(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体素子が設けられている素子部と前記素子部を取り囲んでいる終端部とを有する炭化珪素半導体装置の製造方法であって、前記炭化珪素半導体装置は第1の主面および前記第1の主面と反対の第2の主面を有する炭化珪素膜を含み、前記第2の主面は前記素子部内の素子形成面と前記終端部内の終端面とを有するものであり、前記炭化珪素半導体装置の製造方法は、
前記第1の主面と前記第1の主面と反対の中間面とをなす第1の範囲を形成する工程を備え、前記第1の範囲を形成する工程は、前記第1の主面および前記中間面をなし第1の導電型を有する第1の耐圧保持層を形成する工程と、前記終端部内において前記中間面に部分的に、前記中間面上において前記素子部を取り囲み第2の導電型を有するガードリング領域を形成する工程とを含み、前記炭化珪素半導体装置の製造方法はさらに
前記中間面上に、前記素子形成面をなす第2の範囲を形成する工程を備え、前記第2の範囲を形成する工程は、前記ガードリング領域を形成する工程の後に、前記中間面上に、前記第1の導電型を有する第2の耐圧保持層を形成する工程を含み、前記第2の範囲を形成する工程は、前記第2の範囲が、前記終端部内において前記第2の耐圧保持層のみを有する構造、および、前記素子部および前記終端部のうち前記素子部にのみ配置される構造のいずれかを有するように行われ、前記炭化珪素半導体装置の製造方法はさらに
前記第1の主面に面する第1の主電極を形成する工程と、
前記第2の主面の前記素子形成面に面する第2の主電極を形成する工程とを備える、炭化珪素半導体装置の製造方法。
前記第2の範囲を形成する工程は、前記終端部内において前記第2の耐圧保持層の少なくとも一部を除去することによって、前記素子形成面を含む仮想平面から前記第1の主面の方へずらされた前記終端面を形成する工程を含む、請求項6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オン抵抗と耐圧との間のトレードオフをより大きく改善するための方法として、近年、Siに代わりSiCを用いることが活発に検討されている。SiCはSiと異なり0.4MV/cm以上の電界強度にも十分に耐え得る材料である。すなわち、そのような電界強度下において、Si層は破壊されやすいが、SiC層は破壊されない。このように高い電界が印加され得る場合は、MOSFET構造における特定位置での電界集中に起因した破壊が問題となる。たとえばトレンチ型MOSFETの場合、SiC層中ではなくゲート絶縁膜中での電界集中に起因したゲート絶縁膜の破壊現象が、耐圧の主な決定要因である。このように耐圧の決定要因がSi半導体装置とSiC半導体装置との間で異なる。このため、Siの使用を前提としていると考えられる上記公報の技術をSiC半導体装置の耐圧を向上させるために単純に適用することは最善の策ではない。よって、耐圧を維持するための終端構造についても、SiC半導体装置に最適なものを用いることが好ましい。
【0008】
終端構造として、一般的なガードリング、すなわち半導体層上のガードリングが用いられた場合、半導体層の表面近傍での電界集中が生じる。この結果、素子部のうち、ガードリングに隣接しかつ半導体層の表面に近い箇所において、電界が集中しやすい。この箇所において、電界集中に起因した破壊現象が生じることがあった。また上記公報に記載のようにガードリングを半導体層中と半導体層上との両方に設ける場合、複数種類のガードリングを有する点で半導体装置の構造が複雑であり、またガードリングを形成するための不純物注入工程の回数が増加する点で製造方法が複雑であった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、高い耐圧と簡素な構造とを有する炭化珪素半導体装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭化珪素半導体装置は、半導体素子が設けられている素子部と、素子部を取り囲んでいる終端部とを有するものである。炭化珪素半導体装置は、炭化珪素膜と、第1の主電極と、第2の主電極とを有する。炭化珪素膜は第1の主面および第1の主面と反対の第2の主面を有する。第2の主面は、素子部内の素子形成面と、終端部内の終端面とを有する。炭化珪素膜は、第1の主面と第1の主面と反対の中間面とをなす第1の範囲と、中間面上に設けられ素子形成面をなす第2の範囲とを有する。第1の範囲は、第1の導電型を有する第1の耐圧保持層と、終端部内において中間面に部分的に設けられ中間面上において素子部を取り囲み第2の導電型を有するガードリング領域とを含む。第2の範囲は、第1の導電型を有する第2の耐圧保持層を有する。第2の範囲は、終端部内において第2の耐圧保持層のみを有する構造、および、素子部および終端部のうち素子部にのみ配置される構造のいずれかを有する。第1の主電極は第1の主面に面している。第2の主電極は第2の主面の素子形成面に面している。
【0011】
この炭化珪素半導体装置によれば、第2の範囲は、終端部内において第2の耐圧保持層のみを有する構造、および、素子部および終端部のうち素子部にのみ配置される構造のいずれかを有する。第2の範囲が終端部内において第2の耐圧保持層のみを有する場合、第2の範囲のうち終端部内に第2の耐圧保持層以外の構造を設ける必要がない。第2の範囲が素子部および終端部のうち素子部にのみ配置される構造を有する場合、終端部内に第2の範囲を設ける必要がない。いずれの場合においても、炭化珪素半導体装置の構造を簡素化することができる。
