(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板の少なくとも片面に、金属酸化物および金属酸窒化物の少なくとも一方を含む応力緩和層を大気圧プラズマCVD法で形成し、前記応力緩和層上に、ポリシラザン単体からなるウェットコーティング層又はポリシラザンを主成分としてアミン又は金属の触媒を含むウェットコーティング層を真空紫外線照射により改質処理して珪素酸窒化物からなるバリア層を形成することを特徴とするガスバリア積層体の製造方法。
前記応力緩和層、及び前記バリア層をガスバリア層ユニットとした際に、前記基板の少なくとも片面に前記ガスバリア層ユニットを少なくとも二つ繰り返し積層することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、基板の少なくとも片面に、大気圧プラズマCVD法で形成した金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層、及びウェットプロセスで形成された珪素酸窒化物からなる層を有するガスバリア積層体に関する。
【0021】
本発明においては、大気圧プラズマCVD法で形成した金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層を応力緩和層として、また、ウェットプロセスで形成された珪素酸窒化物からなる層をバリア層として積層体を、これを基板例えば樹脂フィルム上に形成することで、バリア層形成時の膜収縮や、屈曲により発生する応力によるクラックや剥がれの発生を抑え、耐屈曲性を向上させたガスバリア積層体を構成するものである。
【0022】
図1は、本発明に係るガスバリア積層体の一例を示す断面構成図である。
【0023】
本発明のガスバリア積層体は、基板1上に応力緩和層2として大気圧プラズマCVD法で形成した金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層が、更に該応力緩和層2上にバリア層3として、例えばポリシラザンの改質によってウェットプロセスで形成した珪素酸窒化物からなる層が積層形成され、構成される。
【0024】
また、該応力緩和層とバリア層が積層されたユニットを一つのガスバリア層ユニットとして、該ガスバリア層ユニットを少なくとも二つ繰り返し積層することも本発明の好ましい一態様である。
【0025】
本発明では、下層となる金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層を、応力緩和層としてドライプロセスである大気圧プラズマCVD法により形成する。当該応力緩和層は、多少のガスバリア性を有する。また、本発明では、バリア層を、例えば、ポリシラザン塗布層等のウェットプロセスで形成する珪素酸窒化物層からなる層で形成し、前記応力緩和層と合わせて積層体を構成することを特徴としている。
【0026】
応力緩和層は柔軟性のある、内部応力が小さい層であり、例えばバリア層成膜時の膜収縮による応力を緩和できる層であるが、大気圧プラズマCVD法を用いることで、成膜レートを上げても、バリア層と密着性のよい金属酸化物または金属酸窒化物を含む内部応力の小さい柔軟な膜(層)を形成できる。なお、真空プラズマ法では成膜レートが低いので生産性が問題であり、また、柔軟な膜になりにくく応力緩和能が低い層となってしまう。
また、本発明の構成においては、バリア層がウェットプロセスにて積層されるときに、その下層として応力緩和層が大気圧プラズマCVD法により形成されていると、前記バリア層が基板や下層膜吸着水を受けにくくなるため、積層されたバリア層については、大気圧プラズマCVD法により形成された応力緩和層によって、下層からの水の影響を受けにくくより緻密でガスバリア性能の高い膜が得られると考えられる。
【0027】
また、大気圧プラズマCVD法で形成した応力緩和層は、柔軟で内部応力が小さく、自身の膜収縮がないため、ポリシラザンの改質による緻密なバリア層形成の際に発生する応力を充分に緩和できる。
【0028】
また、バリア層と同じ材料(材質)からなる膜を応力緩和層に用いることで、ウェットプロセスで形成された珪素酸窒化物からなるバリア層との密着性のよい積層膜とすることができる。
【0029】
また、大気圧プラズマCVD法によれば、例えばポリシラザン塗布等のウェットプロセスによるときと同様に大気圧下で実施できるので、金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層(応力緩和層)、ウェットプロセスで形成された珪素酸窒化物からなる層(バリア層)の積層体を形成するときに大気圧下での連続処理が可能であり生産上好ましい。
【0030】
真空プラズマCVD法ではウェットプロセスによるバリア層成膜工程との連続処理はできない。また真空引きなど工程の工数が大きくなるため生産性が悪くなってしまう。
【0031】
本発明は、基板の少なくとも片面に、大気圧プラズマCVD法で形成した金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層、及びウェットプロセスで形成された珪素酸窒化物からなる層を有するガスバリア積層体であるが、基板の少なくとも片面に、このようなガスバリア層ユニットを少なくとも二つ繰り返し積層することも好ましい。積層数は求められるガスバリア性能により決められるが、本発明において膜厚を厚くした場合にも、ガスバリア層ユニットの耐屈曲性がよいことから、屈曲性の劣化がない。
【0032】
以下、本発明の各層について詳細に説明する。
【0033】
〔応力緩和層〕
本発明においては、応力緩和層が大気圧プラズマCVD法で形成されたことを特徴の1つとする。
【0034】
(大気圧プラズマCVD)
一般に、金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層を形成する方法には真空蒸着やスパッタ法、真空プラズマCVD等が知られているが、これらの方法で得られた金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層は前述のような十分に優れた応力緩和性能は得られない。
とりわけ、多気圧プラズマCVD法で形成された金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層の圧縮応力は、真空プラズマCVD法で形成された金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層の圧縮応力の約1/100である。圧縮応力の測定方法としては、厚さ100μm、巾10mm、長さ50mmの石英硝子上に、各層を1μm厚みで製膜し、NEC三栄社製薄膜物性評価装置MH4000にて圧縮応力(残留応力、MPa)を測定することができる。
【0035】
本発明におけるこれら金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一方を含む層(薄膜)の厚さは、用いられる材料の種類、構成により最適条件が異なり、適宜選択されるが、5〜2000nmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
例えば、上記の範囲より薄い場合には、膜欠陥が多く均一な膜が得られず、充分な応力緩和能が得られにくい。また、金属酸化物または金属窒化物を有する層の厚さが上記の範囲より厚い場合には、内部応力も大きくなりバリア層成膜時に、あるいは成膜後の積層体の折り曲げ、引っ張り等の外的要因で亀裂が生じる等のおそれがあり好ましい応力緩和性が得られないことがある。
【0037】
また、本発明においては、前記金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一方を含む層に、ウェットプロセスによって珪素酸窒化物の薄膜を積層したものは透明であることが好ましい。透明であることにより、ガスバリア積層体を透明なものとすることが可能となり、EL素子、又光電変換素子等の透明基板等の用途にも使用することが可能となるからである。ガスバリア積層体の光透過率としては、例えば試験光の波長を550nmとしたとき透過率が80%以上のものが好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0038】
プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法は、原材料(原料ともいう)である有機金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等のセラミック層を、またこれらの金属酸窒化物、金属窒化炭化物などとの混合物も作り分けることができるため好ましい。
【0039】
例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、珪素酸化物が生成する。また、これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0040】
このような無機物の原料としては、典型または遷移金属元素を有していれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用できる。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
【0041】
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガスなどが挙げられる。
【0042】
金属元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物を得ることができる。
【0043】
本発明においては、金属元素を含む原料ガスとして、例えば、珪素化合物としては、テトラエチルシラン、テトラメチルシラン、テトライソプロピルシラン、テトラブチルシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルシランジ(2,4−ペンタンジオナート)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等、珪素水素化合物としては、テトラ水素化シラン、ヘキサ水素化ジシラン等、ハロゲン化珪素化合物としては、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジエチルジクロロシラン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。これらを2種以上同時に混合して使用することも出来る。上記の珪素化合物は、取り扱い上の観点から珪素アルコキシド、アルキルシラン、珪素水素化合物が好ましく、腐食性、有害ガスの発生がなく、工程上の汚れなども少ないことから、特に珪素化合物として珪素アルコキシドが好ましい。
【0044】
