが「3」の行が選ばれる。この行の整合回路の形式を示すフラグ情報Ifは「2」、キャパシタンス値C及びインダクタンス値Lはそれぞれ「314.6pF」、「300.2nH」となる。
図20(b)に示すように、整合回路を追加しない場合(グラフG4参照)と、第2形式の整合回路12を選択してキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを上述のように設定した場合(グラフG3参照)とで、駆動周波数12.947MHzでの「1−|S11|2」の値を比較すると、それぞれ83.0%、99.8%である。従って、整合回路を追加することにより16.8%改善、即ち反射損を低減出来た。
【0087】
このように、第1実施例の送電側装置1は、記憶部25に受信側装置4の負荷6の値RLごとの整合補正量テーブルを記憶しておくことにより、推定負荷値RLeを求めて使用する整合補正量テーブルを選択し、続いて送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを求めれば、一回の動作で適切な整合回路を自動的かつ高速に構成することが可能である。
【0088】
[整合追従動作]
次に、第1実施例に係る整合追従動作について説明する。この動作は、一度インピーダンス整合を取った後に、整合状態を維持し続けるための動作である。
【0089】
まず、整合追従動作の必要性等について説明する。送電アンテナ3及び受電アンテナ5を対向させて定格の電力伝送を行うために、自動整合動作を行い(一般にこの動作は出力を絞った状態で行われる)、受電側装置4の負荷6の値RL及び送電アンテナ3と受電アンテナ5との間の結合状態によって決まる入力インピーダンスZinに対して最適な整合回路が構成されたとする。この場合、送電回路2は、定格での電力伝送に移行する。しかし、整合が取れた状態で電力伝送を行っている最中に送電側装置1と受電側装置4との相対的な位置関係が変化したとする。なお、電気自動車など移動中の物体に電力伝送を行おうとする場合にこのような状況が発生し得る。そして、送電側装置1と受電側装置4との相対的位置関係が変化すると、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinが先ほど自動整合動作で整合を取ったときの値と異なってしまい、整合が再びずれてしまう。この場合、整合状態からずれたことを出来るだけ早く検出し、変化した入力インピーダンスZinに対して再び整合させる処理が必要である。以上を勘案し、第1実施例の整合追従動作は、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合状態の変化に追従し、整合回路の形式及び整合回路に適用する制御値Tcを適切に設定することで、整合状態を維持し続けるものである。
【0090】
次に、整合追従動作の処理について説明する。整合追従動作も、自動整合動作で使用した送電アンテナ3と受電アンテナ5との結合状態(ギャップなど)を変化させたときの送電アンテナ端の入力インピーダンス軌跡(
図5参照)を使用する。
図5に示した入力インピーダンス軌跡は、受電側装置4の負荷6の値RLを固定した上で結合状態を変化させて求めたものであり、第1実施例ではこのインピーダンス軌跡を用いる。
【0091】
受電側装置4の負荷6の値RLは変化しないとすると、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinは
図5に示したインピーダンス軌跡上に存在する。このインピーダンス軌跡上にある任意のインピーダンスポイントを整合させるために必要な整合回路の形式及び当該整合回路に適用する制御値Tcは、
図19に例示するような負荷の値ごとに生成された整合補正量テーブルに記憶されている。従って、一度整合状態となった後に行う整合追従動作では、送電側装置1は、自動整合動作で用いた整合補正量テーブルを引き続き参照して、適用すべき整合補正量テーブルの行(即ち、インデックスIdx)を変更すればよい。
【0092】
以上を勘案し、整合追従動作では、送電側装置1は、あるインピーダンス値に対する整合状態からずれた状態が、
図5に示すインピーダンス軌跡上の左右どちら側にずれたのか(左側は結合が弱まる方向、右側は強まる方向)、換言すると、現在使用している整合補正量テーブルの行から上下どちら側にずれたのか(上側は結合が弱まる方向、下側は強まる方向)を検出して、適切な方向へ整合回路の構成を変更する。なお、上述したように、記憶部25が記憶する整合補正量テーブルでは、
図19に示すように、インデックスIdxは、通し番号であり、かつ、結合係数kが大きい行ほど、大きいインデックスIdxが割り振られている。
【0093】
(読出し方向決定方法)
以下では、整合状態からのずれが、結合が強まる方向又は結合が弱まる方向のいずれの方向に生じているのかを判断する方法を説明する。この処理は、位相差算出・判定部16及び調整方向決定部18により実行される。
【0094】
まず、
図21(a)〜(c)に、結合が強くなる方向にずれる場合の進行波電圧波形及び反射波電圧波形の関係について示す。
【0095】
具体的には、
図21(a)は、負荷6の値RLが「10Ω」の場合において、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが「0.064」の状態で整合を取った後、結合係数kを「0.08」、「0.12」、「0.2」のように順次強めた場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0096】
図21(b)は、負荷6の値RLが「50Ω」の場合において、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが「0.064」の状態で整合を取った後、結合係数kを「0.08」、「0.12」、「0.2」のように順次強めた場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0097】
図21(c)は、負荷6の値RLが「200Ω」の場合において、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが「0.064」の状態で整合を取った後、結合係数kを「0.08」、「0.12」、「0.2」のように順次強めた場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0098】
次に、
図22(a)〜(c)に、結合が弱くなる方向にずれる場合の進行波電圧波形及び反射波電圧波形の関係について示す。
【0099】
具体的には、
図22(a)は、負荷6の値RLが「10Ω」の場合において、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが「0.064」の状態で整合を取った後、結合係数kを「0.055」、「0.04」、「0.02」のように順次弱めた場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0100】
図22(b)は、負荷6の値RLが「50Ω」の場合において、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが「0.064」の状態で整合を取った後、結合係数kを「0.055」、「0.04」、「0.02」のように順次弱めた場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0101】
図22(c)は、負荷6の値RLが「200Ω」の場合において、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが「0.064」の状態で整合を取った後、結合係数kを「0.055」、「0.04」、「0.02」のように順次弱めた場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0102】
図21(a)〜(c)に示したように、一度整合を取った後に結合が強くなる方向に送電アンテナ3と受電アンテナ5との相対的位置関係がずれる場合には、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相の方が遅れていることが分かる。一方、
