【実施例】
【0025】
本発明の効果を確認するために、実施例及び比較例について以下の実験を行った。
(実験1)
回路層及び放熱層ともにアルミニウム純度99.99質量%の金属板を用いた。また、セラミックス基板にはAlNを用い、表1に示す条件でパワーモジュール用基板(試料1〜6)を製造した。試料1〜3のパワーモジュール用基板は、
図2(a)に示すように、回路層6のみ張出部6cを有し、放熱層7には張出部が形成されていないものを用いて製造したものである。また、試料4〜6のパワーモジュール用基板は、
図2(b)に示すように、放熱層7のみ張出部7cを有し、放熱層6には張出部が形成されていないものを用いて製造したものである。
【0026】
これら試料1〜6は、表1に示すように、回路層6のセラミックス基板2との接合面6aを19mm角に形成し、放熱層7のセラミックス基板2との接合面7aを21mm角に形成した。また、回路層6の張出部6cの突出長さw11を距離t11と同じ大きさに設け、放熱層7の張出部7cの突出長さw21を距離t21と同じ大きさに設けた。
【0027】
そして、回路層6の距離t11又は放熱層7の距離t21の大きさを変更したパワーモジュール用基板を複数作製し、それぞれのパワーモジュール用基板にヒートシンクを接合した後に電子部品を搭載してパワーモジュールを製造し、電子部品への通電時における電子部品上面の最高温度を測定した。
図3に、試料ごとにまとめた測定結果を示す。
なお、各試料1〜6のセラミックス基板2には、25mm角で板厚0.635mmのものを用い、ヒートシンク5には、30mm角で板厚1mmのJIS規格A6063のアルミニウム合金の金属板を用いた。
また、表1において、距離t11及び距離t21は、
図3のグラフの横軸に示すとおり、セラミックス基板2との接合面6a,7aから張出部6c,7cまでの厚さ方向の距離を変量させたものである。
【0028】
【表1】
【0029】
図3に示すように、パワーモジュール用基板の回路層6又は放熱層7に張出部6c,7cを適切な範囲に設けることにより、放熱性を向上させることができることがわかる
なお、回路層6に張出部6cを設けた試料1〜3では、板厚t10が1.0mm以上2.0mm以下の場合、距離t11が板厚10の1/4以上1/2以下のときに、高い放熱性が得られた。放熱層7に張出部7cを設けた試料4〜6では、板厚t20が1.0mm以上2.0mm以下の場合、距離t21が板厚20の2/5以上7/10以下のときに、高い放熱性が得られた。また、放熱層7に張出部7cを設けた試料4〜6の方が、回路層6に張出部7cを設けた試料1〜3よりも、より高い放熱性が得られることがわかった。
【0030】
(実験2)
回路層及び放熱層ともに、板厚2.0mmでアルミニウム純度99.99質量%の金属板を用いてパワーモジュール用基板(試料21,22)を製造した。これら試料21,22は、共に回路層6のセラミックス基板2との接合面6aを19mm角に形成し、放熱層7のセラミックス基板2との接合面7aを21mm角に形成した。
試料21のパワーモジュール用基板は、
図2(a)に示すように、回路層6のみ張出部6cを有するものである。また、試料22のパワーモジュール用基板は、
図2(b)に示すように、放熱層7のみ張出部7cを有するものである。
【0031】
試料21においては、回路層6の距離t11を1.2mmとし、張出部6cの突出長さw11の大きさを種々変更したパワーモジュール用基板を複数作製した。また、試料22においては、放熱層7の距離t21を1.2mmとし、張出部7cの突出長さw21の大きさを種々変更したパワーモジュール用基板を複数作製した。そして、それぞれのパワーモジュール用基板にヒートシンクを接合した後に電子部品を搭載してパワーモジュールを製造し、電子部品への通電時における電子部品上面の最高温度を測定した。
図4に、試料ごとにまとめた測定結果を示す。
なお、各試料21,22のセラミックス基板2には、25mm角で板厚0.6mmのものを用いており、回路層6の張出部6cは、その突出長さw11が3.0mmを超えると、セラミックス基板2の外周縁より突き出る形となり、放熱層7においては、張出部7cの突出長さw21が2.0mmを超えると、セラミックス基板2の外周縁部より突き出る形となる。
また、ヒートシンク5には、30mm角で板厚1mmのJIS規格A6063のアルミニウム合金の金属板を用いた。
【0032】
図4からわかるように、張出部6cの長さw11及び張出部7cの長さw21は、大きくなる程に放熱性が高くなる。
