特許第5958279号(P5958279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958279
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
   F16D48/02 640A
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-240687(P2012-240687)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-88948(P2014-88948A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年5月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 弘喜
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2006/025394(JP,A1)
【文献】 特開平3−132435(JP,A)
【文献】 特開平4−63730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(5)からの出力を受けて走行車輪(2,3)に変速伝動する変速伝動系を備え、この変速伝動系にメインクラッチ(112)と、複数段変速伝動する変速部を構成したトラクタにおいて、
ブレーキペダル(19L),(19R)の踏み込み操作に伴って走行装置にブレーキの制動を開始し、その後メインクラッチ(112)の接続作動圧の低下を始めてメインクラッチの切りを開始し、ブレーキペダル(19L),(19R)の全踏込み位置ではメインクラッチ(112)が完全に切れてブレーキが完全な制動状態となり、ブレーキペダル(19L),(19R)の踏み込み操作を解除していくと、メインクラッチ(112)の入りを開始し、その後ブレーキが完全に解放される構成とし、
前記ブレーキペダル(19L),(19R)の踏み込み操作の解除に連動してメインクラッチ(112)を入れる際の連動時起動油圧(PB1)を構成するとともに連動時起動油圧(PB1)からの昇圧は連動時昇圧率(PBR)で昇圧する構成とし、
一方、ブレーキが制動していない状態から発進変速操作具(10)を発進操作してメインクラッチ(112)を接続開始する単独時起動油圧(PA1)を構成するとともに単独時起動油圧(PA1)からの昇圧は単独時昇圧率(PAR)で昇圧する構成とし、
前記連動時起動油圧(PB1)を前記単独時起動油圧(PA1)よりも高い圧力で設定し、走行を開始して動きだした後に前記連動時昇圧率(PBR)を前記単独時昇圧率(PAR)よりも低い昇圧率で設定する構成とし、
さらに、エンジン(5)を起動すると、メインクラッチ(112)を初期油圧(PS)で所定の準備時間(S1)昇圧する構成とし、後輪(3)の回転を検出すると前記初期油圧(PS)を調整して後輪(3)の回転をさせないように構成したことを特徴とするトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタや田植え機等の作業車両に関し、特に走行装置のメインクラッチとブレーキの連動制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2010−203301号公報に記載の如く、油圧無段変速装置で前後進及び走行速度を変更する田植え機において、操縦操作を単純化する目的で、ブレーキペダルの踏み込みで走行部のブレーキ機構を制動作用させると共にメインクラッチを切作動させて動力遮断状態とし、ブレーキペダルの踏み込み解除でブレーキ機構の制動を解除させると共にメインクラッチを入作動させて動力伝動状態として、ブレーキペダルだけで走行と停止を制御できるようにブレーキとメインクラッチを連動させた連動制御が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−203301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のブレーキとクラッチの連動制御では、走行装置がフリーで走行する空走状態になるのを防ぐために、ブレーキ制動を完全に解除する前にメインクラッチが入り作動して動力伝動を開始することで駆動機構に負荷が掛った状態で発進するようにしている。このために、ブレーキの解除状態から発進する通常の発進時よりも加速感が弱くて操縦感覚に違和感がある。
【0005】
本発明は、油圧によってメインクラッチを作動する作業車の動力伝動装置において、ブレーキとクラッチの連動制御を設けるにあたってブレーキペダルの踏み込み解除操作での発進時とブレーキ解除状態から発進する発進変速操作具での発進時の発進加速感を同じにして操縦操作の違和感をなくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、エンジン5からの出力を受けて走行車輪2,3に変速伝動する変速伝動系を備え、この変速伝動系にメインクラッチ112と、複数段変速伝動する変速部を構成したトラクタにおいて、