【0012】
また、第2の範囲が終端部内において第2の耐圧保持層のみを有する場合、第2の範囲のうち終端部内の部分が第2の耐圧保持層のみからなる。これにより、終端面全体が第1の導電型を有する。よって終端面上にpn接合が設けられない。よって終端面の近傍における電界集中を防止することができる。よって終端面に隣接する素子形成面の近傍に高電界が印加されることが防止される。第2の範囲が素子部および終端部のうち素子部にのみ配置される構造を有する場合、素子形成面が第2の範囲によって構成されつつ、終端面が第2の範囲ではなく第1の範囲によって構成される。これにより厚さ方向において素子形成面の位置と終端面の位置とがずらされる。よって終端面の近傍における電界集中が及ぼす素子形成面の近傍への影響を抑えることができる。いずれの場合においても、終端面の近傍における素子部の破壊を防止することができる。
【0013】
以上述べたように、上記の炭化珪素半導体装置によれば、炭化珪素半導体装置の構造を簡素化し、かつ炭化珪素半導体装置の耐圧を高めることができる。
【0014】
第1の範囲は、素子部内において中間面に部分的に設けられ、第2の導電型を有しガードリング領域の不純物濃度に比して低い不純物濃度を有する電荷補償領域を含んでもよい。これにより、素子部内の電界を抑制することで、炭化珪素半導体装置の耐圧をより高めることができる。
【0015】
素子形成面と終端面との各々は一の平面上に配置されていてもよい。これにより炭化珪素膜の表面の形状が単純化される。よって炭化珪素半導体装置の構造をより簡素化することができる。
【0016】
終端面は、素子形成面を含む仮想平面から第1の主面の方へずらされて配置されていてもよい。これにより厚さ方向において素子形成面の位置と終端面の位置とがずらされる。よって終端面の近傍における電界集中が及ぼす素子形成面の近傍への影響を抑えることができる。よって終端面の近傍における素子部の破壊をより確実に防止することができる。
【0017】
第2の範囲はガードリング領域を覆っていてもよい。すなわちガードリング領域上に第2の範囲が残存していてもよい。この場合、ガードリング領域上の第2の範囲の全てが除去される場合に比して、炭化珪素半導体装置の製造方法を簡素化することができる。
【0018】
ガードリング領域は終端面に位置していてもよい。この場合、炭化珪素膜は、ガードリング領域を覆う部分を有しない。よってガードリング上における電界の回り込みを防止することができる。よって終端面の近傍における素子部の破壊をより確実に防止することができる。
【0019】
本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法は、半導体素子が設けられている素子部と素子部を取り囲んでいる終端部とを有する炭化珪素半導体装置の製造方法である。炭化珪素半導体装置は、第1の主面および第1の主面と反対の第2の主面を有する炭化珪素膜を含む。第2の主面は、素子部内の素子形成面と、終端部内の終端面とを有する。炭化珪素半導体装置の製造方法は、以下の工程を有する。
【0020】
第1の主面と第1の主面と反対の中間面とをなす第1の範囲が形成される。第1の範囲を形成する工程は、第1の主面および中間面をなし第1の導電型を有する第1の耐圧保持層を形成する工程と、終端部内において中間面に部分的に、中間面上において素子部を取り囲み第2の導電型を有するガードリング領域を形成する工程とを含む。中間面上に、素子形成面をなす第2の範囲が形成される。第2の範囲を形成する工程は、ガードリング領域を形成する工程の後に、中間面上に、第1の導電型を有する第2の耐圧保持層を形成する工程を含む。第2の範囲を形成する工程は、第2の範囲が、終端部内において第2の耐圧保持層のみを有する構造、および、素子部および終端部のうち素子部にのみ配置される構造のいずれかを有するように行わる。第1の主面に面する第1の主電極が形成される。第2の主面の素子形成面に面する第2の主電極が形成される。
【0021】
この製造方法によれば、第2の範囲は、終端部内において第2の耐圧保持層のみを有する構造、および、素子部および終端部のうち素子部にのみ配置される構造のいずれかを有する。第2の範囲が終端部内において第2の耐圧保持層のみを有する場合、第2の範囲のうち終端部内の部分が第2の耐圧保持層のみからなる。これにより、終端面全体が第1の導電型を有する。よって終端面上にpn接合が設けられない。よって終端面の近傍における電界集中を防止することができる。よって終端面に隣接する素子形成面の近傍に高電界が印加されることが防止される。第2の範囲が素子部および終端部のうち素子部にのみ配置される構造を有する場合、素子形成面が第2の範囲によって構成されつつ、終端面が第2の範囲ではなく第1の範囲によって構成される。これにより厚さ方向において素子形成面の位置と終端面の位置とがずらされる。よって終端面の近傍における電界集中が及ぼす素子形成面の近傍への影響を抑えることができる。上記いずれの場合においても、終端面の近傍における素子部の破壊を防止することができる。
【0022】
また、第2の範囲は、終端部内において第2の導電型を有する部分を含む必要がない。これにより炭化珪素半導体装置の製造方法を簡素化することができる。
【0023】
以上述べたように、上記の製造方法によれば、炭化珪素半導体装置の耐圧を高め、かつ製造方法を簡素化することができる。
【0024】
