(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  近年、電気自動車用や電力貯蔵用の電池として、エネルギー密度が高く、かつ安全性の高いリチウムイオン電池が求められている。
【0003】
  このような、高いエネルギー密度を有するリチウムイオン電池は、過充電や内部短絡などの異常時には、電池内部の温度が過度に上昇したり、電池の内圧が著しく上昇し、電池ケースが変形したりする場合がある。このような場合には速やかに電池の温度または内圧の上昇を抑えるため、電池を短絡させることによりエネルギーを放出させる方法が考えられる。
【0004】
  特許文献1では、板状の正極端子と、板状の負極端子と、正極端子と負極端子とに挟み込まれて接続される絶縁層とからなる短絡機構を電池に設けている。この絶縁層は、所定温度以上において溶融することにより正極端子と負極端子とを導通させる機能を有する。これにより短絡機構は、電池に異常が発生して所定温度以上となった場合に、電池の正極と負極とを短絡させ、電池のエネルギーを放出させて電池の温度または内圧の上昇を抑えている。
【0005】
  また、特許文献2では、正極端子である蓋板と負極端子との間の絶縁を行う絶縁部材として温度上昇により抵抗値が減少するNTC素子を利用することにより、電池の温度が上昇した場合に絶縁部材の抵抗が減少して正負極間を短絡させる。さらに、特許文献2では、バイメタルを利用することにより電池の温度が上昇した場合に正極端子と負極端子とを短絡させるスイッチが開示されている。
【0006】
  また、特許文献3では、負極と電気的に接続されている筐体(電池缶)と正極に電気的に接続されている電池蓋とのそれぞれに低融点合金が配置されている電池が開示されている。この電池では、電池に異常が発生して所定温度を超えた場合に低融点合金が融解し、筐体と電池蓋とを電気的に接続することにより短絡させている。
【0007】
  また、特許文献4では、負極端子の周囲に正極に電気的に接続されている低融点合金を配置した電池が開示されている。この電池では、電池に異常が発生して所定温度を超えた場合に低融点合金が融解することにより負極端子と接触し、正極と負極とを電気的に接続することにより短絡させている。
【0008】
  また、特許文献5では、所定の温度以上になると熱溶融部材が溶融することにより、電池の内部において正極端子部と負極端子部とを短絡させる二次電池が開示されている。
【0009】
  以上の特許文献1〜5のように、電池の異常によって過度な熱が発生した場合に、短絡機構(低融点合金を含む)において正極端子と負極端子とを接続して短絡させることにより、電池のエネルギーを電池から放出させている。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
  蓄電素子の異常時には、蓄電素子の温度上昇および内圧上昇を速やかに抑えるために大電流で放電し、蓄電素子のエネルギーを外部に放出することが必要であるが、特許文献1〜5のような技術では、以下の観点から難しい。
【0012】
  特許文献1のような技術では、板状の正極端子と板状の負極端子とにより絶縁層を挟み込んだ構造であるため、振動などの衝撃を与えられた場合に絶縁層が外れて予期せぬ短絡が起こることは否定できず、耐振動性や耐衝撃性の点で問題がある。また、この短絡機構は、正極端子および負極端子に外部から付勢力を与えられることを前提としており、絶縁層が溶融しても外部からの付勢力のために絶縁層の融解物が介在し、抵抗値が低減しにくい構成となっている。このため、この構成では、確実に短絡させて放電させることが難しい。また、特許文献1のような技術では短絡機構(短絡素子)の短絡時の抵抗値の安定性および再現性の問題があるため、電池の異常時に緊急的に放電させることは難しい。
【0013】
  また、特許文献2のNTC素子を利用する技術では、通常使用時も微小電流が流れ続けるため電池システムとしての自己放電量が大きくなり好ましくない。
【0014】
  同じく特許文献2のバイメタルスイッチを利用する技術では、バイメタルスイッチにより正極端子と負極端子とを短絡させるため、短絡する箇所が構造的に一点となる。しかし、バイメタルスイッチでは、上述のように短絡する箇所が構造的に一点となるため大電流を流すことが難しく、短絡性能を確保することが困難である。バイメタルスイッチの短絡する箇所の面積を大きくし電池の安全化を図ろうとすると、バイメタルスイッチを大きくする必要があり、生産コストが増加してしまうといった問題がある。さらに、バイメタルスイッチの場合には、元々接触していない部分が、温度上昇があってスイッチ部分が変形し接触する事により短絡する。つまり、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においては、安定した絶縁性能を得ることは難しく、短絡素子の信頼性にも問題があると考えられる。
【0015】
  また、特許文献3および特許文献4のような技術では、正極と負極とを短絡させる部位が小さい。つまり、正極と負極とが短絡された場合の、短絡経路における抵抗が十分に小さくない。このため、短絡箇所から大電流で放電を行うことは難しく、大電流を流そうとすると短絡箇所の部位を大きくする必要があり好ましくない。
【0016】
  また、特許文献5のような技術では、バネによって負極端子部が固定されているため、振動などの外部衝撃によって作動する可能性がある。
【0017】
  そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、異常が発生して内部の温度が過度に上昇した場合に、正極と負極とを確実に短絡させて安定的にかつ速やかに放電させることのできる短絡素子を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0018】
  上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る短絡素子は、蓄電素子に接続される短絡素子であって、前記蓄電素子の正極側に電気的に接続される第一電気伝導体と、前記蓄電素子の負極側に電気的に接続される第二電気伝導体と、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体との間に配置される絶縁体と、前記絶縁体と第一電気伝導体および前記第二電気伝導体の少なくとも一方との間に配置される低融点合金層と、を有する溶融層と、前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体のうちの少なくとも一方の外側に配置され、前記所定温度近傍において膨張する熱膨張部材と、前記熱膨張部材、前記第一電気伝導体、前記第二電気伝導体、および前記溶融層を合わせた体積の膨張を抑制する膨張抑制部材とを備え、前記溶融層は、所定温度以上において、前記低融点合金層の一部または全部が融解することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させる。
【0019】
  これによれば、短絡素子は、膨張抑制部材により、熱膨張部材、第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を合わせた体積が膨張しないように抑制されている状態である。つまり、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になり、熱膨張部材が膨張すれば、熱膨張部材、第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を合わせた体積の膨張が膨張抑制部材により抑制されているため、第一電気伝導体および第二電気伝導体が互いに近づく方向に圧力がかかる。このため、融解した低融点合金によって、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続されやすくできる。また、短絡素子は、例えば、膨張抑制部材として第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を収容する容器を利用できるため、短絡素子が誤作動することを低減でき、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においても、所定温度未満の環境下では短絡素子は安定した絶縁性能を維持できる。