ブレーキペダル19L,19Rの踏み込み操作に伴って走行装置にブレーキの制動を開始し、その後メインクラッチ112の接続作動圧の低下を始めてメインクラッチの切りを開始し、ブレーキペダル19L,19Rの全踏込み位置ではメインクラッチ112が完全に切れてブレーキが完全な制動状態となり、ブレーキペダル19L,19Rの踏み込み操作を解除していくと、メインクラッチ112の入りを開始し、その後ブレーキが完全に解放される構成とし、
前記ブレーキペダル19L,19Rの踏み込み操作の解除に連動してメインクラッチ112を入れる際の連動時起動油圧PB1を構成するとともに連動時起動油圧PB1からの昇圧は連動時昇圧率PBRで昇圧する構成とし、
一方、ブレーキが制動していない状態から発進変速操作具10を発進操作してメインクラッチ112を接続開始する単独時起動油圧PA1を構成するとともに単独時起動油圧PA1からの昇圧は単独時昇圧率PARで昇圧する構成とし、
前記連動時起動油圧(PB1)を前記単独時起動油圧(PA1)よりも高い圧力で設定し、走行を開始して動きだした後に前記連動時昇圧率(PBR)を前記単独時昇圧率(PAR)よりも低い昇圧率で設定する構成とし、
さらに、エンジン5を起動すると、メインクラッチ112を初期油圧PSで所定の準備時間S1昇圧する構成とし、後輪3の回転を検出すると前記初期油圧PSを調整して後輪3の回転をさせないように構成したことを特徴とするトラクタ。
【0007】
【0008】
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明で、連動時起動油圧PB1を単独時起動油圧PA1より高くすることで、ブレーキペダル19R,19Lでの発進速度と発進変速操作具10での発進速度を同じにして発進操作の違いによる違和感を無くすることが出来る。走行を開始して動き出した後に連動時昇圧率PBRを単独時昇圧率PARより低くすることで、走行速度の急激な変動が無く、滑らかな加速状態となる。また、後輪3の回転を検出すると前記初期油圧PSを調整して後輪3の回転をさせないように構成したので、発進が安定する。
【0010】
【0011】
【0012】
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の作業車両として、トラクタの全体側面図である。
図2】エンジンから前後輪及びPTO軸への動力伝動線図である。
図3】トランスミッションケースの断面展開図である。
図4】PTO変速部の背断面図である。
図5】PTO変速部の平断面図である。
図6】一部の平断面図である。
図7】ブレーキペダルの拡大側面図である。
図8】メインクラッチの油圧変化表である。
図9】変速段のクラッチ動作位置図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。
以下の説明で、トラクタの前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後という。
【0015】
トラクタ1は、図1に示す如く、機体の前後部に左右一対の前輪2,2と後輪3,3を備え、機体の前部に搭載したエンジン5のエンジン出力軸20の回転をミッションケース8内の変速装置によって適宜減速して、これら前輪2,2と後輪3,3に伝えるように構成している。
【0016】
機体中央でのハンドルポスト6にはステアリングハンドル7が設けられ、その後方にはシート9が設けられている。ステアリングハンドル7の下方には、機体の進行方向を前後方向に切り換える前後進レバー10が設けられている。この前後進レバー10が本発明で言う発進変速操作具で、前側にシフトすると機体は前進し、後側へシフトすると後進する構成である。
【0017】
また、ハンドルポスト6を挟んで前後進レバー10の反対側にはエンジン回転数を調節するアクセルレバー11が設けられ、またステップフロア13の右コーナー部には、同様にエンジン回転数を調節するアクセルペダル18と、左右の後輪3,3それぞれにブレーキを作動させる左右のブレーキペダル19R,19Lが設けられている。
【0018】
ブレーキは、図示を省略するが、左右の後輪3,3を固着する車軸それぞれに設けたディスクブレーキで、油圧作動でブレーキペダル19R,19Lの踏み込み程度に応じてブレーキ力を弱から強に変化させる。
【0019】
また、左右のブレーキペダル19R,19Lは、左右どちらかを単独で使用すると踏み込み側後輪3のブレーキを制動作用し、左右を一体に連結すると連結センサで検出して、左右の後輪3,3を同時に制動すると共に後述するメインクラッチ112を入り切りするようにブレーキとメインクラッチ112が連動する。なお、連結センサを設けずに左右のブレーキペダル19R,19Lにそれぞれセンサを設けて、両センサが同時踏込みを検出すると、連動制御をおこなうようにしても良い。
