(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アニオン性ポリマー(x1)が、ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩、(メタ)アクリル酸およびその塩を主成分とする共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の二次電池用電極端子。
前記カチオン性ポリマー(y1)が、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーとからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフトさせた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンおよびその誘導体、アミノフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか一項に記載の二次電池用電極端子。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の二次電池用電極端子は、ポリオレフィン系樹脂層上に少なくとも金属層が積層した多層シートの一対を、各多層シートの前記ポリオレフィン系樹脂層が対向するように配置し外縁部を加圧熱溶着してなるか、または一つの前記多層シートを前記ポリオレフィン系樹脂層が対向するように折り返し外縁部を加圧熱溶着してなる包装材(以下、二次電池用包装材という。)の内部に、少なくとも正極、負極および電解質が封入され、前記正極または負極に接続される金属端子および前記金属端子の表面に形成された耐食保護層を備える電極端子が、前記二次電池用包装材の対向するポリオレフィン系樹脂層の間に挟持され加圧熱溶着された二次電池に用いられるものであり、耐食保護層が特定の層を有することを特徴とする。具体的には、耐食保護層は、第一の態様においては下記の層(A)と、層(X)および層(Y)のいずれか一方または両方とを有し、第二の態様においては下記の層(M)を有し、第三の態様においては下記の層(M)と、層(X)および層(Y)のいずれか一方または両方とを有する。
層(A):下記成分(A)を含有する層。
層(X):下記成分(X)を含有する層。
層(Y):下記成分(Y)を含有する層。
層(M):下記成分(A)と、下記成分(X)および下記成分(Y)のいずれか一方または両方とを含有する層。
成分(A):希土類元素酸化物(a1)と該希土類元素酸化物(a1)100質量部に対して1〜100質量部配合されたリン酸またはリン酸塩(a2)とからなる成分。
成分(X):アニオン性ポリマー(x1)と該アニオン性ポリマー(x1)を架橋させる架橋剤(x2)とからなる成分。
成分(Y):カチオン性ポリマー(y1)と該カチオン性ポリマー(y1)を架橋させる架橋剤(y2)とからなる成分。
第一の態様〜第三の態様は、耐食保護層が、上記成分(A)と、成分(X)および(Y)のいずれか一方または両方とを含む点で共通する。このような耐食保護層を金属端子表面に設けることで、耐電解液性が向上し、電解液による金属端子の腐食や、これに起因する金属端子とシーラントとの間の密着強度の低下や剥離を抑制でき、金属端子とシーラント間の密着耐久性が向上する。
【0016】
以下、本発明について、添付の図面を用い実施形態を示して説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態の電極端子20の概略断面図であり、詳しくは、二次電池を製造する際に、二次電池用包装材の対向するポリオレフィン系樹脂層の間に挟持され加圧熱溶着される部分(熱溶着部)の概略断面図である。
電極端子20は、金属端子(リード)21と、金属端子21の外周面を被覆する耐食保護層22と、耐食保護層22を被覆するシーラント23とから構成される。
【0017】
<金属端子21>
金属端子21は、二次電池にて、二次電池用包装材の内部に封止される正極または負極に接続され、正極または負極から二次電池用包装材の外部に向かって延在する端子である。
金属端子21としては、特に限定されず、公知のもののなかから使用する二次電池に応じて適宜選択できる。金属端子21の材質は、二次電池内の集電体の材質に依存する。
たとえばリチウムイオン電池では、正極の集電体にアルミニウムが用いられ、負極の集電体には銅が用いられる。金属端子21がリチウムイオン電池の正極に接続する金属端子(正極端子)である場合は、アルミニウムを用いることが好ましい。特に、電解液への耐食性の点では、1N30等の純度97%以上のアルミニウム素材を用いることが好ましい。また、電極端子と二次電池用包装材との熱溶着部は屈曲させる場合もあるため、柔軟性を付加する目的で、充分な焼鈍により調質したO材を用いることが好ましい。金属端子21がリチウムイオン電池の負極に接続する金属端子(負極端子)は、耐食性の面から未処理の銅を用いることは少なく、ニッケルめっきを施した銅、もしくはニッケルを用いることが好ましい。
金属端子21の厚さとしては、50〜500μmが好ましく、100〜200μmがより好ましい。50μm以上であると、充分な剛性を有するため、折れや破断が発生しにくい。一方で金属端子21は、二次電池用包装材に挟持され加圧熱溶着されるため、金属端子21の厚さが500μmを超えると、シーラント23や二次電池用包装材のシーラント層の膜厚が低下し絶縁性の低下を招くおそれがある。
【0018】
<耐食保護層22>
耐食保護層22は、上述したとおり、第一の態様においては下記の層(A)と、層(X)および層(Y)のいずれか一方または両方とを有し、第二の態様においては下記の層(M)を有し、第三の態様においては下記の層(M)と、層(X)および層(Y)のいずれか一方または両方とを有する。
層(A):下記成分(A)を含有する層。
層(X):下記成分(X)を含有する層。
層(Y):下記成分(Y)を含有する層。
層(M):下記成分(A)と、下記成分(X)および下記成分(Y)のいずれか一方または両方とを含有する層。
成分(A):希土類元素酸化物(a1)と該希土類元素酸化物(a1)100質量部に対して1〜100質量部配合されたリン酸またはリン酸塩(a2)とからなる成分。
成分(X):アニオン性ポリマー(x1)と該アニオン性ポリマー(x1)を架橋させる架橋剤(x2)とからなる成分。
成分(Y):カチオン性ポリマー(y1)と該カチオン性ポリマー(y1)を架橋させる架橋剤(y2)とからなる成分。
【0019】
