特許第5958150号(P5958150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958150
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】エンジン冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
   F01P7/16 502M
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-165026(P2012-165026)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-25381(P2014-25381A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】松坂 正宣
(72)【発明者】
【氏名】弓指 直人
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−054440(JP,A)
【文献】 特開2005−098153(JP,A)
【文献】 特開平10−317967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの冷却水がラジエータを経由して流通する第1流路と、
前記エンジンからの冷却水が前記ラジエータを迂回して流通する第2流路と、
前記第1流路のうちの前記ラジエータの下流の流路部分と前記第2流路とが合流し、この合流部から下流に位置して前記エンジンに連通する合流路と、
前記合流路の冷却水を前記エンジンに還流させる循環ポンプと、
前記合流部における冷却水により加熱される感温部、および、前記感温部の加熱状態により前記第1流路の前記合流部への合流部分を開閉する弁体を備えたサーモスタット弁と、
前記第1流路のうちの前記ラジエータの下流の部位から分岐し、前記サーモスタット弁を迂回して前記合流路に連通するバイパス流路と、
前記バイパス流路を開閉可能なバイパス弁と、
前記バイパス弁の開閉作動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記冷却水の温度が前記サーモスタット弁が開弁する第2温度よりも低い予め設定した第1温度になると前記バイパス弁を開弁し、前記冷却水の温度が前記第2温度以上になると前記バイパス弁を閉弁するように構成してあるエンジン冷却装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記冷却水の温度が許容上限温度である第3温度以上になったときに、前記バイパス弁を開弁するように構成してある請求項に記載のエンジン冷却装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記バイパス弁が開弁状態あるいは閉弁状態にあるときに、夫々の状態に応じて予め設定した制御マップに基づいて前記循環ポンプを運転するように構成してある請求項1又は2に記載のエンジン冷却装置。
【請求項4】
前記バイパス弁の開弁状態における前記循環ポンプの最大出力を、前記バイパス弁の閉弁状態における前記循環ポンプの最大出力よりも小さく設定してある請求項からの何れか一項に記載のエンジン冷却装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記エンジンの始動後における冷却水温度の上昇実績に基づいて現在から所定時間経過後の冷却水温度を予測し、現在の冷却水温度が前記サーモスタット弁が開弁する第2温度よりも低い場合で、予測温度が許容上限温度である第3温度よりも高くなったときに、前記バイパス弁を開弁するように構成してある請求項に記載のエンジン冷却装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記エンジンの始動後における出力実績に基づいて冷却水の予測到達温度を演算し、現在の冷却水温度が前記サーモスタット弁が開弁する第2温度よりも低い場合で、前記予測到達温度が許容上限温度である第3温度よりも高くなったときに、前記バイパス弁を開弁するように構成してある請求項に記載のエンジン冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの冷却水がラジエータを経由して流通する第1流路と、前記エンジンからの冷却水が前記ラジエータを迂回して流通する第2流路と