またチタン化合物としては、有機チタン化合物、チタン水素化合物、ハロゲン化チタン等が挙げられ、有機チタン化合物としては、例えば、トリエトキシチタン、トリメトキシチタン、トリイソプロポキシチタン、トリブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルジメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、トリエチルチタン、トリイソプロピルチタン、トリブチルチタン、テトラエチルチタン、テトライソプロピルチタン、テトラブチルチタン、テトラジメチルアミノチタン、ジメチルチタンジ(2,4−ペンタンジオナート)、エチルチタントリ(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(アセトメチルアセタート)、トリアセトキシチタン、ジプロポキシプロピオニルオキシチタン等、ジブチリロキシチタン、チタン水素化合物としてはモノチタン水素化合物、ジチタン水素化合物等、ハロゲン化チタンとしては、トリクロロチタン、テトラクロロチタン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。またこれらを2種以上同時に混合して使用することも出来る。
【0045】
また錫化合物としては、有機錫化合物、錫水素化合物、ハロゲン化錫等であり、有機錫化合物としては、例えば、テトラエチル錫、テトラメチル錫、二酢酸ジ−n−ブチル錫、テトラブチル錫、テトラオクチル錫、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、ジエチル錫、ジメチル錫、ジイソプロピル錫、ジブチル錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、錫ジブチラート、錫ジアセトアセトナート、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫アセトアセトナート、ジメチル錫ジアセトアセトナート等、錫水素化合物等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等を挙げることができ、何れも本発明において好ましく用いることができる。また、これらを2種以上同時に混合して使用してもよい。
【0046】
アルミニウム化合物としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、トリエチルジアルミニウムトリ−s−ブトキシド等が挙げられる。
【0047】
また、その他の有機金属化合物としては、例えば、アンチモンエトキシド、ヒ素トリエトキシド、バリウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、ベリリウムアセチルアセトナート、ビスマスヘキサフルオロペンタンジオネート、ジメチルカドミウム、カルシウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、クロムトリフルオロペンタンジオネート、コバルトアセチルアセトナート、銅ヘキサフルオロペンタンジオネート、マグネシウムヘキサフルオロペンタンジオネート−ジメチルエーテル錯体、ガリウムエトキシド、テトラエトキシゲルマン、テトラメトキシゲルマン、ハフニウムt−ブドキシド、ハフニウムエトキシド、インジウムアセチルアセトナート、インジウム2,6−ジメチルアミノヘプタンジオネート、フェロセン、ランタンイソプロポキシド、酢酸鉛、テトラエチル鉛、ネオジウムアセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロペンタンジオネート、トリメチルシクロペンタジエニル白金、ロジウムジカルボニルアセチルアセトナート、ストロンチウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、タンタルメトキシド、タンタルトリフルオロエトキシド、テルルエトキシド、タングステンエトキシド、バナジウムトリイソプロポキシドオキシド、マグネシウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、ジエチル亜鉛、などが挙げられる。
【0048】
これらのうち、本発明においては、珪素化合物を用いるのが好ましく、珪素化合物から形成される酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素又は窒化珪素が好ましい。
【0049】
これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合し、プラズマ放電発生装置にガスを送りこむ。
【0050】
このような放電ガスとしては、窒素ガスおよび/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
【0051】
上記放電ガスと反応性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0052】
例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、珪素酸化物が生成する。また、シラザン等を原料化合物として用いれば、酸化窒化珪素が生成する。
【0053】
これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0054】
本発明において、金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一方を含む層は、好ましくは、酸化珪素膜であり、炭素含有量が1〜30at%である酸化ケイ素膜であることが好ましい。本発明において炭素含有量(at%)は、原子数濃度%(atomic concentration)を表す。
【0055】
前記金属酸化物及び金属酸窒化物は、炭素含有量が上記の範囲であることにより、より柔軟で内部応力の小さな膜となり、また、大気圧プラズマ法による成膜レートも大きくできる。
【0056】
大気圧プラズマCVD法を用いて薄膜を形成する場合、製造条件、又用いる薄膜形成ガス(原料ガス、添加ガス等の種類、比率等)によって、酸化珪素粒子の充填の程度、また混入する微量の不純物粒子等に差が生じる為、これらを調整して炭素含有量を調整する。これにより、物性、密度等が異なり、柔軟性も異なってくる。
【0057】
(X線反射率法)
X線反射率法の概要は、X線回折ハンドブック 151ページ(理学電機株式会社編 2000年 国際文献印刷社)や化学工業1999年1月No.22を参照して行うことができる。
【0058】
本発明に有用な測定方法の具体例を以下に示す。
【0059】
これは、表面が平坦な物質に非常に浅い角度で行線を入射させ測定を行う方法で、測定装置としては、マックサイエンス社製MXP21を用いて行う。X線源のターゲットには銅を用い、42kV、500mAで作動させる。インシデントモノクロメータには多層膜パラボラミラーを用いる。入射スリットは0.05mm×5mm、受光スリットは0.03mm×20mmを用いる。2θ/θスキャン方式で0から5°をステップ幅0.005°、1ステップ10秒のFT法にて測定を行う。得られた反射率曲線に対し、マックサイエンス社製Reflectivity Analysis Program Ver.1を用いてカーブフィッティングを行い、実測値とフィッティングカーブの残差平方和が最小になるように各パラメータを求める。各パラメータから積層膜の屈折率、厚さおよび密度を求めることができる。本発明における積層膜の膜厚評価も上記X線反射率測定より求めることができる。
【0060】
酸化珪素膜の密度は、微量成分である炭素含有量と密接に相関があり、例えば、炭素原子濃度が低い(0.1at%未満)膜は密度が高い膜となるが、炭素原子濃度がこれよりも高い、1at%以上、30at%未満の膜は、膜密度もより低くより柔らかい組成物であり、応力緩和層として適する。
【0061】
炭素含有量を示す原子数濃度%(at%)は公知の分析手段を用いて求めることができるが、本発明においては下記のXPS法によって算出されるもので、以下に定義される。
【0062】
原子数濃度%(atomic concentration)=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置は、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5eV〜1.7eVとなるように設定した。
【0063】
測定としては、先ず、結合エネルギー0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。
【0064】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンを行い、各元素のスペクトルを測定した。
【0065】
得られたスペクトルは、測定装置、あるいは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理を行い、各分析ターゲットの元素(炭素、酸素、ケイ素、チタン等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0066】
定量処理を行う前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションを行い、5ポイントのスムージング処理を行った。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。また、Shirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることができる。
【0067】
(応力緩和層の形成方法)
本発明のガスバリア積層体の製造方法において、本発明に係る金属酸化物及び金属酸窒化物の少なくとも一方を含む層の形成に好適に用いることのできる大気圧プラズマCVD法について、更に詳細に説明する。
【0068】
CVD法(化学的気相成長法)は、揮発・昇華した有機金属化合物が高温の支持体表面に付着し、熱により分解反応が起き、熱的に安定な無機物の薄膜が生成されるというものであり、このような通常のCVD法(熱CVD法とも称する)では、通常500℃以上の基板温度が必要であるため、プラスチック支持体への製膜には使用することが難しいが一方、プラズマCVD法は、支持体近傍の空間に電界を印加し、プラズマ状態となった気体が存在する空間(プラズマ空間)を発生させ、揮発・昇華した有機金属化合物がこのプラズマ空間に導入されて分解反応が起きた後に支持体上に吹きつけられることにより、無機物の薄膜を形成するというものである。プラズマ空間内では、数%の高い割合の気体がイオンと電子に電離しており、ガスの温度は低く保たれるものの、電子温度は非常な高温のため、この高温の電子、あるいは低温ではあるがイオン・ラジカルなどの励起状態のガスと接するために無機膜の原料である有機金属化合物は低温でも分解することができる。したがって、無機物を製膜する支持体についても低温化することができ、樹脂フィルム支持体上へも十分製膜することが可能な製膜方法である。
【0069】
プラズマ放電処理装置においては、ガス供給手段から、前記金属を含む原料ガス、分解ガスを適宜選択して、またこれらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合してプラズマ放電発生装置にガスを送りこむことで前記の層を得ることができる。
【0070】
大気圧プラズマCVD法において、プラズマ放電処理は、大気圧もしくはその近傍の圧力下で行われるが、大気圧もしくはその近傍の圧力とは20kPa〜110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93kPa〜104kPaが好ましい。