図22(a)〜(c)に示したように、一度整合を取った後に結合が弱くなる方向にずれる場合には、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相の方が進んでいることが分かる。また、位相に関するこれらの関係は、何れの負荷6の値RLでも成立している。
【0103】
以上を勘案し、送電側装置1は、一度整合を取った後は進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相関係を継続的に監視し続け、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相が遅れている場合は、送電アンテナ3と受電アンテナ5との間の結合が強まっていると判断する。そして、この場合、送電側装置1は、整合補正量テーブルにおいても結合係数kが大きくなる方向、即ち整合補正量テーブル内の現在の行よりも下の方向(インデックスIdxが大きくなる方向)に存在する行を参照し、当該行のフラグ情報Ifが示す整合回路に、当該行の制御値Tcを設定する。
【0104】
一方、送電側装置1は、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相が進んでいる場合は、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合が弱まっていると判断する。そして、この場合、送電側装置1は、整合補正値テーブルで結合係数kが小さくなる方向、即ち整合補正量テーブル内の現在の行よりも上の方向(インデックスIdxが小さくなる方向)に存在する行を参照し、当該行のフラグ情報Ifが示す整合回路に、当該行の制御値Tcを設定する。
【0105】
このような処理を行うことで、送電側装置1は、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合状態が変化して送電アンテナ端での入力インピーダンスZinが変化しても、整合状態を維持し続けることが出来る。好適には、送電側装置1は、一度整合を取った後に反射係数絶対値|Γ|を常時監視し、反射係数絶対値|Γ|がシステムの仕様として設定される所定の閾値|Γ|thr以下の場合は、上述の整合追従動作を行わず、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrよりも大きい場合には、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相関係を特定し、整合補正量テーブルで使用する行を変更して整合回路の構成を変更するようにする。これにより、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|を常に閾値|Γ|thr以下に保ち、反射による損失を抑制することができる。この具体的な処理手順については、後述の[処理フロー]のセクションで詳しく説明する。
【0106】
次に、
図23〜
図25を参照して、負荷6の値RLが「10Ω」の場合における整合追従動作の例を説明する。
図23〜
図25は、始めに結合係数kが「0.064」の場合に、
図19(a)のインデックスIdxが「6」の行を参照して整合を取った後、結合係数kが「0.1」と強まる方向に変化することに起因して整合がずれる場合の例を示す。具体的には、
図23(a)は、結合係数kが「0.064」の状態で整合を取った直後の「1−|S11|2」のグラフを示し、
図23(b)は、この場合での駆動周波数における進行波電圧波形及び反射波電圧波形のグラフを示す。また、
図24(a)は、整合後に結合係数kが「0.064」から「0.1」に変化した場合の「1−|S11|2」のグラフを示し、
図24(b)は、この場合での駆動周波数における進行波電圧波形及び反射波電圧波形のグラフを示す。さらに、
図25(a)は、整合追従動作の実行後の「1−|S11|2」のグラフを示し、
図25(b)は、この場合での駆動周波数における進行波電圧波形及び反射波電圧波形のグラフを示す。
【0107】
図23(a)、(b)に示すように、初期状態から自動整合動作を行った直後では、駆動周波数「12.947MHz」において、ほぼ100%の電力が送電アンテナ3に入力され反射波のレベルも低いことが分かる。このとき選択されている整合補正テーブルのインデックスIdxは「6」である。そして、
図24(a)、(b)に示すように整合回路の構成はそのままで結合係数kが「0.1」に変化した場合、整合が再びずれてしまったため反射波のレベルが上昇し、「1−|S11|2も低下(88%)している。
【0108】
この場合、送電側装置1は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相関係に基づき、結合の状態が変わったことを検出する。具体的には、送電側装置1は、進行波電圧Vfより反射波電圧Vrの位相が遅れているため結合が強まっていると判断する。従って、この場合、送電側装置1は、整合補正量テーブルで結合が強まる方向にある行、即ち現在のインデックスIdx「6」より大きいインデックスIdx「7」の行に基づき、整合回路の構成を更新する。その結果、
図25(a)、(b)に示すように、送電側装置1は、再び整合が取れた状態に遷移する。
【0109】
(ステップ幅決定方法)
次に、反射係数絶対値|Γ|に基づきステップ幅Widxを決定する方法について説明する。
【0110】
上述の
図23〜
図25の例では、ステップ幅Widxは「1」に固定されていた。しかし、反射係数が急激に変化した場合、インデックスIdxを一つずつずらして制御値Tcを更新していたのでは、所望の制御値Tcに係るインデックスIdxに到達するまでにかなり時間が掛かる可能性がある。即ち、移動する物体に対して電磁界共振結合のシステムを用いて電力を供給しようとする場合には、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間のギャップの変化や位置ずれが高速かつ大きな変動幅で発生する可能性がある。このような場合には、反射係数絶対値|Γ|を観測する周期内での上述の変化量がかなり大きくなると予想される。そのような場合に備え、送電側装置1は、好適には、整合状態からの反射係数絶対値|Γ|の変化幅に応じて、ステップ幅Widxを柔軟に決定する。これにより、送電側装置1は、送電アンテナ3と受電アンテナ5との結合状態の変化が高速に起こるような場合にも迅速に整合できる。
【0111】
具体的には、以下のような基準でステップ幅Widxを変化させる方法が考えられる。
・「|Γ|の変化幅<0.15」の場合、「Widx=1」
・「|Γ|の変化幅<0.30」の場合、「Widx=2」
・「|Γ|の変化幅<0.45」の場合、「Widx=3」
・「|Γ|の変化幅≧0.45」の場合、「Widx=4」
このように、送電側装置1は、例えば、各反射係数絶対値|Γ|の変化幅に対応する適切なステップ幅Widxのテーブルを予め記憶部25に記憶しておく。上述のテーブルは、例えば実験等に基づき予め作成される。そして、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|の変化幅から、このテーブルを参照してステップ幅Widxを決定することで、送電アンテナ3と受電アンテナ5との間の結合状態の変化が高速に起こるような場合にも迅速に整合状態を回復することができる。
【0112】
[処理フロー]
次に、第1実施例における処理手順について説明する。以下では、まず、自動整合動作の処理手順について
図26〜
図28の「フロー1」〜「フロー3」で説明した後、追従整合動作の処理手順について
図29の「フロー4」で説明する。
【0113】
(フロー1)
図26は、第1実施例において、送電側装置1が実行する処理手順を示すフローチャートである。送電側装置1は、
図26のフロー1の処理を、所定のタイミングで実行する。
【0114】
まず、送電側装置1の整合回路選択部23は、スイッチ部13、14をスルー回路30に設定する(ステップS101)。そして、送電側装置1の送電回路2は、定格電力の伝送に先立ち、送電アンテナ3から微小電力を出力する(ステップS102)。
【0115】
