特許第5957654号(P5957654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5957654脱脂用組成物、脱脂剤組成物および金属表面の前処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5957654
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】脱脂用組成物、脱脂剤組成物および金属表面の前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/02 20060101AFI20160714BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20160714BHJP
   C11D 7/08 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   C23G1/02
   C11D1/72
   C11D7/08
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-73527(P2015-73527)
(22)【出願日】2015年3月31日
【審査請求日】2015年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀之
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 司
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−293174(JP,A)
【文献】 特開平10−046393(JP,A)
【文献】 特開平10−213582(JP,A)
【文献】 特開2013−001979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00〜 5/06
C23F 1/00〜 1/46
C11D 1/00〜19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属(マグネシウム金属及び/又は合金である場合を除く。)の表面処理の前処理である脱脂用組成物であって、
鉱酸と、
ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴とする脱脂用組成物
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレン構造を備えていることを特徴とする請求項1に記載の脱脂用組成物
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシエチレン構造である請求項2に記載の脱脂用組成物
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤は、平均ポリオキシエチレン付加モル数が3〜100であることを特徴とする請求項3に記載の脱脂用組成物
【請求項5】
前記鉱酸は、塩酸または硫酸である請求項1〜4のいずれか一項に記載の脱脂用組成物
【請求項6】
前記非イオン性界面活性剤の濃度は、1g/L以上100g/L以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の脱脂用組成物。
【請求項7】
前記鉱酸の濃度は、1g/L以上500g/L以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の脱脂用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の脱脂用組成物を用いて、金属表面に付着する油と金属表面の酸化膜とを同時に取り除く酸脱脂工程を備えていることを特徴とする金属表面の前処理方法。
【請求項9】
金属(マグネシウム金属及び/又は合金である場合を除く。)の表面処理の前処理に用いられる脱脂剤組成物であって、
鉱酸と、
ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤とを含み、
前記非イオン性界面活性剤の濃度は、1g/L以上であることを特徴とする脱脂剤組成物。
【請求項10】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレン構造を備えていることを特徴とする請求項9に記載の脱脂剤組成物。
【請求項11】
前記ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシエチレン構造である請求項10に記載の脱脂剤組成物。
【請求項12】
前記非イオン性界面活性剤は、平均ポリオキシエチレン付加モル数が3〜100であることを特徴とする請求項11に記載の脱脂剤組成物。
【請求項13】
前記鉱酸は、塩酸または硫酸である請求項9〜12のいずれか一項に記載の脱脂剤組成物。
【請求項14】
前記非イオン性界面活性剤の濃度は、100g/L以下である請求項9〜13のいずれか一項に記載の脱脂用組成物。