上記のうち、成分(A)は、金属端子の腐食防止、金属端子21とシーラント23との間の密着性の向上等に寄与する。また、成分(X)は、成分(A)に含まれるリン酸塩由来のイオンコンタミ(特にNaイオン由来の汚染)をトラップするカチオンキャッチャー、硬くて脆い層(A)の保護等の作用を有し、耐食保護層22の安定性の向上に寄与する。また、成分(Y)は、フッ素イオンをカチオン基でトラップするアニオンキャッチャー等の作用を有し、耐電解液性や耐フッ酸性の向上に寄与する。
したがって、これらの成分を同一または異なる層に含む耐食保護層22は、金属端子21の腐食防止効果を有すると共に、電極端子20の耐電解液性、耐フッ酸性、耐水性等を向上させる。
特に、耐食保護層22の金属端子21と接する層が、成分(A)を含む層(A)または層(M)である場合、つまり層(A)または層(M)が金属端子21上に直接積層されている場合、耐食性を有する希土類元素酸化物(a1)が直接金属端子21に接することで、良好な耐食性能を発揮することが出来、上記の効果がより向上する。
また、耐食保護層22のシーラント23側と接する層が、層(X)、層(Y)または層(M)である場合、これらの層が樹脂成分(アニオン性ポリマー(x1)またはカチオン性ポリマー(y1))を含有するため、耐食保護層22とシーラント23との間の密着性も優れたものとなる。そのため、電極端子20を二次電池用包装材のポリオレフィン系樹脂層に加圧熱溶着したときに良好なヒートシール特性を得る事ができる。
成分(A)、(X)、(Y)については後で詳しく説明する。
【0020】
図2を用いて、耐食保護層22の好ましい層構成を説明する。
図2(a)は、2層構造の耐食保護層22(以下、耐食保護層22−1)の拡大断面図である。
耐食保護層22−1は、金属端子21側から順に、第一耐食保護層22i、第二耐食保護層22jが積層した構造を有する。
第一耐食保護層22iは層(A)または層(M)であり、第二耐食保護層22jは層(X)または層(Y)である。
成分(A)を含む層(A)または層(M)が、耐食保護層22の第一耐食保護層22iとして金属端子21上に直接積層していることで、耐食性を有する希土類元素酸化物(a1)が直接金属端子21に接し、良好な耐食性能を発揮することが出来る。
また、成分(X)を含む層(X)または成分(Y)を含む層(Y)が直接シーラント23に接することで、耐食保護層22の安定性、耐電解液性や耐フッ酸性、シーラント23との密着性等が向上する。
【0021】
図2(b)は、3層構造の耐食保護層22(以下、耐食保護層22−2)の拡大断面図である。
耐食保護層22−2は、金属端子21側から順に、第一耐食保護層22i、第二耐食保護層22j、第三耐食保護層22kが積層した構造を有する。
第一耐食保護層22i、第二耐食保護層22jはそれぞれ前記と同様である。第三耐食保護層22kは層(X)または層(Y)である。
第三耐食保護層22kを設けることで、耐食保護層22−1よりもさらに、耐食性、密着性等が向上する。
【0022】
図2(c)は、単層構造の耐食保護層22(以下、耐食保護層22−3)の拡大断面図である。
耐食保護層22−3は、第一耐食保護層22iのみから構成される。そのため、第一耐食保護層22iとしては、成分(A)と、成分(X)および(Y)のいずれか一方または両方を含有する層(M)が用いられる。
【0023】
第一耐食保護層22i、第二耐食保護層22j、第三耐食保護層22kと、層(A)、(X)、(Y)、(M)との好ましい組み合わせ例を下記表1に示す。ただし、耐食保護層22の層構成はこれに限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々変更することが出来る。
【0025】
成分(X)のアニオン性ポリマー(x1)や、成分(Y)のカチオン性ポリマー(y1)は、それぞれ単独で存在するよりも、成分(A)中の希土類元素酸化物(a1)やリン酸またはリン酸塩(a2)と複合化する方が耐電解液性や耐フッ酸性の機能をより効果的に発現する傾向にある。従って、耐食保護層22中の成分(X)や成分(Y)の割合が必要以上に多くなると、結果として耐食保護層22中の成分(A)が少なくなり、希土類元素酸化物(a1)やリン酸またはリン酸塩(a2)と複合化せずに単独で存在するアニオン性ポリマー(x1)やカチオン性ポリマー(y1)の割合が増える。その結果、耐電解液性や耐フッ酸性の機能が十分に発揮されなくなる場合があり、耐電解液性や耐フッ酸性が低下するおそれがある。
よって、耐電解液性や耐フッ酸性をより効果的に発現させるには、耐食保護層22中の単位面積あたりの成分(A)の質量m
A(g/m
2)と、単位面積あたりの成分(X)の質量m
X(g/m
2)と、単位面積あたりの成分(Y)の質量m
Y(g/m
2)とが、式:2≧(m
X+m
Y)/m
Aの関係を満たすことが好ましい。
各層の質量の関係{(m
X+m
Y)/m
A}が2を超える場合でも、本発明の効果を発揮することもあるが、この場合、層(X)、(Y)または(M)を形成する際の塗工液の塗工量が増えるので、アニオン性ポリマー(x1)やカチオン性ポリマー(y1)が架橋しにくくなることもある。アニオン性ポリマー(x1)やカチオン性ポリマー(y1)を十分に架橋させるためには、乾燥温度を高く設定したり、硬化時間を長く設定したりすればよいが、その結果、生産性が低下する恐れがある。
従って、生産性を維持しつつ、耐電解液性や耐フッ酸性を向上させる観点から、各層の質量の関係{(m
X+m
Y)/m
A}は2≧(m
X+m
Y)/m
Aを満たすことが好ましく、1.5≧(m
X+m
Y)/m
A≧0.01を満たすことがより好ましく、1.0≧(m
X+m
Y)/m
A≧0.1を満たすことが特に好ましい。
【0026】
また、耐食保護層22中の単位面積あたりの成分(A)の質量m
Aは、0.010〜0.200g/m
2であることが好ましく、0.040〜0.100g/m
2であることがより好ましい。
質量m
Aが上記範囲内であれば、耐電解液性を保持すると共に、希土類元素酸化物ゾルの凝集力を維持できるので、リチウム電池用金属端子に求められる密着強度を十分に付与できる。
一方、質量m
Aが上記下限値より小さくなると、金属端子21の腐食防止効果を有する希土類元素酸化物(a1)やリン酸またはリン酸塩(a2)の絶対量が少なくなるため、耐電解液性や耐フッ酸性が得られにくくなる。また、質量m
Aが上記上限値より大きくなると、希土類元素酸化物ゾルの乾燥に伴うゾル・ゲル反応が進行しにくくなり(すなわち、熱量不足になりゾル・ゲル反応が進行しにくくなり)、希土類元素酸化物ゾルの凝集力が低下し、シーラントとの密着性を低下させる恐れがある。
【0027】
耐食保護層22は、所望の成分を含有するコーティング液を塗工し、乾燥させるコーティング法により形成できる。