【0020】
ブレーキとメインクラッチ112の連動は、図7の如く、ブレーキペダル19R,19Lの全解放位置B0から全踏込み位置B2までの間で、全解放位置B0から踏み込んでいくと、ブレーキ開始位置B1があってブレーキが制動を開始し、さらに踏み込むとメインクラッチ112の切り位置K1があってクラッチの切りを開始し、やがて、メインクラッチ112が完全に切れてブレーキが完全に制動作用となる。このために、ブレーキ開始位置B1からメインクラッチ112の切り位置K1までの間は、ブレーキ制動をしながら動力伝動の状態になる。
【0021】
逆に、ブレーキペダル19R,19Lを全踏込み位置B2から解放していくと、メインクラッチ112の切り位置K1(ブレーキペダル解放時はメインクラッチ入り)があってクラッチの入りを開始し、さらに開放するとブレーキ開始位置B1を経過してブレーキを完全に開放する。
【0022】
メインクラッチ112の切り位置K1は、ブレーキスイッチで検出する。このブレーキスイッチはストップランプを点灯するスイッチと同じにしても良い。
従って、ブレーキ開始位置B1とメインクラッチ112の切り位置K1の間では、後輪3,3に駆動力が掛りながら制動している状態になるために、発進停止時間が通常よりも長くなる傾向となるので、メインクラッチ112に作用する油圧を図8の如く、通常と異ならせた。
【0023】
すなわち、ブレーキを解放した状態から前後進レバー10を前進或いは後進に回動して発進する場合は、実線で示す、メインクラッチ112の単独油圧変化PAを単独時起動油圧PA1から単独時昇圧率PARで油圧を上昇させるが、ブレーキペダル19R,19Lを開放して発進する場合は、点線で示す、メインクラッチ112の連動油圧変化PBを単独時起動油圧PA1より高い連動時起動油圧PB1とし、連動時昇圧率PBRを単独時昇圧率PARよりも低くして油圧を上昇させる。なお、メインクラッチ112に作用する供給油圧力は、走行トルクの変化に比例的に作用する。
【0024】
このことによって、前記の発進時間が前後進レバー10の操作による発進よりも長くなる傾向を解消し、発進後の急速走行も防ぐようになる。
準備時間S1は、エンジン5を起動するとメインクラッチ112を入り直前の状態にする時間で、初期油圧PSを与えておく。なお、この初期油圧PSは、後輪3の回転を検出するセンサ或いは加速度センサとして回転を検出してメインクラッチ112を半クラッチの状態にして坂道で移動しないようにしても良い。
【0025】
ステアリングハンドル7の下部で左右中央に、ステップフロア13に広い開口部を形成し、この開口部に各ミッション型式に合わせたPTO取出口を形成した補助フロアを重ね、ミッションケース8から上方へ突出するPTO変速レバー12のレバー軸を包むゴム製のブーツを前記PTO取出口に取り付けて、後方へ屈曲したPTO変速レバー12を設けている。ブーツの外周縁を断面コ字状にしてPTO取出口の内周端縁に嵌め込んで取り付ける。このPTO変速レバー12は、PTO出力軸111を正転4速と逆転1速に変速するものである。
【0026】
ハンドルポスト6上部のステアリングハンドル7の前側にメータパネル16が設けられて、走行速度等の機体状況が表示される。
また、一速から八速まで変速する主変速レバー14はシート9の左前側部にあり、超低速、低速、中速、高速の四段及び中立のいずれかの位置を選択できる副変速レバー15はその後方に設けている。
【0027】
トラクタ1の機体後部には、ロータリ作業機17を装着して、ミッションケース8から後方へ突出するPTO出力軸111で駆動するようにしている。
図2は、変速装置を組み込んだミッションケース8内の動力伝動機構を示す伝動線図で、エンジン5から前輪2,2と後輪3,3及びロータリ作業機17へのPTO出力軸111への変速伝動を説明する。
【0028】
エンジン5のエンジン出力軸20の回転がメインクラッチ112を介して入力軸21に伝動され、この入力軸21に固着の第一入力ギヤ22と第二入力ギヤ23の回転がそれぞれ第一高・低クラッチ24の第一低速ギヤ26と第二高・低クラッチ25の第二低速ギヤ27及び第一高・低クラッチ24の第一高速ギヤ30と第二高・低クラッチ25の第二高速ギヤ31に噛み合っている。
【0029】
そして、第一高・低クラッチ24を第一低速ギヤ26側に繋ぐと第一低速ギヤ26から第一クラッチ軸28に伝動され、第一高速ギヤ30側に繋ぐと第一高速ギヤ30から第一クラッチ軸28に伝動され、第二高・低クラッチ25を第二低速ギヤ27側に繋ぐと第二低速ギヤ27から第二クラッチ軸29に伝動され、第二高速ギヤ31側に繋ぐと第二高速ギヤ31から第二クラッチ軸29に伝動される。
