(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスに起因するリラクタンストルクと永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクとを合わせた総合トルクを発生させる電流指令ベクトルをトルク指令に応じて決定し、電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することにより前記モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記電源から前記モータに印加可能な電源電圧を検知する電圧検出部と、
前記モータの回転数を検知する回転数検出部と、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させるべく回転数およびトルク指令に関連づけられる電流指令ベクトルで当該電流指令ベクトルの先端が所定の曲線上に位置し且つ前記モータの回転により発生する誘起電圧が前記電源電圧を越えないように抑制するための複数の電流指令ベクトルのうち、当該電流指令ベクトルのd軸電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルの向きを示す位相角を決定する電源電圧位相角算出ブロックと、
前記回転数検出部で検出した回転数の下に前記トルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの向きを示す位相角を決定する効率電流位相角算出ブロックと、
これら双方のブロックが決定した電流指令ベクトルの向きのうち当該電流指令ベクトルのd軸電流成分が大きい方の電流指令ベクトルの向きを選択する選択部と、
前記選択部で選択された電流指令ベクトルの向きを示す電流位相角と前記トルク指令とを入力し、前記電流位相角の示す方向を向く複数の電流指令ベクトルのうち、前記トルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を生成する電流指令生成部と、
前記電流指令生成部から出力されたd軸及びq軸の電流指令に対応する電流を前記モータに通電する通電制御部と、を備え、
前記電流指令生成部は、前記選択部が選択したベクトルの向きとトルク指令とに基づいて電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を生成するにあたり、前記モータに流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンスを前記電流値に関連付けたインダクタンス情報を予め設定しておき、既に出力したd軸及びq軸の電流指令によって前記モータに流れたとみなせる電流値に対応するd軸及びq軸のインダクタンスを用いて前記d軸及びq軸の電流指令を生成するように構成されていることを特徴とするモータ制御装置。
前記電流指令生成部は、前記トルク指令及び前記電流位相角を入力し、入力した電流位相角の示す方向を向き且つ入力したトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値を生成する電流指令値生成部と、生成された電流指令値と前記電流位相角とに基づき前記d軸電流指令、前記q軸電流指令をそれぞれ生成するd軸電流指令生成部及びq軸電流指令生成部とを備え、
前記電流指令値生成部は、前記トルク指令と前記電流位相角と電流値とを入力パラメータとして前記電流指令値を算出し、算出した電流指令値を前記モータに流れたとみなせる電流値として前記入力パラメータにフィードバックし、前記トルク指令及び前記電流位相角を固定した状態で算出を繰り返したとした場合に、演算結果が収束したとき又は収束したとみなせるときの電流指令値を前記トルク指令と前記電流位相角とに関連付けた電流指令値データを実測又は磁気解析に基づき予め設定しておき、前記電流指令値データにおいて前記トルク指令と前記電流位相角とに関連付けられている電流指令値を出力するように構成されている請求項1に記載のモータ制御装置。
前記電流指令生成部は、前記トルク指令及び前記電流位相角を入力し、入力した電流位相角の示す方向を向き且つ入力したトルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値を生成する電流指令値生成部と、生成された電流指令値と前記電流位相角とに基づき前記d軸電流指令、前記q軸電流指令をそれぞれ生成するd軸電流指令生成部及びq軸電流指令生成部とを備え、
前記電流指令値生成部は、d軸及びq軸のインダクタンスと電流位相角とで定まるリラクタンストルクに関する係数を取得する係数取得部を有し、前記係数取得部で取得したリラクタンストルクに関する係数及び前記トルク指令を少なくとも用いて前記電流指令値を算出して出力するように構成されており、
前記係数取得部は、或る電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンスの下に定まる前記リラクタンストルクに関する係数と当該係数の算出の基礎となる電流位相角とを電流値に関連付けた係数情報を実測又は磁気解析に基づき予め設定しておくとともに、出力した電流指令値を前記モータに流れたとみなせる電流値として前記係数取得部にフィードバック入力するようにし、前記係数情報においてフィードバック入力した電流値と電流位相角とに対応する前記係数を取得するように構成されている請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を、図面を参照して説明する。