、前記第1流路のうちの前記ラジエータの下流の流路部分と前記第2流路とが合流し、この合流部から下流に位置して前記エンジンに連通する合流路と、前記合流路の冷却水を前記エンジンに還流させる循環ポンプと、前記合流部における冷却水により加熱される感温部、および、前記感温部の加熱状態により前記第1流路の前記合流部への合流部分を開閉する弁体を備えたサーモスタット弁とを備えたエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記エンジン冷却装置は、例えばエンジン始動後の暖機運転などの冷却水温度が低い運転状態では、第1流路の合流部への合流部分をサーモスタット弁の弁体で閉じておいて、ラジエータを迂回する第2流路の冷却水のみを合流部に流入させてエンジンに還流させる。
そして、冷却水温度の上昇に伴う感温部の加熱により合流部分を開いて、例えば暖機運転終了後の冷却水温度が高い運転状態では、第1流路及び第2流路の冷却水を合流部から合流路に流入させてエンジンに還流させる。
従来のエンジン冷却装置は、第1流路の冷却水を、第1流路の合流部への合流部分のみを通して合流路に流入可能に構成してある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−180779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーモスタット弁の感温部は、合流部における冷却水によって徐々に加熱されるので、第1流路の合流部への合流部分を開く弁体は、冷却水温度の上昇に伴って開弁側に徐々に移動する。
このため、ラジエータを通過する第1流路の冷却水流量は、弁体が開弁側に移動するに伴って徐々に増大する。
したがって、例えばエンジン負荷の急増により冷却水温度が急上昇して、ラジエータを通過する冷却水流量を早急に増大させたい場合でも、弁体が最大開弁位置に移動するまでのタイムラグが生じ、タイミング良く増大させることができないおそれがある。
【0005】
このタイムラグを小さくするために、例えば感温部が弁体の移動を開始させる冷却水温度(開弁温度)を低く設定しておくことが考えられる。
しかしながら、この場合は、エンジン負荷が急増しない通常運転状態における冷却水温度が必要以上に低下して、燃費が悪化したり排ガス中の大気汚染物質が増大するなどの問題が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、第1流路の冷却水を冷却水温度に応じたサーモスタット弁の作動で合流路に流入させ得る簡便な構成を採用しながら、ラジエータを通過する冷却水流量をタイミング良く増大させることができるエンジン冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるエンジン冷却装置の特徴構成は、エンジンからの冷却水がラジエータを経由して流通する第1流路と、前記エンジンからの冷却水が前記ラジエータを迂回して流通する第2流路と、前記第1流路のうちの前記ラジエータの下流の流路部分と前記第2流路とが合流し、この合流部から下流に位置して前記エンジンに連通する合流路と、前記合流路の冷却水を前記エンジンに還流させる循環ポンプと、前記合流部における冷却水により加熱される感温部、および、前記感温部の加熱状態により前記第1流路の前記合流部への合流部分を開閉する弁体を備えたサーモスタット弁と、前記第1流路のうちの前記ラジエータの下流の部位から分岐し、前記サーモスタット弁を迂回して前記合流路に連通するバイパス流路と、前記バイパス流路を開閉可能なバイパス弁と、前記バイパス弁の開閉作動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記冷却水の温度が前記サーモスタット弁が開弁する第2温度よりも低い予め設定した第1温度になると前記バイパス弁を開弁し、前記冷却水の温度が前記第2温度以上になると前記バイパス弁を閉弁するように構成してある点にある。
【0008】
本構成のエンジン冷却装置は、前記第1流路のうちの前記ラジエータの下流の部位から分岐し、前記サーモスタット弁を迂回して前記合流路に連通するバイパス流路と、前記バイパス流路を開閉可能なバイパス弁と、前記バイパス弁の開閉作動を制御する制御部とを備えている。
【0009】
このため、バイパス弁を必要に応じて開作動させることにより、第1流路の冷却水をサーモスタット弁を迂回してバイパス流路から合流路に流入させて、ラジエータを通過する冷却水流量を増大させることができる。
