(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957847
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】ビスマス系ガラス組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 8/04 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
C03C8/04
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-226217(P2011-226217)
(22)【出願日】2011年10月13日
(65)【公開番号】特開2013-86983(P2013-86983A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2014年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】富永 耕治
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−238273(JP,A)
【文献】
特開2008−105880(JP,A)
【文献】
特開2009−227566(JP,A)
【文献】
特開2010−254528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi2O3、B2O3、ZnOを含み、30℃〜300℃における線膨張係数が(65〜90)×10−7/℃、軟化点が450℃以上530℃以下である粉末のビスマス系ガラス組成物において、該ビスマス系ガラス組成物は、CuO及びFe2O3を含まず、質量%でBi2O3を55〜80、RO(SrO+BaO)を0.1〜5、B2O3を9.3〜25、ZnOを5〜25、SiO2を0〜8、Al2O3を0〜3、TiO2を0〜3、ZrO2を0〜3含むことを特徴とするビスマス系ガラス組成物からなる粉末。
【請求項2】
ガラス粉末を焼成して成るガラスの製造方法において、請求項1記載のビスマス系ガラス組成物からなる粉末を、550℃以下の温度で焼成して結晶化していないガラスを得る工程を有することを特徴とするガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスマス系ガラスに関するものであり、特に封着材や被覆材として利用されるビスマス系ガラス組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から接着や封着、及び電極や抵抗体の保護や絶縁のための被覆等に用いられる材料として、化学的耐久性や耐熱性に優れたガラス組成物を用いたガラス材料が使用されている。前記ガラス
材料は、ガラス組成物、又はガラス組成物を粉末にしてペースト状にしたペースト材料等として前記のガラス材料に使用されている。
【0003】
前記ガラス材料は、その用途に応じて化学耐久性、機械的強度、流動性、電気絶縁性等種々の特性が要求されるが、特に低温における流動性が良好であることが重要なファクターとして挙げられる。流動性が不十分な場合、シール部分からのリークの恐れがあるため、何れの用途においてもガラスの融点を下げる効果が極めて大きいPbOを多量に含有した低融点ガラスが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながらPbOは、人体や環境に与える弊害が大きく、近年その採用を避ける趨勢にあり、ディスプレイ等を始めとする電子材料では無鉛化が検討されている(例えば、特許文献2、3参照)。PbOを含む低融点ガラスの代替品として、無鉛ガラスの中でも特にビスマス系ガラスは、化学耐久性、機械的強度等の諸特性が、PbOを含有する低融点ガラスとほぼ同等であるため、その代替候補として期待されている(例えば、特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−052621号公報
【特許文献2】特開2000−219536号公報
【特許文献3】特開平9−227214号公報
【特許文献4】特開2011−084437号公報
【特許文献5】特開2009−046379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したビスマス系ガラスは構造的に不安定なガラスが多く、ペースト材料として用いた場合、焼成途中で結晶化し、結晶化することで流動性が損なわれ、十分な接着強度、気密性が得にくいという問題があった。また、上記のような不安定なガラスは結晶化し易いため、焼成時の温度を厳密にコントロールする必要があり、生産し難いという問題があった。
【0007】
特許文献3及び特許文献4は、ビスマスを多く含むビスマス系ガラス組成物であり、結晶化を抑制せしめたものであり、いずれもCuOやFe
2O
3等の着色成分を含有させることによりビスマス系ガラス組成物を安定させたものである。上記の着色材料を含む組成では、ディスプレイやLED素子等のように透明や特定色調のガラス組成物が要求される場合、適用できないことがあった。
【0008】
従って、本発明は透明で、
ガラス粉末の焼成時に結晶化し難い
粉末用のビスマス系ガラス
組成物を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Bi
2O
3、B
2O
3、ZnOを含むビスマス系ガラス組成物であり、質量%でBi