【0018】
図5に示すように、このモータ制御装置の制御対象であるIPMモータ1(Interior Permanent Magnet)は、周知のとおり永久磁石11aを埋め込んだ回転子11と、三相交流を通電することにより回転磁界φ’を発生させる固定子12とからなり、逆突極性を有する磁石内装型モータである。このモータ1に通電する三相の電流を、
図5及び
図6に示すように、永久磁石11aが発生する磁束の方向であるd軸電流成分I
d及びd軸に直交するq軸電流成分I
qの二つの電流成分に変換して表現し、これら二つの電流成分の合成ベクトルを電流指令ベクトルYとして表現する。電流指令ベクトルYの向きは、ベクトルYとq軸とのなす角度で表現でき、この角度を以下、電流位相角βや単に位相角βと呼ぶ。このモータ1では、
図7に示すように、永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクと、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスの差に起因するリラクタンストルクとを合わせた総合トルクがモータへの通電によって発生する。この総合トルクは、図中に示されるように、電流指令ベクトルの大きさ(すなわちモータに流れる電流値)が同じであっても、ベクトルの向き(すなわち電流位相角)によって変化するものである。
【0019】
モータ制御装置は、
図1に示すように、
図6に示す電流指令ベクトルYに応じてモータ1の駆動を制御する装置であり、トルク指令T
refに対応する値の総合トルクをモータ1に発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qを生成する電流指令生成ブロック2と、この電流指令生成ブロック2から出力されたd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qに対応する電流をモータ1に通電する通電制御部3とを有している。
【0020】
通電制御部3は、d軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qに基づき三相電流指令uvwを生成する電流制御部30と、電流制御部30で生成された三相電流指令uvwに応じた電流を電源4からモータ1に通電する主回路部31とを有する。
【0021】
電流制御部30は、主回路部31からモータ1に通電される電流を電流検知部3aを介して検出し、検出した電流がd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qに対応する電流となるようにフィードバック制御を行う。主回路部31は、PWM制御を用いて三相電流指令uvwに応じた三相の電流を電源からモータ1に通電する。これらの各部30、31は周知のものと同様であるため、その構成及び動作の詳細な説明は省略する。
【0022】
電流指令生成ブロック2は、ブロック外部から指示されたトルク指令T
refに対応するトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qを生成するものであるが、これを実装するにあたり、以下の要求に対応する必要がある。
【0023】
すなわち、
図1及び
図5に示すように、モータ1の回転により発生する誘起電圧は、モータ1の永久磁石11aが発生する磁束及びモータ1の回転数に比例して増大し、電源4からモータ1への通電に印加する電源電圧Vbatがモータ1の誘起電圧よりも高くなければ電流を流せずに制御不能となるので、誘起電圧が電源電圧Vbatを越えないように抑制する必要がある。特に、電源4にバッテリを適用するなど電源電圧Vbatに変動が生じる場合には、電源電圧Vbatの変動を考慮して誘起電圧を抑制する必要がある。誘起電圧を抑制するために、
図6(a)に示すように、電流指令ベクトルYのうちd軸電流成分Idにより生じる磁束φdで永久磁石により生じる磁束φMGの一部を相殺して、相殺後の磁束(φMG−φd)を相殺前の磁束φMGよりも低減させることにより誘起電圧を抑制する弱め磁束制御が一つの有効な手段として挙げられる。この弱め磁束制御は、電流指令ベクトルYの向きを示す位相角を例えば
図6(a)→
図6(b)のようにβからβ’に変えると、誘起電圧を抑制する方向に作用す
るd軸電流成分がId→I’dに変化(この例では増大)することを利用して、誘起電圧を抑制するに足りる
d軸電流成分を確保するように位相角を制御する必要がある。
【0024】
さらに上記要求に加えて、効率が最大となるように電流指令ベクトルを生成することが望まれる。高効率化を追求するために、
図7に示す総合トルクが最大となる位相角βを用いる最大トルク制御が一つの有効な手段として考えられる(特許文献1参照)。しかしながら、この最大トルク制御によって銅損を最小にしても効率が最大となるわけではなく、推定が難しい鉄損を始めとして、メカロス、FET損等も考慮しなければならないことが分かった。真に高効率化を追求するためには、これら全ての損失を含めたシステム全体での効率を考慮する必要がある。
【0025】
そこで、本実施形態では、所望のトルクの発生と、変動する電源電圧を越えないように誘起電圧を抑制するに足りる
d軸電流成分の確保とを両立する電流指令ベクトルを生成するために、
