(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957727
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】永久磁石式回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 21/16 20060101AFI20160714BHJP
H02K 1/27 20060101ALI20160714BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
H02K21/16 G
H02K1/27 501M
H02K1/22 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-266501(P2011-266501)
(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-121186(P2013-121186A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230111796
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 忠敬
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】石井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】太田 伸也
【審査官】
宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4771011(JP,B1)
【文献】
特開2009−268164(JP,A)
【文献】
特開2002−176739(JP,A)
【文献】
特開2010−252448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/16
H02K 1/22
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子巻線を集中巻した固定子と、複数枚で円環形状をなし且つ周方向の位置がずれた状態で軸方向に積層された扇形状の電磁鋼板および軸方向に積層された電磁鋼板を一体化するための締め付けボルトを有する外周ヨーク部と、塊状のスパイダ部である内周ヨーク部とからなる回転子と、を備えた永久磁石式回転電機において、
前記締め付けボルトと、前記締め付けボルトを挿入する貫通穴と、前記外周ヨーク部と前記内周ヨーク部の回転方向のすべりを防止するキーと、前記キーを挿入するキー溝とを、永久磁石の真下に配置するとともに、前記電磁鋼板の外周部から前記内周ヨーク部に接する前記電磁鋼板の内周部までの磁路としての距離を、当該電磁鋼板の磁束密度が1.5T(テスラ)以下となるように決定することを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項2】
前記電磁鋼板の外周部から前記内周ヨーク部に接する前記電磁鋼板の内周部までの磁路としての距離を、当該電磁鋼板の磁束密度が1.5T(テスラ)となるように決定することを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項3】
前記締め付けボルトと、前記締め付けボルトを挿入する貫通穴との間に比透磁率の小さい層を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項4】
前記内周ヨーク部と接する、前記外周ヨーク部における、永久磁石の真下位置の、積層した電磁鋼板の一部が取り除かれたことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項5】
風力発電用永久磁石式発電機に適用したことを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の永久磁石式回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石式回転電機に関する。詳しくは、集中巻の大容量回転電機、特に、定格出力が1000kWを超えるような大型の風力発電用永久磁石式発電機の、回転子に発生する渦電流損失を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石による複数の磁極を有する回転子と、電機子巻線を磁極に集中的に巻き回された固定子と、を具備したいわゆる集中巻の永久磁石式回転電機が様々な用途に用いられている。
