(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の微細な凹凸を配列して形成した回折格子状の微細な凹凸パターンを含むことにより、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する光学物品が、エンボスホログラムとして知られている。
このような光学物品には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることが可能である。
【0003】
また、微細な凹凸パターンが表現する、虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができないため、微細な凹凸パターンを含んだ光学物品は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
偽造防止対策が必要な物品に用いる光学物品では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。
【0004】
レリーフ型の回折格子を製造する方法としては、原版として、所望の凹凸構造が形成されている金属版を作成し、この金属版を母型として用いて、レリーフ型の回折格子を樹脂形成物として複製する方法が一般的である。
レリーフ型の回折格子を、樹脂形成物として連続的に大量複製するための代表的な手法としては、従来から、例えば、以下に記載する三種類の方法(I)〜(III)が知られている。
【0005】
I.プレス法
プレス法は、加熱された母型を用いて押圧し、成形物を作製する方法である。
しかしながら、プレス法では、熱可塑性樹脂を用いているため、一般的に、成型物の耐熱性が低い。また、角のある形状のパターンの場合、丸みを帯びてしまうことが多い。
II.キャスティング法
キャスティング法は、溶融軟化した熱可塑性樹脂を、母型の凹凸形成面に塗布または注入し、溶融軟化した熱可塑性樹脂を固化させて、成型物を作製する方法である。
しかしながら、キャスティング法では、局所的な温度偏りが存在するため、成形品に歪みやカールが起こりやすい。
【0006】
III.光硬化性樹脂法
光硬化性樹脂法は、プレス法やキャスティング法のような熱可塑性樹脂ではなく、光や電子線等に代表される電離放射線の照射によって硬化するタイプの樹脂を使用して、成型物を作製する方法である。光硬化性樹脂法では、通常、液状の未硬化樹脂を使用するので、母型の細かな形状も再現することが可能である。
しかしながら、光硬化性樹脂法では、未硬化樹脂が液状であるため、母型の歪みや母型の継ぎ目等、転写してほしくない大きな凹凸欠陥まで転写されてしまい、微視的な品質は良好であるが、マクロでみると不良な場合が多い。また、未硬化樹脂が液状であることで、取り扱いが難しいことに加え、泡等の影響により、酸素阻害による未硬化部が残っていたりすると、後工程でブロッキング(材料同士の結合)やコンタミ(異物の混入)の原因となる。
【0007】
光硬化性樹脂法が有する問題を解決する方法として、例えば、特許文献1には、常温で、固体状または高粘度状の光硬化性樹脂を使用して成形する方法が提案されている。
また、レリーフ型の回折格子を製造する方法としては、通常、母型として、金属製のものが使用される。母型の形状としては、平板状でなくロール状のほうが、はるかに生産性が高い。
【0008】
ロール状の金属母型を作製する方法としては、第一に、金属ロールに直接、旋盤を用いて所望のパターンを切削する方法が考えられる。この方法は、ある程度粗いパターンの場合には可能であるが、微細パターンを切削することは、現実的には困難である。
また、微細な凹凸パターンとして、サブミクロンの大きさのパターンを形成するには、レーザーや電子線描画装置を使用した2P法が最適であるが、金属ロール上に2P法を使用して所望のパターンを形成するには、曲面へのレジスト塗布を行う工程と、曲面でのレーザーまたは電子線描画を行う工程と、曲面での現像、エッチング、レジスト除去を行う工程を行う必要がある。
【0009】
しかしながら、金属ロール上に2P法を使用して所望のパターンを形成する場合、上記の各工程において、パターンずれ、描画精度、各種のムラ等の問題があり、光学部材形成用の母型を形成する方法として使用できるレベルではない。
結論として、ロール状の母型を作成する方法として、ロールに直接凹凸パターンを形成する方法は、現状では存在しない。
【0010】
したがって、現在では、平面状で作製された金属母型をロール状にする方法がやむを得ない方法として使用されている。