2O
3を55〜80、RO(SrO+BaO)を0.1〜5含むことを特徴とするビスマス系ガラス組成物である。
【0010】
また、本発明のビスマス系ガラス組成物は、30℃〜300℃における熱膨張係数が(65〜95)×10
−7/℃、軟化点が450℃以上530℃以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のビスマス系ガラス組成物は、質量%で、Bi
2O
3を55〜80、RO(SrO+BaO)を0.1〜5、B
2O
3を5〜25、ZnOを5〜25、SiO
2を0〜8、Al
2O
3を0〜3、TiO
2を0〜3、ZrO
2を0〜3含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、着色成分
であるCuO及びFe2O3を含まず、さらに焼成時に結晶化し難い
粉末用のビスマス系ガラス
組成物を得ることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、Bi
2O
3、B
2O
3、ZnOを含むビスマス系ガラス組成物であり、質量%でBi
2O
3を55〜80、RO(SrO+BaO)を0.1〜5含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は実質的にPbOを含まないことにより、人体や環境に与える影響を防ぐことができる。ここで、実質的にPbOを含まないとは、PbOがガラス原料中に不純物として混入する程度の量を意味する。例えば、上記ビスマス系ガラス組成物中においてPbOが0.3質量%以下の範囲であれば、先述した弊害、すなわち人体、環境に対する影響、絶縁特性等に与える影響は殆どなく、実質的にPbOの影響を受けないことになる。
【0015】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、前述したBi
2O
3、B
2O
3、ZnO、RO成分を含む。これら成分のうち、Bi
2O
3、B
2O
3及びZnOの合計は、該ビスマス系ガラス組成物の全量に対して55質量%を超えるものであり、好ましくは65質量%以上、より好ましくは80質量%以上としてもよい。また、本発明は上記3成分の合計値が55質量%を超え、RO成分が0.1〜5質量%であるビスマス系ガラス組成物であり、Bi
2O
3、B
2O
3、ZnO及びRO成分が上記の範囲となるように、目的に応じて様々な任意成分を含有させてもよい。
【0016】
本発明の好適なひとつの実施形態は、質量%でBi
2O
3を55〜80、RO(SrO+BaO)を0.1〜5、B
2O
3を5〜25、ZnOを5〜25、SiO
2を0〜8、Al
2O
3を0〜3、TiO
2を0〜3、ZrO
2を0〜3含むものである。
【0017】
Bi
2O
3はガラスの軟化点を下げ、流動性を与え、線膨張係数を適宜範囲に調整するもので、55〜80%(以下質量%を%と記載することもある)の範囲で含有させることが望ましい。55%未満では上記作用を発揮しえず、80%を超えるとガラスの安定性を低下させ、また線膨張係数が高くなり過ぎる。より好ましくは60〜78%の範囲である。
【0018】
RO(SrO+BaO)はガラスの溶融時或いは焼成時の失透を抑制するもので、0.1〜5%の範囲で含有させる。5%を超えるとガラスの安定性を低下させる。より好ましくは、0.1〜3%の範囲である。また、SrOとBaOは混合させて含有させても、どちらか一方だけを含有させてもよい。
【0019】
B
2O
3はガラス形成成分であり、ガラス溶融を容易とし、ガラスの線膨張係数において過度の上昇を抑え、かつ、焼付け時にガラスに適度の流動性を与え、ガラスの誘電率を低下させるものである。ガラス中に5〜25%の範囲で含有させるのが好ましい。5%未満では他の成分との関係によっては、ガラスの流動性が不充分となり、焼結性が損なわれることがある。他方25%を越えるとガラスの軟化点が上昇し、成形性、作業性が困難となる。より好ましくは10〜15%の範囲である。
【0020】
ZnOはガラスの軟化点を下げ、線膨張係数を適宜範囲に調整するもので、ガラス中に5〜25%の範囲で含有させるのが好ましい。5%未満では、他の成分との関係によっては、上記作用を発揮しえず、25%を越えるとガラスが不安定となり失透を生じ易い。より好ましくは5〜15%の範囲である。
【0021】
SiO
2はガラス形成成分であり、別のガラス形成成分であるB
2O
3と共存させることにより、安定したガラスを形成することができるもので、0〜8%の範囲で含有させるのが好ましい。8%を越えると、ガラスの軟化点が上昇し、成形性、作業性が困難となる。より好ましくは、0〜4%の範囲である。
【0022】
Al
2O
3はガラスの溶融時或いは焼成時の失透を抑制するもので、0〜3%の範囲で含有させるのが好ましい。3%を超えるとガラスの安定性を低下させる。より好ましくは、0.1〜2%の範囲である。
【0023】
TiO
2はガラスの溶融時或いは焼成時の失透を抑制するもので、0〜3%の範囲で含有させるのが好ましい。3%を超えるとガラスの安定性を低下させる。より好ましくは、0〜2%の範囲である。
【0024】
ZrO
2はガラスの溶融時或いは焼成時の失透を抑制し、且つ、ガラスの化学的耐久性を向上させるもので、0〜3%の範囲で含有させるのが好ましい。3%を超えるとガラスの安定性を低下させる。より好ましくは、0〜2%の範囲である。
【0025】
なお、前述したSiO