【請求項15】
前記鉱酸の濃度は、1g/L以上500g/L以下である請求項9〜14のいずれか一項に記載の脱脂用組成物。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれかに記載の脱脂剤組成物を用いて、金属表面に付着する油と金属表面の酸化膜とを同時に取り除く酸脱脂工程を備えていることを特徴とする金属表面の前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面処理の前に、酸化物層および油などの汚れの除去に用いられる脱脂剤組成物およびこれを用いた金属表面の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属に耐性を向上させたり所望の外観を付与したりすることを目的として、その表面に種々の処理が施される。その表面に良質な膜を形成するには、金属が酸化物層により覆われておらず、かつ清浄であることが必要となる。このため、処理の前に、金属表面から酸化物層および油などの汚れを除去する前処理工程が行われる。
【0003】
前処理工程において、酸化物層を除去するために酸を用いた酸洗い(酸処理)が行われる。酸洗いに用いられる洗浄液を強酸性とすれば、金属表面の酸化物層を除去することができるが、油を除去することができない。このため、油を除去するためのアルカリを用いたアルカリ脱脂を酸洗いの前に行うことが必要となる。このように、酸洗いとは別にアルカリ脱脂を要することは、前処理工程における設備(アルカリ脱脂槽、その付帯設備)、処理時間および工数を増大させる原因であり、省スペース化、設備および工数の削減、時間短縮ならびに費用削減の妨げとなっている。
【0004】
特許文献1には、銅または銅合金のめっき前処理に用いた場合に、優れためっき層の形成を可能とする下地表面を得るための前処理剤として、硫酸第二鉄、硫酸、非イオン性界面活性剤、ハロゲン化イオンの各成分を含む化学研磨剤が記載されている。
しかし、同文献に記載の化学研磨剤に含まれている非イオン性界面活性剤は、脱脂力が十分なものではない。このため、化学研磨剤を用いて処理する前に、銅または銅合金の表面を脱脂剤と接触させて脱脂処理する工程が必要となる。
【0005】
特許文献2には、アルミニウム含有金属材料表面上の油脂分および酸化物を除去し、清浄な表面を得るための前処理剤として、(a)硫酸と、(b)硝酸イオンと、(c)第二鉄イオンと、(d)界面活性剤と、(e)所定の界面活性剤安定化剤とを含む洗浄組成物が記載されている。また、表面洗浄工程において、当該洗浄組成物を用いて、油脂分の除去と金属材料表面の酸化物除去とを同時に行うことが記載されている。
しかし、同文献に記載されている洗浄組成物は、(a)硫酸と(d)界面活性剤以外に、(b)硝酸イオンと(c)第二鉄イオンと(e)所定の界面活性剤安定化剤とを、特定の比率で配合する必要がある。また、従来の界面活性剤は、強酸性領域において優れた脱脂(洗浄)効果を奏するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5117796号公報
【特許文献2】特開平3465998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、金属表面の前処理に用いられる、強酸性領域において優れた脱脂効果を発揮し、酸化物層を除去するとともに優れた油除去効果を有する脱脂剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために、非イオン性界面活性剤の構造がアルカリ性領域と酸性領域における挙動に対して及ぼす影響を検討した結果、特定の構造を備えた界面活性剤が強酸性領域において優れた脱脂(洗浄)効果を有するという知見を得た。本発明は、この知見に基づいて本発明を完成したものであり以下の事項を備えている。
【0009】
(1)金属(マグネシウム金属及び/又は合金である場合を除く。)の表面処理の前処理である脱脂用組成物であって、鉱酸と、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤とを含む。
(2)(1)において、前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレン構造を備えている。
(3)(2)において、前記ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシエチレン構造である。
(4)(3)において、前記非イオン性界面活性剤は、平均ポリオキシエチレン付加モル数が3〜100である。
(5)(1)〜(4)のいずれかにおいて、前記鉱酸は、塩酸または硫酸である。
(6)(1)〜(5)のいずれかにおいて、前記非イオン性界面活性剤の濃度は、1g/L以上100g/L以下である。
(7)(1)〜(6)のいずれかにおいて、前記鉱酸の濃度は、1g/L以上500g/L以下である。
【0010】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の脱脂用組成物を用いて、金属表面に付着する油と金属表面の酸化膜とを同時に取り除く酸脱脂工程を備えている金属表面の前処理方法。