この方法としては、例えば、特許文献2及び特許文献3に記載されているような、接着剤や粘着材を使用してロールに平面状金属原母型を貼りつける方法や、例えば、特許文献4に記載されているような、平面状金属母型の端に凸部を設け、ロール上に溝を掘って凹部を設け、嵌め合わせることでロールに平面状金属母型を取りつける方法等が提案されている。
【0011】
一方、上記のように、光硬化性樹脂組成物の塗膜に微細凹凸パターンを付与し、硬化させて得られた硬化樹脂物を、回折格子やレリーフホログラム等の光学物品として使用する場合には、第一に、光学部品としての強度、硬度、耐熱性、耐久性(耐摩耗性、耐擦傷性、耐薬品性、耐水性等)、基材に対する密着性、さらには、基材の屈曲性や伸縮に対する追随性等が要求される。
【0012】
この要求に対し、例えば、特許文献5には、嵩高い基を有するウレタン変性アクリル系樹脂と離型剤とを必須成分として含有する光硬化性樹脂組成物が提案されている。また、特許文献1には、熱可塑性ポリマーと光硬化性樹脂をブレンドした組成物が提案されている。
特許文献1及び5によれば、上記の組成物を使用した場合、母型への樹脂残りや母型パターンの高転写性(樹脂の転写時の流動性、硬化性、剥離時の形状だれ)の点で、従来のホログラム程度の仕様の光学物品であれば、放射線硬化型樹脂法によって製造したものは、製品として求められる諸物性を、ある程度満足し得るものである。
【0013】
しかしながら、例えば、特許文献6に記載されているように、フォトニック結晶を始めとするナノメートル単位構造物を応用した光学物品の用途拡大に伴って、その材料となる光硬化性樹脂組成物には、上記のような硬化前及び硬化後の諸物性に関して、さらに優れた性能が求められている。
特に、耐熱性に関しては、特に各国紙幣に使用される光学物品では、160℃程度の温度で加熱処理される場合(例えば、アイロンに接触)や、熱と圧力が同時に加わる環境下
でも、光硬化性樹脂組成物を硬化させて形成した微細凹凸パターンが変形または消失しないことが求められる。
【0014】
また、耐久性に関しては、例えば、プラスチックカードの表面にホログラムとして機能する微細凹凸パターンを設けると、例えば、外部からの衝撃によりホログラム表面に負荷が掛かる場合や、ホログラム表面に付着した汚れをアルコールやアセトン等の有機溶剤で擦り取る場合や、カードを高温高湿度下に放置したり、或いは水につけたりする場合が想定される。
【0015】
したがって、光硬化性樹脂組成物を硬化させて形成した微細凹凸パターンには、摩耗し易い環境下で摩擦等の機械的外力が加わったとしても、傷ついたり或いは削れたりしないような耐摩耗性または耐擦傷性が求められ、また、有機溶剤によって溶出しない耐薬品性、及び水分の影響で変形しない耐水性等の耐久性が求められる。
また、従来のホログラムまたは回折格子は、空間周波数が500〜1500[本/mm]であり、アスペクト比(深さ/ピッチ)が0.15〜0.3の場合に回折性能がよく、また、意匠性が高く、さらに、偽造防止効果が高いことから多く用いられてきた。
【0016】
しかしながら、最近では、世の中の母型作製技術や成形技術が向上したため、ホログラムや回折格子の偽造防止効果が低下し、商品価値が下がっている。
そこで、最近では、ホログラムや回折格子よりも一段と複雑な構造で、しかも特異的な光学特性を有する商品が求められている。これは、例えば、フォトニック結晶等の、表面形状がナノ構造を有する商品や、アスペクト比が非常に高い商品が開発されてきている。このような新規光学物品に必要な諸物性及び成形性は、従来の提案されている材料では達し得ない。
【0017】
具体的には、例えば、特許文献7に記載されているように、アスペクト比が0.5以上の凹凸形状を連続的且つ大量に形成する場合、液体状の光硬化性樹脂を、基材上または金型上に塗布し、基材と金型とを、光硬化性樹脂を介して圧接した後、紫外線を照射して、樹脂の硬化後に金型から剥離し、フィルム基材上に、凹凸形状を形成するエンボス加工の方法が知られている。
【0018】
上記のような、液体状樹脂を成形層とした複製方法においては、円筒を旋盤で加工したような周方向に繋ぎ目の無い、連続した形状のロール型では凹凸形状の形成されたフィルムを連続して作製し、巻き取ることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、上述した各特許文献以外にも、上記のようなホログラムを紙基材やプラスチックカードに転写するため、透明基材と凹凸パターン形成用の樹脂層との間に、透明基材から剥離しやすい樹脂層を一層設けた転写箔を備える構成とした光学物品が提案されてい
