特許第5957862号(P5957862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957862
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】パワーモジュール用基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/13 20060101AFI20160714BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20160714BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20160714BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20160714BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   H01L23/12 C
   H01L23/36 C
   H01L25/04 C
   H05K1/02 F
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-265431(P2011-265431)
(22)【出願日】2011年12月5日
(65)【公開番号】特開2013-118299(P2013-118299A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】村中 亮
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−263554(JP,A)
【文献】 特開2003−086744(JP,A)
【文献】 特開平09−135057(JP,A)
【文献】 特開2001−068623(JP,A)
【文献】 特開平07−131125(JP,A)
【文献】 特開2003−100938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/13
H01L 23/36
H01L 25/07
H01L 25/18
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に電子部品が接合される回路層が積層され、他方の面に放熱層が積層されており、前記放熱層の前記セラミックス基板との接合面とは反対側に、ヒートシンクが接合されるヒートシンク接合面が形成されたパワーモジュール用基板であって、前記セラミックス基板と前記回路層との接合面よりその反対側の電子部品が接合される電子部品搭載面の面積を大きくする張出部が前記回路層の側面の前記電子部品搭載面側に形成され、かつ、前記セラミックス基板と前記放熱層との接合面よりその反対側の前記ヒートシンク接合面の面積を大きくする張出部が前記放熱層の前記ヒートシンク接合面側に形成されており、前記回路層の張出部は、前記セラミックス基板との接合面からの厚さ方向の距離t11が前記回路層の板厚t10の1/4以上1/2以下となるように設定され、前記放熱層の張出部は、前記セラミックス基板との接合面からの厚さ方向の距離t21が前記放熱層の板厚t20の2/5以上7/10以下となるように設定されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記回路層の板厚t10が1.0mm以上2.0mm以下で、記放熱層の板厚t20が1.0mm以上2.0mm以下なるように設定されていることを特徴とする請求項1記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記回路層及び前記放熱層の張出部の外周縁の大きさは、前記セラミックス基板の外周縁の大きさと同じか、それよりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパワーモジュール用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーモジュールとして、セラミックス基板の一方の面に、回路層となる金属層が積層され、この回路層の上に半導体チップ等の電子部品がはんだ付けされるとともに、セラミックス基板の他方の面に放熱層となる金属層が形成され、この金属層にヒートシンクが接合された構成のものが知られている。
【0003】