【0071】
放電条件は、放電空間に、前記第1の高周波電界と第2の高周波電界とを重畳し、前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、且つ、前記第1の高周波電界の強さV1、前記第2の高周波電界の強さV2および放電開始電界の強さIVとの関係が、
V1≧IV>V2または V1>IV≧V2 を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm
2以上である。
【0072】
高周波とは、少なくとも40kHzの周波数を有するものを言う。
【0073】
重畳する高周波電界が、ともにサイン波である場合、第1の高周波電界の周波数ω1と該周波数ω1より高い第2の高周波電界の周波数ω2とを重ね合わせた成分となり、その波形は周波数ω1のサイン波上に、それより高い周波数ω2のサイン波が重なった鋸歯状の波形となる。
【0074】
放電開始電界の強さとは、実際の薄膜形成方法に使用される放電空間(電極の構成など)および反応条件(ガス条件など)において放電を起こすことの出来る最低電界強度のことを指す。放電開始電界強度は、放電空間に供給されるガス種や電極の誘電体種または電極間距離などによって多少変動するが、同じ放電空間においては、放電ガスの放電開始電界強度に支配される。
【0075】
上記でサイン波等の連続波の重畳について説明したが、これに限られるものではなく、両方パルス波であっても、一方が連続波でもう一方がパルス波であってもかまわない。また、更に第3の電界を有していてもよい。
【0076】
高周波電界を、同一放電空間に印加する具体的な方法としては、対向電極を構成する第1電極に周波数ω1であって電界強度V1である第1の高周波電界を印加する第1電源を接続し、第2電極に周波数ω2であって電界強度V2である第2の高周波電界を印加する第2電源を接続した大気圧プラズマ放電処理装置を用いることである。
【0077】
上記の大気圧プラズマ放電処理装置には、対向電極間に、放電ガスと反応性ガスとを供給するガス供給手段を備える。更に、電極の温度を制御する電極温度制御手段を有することが好ましい。
【0078】
また、第1電極、第1電源またはそれらの間の何れかには第1フィルタを、また第2電極、第2電源またはそれらの間の何れかには第2フィルタを接続することが好ましく、第1フィルタは第1電源から第1電極への第1の高周波電界の電流を通過しやすくし、第2の高周波電界の電流をアースして、第2電源から第1電源への第2の高周波電界の電流を通過しにくくする。また、第2フィルタはその逆で、第2電源から第2電極への第2の高周波電界の電流を通過しやすくし、第1の高周波電界の電流をアースして、第1電源から第2電源への第1の高周波電界の電流を通過しにくくする機能が備わっているものを使用する。ここで、通過しにくいとは、好ましくは、電流の20%以下、より好ましくは10%以下しか通さないことをいう。逆に通過しやすいとは、好ましくは電流の80%以上、より好ましくは90%以上を通すことをいう。
【0079】
更に、大気圧プラズマ放電処理装置の第1電源は、第2電源より高い高周波電界強度を印加出来る能力を有していることが好ましい。
【0080】
ここで、本発明でいう高周波電界強度(印加電界強度)と放電開始電界強度は、下記の方法で測定されたものをいう。
【0081】
高周波電界強度V1及びV2(単位:kV/mm)の測定方法:
各電極部に高周波電圧プローブ(P6015A)を設置し、該高周波電圧プローブの出力信号をオシロスコープ(Tektronix社製、TDS3012B)に接続し、電界強度を測定する。
【0082】
放電開始電界強度IV(単位:kV/mm)の測定方法:
電極間に放電ガスを供給し、この電極間の電界強度を増大させていき、放電が始まる電界強度を放電開始電界強度IVと定義する。測定器は上記高周波電界強度測定と同じである。
【0083】
所定の放電条件をとることにより、例え窒素ガスのように放電開始電界強度が高い放電ガスでも、放電を開始し、高密度で安定なプラズマ状態を維持出来、高性能な薄膜形成を行うことが出来る。
【0084】
上記の測定により放電ガスを窒素ガスとした場合、その放電開始電界強度IV(1/2Vp−p)は3.7kV/mm程度であり、従って、上記の関係において、第1の高周波電界強度を、V1≧3.7kV/mmとして印加することによって窒素ガスを励起し、プラズマ状態にすることが出来る。
【0085】
ここで、第1電源の周波数としては、200kHz以下が好ましく用いることが出来る。またこの電界波形としては、連続波でもパルス波でもよい。下限は40kHz程度が望ましい。
【0086】
一方、第2電源の周波数としては、800kHz以上が好ましく用いられる。この第2電源の周波数が高い程、プラズマ密度が高くなり、緻密で良質な薄膜が得られる。上限は200MHz程度が望ましい。
【0087】
このような2つの電源から高周波電界を印加することは、第1の高周波電界によって高い放電開始電界強度を有する放電ガスの放電を開始するのに必要であり、また第2の高周波電界の高い周波数および高い出力密度によりプラズマ密度を高くできることが本発明の重要な点である。
【0088】
また、第1の高周波電界の出力密度を高くすることで、放電の均一性を維持したまま、第2の高周波電界の出力密度を向上させることができる。これにより、更なる均一高密度プラズマが生成できる。
【0089】
本発明に用いられる大気圧プラズマ放電処理装置において、前記第1フィルタは、第1電源から第1電極への第1の高周波電界の電流を通過しやすくし、第2の高周波電界の電流をアースして、第2電源から第1電源への第2の高周波電界の電流を通過しにくくする。また、第2フィルタはその逆で、第2電源から第2電極への第2の高周波電界の電流を通過しやすくし、第1の高周波電界の電流をアースして、第1電源から第2電源への第1の高周波電界の電流を通過しにくくする。本発明において、かかる性質のあるフィルタであれば制限無く使用出来る。
【0090】
例えば、第1フィルタとしては、第2電源の周波数に応じて数10pF〜数万pFのコンデンサ、もしくは数μH程度のコイルを用いることが出来る。第2フィルタとしては、第1電源の周波数に応じて10μH以上のコイルを用い、これらのコイルまたはコンデンサを介してアース接地することでフィルタとして使用出来る。
【0091】
供給電力は高いほど良く、第1電源は1W/cm
2以上が好ましく、2W/cm
2以上がより好ましく、5W/cm
2以上が更に好ましい。第2電源は、1W/cm
2以上が好ましく、5W/cm
2以上がより好ましく、11W/cm
2以上が更に好ましい。
【0092】
また、放電ガスとしては、窒素ガスおよび/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。反応性ガスとしては珪素化合物を珪素酸化物にできれば限定はないが、酸素、水が好ましい。
【0093】
本発明に適用できる大気圧プラズマ放電処理装置としては、例えば、特開2004−68143号公報、同2003−49272号公報、国際特許第02/48428号パンフレット等に記載されている大気圧プラズマ放電処理装置を挙げることができる。
【0094】
また、大気圧プラズマ放電処理装置に設置する電源としては、神鋼電機 SPG50−4500(周波数50kHz)、ハイデン研究所 PHF−6k(100kHz)、パール工業 CF−2000−200k(200kHz)、CF−2000−400k(400kHz)、CF−2000−800k(800kHz)、CF−2000−2M(2MHz)、CF−2000−13M(13.56MHz)、CF−2000−27M(27MHz)、CF−2000−150M(150MHz)等の市販のものが挙げられ、いずれも好ましく使用できる。
【0095】
〔バリア層〕
本発明におけるバリア層は、珪素原子および酸素原子を含有し、酸素及び水蒸気の透過を阻止する膜で、構成する材料として具体的には、珪素を有する無機酸化物が好ましく、珪素酸窒化物層を挙げることができる。
【0096】
この様な、バリア層により、JISK7129B法に従って測定した水蒸気透過率が、10
−4g/(m
2・24h)以下、好ましくは10
−5g/(m
2・24h)以下であり、酸素透過率が0.01cm
3/(m
2・24h・atm)以下、好ましくは0.001cm
3/(m
2・24h・atm)以下であるバリア性に優れたガスバリア積層体が得られる。
【0097】
本発明のガスバリア積層体(バリアフィルム)の水蒸気透過度としては、有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイ等の高度の水蒸気バリア性を必要とする用途に用いる場合、特に有機ELディスプレイ用途の場合、極わずかであっても、成長するダークスポットが発生し、ディスプレイの表示寿命が極端に短くなる場合があるため、JISK7129B法に従って測定した水蒸気透過度は前記の値以下であることが好ましい。
【0098】
この様なバリア性を達成するためには、バリア層表面の表面粗さが、JIS B0601:2001に準じて求めた粗さ曲線の最大断面高さRt(p)で、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。
【0099】
(バリア層の形成方法)
本発明のガスバリア積層体の製造は、基板上の少なくとも一方の面に、前記のように応力緩和層として、金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一方を含む層を大気圧プラズマCVD法で形成した上に、少なくとも1種の珪素化合物を含有する液体を20℃〜120℃で塗布(ウェットプロセス)、乾燥させ、珪素化合物薄膜を形成して前記珪素化合物薄膜に対し改質処理を行って、珪素酸窒化物の薄膜を積層することを特徴とする。
【0100】
ウェットプロセス、例えば塗布により形成する珪素化合物を含有する液体としては、ポリシラザン含有塗布液が好ましい。
【0101】
(ポリシラザン含有塗布液によるバリア層の形成)
本発明に係るバリア層は、大気圧プラズマCVD法で形成した応力緩和層上にポリシラザン化合物を含有する塗布液を積層塗布することにより形成される。
【0102】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。塗布厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、塗布厚さは、乾燥後の厚さが好ましくは1nm〜100μm程度、さらに好ましくは10nm〜10μm程度、最も好ましくは10nm〜1μm程度となるように設定され得る。
【0103】
本発明で用いられる「ポリシラザン」とは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO
2、Si
3N
4及び両方の中間固溶体SiO
xN
y等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
【0104】
フィルム基板を損なわないように塗布するためには、比較的低温でセラミック化してシリカに変性する化合物がよく、例えば、特開平8−112879号公報に記載の下記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有する化合物が好ましい。
【0106】
