特許第5958207号(P5958207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958207
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】ダイカスト方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/00 20060101AFI20160714BHJP
   B22D 17/20 20060101ALI20160714BHJP
   B22D 17/30 20060101ALI20160714BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20160714BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20160714BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   B22D17/00 Z
   B22D17/20 Z
   B22D17/30 Z
   B22D1/00 Z
   B22D21/04 A
   B22D27/20 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-198316(P2012-198316)
(22)【出願日】2012年9月10日
(65)【公開番号】特開2014-50872(P2014-50872A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155767
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 憲志
(72)【発明者】
【氏名】井上 一也
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−112244(JP,A)
【文献】 特開昭58−090350(JP,A)
【文献】 特開2002−210542(JP,A)
【文献】 米国特許第05171378(US,A)
【文献】 特開平07−124696(JP,A)
【文献】 特開昭63−036959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/00,18/00,27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティが形成された金型と、内部空間を有するように円筒状に形成され、その一方端側で前記キャビティに連通する射出スリーブと、前記射出スリーブ内に移動可能に配設されたプランジャチップとを備えるダイカストマシンを用いたアルミニウム製品のダイカスト方法であって、
前記射出スリーブ内に、アルミニウムとテルミット反応を引き起こす金属酸化物粉末を供給する金属酸化物供給工程と、
前記金属酸化物粉末が供給された前記射出スリーブ内にアルミニウム溶湯を供給する溶湯供給工程と、
前記射出スリーブの前記一方端側に向けて前記プランジャチップを低速移動させることにより、前記射出スリーブ内に供給されたアルミニウム溶湯を前記射出スリーブの前記一方端側に移動させるプランジャ低速移動工程と、
前記射出スリーブの前記一方端側に向けて前記プランジャチップを高速移動させることにより、前記プランジャ低速移動工程にて前記射出スリーブの前記一方端側に移動されたアルミニウム溶湯を前記キャビティ内に射出するプランジャ高速移動工程と、
を含む、ダイカスト方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダイカスト成形方法において、
前記金属酸化物供給工程は、前記射出スリーブの内部空間を減圧させた状態で、前記射出スリーブの前記一方端側から前記射出スリーブ内に前記金属酸化物粉末を供給する工程である、ダイカスト成形方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアルミダイカスト成形方法において、
前記射出スリーブにはアルミニウム溶湯を供給するための溶湯供給口が形成されており、前記金属酸化物供給工程では、前記溶湯供給口が塞がれている、アルミダイカスト成形方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミダイカスト成形方法において、
