特許第5957726号(P5957726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957726
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】点火プラグ、及び内燃機関
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/40 20060101AFI20160714BHJP
   F02P 3/01 20060101ALI20160714BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20160714BHJP
   F02P 23/04 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   H01T13/40
   F02P3/01 A
   F02P13/00 301J
   F02P23/04 B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-516425(P2013-516425)
(86)(22)【出願日】2012年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2012063230
(87)【国際公開番号】WO2012161232
(87)【国際公開日】20121129
【審査請求日】2015年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-115304(P2011-115304)
(32)【優先日】2011年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504293528
【氏名又は名称】イマジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕二
【審査官】 出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/008520(WO,A1)
【文献】 特開平04−149986(JP,A)
【文献】 特開2010−101174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/40
F02P 3/01
F02P 13/00
F02P 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の第1導電部材と、該第1導電部材が内側に設けられた略筒状の絶縁部材と、該絶縁部材により前記第1導電部材から電気的に絶縁されて、前記第1導電部材及び前記絶縁部材を収容する略筒状の第2導電部材とを有し、前記第1導電部材と前記第2導電部材との間に電位差が与えられると、内燃機関の燃焼室に露出する先端側において放電が生じ、前記燃焼室の混合気に点火する点火プラグ本体と、
前記点火プラグ本体に取り付けられ、外部から供給された高周波を前記燃焼室へ放射させるアンテナとを備えた点火プラグであって、
前記アンテナは、前記第2導電部材の先端面上において外周寄りの位置に配置されていることを特徴とする点火プラグ。
【請求項2】
前記アンテナは、前記第2導電部材の周方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の点火プラグ。
【請求項3】
前記アンテナは、C字状または環状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の点火プラグ。
【請求項4】
請求項1乃至5の何れか1つにおいて、
前記アンテナは、前記第2導線部材の表面上の絶縁層上に設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3の何れか1つに記載の点火プラグ。
【請求項5】
燃焼室が形成された内燃機関本体と、
前記内燃機関本体に取り付けられた、請求項1乃至4の何れか1つに記載の点火プラグとを備え、
前記点火プラグの放電と同時期に、前記アンテナから前記燃焼室へ高周波を放射することを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
燃焼室が形成された内燃機関本体と、
前記内燃機関本体に取り付けられた、請求項1乃至4の何れか1つに記載の点火プラグとを備え、