次に、送電側装置1は、制御通信部75を介して受電側装置4に負荷6の値RLの推定を依頼する旨の信号を送信する(ステップS103)。その後、当該信号を受信した受電側装置4は、後述するフロー2の処理を実行する。そして、送電側装置1は、負荷推定が完了したか否か判定する(ステップS104)。具体的には、送電側装置1は、制御通信部75を介して受電側装置4から推定負荷値RLeを受信したか否か判定する。そして、負荷推定が完了していない場合には(ステップS104;No)、送電側装置1は、負荷推定が完了したか否か引き続き監視する。一方、負荷推定が完了した場合(ステップS104;Yes)、送電側装置1のテーブル選択部27は、推定負荷値RLeと最も近い負荷の値に対応した整合補正量テーブルを選択する(ステップS105)。そして、送電側装置1は、後述するフロー3に相当する処理(自動整合処理)を開始する(ステップS106)。
【0116】
(フロー2)
図27は、第1実施例において、受電側装置4の負荷推定部7が実行する処理手順を示すフローチャートである。負荷推定部7は、
図27のフロー2の処理を、
図26のステップS103で制御通信部75から負荷の値の推定を依頼する旨の信号を受信した場合に実行する。
【0117】
まず、負荷推定部7は、負荷6の電圧及び負荷6に流れる電流を計測する(ステップS201)。具体的には、電流検出部71が検出電流値Ieを検出すると共に、電圧値検出部72が検出電圧値Veを検出する。そして、負荷推定部7は、負荷6の値RLを推定する(ステップS202)。具体的には、負荷推定部7の負荷値算出部73は、検出電圧値Veを検出電流値Ieで除することで、推定負荷値RLeを算出する。そして、負荷推定部7は、制御通信部74を介して推定負荷値RLeを送電側装置1へ送信する(ステップS203)。
【0118】
(フロー3)
図28は、第1実施例において、送電側装置1が実行するフロー3の処理手順を示すフローチャートである。送電側装置1は、
図28のフロー3の処理を、
図26のフロー1でステップS106へ処理を進めた際に実行する。
【0119】
まず、送電側装置1の整合回路選択部23は、スイッチ部13、14をスルー回路30に接続させ、送電アンテナ3から微小電力を出力する(ステップS301)。次に、送電側装置1の反射係数算出部17は、進行波・反射波抽出部15で抽出された進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrの各々の大きさを計測する(ステップS302)。そして、反射係数算出部17は、式(1)に従い反射係数絶対値|Γ|を算出する(ステップS303)。
【0120】
次に、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下か否か判定する(ステップS304)。そして、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下であると判断した場合(ステップS304;Yes)、既に整合状態にあり整合処理を行う必要がないと判断し、フローチャートの処理を終了する。
【0121】
一方、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrより大きい場合(ステップS304;No)、ステップS305からステップS312までの処理に相当する整合処理を行う。具体的には、まず、位相差算出・判定部16は、式(2)に示すように、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差θを計測する(ステップS305)。そして、位相差算出・判定部16又は反射係数算出部17は、反射係数絶対値|Γ|及び位相差θから複素反射係数Γを求め(ステップS306)、複素反射係数Γを式(3)に基づき入力インピーダンスZinに変換する(ステップS307)。
【0122】
次に、読出し位置決定部24は、フロー1で選択した整合補正量テーブルから、算出された入力インピーダンスZinに最も近いインピーダンス値を有する行を探索し、選択する(ステップS308)。そして、読出し位置決定部24は、選択した行のフラグ情報Ifを整合回路選択部23に供給し、使用する整合回路を決定させる(ステップS309)。また、制御値出力部26は、選択した行のキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを、使用する制御値Tcに決定する(ステップS310)。そして、制御値出力部26は、選択された整合回路にキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを設定する(ステップS311)。そして、整合回路選択部23は、フラグ情報Ifに基づき使用する整合回路にスイッチ部13、14を接続させる(ステップS312)。
【0123】
(フロー4)
図29は、第1実施例において、送電側装置1が実行する処理手順を示すフローチャートである。送電側装置1は、
図29のフロー4の処理を、フロー3の実行後に実行する。
【0124】
まず、送電側装置1の反射係数算出部17は、進行波・反射波抽出部15で抽出された進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrの各々の大きさを計測する(ステップS401)。そして、反射係数算出部17は、式(1)に従い反射係数絶対値|Γ|を算出する(ステップS402)。
【0125】
次に、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下か否か判定する(ステップS403)。そして、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下であると判断した場合(ステップS403;Yes)、既に整合状態にあり整合処理を行う必要がないと判断し、ステップS401へ処理を戻し、引き続き、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下であるか監視する。
【0126】
一方、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrより大きい場合(ステップS403;No)、位相差算出・判定部16は進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相関係を特定する(ステップS404)。具体的には、位相差算出・判定部16は、進行波電圧Vfよりも反射波電圧Vrが遅れているか否かを判定する(ステップS405)。
【0127】
そして、位相差算出・判定部16は、進行波電圧Vfよりも反射波電圧Vrが遅れていると判断した場合(ステップS405;Yes)、送電アンテナ3と受電アンテナ5との結合が強まる方向に変化していると特定する。そして、この場合、調整方向決定部18は、整合補正量テーブルの読出し方向を結合が強まる場合に対応する方向に決定する(ステップS406)。即ち、調整方向決定部18は、
図19に示す整合補正量テーブルでは、インデックスIdxが大きくなる方向に読出し方向を設定する。そして、調整ステップ幅決定部19は、反射係数絶対値|Γ|に応じて、ステップ幅Widxを決定する(ステップS407)。例えば、調整ステップ幅決定部19は、結合が強まる場合に対応した所定の比率(比例定数)に基づき、反射係数絶対値|Γ|からステップ幅Widxを定める。
【0128】
一方、位相差算出・判定部16は、進行波電圧Vfよりも反射波電圧Vrが進んでいると判断した場合(ステップS405;No)、送電アンテナ3と受電アンテナ5との結合が弱まる方向に変化していると特定する。そして、この場合、調整方向決定部18は、整合補正量テーブルの読出し方向を、結合が弱まる場合に対応する方向に決定する(ステップS408)。即ち、調整方向決定部18は、
図19に示す整合補正量テーブルでは、インデックスIdxが小さくなる方向に読出し方向を設定する。そして、調整ステップ幅決定部19は、反射係数絶対値|Γ|に応じて、ステップ幅Widxを決定する(ステップS409)。例えば、調整ステップ幅決定部19は、結合が弱まる場合に対応した所定の比率(比例定数)に基づき、反射係数絶対値|Γ|からステップ幅Widxを定める。
【0129】