(9)金属(マグネシウム金属及び/又は合金である場合を除く。)の表面処理の前処理に用いられる脱脂剤組成物であって、鉱酸と、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤とを含み、前記非イオン性界面活性剤の濃度は、1g/L以上である。
(10)前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレン構造を備えていることを特徴とする(9)に記載の脱脂剤組成物。
(11)前記ポリオキシアルキレン構造は、ポリオキシエチレン構造である(10)に記載の脱脂剤組成物。
(12)前記非イオン性界面活性剤は、平均ポリオキシエチレン付加モル数が3〜100であることを特徴とする(11)に記載の脱脂剤組成物。
(13)前記鉱酸は、塩酸または硫酸である(9)〜(12)のいずれか一項に記載の脱脂剤組成物。
(14)前記非イオン性界面活性剤の濃度は、100g/L以下である(9)〜(13)のいずれか一項に記載の脱脂用組成物。
(15)前記鉱酸の濃度は、1g/L以上500g/L以下である(9)〜(14)のいずれか一項に記載の脱脂用組成物。
(16)(9)〜(15)のいずれかに記載の脱脂剤組成物を用いて、金属表面に付着する油と金属表面の酸化膜とを同時に取り除く酸脱脂工程を備えていることを特徴とする金属表面の前処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脱脂剤組成物は、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤を含有しているから、金属表面の酸化膜を取り除くと同時に脱脂することができる。したがって、アルカリ脱脂が不要となるから、アルカリ脱脂に要する設備が不要となり、省スペース化を実現することができる。また、アルカリ脱脂に用いられていた浴管理のための分析、補給、液交換、槽清掃等といった工数を削減し、メンテナンス費用を削減することができる。
ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤は、優れた脱脂性能を有する。したがって、酸処理と同時に短時間で脱脂することができるから、前処理に要する時間を従来よりも短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る金属表面の前処理方法およびその後の処理を示すフローチャートである。
図2】従来の金属表面の前処理方法およびその後の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を脱脂剤組成物として実施する形態について、以下説明する。
本実施形態の脱脂剤組成物(以下、単に「脱脂剤組成物」ともいう。)は、金属の表面処理の前処理に用いられるものであって、鉱酸と、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤とを含んでいる。
【0014】
脱脂剤組成物は、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、フッ酸などの鉱酸を含有している。これら鉱酸により、金属表面から酸化物層を除去する酸洗い(酸処理)に適した強酸性領域とする。処理の対象とする金属が鉄や鉄合金である場合、錆やスケールの除去に適しており、なおかつ、工業的に大量生産されているため安価であることから、塩酸および硫酸が好ましい。
【0015】
脱脂剤組成物は、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤を含有している。非イオン性界面活性剤は、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する基本骨格を備えることにより、強酸性領域において優れた脱脂効果を発揮する。したがって、当該非イオン性界面活性剤と鉱酸とを併用することにより、非イオン性界面活性剤による脱脂と鉱酸による金属表面の酸化物層の除去とを同時に実現できる。
【0016】
非イオン性界面活性剤は、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する疎水基と、ポリオキシアルキレン構造を有する親水基とが、エーテル結合したものが好ましい。ポリオキシアルキレン構造としては、ポリオキシエチレン構造、ポリオキシプロピレン構造等が挙げられるが、脱脂効果の観点から、ポリオキシエチレン構造が好ましい。平均ポリオキシエチレン付加モル数、すなわち、非イオン性界面活性剤が備えるオキシエチレン単位(−(CH−CH−O)−)数の平均は、3〜100が好ましく、5〜70がより好ましく、10〜50がさらに好ましい。
【0017】
ナフタレン環とポリオキシエチレン構造とを備えた非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンβ-ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンα-ナフチルエーテル等が挙げられ、2つのベンゼン環とポリオキシエチレン構造とを備えた非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0018】