たとえば、層(A)形成用のコーティング液としては、成分(A)に液体媒体を添加、混合してゾル状態としたもの(希土類元素酸化物ゾル)が用いられる。該希土類元素酸化物ゾル中においては、希土類元素酸化物(a1)が液体媒体中に分散しており、その分散が、リン酸またはリン酸塩(a2)により安定化されている。
希土類元素酸化物ゾルに用いる液体媒体としては、たとえば水系、アルコール系、炭化水素系、ケトン系、エステル系、エーテル系など各種液体媒体を用いることができる。それらの中でも、水系、アルコール系が好ましく、特に水系の媒体が好ましい。水系の媒体としては、水が挙げられ、アルコール系としては、メタノール、エタノール等が挙げられる。液体媒体は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
層(A)形成用のコーティング液中、成分(A)の固形分濃度は、特に限定されず、各種塗工方法に応じて、最適な粘度・塗布量となるよう適宜選択することが出来る。
成分(A)を希土類元素酸化物ゾルとして用いる場合、該希土類元素酸化物ゾルには、本発明の効果を損なわない範囲で、分散安定化剤として、リン酸またはリン酸塩(a2)以外の他の分散安定化剤、たとえば硝酸、塩酸などの無機酸、酢酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、乳酸などの有機酸、を配合してもよい。
【0028】
層(X)形成用のコーティング液としては、成分(X)を液体媒体に溶解または分散させたものが用いられる。
層(X)形成用のコーティング液に用いる液体媒体としては、希土類元素酸化物ゾルに用いる液体媒体として挙げたものと同様のものが挙げられる。それらの中でも、水系、アルコール系が好ましい。
層(X)形成用のコーティング液中、成分(X)の固形分濃度は、特に限定されず、各種塗工方法に応じて、最適な粘度・塗布量となるよう適宜選択することが出来る。
層(Y)形成用のコーティング液としては、成分(X)の代わりに成分(Y)を用いる以外は層(X)形成用のコーティング液と同様のものを用いることができる。
【0029】
層(M)形成用のコーティング液としては、前記希土類元素酸化物ゾルに成分(X)、(Y)のいずれか一方または両方を混合したものを用いることができる。このとき、成分(X)または(Y)は、混合前に予め液体媒体に溶解または分散させてもよい。
層(M)形成用のコーティング液中の固形分濃度は特に限定されず、各種塗工方法に応じて、最適な粘度・塗布量となるよう適宜選択することが出来る。
【0030】
コーティング液の塗工方法としては、公知のコート法が利用でき、たとえばグラビアコート法、リバースコート法、ロールコート法、バーコート法等が挙げられる。
乾燥条件は、層(A)の場合は、100〜230℃、3〜15秒間程度の加熱が好ましい。層(X)または(Y)の場合は、60〜180℃、3〜15秒間程度の加熱が好ましい。層(M)の場合は、60〜230℃、3〜15秒間程度の加熱が好ましい。
【0031】
ところで、従来、金属端子の耐食処理には、クロメート処理に代表される化成処理が用いられている。化成処理では、金属端子と化成処理層との間に傾斜構造を形成させる。そのため、特にフッ酸、塩酸、硝酸、硫酸あるいはこれらの塩を配合した化成処理剤を用いて金属端子に処理を施し、クロムやノンクロム系の化合物と作用させて化成処理層を金属端子に形成させる場合が多い。その化成処理の一例としてリン酸クロメート処理が挙げられ、これは浸漬型でも樹脂バインダーを用いた塗布型でもその基本原理は同じである。しかしながらこれらの化成処理剤は酸を用いていることから、作業環境やコーティング装置の腐食を伴うものである。
一方、上述した希土類元素酸化物ゾル等のコーティング液の塗工は、コーティングタイプの耐食処理であり、金属端子に対して傾斜構造を形成させる必要がなく、そのような点で化成処理とは定義が異なるものである。そのため、コーティング液の性状も酸性やアルカリ性や中性に拘ることは無い。
また、コーティング液の塗工は、一般的なコーティング方法により実施できる。
したがって、本発明によれば、6価クロムなどの環境的に有害な物質を用なくとも、一般的なコーティング方法を用いた簡易な手法で耐食保護層を形成し、優れた金属端子の腐食防止効果を得ることが可能となる。
【0032】
<シーラント23>
シーラント23は、金属端子21の厚み方向、つまり金属端子21の略長方形状の断面の短辺方向の両側から挟み込むようにして設けられた一対の樹脂フィルムから構成され、金属端子21の形状に従って屈曲した形状をなしている。これら一対の樹脂フィルムは、金属端子21の厚み方向の寸法の略中間位置において金属端子21の幅方向、つまり金属端子21の略長方形状の断面の長辺方向に延びる面を境界として互いに接着され一体化している。
シーラント23は、必ずしも必須ではないが、これを設けることで、金属端子21と二次電池用包装材とを加圧熱溶着した時の密封性がより向上する。
シーラント23には、金属端子21、二次電池用包装材の最内層のポリオレフィン系樹脂層の双方との接着性に優れることが要求される。かかる観点から、シーラント23を構成する樹脂フィルムの材質としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、たとえば、低密度、中密度、高密度のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン樹脂、これらのポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸などによりグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。
シーラント23を構成する樹脂フィルムとしては、加熱時のシーラント23の形状維持や、熱溶着時のシーラント23の薄肉化による絶縁性の低下を防ぐため、酸変性ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂にポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等の耐熱樹脂を積層したものを適用することもできる。この場合、樹脂フィルムの両面をポリオレフィン系樹脂層とし、その層間に耐熱樹脂層を設ける。
樹脂フィルムの厚みは、金属端子21と包装材との良好な密着性を得るためには、60〜150μmが好ましく、80〜100μmがより好ましい。
シーラント23は、公知の方法により形成できる。たとえば、耐食保護層22が形成された金属端子21を、一対の樹脂フィルム(酸変性ポリオレフィン樹脂フィルム等)の間に挟持した後、金属端子21の厚み方向両側から樹脂フィルムごと加熱板で挟み込んで加圧熱溶着することにより形成できる。
【0033】