【0020】
  また、前記膨張抑制部材は、前記熱膨張部材、前記第一電気伝導体、前記第二電気伝導体、および前記溶融層を収容する第二容器であってもよい。
【0021】
  これによれば、短絡素子は、膨張抑制部材として第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を収容する容器を利用している。このように、容器の内部において溶融層に第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を収容しており、第一電気伝導体と第二電気伝導体との間に溶融層を配置する関係が容器により維持されるため、振動などの衝撃が与えられても短絡素子が誤作動することによる予期せぬ短絡を低減できる。これにより、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においても、所定温度未満の環境下では短絡素子は安定した絶縁性能を維持できる。
【0022】
  また、前記膨張抑制部材は、前記熱膨張部材、前記第一電気伝導体、前記第二電気伝導体、および前記溶融層の厚み方向の外側に配置され、前記熱膨張部材、前記第一電気伝導体、前記第二電気伝導体、および前記溶融層を挟み込む2枚の板状の挟み込み部と、前記2枚の挟み込み部が固定されており、前記2枚の挟み込み部の間隔を前記所定の厚みに対応する距離に維持する距離維持部とを有してもよい。
【0023】
  これによれば、短絡素子は、膨張抑制部材により、熱膨張部材、第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を合わせた厚みが所定の厚みになるように規制することにより、これらを合わせた体積が膨張しないように抑制されている状態である。このため、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になった場合に、熱膨張部材が膨張することにより、第一電気伝導体および第二電気伝導体が互いに近づく方向に圧力がかかる。これにより、融解した低融点合金によって、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続されやすくできる。なお、ここに言う「所定の厚み」とは、例えば、常温時に熱膨張部材、第一電気伝導体、第二電気伝導体、および溶融層を重ねたときの厚みである。つまり、膨張抑制部材は、短絡素子の厚みを製造直後の状態に維持するための部材である。
【0024】
  また、前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体の少なくとも一方は、前記低融点合金層が溶着または接着されていてもよい。
【0025】
  このように、第一電気伝導体および第二電気伝導体のうちの少なくとも一方に低融点合金層を予め溶着または接着しておくことで、低融点合金層と予め溶着または接着された第一電気伝導体または第二電気伝導体と融解した低融点合金との馴染み性が改善され、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になり低融点合金が融解した場合に、第一電気伝導体または第二電気伝導体と融解した低融点合金との電気的接続をより確実にすることができる。
【0026】
  また、前記第一電気伝導体および前記第二電気伝導体の少なくとも一方は、メッシュ状の金属部材で構成されてもよい。
【0027】
  これによれば、第一電気伝導体および第二電気伝導体の少なくとも一方は、メッシュ状の金属部材で構成されるため、表面積を大きく確保でき、かつ、融解した低融点合金をメッシュ状の金属部材の内部に形成されている隙間に保持しやすい構造である。このように、メッシュ状の金属部材は、融解した低融点合金と接触した場合に、融解した低融点合金を保持したまま維持できるため、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続された状態を維持できる。このため、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になった場合に、短絡素子は、速やかに第一電気伝導体と第二電気伝導体とを電気的に接続することができる。また、短絡素子は、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続された状態を維持することができるため、安定的に蓄電素子のエネルギーを放出させることができる。
【0028】
  また、前記低融点合金層は、枠状部材と、前記枠状部材の内側に設けられる低融点合金とにより構成されてもよい。
【0029】
  これによれば、低融点合金層は、低融点合金の低融点合金層の厚み方向に垂直な方向の外側に枠状部材が設けられるため、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になった場合に、融解した低融点合金が通常時における溶融層の位置の外側に流出することを防ぐことができる。
【0030】
  また、前記枠状部材は、弾性材料からなってもよい。
【0031】
  このため、枠状部材は、例えば、外部から圧力がかかった場合であっても、圧力に応じて収縮できるため、融解した低融点合金が枠状部材の外側に流出することを防ぐことができる。
【0032】
  また、前記絶縁体は、孔が形成されており、前記溶融層は、前記低融点合金層が融解して前記絶縁体の前記孔に流入することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させてもよい。
【0033】
  これによれば、絶縁体には孔が形成されており、低融点合金層が融解して絶縁体の孔に流入することにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させる。このため、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される部分を多くすることができ、より確実に短絡させることができる。また、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続される箇所を増やすことができるため、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極側と負極側とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
【0034】
  また、前記溶融層は、前記低融点合金層が融解し、かつ、前記絶縁体の一部または全部が変形することにより、前記第一電気伝導体と前記第二電気伝導体とを短絡させてもよい。
【0035】
  これによれば、絶縁体の一部または全部が変形することにより、絶縁体に融解した低融点合金層が流入する隙間(孔)が生じる。このため、溶融層は、所定温度以上となった場合に、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを効率よく短絡させることができる。これにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される部分を多くすることができ、より確実に短絡させることができる。また、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが電気的に接続される箇所を増やすことができるため、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極側と負極側とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
【0036】
  また、前記溶融層は、前記絶縁体と前記低融点合金層とが積層されることによりなってもよい。
【0037】
  また、本発明は、このような短絡素子として実現できるだけでなく、短絡素子を正極側と負極側とに接続した蓄電素子として実現することもできる。また、この蓄電素子は、さらに、電極体と、前記電極体および前記短絡素子を収容する第一容器とを備えてもよい。
【0038】
  さらに、本発明は、複数の蓄電素子が直列および並列の少なくとも一方により接続されて成る蓄電素子群と、一以上の前記蓄電素子に設けられる上記の短絡素子と、を備える蓄電素子システムとして実現することもできる。
 