る。
このような光学物品では、常温では基材と密着しているが、ある一定の温度以上の熱を加えると基材から剥離しやすくなるタイプの剥離樹脂層を、透明基材と凹凸パターン形成用の樹脂層の間に設けるのが一般的である。しかしながら、この場合では、凹凸パターンを形成する際に加わる熱によって、剥離樹脂層が透明基材から剥がれてしまい、金型側に取られて不良となるという問題が生じるおそれがある。
【0021】
この問題は、被転写基材への転写性を良好にするために、透明基材からより剥離しやすい樹脂層を用いるほど、また、凹凸パターンのアスペクト比が高いほど生じやすくなる。つまり、転写箔を構成に含む光学物品において、安定した連続エンボス加工を可能とするための性能と、被転写基材への転写性を良好とするための性能とは、相反するものであり、両方で優れた性能を見出すのは困難である。
【0022】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、エンボス時にも版取られ等を起こすことなく安定して高アスペクト比の凹凸パターンを連続複製することが可能であり、さらに、被転写基材上への転写を安定して行うことが可能な、光学物品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、光透過性基材の一面に、複数の凹部及び複数の凸部のうち少なくとも一方を含む凹凸パターンが形成された光学物品であって、
前記凹凸パターンは、前記複数の凹部及び前記複数の凸部のうち少なくとも一方を一次元的または二次元的に配列して形成され、
観察者側から近い順に、前記光透過性基材、剥離層、前記凹凸パターンが形成された凹凸パターン形成層、光反射被膜層を積層して形成され、
前記剥離層を前記光透過性基材から180°剥離したときの剥離強度が、前記剥離層にかかる熱が40℃以下のときに20gf/cm
2以下であり、且つ前記剥離層にかかる熱
が100℃以上のときに200gf/cm
2以上であることを特徴とするものである。
【0024】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記凹凸パターンの構造周期は、200nm以上500nm以下の範囲内であることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した発明であって、前記凹凸パターンの構造は、レリーフ型ホログラムまたは回折格子であることを特徴とするものである。
【0025】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記光反射被膜層は、屈折率が2.0以上の高屈折率透明材料を用いて形成されていることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記光反射被膜層は、金属材料を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0026】
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記凹凸パターンは、光硬化性樹脂を用いて形成されていることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項7に記載した発明は、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記凹凸パターンは、熱硬化性樹脂を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0027】
次に、本発明のうち、請求項8に記載した発明は、請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載した光学物品と、
前記光学物品の前記光反射被膜層に設けた接着層と、を備えることを特徴とする転写箔である。
次に、本発明のうち、請求項9に記載した発明は、請求項8に記載した転写箔
が被転写基材に熱転写
されて形成されていることを特徴とする印刷物である。
【0030】
次に、本発明のうち、請求項1
0に記載した発明は、請求項9に記載した印刷物を製造する印刷物の製造方法であって、
前記転写箔を熱加圧によって前記被転写基材上へ接着させる転写箔接着工程と、