前記金属酸化物粉末は、二酸化ケイ素粉末である、アルミダイカスト成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイカスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト成形に用いられる金型のキャビティが薄いと、キャビティ内に射出される金属溶湯の単位射出量あたりにおける金型(キャビティ壁面)への金属溶湯の接触面積が大きいので、射出された金属溶湯は金型によって急速に冷却されて凝固する。凝固速度が極端に速い場合、金属溶湯がキャビティに行き渡る前に凝固し、部分的に欠損した製品が不良製品として成形される。斯かる不具合の発生を抑えるために、キャビティ内に射出された金属溶湯が凝固するまでの時間を延ばして金属溶湯がキャビティの全領域に確実に行き渡るようにし、精度の良好な薄肉鋳造品を得るための技術が提案されている。
【0003】
特許文献1は、金属溶湯に溶け込むことによって金属溶湯の凝固温度を降下させる組成を有する金属材料(例えば亜鉛粒子)を金型のキャビティ内に供給した後に、金属溶湯をキャビティ内に射出することによって鋳造品を成形するダイカスト方法を開示する。特許文献1によれば、キャビティ内に射出された金属溶湯と予めキャビティ内に供給されている金属材料(例えば亜鉛粒子)とが局所的に合金化して金属溶湯の凝固温度が低下する。金属溶湯の凝固温度が低下することにより、キャビティ内に射出された金属溶湯が凝固するまでの時間が延ばされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−112243号公報
【発明の概要】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1によれば、キャビティ内での金属溶湯の凝固温度の低下によって、理論的には金属溶湯が凝固するまでの時間が延びる。しかし、通常、ダイカストにおいては、数十〜数百ミリ秒という短時間でキャビティに金属溶湯が充填され、その後直ちにキャビティ壁面に接触している部分から冷却固化(凝固)していく。この場合において、合金化による凝固温度の低下と、冷却によるアルミニウム溶湯の凝固が同時進行しているので、金属溶湯が合金化する前に金属溶湯の凝固が進行する可能性が高い。特に薄肉成形品を鋳造する場合には凝固の進行が早い。したがって、特許文献1に記載の方法では実質的に金属溶湯が凝固するまでの時間を延ばすことができないと思われる。また、発熱反応を伴わないので、仮に合金化したとしても金型により急速に冷却された場合には、凝固温度の低下による金属溶湯の凝固の遅延効果が小さいと考えられる。さらに、亜鉛粒子等の金属材料をキャビティ内に供給しているので、製品表面にそのような金属材料が付着しても良い製品にしか、適用できない。すなわち、適用可能な製品が限定されてしまう。
【0006】
本発明は、幅広い製品に適用でき、且つ、キャビティ内で金属溶湯が凝固するまでの時間を十分に延ばすことができるダイカスト方法を提供することを目的とする。
【0007】
(課題を解決するための手段)
本発明は、キャビティが形成された金型と、内部空間を有するように円筒状に形成され、その一方端側で前記キャビティに連通する射出スリーブと、前記射出スリーブ内に移動可能に配設されたプランジャチップとを備えるダイカストマシンを用いたアルミニウム製品のダイカスト方法であって、前記射出スリーブ内に、アルミニウムとテルミット反応を引き起こす金属酸化物粉末を供給する金属酸化物供給工程と、前記金属酸化物粉末が供給された前記射出スリーブ内にアルミニウム溶湯を供給する溶湯供給工程と、前記射出スリーブの前記一方端側に向けて前記プランジャチップを低速移動させることにより、前記射出スリーブ内に供給されたアルミニウム溶湯を前記射出スリーブの前記一方端側に移動させるプランジャ低速移動工程と、前記射出スリーブの前記一方端側に向けて前記プランジャチップを高速移動させることにより、前記プランジャ低速移動工程にて前記射出スリーブの前記一方端側に移動されたアルミニウム溶湯を前記キャビティ内に射出するプランジャ高速移動工程と、を含む、ダイカスト方法を提供する。
【0008】
本発明に係るダイカスト方法によれば、溶湯供給工程にて射出スリーブ内にアルミニウム溶湯が供給されてから、プランジャ低速移動工程にて射出スリーブ内のアルミニウム溶湯が射出スリーブの一方端側に移動されるまでの間に、金属酸化物粉末とアルミニウム溶湯とによってテルミット反応が引き起こされて、金属酸化物が還元されるとともにアルミニウムが酸化される。このテルミット反応により生じる反応熱によりアルミニウム溶湯が射出スリーブ内で加熱される。こうして加熱されたアルミニウム溶湯がプランジャ高速移動工程にてキャビティ内に供給される。キャビティ内に供給されたアルミニウム溶湯は金型に熱を奪われて冷却されるが、テルミット反応により生じた反応熱で加熱されているためその冷却速度は遅い。このためキャビティ内でアルミニウム溶湯が凝固するまでの時間を十分に延ばすことができる。