第2の範囲を形成する工程は、終端部内において第2の耐圧保持層の少なくとも一部を除去することによって、素子形成面を含む仮想平面から第1の主面の方へずらされた終端面を形成する工程を含んでもよい。これにより厚さ方向において素子形成面の位置と終端面の位置とがずらされる。よって終端面の近傍における電界集中が及ぼす素子形成面の近傍への影響を抑えることができる。よって終端面の近傍における素子部の破壊をより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば上述したように、炭化珪素半導体装置の構造を簡素化し、かつ炭化珪素半導体装置の耐圧を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、”−”(バー)を数字の上に付すことによって表現されるが、本明細書中では数字の前に負の符号を付している。
【0028】
(実施の形態1)
図1に示すように、MOSFET201(炭化珪素半導体装置)は、トランジスタ素子(半導体素子)が設けられている素子部CLと、素子部CLを取り囲んでいる終端部TMとを有するものである。
図2に示すように、MOSFET201は、単結晶基板80と、エピタキシャル膜90(炭化珪素膜)と、ゲート酸化膜91(ゲート絶縁膜)と、ゲート電極92と、ドレイン電極98(第1の主電極)と、ソース電極94(第2の主電極)と、層間絶縁膜93と、ソース配線層95とを有する。
【0029】
単結晶基板80は、n型(第1の導電型)の炭化珪素から作られている。単結晶基板80は、六方晶系の結晶構造を有することが好ましく、ポリタイプ4Hを有することがより好ましい。エピタキシャル膜90(
図3)は、単結晶基板80上にエピタキシャルに形成された炭化珪素膜である。エピタキシャル膜90は、単結晶基板80に接する下面P1(第1の主面)と、上面P2(第1の主面と反対の第2の主面)とを有する。上面P2は、素子部CL内の素子形成面PEと、終端部TM内の終端面PTとを有する。エピタキシャル膜90は下側範囲RA(第1の範囲)と上側範囲RB(第2の範囲)とを有する。
【0030】
下側範囲RAは、下面P1と、下面P1と反対の中間面PMとをなしている。下側範囲RAは、n型を有する下側ドリフト層81A(第1の耐圧保持層)と、p型(第1の導電型と異なる第2の導電型)を有する電荷補償領域71と、p型を有するJTE(Junction Termination Extension)領域72と、p型を有するガードリング領域73とを有する。
【0031】
下側ドリフト層81Aは、好ましくは単結晶基板80の不純物濃度に比して低い不純物濃度を有する。下側ドリフト層81Aの不純物濃度は、好ましくは1×10
15cm
-3以上5×10
16cm
-3以下であり、たとえば8×10
15cm
-3である。
【0032】
電荷補償領域71は、素子部CL内において中間面PM上に部分的に設けられている。電荷補償領域71は2.5×10
13cm
-3程度以上の不純物濃度を有することが好ましい。
【0033】
JTE領域72は、終端部TM内において中間面PM上に部分的に設けられており、電荷補償領域71に接しており、素子部CLを取り囲んでいる。JTE領域72は電荷補償領域71の不純物濃度に比して低い不純物濃度を有する。
【0034】
ガードリング領域73は、終端部TM内において中間面PMに部分的に設けられている。ガードリング領域73は中間面PM上において、素子部CLを取り囲んでおり、JTE領域72から離れている。ガードリング領域73は、電荷補償領域71の不純物濃度に比して低い不純物濃度を有することが好ましく、JTE領域72の不純物濃度と同様の不純物濃度を有してもよい。
【0035】
上側範囲RBは、中間面PM上に設けられており、素子形成面PEおよび終端面PTをなしている。素子形成面PEと終端面PTとの各々は一の平面上に配置されている。上側範囲RBは、
図2および
図3に示すように、n型を有する上側ドリフト層81B(第2の耐圧保持層)と、p型を有するベース層82と、n型を有するソース領域83と、p型を有するコンタクト領域84とを有する。上側範囲RBは、終端部TM内において上側ドリフト層81Bのみを有する構造を有する。下側ドリフト層81Aおよび上側ドリフト層81Bは素子部CLにおいてドリフト領域81(耐圧保持領域)を構成している。
【0036】
上側ドリフト層81Bは、単結晶基板80の不純物濃度に比して低い不純物濃度を有することが好ましく、下側ドリフト層81Aの不純物濃度と同じ不純物濃度を有することがより好ましい。ベース層82は素子部CL内において上側ドリフト層81B上に設けられている。ベース層82は、たとえば不純物濃度1×10
18cm
-3を有する。ソース領域83は、ベース層82上に設けられており、ベース層82によって上側ドリフト層81Bから隔てられている。コンタクト領域84はベース層82につながっている。
【0037】
エピタキシャル膜90の上側範囲RBにおいて素子形成面PE上にトレンチTRが設けられている。トレンチTRは側壁面SWおよび底面BTを有する。側壁面SWはソース領域83およびベース層82を貫通して上側ドリフト層81Bに至っている。よって側壁面SWはベース層82によって構成された部分を含む。側壁面SWはベース層82上において、MOSFET201のチャネル面を含む。
【0038】
側壁面SWはエピタキシャル膜90の素子形成面PEに対して傾斜しており、これによりトレンチTRは開口に向かってテーパ状に拡がっている。側壁面SWの面方位は、{000−1}面に対して50°以上80°以下傾斜していることが好ましく、(000−1)面に対して50°以上80°以下傾斜していることがより好ましい。
【0039】