【発明の効果】
【0039】
  本発明に係る短絡素子によれば、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子内部の温度が過度に上昇した場合に、電極体の正極と負極とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0041】
  以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本発明は、特許請求の範囲だけによって限定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
 
【0042】
  (実施の形態)
  
図1は、蓄電素子の外観を模式的に示す斜視図である。
図2は、蓄電素子の容器本体を分離させた場合の構成を示す斜視図である。
図3は、電極体の外観とその内部に配置される短絡素子とを模式的に示す斜視図である。
 
【0043】
  蓄電素子10は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質電池である。
 
【0044】
  同図に示すように、蓄電素子10は、第一容器としての蓄電容器100と、正極端子200と、負極端子300とを備え、蓄電容器100は、上壁である蓋板110と容器本体111とを備えている。また、蓄電容器100には、電極体120と、短絡素子150と、正極集電体130と、負極集電体140とが収容されている。つまり、蓄電素子10は、電極体120と、短絡素子150と、第一容器としての蓄電容器100とを備える。
 
【0045】
  なお、蓄電素子10の蓄電容器100の内部には電解質などが封入されているが、図示は省略する。また、蓄電素子10は、非水電解質電池には限定されず、非水電解質電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。
 
【0046】
  蓄電容器100は、金属からなる矩形筒状で底を備える容器本体111と、当該容器本体111の孔を閉塞する金属製の蓋板110とで構成されている。なお、
図1および
図2において、蓋板110と容器本体111とはZ軸方向(上下方向)に沿って並んで配置される。蓋板110は、矩形の板状部材であり、その長手方向がY軸方向に沿っており、その短手方向がX軸方向に沿っている。また、蓄電容器100は、電極体120等を内部に収容後、蓋板110と容器本体111とが溶接等されることにより、内部を密封することができるものとなっている。
 
【0047】
  電極体120は、正極と負極とセパレータとを備え、電気を蓄えることができる部材である。具体的には、電極体120は、負極と正極との間にセパレータが挟み込まれるように、セパレータを介して負極および正極を捲回して形成され、全体が長円形状とされている。なお、同図では、電極体120の形状としては長円形状を示したが、円形状または楕円形状でもよい。
 
【0048】
  短絡素子150は、電極体120の内部に配置され、電極体120の正極と負極とを短絡させるための素子である。短絡素子150は、電極体120の正極側および負極側に電気的に接続される。
 
【0049】
  正極端子200は、電極体120の正極に電気的に接続された電極端子であり、負極端子300は、電極体120の負極に電気的に接続された電極端子である。つまり、正極端子200および負極端子300は、電極体120に蓄えられている電気を蓄電素子10の外部空間に導出し、また、電極体120に電気を蓄えるために蓄電素子10の内部空間に電気を導入するための金属製の電極端子である。また、正極端子200および負極端子300は、電極体120の上方に配置された蓋板110に取り付けられている。
 
【0050】
  正極集電体130は、電極体120の正極と蓄電容器100の側壁(Y軸方向の端部に配置される壁)との間に配置され、正極端子200と電極体120の正極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、正極集電体130は、電極体120の正極と同様、アルミニウムで形成されている。
 
【0051】
  負極集電体140は、電極体120の負極と蓄電容器100の側壁との間に配置され、負極端子300と電極体120の負極とに電気的に接続される導電性と剛性とを備えた部材である。なお、負極集電体140は、電極体120の負極と同様、銅で形成されている。
 
【0052】
  電極体120は、
図3に示すように、捲回体121と、巻芯126とを有する。捲回体121は、正極122および負極123と、正極122および負極123の間に配置される第一セパレータ124および第二セパレータ125とが積層されるように巻芯に捲回されてなる。より具体的には、電極体120は、正極122と、第一セパレータ124と、負極123と、第二セパレータ125とがこの順に積層され、かつ、断面が長円形状になるように巻芯126の外周に捲回されることにより形成される。そして、短絡素子は、電極体120の内部であって、巻芯126の内部に設けられる。
 
【0053】
  さらに詳しくは、正極122と負極123とは、セパレータ124、125を介し、長尺帯状の幅方向(Y軸方向)に互いにずらして、当該幅方向に沿う回転軸を中心に長円形状に捲回されている。そして、正極122および負極123は、それぞれのずらす方向の端縁部を活物質層の非形成部とすることにより、捲回軸の一端側には、正極活物質層が形成されていない正極基材であるアルミニウム箔が露出し、捲回軸の他端側には、負極活物質層が形成されていない負極基材である銅箔が露出している。つまり、電極体120のY軸方向の一端側の一部は、正極基材であるアルミニウム箔のみが露出する正極接続部127であり、電極体120のY軸方向の他端側の一部は、負極基材である銅箔のみが露出する負極接続部128である。また、電極体120の捲回軸方向(Y軸方向)の両端部には正極集電体130および負極集電体140が上記捲回軸方向(Y軸方向)と垂直方向(Z軸方向)に延びて配置されている。そして、正極集電体130は、電極体120の正極接続部127と電気的に接続され、負極集電体140は、電極体120の負極接続部128と電気的に接続される。
 