【0009】
また、テルミット反応は主に射出スリーブ内で起こるので、テルミット反応によって生成される金属やアルミニウム酸化物は射出スリーブ内に取り残され、キャビティ内に進入しない。ここで、射出スリーブ内の空間は金型のキャビティに連通しているとはいえ、射出スリーブ内の空間からキャビティまでの間には、通常、ランナや湯口等が設けられ、これらの空間を介して射出スリーブ内の空間がキャビティ空間に連通する。ランナや湯口は非常に狭い空間として形成されるため、テルミット反応で生成した固形物(金属やアルミニウム酸化物)はランナや湯口で堰き止められる。したがって、キャビティ空間にはアルミニウム溶湯のみが供給される。よって、不純物の少ないアルミニウム成形品が生成されるので、幅広いアルミニウム成形品に本発明を適用できる。
【0010】
上記発明において、金属酸化物粉末は、アルミニウムとテルミット反応を引き起こすものであれば、どのようなものでも良い。代表的には、四酸化三鉄(Fe)粉末、二酸化スズ(SnO)粉末、三酸化二クロム(Cr)粉末、酸化ニッケル(NiO)粉末、二酸化ケイ素(SiO)粉末、酸化マンガン(MnO)粉末が、本発明に係る金属酸化物粉末として好適に用いられる。
【0011】
前記金属酸化物供給工程は、前記射出スリーブの内部空間を減圧させた状態で、前記射出スリーブの前記一方端側から前記射出スリーブ内に前記金属酸化物粉末を供給する工程であるのがよい。これによれば、射出スリーブの内部空間が減圧されているので、射出スリーブの一方端側(キャビティに連通している側)から供給される金属酸化物粉末は、キャビティ側へは移動せずに射出スリーブ内に移動する。このため効率的に射出スリーブ内に金属酸化物粉末を供給することができる。この場合、射出スリーブの他方端側に、配管等で吸引ポンプを接続しておき、吸引ポンプを作動させることにより射出スリーブの内部空間を減圧させると良い。これによれば、吸引ポンプの作動によって射出スリーブ内の空気が排出されて減圧されるとともに、射出スリーブの一方端から他方端に向かう気流が射出スリーブ内に発生する。よって、射出スリーブの一方端側から供給された金属酸化物粉末がその流れに乗って射出スリーブ内を移動する。このためより効率的に射出スリーブ内に金属酸化物粉末を供給することができる。
【0012】
また、前記射出スリーブにはアルミニウム溶湯を供給するための溶湯供給口が形成されており、前記金属酸化物供給工程では、前記溶湯供給口が塞がれているのがよい。これによれば、金属酸化物供給工程で供給された金属酸化物粉末がアルミニウム溶湯供給口から外部に放出されることを防止できる。
【0013】
また、前記金属酸化物粉末は二酸化ケイ素粉末であるのがよい。金属酸化物が二酸化ケイ素である場合、アルミニウム溶湯と二酸化ケイ素粉末とがテルミット反応したときに発生する反応熱が非常に大きい。このためキャビティに射出された金属溶湯が凝固するまでの時間をより長く延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るダイカスト方法が適用されるダイカストマシンの概略図である。
図2】準備工程時におけるダイカストマシンを示す図である。
図3】金属酸化物供給工程時におけるダイカストマシンを示す図である。
図4】溶湯供給口開放工程時におけるダイカストマシンを示す図である。
図5】溶湯供給工程時におけるダイカストマシンを示す図である。
図6】プランジャ低速移動工程時におけるダイカストマシンを示す図である。
図7】プランジャ高速移動工程時におけるダイカストマシンを示す図である。
図8】試験用金型を示す図である。
図9】各温度測定部位の温度変化を示すグラフである。
図10】金属酸化物粉末が充填された凹部内にアルミニウム溶湯を供給してから5秒経過したときの各部位の温度と、金属酸化物粉末が充填されていない凹部内にアルミニウム溶湯を供給してから5秒経過したときの各部位の温度との差(温度差)を、充填する金属酸化物粉末ごとに示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るアルミニウム製品のダイカスト方法が適用されるダイカストマシンの概略図である。図1において、ダイカストマシン1は、金型10と、射出スリーブ20と、プランジャチップ30と、粉末供給装置40と、減圧装置50とを備える。
【0016】