また、バイパス流路は、第1流路の冷却水を、感温部を加熱する合流部よりも下流に位置する合流路に流入させるので、バイパス流路からの冷却水が感温部の加熱温度を低下させるおそれが低い。
このため、弁体が合流部分を開く速度が低下して、合流部分から合流部への冷却水の流入が阻害されるようなおそれが少ない。
さらに、冷却水の温度がサーモスタット弁が開弁する第2温度よりも低い予め設定した第1温度になるとバイパス弁を開弁するので、第1流路の冷却水を、サーモスタット弁が開弁するよりも先に合流路に流入させて、ラジエータを通過する冷却水流量を積極的に増大させることができる。また、冷却水の温度が第2温度以上になれば、サーモスタット弁が開弁するので、バイパス弁を閉弁することにより、第1流路の冷却水の全量を合流部分を通して合流部に流入させることができ、第1流路の流通状態はサーモスタット弁によって調節されるようになる。このサーモスタット弁の調節機能を最適に発揮させるために、第2温度以上の場合にはバイパス弁を閉弁しておくのが好ましい。
したがって、本構成のエンジン冷却装置であれば、第1流路の冷却水を冷却水温度に応じたサーモスタット弁の作動で合流路に流入させ得る簡便な構成を採用しながら、ラジエータを通過する冷却水流量をタイミング良く増大させることができる。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
他の特徴構成は、前記制御部は、前記冷却水の温度が許容上限温度である第3温度以上になったときに、前記バイパス弁を開弁するように構成してある点にある。
【0017】
本構成であれば、第1流路の冷却水が合流部分を通して合流部に流入している状態で冷却水温度が大きく上昇したときに、第1流路の冷却水の一部をバイパス流路を通して合流路に流入させることにより、ラジエータを通過する冷却水流量を増大させて、ラジエータによる冷却能力の向上を図ることができる。
【0018】
他の特徴構成は、前記制御部は、前記バイパス弁が開弁状態あるいは閉弁状態にあるときに、夫々の状態に応じて予め設定した制御マップに基づいて前記循環ポンプを運転するように構成してある点にある。
【0019】
本構成であれば、ラジエータを通過する冷却水流量が多くなり易いバイパス弁の開弁状態と、ラジエータを通過する冷却水流量が少なくなり易いバイパス弁の閉弁状態とに応じて、循環ポンプを適切に作動させることができる。
【0020】
他の特徴構成は、前記バイパス弁の開弁状態における前記循環ポンプの最大出力を、前記バイパス弁の閉弁状態における前記循環ポンプの最大出力よりも小さく設定してある点にある。
【0021】
本構成であれば、バイパス弁の開弁状態における循環ポンプの吐出量の増大に起因する冷却水温度の急激な低下を防止することができる。
【0022】
他の特徴構成は、前記制御部は、前記エンジンの始動後における冷却水温度の上昇実績に基づいて現在から所定時間経過後の冷却水温度を予測し、現在の冷却水温度が前記サーモスタット弁が開弁する第2温度よりも低い場合で、予測温度が許容上限温度である第3温度よりも高くなったときに、前記バイパス弁を開弁するように構成してある点にある。
【0023】
本構成であれば、エンジンの始動後における冷却水温度の上昇実績に基づいて、ラジエータを通過する冷却水流量をタイミング良く増大させて、冷却水温度が許容上限温度を越えて上昇する事態を防止することができる。
【0024】
他の特徴構成は、前記制御部は、前記エンジンの始動後における出力実績に基づいて冷却水の予測到達温度を演算し、現在の冷却水温度が前記サーモスタット弁が開弁する第2温度よりも低い場合で、前記予測到達温度が許容上限温度である第3温度よりも高くなったときに、前記バイパス弁を開弁するように構成してある点にある。
【0025】
本構成であれば、エンジンの始動後における出力実績に基づいて、ラジエータを通過する冷却水流量をタイミング良く増大させて、冷却水温度が許容上限温度を越えて上昇する事態を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】エンジン冷却装置の冷却回路図である。
図2】サーモスタット弁とバイパス弁とが共に閉じ状態における、サーモスタット装置の内部を示す模式図である。
図3】サーモスタット弁が閉じ状態でバイパス弁が開状態における、サーモスタット装置の内部を示す模式図である。
図4】サーモスタット弁が開状態でバイパス弁が閉じ状態における、サーモスタット装置の内部を示す模式図である。