図8(a)に模式的に示すように、実機を用いて或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルY1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルY1による駆動時に電流指令ベクトルY1の向きに応じた
d軸電流成分によって抑制された後の誘起電圧V1をパワーメータ等の検出値から測定(推定)する。なお、ここでは、或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルは
図8(a)の曲線Wで示すように多数存在するが、ここでは説明の簡略化のために一部のみを示している。そして、この測定を、
図8(a)に示すように、回転数N1及びトルクT1を維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に誘起電圧を測定し、回転数とトルクと電流指令ベクトルに関する情報と抑制後の誘起電圧とを関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定し、この誘起電圧情報Da1を
図2に示すようにメモリに記憶する。この実測は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体例としては、
図8(a)に示すように、或る回転数N1の下、或るトルクT1を発生させる複数の電流指令ベクトルY1…Y2…Y3…Y4は、各々のベクトルの向きを表す位相角がβ1…β2…β3…β4であり、各々の電流指令ベクトルによるモータの駆動時に実測した誘起電圧はV1…V2…V3…V4である。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、
図2に示す誘起電圧情報Da1は、
図8に示すように、トルクT1と回転数N1と位相角βiと誘起電圧Viとを関連付けたテーブル等で示される。(iは、1以上、実測したベクトルの数以下である。)
【0026】
そして、
図8に示す誘起電圧情報における電流指令ベクトルY
1等を用いてモータの駆動の制御を行えば、モータに発生するであろう誘起電圧が当該電流指令ベクトルY
1等に関連付けられた抑制後の誘起電圧V
1等の値に抑制される。この事実を利用して、
図1に示すように、モータ1の回転数N
refを検出するレゾルバ等を用いた回転数検出部6と、電源4からモータ1に印加可能な電源電圧V
batを検知する電圧検出部7とを設け、
図2に示す誘起電圧情報Da1において回転数検出部6で検出した回転数N
ref及びトルク指令T
refに関連付けられた複数の電流指令ベクトルのうち、抑制された後の誘起電圧を電圧検出部7で検出される電源電圧V
batよりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルを決定する第1の電流指令ベクトル決定部2aを設けている。
【0027】
さらに、効率が最大となる電流指令ベクトルを生成するために、
図8(a)に示すように、上記誘起電圧情報Da1を設定する場合と同様に、実機を用いて或る回転数N
1の下に所望のトルクT
1を発生させる電流指令ベクトルY
1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルY
1による駆動時の効率e
1をパワーメータ等で実測する。この測定を、
図8(a)に示すように、回転数N
1及びトルクT
1を維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に効率を測定し、測定値の中から効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数とトルクとに関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定し、この効率情報Da2を
図2に示すようにメモリに記憶する。この実測は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体例としては、
図8(a)に示すように、或る回転数N
1の下、或るトルクT
1を発生させる複数の電流指令ベクトルY
1…Y
2…Y
3…Y
4は、ベクトルの向きを表す位相角がそれぞれβ
1…β
2…β
3…β
4であり、各々の電流指令ベクトルによるモータの駆動時に実測した効率はe
1…e
2…e
3…e
4である。
図8(b)に示すように、測定した値を近似した効率が最大となる電流指令ベクトルはY
2(以下、Y
maxとも表す)であり、その位相角はβ
2(以下、β
maxとも表す)である。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、
図2に示す効率情報Da2は、
図8に示すように、トルクT
1と回転数N
1と位相角β
maxとを関連付けたテーブル等で示される。
【0028】
そして、
図8に示す効率情報における電流指令ベクトルY
maxを用いてモータの駆動の制御を行えば、推測が困難な鉄損を始めとして銅損、メカロス、FET損等を含めたシステム全体での効率が最大となる。この事実を利用して、
図2に示すように、効率情報Da2において回転数検出部6で検出した回転数N
ref及びトルク指令T
refに関連付けられた電流指令ベクトルを決定する第2の電流指令ベクトル決定部2bを設けている。
【0029】
これら第1及び第2の電流指令ベクトル決定部2a、2bを実現する電流指令生成ブロック2の具体的な構成は、
