特許第5958140号(P5958140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5958140クラッド箔およびこれを用いる電池用活物質集電体、ならびにリチウムイオン二次電池の負極集電体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958140
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】クラッド箔およびこれを用いる電池用活物質集電体、ならびにリチウムイオン二次電池の負極集電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20160714BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20160714BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20160714BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20160714BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20160714BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20160714BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160714BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   H01M4/64 A
   H01M4/13
   H01M4/139
   C22F1/08 F
   B23K20/04 B
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 640B
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 661C
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-161731(P2012-161731)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-22271(P2014-22271A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】上仲 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−233349(JP,A)
【文献】 特開2007−273258(JP,A)
【文献】 特開2003−086154(JP,A)
【文献】 実開昭63−143858(JP,U)
【文献】 国際公開第2011/090044(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/152478(WO,A1)
【文献】 芦澤公一, 山本兼滋,リチウムイオン電池用アルミニウム箔,Furukawa-Sky Review,2009年,No.5,pp.1−6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64−4/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuまたはCu合金からなる基層と、該基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層とからなる3層構造を有し、常温での引張強さが485MPa以上586MPa以下であり、450℃で4時間保持後の引張強さが300MPa以上474MPa以下であり、総厚さが35μm以下であることを特徴とする電池用負極用のクラッド箔帯。
【請求項2】
CuまたはCu合金からなる基層と、該基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層とからなる3層構造を有し、常温での引張強さが485MPa以上586MPa以下の強度を有し、450℃で4時間保持後の引張強さが400MPa以上474MPa以下の強度であり、総厚さが35μm以下であることを特徴とする電池用負極用のクラッド箔帯。
【請求項3】
前記総厚さに占める前記CuまたはCu合金からなる基層の厚さの割合が70%以上90%以下であり、導電率がIACSの80%以上83%以下を有する請求項1または請求項2に記載されたクラッド箔帯。
【請求項4】