電極端子20は、ポリオレフィン系樹脂層上に少なくとも金属層が積層した多層シートから構成される二次電池用包装材の内部に封止された二次電池要素(正極、負極、電解質層、セパレータ等)から電力を取り出し外部に供給するために用いられるものであり、二次電池を製造する際、二次電池用包装材内の正極または負極に金属端子21を接続し、その一部が二次電池用包装材の外部に露出するように二次電池用包装材の対向するポリオレフィン系樹脂層の層間に挟持され、加圧熱溶着される。
一例を挙げると、まず、一対の多層シートを用意し、いずれか一方または両方の多層シートを成形して略方形の凹部を形成する。このとき凹部の内側表面がポリオレフィン系樹脂層となるようにする。次に、成形した多層シートの凹部内に電池セル(正極、セパレータ、負極)および該電池セルの正極または負極に接続した電極端子を収納する。このとき、電極端子は、その一部が多層シートの一辺から外側に突出するように配置する。その後、該凹部開口側に、他の多層シートを、ポリオレフィン系樹脂層が向かい合うように重ね合わせ、電極端子が突出している辺を加熱融着し、さらに他の2辺の融着を行なう。その後、真空環境下で残った1辺から電解液を注入し、最後に残り1辺を加圧熱溶着して内部を密封することで、二次電池とすることができる。
【0034】
二次電池用包装材を構成する多層シートとしては、ポリオレフィン系樹脂層上に少なくとも金属層が積層したものであれば特に限定されず、二次電池用包装材用の多層シートとして公知のものが利用できる。
図3に、二次電池用包装材を構成する多層シートの一例の概略断面図を示す。この例の多層シート30は、内層側から順に、ポリオレフィン系樹脂層(シーラント層)31、内層側接着剤層32、耐食保護層33、金属箔層34、耐食保護層33、外層側接着剤層35、外層36(ナイロン、PET等)が積層した構成となっている。
図4に、多層シート30から構成される二次電池用包装材の対向するポリオレフィン系樹脂層の間に電極端子20を挟持し加圧熱溶着した部分(熱溶着部)の概略断面図を示す。ただし
図4においては、多層シート30を構成する層のうち、内層側接着剤層32、耐食保護層33、外層側接着剤層35は図示を省略した。
電極端子20、多層シート30についての説明は前記と同じである。
ポリオレフィン系樹脂層31を構成するポリオレフィン系樹脂としては、前記シーラント23の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。
金属箔層34(金属層)を構成する金属としては、アルミニウム、ステンレス等が挙げられる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、設計変更等も可能である。
本発明の電極端子を適用する二次電池としては、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。本発明の電極端子は、金属端子のフッ酸による腐食を防止する効果に優れる点から、リチウムイオン電池用として好適である。
【0036】
[成分(A)]
成分(A)は、希土類元素酸化物(a1)と該希土類元素酸化物(a1)100質量部に対して1〜100質量部配合されたリン酸またはリン酸塩(a2)とからなる。
希土類元素酸化物(a1)は、従来のクロメート処理などを施すことにより得られる効果と比べて、同等以上の腐食防止効果(インヒビター効果)を有し、かつ、環境面的にも好適な材料である。
リン酸またはリン酸塩(a2)は、希土類元素酸化物(a1)の分散安定化剤として機能する。層(A)または層(M)を形成する際、成分(A)は、希土類元素酸化物(a1)を分散媒中に分散したゾル状態(希土類元素酸化物ゾル)として用いられる。リン酸またはリン酸塩(a2)が配合されていることで、この希土類元素酸化物ゾル中における希土類元素酸化物(a1)の分散が安定化する。また、リン酸またはリン酸塩(a2)が配合されていることで、希土類元素酸化物(a1)の分散が安定化するだけでなく、リン酸のキレートの能力を利用した金属端子21との密着性の向上、低温でもリン酸の脱水縮合が起こりやすいことによる耐食保護層22の凝集力の向上などが期待できる。凝集力が向上することで、金属端子21とシーラント23との間の密着性(剥離強度)も良好となる傾向にある。これらの密着性が向上することで、金属端子の腐食に対するインヒビター効果も付与できる。
【0037】
(希土類元素酸化物(a1))
希土類元素酸化物(a1)としては、例えば、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジウム、酸化ランタンなどが挙げられる。中でも酸化セリウムが好ましい。
希土類元素酸化物(a1)は、乾燥後の膜の緻密さの観点から、平均粒径が1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。平均粒径の下限は特に限定されないが、分散性を考慮すると、通常、10nm以上が好ましい。
希土類元素酸化物(a1)の平均粒径は、希土類元素酸化物ゾル中に分散する希土類元素酸化物(a1)の平均粒径を粒度分布計により測定することで求められる。
【0038】
(リン酸またはリン酸塩(a2))
リン酸としては、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、縮合リン酸等が挙げられ、縮合リン酸としては、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラメタリン酸等が挙げられる。
リン酸塩としては、上記のリン酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩、リン酸アルミニウム、リン酸チタンなどの各種塩を用いることができる。
上記のなかでも、縮合リン酸、または縮合リン酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩(縮合リン酸塩)が、機能発現の点から好ましい。
成分(A)をゾル状態(希土類元素酸化物ゾル)として層(A)または層(M)の形成に用いた際の乾燥造膜性(すなわち、乾燥能力や熱量)を考慮すると、リン酸またはリン酸塩(a2)としては、低温での反応性に優れるものが好ましい。かかる観点から、リン酸塩を形成する塩としては、低温での脱水縮合性に優れるNaイオン塩が好ましい。また、水溶性の塩が好ましい。
【0039】
成分(A)において、リン酸またはリン酸塩(a2)は、希土類元素酸化物(a1)100質量部に対して1〜100質量部配合される。リン酸またはリン酸塩(a2)の配合量は5〜50質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。