図2に示すように、誘起電圧が電源電圧を越えないように抑制するための電流指令ベクトルの向きを示す位相角βvを決定する電源電圧位相角算出ブロック21と、効率が最大となる電流指令ベクトルの向きを示す位相角βmaxを決定する効率電流位相角算出ブロック22と、これら双方のブロック21、22が決定した
電流指令ベクトルの向きβv、βmaxのうち
d軸電流成分が大きい方の
電流指令ベクトルの向きを選択する選択部23と、選択部23が選択したベクトルの向きとトルク指令Trefとに基づいて電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成部24とを有している。
【0030】
電源電圧位相角算出ブロック21は、
図2に示すように、上記の第1の電流指令ベクトル決定部2aを構成するものであり、上記の誘起電圧情報Da1を内部メモリに予め記憶しており、外部から指示されたトルク指令Trefと
図1の回転数検出部6で検出した回転数Nrefと
図1の電圧検出部7で検出した電源電圧Vbatとを入力して、誘起電圧情報Da1における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、入力値に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す電源電圧補償位相角βvを出力する。また、
図9(b)に示すように、誘起電圧情報において誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルは、例えばY3やY4など複数存在するが、これらのうち
d軸電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルY3を決定するように構成している。この入出力関係を簡単に下記に示す。
電源電圧補償位相角βv=fβv(トルクTref,回転数Nref,電源電圧Vbat)
【0031】
効率電流位相角算出ブロック22は、
図2に示すように、上記の第2の電流指令ベクトル決定部2bを構成するものであり、上記の効率情報Da2を内部メモリに予め記憶しており、外部から指示されたトルク指令T
refと
図1の回転数検出部6で検出した回転数N
refとを入力して、効率情報Da2における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、入力値に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す効率電流位相角β
baseを出力する。この入出力関係を簡単に下記に示す。
効率電流位相角β
base=f
βbase(トルクT
ref,回転数N
ref)
【0032】
図2の選択部23は、
図6に示すように、電流指令ベクトルの向きを示す位相角βが電流指令ベクトルとq軸とのなす角度であり、0〜90度範囲において位相角βが大きくなるほど
電流指令ベクトルのd軸電流成分が増大することを利用して、
図2に示す電源電圧位相角算出ブロック21で決定された電源電圧補償位相角βvと、効率電流位相角算出ブロック22で決定された効率電流位相角βbaseとを比較して、大きい方(
電流指令ベクトルのd軸電流成分が大きい方)を選択し、選択した位相角を電流位相指令βrefとして電流指令生成部24に入力する。すなわち、ブロック21・22及び選択部23は、誘起電圧が電源電圧を超えない範囲内において、モータ回転数の下にトルク指令に対応するトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの電流位相角を決定する位相角決定部2Xを実現していると言える。
【0033】
電流指令生成部24は、
図2に示すように、選択部23から入力された電流位相指令β
refが示すベクトルの方向を向き且つトルク指令T
refに対応する総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qを、下記基本的な数式(1)〜(4)を変形した式(5)〜(7)に基づき算出する。ここでは、P
nを極対数とし、Ψ
aを電機子鎖交磁束実効値[Wb]とし、K
eを誘起電圧定数とし、L
dをd軸インダクタンス[H]とし、L
qをq軸インダクタンス[H]とし、I
dをd軸電流[Arms]とし、I
qをq軸電流[Arms]とし、I
aをdq軸上の電流指令実効値[Arms]として表している。
T=P
n{Ψ
aI
q+(L
q−L
d)I
dI
q} …(1)
Ψ
a=K
e/P
n …(2)
I
q=I
a×cos(β) …(3)
I
d=I
a×sin(β) …(4)
A=P
n(L
q−L
d)sin(β)cos(β) …(5)
B=Ψ
aP
n・cos(β) …(6)
I
a={−B+√(B
2+4×A×T)}/(2×A) …(7)
【0034】
上記のように構成したモータ制御装置の動作を説明する。モータ1が或る一定の回転数N
1で高速回転しており、或るトルクT
1を出力する状態で、電源電圧が十分に高い場合と、経年劣化等により電源電圧が低い場合とで、各々の電流指令ベクトル決定部2a、2bで決定される電流指令ベクトルを
図9(a)及び
図9(b)に示す。なお、ここでは簡略化のため複数の電流指令ベクトルのうちの一部のベクトルのみを示し、誘起電圧を電源電圧よりも小さく抑制する範囲を斜線で示す。
【0035】
電源電圧Vbatが十分に高い場合は、
図9(a)に示すように、
図2の効率電流位相角算出ブロック22は、最も効率の高い電流指令ベクトルがYmax(位相角βmax)であると決定する。また、