そして、ステップS407又はステップS409の実行後、読出し位置決定部24は、特定した読出し方向とステップ幅Widxとに基づき、 既に選択した整合補正量テーブルから読出す行のインデックスIdxを特定する(ステップS410)。そして、制御値出力部26は、特定したインデックスIdxの行からキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを読出し、特定したインデックスIdxの行のフラグ情報Ifから特定される整合回路に、これらの値を設定する。また、整合回路選択部23は、上述フラグ情報Ifに基づき、必要に応じて、スイッチ部13、14の切り替えを行う(ステップS411)。そして、送電側装置1は、ステップS401へ処理を戻す。
【0130】
なお、ステップS407及びステップS409の処理は必須の処理ではなく、ステップ幅Wdixとして予め定められた値を用いる場合には、送電側装置1は、ステップS407及びステップS409の処理を実行しなくてもよい。
【0131】
<第2実施例>
次に、第2実施例について説明する。第2実施例では、結合係数kが変化せず、負荷6の値RLが変化する場合について説明する。概略的には、電力伝送システムは、結合係数k及び送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを推定し、これらの推定値に基づき、整合補正量テーブルを参照して、使用すべき整合回路及び当該整合回路へ適用する制御値Tcを決定する。これにより、電力伝送システムは、送電アンテナの入力インピーダンスZinを、送電回路の出力インピーダンスと整合させる。また、電力伝送システムは、一度整合状態になった後に整合状態を維持し続ける整合追従動作を行うことで、整合状態を保つ。
【0132】
[概略構成]
図30は、第2実施例に係る電力伝送システムの概略構成図である。第2実施例では、負荷6の値RLが変化し、記憶部25は、結合係数kごとに負荷6の値RLが変化した場合の整合補正量テーブルを記憶する点で第1実施例と異なる。そして、送電側装置1は、初期状態から自動整合動作を行うと共に、自動整合動作後に整合追従動作を行う。以下では、第1実施例と同様の部分については適宜同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0133】
結合係数推定部8は、定格電力の伝送に先立ち、送電アンテナ3と受電アンテナ5との間の結合係数kを推定する処理を行う。具体的には、距離センサ81は、送電側装置1と受電側装置4との距離を計測する。そして、距離結合係数変換部82は、予めメモリに記憶されている距離と結合係数kとの変換テーブルを参照し、距離センサ81が計測した距離から結合係数kを算出する。
図31は、送電アンテナ3と受電アンテナ5との距離と、結合係数kとの関係を示すグラフを示す。距離結合係数変換部82は、
図31に示すような距離と結合係数kとの対応を示す変換テーブルを予めメモリに記憶しておく。
【0134】
そして、テーブル選択部27は、結合係数推定部8が算出した結合係数推定値keに基づき、記憶部25に結合係数kの値ごとに記憶された複数の整合補正量テーブルから、使用する整合補正量テーブルを選択する。
【0135】
ここで、第2実施例で記憶部25が記憶する整合補正量テーブルについて説明する。
図32は、結合係数kが「0.07」の場合に対応する整合補正量テーブルの一例を示す。なお、
図32の整合補正量テーブルでは、受電側装置4の負荷6の値RLが「10Ω」から「500Ω」の範囲における入力インピーダンスZinを「50Ω」に整合させるために必要なキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lが記憶されている。また、整合補正量テーブルには、第1実施例と同様に、第1形式の整合回路11と第2形式の整合回路12のいずれを使用すべきかを示すフラグ情報Ifも記憶されている。
【0136】
例として、読出し位置決定部24に入力された入力インピーダンスZinが「27+j0Ω」であったとすると、読出し位置決定部24は、当該入力インピーダンスZinに最も近いインピーダンス値(R=25.040Ω、X=1.435Ω)を有するインデックスIdxが「7」の行を選択し、フラグ情報Ifが「2」、キャパシタンス値Cが「245.462pF」、インダクタンス値Lが「289.678nH」であると特定する。そして、読出し位置決定部24は、整合回路の形式に関する情報に相当するフラグ情報Ifを整合回路選択部23に供給する。
【0137】
整合回路選択部23は、供給された「2」を示すフラグ情報Ifに基づき、送電回路2と送電アンテナ3との間に第2形式の整合回路12が接続されるようにスイッチ部13、14を動作させる。またキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lは制御値出力部26に渡され、制御値出力部26は、選択した整合回路の可変コンデンサ部、可変インダクタ部にこれらの値を設定する。以上のようにして決定された整合回路を
図33に示す。
【0138】
このように、第2実施例では、第1実施例と同様、送電側装置1は、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを調べ、選択した整合補正量テーブルを参照することで、直ちに送電回路2及び送電アンテナ3間のインピーダンス整合を取ることが出来る。例えば、将来電気自動車が普及して、交差点で停止した時に路面に設置された充電器から電気自動車を充電するような場合を考えると、車が停車してから出来るだけ早く充電動作を開始することが必要となる。その際に、インピーダンス整合を自動的かつ出来るだけ迅速に済ませることで、定格での電力伝送に迅速に移行することが出来るようになる。
【0139】
[整合補正量テーブル]
次に、第2実施例で記憶部25が予め記憶する整合補正量テーブルについて説明する。第1及び第2実施例で使用する整合補正量テーブルは、いずれも
図5、
図6に示した送電アンテナ端での入力インピーダンスZinの変化の軌跡に基づいて生成される。ここで、
図6は、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kを固定した上で負荷6の値RLを変化させた時の入力インピーダンス軌跡を示している。上述したように、第2実施例では、結合係数kを固定した上で受電側装置4の負荷6の値RLが変化するため、以下では
図6に示したインピーダンス軌跡を基にして整合補正量テーブルを構成する場合について説明する。
【0140】
図6に示すように、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinは、結合係数kの値を固定して負荷の値RLを変化させた場合も、
図5と同様に、スミスチャート上の「X=0Ω」の軸の付近で大きく水平方向に変化する軌跡を描く。また、その軌跡のスミスチャート上における相対的な位置は、結合係数kが小さい場合(例えば「k=0.030」の場合)には左寄りに、結合係数kが大きい場合(例えば「k=0.120」の場合)には右寄りに、結合係数kが中間値付近の場合(例えば「k=0.064」の場合)には左右殆ど偏らずに分布するという傾向がある。
【0141】
図6に示すように、想定する結合係数kが異なっていても、受電側装置4の負荷6の値RLが変化した時の送電アンテナ端における入力インピーダンス軌跡は、スミスチャート上の「X=0Ω」の軸の付近で大きく水平方向に変化するという共通の形状を有する。従って、そのインピーダンス軌跡上のポイントを整合させるためには、第1実施例で説明した
図15に示すように、スミスチャートを大きく領域Aと領域Bとの2つの領域に分け、それぞれの領域に適した整合回路を用いるようにすれば良い。つまり第1実施例と同じ考え方を第2実施例に適用することが可能である。
【0142】
具体的には、
図16に示すように、領域Aに含まれるインピーダンスポイントの場合は、まず送電アンテナ3に並列に接続した可変コンデンサの値を補正量A1だけ増やして点Rまで移動させ、次に送電回路2及び送電アンテナ3間に直列に接続した可変インダクタの値を補正量A2だけ増やして整合ポイントPまで移動させれば良い。領域Bに含まれるインピーダンスポイントの場合は、まず送電回路2及び送電アンテナ3間に直列に接続した可変インダクタの値を補正量B1だけ増やして点Qまで移動させ、次に送電回路2側に並列に接続した可変コンデンサの値を補正量B2だけ増やして、整合ポイントPまで移動させれば良い。この説明は第1実施例の場合と全く同様である。
