特許第5957870号(P5957870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5957870難燃性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957870
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】難燃性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20160714BHJP
   C08K 3/02 20060101ALI20160714BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160714BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08K3/02
   C08K3/22
   C08L27/18
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-277804(P2011-277804)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-129685(P2013-129685A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
(72)【発明者】
【氏名】中川 知英
(72)【発明者】
【氏名】南部 喜代治
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−002943(JP,A)
【文献】 特開2003−040609(JP,A)
【文献】 特開2009−074019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/16
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、赤リン1〜30質量部、酸化マグネシウム0.1〜10質量部及びフッ素系樹脂0.05〜5質量部を含有する難燃性熱可塑性樹脂組成物であり、前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂であり、前記酸化マグネシウムのBET比表面積が、10(m/g)以上、50(m/g)以下であり、該難燃性熱可塑性樹脂組成物をシリンダー温度295℃で射出成形して得られた平板(100mm×100mm×2mmt)中の遊離のリン酸の含有量が2ppm以下であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
赤リン1g当りの酸化マグネシウムの総BET比表面積(m/g)が、8(m/g)以上となるように前記の酸化マグネシウムを含有する請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
赤リンを難燃剤として含有する難燃性ポリアミド樹脂組成物を成形するに際し、BET比表面積が10(m/g)以上、50(m/g)以下の酸化マグネシウムとフッ素系樹脂を含有させ、成形中に生成する遊離リン酸を捕捉することを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤リンを難燃剤として含有する難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂の難燃剤としてリン系難燃剤やハロゲン系難燃剤が使用されているが、これらの難燃剤を用いた電気・電子部品などの分野の成形品において、金属端子、金属接点などの腐蝕が問題になることがある。この原因は、例えば、臭素化ポリスチレンでは遊離の水素化ハロゲン化合物、赤リンでは遊離のリン酸によるものと考えられる。
金属の腐蝕を防止する方法として、アルカリ性化合物を添加する方法が提案されている(特許文献1)。該文献中では、ハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤で難燃化された熱可塑性樹脂に水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ性化合物を添加することで樹脂のpHをアルカリ性とすることにより腐蝕を防止出来ることが開示されている。しかしながら、水酸化ナトリウムは実作業での取り扱い性に難点があり、炭酸ナトリウムはブリードしやすい欠点がある。また、これらのアルカリ性化合物を含有させて組成物のpHが10を超える場合、赤リン自体の加水分解をも促進して難燃性が不安定になりやすい欠点がある。酸化マグネシウムでも、290℃を超える高温での成形や成形時の滞留時間が長くなる場合に、リン酸が生成して腐蝕防止効果が著しく損なわれ、安定して腐蝕防止効果が得られないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−145412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、赤リンを難燃剤とする樹脂組成物の成形品が金属接点などの金属を腐蝕するトラブルを防止しようとするものであり、成形中に遊離のリン酸が生成しても効率的にリン酸を捕捉・中和でき、成形品中に含有する遊離のリン酸の含有量を低減することができる難燃性樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上述の問題を解決するため鋭意研究をかさねた結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、