図2の電源電圧位相角算出ブロック21は、発生するであろう誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくなる方向へ抑制するための電流指令ベクトルがY1、Ymax(Y2)、Y3、Y4であり、これらのうち最も
d軸電流成分が小さくなる(位相角βが小さくなる)電流指令ベクトルがY1(位相角β1)あると決定する。そして、
図2の選択部23は、効率電流位相角βmaxの方が電源電圧補償位相角β1よりも大きいので、効率電流位相角βmaxを選択し、このβmaxに対応する電流指令ベクトルYmaxでモータの駆動を制御することになる。
【0036】
一方、電源電圧Vbatが低い場合は、
図9(b)に示すように、
図2の効率電流位相角算出ブロック22は、最も効率の高い電流指令ベクトルがYmax(位相角βmax)であると決定する。また、
図2の電源電圧位相角算出ブロック21は、発生するであろう誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さくなる方向へ抑制するための電流指令ベクトルがY3、Y4であり、これらのうち最も
d軸電流成分が小さくなる(位相角βが小さくなる)電流指令ベクトルがY3(位相角β3)あると決定する。そして、
図2の選択部23は、電源電圧補償位相角β3の方が効率電流位相角βmaxよりも大きいので、電源電圧補償位相角β3を選択し、このβ3に対応する電流指令ベクトルY3でモータの駆動を制御することになる。
【0037】
このように、モータの回転数(又は速度)及び電源電圧を検出し、検出した回転数の下にトルク指令に対応するトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルY
1…Y
max(Y
2)…Y
3…Y
4…のうち、効率が最大となる電流指令ベクトルY
maxと、誘起電圧を検出した電源電圧よりも小さくなるように抑制するための電流指令ベクトルとをそれぞれ求め、誘起電圧を抑制する範囲内(
図9中の斜線部分)に効率が最大となる電流指令ベクトルY
maxがある場合には、電流指令ベクトルY
maxを用いて効率が最大となる制御を行い、誘起電圧を抑制する範囲内(
図9中の斜線部分)に効率が最大となる電流指令ベクトルY
maxがない場合には、誘起電圧を適切に抑制する制御を実施する。
【0038】
ところが、上記の構成において、d軸インダクタンスL
d及びq軸インダクタンスL
qを予め同定した固定値としてd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qを生成するように構成すると、実際のインダクタンスはモータに流れる電流値によって変化するため、固定値に基づき生成したd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qによって発生するトルクと、トルク指令の指示するトルクとに誤差が生じてしまい、トルク制御の精度が低減してしまう。また、このトルク制御の精度低下は、予め定めた効率情報Da2において、
図8(b)に示す最大効率点から外れて効率が損なわれる事態を招来してしまう。
【0039】
そこで、このような不具合を解決すべく、本実施形態では、
図3及び
図4に示すように、モータに流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)を電流値I
aに関連付けたインダクタンス情報Da3を予め設定しておき、d軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)を生成するにあたり、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)によってモータに流れたとみなせる電流値I
aに対応するd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)を用いてd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)を生成するように電流指令生成部24を構成している。
【0040】
その具体的構成としての電流指令生成部24は、
図3に示すように、トルク指令T
ref及び電流位相角β
refを入力し、入力した電流位相角β
refの示す方向を向き且つ入力したトルク指令T
refに対応する値の総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値I
aを生成する電流指令値生成部25と、生成された電流指令値I
aと電流位相角β
refとに基づきd軸電流指令I
d、q軸電流指令I
qをそれぞれ生成するd軸電流指令生成部26及びq軸電流指令生成部27とを有している。なお、電流指令値I
aは、上記の通り、電流指令ベクトルの大きさを示す値である共に、モータに流れるdq軸上の電流実効値に相当する値である。
【0041】
同図に示すように、d軸電流指令生成部26の具体的構成は、上記数式(4)に沿った演算を行うもので、電流位相角β
refに対応するsin(β
ref)の値を出力する正弦関数テーブルとも呼ばれるsinテーブル26aと、このsinテーブル26aから出力されたsin(β
ref)と電流指令値I
aとを乗算する乗算器26bとを主体とし、乗算結果I
a×sin(β
ref)に正規化処理及び最大クランプ処理を施してd軸電流指令I