熱間圧延と、歪み取り焼鈍と、該歪み取り焼鈍後の圧下率90%以上の冷間圧延とを施されて製造される請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたクラッド箔帯の製造方法。
【請求項5】
前記冷間圧延後に400℃〜500℃の焼鈍を施されて製造される請求項4に記載されたクラッド箔帯の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたクラッド箔帯と、該クラッド箔帯の表面に形成された、活物質を含む塗膜とを有することを特徴とする電池用活物質集電体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたクラッド箔帯の表面に、活物質を含む塗膜を形成してから、120〜350℃の温度に加熱保持し、加圧して所定の厚みとした後に所定の形状に加工することを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極集電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池をはじめとする二次電池の電池用活物質集電体に好適なクラッド箔およびこれを用いる電池用活物質集電体、ならびにリチウムイオン二次電池の負極集電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドEV自動車,プラグインハイブリッドEV自動車,ピュアEV自動車などの移動体用の中大型電池、分散電源用の定置型中大型電池、さらには携帯情報端末,携帯電話,ノート型パソコン等の普及に伴い、高容量の二次電池の需要が伸びている。二次電池の中でも、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担うリチウムイオン二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから多くの分野で使用され、今後も市場規模がさらに伸長することが予測されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、箔帯に活物質を塗布したものを極板として用いる。一般的に正極には、アルミニウム箔にLiCoO,LiNiO,LiMn,LiFePO等の化合物をコーティングしたものを用い、負極には、黒鉛質炭素,ハードカーボン,Si系合金,Sn系合金,LiTi12とこれらの混合物を活物質として銅箔あるいは銅合金箔に塗布したものを用いることが多い。
【0004】
負極に用いる銅箔あるいは銅合金箔は、導電率および耐食性(電解液等による腐食耐性)の観点で非常に優れる材料である。銅箔あるいは銅合金箔の常温近傍における導電率は銀に次いで高く低抵抗であるため、通電時の発熱ロスが小さい。このため、銅箔あるいは銅合金箔からなる負極は、大電流を扱う用途では、低損失・低発熱の大きなメリットがある。
【0005】
銅箔には、電解により製造される電解銅箔と、鋳造で得られるインゴットを圧延により箔帯に仕上げる圧延銅箔とが存在する。圧延銅箔の製造プロセスでは、インゴットを熱間圧延した後、冷間圧延および焼鈍を繰り返し、7〜35μm程度の所定の厚みに仕上げる。圧延銅箔は、冷間圧延で歪みを残したまま仕上げる調質圧延を施すことにより、400MPaを超える高い強度を付与できる点で電解銅箔よりも優れる。
【0006】
一般的にリチウムイオン二次電池の負極は、以下に(1)〜(4)として示すプロセスを経て製造される。
【0007】
(1)活物質(黒鉛質炭素,Si系合金,Sn系合金等)に必要に応じて導電助剤を添加し結着剤と混合した上、溶剤に混練分散したペーストを、集電体となる銅箔の表面に塗布して負極板材の母材とする。
【0008】
(2)活物質を銅箔に結着させるために、120〜350℃の温度で数時間から数十時間加熱する。なお、加熱雰囲気は、銅箔の酸化および合金系負極の酸化を防止するために不活性ガス雰囲気にする場合がある。合金系負極の場合は、高結着力のイミド系、ポリアミドイミド系のバイダーが使われることがあり、この場合は加熱温度が純Cuの再結晶温度の250℃より高くなる傾向にある。
【0009】
(3)必要に応じロールプレス等で加圧し、結着性を高めるとともに所定の極板厚みに仕上げる。
【0010】
(4)シャーリングによる切断加工、スリッターによる条切り加工によって所定の負極形状に仕上げる。
【0011】
従来の圧延銅箔は、上記(2)の加熱の過程で、銅箔が再結晶を起こし銅箔強度の低下が生じる。銅箔の強度が低下すると、以下の問題の発生が懸念される。
【0012】
(a)ロールプレス等による加圧時に、負極活物質(特に合金系)が銅箔を突き破る。電池構成後に、突出した活物質がセパレータを貫通して正極との短絡を引き起こす可能性がある。
【0013】
