(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁被膜が施されたセグメント導体を複数個用い、回転電機のコイルを形成するために、異なる前記セグメント導体の端部である導体端部同士を接合する回転電機の導体接合方法であって、
前記導体端部の先端から予め規定された剥離長の領域の前記絶縁被膜が除去された裸導体端部を有する前記セグメント導体を用い、接合対象導体となる2つの前記セグメント導体を、前記裸導体端部の対向面同士が隣り合って対向すると共に、前記裸導体端部の先端同士が基準平面に沿って並ぶ状態に保持する導体保持工程と、
前記基準平面に直交する方向に対して予め規定された角度で傾斜した照射角度で、2つの前記対向面の微細な隙間を通って、前記裸導体端部の2つの前記対向面の一方にのみレーザーを照射して前記裸導体端部同士を溶接するレーザー照射工程と、
を備える回転電機の導体接合方法。
前記レーザー照射工程における前記照射角度は、6度から10度、且つ、前記接合対象導体の内、レーザーが照射される一方の前記裸導体端部の対向面とレーザーの光軸との交点と、前記基準平面との距離である照射深さが、前記基準平面から前記セグメント導体の目標溶融範囲の最深部までの距離である溶融深さの1/2以下である請求項1又は2に記載の回転電機の導体接合方法。
前記レーザー照射工程では、予め規定された規定照射時間に亘ってレーザーを照射する照射フェーズと、予め規定された休止時間に亘ってレーザー照射を休止する休止フェーズとを繰り返すパルス照射によってレーザーを照射する請求項1から4の何れか一項に記載の回転電機の導体接合方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景に鑑みて、セグメント導体を複数個用い、異なるセグメント導体の端部同士を接合して回転電機のコイルを形成する際に、接合される部分の肥大化を抑制し、コイルを小型化することのできる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機の導体接合方法の特徴構成は、絶縁被膜が施されたセグメント導体を複数個用い、回転電機のコイルを形成するために、異なる前記セグメント導体の端部である導体端部同士を接合する回転電機の導体接合方法であって、
前記導体端部の先端から予め規定された剥離長の領域の前記絶縁被膜が除去された裸導体端部を有する前記セグメント導体を用い、接合対象導体となる2つの前記セグメント導体を、前記裸導体端部の対向面同士が隣り合って対向すると共に、前記裸導体端部の先端同士が基準平面に沿って並ぶ状態に保持する導体保持工程と、
前記基準平面に直交する方向に対して予め規定された角度で傾斜した照射角度で、
2つの前記対向面の微細な隙間を通って、前記裸導体端部の2つの対向面の一方に
のみレーザーを照射して前記裸導体端部同士を溶接するレーザー照射工程と、
を備える点にある。
【0007】
レーザーを利用した溶接では、アーク溶接に比べて、セグメント導体を溶融させるためのエネルギーを狭い領域に高い密度で与えることができる。その結果、必要以上に導体が溶融し、その後凝固することによって生じる導体形状の変化を小さくすることができる。例えば、溶融した導体は、液状化するために表面張力が働き、丸みを帯びやすくなる。その結果、セグメント導体の延在方向に沿った先端部分への盛り上がりや、延在方向に対して直交する側方へのはみ出しが生じ易くなる。先端部分の盛り上がりは、回転電機のコイルの端部(コイルエンド)が増大することにつながるため、回転電機の小型化には好ましくない。また、側方へのはみ出しは、セグメント導体の導体端部間の距離を縮めることになる。導体端部間の絶縁距離を確保するために、はみ出しを考慮して導体端部の隙間を広げると、やはり小型化に好ましくなく、磁気的性能にも影響を与える。上述したように、レーザーを利用した溶接では、限られた領域に集中してエネルギーを与えることができる。従って、溶融する導体の量や溶融する領域も制御し易く、セグメント導体の先端部分の盛り上がりや、側方へのはみ出しを抑制することができる。また、導体の温度上昇も制御し易く、アーク溶接に比べて温度上昇を抑制することも可能であるから、裸導体端部を形成する際に、絶縁被膜の溶融を考慮して設定される絶縁被膜の剥離長を短くすることができる。従って、裸導体端部の長さが短くなり、コイルエンドも小型化することが可能となる。その結果、セグメント導体の材料費の軽減や、銅損の軽減が可能となる。このように、本特徴構成によれば、セグメント導体を複数個用い、異なるセグメント導体の端部同士を接合して回転電機のコイルを形成する際に、接合される部分の肥大化を抑制し、コイルを小型化することが可能となる。