上記一般式(1)において、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。
【0107】
本発明では、得られるガスバリア層としての緻密性の観点からは、R
1、R
2、及びR
3の全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
【0108】
一方、そのSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下地である基板との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より(平均)膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
【0109】
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体または固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。これらは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
【0110】
低温でセラミック化するポリシラザンの他の例としては、上記一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有するポリシラザンに、ケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報参照)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報参照)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報参照)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報参照)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報参照)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報参照)等が挙げられる。
【0111】
更には、上記ポリシラザンの他には、シルセスキオキサンも用いることができる。シルセスキオキサンとしては、例えば、Mayaterials社製Q8シリーズのOctakis(tetramethylammonium)pentacyclo−octasiloxane−octakis(yloxide)hydrate;Octa(tetramethylammonium)silsesquioxane、Octakis(dimethylsiloxy)octasilsesquioxane、Octa[[3−[(3−ethyl−3−oxetanyl)methoxy]propyl]dimethylsiloxy] octasilsesquioxane;Octaallyloxetane silsesquioxane、Octa[(3−Propylglycidylether)dimethylsiloxy] silsesquioxane;Octakis[[3−(2,3−epoxypropoxy)propyl]dimethylsiloxy]octasilsesquioxane、Octakis[[2−(3,4−epoxycyclohexyl)ethyl]dimethylsiloxy]octasilsesquioxane、Octakis[2−(vinyl)dimethylsiloxy]silsesquioxane;Octakis(dimethylvinylsiloxy)octasilsesquioxane、Octakis[(3−hydroxypropyl)dimethylsiloxy]octasilsesquioxane、Octa[(methacryloylpropyl)dimethylsilyloxy]silsesquioxane Octakis[(3−methacryloxypropyl)dimethylsiloxy]octasilsesquioxane、等の化合物が挙げられる。
【0112】
ポリシラザンを含有する塗布液を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応するようなアルコール系や水分を含有するものを用いることは好ましくない。従って、具体的には、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒や、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。詳しくは、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリコロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等がある。これらの有機溶媒は、ポリシラザンの溶解度や有機溶媒の蒸発速度等の特性にあわせて選択し、複数の有機溶媒を混合してもよい。
【0113】
ポリシラザン含有の塗布液中におけるポリシラザン濃度は、目的とするバリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度であることが好ましい。
【0114】
ポリシラザン含有の塗布液中には、珪素酸窒素化合物への転化を促進するため、アミンや金属の触媒を添加することもできる。具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のアクアミカ NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。
【0115】
(バリア層の有機溶媒、水分除去操作)
本発明に係るポリシラザン含有の塗布液により形成されたバリア層は、改質処理前または改質処理中に水分が除去されていることが好ましい。そのために、バリア層中の有機溶媒の除去を目的とする第一工程と、それに続くバリア層中の水分の除去を目的とする第二工程とに分かれていることが好ましい。
【0116】
大気圧プラズマCVD法によりドライプロセスにより応力緩和層を形成する本発明においては、応力緩和層自体の、また、基板や下層膜吸着水を受けにくいためこの点好ましいと考えられる。
【0117】
第一工程においては、主に有機溶媒を取り除くため、乾燥条件を熱処理等の方法で適宜決めることができ、このときに水分が除去される条件にあってもよい。熱処理温度は迅速処理の観点から高い温度であることが好ましいが、樹脂フィルム基板に対する熱ダメージを考慮し、温度と処理時間を適宜決定することが好ましい。例えば、樹脂基板として、ガラス転位温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基板を用いる場合には、熱処理温度は200℃以下を設定することができる。処理時間は溶媒が除去され、かつ基板への熱ダメージが少なくなるように短時間に設定することが好ましく、熱処理温度が200℃以下であれば30分以内に設定することができる。
【0118】
第二工程は、バリア層中の水分を取り除くための工程で、水分を除去する方法としては低湿度環境に維持して除湿する形態が好ましい。低湿度環境における湿度は温度により変化するので、温度と湿度の関係は露点温度の規定により好ましい形態が示される。好ましい露点温度は4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましい露点温度は−8℃(温度25℃/湿度10%)以下、さらに好ましい露点温度は−31℃(温度25℃/湿度1%)以下であり、維持される時間はバリア層の膜厚によって適宜設定することが好ましい。バリア層の膜厚が1.0μm以下の条件においては、露点温度は−8℃以下で、維持される時間は5分以上であることが好ましい。また、水分を取り除きやすくするため、減圧乾燥してもよい。減圧乾燥における圧力は常圧〜0.1MPaを選ぶことができる。
【0119】
第一工程の条件に対する第二工程の好ましい条件としては、例えば、第一工程において温度60〜150℃、処理時間1分〜30分間で溶媒を除去したときには、第二工程の露点は4℃以下で、処理時間は5分〜120分により水分を除去する条件を選ぶことができる。第一工程と第二工程の区分は露点の変化で区別することができ、工程環境の露点の差が10℃以上変わることで区分ができる。
【0120】
本発明に係るバリア層は、第二工程により水分が取り除かれた後も、その状態を維持しながら改質処理を施すことが好ましい。
【0121】
(バリア層の含水量)
本発明に係るバリア層の含水率は、以下に示す分析方法に従って測定することができる。
【0122】
ヘッドスペース−ガスクロマトグラフ/質量分析法
装置:HP6890GC/HP5973MSD
オーブン:40℃(2min)、その後、10℃/minの速度で150℃まで昇温
カラム:DB−624(0.25mmid×30m)
注入口:230℃
検出器:SIM m/z=18
HS条件:190℃・30min
本発明におけるバリア層中の含水率は、上記の分析方法により得られる含水量から、バリア層の体積で除した値として定義され、第二工程により水分が取り除かれた状態においては、好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましい含水率は、0.01%以下(検出限界以下)である。
【0123】
本発明においては、改質処理前、あるいは改質処理中に水分を除去することが、シラノールに転化したバリア層の脱水反応を促進する観点から好ましい形態である。
【0124】
〔バリア層の改質処理〕
本発明における改質処理とは、ポリシラザン化合物の珪素酸窒化物への転化反応をいう。
【0125】
本発明における改質処理は、バリア層の転化反応に基づく公知の方法を選ぶことができる。ポリシラザン化合物の置換反応による珪素酸窒化物膜の形成には450℃以上の高温が必要であり、プラスチック等のフレキシブル基板においては、適応が難しい。
【0126】
従って、本発明のガスバリア積層体を作製するに際しては、プラスチック基板への適応という観点から、より低温で、転化反応が可能なプラズマやオゾンや紫外線を使う転化反応が好ましい。
【0127】
(プラズマ処理)
改質処理として用いることのできるプラズマ処理としては、公知の方法を用いることができるが、前述の大気圧プラズマ処理が好ましい。
【0128】
(紫外線照射処理)
本発明において、改質処理の方法の1つとして、紫外線照射による処理も好ましい。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化ケイ素膜または酸化窒化珪素膜を形成することが可能である。
【0129】
この紫外線照射により、基板が加熱され、セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO
2とH
2Oや、紫外線吸収剤、ポリシラザン自身が励起、活性化されるため、ポリシラザンが励起し、ポリシラザンのセラミックス化が促進され、また得られるセラミックス膜が一層緻密になる。紫外線照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
【0130】
本発明に係る方法では、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することが可能である。