混合気に着火した直後に、前記アンテナから前記燃焼室へ高周波を放射することを特徴とする内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を放射するためのアンテナを有する点火プラグ、及びその点火プラグを備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁波を放射するためのアンテナを有する点火プラグが知られている。特開2010−101174号公報には、この種の点火プラグが開示されている。
【0003】
特開2010−101174号公報の図2には、絶縁碍子の下側先端の表面にアンテナが設けられた点火プラグが記載されている。アンテナは、中心電極とは間隔をあけて中心電極を取り巻くように、所定幅の円弧状の金属箔からなる。この点火プラグのアンテナには、点火コイルから中心電極に高電圧が印加される際に、高圧交流発生装置からマイクロ波が印加される。点火プラグが取り付けられたエンジンでは、マイクロ波により生成されるプラズマが火花放電と反応して、混合気が着火される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−101174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の点火プラグは、アンテナから放射する高周波により、放電が生じる領域の電界強度を強くして、混合気の着火性を高めることができる。従って、その点火プラグを使用した内燃機関では、混合気のリーン化によってポンピングロスを減少させて、燃費を向上させることができる。
【0006】
しかし、高周波のエネルギーは、放電が生じる領域に集中し、着火後の火炎の伝播速度にほとんど影響を与えない。他方、内燃機関では、混合気をリーンにするほど火炎の伝播速度が低下するので、未燃のまま排出される燃料が増加する。従って、従来の点火プラグを使用した内燃機関では、ポンピングロスの減少により燃費は向上するものの、未燃の燃料が増加する分だけ、燃費の向上度合いが低下してしまう。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の燃焼室へ高周波を放射するためのアンテナを有する点火プラグにおいて、アンテナから放射する高周波を利用して、火炎の伝播速度を増大させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、棒状の第1導電部材と、該第1導電部材が内側に設けられた略筒状の絶縁部材と、該絶縁部材により前記第1導電部材から電気的に絶縁されて、前記第1導電部材及び前記絶縁部材を収容する略筒状の第2導電部材とを有し、前記第1導電部材と前記第2導電部材との間に電位差が与えられると、内燃機関の燃焼室に露出する先端側において放電が生じ、前記燃焼室の混合気に点火する点火プラグ本体と、前記点火プラグ本体に取り付けられ、外部から供給された高周波を前記燃焼室へ放射させるアンテナとを備えた点火プラグを対象とし、前記アンテナは、前記第2導電部材の先端側の表面上に設けられている。
【0009】
第1の発明では、アンテナが、点火プラグ本体のうち、第2導電部材の先端側の表面上に設けられている。アンテナは、点火プラグの中で、放電が生じる領域から離れた第2導電部材の表面上に設けられている。高周波は、放電が生じる領域から離れた第2導電部材の表面上のアンテナから放射される。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記アンテナが、前記第2導電部材の先端面上に設けられている。
【0011】
第2の発明では、第2導電部材の先端側のうち、内面や外面ではなく先端面上に、アンテナが設けられている。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、前記アンテナが、前記第2導電部材の先端面上において外周寄りの位置に配置されている。
【0013】
第3の発明では、第2導電部材の先端面において放電が生じる領域から離れる側に、アンテナが位置している。
【0014】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、前記アンテナが、前記第2導電部材の周方向に延びている。
【0015】
第4の発明では、第2導電部材の先端側の表面上に、第2導電部材の周方向に延びるアンテナが設けられている。従って、アンテナから高周波が放射されると、第2導電部材の周方向に延びる領域の電界が強められる。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、前記アンテナが、C字状または環状に形成されている。