(b)電池製造工程の負極巻き取り、巻回工程ではテンション(張力)がかけられるが、この張力によって、再結晶により強度低下が生じた銅箔が箔切れを起こす可能性がある。
【0014】
(c)リチウムイオン二次電池の負極活物質は、充電に伴い体積が膨張し、放電によって体積が減少する。銅箔は充電および放電の繰り返しによって、機械的な繰り返しストレスを受けることになる。再結晶で軟化した銅箔は変形し易く、そのため結着剤を混合し塗布した活物質が銅箔から脱落し易くなる。
【0015】
さらに、銅箔を加熱する場合には、雰囲気に残存する酸素の影響で、銅箔表面が酸化して結着させた負極活物質が、脱落し易くなる問題も発生していた。
【0016】
このため、最終の調質圧延後に高い引張強さを有するとともに乾燥・加熱工程で、再結晶・軟化を生じない銅箔、また酸化し難い銅箔が求められている。これらの問題を解決するために、純銅を素材とする圧延銅箔の替わりに銅合金を素材とする圧延銅箔が提案されている。
【0017】
特許文献1には、0.01〜0.20質量%のZrを含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅材を圧延加工し、その圧延加工により得られた銅箔を、例えば450℃で4時間加熱する熱処理を行うことにより、電極製造時の熱処理前でも適度の伸びを有し、熱処理を受けた後にも300MPa以上の引張強度を維持することができ、かつ純銅の80%以上の電気伝導性を有する二次電池負極集電体用の圧延銅箔が開示されている。
【0018】
非特許文献1には、特許文献1により開示された圧延銅箔とともに、Cr:0.20〜0.30質量%、Sn:0.23〜0.27質量%、Zn:0.18〜0.26質量%を含有し、圧延後に400℃に加熱されても500MPaの強度を有するリチウムイオン二次電池用圧延銅箔(商品番号:HCL−64T)が開示されている。
【0019】
特許文献2には、銅箔の表面にシランカップリング処理による防錆処理が施されたリチウムイオン二次電池用の集電体用銅箔が開示されている。しかしながら、特許文献2には、150℃以上に加熱すると銅箔が変色することが記載されており、特許文献2により開示された集電体用銅箔の加熱温度の上限は150℃程度と考えられる。
【0020】
銅合金系の圧延箔を用いることで前述した、加熱乾燥工程において再結晶が発生し、材料が軟化することに起因して発生する諸問題は解決しつつあるものの、高温加熱乾燥工程時の箔表面の酸化に起因して発生する問題に対する本質的な解決策が確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2003−217595号公報
【特許文献2】特開2011−23303号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】日立電線 カタログ『CAT.NO.C300B 日立圧延銅箔』
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、以下に列記の2つの特性I,IIを兼ね備える集電体用箔材料を提供することを目的とする。
【0024】
(I)電極製造時の加熱工程において強度低下が小さいこと
集電体用箔の強度低下に起因して発生する、電池製造工程の負極巻き取り・巻回工程でテンション(張力)がかかった場合の強度低下による銅箔の箔切れや、ロールプレス等による加圧時に軟化のために負極活物質(特に合金系)が銅箔を突き破ることといった問題を解決するためである。
【0025】
(II)電極製造時の加熱工程において電極表面の酸化膜の生成が少ないこと
電極表面における酸化膜の生成により活物質の密着性が低下し、活物質が剥離し易くなる現象を解決するためである。
【0026】
これまでにも、集電体用箔材料に上記の特性を個別に備えるための提案はなされてきたものの、同時に解決する手段は提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、以下に列記の通りである。
(1)CuまたはCu合金からなる基層と、該基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層とからなる3層構造を有し、常温での引張強さが485MPa以上586MPa以下であり、450℃で4時間保持後の引張強さが300MPa以上474MPa以下であり、総厚さが35μm以下であることを特徴とする電池用負極用のクラッド箔帯。
【0028】
(2)CuまたはCu合金からなる基層と、該基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層とからなる3層構造を有し、常温での引張強さが485MPa以上586MPa以下の強度を有し、450℃で4時間保持後の引張強さが400MPa以上474MPa以下の強度であり、総厚さが35μm以下であることを特徴とする電池用負極用のクラッド箔帯。