金型10は、可動型盤11にダイベース12を介して取付けられている可動型13と、固定型盤14に取付けられ可動型13が型合わせされる固定型15とを備える。可動型13は固定型15に近づく方向及び遠ざかる方向に移動可能に構成される。可動型13の型合わせ面と固定型15の型合わせ面が当接したときに、両型合わせ面間にキャビティ16が形成される。本実施形態においてキャビティ16は薄く形成される。すなわちこの金型10にアルミニウム溶湯を射出することによって薄肉成形品が鋳造される。また、両型合わせ面間に、キャビティ16に連通する湯口17、湯口に連通するランナ(方案部)18が形成される。
【0017】
可動型13内には、ランナ18に開口する第1通路131と、一端が第1通路131の途中に連通し他端が外部に開口した第2通路132とが形成される。また、可動型13内に第1油圧シリンダ61が埋め込まれている。この第1油圧シリンダ61にシャットオフピン62が接続されていて、第1油圧シリンダ61が駆動することによりシャットオフピン62が第1通路131内を移動するように構成されている。第1油圧シリンダ61の駆動によりシャットオフピン62が図1に示す位置から右方に前進して前進端位置に達すると、シャットオフピン62が第2通路132の第1通路131への開口を塞ぐ。これにより第1通路131と第2通路132との連通が遮断される。シャットオフピン62によって第1通路131と第2通路132との連通が遮断されているときに、第1油圧シリンダ61の駆動によりシャットオフピン62が図1の左方に後退して後退端位置に達すると、第1通路131と第2通路132とが連通される。
【0018】
第2通路132の他端側に粉末供給装置40が接続される。粉末供給装置40は、図1に示すように、粉末充填槽41と、圧送装置42と、供給管43とを有する。粉末充填槽41内に金属酸化物粉末が充填される。供給管43は、粉末充填槽41と第2通路132の他端とを接続する。圧送装置42は、粉末充填槽41内の金属酸化物粉末を空気と共に供給管43に送出する。圧送装置42が駆動することにより供給管43内に送られた金属酸化物粉末はさらに第2通路132内に送られる。本実施形態において、金属酸化物粉末として四酸化三鉄(Fe)粉末を例示するが、アルミニウムとテルミット反応を引き起こすような金属酸化物(例えば二酸化ケイ素粉末)であれば、どのような金属酸化物粉末でもよい。
【0019】
固定型盤14と固定型15を貫通するように射出スリーブ20が設けられる。射出スリーブ20は内部空間を有するように円筒状に形成されていて、その先端(一方端)20aが固定型15の型合わせ面に開口する。金型10が型締め状態であるときに、射出スリーブ20はその先端20a側で、ランナ18、湯口17を経てキャビティ16に連通する。射出スリーブ20の後端(他方端)20b寄りの側周壁に溶湯供給口21が開口するように形成される。溶湯供給口21からアルミニウム溶湯が射出スリーブ20内に供給される。
【0020】
また、固定型盤14に第2油圧シリンダ63が取付けられている。この第2油圧シリンダ63にロッド64が接続される。ロッド64の先端には封止板65が取付けられる。封止板65の形状は溶湯供給口21の形状とほぼ一致する。第2油圧シリンダ63の駆動によりロッド64が図1の下方に前進して前進端位置に達すると、ロッド64の先端に取付けられた封止板65が溶湯供給口21を塞ぐ。この状態では溶湯供給口21からアルミニウム溶湯を射出スリーブ20内に供給することができない。封止板65が溶湯供給口21を塞いでいるときに第2油圧シリンダ63が駆動してロッド64が図1の上方に後退すると、封止板65も上昇して溶湯供給口21が開放される。溶湯供給口21が開放された状態では、アルミニウム溶湯を溶湯供給口21から射出スリーブ20内に供給することができる。
【0021】
封止板65に貫通孔651が形成されており、この貫通孔651に減圧装置50が接続される。減圧装置50は、真空ポンプ(吸引ポンプ)51と、フィルタ52と、開度調整弁53と、配管54とを備える。配管54の一端が貫通孔651に接続され、配管54の他端が真空ポンプ51に接続される。配管54の途中にフィルタ52及び開度調整弁53が介装される。封止板65で溶湯供給口21を塞いだ状態で真空ポンプ51を作動させると、射出スリーブ20内の空気が配管54を経て真空ポンプ51に導かれる。これにより射出スリーブ20内が減圧される。
【0022】
また、射出スリーブ20内にプランジャチップ30が設けられる。このプランジャチップ30は、図示しない油圧シリンダの駆動によって射出スリーブ20内を往復移動することができるように構成されている。
【0023】