小型モータでは、集中巻は、固定子の磁極に集中的に巻き回された構造のため機械による自動巻きが可能で多く用いられている。このような小型モータでは銅損、鉄損、機械損が損失の中でほとんどを占めるため、回転子に発生する渦電流損失は問題とならないことが多かった。
【0003】
これに対して、大型機においては、これまでは、分布巻の固定子が用いられることが多かったが、コイルエンドが小さい集中巻も、大型機において使われることが多くなっている。
特に、ギヤレス型の風力発電システムに永久磁石式発電機を採用する場合、分布巻と比較して、集中巻は、コイルエンドが小さいために軸方向の長さを低減でき、さらに電機子巻線に発生する銅損が小さいため高効率化が実現できるという点で、集中巻を選択することも少なくない。
【0004】
上記のように集中巻はコイルエンドが小さいといった長所を持っている一方、電機子巻線に集中巻を使用する場合、極数に対して固定子のスロット数が少なくなるため、分布巻の場合に比べて回転子部の磁束の変化が大きくなり、電機子電流の起磁力に起因する回転子の渦電流損失が分布巻に比べて大きくなるという課題がある。
さらに、希土類磁石のような残留磁束密度と保磁力が高い高性能磁石が大容量機の回転子の磁極として採用する場合、例えば、Nd−Fe−B系の磁石では、磁石自体の導電率が高く、フェライト系の磁石に比べて渦電流が流れやすいという特徴を持っている。
【0005】
以上のような理由から、集中巻の大容量回転電機、特に、定格出力が1000kWを超えるような大型の風力発電用永久磁石式発電機の場合では、回転子に発生する渦電流損失が無視できないことがある。
すなわち、この渦電流損失により発電機の効率が著しく下がったり、この渦電流損失によって回転子の温度が上昇し、磁石の減磁を招くという課題があった。また、減磁まで至らなくとも温度上昇によって残留磁束密度が低下し、その結果、磁石が発生する磁束が減少する。そのため、温度上昇のない状態と同じ出力を出すためには電機子電流を多く流す必要があり、銅損が増加し、効率が低下してしまうという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平4−1448号公報
【特許文献2】特開2010−252448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、大型の風力発電用永久磁石式発電機の場合では、回転子に発生する渦電流損失が無視できないという課題を解決する技術として、従来から回転子のヨークを例えば珪素鋼板のような電磁鋼板を積層する構造とすることにより、渦電流を低減する技術があった。
しかしながら、回転子のヨークとして電磁鋼板を積層する構造にすると、塊状(ソリッド状)のヨークで構成する場合に比べてコスト高になるという問題があると共に、特許文献1に開示されているように、電磁鋼板を積層した場合に、積層した電磁鋼板をボルトで締付けて、一体とする必要があり、この締め付けボルトが鋼製等の強磁性体の場合、この締め付けボルトにも磁束が流れるために渦電流損失が発生してしまうという課題があった。特許文献1では、この課題を解決するために、絶縁ナットと絶縁スタッドにより、締め付けている。
【0008】
また、特許文献2では、締め付けボルトが通る積層した鉄心に設けられる貫通穴の形状として、積層鉄心を通る主磁束の方向と平行な寸法が積層鉄心を通る主磁束の方向と直交する方向の寸法より大きな形状としたことにより締め付けボルトの渦電流損失を低減する方法が開示されている。
さらには、電磁鋼板を取り付ける塊状(ソリッド状)のスパイダ部分にも磁束が通るため、スパイダ部にも渦電流が発生してしまうという課題もあった。
【0009】
特許文献1にも開示されているように、大型の回転電機では、回転子や固定子の鉄心について電磁鋼板を積層して構成する場合、プレス装置により、薄い電磁鋼板を1枚の円環形状に打ち抜いて形成したり、積層することが困難となる。そこで、電磁鋼板を扇形状に分割成形したものを、複数枚で円環形状とし、周方向にずらし積みしながら、軸方向に積層し、鉄心全体を締め付けボルトで締め付けて一体構造として構成する。