【0029】
(3)前記総厚さに占める前記CuまたはCu合金からなる基層の厚さの割合が68%以上90%以下であり、導電率がIACSの80%以上83%以下を有する(1)項または(2)項に記載されたクラッド箔帯。
【0030】
(4)熱間圧延と、歪み取り焼鈍と、この歪み取り焼鈍後の圧下率90%以上の冷間圧延とを施されて製造される(1)項から(3)項までのいずれか1項に記載されたクラッド箔帯の製造方法
【0031】
(5)前記冷間圧延後に400℃〜500℃の焼鈍を施されて製造される(4)項に記載されたクラッド箔帯の製造方法
【0032】
(6)(1)項から()項までのいずれか1項に記載されたクラッド箔帯と、該クラッド箔帯の表面に形成された、活物質を含む塗膜とを有することを特徴とする電池用活物質集電体の製造方法
【0033】
(7)(1)項から()項までのいずれか1項に記載されたクラッド箔帯の表面に、活物質を含む塗膜を形成してから、120〜350℃の温度に加熱保持し、加圧して所定の厚みとした後に所定の形状に加工することを特徴とするリチウムイオン二次電池の負極集電体の製造方法。
【0034】
本発明における「クラッド」は、CuまたはCu合金からなる基層と、NiまたはNi合金からなる表層とを張り合わせ、これらの基層および表層の境界面が拡散結合されている(合金層を有する)ことを意味する。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る電池用活物質集電用のクラッド箔帯は、純銅あるいは銅合金の表面をNi金属で被覆すること、具体的には、鍍金や表面処理によって得られる状態ではなく、熱間加工を経ることで被覆層であるNiとCuとが相互拡散し、表面のNi被覆層が材料の高強度化に寄与する厚みを有するクラッド箔体であることとしたので、従来の技術では同時に解決することのできなかった上述の2つの課題、すなわち、電極製造時の加熱工程における強度低下が小さく、かつ電極製造時の加熱工程において電極表面の酸化による活物質の密着性の低下を防止できるようになる。
【0036】
最も適切な条件では、常温での引張強さが485MPa以上、450℃×4時間の熱処理後であっても400MPaの強度を有し、なおかつ導電率がIACSの80%以上を有するクラッド箔帯を提供できる。
【0037】
本発明に係るクラッド箔帯をリチウムイオン二次電池の負極集電体に適用することで、高温にすることで高結着性を得るポリアミドイミド系等のバインダーを使い製作された高容量タイプ電極をロールプレス等で加圧する際に負極活物質が負極集電体を突き破るといった問題の発生を防止できる。また、電池製造の負極巻き取り、巻回工程でのテンションにより銅箔が箔破れするといった問題の発生を防止することができる。
【0038】
本発明に係るクラッド箔帯を使用することで、カーボンを使った高容量タイプ、合金系負極を使った高容量リチウムイオン二次電池を製造することが可能になり、これにより、民生モバイル機器の電池駆動時間の長時間化、電気自動車の1回の充電あたりの走行距離延長に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明に係るクラッド箔帯の製造工程の一例を模型式に示す説明図である。
図2】Cu層あるいはCu合金層がクラッド層厚に占める割合を調査するために観察,撮影した実施例番号8の断面観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
1.本発明の基になる知見
本発明の基になる下記の新規な知見A〜Dを説明する。
【0041】
(A)表面の酸化防止
銅あるいは銅合金の圧延箔の表面は、乾燥工程の加熱によって少なからず酸化が生じることは避けられない。したがって、銅あるいは銅合金の両面を、耐酸化性に優れ、かつLiと合金化反応が生じない他の金属で被覆することが有効である。
【0042】
被覆に適した金属は、Liと合金化しない金属であることから、Ti,Ni,Co,Fe,Crがあるが、負極集電箔に要求される高導電率の確保の観点から、高い導電率を有するCo,Ni等が好適である。
【0043】
(B)強度低下の抑制
銅あるいは銅合金の圧延箔の表面を被覆する金属を、再結晶温度が350℃より高い金属とすれば、この金属を被覆された銅あるいは銅合金の圧延箔の強度は、銅あるいは銅合金の圧延箔と被覆した金属との複合則で定まり、この金属を被覆することによって、400℃程度に加熱された場合であっても強度低下を抑制することが可能になる。
【0044】
すなわち、被覆に適した金属は、調質圧延後の約400℃の加熱において、再結晶化することなく高い強度を維持できる金属とする。
【0045】
(C)Cuとの接合性