【0143】
また、領域A、Bのそれぞれに存在するインピーダンスポイントを整合させるための整合回路の形態も第1実施例と同じであり、それぞれ既に
図17(a)及び
図17(b)に示されている。第1実施例と同様、
図17(a)が第1形式の整合回路11、
図17(b)が第2形式の整合回路12に対応する。従って、第2実施例でも、送電側装置1は、整合回路としてこの2パターンの整合回路を用意しておけばよい。
【0144】
整合補正量テーブルの作成の方法も第1実施例と同様である。領域Aにあるインピーダンスポイントを
図17(a)の整合回路を用いて整合させるために必要な補正量A1、A2、及び、領域Bにあるインピーダンスポイントを
図17(b)の整合回路を用いて整合させるために必要な補正量B1、B2を、予め理論計算(
図18(a)、(b)参照)または測定等の手段によって求め、求めたこれらの値を例えばインピーダンス値と対応させたルックアップテーブルを整合補正テーブルとして記憶部25に予め記憶させておく。このようにしておくことで、送電側装置1は、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを求めることにより整合のために必要な補正量を一回で求めることが出来る。
【0145】
図34(a)〜(c)に、結合係数kをそれぞれ「0.03」、「0.07」、「0.15」として、本実施例の送電アンテナ3及び受電アンテナ5(インダクタンスL=8.64μH、コンデンサC=17.49pF、損失抵抗R=1.0Ω、並列コンデンサCt=10.08pF)を対向させ、負荷6の値RLを「10Ω」から「500Ω」まで変化させた場合に対して、理論計算で求めた整合補正量テーブルを示す。なお、これらのテーブルでは、整合回路のキャパシタンス値C、インダクタンス値Lに加えて、整合回路の形式を指定するフラグ情報Ifが合わせて記憶されている。また、インデックスIdxは、通し番号であり、かつ、インピーダンス値(負荷)が大きい行ほど、大きいインデックスIdxが割り振られている。記憶部25は、このようにして作成された結合係数kごとの整合補正量テーブル群を記憶する。
【0146】
このような構成の整合補正量テーブルを用いることによって、送電側装置1は、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kを求めることにより、どの整合補正量テーブルを使用するかを決定し、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinの値を求めることにより、選択された整合補正量テーブルから使用すべき整合回路及び当該整合回路に設定する制御値Tcを一回の動作で決定することが出来る。
【0147】
[自動整合動作による効果]
以下では、自動整合動作の効果について例を挙げて説明する。
【0148】
図35(a)、(b)は、結合係数kが「0.07」の場合に、
図34(b)に示す整合補正量テーブルを使用して、インピーダンス整合処理を実施した場合の反射損低減の一例である。
図35(a)は、負荷6の値RLが「15Ω」の場合を示し、
図35(b)は、負荷6の値RLが「200Ω」の場合について示す。
【0149】
ここで、
図35(a)の場合では、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinは「150.3−j 17.05Ω」となる。従って、
図34(b)に示す整合補正量テーブルで最もこれに近いインピーダンス値を有する行を探索すると、インデックスIdxが「2」の行が選ばれる。この行の整合回路の形式を示すフラグ情報Ifは「1」、キャパシタンス値C及びインダクタンス値Lはそれぞれ「106.3pF」、「879.1nH」となっている。
図35(a)に示すように、整合回路を追加しない場合(グラフG41参照)と、第1形式の整合回路11を選択してキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを上述のように設定した場合(グラフG40参照)とで、駆動周波数「12.947MHz」での「1−|S11|2」の値を比較すると、それぞれ74.4%、100.0%であり、整合回路を追加することにより25.6%改善、即ち反射損を低減出来た。
【0150】
次に、
図35(b)の場合では、送電アンテナ端の入力インピーダンスZinは、「13.1+j 1.8Ω」となる。従って、
図34(b)に示す整合補正量テーブルで最もこれに近いインピーダンス値を示す行を探索すると、インデックスIdxが「9」の行が選ばれる。この行の整合回路の形式を示すフラグ情報Ifは「2」、キャパシタンス値C及びインダクタンス値Lはそれぞれ「412.9pF」、「247.7nH」となる。
図35(b)に示すように、整合回路を追加しない場合(グラフG43参照)と、第2形式の整合回路12を選択してキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを上述のように設定した場合(グラフG42参照)とで、駆動周波数「12.947MHz」での「1−|S11|2」の値を比較すると、それぞれ65.7%、100.0%であり、整合回路を追加することにより34.3%改善、即ち反射損を低減出来た。
【0151】
このように、第2実施例の送電側装置1は、記憶部25に送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kごとの整合補正量テーブルを記憶しておくことにより、結合係数推定値keを求めて使用する整合補正量テーブルを選択し、続いて送電アンテナ端の入力インピーダンスZinを求めれば、一回の動作で適切な整合回路を自動的に、かつ高速に構成することが可能である。
【0152】
[整合追従動作]
次に、第2実施例に係る整合追従動作について説明する。この動作は、一度インピーダンス整合を取った後に、整合状態を維持し続けるための動作である。
【0153】
まず、整合追従動作の必要性等について説明する。送電アンテナ3及び受電アンテナ5を対向させて定格の電力伝送を行うために、自動整合動作を行い(一般にこの動作は出力を絞った状態で行われる)、受電側装置4の負荷6の値RL及び送電アンテナ3と受電アンテナ5との間の結合状態によって決まる入力インピーダンスZinに対して最適な整合回路が構成されたとする。この場合、送電回路2は、定格での電力伝送に移行する。しかし、整合が取れた状態で電力伝送を行っている最中に受電側装置4の負荷6の値RLが変化したとする。なお、電気自動車などに搭載されたリチウムイオン電池への充電時には、一般に定電流モード、定電圧モード、定電力モードなどの充電の動作モードを変更しながら充電動作を行う。この際に電池の蓄電量によって負荷としての値が変わることがあるため、このような応用例の場合では負荷変動を想定する必要がある。そして、受電側装置4の負荷6の値RLが変化すると、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinが先ほど自動整合動作で整合を取ったときの値と異なってしまい、整合が再びずれてしまう。この場合、整合状態からずれたことを出来るだけ早く検出し、変化した入力インピーダンスZinに対して再び整合させる処理が必要である。以上を勘案し、第2実施例の整合追従動作は、受電側装置4の負荷6の値RLの変動に追従し、整合回路の形式及び整合回路に適用する制御値Tcを適切に設定することで、整合状態を維持し続けるものである。
【0154】
次に、整合追従動作の処理について説明する。整合追従動作も、自動整合動作で使用した、負荷6の値RLを変化させたときの送電アンテナ端の入力インピーダンス軌跡(
図6参照)を使用する。
図6に示した入力インピーダンス軌跡は、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kを固定した上で受電側装置4の負荷6の値RLを変化させて求めたものであり、第2実施例ではこのインピーダンス軌跡を用いる。
【0155】