【0054】
  正極122は、アルミニウムからなる長尺帯状の正極集電体シートの表面に、正極活物質層が形成されたものである。なお、本発明に係る蓄電素子10に用いられる正極122は、特に従来用いられてきたものと異なるところはなく、通常用いられているものが使用できる。
 
【0055】
  例えば、正極活物質としては、LiMPO
4、Li
2MSiO
4、LiMBO
3(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のポリアニオン化合物、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム等のスピネル化合物、Li
1+αM
1−αO
2(0≦α<1、MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のリチウム遷移金属酸化物等を用いることができる。
 
【0056】
  負極123は、銅からなる長尺帯状の負極集電体シートの表面に、負極活物質層が形成されたものである。なお、本発明に係る蓄電素子10に用いられる負極123は、特に従来用いられてきたものと異なるところはなく、通常用いられているものが使用できる。
 
【0057】
  例えば、負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、およびウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li
4Ti
5O
12等)、ポリリン酸化合物などが挙げられる。
 
【0058】
  巻芯126は、ポリプロピレン、ポリエチレン等の絶縁性を有する長尺帯状の材料からなる。巻芯126は、正極122、負極123、およびセパレータ124、125が捲回されるときの捲回軸となる部材である。巻芯126の内部には、
図3に示すように、短絡素子150が設けられる。短絡素子150については、
図4および
図5を用いて後述する。
 
【0059】
  図4は、短絡素子150の外観を模式的に示す斜視図である。
図5は、
図4における短絡素子150のV−V断面図である。
図6は、短絡素子150の短絡容器161を除いた構成要素の分解斜視図である。
図7は、
図5における短絡素子のVII−VII断面図であり、所定温度に達する前の状態と、所定温度に達している時の状態とを示す図である。短絡素子150は、同図に示すように、第一電気伝導体151と、第二電気伝導体152と、溶融層153と、正極接続部材159と、負極接続部材160と、熱膨張部材158と、膨張抑制部材として機能する第二容器としての短絡容器161とを有する。
図5および
図6に示すように、熱膨張部材158、第一電気伝導体151、溶融層153、および第二電気伝導体152は、この順に積層される。
 
【0060】
  第一電気伝導体151は、Y軸方向に延びる長尺のメッシュ状の金属部材であり、本実施の形態ではアルミニウムからなる。第一電気伝導体151は、電極体120の正極側である正極接続部127とともに正極集電体130に電気的に接続される。第二電気伝導体152は、Y軸方向に延びる長尺のメッシュ状の金属部材であり、本実施の形態では銅からなる。第二電気伝導体152は、電極体120の負極側である負極接続部128とともに負極集電体140に電気的に接続される。
 
【0061】
  溶融層153は、絶縁体としての絶縁体フィルム154と低融点合金層155とを有する。絶縁体フィルム154は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との間に配置される。低融点合金層155は、絶縁体フィルム154と第二電気伝導体152との間に配置される。低融点合金層155は、低融点合金156と、低融点合金156の低融点合金層155の厚み方向に垂直な方向(つまり、低融点合金層155の延在方向)における外側を囲う枠状部材157と、により構成される。なお、枠状部材157は、弾性材料からなる。また、枠状部材157は、低融点合金156が融解し、かつ、熱膨張部材158による圧力を受けたときに、変形して低融点合金156を枠状部材157の外側に流出することを防ぐことができれば弾性変形をする材料に限るものではなく塑性変形する材料であってもよい。
 
【0062】
  なお、低融点合金層155は、絶縁体フィルム154と第二電気伝導体152との間に配置されることに限らずに、絶縁体フィルム154と第一電気伝導体151および第二電気伝導体152の少なくとも一方との間に配置されればよく、絶縁体フィルム154と第一電気伝導体151との間に配置されてもよいし、絶縁体フィルム154と第一電気伝導体151および第二電気伝導体152の両方との間に配置されてもよい。溶融層153は、所定温度未満において第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを絶縁し、所定温度以上において、少なくとも低融点合金層155の一部または全部が融解することにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させる。
 
【0063】
  熱膨張部材158は、第一電気伝導体151、溶融層153、および、第二電気伝導体152の積層された多層体のうちで、第一電気伝導体151の外側に配置され、所定温度近傍において膨張する。具体的には、熱膨張部材158は、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを用いることが考えられる。熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂(例えば、アクリロニトリル)からなるシェルと、シェルの内部に充填されている液状炭化水素ガス(例えば、イソブタンなど)とにより構成される。熱膨張性マイクロカプセルは、所定温度以上に加熱されると、シェルを構成する熱可塑性樹脂の軟化し、かつ、シェルに内包されている液状炭化水素ガスがガス化してシェル内の内圧が上昇することによって、膨張する。このように、熱膨張部材158は、所定温度に加熱された場合、シェル内の液状炭化水素ガスがガス化することにより膨張するため、所定温度に達した直後の熱膨張部材158の体積は所定温度に達する前の熱膨張部材158の体積の約50〜100倍と大きくなる。
図8は、熱膨張部材158の温度と膨張倍率との関係を示すグラフである。
図8に示すように、熱膨張部材158は、所定温度近傍の領域において膨張する。このような材料を熱膨張部材158に用いるため、短絡素子150を短絡させたい所定温度において、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152が近づくような圧力をかけることができる。また、所定温度を超える場合には、バイメタルのように係る圧力が温度に比例して大きくなるわけではないため、大きな圧力に耐えうる短絡容器161を用意しなくてもよい。そして、短絡容器161は、熱膨張部材158と、第一電気伝導体151と、第二電気伝導体152と、溶融層153とを合わせた体積(以下、「短絡素子体積」とする)が膨張することを抑制する膨張抑制部材として機能する。
 