【0030】
第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25は同一の油圧多板クラッチで、それぞれ入力軸21の回転を同一減速比で高・低の二段に減速して第一クラッチ軸28と第二クラッチ軸29に伝動することになる。
【0031】
第一クラッチ軸28に固着の第一ギヤ113が低速伝動軸34に固着の第二ギヤ35と噛み合って減速して伝動され、第二クラッチ軸29に固着の第三ギヤ149が高速伝動軸32に固着の第四ギヤ33と噛み合って増速して伝動される。
【0032】
ここまでの変速伝動で、低速伝動軸34が低速で二段に、高速伝動軸32が高速で二段にそれぞれ変速されることで、計四段に変速されることになる。
低速伝動軸34と高速伝動軸32の回転がそれぞれ第一シンクロチェンジ42と第二シンクロチェンジ36に伝動され、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43と第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37が第一伝動軸39の第五ギヤ40と噛み合い、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロギヤ大44と第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ大ギヤ38が第一伝動軸39の第六ギヤ41と噛み合って伝動する。
【0033】
第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43と第一シンクロギヤ大44及び第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37と第二シンクロ大ギヤ38は、全く同一のギヤで、低速伝動軸34が低速回転し高速伝動軸32が高速回転しているので、第一シンクロチェンジ42を切換えると低速でさらに二段に変速され、第二シンクロチェンジ36を切換えると高速でさらに二段に変速される。すなわち、第一入力軸21の回転が第一伝動軸39で低速四段と高速四段に変速されることになる。
【0034】
この第一シンクロチェンジ42と第二シンクロチェンジ36はシフタステーとシフタをサブ組付けしてミッションケース8内に収められ、その変速操作部のケース開口部がケースの左右側面に設けられ、ミッションケース8の潤滑オイルの液面OLよりも上側に設けられる。
【0035】
ここまでの主変速部150で、オペレータが操作する主変速レバー14の変速位置を読み取って、走行系ECUで自動的に高・低油圧多板クラッチ24,25と第一・第二シンクロチェンジ36,42を制御して低速四段と高速四段まで変速される。
【0036】
また、ミッションケース8内で、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25が左右に配置され、その下側に第一シンクロチェンジ42を装着する低速伝動軸34と第二シンクロチェンジ36を装着する高速伝動軸32が左右に配置されることで、ミッションケース8の左右幅が狭く高さの低いコンパクトな構成になっている。
【0037】
第一伝動軸39は第二伝動軸45に軸連結で連結されている。この第二伝動軸45には、第七ギヤ46と第八ギヤ47が固着され、油圧多板の正逆クラッチ48の正転クラッチギヤ49と逆転軸52の逆転ギヤ51に噛み合わされ、逆転ギヤ51が正逆クラッチ48の逆転クラッチギヤ50と噛み合っている。
【0038】
従って、正逆クラッチ48を正転クラッチギヤ49に繋ぐと、正転状態で正逆クラッチ48に連結の副変速軸53に伝動され、正逆クラッチ48を逆転クラッチギヤ50に繋ぐと、逆転状態で副変速軸53に伝動される。正転と逆転では減速比が異なり、逆転の方が低速になる。
【0039】
次に、副変速部154を説明する。
副変速軸53には第九ギヤ54と第十ギヤ55が固着され、それぞれ第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ大ギヤ56と第三シンクロ小ギヤ59に噛み合っている。従って、第三シンクロチェンジ58を第三シンクロ大ギヤ56側に繋ぐと第九ギヤ54から第三シンクロ大ギヤ56に伝動した回転で第5伝動軸60が増速して高速で駆動され、第三シンクロチェンジ58を第三シンクロ小ギヤ59側に繋ぐと第十ギヤ55から第三シンクロ小ギヤ59に伝動した回転で第5伝動軸60が減速して中速で駆動される。
【0040】
さらに、第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ小ギヤ59側には第十一ギヤ57を固着して、第四シンクロチェンジ71の第四シンクロ小ギヤ69と噛み合っている。そして、第四シンクロ小ギヤ69側には第十五ギヤ70を固着し、この第十五ギヤ70が第二筒軸114の第十七ギヤ75と噛み合って第二筒軸114に固着の第十八ギヤ76から第四シンクロ大ギヤ72に伝動している。第四シンクロチェンジ71を装着した第一筒軸73には、第十六ギヤ74を固着している。