側壁面SWは、巨視的に見て、面方位{0−33−8}、{0−11−2}、{0−11−4}および{0−11−1}のいずれかを有してもよい。なお面方位{0−33−8}は{000−1}面から54.7度のオフ角を有する。面方位{0−11−1}は{000−1}面から75.1度のオフ角を有する。よって面方位{0−33−8}、{0−11−2}、{0−11−4}および{0−11−1}は、オフ角54.7〜75.1度に対応する。オフ角について5度程度の製造誤差が想定されることを考慮すると、側壁面SWが{000−1}面に対して50度以上80度以下程度傾斜するような加工を行うことで、側壁面SWの巨視的な面方位を、{0−33−8}、{0−11−2}、{0−11−4}および{0−11−1}のいずれかとしやすくなる。
【0040】
側壁面SWは、特にベース層82上の部分において、所定の結晶面(特殊面とも称する)を有することが好ましい。特殊面の詳細については後述する。
【0041】
底面BTは上側範囲RBによって下側範囲RAから離れている。底面BTは、本実施の形態においてはエピタキシャル膜90の上面P2とほぼ平行な平坦な形状を有する。なお底面BTは平坦面でなくてもよく、
図2の断面視においてほぼ点状であってもよく、この場合、トレンチTRはV字形状を有する。
【0042】
ゲート酸化膜91はトレンチTRの側壁面SWおよび底面BTの各々を覆っている。ゲート酸化膜91は、ベース層82上において上側ドリフト層81Bとソース領域83とを互いにつなぐ部分を有する。ゲート電極92は、MOSFET201のオン状態およびオフ状態の間のスイッチングを行うためのものである。ゲート電極92はゲート酸化膜91上に設けられている。ゲート電極92はゲート酸化膜91を介して側壁面SW上に配置されている。
【0043】
ソース電極94は上面P2の素子形成面PEに面している。具体的には、ソース電極94は素子形成面PE上においてソース領域83およびコンタクト領域84の各々に接している。ソース電極94は、オーミック電極であり、たとえばシリサイドから作られている。ソース配線層95はソース電極94に接している。ソース配線層95は、たとえばアルミニウム層である。層間絶縁膜93はゲート電極92とソース配線層95との間を絶縁している。
【0044】
ドレイン電極98は下面P1に面している。具体的にはドレイン電極98は、単結晶基板80を介してエピタキシャル膜90の下面P1上に設けられている。
【0045】
次にMOSFET201の製造方法について、以下に説明する。
図4および
図5に示すように、単結晶基板80上に下側範囲RAが形成される。具体的には、以下のとおりである。
【0046】
まず
図4に示すように、単結晶基板80上における炭化珪素のエピタキシャル成長によって、下面P1および中間面PMをなす下側ドリフト層81Aが形成される。単結晶基板80の、エピタキシャル成長が行われる面は、{000−1}面から8度以内のオフ角を有することが好ましく、(000−1)面から8度以内のオフ角を有することがより好ましい。エピタキシャル成長はCVD法により行われ得る。原料ガスとしては、たとえば、シラン(SiH
4)とプロパン(C
3H
8)との混合ガスを用い得る。この際、不純物として、たとえば窒素(N)やリン(P)を導入することが好ましい。
【0047】
次に
図5に示すように、この時点では露出されている中間面PM上への不純物イオン注入によって、不純物領域が形成される。具体的には、素子部CL内において中間面PM上に部分的に、電荷補償領域71が形成される。また終端部TM内において中間面PM上に部分的に、JTE領域72と、ガードリング領域73とが形成される。各不純物領域の形成の順番は任意である。本実施の形態においては、p型を付与するための不純物、すなわちアクセプタが注入される。アクセプタとしては、たとえばアルミニウムを用い得る。
【0048】
図6〜
図10に示すように、中間面PM上に上側範囲RBが形成される。上側範囲RBを形成する工程は、上側範囲RBが、終端部TM内において上側ドリフト層81Bのみを有する構造を有するように行わる。具体的には、以下のとおりである。
【0049】
まず
図6に示すように、下側ドリフト層81Aと同様の方法によって、上側ドリフト層81Bが形成される。これにより下側範囲RAおよび上側範囲RBを有するエピタキシャル膜90が得られる。
【0050】
次に
図7に示すように、素子部CLにおけるエピタキシャル膜90の上面P2上への不純物イオン注入によって、不純物領域が形成される。具体的には、素子部CL内において上側ドリフト層81B上にベース層82が形成される。またベース層82上に、ベース層82によって上側ドリフト層81Bから隔てられたソース領域83が形成される。また素子部CL内において上面P2からベース層82まで延びるコンタクト領域84が形成される。各不純物領域の形成の順番は任意である。なお終端部TMにおいては、上面P2上への不純物イオン注入を行う必要がない。
【0051】
次に、不純物を活性化するための熱処理が行われる。この熱処理の温度は、好ましくは1500℃以上1900℃以下であり、たとえば1700℃程度である。熱処理の時間は、たとえば30分程度である。熱処理の雰囲気は、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、たとえばアルゴン雰囲気である。
【0052】
図8に示すように、エピタキシャル膜90の上面P2上に、開口部を有するマスク層61が形成される。開口部はトレンチTR(