上述した基本骨格を備えている非イオン性界面活性剤は、強酸性領域でも十分な脱脂性能を有する。このため、洗浄性能を向上させる無機ビルダーや、有機ビルダー、金属錯化合物の添加量を削減することができる。非イオン性界面活性剤のみにより十分な洗浄性能が得られる場合は、添加しなくてもよい。また、脱脂剤組成物が金属錯化合物を含んでいない場合、排水金属沈降性を阻害しない。すなわち、排水中に含まれる金属は、錯体の形成により凝集、沈殿が妨害されることがないから、容易に除去することができる。
【0019】
脱脂剤組成物は、非イオン性界面活性剤および鉱酸以外に、洗浄性能を著しく阻害しない範囲で、腐食抑制剤、消泡剤、抑泡剤、酸化剤や還元剤、浸透力向上を目的とする他の界面活性剤等の成分を含んでいても良い。
【0020】
脱脂剤組成物は、炭化水素系溶剤を実質的に含まない。ここで「実質的に含まない」とは、炭化水素系溶剤を全く含まないこと、および、少量含まれているが脱脂効果が変化しない量であることを意義する。
【0021】
本実施形態の脱脂剤組成物を用いた前処理の対象である被処理部材は、特に限定されるものではないが、例えば、鉄、鉄合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が例示される。本実施形態の脱脂剤組成物においては、鉱酸が金属表面の酸化物を取り除く働きをする。このため、被処理部材の材料の種類や表面状態に応じて、適切な鉱酸の種類や濃度を調整することにより、めっき処理等の後の表面処理に適した表面状態を得ることができる。被処理部材の形状も、特に限定されるものではないが、板材や棒材、線材などの一次加工品、ねじ、ボルト、プレス加工品などの二次加工品が挙げられる。
【0022】
被処理部材を加工する際、被処理部材の種類や加工目的に応じて、鉱物油や動植物油またはこれらが混合された種々の油が用いられる。本実施形態の脱脂剤組成物は、高い脱脂力を有するから、酸洗いの際に金属表面から種々の油を効果的に取り除くことができる。
【0023】
(金属表面の前処理方法)
上述した本実施形態の酸脱脂組成物を用いれば、金属表面に付着する油と酸化膜(金属表面スケール)とを同時に取り除くことができる。この酸脱脂工程を備えた金属表面の前処理方法として、本発明を実施する場合の形態について以下に説明する。
【0024】
図2は、従来の金属表面の前処理方法およびその後の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、従来、金属表面を処理する前の前処理として、アルカリ脱脂工程S1、水洗工程S2、酸洗い工程S13、水洗工程S4およびアルカリ電解工程S5が一般的に行われている。
【0025】
酸洗い工程S13は、金属表面の酸化膜を除去するために、金属表面を強酸性領域の水溶液に接触させる工程である。従来、強酸性領域において、十分な脱脂作用を有する界面活性剤が存在しなかった。このため、酸洗い工程S13の前に、アルカリ脱脂工程S1により金属表面上の油を取り除いて、水洗工程S2によりアルカリを取り除く必要があった。
【0026】
したがって、酸洗い工程S13に用いられる設備の他に、アルカリ脱脂槽(水洗槽およびクッション槽を含む)等のアルカリ脱脂工程S1に用いられる設備および設置スペースが必要であった。また、アルカリ脱脂工程S1および水洗工程S2を管理するために、分析、液補給、液交換および槽清掃などの余分な工数を要していた。
【0027】
図1は、本実施形態に係る金属表面の処理方法およびその後の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、本実施形態の金属表面の前処理方法は、酸脱脂工程S3、水洗工程S4およびアルカリ電解工程S5を備えている。
酸脱脂工程S3は、強酸性領域において優れた脱脂効果を奏する酸脱脂組成物が所定濃度に希釈された洗浄液を用いて、酸化膜を除去するとともに金属表面に付着する油を取り除く(以下、適宜「酸脱脂」ともいう。)ものである。すなわち、図2の従来の金属表面の前処理方法におけるアルカリ脱脂工程S1および酸洗い工程S13をあわせて行うものである。このため、酸脱脂工程S3により、従来のアルカリ脱脂工程S1およびそれに付随する水洗い工程S2を省略することができる。
【0028】
本発明者らは、非イオン性界面活性剤の構造と強酸性領域における脱脂効果との関係を検討した。その結果として、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する構造を備えた非イオン性界面活性剤が強酸性領域において高い脱脂効果を有することを見出した。そして、当該非イオン性界面活性剤を含有する酸脱脂組成物を用いて金属表面を前処理することにより、アルカリ脱脂工程S1および水洗工程S2が不要になる。したがって、これらの工程に要していた設備、空間、工数および/または時間が不要になり、金属の前処理に要する費用を削減することが可能となる。