また、回路層6は、張出部6cがセラミックス基板2の外周縁を超えない大きさである3.0mm以下に設定しても、十分に高い放熱性を得られる。同様に、放熱層7は、張出部7cがセラミックス基板2の外周縁を超えない大きさである2.0mm以下に設定しても、十分に高い放熱性を得られる。このように、IGBTなどのモジュール内で隣接する他のパワーモジュール用基板との間の短絡防止かつ実装密度向上のために、張出部6a,7aの外周縁をセラミックス基板2の外周縁の大きさと同じか、それよりも小さく設定しても、十分な放熱効果を得ることができる。
【0033】
(実験3)
回路層及び放熱層ともにアルミニウム純度99.99質量%の金属板を用い、表2に示す条件でパワーモジュール用基板(試料31〜39)を製造した。このうち試料31,34,37は、回路層6及び放熱層7ともに張出部が形成されていないものを用いて製造した(
図5)。また、試料32,35,38のパワーモジュール用基板は、放熱層7のみ張出部7cを形成したものを用いて製造した(
図2(b))。試料33,36,39は、回路層6及び放熱層7ともに張出部6c,7cを形成したものを用いて製造した(
図1)。
【0034】
これら試料31〜39は、回路層6のセラミックス基板2との接合面6aを19mm角に形成し、放熱層7のセラミックス基板2との接合面7aを21mm角に形成した。また、回路層6又は放熱層7に張出部6c,7cを設けた試料については、回路層6の張出部6cの突出長さw11を距離t11と同じ大きさに設け、放熱層7の張出部7cの突出長さw21を距離t21と同じ大きさに設けた。
なお、試料31〜33は、回路層6の板厚t10及び放熱層7の板厚t20が1.0mm、試料34〜36は板厚t10及び板厚t20が1.6mm、試料37〜39は板厚t10及び板厚t20が2.0mmの金属板を用いて形成した。また、各試料21〜29のセラミックス基板2には、25mm角で板厚0.6mmのものを用い、ヒートシンク5には、30mm角で板厚1mmのJIS規格A6063のアルミニウム合金の金属板を用いた。
【0035】
このように形成した試料31〜39のそれぞれのパワーモジュール用基板に、ヒートシンクを接合した後に電子部品を搭載して、パワーモジュールを製造した。そして、各試料21〜29の電子部品への通電から2秒後の電子部品上面の温度を測定した。表2に測定結果を示す。なお、表2の「電子部品上面の温度差」は、試料31,34,37の温度を基準とした各試料の電子部品上面との温度差を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2からわかるように、少なくとも放熱層7に張出部7cを設けることで、放熱性を向上させることができるが、放熱層7のみ張出部7cを形成した場合(試料32,35,38)よりも、回路層6及び放熱層7ともに張出部6c,7cを形成した場合(試料33,36,39)の方が、より高い放熱性が得られる。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、回路層6及び放熱層7に用いる金属層は、アルミニウム以外にアルミニウム合金、銅又は銅合金も使用可能である。
【0039】
また、セラミックス基板と金属板との接合は、ろう付け以外にもTLP接合法(Transient Liquid Phase Bonding)と称される過渡液相接合法によって接合してもよい。この過渡液相接合法においては、金属板の表面に蒸着させた銅層を、金属板とセラミックス基板及びヒートシンクとの界面に介在させて行う。加熱により、金属板のアルミニウム中に銅が拡散し、金属板の銅層近傍の銅濃度が上昇して融点が低下し、アルミニウムと銅との共晶域にて接合界面に金属液相が形成される。この金属液相が形成された状態で温度を一定に保持しておくと、金属液相がセラミックス基板又はヒートシンクと反応するとともに、銅がさらにアルミニウム中に拡散することに伴い、金属液相中の銅濃度が徐々に低下して融点が上昇し、温度を一定に保持した状態で凝固が進行する。これにより、金属板とセラミックス基板及びヒートシンクとの強固な接合が得られる。
また、セラミックス基板と銅製の金属板とを、活性金属ろう材を用いて接合する方法を採用することもできる。例えば、活性金属であるTiを含む活性金属ろう材(Ag‐27.4質量%Cu‐2.0質量%Ti)を用い、銅製の金属板とセラミックス基板との積層体を加圧した状態のまま真空中で加熱し、活性金属であるTiをセラミックス基板に優先的に拡散させて、Ag‐Cu合金を介して金属板とセラミックス基板とを接合できる。
【0040】
また、ヒートシンクは、平板状のもの、熱間鍛造等によって多数のピン状フィンを一体に形成したもの、押出成形によって相互に平行な帯状フィンを一体に形成したもの等、適宜の形状のものを採用することができる。また、ヒートシンクと放熱層との間にさらにアルミニウム、アルミニウム合金、銅又は銅合金などの金属板で形成された放熱板若しくは応力緩衝層を設けることもできる。