特許第5957912号(P5957912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957912
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具の処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-18629(P2012-18629)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-154064(P2013-154064A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】横田 哲
(72)【発明者】
【氏名】長坂 信司
(72)【発明者】
【氏名】久田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】砂田 力
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−339405(JP,A)
【文献】 特開平01−262111(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0256651(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
B29C 71/02 − B29C 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成型品からなる挿入部を有する眼内レンズ挿入器具の処理方法において、
前記挿入部に添加されている所定の添加物を加温処理により析出させる第1工程と、
眼内レンズへの前記所定の添加物の付着を抑制するために、該第1工程にて前記挿入部の内壁に析出された前記添加物を除去する第2工程と、
を含むことを特徴とする眼内レンズ挿入器具の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の眼内レンズ挿入器具の処理方法において、
前記第2工程で前記添加物が除去された後に前記挿入部の内壁に水溶性高分子を塗布し乾燥させて前記水溶性高分子によるコーティング層を形成させる第3工程と、
を含むことを特徴とする眼内レンズ挿入器具の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズを眼内に挿入するための眼内レンズ挿入器具の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術で摘出された水晶体の代替として眼内に取り付けられる折り曲げ可能な眼内レンズは、眼内レンズ挿入器具(以下、インジェクターと記す)で小さく折り畳まれて眼内に挿入される。このようなインジェクターにおいては、使い捨て可能なようにポリプロピレン等の樹脂材料を用いて射出成形等により形成されるインジェクターが知られている。なお、このような樹脂材料には成形されたインジェクターを型から離れ易くするためや、汚れの付着を抑えるため等の目的で予め離型剤(滑剤)や帯電防止剤等の添加物が微量に含まれている。
【0003】
一方、このような離型剤等の添加物を樹脂材料に積極的に予め混入させ、インジェクターの内壁から析出させることで、眼内レンズが送出される際の滑性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしこの方法では、送出時に眼内レンズに添加物が付着した状態で眼内に挿入されてしまうことになる。そこでインジェクターに添加物を故意に混入させずに、内壁にコーティング処理を施すことで滑性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004‐339405号公報
【特許文献2】特開2006‐197994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、樹脂材料に故意に添加物を混入させない場合でも、樹脂成型品用の樹脂材料には、通常微量な添加物が含まれており、温度変化、湿度変化等の影響によって、析出されることが分かった。その為、特許文献2に示される技術でも、微量の添加物が析出し眼内レンズに付着される場合がある。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、樹脂に含まれている添加物が眼内レンズへ付着することを抑制し、好適に射出できる眼内レンズ挿入器具の処理方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 樹脂成型品からなる挿入部を有する眼内レンズ挿入器具の処理方法において、前記挿入部に添加されている所定の添加物を加温処理により析出させる第1工程と、眼内レンズへの前記所定の添加物の付着を抑制するために、該第1工程にて前記挿入部の内壁に析出された前記添加物を除去する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂に含まれている添加物が眼内レンズへ付着することを抑制し、好適に射出できる眼内レンズ挿入器具の処理方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する。図1は眼内レンズ挿入器具(以下、インジェクターと記す)1の外観図、図2はインジェクター1を押出軸に沿って切断して側面から見た断面図である。図3は眼内レンズ2の正面図である。
【0011】
インジェクター1は、挿入部10及び載置部20を先端側に備える筒部本体30と、筒部本体30の基端側に進退移動可能に設けられた押出部材(以下、プランジャーと記す)40から構成される。挿入部10はその先端に向かい通路の内径が徐々に小さく(細く)なる領域(内壁形状)を有する中空の筒形状をしており、その先端11には眼内レンズ2を外部に送出するための切欠き(ベベル)が形成されている。挿入部10の基端に設けられる載置部20には眼内レンズが載置される。載置部20に置かれた眼内レンズ2にプランジャー40からの押圧が加えられると、眼内レンズ2は挿入部10の内壁に沿って小さく折り畳まれて先端11から外部(眼内)に送出される。以上のような構成のインジェクター1は樹脂材料によるモールド成形で形成される。