図5】サーモスタット弁とバイパス弁とが共に開状態における、サーモスタット装置の内部を示す模式図である。
図6】循環ポンプの制御マップを示すグラフである。
図7】制御部による制御動作を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態の制御部による制御動作を示すフローチャートである。
図9】冷却水温度の予測方法を説明するタイムチャートである。
図10】所定温度の設定方法を説明するグラフである。
図11】第2実施形態の制御部による制御動作を示すフローチャートである。
図12】予測到達温度の演算方法を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、自動車用エンジン(内燃機関)AのシリンダブロックA1及びシリンダヘッドA2を冷却する本発明によるエンジン冷却装置Bの冷却回路図を示す。
【0028】
エンジン冷却装置Bは、エンジンAの冷却水を冷却するラジエータ3と、エンジンAからの冷却水がラジエータ3を経由して通流する第1流路1と、エンジンAからの冷却水がラジエータ3を迂回して通流する第2流路2と、第1流路1及び第2流路2の冷却水を冷却水温度thwに応じて合流させて混合するサーモスタット装置Cと、サーモスタット装置Cを通過した冷却水をエンジンAに還流させる循環ポンプ5と、循環ポンプ5の作動を制御する制御部6とを備えている。
【0029】
ラジエータ3は、第1流路1の途中に接続してある。第2流路2の途中には、エンジンAの冷却水で加熱されるヒータコアやエンジンAの冷却水で冷却されるEGRクーラー等の熱交換器を有する熱移動デバイス7を接続してある。
【0030】
循環ポンプ5は、本実施形態では、エンジン回転数に依存することなく吐出力(吐出量)を変更することが可能な電動式ウオータポンプで構成してあるが、メカ式可変ウオータポンプで構成してあってもよい。
循環ポンプ5は、冷却水をシリンダブロックA1に形成してあるウオータジャケット
(図示せず)のエンジン入口に圧入する。
エンジン入口に圧入されてシリンダブロックA1のウオータジャケットを通った冷却水は、シリンダヘッドA2に形成してあるウオータジャケット(図示せず)を通ってエンジン出口から第1流路1及び第2流路2に流入し、サーモスタット装置Cを経由して循環ポンプ5に吸入され状態で循環する。
【0031】
サーモスタット装置Cは、図2図5に示すように、サーモスタット弁8及びバイパス弁9を装備してある樹脂製の弁ユニット4を備えている。
制御部6は、循環ポンプ5の作動に加えて、エンジンAの運転状態に応じたバイパス弁9によるバイパス流路12の開閉作動を制御する。
【0032】
図2は、サーモスタット弁8及びバイパス弁9が閉弁状態のサーモスタット装置Cを示し、第2流路2の冷却水のみが合流部10に流入して、合流路11から循環ポンプ5に流入する。
図3は、サーモスタット弁8が閉弁状態でバイパス弁9が開弁状態のサーモスタット装置Cを示し、バイパス流路12からの第1流路1の冷却水と、合流部10からの第2流路2の冷却水とが合流路11で合流して循環ポンプ5に流入する。
図4は、サーモスタット弁8が開弁状態でバイパス弁9が閉弁状態のサーモスタット装置Cを示し、合流部分1bからの第1流路1の冷却水と第2流路2の冷却水とが合流部10で合流して、合流路11から循環ポンプ5に流入する。
図5は、サーモスタット弁8及びバイパス弁9が開弁状態のサーモスタット装置Cを示し、合流部分1b及びバイパス流路12からの第1流路1の冷却水と第2流路2の冷却水とが、合流路11から循環ポンプ5に流入する。
なお、バイパス流路12は、合流路11よりも小径に形成されている。
【0033】
弁ユニット4は、第1流路1の下流側に接続する第1接続路1aと、第2流路2の下流側に接続する第2接続路2aと、第1流路1のうちのラジエータ3の下流の流路部分と第2流路2とが第1接続路1a及び第2接続路2aを介して合流する大径の合流部10と、この合流部10から下流に位置してエンジンAに連通する合流路11と、第1流路1のうちのラジエータ3の下流の部位から分岐されて、サーモスタット弁8を迂回して合流路11に連通するバイパス流路12とを有している。
合流路11は、合流部10よりも小径に形成されている。バイパス流路12は、第1接続路1aの冷却水を、サーモスタット弁8を迂回して合流路11に流入させる。
循環ポンプ5は、合流路11を通過した冷却水をエンジンAに還流させる。
【0034】