【0041】
従って、第三シンクロチェンジ58を中立にすると、第十ギヤ55の回転が第三シンクロ小ギヤ59に伝動され、第三シンクロ小ギヤ59側に固着の第十一ギヤ57から第四シンクロ小ギヤ69に伝動される。
【0042】
この状態で、第四シンクロチェンジ71を第四シンクロ小ギヤ69側に繋ぐと、第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十六ギヤ74の回転となって低速となり、第四シンクロチェンジ71を第四シンクロ大ギヤ72側に繋ぐと第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十五ギヤ70から第十七ギヤ75と第十八ギヤ76と第四シンクロ大ギヤ72に伝動されて第十六ギヤ74が極低速となる。
【0043】
なお、第三シンクロチェンジ58を第三シンクロ大ギヤ56側或いは第三シンクロ小ギヤ59側に繋ぐ場合には、第四シンクロチェンジ71を中立にしておく。
従って、主変速部150変速された副変速軸53の低速四段と高速四段が、副変速部154で四段に変速されることで、低速十六段と高速十六段に変速されることになる。
【0044】
図9は、変速段に応じて変動する潤滑部を示し、Hi−Lo(1−3)は第一シンクロチェンジ42で、Hi−Lo(2−4)は第二シンクロチェンジ36で、主1−3は第一高・低クラッチ24で、主2−4は第二高・低クラッチ25で、リバースは正逆クラッチ48を示し、Hiは高速、Loは低速、Fは前進、Rは後進を示す。
【0045】
第十六ギヤ74は前記第5伝動軸60に固着の第十二ギヤ61と噛み合って第5伝動軸60を駆動する。この第5伝動軸60の軸端に固着の第一ベベルギヤ62がリアベベルケース64の第二ベベルギヤ63と噛み合っていて、リアベベルケース64のベベル出力軸65から第十三ギヤ66と第十四ギヤ67を介して後輪出力軸68を回転して後輪3を駆動する。
【0046】
また、第5伝動軸60には第二十一ギヤ117が固着され、副変速軸53に軸支された第二筒軸119に固着の第二十二ギヤ118と第二十二ギヤ148を介して第一前輪駆動軸78の第十九ギヤ77に伝動して、前記第十六ギヤ74の低速十六段と高速十六段の回転が第一前輪駆動軸78に伝動されている。
【0047】
この第一前輪駆動軸78から前輪増速クラッチ79を介して第二前輪駆動軸84に伝動し、第三前輪駆動軸85と第四前輪駆動軸86と前輪駆動ベベル軸87に引き継いで伝動し、前輪駆動ベベル軸87の軸端に固着の第一前ベベルギヤ88が前ベベルケース89の第二前ベベルギヤ115と噛み合っていて、前ベベルケース89の前ベベル出力軸90から第一前ベベルギヤ組91と前縦軸116と第二前ベベルギヤ組92を介して前輪出力軸93を回転して前輪2を駆動する。
【0048】
なお、前輪増速クラッチ79の第一増速クラッチギヤ82と第二増速クラッチギヤ80はそれぞれ第一増速ギヤ83と第二増速ギヤ81に噛み合って前輪増速クラッチ79の切換によって増速率を変更する。
【0049】
ここまでの副変速部154が副変速レバー15の変速位置を読み取って、走行系ECU120で自動的に第三シンクロチェンジ58と第四シンクロチェンジ71を制御して変速される。
【0050】
また、第四シンクロチェンジ71を装着した第一筒軸73は、第三シンクロチェンジ58を装着した第5伝動軸60の下側に配置され、ミッションケース8の長さを短く出来る。
【0051】
次に、PTO出力軸111の伝動経路を説明する。
前記第二入力ギヤ23にPTOメインクラッチ97のメインクラッチギヤ96を噛み合わせて、PTOメインクラッチ97で動力の断続を行うようにしている。
【0052】
PTOメインクラッチ97を装着した第一PTO軸95には、次の如く、PTO変速部157が設けられている。
第一PTOギヤ98と第二PTOギヤ99と第五シンクロチェンジ151の第五シンクロ小ギヤ100と第五シンクロ大ギヤ101を装着し、第二PTO軸104に第二十ギヤ102と第二十三ギヤ152と第二十一ギヤ103と第二十四ギヤ153を固着し、カウンタ軸106にPTO逆転ギヤ105を軸支している。
【0053】
第一PTOギヤ98をスライドして第二十ギヤ102に噛み合わせると第三PTO軸107が二速になり、第一PTOギヤ98をスライドして第二PTOギヤ99に係合すると第一PTO軸95の回転が第二PTOギヤ99と第二十三ギヤ152を介して第三PTO軸107に伝わって四速となり、第五シンクロチェンジ151を第五シンクロ小ギヤ100に繋ぐと第五シンクロ小ギヤ100から第二十一ギヤ103に伝動して一速となり、第五シンクロチェンジ151を第五シンクロ大ギヤ101に繋ぐと第五シンクロ大ギヤ101から第二十四ギヤ153に伝動して三速となり、PTO逆転ギヤ105を第一PTOギヤ98と第二十ギヤ102に噛み合わせると第一PTO軸95の回転が第一PTOギヤ98からPTO逆転ギヤ105を経て第二十ギヤ102に伝動されて第三PTO軸107に伝わって逆回転となる。