なおここでは、インジェクター1全体が樹脂成形された使い捨て(ディスポーサブル)タイプのインジェクター1の例を示しているが、樹脂成形されたカートリッジ(挿入部10及び載置部20)を本体30に対して取り付け可能とするタイプのインジェクターにおいて、使い捨てされるカートリッジに対しても本発明が適用可能である。
【0012】
眼内レンズ2は、光学部2aと一対の支持部2bとが柔軟な素材で一体成形されたワンピースタイプの眼内レンズとする(図3参照)。ワンピースタイプの眼内レンズは、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体や、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等、従来から知られている折り曲げ可能な軟性の眼内レンズ材料で形成される。これ以外にも、眼内レンズ2にはインジェクター1aを用いて折り曲げ可能な周知のものが使用される。例えば、光学部と一対の支持部とを別部材で形成した後一体化される3ピースタイプの眼内レンズ、プレートタイプの眼内レンズ等であっても良い。
【0013】
次にインジェクター10の製造工程を説明する。図4は眼内レンズ挿入器具の製造工程のフローチャートである。まず第1工程101でインジェクター10本体が形成される。樹脂を用いた射出成形でインジェクター10を構成する上記の各部品が形成された後、射出成形された各部品が接合又は組合せられることでインジェクター10が形作られる。なおインジェクター10を形成する樹脂には離型性及び帯電防止性を考慮して予め微量の添加物が含まれている。
【0014】
例えば、樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、またはこれらの共重合体からなるポリアルケン系樹脂、又は、ポリカーボネート樹脂等の周知の熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂に含まれる添加物には、モノオレイン酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、モノラウリン酸グリセロール、モノリグノセリン酸グリセロール、モノモンタン酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール等のカルボン酸のグリセロールエステル。エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド等、射出成形で形成される基材が離型性、帯電防止性を有するために適した添加物が挙げられる。
【0015】
インジェクター10を構成する樹脂材料に添加物が微量に含まれていると、経時的な温度変化又は湿度変化などの影響で、添加物がインジェクター10表面に徐々に析出してしまうことが分かった。添加物が析出された状態にあるインジェクター10を用いて眼内レンズ2を押し出そうとすると、添加物が眼内レンズ2に視認される状態で付着されてしまう場合がある。
【0016】
そこで第2工程(第1加温処理)102では、インジェクター10(本体30)に混入されている添加物を故意に析出させるため、インジェクター10を加温して所定期間保持させる。なお第1加温処理102の温度は室温よりも高い温度に設定されるとする。例えば、第1加温処理102の周囲温度は40℃以上に設定される。より好ましくは50℃以上65度以下の温度に設定される。第1加温処理の温度が室温(例えば40℃)未満であると、インジェクター10を構成する樹脂材料から添加物が外部に析出されにくくなり、樹脂材料中に添加物が残され易くなる。一方、第1加温処理の温度が65℃(融点)よりも高いと、樹脂材料中で添加物が溶融されて外部に析出されにくくなるおそれがある。
【0017】
また第1加温処理の期間は、例えば10日以上1ヶ月(4週間)以下とする。より好ましくは14日以上1ヶ月以下とする。第1加温処理の期間が10日間よりも短いと、添加物が十分に析出されずに樹脂材料中に残り易くなる。一方、第1加温処理の期間が1ヶ月よりも長いと、樹脂材料に混入した添加物の析出量が飽和してからも更に加温が続けられることになり、インジェクター10の製造期間が長くなる不利益が生じる。
【0018】
なお、このような第1加温処理の温度及び期間は、樹脂材料及び添加物の種類や組み合わせで決定されれば良い。つまり第1加温処理の温度は樹脂材料が変形されること無く添加物が析出される温度に設定されれば良い。また第1加温処理の期間は、樹脂材料に含まれる添加物の析出量が飽和される期間に設定されれば良い。
なお、このような加温処理は周知の恒温オーブン等が用いられる。
【0019】
第2工程102の第1加温処理で、樹脂材料に混入されている添加物の多くがインジェクター10表面に析出されることで、樹脂材料中の予め含まれていた添加物が出来るだけ外部に排出される。これによりインジェクター10を長期間保管する際に、温度や湿度の変化の影響を受けにくくなり、添加物が外部に析出され難くなる。また後述のコーティング処理によってもインジェクター10表面に添加物が現れにくくなる。
【0020】
次の第3工程(洗浄処理)103では、第2工程102でインジェクター10表面に析出された添加物を取り除く。具体的には、周知の超音波洗浄器等を用いて析出した添加物をインジェクター10表面(内壁)から洗い流す。なお洗浄は、第2工程でインジェクター10表面から析出された添加物が十分に除去される条件及び時間で行われる。また第3工程103は、洗浄以外にもインジェクター10の内壁に蓄積された添加物が除去される方法にて行われれば良く、例えばインジェクター10表面(内壁)に圧縮空気等を吹き付けること等により添加物を除去しても良い。
【0021】
次に、第4工程(コーティング処理)104では、インジェクター10(挿入部20)の内壁にコーティング層を形成する。コーティングに使用される材料は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、カルボキシメチルセルロース、デキストラン硫酸ナトリウム、ポリリン酸、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、ヒアルロン酸ナトリウム等の多糖類、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリペプチド等の水溶性高分子材料が挙げら得る。