【0064】
  なお、熱膨張部材158が膨張する「所定温度近傍」とは、低融点合金156が融解する所定温度以下であることが好ましく、低融点合金156が融解する所定温度と同じ温度であることがさらに好ましい。ただし、「所定温度近傍」は、低融点合金156が融解する所定温度より高い温度であっても、短絡素子150を短絡させることは可能である。つまり、低融点合金156が融解しているときに、熱膨張部材158が膨張することにより、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152が互いに近づく方向に圧力がかかれば、課題を解決することができるため、熱膨張部材158が膨張する温度は所定温度と一致している必要はない。
 
【0065】
  正極接続部材159は、長尺の板状の金属部材でありアルミニウムからなる。正極接続部材159は、第一電気伝導体151と電極体120の正極接続部127および/または正極集電体130とを電気的に接続する部材である。正極接続部材159は、端部が短絡容器161から露出している部分を有し、当該露出している部分は正極側へ接続される接続端子として機能する。
 
【0066】
  負極接続部材160は、長尺の板状の金属部材である銅からなる。負極接続部材160は、第二電気伝導体152と電極体120の負極接続部128および/または負極集電体140とを電気的に接続する部材である。負極接続部材160は、端部が短絡容器161から露出している部分を有し、当該露出している部分は負極側へ接続される接続端子として機能する。
 
【0067】
  なお、熱膨張部材158は、多層体のうちで第一電気伝導体151の外側に配置されることに限るものではなく、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152のうちの少なくとも一方の外側に配置されていれば、その配置位置は限定されない。
 
【0068】
  低融点合金層155は、融点が70〜250℃の合金が好ましく、さらに言えば、70〜150℃の合金が好ましく、より最適な融点としては70〜120℃である。なお、低融点合金層155の融点が70〜250℃の場合には、短絡素子150を例えば蓄電素子10の内部の温度を計測し、蓄電素子10内部の温度が所定温度以上になった場合に、ヒータなどの加熱手段により積極的に加熱することにより意図的に短絡素子150を短絡させる場合に有効である。また、低融点合金層155の融点が70〜150℃の場合には、キャパシタや高安全型リチウム電池における電解液気化による蓄電素子の膨張を抑制するという観点から特に有効である。また、低融点合金層155の融点が70〜120℃の場合には、一般的なリチウム電池において有効である。低融点合金層155は、例えば、すず(Sn)または鉛(Pb)を含む低融点はんだである。なお、低融点合金層155に使用される合金としては、150℃以上のものであってもよく、例えば融点が200℃の合金であっても効果がある。また、低融点合金層155は、低融点合金にフラックス剤を混合させておく、または、低融点合金層155が接触する層(以下、「接触層」とする。)である絶縁体フィルム154、または、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152にフラックス剤を予め塗布しておくことが好ましい。このように、フラックス剤を使用することにより、低融点合金層155と、接触層との濡れ性が向上し、蓄電素子をより安定的に短絡放電させることが可能となる。また、接触層の表面に低融点合金層155を層状に塗布することが容易にできる。なお、フラックス剤としては、例えば有機酸、アミン類、ハロゲン化物等の少なくとも一種を活性剤として含有するロジンベースのフラックス剤を利用することができる。
 
【0069】
  絶縁体フィルム154は、薄膜状の絶縁体であり複数の孔が形成される。絶縁体フィルム154は、融点が150℃以上の材質が好ましく、例えばシリコンゴムやテフロン(登録商標)樹脂などである。絶縁体フィルム154はまた、低融点合金層155の合金に対して濡れ性があるシリコンゴムが好ましい。なお、絶縁体フィルム154の融点は低融点合金層155の融点よりも高いことが好ましい。例えば、絶縁体フィルム154の材質が低融点合金層155と同様の融点である70〜250℃の場合は、その融点未満の温度で変形(特に収縮)することにより、不要な短絡を起こすことになり、好ましくない。絶縁体フィルム154は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との絶縁を実質的に為している部材であるため、短絡を意図する温度(つまり所定温度)未満の場合には両者を確実に絶縁し、所定温度以上となった場合に両者を確実に短絡させることが求められる。つまり、絶縁体フィルム154は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを確実に絶縁した状態で、より薄く孔の面積の割合が大きいことが好ましい。孔の面積の割合を大きくするためには、孔の数を増やすことと、一つの孔の大きさを大きくすることが考えられる。なお、ここでは絶縁体として、孔を有する絶縁体フィルム154を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、絶縁性かつ多孔性を有するものであればよく、絶縁性材料から構成されたネットやメッシュ多孔体(つまり網状の材料)などを用いることができる。
 
【0070】
  短絡容器161は、熱膨張部材158と、第一電気伝導体151と、第二電気伝導体152と、溶融層153とを収容する容器であって、アルミラミネートフィルムによりなる。短絡容器161を構成するアルミラミネートフィルムは、金属層の一方の面にベースフィルム層を積層すると共に他方の面にシーラント層を積層した3層構造の矩形のフレキシブルなラミネートフィルムである。金属層は、アルミニウム箔から成り、短絡容器161のガスバリア性を確保し非水電解液の浸入を確実に防止するために設けられた中間層である。また、ベースフィルム層は、ナイロン等の樹脂層から成り、短絡容器161の強度を高めるために設けられた外側層である。さらに、シーラント層は、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂から成り、アルミラミネートフィルムの周縁部を熱溶着するために設けられた内側層である。短絡容器161は、1枚のアルミラミネートフィルムから構成されてもよいし、2枚のアルミラミネートフィルムから構成されてもよい。短絡容器161は、上述したように膨張抑制部材として機能し、熱膨張部材158が膨張した際に、短絡容器161によって短絡素子体積の膨張が抑制されているため、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが近づく方向に付勢力が働く。このため、第一電気伝導体151と、第二電気伝導体とが融解した低融点合金156を介して電気的に接続されやすくなる。
 