dを生成する。同様に、q軸電流指令生成部27の具体的構成は、上記数式(3)に沿った演算を行うもので、電流位相角β
refに対応するcos(β
ref)を出力する余弦関数テーブルとも呼ばれるcosテーブル27aと、このcosテーブル27aから出力されたcos(β
ref)と電流指令値I
aとを乗算する乗算器27bとを主体とし、乗算結果I
a×cos(β
ref)に正規化処理及び最大クランプ処理を施してq軸電流指令I
qを生成する。なお、図中に示すq軸電流指令生成部27は、図示しない絶対値化処理部によりトルク指令T
refが負値を取らない絶対値に処理されているので、本来のトルク指令T
refの符号に対応するようにd軸電流指令I
dの符号を処理するように構成されている。
【0042】
電流指令値生成部25は、
図4に示すように、上記数式(5)〜(7)に沿った演算を行うもので、電流位相角β
refを入力して数式(5)に示す係数Aを取得する第一の係数取得部25aと、電流位相角βを入力して数式(6)に示す係数Bを取得する第二の係数取得部25bと、係数A、係数B及びトルク指令T
refに対して、上記数式(7)に沿った演算を通じて電流指令値I
aを出力する電流指令値演算部25cとで構成されている。この電流指令値演算部25cは、乗算器、加算器、除算器、平方根演算器等の各種演算器で構成され、その演算結果に最大クランプ処理を施して電流指令値I
aを出力する。
【0043】
係数Aは、数式(5)に示すように、d軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)と電流位相角βで定まるリラクタンストルクに関する係数である。係数Bは、数式(6)に示すように、電流位相角βで定まるマグネットトルクに関する係数である。ここで、d軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)は電流値I
aに応じて変化する電流依存値であるので、モータ1の磁気解析や実測によって、下記数式(8)に示すようにd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)をモータに流れる電流値I
aの関数に近似可能である。
L
q=f
lq(I
a)、L
d=f
ld(I
a) …(8)
そして、第一の係数取得部25aは、或る電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)の下に定まるリラクタンストルクに関する係数Aと、この係数Aの算出の基礎となる電流位相角βとを電流値I
aに関連付けた係数情報Da4を実測又は磁気解析に基づきテーブルとして予め設定(保持)している。また、第一の係数取得部25aは、電流指令値演算部25cにおいて演算により求めた電流指令値I
aをモータに流れたと見なせる電流値としてフィードバック入力するようにし、係数情報Da4においてフィードバック入力した電流値I
aと電流位相角βとに対応する係数Aを取得するように構成している。本実施形態では、係数情報Da4は、テーブルとして構成されているが、係数Aを演算で算出するための相関関係式であってもよい。なお、第二の係数取得部25bは、電流位相角βを数式(6)に代入して得られる係数Bを電流位相角βに関連付けた係数Bテーブルを主体とするものである。
【0044】
すなわち、
図2及び
図3に示す電流指令生成部24にトルク指令T
ref及び電流位相角β
refが入力されると、
図3及び
図4に示す電流指令値生成部25において、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)の算出の基礎となる電流指令値I
aと電流位相角β
refとに対応する係数Aが第一の係数取得部25aにより取得され、この係数Aに基づき電流指令値I
aが電流指令値演算部25cにより算出され、この電流指令値I
aに基づきd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)が電流指令生成部24において算出されて出力され、このd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)に基づきモータへの通電が実行される。この場合、係数情報Da4は、係数Aがd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)に基づく値であるので、d軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)を電流値I
aに関連付けたインダクタンス情報Da3を含む情報、若しくは、インダクタンス情報Da3が化体した情報であると言える。そして、電流指令値I
aは、電流指令ベクトルの大きさすなわちモータに流れる電流値に相当するものであるので、本実施形態のように、係数情報Da4から電流指令値I
aに対応する係数Aを取得し、この係数Aを用いてd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)を生成することは、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)によってモータに流れたとみなせる電流値I
aに対応するd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)を用いてd軸電流指令I
d及びq軸電流指令I
qを生成することになる。これにより、現時点でモータ1に流れているであろう電流値I