【0022】
コーティング処理は、挿入部20をコーティング液に浸した状態で、周知の恒温オーブンに入れて所定温度(例えば、60℃)で一定時間(例えば、10分間)保持させることで行う。
なおコーティング処理の前に、周知のプラズマ処理で挿入部20の内壁の表面状態を粗く加工しても良い。このようにするとインジェクター10(挿入部20)内により好適にコーティング層が結合される。
【0023】
なお本実施形態では、上記の第2工程でインジェクター10(挿入部20)内部に混入されていた添加物の多くが排出されるので、第4工程でコーティング処理がされたとしてもインジェクター10表面(内壁)から添加物が析出され難くなっている。つまり、従来技術ではコーティング処理によって樹脂材料に含まれる添加物の析出が促される場合があったが、本発明では第1加温処理で樹脂材料に含まれる添加物の絶対量が減らされているので、仮に添加物が析出されやすい状態で保管されていたとしても、インジェクター10の内壁に添加物が析出されることなく安定して保管されるようになる。
【0024】
その後、第5工程で滅菌処理が行われる。滅菌処理は、所定温度に保たれた滅菌ガスの雰囲気下でインジェクター10を所定時間保持させて行う。なお、滅菌処理に用いられる滅菌ガスには、エチレンオキサイドガス等、周知のものが使用される。
【0025】
次に第6工程(第2加温処理)で、インジェクター10の表面を再度加温させる。なお第2加温処理では、インジェクター10の表面温度が、添加物が溶融される程度の温度となるように周囲温度を設定し、添加物が完全に溶融するのに必要な時間だけ保持させる。例えば、インジェクター10(挿入部20)の表面温度が70℃以上100℃以下となるように周囲温度を設定し、15分以上60分以下の期間保持する。なおインジェクター10の表面温度が70℃よりも低いと添加物が溶融され難くなる。一方、温度が100℃よりも高いと60分程度の加温で樹脂材料自体に変形が生じる可能性が高くなってしまう。同様に処理時間が15分よりも短いと添加物が溶融され難くなり、60分よりも長いとインジェクター10に意図しない変形などが発生する可能性が高くなってしまう。
【0026】
再度インジェクター10を加温して微量に残された添加物を溶融させることで、第2工程(第1加温処理)で樹脂材料中に微量に残された添加物がインジェクター10表面(内壁)に析出されることが更に抑えられる。また、仮に第3工程の洗浄にてインジェクター表面に微量の添加物が残されていたとしても溶融によって眼内レンズ2への付着が更に抑えられるようになる。
これによりインジェクター10の表面に添加物が析出されない状態を、長期間に渡りより好適に維持することができるようになる。
【0027】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
(実施例)
インジェクターの挿入部を形成するための樹脂として微量の添加物が混入されたポリプロピレン(なお、添加物としては、モノステアリン酸グリセロールが100〜3000ppm程度含有されていることが想定された)を使用し、金型を用いて射出成形により挿入部を形成した。その後、第1加温処理でインジェクターを恒温送風オーブン(ヤマト科学(株)製、DN600)に入れ、温度60℃で1ヶ月間保持し、インジェクター(挿入部)の内部の添加物を析出させた。その後の洗浄工程で、外部に析出された添加物を洗い流した。これによりインジェクター(挿入部)の表面に添加剤が無いことが確認された。
そして、水溶性高分子材料としてヒアルロン酸ナトリウムを超純水に溶かして0.5重量%のコーティング液を作った。コーティング処理は、挿入部内をコーティング液で浸した状態で、恒温送風オーブン(ヤマト科学(株)製、DN600)に入れ、挿入部の内壁面にコーティング層を物理的に固定させた。
挿入部にコーティング層が形成されたインジェクターを滅菌処理(ガス滅菌)した後、インジェクターを製品梱包した状態で、上記と同じ恒温オーブンを使用して、第2加温処理として、インジェクター(挿入部)の表面温度が100℃程度となるように設定し、15分間の加温処理を行い残された添加物を溶融させた。
そして、以上のような一連の表面処理が行われたインジェクターを用いて眼内レンズの射出を行い、眼内レンズへの添加物(析出物)の付着の有無を観察した(析出物付着評価)。なお、眼内レンズには、折り曲げ可能なアクリル製(度数25D)のものを使用した。
【0028】
析出物付着評価は、シャーレ内を眼内レンズが隠れる程度の超純水で満たし、射出後の眼内レンズの後面(インジェクター内壁面と擦れ合った面)が上側となるようにシャーレに入れた。そして、光学顕微鏡((株)ニコン製、SMZ−1500)を用いて倍率15倍で表面観察を行った。また画像処理による輝度分布から添加物の割合(面積)を求めた。なお眼内レンズの射出は、製造直後から9ヶ月経過後まで約1ヶ月単位で行い、眼内レンズへの付着物の経時的な変化を観察した。
【0029】
図5に実施例のインジェクターを用いて眼内レンズを射出した場合に、眼内レンズに付着された添加物量の経時変化のグラフを示す。ここで横軸は経過時間(実置き月数)、縦軸は付着された添加物の面積値(mm2)である。
図5に示されるように、実施例のインジェクターでは経時変化に伴う眼内レンズへの添加物の付着量の増加は確認されず、添加物の析出が長期間に渡り好適に抑えられることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】インジェクターの外観図である。
図2】インジェクターの断面図である。
図3】眼内レンズの正面図である。
図4】眼内レンズ挿入器具の製造工程のフローチャートである。
図5】実施例のインジェクターを用いた実験結果である。
【符号の説明】
【0031】
2 眼内レンズ
10 挿入部
20 載置部
30 筒部本体
40 プランジャー
図1
図2
図3
図4
図5