リン酸またはリン酸塩(a2)の配合量が上記範囲の下限値より少ないと、得られる希土類元素酸化物ゾルの安定性が低下すると共に、耐食保護層22と金属端子21との密着性、ひいては金属端子21とシーラント23と密着性が不十分となるおそれがある。一方、配合量が上記上限値より多くなると、希土類元素酸化物ゾルの機能が低下する。
【0040】
[成分(X)]
成分(X)は、アニオン性ポリマー(x1)と該アニオン性ポリマー(x1)を架橋させる架橋剤(x2)とからなる。
リチウム電池用金属端子で要求される耐電解液性や耐フッ酸性などの耐性を向上させるべく様々な化合物を用い鋭意検討を行った結果、本発明者は、アニオン性ポリマー(x1)が耐食保護層の安定性を向上させる化合物であることを見出した。この要因としては、アニオン性ポリマー(x1)が、希土類元素酸化物ゾルに含まれるリン酸塩由来のイオンコンタミ(特にNaイオン由来の汚染)をトラップしたり(カチオンキャッチャー)すること、上述した希土類元素酸化物ゾルのみで形成される層は無機粒子の集合体であるため硬くて脆いが、アニオン性ポリマー(x1)が複合化(積層複合化または同一層内での複合化)することで凝集力が高まること、等が考えられる。
一般的に、リチウムイオン電池用の包装材や電極端子の用途に限らず、例えば腐食性化合物によりアルミニウム箔などの腐食を防止する目的で設けられる保護層中に、イオンコンタミ、特にNaイオンなどのアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンが含まれると、このイオンコンタミを起点にして保護層が侵されてしまうという問題点がある。従って、上述した成分(A)中にNaイオンなどが含まれる場合、このイオンコンタミを固定化させる目的でアニオン性ポリマー(x1)を用いることが、リチウム電池用包材の耐性を向上させるという点で効果的である。
このようにアニオン性ポリマー(x1)は、リチウム電池用金属端子には有効な材料であり、アニオン性ポリマー(x1)を有する層を上述した層(A)または層(M)と組み合わせたり、アニオン性ポリマー(x1)を層(M)に含有させることで、より一層の機能性の向上が期待できる。
しかし、カルボキシル基などのアニオン性基を有するアニオン性ポリマー(x1)は、成分(A)に由来するイオンコンタミを補足するという点で有効であるが、水系であるため単独では耐水性に劣る問題がある。耐水性が劣る要因として、アニオン性ポリマー(x1)が水に溶解することや、接着界面での耐水性に問題があることに注目した。前者の問題の解決策としては架橋剤を添加すること、後者の問題の解決策としては、接着界面で相互作用を形成させることが挙げられる。アニオン性ポリマー(x1)に架橋剤(x2)を配合することで、層を形成したときのアニオン性ポリマー(x1)の水への溶解性が低くなり、接着界面での耐水性も向上するため、耐水性が高まり、耐電解液性や耐フッ酸性がより向上する。
【0041】
(アニオン性ポリマー(x1))
アニオン性ポリマー(x1)としては、アニオン性基を有するポリマーであり、アニオン性基としては、カルボキシル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。アニオン性ポリマー(x1)としては、特に、カルボキシル基を有するポリマーが好ましい。
好ましいアニオン性ポリマー(x1)としては、ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩、(メタ)アクリル酸またはその塩を主成分とする共重合体等が挙げられる。「主成分」とは、共重合体中の組成分比率(共重合体を構成する全繰り返し単位(モノマー単位)中の割合)が50質量%以上のものを示す。
(メタ)アクリル酸またはその塩と共重合して前記共重合体を形成するモノマーとしては、たとえば、
メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミドやN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基など)、N−アルコキシ(メタ)アクリルアミドやN,N−ジアルコキシ(メタ)アクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基など)、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有モノマー;
(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシランなどのシラン含有モノマー;
(メタ)アクリロキシプロピルイソシアネートなどのイソシアネート基含有モノマー;等が挙げられる。
【0042】
(架橋剤(x2))
アニオン性ポリマーを架橋構造にするための架橋剤(x2)としては、アニオン性ポリマーが有する架橋反応性基(たとえばカルボキシル基等のアニオン性基、その他任意に導入される水酸基、グリシジル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基等)と反応して架橋を形成し得るものであればよく、公知の架橋剤のなかから適宜選択できる。
架橋剤(x2)としては、反応性の点から、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物およびシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0043】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートまたはその水素添加物;ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートまたはその水素添加物;イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネート類、またはこれらイソシアネート類をトリメチロールプロパンなどの多価アルコールと反応させたアダクト体や、イソシアネート類を水と反応させることで得られたビューレット体;三量体であるイソシアヌレート体などのポリイソシアネート類、またはこれらポリイソシアネート類をアルコール類、ラクタム類、オキシム類などでブロック化させたブロックポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0044】
