(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリンダ(2)と、そのシリンダに挿入されたピストン(1)と、そのピストンの一面が臨む液圧室(3)と、高圧源(7)から前記液圧室(3)に至る液圧導入経路(10)に配置される導入弁(5a)と、前記液圧室(3)の液圧を排出する排出弁(5b)を有し、前記液圧室(3)に導入された液圧で前記ピストン(1)を推進させる液圧装置において、
前記液圧室(3)と前記排出弁(5b)とを連通させる液圧排出経路(11)に、前記液圧室(3)から前記排出弁(5b)側への液圧移動のみを許容するリリーフ弁(9)を設け、そのリリーフ弁(9)の開弁圧を、前記液圧室(3)の初期消費液量による容積拡大が完了した時点の液圧よりも大きく、なおかつ、前記ピストン(1)の実効作動圧よりも小に設定したことを特徴とする液圧装置。
ここに、初期消費液量:ピストンが実質的に動き始めるまでの間に前記液圧室(3)に導入される液量。
ピストンの実効作動圧:ピストンが遊びの無い位置、又は遊びが吸収された位置から実質的に動きだすときの液圧。
【背景技術】
【0002】
首記液圧装置の具体例として、例えば、下記特許文献1に記載されたブースタ付マスタシリンダが知られている。そのブースタ付マスタシリンダは、ブレーキペダルが僅かに操作されると制御弁の導入弁部が開いて外部液圧源からブーストピストン(パワーピストン)の一面に液圧を作用させるブースト室(パワー圧室やアシスト室とも称される)に液圧が供給される。
【0003】
また、これと同時にパワー圧室に流入するブレーキ液が開閉弁を経由してマスタシリンダ室の定容積室に流れ、そこからさらに、一方向シール手段(カップシール)を経てマスタシリンダの加圧室に流入し、これがホイールシリンダに供給されてブレーキのクリアランスを消失させる初期加圧が行われる。
【0004】
また、マスタシリンダの加圧室が一定圧まで上昇すると開閉弁が閉じられてマスタシリンダの加圧室に対する外部圧力の供給が遮断され、減圧時には制御弁の導入弁部が閉じ、排出弁部が開いて前記パワー圧室と定容積室が大気圧のリザーバに連通し、これ等の部屋に残圧が残らない構造になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のブースタ付マスタシリンダは、ブレーキのクリアランスを消失させる初期加圧時にパワー圧室と定容積室に対して外部液圧源からブレーキ液が供給され、その初期加圧のためのブレーキ液の消費(初期消費)により、パワー圧室と定容積室にブレーキ液の流れが生じる。そして、その流れがマスタシリンダの加圧室が規定圧になったときに外部液圧源からのブレーキ液供給が停止されることによって遮断される。
【0007】
マスタシリンダの前記初期加圧での加圧ピストン反力を考えると、初期加圧が完了した時点ではパワー圧室のブレーキ液の剛性が高まっており(ブレーキ液の剛性は、パワー圧室の導入液量に対する昇圧値が大きいものほど高い)、この状況では流量の大きなブレーキ液の流れが剛性の高まったパワー圧室のブレーキ液によってせき止められることから運動エネルギーが油撃となり、それに起因した異音(以下では油撃音と言う)が発生して静粛性が要求される自動車用のブレーキ装置などでは特に、好ましくない現象として問題になる。
【0008】
この発明は、その油撃音の原因になる油撃を発生させないようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、シリンダと、そのシリンダに挿入されたピストンと、そのピストンの一面が臨む液圧室と、高圧源から前記液圧室に至る液圧導入経路に配置される導入弁と、前記液圧室の液圧を排出する排出弁を有し、前記液圧室に導入された液圧で前記ピストンを推進させる液圧装置において、前記液圧室と前記排出弁とを連通させる液圧排出経路に前記液圧室から前記排出弁側への液圧移動のみを許容するリリーフ弁を設け、そのリリーフ弁の開弁圧を、前記液圧室の初期消費液量による容積拡大が完了した時点の液圧よりも大きく、なおかつ、前記ピストンの実効作動圧よりも小に設定し、前記排出弁が開弁した状況下で前記液圧室に所定の液圧が封入されるようにした。