【0017】
第5の発明では、第2導電部材の先端側の表面上に、C字状または環状のアンテナが設けられている。
【0018】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか1つの発明において、前記アンテナが、前記第2導線部材の表面上の絶縁層上に設けられている。
【0019】
第6の発明では、第2導線部材の表面上に絶縁層が形成され、その絶縁層上にアンテナが設けられている。
【0020】
第7の発明は、燃焼室が形成された内燃機関本体と、前記内燃機関本体に取り付けられた、第1乃至第6の何れか1つに記載の点火プラグとを備え、前記点火プラグの放電と同時期に、前記アンテナから前記燃焼室へ高周波を放射する内燃機関である。
【0021】
第7の発明では、第2導電部材の表面上にアンテナが設けられた点火プラグが、内燃機関本体に取り付けられている。高周波は、点火プラグの放電と同時期にアンテナから燃焼室へ放射される。
【0022】
第8の発明は、燃焼室が形成された内燃機関本体と、前記内燃機関本体に取り付けられた、第1乃至第6の何れか1つに記載の点火プラグとを備え、混合気に着火した直後に、前記アンテナから前記燃焼室へ高周波を放射する内燃機関である。
【0023】
第8の発明では、第2導電部材の表面上にアンテナが設けられた点火プラグが、内燃機関本体に取り付けられている。高周波は、混合気に着火した直後にアンテナから燃焼室へ放射される。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、点火プラグの中で、放電が生じる領域から離れた第2導電部材の表面上にアンテナを設けている。従って、従来の点火プラグに比べて、放電が生じる領域へ供給される高周波のエネルギーが減少し、放電が生じる領域の外側へ供給される高周波のエネルギーが増大する。着火直後に火炎面が通過する領域に、高周波のエネルギーが供給される。従って、高周波のエネルギーが火炎伝播に与える影響が増大し、火炎の伝播速度を増大させることができる。
【0025】
また、第3の発明では、第2導電部材の先端面において放電が生じる領域から離れる側にアンテナが位置しているので、高周波のエネルギーが火炎伝播に与える影響が増大し、火炎の伝播速度を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る内燃機関の概略構成図である。
図2】実施形態に係る点火装置および電磁波放射装置のブロック図である。
図3】実施形態に係る点火プラグの縦断面図である。
図4】実施形態に係る内燃機関の燃焼室の天井面の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
《実施形態》
【0028】
本実施形態は、本発明に係る点火プラグ15を有する内燃機関10である。内燃機関10は、ピストン23が往復動するレシプロタイプの内燃機関である。内燃機関10は、内燃機関本体11と点火装置40と電磁波放射装置50とを備えている。
【0029】
内燃機関本体11には、燃焼室20が形成されている。点火装置40は、スパーク放電(極細の非体積プラズマ)よりも強力な強力プラズマ(体積プラズマ)を生成して混合気に点火する点火動作を行う。電磁波放射装置50は、ギガヘルツ帯のマイクロ波(例えば、2.45GHzのマイクロ波)を発振する電磁波発振器52と、その電磁波発振器52から供給されたマイクロ波を燃焼室20へ放射するためのアンテナ54とを備えている。電磁波放射装置50は、アンテナ54からマイクロ波を放射して、着火後の火炎にマイクロ波のエネルギーを供給して、着火後の火炎の伝播速度を増大させる。なお、内燃機関10は、電子制御装置60(ECU)により制御される。
−内燃機関本体−
【0030】
内燃機関本体11は、図1に示すように、シリンダブロック21とシリンダヘッド22とピストン23とを備えている。シリンダブロック21には、横断面が円形のシリンダ24が複数形成されている。各シリンダ24内には、ピストン23が往復自在に設けられている。ピストン23は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフトに連結されている(図示省略)。クランクシャフトは、シリンダブロック21に回転自在に支持されている。各シリンダ24内においてシリンダ24の軸方向にピストン23が往復運動すると、コネクティングロッドがピストン23の往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換する。