サーモスタット弁8は、合流部10における冷却水により加熱・冷却されて伸縮する感温部8aと、感温部8aの一端側に固定されて、感温部8aの加熱状態により第1流路1の第1接続路1aを介する合流部10への合流部分1bを開閉する弁体8bと、感温部8aの他端側を合流部10内の一定位置に保持する保持部材8cと、弁体8bの移動方向を案内するガイド棒8dと、弁体8bが合流部分1bを閉じる側に移動するように付勢する圧縮コイルバネ8eとを有している。
ガイド棒8dは、合流部分1bを通して第1接続路1aの内側に入り込むように配設してある。圧縮コイルバネ8eは、弁体8bと保持部材8cとの間に装着してある。
【0035】
感温部8aには、冷却水の温度に応じて体積変化するワックスなどの熱膨張体を収納してある。
弁体8bは、感温部8aの加熱による収縮で、図4図5に示すように、圧縮コイルバネ8eの付勢力に抗して合流部分1bを開く側に移動し、感温部8aの冷却よる伸長で、図2図3に示すように、合流部分1bを閉じる側に移動して、圧縮コイルバネ8eの付勢力で合流部分1bを密閉する。
【0036】
バイパス流路12の途中箇所には、通電によりバイパス流路12を開く常閉型の電磁弁で構成されたバイパス弁9を装着してある。
制御部6は、エンジン出口における冷却水温度thwとして、バイパス弁9が開弁するときの冷却水温度(第1温度:以下、バイパス弁開弁温度という)T1と、サーモスタット弁8の弁体8bが合流部分1bを開く側に移動するときの冷却水温度(第2温度:以下、サーモスタット弁開弁温度という)T2と、エンジン水温の許容上限温度(第3温度)T3とをメモリに予め記憶している。
バイパス弁開弁温度T1は、サーモスタット弁開弁温度T2よりも低い温度に予め設定してある。
【0037】
図4に示すようにサーモスタット弁8が開弁状態でバイパス弁9が閉弁状態にあるときは、ラジエータ3を通過した第1流路1の冷却水が合流部分1bからのみ合流路11に流入するので、冷却水温度thwが上昇し易い。
【0038】
また、図5に示すようにサーモスタット弁8及びバイパス弁9とが開弁状態にあるときは、ラジエータ3を通過した第1流路1の冷却水が合流部分1b及びバイパス流路12から合流路11に流入するので、ラジエータ3を通過する冷却水流量が増大して冷却水温度thwが低下し易い。 これらの状態が変更されるタイミングについては後述する。
【0039】
このため、図6に示すように、バイパス弁9が開弁状態にあるときと、閉弁状態にあるときとの夫々の状態に応じて予め設定した循環ポンプ5の制御マップM1,M2がメモリに記憶されている。
制御マップM1,M2は、エンジン出口における冷却水温度thwと循環ポンプ5の出力との相関関係を設定したものである。
図6において、制御マップM1は、バイパス弁9が閉弁状態にあるときの制御マップであり、制御マップM2は、バイパス弁9が開弁状態にあるときの制御マップである。
【0040】
すなわち、制御部6は、冷却水温度thwがバイパス弁開弁温度T1に達するまでは、一定の開始出力で循環ポンプ5を運転する。
そして、バイパス弁開弁温度T1に達した後は、バイパス弁9の閉弁状態と開弁状態との夫々に対応する制御マップM1,M2に基づいて、循環ポンプ5を運転する。
【0041】
バイパス弁9の閉弁状態に対応する制御マップM1では、冷却水温度thwがバイパス弁開弁温度T1に達するまでは一定の開始出力で循環ポンプ5を運転し、冷却水温度thwがバイパス弁開弁温度T1に達すると、許容上限温度T3に達したときに100%の最大出力M1max になるように一定の増加率で出力を増大させながら循環ポンプ5を運転する。
【0042】
一方、バイパス弁9の開弁状態に対応する制御マップM2では、冷却水温度thwがバイパス弁開弁温度T1に達した後も一定の開始出力による循環ポンプ5の運転を維持する。冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2に達すると、許容上限温度T3に達したときに100%未満の最大出力M2max になるように一定の増加率で出力を増大させながら循環ポンプ5を運転する。
したがって、バイパス弁9の開弁状態における循環ポンプ5の最大出力M2max を、バイパス弁9の閉弁状態における循環ポンプ5の最大出力M1max よりも小さく設定してある。
【0043】
循環ポンプ5及びバイパス弁9の制御部6による制御動作を、図7のフローチャートを参照しながら説明する。