図2)の位置に対応して形成される。マスク層61は、二酸化珪素から作られることが好ましく、熱酸化によって形成されることがより好ましい。本実施の形態においては、開口部は、上面P2のうち素子部CL内の部分の上のみに形成される。
【0053】
図9に示すように、マスク層61を用いた熱エッチングが行われる。具体的には、加熱されたエピタキシャル膜90へ、反応性ガスの供給が行われる。反応性ガスは、加熱下において炭化珪素と反応し得るものであり、好ましくはハロゲンガスを含む。反応性ガスは、たとえば、Cl
2、BCl
3、CF
4、およびSF
6の少なくともいずれかを含有するものであり、特にCl
2を含有するものが好ましい。反応性ガスはさらに酸素ガスを含んでもよい。また反応性ガスはキャリアガスを含んでいてもよい。キャリアガスとしては、たとえば窒素ガス、アルゴンガスまたはヘリウムガスを用いることができる。エピタキシャル膜90の加熱は、たとえば700℃程度以上1000℃程度以下程度で行われる。
【0054】
この熱エッチングにより上面P2の素子形成面PEに、側壁面SWを有するトレンチTRが形成される。この熱エッチングにおける炭化珪素のエッチング速度はたとえば約70μm/時になる。この場合に、マスク層61が二酸化珪素から作られていれば、その消耗が顕著に抑制される。熱エッチングによるトレンチTRの形成時に、側壁面SW上、特にベース層82上において、特殊面が自己形成される。次にマスク層61がエッチングなど任意の方法により除去される(
図10)。
【0055】
図11に示すように、トレンチTRの側壁面SWおよび底面BTの上にゲート酸化膜91が形成される。ゲート酸化膜91は、ベース層82上において上側ドリフト層81Bとソース領域83とを互いにつなぐ部分を有する。ゲート酸化膜91は、熱酸化により形成されることが好ましい。
【0056】
ゲート酸化膜91の形成後に、雰囲気ガスとして一酸化窒素(NO)ガスを用いるNOアニールが行われてもよい。温度プロファイルは、たとえば、温度1100℃以上1300℃以下、保持時間1時間程度の条件を有する。これにより、ゲート酸化膜91とベース層82との界面領域に窒素原子が導入される。その結果、界面領域における界面準位の形成が抑制されることで、チャネル移動度を向上させることができる。なお、このような窒素原子の導入が可能であれば、NOガス以外のガスが雰囲気ガスとして用いられてもよい。このNOアニールの後にさらに、雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)を用いるArアニールが行われてもよい。Arアニールの加熱温度は、上記NOアニールの加熱温度よりも高く、ゲート酸化膜91の融点よりも低いことが好ましい。この加熱温度が保持される時間は、たとえば1時間程度である。これにより、ゲート酸化膜91とベース層82との界面領域における界面準位の形成がさらに抑制される。なお、雰囲気ガスとして、Arガスに代えて窒素ガスなどの他の不活性ガスが用いられてもよい。
【0057】
図12に示すように、ゲート酸化膜91上にゲート電極92が形成される。具体的には、トレンチTRの内部の領域をゲート酸化膜91を介して少なくとも部分的に埋めるように、ゲート酸化膜91上にゲート電極92が形成される。ゲート電極92の形成方法は、たとえば、導体またはドープトポリシリコンの成膜とCMPとによって行い得る。
【0058】
図13を参照して、ゲート電極92の露出面を覆うように、ゲート電極92およびゲート酸化膜91上に層間絶縁膜93が形成される。層間絶縁膜93およびゲート酸化膜91に開口部が形成されるようにエッチングが行われる。この開口部により上面P2上においてソース領域83およびコンタクト領域84の各々が露出される。次に上面P2の素子形成面PEに面するソース電極94が形成される。具体的には、上面P2上においてソース領域83およびnコンタクト領域84の各々に接するソース電極94が形成される。
【0059】
再び
図2を参照して、下面P1に面するドレイン電極98が形成される。具体的には、下側ドリフト層81A上に単結晶基板80を介してドレイン電極98が形成される。ソース配線層95が形成される。これによりMOSFET201が得られる。
【0060】
本実施の形態によれば、上側範囲RB(
図2)は、終端部TM内において上側ドリフト層81Bのみを有する構造を有する。言い換えれば、上側範囲RBのうち終端部TM内に上側ドリフト層81B以外の構造を設ける必要がない。よってMOSFET201の構造を簡素化することができる。また素子形成面PEと終端面PTとの各々は一の平面上に配置されている。これによりエピタキシャル膜90の表面の形状が単純化される。よってMOSFET201の構造をより簡素化することができる。
【0061】
また上側範囲RBのうち終端部TM内の部分が上側ドリフト層81Bのみからなる。これにより、終端面PT全体がn型を有する。よって終端面PT上にpn接合が設けられない。よって終端面PTの近傍における電界集中を防止することができる。よって終端面PTに隣接する素子形成面PEの近傍に高電界が印加されることが防止される。よって終端面PTの近傍における素子部CLの破壊を防止することができる。これによりMOSFET201の耐圧を高めることができる。また下側範囲RAが電荷補償領域71を含むことにより、素子部CL内の電界が抑制される。これによりMOSFET201の耐圧をより高めることができる。
【0062】
なおMOSFET201(