そして、このようなパワーモジュールに用いられるパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板の両側に接合される回路層と放熱層との絶縁性を向上させるために様々な対策がなされている。また、電子部品に流れる電流が大きいと、電子部品自体の発熱だけでなく、ボンディングワイヤ等の配線部にもジュール熱が発生する。そのため、通電時には電子部品及び配線部の発熱と、非通電時にはヒートシンクによる冷却とにより温度変化が短時間に繰り返し作用する(一般的にパワーサイクルという)。このため、主に配線接合部とはんだ接合部において剥離やボイドが進展し熱抵抗の上昇が問題となり、パワーサイクル耐性向上が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1では、セラミックス基板と放熱層(金属ベース板)との接合面のまわりに段差を設けることにより、回路層と放熱層との絶縁距離(沿面距離)を大きくして絶縁性を向上させるとともに、パワーサイクル耐性を向上させている。
特許文献2では、電子部品上にヒートスプレッタを配置して配線リードの金属箔を接合することにより、電子部品上面側からの放熱性を高め、パワーサイクル耐性を向上させている。また、特許文献3では、電子部品と回路層との間のはんだ接合部を、中央部で薄く、外周部で厚くして設けることで、熱膨張係数差により生じる応力を吸収緩和させてパワーサイクル耐性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4496404号公報
【特許文献2】特開2006‐135270号公報
【特許文献3】特開2011‐159994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、配線接合部やはんだ接合部における熱抵抗によるパワーサイクル耐性の対策がなされている一方で、パワーモジュール用基板を構成する基板におけるパワーサイクル耐性の対策は少ない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、パワーモジュール用基板を大型化することなく絶縁性を維持したまま、パワーサイクル耐性を向上させることができるパワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セラミックス基板の一方の面に電子部品が接合される回路層が積層され、他方の面に放熱層が積層されており、前記放熱層の前記セラミックス基板との接合面とは反対側に、ヒートシンクが接合されるヒートシンク接合面が形成されたパワーモジュール用基板であって、前記セラミックス基板と前記回路層との接合面よりその反対側の電子部品が接合される電子部品搭載面の面積を大きくする張出部が前記回路層の側面の前記電子部品搭載面側に形成され、かつ、前記セラミックス基板と前記放熱層との接合面よりその反対側の前記ヒートシンク接合面の面積を大きくする張出部が前記放熱層の前記ヒートシンク接合面側に形成されており、前記回路層の張出部は、前記セラミックス基板との接合面からの厚さ方向の距離t11が前記回路層の板厚t10の1/4以上1/2以下となるように設定され、前記放熱層の張出部は、前記セラミックス基板との接合面からの厚さ方向の距離t21が前記放熱層の板厚t20の2/5以上7/10以下となるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
セラミックス基板の一方の面に張出部が設けられた回路層を積層し、セラミック基板の他方の面に張出部が設けられた放熱層を積層することにより、回路層と放熱層との沿面距離を確保し、絶縁性を維持できる。
また、張出部により回路層の体積を増加させ熱容量を増やすことができるので、電子部品の発熱による温度上昇を抑制することができる。放熱層においても、張出部により主面の体積を増加させて熱容量を増やすことができるとともに、ヒートシンク、放熱板などの放熱部材との接合面積を増やすことができるので、放熱性を高めることができる。したがって、パワーサイクル耐性を向上させることができる。
また、セラミックス基板の両面に、回路層及び放熱層を接合する際には、加圧面に対して接合面の面積が小さいため、加圧荷重が十分に接合面に働き、回路層及び放熱層と、セラミックス基板との接合信頼性を向上させることができる。さらに、回路層及び放熱層に設けられた張出部により、接合時の余剰ろう材による回路層の電子部品搭載面及び放熱層のヒートシンク接合面(主面)へのろう材の回り込みが抑制され、ろう材付着に起因する表面のシミ発生が防止され、電子部品等の接合性を向上させることができる。
【0010】
本発明のパワーモジュール用基板において、前記回路層の板厚t10が1.0mm以上2.0mm以下で、記放熱層の板厚t20が1.0mm以上2.0mm以下なるように設定されているとよい。
このような回路層及び放熱層を用いることにより、確実にパワーモジュール用基板の絶縁性維持とパワーサイクル耐性を向上させることができる。