また、インナーロータ型の回転電機の回転子では、回転子のヨーク部が回転電機の回転軸の支持部を兼ねるので、大型の回転電機では、その部分を積層鋼板で構成することは接合や強度の点で実用上難しいという課題もある。
【0010】
このような場合、回転子の外周部として電磁鋼板を積層して構成し、内周部を塊状のスパイダ部として構成し、ヨーク部の渦電流損失を電磁鋼板を積層する構造で低減し、且つ機械的強度の必要な内周部分は、塊状のスパイダ部として構成する手法が用いられる。
本発明は、電磁鋼板を積層したヨーク部と塊状スパイダ部からなる回転子鉄心に対して、積層した電磁鋼板をボルトで締付けるための締め付けボルトに発生する渦電流損失という第1の課題と、電磁鋼板を取り付ける塊状のスパイダ部分にも磁束が通るため、スパイダ部にも渦電流が発生してしまうという第2の課題との2つの渦電流損失課題を解決するためになされたもので、回転子の渦電流損失を低減することができる永久磁石式回転電機、特に風力発電用永久磁石式発電機を提供することを目的としている。
【0011】
また、電磁鋼板を積層したヨーク部と塊状スパイダ部からなる回転子鉄心では、電磁鋼板を積層したヨーク部と塊状スパイダ部との、回転時のずれを防止するために、塊状スパイダ部と接する電磁鋼板を積層したヨーク部側に、キー溝が形成され、このキー溝に差し込まれるキーは塊状スパイダ部に固定されている。この締め付けボルトと同様に、材質によってはキーにも渦電流損失が発生するので、締め付けボルトと同様に渦電流損失の低減が課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の請求項1に係る永久磁石式回転電機は、電機子巻線を集中巻した固定子と、
複数枚で円環形状をなし且つ周方向の位置がずれた状態で軸方向に積層された扇形状の電磁鋼板および軸方向に積層された電磁鋼板を一体化するための締め付けボルトを有する外周ヨーク部と、塊状のスパイダ部である内周ヨーク部とからなる回転子と、を備えた永久磁石式回転電機において、前記締め付けボルトと、前記締め付けボルトを挿入する貫通穴と、前記外周ヨーク部と前記内周ヨーク部の回転方向のすべりを防止するキーと、前記キーを挿入するキー溝とを、永久磁石の真下に配置するとともに、前記電磁鋼板の外周部から前記内周ヨーク部に接する前記電磁鋼板の内周部までの磁路としての距離を、当該電磁鋼板の磁束密度が1.5T(テスラ)以下となるように決定することを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項2に係る永久磁石式回転電機は、前記電磁鋼板の外周部から前記内周ヨーク部に接する前記電磁鋼板の内周部までの磁路としての距離を、当該電磁鋼板の磁束密度が1.5T(テスラ)となるように決定することを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する本発明の請求項
3に係る永久磁石式回転電機は、請求項1
又は2に記載の永久磁石式回転電機において、前記締め付けボルトと、前記締め付けボルトを挿入する貫通穴との間に比透磁率の小さい層を設けたことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する本発明の請求項4に係る永久磁石式回転電機は、請求項1,2又は3に記載の永久磁石式回転電機において、前記内周ヨーク部と接する、前記外周ヨーク部における、永久磁石の真下位置の、積層した電磁鋼板の一部
が取り除
かれたことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する本発明の請求項5に係る永久磁石式回転電機は、請求項1,2,3又は4に記載の永久磁石式回転電機において、風力発電用永久磁石式発電機に適用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1
,2に係る発明によれば、永久磁石の真下に配置したため、締め付けボルトおよびキーに流れる、磁束密度が小さくなり、磁束の影響を受けにくく、渦電流損失を低減することができる
とともに、電磁鋼板の外周部から電磁鋼板の内周部までの磁路としての距離を長くして、電磁鋼板部分でのみ磁路を確保出来るような寸法としたので、内周ヨーク部での渦電流損失を低減することができる。