尚、1つの態様として、前記照射角度は、前記裸導体端部の対向面に平行な面に対して傾斜するように、予め規定された角度であり、前記レーザー照射工程では、前記裸導体端部の2つの前記対向面の一方に照射されたレーザーにより、当該一方の側の前記セグメント導体を溶融させ、溶融した導体が前記微細な隙間を介して他方の前記対向面に接触することによる熱伝導によって当該他方の側の導体を溶融させて、前記裸導体端部同士を溶接すると好適である。上述したように、レーザーは、導体端部の2つの対向面の一方にのみ、微細な隙間を通って照射されるが、当該隙間が微細なため、溶融した導体を介して他方の対向面を有するセグメント導体にも熱が伝わって溶融する。従って、適切な溶接が可能となる。
【0008】
上述したような小型化が可能な回転電機のコイルは
、一例として以下のよう
に構成される
ことになる。即ち
、絶縁被膜が施されたセグメント導体を複数個用い、異なる前記セグメント導体の端部である導体端部同士を接合することによって形成された回転電機のコイル
は、前記導体端部の先端から予め規定された剥離長の領域の前記絶縁被膜が除去された裸導体端部を有する2つの前記セグメント導体を接合対象導体として、前記裸導体端部の対向面同士が隣り合うと共に、前記裸導体端部の先端同士が基準平面に沿って並んだ状態で、前記裸導体端部の2つの対向面の一方に
のみ前記基準平面に直交する方向に対して予め規定された角度で傾斜した照射角度で
、2つの前記対向面の微細な隙間を通って、レーザーを照射されて、2つの前記接合対象導体同士が接合さ
れ、前記基準平面に直交する方向から見て、接合前の2つの前記導体端部の先端の配置領域の内側に、接合後の前記導体端部の先端の外縁が収まってい
る。
【0009】
ところで、照射角度が基準平面に対して90度に近いほど、裸導体端部の2つの対向面の間にレーザーが深く入射することになる。つまり、接合対象導体の内、照射されるレーザが到達する一方の裸導体端部の対向面とレーザーの光軸との交点と、基準平面との距離である照射深さが深く(長く)なる。対向配置される2つの裸導体端部は、それらの最先端部を含めて溶接されることが好ましいが、照射深さが深すぎると、エネルギーが拡散し、加熱のための温度も拡散して、同じエネルギーのレーザーを照射した場合に溶融領域が小さくなる。一方、照射角度が基準平面に対して浅くなるほど(90度から離れるほど)、照射深さは浅く(短く)なる。この場合には、一方の裸導体端部の対向面にエネルギーが集中するようになる。その結果、当該一方の裸導体端部の方が他方の裸導体端部に比べて大きく溶融し、他方の裸導体端部には温度の伝搬も減少して、いわゆる片溶けが発生する。そして、接合対象導体の全体としては溶融領域が小さくなる。従って、照射角度や照射深さは、適切に設定されることが好ましい。1つの態様として、本発明に係る回転電機の導体接合方法は、前記レーザー照射工程における前記照射角度が、6度から10度であり、且つ、前記接合対象導体の内、レーザーが照射される一方の前記裸導体端部の対向面とレーザーの光軸との交点と、前記基準平面との距離である照射深さが、前記基準平面から前記セグメント導体の目標溶融範囲の最深部までの距離である溶融深さの1/2以下であると好適である。
【0010】
上述したような片溶けが発生することなく、裸導体端部の2つの対向面の間においてほぼ均等に2つのセグメント導体が溶融して接合された回転電機のコイルは
、一例として以下のよう
に構成されることになる。即ち、
回転電機のコイルは、前記セグメント導体の断面形状が矩形状であり、前記接合対象導体を構成する2つの前記セグメント導体の前記対向面とは反対側の背面が、レーザー照射により導体材料が溶融していない非溶融範囲に含まれてい
る。
【0011】
ここで、本発明に係る回転電機の導体接合方法は、前記レーザー照射工程において照射されるレーザーの焦点が、前記基準平面上に設定されていると好適である。レーザー照射工程が進行すると、セグメント導体の先端面まで溶融が進行してくるが、その際に溶融した導体にエネルギー密度の高いレーザーが照射されることになり、良好な溶接が実現できる。
【0012】