【0011】
また、IGBTなどのモジュール内で隣接する他のパワーモジュール用基板との間の短絡防止かつ実装密度向上のためには、本発明のパワーモジュール用基板において、前記回路層及び前記放熱層の張出部の外周縁の大きさは、前記セラミックス基板の外周縁の大きさと同じか、それよりも小さく設定されているとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パワーモジュール用基板を大型化することなく絶縁性を維持したまま、パワーサイクル耐性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のパワーモジュール用基板の一実施形態を示す縦断面図である。
図2】実施例のパワーモジュール用基板を説明する要部縦断面図である。
図3】回路層又は放熱層のいずれかに張出部を設けた場合の電子部品上面の最高温度と張出部の厚みとの関係を示す図である。
図4】回路層又は放熱層の張出部の突出長さを変更した場合の電子部品上面の最高温度と張出部の突出長さとの関係を示す図である。
図5】比較例のパワーモジュール用基板を説明する要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態のパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを示している。このパワーモジュール1は、セラミックス等からなるセラミックス基板2を有するパワーモジュール用基板3と、パワーモジュール用基板3の表面に搭載された半導体チップ等の電子部品4と、パワーモジュール用基板3の裏面に接合されたヒートシンク5とから構成される。
【0015】
パワーモジュール用基板3は、セラミックス基板2の両面に金属層が積層されており、セラミックス基板2の一方の面に積層される金属層が回路層6となり、その表面に電子部品4がはんだ付けされる。また、セラミックス基板2の他方の面に積層される金属層は放熱層7とされ、その表面にヒートシンク5が取り付けられる。
【0016】
回路層6の側面は、セラミックス基板2との接合面6aより、その反対側の電子部品搭載面6bの面積を大きくする張出部6cが形成されている。また、放熱層7の側面にも、セラミックス基板2との接合面7aより、その反対側のヒートシンク接合面7b(主面)の面積を大きくする張出部7cが形成されている。そして、これら張出部6c,7cの外周縁の大きさは、セラミックス基板2の外周縁の大きさと同じか、それよりも小さく設定されている。
【0017】
また、回路層6は、板厚t10が1.0mm以上2.0mm以下で、かつ、セラミックス基板2との接合面6aから張出部6cまでの厚さ方向の距離t11が板厚t10の1/4以上1/2以下となるように設定されている。そして、放熱層7は、板厚t20が1.0mm以上2.0mm以下で、かつ、セラミックス基板2との接合面7aから張出部7cまでの厚さ方向の距離t21が、板厚t20の2/5以上7/10以下となるように設定されている。
なお、本実施形態においては、回路層6の張出部6cの突出長さw11は、距離t11と同じ大きさに設けられ、放熱層7の張出部7cの突出長さw21は、距離t21と同じ大きさに設けられている。
【0018】
セラミックス基板2は、例えば、AlN(窒化アルミニウム)、Si(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl(アルミナ)等の酸化物系セラミックスやSiC(炭化珪素)等の炭化物系セラミックスにより形成され、その厚さは例えばAlNの場合、0.635mm、1.0mmなどとされ、Al又はSiの場合、0.32mmとされる。
回路層6及び放熱層7は、純度99.00質量%以上のアルミニウム(いわゆる2Nアルミニウム)を用いることができる。特に、純度99.90質量%以上のアルミニウムが望ましく、JIS規格では、1N90(純度99.90質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。なお、回路層6及び放熱層7には、アルミニウムの他、アルミニウム合金、銅及び銅合金を用いることもできる。また、回路層6及び放熱層7の張出部6c,7cは、プレス加工により所望の外形に打ち抜くと同時に、その外周縁部を残して潰す等して形成することができる。
【0019】
回路層6及び放熱層7とセラミックス基板2とは、ろう付けにより接合されている。ろう材としては、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系またはAl−Mn系等の合金が使用される。