グリシジル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類とエピクロルヒドリンを作用させたエポキシ化合物;グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコール類とエピクロルヒドリンを作用させたエポキシ化合物;フタル酸テレフタル酸、シュウ酸、アジピン酸などのジカルボン酸とエピクロルヒドリンとを作用させたエポキシ化合物などが挙げられる。
【0045】
カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、各種脂肪族あるいは芳香族ジカルボン酸などが挙げられ、さらにはポリ(メタ)アクリル酸やポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ(土類)金属塩を用いてもよい。
オキサゾリン基を有する化合物としては、オキサゾリンユニットを2つ以上有する低分子化合物を用いることができる。また、イソプロペニルオキサゾリンのように重合性モノマーを用いる場合には、アクリル系モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどと共重合させたものを用いることができる。
【0046】
シランカップリング剤は、処理液中のアミンと官能基を選択的に反応させ、架橋点をシロキサン結合にすることができる。シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。特に、アニオン性ポリマー(x1)との反応性を考慮すると、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシランが好適である。
【0047】
架橋剤(x2)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。たとえば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物と、シランカップリング剤とを併用してもよい。
架橋剤(x2)の配合量は、所望の効果が得られる範囲内であれば特に限定されないが、アニオン性ポリマー(x1)100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。架橋剤(x2)の配合量が上記下限値より少ないと、架橋構造が不十分となり、耐水性の向上効果が充分に得られないおそれがある。一方、配合量が上記上限値より多くなると、成分(X)を含有する塗工液のポットライフが低下する恐れがある。
【0048】
上述したように、アニオン性ポリマー(x1)はイオンコンタミを補足する点で非常に効果的な材料である。また、架橋剤(x2)を配合することにより、耐水性が向上する。従って耐食保護層22が成分(X)を含有する層(X)および/または層(M)を備えることで、耐電解液性や耐フッ酸性が向上する。
ただし、成分(X)単独では金属端子を腐食から守る機能は持たない。成分(X)を含有する層に成分(A)を含有する層(A)を積層した多層構造とするか、または成分(X)とともに成分(A)を含有する層(M)を形成することにより、金属端子21の腐食防止効果が得られるようになる。
【0049】
[成分(Y)]
成分(Y)は、カチオン性ポリマー(y1)と該カチオン性ポリマー(y1)を架橋させる架橋剤(y2)とからなる。
本発明者らの検討によれば、カチオン性ポリマー(y1)は、耐電解液性や耐フッ酸性に特に優れる化合物である。この要因としては、フッ素イオンをカチオン基でトラップすること(アニオンキャッチャー)で、金属端子の腐食を抑制すること、上述した希土類元素酸化物ゾルのみで形成される層は無機粒子の集合体であるため硬くて脆いが、カチオン性ポリマー(y1)が複合化(積層複合化または同一層内での複合化)することで凝集力が高まること、等が考えられる。
このように、カチオン性ポリマー(y1)は、フッ酸のトラップという点で非常に効果的な材料であり、カチオン性ポリマー(y1)を含む層を上述した層(A)または層(M)と組み合わせたり、カチオン性ポリマー(y1)を層(M)に含有させることで、より一層の機能性の向上が期待できる。
しかし、カチオン性ポリマー(y1)は、アニオン性ポリマー(x1)の場合と同様に水系であるため、単独で用いてしまうと、耐水性に劣るという結果を招く。カチオン性ポリマー(y1)に架橋剤(y2)を配合することで、耐水性が高まり、耐電解液性や耐フッ酸性がより向上する。
【0050】
(カチオン性ポリマー(y1))
カチオン性ポリマー(y1)は、カチオン性基を有するポリマーであり、カチオン性基としては、アミノ基、イミノ基等が挙げられる。カチオン性ポリマー(y1)としては、特に、アミノ基またはイミノ基を有するポリマーが好ましい。
好ましいカチオン性ポリマー(y1)としては、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーとからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフトさせた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンおよびその誘導体、アミノフェノール等が挙げられる。
ポリエチレンイミンとイオン高分子錯体を形成するカルボン酸を有するポリマーとしては、ポリアクリル酸またはそのイオン塩などのポリカルボン酸(塩)、ポリカルボン酸(塩)にコモノマーを導入させた共重合体、カルボキシメチルセルロースまたはそのイオン塩などのカルボキシル基を有する多糖類が挙げられる。
ポリアリルアミンとしては、アリルアミン、アリルアミンアミド硫酸塩、ジアリルアミン、ジメチルアリルアミンなどの単独重合体あるいは共重合体を用いることが可能である。これらのアミンはフリーのアミンであっても、酢酸や塩酸によって安定化したアミンであってもよい。また、共重合体成分として、マレイン酸、二酸化イオウなどを用いることも可能である。さらに、1級アミンを部分メトキシ化させることで熱架橋性を付与させたタイプを用いることも可能である。
アミノフェノールの場合も、1級アミンを部分メトキシ化させることで熱架橋性を付与させたタイプを用いることが可能である。
これらカチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、ポリアリルアミンまたはその誘導体が好ましい。
【0051】
(架橋剤(y2))
カチオン性ポリマーを架橋構造にするための架橋剤(y2)としては、カチオン性ポリマーが有する架橋反応性基(たとえばアミノ基、イミノ基等のカチオン性基)と反応して架橋を形成し得るものであればよく、公知の架橋剤のなかから適宜選択できる。
架橋剤(y2)としては、反応性の点で、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物およびシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