また、本発明に係る回転電機の導体接合方法の前記レーザー照射工程では、予め規定された規定照射時間に亘ってレーザーを照射する照射フェーズと、予め規定された休止時間に亘ってレーザー照射を休止する休止フェーズとを繰り返すパルス照射によってレーザーを照射すると好適である。レーザー溶接を用いた場合でも、レーザーの照射時間が長くなると与えられるエネルギー量が増えて温度上昇も大きくなる。レーザー照射工程においてパルス照射が行われると、休止期間では、既に溶融した領域(溶融領域)の熱を、溶融領域に隣接する非溶融領域に伝搬させて、溶融領域の熱を下げ、全体の温度上昇を抑制することができる。そして、次の照射フェーズでは、溶融領域、及び溶融領域に隣接して予備加熱されている非溶融領域にエネルギーが追加されることで、容易に溶融領域を拡大させることができる。つまり、全体の温度上昇を抑制しながら必要な領域を溶融させることができる。
【0013】
ここで、前記パルス照射における前記規定照射時間は、レーザーの照射に伴って上昇する前記セグメント導体の温度が、前記絶縁被膜の耐軟化温度に達する時間未満に設定されていると好適である。上述したように、パルス照射を行うことによって、全体の温度上昇を抑制しながら必要な領域を溶融させることができる。この際、絶縁被膜の耐軟化温度を基準として規定照射時間が設定されると、絶縁被膜の剥離長を適切に設定することができ、コイルエンドを小型化することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、本発明に係る回転電機のコイル3を、
図1に示すようなインナーロータ型の回転電機のステータ1に適用した場合を例として説明する。この回転電機は多相交流回転電機(ここでは3相交流回転電機)である。コイル3は、1相が
図2に示すような形態の相コイル31を、複数相分(ここではU相、V相、W相の3相分)備えて構成されている。コイル3が備える各相の相コイル31は同様の構成を有しているため、以下、各相の相コイル31を特に区別することなく説明する。以下の説明では、
図1に示すステータ1の円筒状のコア基準面21の軸心を基準として矢印“L”に沿った方向を「軸方向」、矢印“C”に沿った方向を「周方向」、矢印“R”に沿った方向を「径方向」と称して説明する。
【0016】
コイルを構成するための導体線の巻き方には、波巻きや重ね巻きがあるが、本実施形態では重ね巻きを例示する。例えば、
図2に示すように、各相コイル31は、重ね巻き部32と周方向接続部5とを有する重ね巻きセット6を複数備えて構成されている。重ね巻き部32は、同軸上に導体が複数回巻き回されて構成されている部分を指し、周方向接続部5は、少なくとも一端が重ね巻き部32に接続されている導体により構成されている部分を指す。そして、本実施形態では、1つの重ね巻きセット6は、周方向に沿って一定ピッチ(重ね巻き部配設ピッチ)で配置された複数(ここでは4つ)の重ね巻き部32と、当該重ね巻き部32の間を接続する周方向接続部5とにより構成されている。
【0017】
具体的には、相コイル31は、周方向に互いにずらして配置された、第1重ね巻きセット61と、第2重ね巻きセット62と、第3重ね巻きセット63と、第4重ね巻きセット64とを備えている。本実施形態では、第1重ね巻きセット61、第2重ね巻きセット62、第3重ね巻きセット63、及び第4重ね巻きセット64は、全て同一の形状である。重ね巻きセット6の端部には、電源に接続される動力線や中性点等に当該端部を接続するための周方向接続部5や、同相の異なる重ね巻きセット6に当該端部を接続するための周方向接続部5が接続される。
【0018】
具体的には、
図1及び
図2に示すように、第1重ね巻きセット61の一方の端部には、当該端部を動力線に接続するための第1周方向接続部51が接続され、第1重ね巻きセット61の他方の端部には、当該他方の端部と第2重ね巻きセット62の一方の端部とを接続するための第2周方向接続部52が接続されている。また、第4重ね巻きセット64の一方の端部には、当該一方の端部と第3重ね巻きセット63の一方の端部とを接続するための第3周方向接続部53が接続され、第4重ね巻きセット64の他方の端部には、当該他方の端部を中性点に接続するための第4周方向接続部54が接続されている。また、第2重ね巻きセット62において、第2周方向接続部52が接続される一方の端部とは反対側の他方の端部は、第3重ね巻きセット63において、第3周方向接続部53が接続される一方の端部とは反対側の他方の端部と、接続部材90により接続されている。即ち、本実施形態に示す例では、第1重ね巻きセット61、第2重ね巻きセット62、第3重ね巻きセット63、及び第4重ね巻きセット64が、動力線から中性点に向かって記載の順に直列に接続されている。上記のように構成された相コイル31を3つ備えるコイル3は、