【0029】
また、酸脱脂工程S3に用いられる酸脱脂組成物の非イオン性界面活性剤は、従来よりも低い温度において脱脂効果を有する。したがって、従来の金属表面の前処理方法における脱脂工程よりも、脱脂に適した温度とするための加熱に要するエネルギーを削減することができる。
【0030】
酸脱脂工程S3において、被処理部材の金属表面と酸脱脂組成物を用いた洗浄液とを接触させる方法は、特に限定されない。例えば、被処理部材を洗浄液に浸漬する方法、被処理部材を洗浄液中において電解する方法、洗浄液を被処理部材の金属表面にスプレーまたは塗布する方法等が挙げられる。複雑な形状の被処理部材であっても金属表面と洗浄液とを十分に接触させる観点から、浸漬する方法が好適に用いられる。
【0031】
酸脱脂工程S3において、被処理部材と洗浄液とを接触させる接触時間は、酸脱脂のために十分な時間とすればよい。金属表面を十分に酸脱脂する観点から、3〜40分間とすることが好ましく、5〜35分間とすることがより好ましく、10〜30分間とすることがさらに好ましい。なお、上記接触は、連続して行っても、中断を経て複数回に分けて行っても良い。複数回に分けた場合、合計の接触時間が上記の範囲内になるようにする。
【0032】
酸脱脂工程S3において用いられる洗浄液は、酸脱脂組成物を所定濃度に希釈することにより調製される。酸脱脂組成物を構成する成分である、鉱酸および非イオン性界面活性剤を水に添加することにより洗浄液を調製してもよい。この場合、適切な濃度の鉱酸および非イオン性界面活性剤を含有するように調整された洗浄剤が酸脱脂組成物となる。
【0033】
洗浄液のpHは、鉱酸により強酸性領域となる。本実施形態において、強酸性領域とは3以下をいう。酸脱脂工程S3において、金属表面の酸化層を除去するとともに油を除去する観点から、pHは、2.5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0034】
洗浄剤は、洗浄剤中1L中に含まれる各成分の量が以下の範囲内となるように、酸脱脂組成物、または酸脱脂組成物を構成する各成分を水で希釈して調製される。酸化物層を十分に除去する観点から、鉱酸の濃度は、1〜500g/Lが好ましく、10〜400g/Lがより好ましく、30〜350g/Lがさらに好ましい。油を十分に除去する観点から、非イオン性界面活性剤の濃度は、0.01〜100g/Lが好ましく、0.1〜50g/Lがより好ましく、1〜20g/Lがさらに好ましい。
【0035】
水洗工程S4により、金属表面の洗浄剤が十分に取り除かれた被処理部材は、アルカリ電解工程S5により、素材中や酸化膜(スケール)を除去した後の残渣カーボンであるスマットや、残留パーティクルを取り除く。
【0036】
図1の酸脱脂工程S3、水洗工程S4およびアルカリ電解工程S5を経て、被処理部材の金属表面は酸化膜および油が取り除かれた清浄な状態となっている。このため、アルカリ電解工程S5の後の金属表面処理により、表面に良質な膜などを形成して所望の性質を付与することができる。
【0037】
金属表面処理としては、例えば、電気めっき、化学めっき、溶融めっき、陽極酸化処理、電着塗装、りん酸塩処理等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いてさらに本発明を説明するが、実施例の態様に本発明は限定されない。
(1)酸脱脂剤組成物を用いた洗浄液の調製
下記の表1〜表3に示す成分を各表に示す割合で水に配合することにより、実施例1〜実施例13および比較例1〜比較例4の酸脱脂組成物を用いた洗浄液を調製した。
このようにして調製された洗浄液は強酸性(pH1.5以下)であって、その外観が透明の液体であった。なお、洗浄過程における油の混入により洗浄液が乳化して白濁することはありうる。
(2)洗浄機能の評価方法
SPCC−SD鋼板(以下、鋼板ともいう)の双方の主面(主面形状:10cm×5cm)に対して、鉱物油(昭和シェル(株)製、シェルビトリヤオイル)を0.5ml/dm塗布し、その状態で12時間静置した。
液温が40℃に維持された洗浄液に12時間静置後の鋼板を20分間浸漬させた。
その後、鋼板を洗浄液から取り出し、水洗を十分に行った。水洗後の水濡れ部分は鉱物油が洗浄された部分とみなし、鋼板の主面における水濡れ面積を測定した。水濡れ面積の主面の面積に対する比率を水濡れ面積率として求めた。この水濡れ面積率を用いて、洗浄液の洗浄機能を次の基準で評価した。
良(洗浄機能に優れる、表1〜表4中「◎」):90%以上
可(洗浄機能を有する、表1〜表4中「○」):80%以上90%未満
不可:(洗浄機能を有していない、表1〜表4中「×」):80%未満
【0039】
(実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例2)
実施例1〜実施例4および比較例1〜比較例2の酸脱脂組成物を用いた洗浄液について、上述した方法により洗浄機能を評価した結果を表1に示す。
【表1】
表1中に示した各成分として用いた製品名を以下に示す。各成分として用いた製品は、表2〜表4についても同様である。
(非イオン性界面活性剤)