図2)の構造は、オフ状態の際に終端部TMにおいて、上側範囲RBに比して下側範囲RAによる電圧負担を高めるものである。このような構造を、仮にSiC半導体装置でなくSi半導体装置に適用したとすると、下側範囲RAにおけるSi層の破壊現象が生じやすくなり、高い耐圧が得られなくなる。よってMOSFET201の構造は、Si半導体装置にはあまり適しておらず、SiC半導体装置に特に適したものである。
【0063】
(実施の形態2)
図14に示すように、本実施の形態のMOSFET202(炭化珪素半導体装置)においては、終端面PTが、素子形成面PEを含む仮想平面PVから、下面P1の方へずらされて配置されている。終端面PTと素子形成面PEとは、終端部TMに位置する側面PSによってつながっている。側面PSは、本実施の形態においては、素子形成面PEに対して90度未満の角度で傾いている。側面PSは、後述する特殊面であってもよい。上側範囲RBはガードリング領域73を覆っている。終端面PTおよび中間面PMの間における上側範囲RBの厚さは1μm以下であることが好ましい。
【0064】
MOSFET202の製造においては、
図15に示すように、上側範囲RBが形成される際に、終端部TM内において上側ドリフト層81Bの一部が除去される。これにより、素子形成面PEを含む仮想平面PVから下面P1の方へずらされた終端面PTが形成される。上側ドリフト層81Bの部分的な除去は、ガードリング領域73上に上側範囲RBが残存するように行われる。上側ドリフト層81Bの部分的な除去は、たとえば、熱エッチングまたは反応性イオンエッチング(RIE)により行い得る。
【0065】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0066】
本実施の形態によれば、厚さ方向において素子形成面PEの位置と終端面PTの位置とがずらされる。よって終端面PTの近傍における電界集中が及ぼす素子形成面PEの近傍への影響を抑えることができる。よって終端面PTの近傍における素子部CLの破壊をより確実に防止することができる。これにより耐圧をより高めることができる。
【0067】
また上側ドリフト層81Bの部分的な除去は、ガードリング領域73上に上側範囲RBが残存するように行われる。これにより、ガードリング領域73上の上側範囲RBの全てが除去される場合に比して、製造方法を簡素化することができる。中間面PM上に残存した上側範囲RBの厚さが1μm以下とされる場合、ガードリング領域73上における電界の回り込みを抑制することができる。
【0068】
なおMOSFET202(
図14)の構造は、オフ状態の際に終端部TMにおいて、上側範囲RBに比して下側範囲RAによる電圧負担を高めるものである。このような構造を、仮にSiC半導体装置でなくSi半導体装置に適用したとすると、下側範囲RAにおけるSi層の破壊現象が生じやすくなり、高い耐圧が得られなくなる。よってMOSFET202の構造は、Si半導体装置にはあまり適しておらず、SiC半導体装置に特に適したものである。
【0069】
(実施の形態3)
図16に示すように、本実施の形態のMOSFET203(炭化珪素半導体装置)においてはガードリング領域73が終端面PTに位置している。なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態2の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0070】
本実施の形態によれば、エピタキシャル膜90はガードリング領域73を覆う部分を有しない。これによりガードリング領域73上における電界の回り込みを防止することができる。よって終端面PTの近傍における素子部CLの破壊をより確実に防止することができる。これにより耐圧をより高めることができる。
【0071】
なおMOSFET203(
図16)の構造は、オフ状態の際に終端部TMにおいて、上側範囲RBに比して下側範囲RAによる電圧負担を高めるものである。このような構造を、仮にSiC半導体装置でなくSi半導体装置に適用したとすると、下側範囲RAにおけるSi層の破壊現象が生じやすくなり、高い耐圧が得られなくなる。よってMOSFET203の構造は、Si半導体装置にはあまり適しておらず、SiC半導体装置に特に適したものである。
【0072】
(実施の形態4)
図17に示すように、本実施の形態のMOSFET204(炭化珪素半導体装置)においては、上側範囲RBは、素子部CLおよび終端部TMのうち素子部CLにのみ配置される構造を有する。言い換えれば、上側範囲RBは終端部TMの外側にのみ設けられている。これにより、上側範囲RBが素子形成面PEをなし、また下側範囲RAが終端面PTをなしている。
【0073】
MOSFET204の製造方法においては、
図15と類似の工程が上側範囲RBを形成するために行われるに際して、終端部TM内において上側ドリフト層81Bの全部が除去される。この結果、上側範囲RBが、素子部CLおよび終端部TMのうち素子部CLにのみ設けられる。これにより、素子形成面PEを含む仮想平面PVから下面P1の方へずらされた終端面PTが形成される。
【0074】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態3の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0075】
本実施の形態によれば、終端部TM内に上側範囲RBを設ける必要がない。よってMOSFET201の構造を簡素化することができる。また素子形成面PEが上側範囲RBによって構成されつつ、終端面PTが上側範囲RBではなく下側範囲RAによって構成される。これにより厚さ方向において素子形成面PEの位置と終端面PTの位置とがずらされる。よって終端面PTの近傍における電界集中が及ぼす素子形成面PEの近傍への影響を抑えることができる。よって終端面PTの近傍における素子部CLの破壊を防止することができる。これにより耐圧をより高めることができる。