前記光透過性基材を剥離することによって前記被転写基材上へ前記転写箔を転写する転写箔転写工程と、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、非常に微細な凹凸パターンにより従来にない視覚効果を生み出すことが可能であるとともに、偽造の困難なセキュリティ性に優れた転写箔を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
まず、
図1を用いて、本実施形態の光学物品1と、光学物品1を備えた転写箔2の構成を説明する。
図1は、本実施形態の光学物品1を備えた転写箔2の構成を示す概略断面図である。
図1中に示すように、転写箔2は、光学物品1と、接着層4を備えている。
光学物品1は、透明基材6、剥離層8、凹凸パターン形成層10、光反射被膜層12を備えている。
【0034】
透明基材6は、光透過性基材である。
透明基材6の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン(PE)等のプラスチックシート等を用いることが可能である。
また、透明基材6の厚さ(膜厚)は、形成後の用途次第であるが、10以上100以下[μm]の範囲内程度とすることが好適である。
【0035】
剥離層8は、透明基材6と積層している。
剥離層8の材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、PET、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂系を用いることが可能であり、さらに、シリコーンやフッ素系の添加剤を加えたものが好適である。
【0036】
また、剥離層8の材料としては、例えば、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂等、透明基材6から剥離しやすいものを用いてもよい。この場合、常温時には透明基材6から剥離しやすく、さらに、100[℃]以上の熱をかけると、逆に粘着性を持って透明基材6との密着力が強くなる材料を選出する必要がある。
凹凸パターン形成層10は、剥離層8の透明基材6と対向する面と反対側の面に積層しており、後述する凹凸パターンが形成されている。
【0037】
また、凹凸パターン形成層10は、光硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂等を設けた後、所望の凹凸をエンボスすることにより凹凸パターンを賦型して形成する。
ここで、光硬化性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、PET、ポリプロピレン等を用いることが可能である。
【0038】
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリルニトリルスチレン共重合体樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂等を用いることが可能である。
熱可塑性樹脂としては、例えば、プロプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂等を用いることが可能である。
また、上述した樹脂の硬化物は、全て光透過性であり、その屈折率は、一般的には1.5程度である。
【0039】
光反射被膜層12は、凹凸パターン形成層10の剥離層8と対向する面と反対側の面に積層している。したがって、光学物品1は、透明基材6、剥離層8、凹凸パターン形成層10、光反射被膜層12の順に積層して形成されている。
光反射被膜層12の材料としては、金属材料であれば、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの材料からなる金属層を用いることが可能である。
【0040】
また、光反射被膜層12の材料としては、透明材料であれば、例えば、凹凸パターン形成層10と屈折率が異なる誘電体層、誘電体多層膜、または、高屈折率材料を用いることが可能である。この場合、例えば、屈折率が2.0以上である、ZnS、TiO
2、Pb
TiO
2、ZrO、ZnTe、PbCrO
4等が好適である。
これは、凹凸パターン形成層10と光反射被膜層12との屈折率差が小さいと、凹凸による回折光の視覚効果が弱まってしまうためである。具体的には、凹凸パターン形成層10と光反射被膜層12との屈折率差は、少なくとも0.5以上あると良い。
【0041】
光反射被膜層12の膜厚は、50以上100以下[nm]の範囲内が好適である。