【0010】
なお、前記初期消費液量とは、ピストンやピストン外周をシールするシール部材のいわゆる遊びによる変位(遊びが吸収されてなくなるまでの変位)、シール部材の液圧による弾性変形、液圧による液圧室の膨張などによってピストンが実質的に動き始めるまでの間に生じる消費液量(液圧室に導入される液量)を言う。
【0011】
また、前記ピストンの実効作動圧とは、ピストンが遊びの無い位置、或いは、遊びが吸収された位置から実質的に動きだすときの液圧を言う。
【0012】
さらに、前記液圧室に封入される所定の液圧とは、液圧室による作動液の初期消費を無くす圧力を言う。
【0013】
前記導入弁と排出弁は、スプール弁、ポペット弁、ON,OFFタイプの電磁弁、弁体を軸中心に回転させてポートを開閉するコック式の弁やボール弁、バタフライ弁などでよい。
【0014】
その導入弁と排出弁が前記液圧室の液圧の緻密な制御機能を備えていない弁である場合には油撃が発生し易く、この発明の有効性が特に顕著に現われる。
【0015】
この発明は、前記ピストンとして高圧源から供給される液圧を一面に受けるブーストピストンを有し、さらに、前記液圧室として前記ピストンの一面に液圧を作用させるブースト室を有し、なおかつ、前記導入弁、排出弁として、ブレーキ操作力に応じた位置に移動して前記ブースト室と前記高圧源との間の通路、及び、前記ブースト室と大気圧リザーバとの間の通路を開閉するスプール弁を有し、前記ブーストピストンと、ブースト室と、導入弁と、排出弁と、高圧源とで液圧ブースタを構成し、前記ブースト室と前記排出弁とを連通させる液圧排出経路に前記リリーフ弁を設け、前記液圧ブースタの出力(ブーストピストンの推力)を助成力としてマスタシリンダを作動させる、この発明の液圧装置を備えたブレーキ装置用ブースタ付マスタシリンダも併せて提供する。
【発明の効果】
【0016】
この発明の液圧装置は、前記リリーフ弁の働きによって前記液圧室に初期消費液量を無くす液圧が予め封入されている。この状況下で前記導入弁が開かれると、高圧源から供給される高圧の作動液は、前記液圧室に対して流れを発生させずに液圧のみが伝播され、流れの無い状態で液圧室の液圧がピストンの実効作動圧まで昇圧する。
【0017】
これにより、作動初期の運動エネルギーの発生が抑止されて油撃が防止され、油撃音抑制の効果が生じる。
【0018】
なお、液圧室の液圧がピストンの実効作動圧まで上昇するとピストンが移動を開始し、これにより、前記高圧源から前記液圧室に多量の作動液が導入されて流れが生じるが、このときは、流れのエネルギーがピストンを動かす力に変換されるため、油撃は発生しない。
【0019】
この液圧装置を応用したこの発明のブースタ付マスタシリンダは、前記リリーフ弁の働きによって液圧ブースタのブースト室に初期消費液量を無くす液圧が予め封入されているので、ブレーキ操作がなされてからブーストピストンが動き出すまでの間にブースト室によって消費される液量がゼロになり、そのために、ブースト室での油撃が抑えられ、静粛性に優れたものになる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の液圧装置とそれを応用したブースタ付マスタシリンダの実施の形態を、添付図面の
図1〜
図5に基づいて説明する。
図1〜
図4は、この発明の液圧装置の基本構造を簡略化して示したものであって、図中1は、液圧で作動するピストン、2はそのピストンを組み込んだシリンダ、3はピストン1の一面を臨ませた液圧室、4はピストン外周をシールするシール部材(図のそれはOリング)である。
【0022】
また、5はスプール弁、6はそのスプール弁5を収納したハウジング、7は高圧源、8は排出された作動液を受け入れるリザーバ、9はこの発明を特徴づけるリリーフ弁である。このリリーフ弁9は液圧室3から排出弁5b側への液圧移動のみを許容する弁であって、開弁圧が、液圧室3の初期消費液量による容積拡大が完了した時点の液圧よりも大きく、なおかつ、ピストン1の実効作動圧よりも小に設定されている。
【0023】
スプール弁5とハウジング6との間には、導入弁5aを構成する弁部と排出弁5bを構成する弁部が形成されている。図示の導入弁5aと排出弁5bは、スプール弁5の外周の肩部をハウジング6に設けられた弁挿入孔の開口端の内周面とオーバラップさせて弁部を閉じ、オーバラップを解除して弁部を開く周知の弁である。