(1)熱可塑性樹脂100質量部に対して、赤リン1〜30質量部、酸化マグネシウム0.1〜10質量部及びフッ素系樹脂0.05〜5質量部を含有する難燃性熱可塑性樹脂組成物であり、該難燃性熱可塑性樹脂組成物をシリンダー温度295℃で射出成形して得られた平板(100mm×100mm×2mmt)中の遊離のリン酸の含有量が2ppm以下であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(2)酸化マグネシウムのBET比表面積が、10(m/g)以上である(1)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(3)赤リン1g当りの酸化マグネシウムの総BET比表面積(m/g)が、8(m/g)以上となるように前記の酸化マグネシウムを含有する(1)又は(2)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(4)熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、ポリスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも一種である(1)〜(3)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(5)赤リンを難燃剤として含有する難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形するに際し、BET比表面積が10(m/g)以上の酸化マグネシウムとフッ素系樹脂を含有させ、成形中に生成する遊離リン酸を捕捉することを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、赤リンを熱可塑性樹脂中に混練する際や、赤リンを含有する組成物の成形中に、赤リンが加水分解して生成するリン酸を効率的に捕捉・中和することができるため、290℃を超える高温成形で滞留時間が長くなっても、成形品中の遊離リン酸含有量の増加を抑制することができ、安定して金属腐蝕性を抑制した成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明における熱可塑性樹脂とは、樹脂の融点か軟化点温度以上の温度で、低くとも290℃に加熱溶融させても樹脂が特に目立った熱分解などを引き起こさず、射出成形が可能な樹脂であれば限定されず、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、エチレン/プロピレン樹脂、エチレン/1−ブテン樹脂、エチレン/プロピレン/非共役ジエン樹脂、エチレン/アクリル酸エチル樹脂、エチレン/メタクリル酸グリシジル樹脂、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル樹脂、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル樹脂、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸樹脂などのエチレンやα−オレフィンの共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリウレタン、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー、ポリエステルポリカーボネート等のポリエステルブロック共重合体、あるいはこれら熱可塑性樹脂の2種以上の混合物が挙げられるが、特に、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、スチレン系樹脂が好ましい。
【0008】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリアミド樹脂としては、例えば、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリ−ラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリ−11−アミノウンデカン酸(ナイロン11)等の脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)(以下MXD・6と略す)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)(以下6Tと略す)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)(以下6Iと略す)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(以下9Tと略す)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)(以下4Iと略す)などの脂肪族−芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体や混合物を挙げることができる。特に本発明に好適なポリアミドとしてはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド66/6T、ポリアミド6T/12共重合体、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/6I/12、ポリアミド6T/610、ポリアミド6T/6I/6を挙げることができる。
【0009】
このようなポリアミド樹脂の分子量は特に制限はないが、98%硫酸中、濃度1%、25℃で測定する相対粘度が1.70〜4.50を使用することができるが、好ましくは、2.00〜4.00、特に好ましくは2.00〜3.50である。
【0010】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸とグリコールの重縮合物、環状ラクトンの開環重合物、ヒドロキシカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とグリコールの重縮合物などが挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4、4’−ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4、4’−ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレートなどの共重合体や混合物を挙げることができる。特に本発明に好適なポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0011】
このようなポリエステル樹脂の分子量は特に制限はないが、通常フェノール/テトラクロロエタン1:1の混合溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が0.10〜3.00dl/gを使用することができるが、好ましくは、0.25〜2.50dl/g、特に好ましくは0.40〜2.25dl/gである。