図1に示すように、ステータ1が備えるステータコア2に、全体として重ね巻きで巻装される。
【0019】
本実施形態では、重ね巻き部32を含む重ね巻きセット6の全体が、複数のセグメント導体7を接合して構成されている。そして、セグメント導体7には、重ね巻き部32を構成する基本セグメント導体7aと、周方向接続部5を構成する異形セグメント導体とが含まれる。尚、接続部材90も広義のセグメント導体7に含まれる。ここでは、セグメント導体7を代表して、最も多く用いられる基本セグメント導体7aの基本構成について
図3を参照して説明する。
【0020】
セグメント導体7は、相コイル31を複数に分割したものに相当する導体であり、複数のセグメント導体7の端部同士を接合することにより相コイル31が構成される。
図3に示すように、セグメント導体7は、通電方向にほぼ等価な延在方向に直交する断面の形状が矩形状、より詳しくは角部を円弧状とした矩形状の線状導体(平角線)である。また、セグメント導体7は、屈曲部を除いて、基本的に、延在方向の位置にかかわらず同じ断面形状である。この線状導体は、例えば銅やアルミニウム等の金属製であり、線状導体の表面(特に延在方向の周囲)は、例えばエナメルやポリイミド等の樹脂からなる絶縁皮膜により被覆されている。
【0021】
セグメント導体7は、ステータコア2への取り付け時において、ティース23の間に形成されたスロット22内に配置される一対の導体辺部71と、当該一対の導体辺部71の間をステータコア2の軸方向に沿った外側で接続する導体渡り部72と、導体渡り部72とは軸方向の反対側において一対の導体辺部71のそれぞれから延びてステータコア2から軸方向に突出する突出部73とを備えている。突出部73における開放端である2つの先端部74は、ステータコア2への取り付け時において、その延在方向が軸方向と平行となり、径方向に沿って互いに並列するように形成されている。本実施形態では、接合対象導体となる一対のセグメント導体7の、互いに径方向に隣接する先端部74同士が径方向に接合される。
【0022】
重ね巻き部32は、一対のスロット22のそれぞれに複数の導体辺部71が配置されて当該一対のスロット22間に複数回巻回されて構成されている。本実施形態では、重ね巻き部32は、スロット22に対して軸方向に挿入可能な複数の基本セグメント導体7aを用いて、当該基本セグメント導体7aのステータコア2から軸方向に突出する突出部73の先端部74同士を接合して構成されている。尚、基本セグメント導体7aは、重ね巻き部32を一周毎に複数に分割したものに相当する導体ということができる。
図2に示すように、重ね巻き部32は、周方向両側の導体辺部71のそれぞれが互いに同じスロット22に配置された4つの基本セグメント導体7aを用いて形成されている。そして、径方向に隣接する基本セグメント導体7aの先端部74同士が順次接合されることで、重ね巻き部32が形成される。本実施形態では、4つの基本セグメント導体7aにより一対のスロット22間を4回巻回する重ね巻き部32が構成される。
【0023】
以上、代表して基本セグメント導体7aの構成及び基本セグメント導体7aを用いて構成される重ね巻き部32について説明した。セグメント導体7を構成する周方向接続部5や、接続部材90についても、基本セグメント導体7aと同様に、ステータコア2への取り付け時において、その延在方向が軸方向と平行となり、径方向に沿って基本セグメント導体7aの先端部74に並列するように形成された先端部が形成されている。基本セグメント導体7aと周方向接続部5とが接合される際には、基本セグメント導体7aの先端部74と、周方向接続部5の先端部とが接合される。また、基本セグメント導体7aと接続部材90とが接合される際には、基本セグメント導体7aの先端部74と、接続部材90の先端部とが接合される。
【0024】