【0054】
第三PTO軸107の回転は、第四PTO軸156を介して第五PTO軸108に伝動し、第一PTO出力ギヤ109と第二PTO出力ギヤ110さらに減速してPTO出力軸111を駆動する。
【0055】
図4から図6に示すPTO変速機構の第一実施例で、PTO変速レバー12と、PTO出力軸111の回転を正転2速と4速に切り換える第一PTOギヤ98との連動と、PTO出力軸111の回転を正転1速と3速に切り換える第五シンクロチェンジ151との連動と、PTO出力軸111の回転を逆転1速に切り換えるPTO逆転ギヤ105との連動関係を示している。
【0056】
ミッションケース8に取り付けるPTO変速ブラケット121に横スライド軸133を左右方向に軸支し、この横スライド軸133を中心に前後へ傾動可能で左右回動可能に上端にPTO変速レバー12を固着した第一変速軸120を該横スライド軸133の前側に立設する。横スライド軸133には三つの係合溝124a,124b,124cを形成した第一シフタ124を回動しないようにスプライン嵌合し、各係合溝124a,124b,124cの一つにPTO変速ブラケット121のコイルバネで押圧したボール125を嵌入してシフト位置を各位置で保持すべくすると共に、第一変速軸120の下端に固着した変速アーム122を係合溝124a,124b,124cの一つに係合して、第一変速軸120の左右回動で第一シフタ124を左右にスライドするようにしている。
【0057】
第一シフタ124には下方へ向けてシフトアーム124dを設けて、三つのシフト位置で第二シフタ127と第三シフタ128と第四シフタ134に係合するようにしている。また、PTO変速ブラケット121の底部に、シフトアーム124dの前後移動及び中立での左右移動をガイドするガイド溝を形成したシフトガイド158をボルト141で取り付けている。
【0058】
第二シフタ127と第三シフタ128は正転シフト軸126aのシフタで、第四シフタ134は逆転シフト軸126bのシフタで、第二シフタ127を前後に回動すると第五シンクロチェンジ151をスライドして正転1速と正転3速に変速し、第三シフタ128を前後に回動すると第一PTOギヤ98をスライドして正転速と正転4速に変速し、第四シフタ134を前に回動すると逆転ギヤ105をスライドして逆転に変速する。第四シフタ134のアーム部134aは下方へ長く延びるので、アーム部134aの中間にガイド軸を通して倒れないようにする。
【0059】
主変速レバー14と副変速レバー15での変速位置を読み込んで、マイコンによって第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25と第一シンクロチェンジ42と第二シンクロチェンジ36と第三シンクロチェンジ58と第四シンクロチェンジ71と正逆クラッチ48を作動して変速を行うが、変速操作完了の確定は、主変速レバー14と副変速レバー15が所定時間変化しない状態が継続したときに変速操作完了と判定する。
【0060】
また、変速操作完了にならなくても変速指示段への変速動作を開始する。その際に、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25の変速を優先し、その後に第一シンクロチェンジ42や第二シンクロチェンジ36や第三シンクロチェンジ58や第四シンクロチェンジ71の変速を行うことで迅速に変速が行える。
【0061】
なお、第一シンクロチェンジ42とHi−Lo(2−4)は第二シンクロチェンジ36に変速動作は、第一高・低クラッチ24と第二高・低クラッチ25の予定している変速完了タイミングで変速動作を開始する構成とする。これにより、主変速部である前記第一シンクロチェンジ42とHi−Lo(2−4)は第二シンクロチェンジ36は、短い時間で変速できるようになる。
【0062】
また、飛び段変速(例えば、2速から6速等)する際は、目標とする変速位置条件(飛び段変速が離れすぎていて変速ショックが予想される場合等)や作業車両の転がり条件(加速中か減速中等)により、正逆クラッチ48の接続タイミング(昇圧パターン)を変更することで、変速ショックを低減できる。
【符号の説明】
【0063】
PS 初期油圧
PB1 連動時起動油圧
PA1 単独時起動油圧
PBR 連動時昇圧率
PAR 単独時昇圧率
S1 準備時間
後輪
エンジン
10 発進変速操作具(前後進レバー)
19R,19L ブレーキペダル
112 メインクラッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9