送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の結合係数kが変化しないとすると、送電アンテナ端での入力インピーダンスZinは
図6に示したインピーダンス軌跡上に存在する。このインピーダンス軌跡上にある任意のインピーダンスポイントを整合させるために必要な整合回路の形式及び当該整合回路に適用する制御値Tcは、
図34に例示するような結合係数kごとに生成された整合補正量テーブルに記憶されている。従って、一度整合状態となった後に行う整合追従動作では、送電側装置1は、自動整合動作で用いた整合補正量テーブルを引き続き参照して、適用すべき整合補正量テーブルの行(即ち、インデックスIdx)を変更すればよい。
【0156】
以上を勘案し、整合追従動作では、送電側装置1は、あるインピーダンス値に対する整合状態からずれた状態が、
図6に示すインピーダンス軌跡上の左右どちら側にずれたのか(左側は負荷が大きくなる方向、右側は小さくなる方向)、換言すると、現在使用している整合補正量テーブルの行から上下どちら側にずれたのか(下側は負荷が大きくなる方向、上側は小さくなる方向)を検出して、適切な方向へ整合回路の構成を変更する。なお、記憶部25が記憶する整合補正量テーブルでは、
図34に示すように、インデックスIdxは、通し番号であり、かつ、インピーダンス値(負荷)が大きい行ほど、大きいインデックスIdxが割り振られている。
【0157】
(読出し方向決定方法)
以下では、整合状態からのずれが、負荷が大きくなる方向又は負荷が小さくなる方向のいずれの方向に生じているのかを判断する方法を説明する。この処理は、位相差算出・判定部16及び調整方向決定部18により実行される。
【0158】
まず、
図36(a)〜(c)に、負荷が大きくなる方向にずれる場合の進行波電圧波形及び反射波電圧波形の関係について示す。
【0159】
具体的には、
図36(a)は、結合係数kが「0.030」の場合において、負荷6の値RLが「50Ω」の状態で整合を取った後、負荷6の値RLを「100」、「200」、「400」のように順次大きくした場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0160】
図36(b)は、結合係数kが「0.064」の場合において、負荷6の値RLが「50Ω」の状態で整合を取った後、負荷6の値RLを「100」、「200」、「400」のように順次大きくした場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0161】
図36(c)は、結合係数kが「0.120」の場合において、負荷6の値RLが「50Ω」の状態で整合を取った後、負荷6の値RLを「100」、「200」、「400」のように順次大きくした場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0162】
次に、
図37(a)〜(c)に、負荷が小さくなる方向にずれる場合の進行波電圧波形及び反射波電圧波形の関係について示す。
【0163】
具体的には、
図37(a)は、結合係数kが「0.030」の場合において、負荷6の値RLが「50Ω」の状態で整合を取った後、負荷6の値RLを「40Ω」、「25Ω」、「10Ω」のように順次小さくした場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0164】
図37(b)は、結合係数kが「0.064」の場合において、負荷6の値RLが「50Ω」の状態で整合を取った後、負荷6の値RLを「40Ω」、「25Ω」、「10Ω」のように順次小さくした場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0165】
図37(c)は、結合係数kが「0.120」の場合において、負荷6の値RLが「50Ω」の状態で整合を取った後、負荷6の値RLを「40Ω」、「25Ω」、「10Ω」のように順次小さくした場合における進行波電圧波形及び反射波電圧波形を示す。
【0166】
図36(a)〜(c)に示したように、一度整合を取った後に負荷6の値RLが大きくなる方向にずれる場合には、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相の方が進んでいることが分かる。一方、
図37(a)〜(c)に示したように、一度整合を取った後に負荷6の値RLが小さくなる方向にずれる場合には、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相の方が遅れていることが分かる。また、位相に関するこれらの関係は何れの結合係数kの場合に対しても成立している。
【0167】
以上を勘案し、送電側装置1は、一度整合を取った後は進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相関係を継続的に監視し続け、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相が進んでいる場合は、負荷6の値RLが大きくなっていると判断する。そして、この場合、送電側装置1は、整合補正値テーブルにおいても負荷6の値RLが大きくなる方向、即ち整合補正量テーブル内の現在の行よりも下方向(インデックスIdxが大きくなる方向)に存在する行を参照し、当該行のフラグ情報Ifが示す整合回路に、当該行の制御値Tcを設定する。
【0168】
一方、送電側装置1は、進行波電圧Vfの位相に対して反射波電圧Vrの位相が遅れている場合は、負荷6の値RLが小さくなっていると判断する。そして、この場合、送電側装置1は、整合補正値テーブルで負荷の値が小さくなる方向、即ち整合補正量テーブル内の現在の行よりも上の方向(インデックスIdxが小さくなる方向)に存在する行を参照し、当該行のフラグ情報Ifが示す整合回路に、当該行の制御値Tcを設定する。
【0169】
このような処理を行うことで、送電側装置1は、受電側装置4に接続された負荷6の値RLが変化して送電アンテナ端での入力インピーダンスZinが変化しても、整合状態を維持し続けることが出来る。好適には、送信側装置1は、第1実施例と同様、一度整合を取った後に反射係数絶対値|Γ|を常時監視し、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|th
r以下の場合は、上述の整合追従動作を行わず、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrよりも大きい場合には、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相関係を特定し、整合補正量テーブルで使用する行を変更して整合回路の構成を変更するようにする。これにより、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|を常に閾値|Γ|thr以下に保ち、反射による損失を抑制することができる。
【0170】
次に、
図38〜
図40を参照して、結合係数kが「0.07」の場合における整合追従動作の例を説明する。
図38〜
図40は、始めに負荷6の値RLが「30Ω」の場合に、
図34(b)のインデックスIdxが「4」の行を参照して整合を取った後、負荷6の値RLが「10Ω」と小さくなる方向に変化することに起因して整合がずれる場合の例を示す。具体的には、
図38(a)は、負荷6の値RLが「30Ω」の状態で整合を取った直後の「1−|S11|2」のグラフを示し、
図38(b)は、この場合での駆動周波数における進行波電圧波形及び反射波電圧波形のグラフを示す。また、
図39(a)は、整合後に負荷6の値RLが「30Ω」から「10Ω」に変化した場合の「1−|S11|2」のグラフを示し、
図39(b)は、この場合での駆動周波数における進行波電圧波形及び反射波電圧波形のグラフを示す。さらに、
図40(a)は、整合追従動作の実行後の「1−|S11|2」のグラフを示し、
図40(b)は、この場合での駆動周波数における進行波電圧波形及び反射波電圧波形のグラフを示す。
【0171】
図38(a)、(b)に示すように、初期状態から自動整合動作を行った直後では、駆動周波数12.947MHzにおいて、ほぼ100%の電力が送電アンテナ3に入力され反射波のレベルも低いことが分かる。このとき選択されている整合補正テーブルのインデックスIdxは「4」である。そして、