以下、基本セグメント導体7a同士、或いは、基本セグメント導体7aと周方向接続部5、或いは、基本セグメント導体7aと接続部材90との接合方法について説明する。尚、この方法は、絶縁被膜7hが施されたセグメント導体7を複数個用いて、回転電機のコイル3を形成するために、異なるセグメント導体7の端部である導体端部7t同士を接合する方法であり、セグメント導体7の形状は上述した形態に限定されるものではない。また、当然ながら、このような重ね巻き用のセグメント導体に限らず、波巻き用のセグメント導体同士を接合する場合にも適用可能である。
【0025】
この接合方法は、
図4に示すように、大きく2つの工程を有する。第1の工程は、導体保持工程#10である。導体保持工程#10では、
図5に示すように、接合対象導体となる2つのセグメント導体7が、裸導体端部7nの対向面Po同士が隣り合って対向すると共に、裸導体端部7nの先端である導体端部7t同士が基準平面Prに沿って並ぶ状態に保持される。導体保持工程#10においては、
図5に模式的に示すようなクランプ治具100によってセグメント導体7が保持される。尚、接合対象導体には、導体端部7tの先端から予め規定された剥離長Lp(
図7参照)の領域の絶縁被膜7hが除去された裸導体端部7nを有するセグメント導体7が用いられる。このため、例えば、
図4に示すように、導体保持工程#10に先行して、被膜除去工程#5が実施されてもよい。
【0026】
第2の工程は、基準平面Prに直交する方向に対して予め規定された角度で傾斜した照射角度で、裸導体端部7nの2つの対向面Poの一方にレーザーヘッド200からレーザーを照射して裸導体端部7n同士を溶接するレーザー照射工程#20である。ここでは、基準平面Pr上における2つの対向面Poの中間点を通るようにレーザーが照射される。このレーザー照射により、2つの対向面Poの内、レーザーが照射された一方の対向面Poの一部が溶融する。2つの対向面Poの隙間は微細であるから、一方の対向面Poにおいて溶融した導体が他方の対向面Poに接触する。この接触によって、レーザーが照射された一方の対向面Poから他方の対向面Poに熱伝導が起こり、レーザーが直接照射されていない他方の対向面Poも溶融する。これにより、2つの裸導体端部7n同士を溶接することができる。レーザー照射工程#20におけるレーザーの照射角度は、基準平面Prに直交する方向に設定された照射基準軸Xcを基準とすれば、この照射基準軸Xcに対して6〜10[°]である(
図5の“θc”に対応する。)。一方、基準平面Prを基準とすれば80〜84[°]である(
図5の“θp”に対応する。)。この照射角度(θp,θc)は、さらに、接合対象導体の内の一方の裸導体端部7nの対向面Poとレーザーの光軸Xoとの交点と、基準平面Prとの距離である照射深さDbが、基準平面Prからセグメント導体7の目標溶融範囲の最深部までの距離である溶融深さDmの1/2以下となるように設定される。
【0027】
尚、セグメント導体7の接合状態が目標とする接合状態(機械強度や電気抵抗の基準値を満たす状態)を満足でき、絶縁被膜7hへの熱の影響なども問題なければ、当該接合状態に応じて照射角度を柔軟に設定することが可能である。例えば、レーザーの照射角度(θc)は、照射基準軸Xcに対して4〜12[°]に設定されてもよい(基準平面Prに対して78〜86[°]の照射角度(θp)であってもよい。)。また、照射深さDbも、溶融深さDmを超えない範囲であれば、溶融深さDmの1/2より大きい値に設定されてもよい。
【0028】
照射角度(θp)が基準平面Prに対して90度に近いほど、裸導体端部7nの2つの対向面Poの間にレーザーが深く入射することになる。つまり、接合対象導体の内の一方の裸導体端部7nの対向面Poとレーザーの光軸との交点と、基準平面Prとの距離である照射深さDbが深く(長く)なる。対向配置される2つの裸導体端部7nは、それらの最先端部を含めて溶接されることが好ましいが、照射深さDmが深すぎると、エネルギーが拡散し、加熱のための温度も拡散して、同じエネルギーのレーザーを照射した場合でも溶融領域が小さくなる。一方、照射角度(θp)が基準平面Prに対して浅くなるほど(90度から離れるほど)、照射深さDmは浅く(短く)なる。この場合には、一方の裸導体端部7nの対向面Poにエネルギーが集中するようになる。その結果、当該一方の裸導体端部7nの方が他方の裸導体端部7nに比べて大きく溶融し、他方の裸導体端部7nには溶融のための温度の伝搬も減少して、いわゆる片溶けが発生する。このため、接合対象導体の全体としては、溶融領域が小さくなってしまう。従って、照射角度(θp,θc)や照射深さDmは、上述したように適切に設定されることが好ましい。
【0029】