接着層4は、光反射被膜層12の凹凸パターン形成層10と対向する面と反対側の面に積層している。したがって、転写箔2は、光学物品1が備える光反射被膜層12に接着層4を設けて形成されている。
接着層4の材料としては、例えば、プロプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等を用いることが可能である。
【0042】
(凹凸パターンの構成)
以下、
図1を参照しつつ、
図2及び
図3を用いて、凹凸パターンの構成について説明する。
図2は、凹凸パターン形成層10に形成した凹凸パターン14の一例を拡大して示す斜視図である。
図2中に示すように、凹凸パターン14は、複数の凸部16が一次元的に配列されて形成されている。
なお、凹凸パターン14の構成は、複数の凸部16のみにより形成した構成に限定するものではなく、凹凸パターン14の構成を、特に図示しないが、複数の凹部のみにより形成した構成としてもよい。また、凹凸パターン14の構成を、複数の凸部及び複数の凹部を用いて形成した構成としてもよい。
【0043】
また、凹凸パターン14の構成は、複数の凸部16が一次元的に配列されて形成した構成に限定するものではなく、例えば、
図3中に示すように、複数の凸部16が二元的に設けられているレリーフ型の回折格子として形成されている構成としてもよい。なお、
図3は、本実施形態の変形例を示す図であり、凹凸パターン形成層10に形成した凹凸パターン14の一例を拡大して示す斜視図である。
【0044】
(光学物品1の特殊な視覚効果)
以下、
図1から
図3を参照しつつ、
図4及び
図5を用いて、凹凸パターン14が形成されている凹凸パターン形成層10に起因する、光学物品1の特殊な視覚効果について説明する。
図4は、凹凸パターン14が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。なお、
図4中では、照明光を符号18で示し、正反射光又は0次回折光を符号20で示し、一次回折光を符号22で示している。
【0045】
本実施形態の凹凸パターン14において、凸部16の中心間距離が一定の周期を有している場合は、凹凸構造領域を照明すると、凹凸構造領域は、入射光である照明光18の進
行方向に対して、特定の方向に回折光を射出する。これは、凹凸パターン14の構成を、複数の凹部のみにより形成した場合や、複数の凸部及び複数の凹部を用いて形成した場合であっても、同様である。
【0046】
ここで、最も代表的な回折光は、一次回折光22である。
一次回折光22の射出角βは、以下の等式(1)から算出することが可能である。
d=λ/(sinα−sinβ)…(1)
ここで、等式(1)中では、それぞれ、
d:凸部16を配列した周期、すなわち中心間距離
λ:入射光及び回折光の波長
α:0次回折光、すなわち、透過光又は正反射光の射出角
を表している。
【0047】
換言すれば、αの絶対値は、照明光18の入射角と等しく、入射角とは、Z軸に対して対称な関係である(反射型回折格子の場合)。なお、α及びβは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
また、等式(1)から明らかなように、一次回折光22の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、凹凸パターン14は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光18が白色光である場合、凹凸パターン14の観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0048】
したがって、凹凸パターン形成層10に形成されている凹凸パターン14が、
図2中に示すような一元のドット構造であり、複数の凸部16の中心間距離、もしくはパターン周期が200nm以上500nm以下の範囲内であると、d<λとなる。このため、一次回折光22は、等式(1)より射出角βが負となるため、
図4中に示すように、入射光である照明光18側の深い角度に射出される。
【0049】
また、凹凸パターン14の深さは、周期の長さに対して1/2以上、つまり、アスペクト比(深さ/凹凸周期)で表すと0.5以上であると、凹凸パターン14は、凹凸周期が短く、かつアスペクト比が大きく、かつ凹凸が一次元的に配列されている。このため、凹凸パターン14をレリーフ型回折格子とした場合(
図3参照)と比較して、表面積が非常に大きくなり、照明光18の吸収が多く、正面方向への正反射光を著しく低減させる。