2、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2の各任意成分について、その含有量の総和(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2+ZrO
2)が好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10%、さらに好ましくは0.1〜10%としてもよく、上記範囲内で各任意成分の含有量を適宜選択すればよい。
【0026】
上記以外にも、一般的な酸化物で表すMgO、CaO、In
2O
3、SnO
2、TeO
2などを上記性質を損なわない範囲で適宜加えてもよい。
【0027】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、30℃〜300℃における線膨張係数が(65〜95)×10
−7/℃、軟化点が450℃以上530℃以下であることを特徴とするビスマス系ガラス組成物である。線膨張係数及び軟化点が前述した範囲内であると、フラットパネルディスプレイ、光電池のような様々な製品に用いられる高歪点ガラス(歪点が650℃以上)や、様々なガラス製品に広く用いられているソーダ石灰シリカ系ガラスに対する、被覆材料や封着材料、隔壁材料として好適に利用できる。具体的には、線膨張係数が(65〜95)×10
−7/℃を外れると、例えば、前述した高歪点ガラス、ソーダ石灰シリカ系ガラスに被覆層を形成した際に被膜層の剥離、クラック、基板の反り等の問題が発生することがある。好ましくは、線膨張係数が(70〜90)×10
−7/℃、軟化点が500℃以下としてもよい。
【0028】
また、本発明は着色成分を使用しないビスマス系ガラス組成物であることから、透明性が要求される部材、または耐熱顔料を添加することで部材に適した色調に着色しての利用可能であり、前述した高歪点ガラスやソーダ石灰シリカ系ガラス以外にも、アルカリ分の少ない(又は殆ど無い)アルミノ石灰ホウ珪酸系ガラスも好適に用いることが可能である。
【0029】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、板状等、所望の形状に成形することが可能であるが、特に粉末化して使用するのが好ましく、粉末化したビスマス系ガラス組成物は、必要に応じて耐火物フィラー、耐熱顔料等と混合され、次に有機オイルと混練してペースト化されたペースト材料として使用される。
【0030】
本発明のビスマス系ガラス組成物が用いられる上記ペースト材料に、1〜40質量%の耐火物フィラーを混合することが好ましい。耐火物フィラーを混合することにより、線膨張係数を調整することが可能であり、さらに、機械的強度を向上させることが可能となる。40質量%以上ではビスマス系ガラス組成物の流動性が低下しリークの原因となる。好ましくは3〜20質量%の範囲である。
【0031】
前記の耐火物フィラーとしては、コーディエライト、β−ユークリプタイト、ジルコン、ムライト、アルミナ等が使用できる。
【0032】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、低温での流動性が良好であるため、例えば、プラズマディスプレイパネル、液晶表示パネル、エレクトロルミネッセンスパネル、蛍光表示パネル、エレクトロクロミック表示パネル、発光ダイオード表示パネル、ガス放電式表示パネル等の表示装置、色素増感用太陽電池、LED素子等に代表される電子材料用基板の、封着材料、隔壁材料及び被覆材料として好適に利用できる。また、絶縁材料でもあることから、各種絶縁保護層にも利用できる。
【実施例】
【0033】
まず、実施例に記載した所定組成となるように各種無機原料を秤量、混合して原料バッチを作製した。この原料バッチを白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1000〜1200℃、1〜2時間で加熱溶融して表1の実施例1〜6、表2の比較例1〜6に示す組成のガラスを得た。ガラスの一部は型に流し込み、ブロック状にして熱物性(線膨張係数、軟化点)測定用に供した。残余のガラスは急冷双ロール成形機にてフレーク状とし、粉砕装置で平均粒径1〜4μm、最大粒径10μm未満の粉末状に整粒しガラス粉末を得た。
【0034】
軟化点は、熱分析装置TG―DTA(リガク(株)製)を用いて測定した。また、線膨張係数は、熱膨張計を用い、5℃/分で昇温したときの30〜300℃での伸び量から求めた。
【0035】
得られたガラス粉末について、ハンドプレス機を用いて、4mm×12mmφのボタン状にプレス成形した。次に、プレス成形体を10℃/分の速度で昇温し、550℃以下の温度で60分間焼成した。
【0036】
プレス成形体の焼成後の広がり度合いは、ガラスの結晶化度や流動性に密接に関わっており、焼成後のプレス成形体の外径が13mm以上に広がっているものを〇(流動性が高い)、広がりが不十分なものを×(流動性が低い)、結晶化していないものを○(安定なガラス)、結晶化しているものを×(不安定なガラス)とした。ガラス組成及び各種試験結果を表1、表2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1における実施例1〜6に示すように、本発明の組成範囲内においては、ガラスの安定性、流動性が共に良好であることがわかった。他方、本発明の組成範囲を外れる表2における比較例1〜6は、焼成時の結晶化が顕著である、又は好ましい物性値を示さなかった。