【0071】
  短絡素子150は、短絡容器161に収容された状態で、Y軸方向の端部の一方から第一電気伝導体151の一部が露出しており、Y軸方向の端部の他方から第二電気伝導体152の一部が露出している。短絡素子150は、第一電気伝導体151の短絡容器161から露出している一部と正極集電体130とが電気的に接続され、第二電気伝導体152の短絡容器161から露出している一部と負極集電体140とが電気的に接続される。
 
【0072】
  また、溶融層153は、短絡素子150として構成される際に、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との間であって、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが重なり合う領域(以下、「短絡領域」とする。)に少なくとも配置される。このように溶融層153を配置することにより、短絡素子150の内部において第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とは絶縁体フィルム154により電気的に絶縁された状態となる。
 
【0073】
  そして、溶融層153は、所定温度(本実施の形態では70〜150℃のいずれかであって、低融点合金層155の融点)以上になった場合、低融点合金層155が融解し、絶縁体フィルム154の孔に流入することにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させる。このとき、短絡素子150の抵抗値(Ω)は、短絡前に比べて6桁以上低下する。つまり、短絡素子150は、通常時は蓄電素子の自己放電を小さくするために実質的に絶縁状態であることが必要であり、このましくは1MΩ以上の高抵抗であることが必要である。一方、短絡素子150は、短絡状態においては、蓄電素子を急速に放電させ蓄電素子内のエネルギーを放出させることが必要であるため、低抵抗で端子間を短絡させることが必要である。短絡時の抵抗値は、放電開始時の電池電圧、電池の容量及び設定する短絡電流の大きさによって適した値が異なるが、短絡素子の抵抗値が短絡前に比べて6桁以上低下させることが望ましい。より具体的には、短絡時の抵抗値R[Ω]はR=x/yz(ただし、xは電池電圧[V]、yは電池容量(Ah)、zは短絡電流/電池容量の値(h
−1))から算出した値となる様に設定することが望ましい。このように、短絡前後の短絡素子150の抵抗変化を6桁以上とすることにより、通常時の自己放電を小さくでき、かつ、短絡時の蓄電素子の放電を急速に行うことができる。
 
【0074】
  本実施の形態に係る短絡素子150によれば、膨張抑制部材として機能する短絡容器161により、熱膨張部材158、第一電気伝導体151、第二電気伝導体152、および溶融層153を合わせた体積が膨張しないように抑制されている状態である。つまり、蓄電素子10に異常が発生して蓄電素子10が高温になり、熱膨張部材158が膨張する。このように、熱膨張部材158は、所定温度に加熱された場合にその体積が50〜100倍になろうとし、かつ、短絡容器161が熱膨張部材158と、第一電気伝導体151と、第二電気伝導体152と、溶融層153とを合わせた体積が膨張しないように当該体積が膨張することを抑制しているため、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152が互いに近づく方向に圧力が加えられることになる。つまり、熱膨張部材158および短絡容器161の構成によって、溶融層153の低融点合金156が融解するタイミングに合わせて、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが近づくような付勢力を第一電気伝導体151および第二電気伝導体152に与えることができる(
図7の右図参照)。このため、融解した低融点合金156は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを電気的に接続しやすくできる。
 
【0075】
  また、本実施の形態に係る短絡素子150によれば、膨張抑制部材として第一電気伝導体151、第二電気伝導体152、および溶融層153を収容する容器を利用できるため、短絡素子150が誤作動することを低減でき、耐振動性や耐衝撃性が求められる用途においても、所定温度未満の環境下では短絡素子は安定した絶縁性能を維持できる。
 
【0076】
  また、本実施の形態に係る短絡素子150によれば、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152は、メッシュ状の金属部材で構成されるため、表面積を大きく確保でき、かつ、融解した低融点合金156をメッシュ状の金属部材の内部に形成されている隙間に保持しやすい構造である。このように、メッシュ状の金属部材により構成される第一電気伝導体151および第二電気伝導体152は、融解した低融点合金156と接触した場合に、融解した低融点合金156を保持したまま維持できるため、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが電気的に接続された状態を維持できる。このため、蓄電素子に異常が発生して蓄電素子が高温になった場合に、短絡素子150は、速やかに第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを電気的に接続することができる。また、短絡素子150は、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが電気的に接続された状態を維持することができるため、安定的に蓄電素子のエネルギーを放出させることができる。なお、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152の両方をメッシュ状の金属部材としているが、これに限らずに、いずれか一方であっても上述した効果はある。
 
【0077】
  また、本実施の形態に係る短絡素子150によれば、低融点合金層155は、低融点合金156の低融点合金層155の厚み方向に垂直な方向の外側に枠状部材157が設けられるため、蓄電素子10に異常が発生して蓄電素子10が高温になった場合に、融解した低融点合金156が通常時における溶融層の位置の外側に流出することを防ぐことができる。枠状部材157が弾性材料から構成されれば、熱膨張部材158により圧力がかかった場合であっても、圧力に応じて収縮できるため、融解した低融点合金156が枠状部材157の外側に流出することを防ぐことができる。
 
【0078】
  また、本実施の形態に係る短絡素子150によれば、絶縁体フィルム154には孔が形成されており、低融点合金層155が融解して絶縁体フィルム154の孔に流入することにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とを短絡させる。このため、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152との電気的に接続される部分を多くすることができ、より確実に短絡させることができる。また、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが電気的に接続される箇所を増やすことができるため、より多くの電流を流すことができる。したがって、電極体の正極側と負極側とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。
 