上記構成のダイカストマシン1を用いたアルミニウム製品のダイカスト方法について、以下に説明する。図2乃至図7は、ダイカストマシン1を用いた本実施形態に係るダイカスト方法を工程ごとに示す図である。
【0024】
<準備工程>
まず、可動型13と固定型15とを型開させ、キャビティ16やランナ18を形成する金型壁面(型合わせ面)に離型剤を塗布する。離型剤塗布後、金型10を型閉めする。また、射出スリーブ20内に潤滑剤を塗布する。潤滑剤の塗布後、プランジャチップ30を射出スリーブ20の後端20b付近まで後退させる。プランジャチップ30が図1に示す位置まで後退している場合には、射出スリーブ20に形成されている溶湯供給口21はプランジャチップ30よりも前方(図1において左方)に位置する。よって、溶湯供給口21から供給されるアルミニウム溶湯は、射出スリーブ20内であって、射出スリーブ20の先端20aとプランジャチップ30との間の部分に充填される。
【0025】
また、図2に示すように、第1油圧シリンダ61を駆動させてシャットオフピン62を図2の左方に後退させる。シャットオフピン62が図2に示す後退端位置まで後退している場合、第1通路131と第2通路132が連通する。また、第2油圧シリンダ63を駆動させてロッド64を図2の下方に前進させる。ロッド64が図2に示す前進端位置まで前進している場合、射出スリーブ20に形成された溶湯供給口21が封止板65により塞がれる。
【0026】
<金属酸化物供給工程>
次に、真空ポンプ51を作動させる。すると、射出スリーブ20内の空気が射出スリーブ20の先端20a側から後端20b側に流れるとともに、後端20b側に流れた空気が配管54を経て真空ポンプ51に吸引される。これにより射出スリーブ20内が減圧される。射出スリーブ20内の圧力が所定の圧力まで減圧したときに、粉末供給装置40を作動させる。これにより粉末充填槽41内に充填されている四酸化三鉄粉末が供給管43を経て第2通路132に進入し、さらに第2通路132から第1通路131に進入する。第1通路131はランナ18に開口しているので、四酸化三鉄粉末はランナ18内に進入する。ランナ18は湯口17を経てキャビティ16に連通しているとともに、射出スリーブ20の先端20a側で射出スリーブ20内の空間に連通している。ここで、射出スリーブ20内の空間は真空ポンプ51の作動によって減圧されており、且つ、射出スリーブ20の先端20a側から後端20b側に向けて気流が発生しているので、ランナ18に進入した四酸化三鉄粉末(金属酸化物粉末)はその大部分が、図3に示すように射出スリーブ20内に供給される。このとき、開度調整弁53の開度を調整することにより、射出スリーブ20内への四酸化三鉄粉末の供給量を調整することができる。また、射出スリーブ20から配管54内に入り込んだ四酸化三鉄粉末はフィルタ52により捕捉される。これにより真空ポンプ51内に四酸化三鉄粉末が入り込むことが防止される。
【0027】
<溶湯供給口開放工程>
射出スリーブ20内に所定量の四酸化三鉄粉末を供給した後に、粉末供給装置40の作動を停止させるとともに、真空ポンプ51の作動を停止させる。その後、第2油圧シリンダ63を駆動させてロッド64を図4において上方に後退させる。これにより、図4に示すように溶湯供給口21を塞いでいた封止板65が上昇して溶湯供給口21が開放される。また、第1油圧シリンダ61を駆動させてシャットオフピン62を図3の右方に前進させる。シャットオフピン62が図4に示す前進端位置まで達した場合、第1通路131と第2通路132の連通が遮断される。
【0028】
<溶湯供給工程>
次いで、図示しない溶湯タンクに充填されているアルミニウム溶湯をラドルRで掬う。そして、ラドルRで掬ったアルミニウム溶湯を溶湯供給口21から射出スリーブ20内に流し込む。これにより、図5に示すように、アルミニウム溶湯が射出スリーブ20の先端20aとプランジャチップ30との間の部分に溜まる。
【0029】
<プランジャ低速移動工程>
次いで、図示しない油圧シリンダを駆動させて、プランジャチップ30を図5に示す位置から左方、すなわち射出スリーブ20の先端20a側に向けて前進移動させる。このとき低速(例えば0.2m/sec.)でプランジャチップ30を移動させる。このプランジャチップ30の低速移動により、図6に示すように、プランジャチップ30よりも前方(図6において左方)に溜まっているアルミニウム溶湯が射出スリーブ20の先端20a側に移動してランナ18までアルミニウム溶湯が充填される。
【0030】