請求項
3に係る発明によれば、締め付けボルトと、締め付けボルトの挿入される貫通穴の間に比透磁率の小さい層を設けたので、締め付けボルトに流れる、磁束密度が小さくなるため、磁束の影響を受けにくく、渦電流損失を低減することができる
。
請求項4に係る発明によれば、電磁鋼板を積層した外周ヨーク部において、磁束密度の最も小さい位置、すなわち磁路として利用されない位置である永久磁石の真下の位置の、塊状スパイダ部分と接している積層した電磁鋼板の一部を取り除くことにより、取り除いた部分の渦電流損失の発生を抑えることができる。
請求項5に係る発明によれば、定格出力が1000kWを超えるような大型の風力発電用永久磁石式発電機での渦電流損失を低減し効率向上が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の永久磁石式回転機の概略構造図である。
【
図2】
図2(a)は永久磁石と締め付けボルトとの配置を示す配置図、
図2(b)は電磁鋼板を積層した外周ヨーク部と塊状スパイダ部分とからなる回転子の磁束線図である。
【
図3】本発明の第1の実施例に係る永久磁石式回転機の概略構造図である。
【
図4】本発明の第2の実施例に係る永久磁石式回転機の概略構造図である。
【
図5】本発明の第3の実施例に係る永久磁石式回転機の概略構造図である。
【
図6】磁化力と磁束密度との関係を示すB−H曲線を示すグラフである。
【
図7】本発明の第4の実施例に係る永久磁石式回転機の概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
締め付けボルトあるいは、キー溝のキーに発生する渦電流損失という課題と、塊状のスパイダ部分に発生する渦電流損失という2つの課題の解決手段について説明する。
【0020】
まず、第1の課題の締め付けボルトあるいは、キー溝のキーに発生する渦電流損失に対する解決手段としては、
図1に示すように、電機子巻線1を集中巻した固定子鉄心2と、電磁鋼板を扇形状に分割成形し、周方向にずらし積みしながら、軸方向に積層し、複数枚で円環形状とし、全体を締め付けボルト3で締め付けて一体構造として構成する外周ヨーク部4と、塊状のスパイダ部である内周ヨーク部(以下、塊状スパイダ部分という)5とからなる回転子鉄心6と、外周ヨーク部4の外周面に一定間隔で配置された永久磁石7を備えた永久磁石式回転電機において、最も磁束の変化が少ない磁路として利用されない位置に締め付けボルト3および締め付けボルト3の挿入される貫通穴3aと、外周ヨーク部4と塊状スパイダ部分5の回転方向のすべりを防止するためのキー8およびキー8の挿入されるキー溝(支持溝)8aを配置するものである。これにより、渦電流の発生を低減でき、損失も低減できる。より具体的には、永久磁石7の真下の位置が最も磁路として使われないため、損失を低減できる。貫通穴3aは、積層された電磁鋼板に形成され、キー8は塊状スパイダ部分5の外周面に固定され、キー溝8aは、塊状スパイダ部分5に接する外周ヨーク部4の内周面に形成されている。
【0021】
ここで言う「永久磁石の真下の位置」とは、
図1に示した様に、回転軸方向から透視した回転子に配置された永久磁石7の断面図において、回転軸を通る磁石断面の中心線上の、回転軸中心側の位置と、その近傍を意味する。
また、第1の課題のもうひとつの解決手段は、締め付けボルト3に対しては、積層した電磁鋼板に形成された貫通穴3aと、締め付けボルト3との間に、比透磁率の小さい層を挟むことである。これによって、締め付けボルト3に渦電流が発生することを低減できる。
【0022】
次に第2の課題の塊状スパイダ部分5に発生する渦電流損失に対しては、第1の解決手段として、電磁鋼板を取り付ける塊状スパイダ部分5での磁束密度を低減するために、電磁鋼板部分、即ち、外周ヨーク部4での磁路の距離を大きくすることが有効となる。
また、電磁鋼板部分での磁路の距離については電磁鋼板部の磁束密度として、B−H曲線において磁気飽和が顕著でない磁束密度となるように最大磁束密度を選択することにより、スパイダヘの磁束漏れを低減でき、その結果、渦電流損失を低減することができる。
【0023】