【0131】
なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜350nmの紫外線を用いる。
【0132】
紫外線の照射は、照射されるバリア層を担持している基板がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
【0133】
基板としてプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基板表面の強度が20〜300mW/cm
2、好ましくは50〜200mW/cm
2になるように基板−紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
【0134】
一般に、紫外線照射処理時の基板温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には、基板が変形したり、その強度が劣化したりする等、基板の特性が損なわれることになる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムや、金属等の基板の場合には、より高温での改質処理が可能である。従って、この紫外線照射時の基板温度としては、一般的な上限はなく、基板の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射雰囲気に特に制限はなく、空気中で実施すればよい。
【0135】
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機(株)製)、UV光レーザー、等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線をバリア層に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてからバリア層に当てることが望ましい。
【0136】
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基板の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、バリア層を表面に有する基板を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス(株)製の紫外線焼成炉を使用することができる。また、バリア層を表面に有する基板が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基板やバリア層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
【0137】
(真空紫外線照射処理:エキシマ照射処理)
本発明において、最も好ましい改質処理方法は、真空紫外線照射による処理(エキシマ照射処理)である。真空紫外線照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光のエネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温で、酸化珪素膜の形成を行う方法である。
【0138】
これに必要な真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。
【0139】
Xe、Kr、Ar、Ne等の希ガスの原子は化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。しかし、放電等によりエネルギーを得た希ガスの原子(励起原子)は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には
e+Xe→e+Xe
*
Xe
*+Xe+Xe→Xe
2*+Xe
となり、励起されたエキシマ分子であるXe
2*が基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光を発光する。
【0140】
エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動・再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
【0141】
エキシマ発光を得るには、誘電体バリア放電を用いる方法が知られている。誘電体バリア放電とは、両電極間に誘電体(エキシマランプの場合は透明石英)を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じる、雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電で、micro dischargeのストリーマが管壁(誘電体)に達すると誘電体表面に電荷が溜まるため、micro dischargeは消滅する。このmicro dischargeが管壁全体に広がり、生成・消滅を繰り返している放電である。このため肉眼でも分る光のチラツキを生じる。また、非常に温度の高いストリーマが局所的に直接管壁に達するため、管壁の劣化を早める可能性もある。
【0142】
効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリア放電以外には無電極電界放電でも可能である。
【0143】
容量性結合による無電極電界放電で、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は、基本的には誘電体バリア放電と同じでよいが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られるため、チラツキがない長寿命のランプが得られる。
【0144】
誘電体バリア放電の場合は、micro dischargeが電極間のみで生じるため、放電空間全体で放電を行わせるには外側の電極は外表面全体を覆い、かつ外部に光を取り出すために光を透過するものでなければならない。このため細い金属線を網状にした電極が用いられる。この電極は光を遮らないようにできるだけ細い線が用いられるため、酸素雰囲気中では真空紫外光により発生するオゾン等により損傷しやすい。
【0145】
これを防ぐためにはランプの周囲、すなわち照射装置内を窒素等の不活性ガスの雰囲気にし、合成石英の窓を設けて照射光を取り出す必要が生じる。合成石英の窓は高価な消耗品であるばかりでなく、光の損失も生じる。
【0146】
二重円筒型ランプは外径が25mm程度であるため、ランプ軸の直下とランプ側面では照射面までの距離の差が無視できず、照度に大きな差を生じる。従って仮にランプを密着して並べても、一様な照度分布が得られない。合成石英の窓を設けた照射装置にすれば酸素雰囲気中の距離を一様にでき、一様な照度分布が得られる。
【0147】
無電極電界放電を用いた場合には、外部電極を網状にする必要はない。ランプ外面の一部に外部電極を設けるだけでグロー放電は放電空間全体に広がる。外部電極には、通常アルミのブロックで作られた光の反射板を兼ねた電極がランプ背面に使用される。しかし、ランプの外径は誘電体バリア放電の場合と同様に大きいため一様な照度分布にするためには合成石英が必要となる。
【0148】
細管エキシマランプの最大の特徴は、構造がシンプルなことである。石英管の両端を閉じ、内部にエキシマ発光を行うためのガスを封入しているだけである。従って、非常に安価な光源を提供できる。
【0149】
二重円筒型ランプは、内外管の両端を接続して閉じる加工をしているため、細管ランプに比べ取り扱いや輸送で破損しやすい。細管ランプの管の外径は6〜12mm程度で、あまり太いと始動に高い電圧が必要になる。
【0150】
放電の形態は、誘電体バリア放電でも無電極電界放電のいずれでも使用できる。電極の形状はランプに接する面が平面であってもよいが、ランプの曲面に合わせた形状にすればランプをしっかり固定できるとともに、電極がランプに密着することにより放電がより安定する。また、アルミで曲面を鏡面にすれば光の反射板にもなる。
【0151】
Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン膜の改質を実現できる。従って、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板等への照射を可能としている。
【0152】
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で単一波長のエネルギーを照射するため、照射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を有する。このため、熱の影響を受けやすいとされるポリエチレンテレフタレート等のフレシキブルフィルム材料に適している。
【0153】
バリア層は充分に均質に改質されガスバリア性能が高いことが本発明においては好ましい。
【0154】
本発明のように、ウェットプロセスにより成膜し、改質処理を施すことにより得られるバリア層を、大気圧プラズマCVD法により形成した金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一層を応力緩和層として共に形成することで、応力集中による割れ(クラック)を防ぎ、高いバリア性と応力緩和機能を両立でき、耐屈曲性に優れたガスバリア積層体とすることができる。また、バリア層の改質処理方法として真空紫外処理を採用することにより、高温での処理も必要がなく応力緩和層と連続して生産することが容易であり好ましい。
【0155】
また、本発明において、大気圧プラズマCVD法で形成された金属酸化物及び金属窒化物の少なくとも一方を含む層(応力緩和層)、及びウェットプロセスで形成された珪素酸窒化物からなる層(バリア層)を積層してガスバリア層ユニットとした際に、前記基板の少なくとも片面に該ガスバリア層ユニットを少なくとも二つ繰り返し積層することもできる。
【0156】
各層ユニットを積層する場合についても、近似した組成をもつ金属酸化物(或いは窒化物)を含有する層同士であり、接着性もよく、また、本発明においては連続して大気圧中での製造が可能であり生産性の上でも好ましい。
【0157】
ガスバリア層ユニットを積層する場合、積層数は求められるガスバリア性能により決められるが、本発明においては、ガスバリア層ユニットとして、2〜3の範囲が好ましく、積層数を増やし、膜厚を厚くした場合にも、ガスバリア層ユニットの耐屈曲性がよいことから、屈曲性の劣化がない。
【0158】
次に本発明に係るガスバリア積層体において基板として用いられる樹脂フィルム支持体について説明する。
【0159】
基板である樹脂フィルム支持体は、前記応力緩和層及びバリア層を保持することができる有機材料で形成されたものであれば特に限定されるものではない。
【0160】
例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ナイロン(Ny)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の各樹脂フィルム、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルム(製品名Sila−DEC、チッソ株式会社製)、更には前記樹脂を2層以上積層して成る樹脂フィルム等を挙げることができる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)などが好ましく用いられ、また、光学的透明性、耐熱性、無機層、バリア層との密着性の点においては、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルムが好ましく用いることができる。支持体の厚みは5〜500μm程度が好ましく、更に好ましくは25〜250μmである。