【0031】
シリンダヘッド22は、ガスケット18を挟んで、シリンダブロック21上に載置されている。シリンダヘッド22は、シリンダ24及びピストン23と共に、円形断面の燃焼室20を形成している。燃焼室20の直径は、例えば電磁波放射装置50が放射するマイクロ波の波長の半分程度である。
【0032】
シリンダヘッド22には、各シリンダ24に対して、点火装置40の一部を構成する点火プラグ15が1つずつ設けられている。点火プラグ15では、燃焼室20に露出する先端部15aが、燃焼室20の天井面(シリンダヘッド22における燃焼室20に露出する面)の中心部に位置している。点火プラグ15の先端部15aには、放電ギャップを形成する中心電極31及び接地電極34が設けられている。点火プラグ15についての詳細は後述する。
【0033】
シリンダヘッド22には、各シリンダ24に対して、吸気ポート25及び排気ポート26が形成されている。吸気ポート25には、吸気ポート25を開閉する吸気バルブ27と、燃料を噴射するインジェクター29とが設けられている。一方、排気ポート26には、排気ポート26を開閉する排気バルブ28が設けられている。
【0034】
内燃機関10は、燃焼室20において強いタンブル流が形成されるように吸気ポート25が設計されている。タンブル流は、吸気行程から圧縮行程に亘って形成される。
−点火装置−
【0035】
点火装置40は、各燃焼室20に対応して設けられている。点火装置40は、高周波を燃焼室20へ供給して、スパーク放電よりも強力な強力プラズマを生成する。図2に示すように、点火装置40は、高電圧パルスを出力する点火コイル41と、キロヘルツ帯からメガヘルツ帯の周波数の交流(例えば、100MHzの高周波)を出力する交流電圧発生器42と、点火コイル41から出力された高電圧パルスと交流電圧発生器42から出力された交流とを混合する混合ユニット43と、混合ユニット43から出力された高電圧パルス及び交流が供給される上述の点火プラグ15とを備えている。点火装置40は、電子制御装置60から点火信号を受けると前記点火動作を行う。
【0036】
点火コイル41は、点火プラグ15の中心電極31へ高電圧パルスを印加して、放電ギャップにおいてスパーク放電を生じさせる高電圧パルス印加部を構成している。交流電圧発生器42は、中心電極31に電気エネルギーを供給することで、スパーク放電に伴い生成された放電プラズマを拡大して強力プラズマを生成するプラズマ拡大部を構成している。
【0037】
なお、点火装置40は、点火コイル41と混合ユニット43を省略してもよい。その場合は、スパーク放電より強力な強力プラズマが形成されるように、交流電圧発生器42における交流の出力電圧及び出力時間が設定される。
【0038】
なお、交流電圧発生器42が出力する交流電圧の周波数は、燃焼室20に誘導電界が形成されるように設定される。一方、電磁波発振器52が発振するマイクロ波の周波数は、燃焼室20に放射電界(輻射電界)が形成されるように設定される。交流電圧の周波数は、電磁波発振器52が出力するマイクロ波の周波数よりも低い。
【0039】
点火コイル41及び交流電圧発生器42は、直流電源(例えば自動車用のバッテリー)に接続されている(図示省略)。点火コイル41は、電子制御装置60から点火信号を受けると、直流電源から印加された電圧を昇圧し、昇圧後の高電圧パルスを混合ユニット43へ出力する。交流電圧発生器42は、電子制御装置60から点火信号を受けると、直流電源から印加された電圧を昇圧すると共に交流に変換して、高電圧の交流を混合ユニット43へ出力する。交流電圧発生器42は、点火コイル41が高電圧パルスを出力するのと同時期に、高電圧の交流を出力する。混合ユニット43は、別々の入力端子で受けた高電圧パルス及び交流を同じ出力端子から点火プラグ15の中心電極31へ出力する。点火プラグ15では、中心電極31に高電圧パルス及び高電圧の交流が印加されると、高電圧パルスにより放電ギャップでスパーク放電が生じると共に、高電圧の交流により放電ギャップに電界が形成される。スパーク放電により生じた放電プラズマは、交流の電気エネルギーを受けて拡大して強力プラズマになる。つまり、スパーク放電が生成された領域では、スパーク放電と電界とが反応して、強力プラズマが生成される。強力プラズマは熱プラズマである。
【0040】