【0079】
  (実施の形態の変形例)
  (1)
  上記実施の形態に係る短絡素子150は、蓄電素子10の蓄電容器100の内部に設けられているが、これに限らずに、蓄電容器100の外部に設けられていてもよい。具体的には、短絡素子150の正極接続部材159の短絡容器161から露出している部分が蓄電素子10の正極端子200に接続され、短絡素子150の負極接続部材160の短絡容器161から露出している部分が蓄電素子10の負極端子300に接続される形態であってもよい。
 
【0080】
  (2)
  上記実施の形態に係る短絡素子150は、短絡容器161が膨張抑制部材として機能しているが、これに限らずに、短絡素子体積が膨張することを抑制できる部材であれば短絡容器161を利用することに限るものではない。膨張抑制部材は、例えば、
図9に示すように、熱膨張部材158のさらに外側、および、第二電気伝導体152のさらに外側に設けられる2枚の板状の挟み込み部261、262と、2枚の板状の挟み込み部261、262の端部に固定され、2枚の板状の挟み込み部261、262の間隔を所定の厚みに対応する距離に維持する距離維持部263とにより構成されるような膨張抑制部材260であってもよい。また、膨張抑制部材は、
図9に示すような2枚の板状の挟み込み部261、262の片側においてのみ、2枚の板状の挟み込み部261、262の間隔を所定の厚みに対応する距離に維持する距離維持部263が設けられているが、
図10に示すように、2枚の板状の挟み込み部361、362の両側に距離維持部363、364を設けるような構成の膨張抑制部材360であってもよい。
 
【0081】
  (3)
  上記実施の形態に係る蓄電素子10では、特に言及していないが、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152の少なくとも一方は、低融点合金層155が溶着または接着されていてもよい。
 
【0082】
  このように、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152のうちの少なくとも一方に低融点合金層155を予め溶着または接着しておくことで、低融点合金層と予め溶着または接着された第一電気伝導体151または第二電気伝導体152と溶融した低融点合金との馴染み性が改善され、電気的接続をより確実にすることができ、より安定的に蓄電素子の短絡を可能とすることができる。このため、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152のうちの少なくとも一方に低融点合金層155を予め溶着または接着する構成は好ましい。
 
【0083】
  また、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152のうちの少なくとも一方に低融点合金層155を予め溶着または接着しておくことで、低融点合金156に熱が伝導しやすくなる。このため、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152のうちの少なくとも一方に低融点合金層155を予め溶着または接着する構成は、速やかに蓄電素子を短絡させることが可能となる。なお、第一電気伝導体と第二電気伝導体のうち、より熱伝導率の高い方に低融点合金層155を予め溶着または接着することにより、電極体120の熱を効率よく低融点合金層155に伝えることができ、より速やかに蓄電素子10を短絡させることができるため好ましい。
 
【0084】
  (4)
  上記実施の形態に係る短絡素子150では、溶融層153の低融点合金層155は、低融点合金156と、枠状部材157とにより構成されるが、低融点合金層155は、枠状部材157が設けられていない構成であってもよい。つまり、短絡素子は、
図11に示すように、枠状部材157がない、絶縁体フィルム154および低融点合金層455からなる溶融層453を有する短絡素子450であってもよい。
図11は、変形例(4)に係る
図4における短絡素子のXI−XI断面図である。
 
【0085】
  (5)
  上記実施の形態に係る短絡素子150では、第一電気伝導体151に正極接続部材159が接続されて、第二電気伝導体152に負極接続部材160が接続される構造であるが、これに限らずに、第一電気伝導体151および正極接続部材159が一体の構造としてもよく、また、第二電気伝導体152および負極接続部材160が一体の構造としてもよい。つまり、
図12に示す短絡素子550のように、第一電気伝導体551と、第二電気伝導体552とが、絶縁体フィルム154および低融点合金層455からなる溶融層453を挟み込む構造であってもよい。
図12は、変形例(5)に係る
図4における短絡素子のXII−XII断面図である。なお、本変形例(5)の短絡素子550では、溶融層453として変形例(4)の構造を採用しているが、枠状部材157を有する溶融層153を採用してもよい。
 
【0086】
  (6)
  上記実施の形態に係る短絡素子150では、溶融層153は、
図6によると、絶縁体フィルム154と低融点合金層155とのX軸方向から視たときの面積が略同一である(つまり、絶縁体フィルム154と低融点合金層155とが互いに接触している側の面の面積は略同一である)が、これに限らない。例えば、
図13に示すように、X軸方向から視たときの面積が、低融点合金層155のより大きい絶縁体フィルム654を採用した溶融層653としてもよい。なお、
図13は、変形例(6)に係る短絡素子の短絡容器を除いた構成要素の分解斜視図である。つまり、絶縁体フィルム654と低融点合金層155とが互いに接触している側の面について、絶縁体フィルム654の面積の方が低融点合金層155の面積よりも大きい。このように、絶縁体フィルム654を構成するにより、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが重なり合う短絡領域の面積よりも絶縁体フィルム654の大きさを大きくすることができるため、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが、上記実施の形態に係る短絡素子150の構成よりもさらに直接接触しにくい構成とすることができる。これにより、振動などの衝撃が与えられるような場合であっても、第一電気伝導体151と第二電気伝導体152とが意図しない条件で短絡することを防ぐことができる。
 
【0087】
  (7)
  上記実施の形態に係る短絡素子150では、溶融層153は、1層の絶縁体フィルム154と1層の低融点合金層155とにより構成されるが、これに限らない。例えば、溶融層は、1層の絶縁体フィルムを2層の低融点合金層が挟み込むように積層された3層構造であってもよい。
 