これらの化合物およびシランカップリング剤の具体例としては、前記架橋剤(x2)の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0052】
架橋剤(y2)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。たとえば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物と、シランカップリング剤とを併用してもよい。
架橋剤(y2)の配合量は、所望の効果が得られる範囲内であれば特に限定されないが、カチオン性ポリマー(y1)100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。架橋剤(y2)の配合量が上記下限値より少ないと、架橋構造が不十分となり、耐水性の向上効果が充分に得られないおそれがある。一方、配合量が上記上限値より多くなると、成分(Y)を含有する塗工液のポットライフが低下する恐れがある。
【0053】
なお、カチオン性ポリマー(y1)が、ポリアリルアミンの1級アミンをメトキシカルボニル化させたポリアリルアミンの誘導体である場合は、熱架橋性を有するため、架橋剤(y2)を配合しなくても架橋剤(y2)を配合したものと実質的に同等と見なす。
また、アニオン性ポリマー(x1)やカチオン性ポリマー(y1)を架橋させる方法としては、上述した架橋剤を用いる以外にも、チタニウムやジルコニウム化合物を架橋剤として用いてイオン架橋などの架橋構造を形成させる方法を用いても構わない。
【0054】
上述したように、カチオン性ポリマー(y1)はフッ酸のトラップという点で非常に効果的な材料である。また、架橋剤(y2)を配合することにより、耐水性が向上する。従って耐食保護層22が成分(Y)を含有する層(Y)および/または層(M)を備えることで、耐電解液性や耐フッ酸性が向上する。
ただし、成分(Y)単独では金属端子を腐食から守る機能は持たない。成分(Y)を含有する層に成分(A)を含有する層(A)を積層した多層構造とするか、または成分(Y)とともに成分(A)を含有する層(M)を形成することにより、金属端子21の腐食防止効果が得られるようになる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の各例で、耐食保護層の形成に用いた使用材料および各材料を用いて層を形成する際の成膜条件は下記の通りである。なお、各成分の配合量は固形分としての量を示した。
【0056】
(使用材料)
<希土類元素酸化物などを有する層(A)>
A−1:酸化セリウム100質量部に対してリン酸のNa塩を10質量部配合し、溶媒として蒸留水を用いて、固形分濃度10質量%に調整した「ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル」。(成膜条件)210℃、30秒間の乾燥を行って層(A−1)を形成した。
A−2(比較品):酸化セリウム100質量部に対して酢酸を10質量部配合し、溶媒として蒸留水を用いて、固形分濃度10質量%に調整した「酢酸安定化酸化セリウムゾル」。(成膜条件)210℃、30秒間の乾燥を行って層(A−2)を形成した。
【0057】
<アニオン性ポリマーなどを有する層(X)>
X−1:「ポリアクリル酸アンモニウム塩」90質量%と「アクリル−イソプロペニルオキサゾリン共重合体」10質量%とからなる組成物を、溶媒として蒸留水を用い、固形分濃度5質量%に調整したもの。(成膜条件)150℃、30秒間の乾燥を行って層(X−2)を形成した。
【0058】
<カチオン性ポリマーなどを有する層(Y)>
Y−1:「ポリアリルアミン」90質量%と「1,6−ヘキサンジオールのエピクロルヒドリン付加物」10質量%とからなる混合物100質量部に対し、「アミノプロピルトリメトキシシラン」を5質量部配合した組成物を、溶媒として蒸留水を用い、固形分濃度5質量%に調整したもの。(成膜条件)150℃、30秒間の乾燥を行って層(Y−1)を形成した。
【0059】
<希土類元素酸化物およびアニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーなどを有する層(M)>
M−1:前記A−1と前記X−1とを、A−1の固形分の質量a’が80mg、X−2の固形分の質量x’が20mg相当になるように混合した組成物。(成膜条件)210℃、30秒間の乾燥を行って層(M−1)を形成した。
M−2:前記A−1と前記Y−1とを、A−1の固形分の質量a’が80mg、Y−1の固形分の質量y’が20mg相当になるように混合した組成物。(成膜条件)210℃、30秒間の乾燥を行って層(M−2)を形成した。
【0060】
<
参考例1>
図1に示す構成の電極端子を以下の手順で作製した。
金属端子上に、A−1をグラビアコーティング法にて塗工、成膜し、その上にX−1をグラビアコーティング法にて塗工、成膜して2層構造の耐食保護層を形成した。金属端子としては、幅4mm、長さ30mm、厚み100μmのアルミニウムシート(1N30−O材)を用いた。A−1、X−1の塗工量はそれぞれ、成膜後の単位面積あたりの質量(皮膜質量)が表2に示す値となる量とした。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は0.38であった。
次に、耐食保護層を形成した金属端子を、一対の樹脂フィルムの間に挟持した。これをヒートシールバー間に配置して、耐食保護層を形成した金属端子と樹脂フィルムとの加圧熱溶着を行い、電極端子を作製した。樹脂フィルムとしては、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸をグラフト変性させた酸性ポリオレフィン樹脂の単層フィルム(幅7mm、長さ8mm、厚み80μm)を用いた。加圧熱溶着条件は、ヒートシールバー間のギャップを210μmとし、温度を170℃、ヒートシールバーの推力を400Nとした。
【0061】
<
参考例2>
耐食保護層の第1層の皮膜質量を変更した以外は
参考例1と同様にして、電極端子を作製した。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は0.2であった。
【0062】
<
参考例3>
耐食保護層の第2層を、X−1の代わりにY−1を使用して表1に示す皮膜質量となるように形成した以外は
参考例1と同様にして、電極端子を作製した。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は1.25であった。