【0012】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリエステルブロック共重合体としては、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、脂肪族ポリエーテル単位、脂肪族ポリエステル単位、脂肪族ポリカーボネート単位の少なくとも1種からなる低融点重合体セグメント(b)を主たる構成成分とするブロック共重合体である。
ポリエステルブロック共重合体の高融点結晶性重合体セグメント(a)は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールから形成されるポリエステルであり、好ましくはテレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートであるが、この他に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−タ−フェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クウォ−タ−フェニルなどの芳香族ジオールなどから誘導されるポリエステル、あるいはこれらのジカルボン酸成分およびジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであっても良い。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分および多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
【0013】
ポリエステルブロック共重合体の低融点重合体セグメント(b)は、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートのうちの少なくとも1種である。
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。脂肪族ポリカーボネートとしては、ジヒドロキシ化合物として炭素数が4〜36程度までの直鎖状または側鎖を有するアルキルジオールを用いて得られた脂肪族ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
これらの脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートのなかで得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性からポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、1,6−ヘキサンジオールタイプのポリカーボネートなどが好ましい。また、これらの低融点重合体セグメントの数平均分子量としては共重合された状態において、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステルでは300〜6000程度、脂肪族ポリカーボネートでは3000〜60000程度であることが好ましい。
【0014】
ポリエステルブロック共重合体における高融点結晶性重合体セグメント(a)の共重合量は90〜10重量%、低融点重合体セグメント(b)の共重合量は10〜90重量%である。高融点結晶性重合体セグメント(a)の共重合量が10重量%未満であると、結晶性が不十分となり成形性や耐熱性が悪くなる。
【0015】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、ゴム変性スチレン系樹脂、ゴム変性スチレン系樹脂とポリフェニレンエーテルとのポリマーブレンド体などが挙げられる。
ここでゴム変性スチレン系樹脂とは、ビニル芳香族系重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が微粒子状に分散してなるグラフト重合体をいい、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル単量体および必要に応じ、これと共重合可能なビニル単量体を加えて単量体混合物を公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、または乳化重合することにより得られる。
このようなゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AAS(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0016】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤として赤リンを含有する。赤リンとしては、一般的に用いられている赤リン系難燃剤でよいが、赤リン表面を熱硬化性樹脂、金属水酸化物、および金属メッキなどで表面被覆した安定化赤リンが好ましい。
被覆剤の熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノール−ホルマリン系樹脂、尿素−ホルマリン系樹脂、メラミン−ホルマリン系樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。被覆剤の金属水酸化物の具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化チタン、水酸化ジルコニウムなどが挙げられる。更に無電解メッキにより金属メッキ被覆したものでもよい。
また、赤リンは、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂など、赤リンで難燃化される熱可塑性樹脂に類似した熱可塑性樹脂でマスター化して配合することが好ましい。
赤リンの熱可塑性樹脂に対する配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜30質量部配合するのが良い。1質量部未満では難燃性が不充分であり、30質量部を超えると成形品の機械的物性が低下するので好ましくない。赤リンの熱可塑性樹脂に対する配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜15質量部がより好ましく、3〜10質量部がさらに好ましい。