なお、回路層6と電子部品4との接合には、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu系,Zn−Al系もしくはPb−Sn系等のはんだ材が用いられる。図中符号8がそのはんだ接合層を示す。また、電子部品4と回路層6の端子部との間は、アルミニウム等からなるワイヤ及びリボンボンディング等(図示略)により接続される。
【0020】
また、ヒートシンク5は、平板状のもの、熱間鍛造等によって多数のピン状フィンを一体に形成したもの、押出成形によって相互に平行な帯状フィンを一体に形成したもの等、適宜の形状のものを採用することができる。また、ヒートシンク5と放熱層7との間に、さらにアルミニウム、アルミニウム合金、銅又は銅合金などの金属板で形成された放熱板若しくは応力緩衝層を設けることもできる。
放熱層7とヒートシンク5との間の接合法としては、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系またはAl−Mn系等の合金のろう材によるろう付け法や、Al−Si系のろう材にフラックスを用いたノコロックろう付け法、放熱層およびヒートシンクにNiめっきを施し、Sn−Ag−Cu系、Zn−AlもしくはPb−Sn系等のはんだ材によりはんだ付けする方法が用いられ、あるいは、シリコングリースによって密着させた状態でねじによって機械的に固定される。
【0021】
そして、このように構成されるパワーモジュール用基板3を製造するには、まず、回路層6の接合面6aとセラミックス基板2の表面、及び放熱層7の接合面7aとセラミックス基板2の裏面を、それぞれろう材を挟んで当接させ、これら積層したセラミックス基板2及び回路層6,放熱層7を厚さ方向に1〜5kgf/cmで加圧しながら、615℃以上645℃以下で加熱することにより、真空又は不活性ガス雰囲気下でろう付けする。
次に、このようにして製造されたパワーモジュール用基板3の放熱層7へヒートシンク5を接合する。また、一般的に回路層6へ実装される半導体チップ等の電子部品は、はんだ付けで行われる。そのため、パワーモジュール用基板3とヒートシンク5との接合体は、はんだ濡れ性を向上させるために、その表面に電解又は無電解Ni若しくはNi合金めっきを施した後に、電子部品をはんだ付けする。
【0022】
図1に示すパワーモジュール用基板3のように、セラミックス基板2の一方の面に張出部6cが設けられた回路層6を積層し、セラミック基板2の他方の面に張出部7cが設けられた放熱層7を積層した場合、回路層6と放熱層7との沿面距離を十分に確保することができる。また、回路層6及び放熱層7の張出部6c,7cの外周縁の大きさを、セラミックス基板2の外周縁の大きさと同じか、それよりも小さく設定することにより、回路層6と放熱層7との間の短絡をより確実に防止することができる。
また、張出部6cにより回路層6の体積を増加させ熱容量を増やすことができるので、電子部品4の発熱による温度上昇を抑制することができる。放熱層7においても、張出部7cにより体積を増加させて熱容量を増やすことができるとともに、ヒートシンク5との接合面7aの面積を増やすことができるので、放熱性を高めることができる。したがって、パワーサイクル耐性を向上させることができる。
【0023】
また、セラミックス基板2の両面に回路層6及び放熱層7を積層する際において、加圧面に対して接合面6a,7aの面積が小さいため、加圧荷重が十分に接合面6a,7aに働き、回路層6及び放熱層7と、セラミックス基板2との接合信頼性を向上させることができる。さらに、回路層6及び放熱層7に設けられた張出部6c,7cにより、接合時の余剰ろう材による回路層6の電子部品積層面6b及び放熱層7の主面7bへのろう材の回り込みが抑制され、ろう材付着に起因する表面のシミ発生が防止され、電子部品等の接合性を向上させることができる。
【0024】
なお、回路層6は、板厚t10が1.0mm以上2.0mm以下で、かつ、セラミックス基板2との接合面7aから張出部6cまでの厚さ方向の距離t11が板厚t10の1/4以上1/2以下となるように設定され、放熱層7は、板厚t20が1.0mm以上2.0mm以下で、かつ、セラミックス基板2との接合面7aから張出部7cまでの厚さ方向の距離t21が、板厚t20の2/5以上7/10以下となるように設定されることが好ましい。
このような回路層6及び放熱層7を用いることにより、絶縁性を維持したまま、パワーサイクル耐性を向上させることができる。
【実施例】
【0025】
本発明の効果を確認するために、実施例及び比較例について以下の実験を行った。
(実験1)