【0050】
また、第一実施形態では、凹凸パターン形成層10と積層する光反射被膜層12が設けられているため、凹凸パターン14を正面方向から観察すると、入射光の吸収により黒く見え、かつ大きく傾けて観察した場合にのみ、明るい回折光が観察できるという視角効果を生み出す。
また、上記のような凹凸パターン14であると、アスペクト比が非常に高いため、製造や複製も困難である。したがって、前述したような、アスペクト比の高い凹凸パターン14を形成した組み合わせた凹凸パターン形成層10を有した光学物品1は、従来に無い特殊な視角効果に加えて、偽造もより困難になり、非常に高い偽造防止効果を有したセキュリティ商材となる。
【0051】
一方、凹凸パターン形成層10が、
図3中に示すようなレリーフ型の回折格子であり、複数の凸部16の中心間距離が、一般的な値である1000[nm]程度の場合、λ<dとなる。
このため、等式(1)から、一次回折光22の射出角βは、正反射光の射出角αよりも小さくなり、
図5中に示すように、正面方向に一次回折光22が射出されることになる。更に、光反射被膜層12の効果により、凹凸パターン14を正面方向から観察した場合には、凹凸パターン14は強く虹色に光るという視覚効果を生み出す。なお、
図5は、本実
施形態の変形例を示す図であり、凹凸パターン14が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。なお、
図5中では、
図4中と同様、照明光を符号18で示し、正反射光又は0次回折光を符号20で示し、一次回折光を符号22で示している。
しかし、等式(1)の通り、大きな角度に回折光は射出しないため、凹凸パターン14を大きく傾けると、虹色の光は観察できなくなる。
【0052】
(光学物品の製造方法)
以下、
図1から
図3を参照しつつ、
図4を用いて、本実施形態の光学物品1を製造する光学物品の製造方法について説明する。
凹凸パターン形成層10の形成に光硬化性樹脂を用いる場合、光学物品の製造方法は、光硬化性樹脂塗布工程と、加圧貼合工程と、光硬化性樹脂硬化工程と、凹凸パターン形成工程を含んでいる。
光硬化性樹脂塗布工程は、光硬化性樹脂を光透過性基材に塗布する工程であり、加圧貼合工程は、光硬化性樹脂を塗布した光透過性基材と凹凸パターン14が形成されている金属版とを加熱して加圧貼合する工程である。
【0053】
光硬化性樹脂硬化工程は、加圧貼合した状態で光透過性基材側から光照射することにより光透過性基材に塗布した光硬化性樹脂を硬化させる工程であり、凹凸パターン形成工程は、硬化した光硬化性樹脂を光透過性基材とともに金属版から剥離させて、所望の凹凸パターン14を有した凹凸パターン形成層10を形成する工程である。
一方、凹凸パターン形成層10の形成に熱硬化性樹脂を用いる場合、光学物品の製造方法は、熱硬化性樹脂塗布工程と、加圧貼合工程と、凹凸パターン形成工程を含んでいる。
【0054】
熱硬化性樹脂塗布工程は、熱硬化性樹脂を光透過性基材に塗布する工程であり、加圧貼合工程は、熱硬化性樹脂を塗布した光透過性基材と凹凸パターン14が形成されている金属版を加熱して加圧貼合する工程である。
凹凸パターン形成工程は、熱硬化性樹脂を光透過性基材とともに金属版から剥離させて所望の凹凸パターン14を有した凹凸パターン形成層10を形成する工程である。
【0055】
次に、光学物品の製造方法の具体的な工程について説明する。
まず、透明基材6の主面(
図1中では、下側の面)に、凹凸パターン形成用の樹脂(光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂)を、グラビアコーター等の一般的なコーティング機を用いて塗布する(光硬化性樹脂塗布工程または熱硬化性樹脂塗布工程)。
ここで、塗布する樹脂層の厚さ(膜厚)は、目的とする凹凸形状の高さの1倍以上10倍以下の範囲内程度の厚みが好適であるが、塗工機で塗布することを考慮すると0.5以上5以下[μm]の範囲内程度が好適である。
【0056】
次に、凹凸パターンの金型に対し、上記の塗布した樹脂層を押し当て、剥離することで所望の凹凸パターン14を形成する(加圧貼合工程、凹凸パターン形成工程)。
ここで、凹凸パターンの金型を作製する方法としては、公知のレジストにEB(Electron Beam)で描画する方法や、シリコーンをエッチングする方法等を用いることが可能である。
【0057】