【0017】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物中に含有する酸化マグネシウムとしては、天然品及び合成品のいずれも使用できるが、海水法により得られる純度が高く、比表面積が大きい軽焼マグネシアが好ましい。
酸化マグネシウムのBET比表面積(m/g)としては、10(m/g)以上のものが好ましい。BET比表面積(m/g)はより好ましくは、20(m/g)以上、特に好ましくは40(m/g)以上であり、BET比表面積が大きいほどより少ない配合量で効果を発揮させることができる。BET比表面積の上限は特に限定されないが、200(m/g)程度までが入手しやすいので好ましい。
酸化マグネシウムの平均粒子径は、0.1〜10μm程度のものが使用できるが、0.5〜6μm程度が好ましく、平均粒子径が小さくなりすぎると、酸化マグネシウムが加水分解して、その多くがリン酸の捕捉効率が低い水酸化マグネシウムに変化しやすくなる。
また、酸化マグネシウムは、粒子表面が脂肪酸、脂肪酸金属塩、シラン化合物、エポキシ化合物等で被覆されていても使用可能であるが、被覆されていないものが好ましい。
【0018】
酸化マグネシウムの含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜8質量部、より好ましくは0.7〜7質量部、さらに好ましくは1〜5質量部である。含有量が0.1質量部未満ではリン酸の捕捉効果が乏しくなり、10質量部を超えると機械物性の低下が大きくなる。
酸化マグネシウムの含有量は、赤リン1g当りの酸化マグネシウムの総BET比表面積が8(m/g)以上となるように含有させることが好ましい。より好ましくは13(m/g)以上、さらに好ましくは20(m/g)以上である。
赤リン1g当りの酸化マグネシウムの総BET比表面積が8(m/g)未満であると、リン酸含有量が低くなりにくい。
なお、「赤リン1g当りの酸化マグネシウムの総BET比表面積」とは、難燃性熱可塑性樹脂組成物中の、「酸化マグネシウムのBET比表面積」×「酸化マグネシウムの質量%」÷「赤リンの質量%」で算出できる。
【0019】
本発明で用いるフッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロポリプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、(ヘキサフルオロポリプロピレン/プロピレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライド、(ビニリデンフルオライド/エチレン)共重合体、などが挙げられるが、中でもポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体が好ましい。該フッ素系樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.05〜5質量部であり、好ましくは0.1〜3質量部、より好ましくは0.2〜1質量部配合するのがよい。
【0020】
本発明におけるフッ素系樹脂は、理由は不明であるが、酸化マグネシウムと共存すると、コンパウンド時や成形時に生成するリン酸が酸化マグネシウムに捕捉されるのを促進し、成形品中の遊離リン酸の含有量を低減しやすくなるものと考えられる。
【0021】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、赤リンを含有しても、酸化マグネシウムとフッ素系樹脂との作用によって、シリンダー温度295℃、金型温度80℃の条件で射出成形して得られた平板(100mm×100mm×2mmt)中の遊離のリン酸の含有量を容易に2ppm以下とすることができる。
難燃性熱可塑性樹脂組成物は、成形に先立って水分率が0.08質量%以下となるように乾燥させてから成形に供する。
射出成形機は東芝機械社IS−100を用い、シリンダー295℃に設定し(計量45mm、射出圧力90%、射出速度30%、保圧20%、保圧速度10%、射出時間8秒、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で成形し、射出成形開始後の3ショット目(連続成形)の平板(100mm×100mm×2mmt)をリン酸の含有量測定用試料とする。
なお、停台試験(滞留時間延長試験)の場合は、上記の成形条件で1分間停台(溶融滞留)させて1ショット成形することを3回繰り返し、3ショット目の平板(100mm×100mm×2mmt)をリン酸の含有量測定用試料とする。
リン酸の含有量測定は実施例の欄に記載した方法によって測定する。
【0022】
本発明における平板(100mm×100mm×2mmt)中の遊離のリン酸の含有量は、好ましくは1.5ppm以下、より好ましくは1.0ppm以下、さらに好ましくは0.5ppm以下である。
【0023】
本発明における特定の酸化マグネシウムは、赤リンを熱可塑性樹脂中に混練する際や赤リンを含有する組成物の成形中に赤リンが加水分解して生成するリン酸を効率的に捕捉・中和することができるため、290℃を超える高温成形で滞留時間が長くなっても、成形品中の遊離リン酸含有量の増加を抑制することができ、遊離リン酸含有量を2ppm以下、好ましくは1ppm以下、特に好ましくは0.5ppm以下にも低減することができ、安定して金属腐蝕性を抑制した成形品を提供することができる。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物はさらに、充填材を添加することにより強度、剛性、耐熱性などを大幅に向上させることができる。このような充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラストナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンおよび酸化アルミニウムなどが挙げられ、なかでもチョップドストランドタイプのガラス繊維が好ましく用いられる。
これらの添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜140質量部が好ましく、特に好ましくは5〜100質量部である。