回路層及び放熱層ともにアルミニウム純度99.99質量%の金属板を用いた。また、セラミックス基板にはAlNを用い、表1に示す条件でパワーモジュール用基板(試料1〜6)を製造した。試料1〜3のパワーモジュール用基板は、図2(a)に示すように、回路層6のみ張出部6cを有し、放熱層7には張出部が形成されていないものを用いて製造したものである。また、試料4〜6のパワーモジュール用基板は、図2(b)に示すように、放熱層7のみ張出部7cを有し、放熱層6には張出部が形成されていないものを用いて製造したものである。
【0026】
これら試料1〜6は、表1に示すように、回路層6のセラミックス基板2との接合面6aを19mm角に形成し、放熱層7のセラミックス基板2との接合面7aを21mm角に形成した。また、回路層6の張出部6cの突出長さw11を距離t11と同じ大きさに設け、放熱層7の張出部7cの突出長さw21を距離t21と同じ大きさに設けた。
【0027】
そして、回路層6の距離t11又は放熱層7の距離t21の大きさを変更したパワーモジュール用基板を複数作製し、それぞれのパワーモジュール用基板にヒートシンクを接合した後に電子部品を搭載してパワーモジュールを製造し、電子部品への通電時における電子部品上面の最高温度を測定した。図3に、試料ごとにまとめた測定結果を示す。
なお、各試料1〜6のセラミックス基板2には、25mm角で板厚0.635mmのものを用い、ヒートシンク5には、30mm角で板厚1mmのJIS規格A6063のアルミニウム合金の金属板を用いた。
また、表1において、距離t11及び距離t21は、図3のグラフの横軸に示すとおり、セラミックス基板2との接合面6a,7aから張出部6c,7cまでの厚さ方向の距離を変量させたものである。
【0028】
【表1】
【0029】
図3に示すように、パワーモジュール用基板の回路層6又は放熱層7に張出部6c,7cを適切な範囲に設けることにより、放熱性を向上させることができることがわかる
なお、回路層6に張出部6cを設けた試料1〜3では、板厚t10が1.0mm以上2.0mm以下の場合、距離t11が板厚10の1/4以上1/2以下のときに、高い放熱性が得られた。放熱層7に張出部7cを設けた試料4〜6では、板厚t20が1.0mm以上2.0mm以下の場合、距離t21が板厚20の2/5以上7/10以下のときに、高い放熱性が得られた。また、放熱層7に張出部7cを設けた試料4〜6の方が、回路層6に張出部7cを設けた試料1〜3よりも、より高い放熱性が得られることがわかった。
【0030】
(実験2)
回路層及び放熱層ともに、板厚2.0mmでアルミニウム純度99.99質量%の金属板を用いてパワーモジュール用基板(試料21,22)を製造した。これら試料21,22は、共に回路層6のセラミックス基板2との接合面6aを19mm角に形成し、放熱層7のセラミックス基板2との接合面7aを21mm角に形成した。
試料21のパワーモジュール用基板は、図2(a)に示すように、回路層6のみ張出部6cを有するものである。また、試料22のパワーモジュール用基板は、図2(b)に示すように、放熱層7のみ張出部7cを有するものである。
【0031】
試料21においては、回路層6の距離t11を1.2mmとし、張出部6cの突出長さw11の大きさを種々変更したパワーモジュール用基板を複数作製した。また、試料22においては、放熱層7の距離t21を1.2mmとし、張出部7cの突出長さw21の大きさを種々変更したパワーモジュール用基板を複数作製した。そして、それぞれのパワーモジュール用基板にヒートシンクを接合した後に電子部品を搭載してパワーモジュールを製造し、電子部品への通電時における電子部品上面の最高温度を測定した。図4に、試料ごとにまとめた測定結果を示す。
なお、各試料21,22のセラミックス基板2には、25mm角で板厚0.6mmのものを用いており、回路層6の張出部6cは、その突出長さw11が3.0mmを超えると、セラミックス基板2の外周縁より突き出る形となり、放熱層7においては、張出部7cの突出長さw21が2.0mmを超えると、セラミックス基板2の外周縁部より突き出る形となる。
また、ヒートシンク5には、30mm角で板厚1mmのJIS規格A6063のアルミニウム合金の金属板を用いた。
【0032】
図4からわかるように、張出部6cの長さw11及び張出部7cの長さw21は、大きくなる程に放熱性が高くなる。
また、回路層6は、張出部6cがセラミックス基板2の外周縁を超えない大きさである3.0mm以下に設定しても、十分に高い放熱性を得られる。同様に、放熱層7は、張出部7cがセラミックス基板2の外周縁を超えない大きさである2.0mm以下に設定しても、十分に高い放熱性を得られる。このように、IGBTなどのモジュール内で隣接する他のパワーモジュール用基板との間の短絡防止かつ実装密度向上のために、張出部6a,7aの外周縁をセラミックス基板2の外周縁の大きさと同じか、それよりも小さく設定しても、十分な放熱効果を得ることができる。
【0033】
(実験3)