図39(a)、(b)に示すように整合回路の構成はそのままで負荷6の値RLが「10Ω」に変化した場合、整合が再びずれてしまったため反射波のレベルが上昇し、「1−|S11|2」も77%まで低下している。
【0172】
この場合、送電側装置1は、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrの位相関係に基づき、負荷6の値RLが変わったことを検出する。具体的には、送電側装置1は、進行波電圧Vfより反射波電圧Vrの位相が遅れているため負荷6の値RLが小さくなっていると判断する。従って、この場合、送電側装置1は、整合補正量テーブルで負荷の値が小さくなる方向にある行、即ち現在のインデックスIdx「4」より小さいインデックスIdx「1」の行に基づき、整合回路の構成を更新する。その結果、
図40(a)、(b)に示すように、送電側装置1は、再び整合が取れた状態に遷移する。
【0173】
なお、ステップ幅Widxの決定方法については、第1実施例と同様であるため、その説明を省略する。
【0174】
[処理フロー]
次に、第2実施例における処理手順について説明する。以下では、まず、自動整合動作の処理手順について
図41の「フロー5」及び
図42の「フロー6」で説明した後、追従整合動作の処理手順について
図43の「フロー7」で説明する。
【0175】
(フロー5)
図41は、第2実施例で送電側装置1が実行するフロー5の処理手順を示すフローチャートである。送電側装置1は、
図41のフロー5の処理を、所定のタイミングで実行する。
【0176】
まず、送電側装置1の距離センサ81は、送電アンテナ3及び受電アンテナ5間の距離を計測する(ステップS501)。そして、送電側装置1の距離結合係数変換部82は、計測した距離から結合係数kを推定する(ステップS502)。即ち、距離結合係数変換部82は、結合係数推定値keを算出する。次に、送電側装置1のテーブル選択部27は、記憶部25に記憶された複数の整合補正量テーブルのうち、結合係数推定値keに対応した整合補正量テーブルを選択する(ステップS503)。そして、送電側装置1は、
図42のフロー5に相当する自動整合処理を開始する(ステップS504)。
【0177】
(フロー6)
図42は、第2実施例において、送電側装置1が実行するフロー6の処理手順を示すフローチャートである。送電側装置1は、
図42のフロー6の処理を、
図41のフロー5のステップS504へ処理を進めた際に実行する。
【0178】
まず、送電側装置1の整合回路選択部23は、スイッチ部13、14をスルー回路30に接続させ、送電アンテナ3から微小電力を出力する(ステップS601)。次に、送電側装置1の反射係数算出部17は、進行波・反射波抽出部15で抽出された進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrの各々の大きさを計測する(ステップS602)。そして、反射係数算出部17は、式(1)に従い反射係数絶対値|Γ|を算出する(ステップS603)。
【0179】
次に、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下か否か判定する(ステップS604)。そして、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下であると判断した場合(ステップS604;Yes)、既に整合状態にあり整合処理を行う必要がないと判断し、フローチャートの処理を終了する。
【0180】
一方、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrより大きい場合(ステップS604;No)、ステップS605からステップS612までの処理に相当する整合処理を行う。具体的には、まず、位相差算出・判定部16は、式(2)に示すように、進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相差θを計測する(ステップS605)。そして、位相差算出・判定部16又は反射係数算出部17は、反射係数絶対値|Γ|及び位相差θから複素反射係数Γを求め(ステップS606)、複素反射係数Γを式(3)に基づき入力インピーダンスZinに変換する(ステップS607)。
【0181】
次に、読出し位置決定部24は、フロー5で選択した整合補正量テーブルから、算出された入力インピーダンスZinに最も近いインピーダンス値を有する行を探索し、選択する(ステップS608)。そして、読出し位置決定部24は、選択した行のフラグ情報Ifを整合回路選択部23に供給し、使用する整合回路を決定させる(ステップS609)。また、制御値出力部26は、選択した行のキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを、使用する制御値Tcに決定する(ステップS610)。そして、制御値出力部26は、選択された整合回路にキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを設定する(ステップS611)。そして、整合回路選択部23は、フラグ情報Ifに基づき使用する整合回路にスイッチ部13、14を接続させる(ステップS612)。
【0182】
(フロー7)
図43は、第2実施例において、送電側装置1が実行するフロー7の処理手順を示すフローチャートである。送電側装置1は、
図43のフロー7の処理を、
図42のフロー6の実行後直ちに実行する。
【0183】
まず、送電側装置1の反射係数算出部17は、進行波・反射波抽出部15で抽出された進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrの各々の大きさを計測する(ステップS701)。そして、反射係数算出部17は、式(1)に従い反射係数絶対値|Γ|を算出する(ステップS702)。
【0184】
次に、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下か否か判定する(ステップS703)。そして、送電側装置1は、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thr以下であると判断した場合(ステップS703;Yes)、既に整合状態にあり整合処理を行う必要がないと判断し、ステップS701へ処理を戻す。
【0185】
一方、反射係数絶対値|Γ|が閾値|Γ|thrより大きい場合(ステップS703;No)、位相差算出・判定部16は進行波電圧Vfと反射波電圧Vrとの位相関係を特定する(ステップS704)。具体的には、位相差算出・判定部16は、進行波電圧Vfよりも反射波電圧Vrが遅れているか否かを判定する。
【0186】
そして、位相差算出・判定部16は、進行波電圧Vfよりも反射波電圧Vrが遅れていると判断した場合(ステップS705;Yes)、負荷6の値RLが小さくなる方向に変化していると特定する。そして、この場合、調整方向決定部18は、整合補正量テーブルの読出し方向を負荷の値が小さくなる場合に対応する方向に決定する(ステップS706)。この場合、調整方向決定部18は、
図34に示す整合補正量テーブルでは、インデックスIdxが小さくなる方向に読出し方向を設定する。そして、調整ステップ幅決定部19は、反射係数絶対値|Γ|に応じて、ステップ幅Widxを決定する(ステップS707)。例えば、調整ステップ幅決定部19は、負荷6の値RLが小さくなる場合に対応した所定の比率(比例定数)に基づき、反射係数絶対値|Γ|からステップ幅Widxを定める。
【0187】
一方、位相差算出・判定部16は、進行波電圧Vfよりも反射波電圧Vrが進んでいると判断した場合(ステップS705;No)、負荷6の値RLが大きくなる方向に変化していると特定する。そして、この場合、調整方向決定部18は、整合補正量テーブルの読出し方向を、負荷の値が大きくなる場合に対応する方向に決定する(ステップS708)。この場合、調整方向決定部18は、