aに応じたd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)を用いてd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)を生成することになり、電流によるインダクタンス変動に追従して電流指令を生成する事が可能となる。
【0045】
以上のように、本実施形態のモータ制御装置は、d軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqに起因するリラクタンストルクと永久磁石の磁束に起因するマグネットトルクとを合わせた総合トルクを発生させる電流指令ベクトルYをトルク指令Trefに応じて決定し、電流指令ベクトルYに対応する電流を電源4からモータ1に通電することによりモータ1の駆動を制御するモータ制御装置であって、電源4からモータ1に印加可能な電源電圧Vbatを検知する電圧検出部7と、前記モータの回転数を検知する回転数検出部6と、或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させるべく回転数Nrefおよびトルク指令Trefに関連づけられる電流指令ベクトルで当該電流指令ベクトルの先端が所定の曲線W上に位置し且つモータ1の回転により発生する誘起電圧Vが前記電源電圧Vbatを越えないように抑制するための複数の電流指令ベクトルのうち、
当該電流指令ベクトルのd軸電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルの向きを示す位相角βvを決定する電源電圧位相角算出ブロック21と、前記回転数検出部で検出した回転数の下に前記トルク指令に対応する前記総合トルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの向きを示す位相角βmaxを決定する効率電流位相角算出ブロック22と、これら双方のブロック21、22が決定した
電流指令ベクトルの向きβv、βmaxのうち
当該電流指令ベクトルのd軸電流成分が大きい方の
電流指令ベクトルの向きを選択する選択部23と、前記選択部23で選択された電流指令ベクトルの向きを示す電流位相角βrefとトルク指令Trefとを入力し、電流位相角βrefの示す方向を向く複数の電流指令ベクトルのうち、トルク指令Trefに対応する総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成部24と、電流指令生成部24から出力されたd軸及びq軸の電流指令(Id,Iq)に対応する電流をモータ1に通電する通電制御部3とを備え、電流指令生成部24は、前記選択部23が選択したベクトルの向きとトルク指令Trefとに基づいて電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するにあたり、モータ1に流れる電流値に応じて変化するd軸及びq軸のインダクタンス(Ld,Lq)を電流値Iaに関連付けたインダクタンス情報Da3を予め設定しておき、d軸及びq軸の電流指令(Id,Iq)を生成するにあたり、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(Id,Iq)によってモータ1に流れたとみなせる電流値Iaに対応するd軸及びq軸のインダクタンス(Ld,Lq)を用いてd軸及びq軸の電流指令(Id,Iq)を生成するように構成されている。
【0046】
このような構成によれば、既に出力したd軸及びq軸の電流指令(Id,Iq)によっ
てモータ1に流れたとみなせる電流値Iaに関連付けられたd軸及びq軸のインダクタン
ス(Ld,Lq)、すなわち現時点でモータに流れているであろう電流値Iaに応じたd
軸及びq軸のインダクタンス(Ld,Lq)を用いてd軸及びq軸の電流指令(Id,I
q)を生成するので、電流によるインダクタンス変動に追従してd軸及びq軸の電流指令
(Id,Iq)を生成することができ、インダクタンス(Ld,Lq)を固定値として電
流指令(Id,Iq)を生成する場合に比べて、トルク指令Trefに対応するトルクと実
際に発生するトルクとの誤差を低減又は無くして、トルク制御の精度を向上させることが
可能となる。
しかも、ブロック21・22及び選択部23によって、誘起電圧が電源電圧を超えない範囲内において、モータ回転数の下にトルク指令に対応するトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの電流位相角を決定する位相角決定部2Xを実現することができるので、所望のトルクの発生と、変動する電源電圧を越えないように誘起電圧を抑制するに足りる
電流指令ベクトルのd軸電流成
分の確保とを両立する電流指令を的確に生成することが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態では、トルク指令T
ref及び電流位相角β
refを入力し、入力した電流位相角β
refの示す方向を向き且つ入力したトルク指令T
refに対応する総合トルクを発生させ得る電流指令ベクトルの大きさを示す電流指令値I
aを生成する電流指令値生成部25と、生成された電流指令値I
aと電流位相角β
refとに基づきd軸電流指令I
d、q軸電流指令I
qをそれぞれ生成するd軸電流指令生成部26及びq軸電流指令生成部27とを備え、電流指令値生成部25は、d軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)と電流位相角β