さらに、第2の解決手段としては、電磁鋼板を積層した外周ヨーク部4において、磁束密度の最も小さい位置、すなわち磁路として利用されない位置である永久磁石7の真下の位置の、塊状スパイダ部分5と接している積層した電磁鋼板の一部を取り除くことにより、取り除いた部分の渦電流損失の発生を防止できる。
【0024】
図2(a)に示すように、電磁鋼板を積層した外周ヨーク部4と塊状スパイダ部分5とからなる回転子の場合において、外周ヨーク部4は、永久磁石7の台金部を兼用するものであり、本発明の第1の課題と第2の課題に対する解決手段を適用した場合の、磁束線をシミュレーションにより計算した結果の一例を
図2(b)に示す。
締め付けボルト3は、磁束密度の最も低い位置に配置され、渦電流が流れにくく、永久磁石7の台金部として兼用される電磁鋼板を積層した外周ヨーク部4には、
図2(b)に細線で示す通り、高い磁束密度の磁束があるが、塊状スパイダ部分5まではほとんど磁束が進入していないことがわかる。
【実施例1】
【0025】
本実施例は、
図3に示すように、電機子巻線1を集中巻した固定子鉄心2と、電磁鋼板を積層して全体を締め付けボルト3で締め付けた外周ヨーク部4と、塊状スパイダ部分5とからなる回転子鉄心6と、外周ヨーク部4の外周面に一定間隔で配置された永久磁石7を備えた永久磁石式回転電機において、締め付けボルト3及びその貫通穴3aの取り付け位置を、磁束密度の最も小さい位置、すなわち磁路として利用されない位置である永久磁石7の真下の位置に配置する。
【0026】
また、
図3では省略したが、外周ヨーク部4と塊状スパイダ部分5の回転方向のすべりを防止するためのキーおよびキー溝の取付け位置も、締め付けボルトの取り付け位置と同様に、磁路として利用されない位置に配置することで、渦電流の発生を低減でき、損失も低減できる。
ここで言う「永久磁石の真下の位置」とは、
図3に示した様に、回転軸方向から透視した回転子に配置された永久磁石の断面図において、回転軸を通る磁石断面の中心線上の、回転軸中心側の位置と、その近傍を意味する。
【0027】
前述した通り、電磁鋼板を積層した場合に、積層した電磁鋼板をボルトで締付けて、一体とする必要があり、この締め付けボルトが鋼製等の強磁性体の場合、この締め付けボルトにも磁束が流れるため渦電流損失が発生してしまうという課題があった。
そこで、
図3に示すように、締め付けボルト3の取り付け位置を、磁束密度の最も小さい位置、すなわち磁路として利用されない位置である永久磁石の真下の位置に配置することにより、磁束の影響を受けにくくなるため、渦電流損失を低減することができる。
これに反して、締め付けボルト3の取り付け位置を横にずらして、磁路となっている位置に配置すると、締め付けボルトにも磁束が流れより大きな渦電流損失が発生してしまう。また、キー溝およびキーの取付け位置も、締め付けボルトと同様とした。
【0028】
本実施例では、永久磁石の真下に配置したので、締め付けボルトおよびキーに流れる、磁束密度が小さくなるため、磁束の影響を受けにくく、渦電流損失を低減することができる。
【実施例2】
【0029】
本実施例は、
図4に示すように締め付けボルト3と、電磁鋼板に形成された貫通穴3aの間に比透磁率の小さいギャップ9を設けるものである。
比透磁率の小さいギャップ9の材質としては、絶縁物等の非磁性体、または、金属材料ではアルミニウム等の常磁性体、または、銅等の反磁性体の、いずれかの材質で構成する。
本実施例では、アルミニウムまたは、銅の管状のパイプでボルトを被覆して、電磁鋼板を締め付けた。また、ボルト自体を比透磁率の小さい材質により被覆したボルトを用いても、同様の効果が得られる。
【0030】
締め付けボルト3に流れる、磁束密度を小さくすれば、渦電流損失を低減することができる。
したがって、締め付けボルト3に流れる、磁束密度を小さくするためには、磁路となっている積層した電磁鋼板と、締め付けボルトとの間に、絶縁物等の非磁性体、もしくは、比透磁率の小さい層を挟むことによって、締め付けボルト3に渦電流が発生することを低減できる。
このような比透磁率の小さい物としては、真空もしくは空気の層が代表的であるが、金属材料ではアルミニウム等の常磁性体、または、銅等の反磁性体の、いずれかの材質においても、電磁鋼板と比較すれば、千分の一以下となることは、表1の比透磁率の表から明白である。
なお、電磁鋼板は一般的には珪素鋼等の比透磁率の非常に大きい材料を用いる。
【0031】
【表1】
【0032】