【0024】
高圧源7と液圧室3との間には導入弁5aを経由する液圧導入経路10が設けられている。また、液圧室3と排出弁5bとの間には液圧排出経路11が、排出弁5bとリザーバ8との間にはドレン流路12がそれぞれ設けられている。高圧源7は、図を簡略化したが、動力駆動のポンプと蓄圧器を組み合わせたものなどが利用される。
【0025】
なお、リリーフ弁9は、弁体(ボール、ポペットを問わない)をばねで付勢して閉弁時に弁座に押し当てる構造の周知の弁でよい。
【0026】
このように構成された例示の液圧装置は、
図1に示すような導入弁5aが閉じた状態から導入弁5aが開いたときに高圧源7から供給される高圧の作動液が液圧室3に導入される。
【0027】
シール部材4は、ピストン1の外周に形成されたシール溝との間にピストン進退方向の遊び(動き代)を有しており、液圧室3に導入された液圧P
0を受けて遊びがなくなる位置まで動く。また、そのシール部材4はゴムで形成されており、液圧室3に導入された液圧を受けて弾性変形する。
【0028】
そのシール部材4の遊び吸収のための変位と弾性変形により液圧室3の容積が拡大する。液圧室3の容積は、ピストン1に遊びがあってその遊びがなくなる位置までピストン1が初期変位を起したときや導入液圧で液圧室3が膨張したとき(その膨張はハウジング6が撓むことによって生じる)にも拡大する。その容積拡大により、導入弁5aが初めて開いたときには高圧源7から供給された高圧の作動液の流れが液圧室3に生じる。
【0029】
次に、液圧室3に導入される液圧がリリーフ弁9の開弁圧を超えると、
図2に示すように、リリーフ弁9が開く。しかしながら、この時には排出弁5bが閉じられているので液圧室3は引き続き昇圧し、液圧室3の圧力がピストン1の実効作動圧P
3を超えるとピストン1が前進する。
【0030】
液圧室3の圧力は、ピストン1の出力が要求値になるまで上昇する。その後、
図3に示すように、減圧要求に応えて導入弁5aが閉じられ、排出弁5bが開かれる。このとき、リリーフ弁9は開弁しているのでこのリリーフ弁9を経由して液圧室3内の作動液が排出され、これにより、液圧室3の圧力はP
2に低下する。
【0031】
必要に応じて再加圧がなされる場合には、
図3の状態から再び
図2の状態になり、また、液圧装置の駆動が停止されると、
図3の状態を経て液圧室3の圧力が
図4のP
1まで低下する。
【0032】
液圧室3の圧力がP
1まで低下するとリリーフ弁9が閉弁する。そのために、液圧室3にはP
1の液圧が封入される。その液圧P
1はリリーフ弁9の開弁圧とほぼ同等の圧となる(厳密には開弁圧はP
1よりも大)。液圧P
0〜P
3は、P
0<P
1<P
2<P
3の関係にある。
【0033】
液圧室3に封入された液圧P
1により、液圧室3シール部材4の遊びが吸収された状態と液圧によるシール部材4の弾性変形が生じた状態が維持される。
【0034】
また、ピストン1に遊びがある場合、或いは、液圧P
1によるハウジングの撓みよって液圧室3の容積膨張が起こる場合には、ピストン1の遊び吸収された状態や液圧室3の容積膨張が生じた状態も維持される。
【0035】
これにより、液圧装置の次回駆動時の初期消費液量がゼロになり、そのために、次回駆動時には、液圧室3に作動液の流れが発生せず、その流れに起因した油撃が防止される。
【0036】
上記の作用により、液圧装置の次回駆動時の初期消費液量がゼロになり、そのために、次回駆動時には、液圧室3に作動液の流れが発生せず、その流れに起因した油撃が防止される。
【0037】
なお、導入弁5aと排出弁5bの双方が閉弁している状態で液圧室3からの圧洩れが不可避の構造では、その圧漏れを考慮して次回駆動時に液圧室の初期消費液量がゼロに保たれる状況が維持されるようにリリーフ弁9の開弁圧を設定するとよい。
【0038】
また、その導入弁5aと排出弁5bは、下記の理由から図示のスプール弁を用いて構成したものが好ましいが、スプール弁以外の弁、例えば、ポペット弁、ON,OFFタイプの電磁弁、弁体を軸中心に回転させてポートを開閉するコック式の弁やボール弁、バタフライ弁などで構成される導入弁と排出弁を備える液圧装置においても、この発明の有効性が発揮される。