なお、本実施形態では、点火プラグ15の中心電極31に交流電圧を印加しているが、点火プラグ15の中心電極31に所定の期間に亘って連続的に電圧(CW電圧)を印加して、強力プラズマを生成してもよい。何れの場合であっても、強いタンブル流に対して強力プラズマが消滅しないように、1回の点火動作において、点火プラグ15へ供給される電気エネルギーの大きさが設定される。
−電磁波放射装置−
【0041】
電磁波放射装置50は、図2に示すように、電磁波用電源51と電磁波発振器52と分配器53と複数のアンテナ54とを備えている。電磁波用電源51と電磁波発振器52と分配器53の各々は、内燃機関10に対して、例えば1つだけ設けられている。アンテナ54は、各燃焼室20に1つずつ設けられている。なお、図2では、1つの燃焼室20に対応するアンテナ54だけを記載している。
【0042】
電磁波用電源51は、電子制御装置60から電磁波駆動信号を受けると、電磁波発振器52にパルス電流を供給する。電磁波駆動信号はパルス信号である。電磁波用電源51は、電磁波駆動信号の立ち上がり時点から立ち下がり時点に亘って、所定のデューティー比で繰り返しパルス電流を出力する。パルス電流は、電磁波駆動信号のパルス幅の時間に亘って繰り返し出力される。
【0043】
電磁波発振器52は、例えば半導体発振器である。電磁波発振器52は、パルス電流を受けるとマイクロ波パルスを出力する。電磁波発振器52は、電磁波駆動信号のパルス幅の時間に亘ってマイクロ波パルスを繰り返し出力する。なお、電磁波発振器52として、半導体発振器の代わりに、マグネトロン等の他の発振器を使用してもよい。
【0044】
分配器53は、複数のアンテナ54の間で、電磁波発振器52から出力されたマイクロ波を供給するアンテナを切り替える。分配器53は、電子制御装置60から切替信号を受けると、複数のアンテナ54に対して順番にマイクロ波を供給する。電子制御装置60は、各燃焼室20において、点火動作の直後にアンテナ54から電磁波を放射できるように、切替信号を出力する。アンテナ54は、点火プラグ15の先端面に設けられている。アンテナ54についての詳細は後述する。
−点火プラグ−
【0045】
点火プラグ15は、図3に示すように、点火プラグ本体30と前記アンテナ54とを備えている。点火プラグ本体30は、中心電極31と絶縁碍子32とハウジング33と接地電極34とを備えている。
【0046】
中心電極31は、棒状の第1導電部材を構成している。絶縁碍子32は、中心電極31が内側に設けられた略円筒状の絶縁部材を構成している。ハウジング33は、絶縁碍子32により中心電極31から電気的に絶縁されて、中心電極31及び絶縁碍子32を収容する略円筒状の第2導電部材を構成している。
【0047】
点火プラグ本体30は、シリンダヘッド22のプラグ取付孔に取り付けられている。点火プラグ本体30は、中心電極31とハウジング33との間に電位差が与えられると、燃焼室20に露出する先端側において放電が生じ、燃焼室20の混合気に点火する。
【0048】
具体的に、中心電極31は、円柱状の金属であり、絶縁碍子32の内側に嵌め込まれている。中心電極31の軸心は、絶縁碍子32の軸心と一致している。中心電極31の基端には、接続端子31aが形成されている。接続端子31aには、混合ユニット43の出力端子が電気的に接続される。
【0049】
本実施形態では、点火プラグ15が、中心電極31に抵抗が設けられていない抵抗なしプラグである。なお、点火プラグ15は、必ずしも抵抗なしプラグである必要はなく、中心電極31の途中に抵抗を設けてもよい。
【0050】
絶縁碍子32は、長さ方向に外径が段階的に変化する略円筒状に形成されている。絶縁碍子32は、例えばセラミックにより構成されている。絶縁碍子32では、燃焼室20に露出する側の外径が最も小さくなっている。
【0051】
ハウジング33は、略円筒状の金属である。ハウジング33の内側には、円形断面の第1貫通孔37が形成されている。第1貫通孔37は、ハウジング33の外周面の軸心から偏心して形成されている。つまり、第1貫通孔37の軸心は、ハウジング33の外周面の軸心からずれている。第1貫通孔37には、絶縁碍子32が嵌め込まれている。第1貫通孔37の壁面は、点火プラグ本体30の先端側を除いて、絶縁碍子32の外周面に当接している。点火プラグ本体30の先端側では、ハウジング33の内周面と絶縁碍子32の外周面の間に隙間が形成されている。
【0052】