尚、レーザー照射工程#20において照射されるレーザーの焦点は、基準平面Pr上に設定されていると好適である。レーザー照射工程#20が進行すると、セグメント導体7の先端面まで溶融が進行してくるが、その際に溶融した導体にエネルギー密度の高いレーザーが照射されることになり、良好な溶接が実現できる。但し、レーザーの焦点も、照射角度と同様に、セグメント導体7の接合状態に応じて柔軟に設定されることを妨げるものではない。焦点は、少なくとも、基準平面Prよりもセグメント導体7の側(
図5における下方)であればよい。例えば、レーザーが照射される側のセグメント導体7の対向面Poと光軸Xoとの交点に焦点が設定されていてもよい。また、当該交点と基準平面Prとの間に焦点が設定されていてもよい。
【0030】
ここで、レーザーの照射と、溶融領域について補足する。
図6は、後述するシングルモードと称される照射モードで、レーザーを照射した場合の溶融領域7mを示している。ここでは、説明を容易にするために、上述したような好適な照射角度ではなく、照射基準軸Xcと光軸Xoとが一致する状態でレーザーを照射した場合を示している。
図6では、レーザー光を符号“LB”で示している。当該レーザー光LBの焦点は、上述したように、基準平面Pr上に設定されているものとする。
【0031】
ところで、シングルモードと称される照射モードは、1つの励起光で増幅されたレーザー光を用いるモードである。シングルモードでは、エネルギー分布がガウス分布となり、レーザー光の径を小さくすることができ、エネルギー密度も大きくすることができる。これに対して、マルチモードと称される照射モードでは、複数の励起光で増幅されたレーザー光が用いられる。マルチモードのエネルギー分布は、等脚台形を上底及び下底の中点を通る直線を回転軸として回転させたようなトップハット型の分布となる。このため、容易に出力を大きくすることができるが、レーザー光の径は大きく(太く)なる。本実施形態では、アーク溶接に比べて、セグメント導体7を溶融させるためのエネルギーを狭い領域に高い密度で与えることが好ましいため、照射モードとしてはシングルモードを採用している。
【0032】
図6に示すように、シングルモードによって、レーザー光LBがセグメント導体7に照射されると、導体が気化し、導体の内部から溶融が始まる。さらにレーザー光LBの照射を続けると、溶融領域7mが次第に拡大していく。このように、シングルモードでは、導体の内部から溶融し、細く深い領域に溶融が拡大する。一方、図示は省略するが、マルチモードでは、導体の表面から溶融し、広く浅い領域で溶融することになる。また、マルチモードでは、レーザーを照射している側から溶融すること、溶融領域が広く浅い領域となることなどから、液状化した導体の温度がさらに上昇して沸点に達し、気化した導体によって液状化した導体が吹き飛ばされてボイド(穴空き)が生じる可能性が、シングルモードよりも高くなる。
【0033】
シングルモードでは、上述したように、溶融領域7mが細く深い形状となるため、母材であるセグメント導体7への熱伝導が大きくなり、液状化した導体が沸点に達する可能性も抑制される。即ち、溶融領域7mの温度を母材の融点から沸点までの温度に制御することが容易である。シングルモードでは、中央が鋭く尖ったガウス分布に従った高いエネルギー密度を有するレーザーを照射することができ、母材の内部まで高いエネルギー密度を維持することができるので、マルチモードのように表面に近い箇所が加熱されてボイドが生じる可能性が低くなる。発明者らによる実験によれば、シングルモードでのボイドの発生率は5%以下であった。
【0034】
また、発明者らの実験によれば、シングルモードでは、レーザーの焦点距離が長くなっても、高いエネルギー密度を維持できることが確認されている。このため、レーザーヘッド200を接合対象導体から離すことが可能となり、溶接の際のワークディスタンスを確保し易くなるので、生産性が向上する。尚、当然ながらレーザーの出力が大きいほど、セグメント導体7は早く溶融する。そして、セグメント導体7の母材が液体状態となることによって、反射が少なくなりレーザーのエネルギーの吸収率も高くなる。従って、レーザーの出力は、例えば2000[W]以上に設定されると好適である。また、好適な態様として、レーザーの波長は0.3〜1.1[μm]、焦点の径は10〜200[μm]であるとよい。
【0035】