【0063】
<
参考例4>
第2層の上に、さらに、Y−1をグラビアコーティング法にて塗工、成膜して3層構造の耐食保護層を形成した以外は
参考例1と同様にして、電極端子を作製した。Y−1の塗工量は、成膜後の単位面積あたりの質量(皮膜質量)が表2に示す値となる量とした。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は0.75であった。
【0064】
<
参考例5>
A−1の代りにM−1を使用して第1層を形成し、第2層を形成しなかった以外は
参考例1と同様にして、電極端子を作製した。M−1の塗工量は、成膜後の単位面積あたりの質量(皮膜質量)が表2に示す値となる量とした。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は0.25であった。
【0065】
<
参考例6>
第1層の上に、さらに、Y−1をグラビアコーティング法にて塗工、成膜して2層構造の耐食保護層を形成した以外は
参考例5と同様にして、電極端子を作製した。Y−1の塗工量は、成膜後の単位面積あたりの質量(皮膜質量)が表2に示す値となる量とした。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は0.5であった。
【0066】
<実施例7>
耐食保護層の第1層を、M−1の代わりにM−2を使用して形成し、第2層を、Y−1の代わりにX−1を使用して表1に示す皮膜質量となるように形成した以外は
参考例5と同様にして、電極端子を作製した。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は1.5であった。
【0067】
<比較例1>
第2層を形成しなかった以外は
参考例1と同様にして、電極端子を作製した。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は0であった。
【0068】
<比較例2>
A−1の代りにX−1を使用して第1層を形成し、第2層を形成しなかった以外は
参考例1と同様にして、電極端子を作製した。X−1の塗工量は、成膜後の単位面積あたりの質量(皮膜質量)が表2に示す値となる量とした。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は、m
Aが0のため測定不能(無限大)であった。
【0069】
<比較例3>
第1層の上に、さらに、Y−1をグラビアコーティング法にて塗工、成膜して2層構造の耐食保護層を形成した以外は比較例2と同様にして、電極端子を作製した。Y−1の塗工量は、成膜後の単位面積あたりの質量(皮膜質量)が表2に示す値となる量とした。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は、m
Aが0のため測定不能(無限大)であった。
【0070】
<比較例4>
A−1の代りにA−2を使用して第1層を形成した以外は
参考例1と同様にして、電極端子を作製した。耐食保護層における(m
X+m
Y)/m
Aの値は0.375であった。ただしm
Aの値としては、酸化セリウムと酢酸との合計量を使用した。
【0071】
<評価>
参考例1〜
6、実施例7、比較例1〜4で得られた電極端子について、耐電解液性、ヒートシール強度(加圧熱溶着時の剥離強度)の2種の評価を行った。詳細を以下に示す。
【0072】
(評価1:耐電解液性の評価)
エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1:1:1(質量比)の混合溶剤を溶媒とするLiPF
6溶液(LiPF
6濃度1.5M)に、水を1500ppmになるよう添加して試験用電解液を作成した。
上記試験用電解液を、内容量250mLのテフロン(登録商標)容器に充填した。その中に得られた電極端子を入れ、密栓後85℃にて、1日、1週間、2週間、4週間保管した。保管後の電極端子について、金属端子からのシーラントの剥離状況を、以下の基準にて評価した。結果を表2に示す。
◎:デラミネーション無し。サンプルが破断してしまい剥離困難なため剥離強度測定は不可能。
○:デラミネーション無し。剥離強度測定は可能な程度。
×:デラミネーションによるシーラントの浮きが確認できる。
【0073】
(評価2:ヒートシール強度の評価)
上記で作成した電極端子をリチウムイオン電池用包装材で挟持し、ヒートシールした。その後、シーラント部分以外の金属端子部分(耐食保護層を含む)を15mm幅に切除して、サンプルとした。これを電解液に浸漬せずに、包装材と金属端子との間の剥離強度を測定した。
リチウムイオン電池用包装材としては、
図3に示す多層シート30と同様の構成のものを用いた。ポリオレフィン系樹脂層(シーラント層)31としてはポリプロピレン(厚さ50μm)を、内層側接着剤層32としてはマレイン酸変性ポリプロピレン(厚さ25μm)を、金属箔層34としてはアルミニウム(厚さ40μm)を、耐食保護層33としては、
参考例5の耐食保護層を、外層側接着剤層35としてはポリウレタン系接着剤(厚さ4μm)を、外層36としてはナイロン(厚さ25μm)を用いた。ヒートシール条件は、190℃、3秒、推力は400Nとした。剥離強度測定はテンシロンを用い、300mm/秒にて測定した。
剥離試験の結果を以下の基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:15mm幅換算で40N以上。
×:15mm幅換算で40N未満。
【0074】
【表2】
【0075】
(評価1の結果の考察)
参考例1〜
6、実施例7の電極端子は全て、試験用電解液に4週間浸漬した後においてもシーラントが金属端子から剥離困難な状態が維持されており、非常に良好な結果であった。これは、試験用電解液中で水の存在により生じたフッ酸による金属端子の腐食が耐食保護層により充分抑制されたためと考えられる。一方、比較例1では、1日の電解液浸漬試験にて剥離強度の低下が確認され、1週間以降では樹脂部の浮きが確認された。また、比較例2〜4では、1日の電解液浸漬試験にて樹脂部の浮きが確認された。
この結果から、本発明における耐食保護層が、電池環境下の耐食性を高め、耐電解液性の向上に非常に有効であることが確認された。
【0076】
(評価2の結果の考察)
参考例1〜
6、実施例7は15mm幅換算で40N以上の剥離強度が得られた。一方、比較例1においては、15mm幅換算で40N未満の剥離強度であった。なお、剥離箇所は金属端子とシーラントの界面であった。
この結果から、本発明における耐食保護層を設けた金属端子を用いることで、耐電解液性だけでなく、金属端子とポリオレフィン系樹脂層との界面の密着性も高まることが確認された。