【0076】
なおMOSFET204(
図17)の構造は、オフ状態の際に終端部TMにおいて、上側範囲RBを用いず下側範囲RAにのみ電圧を負担させるものである。このような構造を、仮にSiC半導体装置でなくSi半導体装置に適用したとすると、下側範囲RAにおけるSi層の破壊現象が生じやすくなり、高い耐圧が得られなくなる。よってMOSFET203の構造は、Si半導体装置にはあまり適しておらず、SiC半導体装置に特に適したものである。
【0077】
(実施の形態5)
図18に示すように、MOSFET201(
図2)の変形例である本実施の形態のMOSFET205は、トレンチ型ではなくプレーナ型である。すなわちエピタキシャル膜90の素子形成面PE上には、トレンチTR(
図2)が設けられておらず、プレーナゲート構造が設けられている。具体的には、平坦な上面P2における素子形成面PE上に、ベース層82Pと、ソース領域83Pと、コンタクト領域84Pとの不純物領域が形成されている。また平坦なP2上にゲート酸化膜91Pが設けられ、その上にゲート電極92Pが設けられている。なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0078】
本実施の形態によれば、プレーナ型MOSFETにおいて耐圧の決定要因となりやすい、ベース層82Pと上側ドリフト層81Bとの境界に加わる電界強度が、より低くされる。これによりMOSFET205の耐圧を高めることができる。
【0079】
なお他の実施の形態2〜4のトレンチ型のMOSFET202〜204(
図14、
図16および
図17)の変形例としてのプレーナ型MOSFETが用いられてもよい。言い換えれば、MOSFET202〜204におけるトレンチ型MOS構造が、本実施の形態に示すようなプレーナ型MOS構造に置き換えられてもよい。
【0080】
(特殊面の構成)
上述した「特殊面」について詳しく説明する。上述したように、トレンチTRの側壁面SW(
図2)は、特にベース層82上において特殊面を有することが好ましい。以下、側壁面SWが特殊面を有する場合について説明する。
【0081】
図19に示すように、特殊面を有する側壁面SWは、面S1(第1の面)を含む。面S1は面方位{0−33−8}を有し、好ましくは面方位(0−33−8)を有する。好ましくは側壁面SWは面S1を微視的に含む。好ましくは側壁面SWはさらに面S2(第2の面)を微視的に含む。面S2は面方位{0−11−1}を有し、好ましくは面方位(0−11−1)を有する。ここで「微視的」とは、原子間隔の2倍程度の寸法を少なくとも考慮する程度に詳細に、ということを意味する。このように微視的な構造の観察方法としては、たとえばTEM(Transmission Electron Microscope)を用いることができる。
【0082】
好ましくは側壁面SWは複合面SRを有する。複合面SRは、面S1およびS2が周期的に繰り返されることによって構成されている。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFM(Atomic Force Microscopy)により観察し得る。複合面SRは面方位{0−11−2}を有し、好ましくは面方位(0−11−2)を有する。この場合、複合面SRは{000−1}面に対して巨視的に62°のオフ角を有する。ここで「巨視的」とは、原子間隔程度の寸法を有する微細構造を無視することを意味する。このように巨視的なオフ角の測定としては、たとえば、一般的なX線回折を用いた方法を用い得る。好
ましくは、チャネル面上においてキャリアが流れる方向であるチャネル方向CDは、上述した周期的繰り返しが行われる方向に沿っている。
【0083】
次に、複合面SRの詳細な構造について説明する。
一般に、ポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶を(000−1)面から見ると、
図20に示すように、Si原子(またはC原子)は、A層の原子(図中の実線)と、この下に位置するB層の原子(図中の破線)と、この下に位置するC層の原子(図中の一点鎖線)と、この下に位置するB層の原子(図示せず)とが繰り返し設けられている。つまり4つの層ABCBを1周期としてABCBABCBABCB・・・のような周期的な積層構造が設けられている。
【0084】
図21に示すように、(11−20)面(
図20の線XXI−XXIの断面)において、上述した1周期を構成する4つの層ABCBの各層の原子は、(0−11−2)面に完全に沿うようには配列されていない。
図21においてはB層の原子の位置を通るように(0−11−2)面が示されており、この場合、A層およびC層の各々の原子は(0−11−2)面からずれていることがわかる。このため、炭化珪素単結晶の表面の巨視的な面方位、すなわち原子レベルの構造を無視した場合の面方位が(0−11−2)に限定されたとしても、この表面は、微視的には様々な構造をとり得る。
【0085】
図22に示すように、複合面SRは、面方位(0−33−8)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。面S1および面S2の各々の長さは、Si原子(またはC原子)の原子間隔の2倍である。なお面S1および面S2が平均化された面は、(0−11−2)面(