金属の被覆は、冷間圧延前に行い、その後に被覆する金属が冷間圧延加工される工程で加工硬化されることによって強度を高める。強度を高めるためには、高い圧下率の冷間圧延を施すことが望ましい。冷間圧延時における金属の剥離を未然に防止するため、冷間圧延前に被覆する金属と銅あるいは銅合金の圧延箔との界面が強固に固着されることが有効である。このため、冷間圧延を施す前工程で界面接合の強化を促すため、拡散による接合を促すための熱間加工を施すことが望ましい。
【0046】
(D)さらに、材料のコスト、400℃以上の再結晶温度そして銅または銅合金からなる圧延箔との接合性を勘案すると、銅または銅合金からなる圧延箔の表面の被覆に最適な金属は、NiおよびNi合金である。さらに、Niは、Cuと全率固溶体の合金を作り、界面に脆い化合物が生成するおそれもない。すなわち、CuまたはCu合金からなる基層と、その両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層とが剥離する危険性が少ない。
【0047】
2.本発明に係るクラッド箔帯
本発明に係るクラッド箔体は、これらの新規な知見A〜Dに基づいており、CuまたはCu合金からなる基層と、この基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層とからなる3層を有するので、これらについて説明する。
【0048】
(I)被覆金属種
前述したLiと合金化しない金属の導電率は、Co>Ni>Fe>Cr>Tiである。本発明は集電体であることから、高い導電率の材料を使うことが望ましく、銅より著しく劣るFe,Cr,Tiは集電効率の観点で望ましくない。また、材料のコストの観点で整理する。市況価格はFe<Cr<Ni<Co<Tiであり、CoおよびTiはコストアップの要因となる。
【0049】
したがって、CuまたはCu合金からなる基層の両面を被覆する金属材料として、NiおよびNi合金を用いる。
【0050】
(II)再結晶温度
純銅の再結晶温度は200〜250℃(若い技術者のための機械・金属材料 63頁 丸善株式会社 1979)である。リチウムイオン二次電池の負極の一般的製造プロセスにおいて、活物質を圧延銅箔に結着させるために、120℃〜400℃の温度で数時間から数十時間加熱される際に再結晶が生じ、銅または銅合金からなる箔の箔伸びや箔切れ、さらには箔破れなどの問題が発生することがある。
【0051】
一方、再結晶温度は、Fe;350〜500℃,Ni;530〜660℃等であり、Niは450℃を超える再結晶温度を有する。したがって、この観点からも、CuまたはCu合金からなる基層の両面を被覆する金属材料として、NiおよびNi合金を用いる。
【0052】
(III)総厚さに占めるCuまたはCu合金の基層の厚さの割合
本発明に係るクラッド箔帯は、IACS(international annealed copper standard 電気抵抗(または電気伝導度)の基準として、国際的に採択された焼鈍標準軟銅(参考 その体積抵抗率は、1.7241×10−2μΩm、導電率58.0×10S/m)を100%と規定されている)の80%以上の導電率を有する。
【0053】
この導電率を達成するためには、CuまたはCu合金からなる基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層によって低下する導電率を、基層の純CuあるいはCu合金によって補う必要がある。80%以上のIACSを達成するために必要な純CuあるいはCu合金の割合は、総厚さに占めるCuまたはCu合金の基層の厚さの割合で68%以上であり、好ましくは70%以上である。
【0054】
一方、CuまたはCu合金の基層の厚さが90%を超えると、圧延加工後の表層の肉厚変動で薄い部分が発生し、製造途中工程の表面疵手入れ等で表層が表面に露出する可能性があり、NiまたはNi合金からなる表層を設ける意義が喪失されるので、総厚さに占めるCuまたはCu合金の基層の厚さの割合で90%以下であることが好ましい。
【0055】
(IV)常温での引張強さ
本発明に係るクラッド箔帯は、好適には90%以下のCuまたはCu合金からなる基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層を有するため、常温での引張強さが485MPa以上の強度を有する。また、基層の下限は68%以上であることが望ましく、81%以下であればさらに望ましい。
【0056】
(V)450℃で4時間保持後の引張強さ
本発明に係るクラッド箔帯は、CuまたはCu合金からなる基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層を有するため、450℃で4時間保持後の引張強さが300MPa以上、基層がCu合金からなりかつ基層の割合が68%以上の場合には400MPa以上である。