また、エンボス金型用として、微細な凹凸形状を有する板状の平型を作成する方法としては、上記のレジストやシリコーンから、ニッケルや鉄等の金属を電鋳して金型とする方法や、樹脂により金型を作製する方法等を用いることが可能である。
なお、凹凸パターン形成層10の形成に光硬化性樹脂を用いた場合は、金型に押し当てた状態で光照射し、光硬化した後に剥離することで所望の凹凸パターンを形成する(光硬化性樹脂硬化工程、凹凸パターン形成工程)。
【0058】
また、上記で説明したような、パターン周期が200nm以上500nm以下の一元構造で、アスペクト比が0.5以上となるような微細な凹凸パターン14を形成する場合は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂では凹凸形状を精確に再現することが困難であるため、光硬化性樹脂を用いてエンボスするとより好適である。
この場合、具体的なエンボス加工の条件を挙げると、例えば、金型ロ−ルとペーパーロールよりなる一対のエンボスロールを使用する。そして、通常の方法では、エンボス温度としては成形性を向上させるためには100[℃]以上が好適であるため、エンボス温度は、100以上180以下[℃]の範囲内とすることが好適である。また、エンボス加工の圧力としては、10以上50以下[kg/cm
2]の範囲内とすることが好適である。
【0059】
また、本発明の光硬化型樹脂の光硬化に用いる光源としては、紫外線光源の場合は、例えば、紫外線螢光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯、炭素アーク灯、太陽灯等を用いることが可能である。
【0060】
(印刷物の構成)
以下、
図1から
図5を参照しつつ、
図6を用いて、本実施形態の転写箔2を備えた印刷物24の構成を説明する。なお、
図6は、本実施形態の転写箔2を備えた印刷物24の構成を示す概略断面図である。
図6中に示すように、印刷物24は、転写箔2と、被転写基材26を備えており、転写箔2を被転写基材26に熱転写して形成されている。なお、
図6中には、観察者が印刷物24を観察する方向を、矢印28により示している。
【0061】
(印刷物の製造方法)
以下、
図1から
図6を参照して、本実施形態の印刷物24を製造する印刷物の製造方法を説明する。
印刷物の製造方法は、転写箔接着工程と、転写箔転写工程を含んでいる。
転写箔接着工程は、転写箔2を、熱加圧によって被転写基材26上へ接着させる工程である。
転写箔接着工程では、具体的に、転写箔2の接着層4と被転写基材26とを密着させた後、透明基材6側から過熱ロール等を用いて加熱加圧を行って、転写箔2と被転写基材26を接着させる。
【0062】
ここで、加熱加圧の条件としては、接着層4の種類にもよるが、接着層4が被転写基材26に安定して接着する条件となるように設定する。例えば、一般的には、加熱温度は、100以上200以下[℃]の範囲内とすることが妥当であり、加圧圧力は、10以上50以下[kg/cm
2]の範囲内とすることが妥当である。
転写箔転写工程は、転写箔接着工程において転写箔2を被転写基材26上へ接着させた後に、光透過性基材である透明基材6を剥離することによって、被転写基材26上へ転写箔2を転写する工程である。
【0063】
転写箔転写工程では、具体的に、被転写基材26と接着させた転写箔2から、透明基材6のみを剥離して、印刷物24を製造する。
なお、剥離時の温度は、重要な条件であるが、透明基材6を剥離する際の剥離層8の熱は、一般的には、40[℃]以下となっている。したがって、場合によっては、冷却ロールを通すことで、剥離層8にかかる熱を冷ましながら、透明基材6を剥離することも可能である。
【0064】
(実施例)
以下、
図1から
図6を参照して、本発明例の転写箔と、比較例の転写箔を用いて、これらの性能を評価した結果を説明する。
本発明例の転写箔は、上述した第一実施形態と同様に、熱がかかると基材(透明基材)と密着するタイプの剥離層を備えた転写箔とし、剥離層の材料が異なる三種類の転写箔を用いた。
【0065】
一方、比較例の転写箔は、本発明例の転写箔と異なり、熱がかかると基材(透明基材)から剥離しやすくなるタイプの剥離層を備えた転写箔を用いた。
上述した転写箔を製造する際には、まず、透明基材6である、厚さが25[μm]のPETフィルム(東レ製ルミラー)上に、剥離層8、凹凸パターン形成層10の順にグラビアコーターで塗工を行った。
ここで、剥離層8としては、アクリル系樹脂を、凹凸パターン形成層10としては、紫外線硬化性のウレタンアクリレート樹脂を溶剤で希釈し、乾燥後に、それぞれの厚さが、約1[μm]、約2[μm]の厚さとなるように塗工した。