図7は、従来のアーク放電による溶接(TIG溶接)と、本実施形態のレーザー溶接とを比較する図である。両方式共に、接合対象導体となる2つのセグメント導体7は、裸導体端部7nの対向面同士が隣り合って対向すると共に、裸導体端部7nの先端同士が基準平面Prに沿って並ぶ状態で溶接される。この際、セグメント導体7は、導体端部7tの先端から予め規定された剥離長Lpの領域の絶縁被膜7hが除去されているが、TIG溶接を行う場合の剥離長“Lp2”に比べて、レーザー溶接を行う場合の剥離長“Lp1”の方が短い長さに設定可能である。上述したように、レーザー溶接では、溶接時におけるセグメント導体7(裸導体端部7n)の温度上昇を抑制することが可能であるから、TIG溶接を行う場合に比べて絶縁被膜7hへの影響が小さくなる。従って、絶縁被膜7hを溶融させないために必要となる剥離長Lpも、レーザー溶接を行う場合にはTIG溶接を行う場合に比べて短くすることができる。
【0036】
図7の中段及び下段には、溶接後のセグメント導体7を模式的に示している。TIG溶接を行った場合には、アークAKがセグメント導体7の先端部の比較的に広い範囲に印加され、当該先端部が全体的に溶融し、表面張力により先端部が丸みを帯びて凝固する。このため、基準平面Prに直交する方向(上面)から見た接合後の導体端部7tの先端の外縁が、接合前の2つの導体端部7tの先端の配置領域Sからはみ出してしまう。つまり、溶接前の導体端部7tの先端の輪郭線に対して、溶接後の輪郭線は部分的にはみ出した形状となる。このため、TIG溶接の場合には、隣接する接合対象導体の間の距離“Cp”をこのはみ出し量“Ms”の分だけ多くして、絶縁距離を確保できるようにする必要がある。これに対して、レーザー溶接の場合には、はみ出し量“Ms”を考慮する必要はないから、隣接する接合対象導体の間の距離“Cp”は相対的に短くなる。従って、レーザー溶接を用いた場合には、TIG溶接を用いた場合に比べて、コイル3を小型化することができる。即ち、本実施形態の接合方法を用いて形成されたコイル3は、基準平面Prに直交する方向から見て、接合前の2つの導体端部7tの先端の配置領域Sの内側に、接合後の導体端部7tの先端の外縁がはみ出すことなく、収まっている。即ち、配置領域Sに対応する2つの導体端部7tの先端の外縁が接合の前後で変化しない。尚、配置領域Sとは、対向面Poを除いた2つの導体端部7tの先端面の外縁をつないで構成される閉領域であり、2つの先端面が占める領域と、それらに挟まれた領域(セグメント導体7同士の間に隙間が生じている場合の当該隙間に対応する領域)とを合わせた領域である。
【0037】
また、上述したように、TIG溶接を行った場合には、セグメント導体7の先端部が全体的に溶融し、表面張力により先端部が丸みを帯びて凝固する。従って、溶接後のセグメント導体7の導体端部7tは、
図7の下段の側面図に示すように、その延在方向に沿って基準平面Prよりも延伸量“Mu”だけ延伸する場合がある。このため、セグメント導体7は、導体端部7tにおいて、延伸量“Mu”だけ長くなる可能性がある。さらに、上述したように、絶縁被膜7hの剥離長Lpは、溶接に伴って上昇するセグメント導体7の温度が、絶縁被膜7hの耐軟化温度に達することが無いような長さに設定されている。レーザー溶接の場合の温度上昇は、TIG溶接の場合の温度上昇に比べて小さく、耐軟化距離Dhも、レーザー溶接の方がTIG溶接に比べて“ΔDh”だけ短い。上述したように、レーザー溶接の場合には、延伸量“Mu”も生じないので、溶接後の裸導体端部7nの長さは、TIG溶接を行った場合に比べて“ΔDh+Mu”だけ短くなる。裸導体端部7nの長さは、コイルエンドの長さに影響するので、レーザー溶接を用いた場合には、TIG溶接を用いる場合に比べてコイルエンドが短くなり、コイル3を小型化することができる。
【0038】
上述したように、レーザー照射工程#20におけるレーザーの照射角度(θc)は、基準平面Prに直交する照射基準軸Xcに対して6〜10[°](基準平面Prを基準とした照射角度(θp)は80〜86[°])である。
図8は、実験により得られた照射角度(θc)と溶融領域7mの断面積との関係を示している。照射角度(θc)が、最適値(例えば、θB=8[°])の場合には、目標とする最大の断面積を得ることができ、良好に2つのセグメント導体7を接合することができる。一方、照射角度(θc)が、最適値から外れると、角度が大きくなっても小さくなっても、溶融領域7mの断面積は減少し、2つのセグメント導体7を接合する強度や導電性が低下する。