【0057】
(VI)活物質の密着性
本発明に係るクラッド箔帯は、CuまたはCu合金からなる基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層を有し、加熱の際に、表面に脱落し易いCu酸化層を生成するCuまたはCu合金と異なり、耐酸化性に優れかつ酸化した場合においても、生成した酸化物が表面から脱落し難い性質を有するために、優れた活物質の密着性を有する。
【0058】
なお、「活物質の密着性が優れる」とは、具体的には、活物質を塗布したクラッド箔帯を使った電極を用いて、電池を組み立てる工程において活物質が脱落しないことを意味する。本発明においては、後述する実施例の欄に記載するテープ剥離試験においてテープ粘着力によって剥離し難い場合を、優れた密着性と評価する。
【0059】
(VII)総厚さ
総厚さは、高容量電池を構成するために上限を定める。電極箔帯そのものは蓄電作用を有せず、放電の際には活物質が蓄えた電気エネルギーを集電し、充電の際には、電池外部から与えられた電気エネルギーを活物質に配賦する役割を担うため、できるだけ薄いことが望まれる。以上の理由により、総厚さは35μm以下である。
【0060】
3.本発明に係るクラッド箔帯の製造方法
(I)熱間加工
図1は、本発明に係るクラッド箔帯の製造工程の一例を模型式に示す説明図である。
【0061】
図1に示すように、本発明に係るクラッド箔帯を製造する際には、CuまたはCu合金の箔帯1の両面にNiまたはNi合金の箔帯2,3を積層して積層体4とし、この積層体4を適宜手段により仮止めする。仮止めとしては、端面四周をNiプロテクトしてビーム溶接することが例示される。
【0062】
ここで、本発明に係るクラッド箔体は、CuまたはCu合金が再結晶する温度域である200〜250℃以上の温度環境におかれても、基層であるCuまたはCu合金の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層により強度が確保される。このためには、CuまたはCu合金の箔帯1とNiまたはNi合金の箔帯2,3との界面が十分な接合強度を有することが有効である。
【0063】
十分な接合強度を得るためには、この界面において化合物が生成しないこと、および、CuまたはCu合金の元素とNiまたはNi合金の元素とが相互拡散し、集電箔として取り扱う際に界面剥離しない相互拡散距離を設ける必要がある。しかし、冷間圧接法では、十分な拡散距離が得られないため、箔コイルの数km以上の全長において、安定的に界面剥離しない状態を得ることが困難である。
【0064】
このため、本発明に係るクラッド箔帯を製造する際には、仮止めされた積層体4に熱間加工を行うことが望ましい。このような熱間加工としては、例えば積層体を850℃に1時間加熱保持した後に熱間圧延を行うことが例示される。
【0065】
熱間圧延の圧下率は40〜60%程度であることが、CuまたはCu合金の箔帯1とNiまたはNi合金の箔帯2,3との界面が十分な接合強度を有するためには望ましい。
【0066】
この熱間圧延により積層体4を冷延素材5とする。冷延素材5の板厚は20mm程度が例示される。
【0067】
(II)冷間加工
熱間加工後に、高い強度を得るために冷間加工を施す。冷間加工として冷間圧延が例示される。冷間圧延により冷延素材5に歪みが蓄積して高い強度を得られる。
【0068】
図1に示すように、冷延素材5に、冷間圧延および焼鈍(例えば750℃×30分間)を繰り返し、厚さが100〜200μm程度の最終冷延素材とし、この最終冷延素材に仕上げ冷間圧延を行って所望の厚さ(例えば15μm)の本発明に係るクラッド箔帯とする。
【0069】
本発明に係るクラッド箔帯が所望の強度を得るためには、90%以上の冷間加工率で冷間圧延が施されることが望ましい。ここに明示した加工率は、歪み取り焼鈍を施した後の最終累積冷間加工率であり、冷間加工の加工パススケジュールに制約はない。
【0070】
4.リチウムイオン二次電池の負極集電体の製造方法
本発明に係るクラッド箔帯の表面に、活物質(黒鉛質炭素,Si系合金,Sn系合金等)に必要に応じて導電助剤を添加し結着剤と混合した上、溶剤に混練分散したペーストを、集電体となる銅箔の表面に塗布して負極板材の母材とする。このようにして、本発明に係るクラッド箔帯の表面に活物質を含む塗膜を形成する。
【0071】
その後、活物質を結着させるために、120℃〜350℃の温度で数時間から数十時間加熱する。
【0072】
加熱雰囲気は、CuまたはCu合金箔の酸化および合金系負極の酸化を防止するために不活性ガス雰囲気にする場合がある。合金系負極の場合は、高結着力のイミド系、ポリアミドイミド系のバインダーが使われることがあり、この場合は加熱温度が高くなる傾向にある。