図34に示す整合補正量テーブルでは、インデックスIdxが大きくなる方向に読出し方向を設定する。そして、調整ステップ幅決定部19は、反射係数絶対値|Γ|に応じて、ステップ幅Widxを決定する(ステップS709)。例えば、調整ステップ幅決定部19は、負荷の値が大きくなる場合に対応した所定の比率(比例定数)に基づき、反射係数絶対値|Γ|からステップ幅Widxを定める。
【0188】
そして、ステップS707又はステップS709の実行後、読出し位置決定部24は、特定した読出し方向とステップ幅Widxとに基づき、 既に選択した整合補正量テーブルから読出す行のインデックスIdxを特定する(ステップS710)。そして、制御値出力部26は、特定したインデックスIdxの行からキャパシタンス値C及びインダクタンス値Lを読出し、特定したインデックスIdxの行のフラグ情報Ifから特定される整合回路に、これらの値を設定する。また、整合回路選択部23は、上述フラグ情報Ifに基づき、必要に応じて、スイッチ部13、14の切り替えを行う(ステップS711)。そして、送電側装置1は、ステップS701へ処理を戻す。
【0189】
なお、ステップS707及びステップS709の処理は必須の処理ではなく、ステップ幅Wdixとして予め定められた値を用いる場合には、送電側装置1は、ステップS707及びステップS709の処理を実行しなくてもよい。
【0190】
<変形例>
次に、第1実施例及び第2実施例に好適な変形例について説明する。以下に説明する変形例は、任意に組み合わせて、上述の第1実施例及び第2実施例に適用してもよい。
【0191】
(変形例1)
本発明に適用可能な整合回路の構成は、
図12等に示す構成に限定されない。これについて、
図44を参照して説明する。
【0192】
図44(a)は、第1形式の整合回路11と第2形式の整合回路12とで可変インダクタ要素のみを共用する形態の整合回路を示す。
図44(a)に示す整合回路は、スイッチ部の切り替えにより、第1形式の整合回路11として機能することが可能であり、第2形式の整合回路12として機能することも可能である。同様に、整合回路は、第1形式の整合回路11と第2形式の整合回路12とで可変キャパシタ要素のみを共用する形態であってもよい。
【0193】
図44(b)は、可変インダクタの代わりに固定インダクタと可変キャパシタを用いる整合回路の回路図を示す。
図44(b)に示す整合回路は、スイッチ部の切り替えにより、第1形式の整合回路11として機能することが可能であり、第2形式の整合回路12として機能することも可能である。そして、
図44(b)の固定インダクタと可変キャパシタは、本発明における「可変インダクタ要素」の一例である。このように、
図44(a)、(b)に示す整合回路によっても、本発明を好適に実施することができる。
【0194】
その他、いわゆるπ型整合回路を構成可能な変形は、特に区別することなく本発明に含まれる。
【0195】
(変形例2)
図19及び
図32等に示した整合補正量テーブルでは、制御値Tcとして、キャパシタンス値C及びインダクタンス値Lが記憶されているが、これに代えて、可変コンデンサ、可変インダクタの値を所定の値にするための制御値Tcが記憶されても良い.例えば、ステッピングモータとバリコンを組合せて可変コンデンサを構成したような場合ではモータの制御電圧値を整合補正量テーブルに記憶させてもよく、また、微小なコンデンサ、インダクタをリレー等のスイッチングデバイスでオン及びオフさせて所定のキャパシタンスC値及びリアクタンスL値を実現するような場合では、スイッチングデバイスを制御するためのビットパターン値を整合補正量テーブルに記憶させてもよい。
【0196】
(変形例3)
第1実施例の[整合補正量テーブル]のセクションの説明では、理論計算によって整合に必要な補正量A1、A2、B1、B2を求めたが、これに代えて、実際の送電アンテナ3及び受電アンテナ5を対向させ、それらの結合状態を変化させながらこれらの補正量A1、A2、B1、B2を求めても良い。
【0197】
同様に、第2実施例の[整合補正量テーブル]のセクションの説明でも同様に、理論計算によって整合に必要な補正量A1、A2、B1、B2を求めたが、これに代えて、実際の送電アンテナ3及び受電アンテナ5を所定の相対位置関係で対向させ、受電側装置4の負荷6の値RLを変化させながらこれらの補正量A1、A2、B1、B2を求めても良い。
【0198】
(変形例4)
第1実施例では、定格電力の伝送に先立って、負荷推定部7は推定負荷値RLeを算出した。これに代えて、受電側装置4に存在する負荷6の値RLがシステムの仕様として予め決まっているような場合には、送電側装置1は、負荷推定部7により推定負荷値RLeを算出することなく、予めシステムで決められている負荷6の値に対応した整合補正量テーブルを選択する。
【0199】
同様に、第2実施例でも、送電アンテナ3と受電アンテナ5との位置関係がシステムの仕様として予め決まっているような場合には、送電側装置1は、結合係数推定部8により結合係数kの推定処理を行うことなく、システムで予め定められている結合係数kの値に対応した整合補正量テーブルを選択する。
【0200】
(変形例5)
結合係数推定部8は、距離センサ81により送電アンテナ3と受電アンテナ5との距離を計測したがこれに限定されない。これに代えて、結合係数推定部8は、共振周波数を中心として所定の帯域幅の微小信号をスイープさせて送出し、送出した信号と送電アンテナ3から反射して戻ってきた信号とを用いて反射係数(ΓもしくはS11)の周波数特性を算出する。そして、結合係数推定部8は、算出した周波数特性の形状、具体的には、極小となるピークの個数とその周波数、及びその反射係数の大きさから所定のマップを参照して、結合係数推定値keを算出する。ここで、上述のマップは、反射係数の周波数特性において、極小となるピークの個数とその周波数、及びその反射係数の大きさに対応した結合係数kを示すマップであり、実験等に基づき予め作成され、メモリに予め記憶される。これによっても、好適に、結合係数推定部8は、結合係数kを推定することが可能となる。
【0201】
(変形例6)
送電アンテナ3及び受電アンテナ5は、直並列型等価回路によってモデル化された。これに代えて、送電アンテナ3及び受電アンテナ5は、直並列型等価回路をより簡略化した等価回路である直列共振等価回路によってモデル化されてもよい。
【0202】
(変形例7)
送電側装置1の整合回路選択部23は、記憶部25に記憶された整合補正量テーブルのフラグ情報Ifに基づき使用すべき整合回路を選択した。これに代えて、整合回路選択部23は、算出された入力インピーダンスZinに基づき、使用すべき整合回路を選択してもよい。
【0203】
この場合、例えば、整合回路選択部23は、算出された入力インピーダンスZinの実部(R)、又は当該入力インピーダンスZinに基づき選択した整合補正量テーブルの行に記憶されたインピーダンス値の実部(Ri)が、送電回路2の出力インピーダンス(即ち、整合ポイントとなるインピーダンス値)より大きい場合には、第2形式の整合回路12を選択し、当該出力インピーダンス以下の場合には、第1形式の整合回路11を選択する。
【0204】
(変形例8)
第1実施例及び第2実施例では、スイッチ部13、14で切換えられる回路の一つとして整合回路を挿入しないスルー回路30と記載したが、スルー回路30は、整合回路を挿入しないというスルーの状態と同様の効果を有する実装方法であれば、いかなる実装方法でも構わない。例えば、明示的に整合回路をスルーするような回路パスは持っていないが、可変インダクタンスの値をゼロとすることで整合回路が入っていない状態と等価にするような実装方法も、整合回路を挿入しないスルー回路30に切換えていることと同じであるものとする。
【0205】
(変形例10)
図12及び
図30に示す送電側装置1の構成は一例であり、本発明が適用可能な構成は、これに限定されない。例えば、送電側装置1は、自動整合動作のみを行い、整合追従動作を行う必要がない場合には、調整方向決定部18及び調整ステップ幅決定部19を有しなくてもよい。
【0206】
(変形例11)
図12では、受電側装置4が負荷値算出部73により推定負荷値RLeの算出を行っているが、これに代えて、送電側装置1が推定負荷値RLeの算出を行ってもよい。この場合、受電側装置4は、負荷6の電圧値及び電流値を検出後、これらの値を制御通信部74を介して送電側装置1へ伝送し、送電側装置1は、伝送されたこれらの値に基づき推定負荷値RLeを算出する。