回路層及び放熱層ともにアルミニウム純度99.99質量%の金属板を用い、表2に示す条件でパワーモジュール用基板(試料31〜39)を製造した。このうち試料31,34,37は、回路層6及び放熱層7ともに張出部が形成されていないものを用いて製造した(図5)。また、試料32,35,38のパワーモジュール用基板は、放熱層7のみ張出部7cを形成したものを用いて製造した(図2(b))。試料33,36,39は、回路層6及び放熱層7ともに張出部6c,7cを形成したものを用いて製造した(図1)。
【0034】
これら試料31〜39は、回路層6のセラミックス基板2との接合面6aを19mm角に形成し、放熱層7のセラミックス基板2との接合面7aを21mm角に形成した。また、回路層6又は放熱層7に張出部6c,7cを設けた試料については、回路層6の張出部6cの突出長さw11を距離t11と同じ大きさに設け、放熱層7の張出部7cの突出長さw21を距離t21と同じ大きさに設けた。
なお、試料31〜33は、回路層6の板厚t10及び放熱層7の板厚t20が1.0mm、試料34〜36は板厚t10及び板厚t20が1.6mm、試料37〜39は板厚t10及び板厚t20が2.0mmの金属板を用いて形成した。また、各試料21〜29のセラミックス基板2には、25mm角で板厚0.6mmのものを用い、ヒートシンク5には、30mm角で板厚1mmのJIS規格A6063のアルミニウム合金の金属板を用いた。
【0035】
このように形成した試料31〜39のそれぞれのパワーモジュール用基板に、ヒートシンクを接合した後に電子部品を搭載して、パワーモジュールを製造した。そして、各試料21〜29の電子部品への通電から2秒後の電子部品上面の温度を測定した。表2に測定結果を示す。なお、表2の「電子部品上面の温度差」は、試料31,34,37の温度を基準とした各試料の電子部品上面との温度差を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2からわかるように、少なくとも放熱層7に張出部7cを設けることで、放熱性を向上させることができるが、放熱層7のみ張出部7cを形成した場合(試料32,35,38)よりも、回路層6及び放熱層7ともに張出部6c,7cを形成した場合(試料33,36,39)の方が、より高い放熱性が得られる。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、回路層6及び放熱層7に用いる金属層は、アルミニウム以外にアルミニウム合金、銅又は銅合金も使用可能である。
【0039】
また、セラミックス基板と金属板との接合は、ろう付け以外にもTLP接合法(Transient Liquid Phase Bonding)と称される過渡液相接合法によって接合してもよい。この過渡液相接合法においては、金属板の表面に蒸着させた銅層を、金属板とセラミックス基板及びヒートシンクとの界面に介在させて行う。加熱により、金属板のアルミニウム中に銅が拡散し、金属板の銅層近傍の銅濃度が上昇して融点が低下し、アルミニウムと銅との共晶域にて接合界面に金属液相が形成される。この金属液相が形成された状態で温度を一定に保持しておくと、金属液相がセラミックス基板又はヒートシンクと反応するとともに、銅がさらにアルミニウム中に拡散することに伴い、金属液相中の銅濃度が徐々に低下して融点が上昇し、温度を一定に保持した状態で凝固が進行する。これにより、金属板とセラミックス基板及びヒートシンクとの強固な接合が得られる。
また、セラミックス基板と銅製の金属板とを、活性金属ろう材を用いて接合する方法を採用することもできる。例えば、活性金属であるTiを含む活性金属ろう材(Ag‐27.4質量%Cu‐2.0質量%Ti)を用い、銅製の金属板とセラミックス基板との積層体を加圧した状態のまま真空中で加熱し、活性金属であるTiをセラミックス基板に優先的に拡散させて、Ag‐Cu合金を介して金属板とセラミックス基板とを接合できる。
【0040】
また、ヒートシンクは、平板状のもの、熱間鍛造等によって多数のピン状フィンを一体に形成したもの、押出成形によって相互に平行な帯状フィンを一体に形成したもの等、適宜の形状のものを採用することができる。また、ヒートシンクと放熱層との間にさらにアルミニウム、アルミニウム合金、銅又は銅合金などの金属板で形成された放熱板若しくは応力緩衝層を設けることもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 パワーモジュール
2 セラミックス基板
3 パワーモジュール用基板
4 電子部品
5 ヒートシンク
6 回路層
6a 接合面
6b 電子部品搭載面
6c 張出部
7 放熱層
7a 接合面
7b 主面
7c 張出部
8 はんだ接合層
図1
図2
図3
図4
図5