【0073】
この熱処理の工程で軟化が生じると、箔の形状変化による不良(平坦度が不芳、厚み精度の低下等)や箔切れが発生する可能性がある。このため、形状変化を防止する必要がある場合は予め熱処理を施すことが望ましい。
【0074】
熱処理の好ましい温度は500℃以下でありかつ加熱処理温度と同じあるいは少し高い温度であることが有効である。熱処理の温度が500℃を超えると、CuまたはCu合金からなる基層の両面にクラッドにより形成されるNiまたはNi合金からなる表層のNiの再結晶が始まる温度である530℃〜660℃に至る可能性があるためである。
【0075】
活物質の結着を促す加熱温度の上限は350℃であり、ポリアミドイミド系のバインダーを使う場合は、350℃程度で実施することもあるため、本発明では400℃以上の温度を確保する必要がある。
【0076】
その後、必要に応じロールプレス等で加圧し、結着性を高めるとともに所定の板厚みに仕上げる。
【0077】
最後に、シャーリングによる切断加工,スリッターによる条切り加工によって所定の負極形状に仕上げることにより、リチウムイオン二次電池の負極集電体が製造される。
【実施例】
【0078】
本発明の効果を実証するため、以下の試験を実施してその効果を評価した。
[試験条件]
(a)実施例に用いた従来材
リチウム電池用の高強度負極集電体として市中で入手可能な材料3種の圧延銅箔、銅合金箔を入手し、従来材A〜Cとした。板厚は15μmの材料を用いた。表1に従来材を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
(b)本発明の材料
図1に示すように、無酸素純Cu(C1020)からなる板1(120mm長×100mm幅×40mm厚)、銅合金C15150からなる板1(120mm長×100mm幅×40mm厚)および純Ni(JISNW2201)からなる板1(120mm長×100mm幅×tmm厚)を準備し、それぞれの接合面をステンレスワイヤーで研磨し、脱脂処理を行った後、純Ni板2、純Cu/銅合金板1および純Ni板2の順で120mm長×100mm幅の面を重ね合わせて積層し、被接合部が水平方向にずれることがないようにクランプで固定した状態で、真空中で電子ビーム溶接によって接合して、積層体4を作製した。
【0081】
なお、この実施例では真空中での電子ビーム溶接を用いたが、この溶接法に限定されるものではない。ただし、Niと純Cu,Cu合金の界面に残存する酸素を減らす配慮を施した溶接が必要である。
【0082】
以下、本発明に用いた板厚構成を示す。表2に本発明材D〜Iを得るための圧延母材を示す。
【0083】
【表2】
【0084】
本発明材D〜Iについて、850℃×1時間の加熱後熱間圧延により全て20mm厚とした。その後、冷間圧延と750℃×30分間の中間焼鈍を繰り返し、全ての材料について0.2mm厚および0.1mm厚とし、その後750℃×30分間の焼鈍を行った。この素材を15μmまで冷間圧延を行って母材とした。
【0085】
厚さ0.2mm(200μm)および0.1mm(100μm)の材料を冷間圧延により厚さ15μmのクラッド箔帯とし、実施例に使用した。
【0086】
(c)強度の評価方法
圧延方向に対して平行に13B型試験片を採取して、JIS Z2241に準拠して引張強度と伸びを測定した。引張速度は25mm/分とした。
【0087】
(d)導電率の測定
温度22℃±1℃の環境下で、JIS H 0505(非鉄金属材料の体積抵抗率および導電率測定方法)に準拠して四端子法で測定を行った。
【0088】
なお、導電率はIACS表記とするため、体積抵効率が1.7241×10−2μΩm、導電率58×10S/cmを100%として、この導電率に対する割合(%)で表記した。
【0089】
(e)活物質密着性の評価
平均10μmの天然黒鉛系負極活物質に、ニッポン高度紙工業株式会社製のポリアミドイミド系のバインダー(商品名SOXR)を負極活物質重量に対しバインダーの固形分量が5%になるように混合し、さらにNMP(N−メチルピロリドン)を20重量%加えてスラリー状とした。
【0090】
このスラリーを、実施例の厚さ15μmの集電箔に塗布し、80℃にて1時間乾燥した後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃×4時間乾燥させて評価用電極とした。
【0091】
この電極を20mm角に切り出し、カッターにて碁盤目状に切り傷を形成し、市販の粘着テープ(登録商標セロテープ)を貼り、重さ2kgのローラーを置いて1往復させて粘着テープを圧着した。次に粘着テープを剥がし、負極集電体の表面を画像としてパーソナルコンピュータに取り込み、二値化によって金属光沢部分と活物質が残存する黒色部分を判別し、活物質残存量を算出した。