【0025】
また、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物に対して、本発明の目的を損なわない範囲でヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系酸化防止剤などの酸化防止剤や熱安定剤、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤、着色防止剤(亜リン酸塩、次亜リン酸塩など)、核剤、可塑剤、帯電防止剤、および染料・顔料を含む着色剤などの通常の添加剤を1種以上を熱可塑性樹脂100質量部に対して5質量部程度まで添加することができる。
【0026】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、特に制限されるものではなく、任意の方法で行われる。例えば全成分を予備混合した後、押出機やニーダ中で混練する方法や、予め任意の数成分を押出機やニーダ中で混練して得たペレットに、更に他の成分を混練配合する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によった。
【0028】
(1)BET比表面積:JIS Z8830(N吸着法)に準じて測定した。
【0029】
(2)引張強度、引張弾性率:ISO−178に準じて測定した。
【0030】
(3)遊離リン酸濃度:下記の手順で作製した試験片を用い、下記イ〜ハの手順にて遊離リン酸濃度を測定した。
(試験片作製)
射出成形機は東芝機械社IS−100を用い、シリンダー295℃に設定し、計量45mm、射出圧力90%、射出速度30%、保圧20%、保圧速度10%、射出時間8秒、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で成形し、射出成形開始後の3ショット目(連続成形)の平板(100mm×100mm×2mmt)をリン酸の含有量測定用試料とした。停台試験(滞留時間延長試験)の場合は、上記の成形条件で1分間停台(溶融滞留)させて1ショット成形することを3回繰り返し、3ショット目の平板(100mm×100mm×2mmt)をリン酸の含有量測定用試料とした。
イ.サンプル瓶に、得られた組成物から成る成形品1gを秤量後、10mlの蒸留水に浸漬させる。
ロ.蒸留水に浸漬させている成形品を80℃×24時間処理し、遊離リン酸を抽出する。
ハ.ロ.で得られた水を、モリブデンブルー法によって定量する。
【0031】
(4)難燃性:UL規格に準じて、2.5mm厚の成形品を作成し、難燃性を評価した。
【0032】
(5)金属腐蝕防止性:評価用試験片(20mm×20mm×2mmt平板)の上に銅板(10mm×10mm×1mmt平板)を載せた状態で三角フラスコの底に置き、三角フラスコの口をアルミホイルで塞ぎ、150℃のオーブン中に静置した。336時間後に試験片と銅板を取り出し、銅板の腐蝕状態を目視観察し、下記の評価をした。
○:腐蝕なし、 △:変色、光沢変化が認められる、 ×:腐蝕あり。
【0033】
なお、機械物性、各種成形や測定用いた熱可塑性樹脂組成物は、水分の混入による変動を防止するために、水分率を0.08質量%以下となる様に乾燥して用いた。水分率の測定は、カールフィッシャー式水分率計、三菱化学社製、CA−100型を用いて、200℃にて水分率を測定した。
【0034】
実施例、比較例で使用した原材料は以下のとおりである。
(1)ポリアミド樹脂
相対粘度RV=1.9のポリアミド6、東洋紡績社製 グラマイド T−860
(2)赤リン
燐化学工業社製 ノーバエクセル150
(3)ガラス繊維
日本電気硝子社製 T−297K
(4)酸化マグネシウム
神島化学工業社製 スターマグP BET比表面積10m/g、平均粒子径3.5μm
神島化学工業社製 スターマグL BET比表面積25m/g、平均粒子径3.5μm
神島化学工業社製 スターマグM BET比表面積50m/g、平均粒子径3.5μm
神島化学工業社製 スターマグU BET比表面積145m/g、平均粒子径3.5μm
(5)水酸化マグネシウム
神島化学工業社製 #200 BET比表面積35m/g、平均粒子径3.5μm
(6)ハイドロタルサイト
協和化学社製 DHT−4A、平均粒径0.4μm
(7)炭酸ナトリウム
和研薬社製 炭酸ナトリウム 純度99.5%
(8)ポリテトラフルオロエチレン
ダイキン工業社製 ポリフロンMPA FA−500C
【0035】
実施例1〜4(実施例4は参考例である)、比較例1〜5
熱可塑性樹脂組成物は、上記の原材料をそれぞれを二軸押出機(コペリオン社製STS35)を用いて表1に記載の割合で配合し、溶融混練してペレット(直径約2.5mm×長さ約2.5mm)を得た。得られたペレットの評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例1〜4は酸化マグネシウムの添加効果が充分に発現された結果、遊離リン酸濃度が1ppm以下と著しく低い値となり、耐腐蝕性の向上が認められる。
比較例1はアルカリ性物質及びフッ素系樹脂の添加が無く、遊離リン酸濃度は極めて高く、腐蝕が著しい。
比較例2のハイドロタルサイト、比較例3の水酸化マグネシウムは、それなりに遊離リン酸の低減効果が認められるが酸化マグネシウムと比べると充分ではない。比較例4の炭酸ナトリウムは酸化マグネシウムに近い効果が認められるが、成形時の停台などで滞留時間が長くなると、遊離リン酸の含有量が増加してしまう。比較例5のフッ素系樹脂を含有しない場合は、遊離リン酸の含有量が増加してしまう。
【0038】
以上のように、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、赤リンで難燃化されて295℃もの高温で成形すると通常なら多量の遊離リン酸を生成してしまうような成形条件であっても、成形品中の遊離リン酸の含有量を極めて微量とすることができる。このことにより、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、安定して金属腐蝕性を抑制した成形品を提供することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂成物は、電気・電子製品のハウジング、ケーシング、電気・電子部品、さらには金属と接触し得る用途であっても利用が可能である。