refとで定まるリラクタンストルクに関する係数Aを取得する係数取得部26aを有し、係数取得部26aで取得したリラクタンストルクに関する係数A及びトルク指令T
refを少なくとも用いて電流指令値I
aを算出して出力するように構成されており、係数取得部26aは、或る電流値に応じたd軸及びq軸のインダクタンス(L
d,L
q)の下に定まるリラクタンストルクに関する係数Aとこの係数Aの算出の基礎となる電流位相角β
refとを電流値I
aに関連付けた係数情報Da4を実測又は磁気解析に基づき予め設定しておくとともに、出力した電流指令値I
aをモータ1に流れたとみなせる電流値として係数取得部26aにフィードバック入力するようにし、係数情報Da4においてフィードバック入力した電流値I
aと電流位相角β
refとに対応する係数Aを取得するように構成されているので、既存構成における係数取得部を改良するだけで、上記インダクタンス変動に追従する制御を実現することが可能となる。
【0048】
さらにまた、モータ1の回転数を検知する回転数検出部6と、回転数検出部6で検出した回転数N
refの下にトルク指令T
refに対応する総合トルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルの電流位相角β
refを決定する位相角決定部2Xとを備え、電流指令生成部24は、位相角決定部2Xが決定した電流位相角β
refに基づきd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)を生成するように構成した場合において、トルク指令T
refに対応する目標トルクと、実際にモータ1に発生する実トルクとに誤差が生じると、最大効率点から外れてしまい効率が低減するおそれがあるが、本実施形態では、電流に応じたインダクタンス変動に追従してd軸及びq軸の電流指令(I
d,I
q)を生成するので、目標トルクと実トルクとの誤差を低減又は無くして、最大効率となる電流指令(I
d,I
q)を生成でき、効率を向上させることが可能となる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0050】
例えば、本実施形態では、
図4に示すように、電流指令値生成部25は、トルク指令T
refと電流位相角β
refと電流値I
aとを入力パラメータとして電流指令値I
aを算出し、算出した電流指令値I
aをモータ1に流れたとみなせる電流値として入力パラメータにフィードバックする構成であるので、トルク指令T
ref及び電流位相角β
refを固定した状態であっても電流指令値I
aが真値に収束するまでにバラツキが生じる。この構成において、トルク指令T
ref及び電流位相角β
refを固定した状態で算出を繰り返したとした場合に、
図10に示すように、演算結果が収束したとき又は収束したとみなせるときの電流指令値I
aをトルク指令T
refと電流位相角β
refとに関連付けた電流指令値データ125aを実測又は磁気解析に基づき予め設定しておき、電流指令値データ125aにおいてトルク指令T
refと電流位相角β
refとに関連付けられている電流指令値I
aを出力するように電流指令値生成部125を構成してもよい。ここでいう「演算結果が収束したとき又は収束したとみなせるとき」は、演算結果として得られる電流指令値のバラツキ度が所定範囲内に収まっているとき、すなわち演算結果として得られた電流指令値とその前回値との差が所定閾値内であるとき等が挙げられる。このように構成すれば、電流指令値のフィードバック演算を省略できるので、演算能力の乏しい廉価な演算器でも上記電流によるインダクタンス変動に追従した制御を実装可能となると共に、制御の応答性を向上させることが可能となる。
【0051】
さらに、本実施形態では、誘起電圧が電源電圧を超えるおそれがない適用例においては、第1の電流指令ベクトル決定部2aである電源電圧位相角算出ブロック21を省略することも可能である。また、位相角決定部2Xは、最大効率となる電流位相角βを決定するものであれば、本実施形態に開示の構成に限られない。
【0052】
本発明のモータ駆動装置は、本発明を適用できるモータであればIPMモータに限られず、また、種々の機器に適用可能であり、特に高トルク出力を必要としバッテリを電源とするフォークリフトや電動乗用車等の電動車両の駆動装置としての用途に適しており、これらに適用すると、高信頼度を得るとともに高効率化による稼働時間の向上やバッテリの簡素化による車両の軽量化などを追求するうえで有用である。
【0053】
さらにまた、本実施形態では、d軸及びq軸のインダクタンスを電流値に関連付けた考え方を採用しているが、更に温度と関連付けるようにしてもよい。この場合、モータの温度を検出するサーミスタ等の温度検出部を設けて、検出した温度に対応するインダクタンスを用いるように構成してもよいし、温度検出部を設ける代わりにモータに流す電流値の積算値から温度を推定するようにしてもよい。また、インダクタンスは個体に応じてバラツキが発生するおそれがあるので、個体情報を外部から入力し、インダクタンス情報Da3や係数情報Da4におけるd軸及びq軸のインダクタンスを補正する補正部を設けてもよい。このように構成すると、個体のバラツキを補正して、より一層トルク制御の精度を向上させることが可能となる。
【0054】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。