【0161】
また、本発明に係る樹脂フィルム支持体は透明であることが好ましい。支持体が透明であり、支持体上に形成する層も透明であることにより、透明なバリアフィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
【0162】
また、上記に挙げた樹脂等を用いた樹脂フィルム支持体は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
【0163】
本発明に用いられる樹脂フィルム支持体は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の支持体を製造することができる。また、未延伸の支持体を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、支持体の流れ(縦軸)方向、または支持体の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸支持体を製造することができる。この場合の延伸倍率は、支持体の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0164】
また、本発明においては、バリア層を形成する前に樹脂フィルム支持体をコロナ放電処理してもよい。
【0165】
さらに、本発明に係る支持体表面には、金属酸化物膜または金属窒化物膜との密着性の向上を目的としてアンカーコート剤層を形成してもよい。このアンカーコート剤層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1または2種以上併せて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により支持体上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m
2(乾燥状態)程度が好ましい。
【0166】
(平滑層)
本発明において、基板である樹脂フィルム支持体上には平滑層が設けられていることが好ましい。
【0167】
本発明の平滑層は、突起等が存在する透明樹脂フィルム支持体の粗面を平坦化し、あるいは、透明樹脂フィルム支持体に存在する突起により応力緩和層又はバリア層に生じる凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。このような平滑層は、基本的には感光性樹脂を硬化させて形成される。
【0168】
平滑層の感光性樹脂としては、例えば、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物を含有する樹脂組成物、アクリレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物を含有する樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを溶解させた樹脂組成物等が挙げられる。また、上記のような樹脂組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性のモノマーを含有している感光性樹脂であれば特に制限はない。
【0169】
光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−デシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシエチレングリコールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、グリセロールアクリレート、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、2,2−ジメチロールプロパンジアクリレート、グリセロールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート等、および、上記のアクリレートをメタクリレートに換えたもの、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、1−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。上記の反応性モノマーは、1種または2種以上の混合物として、あるいは、その他の化合物との混合物として使用することができる。
【0170】
感光性樹脂の組成物は光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モノフォリノ−1−プロパン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モノフォリノフェニル)−ブタノン−1、ナフタレンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、四臭素化炭素、トリブロモフェニルスルホン等、メチレンブルー等の光還元性の色素とアスコルビン酸、トリエタノールアミン等の還元剤の組み合わせ等が挙げられ、これらの光重合開始剤を1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0171】
平滑層の形成方法は特に制限はないが、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法等のウエットコーティング法、あるいは、蒸着法等のドライコーティング法により形成することが好ましい。
【0172】
平滑層の形成では、上述の感光性樹脂に、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を加えることができる。また、平滑層の積層位置に関係なく、いずれの平滑層においても、成膜性向上および膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
【0173】
感光性樹脂を溶媒に溶解または分散させた塗布液を用いて平滑層を形成する際に使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、α−もしくはβ−テルピネオール等のテルペン類等、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、チルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、3−エトキシプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0174】
平滑層の平滑性は、JIS B 0601で規定される表面粗さで表現される値で、最大断面高さRt(p)が、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。この範囲よりも値が小さい場合には、大気圧プラズマCVD法により応力緩和層を形成する場合、又、更にバリア層を成膜するとき、密着性が損なわれる場合がある。また、この範囲よりも大きい場合には、応力緩和層またはバリア層を形成した後の、凹凸を平滑化することが難しくなる場合がある。
【0175】
表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡)で、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が数十μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する粗さである。
【0176】
(平滑層への添加剤)
好ましい態様のひとつは、前述の感光性樹脂中に表面に光重合反応性を有する感光性基が導入された反応性シリカ粒子(以下、単に「反応性シリカ粒子」ともいう)を含むものである。ここで光重合性を有する感光性基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基に代表される重合性不飽和基などを挙げることができる。また感光性樹脂は、この反応性シリカ粒子の表面に導入された光重合反応性を有する感光性基と光重合反応可能な化合物、例えば、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物を含むものであってもよい。また感光性樹脂としては、このような反応性シリカ粒子や重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物に適宜汎用の希釈溶剤を混合することによって固形分を調整したものを用いることができる。
【0177】
ここで反応性シリカ粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.1μmの平均粒子径であることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、後述する平均粒子径1〜10μmの無機粒子からなるマット剤と組合せて用いることによって、防眩性と解像性とをバランス良く満たす光学特性と、ハードコート性とを兼ね備えた平滑層を形成し易くなる。尚、このような効果をより得易くする観点からは、更に平均粒子径として0.001〜0.01μmのものを用いることがより好ましい。本発明に用いられる平滑層中には、上述の様な無機粒子を質量比として20%以上60%以下含有することが好ましい。20%以上添加することで、応力緩和層、バリア層との密着性が向上する。また60%を超えると、フィルムを湾曲させたり、加熱処理を行った場合にクラックが生じたり、ガスバリアフィルムの透明性や屈折率などの光学的物性に影響を及ぼすことがある。
【0178】
本発明では、重合性不飽和基修飾加水分解性シランが、加水分解性シリル基の加水分解反応によって、シリカ粒子との間に、シリルオキシ基を生成して化学的に結合しているようなものを、反応性シリカ粒子として用いることができる。
【0179】
加水分解性シリル基としては、例えば、アルコキシリル基、アセトキシリル基等のカルボキシリレートシリル基、クロシリル基等のハロゲン化シリル基、アミノシリル基、オキシムシリル基、ヒドリドシリル基等が挙げられる。
【0180】
重合性不飽和基としては、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、プロペニル基、ブタジエニル基、スチリル基、エチニイル基、シンナモイル基、マレート基、アクリルアミド基等が挙げられる。
【0181】
平滑層の厚みとしては、1〜10μm、好ましくは2〜7μmであることが望ましい。1μm以上にすることにより、平滑層を有するフィルムとしての平滑性を十分なものにし易くなり、10μm以下にすることにより、平滑フィルムの光学特性のバランスを調整し易くなると共に、平滑層を透明高分子フィルムの一方の面にのみ設けた場合における平滑フィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