溶湯供給工程にて射出スリーブ20内にアルミニウム溶湯が供給されてから、プランジャ低速移動工程にてプランジャ30が射出スリーブ20内を低速で移動してアルミニウム溶湯を射出スリーブ20の先端20a側に移動させるまでに要する時間、つまり射出スリーブ20内にアルミニウム溶湯が供給されてからプランジャ低速移動工程が完了するまでの時間は、約3〜10秒である。この間、射出スリーブ20内のアルミニウム溶湯が四酸化三鉄粉末に接触して、下記化学式(1)に示すテルミット反応が起こり、四酸化三鉄が還元されて鉄が生成されるとともに、アルミニウムが酸化されて酸化アルミニウムが生成される。
【化1】
上記化学式(1)からわかるように、テルミット反応は発熱反応である。したがって、テルミット反応で生じた反応熱がアルミニウム溶湯に加えられることによってアルミニウム溶湯が加熱される。すなわち本実施形態によれば、射出スリーブ20内でテルミット反応を起こさせることにより、アルミニウム溶湯が3〜10秒間に亘り、テルミット反応の反応熱により射出スリーブ20内で加熱される。例えば、供給されるアルミニウム溶湯が500gであり、供給される四酸化三鉄粉末が1gであり、全ての四酸化三鉄粉末がアルミニウムと反応した場合、射出スリーブ20内のアルミニウム溶湯は、理論上は10.3℃温度上昇する。
【0031】
<プランジャ高速移動工程>
プランジャチップ30が所望の位置まで前進してプランジャ低速移動工程が完了した後に、プランジャチップ30の移動速度を低速から高速(例えば2m/s)に切り換える。すなわち、プランジャチップ30を射出スリーブ20の先端20a側に向けて高速で移動させる。このプランジャチップ30の高速移動により、プランジャ低速移動工程にて射出スリーブ20の先端20a側に移動されてランナ18まで充填されているアルミニウム溶湯が湯口17を経てキャビティ16内に射出される。このときキャビティ16内に射出されたアルミニウム溶湯は、上述したテルミット反応により生じる反応熱によって加熱されているので、金型10に熱を奪われて凝固するまでの時間が延ばされる。このためアルミニウム溶湯がキャビティ16の全ての部分に行き渡る前に凝固してしまうことが効果的に防止される。その結果、欠損の生じていない精度の良好なアルミニウム製品をダイカスト成形することができる。
【0032】
また、ランナ18や湯口17の幅は狭い(特に湯口17の幅は極めて狭い)ので、テルミット反応により射出スリーブ20内で生じた鉄やアルミニウム酸化物等の固形物は、ランナ18や湯口17で堰き止められて、これらがキャビティ16に進入することが抑制される。これらの生成物の大部分は、図7に示すように、射出スリーブ20の先端20a付近に形成されるビスケット部Biに堆積される。
【0033】
<保圧、取り出し工程>
プランジャ高速移動工程の後に、一定の圧力をプランジャチップ30からキャビティ16側に加える(保圧工程)。そして、所定時間経過した後に、プランジャチップ30を射出スリーブ20の後端20b側に後退させるとともに、金型10を型開きして、キャビティ16内の製品を取り出す。以上の工程を経て、ダイカスト成形品が製造される。
【0034】
(テルミット反応によるアルミニウム溶湯の加熱の確認)
図8に示す試験用金型70を用いて本実施形態の効果を確認した。この試験用金型70は、高さ120mmの角柱形状をなし、高さ方向に垂直な断面形状は1辺が100mmの正方形である。また、試験用金型70には、その上端面に開口した逆円錐台形状の凹部71が形成されている。凹部71の高さは100mm、開口円の直径は60mm、底円の直径は40mmである。このような凹部71にその上端開口からアルミニウム溶湯を重力を利用して流し込み、凹部71をアルミニウム溶湯で満たした。このとき凹部71の底部にアルミニウムとテルミット反応を起こす金属酸化物粉末を予め充填しておいた場合における凹部71内でのアルミニウム溶湯の温度変化と、凹部71に何も充填していない場合における凹部71内でのアルミニウム溶湯の温度変化を測定した。温度の測定部位は、図8に示す部位A,B,Cである。部位Aの位置は凹部71の上端開口円の中心から40mmの深さ位置であり、部位Bの位置は凹部71の上端開口円の中心から70mmの深さ位置であり、部位Cの位置は凹部71の上端開口円の中心から95mmの深さ位置である。その他の試験条件は、以下に示す通りである。
・凹部71に流し込むアルミニウム溶湯の材質:ADC12
・凹部71に流し込むアルミニウム溶湯の温度:700℃
・試験用金型70の温度:250℃±15℃
・充填する金属酸化物の種類:SiO、CuO、Fe
・充填する金属酸化物粉末の量:3g
【0035】