【0088】
  (8)
  また、例えば図示しないが、溶融層は、低融点合金層を絶縁体コーティングにより包み込むようにコーティングするコーティング構造であってもよい。
 
【0089】
  なお、溶融層がコーティング構造である場合の絶縁体コーティングは、絶縁塗布剤、蝋材、熱収縮フィルム、電気絶縁性の塗料などの材料を採用することが考えられる。
 
【0090】
  より具体的には、絶縁体塗布剤の一例としては、エポキシ系、ウレタン系、シリコン系、アクリル系、またはテフロン(登録商標)系の樹脂がある。この場合に、溶融層は所定温度以上になると、低融点合金層が融解することにより低融点合金層にコーティングされている絶縁体コーティング(絶縁体塗布剤)が断裂および崩壊し、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを低融点合金層が電気的に接続することにより短絡させる。
 
【0091】
  蝋材の一例としては、パラフィン系ワックスがある。この場合に、溶融層は所定温度以上になると、低融点合金層が融解し、さらに絶縁体コーティング(ろう材)が、低融点合金層が融解した後または同時に融解することにより生じた隙間から溶融した合金がしみ出すことにより第一電気伝導体と第二電気伝導体とを低融点合金層が電気的に接続することにより短絡させる。
 
【0092】
  熱収縮フィルムの一例としては、ポリスチレン系またはポリエステル系のフィルムがある。この場合に、溶融層は所定温度以上になると、絶縁体コーティング(熱収縮フィルム)が熱収縮することにより、絶縁体コーティングに隙間が生じる。同時に、溶融層においては、低融点合金層が融解していることから、絶縁体コーティングに生じた隙間に融解した低融点合金層が流入し、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを低融点合金層が電気的に接続することにより短絡させる。
 
【0093】
  電気絶縁性の塗料の場合には、溶融層は、絶縁体塗布剤の場合と同様に作用して、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを短絡させる。
 
【0094】
  変形例(5)の短絡素子によれば、絶縁体コーティングの一部または全部が変形することにより、絶縁体コーティングに融解した低融点合金層が流入可能な隙間が絶縁体コーティングに生じる。このため、溶融層は、所定温度以上となった場合に、第一電気伝導体と第二電気伝導体とを効率よく短絡させることができる。これにより、第一電気伝導体と第二電気伝導体との電気的に接続される箇所を多くすることができ、より多くの電流を流すことができる。したがって、正極端子と負極端子とを確実に短絡させて安定的に放電させることができる。また、変形例(5)のような絶縁体コーティングにより低融点合金層をコーティングして溶融層を構成する場合、上記実施の形態の溶融層よりも安価に製造可能である。
 
【0095】
  (9)
  上記実施の形態に係る短絡素子150では、第一電気伝導体151と、溶融層153と、第二電気伝導体152とが平面状に積層されているが、これに限らない。
 
【0096】
  例えば、短絡素子は、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが溶融層を介して積層された状態で捲回されることにより形成される捲回構造であってもよいし、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが溶融層を介して積層された状態で蛇腹状に折りたたまれることにより形成される折り畳み構造であってもよい。
 
【0097】
  このように、捲回構造または折り畳み構造となるように短絡素子を構成することにより、溶融層が所定温度以上となって低融点合金層が融解した場合に、第一電気伝導体と第二電気伝導体とが接触する面積を大きくすることができ、より大きな短絡電流を流すことができる。
 
【0098】
  (10)
  上記実施の形態に係る短絡素子150では、短絡素子150、250を短絡させる所定温度は、70〜250℃としているが、例えば、蓄電素子10のセパレータ124、125のシャットダウン温度以下であることが好ましい。これにより、蓄電素子10がセパレータ124、125によりシャットダウンする以前に短絡素子150、250が短絡することにより蓄電素子10に蓄えられたエネルギーを放出させることができる。このため、より低温度な状態であって、かつ速やかに蓄電素子10のエネルギーを放出させることができる。
 
【0099】
  (11)
  上記実施の形態に係る短絡素子150では、第一電気伝導体151はアルミニウムからなり、かつ、第二電気伝導体152は銅からなるが、これに限らずに、熱伝導性が高いものであればよい。例えば、第一電気伝導体151および第二電気伝導体152の少なくともどちらか一方が、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、ニクロムおよび他の金属材料の中から選択できる。また、同様に、正極接続部材159および負極接続部材160についても同様のことが言える。
 
【0100】
  (12)
  上記実施の形態の蓄電素子10では、特に言及していないが、さらに、例えば蓄電素子10の表面に一定温度以上になったら色が変化するサーモテープを貼ってもよい。このように、蓄電素子10を構成することにより、サーモテープの色の変化を、蓄電素子10に異常が発生して短絡素子150が作動したか否かを判定するための指標に利用することができる。
 
【0101】
  (13)
  上記実施の形態の短絡素子150は、一つの蓄電素子10の正極側と負極側とを短絡させるものであるが、一つの蓄電素子10に限らずに、複数の蓄電素子10を組み合わせたものに対して適用してもよい。例えば、
図14に示す蓄電素子システム500のように、蓄電素子10の複数の各端子を端子接続部材501により直列に接続した構成であってもよい。また、
図14のような直列に接続した蓄電素子システム500に限らずに複数の蓄電素子10を並列に接続することによる蓄電素子システムとしてもよいし、直列接続と並列接続とが組み合わされた蓄電素子システムとしてもよい。
 
【0102】
  また、内部に短絡素子150が設けられていない蓄電素子の複数の組み合わせた蓄電素子モジュールの全体に短絡素子150を設けた構成の蓄電素子システムとしてもよい。この場合、短絡素子150は蓄電素子モジュールの正極側と負極側とに接続されることになる。