エンジンAが始動されると、暖機運転を行うために図2に示すようにバイパス弁9が閉弁状態で(ステップ#1)、制御マップM1による一定の開始出力で循環ポンプ5の運転を開始する(ステップ#2)。
【0044】
冷却水温度thwがバイパス弁開弁温度T1以上になると、図3に示すようにバイパス弁9を開弁させて(ステップ#3,4)、制御マップM2による循環ポンプ5の運転に移行し(ステップ#5)、一定の開始出力による循環ポンプ5の運転を維持する。
したがって、第1流路1の冷却水をサーモスタット弁8を迂回してバイパス流路12から合流路11に流入させて、ラジエータ3を通過する冷却水流量を増大させることができる。
【0045】
そして、冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2以上になると、図4に示すようにバイパス弁9を閉弁させて(ステップ#6,7)、制御マップM1による循環ポンプ5の運転に戻る(ステップ#8)。
つまり、制御マップM1におけるサーモスタット弁開弁温度T2に対応する出力から、一定の増加率で100%の最大出力M1max になるまで増大させる。
【0046】
冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2以上になれば、バイパス弁9が閉弁すると共にサーモスタット弁8が開弁するので、第1流路1の冷却水の全量が合流部分1bを通して合流部10に流入し、第1流路1の流通状態はサーモスタット弁8によって調節されるようになる。このサーモスタット弁8の調節機能を最適に発揮させるために、サーモスタット弁開弁温度T2以上の場合にはバイパス弁9を閉弁しておくのが好ましい。
【0047】
そして、冷却水温度thwが許容上限温度T3に達すると(ステップ#9)、図5に示すようにバイパス弁9を開弁して(ステップ#10)、ラジエータ3を通過する冷却水流量を増大させ、冷却水の過大な温度上昇を防止する。
したがって、第1流路1の冷却水が合流部分1bを通して合流部10に流入している状態で冷却水温度thwが大きく上昇したときに、第1流路1の冷却水の一部がバイパス流路12を通して合流路11に流入する。よって、ラジエータ3を通過する冷却水流量を増大させて、ラジエータ3による冷却能力の向上を図ることができる。
【0048】
〔第2実施形態〕
図8は、制御部6による制御動作の別実施形態を示すフローチャートである。
本実施形態では、冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2未満のときに(ステップ#20)、図9に示すように、エンジンAの始動後における冷却水温度thwの上昇実績に基づいて、現在時刻TM0以降の冷却水温度(以下、予測冷却水温度という)T4を予測する。
【0049】
具体的には、現在時刻TM0から所定時間t1が経過した時刻TM1における予測冷却水温度T4を求め、この予測冷却水温度T4が許容上限温度T3よりも高くなったときに、現在時刻TM0においてバイパス弁9を開弁する(ステップ#21,22、図3)。
【0050】
尚、第1実施形態では、バイパス弁9は、冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2に達した時点で閉弁したが、本実施形態では、冷却水温度thwが許容上限温度T3を超える可能性があると演算された時点で開弁する。よって、バイパス弁9が開弁されるときの実際のバイパス弁開弁温度T1は一定ではない。
【0051】
この結果、一旦開弁したバイパス弁9をどのタイミングで閉弁するかが問題となる。
仮に、冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2に達した時点でバイパス弁9を閉じるように設定してある場合、バイパス弁9を開いたときの冷却水温度thwが比較的低温であれば、その温度とサーモスタット弁開弁温度T2との温度差が大きなものとなる。
【0052】
しかし、バイパス弁9を開弁することで冷却水温度thwが上昇する程度が緩和されるので、冷却水温度thwが実際にサーモスタット弁開弁温度T2に上昇するのに長時間を要する場合が生じる。
これは、結果的にエンジン温度の上昇を抑えることになり、暖機運転が早期に終了できないケースも生じるから妥当ではない。
【0053】
よって、本実施形態では、前述の許容上限温度T3を超えると演算した時点で、サーモスタット弁開弁温度T2に達すると予測される時間に基づいてバイパス弁9を閉じることとする。つまり、図9において予測冷却水温度T4を示す破線がサーモスタット弁開弁温度T2となる時間t2においてバイパス弁9を閉弁することとする(ステップ♯23,24)。