図9は、各温度測定部位の温度変化を示すグラフであり、図9(a)は部位Aの温度変化を、図9(b)は部位Bの温度変化を、図9(c)は部位Cの温度変化を、それぞれ表わす。各グラフの横軸は、アルミニウム溶湯を凹部71に供給してからの経過時間(秒)であり、縦軸は各部位の測定温度(℃)である。また、各グラフ中、○で示される温度測定値を繋いで作成したグラフは、金属酸化物が充填されていない凹部71にアルミニウム溶湯を供給した場合における各部位の温度変化を表し、△で示される温度測定値を繋いで作成したグラフは、金属酸化物粉末として四酸化三鉄粉末が充填されている凹部71にアルミニウム溶湯を供給した場合における温度変化を表し、×で示される温度測定値を繋いで作成したグラフは、金属酸化物粉末として二酸化ケイ素粉末が充填されている凹部71にアルミニウム溶湯を供給した場合における温度変化を表し、□で示される温度測定値を繋いで作成したグラフは、金属酸化物粉末として酸化銅粉末が充填されている凹部71にアルミニウム溶湯を供給した場合における温度変化を表す。
【0036】
図9からわかるように、金属酸化物粉末が凹部71に充填されている場合は、充填されていない場合に比較して、同じ経過時間におけるアルミニウム溶湯の温度が高い。このことから、金属酸化物粉末が充填された凹部71にアルミニウム溶湯を供給した場合、凹部71でテルミット反応が起こり、その反応熱により凹部71内のアルミニウム溶湯が加熱されて温度上昇することがわかる。
【0037】
また、凹部71内の全ての測定部位(部位A、部位B、部位C)において、金属酸化物粉末が凹部71に充填されている場合は、充填されていない場合に比較して、同じ経過時間におけるアルミニウム溶湯の温度が高い。このことから、凹部71の至るところでテルミット反応の反応熱でアルミニウム溶湯が加熱されていることがわかる。
【0038】
図10は、金属酸化物粉末が充填された凹部71内にアルミニウム溶湯を供給してから5秒経過したときの各部位の温度T1と、金属酸化物粉末が充填されていない凹部71内にアルミニウム溶湯を供給してから5秒経過したときの各部位の温度T2との差(温度差T1−T2)を、充填する金属酸化物粉末ごとに示したグラフである。図10からわかるように、金属酸化物粉末の違いにかかわらず、部位Cにおける温度差、すなわち金属酸化物が充填された凹部71の底面位置に最も近い位置での温度差が最も大きい。また、金属酸化物粉末として二酸化ケイ素粉末を用いた場合には、他の金属酸化物粉末を用いた場合と比較して、温度差が非常に大きい。このことから、金属酸化物粉末として二酸化ケイ素粉末を用いることにより、キャビティ内にアルミニウム溶湯を射出してからアルミニウム溶湯が凝固するまでの時間を最も長く延ばすことができるという結果が得られた。
【0039】
ちなみに、アルミダイカスト製品の流動長は、下記式に基づいて求めることができる。
【数1】
ここで、Tはキャビティに充填する直前の射出スリーブ内のアルミニウム溶湯温度(K)、Tはキャビティ内で流動が停止したときのアルミニウムの温度(K)、Tは金型温度(K)、hはアルミニウム金属から金型への熱伝達率(W/mK)、Lは、成形される鋳造品の周長(アルミニウム溶湯が流れる方向に垂直な断面における鋳造品の外周の長さ)(m)、Xは流動長(m)、ρはアルミニウムの比重(kg/m)、Cpはアルミニウムの比熱(J/kg・K)、uはキャビティを流れるアルミニウム溶湯の流速(m/s)、Aはキャビティの断面積(m)である。
【0040】
上記式からわかるように、射出スリーブ内のアルミニウム溶湯温度と流動長との間に相関関係があり、射出スリーブ内のアルミニウム溶湯温度が高いほど流動長が長い。したがって、必要な流動長(すなわち薄く形成されたキャビティの長さ)に応じて、その流動長を得るための温度にまでアルミニウム溶湯の温度が上昇するように、適宜、金属酸化粉末の種類を選択することができる。
【0041】
以上のように、本実施形態のダイカスト方法は、射出スリーブ20内に、アルミニウムとテルミット反応を引き起こす金属酸化物粉末を供給する金属酸化物供給工程と、金属酸化物粉末が供給された射出スリーブ20内にアルミニウム溶湯を供給する溶湯供給工程と、射出スリーブ20の先端20a側に向けてプランジャチップ30を低速移動させることにより、射出スリーブ20内に供給されたアルミニウム溶湯を射出スリーブ20の先端20a側に移動させるとともに、プランジャチップ30と射出スリーブ20の先端20aとの間の空気を排出するプランジャ低速移動工程と、射出スリーブ20の先端20a側に向けてプランジャチップ30を高速移動させることにより、プランジャ低速移動工程にて射出スリーブ20の先端20a側に移動されたアルミニウム溶湯をキャビティ16内に射出するプランジャ高速移動工程と、を含む。
【0042】