また、ハウジング33の外径は、点火プラグ本体30の先端から離れるに従って段階的に大きくなっている。ハウジング33の外周面では、外径が最も小さい先端側に、ネジ溝(図示省略)が形成されている。点火プラグ本体30は、シリンダヘッド22のプラグ取付孔のネジ溝に、ハウジング33の外周面のネジ溝を螺合させることにより、シリンダヘッド22に取り付けられる。ハウジング33は、シリンダヘッド22に当接することで接地される。シリンダヘッド22に取り付けられた状態では、図1に示すように、点火プラグ本体30の先端部15aが燃焼室20に露出している。
【0053】
接地電極34は、ハウジング33の先端面に連結されている。接地電極34は、点火プラグ15の先端面から点火プラグ15の軸方向へ突出し、途中で点火プラグ15の内側へ折れ曲がって、中心電極31の先端面と対面している。接地電極34では、折れ曲がり箇所よりも基端側が基端部34aを構成し、折れ曲がり箇所よりも先端側が先端部34bを構成している。接地電極34の先端部34bと中心電極31の先端面との間には、放電ギャップが形成されている。
【0054】
本実施形態では、ハウジング33のうち、燃焼室20に露出する先端部15aの表面上に、絶縁層55(絶縁体)を介して、前記アンテナ54が設けられている。具体的には、アンテナ54は、ハウジング33の先端面上に設けられている。アンテナ54は、絶縁層55によってハウジング33から電気的に絶縁されている。アンテナ54は、C字の薄板状に形成されている。アンテナ54は、図4に示すように、その両端が基端部34aを挟むように配置されている。アンテナ54は、ハウジング33の周方向に延びている。アンテナ54の幅は、ハウジング33の周方向に一定である。アンテナ54は、正面視において、その外周がハウジング33の外周と概ね一致している。アンテナ54は、ハウジング33の先端面上において外周寄りの位置に配置されている。
【0055】
ハウジング33には、上述のように第1貫通孔37が偏心して形成されることで、第1貫通孔37が偏心する側の薄肉部33aと、その薄肉部33aよりも厚みが大きい厚肉部33bとが存在している。上記接地電極34の基端部34aは厚肉部33bに位置している。
【0056】
厚肉部33bには、アンテナ54へ供給するマイクロ波が流れる同軸線路を形成するために、ハウジング33の軸方向に貫通する第2貫通孔38が形成されている。第2貫通孔38では、棒状の中心導体35と、円筒状の絶縁体36と、円筒面を形成する第2貫通孔38の壁面により、同軸線路が構成されている。中心導体35は、絶縁体36によりハウジング33から電気的に絶縁されている。中心導体35の先端は、絶縁層55を介して、アンテナ54の一端(C字の端)に容量結合されている。中心導体35の基端は、同軸ケーブル(図示省略)を介して、分配器53に接続されている。なお、中心導体35の先端が、絶縁層55を貫通してアンテナ54に直接接続されていてもよい。
−点火動作、及び放射動作−
【0057】
点火装置40による混合気の点火動作、及びその点火動作直後の電磁波放射装置50による放射動作について説明する。
【0058】
内燃機関10では、ピストン23が圧縮上死点の手前に位置する点火タイミングで、点火装置40が点火動作を行う。点火動作は、電子制御装置60が点火信号を出力することで行われる。点火装置40では、点火信号を受けた点火コイル41から高電圧パルスが出力されると共に、点火信号を受けた交流電圧発生器42から高電圧の交流が出力される。高電圧パルス及び高電圧の交流が供給された点火プラグ15の放電ギャップでは、上述したように、強力プラズマが生成され、混合気が着火される。強力プラズマによれば、希薄の混合気に着火させることが可能である。
【0059】
電子制御装置60は、混合気の着火後(点火信号の出力から所定時間後)に、電磁波駆動信号を出力する。電磁波駆動信号は、アンテナ54の内側から広がる火炎面が通過する前に出力される。
【0060】
電磁波放射装置50では、電磁波駆動信号を受けた電磁波用電源51が、電磁波駆動信号のパルス幅の期間に亘って、パルス電流を繰り返し出力する。電磁波発振器52は、パルス電流を受けて、マイクロ波パルスを分配器53へ繰り返し出力する。分配器53に入力されたマイクロ波は、アンテナ54から着火直後の燃焼室20へ放射される。マイクロ波は、火炎面がアンテナ54を通過する前から、火炎面が通過した後に亘って、放射される。
【0061】