【0092】
残存率80%以上を○と判定し、80%未満を×と判定した。
(f)総厚さに占めるCuまたはCu合金の基層の厚さの割合
材料を埋め込み樹脂で固め、L断面を研磨し顕微鏡観察し撮影した写真5枚から、平均Cu層厚、被覆している平均Ni厚を求めた。最終の仕上げ厚である15μmの段階では、観察が困難であることから、最終冷延前の200μmあるいは100μmの段階で観察した結果を基に、Cu,Cu合金割合を算出した。図2は、Cu層あるいはCu合金層がクラッド層厚に占める割合を調査するために観察,撮影した実施例番号8の断面観察写真である。
【0093】
(g)実施例
表1に示した従来材は、A材が無酸素銅の圧延銅箔であり、B材は特許文献1により開示された材料であり、C材は非特許文献1に記載された材料である。これらを従来材として本発明との比較を行った。実施した結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
(h)従来材
共通する課題は、負極活物質の密着性が優れない点にある。活物質を塗布した後の乾燥工程において集電箔体の表面酸化(銅の酸化)が生じるため、強固なバインダーを用いても密着性に劣る。加えて個々の従来材A〜Cの課題は、以下である。
【0096】
実施例番号1は、再結晶温度が200〜250℃であるため、450℃に加熱すると引張強さが145MPaまで低下する。活物質を塗布した集電体を乾燥させるために350℃に加熱すると、その後の取り扱いで寸法変化や箔破れなどが生じる懸念がある。
【0097】
実施例番号2は、優れた導電率を有するものの、450℃に加熱すると300MPa以下に強度が低下する。
【0098】
実施例番号3は、450℃に加熱しても強度低下が小さい材料であるものの、導電率が72%IACSで、本発明と比較し優位ではない。
【0099】
実施例番号5は、基層に再結晶温度が450℃より低い純Cuを使用しており、仕上げ冷間加工率%が実施例番号4,6と比較して小さいために加工硬化の程度が小さく、熱処理後強度が300MPaを下回った。
【0100】
実施例番号16−18は、基層に再結晶温度が450℃より低い純Cuを81%使用しており、熱処理時にCuが再結晶して軟化してしまったため、300MPaを下回った。
【0101】
実施例番号20は、仕上げ冷間加工率が実施例番号19,21と比較して小さいために加工硬化の程度が小さく、熱処理後強度が300MPaを下回った。
【0102】
(i)本発明材
本発明に係る材料は、高い導電性と450℃×4時間(負極活物質を塗布した後の乾燥工程を想定)後に高い強度を有する。
【0103】
実施例番号2と5を比較すると、いずれも本発明の300MPaを満たしていないが、導電率の観点では従来材である実施例番号2が優れる。
【0104】
一方、実施例番号4においては実施例番号5と同じ材料であるにもかかわらず、450℃×4時間加熱後においても300MPa以上の強度を有し、実施例番号2より優れる。番号4と5の差は仕上げ冷間加工の加工率の違いによる。Niの再結晶温度は530℃以上であるため、Niの強度低下が少なく高い強度が維持できる。
【0105】
実施例番号4と実施例番号5の比較から、本発明では、歪み取り焼鈍後に90%以上の冷間加工率を経ることが望ましいことがわかる。
【0106】
450℃×4時間の加熱後に、400MPa以上の強度を有しているのは、本発明実施例番号の10−15,19,21である。これらの材料の導電率は74%以上であり、実施例番号3(従来材)が強度370MPaかつ導電率72%と比較して優位な強度−導電率バランスを有していることがわかる。
【0107】
また、本発明の材料の中で、80%以上の導電率を有しているのは、実施例番号4,6,11−13,16−19,21である。これらの材料は、クラッドの中間層の純銅あるいは銅合金の割合が68%以上の材料である。本発明においては、Cu層厚またはCu合金層厚の割合は、クラッド層厚に対し68%以上であることが好ましい範囲である。
【0108】
また、80%以上の導電率を有しかつ400MPa以上の強度を有しているのは、90%以上の仕上げ冷間加工率の履歴の材料である。
【0109】
以上のことから、本発明に係るクラッド箔帯は、表面が耐食性に優れるNiまたはNi合金により被覆されていることから、乾燥工程の表面酸化が少なく活物質密着性に優れる。また、本発明に係るクラッド箔帯は、中でも総厚さに占めるCuまたはCu合金の基層の厚さの割合が70%以上であるので、歪み取り焼鈍後に90%以上の冷間加工を受けても、450℃×4時間の加熱後にも高い強度を有する。
【符号の説明】
【0110】
1 CuまたはCu合金の箔帯
2,3 NiまたはNi合金の箔帯
4 積層体
5 冷延素材
図1
図2