【0054】
すなわち、図9に示すように、冷却水温度thwの現在時刻TM0までの経時変化に基づいて、現在時刻TM0における水温傾き(過去所定時間の水温上昇率)dthw/dtを演算する。 そして、現在時刻TM0以降の冷却水温度thwがその水温傾きdthw/dtで上昇すると仮定して、現在時刻TM0における冷却水温度thwと、水温傾きdthw/dtに現在時刻TM0からの経過時間tを乗じた温度上昇分(dT/dt)×tとを加算した温度(thw+(dT/dt)×t)を予測冷却水温度T4とする。
【0055】
所定時間t1は、図10に示すように、現在時刻TM0における冷却水温度thwと、水温傾きdthw/dtの大きさとに応じて、冷却水温度thwが同じであっても、水温傾きdthw/dtが大きいほど短い所定時間t1を設定する。
【0056】
すなわち、現在時刻TM0における冷却水温度thwと所定時間t1との相関関係が水温傾きdthw/dtの大きさに応じて予め設定されており、演算した水温傾きdthw/dtに対応する冷却水温度thwと所定時間t1との相関関係を使用して所定時間t1を設定する。
【0057】
このように冷却水温度thwの傾きと許容上限温度T3との関係に応じてバイパス弁9を開弁することで、冷却水温度thwが許容上限温度T3を超えるのを確実に防止することができる。本発明では、サーモスタット弁8が開弁する前に冷却水温度thwの上昇幅を演算し、サーモスタット弁8の開弁に先立ってバイパス弁9を開弁することで冷却水温度thwが過大に上昇するのを防止するものである。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0058】
〔第3実施形態〕
図11は、制御部6による制御動作の別実施形態を示すフローチャートである。
本実施形態では、現在の冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2未満のときに(ステップ#30)、図12に示すように、エンジンAの始動後における出力実績に基づいて冷却水の予測到達温度T5を演算する。
【0059】
すなわち、エンジンAの始動からのエンジン出力を積算し、そのエンジン出力積算値ΣPeに温度変換係数(エンジン出力を温度に変換する係数)Kを乗じた値(ΣPe×K)と、現在の冷却水温度thwとを加算した値(thw+ΣPe×K)を予測到達温度T5とする。
【0060】
そして、予測到達温度T5がエンジン水温の許容上限温度T3よりも高くなったときに、図3に示すようにバイパス弁9を開弁するとともに(ステップ#31,32)、エンジン出力積算値ΣPeをリセットし(ステップ#33)、実際の冷却水温度thwがサーモスタット弁開弁温度T2に達すると図4に示すようにバイパス弁9を閉弁する(ステップ#34,35)。
【0061】
尚、本実施形態では、エンジン出力積算値ΣPeに基づいて冷却水の予測到達温度T5を演算するので、冷却水温度thwが許容上限温度T3を超えると予測された時点で、エンジンAからは所定の発熱があることが予定される。このため、本実施形態におけるバイパス弁9の閉じタイミングは、図12に示すように、冷却水温度thwが実際にサーモスタット弁開弁温度T2になった時点で閉じることとする。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0062】
〔その他の実施形態〕
本発明によるエンジン冷却装置は、制御部6からの指令により流量を調節可能なバイパス弁9をバイパス流路12に接続してあってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によるエンジン冷却装置は、各種エンジンの冷却に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 第1流路
1b 合流部分
2 第2流路
3 ラジエータ
5 循環ポンプ
6 制御部
8 サーモスタット弁
8a 感温部
8b 弁体
9 バイパス弁
10 合流部
11 合流路
12 バイパス流路
A エンジン
M1,M2 制御マップ
M1max ,M2max 最大出力
T1 第1温度
T2 第2温度
T3 第3温度(許容上限温度)
T4 予測温度
T5 予測到達温度
thw 冷却水温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12