【0182】
(ブリードアウト防止層)
ブリードアウト防止層は、平滑層を有するフィルムを加熱した際に、フィルム支持体中から未反応のオリゴマーなどが表面へ移行して、接触する面を汚染してしまう現象を抑制する目的で、平滑層を有する基板の反対面に設けられる。
【0183】
ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば、基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
【0184】
ブリードアウト防止層に含ませることが可能な、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物としては、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する多価不飽和有機化合物、あるいは分子中に1個の重合性不飽和基を有する単価不飽和有機化合物等を挙げることができる。
【0185】
ここで多価不飽和有機化合物としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0186】
また単価不飽和有機化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0187】
その他の添加剤として、マット剤を含有しても良い。マット剤としては、平均粒子径が0.1〜5μm程度の無機粒子が好ましい。
【0188】
このような無機粒子としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等の1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0189】
ここで無機粒子からなるマット剤は、ハードコート剤の固形分100質量部に対して2質量部以上、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上、20質量部以下、好ましくは18質量部以下、より好ましくは16質量部以下の割合で混合されていることが望ましい。
【0190】
また本発明のブリードアウト防止層には、ハードコート剤及びマット剤の他の成分として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、光重合開始剤等を含有させてもよい。
【0191】
このような熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール系樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0192】
また熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0193】
また電離放射線硬化性樹脂としては、光重合性プレポリマー若しくは光重合性モノマーなどの1種又は2種以上を混合した電離放射線硬化塗料に電離放射線(紫外線又は電子線)を照射することで硬化するものを使用することができる。ここで光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート等が使用できる。また光重合性モノマーとしては、上記に記載した多価不飽和有機化合物等が使用できる。
【0194】
また光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾインベンゾエート、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパン、α−アシロキシムエステル、チオキサンソン類等が挙げられる。
【0195】
以上のようなブリードアウト防止層は、ハードコート剤、マット剤、及び必要に応じて他の成分を配合して、適宜必要に応じて用いる希釈溶剤によって塗布液として調製し、当該塗布液を支持体フィルム表面に従来公知の塗布方法によって塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることにより形成することができる。尚、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、又は走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
【0196】
本発明におけるブリードアウト防止層の厚みとしては、1〜10μm、好ましくは2〜7μmであることが望ましい。1μm以上にすることにより、フィルムとしての耐熱性を十分なものにし易くなり、10μm以下にすることにより、平滑フィルムの光学特性のバランスを調整し易くなると共に、平滑層を透明高分子フィルムの一方の面に設けた場合におけるバリアフィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
【0197】
本発明のガスバリア積層体は、種々の封止用材料、基板フィルムとして用いることができる。
【0198】
例えば、有機EL素子、有機光電変換素子に用いることができる。このような素子の支持体として用いたとき、本発明のガスバリア積層体は透明であるため、支持体側から太陽光の受光を行ったり、ガスバリア性樹脂フィルム側から光を取りだしたりすることができる。即ち、このガスバリア性樹脂フィルム上に、例えば、ITO等の透明導電性薄膜を透明電極として設け、有機EL素子や、有機光電変換素子を構成することができる。また、有機EL素子または有機光電変換素子を形成し、この上に別の封止材料を(同じでもよいが)重ねて前記ガスバリアフィルム支持体と周囲を接着、素子を封じ込めることで有機光電変換素子を封止することができ、これにより外気の湿気や酸素等のガスによる素子への影響を封じることが出来る。本発明に係るガスバリア積層体はこのような封止材料としても用いることができる。
【実施例】
【0199】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0200】
実施例1
(支持体)
熱可塑性樹脂支持体として、両面に易接着加工された厚み125μmのポリエステルフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、テトロンO3)の基板を、170℃で30分アニール加熱処理したものを用いた。
【0201】
バリアフィルムの作製は、上記支持体を20m/分の速度で搬送しながら、以下の形成方法により、片面にブリードアウト防止層、反対面に平滑層を形成後に、粘着性保護フィルムを貼合した、ロール状のバリアフィルムを得た。
【0202】
〈平滑層およびブリードアウト防止層を有するフィルムの作製〉
(ブリードアウト防止層の形成)
上記支持体の片面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7535を塗布、乾燥後の膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、硬化条件;500mJ/cm
2空気下、高圧水銀ランプ使用、乾燥条件;80℃、3分で硬化を行い、ブリードアウト防止層を形成した。
【0203】
(平滑層の形成)
続けて上記支持体の反対面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を塗布、乾燥後の膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、乾燥条件;80℃、3分で乾燥後、空気雰囲気下、高圧水銀ランプ使用、硬化条件;500mJ/cm
2硬化を行い、平滑層を形成した。
【0204】
このときの最大断面高さRt(p)は21nmであった。
【0205】
最大断面高さRt(p)は、AFM(原子間力顕微鏡)で、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が30μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する平均の粗さである。
【0206】
〈ガスバリア積層体(ガスバリアフィルム)の作製〉
(応力緩和層の形成)
次に、上記平滑層、ブリードアウト防止層を設けた支持体の上記平滑層の上に大気圧プラズマCVD法により珪素酸化物層を以下に示す条件で形成した。
【0207】
(珪素酸化物の薄膜の大気圧プラズマCVD法による形成)
上記平滑層、ブリードアウト防止層を設けた支持体の上に有機珪素化合物と酸素を原料した大気圧プラズマCVDにより以下に示す条件で薄膜形成した。膜厚は50nmである。ロール電極型放電処理装置を用いて処理を実施。ロール電極に対向する棒状電極を複数個フィルムの搬送方向に対し平行に設置し、各電極部に原料及び電力を投入し以下のように薄膜を形成した。
【0208】
ここで誘電体は対向する電極共に、セラミック溶射加工のものに片肉で1mm被覆した。また、被覆後の電極間隙は、1mmに設定した。また誘電体を被覆した金属母材は、冷却水による冷却機能を有するステンレス製ジャケット仕様であり、放電中は冷却水による電極温度コントロールを行いながら実施した。ここで使用する電源は、応用電機製高周波電源(100kHz)、パール工業製高周波電源(13.56MHz)を使用した。下記条件で試料を作製した。
【0209】
〈プラズマCVD層〉
〈応力緩和層混合ガス組成物1〉
放電ガス:窒素ガス 94.85体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.15体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈緩衝膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm
2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm
2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 90℃
(バリア層の形成)
次に、上記試料応力緩和層上に珪素化合物層塗布液を用いてウェットプロセスにてバリア層を形成した。
【0210】
(珪素化合物層塗布液)
パーヒドロポリシラザン(PHPS)の20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製 アクアミカ NAX120−20)を、乾燥後の膜厚が、200nmとなるようにワイヤレスバーの番手とパーヒドロポリシラザン溶液を脱水ジブチルエーテルで希釈し調整して、23℃50%RH環境下で、上記珪素酸化物膜層上に塗布、後に80℃、1分乾燥した試料を得た。
【0211】
乾燥試料をさらに温度25℃、湿度10%RH(露点温度−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行った。
【0212】
〔改質処理〕
除湿処理を行った試料に対し、下記の条件で改質処理を施した。改質処理時の露点温度は−8℃で実施した。
【0213】
(改質処理装置)
装置:株式会社 エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200
波長:172nm
ランプ封入ガス:Xe
(改質処理条件)
稼動ステージ上に固定した試料を、以下の条件で改質処理を行って、バリア層を形成した。
【0214】
エキシマ光強度 :130mW/cm