アンテナ54の近傍には、燃焼室20において電界強度が相対的に強い強電界領域が形成される。本実施形態では、点火プラグ15の先端面の正面視において、放電が生じる領域(放電ギャップ)よりも外側にアンテナ54が位置しているので、放電が生じる領域の外側に強電界領域が形成される。強電界領域では、プラズマが生成されて、OHラジカルなどの活性種が生成される。強電界領域を通過する火炎の酸化反応は、活性種により促進される。さらに、強電界領域では、火炎中の電子等が電磁波のエネルギーを受ける。その結果、強電界領域を通過する火炎の伝播速度が増大する。
−実施形態の効果−
【0062】
本実施形態では、点火プラグ15の中で、放電が生じる領域から離れたハウジング33の表面上に、アンテナ54を設けている。そのため、着火後の火炎面が通過する領域にマイクロ波のエネルギーを供給することができるので、火炎の伝播速度を増大させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、ハウジング33の先端面において放電が生じる領域から離れる側にアンテナ54が位置しているので、着火後の火炎の伝播速度を効果的に増大させることができる。
−実施形態の変形例−
【0064】
変形例では、点火プラグ15の放電と同時期に、アンテナ54から燃焼室20へマイクロ波が放射される。電子制御装置60は、ピストン23が圧縮上死点の手前に位置する点火タイミングで、点火信号及び電磁波駆動信号を出力する。
【0065】
燃焼室20では、点火装置40により生成された強力プラズマが生成されている期間に、アンテナ54からマイクロ波が放射される。点火装置40により生成された強力プラズマは、マイクロ波のエネルギーを吸収してさらに拡大する。マイクロ波により拡大したプラズマは、拡大前に比べて全体的に温度が低くなる。そのため、拡大前に比べて、OHラジカル等の活性種の生存期間が長くなる。従って、混合気の化学反応(酸化反応)が促進され、活性種により火炎の伝播速度を増大させることができる。
【0066】
特に、変形例では、放電が生じる領域から離れた位置にアンテナ54が配置されているので、放電が生じる領域に電気エネルギーが集中しすぎることが回避される。マイクロ波は、点火装置40により生成された強力プラズマの外側から放射され、強力プラズマは効果的に拡大される。従って、マイクロ波により効果的に火炎の伝播速度を増大させることができる。
《その他の実施形態》
【0067】
前記実施形態は、以下のように構成してもよい。
【0068】
前記実施形態において、内燃機関10が直噴式のエンジンであってもよいし、ロータリエンジンであってもよい。
【0069】
また、前記実施形態において、点火装置40が、スパーク放電により混合気に点火してもよい。その場合、点火装置40は、交流電圧発生器42及び混合ユニット43を有していない。
【0070】
また、前記実施形態において、点火プラグ15がプラズマジェット式であってもよい。点火プラグ15の先端部15aには、燃焼室20の一部を構成する小空間が形成される。点火プラグ15は、連続的な電圧、又は繰り返しの電圧パルスが印加されて、前記小空間で生成された強力プラズマが、該小空間の外側の燃焼室20へプラズマを噴射する。
【0071】
また、前記実施形態において、点火コイル41から点火プラグ15に瞬間的に高電圧パルスを印加した直後に、コンデンサに蓄えられた大電流を点火プラグ15に供給することにより、強力プラズマを生成してもよい。
【0072】
また、前記実施形態において、アンテナ54がC字状ではなく円環状に形成されていてもよい。
【0073】
また、前記実施形態において、アンテナ54が絶縁体(または誘電体)により覆われていてもよい。アンテナ54は、絶縁層55と、被覆する絶縁体とにより挟まれることになる。
【0074】
また、前記実施形態において、火炎面が通過した後の領域にマイクロ波を放射してマイクロ波プラズマを生成することにより、火炎面の後方から火炎の伝播速度を増大させてもよい。
【0075】
また、前記実施形態において、ハウジング33の内部で同軸線路が複数の分岐線路に分岐して、各分岐線路がアンテナ54に接続又は容量結合されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明は、電磁波を放射するためのアンテナを有する点火プラグ、及びその点火プラグを備えた内燃機関について有用である。
【符号の説明】
【0077】
10 内燃機関
15 点火プラグ
20 燃焼室
30 点火プラグ本体
31 中心電極(第1導電部材)
32 絶縁碍子(絶縁部材)
33 ハウジング(第2導電部材)
34 接地電極
54 アンテナ
図1
図2
図3
図4