【0039】
スプール弁で構成される導入弁と排出弁は、スプールの変位によって弁部が開閉される。液圧室の初期消費液量がなくなるこの発明の構造では、駆動初期に弁部を大きく開く必要がないので、初期のスプールの変位量を小さくすることが可能であり、スプールストロークに対する昇圧感度の向上とスプール弁の長さ短縮による装置の小型化が可能になる。また、スプールストロークを小さくすることで、液圧室に対する液圧導入のオーバーシュートも抑制可能となる。
【0040】
次に、この発明を適用したブースタ付マスタシリンダを用いた車両用ブレーキ装置の一例を
図5に示す。例示の車両用ブレーキ装置は、ブースト付マスタシリンダ20と、各車輪に制動力を加えるホイールシリンダ30と、電子制御装置(図示せず)からの指令に基づいてホイールシリンダ30の液圧の増減制御を行なうESC又はABSユニット40とからなる。
【0041】
この車両用ブレーキ装置に設けたブースタ付マスタシリンダ20は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)21と、マスタシリンダ22と、液圧ブースタ23と、この発明を特徴づけるリリーフ弁9とからなる。
【0042】
マスタシリンダ22は、マスタピストン22aを推進させて圧力室22bに液圧を発生させ、発生した液圧をブレーキのホイールシリンダ(図示せず)に向けて出力する既知のタンデム型のものを例示した。22cは、マスタピストン22aを復帰させる復帰スプリングである。
【0043】
液圧ブースタ23は、高圧源7と、その高圧源7からブースト室23a(これは
図1の液圧室3に相当する)に至る液圧導入経路10に配置されて高圧源7から供給される液圧をブレーキ操作部材21の操作量に応じた値に調圧してブースト室23aに導入する導入弁5aと、ブースト室23aからの液圧排出経路11に配置されてブレーキ操作が解除されるときや減圧制御がなされるときにブースト室23a内の液圧を排出する排出弁5bを有している。
【0044】
また、ブースト室23aに導入された液圧を一端面に受けて助成力を発生させ、助成された力でマスタシリンダのマスタピストン22aを作動させるブーストピストン(これは
図1のピストン1とハウジング6を兼用したものに相当する)23bを有している。
【0045】
高圧源7は、ポンプ7a、そのポンプを駆動するモータ7b、蓄圧器7c及び圧力センサ7dを組み合わせたものであって、圧力センサ7dによる検出圧力に基づいてモータ7bをオン、オフさせ、蓄圧器7cに蓄える液圧を規定の上下限値内に保持する。
【0046】
導入弁5aと排出弁5bは、スプール弁5の外周面をブーストピストン23bの弁挿入孔内周面に設けられた弁口とオーバラップさせて弁部を閉じ、オーバラップを解除して弁部を開く弁である。スプール弁5は、復帰スプリング5cによって戻り方向に付勢されている。
【0047】
リリーフ弁9は、ブースト室23aから排出弁5b側への液圧移動のみを許容する。このリリーフ弁9の開弁圧は、ブースト室23aの初期消費液量による容積拡大完了時の液圧よりも大きく、なおかつ、ブーストピストン23bが実質的に動き出すときの液圧(実効作動圧)よりも小に設定されている。
【0048】
そのために、排出弁5bが開いた状況下ではブースト室23aにリリーフ弁9の開弁圧とほぼ同等の液圧が封じ込められ、ブレーキ操作部材21の次回でブースタ付マスタシリンダが作動したときのブースト室23aに初期液量消費が回避されて油撃が防止される。
【0049】
図5の25は、リザーバ8に連通した大気圧の液室、26は、ブレーキ操作部材の操作力とブーストピストン23bの推力をマスタピストン22aに伝える動力伝達部材、27は、ブレーキ操作量に応じた反力を作り出すゴムディスク、28はマスタシリンダに付属させたリザーバ(これは
図1のリザーバ8に相当する)である。
【0050】
なお、この発明を適用するブースタ付マスタシリンダは、例示の構造のものに限定されない。また、この発明を適用する液圧装置もブースタ付マスタシリンダに限定されない。