図17)に対応する。
【0086】
図23に示すように、複合面SRを(01−10)面から見て単結晶構造は、部分的に見て立方晶と等価な構造(面S1の部分)を周期的に含んでいる。具体的には複合面SRは、上述した立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。このように、立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面(
図19においては面S1)と、この面につながりかつこの面方位と異なる面方位を有する面(
図23においては面S2)とによって表面を構成することは4H以外のポリタイプにおいても可能である。ポリタイプは、たとえば6Hまたは15Rであってもよい。
【0087】
次に
図24を参照して、側壁面SWの結晶面と、チャネル面の移動度MBとの関係について説明する。
図24のグラフにおいて、横軸は、チャネル面を有する側壁面SWの巨視的な面方位と(000−1)面とのなす角度D1を示し、縦軸は移動度MBを示す。プロット群CMは側壁面SWが熱エッチングによる特殊面として仕上げられた場合に対応し、プロット群MCはそのような熱エッチングがなされない場合に対応する。
【0088】
プロット群MCにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−33−8)のときに最大となった。この理由は、熱エッチングが行われない場合、すなわち、チャネル表面の微視的な構造が特に制御されない場合においては、巨視的な面方位が(0−33−8)とされることによって、微視的な面方位(0−33−8)、つまり原子レベルまで考慮した場合の面方位(0−33−8)が形成される割合が確率的に高くなったためと考えられる。
【0089】
一方、プロット群CMにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−11−2)のとき(矢印EX)に最大となった。この理由は、
図22および
図23に示すように、面方位(0−33−8)を有する多数の面S1が面S2を介して規則正しく稠密に配置されることで、チャネル面の表面において微視的な面方位(0−33−8)が占める割合が高くなったためと考えられる。
【0090】
なお移動度MBは複合面SR上において方位依存性を有する。
図25に示すグラフにおいて、横軸はチャネル方向と<0−11−2>方向との間の角度D2を示し、縦軸はチャネル面の移動度MB(任意単位)を示す。破線はグラフを見やすくするために補助的に付してある。このグラフから、チャネル移動度MBを大きくするには、チャネル方向CD(
図19)が有する角度D2は、0°以上60°以下であることが好ましく、ほぼ0°であることがより好ましいことがわかった。
【0091】
図26に示すように、側壁面SWは複合面SR(
図26においては直線で単純化されて示されている。)に加えてさらに面S3(第3の面)を含んでもよい。この場合、側壁面SWの{000−1}面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が{0−33−8}面となる表面がある。より好ましくは、側壁面SWの(000−1)面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が(0−33−8)面となる表面がある。
【0092】
より具体的には側壁面SWは、面S3および複合面SRが周期的に繰り返されることによって構成された複合面SQを含んでもよい。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFM(Atomic Force Microscopy)により観察し得る。
【0093】
(特殊面を有する炭化珪素半導体装置)
トレンチTRの側壁面SW(
図2)が面S1(
図19)を含む場合、面方位{0−33−8}を有する面にチャネルが形成される。これにより、オン抵抗のうちチャネル抵抗が占める部分が抑制される。よってオン抵抗を所定の値以下に維持しつつ、ドリフト領域81による抵抗を大きくし得る。よってドリフト領域81の不純物濃度をより低くすることができる。よってMOSFET201の耐圧をより高めることができる。トレンチTRの側壁面SWが面S1および面S2を微視的に含む場合は、オン抵抗をより抑制し得る。よって耐圧をより高めることができる。側壁面SWの面S1およびS2が複合面SRを構成している場合、オン抵抗をより抑制し得る。よって耐圧をより高めることができる。
【0094】
(付記)
上記実施の形態におけるn型(第1の導電型)とp型(第2の導電型)とが入れ替えられた構成も用いられ得る。また電荷補償領域およびJTE領域の一方または両方が省略された構成も用いられ得る。また炭化珪素半導体装置は、MOSFET以外のMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)であってもよく、またMISFET以外のトランジスタであってもよく、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。また炭化珪素半導体装置はトランジスタでなくてもよく、たとえばショットキーバリアダイオードであってもよい。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の特許請求の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。