β−ナフチルエーテルEO 25mol:ブラウノン BN−25(青木油脂工業(株)製)
ジスチレン化フェニルエーテルEO 12.5mol:ブラウノン DSP−12.5(青木油脂工業(株)製)
ビスフェニルエーテルEO 30mol:ブラウノン BEO−30(青木油脂工業(株)製)
トリスチレン化フェニルエーテルEO 50mol:ブラウノン TSP−50(青木油脂工業(株)製)
ラウリルエーテルEO 9mol:ブラウノン EL−1509(青木油脂工業(株)製)
ノニルフェニルエーテルEO 10mol:ブラウノン N−510(青木油脂工業(株)製)
【0040】
表1に示すように、ナフタレン環を有する非イオン性界面活性剤を含有する実施例1および、2つのベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤を含有する実施例2〜実施例4の洗浄後における鋼板の水濡れ面積はいずれも85%以上であり、洗浄液の脱脂力が良好であった。対して、非イオン性界面活性剤の疎水部が、直鎖状の炭化水素のみからなる比較例1および、1つのベンゼン環を有する比較例2はいずれも、洗浄後の鋼板における水濡れ面積が10%以下であり、洗浄液の脱脂力が低かった。
【0041】
(実施例3、実施例5〜実施例7、比較例1)
実施例3の酸脱脂組成物において、硫酸の代わりに他の鉱酸を用いた実施例5〜実施例7の評価結果を表2に示す。同表に示されるように、併用される鉱酸として、硫酸を用いた実施例3および硫酸以外のものを用いた実施例5〜実施例7はいずれも、洗浄後の鋼板の水濡れ面積が95%以上であり、洗浄液の脱脂力が非常に良好であった。
【表2】
【0042】
(実施例3、実施例8〜実施例9、比較例1)
実施例3の酸脱脂組成物において、非イオン性界面活性剤と併用される硫酸の濃度を変化させた実施例8および実施例9の評価結果を表3に示す。同表に示されるように、硫酸の濃度を、実施例3よりも低くした実施例8および、実施例3よりも高くした実施例9はいずれも、洗浄後の鋼板の水濡れ面積が80%以上であり、洗浄液の脱脂力が良好であった。
【表3】
【0043】
(実施例3、実施例10〜実施例13、比較例3〜比較例4)
実施例3の酸脱脂組成物において、非イオン性界面活性剤の濃度を変化させた実施例10〜実施例13の酸脱脂組成物を用いた洗浄液の洗浄機能の評価結果を表4に示す。同表に示されるように、非イオン性界面活性剤の濃度を、実施例3よりも低くした実施例10〜実施例12、および実施例3よりも高くした実施例13のいずれも、洗浄後の鋼板の水濡れ面積が90%以上であり、洗浄液の脱脂力が非常に良好であった。
【表4】
【0044】
表4に示した結果から、2つのベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤の濃度を高くすることにより、水濡れ面積の割合(洗浄効果)が高くなる。ただし、濃度が1g/L以上となると濡れ面積が大きく変化しなかった。したがって、経済性の観点から、1g/L程度配合することが好ましい。
【0045】
比較例3は、アルカリ脱脂に一般に用いられる水酸化ナトリウムを含有する洗浄液である。実施例3および実施例10〜実施例13と、比較例3との比較から、2つのベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤により十分な脱脂力が得られることが分かる。表1に示す実施例1〜実施例4の評価結果によれば、ナフタレン環を有する非イオン性界面活性剤は、2つのベンゼン環を有するものと同様の脱脂効果を有するといえる。したがって、ナフタレン環を有する非イオン性界面活性剤も、従来のアルカリ脱脂と同程度の脱脂効果を有するといえる。
【0046】
比較例4は、実施例3の硫酸の代わりに水酸化ナトリウムを用いた洗浄液について洗浄試験を行った結果である。比較例4の洗浄液を用いて洗浄された鋼板の水濡れ面積は1%であった。この結果から、2つのベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤は、直鎖状の炭化水素を有する非イオン性界面活性剤とは挙動が異なり、高い脱脂力を発揮するためには、強酸性領域とする必要があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の酸脱脂組成物は、強酸性領域下において優れた脱脂力を備えている。このため、めっき処理のような金属表面処理の前処理に用いて、酸処理とともに金属表面を脱脂することができる。したがって、従来酸処理とは別に行われていたアルカリ脱脂工程が不要になり、従来よりも前処理を効率よくかつ経済的に実施できる。
【要約】
【課題】金属表面の前処理において用いられる、強酸性領域下において優れた脱脂効果を発揮し、酸化物層を除去するとともに優れた油除去効果を有する脱脂剤組成物を提供すること。
【解決手段】 鉱酸と、ナフタレン環または2以上のベンゼン環を有する非イオン性界面活性剤とを含む酸脱脂組成物を用いた酸脱脂工程S3により、金属を前処理することにより、金属表面に付着する油と金属表面の酸化膜(金属表面スケール)とを同時に取り除くことが可能となる。
【選択図】図1
図1
図2