【0066】
次に、複製に用いる金属版として、一次元的に一定の周期で配列したアスペクト比の高い微細な凹凸パターン14で絵柄をデザインした金属版をそれぞれ使用した。
そして、上記の金属版をロールエンボス装置にセットして、ロール版の温度を上昇させた後に、上記のように作成した塗工フィルムの凹凸パターン形成層10を、50[kg/cm
2]の圧力で金属版に押し当て、凹凸パターン14を形成する。
【0067】
その後、紫外線(メタルハライドランプ)を約500[mJ]照射して硬化させてから剥離し、所望の凹凸パターン14を得た。
ここで、版面(ロール版の面)の設定温度については、80以上110以下[℃]の範囲内まで行ったが、100[℃]未満の場合、樹脂が溶けきれずに、凹凸パターン14の成形性が悪いことが検証された。
【0068】
また、比較例では、版面の設定温度を100[℃]以上にすると、剥離層がPET基材から剥がれ、金属版側に取られてしまうため、エンボス適性としては劣悪であることが検証された。
これに対し、本発明例の剥離層であれば、版面の設定温度が100[℃]以上で、PET基材との密着性も良好となるため、金属版側に取られることも無く、また、成形性も良く、エンボス適性は概ね良好であることが検証された。
しかしながら、三種類の本発明例のうち、サンプルによっては、版面の設定温度が110[℃]以上でなければ、剥離層の粘着性が良好とならず、ややエンボス適性が悪くなるものがあることも検証された。
【0069】
次に、真空蒸着機を用いて、凹凸パターン形成層10の剥離層8と対向する面と反対側の面に、光反射被膜層12として、厚さが50[nm]のアルミ蒸着被膜を形成した後、さらに、グラビアコーターを用いて、アルミ蒸着被膜面上に接着層4を塗工した。
ここで、各サンプル(比較例、三種類の本発明例)のPET基材と剥離層8との剥離強度を測定した。また、測定方法は、「JIS K 6854」に則った180°剥離試験に準じた方法を用いた。
剥離試験の際には、被接触式温度計にて、PET基材表上の温度を測定した。そして、高温時の場合は、ホットプレートにより透明基材6を熱し、それぞれの測定したい温度となったところで、剥離強度を測定した。
【0070】
次に、各サンプルの転写を行った。被転写基材26としては、厚さが2[mm]の一般的なプラスチックカードを用いた。具体的な方法としては、ロール転写機を用いて、150[℃]の熱をかけ、プラスチックカードへ各サンプルを接着させた。次に、同様のロール転写機を用い、熱をかけずにロールに沿った形で、PET基材の剥離を行った。
剥離する際には、上記と同様に、被接触式温度計にてPET基材表上の温度を測定した
。また、接着させた後、剥離するまでの経過時間を変えることにより、剥離時の温度を、25[℃]、30[℃]、40[℃]の三種類に変化させた。
【0071】
結果として、比較用のサンプルは、温度が40[℃]以下であると、剥離層8の透明基材6からの剥離性が無くなるため、綺麗に転写できなかったことが検証された。これは、比較例のサンプルに用いられている剥離層8は、高温であると透明基材6から剥離しやすくなるため、高温でプラスチックカードに転写して熱を持っているうちに透明基材6を剥離すると、綺麗に転写できることが分かった。
【0072】
一方、本発明例のサンプルについては、三種類とも、概ね転写適性は良好であることが検証された。
各サンプルにおける微細な凹凸パターン14を精度良く形成できるエンボス温度条件である、100[℃]及び110[℃]時の剥離強度数値と、各温度のときのエンボス適性の評価結果、そして、低温時の剥離強度数値と、各温度のときの転写適性の評価結果を、それぞれ以下に示す表1中にまとめた。なお、表1中では、エンボス適性の評価結果及び転写適性の評価結果を、「○」、「△」、「×」の順に、高評価から低評価として示している。
【0074】
表1中に示されているように、剥離層8の、透明基材6から180°剥離したときの剥離強度が、剥離層8にかかる熱が40[℃]以下のときには、20[gf/cm
2]以下
となる。
これに加え、剥離層8にかかる熱が100[℃]以上のときには、200[gf/cm
2]以上となるときに、エンボス時にも版取られなどを起こすことなく、安定して高アス
ペクト比の凹凸パターン14を連続複製することが可能である光学物品1を提供可能であることが検証された。
また、この光学物品1は、被転写基材26上への転写を安定して行うことが可能な転写箔2を構成することが可能な構成であることが検証された。