本実施形態に係るダイカスト方法によれば、溶湯供給工程にて射出スリーブ20内にアルミニウム溶湯が供給されてから、プランジャ低速移動工程にて射出スリーブ20内のアルミニウム溶湯が射出スリーブ20の先端20a側に移動されるまでの間に、金属酸化物粉末とアルミニウム溶湯とによってテルミット反応が引き起こされて、金属酸化物が還元されるとともにアルミニウムが酸化される。このテルミット反応により生じる反応熱によりアルミニウム溶湯が射出スリーブ20内で加熱される。こうして加熱されたアルミニウム溶湯がプランジャ高速移動工程にてキャビティ16内に供給される。キャビティ16内に供給されたアルミニウム溶湯は金型10に熱を奪われて冷却されるが、テルミット反応により生じた反応熱で加熱されているためその冷却速度は遅い。このためキャビティ16内でアルミニウム溶湯が凝固するまでの時間を十分に延ばすことができる。
【0043】
また、テルミット反応は主に射出スリーブ20内で起こり、テルミット反応及びその反応に伴う反応熱の発生が金型10の冷却作用に影響されない。つまり、テルミット反応によるアルミニウム溶湯の加熱と、金型10によるアルミニウム溶湯の冷却とが同時進行していない。このため、確実に射出スリーブ20内でアルミニウム溶湯を加熱することができる。また、射出スリーブ20にアルミニウム溶湯が供給されてからプランジャ低速移動工程が完了するまでに要する時間は約3〜10秒と長いので、射出スリーブ20内で十分にテルミット反応を起こさせることができる。よって、射出スリーブ20内でアルミニウム溶湯を十分に加熱することができる。
【0044】
また、テルミット反応によって射出スリーブ20内に金属やアルミニウム酸化物等が生成される。ここで、射出スリーブ20内の空間は、ランナ18、湯口17を介してキャビティ16に連通する。ランナ18や湯口17は狭い空間として形成されるため、テルミット反応で生成した固形物(金属やアルミニウム酸化物)はランナ18や湯口17で堰き止められる。したがって、キャビティ16にはアルミニウム溶湯のみが供給され、テルミット反応で生成した固形物は射出スリーブ20の先端20a付近に形成されるビスケット部Biに堆積する。よって、不純物の少ないアルミニウム成形品が生成されるので、幅広いアルミニウム成形品を製造することができる。
【0045】
また、金属酸化物供給工程にて、射出スリーブ20の内部空間を減圧させた状態で、射出スリーブ20の先端20a側から射出スリーブ20内に金属酸化物粉末が供給される。射出スリーブ20の内部空間を減圧することで、射出スリーブ20の先端20aから供給される金属酸化物粉末をキャビティ16側に移動させずに射出スリーブ20内に移動させることができる。このため効率的に射出スリーブ20内に金属酸化物粉末を供給することができる。また、射出スリーブ20の後端20b寄りの部分に、配管54で真空ポンプ51を接続しておき、真空ポンプ51を作動させることにより射出スリーブ20の内部空間を減圧させている。このため真空ポンプ51の作動によって射出スリーブ20内の空気が排出されて減圧されるとともに、射出スリーブ20の先端20a側から後端20b側に向かう流れが射出スリーブ20内に発生する。よって、射出スリーブ20の先端20a側から供給された金属酸化物粉末がその流れに乗って射出スリーブ20内を移動する。このためより効率的に射出スリーブ20内に金属酸化物粉末を供給することができる。
【0046】
また、射出スリーブ20にはアルミニウム溶湯を供給するための溶湯供給口21が形成されており、金属酸化物供給工程では、溶湯供給口21が封止板65で塞がれている。このため、射出スリーブ20内に供給された金属酸化物粉末が溶湯供給口21から外部に放出されることが防止される。また、金属酸化物粉末として二酸化ケイ素を用いた場合、大きな反応熱を発生させることができるため、アルミニウム溶湯がキャビティ16に射出されてから凝固するまでの時間をより長く延ばすことができる。
【符号の説明】
【0047】
1…ダイカストマシン、10…金型、13…可動型、15…固定型、16…キャビティ、17…湯口、18…ランナ、20…射出スリーブ、20a…先端(一方端)、20b…後端(他方端)、21…溶湯供給口、30…プランジャチップ、40…粉末供給装置、41…粉末充填槽、42…圧送装置、43…供給管、50…減圧装置、51…真空ポンプ(吸引ポンプ)、52…フィルタ、53…開度調整弁、54…配管、61…第1油圧シリンダ、62…シャットオフピン、63…第2油圧シリンダ、64…ロッド、65…封止板、70…試験用金型、71…凹部、131…第1通路、132…第2通路、651…貫通孔
図1
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