2(172nm)
試料と光源の距離 :1mm
ステージ加熱温度 :70℃
照射装置内の酸素濃度:1.0%
エキシマ照射時間 :5秒
以上により、ガスバリア性フィルムであるガスバリア積層体試料1を作製した。
【0215】
同様にして試料2〜6を作製した。
【0216】
なお、試料2、3については、プラズマCVD層形成条件をそれぞれ以下のように変えて作成した。
【0217】
試料2
〈プラズマCVD層〉
〈応力緩和層混合ガス組成物2〉
放電ガス:窒素ガス 99.0体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.5体積%
添加ガス:酸素ガス 0.5体積%
〈緩衝膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 12W/cm
2(この時の電圧Vpは6kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm
2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 90℃
試料3
〈プラズマCVD層〉
〈応力緩和層混合ガス組成物3〉
放電ガス:窒素ガス 94.99体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン 0.01体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第二酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm
2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm
2(この時の電圧Vpは2kVであった)
電極温度 90℃
試料4
前記試料1の応力緩和層を、塗布法を用いて作製した。大気圧プラズマ法を用いる代わりに、前記試料1のバリア層で用いたパーヒドロポリシラザン(PHPS)の改質処理による珪素酸化物層に置き換えた。
【0218】
試料5
試料4において、応力緩和層を、パーヒドロポリシラザン(PHPS)に代えて、有機ポリシラザン(メチルヒドロポリシラザン)を用い、同条件で塗布、乾燥、改質処理して形成し試料5を作製した。
【0219】
試料6
試料1において、応力緩和層を以下の樹脂組成物に変更したものを試料6とした。
【0220】
(応力緩和層形成)
上記平滑層、ブリードアウト防止層を設けた支持体の平滑層上に、下記組成物を、乾燥膜厚が400nmとなるように塗布し、80℃にて5分間乾燥した。次に80W/cm高圧水銀灯を12cmの距離から4秒間照射して硬化させた。
【0221】
〈組成物〉
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート単量体 60質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2量体 20質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート3量体以上の成分 20質量部
ジエトキシベンゾフェノン(UV光開始剤) 2質量部
メチルエチルケトン 50質量部
酢酸エチル 50質量部
イソプロピルアルコール 50質量部
上記組成物を撹拌しながら溶解した。
【0222】
試料7
上記平滑層、ブリードアウト防止層を設けた支持体の平滑層上に、真空プラズマ装置を用いて、40°で気化させたテトラメチルジシロキサン(TMDSO)を用い、TMDSO/酸素=0.5の流量比で真空容器内に導入し、13.3Paの真空度を維持しながら、13.56MHzの高周波を平行平板電極に導入してプラズマ放電を起こし、真空プラズマCVD法により膜厚50nmの珪素酸化物層を形成した。なお、出力密度は、5W/cm
2であった。
【0223】
次いで、試料1と同様に、珪素化合物層塗布液を用いてウェットプロセスにて試料1と同様のバリア層を形成し試料7とした。
【0224】
試料8
真空プラズマCVD層形成条件として、真空度を26.6Paとし、出力密度を2W/cm
2に代える以外は試料7と同様にして試料8とした。
【0225】
以上試料1〜8について、応力緩和層についてそれぞれ、炭素%(原子数濃度)を測定した。
【0226】
〔炭素含有量の評価〕
作製した第一、第二、また第三の酸化珪素層の炭素含有量はXPSにて測定した(原子数濃度%)。炭素含有率は下記のXPS法によって算出される原子数濃度%であり、以下に定義される。
【0227】
原子数濃度%(atomic concentration(at%))=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置は、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5eV〜1.7eVとなるように設定した。
【0228】
測定としては、先ず、結合エネルギー0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。
【0229】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンを行い、各元素のスペクトルを測定した。
【0230】
得られたスペクトルは、測定装置、あるいは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM(Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理を行い、各分析ターゲットの元素(炭素、酸素、ケイ素、チタン等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0231】
定量処理を行う前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションを行い、5ポイントのスムージング処理を行った。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。
【0232】
作製したガスバリア積層体(ガスバリアフィルム)についてクラック耐性、耐屈曲性、又バリア性能について下記の評価を行った。
【0233】
《ガスバリア積層体の評価》
〔評価1:クラック耐性の評価〕
ポリシラザン改質時の膜収縮で発生する応力によるバリア層のクラック発生を、作製した試料表面について、100倍ルーペを用いて目視観察することで評価した。
【0234】
クラック耐性の評価ランク
5:クラック発生なし
4:クラック若干発生あるが、使用上問題なし
3:クラック発生あるが、使用上懸念
2:クラック発生あり、使用上問題あり
1:クラック発生あり、使用出来ない
〔評価2:ガスバリア性の評価〕
上記作製した各ガスバリア積層体について、下記の方法に従って、水蒸気透過率を測定し、これをガスバリア性の尺度とした。
【0235】
〈水蒸気透過率(WVTR)の評価〉
以下の測定方法により評価した。
【0236】
装置
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
レーザー顕微鏡:KEYENCE VK−8500
原子間力顕微鏡(AFM):Digital Instruments社製DI3100。
【0237】
原材料
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
(水蒸気バリア性評価用セルの作製)
各試料No.1〜8のバリア層面に、真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、試料の測定面積部分(12mm×12mmを9箇所)以外をマスクし、金属カルシウムを蒸着させた。その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムをもう一つの金属蒸着源から蒸着させた。アルミニウム封止後、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下で、厚さ0.2mmの石英ガラスに封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介してアルミニウム封止側と対面させ、紫外線を照射することで、評価用セルを作製した。
【0238】
得られた両面を封止した試料を60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005−283561号記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。
【0239】
なお、バリアフィルム面から以外の水蒸気の透過が無いことを確認するために、比較試料としてバリアフィルム試料の代わりに、厚さ0.2mmの石英ガラス板を用いて金属カルシウムを蒸着した試料を、同様な60℃、90%RHの高温高湿下保存を行い、1000時間経過後でも金属カルシウム腐食が発生しないことを確認した。
【0240】
以下の評価ランクに従った。
【0241】
5:1×10
−4g/(m
2・24h)未満
4:1×10
−4g/(m
2・24h)以上、1×10
−3g/(m
2・24h)未満
3:1×10
−3g/(m
2・24h)以上、1×10
−2g/(m
2・24h)未満
2:1×10
−2g/(m
2・24h)以上、1×10
−1g/(m
2・24h)未満
1:1×10
−1g/(m
2・24h)以上。
【0242】
〔評価3:耐屈曲性の評価〕
各ガスバリア積層体を、半径が10mmの曲率になるように、180度の角度で100回の屈曲を繰り返した後、各ガスバリア積層体のガスバリア層面の顕微鏡観察と、下式に従って水蒸気透過率の劣化比率を測定し、下記の基準に従って折り曲げ耐性を評価した。
【0243】
水蒸気透過率の劣化比率=屈曲操作後の水蒸気透過率/屈曲操作前の水蒸気透過率
5:セラミック層でのクラックの発生がなく、また巻き付け操作前後での水蒸気透過率の劣化比率が1.2未満である
4:セラミック層でのクラックの発生がなく、また巻き付け操作前後での水蒸気透過率の劣化比率が1.2以上1.5未満である
3:セラミック層で極微小のクラックの発生が認められ、また巻き付け操作前後での水蒸気透過率の劣化比率が1.5以上2.0未満である
2:セラミック層で明らかなクラックの発生が認められ、また巻き付け操作前後での水蒸気透過率の劣化比率が2.0以上5.0未満である
1:セラミック層で明らかなクラックの発生が認められ、また巻き付け操作前後での水蒸気透過率の劣化比率が5.0以上である
【0244】
【表1】
なお、試料7(応力緩和層は真空プラズマCVD法を用いて形成される)は、試料1〜3(応力緩和層は大気圧プラズマCVD法で形成される)と比較し、稼働率は80%であった(試料1〜3を100%としたとき)。すなわち、大気圧プラズマCVD法の方が、稼働率が良く、生産性が良いことがわかった。
【0245】
実施例2
積層の例
試料1のガスバリアユニットを2つ、または3つ繰り返し積層(応力緩和層、バリア層を交互に積層)したガスバリア積層体(試料9、10)を形成し、実施例1と同様にクラック耐性、耐屈曲性、バリア性能について評価したところ、バリア性能が大きく向上し、充分な応力緩和性能を持ち、耐屈曲性についても膜厚の増加にもかかわらず良好なレベルを維持していることが判った。
【0246】
【表2】