【0039】
例えば、照射角度(θc)の最適値が“θB”の場合に、照射角度(θc)がより大きい角度“θL”であると、接合対象導体の内の一方の裸導体端部7nの対向面Poとレーザーの光軸Xoとの交点と基準平面Prとの距離である照射深さDbが、より浅い位置(基準平面Prから近い位置)となる。この場合、当該一方の裸導体端部7nの対向面Poに対するレーザーの入射角が深くなるので、当該一方の裸導体端部7nへ与えられるエネルギーが、他方の裸導体端部7nに比べて大きくなる。その結果、当該一方の裸導体端部7nの方が他方の裸導体端部7nに比べて溶融し易くなり、いわゆる片溶けが発生する。片溶けを生じた場合には、溶融領域7mが、片溶けを生じている裸導体端部7nの対向面Poとは反対側の側面(背面)にまで達する可能性がある。この場合には、レーザーによって与えられたエネルギー(加熱温度)が当該背面から拡散することになる。また、溶融領域7mが、片溶けを生じている一方の裸導体端部7nの背面にまで達しなかったとしても、他方の裸導体端部7nに伝搬するエネルギー(加熱温度)は想定的に少なくなる。従って、照射角度が最適値から離れ、照射深さDbが浅くなると、接合対象導体の全体としての溶融領域7mの断面積は減少する。
【0040】
これらのことから、本実施形態のように、セグメント導体7の断面形状が矩形状である場合、良好に形成されたコイル3は、以下のようなものとなる。即ち、好適なコイル3は、接合対象導体を構成する2つのセグメント導体7の対向面Poとは反対側の背面が、レーザー照射により導体材料が溶融していない非溶融範囲に含まれている状態で形成されている。
【0041】
一方、照射角度(θc)の最適値が“θB”の場合に、照射角度(θc)がより小さい角度“θS”であると、照射深さDbは、より深い位置(基準平面Prから遠い位置)となる。その結果、基準平面Prから遠い位置において溶融が始まることになるので、エネルギーが拡散して温度も拡散し、照射角度(θc)が“θB”の場合に比べて溶融領域7mの断面積が小さくなる。
【0042】
ところで、TIG溶接に比べてセグメント導体7の温度上昇が少ないレーザー溶接を用いた場合でも、レーザーの照射時間が長くなるとエネルギー量が増えて温度上昇も大きくなる。そこで、温度上昇を抑制しながら、必要な領域を溶融させるために、レーザー照射工程#20においてパルス照射が行われる。具体的には、
図9に例示するように、予め規定された規定照射時間に亘ってレーザーを照射する照射フェーズPEと、予め規定された休止時間に亘ってレーザー照射を休止する休止フェーズPPとを繰り返すパルス照射によってレーザーが照射される。規定照射時間は、レーザーの照射を継続しても、裸導体端部7nと絶縁被膜7hとの境界部分におけるセグメント導体7の温度(被膜先端温度)が、絶縁被膜7hが溶融しないような温度に留まる時間に設定されると好適である。尚、絶縁被膜7hが溶融しないような温度とは、絶縁被膜7hが完全に溶融する温度ではなく、絶縁被膜7hが軟化して外観が変化する耐軟化温度であると好適である。
【0043】
図9に示す例では、3回の照射フェーズPEが設けられている。複数回の照射フェーズPEを通して、セグメント導体7を溶融させる必要があるので、照射フェーズPEの後の休止フェーズPPでは、当然ながら照射フェーズPEの開始前の温度まで減少しない。従って、各照射フェーズPEの規定照射時間が同一であれば、後で実行される照射フェーズPEにおける被膜先端温度の方が高くなる。つまり、
図9における第1照射フェーズPE1よりも第2照射フェーズPE2の方が被膜先端温度が高くなり、第2照射フェーズPE2よりも第3照射フェーズPE3の方が被膜先端温度が高くなる。従って、規定照射時間は、最終の照射フェーズPE(
図9に例示する形態では第3照射フェーズPE3)において、被膜先端運度が、絶縁被膜7hの融点或いは耐軟化温度に達しない範囲の時間に設定されると好適である。
【0044】
尚、
図9では、3回の照射フェーズPEが設定されているが、各照射フェーズPEにおける規定照射時間は同一であってもよいし、別個の値であってもよい。同様に、2回の休止フェーズPPにおける各休止時間も同一であってもよいし、別個の値であってもよい。また、当然ながら、照射フェーズPEの回数も3回に限定されるものではなく、5回等であってもよい。また、温度上昇が絶縁被膜7hの耐軟化温度の範囲内であれば、パルス照射が実施されず、1回の照射によって溶接が実施されてもよい。