本実施例では、締め付けボルト3と、電磁鋼板に形成された貫通穴3aの間に比透磁率の小さいギャップ9を設けたので、締め付けボルト3に流れる、磁束密度が小さくなるため、磁束の影響を受けにくく、渦電流損失を低減することができる。
【実施例3】
【0033】
電磁鋼板を取り付ける塊状スパイダ部分5においても、磁束の変化があれば、渦電流が発生し、損失となる。そこで、渦電流損失を低減するためには、電磁鋼板を取り付ける塊状スパイダ部分5での磁束密度を低減するために、
図5に示した様に、電磁鋼板外周部から塊状スパイダ部分5に接している電磁鋼板内周部までの磁路としての距離Lを大きくすることが有効となる。
また、その距離については電磁鋼板部分でのみ磁路を確保出来るような寸法とする。
図6は回転電機に一般的に用いられる無方向性の電磁鋼板のB−H曲線の一例を示したもので、
図6のB−H曲線の例では、図中破線で示すように磁束密度が1.5T(テスラ)を超えると飽和が顕著になる。
【0034】
したがって、
図6のB−H曲線の例では、最大磁束密度が1.5T(テスラ)以下になるように磁路の距離Lをとる
。
すなわち、本実施例では、使用する電磁鋼板の特性と回転電機の設計仕様から、当該電磁板のB−H曲線の磁気飽和が顕著でない磁束密度となるように最大磁束密度
1.5T(テスラ)を選択し、その最大磁束密度
1.5T(テスラ)以下となるように、磁路としての距離Lの長さを決定することにより、電磁鋼板部分でのみ磁路を確保してスパイダ部分への磁束漏れが少なくなる。
【0035】
塊状スパイダ部分5への磁束の流入が少なくなれば発生する渦電流損失を小さくすることが出来る。従って、塊状スパイダ部分5への磁束の流入を少なくするためには電磁鋼板部分で磁路を確保できるような磁路の距離が必要となる。
磁路の距離については電磁鋼板の磁化B−H曲線において磁気飽和が顕著でない磁束密度となる距離とすることで、電磁鋼板部分でのみ磁路を確保して塊状スパイダ部分5への磁束漏れが少なくなり、塊状スパイダ部分5での磁束密度は低減されるため、渦電流損失を低減することが出来る。言い換えると、電磁鋼板部分の磁路に余裕を持たせることで、塊状スパイダ部分5の渦電流損失はほとんど発生しなくなり、塊状スパイダ部分5は自由な構造をとることが可能となる。
【0036】
本実施例では、電磁鋼板外周部から塊状スパイダ部分に接している電磁鋼板内周部までの磁路としての距離Lを大きくし、電磁鋼板部分でのみ磁路を確保出来るような寸法としたので、塊状スパイダ部分での渦電流損失を低減することができる。
【実施例4】
【0037】
本実施例では、
図7に示すように、電磁鋼板を積層した外周ヨーク部4において、磁束密度の最も小さい位置、すなわち磁路として利用されない位置である永久磁石の真下の位置の、塊状スパイダ部分5と接している積層した電磁鋼板の一部(図中斜線を入れて示す)10を取り除くことにより、取り除いた部分の渦電流損失の発生を防止できる。
【0038】
電磁鋼板を積層した外周ヨーク部4において、永久磁石7の真下にある、塊状スパイダ部分5と接している部分の一部10を
図7に示したように取り除くことにより、取り除いた部分の渦電流損失の発生を防止できる。
元々、磁路としては利用されない部分なので、渦電流損失低減の効果は大きくは無いが、取り除いた部分の渦電流損失の発生を防止できる。
さらには副次的な効果として、電磁鋼板により構成された鉄心部分の重量の軽量化の効果と、電磁鋼板が取り除かれた部分が空気の通風路となることから、電磁鋼板および電磁鋼板と接触している塊状のスパイダ部分の冷却効果も向上する。
【0039】
本実施例では、電磁鋼板を積層したヨーク部分において、永久磁石の真下にある、塊状スパイダ部分と接している積層鋼板の一部を取り除くことにより、電磁鋼板部分での渦電流損失を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、集中巻の大容量回転電機、特に、定格出力が1000kWを超えるような大型の風力発電用永久磁石式発電機の、回転子に発生する渦電流損失を低減する技術として広く産業上利用可能なものである。
【符号の説明】
【0041】
1 電機子巻線
2 固定子鉄心
3 締め付けボルト
3a 貫通穴
4 外側ヨーク部
5 内側ヨーク部(塊状スパイダ部分)
6 回転子鉄心
7 永久磁石
8 キー
8a キー溝
9 ギャップ
10 電磁鋼板の一部